特許第6431607号(P6431607)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6431607深溶け込み溶接部を備えたスパークプラグ電極及びスパークプラグ電極を備えたスパークプラグ、並びにスパークプラグ電極の製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6431607
(24)【登録日】2018年11月9日
(45)【発行日】2018年11月28日
(54)【発明の名称】深溶け込み溶接部を備えたスパークプラグ電極及びスパークプラグ電極を備えたスパークプラグ、並びにスパークプラグ電極の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01T 13/20 20060101AFI20181119BHJP
   H01T 21/02 20060101ALI20181119BHJP
【FI】
   H01T13/20 B
   H01T13/20 E
   H01T21/02
【請求項の数】14
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-529630(P2017-529630)
(86)(22)【出願日】2015年10月9日
(65)【公表番号】特表2017-537444(P2017-537444A)
(43)【公表日】2017年12月14日
(86)【国際出願番号】EP2015073350
(87)【国際公開番号】WO2016091430
(87)【国際公開日】20160616
【審査請求日】2017年7月14日
(31)【優先権主張番号】102014225402.7
(32)【優先日】2014年12月10日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】501125231
【氏名又は名称】ローベルト ボッシュ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】100177839
【弁理士】
【氏名又は名称】大場 玲児
(74)【代理人】
【識別番号】100172340
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 始
(72)【発明者】
【氏名】ブランク,サビーヌ
(72)【発明者】
【氏名】ベンツ,アンドレアス
【審査官】 関 信之
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/011723(WO,A1)
【文献】 特開2002−050448(JP,A)
【文献】 特開2002−170648(JP,A)
【文献】 特開2014−157765(JP,A)
【文献】 特開2002−231417(JP,A)
【文献】 特開2002−237370(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01T 13/20
H01T 21/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極本体(8)及び筒状の摩耗部(10)を備えるスパークプラグ(1)の電極(5,6)であって、前記摩耗部(10)は、前記摩耗部の前記電極本体(8)の方に向けられた端壁(14)から該端壁(14)と反対側に位置する端壁(13)まで伸びる長手軸(x−x)を有し、前記摩耗部(10)は、少なくとも1つの第1の領域(11)及び少なくとも1つの第2の領域(12)を備え、前記摩耗部(10)は前記少なくとも1つの第1の領域(11)では溶融されず、前記摩耗部(10)は前記少なくとも1つの第2の領域(12)では溶融され、前記長手軸の断面で見て、前記摩耗部(10)の外面(15)の前記少なくとも1つの第1の領域(11)と前記少なくとも1つの第2の領域(12)との第1の移行部を点Aとし、前記断面で見て、前記断面で前記長手軸(x−x)に最も近い位置にある、前記少なくとも1つの第1の領域(11)と前記少なくとも1つの第2の領域(12)との第2の移行部を点Cとする電極において、線分ACは前記長手軸(x−x)に対して角度αを有し、αは45°以上とし、
