特許第6431789号(P6431789)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6431789
(24)【登録日】2018年11月9日
(45)【発行日】2018年11月28日
(54)【発明の名称】中空構造体のろう付方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 1/19 20060101AFI20181119BHJP
   B23K 1/00 20060101ALI20181119BHJP
   B23K 31/02 20060101ALI20181119BHJP
   B23K 35/28 20060101ALI20181119BHJP
   B23K 35/22 20060101ALI20181119BHJP
   B23K 35/14 20060101ALI20181119BHJP
   C22C 21/00 20060101ALI20181119BHJP
   F28F 3/08 20060101ALI20181119BHJP
   F28F 3/10 20060101ALI20181119BHJP
   F28D 9/00 20060101ALI20181119BHJP
   B23K 101/14 20060101ALN20181119BHJP
   B23K 103/10 20060101ALN20181119BHJP
【FI】
   B23K1/19 E
   B23K1/00 330K
   B23K1/00 330L
   B23K1/00 S
   B23K31/02 310B
   B23K1/19 G
   B23K35/28 310B
   B23K35/22 310E
   B23K35/14 F
   C22C21/00 D
   C22C21/00 E
   F28F3/08 301A
   F28F3/10
   F28D9/00
   B23K101:14
   B23K103:10
【請求項の数】5
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2015-47337(P2015-47337)
(22)【出願日】2015年3月10日
(65)【公開番号】特開2016-165744(P2016-165744A)
(43)【公開日】2016年9月15日
【審査請求日】2017年12月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000107538
【氏名又は名称】株式会社UACJ
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】特許業務法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】柳川 裕
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 泰永
(72)【発明者】
【氏名】山吉 知樹
【審査官】 柏原 郁昭
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−185462(JP,A)
【文献】 特開平11−285817(JP,A)
【文献】 特開平11−83375(JP,A)
【文献】 特開昭62−38796(JP,A)
【文献】 特開2007−178062(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 1/19
B23K 1/00
B23K 31/02
B23K 35/14
B23K 35/22
B23K 35/28
C22C 21/00
F28D 9/00
F28F 3/08
F28F 3/10
B23K 101/14
B23K 103/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
0.2〜1.3%(質量%、以下同じ)のMgを含有し、残部がAl及び不可避不純物からなる化学成分を有する心材と、7.5〜13.0%のSi及び0.004〜0.1%のLiを含有し残部がAl及び不可避不純物からなる化学成分を有し、上記心材の一方の面にクラッド接合された第1ろう材と、6.0〜8.5%かつ上記第1ろう材よりも1.0%以上少ない量のSi及び0.004〜0.1%のLiを含有し残部がAl及び不可避不純物からなる化学成分を有し、上記心材の他方の面にクラッド接合された第2ろう材とからなる3層クラッド板材を準備し、
アルミニウム材よりなるインナーフィンを準備し、
上記3層クラッド板材から、平坦部と、該平坦部の外周端縁に設けられ、上記平坦部の厚み方向における上記第1ろう材側に延出しつつ外方に拡開した縁部とを有する皿状プレートを作製し、
