【文献】
CHANG, Ho-lin et al.,Spinning Beacons for Precise Indoor Localization,Proceedings of the 6th ACM Conference on Embedded Networked Sensor Systems,米国,ACM,2008年11月 5日,p. 127-140
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
Pseudo-doppler法を利用するために回転盤にアンテナを固定した装置を屋内に設置する場合、直接波とマルチパスによって生じる反射波とを分離することが必要になる。
【0005】
直接波とマルチパスによって生じる反射波は、電波の到来方位が異なる。つまり、直接波と反射波とでは、見かけ上、電波発信源の方位が相違する。運動しているアンテナが受信する電波は、電波発信源の方位を反映したドップラーシフトが生じる。よって、周波数分解能を高くすることで、直接波と反射波の分離が可能となる。
【0006】
フーリエ変換では、周波数分解能Δfは窓幅の逆数で与えられる。すなわち、解析する窓幅が広くなれば、周波数分解能が高く(Δfが小さく)なり、逆に窓幅が狭くなると周波数分解能が低く(Δfが大きく)なる。
【0007】
また、もちろん、直接波と反射波の周波数差が大きいほど、直接波と反射波の分離は容易になる。そこで、ドップラーシフト量を大きくすることも必要となる。
【0008】
これらのことから、非特許文献1に記載されている装置は、大きな円盤を、回転周期をゆっくりにして回転させている。回転周期がゆっくりであっても、円盤が大きければ、円盤の外周付近に設置されているアンテナの速度は高くなるため、ドップラーシフトは大きくなる。また、回転周期がゆっくりであるため、時間窓を広くすることができる。そのため、周波数分解能Δfを高くすることもできる。
【0009】
しかし、大きな円盤を用いるため、屋内の様々な場所に容易に設置できるものではなくなってしまう。屋内の様々な場所に容易に設置できるようにするためには、小型であることが望まれる。
【0010】
円盤を小型化しつつドップラーシフトを大きくするには、角速度を速くすればよい。しかしながら、角速度を速くすると周波数解析の窓を広くとることができなくなる。時間窓TはT=N/fs(Nはサンプリング点数、fsはサンプリング周波数)の関係があり、角速度を速くするとNが小さくなるからである。角速度を速くすると周波数解析の窓を広くとることができないため、周波数分解能が低下してしまう。
【0011】
フーリエ変換による周波数解析に代えて、測定信号のモデルを用意して、そのモデルのパラメータを変化させつつ、測定信号との一致度を判定する手法を用いれば、パラメータを変化させるピッチを細かくすることで、角度分解能を上げることができる。
【0012】
しかし、アンテナの回転によりアンテナと無線タグとの距離が連続的に変化し、この距離の変化により生じるドップラーシフトを表す測定信号のモデルは、厳密に表現すると複雑なモデルになってしまう。そのため、演算量が多くなってしまう。近似を用いてモデルを簡素化すれば演算量は少なくなるが、適切な近似でない場合には、電波到来方向の推定精度が低下する。
【0013】
本発明は、この事情に基づいて成されたものであり、その目的とするところは、小型化が可能であり、角度分解能が高く、精度もよく、演算量も少なくすることができる電波到来方向推定装置および電波到来方向推定システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的は独立請求項に記載の特徴の組み合わせにより達成され、また、下位請求項は、発明の更なる有利な具体例を規定する。特許請求の範囲に記載した括弧内の符号は、一つの態様として後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものであって、本発明の技術的範囲を限定するものではない。
【0015】
上記目的を達成するための本発明は、無線タグ(300)が送信する予め設定された一定周波数の電波の到来方向を推定する電波到来方向推定装置であって、