前記筒状の摩耗部(10)は、高さ(H)及び半径(R)を有し、前記高さ(H)は前記第1の領域(11)で前記長手軸(x−x)に沿って測定することができ、前記半径(R)は、多角形の端面(13,14)の場合には、外接円半径である、又は、円形の端面(13,14)の場合には円半径であり、R≧Hが成り立つことを特徴とする電極。
【請求項2】
αは60°以上とすることを特徴とする請求項1記載の電極(5,6)。
【請求項3】
R≧2Hが成り立つことを特徴とする請求項1又は2に記載の電極(5,6)。
【請求項4】
前記点Aと前記電極本体(8)の反対側に位置する前記端壁(13)との間隔は、前記摩耗部(10)の前記高さ(H)の90%より長くない、及び/又は、前記摩耗部(10)の前記高さ(H)の50%より短くないことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の電極(5,6)。
【請求項5】
前記摩耗部(10)の前記外面(15)から前記点Cまでの最短の長さとなる線分は、前記端面(13,14)の前記半径(R)の50%より短くない、及び/又は、前記摩耗部(10)の前記端面(13,14)の前記半径の100%より長くないことを特徴とする請求項1乃至のいずれか1項記載の電極(5,6)。
【請求項6】
前記端面(13,14)の前記半径(R)は、0.75mmより短くない及び/もしくは2mmより長くない、並びに/又は、前記摩耗部(10)の高さ(H)は、0.4mmより短くない及び/もしくは1mmより長くないことを特徴とする請求項乃至5のいずれか1項記載の電極(5,6)。
【請求項7】
スパークプラグ(1)は、先行する電極に関する請求項1乃至のいずれか1項記載の少なくとも1つの電極(5,6)を備えることを特徴とするスパークプラグ(1)。
【請求項8】
前記少なくとも1つの電極(5,6)は、中心電極(5)及び/又は接地電極(6)であり、該接地電極(6)は、上部電極、側面電極及び/又は弓形電極であることを特徴とする請求項記載のスパークプラグ(1)。
【請求項9】
電極(5,6)が電極本体(8)及び筒状の摩耗部(10)を備え、該摩耗部(10)は、前記摩耗部の前記電極本体(8)の方に向けられた端壁(14)から該端壁(14)と反対側に位置する端壁(13)まで伸びる長手軸(x−x)を有する、請求項1乃至のいずれか1項記載の電極(5,6)、又は、請求項もしくは記載のスパークプラグ(1)の製造方法において、溶接ビーム(20)が、前記摩耗部(10)における少なくとも1つの溶融される領域(12)の生成のために、前記長手軸(x−x)に対して角度βで照射され、前記角度βは75°より小さくなく、
前記溶接ビーム(20)の出力(P)は、溶接中に変化し、
前記出力(P)は、第1の作業段階後の第2の作業段階で、前記第1の作業段階における出力の80%から90%に減少し、前記第2の作業段階は、前記出力(P)が再度上げられる第3の作業段階によって2度中断されることを特徴とする、方法。
【請求項10】
前記溶接ビーム(20)は50μm以下の焦点径を有することを特徴とする先行する方法に関する請求項に記載の方法。
【請求項11】
前記摩耗部(10)の周の少なくとも一部に沿って溶接がなされることを特徴とする先行する方法に関する請求項9又は10に記載の方法。
【請求項12】
前記溶接ビーム(20)の線源(21)は、溶接中に前記電極本体(8)及び前記摩耗部(10)の周りを回転することを特徴とする先行する方法に関する請求項9乃至11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
溶接中に、前記電極本体(8)及び前記摩耗部(10)は、前記摩耗部(10)の前記長手軸(x−x)の周りを回転することを特徴とする先行する方法に関する請求項乃至11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
