(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記制限手段は、前記所定条件を満たさない場合には所定値により前記相対加速度を制限し、前記上限値の絶対値は、その所定値の絶対値よりも小さいことを特徴とする、請求項1に記載の物体検知装置。
前記相対速度取得手段は、互いに検出方法及び検出範囲の少なくとも一方が異なる第1検出手段及び第2検出手段により検出された前記相対速度を、所定周期毎に取得するものであり、
前記第1検出手段及び前記第2検出手段により前記物体が検出されている状態と、前記第1検出手段及び前記第2検出手段の一方により前記物体が検出されている状態とのうち、検出状態の種別がいずれであるかを判定する種別判定手段をさらに備え、
前記所定条件は、前記種別判定手段が取得した前記種別が、前回の制御周期における前記種別と異なることである、請求項1〜8のいずれか1項に記載の物体検知装置。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、各実施形態を図面に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、図中、同一符号を付しており、同一符号の部分についてはその説明を援用する。
【0010】
<第1実施形態>
本実施形態に係る物体検知装置は、車両(自車両)に搭載され、自車両の進行方向前方等の周囲に存在する物標を検知し、その物標との衝突を回避すべく、若しくは衝突被害を軽減すべく制御を行うPCSシステムの一部として機能する。
【0011】
図1において、物体検知装置を含んで構成される運転支援ECU10は、CPU、ROM、RAM、I/O等を備えたコンピュータである。この運転支援ECU10は、CPUが、ROMにインストールされているプログラムを実行することでこれら各機能を実現する。
【0012】
運転支援ECU10には、各種の検知情報を入力するセンサ装置として、レーダ装置21が接続されている。
【0013】
レーダ装置21は、例えば、ミリ波帯の高周波信号を送信波とする公知のミリ波レーダであり、自車両の前端部に設けられ、所定の検知角に入る領域を物標を検知可能な検知範囲とし、検知範囲内の物標の位置を検出する。具体的には、所定周期で探査波を送信し、複数のアンテナにより反射波を受信する。この探査波の送信時刻と反射波の受信時刻とにより、物標との距離を算出する。また、物標に反射された反射波の、ドップラー効果により変化した周波数により、相対速度を算出する。加えて、複数のアンテナが受信した反射波の位相差により、物標の方位を算出する。なお、物標の位置及び方位が算出できれば、その物標の、自車両に対する相対距離を特定することができる。なお、レーダ装置21は、所定周期毎に、探査波の送信、反射波の受信、反射位置及び相対速度の算出を行い、算出した反射位置と相対速度とを運転支援ECU10に送信する。
【0014】
自車両は、運転支援ECU10からの制御指令により駆動する安全装置として、警報装置31、ブレーキ装置32、及びシートベルト装置33を備えている。
【0015】
警報装置31は、自車両の車室内に設置されたスピーカやディスプレイである。運転支援ECU10が、障害物に衝突する可能性が高まったと判定した場合には、その運転支援ECU10からの制御指令により、警報音や警報メッセージ等を出力して運転者に衝突の危険を報知する。
【0016】
ブレーキ装置32は、自車両を制動する制動装置である。運転支援ECU10が、障害物に衝突する可能性が高まったと判定した場合には、その運転支援ECU10からの制御指令により作動する。具体的には、運転者によるブレーキ操作に対する制動力をより強くしたり(ブレーキアシスト機能)、運転者によりブレーキ操作が行われてなければの自動制動を行ったりする(自動ブレーキ機能)。
【0017】
シートベルト装置33は、自車両の各座席に設けられたシートベルトを引き込むプリテンショナである。運転支援ECU10が、障害物に衝突する可能性が高まったと判定した場合には、その運転支援ECU10からの制御指令により、シートベルトの引き込みの予備動作を行う。また衝突を回避できない場合には、シートベルトを引き込んで弛みを除くことにより、運転者等の乗員を座席に固定し、乗員の保護を行う。