回転盤(112)と、その回転盤を予め設定した一定周期で回転させる駆動部(113)と、その回転盤の上の回転中心以外の位置に固定されて無線タグが送信する電波を受信するアンテナ(111)とを備え、アンテナが受信した電波に基づいて定まる信号である測定信号を出力する受信部(100)と、
無線タグが送信する電波を平面波とする近似を用いて測定信号を表すモデルであって、未知パラメータとして、電波が到来する方位角と位相とを含む近似モデルと、測定信号との差の偏差平方和または偏差平方和に応じて変化する値のいずれかである偏差平方和対応値を、近似モデルの未知パラメータを変化させつつ算出し、偏差平方和に基づいて、測定信号と一致する近似モデルを決定し、決定した近似モデルにおける方位角を、電波が到来している方位角に決定する方向決定部(230)と、を備えることを特徴とする。
【0016】
本発明では、次の理由により、回転盤の小型化が可能である。無線タグが送信する周波数は一定周波数に設定されているが、実機では当然、送信する周波数にある程度の変動が生じる。アンテナの回転により生じるドップラーシフトの大きさが無線タグの送信する周波数の変動幅と同程度では、ドップラーシフトによる周波数変動を、無線タグが送信する周波数の変動と区別することができない。よって、周波数解析手法によらず、Pseudo-doppler法では、ある程度の大きさのドップラーシフトが生じる速度でアンテナを運動させる必要がある。
【0017】
回転盤を高速に回転させてしまうと窓幅が狭くなる。しかし、本発明では、フーリエ変換ではなく、受信部が出力する測定信号とその測定信号をモデル化した近似モデルとの差の偏差平方和または偏差平方和に応じて変化する値のいずれかである偏差平方和対応値を用いて、電波が到来している方位角を決定している。そのため、回転盤を高速に回転させてドップラーシフトを大きくすることができる。つまり、回転盤に固定したアンテナの速度を速くするために回転盤を大きくする必要がない。したがって、回転盤の小型化が可能である。また、角度分解能を高くするためには、数値探索するピッチを狭くすればよいことから、角度分解能を高くすることも容易である。
【0018】
そして、本発明では、次の理由により、演算量を少なくしつつも、精度よく方位角を推定することができる。本発明では、アンテナが回転移動して無線タグに対して接近離隔を繰り返すことにより、アンテナが受信する電波にドップラーシフトが生じるため、アンテナが受信する電波の周波数は、アンテナの回転移動に伴って変動する。そのため、アンテナが受信する電波を厳密にモデル化すると、複雑なモデルとなり、演算量が多くなってしまう。
【0019】
そこで、本発明では、測定信号を表す近似モデルを考える。無線タグが送信する電波は、実際には球面波であるが、本発明における近似モデルは、無線タグが送信する電波を平面波であると近似して求めている。
【0020】
平面波とする近似は、アンテナの位置によらず、無線タグはアンテナに対して同じ方向に存在するとみなすものである。アンテナの回転半径と比較して、アンテナから無線タグまでの距離が長いほど、アンテナが回転しても、アンテナに対する無線タグの方向変化は少ない。本発明では、すでに説明したように、回転盤を小型化することができる。回転盤が小型であれば、アンテナの回転半径も小さくなる。アンテナの回転半径が小さくなれば、アンテナの回転半径と比較して、アンテナから無線タグまでの距離が長くなりやすい。したがって、平面波とする近似は、回転盤が小型化できる本発明においては、アンテナが受信する電波を厳密にモデル化した場合に近い精度で方位角を推定できる。厳密にモデル化した場合に近い精度で方位角を推定できることから、平面波とする近似は、回転盤が小型化できる本発明では、精度よく方位角を推定できる。
【0021】
また、平面波とする近似を用いた近似モデルは、詳しくは後述するが、厳密にモデル化した場合には存在する平方根がない。したがって、厳密にモデル化する場合に比較して、演算量も大きく低減できる。
【0022】
さらに、本発明では、この近似モデルと測定信号の一致を評価する値として、近似モデルと測定信号との差の偏差平方和または偏差平方和に応じて変化する値のいずれかである偏差平方和対応値を用いる。偏差平方和対応値を用いる理由は、測定信号に含まれている直流オフセット成分の変動の影響を受けにくい値で近似モデルと測定信号の一致を評価するためである。
【0023】
