(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
検出器を極低温度まで冷却することにより、分析装置をより高感度・高分解能として用いる方法が多く採用されている。そして、分析装置の検出器の冷却には、ヘリウムを利用した希釈冷凍機や、循環型の
3He冷凍機が多く用いられている。
【0003】
ここで、希釈冷凍機や循環型の
3He冷凍機では、先ず、4.2K以下の冷熱が得られる機械式冷凍機や液体ヘリウムによって
3Heガスを冷却し、ジュール・トムソン効果で液化する。次いで、液化した
3Heをポンプで減圧することで、1K以下の温度まで冷却している。なお、
3Heガスは高価なため、ポンプで排気した後、コンプレッサーにより循環させて使用している。
【0004】
また、このようなヘリウムの循環ラインには、ジュール・トムソン効果を得るために10
10cm
−3以上の高いインピーダンス(たとえば内径φ0.05のパイプ)が取り付けられている。この高インピーダンス部分は4K以下の低温になっているため、ヘリウム以外に、ほんのわずかの空気、水素等の不純物ガス存在すると、簡単に閉塞してしまう。
【0005】
そもそも、ポンプやコンプレッサーについては、リークタイトでオイルフリーの製品を使用することで、ヘリウムの循環ラインに外部からの不純物が混入することはないはずである。しかしながら、配管やポンプ内にもともと吸着している不純物(空気、水分、水素等)が徐々に放出されて、閉塞の原因になることが知られている。
【0006】
そこで、不純ガスを取り除くことを目的として、活性炭をつめた容器を液体窒素で冷やした低温精製器(液体窒素トラップ型)が利用されている(特許文献1を参照)。具体的には、
図4に示すように、従来の希釈冷凍機110は、圧縮機131、液体窒素を用いた低温精製器(精製器)150、熱交換器133、インピーダンス135、分留器136、熱交換器137及び混合室138がこの順で設けられたヘリウムガスの循環経路130と、液体ヘリウムの供給によって寒冷を発生する寒冷発生部121を有する冷凍機120と、真空断熱された内側の空間に上述した熱交換器133、混合室138及び寒冷発生部121を格納する保冷外槽140と、を備えて概略構成されている。
【0007】
そして、従来の希釈冷凍機110では、分析装置の検出器等を冷却するために運転する際、低温精製器150に液体窒素を供給するため、及び、定期的に液体窒素を継ぎ足して液面を管理する必要があるため、圧縮機131とともに保冷外槽140の外側に設置することが一般的であった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、昨今の研究開発の発展に伴い、希釈冷凍機等の低温装置を分析器等の機器に適用したいとの要求が高まっており、希釈冷凍機に対して長期間の連続運転に対応することが要求されている。そこで、希釈冷凍機では、保冷外槽内において寒冷を発生させる寒冷発生源として、液体ヘリウムフリータイプの機械式冷凍機を用いた冷凍機が主流となっている。このような液体ヘリウムフリータイプの希釈冷凍機により、低温検出器を冷やして高感度・高分解能で信号検出ができる分析装置が開発されている。これらの分析装置では、一度起動したら長期間連続して稼働し続け、その間装置の維持に手間がかからないことが必要とされている。
【0010】
しかしながら、従来の希釈冷凍機では、液体ヘリウムフリータイプの冷凍機として操作を自動化し、維持に人手がかからないようにしても、低温精製器(液体窒素トラップ)150に定期的に液体窒素を供給する必要があるため、長期間安定的な運転が困難であるという課題があった。
【0011】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、操作を自動化し、維持に人手がかからずに長期間の連続運転が可能な、希釈冷凍機を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