レーザー、連続波(CW)レーザー又は電子ビームが前記溶接ビーム(20)の線源(21)として使用されることを特徴とする先行する方法に関する請求項9乃至13のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、独立請求項の前文に記載のスパークプラグの電極を出発点とする。さらに本発明は、少なくとも1つの本発明のスパークプラグ電極を備えたスパークプラグ及び本発明のスパークプラグ電極の製造方法を包摂する。
【背景技術】
【0002】
現今のスパークプラグは、中心電極及び少なくとも1つの接地電極を備える。スパークプラグの通常の動作時には、これらの電極の間にはスパークが形成され、このスパークが可燃性の混合気に点火する。通常、中心電極又は接地電極は、電極本体と、この電極本体の上に設けられた貴金属を含有する摩耗面とから構成される。通常、摩耗面は、電極本体の材料より高い耐酸化性及び耐食性、ひいてはより小さい摩耗を有する。摩耗面は、溶接によってそのときどきの電極本体に密着性で結合される。抵抗溶接、レーザー溶接又は電子ビーム溶接など、スパークプラグ製造に使用されるさまざまな溶接技術がある。
【0003】
摩耗部と電極本体の異なる材料特性、特に摩耗部材料の他より大幅に高い溶融温度が原因で、2つの部品の信頼できかつ耐久性のある密着性の結合を創出することは、困難な課題である。
【0004】
さらに、一方では、摩耗部の溶融した領域では、貴金属を含有する摩耗部の所望の耐摩耗性は低減される。それでもなお電極、ひいてはスパークプラグの所望の耐用時間を達成するために、ある最低量の貴金属を含有する材料が必要とされる。他方では、摩耗部に必要とされる貴金属は比較的高額であるため、原則として貴金属の含有量を低く抑えることが望ましい。
【0005】
高さとの比較でより小さい半径を有する摩耗部を備える電極には、溶接結合、摩耗部及びスパークプラグの耐久性、並びに製造コストとの間での満足のいく折衷となる結合方法が存在する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
摩耗部の高さに摩耗部の半径が近い又は半径が高さより長い電極では、公知の結合方法は、半径が増大するにつれていっそう悪い結果をもたらす。密着性の結合の十分な強度が達成されないか、又は、密着性の結合の十分な強度を達成するために、過度に大量の貴金属を含有する摩耗部が溶融される必要がある。
【0007】
したがって、本発明の課題は、以上の不都合が解消又は低減されるように、冒頭に記載した種類の電極及びその製造方法を改良することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上の課題は、独立の電極に関する請求項の特徴部分又は独立の方法に関する請求項の特徴部分によって解決される。
【0009】
本発明の基礎には、摩耗部と電極本体との信頼でき耐久性のある密着性の結合のためには、電極本体材料との合金化に十分な材料を提供するのに最低量の摩耗部が溶融される必要があるとの知見がある。
【0010】
これを担保するために、本発明に従い、摩耗部では、線分ACが摩耗部の長手軸x−xに対して角度αを有し、αは45°以上とするよう措置され、点A及びCは、長手軸x−xに沿った断面上で、摩耗部内の溶融されない少なくとも1つの第1の領域と溶融される少なくとも1つの第2の領域との間の移行部を示す。点Aは、筒状の摩耗部の外面の第1の移行部を示す。点Cは、長手軸x−xに最も近い位置にあるもう1つの移行部を示す。
【0011】
これによって、第2の領域が、長手軸に平行な方向と長手軸に対する径方向では同じ長さ、又は、長手軸に平行な方向より長手軸に対する径方向の方が長い長さを有するという結果が得られる。こうして、摩耗部の縁部で安定した密着性の結合に必要な材料の量が溶融されるのみならず、摩耗部の内側でも溶融されることが確保される。電極は、摩耗部と電極本体との間に、深さがあると同時に細身の結合部、いわゆる深溶け込み溶接部を有する。特に、線分ACが好ましくは長手軸x−xに対して60°以上の角度αを有し、αが特に好ましくは70°以上、さらに、αが80°以上の場合に、摩耗部と電極本体との間に、深さがあり細身の結合部が実現される。
