(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記水性塗料組成物は、鱗片状アルミニウム顔料およびリン酸基含有有機化合物を含むアルミニウムペースト、塗膜形成樹脂、硬化剤、および、ガス抑制無機化合物、を混合することによって調製される、請求項1記載の水性塗料組成物。
前記鱗片状アルミニウム顔料は、炭素数7〜20の炭化水素、炭素数12〜20の飽和脂肪酸、炭素数12〜20の不飽和脂肪酸および前記脂肪酸の誘導体からなる群から選択される1種またはそれ以上によって被覆された顔料である、請求項1または2に記載の水性塗料組成物。
鱗片状アルミニウム顔料およびリン酸基含有有機化合物を含むアルミニウムペースト、塗膜形成樹脂、硬化剤、および、ガス抑制無機化合物、を混合する、水性塗料組成物の製造方法であって、
前記リン酸基含有有機化合物は、リン酸基含有ポリマーを含み、
前記リン酸基含有ポリマーは、リン酸基価が5〜300mgKOH/gであり、
前記鱗片状アルミニウム顔料は、アルミニウム以外の金属からなる金属被膜および有機高分子被膜のいずれも有しておらず、
前記ガス抑制無機化合物は、水溶性ガス抑制無機化合物、および水不溶性または難溶性ガス抑制無機化合物からなる群から選択される少なくとも1種の無機化合物であって、
前記水溶性ガス抑制無機化合物は、塩化セリウムおよびセレン酸カリウムからなる群から選択される少なくとも1種であり、
前記水不溶性または難溶性ガス抑制無機化合物は、リン酸亜鉛、リン酸水素マグネシウムおよび酸化亜鉛からなる群から選択される少なくとも1種であり、および
前記ガス抑制無機化合物の含有量は、前記鱗片状アルミニウム顔料に対して、0.01〜20質量%であり、但し前記水不溶性または難溶性ガス抑制無機化合物の総含有量は10質量%を超えないことを条件とする、
水性塗料組成物の製造方法。
前記鱗片状アルミニウム顔料は、炭素数7〜20の炭化水素、炭素数12〜20の飽和脂肪酸、炭素数12〜20の不飽和脂肪酸および前記脂肪酸の誘導体からなる群から選択される1種またはそれ以上によって被覆された顔料である、請求項5記載の水性塗料組成物の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0012】
水性塗料組成物
本発明の水性塗料組成物は、塗膜形成樹脂、硬化剤、鱗片状アルミニウム顔料、リン酸基含有有機化合物およびガス抑制無機化合物を含む。本発明の水性塗料組成物は、上記構成を有することによって、アルミニウム以外の金属からなる金属被膜および有機高分子被膜のいずれも有していない鱗片状アルミニウム顔料を含む水性塗料組成物であるにも関わらず、優れたガス発生抑制効果が達成され、かつ光輝性および密着性に優れる塗膜を得ることができることを特徴とする。以下、水性塗料組成物中に含まれる各成分について順次説明する。
【0013】
塗膜形成樹脂
本発明の水性塗料組成物は塗膜形成樹脂を含む。塗膜形成樹脂として、従来公知のものを使用することができる。塗膜形成樹脂の具体例として、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリオレフィン樹脂、ウレタン樹脂などが挙げられる。このような塗膜形成樹脂の形態としては、水溶性、水分散性またはエマルションであってよい。上記塗膜形成樹脂のなかでも、アクリル樹脂および/またはポリエステル樹脂を用いることが耐候性、耐水性などの塗膜性能面から好ましい。これらの塗膜形成樹脂は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0014】
塗膜形成樹脂の特に好ましい例の1つとしてアクリル樹脂エマルションが挙げられる。アクリル樹脂エマルションは、例えば、α,β−エチレン性不飽和モノマー混合物の乳化重合によって得ることができる。アクリル樹脂エマルションの調製に用いられる好ましいα,β−エチレン性不飽和モノマーとして、例えば、(メタ)アクリル酸エステル、酸基を有するα,β−エチレン性不飽和モノマーおよび水酸基を有するα,β−エチレン性不飽和モノマーが挙げられる。
【0015】
(メタ)アクリル酸エステルとしては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸t−ブチルシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンタジエニル、(メタ)アクリル酸ジヒドロジシクロペンタジエニルなどが挙げられる。なお、本明細書において(メタ)アクリル酸エステルとはアクリル酸エステルとメタアクリル酸エステルとの両方を意味するものとする。
【0016】
酸基を有するα,β−エチレン性不飽和モノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、2−アクリロイルオキシエチルフタル酸、2−アクリロイルオキシエチルコハク酸、ω−カルボキシ−ポリカプロラクトンモノ(メタ)アクリレート、イソクロトン酸、α−ハイドロ−ω−((1−オキソ−2−プロペニル)オキシ)ポリ(オキシ(1−オキソ−1,6−ヘキサンジイル))、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、3−ビニルサリチル酸、3−ビニルアセチルサリチル酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、p−ヒドロキシスチレン、2,4−ジヒドロキシ−4’−ビニルベンゾフェノンなどを挙げることができる。
【0017】
水酸基を有するα,β−エチレン性不飽和モノマーとしては、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシブチル、アリルアルコール、メタリルアルコール、および、これらとε−カプロラクトンとの付加物などを挙げることができる。これらの中で好ましいものは、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、および、これらとε−カプロラクトンとの付加物である。
【0018】
上記α,β−エチレン性不飽和モノマー混合物はさらに、その他のα,β−エチレン性不飽和モノマーを用いてもよい。その他のα,β−エチレン性不飽和モノマーとしては、重合性アミド化合物(例えば、(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジブチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジオクチル(メタ)アクリルアミド、N−モノブチル(メタ)アクリルアミド、N−モノオクチル(メタ)アクリルアミド 2,4−ジヒドロキシ−4’−ビニルベンゾフェノン、N−(2−ヒドロキシエチル)アクリルアミド、N−(2−ヒドロキシエチル)メタクリルアミドなど)、重合性芳香族化合物(例えば、スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン、ジビニルベンゼン、t−ブチルスチレン、パラクロロスチレン、ビニルナフタレン、2−ビニルピリジンおよび4−ビニルピリジンなど)、重合性ニトリル(例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリルなど)、重合性アルキレンオキシド化合物(例えば、(メタ)アクリル酸(ポリ)オキシエチレン、(メタ)アクリル酸(ポリ)プロピレングリコールなど)、多官能ビニル化合物(例えば、(メタ)アクリル酸アリル、(ポリ)オキシエチレンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレートなど)、重合性アミン化合物(例えば、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸ジエチルアミノエチルなど)、α−オレフィン(例えば、エチレン、プロピレンなど)、ビニルエステル(例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、パーサチック酸ビニルなど)、ジエン(例えば、ブタジエン、イソプレンなど)、ハロゲン化ビニル(例えば、塩化ビニル、塩化ビニリデンなど)、重合性カルボニル化合物(例えば、アクロレイン、ダイアセトン(メタ)アクリルアミド、ホルミルスチロール、ビニルメチルケトン、ビニルエチルケトン、ビニルイソブチルケトン、アクリルオキシアルキルプロパナール類、メタクリルオキシアルキルプロパナール類、ジアセトンアクリレート、ジアセトンメタクリレート、アセトニルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレートアセチルアセテート、ブタンジオールアクリレートアセチルアセテートなど)、重合性アセトアセトキシ化合物(例えば、アセトアセトキシエチル(メタ)アクリレート、アセトアセトキシエチル(メタ)アクリレートなど)、重合性アルコキシシリル化合物(例えば、γ−(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルジメチルメトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルジメチルエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルメチルジエトキシシラン、トリメトキシシリルスチレン、ジメトキシメチルシリルスチレン、トリエトキシシリルスチレン、ジエトキシメチルシリルスチレンなど)、重合性のその他の化合物(例えば、ビニルピロリドン、ジフェニルビニルホスフィンなど)を挙げることができる。上記α,β−エチレン性不飽和モノマーは目的に併せて、必要に応じて種々選択することができる。