【0018】
レーダ装置21により検出された、物標の自車両に対する相対速度及び相対距離は、運転支援ECU10の物標認識部11に入力される。このとき、物標認識部11は距離取得手段及び相対速度取得手段として機能する。物標認識部11は、取得した相対距離を、車両の進行方向である縦方向の相対距離Dと、進行方向に垂直な方向である横方向の相対距離とに分解し、相対速度を縦方向の相対速度Vと、横方向の相対速度とに分解する。
【0019】
相対速度Vは、相対加速度演算部12に入力される。この相対加速度演算部12は、相対加速度算出手段として機能し、相対速度Vの微分値である相対加速度Aを算出する。具体的には、取得した相対速度Vと、前回の制御周期における相対速度Vとの差をとり、その差を制御周期で除算することにより、相対加速度Aを算出する。
【0020】
算出された相対加速度Aは、衝突時間予測部13に入力される。加えて、衝突時間予測部13には、物標認識部11から相対距離Dと相対速度Vとが入力される。衝突時間予測部13は、これら相対加速度A、相対速度V及び相対距離Dを用いて次式(1)により、自車両と物体との相対距離Dがゼロとなる時間である衝突予測時間TTCを算出する。なお、相対速度Vは、物体が自車両に接近する場合に負の値であり、相対加速度Aは、物体が自車両方向へと加速する場合に負の値である。
【0021】
【数1】
式(1)では、相対加速度A、相対速度V及び相対距離Dの値によっては、衝突予測時間TTCが負の値をとる場合や、衝突予測時間TTCが負の値をとる場合がある。そこで、相対加速度Aがゼロである場合、衝突予測時間TTCが虚数を含む場合、及び衝突予測時間TTCが負の値である場合には、式(1)の代わりに、相対加速度Aを用いない式(2)により衝突予測時間TTCを算出する。
【0022】
【数2】
なお、式(2)において、相対速度Vが正の値をとる場合、すなわち自車両と物体との距離が広がる場合には、衝突予測時間TTCが負の値となるため、衝突予測時間TTCとして、所定の上限値を設定しておく。
【0023】
衝突時間予測部13により衝突予測時間TTCが算出されれば、その衝突予測時間TTCは作動判定部14に入力される。作動判定部14では、衝突予測時間TTCと各安全装置の作動タイミングとを比較する。この作動タイミングは、警報装置31が最も早く作動するように設定されている。そして、衝突予測時間TTCが作動タイミングに到達していれば、作動判定部14は制御処理部15へ判定結果を送信し、制御処理部15は、各安全装置へと指令信号を送信する。
【0024】
ところで、レーダ装置21の検出値を用いて物体の検出をする場合には、前回の制御周期で検出した物体とは異なる物体を検出した場合でも、検出した位置が近い場合には、同一物体であるとしている。このとき、その別物体の相対速度Vの差が大きい場合等には、その相対速度Vの差に基づいて算出される相対加速度Aが、異常な値をとることとなる。
【0025】
そこで、本実施形態では、相対加速度Aを制限する値として、基準ガード値と、その基準ガード値よりも絶対値が小さい第1ガード値を用いて、算出された相対加速度Aの値を制限する。この基準ガード値及び第1ガード値について、
図2を用いて説明する。
図2では、負側における基準ガード値と第1ガード値を示している。
図2では、時刻t1までは、相対加速度Aの値が安定して算出されており、時刻t2で、物体の誤検知等により、相対加速度Aについて負の値である異常値が算出される。このとき、算出された相対加速度Aを用いて、上式(1)により衝突予測時間TTCを算出すれば、その衝突予測時間TTCはより小さい値となる。この衝突予測時間TTCと、安全装置の作動タイミングとを用いて安全装置を作動させれば、その作動が不要な作動となるおそれがある。そのため、相対加速度Aを第1ガード値又は基準ガード値により制限する。このとき、相対加速度演算部12は、制限手段として機能する。
【0026】
第1ガード値は、相対速度Vの検出値の信頼度が低い所定条件を満たした場合に用いられる値であり、算出された相対加速度Aの絶対値が第1ガード値の絶対値よりも大きい場合に、その相対加速度Aの絶対値を第1ガード値に制限する。このとき、相対