【0012】
摩耗部の長手軸x−xは、電極本体の方に向けられた摩耗部の壁から、この壁とは反対側に位置する摩耗部の端壁まで伸びている。長手軸x−xは、摩耗部の端壁に垂直に位置する。摩耗部が筒形を有する場合には、長手軸x−xは、摩耗部の円筒軸に相当する。摩耗部の端壁又は端面は、円形、楕円形又は多角形とすることができる。多角形の端壁の場合の角の数はたとえば12より少なく、好ましくは角の数は3、4、5又は6である。
【0013】
本発明の好ましい実施形態は、従属請求項の主題となる。
【0014】
摩耗部の高さHは、摩耗部の第1の領域内で長手軸x−xに沿って測定される。摩耗部の半径Rは、摩耗部の端壁の外接円の半径に相当する。摩耗部の長手軸x−xが摩耗部の外接円の中心を通過する場合には、摩耗部の半径Rは、摩耗部の外面と長手軸x−xとの最大の間隔に相当する。摩耗部の端壁が円形の場合、摩耗部の半径Rは、円の半径となる。有利には、摩耗部の半径Rは、摩耗部の高さHと同じかこれより長い。本発明の変更形態において、摩耗部の半径Rが摩耗部の高さHの1.5倍以上、又は摩耗部の高さHの2倍以上となるよう措置することができる。
【0015】
好ましくは、点Aと摩耗部の端壁との間隔が、摩耗部の高さHの90%より長くないよう措置される。こうして、安定した密着性の結合のために十分な摩耗部の量が溶融されることが確保される。追加的又は代替的に、摩耗部の十分な耐摩耗性のために、摩耗部の溶融されない量が十分に存在するように、点Aと摩耗部の端壁との間隔が、摩耗部の高さHの50%より短くないよう措置することができる。
【0016】
有利な実施形態において、摩耗部の外面から点Cまでの最短の長さとなる線分が、摩耗部の半径Rの50%より短くない、及び/又は、摩耗部の半径の100%より長くないよう措置される。これによって、安定した密着性の結合のために十分な量が摩耗部の内部で溶融され、結合部が、長手軸x−xに垂直に十分な深さを有することが担保される。
【0017】
有利な実施形態において、摩耗部の半径Rが0.75mmより短くない、及び/又は、2mmより長くなく、好ましくは摩耗部の半径Rが1mm〜1.5mmの範囲内にあるよう措置される。
【0018】
有利には、摩耗部の高さHが0.4mmより短くない及び/又は1mmより長くなく、好ましくは摩耗部の高さHが0.5mm〜0.8mmの範囲内にあるよう措置される。
【0019】
さらに、本発明は、少なくとも1つの本発明の電極を備えるスパークプラグに関する。少なくとも1つの電極は、中心電極及び/又は接地電極として形成することができる。接地電極は、上部電極、側面電極及び/又は弓形電極の形状を有することができる。スパークプラグが複数の接地電極を備える場合には、これらの接地電極は同一形状又は異なる形状のいずれとしてもよい。
【0020】
本発明は、摩耗部が電極本体に設けられる電極の製造方法にも関する。溶接を用いて、摩耗部は電極本体に密着性で結合され、摩耗部は好ましくは筒状である。その1つの端壁において、摩耗部は電極本体に直接接触している。溶接ビームは、摩耗部の長手軸x−xに対して角度βで、好ましくは摩耗部と電極本体との接触領域内に照射される。溶接ビームによって、摩耗部での少なくとも1つの溶融される領域の生成に必要とされる熱エネルギーが、摩耗体内にもたらされる。さらに、電極本体の溶接ビームによって蓄積されたエネルギーは、電極本体にも少なくとも1つの溶融される領域を生成する。摩耗部及び電極本体の溶融される領域同士は、少なくとも部分的に隣接している。電極本体及び摩耗部の溶融される領域同士の境界領域では、少なくとも部分的に、摩耗部及び電極本体の材料同士が合金化され、ひいては摩耗部と電極本体との間に密着性の結合が生成される、合金化領域が形成される。
【0021】