【0019】
アクリル樹脂エマルションは、上記α,β−エチレン性不飽和モノマー混合物を乳化重合して調製することができる。乳化重合は、特に限定されず、通常の方法を用いて行うことができる。具体的には、例えば、水、または必要に応じてアルコール、エーテル(例えば、ジプロピレングリコールメチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテルなど)などのような有機溶媒を含む水性媒体中に乳化剤を溶解させ、加熱撹拌下、上記α,β−エチレン性不飽和モノマー混合物および重合開始剤を滴下することにより行うことができる。乳化剤と水とを用いて予め乳化したα,β−エチレン性不飽和モノマー混合物を同様に滴下してもよい。
【0020】
重合開始剤は、当業者に通常使用されているものを用いることができる。重合開始剤として、例えば、アゾ系化合物(例えば、4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)、2,2’−アゾビス(N−(2−カルボキシエチル)−2−メチルプロピオンアミジン)、アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス−2,4’−ジメチル吉草酸ニトリルなど)、過酸化物(t−ブチルヒドロパーオキサイド、1,1,3,3−テトラメチルブチルヒドロパーオキサイド、クメンヒドロパーオキサイド、ジベンゾイルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシネオデカノエート、過硫酸カリ、過硫酸アンモニウムなど)、レドックス開始剤(例えば、過酸化水素と塩化鉄(II)の組み合わせ、過硫酸アンモニウムと亜硫酸水素アンモニウムの組み合わせなど)などが挙げられる。上記重合開始剤は必要に応じて塩基で中和してもよく、例えば、pH1〜10で用いることができる。
【0021】
乳化剤は、当業者に通常使用されているもの用いることができる。乳化剤として、例えば、アントックス(Antox)MS−2N(日本乳化剤社製、2−ソジウムスルホエチルメタクリレート)、ニューコール706(日本乳化剤社製、ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル)、アデカリアソープNE−10(旭電化社製、α−[1−[(アリルオキシ)メチル]−2−(ノニルフェノキシ)エチル]−ω−ヒドロキシポリオキシエチレン)、エマルゲン109P(花王社製、ポリオキシエチレンラウリルエーテル)、ラテムルPD−104(花王社製、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル硫酸アンモニウム)、およびアクアロンHS−10(第一工業製薬社製、ポリオキシエチレンアルキルプロペニルフェニルエーテル硫酸アンモニウム)などを好適に用いることができる。
【0022】
また、分子量を調節するために、ラウリルメルカプタンのようなメルカプタンおよびα−メチルスチレンダイマーなどのような連鎖移動剤を必要に応じて用いてもよい。
【0023】
反応温度は開始剤により決定され、通常、20〜95℃であり、レドックス系開始剤では、例えば、20〜50℃であり、アゾ系では、例えば、40〜95℃で行うことができる。また、反応容器内を加圧して重合を行なってもよく、その場合は95℃以上の温度で重合を行なってもよい。一般に、反応時間は1〜8時間である。α,β−エチレン性不飽和モノマー混合物の総量に対する開始剤の量は、一般に0.05〜5質量%であり、好ましくは0.1〜3質量%である。
【0024】
こうして調製することができるアクリル樹脂エマルションは、平均粒径が0.01〜1.0μmの範囲であることが好ましい。平均粒径が0.01μm未満であると粘度が著しく大きくなって樹脂固形分濃度を高めることが困難になるおそれがあり、1.0μmを上回ると得られる塗膜の外観が悪化するおそれがある。さらに好ましくは0.05〜0.5μmである。この平均粒径の調節は、例えば、モノマー組成または乳化重合条件を調整することにより可能である。なお、上記平均粒径は、レーザー光散乱法により測定した体積平均粒径により表示したものである。
【0025】
上記アクリル樹脂エマルションは、必要に応じて塩基で中和してもよく、例えば、pH1〜10で用いることができる。これは、このpH領域における安定性が高いからである。この中和は、乳化重合の前または後に、アンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、モノエタノールアミン、モノメチルエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、ジエチルエタノールアミンまたはトリエチルアミンなどの塩基性化合物を系に添加することにより行うことができる。
【0026】
上記アクリル樹脂エマルションは、数平均分子量が下限3000であることが好ましい。3000未満であると、作業性および硬化性が充分でないおそれがある。上限は特に制限されず、例えば、多官能(メタ)アクリレートなどを用いて架橋エマルションとすることもできる。上記下限は、4000であることがより好ましい。なお、本明細書において数平均分子量は、ポリスチレンを標準とするGPC法において決定される値である。
【0027】
上記アクリル樹脂エマルションは、水酸基価が下限20mgKOH/g、上限180mgKOH/gを有することが好ましい。20mgKOH/g未満であると、塗膜の硬化性が低下するおそれがある。180mgKOH/gを超えると、塗膜の耐水性が低下するおそれがある。上記下限は、30mgKOH/gであることがより好ましく、上記上限は、160mgKOH/gであることがより好ましい。
【0028】
上記アクリル樹脂エマルションは、酸価が下限1mgKOH/g、上限80mgKOH/gであることが好ましい。1mgKOH/g未満であると、塗料の安定性が低下するおそれがある。80mgKOH/gを超えると、塗膜の耐水性が低下するおそれがある。上記下限は、3mgKOH/gであることがより好ましく、上記上限は、70mgKOH/gであることがより好ましい。
【0029】
本発明の水性塗料組成物は、必要によりその他の塗膜形成樹脂を含んでいてもよい。その他の塗膜形成樹脂として、特に限定されるものではなく、水溶性アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂などの塗膜形成樹脂などを用いることができる。
【0030】
硬化剤
本発明の水性塗料組成物は、塗膜形成樹脂の有する硬化性官能基の種類に適宜対応した、硬化剤を含む。硬化剤としては、従来公知のものを使用することができ、具体的には、アミノ樹脂、ブロックイソシアネート樹脂、エポキシ化合物、アジリジン化合物、カルボジイミド化合物、オキサゾリン化合物などを好ましいものとして挙げることができる。これらの中でも、アミノ樹脂および/またはブロックイソシアネート樹脂が一般的に用いられる。上記硬化剤は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0031】
上記アミノ樹脂は、特に限定されるものではなく、水溶性メラミン樹脂および/または非水溶性メラミン樹脂を用いることができる。
【0032】
上記ブロックイソシアネート樹脂は、トリメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネートなどのポリイソシアネートに、活性水素を有するブロック剤を付加させることによって、調製することができる。このようなブロックイソシアネート樹脂は、加熱によりブロック剤が解離してイソシアネート基が発生し、上記樹脂成分中の官能基と反応して硬化する。
【0033】
硬化剤の配合量は、上記塗膜形成樹脂の固形分100質量部に対して、下限5質量部、上限120質量部であることが好ましい。5質量部未満であると、硬化性が不充分となるおそれがある。120質量部を超えると、硬化膜が堅くなりすぎ、脆くなるおそれがある。硬化剤の配合量は、上記塗膜形成樹脂の固形分100質量部に対して10〜100質量部であるのがより好ましい。
【0034】
鱗片状アルミニウム顔料
本発明の水性塗料組成物は、鱗片状アルミニウム顔料を含む。そして本発明の水性塗料組成物中に含まれる鱗片状アルミニウム顔料は、アルミニウム以外の金属からなる金属被膜および有機高分子被膜のいずれも有していないものであることを特徴とする。
【0035】
本明細書における鱗片状顔料として、例えば、平均粒径(D50)が2〜50μmであり、かつ厚さが0.1〜5μmである形状が挙げられる。ここで平均粒子径は、マイクロトラック粒度分布測定装置 MT3300(商品名、日機装社製)を用いてレーザー回折散乱法によって測定した体積基準粒度分布のメジアン径を意味する。厚さは、鱗片状アルミニウム顔料を含む塗膜断面を、走査型電子顕微鏡(SEM)にて測定し、100個以上の測定値の平均値を意味する。
【0036】