かかる課題を解決するため、本発明は以下の構成を有する。
すなわち、請求項1に係る発明は、寒冷発生部を有する機械式冷凍機と、
ヘリウムガスを圧縮する圧縮機、前記ヘリウムガス中の不純物を除去する精製器、前記寒冷発生部と熱交換する熱交換器、及び低温出力部となる混合室を少なくとも有し、これらがこの順に設けられたヘリウムガスの循環経路と、
真空断熱された内側の空間に、前記寒冷発生部、前記精製器、前記熱交換器、及び前記混合室を格納する保冷外槽と、を備え、
前記精製器が、当該精製器を60〜77Kに保つための加熱器を有し、
前記寒冷発生部と、前記精製器とが、
第1金属からなる部材と前記第1金属よりも熱伝導度が低い第2金属からなる部材とを介して熱的に接触するとともに、
前記加熱器が、前記精製器と前記寒冷発生部との接触部から離間した位置に設けられている、希釈冷凍機である。
【0017】
請求項
2に係る発明は、前記第1金属からなる部材が、フランジ形状である、請求項
1に記載の希釈冷凍機である。
【0018】
請求項
3に係る発明は、前記第2金属からなる部材が、固定具である、請求項
1又は
2に記載の希釈冷凍機である。
【0019】
請求項
4に係る発明は、前記精製器が、熱伝導性を有する部材から構成される筒状の容器である、請求項1乃至
3のいずれか一項に記載の希釈冷凍機である。
【0020】
請求項
5に係る発明は、前記寒冷発生部が、第1寒冷発生部と、前記第1寒冷発生部よりも低温の寒冷を発生する第2寒冷発生部と、を有する、請求項1乃至
4のいずれか一項に記載の希釈冷凍機である。
【0021】
請求項
6に係る発明は、前記精製器が、前記第1寒冷発生部と接触する、請求項
5に記載の希釈冷凍機である。
【発明の効果】
【0024】
本発明の希釈冷凍機は、真空断熱された保冷外槽の内側の空間に、機械式冷凍機の寒冷発生部と、ヘリウムガスの循環経路に設けた精製器とを格納するとともに、寒冷発生部と精製器とが熱的に接触する構成となっており、寒冷発生部で発生する冷熱の一部を精製器の冷熱源として利用することができるため、精製器への窒素の補充等、人手が不要となり、長時間の連続運転が可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明を適用した一実施形態である希釈冷凍機について、図面を用いて詳細に説明する。なお、以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために、便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。
【0027】
先ず、本発明を適用した一実施形態である希釈冷凍機の構成の一例について説明する。
図1は、本発明を適用した一実施形態である希釈冷凍機10の構成の一例を示す模式図である。
図1に示すように、本実施形態の希釈冷凍機10は、機械式冷凍機20と、ヘリウムの循環経路30と、保冷外槽40と、を備えて概略構成されている。この希釈冷凍機10は、検出器を冷やすことにより、高感度・高分解能で信号検出ができる分析装置に用いることができるものである。
【0028】
機械式冷凍機20は、循環経路30内を循環するヘリウムを約50K程度に冷却する第1冷却ステージ(第1寒冷発生部)21と、同ヘリウムをさらに約4.2K程度に冷却する第2冷却ステージ(第2寒冷発生部)22との、2段階の寒冷発生部を有している。また、第1及び第2冷却ステージ21,22は、それぞれ保冷外槽40の内側の空間に格納されている。
【0029】