加速度
Aの符号は、絶対値処理の前の符号を用いる。基準ガード値は、所定条件を満たさず、相対速度Vの検出値の信頼度が高い場合に、相対加速度Aの値を制限する値である。物体が、自車両の進行方向前方を走行する先行車両であり、この先行車両が急ブレーキをかけた場合等、相対加速度Aとして絶対値が大きな値が算出されることがある。このとき、検出値に対してノイズが乗り、相対加速度Aの絶対値が実際の値よりも大きな値として算出されることがある。ゆえに、基準ガード値は先行車両が急ブレーキをかけた場合等における、現実的な値、例えば1G程度に設定されている。
【0027】
相対速度Vの検出値の信頼度が低い所定条件を満たすか否かを判定するために、本実施形態では、検出された相対距離Dと、相対速度Vに基づいて算出される相対距離Dの推定値Dxとの差である距離変動値ΔDを採用している。
【0028】
レーダ装置21における距離計測周期(例えば50ms)での物体との相対距離Dの推定値Dxは、(3)式により算出される。すなわち、前制御周期における相対距離Dの検出値と、相対速度Vとを用いて、推定値Dx(i)が算出される。なお、D(i−1)は相対距離Dの前回値、V(i)は相対速度Vの今回値、V(i−1)は相対速度Vの前回値、tmはレーダ装置21による距離計測周期である。推定値Dx(i)と、相対距離Dの今回値であるD(i)とを用いれば、(4)式に示すように、推定値Dx(i)と相対距離Dの今回値であるD(i)との乖離を示す距離変動値ΔD(i)を算出することができる。このΔD(i)を閾値と比較することにより、距離変動が発生したか否かを判定する。なお、閾値としては、距離計測周期において、ノイズに基づいて生ずる値よりも十分に大きく、通常では起こり得ないような値を採用する。例えば、距離計測周期が50msであれば、0.5〜1m程度の距離が設定される。
【0030】
【数4】
この、ガード値を設定する処理について、
図3のフローチャートを用いて説明する。このフローチャートの処理は、所定の制御周期毎に実行される。
【0031】
まず、レーダ装置21から検知情報を取得し(S101)、上式(3)及び上式(4)により、距離変動値ΔD(i)を算出する(S102)。算出された距離変動値ΔD(i)が閾値よりも大きければ(S103:YES)、検出した物標は、前回の制御周期で検出した物標と別物体である可能性が高いため、ガード値を第1ガード値とする(S104)。一方、算出された距離変動値ΔD(i)が閾値以下であれば(S103:NO)検出した物標は、前回の制御周期で検出した物標と同一のものである可能性が高いため、ガード値を基準ガード値とする(S105)。
【0032】
続いて、検知情報に基づいて算出した相対加速度Aの絶対値が、ガード値よりも大きい値であるか否かを判定する(S106)。相対加速度Aの絶対値がガード値よりも大きい値であれば(S106:YES)、相対加速度Aをガード値とする(S107)。なお、S107において、相対加速度Aの符号は、絶対値処理を行う前の符号を用いる。そして、得られた相対加速度Aを用いて、上式(1)により、衝突予測時間TTCを算出する(S108)。
【0033】
衝突予測時間TTCが算出されれば、その衝突予測時間TTCが安全装置の作動タイミングに到達したか否かを判定する(S109)。衝突予測時間TTCが作動タイミングに到達していれば(S109:YES)、安全装置を作動させて運転支援を実行する。一方、衝突予測時間TTCが作動タイミングに到達していなければ(S109:NO)、そのまま一連の処理を終了する。
【0034】
上記構成により、本実施形態に係る物体検知装置は、以下の効果を奏する。
【0035】
・相対速度Vの検出値の信頼度が低い条件を満たした場合に、相対加速度Aに対して第1ガード値を設定し、相対加速度Aが上限値よりも大きい場合には、その相対加速度Aを第1ガード値に制限している。これにより、相対速度Vの誤検知等に起因して相対加速度Aが実際よりも大きい数値となった場合に、その相対加速度Aの値を制限することができる。ゆえに、その相対加速度Aを用いて衝突予測時間TTCを算出し、安全装置を作動させるか否かを判定するうえで、制御の精度を向上させることができる。
【0036】