本明細書において「アルミニウム以外の金属からなる金属被膜」とは、例えば、モリブデン酸、クロム酸、イットリウムおよび希土類金属などの金属化合物の被膜を意味する。
【0037】
本明細書において「有機高分子被膜」とは、重合性モノマーなどを用いて調製される有機高分子の被膜を意味する。ここでいう有機高分子被膜は、アルミニウム顔料の存在下で重合性モノマーを重合することによって調製される有機高分子被膜、および、重合性モノマーを用いて予め重合された有機高分子であってアルミニウム顔料の被覆に用いられるもの、のいずれの態様も含まれるものとする。有機高分子被膜によって被覆されたアルミニウム顔料として、例えば、トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジビニルベンゼン、イタコン酸、アクリル酸、メタクリル酸、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、ベンジルアクリレートなどから選択される重合性モノマー、アルミニウム顔料、重合開始剤および必要に応じてミネラルスピリットを入れ、加熱しながら撹拌することによって得られる、樹脂被覆されたアルミニウム顔料などが挙げられる。
【0038】
これらのアルミニウム以外の金属からなる金属被膜および有機高分子被膜は、いずれも、アルミニウム顔料と水とが反応しガスが発生することを防ぐことを目的とした被膜である。これに対して、本発明の水性塗料組成物に含まれる鱗片状アルミニウム顔料は、アルミニウム以外の金属からなる金属被膜および有機高分子被膜のいずれも有していない。すなわち本発明の水性塗料組成物に含まれる鱗片状アルミニウム顔料は、上記のようなアルミニウム以外の金属からなる金属被膜または有機高分子被膜を設けて被覆するといった、アルミニウム顔料を製造した後の安定化処理は特段行われていないことを意味する。
【0039】
本発明における鱗片状アルミニウム顔料は、炭素数7〜20の炭化水素、炭素数12〜20の飽和脂肪酸、炭素数12〜20の不飽和脂肪酸およびこれらの脂肪酸の誘導体からなる群から選択される1種またはそれ以上によって被覆された顔料であるのが好ましい。
【0040】
炭素数7〜20の炭化水素、炭素数12〜20の飽和脂肪酸、炭素数12〜20の不飽和脂肪酸およびこれらの脂肪酸の誘導体は、鱗片状アルミニウム顔料の製造において、粉砕媒液または粉砕助剤として用いられる化合物である。鱗片状アルミニウム顔料は、一般に、ボールミルまたはアトライターミルなどの粉砕機を用いて、粉砕媒液および粉砕助剤の存在下でアルミニウムを粉砕・摩砕することによって製造される。そしてこのような粉砕・摩砕によって得られる鱗片状アルミニウム顔料は、炭素数7〜20の炭化水素、炭素数12〜20の飽和脂肪酸、炭素数12〜20の不飽和脂肪酸そしてこれらの脂肪酸の誘導体である、粉砕媒液および/または粉砕助剤によって被覆された状態で得られる。本発明の水性塗料組成物においては、通常行われるアルミニウムの粉砕・摩砕によって得られる、粉砕媒液および/または粉砕助剤によって被覆された状態の鱗片状アルミニウム顔料が用いられる。
【0041】
炭素数7〜20の炭化水素として、例えば、炭素数7〜20の脂肪族炭化水素、炭素数7〜20の脂環式炭化水素、ミネラルスピリットなどが挙げられる。ここでミネラルスピリットは、石油留分を水素処理することによって得られる、炭素数7〜20の炭化水素の混合物である。このミネラルスピリットには、ペトロリウムスピリット、ホワイトスピリットおよびミネラルターペンなども含まれるものとする。これらはいずれも、鱗片状アルミニウム顔料の製造において、粉砕媒液として用いられる。
【0042】
炭素数12〜20の飽和脂肪酸として、例えば、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸などが挙げられる。
炭素数12〜20の不飽和脂肪酸として、例えば、パルミトレイン酸、オレイン酸などが挙げられる。
これら脂肪酸の誘導体として、例えば炭素数12〜20の飽和炭化水素基および/または炭素数12〜20の不飽和炭化水素基を有する、脂肪族アミン、脂肪族アミド、脂肪族アルコールなどが挙げられる。
これらはいずれも、鱗片状アルミニウム顔料の製造において、粉砕助剤として用いられる。
【0043】
本発明の水性塗料組成物においては、塗料組成物中に含まれる樹脂固形分に対する鱗片状アルミニウム顔料の質量割合(PWC)が1〜30%であるのが好ましく、5〜30%であるのがより好ましい。鱗片状顔料の質量割合が上記範囲であることによって、優れた光輝性を有する塗膜を形成することができる。ここで「樹脂固形分」とは、水性塗料組成物中に含まれる、塗膜形成樹脂および硬化剤の総量を意味する。鱗片状アルミニウム顔料の含有量(PWC)が1%未満である場合は、得られる塗膜の隠ぺい性が低下するおそれがある。また鱗片状アルミニウム顔料の含有量(PWC)が30%を超える場合は、含有量の増加に伴う効果が見られず、コストが高くなりすぎるおそれがある。
【0044】
リン酸基含有有機化合物
本発明の水性塗料組成物は、リン酸基含有有機化合物を含む。本発明においては、リン酸基含有有機化合物として、リン酸基価が5〜300mgKOH/gであるリン酸基含有ポリマーが含まれる。本発明の水性塗料組成物に、リン酸基含有有機化合物が含まれることによって、ミネラルスピリットなどの粉砕媒液およびオレイン酸などの粉砕助剤などが、アルミニウム顔料の表面から剥がれにくくなり、また、鱗片状アルミニウム顔料の分散性が向上し、得られる塗膜において密着性などの塗膜物性が向上することとなる。
【0045】
リン酸基含有ポリマーとしては、リン酸基価が5〜300mgKOH/gの範囲であれば特に限定されず、従来公知のものを使用することができる。リン酸基含有ポリマーの具体例として、リン酸基を有するアクリル樹脂、リン酸基を有するポリエステル樹脂、リン酸基を有するポリエーテル樹脂、リン酸基を有するエポキシ樹脂などが挙げられる。上記リン酸基を含有するポリマーの中でもアクリル樹脂を用いることが耐候性・耐水性などの性能面から好ましい。これらのリン酸基を含有するポリマーは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0046】
リン酸基含有ポリマーの特に好ましい例の1つとして、リン酸基含有アクリル樹脂が挙げられる。リン酸基含有アクリル樹脂は、例えば、リン酸基含有α,β−エチレン性不飽和モノマーを必須成分として、リン酸基含有α,β−エチレン性不飽和モノマーのみを重合するか、またはこのモノマーとリン酸基を含有しない他のα,β−エチレン性不飽和モノマーとの混合物を共重合することによって得ることができる。
【0047】
リン酸基含有α,β−エチレン性不飽和モノマーとして、例えば、2−アクリロイルオキシエチルアシッドホスフェート、リン酸2−(メタクリロイルオキシ)エチル(別名:アシッドホスホオキシエチルメタクリレート、ホスマーM、ユニケミカル(株)社製)、メタクリル酸3−クロロ−2−アシッドホスホオキシプロピル、アシッドホスホオキシポリオキシエチレングリコールモノメタクリレート(ホスマーPE、ユニケミカル(株)社製)、アシッドホスホオキシポリオキシプロピレングリコールモノメタクリレート(ホスマーPP、ユニケミカル(株)社製)、ビニルホスホン酸などが挙げられる。
【0048】
リン酸基を含有しないα,β−エチレン性不飽和モノマーとして、例えば、(メタ)アクリル酸エステル、酸基を有するα,β−エチレン性不飽和モノマーおよび水酸基を有するα,β−エチレン性不飽和モノマー、そしてこれらの基を有しない他のα,β−エチレン性不飽和モノマーが挙げられる。(メタ)アクリル酸エステルとして、上記アクリル樹脂エマルションの調製に用いることができる、(メタ)アクリル酸エステルを用いることができる。酸基を有するα,β−エチレン性不飽和モノマーとして、上記アクリル樹脂エマルションの調製に用いることができる、酸基を有するα,β−エチレン性不飽和モノマーを用いることができる。これらの基を有しない他のα,β−エチレン性不飽和モノマーとして、上記アクリル樹脂エマルションの調製に用いることができる、その他のα,β−エチレン性不飽和モノマーを用いることができる。リン酸基含有アクリル樹脂の調製においては、これらのリン酸基を含有しないα,β−エチレン性不飽和モノマーを、適宜選択して用いることができる。
【0049】
リン酸基含有アクリル樹脂の調製は、例えば、上記リン酸基含有α,β−エチレン性不飽和モノマーを必須成分として、上記リン酸基含有α,β−エチレン性不飽和モノマーのみを、もしくはリン酸基を含有しない他のα,β−エチレン性不飽和モノマーとの混合物を、通常用いられる方法で共重合することによって得ることができる。例えば、上記モノマー混合物を、必要に応じた有機溶媒の存在下で、重合開始剤を用いて重合することによって、調製することができる。重合開始剤として、アクリル樹脂エマルションの調製において用いることができる重合開始剤などを用いることができる。また、必要に応じた有機溶媒として、例えば、シクロヘキサノン、メチル−2−n−アミルケトンなどのケトン類;3−メトキシブタノール、3−メチル−3−メトキシブタノール、1−メトキシ−2−プロパノール、1−エトキシ−2−プロパノールなどのアルコール類;プロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテルなどのエーテル類;プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、乳酸エチル、ピルビン酸エチル、酢酸ブチル、3−メトキシプロピオン酸メチル、3−エトキシプロピオン酸エチル、酢酸tert−ブチル、プロピオン酸tert−ブチル、プロピレングリコールモノtert−ブチルエーテルアセテートなどのエステル類;などが挙げられる。
