(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記研磨処理後、前記基板の主表面を洗浄する洗浄処理を行い、前記洗浄処理では、前記洗浄処理前後の前記基板の主表面の表面粗さRaの差を0.05nm以下にするアルカリ洗浄液を用いる、請求項1〜4のいずれか1項に記載の磁気ディスク用基板の製造方法。
【背景技術】
【0002】
今日、パーソナルコンピュータ、ノート型パーソナルコンピュータ、あるいはDVD(Digital Versatile Disc)記録装置等には、データ記録のためにハードディスク装置が内蔵されている。特に、ノート型パーソナルコンピュータ等の可搬性を前提とした機器に用いられるハードディスク装置では、基板に磁性層が設けられた磁気ディスクが用いられ、磁気ディスクの面上を僅かに浮上させた磁気ヘッド(DFH(Dynamic Flying Height)ヘッド)で磁性層に磁気記録情報が記録され、あるいは読み取られる。この磁気ディスクの基板には、金属基板等に比べて塑性変形をしにくい性質を持つことから、ガラス基板が好適に用いられている。しかも、磁気ヘッドによる磁気記録情報の読み書きを安定して行うために、磁気ディスクのガラス基板の表面凹凸は可能な限り小さくすることが求められる。
【0003】
磁気ディスク用ガラス基板の表面凹凸を小さくするために、ガラス基板の研磨処理が行われる。ガラス基板を最終製品とするための精密な研磨に、シリカ(SiO
2)砥粒の微細な研磨砥粒を含む研磨剤が用いられる。このような研磨剤は、研磨処理後のガラス基板の表面品質を高めるために、フィルタリングや遠心分離を行なうことで所定のサイズに揃えて研磨剤として用いられる。また、研磨処理時、シリカ砥粒を含むスラリーを循環させながら研磨に用いる場合、研磨に使用したスラリーをフィルタリングしたのち、研磨に再使用する。
例えば、ガラス基板の主表面のシリカ砥粒を用いた研磨工程の最終研磨工程において、最小捕捉粒子径が1μm以下のフィルタを使用してフィルタリングした後の緩衝剤を含む研磨用スラリー(シリカ砥粒を含むスラリー)を用いる磁気ディスク用ガラス基板の製造方法が知られている(特許文献1)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、上述した研磨処理後のガラス基板の主表面には、研磨処理に用いるスラリー中のシリカ砥粒に由来する板状異物が付着する場合がある。この板状異物のガラス基板への付着は、近年、計測技術の進展によって認識されてきたものである。ガラス基板に付着した板状異物は、磁気ディスクの主表面上に表面凹凸を作るので、極めて浮上距離の短い磁気ヘッドにおいて、安定した磁気記録情報の読み書きが難しくなる不都合がある。また、この板状異物は、最終洗浄処理においても容易に除去することができない。洗浄力の高い洗浄液を用いると、ガラス基板の主表面の平滑な面に凹凸を作り、磁気ディスク用ガラス基板として好ましくない。
この板状異物は、概略球形状のシリカ砥粒の平均粒径(d50)よりサイズの大きな異形状の異物であるため、シリカ砥粒の粒子サイズを所定の範囲に揃えるために、研磨処理前に、シリカ砥粒を、フィルタを用いてフィルタリングする場合もある。ここで、平均粒径とは、レーザー回折・散乱法を用いた体積分布に基づいて測定されるメディアン径を示す。しかし、このようなフィルタリングでは、フィルタが容易に目詰まりを起こすため、効率よくシリカ砥粒を作製することができない。しかも、フィルタリング後のシリカ砥粒には、板状異物を十分に除去できず、シリカ砥粒を含むスラリーを用いて研磨処理したガラス基板の主表面には、依然として板状異物が付着する場合もあった。また、遠心分離によって板状異物のような大きなシリカ砥粒を除去しようとしても、板状異物を十分に除去できず、研磨処理したガラス基板の主表面には、依然として板状異物が付着する場合もあった。このため、ガラス基板の研磨処理後の歩留まりが低下する問題がある。このような問題は、ガラス基板に限られず、金属基板(アルミニウム基板)においても同様に生じる。そして、これらの問題は、平均粒径が、10〜60nm、より好ましくは10〜30nmといった非常に微小な粒径の研磨砥粒の場合に特に顕著である。
