【実施例】
【0057】
(実施例)
上記ろう付方法の実施例について、図を用いて説明する。まず、心材Aの一方の面に第1ろう材Bがクラッド接合され、他方の面に第2ろう材Cがクラッド接合された3層クラッド板材と、アルミニウム材よりなるインナーフィン2とを準備する。心材Aは、0.2〜1.3%(質量%、以下同じ)のMgを含有し、残部がAl及び不可避不純物からなる化学成分を有している。第1ろう材Bは、7.5〜13.0%のSi及び0.004〜0.1%のLiを含有し残部がAl及び不可避不純物からなる化学成分を有している。第2ろう材Cは、6.0〜8.5%かつ上記第1ろう材Bよりも1.0%以上少ない量のSi及び0.004〜0.1%のLiを含有し残部がAl及び不可避不純物からなる化学成分を有している。
【0058】
なお、本例のインナーフィン2は、アルミニウム合金のベア材よりなるコルゲートフィンである。
【0059】
次に、3層クラッド板材にプレス加工を行い、
図1に示す皿状プレート3を作製する。皿状プレート3は、平坦部31と、平坦部31の外周端縁に設けられ、平坦部31の厚み方向における第1ろう材B側に延出しつつ外方に拡開した縁部32とを有している。
【0060】
次に、複数のインナーフィン2と複数の皿状プレート3とを、隣り合う縁部32同士が当接し、かつ、隣り合う平坦部31の両方にインナーフィン2が当接するように交互に重ね合わせて中空構造体1を組み立てる。その後、中空構造体1を不活性ガス雰囲気中で加熱してろう付を行う。
【0061】
なお、
図1には、便宜上、皿状プレート3の縁部32の間にクリアランスが存在している部分を示したが、隣り合う縁部32同士は図には示さない部分において当接している。
【0062】
以下において、上記ろう付方法におけるフィレット形成の時間的推移を詳細に説明する。なお、本例では、個々の皿状プレート3における平坦部31側を上方に向けた状態で中空構造体1のろう付を行う場合のフィレット形成の時間的推移を示す。
【0063】
ろう付時の加熱により中空構造体1の温度が第1ろう材Bの溶融開始温度に到達すると、第1ろう材Bはその場に留まったまま徐々に溶融し、ろうDを生じさせる。更に中空構造体1の温度が上昇すると、第1ろう材Bに由来するろうDの体積が増加し、ろうDが流動できるようになる。このとき、第2ろう材Cは、一部が溶融しているが流動ができない状態となっている。
【0064】
流動可能となったろうDの一部は、表面張力や重力により皿状プレート3の縁部32に沿って流動し、皿状プレート3の縁部32同士の被接合部321に供給される。その結果、
図2に示すように縁部32同士の被接合部321における外表面側321aよりも先に、内部側321bにフィレットが形成される。
【0065】
また、第1ろう材Bに由来するろうDは、皿状プレート3とインナーフィン2の上部との被接合部21aにも供給され、フィレットを形成する。
【0066】
従来のフラックスレスろう付法においては、中空構造体の内部に存在するろう材が同時に流動するため、インナーフィンの上部の被接合部と、下部の被接合部とがろうを介して繋がっていた。そのため、重力によってろうが下方に偏り、インナーフィンの上部に供給されるろうが不足しやすくなっていた。
【0067】
これに対し、上記ろう付方法においては、
図2に示すように、インナーフィン2の上部の被接合部21aと、下部の被接合部21bとがろうDにより繋がっていない。そのため、第1ろう材Bに由来するろうDがインナーフィン2の下部の被接合部21bに引き寄せられることを抑制できる。それ故、インナーフィン2の上部の被接合部21aに十分な量のろうDを供給し、均一なフィレットを容易に形成することができる。
【0068】
中空構造体1の温度が更に上昇すると、第2ろう材Cに由来するろうEが流動できるようになる。このとき、インナーフィン2の上部の被接合部21aに形成されたフィレットは第2ろう材Cから離隔しているため、上部の被接合部21aに存在するろうDが下部の被接合部21bに引き寄せられることはない。また、縁部32同士の被接合部321においては、中空構造体1の内部側321bに既にフィレットが形成されているため、中空構造体1の外表面に生じたろうEが内部に引き込まれにくい。それ故、第2ろう材Cに由来するろうEは、
図3に示すように、皿状プレート3とインナーフィン2の下部との被接合部21b及び縁部32同士の被接合部321における外表面側321aに供給される。
【0069】
以上の結果、ろう付が完了した時点で、インナーフィン2の上部の被接合部21a、下部の被接合部21b、縁部32同士の被接合部321の内部側321b及び外表面側321aのいずれにも十分な量のろうD、Eが供給され、フィレットを形成することができる。それ故、上記ろう付法によれば、中空構造体1におけるろう付接合の品質を容易に安定させることができる。
【0070】
(実験例)
本例は、皿状プレート3を構成する3層クラッド板材の合金種を変更し、ろう付性の評価を行った例である。以下、試験体の作製方法及び評価方法を説明する。
【0071】
[試験体の作製]
・3層クラッド板材
表1に示す化学成分を有する合金(合金A1〜A20)を鋳造し、得られた鋳塊を500℃で加熱して均質化処理を行った。次いで、鋳塊に熱間圧延を行って厚さ5mmのろう材板を作製した。