【0050】
上記共重合における反応温度は、例えば80〜150℃であってよく、また反応時間は例えば1〜8時間であってよい。
【0051】
リン酸基含有ポリマーは、数平均分子量が1000〜50000であるのが好ましい。なお、本明細書において数平均分子量は、ポリスチレンを標準とするGPC法において決定される値である。
【0052】
本発明において、上記リン酸基含有ポリマーは、リン酸基価が5〜300mgKOH/gであることを条件とする。リン酸基含有ポリマーのリン酸基価が5mgKOH/g未満である場合は、得られる塗膜において良好な密着性を得ることができない。一方でリン酸基価が300mgKOH/gを超える場合は、得られる塗膜の耐水性が劣ることとなる。リン酸基含有ポリマーのリン酸基価は、10〜250mgKOH/gであるのがより好ましい。
【0053】
なお本明細書において、リン酸基含有ポリマーのリン酸基価の算出は、JIS K5601 2−1の酸価の定義(製品の不揮発物1g中の遊離酸を中和するのに要する、水酸化カリウム(KOH)のmg数)に基づいて計算を行って求めた計算リン酸基価である。
【0054】
本発明において用いることができる、リン酸基含有アクリル樹脂以外のリン酸基含有ポリマーとして、例えば、ポリアルキレンオキシド基を有するリンエステル型界面活性剤である、AQ−330(楠本化成社製、リン酸基価12mgKOH/g)、AQ−320(楠本化成社製、リン酸基価14mgKOH/g)、AQ−340(楠本化成社製、リン酸基価18mgKOH/g)、ポリアルキレンオキシド基を有するリン酸エステル型湿潤分散剤である、BYK−111(ビックケミー社製、リン酸基価120mgKOH/g)、BYK−180(ビックケミー社製、リン酸基価90mgKOH/g)などが挙げられる。
【0055】
上記リン酸基含有有機化合物は、さらに、炭素数4〜30のアルキル基を有するアルキルリン酸エステルを含んでもよい。炭素数4〜30のアルキル基を有するアルキルリン酸エステルとして、モノアルキルリン酸エステル、ジアルキルリン酸エステル、そしてモノアルキルリン酸エステルとジアルキルリン酸エステルとの混合物が挙げられる。ジアルキルリン酸エステルにおいて、2つのアルキル基は同じ基であるのがより好ましい。
【0056】
炭素数4〜30のアルキル基として、例えば、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、エイコシル基、ドコシル基、テトラコシル基、ヘキサコシル基またはオクタコシル基などを挙げることができる。これらのアルキル基は、直鎖状であってもよく、分岐鎖状であってもよい。
【0057】
炭素数4〜30のアルキル基を有するアルキルリン酸エステルの具体例として、例えば、ブチルアシッドホスフェート(モノブチルエステルとジブチルエステルとの混合物)、2−エチルヘキシルアシッドホスフェート(モノ−2−エチルヘキシルエステルとジ−2−エチルヘキシルエステルとの混合物)、イソデシルアシッドホスフェート(モノイソデシルエステルとジイソデシルエステルとの混合物)、ジラウリルアシッドホスフェート、ラウリルアシッドホスフェート(モノラウリルエステルとジラウリルエステルとの混合物)、トリデシルアシッドホスフェート(モノトリデシルエステルとジトリデシルエステルとの混合物)、モノステアリルアシッドホスフェート、ジステアリルアシッドホスフェート、ステアリルアシッドホスフェート(モノステアリルエステルとジステアリルエステルとの混合物)、イソステアリルアシッドホスフェート(モノイソステアリルエステルとジイソステアリルエステルとの混合物)、オレイルアシッドホスフェート(モノオレイルエステルとジオレイルエステルとの混合物)、ベヘニルアシッドホスフェート(モノベヘニルエステルとジベヘニルエステルとの混合物)などを挙げることができる。
【0058】
リン酸基含有有機化合物に、炭素数4〜30のアルキル基を有するアルキルリン酸エステルがさらに含まれることによって、鱗片状アルミニウム顔料のより良好な分散性を得ることができる利点がある。
【0059】
上記リン酸基含有有機化合物の量は、塗料組成物中に含まれる鱗片状アルミニウム顔料に対して0.1〜50質量%であるのが好ましく、5〜35質量%であるのがより好ましい。また、リン酸基含有ポリマーの量は、塗料組成物中に含まれる鱗片状アルミニウム顔料に対して0.1〜45質量%であるのが好ましく、5〜30質量%であるのがより好ましい。リン酸基含有有機化合物そしてリン酸基含有ポリマーの量が上記範囲内であることによって、鱗片状アルミニウム顔料の分散性が向上し、得られる塗膜において優れたFF性および密着性を確保することができるといった利点がある。
【0060】
なおFF性とは、フリップフロップ性を意味する。本明細書における「フリップフロップ性が強い」とは、鱗片状アルミニウム顔料を含む水性塗料組成物によって得られるメタリック塗膜を評価した場合において、正面方向(塗面に対して直角の方向)からは白く、かつキラキラとして光輝感に優れており、一方、斜め方向からでは光輝感は少なく色相がはっきりと見え、両者の明度差が大きいことを意味している。つまり、見る角度によってメタリック感が顕著に変化するメタリック塗膜を、意匠性が優れた塗膜とし、「フリップフロップ性が強い」と称する。
【0061】
ガス抑制無機化合物
本発明の水性塗料組成物は、ガス抑制無機化合物を含む。本発明の水性塗料組成物にガス抑制無機化合物が含まれることによって、アルミニウム以外の金属からなる金属被膜または有機高分子被膜を設けて被覆するといった、アルミニウム顔料の安定化処理が行われていない鱗片状アルミニウム顔料が水性塗料組成物中に含まれているにも関わらず、優れたガス発生抑制効果が達成される。ここで、ガス抑制無機化合物として、水溶性ガス抑制無機化合物、そして、水不溶性または難溶性ガス抑制無機化合物が挙げられる。本発明においては、これらのガス抑制無機化合物を1種のみ含んでもよく、またはこれらを併用してもよい。
【0062】
本明細書において、水溶性ガス抑制無機化合物とは、20℃の水に対する溶解度が10g/L以上である無機化合物を意味する。このような水溶性ガス抑制無機化合物として、例えば、Ce、W、MoおよびSeからなる群から選択される金属を含む無機金属化合物が挙げられる。これらの水溶性無機化合物の具体例として、例えば、モリブデン酸アンモニウム(可溶)、モリブデン酸ナトリウム(可溶)、モリブデン酸カリウム(可溶)、硝酸セリウム(可溶)、塩化セリウム(可溶)、タングステン酸ナトリウム(可溶)、タングステン酸カリウム(可溶)、亜セレン酸カリウム(可溶)、セレン化リチウム(可溶)、セレン酸アンモニウム(可溶)、セレン酸カリウム(可溶)、セレン化セリウム(可溶)、セレン酸ナトリウム(可溶)、セレン酸マグネシウム(可溶)などが挙げられる。
【0063】
これらの水溶性無機化合物のうち、例えば、セレン酸カリウム、塩化セリウム、モリブデン酸カリウム、タングステン酸ナトリウム、セレン酸アンモニウム、セレン化セリウムなどがより好ましく用いられる。
【0064】
本明細書において、水不溶性または難溶性ガス抑制無機化合物とは、20℃の水に対する溶解度が10g/L未満である無機化合物を意味する。このような水不溶性または難溶性ガス抑制無機化合物として、例えば、Zn、Ca、Mg、Al、BiおよびBaからなる群から選択される金属の、リン酸塩、亜リン酸塩、縮合リン酸塩または金属酸化物を1種またはそれ以上含む、水不溶性または難溶性ガス抑制無機化合物が挙げられる。
【0065】
これらの水不溶性または難溶性ガス抑制無機化合物の具体例として、例えば、リン酸亜鉛(不溶)、亜リン酸亜鉛(難溶)、亜リン酸カルシウム(難溶)、亜リン酸マグネシウム(難溶)、リン酸マグネシウム(難溶)、リン酸水素マグネシウム(難溶)、亜リン酸アルミニウム(不溶)、リン酸アルミニウム(不溶)、モリブデン酸亜鉛(不溶)、モリブデン酸カルシウム(難溶)、酸化亜鉛(難溶)、酸化マグネシウム(難溶)、硫酸バリウム(難溶)、メタホウ酸バリウム(不溶)、水酸化ビスマス(不溶)、酸化ビスマス(不溶)、塩化酸化ビスマス(不溶)などが挙げられる。
【0066】
これらの水不溶性または難溶性ガス抑制無機化合物のうち、例えば、酸化亜鉛、リン酸マグネシウム、リン酸亜鉛、リン酸水素マグネシウムなどが、より好ましく用いられる。
【0067】
本明細書において、上記ガス抑制無機化合物における、可溶、難溶および不溶の判断は、以下の手順で行う。
200mlビーカー2つに対しそれぞれ水100gと、ガス抑制無機化合物1g、1mgを入れ、スターラーで1時間20℃にて撹拌し、溶けたかどうか目視で確認する。その結果より、
可溶:20℃における溶解度が10g/L以上
難溶:20℃における溶解度が10mg/以上10g/L未満
不溶:20℃における溶解度が10mg/L未満
とする。
【0068】