【0006】
そこで、本発明は、基板の研磨処理後の歩留まりを向上させることができる磁気ディスク用基板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、研磨処理前に、目詰まりがし易く、上述の板状異物を十分に除去することができないフィルタや、上述の板状異物を十分に除去することができない遠心分離に替えて、板状異物を除去できる新たな方法を検討した。そこで、本発明者は、シリカ砥粒の表面が負の表面電位を帯びており、サイズの大きい板状異物のシリカ砥粒の表面電位は、サイズの小さい概略球形状のシリカ砥粒の表面電位に比べて、その絶対値が大きいことに注目し、以下の方法を発明した。本発明は、以下の形態を含む。
【0008】
(形態1)
磁気ディスク用基板の製造方法であって、
一対の研磨パッドで基板を挟み、前記研磨パッドと前記基板の間に平均粒径が10〜60nmの研磨砥粒を含むスラリーを供給して、前記研磨パッドと前記基板を相対的に摺動させることにより、前記基板の両主表面を研磨する研磨処理を含み、
前記研磨砥粒は、表面に電位を有し、
前記研磨処理の前に、前記研磨処理に用いるスラリーを電場中に通過させて該スラリー中の研磨砥粒の表面電位に応じた電気泳動を該スラリー中の研磨砥粒に生じさせることにより、該スラリー中の研磨砥粒のうち最小幅に対する最大幅の比が5以上の形状を有し、該スラリー中の研磨砥粒の平均粒径より大きな粒径の板状砥粒を該スラリーから除去する除去処理を行い、
前記除去処理後、前記研磨処理前に、前記スラリー中の研磨砥粒の表面電位の絶対値を減少させる添加剤を前記スラリーに添加し後、前記スラリーを前記研磨処理に用いる、ことを特徴とする磁気ディスク用基板の製造方法。すなわち、前記除去処理は、前記研磨砥粒の平均粒径を有する粒子と該平均粒径よりも粒径が大きな大径粒子とがそれぞれ有する表面電位の差を利用するものである。
【0009】
(形態2)
磁気ディスク用基板の製造方法であって、
一対の研磨パッドで基板を挟み、前記研磨パッドと前記基板の間に平均粒径が10〜60nmの研磨砥粒を含むスラリーを供給して、前記研磨パッドと前記基板を相対的に摺動させることにより、前記基板の両主表面を研磨する研磨処理を含み、
前記研磨砥粒は、表面に電位を有し、
前記研磨処理の前に、前記研磨処理に用いるスラリーを電場中に通過させて該スラリー中の研磨砥粒の表面電位に応じた電気泳動を該スラリー中の研磨砥粒に生じさせることにより、該スラリー中の研磨砥粒のうち最小幅に対する最大幅の比が5以上の形状を有し、該スラリー中の研磨砥粒の平均粒径より大きな粒径の板状砥粒を該スラリーから除去する除去処理を行い、前記除去処理を行った該スラリーを前記研磨処理に用い
、
前記除去処理前の、前記スラリーのアルカリ土類金属イオンの含有率は、200ppm以下である、ことを特徴とする磁気ディスク用基板の製造方法。
【0010】
(形態3)
前記研磨砥粒はシリカ砥粒であり、
前記シリカ砥粒は、水ガラスとイオン交換樹脂を用いて得られたものである、形態1または2に記載の磁気ディスク用基板の製造方法。
【0011】
(形態4)
前記除去処理後の研磨砥粒に解砕処理を施す、形態1〜3のいずれか1つに記載の磁気ディスク用基板の製造方法。
【0012】
(形態5)