循環経路30は、その内部にヘリウムの気体及び液体を流通することが可能な配管等からなる流路である。この循環経路30には、ヘリウムガスを圧縮する圧縮機31、第1熱交換器(入側)32、精製器50、第1冷却ステージ21と熱交換する第2熱交換器(熱交換器)33、第2冷却ステージ22と熱交換する凝縮器34、ヘリウムガスを減圧するインピーダンス35、分留器(入側)36、第3熱交換器(入側)37、c相38A及びd相38Bを有し、低温出力部となる混合室38、第3熱交換器(戻側)37、分留器(戻側)36、及び第1熱交換器(戻側)32がこの順となるように設けられており、第1熱交換器(戻側)32から再び上記圧縮機31に、
3Heヘリウムガスを循環可能とされている。
【0030】
保冷外槽40は、真空断熱された内側の空間に、第1及び第2冷却ステージ(寒冷発生部)21,22と、第1熱交換器32.精製器50、第2熱交換器(熱交換器)33、インピーダンス35、分留器36、第3熱交換器37、及び混合室38が設けられた循環経路30の一部を格納する。これにより、これらの機器と外気との接触を遮断して、真空断熱状態とすることができる。一方、循環経路30に設けられた圧縮機31は、保冷外槽40の外側に設ける。
【0031】
精製器50は、寒冷発生部である第1冷却ステージ21と第2熱交換器33とが熱交換する前に、ヘリウムガス中の不純物を除去するために設けられた低温精製器であり、従らの液体窒素トラップ型の低温精製器に換えて、循環経路30に設けられたものである。本実施形態の希釈冷凍機10では、精製器50が、保冷外槽40の内側の空間であって、かつ第2熱交換器30の一次側に設けられており、当該精製器50と、寒冷発生部である第1冷却ステージ21とが、熱的に接触している。これにより、第1冷却ステージ21で発生する冷熱の一部を精製器50の冷熱源として利用することができる。
【0032】
ここで、精製器50の構成について、詳細に説明する。
図2は、本実施形態の希釈冷凍機10に適用可能な精製器50の構成の一例を示す断面模式図である。
図2に示すように、精製器50は、両端が開放された筒状の本体部(胴部)51A、一方の開放面を閉塞する第1フランジ面51B、及び他方の開放面を閉塞する第2フランジ面51Cを備えて、概略構成されている。また、本体部51Aのそれぞれの開放面には、第1及び第2フランジ面51B,51Cがろう付けや溶接等によって固定されている。これにより、精製器50は密閉された筒状の容器となっている。
【0033】
本体部51Aの内側には、複数の仕切り板52,52・・・が、本体部51Aの軸方向に間隔を開けて設けられている。これにより、本体部51Aの内部が、複数の空間に分割される。そして、本体部51Aの内部の、分割された複数の空間には、それぞれ吸着剤として活性炭が充填されている。また、仕切り板52の中央には、それぞれシール部材52Aが設けられている。
【0034】
本体部51A、第1フランジ面51B、第2フランジ面51C、及び複数の仕切り板52,52・・・の材質としては、導電性の優れた材料が好ましい。このような材料としては、金属が好ましく、中でも、銅、銀、金等がより好ましく、特に経済性の観点から銅が好ましい。精製器50の表面51A,51B,51C、及び内部に設けられた仕切り板52部材の材質として、導電性の優れた銅を用いることにより、精製器50の外部からの冷熱を効率よく内部の活性炭に伝達することができる。
【0035】
第1フランジ面51Bには、ヘリウム供給管53Aと、ヘリウム排出管53Bとが、それぞれ当該第1フランジ面51Bを貫通するように設けられている。
【0036】
ここで、ヘリウム供給管53Aの基端は、循環経路30の入側30Aと接続されている。一方、ヘリウム供給管53Aの先端53aは、複数の仕切り板52,52・・・に設けられた各シール部材52を貫通して、第2フランジ面51Cに面した空間内に開口している。すなわち、ヘリウム供給管53Aは、仕切り板52,52・・・の支柱としても機能している。
【0037】
また、ヘリウム排出管53Bの基端は、循環経路30の戻側30Bと接続されている。一方、ヘリウム排出管53Bの先端53bは、第1フランジ面51Bに面した空間内に開口している。
【0038】