本発明の水性塗料組成物において含まれる上記ガス抑制無機化合物の含有量は、鱗片状アルミニウム顔料に対して0.01〜20質量%(水性塗料組成物に含まれる鱗片状アルミニウム100質量部に対して0.01〜20質量部)である。ここで、水不溶性または難溶性ガス抑制無機化合物の総含有量は10質量%を超えないことを条件とする。なお本明細書において「水不溶性または難溶性ガス抑制無機化合物の総含有量」とは、水性塗料組成物中に含まれる、水不溶性ガス抑制無機化合物(上記判断において「不溶」と判断されるガス抑制無機化合物)および難溶性ガス抑制無機化合物(上記判断において「難溶」と判断されるガス抑制無機化合物)の総量を意味する。ガス抑制無機化合物の含有量が0.01質量%未満である場合は、十分なガス発生抑制効果を得ることができない。一方で、水溶性ガス抑制無機化合物の含有量が20質量%を超える場合は、得られる塗膜の耐水性が低下する。なお、水不溶性または難溶性ガス抑制無機化合物の総含有量が10質量%を超える場合は、得られる塗膜において、鱗片状アルミニウム顔料の配向が乱れてしまい、FF性が低下する。
【0069】
その他の顔料など
本発明の水性塗料組成物は、上記鱗片状アルミニウム顔料に加えてその他の顔料を含んでもよい。その他の顔料として、着色顔料および体質顔料が挙げられる。着色顔料として、例えば、例えば、有機系のアゾキレート系顔料、不溶性アゾ系顔料、縮合アゾ系顔料、ジケトピロロピロール系顔料、ベンズイミダゾロン系顔料、フタロシアニン系顔料、インジゴ顔料、ペリノン系顔料、ペリレン系顔料、ジオキサン系顔料、キナクリドン系顔料、イソインドリノン系顔料、金属錯体顔料などが挙げられ、無機系では、黄色酸化鉄、ニッケルチタンイエロー、ベンガラ、カーボンブラック、二酸化チタンなどが挙げられる。体質顔料としては、例えば、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、クレー、タルクなどが挙げられる。
【0070】
本発明の水性塗料組成物は、上記鱗片状アルミニウム顔料以外の鱗片状顔料を含んでもよい。このような鱗片状顔料として、例えば、平均粒径(D50)が2〜50μmであり、かつ厚さが0.1〜5μmであるものが好ましい。また、平均粒径が5〜35μmの範囲のものが光輝感に優れ、さらに好適に用いられる。鱗片状顔料の具体例として、例えば、銅、亜鉛、鉄、ニッケル、スズ、酸化アルミニウムなどの金属または合金などの金属製鱗片状顔料およびその混合物が挙げられる。この他に干渉マイカ顔料、ホワイトマイカ顔料、グラファイト顔料などもこの中に含めるものとする。これらの鱗片状顔料は、必要に応じた着色がなされていてもよい。
【0071】
本発明の水性塗料組成物中の全顔料濃度(PWC)は、質量割合で、5〜50%であることが好ましい。全顔料濃度(PWC)は5〜40%であるのがより好ましく、5〜35%であるのがさらに好ましい。全顔料濃度(PWC)が50%を超えると塗膜外観が低下するおそれがある。
【0072】
他の成分
本発明の水性塗料組成物は、上記成分に加えて、当業者において通常用いられる添加剤、例えば、表面調整剤、粘性制御剤、増粘剤、酸化防止剤、紫外線防止剤、消泡剤などを含んでもよい。例えば粘性制御剤を用いることによって、チクソトロピー性を付与することができ、塗装作業性を調整することができる。粘性制御剤として、例えば、架橋あるいは非架橋の樹脂粒子、脂肪酸アマイドの膨潤分散体、アマイド系脂肪酸、長鎖ポリアミノアマイドのリン酸塩などのポリアマイド系のもの、酸化ポリエチレンのコロイド状膨潤分散体などのポリエチレン系などのもの、有機酸スメクタイト粘土、モンモリロナイトなどの有機ベントナイト系のものなどを挙げることができる。これらの添加剤を用いる場合は、当業者において通常用いられる量で用いることができる。
【0073】
本発明の水性塗料組成物は、必要に応じて、両親媒性化合物を含んでもよい。両親媒性化合物として、例えば、
疎水部(A)を繰り返し単位として少なくとも1つと、親水部(B)を繰り返し単位として少なくとも1つと、を有する、化合物であって、ここで、
上記疎水部(A)は、プロピレンオキシド基、ブチレンオキシド基、直鎖状または分枝状の炭素数4〜40の飽和炭化水素基、直鎖状または分枝状の炭素数4〜40の不飽和炭化水素基、芳香族環を有する炭素数6〜40の芳香族環含有基および疎水性ポリマーセグメントからなる群から選択される基を少なくとも1つ有し、
上記親水部(B)は、エチレンオキシド基および酸基からなる群から選択される基を少なくとも1つ有する、数平均分子量が1500〜100000である化合物が挙げられる。
本発明の水性塗料組成物において、このような両親媒性化合物が含まれることによって、水性塗料組成物が例えば樹脂固形分濃度が高い塗料組成物である場合であっても、良好なFF性が達成されるという利点がある。このような水性塗料組成物においては、必要に応じて、さらに、陰イオン界面活性剤を含んでもよい。
【0074】
水性塗料組成物および水性塗料組成物の製造方法
本発明の水性塗料組成物の製造は、上記塗膜形成樹脂、硬化剤、鱗片状アルミニウム顔料、リン酸基含有有機化合物、ガス抑制無機化合物、そして必要に応じた添加剤などを、ディスパー、ホモジナイザー、ニーダーなどを用いて混練・分散するなどの当業者において通常用いられる方法で製造することができる。そして本発明の水性塗料組成物の製造方法として、例えば、鱗片状アルミニウム顔料およびリン酸基含有有機化合物を含むアルミニウムペーストを予め調製し、そしてこのアルミニウムペースト、塗膜形成樹脂、硬化剤、および、ガス抑制無機化合物、を混合する製造方法が挙げられる。
【0075】
上記アルミニウムペーストの調製は、当業者において通常用いられる撹拌手法を用いて調製することができる。また、アルミニウムペーストの調製において用いられるリン酸基含有有機化合物は、上記リン酸基含有ポリマーのみを含んでもよく、また、上記リン酸基含有ポリマーおよび上記アルキルリン酸エステルを含んでもよい。
【0076】
なお本発明の製造方法においては、鱗片状アルミニウム顔料およびガス抑制無機化合物を含むアルミニウムペーストを予め調製する製造方法、および、鱗片状アルミニウム顔料、リン酸基含有有機化合物およびガス抑制無機化合物を含むアルミニウムペーストを予め調製する製造方法は、いずれも含まれない。すなわち本発明においては、水性塗料組成物の製造において、鱗片状アルミニウム顔料およびガス抑制無機化合物を予め混合してアルミニウムペーストを調製する態様は含まれない。ガス抑制無機化合物は、鱗片状アルミニウム顔料の表面に対して配向し、この配向によって優れたガス発生抑制効果が達成されていると考えられる。一方で、このようなガス抑制無機化合物と鱗片状アルミニウム顔料とを予め混合してアルミニウムペーストを調製する場合は、ガス抑制無機化合物が鱗片状アルミニウム顔料に強く配向しすぎてしまい、鱗片状アルミニウム顔料の製造において顔料を被覆する、ミネラルスピリットなどの粉砕媒液およびオレイン酸などの粉砕助剤などをも、アルミニウム顔料の表面から剥がしてしまう傾向がある。そしてこれらの粉砕媒液そして粉砕助剤が顔料表面から剥がれることによって、アルミニウムペーストにおいて予期しない着色が生じたり、光輝性が損なわれたりすることがある。なお、アルミニウム以外の金属からなる金属被膜を有するアルミニウム顔料とガス抑制無機化合物とを予め混合してアルミニウムペーストを調製する場合、そして、有機高分子被膜を有するアルミニウム顔料とガス抑制無機化合物とを予め混合してアルミニウムペーストを調製する場合のいずれにおいても、ガス抑制無機化合物が、これらの被膜をアルミニウム顔料の表面から剥がしてしまう傾向がある。
【0077】
これに対して本発明の製造方法においては、ガス抑制無機化合物と鱗片状アルミニウム顔料とを予め混合することなく、水性塗料組成物を製造することを特徴とする。そしてこのような製造方法によって、ガス抑制無機化合物は、水性塗料組成物中において、鱗片状アルミニウム顔料に対して穏やかに作用することとなる。そのため、予期しない着色などの不具合を伴うことなく、鱗片状アルミニウム顔料においてガスの発生を良好に抑制し、良好な光輝性を有する塗膜を得るとこが可能となった。
【0078】
本発明の水性塗料組成物は、塗料組成物中に含まれる樹脂固形分濃度が10〜40質量%であるのが好ましい。ここで「樹脂固形分濃度」は、水性塗料組成物中に含まれる、塗膜形成樹脂および硬化剤の総量の濃度(質量%)を意味する。水性塗料組成物の樹脂固形分濃度は、水性塗料組成物の調製に用いる各成分の量から算出することができる。
【0079】
本発明の水性塗料組成物は、鱗片状アルミニウム顔料をあらかじめリン酸基含有有機化合物で分散したうえでガス抑制無機化合物を含むことによって、ミネラルスピリットなどの粉砕媒液およびオレイン酸などの粉砕助剤などが、アルミニウム顔料の表面から剥がれにくくなり、鱗片状アルミニウム顔料を含む水性塗料組成物であっても、塗膜のFF性および密着性を保ったままガスの発生が良好に抑制されているという特徴がある。そのため、本発明の水性塗料組成物は、一般的な水性塗料組成物と比較して固形分濃度が高い、高固形分塗料組成物(固形分濃度が25%以上)であってもよい。高固形分塗料組成物においては、含まれる鱗片状アルミニウム顔料の含有量が、一般的な水性塗料組成物と比較して多くなる傾向がある。そのため、高固形分塗料組成物においては、ガスが発生する可能性が、一般的な水性塗料組成物と比較してより高いということができる。これに対して、本発明の水性塗料組成物は、例えば高固形分塗料組成物であっても、ガスの発生が良好に抑制される利点がある。