複数の上記インナーフィンと複数の上記皿状プレートとを、隣り合う上記縁部同士が当接し、かつ、隣り合う上記平坦部の両方に上記インナーフィンが当接するように交互に重ね合わせて中空構造体を組み立て、
該中空構造体を不活性ガス雰囲気中で加熱してろう付を行うことを特徴とする中空構造体のろう付方法。
【請求項2】
上記第1ろう材及び上記第2ろう材の少なくとも一方は、更に0.01〜0.3%のBiを含有していることを特徴とする請求項1に記載の中空構造体のろう付方法。
【請求項3】
上記心材は、更に、0.05〜1.3%のMn、1.0%以下のSi、1.0%以下のFe、0.9%以下のCu、6.5%以下のZn、0.2%以下のTi及び0.5%以下のZrから選ばれる1種または2種以上を含んでいることを特徴とする請求項1または2に記載の中空構造体のろう付方法。
【請求項4】
上記インナーフィンは、アルミニウム合金からなる心材の両面にAl−Si系合金よりなるろう材がクラッドされたブレージングシートであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の中空構造体のろう付方法。
【請求項5】
上記中空構造体は、個々の上記皿状プレートにおける上記平坦部側を上方に向けた状態でろう付されることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の中空構造体のろう付方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム材よりなる中空構造体のろう付方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム材よりなる熱交換器として、皿状に成形されたプレートとインナーフィンとを有する積層型熱交換器が知られている(例えば、特許文献1)。積層型熱交換器は、プレートとインナーフィンとが交互に積層された中空構造体をろう付することにより作製されている。
【0003】
中空構造体は、プレートの縁部同士が互いに重なると共に、隣り合うプレートにより囲まれた中空部にインナーフィンが配置された構造を有している。通常、プレートは、アルミニウム合金板の両面にろう材がクラッドされてなるブレージングシートから構成されている。これにより、中空構造体のろう付を一回の加熱で行うことができる。
【0004】
従来、アルミニウム材のろう付方法としては、Al−Si(アルミニウム−シリコン)系合金からなるろう材を用い、ろう材上にフッ化物系のフラックスを塗布した後に窒素雰囲気下で被処理物を加熱してろう付する、いわゆるフラックスろう付法が多用されている。フラックスろう付法は、設備費やランニングコストが安価であり、優れた生産効率を有している。また、フラックスろう付法は、Zn(亜鉛)拡散を利用した防食処理が可能であるため、熱交換器を構成するアルミニウム材を容易に薄肉化することができ、ひいては熱交換器全体を容易に軽量化することができる。
【0005】
しかし、近年では熱交換器の一層の小型化、軽量化に伴って熱交換器内部の冷媒流路が微細化している。そのため、ろう付を行った後に、冷媒流路がフラックス残渣で目詰まりを起こすという問題が生じている。また、熱交換器の外表面に表面処理を施す工程において、酸等を用いてフラックス残渣を洗い落とす作業のコスト負担が問題視されるようになっている。
【0006】
また、フラックスろう付法に用いるフッ化物系フラックスは、アルミニウム材に含まれるMg(マグネシウム)と反応して消費され、ろう付性の悪化を招くという問題がある。そのため、フラックスろう付法は、Mgを含む高強度材料のろう付を行うことが困難である。また、高強度材料を使用できないことから、アルミニウム材の薄肉化には限界がある。
【0007】
これらの問題に対し、酸化皮膜を破壊する作用を有するMg等をろう材に添加し、フラックスを用いることなく不活性ガス雰囲気下でろう付を行う、いわゆるフラックスレスろう付法が提案されている。例えば特許文献2には、Al−Si−Mg系合金ろう材を用い、非酸化性ガス雰囲気でフラックス無しでろう付を行う方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2014−109388号公報
【特許文献2】特開平11−285817号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、上記フラックスレスろう付法によりプレートとインナーフィンとの中空構造体をろう付する場合、隣り合うプレートの縁部同士の被接合部においてろうが中空構造体の内部へ引き込まれ、縁部の外表面にフィレットが形成されにくいという問題がある。この対策として、縁部の外表面にフッ化物系フラックスを塗布してフィレットの形成を促す方法が検討されているが、Mgを含有する高強度材料を使用できない、フラックスを塗布してもろう付性が安定しないなどの問題があり、上記の問題を解決することができていない。