前記研磨処理後、前記基板の主表面を洗浄する洗浄処理を行い、前記洗浄処理では、前記洗浄処理前後の前記基板の主表面の表面粗さRaの差を0.05nm以下にするアルカリ洗浄液を用いる、形態1〜
4のいずれか1つに記載の磁気ディスク用基板の製造方法。
【0013】
(形態6)
前記研磨処理後、前記基板の主表面を洗浄する洗浄処理を行い、
前記洗浄処理は、前記基板を洗浄液に浸すあるいは接触させる非スクラブ洗浄である、形態1〜5のいずれか1つに記載の磁気ディスク用基板の製造方法。
【0014】
(形態7)
前記除去処理で除去する前記板状砥粒の大きさは、130〜240nmである、請求項1〜6のいずれか1つに記載の磁気ディスク用基板の製造方法。
【発明の効果】
【0017】
上述の磁気ディスク用基板の製造方法によれば、研磨処理に用いる研磨砥粒から板状異物を含む平均粒径よりも大きな研磨砥粒を除去するので、基板の主表面に板状異物等の大きな研磨砥粒が付着することはない。このため、基板の研磨処理後の歩留まりを向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態に係る磁気ディスク用基板の製造方法について説明する。以下の説明では、ガラス基板を例として用いて説明するが、本実施形態の磁気ディスク用基板の製造方法は、金属基板(アルミニウム基板)にも同様に適用することができる。また、本実施形態では、研磨砥粒に用いる例としてシリカ砥粒を例として用いて説明するが、シリカ砥粒以外に、表面に電位を有する研磨砥粒、例えばセリア砥粒、アルミナ砥粒等を適用することもできる。シリカ、セリア、アルミナの砥粒の中でも、磁気ディスク用基板としてより一層の低粗さを実現できる観点で、シリカ砥粒がより好ましい。
【0020】
(磁気ディスク用ガラス基板)
まず、本実施形態で製造される磁気ディスク用ガラス基板について説明する。
図1は、本実施形態の製造方法で製造される磁気ディスク用ガラス基板1の例を示す図である。磁気ディスク用ガラス基板1(以降、単にガラス基板1という)は、
図1に示されるように、円板形状であって、外周と同心の円形の中心孔がくり抜かれたリング状である。磁気ディスク用ガラス基板の両面の円環状領域に磁性層(記録領域)が形成されることで、磁気ディスクが形成される。
【0021】
磁気ディスク用ガラス基板の素板であるガラスブランクは、フロート法やプレス成形により作製される。ガラスブランクは、円形状のガラス板であり、中心孔がくり抜かれる前の形態である。ガラスブランクの材料として、アルミノシリケートガラス、ソーダライムガラス、ボロシリケートガラスなどを用いることができる。特に、化学強化を施すことができ、また主表面の平面度及び基板の強度において優れた磁気ディスク用ガラス基板を作製することができるという点で、アルミノシリケートガラスを好適に用いることができる。
【0022】
後述するように、ガラスブランクに形状加工処理、端面研磨処理、研削処理等を施して得られたガラス基板1に最終研磨処理を施してガラス基板1は最終のガラス基板となる。このとき、最終研磨処理では、
図2(a),(b)に示すような研磨処理装置10を用いてシリカ砥粒を含むスラリーを用いた研磨処理が行われる。
図2(a),(b)は、本実施形態のガラス基板の製造方法の研磨処理で用いる研磨装置を説明する図である。
【0023】
研磨装置10は、
図2(a)、(b)に示すように、下定盤12と、上定盤14と、インターナルギヤ16と、キャリア18と、研磨パッド20と、太陽ギヤ22と、インターナルギヤ24と、を備える。
研磨装置10では、上下方向から、下定盤12と上定盤14との間にインターナルギヤ16が挟まれている。インターナルギヤ16内には、研磨時に複数のキャリア18が保持される。