本発明によれば、角度βは75°より小さくならず、好ましくは81°より小さくならないように措置される。こうして、摩耗部の第2の溶融される領域が外面から長手軸x−xの方向に伸び、これによって、深さを有し、同時に比較的細身の結合部、いわゆる深溶け込み溶接部が生成されるという技術的効果が達成される。本願の目的で、比較的細身とは、長手軸x−xに対する径方向における摩耗部の第2の領域の最大長さが、長手軸x−xに平行な方向における最大長さより長いことを意味する。
【0022】
さらに、溶接ビームが50μm以下の焦点径を有する場合には、上の技術的効果の達成に有利となる。
【0023】
有利には、溶接ビームの焦点は、摩耗部と電極本体との接触領域内に配置される。たとえば、焦点は、摩耗部の外面との間に、長手軸x−xの方向に摩耗部半径の50%の間隔を有する。
【0024】
好ましくは、少なくとも摩耗部の周の一部に沿って溶接がなされる。たとえば、連続的な溶接継手が摩耗部の周全体に沿って生成されるように措置することができる。代替的に、溶接継手を複数の部分に分割してもよく、この部分は、摩耗部の外面に間隔をおいて設けられる、かつ/又は、接触領域及び/もしくは摩耗部及び/もしくは電極本体の内部で重なり合っている。
【0025】
好ましくは、摩耗部の溶融されない領域はまとまっているため、好ましくは、摩耗部の第1の領域のみが存在する。
【0026】
溶接ビームの線源として、レーザー又は電極ビームを使用することができる。レーザーは、パルス式又は連続的に(CW−連続波)動作させることができる。たとえば、溶接法において、固体レーザー、繊維レーザー、ディスクレーザー及び/又はダイオードレーザーを使用することができる。
【0027】
有利には、溶接ビームの線源、ひいては溶接ビームは、溶接時に、電極本体及び摩耗部の周りを回転することができる。代替的に、溶接ビームの線源が位置を固定され、電極本体及び摩耗部を備える電極が軸の周囲を回転し、特に摩耗部の長手軸x−xの周囲を回転することを想到することもできる。
【0028】
有利には、溶接ビームの出力が溶接中に変化するように措置することができる。これによって、出力損失をたとえばシャドーイング効果によって補償し、ひいては可能な限り均一な結合部を生成することができる。
【0029】
たとえば、溶接法の第1の作業段階において、溶接ビームの出力が一定となるように措置することができる。上の第1の作業段階に後続する第2の作業段階において、出力を連続的に減少させる、又は、第2の作業段階中一定に維持される低い値まで減少させる。
【0030】
代替的又は追加的に、第2の作業段階が第3の作業段階によって中断されるように措置することもできる。好ましくは、第3の作業段階は、第2の作業段階のそれぞれの時間区間より時間的に短い。第3の作業段階において、溶接ビームの出力は短時間再度高められる。第3の作業段階の終了後に、たとえば、溶接ビームの出力は、第3の作業段階による中断の前に第2の作業段階に最後に発生する数値まで再度戻される。
【0031】
溶接ビームの出力のシャドーイング効果は、電極又は線源を回転させながらの溶接中に、たとえば接地電極の支柱が溶接ビーム内にかかることで、溶接ビームの一部がシャドーイングされる場合に発生する。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】スパークプラグの例を示す。
図2】本発明の電極の例を示す。
図3a】本発明の中心電極の製法の例を示す。
図3b】本発明の中心電極の製法の例を示す。
図4a】本発明の接地電極の製法の例を示す。
図4b】本発明の接地電極の製法の例を示す。
図5】溶接ビーム出力の時間ごとの変化の例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0033】
図1は、スパークプラグ1の模式図を示す。スパークプラグ1は、エンジンブロックへのスパークプラグ1の取り付けのためのネジ山3を具備する金属製のハウジング2を備える。ハウジング2内には絶縁体4が設けられる。中心電極5及び接続ボルト7が絶縁体4内に設けられ、ここでは図示していない抵抗要素を介して、電気的に接続されている。中心電極5は、通常スパークプラグ1の燃焼室側端部において、絶縁体4から突出している。