・相対速度Vの検出値の信頼度が高い場合には、第1ガード値よりも大きい値である基準ガード値により、相対加速度Aの値の制限を行っている。これにより、相対速度Vの検出値の信頼度が高い場合において、物体に急激な制動力が働いた場合等においても、相対加速度Aの値を必要以上に制限することがない。ゆえに、相対速度Vの検出値の信頼度が高い場合には安全装置の不作動を抑制することができる。
【0037】
・距離変動値ΔD(i)が閾値を越えるということは、検出した相対速度Vと、相対距離Dとの少なくとも一方が正確に検出されていないことを意味する。そのため、距離変動値ΔD(i)を用いれば、相対速度Vの検出値の信頼度が高いか否かを、判定することができる。
【0038】
<第2実施形態>
本実施形態に係る物体検知装置は、全体構成は第1実施形態と共通しており、処理が一部異なっている。
【0039】
レーダ装置21により物体の位置を検出する場合、反射波の検知ミス等により、物体の相対距離D及び相対速度Vが一時的に検出されない場合がある。本実施形態は、物体の相対距離D及び相対速度Vが検出されない場合、前回以前の制御周期の検出値を用いて物標の相対距離D及び相対速度Vを推定し、その値を外挿値として、検出値の代わりに用いている。このとき、物標認識部11は推定手段として機能する。
【0040】
この外挿値について、
図4を用いて説明する。時刻t3までは、物標の相対距離D及び相対速度Vが検出されているものとする。続く時刻t4において、物標の相対距離D及び相対速度Vが検出されなくなった場合、検出値の代わりに、検出値に基づいて推定された値である外挿値を用いる。この外挿値は、時刻t3の相対距離D及び相対速度Vと同じ値を用いてもよく、また、時刻t3の相対距離D及び相対速度V、及び、それ以前の相対距離D及び相対速度Vの履歴を用いて、算出するものとしてもよい。時刻t4での相対加速度Aは、時刻t3での相対速度Vと、時刻t4での相対速度Vの外挿値とにより算出する。なお、時刻t5でも同様に、物標の相対距離D及び相対速度Vを外挿値としている。なお、この外挿値を用いる処理において、相対速度Vが所定期間に亘って検出されない場合には、その物標が存在しなくなったものとし、外挿値を算出する処理を終了する。
【0041】
続く時刻t6において、物標の検出が再開され、相対距離D及び相対速度Vの取得が再開されたとする。このとき、時刻t5の相対速度Vは、時刻t3の値と同じ値、若しくは、時刻t3以前の値により推測された値である。そのため、時刻t5における相対速度Vは、信頼度が低く、その相対速度Vと、時刻t6の相対速度Vとを用いて相対加速度Aを算出した場合、実際の相対加速度Aから乖離した異常値が算出される可能性がある。
【0042】
そこで、本実施形態では、前回の制御周期における検出値が外挿値であり、且つ、今回の制御周期の検出値が存在する場合、すなわち、レーダ装置21により検出できる状態へと復帰した場合に、所定条件を満たすとし、ガード値を基準ガード値よりも絶対値が小さい値である第2ガード値に設定する。このガード値を設定する処理について、
図5のフローチャートを用いて説明する。このフローチャートの処理は、所定の制御周期毎に実行される。
【0043】
まず、レーダ装置21から検知情報を取得し(S201)、その検知情報に基づいて、検出値が存在するか否かを判定する(S202)。検出値が存在すると判定すれば(S202:YES)、前回の制御周期における検出値を外挿値としているか否かを判定する(S203)。前回の検出値が外挿値であれば(S203:YES)、ガード値を第2ガード値とする(S204)。
【0044】
一方、検出値が存在しない場合(S202:NO)、検出値を外挿値とし(S205)、ガード値を基準ガード値とする(S206)。なお、検出値が所定期間に亘って存在しない場合は、S205の処理を行わず、一連の処理を終了する。また、検出値が存在しており(S202:YES)、且つ、前回の検出値が外挿値でない場合(S203:NO)、算出される相対加速度Aの値の信頼度が高いため、ガード値を基準ガード値とする(S206)。
【0045】