図2(b)には、5つのキャリア18が示されている。下定盤12及び上定盤14には、研磨パッド20が平面的に接着されている。
【0024】
下定盤12上の研磨パッド20にガラス基板1の下側の主表面が当接し、上定盤14上の研磨パッド20にガラス基板1の上側の主表面が当接するように、キャリア18が配置される。このような状態で研磨を行うことにより、リング状に加工されたガラス基板1の両側の主表面を研磨することができる。
【0025】
図2(b)に示されるように、各キャリア18に設けられた円形状の孔に、円環状のガラス基板1が保持される。一方、ガラス基板1は、下定盤12の上で、外周にギヤ19を有するキャリア18に保持される。キャリア18は、下定盤12に設けられた太陽ギヤ22、インターナルギヤ24と噛合する。
この構成により、ガラス基板1は、有遊歯車方式で、研磨パッド20に対して相対的に移動して研磨される。研磨に用いるスラリーはシリカ砥粒を含み、
図2(a)に示すように上定盤14に供給され、下定盤12に流れて外部容器に回収される。
すなわち、最終研磨処理では、一対の研磨パッド20でガラス基板1を挟み、研磨パッド20とガラス基板1の間にシリカ砥粒を含むスラリーを供給して、研磨パッド20とガラス基板1を相対的に摺動させることにより、ガラス基板1の両主表面が研磨される。
なお、このような最終研磨処理に用いるスラリーに含まれるシリカ砥粒は、以下説明する除去処理された砥粒である。
【0026】
(除去処理)
図3は、本実施形態の除去処理を行う除去処理装置の模式図である。除去処理装置50は、一対の対向する電極52,54を備える。電極52,54には、DC電圧が印加され、電極52が負極、電極54が正極となっている。
電極52,54の隙間には、シリカ砥粒を含んだスラリーの流れる流路55が設けられている。
流路55の下流側の端には、回収管56及び除去・廃棄管58が接続されている。回収管56は、流路55のうち負極の電極52の側に設けられ、除去・廃棄管58は、流路55のうち負極の電極54の側に設けられている。
【0027】
流路55を流れるスラリー中のシリカ砥粒は、その表面において電荷を帯び、負の表面電位(ゼータ電位)を持っている。そして、この表面電位は、シリカ砥粒の大きさに依存しており、大きなシリカ砥粒ほど負の表面電位の絶対値は大きい。このため、スラリーが流路55中を流れる間に、シリカ砥粒の平均粒径を有する粒子とこの平均粒径よりも粒径が大きな大径粒子とがそれぞれ有する表面電位の差を利用して、電気泳動をシリカ砥粒に生じさせる。すなわち、スラリーが流路55中を流れる間に、電極52,54間に形成される電場の作用をシリカ砥粒は受けて、シリカ砥粒の表面電位に応じた電気泳動をシリカ砥粒に生じさせる。サイズの大きなシリカ砥粒は、表面電位の絶対値が大きいので、大きな電気力によって電極54の側に移動する。一方、表面電位の絶対値が小さい、サイズの小さなシリカ砥粒には小さな電気力しか働かないので、電極54の側に移動し難い。このため、回収管56と除去・廃棄管58を上述したような位置で流路55と接続することにより、小さなシリカ砥粒と、板状異物を含む大きなシリカ砥粒とを分離することができる。回収管56に流れ込んだシリカ砥粒を含んだスラリーは研磨処理に用いられ、除去・廃棄管58に流れ込んだシリカ砥粒を含むスラリーは、研磨処理用のスラリーから除去され、廃棄される。
すなわち、本実施形態では、シリカ砥粒のうち、平均粒径を有する粒子とこの平均粒径よりも粒径が大きな大径粒子とがそれぞれ有する表面電位の差を利用して、スラリーを電場中に通過させてシリカ砥粒の表面電位に応じた電気泳動をシリカ砥粒に生じさせることにより、シリカ砥粒の平均粒径より大きな粒径のシリカ砥粒をスラリーから除去する除去処理が行われる。この表面電位の差は、大きなシリカ砥粒の粒径が平均粒径の2倍以上であるとより顕著になり、5倍以上であるとさらに顕著になる。