【0080】
塗膜形成方法
本発明の水性塗料組成物は、例えば水性ベース塗料組成物として用いることができる。水性ベース塗料組成物として用いる場合における塗装方法として、例えば、
被塗装物上に水性ベース塗料組成物を塗装して、未硬化のベース塗膜を形成する工程、
得られた未硬化のベース塗膜上に、クリアー塗料組成物を塗装して、未硬化のクリアー塗膜を形成する工程、および
得られた未硬化のベース塗膜およびクリアー塗膜を同時に加熱して硬化させる工程、
を包含する方法が挙げられる。
【0081】
被塗物
上記塗装において用いることができる被塗物は、特に限定されず、例えば、金属基材、プラスチック基材およびその発泡体などが挙げられる。
【0082】
金属基材として、例えば、鉄、鋼、銅、アルミニウム、スズ、亜鉛などの金属およびこれらの金属を含む合金などが挙げられる。金属基材として具体的には、乗用車、トラック、オートバイ、バスなどの自動車車体および自動車車体用の部品などが挙げられる。このような金属基材は、予め電着塗膜が形成されているのがより好ましい。また電着塗膜形成前に、必要に応じた化成処理(例えばリン酸亜鉛化成処理、ジルコニウム化成処理など)が行われていてもよい。
【0083】
プラスチック基材として、例えば、ポリプロピレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリスチレン樹脂、ABS樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリアミド樹脂などが挙げられる。プラスチック基材として具体的には、スポイラー、バンパー、ミラーカバー、グリル、ドアノブなどの自動車部品などが挙げられる。これらのプラスチック基材は、純水および/または中性洗剤で洗浄されたものが好ましい。また、静電塗装を可能にするためのプライマー塗装が施されていてもよい。
【0084】
上記被塗装物には、さらに、必要応じた中塗り塗膜が形成されていてもよい。中塗り塗膜の形成には中塗り塗料組成物が用いられる。中塗り塗料組成物は一般に、塗膜形成樹脂、硬化剤、各種顔料(例えば着色顔料、体質顔料など)が含まれる。塗膜形成樹脂および硬化剤は、特に限定されるものではなく、例えば、本発明の水性塗料組成物において用いることができる塗膜形成樹脂および硬化剤を用いることができる。
【0085】
なお、本発明の水性塗料組成物を、いわゆる中塗り塗料組成物として用いることもできる。本発明の水性塗料組成物を中塗り塗料組成物として用いる場合において、ベース塗料組成物として用いる水性塗料組成物とこの中塗り塗料組成物は、同じ塗料組成物であってもよく、異なる塗料組成物であってもよい。
【0086】
まず、上記水性塗料組成物を、被塗装物上に塗装することによって、未硬化のベース塗膜を形成する。被塗物は、未硬化の中塗り塗膜を有していてもよい。
水性塗料組成物の塗装において通常用いられる塗装方法として、エアー静電スプレー塗装による多ステージ塗装または1ステージ塗装、あるいは、エアー静電スプレー塗装と、メタリックベルと言われる回転霧化式の静電塗装機とを組み合わせた塗装方法などの、自動車車体の塗装分野において一般的に用いられる方法が挙げられる。これらの塗装方法は、得られる塗膜の塗膜外観が良好であるという利点がある。形成されるベース塗膜の膜厚は、乾燥膜厚として例えば3〜50μmであるのが好ましく、5〜30μmであるのがより好ましい。
【0087】
水性ベース塗料組成物を塗装して得られた未硬化のベース塗膜上に、クリアー塗料組成物を塗装して、未硬化のクリアー塗膜を形成してもよい。水性ベース塗料を塗装して得られるベース塗膜を焼き付けた後、その上にクリアー塗料組成物を塗装してもよいが、未硬化のベース塗膜の上に更にクリアー塗料組成物を塗装し、クリアー塗膜を形成することによって、ベース塗膜の焼き付け乾燥工程を省略することができ、経済性および環境面からも好ましい。なお、良好な仕上がり塗膜を得るために、クリアー塗料組成物を塗装する前に、未硬化のベース塗膜を40〜100℃で2〜10分間加熱しておくことがより好ましい。
【0088】
用いられるクリアー塗料組成物としては、特に限定されず、塗膜形成樹脂および必要に応じた硬化剤などを含有するクリアー塗料組成物を用いることができる。更に下地の意匠性を妨げない程度であれば着色成分を含有することもできる。このクリアー塗料組成物の形態としては、溶剤型、水性型および粉体型のものを挙げることができる。
【0089】
溶剤型クリアー塗料組成物の好ましい例として、透明性あるいは耐酸エッチング性などの点から、アクリル樹脂および/またはポリエステル樹脂と、アミノ樹脂および/またはイソシアネートとの組み合わせ、あるいはカルボン酸/エポキシ硬化系を有するアクリル樹脂および/またはポリエステル樹脂などが挙げられる。
【0090】
水性型クリアー塗料組成物の例として、上記溶剤型クリアー塗料組成物の例として挙げたものに含有される塗膜形成樹脂を、塩基で中和して水性化した樹脂を含むものが挙げられる。この中和は重合の前または後に、ジメチルエタノールアミンおよびトリエチルアミンのような3級アミンを添加することにより行うことができる。
【0091】
粉体型クリアー塗料組成物として、熱可塑性および熱硬化性粉体塗料のような通常用いられる粉体塗料を用いることができる。良好な物性の塗膜が得られるため、熱硬化性粉体塗料が好ましい。熱硬化性粉体塗料の具体的なものとしては、エポキシ系、アクリル系およびポリエステル系の粉体クリアー塗料組成物などが挙げられるが、耐候性が良好なアクリル系粉体クリアー塗料組成物が特に好ましい。
【0092】
クリアー塗料組成物は、粘性制御剤を含んでもよい。粘性制御剤として、例えば、上述の水性塗料組成物についての記載で挙げたものを用いることができる。クリアー塗料組成物はさらに、必要に応じた硬化触媒、表面調整剤などを含むことができる。
【0093】
クリアー塗料組成物の塗装は、塗料組成物の形態に応じた、通常用いられる方法によって塗装することができる。上記ベース塗膜に対して、クリアー塗料組成物を塗装する方法の具体例として、例えば、マイクロベルと呼ばれる回転霧化式の静電塗装機による塗装方法を挙げることができる。
【0094】
上記クリアー塗料組成物を塗装することによって形成されるクリアー塗膜の乾燥膜厚は、一般に10〜80μm程度が好ましく、20〜60μm程度であることがより好ましい。上記乾燥膜厚が10μm未満である場合、下地の凹凸を隠蔽することができず、80μmを超えると塗装時にワキあるいはタレなどの不具合が起こるおそれがある。
【0095】
このようにして形成されたクリアー塗膜は、先に述べたように未硬化のベース塗膜とともに焼き付ける、いわゆる2コート1ベークによって塗膜形成を行うことが好ましい。上記焼き付け温度は、架橋密度および得られる複層塗膜の物性の観点から、80〜180℃に設定されていることが好ましく、120〜160℃に設定されていることが更に好ましい。焼き付け時間は焼き付け温度に応じて任意に設定することができるが、焼き付け温度120℃〜160℃で焼き付け時間10〜40分であることが適当である。
【0096】
こうして形成される複層塗膜の膜厚は、一般的には20〜300μmであり、30〜250μmであることが好ましい。上記膜厚が20μm未満である場合は、膜自体の強度が低下するおそれがある。一方で膜厚が300μmを超える場合は、冷熱サイクルなどの膜物性が低下するおそれがある。
【実施例】
【0097】
以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。実施例中、「部」および「%」は、ことわりのない限り、質量基準による。
【0098】
製造例1:アクリル樹脂エマルション(塗膜形成樹脂)の製造
反応容器に脱イオン水330gを加え、窒素気流中で混合攪拌しながら80℃に昇温した。ついで、アクリル酸11.25部、アクリル酸n−ブチル139部、メタクリル酸メチル75部、メタクリル酸n−ブチル187部、メタクリル酸2−エチルヘキシル75部、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル150部、スチレン112部、チオカルコール20(n−ドデシルメルカプタン、花王社製、有効成分100%)11.2部、およびラテムルPD−104(乳化剤、花王社製、有効成分20%)74.3部、および脱イオン水300部からなるモノマー乳化物のうち3%分と、過硫酸アンモニウム2.63部、および脱イオン水90部からなる開始剤溶液の30%分とを15分間にわたり並行して反応容器に滴下した。滴下終了後、同温度で15分間熟成を行った。
さらに、残りのモノマー乳化物と開始剤溶液とを180分間にわたり並行して反応容器に滴下した。滴下終了後、1時間同温度で熟成を行った。
次いで、40℃まで冷却し、200メッシュフィルターで濾過し、平均粒子径200nm、不揮発分49%、固形分酸価15mgKOH/g、水酸基価85mgKOH/gのアクリル樹脂エマルションを得た。
【0099】
製造例2:リン酸基を含有するポリマーの製造(リン酸基価55mgKOH/g)