このように、ヘリウム供給管53Aの先端と、ヘリウム排出管53Bの先端とを本体部51Aの内部の空間の両端に設けることにより、サイホン効果によって活性炭との接触面積を増加させてヘリウムガス中の不純物を効率よく除去することができる。
【0039】
また、ヘリウム供給管53A及びヘリウム排出管53Bの基端側には、本体部53A内に充填された活性炭が循環経路30内に流出しないようにするために、ガスケット型のフィルター54,54がそれぞれ設けられている。
【0040】
上述したように、ヘリウム供給管53A及びヘリウム排出管53Bの基端側を第1フランジ面51B側に設けたことにより、第2フランジ面51Cを、寒冷発生部となる第1冷却ステージ21と熱的に接触させるための接続部材60(後述する)の取り付け面とすることができる。
【0041】
本実施形態の希釈冷凍機10は、第1冷却ステージ(第1寒冷発生部)21と、精製器50とが熱的に接触している。この熱的な接触は、
図1及び
図2に示すように、熱伝導性を有する接続部材60を介して行われている。具体的には、第1冷却ステージ21と精製器50とが、熱伝導性を有する接続部材60によって接続(固定)されることにより、熱的に接触している。
【0042】
接続部材60は、単一の部材で構成されていてもよいが、2以上の部材によって構成されていてもよい。本実施形態では、接続部材60は、第1冷却ステージ21に接触するように取り付けられたフランジ形状の第1部材61と、第1部材61に精製器50を固定するための固定具であって、第1冷却ステージ21から精製器50への伝熱を調整するための第2部材62とから構成されている。
【0043】
接続部材60の材質としては、熱伝導性を有するものであれば、特に限定されるものではない。熱伝導性が優れた材料としては、金属が挙げられる。また、接続部材60は、単一の材質で構成されていてもよいが、2種以上の材質から構成されていてもよい。具体的には、接続部材60が、熱伝導性に優れる金属(例えば、銅)からなる第1部材(第1金属からなる部材)61と、銅よりも熱伝導度が低い金属(例えば、ステンレス)からなる第2部材(第2金属からなる部材)62と、から構成されることが好ましい。
【0044】
ここで、精製器内の温度が高い(77K超)と、活性炭の不純物ガスの吸着能力も落ちてくる。一方、60K未満に冷やしてしまうと、循環している
3Heガスも活性炭に吸着され始めてしまう。したがって、精製器を適切な温度(60〜77K)に保っておく必要がある。
【0045】
ところで、従来の低温精製器によれば、冷熱源として大気圧の液体窒素を用いるため、精製器50の運転温度の下限値があった(窒素の大気圧下における沸点:約77K)。したがって、従来の低温精製器では、不純物の種類によっては除去が困難な場合があった。また、精製器を冷却し続けるには、定期的に液体窒素を継ぎ足さなければならないという課題があった。
【0046】
これに対して、本実施形態の希釈冷凍機10を構成する精製器50によれば、第1冷却ステージ21を冷熱源として用いるため、従来の精製器と比較して温度を自由に設定することが可能である。また、機械式冷凍機20が運転している限り、液体窒素の継ぎ足しは不要となる。しかしながら、第1冷却ステージ21は、約40〜50Kの温度となるため、精製器50の温度が下がりすぎないようにする必要がある。
【0047】
そこで、第1冷却ステージ21に接続する第1部材61には熱伝導性が優れた材料を用いるとともに、精製器50と第1冷却ステージ21との間に熱伝導の悪い材料で製作した固定具である第2部材62をスペーサとして挟むことで温度差を設け、精製器50の温度が下がりすぎないように調整する。なお、スペーサとなる第2部材62の伝熱量は、
3Heの循環による入熱量とスペーサによる温度差から決定することができる。この際、ヘリウムの最大循環流量で77K以下、最小循環流量で60K以上となるようにスペーサとなる第2部材62の材料、厚さ等を決定する。