【0010】
また、フラックスレスろう付法によるろう付性を改善するために、不活性ガスの純度を高めて酸素濃度や露点を低減する、あるいは不活性ガスとして高純度のアルゴンガスを用いるなどの方法も考えられる。しかし、これらの方法は、縁部の外表面にフィレットを形成させる効果が十分ではないことに加え、生産性やコスト面で問題があり、量産設備に適用することは困難である。
【0011】
また、上記フラックスレスろう付法により従来の積層型熱交換器のろう付を行う場合、インナーフィン及びプレートの被接合部においても、フィレットが均一に形成されないことがある。
【0012】
以上のように、従来のフラックスレスろう付法は、積層型熱交換器のろう付を行う場合にろう付接合の品質を安定させることが難しいという問題がある。発明者らは、検討を重ねた結果、ろう付接合の品質が安定しない原因が、フィレット形成の時間的推移にあることを見出した。
【0013】
フラックスレスろう付法においては、ろう材や心材に添加したMg等の元素がろう材及び相手材の表面に存在する酸化皮膜を破壊することによりろう付が進行する。加熱を開始した後ろう材の温度が溶融開始温度に到達するまでの間は、Mg等が固体のろう材中を拡散して表面まで移動する。そのため、ろう材の温度が溶融開始温度に到達するまでの間は、ろう材の酸化皮膜の破壊はゆっくり進行し、相手材の酸化皮膜はほとんど破壊されない。
【0014】
ろう材の温度が溶融開始温度に到達して溶融が始まった直後は、ろう材及び相手材のいずれの酸化皮膜も十分に破壊されていない。そのため、フィレットの形成がゆっくり進行する。
【0015】
このとき、中空構造体の内部においては、プレートやインナーフィンの随所が酸化されることにより、雰囲気中の酸素が減少している。また、中空構造体の内部はプレートにより外部空間から隔離されているため、外部空間から雰囲気が流入しにくい。これらの結果、中空構造体内部の雰囲気の酸素濃度が外部空間に比べて低くなっている。そのため、中空構造体内部に存在する酸化皮膜の破壊が、中空構造体の外表面に存在する酸化皮膜に比べて速く進行する。その結果、中空構造体内部に存在するろう材は、外表面よりも早期に流動することができるようになる。
【0016】
また、インナーフィン及びプレートの被接合部において、通常、インナーフィンはプレートに当接しているか、ほとんどクリアランスのない状態でプレートに対面しているが、隣り合うプレートの縁部の間には、インナーフィンとプレートとの間よりも大きなクリアランスが生じることがある。そのため、溶融したろうは、表面張力によりインナーフィンとプレートとの当接部に引き込まれやすい。
【0017】
ろう材の溶融が進行すると、中空構造体の内部に存在する被接合部がろうを介して繋がった状態となる。それ故、流動可能となったろうは、中空構造体内部のフィレット、即ちプレートの縁部同士の被接合部における内部側のフィレット及びプレートとインナーフィンとの被接合部のフィレットに供給され、これらのフィレットが急速に成長する。
【0018】
一方、中空構造体の外表面は内部に比べて酸化皮膜の破壊が遅れるため、中空構造体の外表面において溶融したろうが内部に引き込まれる。以上の結果、中空構造体の外表面にフィレットが形成されにくくなる。
【0019】
発明者らは、上述したフィレット形成の時間的推移を踏まえて更に検討を行った結果、ろうが中空構造体の内部に引き込まれる現象を抑制することができるろう付方法を見出した。
【0020】
即ち、本発明は、ろう付接合の品質を安定させることができ、アルミニウム材よりなる中空構造体のろう付に好適なろう付方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明の一態様は、0.2〜1.3%(質量%、以下同じ)のMgを含有し、残部がAl及び不可避不純物からなる化学成分を有する心材と、7.5〜13.0%のSi及び0.004〜0.1%のLiを含有し残部がAl及び不可避不純物からなる化学成分を有し、上記心材の一方の面にクラッド接合された第1ろう材と、6.0〜8.5%かつ上記第1ろう材よりも1.0%以上少ない量のSi及び0.004〜0.1%のLiを含有し残部がAl及び不可避不純物からなる化学成分を有し、上記心材の他方の面にクラッド接合された第2ろう材とからなる3層クラッド板材を準備し、
アルミニウム材よりなるインナーフィンを準備し、
上記3層クラッド板材から、平坦部と、該平坦部の外周端縁に設けられ、上記平坦部の厚み方向における上記第1ろう材側に延出しつつ外方に拡開した縁部とを有する皿状プレートを作製し、
複数の上記インナーフィンと複数の上記皿状プレートとを、隣り合う上記縁部同士が当接し、かつ、隣り合う上記平坦部の両方に上記インナーフィンが当接するように交互に重ね合わせて中空構造体を組み立て、