攪拌機、温度調整器、冷却管を備えた1リットルの反応容器にエトキシプロパノール40部を仕込み、これにスチレン4部、n−ブチルアクリレート35.96部、エチルヘキシルメタアクリレート18.45部、2−ヒドロキシエチルメタクリレート13.92部、メタクリル酸7.67部、エトキシプロパノール20部に、ホスマーPP(ユニケミカル社製アシッドホスホオキシヘキサ(オキシプロピレン)モノメタクリレート)20部を溶解した溶液40部、およびアゾビスイソブチロニトリル1.7部からなるモノマー溶液121.7部を120℃で3時間滴下した後、1時間さらに攪拌を継続した。得られた樹脂は、酸価105mgKOH/g、うちリン酸基価55mgKOH/g、水酸基価60mgKOH/g、数平均分子量6000のアクリルワニスで、不揮発分が63%であった。
【0100】
本明細書実施例において、数平均分子量の測定は、GPC装置として「HLC8220GPC」(商品名、東ソー(株)製)、カラムとして「Shodex KF−606M」、「Shodex KF−603」(いずれも昭和電工(株)製、商品名)の4本を用いて、移動相:テトラヒドロフラン、測定温度:40℃、流速:0.6cc/分、検出器:RIの条件で行なった。
また、本明細書実施例において、リン酸基含有ポリマーの酸価およびリン酸基価の算出は、JIS K5601 2−1の酸価の定義(試料(不揮発物)1g中の遊離酸を中和するのに要する、水酸化カリウム(KOH)のmg数)に基づいて計算を行って求めた。また水酸基価の算出は、JIS K0070の水酸基価の定義(試料1gをアセチル化させたとき、水酸基と結合した酢酸を中和するのに必要とする水酸化カリウムのmg数)に基づいて計算を行って求めた。
【0101】
製造例3:リン酸基を含有するポリマーの製造(リン酸基価10mgKOH/g)
攪拌機、温度調整器、冷却管を備えた1リットルの反応容器にエトキシプロパノール40部を仕込み、これにスチレン4部、n−ブチルアクリレート45.96部、エチルヘキシルメタアクリレート18.45部、2−ヒドロキシエチルメタクリレート20.32部、メタクリル酸7.67部、エトキシプロパノール20部に、ホスマーPP(ユニケミカル社製アシッドホスホオキシヘキサ(オキシプロピレン)モノメタクリレート)3.64部を溶解した溶液23.64部、およびアゾビスイソブチロニトリル1.7部からなるモノマー溶液121.7部を120℃で3時間滴下した後、1時間さらに攪拌を継続した。得られた樹脂は、酸価60mgKOH/g、うちリン酸基価10mgKOH/g、水酸基価88mgKOH/g、数平均分子量6000のアクリルワニスで、不揮発分が63%であった。
【0102】
製造例4:リン酸基を含有するポリマーの製造(リン酸基価250mgKOH/g)
攪拌機、温度調整器、冷却管を備えた1リットルの反応容器にエトキシプロパノール40部を仕込み、これにスチレン4部、n−ブチルアクリレート25.24部、エチルヘキシルアクリレート18.45部、2−ヒドロキシエチルメタクリレート8.92部、エトキシプロパノール20部に、ホスマーM(ユニケミカル社製アシッドホスホオキシエチルメタクリレート)43.39部を混合した溶液63.39部、およびアゾビスイソブチロニトリル1.7部からなるモノマー溶液121.7部を120℃で3時間滴下した後、1時間さらに攪拌を継続した。得られた樹脂は、酸価250mgKOH/g、うちリン酸基価250mgKOH/g、水酸基価39mgKOH/g、数平均分子量6000のアクリルワニスで、不揮発分が63%であった。
【0103】
製造例5:オイルスラリーの製造
アルミニウム顔料としてアルミペーストMH−8801(アルミニウム製扁平顔料、旭化成ケミカルズ社製、アルミニウム含有率65%) 22部、製造例2のリン酸基含有アクリル樹脂 5部、ラウリルアシッドホスフェート0.4部、ブチルセロソルブ50部を撹拌し、オイルスラリーを得た。
【0104】
比較製造例1:リン酸基を含有するポリマー(リン酸基価2mgKOH/g)
攪拌機、温度調整器、冷却管を備えた1リットルの反応容器にエトキシプロパノール40部を仕込み、これにスチレン6.91部、n−ブチルアクリレート45.96部、エチルヘキシルメタアクリレート18.45部、2−ヒドロキシエチルメタクリレート20.32部、メタクリル酸7.67部、エトキシプロパノール20部に、ホスマーPP(ユニケミカル社製アシッドホスホオキシヘキサ(オキシプロピレン)モノメタクリレート)0.73部を溶解した溶液20.73部、およびアゾビスイソブチロニトリル1.7部からなるモノマー溶液121.7部を120℃で3時間滴下した後、1時間さらに攪拌を継続した。得られた樹脂は、酸価52mgKOH/g、うちリン酸基価2mgKOH/g、水酸基価88mgKOH/g、数平均分子量6000のアクリルワニスで、不揮発分が63%であった。
【0105】
比較製造例2:ガス抑制無機化合物を含んだオイルスラリーの製造
製造例5のオイルスラリーに、アルミペースト中の含有アルミ量に対して1.5質量%の塩化セリウムを加えて撹拌し、ガス抑制無機化合物を含んだオイルスラリーを得た。
【0106】
比較製造例3:モリブデン酸処理アルミニウムを用いたオイルスラリーの製造
アルミペーストMH−8801 22部、ブチルセロソルブ 50部、モリブデン酸アンモニウム アルミペースト中の含有アルミ量に対して0.55部、製造例2のリン酸含有アクリル樹脂 5部、ラウリルアシッドホスフェート0.4部を撹拌し、アルミ表面がモリブデン酸処理されたオイルスラリーを得た。なお、このオイルスラリーは濾過等の精製は行わずに用いた。
【0107】
実施例1
水性塗料組成物の製造
製造例1のアクリル樹脂エマルション 130部、ジメチルアミノエタノール1.8部、サイメル327(混合アルキル化型メラミン樹脂、三井サイテック社製、固形分90%)を40部、製造例5のオイルスラリー 77.4部、ノイゲンEA−207D(両親媒性化合物、第一工業製薬社製、数平均分子量4200、固形分55%) 5.5部(固形分換算で3部)、ガス抑制無機化合物として酸化亜鉛 1.5質量%(アルミペースト中の含有アルミ量に対して)を均一分散し、脱イオン水で希釈して、塗料温度20℃、60rpmにおけるB型粘度計の測定値が806mPa・s、樹脂固形分濃度33質量%である水性塗料組成物を得た。
【0108】
なお水性塗料組成物の塗装粘度の測定は、東機産業社製形式TVB10のB型粘度計(単一円筒型回転式粘度計)を用いて、60rpm、塗料温度20℃で測定を行った。
また表中に記載した水性塗料組成物の樹脂固形分濃度は、水性塗料組成物の製造に用いた各成分および希釈に用いた脱イオン水の量より算出して求めた。
表中に記載した水性塗料組成物の塗料の固形分濃度もまた、水性塗料組成物の製造に用いた各成分および希釈に用いた脱イオン水の量より算出して求めた。
【0109】
実施例2
酸化亜鉛の量をアルミペースト中の含有アルミ量に対して0.4質量%に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、水性塗料組成物を調製した。
【0110】
実施例3
酸化亜鉛の量をアルミペースト中の含有アルミ量に対して8質量%に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、水性塗料組成物を調製した。
【0111】
実施例4
ガス抑制無機化合物としてリン酸マグネシウムを用いたところ以外は、実施例1と同様にして、水性塗料組成物を調製した。
【0112】
実施例5
ガス抑制無機化合物としてLFボウセイD−1(キクチカラー社製、リン酸亜鉛(Zn
3(PO
4)
2・nH
2O)82質量%含む)を用いたところ以外は、実施例1と同様にして、水性塗料組成物を調製した。
【0113】
実施例6
ガス抑制無機化合物としてLFボウセイPX−40(キクチカラー社製、リン酸水素マグネシウム(MgHPO
4・3H
2O)100質量%含む)を用いたところ以外は、実施例1と同様にして、水性塗料組成物を調製した。
【0114】
実施例7
ガス抑制無機化合物としてセレン酸カリウムを用いたところ以外は、実施例1と同様にして、水性塗料組成物を調製した。
【0115】
実施例8
ガス抑制無機化合物として塩化セリウムを用いたところ以外は、実施例1と同様にして、水性塗料組成物を調製した。
【0116】
実施例9
製造例3のリン酸基を含有するポリマーを用いたところ以外は、実施例1と同様にして、水性塗料組成物を調製した。
【0117】
実施例10
製造例4のリン酸基を含有するポリマーを用いたところ以外は、実施例1と同様にして、水性塗料組成物を調製した。
【0118】
実施例11
リン酸基を含有するポリマーのかわりに、AQ−330(リン酸エステル系界面活性剤、楠本化成社製、有効成分100%、リン酸基価12mgKOH/g)を3.15部用いたところ以外は、実施例1と同様にして、水性塗料組成物を調製した。
【0119】
実施例12
ラウリルアシッドホスフェートを用いないこと以外は、実施例1と同様にして、水性塗料組成物を調製した。
【0120】
実施例13
ガス抑制無機化合物として酸化亜鉛とセレン酸カリウムをそれぞれアルミペースト中の含有アルミ量に対して0.75質量%ずつ用いたところ以外は、実施例1と同様にして、水性塗料組成物を調製した。
【0121】
実施例14
SN シックナー N−1(サンノプコ社製、粘弾性調整剤、有効成分25%)を樹脂固形分に対して8質量%加えたこと以外は実施例1と同様にして、水性塗料組成物を調製した。
【0122】
比較例1
ガス抑制無機化合物を用いないこと以外は、実施例1と同様にして、水性塗料組成物を調製した。