【0048】
接続部材60を構成する第2部材62には、伝熱を抑える為に熱伝導度の小さい材質を用いることが好ましい。すなわち、第2部材62には、第1冷却ステージ21から第1部材61を介して伝達される冷熱を調整して精製器50に伝えるとともに、一方で、精製器50からの第1冷却ステージ21への侵入熱の伝達を抑制する必要がある。具体的には、精製器50には循環経路30の入側30Aからヘリウム供給管53Aを介して常温の圧縮ヘリウムが導入され、精製された低温のヘリウムガスが精製器50からヘリウム排出管53Bを介して循環経路30の戻側30Bへ導出される。その熱量は、精製器50から第2部材62を通じて、第1冷却ステージ21への侵入熱となる。したがって、伝熱の点からも、第2部材62には熱が伝わりにくい材質の採用や、伝熱面積の低減が望まれる。
【0049】
本実施形態の希釈冷凍機10では、スペーサ兼固定具となる第2部材62としてボルトを用い、第1冷却ステージ21に接続されたフランジ形状の第1部材61と、精製器50の第2フランジ面51Cとに接続して固定されている。この場合、機械式冷凍機20が常温状態から低温の運転状態において、温度変化による収縮/膨張によってガタが生じない様にこれらが固定されている必要がある。すなわち、温度変化による観点から、第1部材61、第2部材62、及び精製器50の材質の熱膨張係数は比較的近い事が望ましい。
【0050】
これらを総合的に判断すると、第1部材61及び精製器50を銅製とし、固定具となる第2部材をステンレス製とすることが好ましい(下記表1を参照)。
【0052】
また、
図1に示すように、本実施形態において、精製器50の温度が下がりすぎないようにすることを目的として、精製器50にヒータ(加熱器)70及び温度計71を設置して、運転温度を制御する構成としてもよい。この場合、ヒータ70は、伝熱を抑制する観点から、寒冷発生部となる第1冷却ステージ21及び第1部材61との接触部から離間した位置に設けることが好ましい。なお、精製器50に設置されたヒータ70と温度計71を用いて、本実施形態の希釈冷凍機10の停止時に活性炭の再生を行うことも可能である。
【0053】
次に、本実施形態の希釈冷凍機10の運転方法の一例について、説明する。
本実施形態の希釈冷凍機10では、先ず、循環経路30内の循環ヘリウムが、圧縮機31で、約400kPa(以後、特記なき場合は絶対圧力を示す)まで昇圧される。昇圧された常温の循環ヘリウムガスは、循環経路30によって第1熱交換器31に導入され、後述する低温の戻りヘリウムガスとの熱交換によって、不純物の吸着に適した温度まで冷却される。
【0054】
次に、冷却された循環ヘリウムガスは、精製器50に導入される。精製器50では循環ヘリウムガス中の水分、空気等の不純物が除去され、循環経路30から第2熱交換器32に導入される。循環ヘリウムは、第2熱交換器32を通じて、機械式冷凍機20の第1冷却ステージ21によって50K程度に冷却され、その後、凝縮器34を通じて機械式冷凍機20の第2冷却ステージ22によって更に4.2K程度に冷却される。その後、循環ヘリウムガスは、インピーダンス35によって減圧され、分留器36、第3熱交換器(入側)37、混合室38に導入される。
【0055】
次に、循環ヘリウムは、混合室38において、
4Heに
3Heが溶け込んだd相38B、
3Heのc相38Aの2相に分離される。ここで、d相38Bには
4Heが多く含まれ、c相38Aには
3Heが多く含まれる。c相38Aのヘリウムの比重はd相38Bのヘリウムの比重よりも小さいので、
3Heにより形成されるc相38Aが主に
4Heにより形成されるd相38Bに浮かんだ状態になる。この状態からc相38Aの
3Heがd相38Bの
4He内に溶け込むことで更に冷却される。すなわち、混合室38が、低温出力部である。
【0056】
次に、d相38B内に溶け込んでいる