該中空構造体を不活性ガス雰囲気中で加熱してろう付を行うことを特徴とする中空構造体のろう付方法にある。
【発明の効果】
【0022】
上記ろう付方法において、上記皿状プレートは上記特定の層構成を有する3層クラッド板材から作製されている。上記3層クラッド材における上記第1ろう材は、上記第2ろう材に比べて溶融開始温度と溶融終了温度との温度差が小さい。そのため、上記中空構造体を加熱してろう付を行う際、上記第1ろう材に由来するろうは、上記第2ろう材に由来するろうに比べて、温度の上昇に伴ってろうの体積が早く増加する。その結果、上記第1ろう材に由来するろうは上記第2ろう材に由来するろうよりも早く流動し、上記中空構造体の内部、即ち、上記第1ろう材と上記インナーフィンとの被接合部及び上記縁部同士の被接合部における内部側に先にフィレットが形成される。
【0023】
一方、上記第2ろう材は、上記第1ろう材よりも溶融開始温度と溶融終了温度との温度差が大きい。そのため、上記第2ろう材に由来するろうは、上記第1ろう材に比べて体積がゆっくり増加する。その結果、上記第2ろう材に由来するろうは、上記第1ろう材に由来するろうが流動可能となるまではその場に留まり、上記中空構造体の内部にフィレットが形成された後に流動することができるようになる。
【0024】
そして、上記第2ろう材に由来するろうは、上記中空構造体の内部にフィレットが形成された後に流動するため、上記中空構造体の内部へ引き込まれにくくなる。また、上記第2ろう材に由来するろうを上記縁部同士の被接合部における外表面側に供給することができるため、中空構造体の外表面に容易にフィレットを形成することができる。
【0025】
また、上記ろう付方法は、上記第1ろう材と上記第2ろう材とを異なるタイミングで流動させることができる。これにより、インナーフィンとプレートとの当接部に均一なフィレットを容易に形成することができる。
【0026】
従来のフラックスレスろう付においては、中空構造体の内部のろう材が同時に流動し始める。そのため、プレートとインナーフィンとの被接合部における、プレートとインナーフィンとが当接している部分や両者の間のクリアランスが小さい部分にろうが引き寄せられ、クリアランスが大きい部分にろうが十分に供給されないことがあった。
【0027】
これに対し、上記ろう付方法は、上記第1ろう材と上記第2ろう材とが順次流動するため、上記皿状プレートと上記インナーフィンとが当接している部分等へのろうの集中を抑制することができる。その結果、個々の被接合部に十分な量のろうを容易に供給し、均一なフィレットを形成することができる。
【0028】
以上のように、上記ろう付方法によれば、アルミニウム材よりなる中空構造体におけるろう付接合の品質を安定させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】実施例における、ろう付前の中空構造体の断面図。
図2】実施例における、第1ろう材が流動した状態の中空構造体の断面図。
図3】実施例における、第2ろう材が流動した状態の中空構造体の断面図。
【発明を実施するための形態】
【0030】
上記中空構造体における上記皿状プレートは、心材の一方の面に第1ろう材がクラッド接合され、他方の面に第2ろう材がクラッド接合された上記3層クラッド板材から作製されている。以下、心材、第1ろう材及び第2ろう材の化学成分について詳説する。
【0031】
[第1ろう材]
第1ろう材は、Si及び0.004〜0.1%のLiを含有し残部がAl及び不可避不純物からなる化学成分を有している。
【0032】
・Si(シリコン):7.5〜13.0%
第1ろう材中のSiの含有量を上記特定の範囲とすることにより、第2ろう材よりも低い温度でのろうの流動を容易に実現することができる。また、Siの含有量を上記特定の範囲とすることにより、中空構造体の内部に存在する被接合部に十分な量のろうを供給することができる。これらの結果、ろう付性を向上させることができる。
【0033】
Siの含有量が7.5%未満の場合には、ろうの量が不足し、また、ろうの流動性が低いため、ろう材としての機能が不十分となる。一方、Siの含有量が13.0%を超える場合には、ろうの量が過剰となって心材の溶解量が増加する。また、この場合には第1ろう材の溶融終了温度が過度に高くなる。それ故、Siの含有量が上記特定の範囲から外れる場合には、ろう付性が低下する。
【0034】
・Li(リチウム):0.004〜0.1%
Liはアルミニウム材の表面に存在する酸化皮膜を破壊する作用を有する。第1ろう材中のLiの含有量を上記特定の範囲とすることにより、中空構造体のフラックスレスろう付を容易に行うことができる。Liの含有量が0.004%未満の場合には、酸化皮膜を破壊する効果が低く、上記中空構造体の内部におけるろう付性が低下する。一方、Liの含有量が0.1%を超える場合には、Liの酸化物が第1ろう材の表面に成長するため、ろう付性が低下する。