【0034】
ハウジング2の燃焼室側端部には、接地電極6が設けられる。この接地電極は、中心電極5と共にスパークギャップをなす。接地電極6は、上部電極、側面電極又は弓形電極として形成することができる。弓形電極は2本の脚部を備え、これらの脚部は支柱16でそれぞれハウジング2に溶接される。脚部は相互間で30°〜180°の角度を有する。弓形電極は一体として形成することも多部品で形成することもでき、多部品とした構成の場合、個々の部品は、たとえば溶接のような密着性の結合によって相互間で結合される。
【0035】
図2には、本発明の電極5,6の断面図が示されている。電極5,6は、電極本体8と摩耗部10とを備え、摩耗部10は、反対側に位置する電極6,5又はこの反対側に位置する電極6,5に設けられた第2の摩耗部と共にスパークギャップをなすように、電極本体8上に設けられる。
【0036】
電極本体8は低合金又は高合金であるニッケル合金から成る。たとえば、ニッケル合金は、イットリウム含有低合金又はクロム含有高合金である。ニッケル合金中のクロムの割合は、たとえば少なくとも20重量%という値をとり、好ましくは少なくとも25重量%という値をとる。
【0037】
摩耗部10は、円形、楕円形又は多角形の端面を有する筒状であり、円筒軸又は長手軸x−xを有する。長手軸x−xは、摩耗部の端面13から、反対側に位置する電極本体8側に位置する摩耗部の壁14まで伸びる。長手軸x−xに沿って、摩耗部10の高さHが測定される。摩耗部10の半径Rは、摩耗部10の外面15と長手軸x−xとの最大の間隔に相当し、間隔は、長手軸x−xに垂直に、たとえば摩耗部の端面13で測定される。本実施例では、摩耗部10は円板ブランク状を有する、すなわち摩耗部10の半径Rは摩耗部10の高さH以上となる。たとえば、摩耗部10の半径Rは摩耗部10の高さHの1.5倍以上、さらに、摩耗部10の半径Rは摩耗部10の高さHの2倍以上ともなる。摩耗部10の半径Rは0.75mmより短くならない、及び/又は2mmより長くならない。好ましくは、摩耗部10の半径Rは1mmより短くならない、及び/又は1.5mmより長くならない。摩耗部10の高さHは0.4mmより短くならない、及び/又は1mmより長くならない。好ましくは、摩耗部10の高さHは0.6mmより短くならない、及び/又は0.8mmより長くならない。本実施例では、たとえば摩耗部10の半径Rは1.2mmとし、摩耗部10の高さHは0.6 mmとする。
【0038】
摩耗部10は、イリジウム、白金、ロジウム、ルテニウム及び/又はレニウム、又はこれらの貴金属のうち少なくとも1つを含む合金のような、貴金属又は貴金属合金から成る。
【0039】
本実施例では、摩耗部10の電極本体8側の壁14は、電極本体8に直接接触している。溶接を用いて、摩耗部10は電極本体8に密着性で結合されることで、摩耗部10及び電極本体8に、結合プロセス中に溶融される領域12,18が形成される。
【0040】
さらに、電極本体8と摩耗部10との間の接触領域内には、電極本体8の材料が摩耗部10の材料との間で合金化されている領域がある。かかる合金化領域は、電極本体8及び摩耗部10の溶融される領域18,12の合計以下とすることができる。合金化領域と溶融される領域18,12との境界は目立たないようにすることができる一方、断面図では、摩耗部10及び電極本体8の溶融される領域12と溶融されない領域11との境界は、通常明確に認識することができる。図2に示したとおり、摩耗部10は、結合プロセスでは溶融されない第1の領域11と結合プロセスで溶融される第2の領域12とに区分することができる。
【0041】
断面図では、摩耗部10の溶融されない領域11と摩耗部10の溶融される領域12との移行部は、はっきり認識することができる。外面15上の摩耗部10の第1の領域11と摩耗部10の第2の領域12との移行部は、点Aとして表される。長手軸x−xに最も近い位置にある摩耗部10の第1の領域11と摩耗部10の第2の領域12との移行部は、点Cとして表される。線分ACは、長手軸x−x又は点Cを通過する長手軸x−xの平行線x’−x’との間で角度αをなす。線分ACの確定のために、通常は点A及びCは、摩耗部10の同一の第2の領域12上に認められる。角度αは45°以上である。好ましくは、角度αは60°以上にもなる。