【0028】
本実施形態で用いるDC電圧や流路55に流すスラリーの流速やスラリーの粘度、及びスラリー中のシリカ砥粒の濃度等の処理条件は、特に制限されず、シリカ砥粒の表面電位に応じた電気泳動をシリカ砥粒に効率よく生じさせ、これにより、シリカ砥粒の平均粒径より大きな粒径のシリカ砥粒をスラリーから除去することができる限りにおいて、適宜設定されるとよい。少なくとも、シリカ砥粒の表面電位に応じた電気泳動によってシリカ砥粒が移動可能なように、流路55を流れるスラリーの流れは層流であることが必要である。
【0029】
このような除去処理の施されたシリカ砥粒の平均粒径(d50)は、例えば10〜60nmであり、より好ましくは10〜30nmであり、除去処理により除去される板状異物、または平均粒径よりも粒径が大きな粗大粒子であるシリカ砥粒の大きさは例えば130〜240nmである。シリカ砥粒の粒径及び板状異物のシリカ砥粒の大きさは、例えばシリカ砥粒を2次元画像として撮像した場合、シリカ砥粒の周りのあらゆる方向に矩形枠を傾けて矩形枠がシリカ砥粒の像に外接するように、矩形枠がシリカ砥粒の像を囲んだときの矩形枠の長辺の最大長さをいう。また、シリカ砥粒を3次元画像として撮像した場合、シリカ砥粒の周りのあらゆる方向に直方体枠を傾けて直方体枠がシリカ砥粒の像に外接するように、直方体枠がシリカ砥粒の像を囲んだときの直方体枠の長辺の最大長さをいう。
【0030】
本実施形態に用いるシリカ砥粒は、どのような製造方法によって作製されたものでもよく、例えば、オルトケイ酸テトラメチルやオルトケイ酸テトラエチルをゾルゲル法で得てもよいが、水ガラスとイオン交換樹脂を用いて得られるものであることが好ましい。このようなシリカ砥粒は、コストをかけることなく容易に多量のシリカ砥粒を作製することができる。水ガラスは、ケイ砂を材料として得られる。具体的には、ケイ砂と炭酸ナトリウムとを混合して熔融することでケイ酸ナトリウムを生成し、熔融物を冷却後、水に溶解させることで水ガラスを得ることができる。このように水ガラスは、アルミニウム等の不純物が多くケイ砂を原料とするので、水ガラスにはアルミニウム等の不純物が多く含まれる。この不純物の1つであるアルミニウムを多く含むと、上述の板状異物を作り易い。しかし、このように板状異物のシリカ砥粒をつくり易い水ガラスとイオン交換樹脂を用いて得られるシリカ砥粒であっても、上述した除去処理により、板状異物のシリカ砥粒を十分に除去することができる。
【0031】
また、研磨レートの向上及び研磨処理後のガラス基板の表面凹凸を小さくするために、研磨処理前にスラリーに添加剤、例えば、K
2SO
4,Na
2SO
4などのような硫酸化合物、K
3PO
4,Na
3PO
4などのような燐酸化合物、NaNO
3などのような硝酸化合物、が添加される。この添加剤は、スラリー中のシリカ砥粒の表面電位の絶対値を減少させるものでもある。したがって、この添加剤の添加は、上述した除去処理後に行われることが好ましい。シリカ砥粒の表面電位の絶対値を減少させると、シリカ砥粒の表面電位に応じた電気泳動をシリカ砥粒に十分に生じさせることが難しくなり、シリカ砥粒の平均粒径より大きな粒径のシリカ砥粒(板状異物)をスラリーから十分に除去することができなくなる。
【0032】
また、本実施形態における除去処理前の、スラリー中のアルカリ土類金属イオンの含有率は、200ppm以下であることが好ましい。アルカリ土類金属イオンの含有率が200ppmを超えると、シリカ砥粒の表面電位が低減し、上述の除去処理では、十分な除去効果が得られ難い。このようなアルカリ土類金属イオンの含有率は、水ガラス等のシリカ砥粒の作製時点で調整されることが好ましい。
【0033】