【0035】
・Bi(ビスマス):0.01〜0.3%
第1ろう材は、更に0.01〜0.3%のBiを含有していても良い。Biは、アルミニウム材の表面に存在する酸化皮膜を脆弱化する作用を有する。そのため、Biは、Liと共存することにより、酸化皮膜の破壊を促進させてろう付性をより向上させることができる。また、Biは、ろうの表面張力を低下させる作用を有するため、被処理物の細い隙間にろうが流入し易くなる。その結果、ろう付接合の信頼性をより向上させることができる。
【0036】
Biの含有量を上記特定の範囲とすることにより、上記の作用効果を十分に得ることができ、中空構造体のろう付性をより向上させると共に、ろう付接合の信頼性をより向上させることができる。Biの含有量が0.01%未満の場合には、上記の作用効果が不十分となるおそれがある。一方、Biの含有量が0.3%を超える場合には、Biの量に見合ったろう付性向上の効果を得ることが難しい。また、Biの含有量が過度に多い場合にはろう材の表面が変色するおそれがあり、場合によってはろう付性を悪化させるおそれがある。
【0037】
・Mg(マグネシウム):0.5%以下
上記第1ろう材は、更に0.5%以下のMgを含有していても良い。この場合には、Mgの酸化皮膜を破壊する作用により、上記中空構造体ろう付性をより向上させることができる。Mgの含有量が0.5%を超える場合には、Mgの酸化物が第1ろう材の表面に成長するおそれがあり、かえってろう付性の低下を招くおそれがある。
【0038】
・Sr(ストロンチウム)、Sb(アンチモン)、Fe(鉄)、Mn(マンガン)、Ti(チタン)、Cu(銅)、Zn(亜鉛)
上記第1ろう材は、ろうの流動性を調整するために、Sr、Sb、Fe、Mn、Tiを含有していても良い。また、上記第1ろう材は、ろう材の溶融開始温度を調整するためにCu、Znを含有していても良い。これらの元素の含有量は、ろう付性を悪化させない範囲で適宜設定することができる。
【0039】
[第2ろう材]
上記第2ろう材は、6.0〜8.5%かつ上記第1ろう材よりも1.0%以上少ない量のSi及び0.004〜0.1%のLiを含有し残部がAl及び不可避不純物からなる化学成分を有している。
【0040】
・Si:6.0〜8.5%かつ上記第1ろう材よりも1.0%以上少ない量
上記ろう付方法を実現するためには、第2ろう材における溶融開始温度と溶融終了温度との温度差をある程度大きくし、第1ろう材に由来するろうを第2ろう材に由来するろうよりも低い温度で流動させる必要がある。第2ろう材中のSiの含有量を上記特定の範囲とすることにより、上記ろう付方法に好適な第2ろう材を容易に実現することができ、ろう付性を向上させることができる。
【0041】
Siの含有量が6.0%未満の場合には、ろうの量が不足し、また、ろうの流動性が低いため、ろう材としての機能が不十分となる。それ故、ろう付性が低下する。一方、Siの含有量が8.5%を超える場合には、溶融開始温度と溶融終了温度との温度差が小さくなる。そのため、第2ろう材に由来するろうが比較的早期に流動可能となり、中空構造体の内部へ引き込まれやすくなる。その結果、中空構造体の外表面におけるろう付性が低下する。
【0042】
また、第2ろう材と第1ろう材とのSiの含有量の差が1.0%未満である場合には、第2ろう材における溶融開始温度と溶融終了温度との温度差が第1ろう材における上記温度差と同程度となる。そのため、第2ろう材に由来するろうが、中空構造体の内部におけるフィレットの形成が完了する前に流動するおそれがある。その結果、第2ろう材に由来するろうが中空構造体の内部へ引き込まれやすくなり、中空構造体の外表面におけるろう付性が低下する。
【0043】
・Li:0.004〜0.1%
第2ろう材は、0.004〜0.1%のLiを含んでいる。Liの作用効果及び限定理由は第1ろう材と同様である。
【0044】
・Bi:0.01〜0.3%、Mg:0.5%以下、Sr、Sb、Fe、Mn、Ti、Cu、Zn
第2ろう材は、更にBi、Mg、Sr、Sb、Fe、Mn、Ti、Cu、Znを含有していても良い。これらの元素の作用効果及び限定理由は第1ろう材と同様である。
【0045】
[心材]
上記心材は、0.2〜1.3%のMgを含有し、残部がAl及び不可避不純物からなる化学成分を有している。
【0046】
・Mg:0.2〜1.3%
心材に含まれるMgは、ろう付時の加熱によって第1ろう材及び第2ろう材へ拡散する。各々のろう材の表面に到達したMgが酸化皮膜を破壊することにより、中空構造体のフラックスレスろう付を容易に行うことができる。心材中のMgの含有量が0.2%未満の場合には、ろう材の表面に到達するMgの量が少なくなり、ろう付性の低下を招く。一方、Mgの含有量が1.3%を超える場合には、ろう材の表面に到達するMgの量が過剰となる。その結果、Mgの酸化物がろう材の表面に成長し、ろう付性の低下を招く。