【0042】
有利には、摩耗部10の端面13は、摩耗部10の第2の領域12を有さず、すなわち、摩耗部10の端面13は完全に溶融しておらず、摩耗部10の第1の領域11に含まれる。理想的には、点Aと摩耗部10の端壁13との間隔は、摩耗部10の高さHの50%より短くない。さらに、摩耗部10の十分な材料が強固な密着性の結合のために溶融されるように、上の間隔は摩耗部10の高さHの90%より長くない。
【0043】
摩耗部10の外面15から点Cまでの最短の長さとなる線分は、摩耗部10又は端面13の半径Rの50%より短くない、及び/又は、摩耗部10の半径Rの100%より長くない。上の最短の長さとなる線分は、長手軸x−xに対する径方向に沿った摩耗部10の第2の領域12の深さtに相当する。摩耗部10の第2の領域12が摩耗部10の半径Rの少なくとも半分となる深さtを有するように措置することで、摩耗部10の十分な材料が、摩耗部10と電極本体8との強固な密着性の結合のために溶融されることが確保される。
【0044】
表1には、例として、R=H、R=1.5H及びR=2Hという3つの場合について、得られる角度αが、境界条件の限界値として記載されている。境界条件は、摩耗部の第2の領域12の最小及び最大の高さb並びに最小及び最大の深さtから得られる。摩耗部10の第2の領域12の高さbは、外面15に沿って測定される。摩耗部10の第2の領域12の高さbは、摩耗部10の高さHの最小10%で最大50%に相当するものとする。摩耗部10の第2の領域12の深さtは、長手軸x−xに垂直な平面上での点Cと外面15との間隔に相当する。摩耗部10の第2の領域12の深さtは、摩耗部10の半径Rの最小50%で最大100%に相当するとする。それゆえ、上に記載の場合には、境界条件で、それぞれ角度αが得られるそれぞれ4つの可能な組み合わせが得られる。
【表1】
【0045】
上に記載の例では、角度αについて、45°〜84°の範囲の数値が得られる。αについて小さい角度(45°〜63°)が得られるのは、摩耗部10の第2の領域12が高い高さbを有し、すなわち、摩耗部10の高さHの50%に相当し、かつ、同時に浅い深さtを有し、すなわち、摩耗部10の半径Rのわずか50%に相当する場合である。摩耗部10の第2の領域12が低い高さb(Hの10%)かつ浅い深さt(Rの50%)又は摩耗部10の第2の領域12が高い高さb(Hの50%)かつ深い深さt(Rの100%)の場合には、角度αの数値は、63°〜83°の範囲内となる。細身で深さのある結合部に相当する、摩耗部10の第2の領域12の低い高さbかつ深い深さtという境界状況では、角度αの数値は、84°〜87°の範囲内となる。以上から、本発明の特に好ましい実施形態では、角度αが好ましくは80°以上となると導出される。
【0046】
摩耗部10と電極本体8との密着性の結合は、好ましくは、たとえばレーザービーム溶接又は電極ビーム溶接のような溶接法によって行なわれる。レーザービーム溶接では、パルス式レーザービーム又は連続的なレーザービーム、すなわち連続波(CW)レーザーを使用することができる。レーザー光線の生成時に、固体レーザー、ディスクレーザー、ダイオードレーザー及び/又は繊維レーザーを使用することができる。
【0047】
溶接ビーム20は、図2に模式的に示したとおり、長手軸x−xに対して角度βで摩耗部10と電極本体8との接触領域の方を向いている。摩耗部10の第2の領域12のできる限り深い深さtかつ同時に低い高さbを達成するために、溶接ビーム20は、75°より小さくなく好ましくは81°より小さくない角度βで接触領域内に照射される。
【0048】