続いて、検知情報に基づいて算出した相対加速度Aの絶対値が、ガード値よりも大きい値であるか否かを判定する(S207)。相対加速度Aの絶対値がガード値よりも大きい値であれば(S207:YES)、相対加速度Aをガード値とする(S208)。なお、S208において、相対加速度Aの符号は、絶対値処理を行う前の符号を用いる。そして、得られた相対加速度Aを用いて、上式(1)により、衝突予測時間TTCを算出する(S209)。
【0046】
衝突予測時間TTCが算出されれば、その衝突予測時間TTCが安全装置の作動タイミングに到達したか否かを判定する(S210)。衝突予測時間TTCが作動タイミングに到達していれば(S210:YES)、安全装置を作動させて運転支援を実行する(S211)。一方、衝突予測時間TTCが作動タイミングに到達していなければ(S210:NO)、そのまま一連の処理を終了する。
【0047】
上記構成により、本実施形態に係る物体検知装置は、第1実施形態に係る物体検知装置が奏する効果に加えて以下の効果を奏する。
【0048】
・検出値として外挿値を用いる場合には、その値の信頼度は一般的には低い。本実施形態では、外挿値を用いた状態から、相対速度Vを検出できている状態へと復帰した場合に、第2ガード値により相対加速度Aを制限するものとしている。したがって、信頼度の低い値を用いて相対加速度Aを算出する際に、その相対加速度Aの値が異常な値をなることを抑制することができる。
【0049】
<第3実施形態>
本実施形態では、レーダ装置21として、送信する探査波の周波数帯及び検出範囲が異なる遠距離レーダと近距離レーダとを併用している。遠距離レーダは探査波を送信する角度範囲が近距離レーダよりも狭く構成され、且つ、物体の位置を検出することが可能な距離は、近距離レーダよりも大きくなっている。なお、遠距離レーダと近距離レーダとの一方が第1検出手段として機能し、他方が第2検出手段として機能する。
【0050】
これら遠距離レーダ及び近距離レーダの検知範囲を
図6に示す。近距離レーダ波による検出のみ可能な範囲を第1領域51としており、遠距離レーダ波による検出のみが可能な範囲を第2領域52としている。また、近距離レーダ波による検出及び遠距離レーダ波による検出が共に可能な範囲を第3領域53としている。
【0051】
物体が第1領域51内の第1位置61に位置していれば、近距離レーダのみにより、その位置が検出される。物体が第2領域52内の第2位置62に位置していれば、遠距離レーダのみにより、その位置が検出される。
【0052】
この場合、例えば、近距離レーダのみによって物体の位置が検出されている状態から、近距離レーダ及び遠距離レーダによって物体の位置が検出される状態へと変化すれば、その位置は、別の物体の位置である可能性がある。
【0053】
そこで、物標認識部11は、種別判定手段として機能し、物体の検出状態が、近距離レーダ及び遠距離レーダの両方により位置が取得できている状態と、近距離レーダのみにより位置が取得できている状態と、遠距離レーダのみにより位置が取得できている状態とのいずれであるかに応じて、それぞれ異なるフュージョン種別として判定する。そして、今回判定されたフュージョン種別と、前回の制御周期におけるフュージョン種別が異なる場合には、相対速度Vの信頼度が低いとして、その相対加速度Aを制限する値として第3ガード値を設定する。この第3ガード値としては、第1実施形態の第1ガード値と同じ値を採用してもよいし、第2実施形態の第2ガード値と同じ値を採用してもよい。
【0054】
このガード値を設定する処理について、
図7のフローチャートを用いて説明する。このフローチャートの処理は、所定の制御周期毎に実行される。
【0055】
まず、レーダ装置21から検知情報を取得し(S301)、その検知情報に基づいて、検出値が存在するか否かを判定する(S302)。検出値が存在すると判定すれば(S302:YES)、前回の検出値も存在するか否かを判定する(S303)。前回の検出値も存在していれば(S303:YES)、今回の検出値のフュージョン種別と、前回の検出値のフュージョン種別とが異なるものであるかを判定する(S304)。フュージョン種別が異なるものであれば(S304:YES)、前回の制御周期で検出した物体は異なる物体を検出している可能性が高いため、ガード値を第3ガード値とする。一方、フュージョン種別が同じものであれば(S304:NO)、前回の制御周期で検出した物体と同じ物体を検出している可能性が高いため、ガード値を基準ガード値とする(S306)。なお、今回の検出値と前回の検出値の少なくとも一方が存在しない場合には(S302:NO,S303:NO)、一連の処理を終了する。