【0047】
・Mn:0.05〜1.3%、Si:1.0%以下、Fe:1.0%以下、Cu:0.9%以下、Zn:6.5%以下、Ti:0.2%以下、Zr(ジルコニウム):0.5%以下
心材は、更に、0.05〜1.3%のMn、1.0%以下のSi、1.0%以下のFe、0.9%以下のCu、6.5%以下のZn、0.2%以下のTi及び0.5%以下のZrから選ばれる1種または2種以上を含んでいることが好ましい。これらの元素は、心材の強度や耐食性をより向上させることができる。これらの元素の含有量が過度に多く含まれる場合には、3層クラッド板材を製造する際の圧延工程において材料が割れるおそれがあり、製造性が低下するおそれがある。
【0048】
上記中空構造体における上記インナーフィンは、アルミニウム合金からなる心材の両面にAl−Si系合金よりなるろう材がクラッドされたブレージングシートであることが好ましい。この場合には、インナーフィンと皿状プレートとの被接合部に、より多くのろうを供給し、フィレットをより容易に形成することができる。その結果、第2ろう材に由来するろうが中空構造体の内部へ引き込まれにくくなり、皿状プレートの縁部同士の被接合部における外表面に、より容易にフィレットを形成することができる。
【0049】
インナーフィンのろう材には、皿状プレートのろう材と同様に、LiやBi等の元素を添加しても良い。また、インナーフィンの心材に、皿状プレートのろう材と同様にMgを添加しても良い。これらの元素を添加することにより、中空構造体のろう付性をより向上させることができる。
【0050】
また、インナーフィンのろう材に溶融開始温度の低いAl−Si系合金を用いることにより、中空構造体の内部のフィレットに十分なろうを供給することができる。その結果、中空構造体の外表面に、より容易にフィレットを形成することができる
【0051】
中空構造体のろう付は、複数の上記インナーフィンと複数の上記皿状プレートとを、上述のように交互に重ね合わせた後、この積層体を積層方向の両側から押圧しつつ加熱することにより行う。
【0052】
上記中空構造体は、個々の上記皿状プレートにおける上記平坦部側を上方に向けた状態でろう付されることが好ましい。この場合には、第1ろう材に由来するろうがインナーフィンの下方に存在する被接合部に引き寄せられることを抑制できる。また、この場合には、皿状プレートとインナーフィンとの被接合部のうち、上方に存在する被接合部にフィレットを先に形成することができる。これらの結果、皿状プレートとインナーフィンとの被接合部に均一なフィレットをより容易に形成することができる。
【0053】
また、第1ろう材に由来するろうの一部は、重力により皿状プレートの縁部に沿って流動し、縁部同士の被接合部に供給される。その結果、縁部同士の被接合部におけるろう付性をより向上させることができる。
【0054】
ろう付時の雰囲気としては、窒素、アルゴン及び窒素とアルゴンとの混合ガスなどの、工業的に利用可能な不活性ガスを用いることができる。ろう付性を向上させる観点からは、不活性ガスの酸素濃度が低いほど好ましい。上記ろう付方法においては、例えば、酸素濃度が50ppm以下の不活性ガスを好適に用いることができる。
【0055】
ろう付時の加熱温度は、585〜620℃であることが好ましく、590〜610℃であることがより好ましい。加熱温度が585℃未満の場合には、ろうの流動性が不十分となり、ろう付性の低下を招くおそれがある。一方、加熱温度が620℃を超える場合には、上記心材の一部が溶融するエロージョンが発生するおそれがある。また、ろう付時の昇温速度は、昇温中における皿状プレートやインナーフィンの酸化を抑制する観点から、できるだけ速くすることが好ましい。
【0056】
なお、上記インナーフィンとしてアルミニウム合金よりなるベア材を用いることも可能である。
【実施例】
【0057】
(実施例)
上記ろう付方法の実施例について、図を用いて説明する。まず、心材Aの一方の面に第1ろう材Bがクラッド接合され、他方の面に第2ろう材Cがクラッド接合された3層クラッド板材と、アルミニウム材よりなるインナーフィン2とを準備する。心材Aは、0.2〜1.3%(質量%、以下同じ)のMgを含有し、残部がAl及び不可避不純物からなる化学成分を有している。第1ろう材Bは、7.5〜13.0%のSi及び0.004〜0.1%のLiを含有し残部がAl及び不可避不純物からなる化学成分を有している。第2ろう材Cは、6.0〜8.5%かつ上記第1ろう材Bよりも1.0%以上少ない量のSi及び0.004〜0.1%のLiを含有し残部がAl及び不可避不純物からなる化学成分を有している。
【0058】
なお、本例のインナーフィン2は、アルミニウム合金のベア材よりなるコルゲートフィンである。
【0059】