溶接ビーム20の焦点は、たとえば接触領域の内部、すなわち、好ましくは点Cと外面15との間の線分上に位置する。有利には、溶接ビーム20は、焦点では50μmより長くない径を有する。これによって、できる限り深さを有し、かつ同時に過度に高さを有さない溶接継手又は結合部が生成される。溶接継手の形状は、摩耗部10及び電極本体8の溶融される領域12,18の幾何学形状と相関関係にある。
【0049】
原則として、摩耗部10の半径Rと高さHとの比が増大すると、摩耗部10の第2の領域12の十分な深さt、ひいては、電極本体8と摩耗部10との間で信頼できる強固な結合も生成しながら、外面15のレベルでは過度に大量に溶融することのないようにするために、溶接ビーム20の入射角βも増大する必要があることは成立する。
【0050】
好ましくは、少なくとも摩耗部10の周の一部に沿って溶接がなされる。たとえば、連続的な溶接継手が摩耗部10の周全体に沿って生成されるように措置することができる。代替的に、溶接継手を複数の部分に分割してもよく、この部分は、摩耗部10の外面15に間隔をおいて設けられる、及び/又は、接触領域及び/又は摩耗部10及び/又は電極本体8の内部で重なり合っている。好ましくは、摩耗部10の溶融されない領域11はまとまっているため、好ましくは、摩耗部10の第1の領域10のみが存在する。
【0051】
図3は、中心電極5とした本発明の電極の製法の2種類の可能な実施形態を示す。第1の実施形態である図3aでは、溶接ビーム線源21は位置が固定され、電極5は電極本体8及び摩耗部10と共に、1つの軸、本実施形態では摩耗部10の長手軸x−xの周りを回転する。第2の実施形態である図3bでは、溶接ビーム線源21は電極5の周りを回転する。
【0052】
図4は、接地電極6とした本発明の電極の製法の2種類の可能な実施形態を示す。第1の実施形態である図4aでは、溶接ビーム線源21は位置が固定され、電極6は電極本体8及び摩耗部10と共に、1つの軸、本実施形態では摩耗部10の長手軸x−xの周りを回転する。第2の実施形態である図4bでは、溶接ビーム線源21は電極6の周りを回転する。
【0053】
追加的に、溶接ビーム21の出力が、接地電極6の溶接中に変化するように措置することができる。これによって、溶接中の出力損失は、たとえば電極6又は溶接ビーム線源21の回転中に、接地電極6の支柱16が溶接ビーム20内にかかることで、溶接ビーム20の一部をシャドーイングする場合に、補償することができる。
【0054】
図5は、弓型接地電極6の溶接中の溶接ビーム20の出力Pの時間ごとの変化Tの例を示す。第1の作業段階では、出力Pは一定の値に維持される。この段階では、摩耗部10及び電極本体8の溶融される領域12,18が加熱され、これによって、深溶け込み溶接に必要とされる溶融池が、電極本体8及び摩耗部10に生成される。第2の作業段階では、出力Pは初期出力の80%から90%に減少する。このように減少した出力Pは、溶融池が、溶接ビーム20と共に、電極6又は溶接ビーム線源21の回転速度に応じて、摩耗部10の周に沿って移動し、これによって結合部が生成されるのに十分である。本実施形態の第2の作業段階は、電極6に蓄積された出力Pにおいて、一時的に溶接ビーム20にかかっている接地電極6の支柱16によって生成されるシャドーイング効果を補償するために、出力Pが初期出力まで再度上げられる第3の作業段階によって2度中断される。少なくとも一回転した後、第4の作業段階では、出力Pが0%まで減少し、溶接プロセスが終了する。
【0055】
有利には、溶接の開始位置及び/又は溶接中の回転方向は、シャドーイング効果を引き起こすスパークプラグ1の部品が、回転サイクル内のできるだけ遅い時点で溶接ビーム20にかかるように選択される。
【符号の説明】
【0056】
1 スパークプラグ
2 ハウジング
3 ネジ山
4 絶縁体
5 中心電極
6 接地電極
7 接続ボルト
8 電極本体
10 摩耗部
11 溶融されない領域
12 溶融される領域
13 端面
14 壁
15 外面
18 溶融される領域
20 溶接ビーム
21 溶接ビーム線源
H 高さ
R 半径
x−x 長手軸
図1
図2
図3a)】
図3b)】
図4a)】
図4b)】
図5