【0056】
続いて、検知情報に基づいて算出した相対加速度Aの絶対値が、ガード値よりも大きい値であるか否かを判定する(S307)。相対加速度Aの絶対値がガード値よりも大きい値であれば(S307:YES)、相対加速度Aをガード値とする(S308)。なお、S308において、相対加速度Aの符号は、絶対値処理を行う前の符号を用いる。そして、得られた相対加速度Aを用いて、上式(1)により、衝突予測時間TTCを算出する(S309)。
【0057】
衝突予測時間TTCが算出されれば、その衝突予測時間TTCが安全装置の作動タイミングに到達したか否かを判定する(S310)。衝突予測時間TTCが作動タイミングに到達していれば(S310:YES)、安全装置を作動させて運転支援を実行する(S311)。一方、衝突予測時間TTCが作動タイミングに到達していなければ(S310:NO)、そのまま一連の処理を終了する。
【0058】
上記構成により、本実施形態に係る物体検知装置は、第1実施形態に係る物体検知装置が奏する効果に加えて以下の効果を奏する。
【0059】
・検知範囲の異なるレーダ装置21を用いて物体の位置を検出する際に、フュージョン種別が異なるということは、異なる位置に存在する物体の位置を検出しているといえる。異なる物体を検出していれば、その相対速度Vから算出される相対加速度Aは異常な値をとることがある。上記構成ではフュージョン種別により第3ガード値を用いるか否かを判定しているため、相対加速度Aの制限をより正確に行うことができる。
【0060】
<第4実施形態>
本実施形態に係る物体検知装置は、全体構成は第1〜第3実施形態と共通しており、処理が一部異なっている。具体的には、第1〜第3実施形態に係る処理を共に行うものとしている。
【0061】
本実施形態におけるガード値を設定する処理について、
図8のフローチャートを用いて説明する。このフローチャートの処理は、所定の制御周期毎に実行される。
【0062】
まず、レーダ装置21から検知情報を取得し(S401)、検出値が存在するか否かを判定する(S402)。検出値が存在しなければ(S402:NO)、第2実施形態のごとく検出値を外挿値とし(S403)、基準ガード値を取得する(S404)。検出値が存在していれば(S402:YES)、前回の制御周期で検出値が存在しているか、すなわち、前回の制御周期で、検出値として外挿値が用いられていないかを判定する(S405)前回の制御周期で検出値が存在していなければ(S405:NO)、第2実施形態のごとく第2ガード値を取得する(S406)。
【0063】
前回の制御周期の検出値も存在していれば(S405:YES)、第3実施形態のごとく、今回の制御周期におけるフュージョン種別と前回の制御周期におけるフュージョン種別とが異なるものであるかを判定する(S407)。フュージョン種別が異なっていれば(S407:YES)、第3ガード値を取得する(S408)。一方、フュージョン種別が同じであれば(S407:NO)、基準ガード値を取得する(S409)。
【0064】
続いて、第1実施形態のごとく、上式(3)及び上式(4)により、距離変動値ΔD(i)を算出する(S410)。このとき、検出値が存在しない場合(S402:NO)や、前回の検出値が外挿値である場合(S405:NO)には、外挿値を用いて距離変動値ΔD(i)を算出する。距離変動値ΔD(i)が閾値よりも大きければ(S411:YES)、第1ガード値を取得し(S412)、距離変動値ΔD(i)が閾値以下であれば(S411:NO)、基準ガード値を取得する(S413)。なお、検出値が存在しない場合(S402:NO)や、前回の検出値が外挿値である場合(S405:NO)には、S410〜S413の処理を省略してもよい。
【0065】