次に、3層クラッド板材にプレス加工を行い、図1に示す皿状プレート3を作製する。皿状プレート3は、平坦部31と、平坦部31の外周端縁に設けられ、平坦部31の厚み方向における第1ろう材B側に延出しつつ外方に拡開した縁部32とを有している。
【0060】
次に、複数のインナーフィン2と複数の皿状プレート3とを、隣り合う縁部32同士が当接し、かつ、隣り合う平坦部31の両方にインナーフィン2が当接するように交互に重ね合わせて中空構造体1を組み立てる。その後、中空構造体1を不活性ガス雰囲気中で加熱してろう付を行う。
【0061】
なお、図1には、便宜上、皿状プレート3の縁部32の間にクリアランスが存在している部分を示したが、隣り合う縁部32同士は図には示さない部分において当接している。
【0062】
以下において、上記ろう付方法におけるフィレット形成の時間的推移を詳細に説明する。なお、本例では、個々の皿状プレート3における平坦部31側を上方に向けた状態で中空構造体1のろう付を行う場合のフィレット形成の時間的推移を示す。
【0063】
ろう付時の加熱により中空構造体1の温度が第1ろう材Bの溶融開始温度に到達すると、第1ろう材Bはその場に留まったまま徐々に溶融し、ろうDを生じさせる。更に中空構造体1の温度が上昇すると、第1ろう材Bに由来するろうDの体積が増加し、ろうDが流動できるようになる。このとき、第2ろう材Cは、一部が溶融しているが流動ができない状態となっている。
【0064】
流動可能となったろうDの一部は、表面張力や重力により皿状プレート3の縁部32に沿って流動し、皿状プレート3の縁部32同士の被接合部321に供給される。その結果、図2に示すように縁部32同士の被接合部321における外表面側321aよりも先に、内部側321bにフィレットが形成される。
【0065】
また、第1ろう材Bに由来するろうDは、皿状プレート3とインナーフィン2の上部との被接合部21aにも供給され、フィレットを形成する。
【0066】
従来のフラックスレスろう付法においては、中空構造体の内部に存在するろう材が同時に流動するため、インナーフィンの上部の被接合部と、下部の被接合部とがろうを介して繋がっていた。そのため、重力によってろうが下方に偏り、インナーフィンの上部に供給されるろうが不足しやすくなっていた。
【0067】
これに対し、上記ろう付方法においては、図2に示すように、インナーフィン2の上部の被接合部21aと、下部の被接合部21bとがろうDにより繋がっていない。そのため、第1ろう材Bに由来するろうDがインナーフィン2の下部の被接合部21bに引き寄せられることを抑制できる。それ故、インナーフィン2の上部の被接合部21aに十分な量のろうDを供給し、均一なフィレットを容易に形成することができる。
【0068】
中空構造体1の温度が更に上昇すると、第2ろう材Cに由来するろうEが流動できるようになる。このとき、インナーフィン2の上部の被接合部21aに形成されたフィレットは第2ろう材Cから離隔しているため、上部の被接合部21aに存在するろうDが下部の被接合部21bに引き寄せられることはない。また、縁部32同士の被接合部321においては、中空構造体1の内部側321bに既にフィレットが形成されているため、中空構造体1の外表面に生じたろうEが内部に引き込まれにくい。それ故、第2ろう材Cに由来するろうEは、図3に示すように、皿状プレート3とインナーフィン2の下部との被接合部21b及び縁部32同士の被接合部321における外表面側321aに供給される。
【0069】
以上の結果、ろう付が完了した時点で、インナーフィン2の上部の被接合部21a、下部の被接合部21b、縁部32同士の被接合部321の内部側321b及び外表面側321aのいずれにも十分な量のろうD、Eが供給され、フィレットを形成することができる。それ故、上記ろう付法によれば、中空構造体1におけるろう付接合の品質を容易に安定させることができる。
【0070】
(実験例)
本例は、皿状プレート3を構成する3層クラッド板材の合金種を変更し、ろう付性の評価を行った例である。以下、試験体の作製方法及び評価方法を説明する。
【0071】
[試験体の作製]
・3層クラッド板材
表1に示す化学成分を有する合金(合金A1〜A20)を鋳造し、得られた鋳塊を500℃で加熱して均質化処理を行った。次いで、鋳塊に熱間圧延を行って厚さ5mmのろう材板を作製した。
【0072】
ろう材板の作製とは別に、表2に示す化学成分を有する合金(合金B1〜B5)を鋳造し、得られた鋳塊を600℃で加熱して均質化処理を行った。その後、鋳塊を面削して厚さ40mmの心材板を作製した。
【0073】