また、除去処理では、シリカ砥粒のうち最小幅に対する最大幅の比が5以上の形状を有する板状砥粒が除去されることが好ましい。このような板状異物であるシリカ砥粒は、ガラス基板の主表面に付着すると、洗浄処理等で除去することは極めて難しくなる。このため、研磨処理を行う前のシリカ砥粒に対して、上述の除去処理を施すことが好ましい。シリカ砥粒の最小幅及び最大幅は、例えばシリカ砥粒を2次元画像として撮像した場合、シリカ砥粒の周りのあらゆる方向に矩形枠を傾けながら矩形枠がシリカ砥粒の像に外接するように矩形枠がシリカ砥粒の像を囲んだとき、この矩形枠の短辺の最小長さ、長辺の最大長さをいう。また、シリカ砥粒を3次元画像として撮像した場合、シリカ砥粒の周りのあらゆる方向に直方体枠を傾けながら直方体枠がシリカ砥粒の像に外接するように直方体枠でシリカ砥粒の像を囲んだとき、この直方体枠の短辺の最小長さ及び長辺の最大長さをいう。なお板状異物の場合、最小幅は実質的に板状異物の厚みに該当する。
【0034】
また、除去処理後のシリカ砥粒に解砕処理を施すことが好ましい。解砕処理は、例えばシリカ砥粒に超音波振動を与える処理を含む。除去処理によりシリカ砥粒に電気泳動を生じさせて、所望の粒径のシリカ砥粒を集めるため、シリカ砥粒が凝集する場合もある。このため、除去処理後、回収されたシリカ砥粒に対して例えば超音波振動を与えて、シリカ砥粒の凝集体を解砕することが好ましい。シリカ砥粒の凝集体が生成されると、研磨処理中この凝集体がガラス基板の主表面に傷をつくり易い。
【0035】
このように、本実施形態では、研磨処理の前に、スラリーを電場中に通過させて、シリカ砥粒の表面電位に応じた電気泳動をシリカ砥粒に生じさせる。これにより、シリカ砥粒の平均粒径より大きな粒径のシリカ砥粒をスラリーから除去する。このため、シリカ砥粒の平均粒径より大きな板状異物であるシリカ砥粒をスラリーから除去することができる。したがって、スラリーを用いてガラス基板を研磨処理しても、研磨処理後のガラス基板の主表面には板状異物等の大きなシリカ砥粒が付着しない。したがって、本実施形態では、ガラス基板の研磨処理後の歩留まりを向上させることができる。
また、研磨処理に用いるスラリーは、スラリー原液を電場中に通過させてシリカ砥粒の表面電位に応じた電気泳動を研磨砥粒に生じさせることにより、シリカ砥粒の平均粒径より大きな粒径のシリカ砥粒をスラリー原液から除去したものとすることもできる。この場合においても、スラリーを用いてガラス基板を研磨処理しても、研磨処理後のガラス基板の主表面には板状異物等の大きなシリカ砥粒が付着しない。したがって、本実施形態では、ガラス基板の研磨処理後の歩留まりを向上させることができる。
なお、上記説明では、除去処理により板状異物のシリカ砥粒が除去できることを説明したが、大きなシリカ砥粒程、表面電位の絶対値は大きくなる。このため、本実施形態で除去されるシリカ砥粒は、板状異物に限定されず、平均粒径より大きな概略球形状のシリカ砥粒も含まれる。
【0036】
(磁気ディスク用ガラス基板の製造方法)
次に、本実施形態の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法を説明する。先ず、一対の主表面を有する板状の磁気ディスク用ガラス基板の素材となるガラスブランクをプレス成形により作製する(プレス成形処理)。なお、ガラスブランクをプレス成形で作製する他に、周知のフロート法、リドロー法、あるいはフュージョン法でガラス板を形成し、ガラス板から上記ガラスブランクと同じ形状のガラスブランクを切り出してもよい。次に、作製されたガラスブランクの中心部分に円孔を形成し、円孔を形成したガラス基板に対して形状加工を行う(形状加工処理)。これにより、ガラス基板が生成される。次に、形状加工されたガラス基板に対して端面研磨を行う(端面研磨処理)。端面研磨の行われたガラス基板の主表面に研削を行う(研削処理)。次に、ガラス基板の主表面に第1研磨を行う(第1研磨処理)。次に、必要に応じてガラス基板に対して化学強化を行う(化学強化処理)。次に、化学強化されたガラス基板に対して第2研磨を行う(第2研磨処理)。その後、第2研磨処理後のガラス基板に対して洗浄を行う。以上の処理を経て、磁気ディスク用ガラス基板が得られる。