【0123】
比較例2
ガス抑制無機化合物を用いないこと以外は、実施例11と同様にして、水性塗料組成物を調製した。
【0124】
比較例3
リン酸基を含有するポリマーとラウリルアシッドホスフェートを用いないこと以外は、実施例1と同様にして、水性塗料組成物を調製した。
【0125】
比較例4
ガス抑制無機化合物としてリン酸マグネシウムを用いたところ以外は、比較例3と同様にして、水性塗料組成物を調製した。
【0126】
比較例5
酸化亜鉛の量をアルミペースト中の含有アルミ量に対して13質量%に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、水性塗料組成物を調製した。
【0127】
比較例6
比較製造例1のリン酸基を含有するポリマーを用いたところ以外は、実施例1と同様にして、水性塗料組成物を調製した。
【0128】
比較例7
比較製造例2のオイルスラリーを用いたところ以外は、実施例8と同様にして、水性塗料組成物を調製した。
【0129】
比較例8
比較製造例3のオイルスラリーを用いたところ以外は、実施例8と同様にして、水性塗料組成物を調製した。
【0130】
比較例9
ガス抑制無機化合物として五酸化バナジウムを用いたところ以外は、実施例1と同様にして、水性塗料組成物を調製した。
【0131】
上記実施例および比較例において用いたガス抑制無機化合物の、可溶、難溶および不溶の判断は、以下の手順で行った。
200mlビーカー2つに対しそれぞれ水100gと、ガス抑制無機化合物1g、1mgを入れ、スターラーで1時間20℃にて撹拌し、溶けたかどうか目視で確認した。その結果より、
可溶:20℃における溶解度が10g/L以上
難溶:20℃における溶解度が10mg/L以上10g/L未満
不溶:20℃における溶解度が10mg/L未満
とした。
【0132】
上記実施例および比較例によって得られた水性塗料組成物に対して、下記評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0133】
ガス発生量評価
上記実施例および比較例で得られた水性塗料組成物について、下記の要領にて促進試験を行い、ガス発生量を測定した。
(1)この評価実験においては、各実施例および比較例における、脱イオン水で希釈した水性塗料組成物として、脱イオン水希釈直後の塗料組成物(脱イオン水で希釈した後3時間以内である塗料組成物)を用いた。
(2)穴を開けたコルクに、長さ24cm、内径0.4cmのチューブをつないだ。このとき、コルクの穴とチューブとの間から、空気が抜けないように、しっかりとシールした。
(3)体積が18cm
3の試験管内に、塗料組成物を、試験管内の空隙が約5mmとなるように満たし、(2)で作成したチューブ付きコルクを試験管に取り付けた。
(4)試験管から塗料組成物の一部がチューブ内へ移動してきたことを確認し、その液面の位置が分かるように、チューブに印をつけ、この位置をd
0とした。
(5)得られた試験管を、試験管立てを用いて逆さまに固定した。
(6)試験管立てで固定した試験管を、50℃に設定したインキュベーター内に72時間保持した。
(7)保持後、室温で1時間放置し、チューブ内の塗料組成物の位置を確認し、その液面の位置が分かるように、チューブに印をつけ、この位置をd
fとした。
(8)塗料組成物の単位重量あたりのガス発生量(ΔV)を、下記式によって算出した。
【数1】
(9)上記式によって算出したガス発生量について、下記基準に基づき評価した。
◎:50ml/kg未満
○:50〜80ml/kg
△:80〜100ml/kg
×:100ml/kg以上
【0134】
フリップフロップ性評価(FF性)
複層塗膜形成
リン酸亜鉛処理した厚み0.8mm、縦30cm、横40cmのダル鋼板に、カチオン電着塗料「パワートップU−50」(日本ペイント社製)を、乾燥膜厚が20μmとなるように電着塗装し、160℃で30分間焼き付けた塗板に、25秒(No.4フォードカップを使用し、20℃で測定)に、予め希釈されたグレー中塗り塗料「オルガOP−30」(日本ペイント社製ポリエステル・メラミン系塗料)を、アネスト岩田製エアスプレーガンW−101−132Gを用いて乾燥膜厚35μmとなるようにエアスプレー塗装し、140℃で30分間、焼き付けた。
冷却後、実施例または比較例によって調製された水性塗料組成物を、室温23℃、湿度68%の条件下で乾燥膜厚15μmになるようにエアスプレー塗装した。4分間のセッティングを行った後、80℃で5分間のプレヒートを行った。
プレヒート後、塗装板を室温まで放冷し、クリアー塗料としてマックフロー−O−1810(日本ペイント社製溶剤型クリアー塗料)、乾燥膜厚35μmとなるようにエアスプレー塗装し、7分間セッティングした。ついで、塗装板を乾燥機で140℃で30分間焼き付けを行うことにより、複層塗膜を有する塗装試験板を得た。
【0135】
FF値の測定
レーザー式メタリック感測定装置(商品名:アルコープLMR−200、関西ペイント社製)を用いて測定されるFF値をフリップフロップ性の指標として用いた。FF値が大きいほど、フリップフロップ性が強いことを示す。フリップフロップ性の評価は下記基準に従い、1.41以上を合格とする。
○:フリップフロップ値1.51以上
△:フリップフロップ値1.41以上、1.51未満
×:フリップフロップ値1.41未満
【0136】
なお、本発明において、「フリップフロップ性が強い」とは、メタリック塗膜を目視して、正面方向(塗面に対して直角)からは白く、かつキラキラとして光輝感にすぐれており、一方、斜め方向からでは光輝感は少なく色相がはっきりと見え、両者の明度差が大きいことを意味している。つまり、見る角度によってメタリック感が顕著に変化するメタリック塗膜を「フリップフロップ性が強い」と称し、意匠性が優れている。
【0137】
密着性試験
得られた複層塗膜を用いて密着性試験を行った。複層塗膜が形成された塗装板に対して、カッターナイフ(NTカッターS型、A型、またはそれ、相当品)の切り刃を30度に保持して、素地に達するよう2mm間隔の平行線を11本引き、それらの平行線に直交する2mm間隔の平行線を11本引いて、塗膜に100個の碁盤目を形成した。この碁盤目の上に接着テープ(ニチバン社製の工業用セロハンテープ)を気泡が残らないように指先で均一に圧着させた後、接着テープの端を持ち、塗面に対して60度の角度で引っ張って、塗面からテープを剥がし、100個の碁盤目の剥がれの有無などについて、下記評価基準により目視評価した。
分類0:碁盤目カットの縁が完全に滑らかであり、はく離は確認されない。
分類1:碁盤目カットの交差点においてはく離が確認されるものの、はく離部分の面積は、塗膜全体の5%未満である。
分類2:はく離部分の面積が、塗膜全体に対して5%以上15%未満である。
分類3:はく離部分の面積が、塗膜全体に対して15%以上35%未満である。
分類4:はく離部分の面積が、塗膜全体に対して35%以上65%未満である。
分類5:はく離部分の面積が、塗膜全体に対して65%以上である。
上記評価基準において、分類0および1を○、分類2〜5を×とした。
【0138】
【表1】
【0139】
実施例の水性塗料組成物はいずれも、ガス発生量が少なく、かつ、得られた複層塗膜は高いFF性を有しており光輝感に優れており、密着性も高いことが確認された。
なお、実施例1〜13の水性塗料組成物はいずれも、塗料の固形分濃度が40%を超える、いわゆる高固形分塗料組成物である。そしてこれら実施例1〜13の水性塗料組成物はいずれも、高固形分塗料組成物であっても、高いFF性を有しており光輝感に優れており、そしてガスの発生が良好に抑制されたことが確認された。
実施例14の水性塗料組成物は、塗料の固形分濃度が23%程であって、水性ベース塗料組成物において一般的に用いられる固形分濃度を有している。この場合においても同様に、高いFF性を有しており光輝感に優れており、密着性も高いことが確認された。
比較例1、2の水性塗料組成物は、いずれも、ガス抑制無機化合物を含まない塗料組成物である。これらの塗料組成物を用いた例ではいずれも、高いFF性を有しており光輝感に優れている一方で、ガスの発生が生じた。
比較例3、4の水性塗料組成物は、いずれも、リン酸基含有有機化合物を含まない塗料組成物である。これらの塗料組成物を用いた例ではいずれも、FF性が低下し、光輝感が劣り、また、塗膜の密着性が低下した。
比較例5の水性塗料組成物は、水不溶性または難溶性ガス抑制無機化合物の総含有量が、鱗片状アルミニウム顔料に対して10質量%を超える塗料組成物である。この塗料組成物は、ガス発生抑制効果が極めて高い一方で、FF性が大きく低下し、光輝感が劣ることとなった。
比較例6の水性塗料組成物は、リン酸基含有ポリマーのリン酸基価が5mgKOH/g未満である水性塗料組成物である。この塗料組成物を用いた例では、FF性が低下し、光輝感が劣り、また、塗膜の密着性が低下した。
比較例7、8の水性塗料組成物は、鱗片状アルミニウム顔料およびガス抑制無機化合物を含むアルミニウムペーストを予め調製することによって調製した水性塗料組成物である。これらの塗料組成物を用いた例ではいずれも、FF性が低下し光輝感が劣った。さらにこれらの例では、塗膜の黄変が確認された。
比較例9の水性塗料組成物は、ガス抑制無機化合物の代わりにバナジウム化合物を用いた水性塗料組成物である。この例においても、FF性が低下し、塗膜の黄変が確認された。