上記により得られたろう材板及び心材板を表3に示す組み合わせで重ね合わせ、500℃でクラッド圧延を行って互いに接合させた。これにより、厚さ2mmの中間材を得た。得られた中間材に冷間圧延を行って厚さを0.4mmにした後、焼鈍処理を行った。以上により3層クラッド板材を得た。3層クラッド板材における第1ろう材B及び第2ろう材Cのクラッド率は10%であった。なお、上記のクラッド率は、3層クラッド板材の全厚さに対する各ろう材の厚さの比率である。
【0074】
・中空構造体1の組み立て
3層クラッド板材にプレス加工を施し、図1に示す皿状プレート3を作製した、また、皿状プレート3の作製とは別に、JIS A3003合金よりなる厚さ0.1mmの板材にコルゲート加工を施し、インナーフィン2を作製した。得られた皿状プレート3及びインナーフィン2を図1に示すように交互に積層し、治具(図示略)により固定して中空構造体1(表3、試験体1〜21)を組み立てた。
【0075】
・ろう付
個々の皿状プレート3における平坦部31側を上方に向けた状態で加熱炉内に中空構造体1を設置した後、加熱炉内の雰囲気を窒素で置換し、雰囲気中の酸素濃度を20ppm以下にした。その後、中空構造体1の温度を測定しながら加熱を行った。具体的には、加熱開始から中空構造体1の温度が600℃に到達するまでの所要時間が15分程度となるように昇温させた後、中空構造体1の温度が600℃の状態を3分間保持して加熱を完了した。加熱が完了した後、中空構造体1を炉内で冷却してから炉外へ取り出した。
【0076】
[評価]
ろう付後の中空構造体1を図3に示すように切断し、縁部32同士の被接合部321における内部側321bのフィレット及び外表面側321aのフィレットを目視評価した。その結果を表3に示す。なお、表3の「フィレットの目視評価」欄に示した記号の意味は、以下の通りである。
【0077】
A:連続したフィレットが形成されており、フィレットのサイズが均一であった
B:連続したフィレットが形成されたが、フィレットのサイズにややばらつきが見られた
C:フィレットが部分的に途切れており、連続していなかった
【0078】
【表1】
【0079】
【表2】
【0080】
【表3】
【0081】
表1〜表3より知られるように、試験体1〜12は、第1ろう材B、第2ろう材C及び心材Aが上記特定の範囲の化学成分を有している。そのため、試験体1〜12は縁部32同士の被接合部321における外表面側321a及び内部側321bの両方に連続したフィレットが形成された。
【0082】
試験体13は、第1ろう材B及び第2ろう材CのいずれもSiの含有量が少ないため、ろうD、Eの流動性が不十分となった。その結果、外表面側321a及び内部側321bのいずれのフィレットも不連続となった。
試験体14は、第1ろう材B中のSiの含有量が多いため、ろうDの流動性が不十分となった。その結果、外表面側321a及び内部側321bのいずれのフィレットも不連続となった。
【0083】
試験体15は、第2ろう材C中のSiの含有量が多いため、内部側321bのフィレットの形成途中で第2ろう材Cが流動した。その結果、外表面側321aのフィレットが不連続となった。
試験体16は、第2ろう材C中のSiの含有量と第1ろう材B中のSiの含有量との差が小さいため、内部側321bのフィレットの形成途中で第2ろう材Cが流動した。その結果、外表面側321aのフィレットが不連続となった。
試験体17は、第2ろう材C中のSiの含有量が第1ろう材B中のSiの含有量よりも多かったため、内部側321bのフィレットが形成され始める前に第2ろう材Cが流動した。その結果、外表面側321aのフィレットが不連続となった。
【0084】
試験体18は、第2ろう材C中のLiの含有量が少ないため、酸化皮膜が十分に破壊されなかった。その結果、外表面側321a及び内部側321bのいずれのフィレットも不連続となった。
試験体19は、第1ろう材B及び第2ろう材CのいずれもLiの含有量が多いため、Liの酸化物が過度に成長した。その結果、外表面側321a及び内部側321bのいずれのフィレットも不連続となった。
【0085】
試験体20は、心材A中のMgの含有量が少ないため、酸化皮膜が十分に破壊されなかった。その結果、外表面側321a及び内部側321bのいずれのフィレットも不連続となった。
試験体21は、心材A中のMgの含有量が多いため、Mgの酸化物が過度に成長した。その結果、外表面側321a及び内部側321bのいずれのフィレットも不連続となった。
【0086】
上記の実施例及び実験例は上記ろう付方法の一例であり、その要旨を変更しない範囲で適宜構成を変更することができる。例えば、実施例及び実験例には、皿状プレート3の平坦部31が完全に平坦な例を示したが、平坦部31は、インナーフィン2とのろう付が可能な範囲であれば湾曲していてもよい。また、冷媒に乱流を生じさせるための突起等を平坦部31に設けることも可能である。
【符号の説明】
【0087】
1 中空構造体
2 インナーフィン
3 皿状プレート
31 平坦部
32 縁部
A 心材
B 第1ろう材
C 第2ろう材
図1
図2
図3