【0037】
(a)プレス成形処理
熔融ガラス流の先端部を切断器により切断し、切断された熔融ガラス塊を一対の金型のプレス成形面の間に挟みこみ、プレスしてガラスブランクを成形する。所定時間プレスを行った後、金型を開いてガラスブランクが取り出される。
【0038】
(b)形状加工処理
ガラスブランクに対してドリル等を用いて円孔を形成することにより円形状の孔があいたディスク状のガラス基板が得られる。さらに、円孔形成処理後のガラス基板の端部に対する面取り加工を行う。面取り加工は、研削砥石等を用いて行なわれる。面取り加工により、ガラス基板の端面に、ガラス基板の主表面に対して垂直に延びる基板の側壁面と、この側壁面と主表面の間に設けられ、側壁面に対して傾斜して延びる面取り面とを有する端面が形成される。
【0039】
(c)端面研磨処理
端面研磨処理では、ガラス基板の内側端面及び外周側端面に対して、研磨砥粒を用いて研磨をし、鏡面仕上げを行う。
【0040】
(d)研削処理
研削処理では、遊星歯車機構を備えた図示しない研削装置を用いて、ガラス基板の主表面に対して研削処理を行う。具体的には、ガラスブランクから作製されたガラス基板の外周側端面を、研削装置の保持部材に設けられた保持孔内に保持しながらガラス基板の両側の主表面の研削を行う。研削装置は、上下一対の定盤(上定盤および下定盤)を有しており、上定盤および下定盤の間にガラス基板が狭持される。そして、上定盤または下定盤のいずれか一方、または、双方を移動操作させ、ガラス基板と各定盤とを相対的に移動させることにより、ガラス基板の両主表面を研削することができる。
【0041】
(e)第1研磨処理
次に、研削のガラス基板の主表面に第1研磨が施される。具体的には、ガラス基板の外周側端面を、図示しない研磨装置の研磨用キャリアに設けられた孔内に保持しながらガラス基板の両側の主表面の研磨が行われる。第1研磨は、研削処理後の主表面に残留したキズや歪みの除去、あるいは微小な表面凹凸(マイクロウェービネス、粗さ)の調整を目的とする。
【0042】
第1研磨処理では、研磨砥粒を含むスラリーを与えながらガラス基板が研磨される。第1研磨に用いる研磨砥粒として、例えば、酸化セリウム砥粒、あるいはジルコニア砥粒などが用いられる。第1研磨処理に用いる研磨装置も、研削装置と同様に、上下一対の定盤の間にガラス基板が狭持される。下定盤の上面及び上定盤の底面には、全体として円環形状の平板の研磨パッドが取り付けられている。そして、上定盤または下定盤のいずれか一方、または、双方を移動操作させることで、ガラス基板と各定盤とを相対的に移動させることにより、ガラス基板の両主表面を研磨する。
【0043】
(f)化学強化処理
ガラス基板を化学強化する場合、化学強化液として、例えば硝酸カリウムと硫酸ナトリウムの混合熔融液等を用い、ガラス基板を化学強化液中に浸漬する。
【0044】
(g)第2研磨(最終研磨)処理
次に、ガラス基板に第2研磨が施される。第2研磨処理は、主表面の鏡面研磨を目的とする。第2研磨処理では、