【0072】
ろう材板の作製とは別に、表2に示す化学成分を有する合金(合金B1〜B5)を鋳造し、得られた鋳塊を600℃で加熱して均質化処理を行った。その後、鋳塊を面削して厚さ40mmの心材板を作製した。
【0073】
上記により得られたろう材板及び心材板を表3に示す組み合わせで重ね合わせ、500℃でクラッド圧延を行って互いに接合させた。これにより、厚さ2mmの中間材を得た。得られた中間材に冷間圧延を行って厚さを0.4mmにした後、焼鈍処理を行った。以上により3層クラッド板材を得た。3層クラッド板材における第1ろう材B及び第2ろう材Cのクラッド率は10%であった。なお、上記のクラッド率は、3層クラッド板材の全厚さに対する各ろう材の厚さの比率である。
【0074】
・中空構造体1の組み立て
3層クラッド板材にプレス加工を施し、
図1に示す皿状プレート3を作製した、また、皿状プレート3の作製とは別に、JIS A3003合金よりなる厚さ0.1mmの板材にコルゲート加工を施し、インナーフィン2を作製した。得られた皿状プレート3及びインナーフィン2を
図1に示すように交互に積層し、治具(図示略)により固定して中空構造体1(表3、試験体1〜21)を組み立てた。
【0075】
・ろう付
個々の皿状プレート3における平坦部31側を上方に向けた状態で加熱炉内に中空構造体1を設置した後、加熱炉内の雰囲気を窒素で置換し、雰囲気中の酸素濃度を20ppm以下にした。その後、中空構造体1の温度を測定しながら加熱を行った。具体的には、加熱開始から中空構造体1の温度が600℃に到達するまでの所要時間が15分程度となるように昇温させた後、中空構造体1の温度が600℃の状態を3分間保持して加熱を完了した。加熱が完了した後、中空構造体1を炉内で冷却してから炉外へ取り出した。
【0076】
[評価]
ろう付後の中空構造体1を
図3に示すように切断し、縁部32同士の被接合部321における内部側321bのフィレット及び外表面側321aのフィレットを目視評価した。その結果を表3に示す。なお、表3の「フィレットの目視評価」欄に示した記号の意味は、以下の通りである。
【0077】
A:連続したフィレットが形成されており、フィレットのサイズが均一であった
B:連続したフィレットが形成されたが、フィレットのサイズにややばらつきが見られた
C:フィレットが部分的に途切れており、連続していなかった
【0078】
【表1】
【0079】
【表2】
【0080】
【表3】
【0081】
表1〜表3より知られるように、試験体1〜12は、第1ろう材B、第2ろう材C及び心材Aが上記特定の範囲の化学成分を有している。そのため、試験体1〜12は縁部32同士の被接合部321における外表面側321a及び内部側321bの両方に連続したフィレットが形成された。
【0082】
試験体13は、第1ろう材B及び第2ろう材CのいずれもSiの含有量が少ないため、ろうD、Eの流動性が不十分となった。その結果、外表面側321a及び内部側321bのいずれのフィレットも不連続となった。
試験体14は、第1ろう材B中のSiの含有量が多いため、ろうDの流動性が不十分となった。その結果、外表面側321a及び内部側321bのいずれのフィレットも不連続となった。
【0083】
試験体15は、第2ろう材C中のSiの含有量が多いため、内部側321bのフィレットの形成途中で第2ろう材Cが流動した。その結果、外表面側321aのフィレットが不連続となった。
試験体16は、第2ろう材C中のSiの含有量と第1ろう材B中のSiの含有量との差が小さいため、内部側321bのフィレットの形成途中で第2ろう材Cが流動した。その結果、外表面側321aのフィレットが不連続となった。
試験体17は、第2ろう材C中のSiの含有量が第1ろう材B中のSiの含有量よりも多かったため、内部側321bのフィレットが形成され始める前に第2ろう材Cが流動した。その結果、外表面側321aのフィレットが不連続となった。
【0084】
試験体18は、第2ろう材C中のLiの含有量が少ないため、酸化皮膜が十分に破壊されなかった。その結果、外表面側321a及び内部側321bのいずれのフィレットも不連続となった。
試験体19は、第1ろう材B及び第2ろう材CのいずれもLiの含有量が多いため、Liの酸化物が過度に成長した。その結果、外表面側321a及び内部側321bのいずれのフィレットも不連続となった。
【0085】
試験体20は、心材A中のMgの含有量が少ないため、酸化皮膜が十分に破壊されなかった。その結果、外表面側321a及び内部側321bのいずれのフィレットも不連続となった。
試験体21は、心材A中のMgの含有量が多いため、Mgの酸化物が過度に成長した。その結果、外表面側321a及び内部側321bのいずれのフィレットも不連続となった。
【0086】
上記の実施例及び実験例は上記ろう付方法の一例であり、その要旨を変更しない範囲で適宜構成を変更することができる。例えば、実施例及び実験例には、皿状プレート3の平坦部31が完全に平坦な例を示したが、平坦部31は、インナーフィン2とのろう付が可能な範囲であれば湾曲していてもよい。また、冷媒に乱流を生じさせるための突起等を平坦部31に設けることも可能である。