そして、取得した各ガード値を比較し、最も小さいものをガード値として設定する(S414)。すなわち、第1〜第3ガード値のうち、2以上が取得された場合には、これらのうち最も小さい値をガード値として採用し、第1〜第3ガード値のうち、いずれかひとつ値が取得された場合には、それをガード値として採用する。また、基準ガード値のみが取得された場合には、基準ガード値をガード値として採用する。
【0066】
続いて、検知情報に基づいて算出した相対加速度Aの絶対値が、ガード値よりも大きい値であるか否かを判定する(S415)。相対加速度Aの絶対値がガード値よりも大きい値であれば(S415:YES)、相対加速度Aをガード値とする(S416)。なお、S416において、相対加速度Aの符号は、絶対値処理を行う前の符号を用いる。そして、得られた相対加速度Aを用いて、上式(1)により、衝突予測時間TTCを算出する(S417)。
【0067】
衝突予測時間TTCが算出されれば、その衝突予測時間TTCが安全装置の作動タイミングに到達したか否かを判定する(S418)。衝突予測時間TTCが作動タイミングに到達していれば(S418:YES)、安全装置を作動させて運転支援を実行する(S419)。一方、衝突予測時間TTCが作動タイミングに到達していなければ(S418:NO)、そのまま一連の処理を終了する。
【0068】
上記構成により、本実施形態に係る物体検知装置は、第1〜第3実施形態に係る物体検知装置が奏する効果に準ずる効果を奏する。
【0069】
<変形例>
・上記各実施形態において、基準ガード値を設けるものとしているが、基準ガード値については、必ずしも設ける必要はない。
【0070】
・第1実施形態及び第2実施形態では、物体との相対速度V及び相対距離Dをレーダ装置21により検出しているが、撮像装置等により検出するものとしてもよい。
【0071】
・物体との衝突を回避する制御のために用いるものであるため、物体が自車両の方向へと移動する状態、すなわち、相対加速度Aが負の値をとる場合に、各ガード値及び基準ガード値をより小さな値としてもよい。
【0072】
・上記各実施形態では、相対加速度Aの値をガード値により制限するものとしているが、相対加速度Aの変化量をガード値により制限するものとしてもよい。
【0073】
・第2実施形態において、相対速度Vが取得できておらず、相対速度Vとして外挿値を用いた状態から、相対速度Vを取得した状態へと復帰した場合に、第2ガード値を用いるものとしているが、時系列で前後する相対速度Vのうち、少なくとも一方が外挿値である場合に第2ガード値を用いるものとしてもよい。
【0074】
・第3実施形態及び第4実施形態において、遠距離レーダと近距離レーダとのフュージョン種別を判定している。この点、自車両にレーダ装置21とは検出方法が異なる撮像装置を設け、撮像装置とレーダ装置21により同一物体を検出しているか否かをフュージョン種別としてもよい。
【0075】
・第4実施形態において、第1〜第3実施形態に準ずる処理を混在させているが、第1〜第3実施形態に準ずる処理をそれぞれ独立して行った後、各ガード値のうち最も小さいものを選択する処理を行うものとしてもよい。また、第1〜第3実施形態のうち、2つの実施形態に準ずる処理をおこなうものとしてもよい。
【0076】
・上記各実施形態では、相対加速度Aを用いて衝突予測時間TTCを算出するものとしたが、自車両の進行方向前方を走行する車両に追従させて走行させる機能に対しても、同様に適用できる。
【0077】
・上記実施形態では、車両の前方に存在する障害物に対して衝突を回避するものとしているが、これに限定されるものではなく、車両の後方に存在する障害物を検出するようにして、その障害物に対して衝突を回避するシステムに適用しても良い。また、車両に対して接近してくるような障害物に対して衝突を回避するシステムに適用してもよい。なお、進行方向前方とは、車両が前進している場合には車両の前方のことを意味するが、車両が後退している場合には車両の後方ことを意味する。
【0078】
・自車両に備えられる安全装置としては、上記実施形態で示したものに限られず、操舵装置等により物体との衝突を回避するものとしてもよい。
【0079】
・上記実施形態では、運転者により車両が運転されるものとしているが、ECUにより自動的に運転されるものに対しても同様に適用可能である。また、搭載対象は車両に限られることもない。