図2(a),(b)に示すような研磨装置10が用いられる。具体的には、ガラス基板1の外周側端面を、研磨装置10のキャリア18に設けられた孔内に保持させながら、ガラス基板1の両側の主表面の研磨が行われる。第2研磨処理では、遊離砥粒の種類及び粒子サイズが第1研磨処理と異なり、また、研磨パッド20も、第1研磨処理の研磨パッドと、硬度の点で異なる。第2研磨処理に用いるスラリーは、上述した除去処理の施されたシリカ砥粒を含むスラリーである。第2研磨処理を実施することで、主表面の粗さの算術平均粗さRaを0.15nm以下とすることができる。さらに、ガラス基板の主表面の波長50〜200μmのうねりである微小うねりの二乗平均平方根粗さRqを0.1nm以下とすることができる。
この後、ガラス基板は、アルカリ洗浄液を用いてガラス基板の表面が洗浄され、最終ガラス基板となる。
本実施形態では、化学強化処理を行なうが、必要に応じて化学強化処理は行なわなくてもよい。第1研磨処理及び第2研磨処理の他にさらに別の研磨処理を加えてもよく、2つの主表面の研磨処理を1つの研磨処理で済ませてもよい。また、上記各処理の順番は、適宜変更してもよい。
【0045】
第2研磨処理後、上述したように、ガラス基板の主表面を洗浄する洗浄処理を行う。このとき、洗浄処理では、洗浄処理前後のガラス基板の表面粗さRaの差が0.05nm以下にするアルカリ洗浄液を用いることが好ましい。ガラス基板に付着する板状異物は、除去し難いため、従来、洗浄力の高いアルカリ洗浄液を従来用いていた。このため、洗浄力の強いアルカリ洗浄液は、板状異物のないガラス基板の主表面に作用して主表面を荒らし易い。しかし、本実施形態では、上述した除去処理を施したシリカ砥粒を用いて研磨処理を行うので、ガラス基板には板状異物は付着しない。このため、本実施形態では、従来に比べて洗浄力の弱いアルカリ洗浄液、すなわち、洗浄処理前後のガラス基板の表面粗さRa(算術平均粗さ)の差を0.05nm以下にするアルカリ洗浄液を用いることができる。なお、Raは、JIS B0601に規定される表面粗さである。この表面粗さは、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて1μm×1μmの範囲を512×256ピクセルの解像度で測定したデータに基づいて得られるものである。また、波長50〜200μmの微小うねりは、例えば光学式表面形状測定装置で測定することができる。
【0046】
また、洗浄処理は、ガラス基板を洗浄液に浸すあるいは接触させる非スクラブ洗浄であることが、ガラス基板に傷を作らない点で好ましい。従来の洗浄処理では、ガラス基板に強固に付着した板状異物を除去するために、ブラシや洗浄パッドでガラス基板を擦って、板状異物を除去するスクラブ洗浄を行なっていた。しかし、このスクラブ洗浄では、ガラス基板の主表面に傷を付け易い。本実施形態では、上述した除去処理を施したシリカ砥粒を含んだスラリーを用いて研磨するので、ガラス基板には板状異物が付着しない。このため、従来のようにスクラブ洗浄をしなくてもよい。本実施形態では、ガラス基板を洗浄液に浸すあるいは接触させる非スクラブ洗浄をすることにより、不要な傷をガラス基板の主表面に付けることがなくなる。
また、本発明は、基板の主表面の表面粗のうち算術平均粗さRaが0.15nm以下、より好ましくは0.12nm以下、さらに好ましくは0.10nm以下の磁気ディスク用基板を製造するために好適である。
特に、最終研磨処理で表面粗さRaを0.15nm以下とする場合、スラリー中に存在する板状異物が基板表面に張り付きやすくなるばかりか、最終研磨処理後には前述のとおりエッチング力の強い洗浄液が使用できないため、板状異物がガラス基板表面に残留しやすいという問題があるが、この問題は、本実施形態の製造方法によって解決することができる。
【0047】
以上、本発明の磁気ディスク用基板の製造方法について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良や変更をしてもよいのはもちろんである。