3Heは、第3熱交換器(戻側)37、分留器36を通じて、前述の循環ヘリウムと熱交換する。更に、第1熱交換器32において常温の循環ヘリウムとの熱交換によって常温まで昇温され、再度循環経路30を循環する。
【0057】
なお、本実施形態の希釈冷凍機10を停止する場合、従来の希釈冷凍機とは異なり、低温精製器の冷却に用いた液体窒素の処理等が不要である。また、希釈冷凍機10が停止後、精製器50に再生用ガスを導入し、ヒータ70を起動することによって、精製器50内部の吸着剤(例えば、活性炭)を再生する事ができる。
【0058】
以上説明したように、本実施形態の希釈冷凍機10によれば、真空断熱された保冷外槽40の内側の空間に、機械式冷凍機20の寒冷発生部となる第1冷却ステージ21、ヘリウムガスの循環経路30に設けた精製器50とを格納するとともに、第1冷却ステージ21と精製器50とを熱伝導性を有する接続部材60を介して接触する構成となっており、第1冷却ステージ21で発生する冷熱の一部を精製器50の冷熱源として利用することができるため、精製器50への窒素の補充等の人手が不要となり、長期間の連続運転が可能となる。
【0059】
また、本実施形態の希釈冷凍機10によれば、精製器50を液体窒素の飽和温度である77K以下とすることが可能であるため、従来の低温精製器では除去が困難であった不純物の除去が可能となる。
【0060】
また、第1冷却ステージ21と精製器50とを接続する接続部材60を、熱伝導性に優れた銅製の第1部材61と、熱伝導性の低いステンレス製の第2部材62とで構成することにより、精製器50を適切な温度(60〜77K)に容易に保つことができる。
【0061】
また、本実施形態の希釈冷凍機10では、精製器50の冷却に液体窒素を使用しないため、従来の希釈冷凍機よりもランニングコストを低減することが可能となる。
【0062】
なお、本発明の技術範囲は上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。例えば、上述した実施形態では、吸着剤として活性炭を一例として記載したが、活性炭に限定されることは無く、不純物の状態に応じて他の吸着剤の使用が可能である。
【0063】
また、上述した実施形態では、第2部材62としてスペーサ兼固定具としてステンレス製のボルトを用いる構成を一例として説明したが、ステンレス製のスペーサと、更に熱伝導の悪いFRP製等のボルトとを組み合わせた構成であってもよい。
【0064】
さらに、スペーサの構造について、種々の変更を加えてもよい。具体的には、例えば、熱を伝えにくくすることを目的として、面取りして尖らせることで第1冷却ステージ21との接地面も少なくしてもよい。また、スペーサの胴部に(水玉模様の様に)横穴を開けて、断面積を少なくする構成としてもよい。また、スペーサのみを傾斜させて、距離を長くする構成としてもよい。
【0065】
以下に、具体例を用いて、本発明の効果を示す。
先ず、
図2に示す精製器を製作し、液体窒素冷却型の精製器を備える液体ヘリウムフリータイプ(機械式冷凍機型)の希釈冷凍機に内蔵した。この液体窒素冷却型の精製器と、本発明の液体窒素不要型の精製器との両方を備えた希釈冷凍機を用いて、冷却実験を行った。
【0066】
冷却実験は、具体的には、先ず、希釈冷凍機の運転開始後、最初は従来の液体窒素冷却型の精製器を用いて運転した。次に、希釈冷凍機の装置起動から180時間後に、液体窒素冷却型の精製器の運転を中止し、本発明の機械式冷凍機型の精製器の運転を開始した。
【0067】
図3は、希釈冷凍機の冷却実験における各構成要素の温度変化を示す図である。
図3に示すように、従来型の精製器と本発明の精製器とを切り替えて冷却実験を行った結果、どちらの精製器を用いた場合であっても同等の最低到達温度、温度安定性能を確認することができた。また、液体窒素が不要な本発明の精製器を用いた場合であっても、3日間以上の連続運転が可能であることが確認できた。