ここで、本発明とは異なり、測定信号に含まれている直流オフセット成分の量を事前に計測しておいて、測定信号から直流オフセット成分を除去することを考える。直流オフセット成分の大きさは、温度などの環境変化要因によって変動する。そのため、測定信号から直流オフセット成分を除去する場合には、除去する直流オフセット成分の量を、環境温度が一定とみなせなくなる時間間隔ごとなど、ある程度の時間ごとに動的に変化させる必要がある。しかし、精度よく、除去する直流オフセット成分の量を動的に変化させるのは困難である。また、この直流オフセット成分を近似モデルの未知パラメータに加えることも考えられるが、この場合には、未知パラメータが増えることによって、演算量が増大してしまう。
【0024】
しかし、直流オフセット成分は、電波到来方向の推定値を1組決定する程度の時間であれば、変動は大きくない。したがって、本発明のように、偏差平方和を表す値を、近似モデルと測定信号の一致を評価する値として用いることで、測定信号に含まれている直流オフセット成分が環境変化要因によって変動しても、精度よく方位角を決定できる。また、直流オフセット成分を未知パラメータとしていないので、演算量が増大することも抑制できる。
【0025】
請求項2記載の発明では、受信部は、アンテナが受信した電波の周波数を、アンテナの回転速度により定まる最大ドップラーシフトよりも中心周波数が低くなるように低下させた低周波信号を生成する低周波信号生成部(120)を備え、測定信号として低周波信号を出力し、
近似モデルは、無線タグが送信する電波を平面波とする近似を用いて、低周波信号生成部が生成した低周波信号を表すモデルであり、
方向決定部は、方位角については180度以下の変化範囲として近似モデルの未知パラメータを変化させつつ、近似モデルと低周波信号についての偏差平方和対応値を、アンテナが180度よりも多く回転する区間に渡り算出して、低周波信号と一致する近似モデルを決定する。
【0026】
この発明では、低周波信号生成部において低周波信号を生成する。この低周波信号は、アンテナの回転速度により定まる最大ドップラーシフトよりも中心周波数が低いので、周波数が負になることがある。
【0027】
無線タグが送信する電波を平面波と近似することにより、近似モデルは、近似していない場合に対して位相誤差が生じる。ここで、アンテナの回転によるドップラーシフトにより周波数が変動するのであるから、周波数が負である状態は、周波数が正である状態に対して、アンテナの回転方向が反転した状態とみなすことができる。
【0028】
そして、近似モデルに生じる位相誤差は、無線タグからアンテナの回転中心までの距離と、無線タグからアンテナまでの距離との距離差により生じる。したがって、アンテナの回転方向が反転すれば、位相誤差も反対方向に生じる。
【0029】
周波数が正である場合と周波数が負である場合とで位相誤差が互いに反対方向になることから、偏差平方和対応値を算出する区間に、周波数が正となる区間および負となる区間を含ませれば、位相誤差を相殺することができる。
【0030】
周波数の正負が反転するのは、アンテナと、アンテナの回転中心と、無線タグが一直線上に並ぶときである。そのため、アンテナが180度回転するごとに、周波数の正負は反転する。
【0031】
本発明の方向決定部は、偏差平方和対応値を算出する区間をアンテナが180度よりも多く回転する区間としているので、周波数が正である場合の位相誤差と周波数が負である場合の位相誤差が相殺されることになる。したがって、測定信号と一致する近似モデルとして、実際の測定信号に対する位相誤差が少ない近似モデルを決定することができる。その結果、近似モデルから決定する方位角の精度がより向上する。
【0032】
請求項3記載の発明では、受信部は、アンテナが受信した電波の周波数を、アンテナの回転速度により定まる最大ドップラーシフトよりも中心周波数が低くなるように低下させた低周波信号のI成分であるI成分信号および低周波信号のQ成分であるQ成分信号を生成する低周波信号生成部(120)を備え、測定信号としてI成分信号およびQ成分信号を出力し、
近似モデルは、無線タグが送信する電波を平面波とする近似を用いて、低周波信号生成部が生成したI成分信号、Q成分信号をそれぞれ表すI成分近似モデル、Q成分近似モデルであり、
方向決定部は、方位角については180度よりも広い変化範囲としてI成分近似モデルおよびQ成分近似モデルの未知パラメータを変化させつつ、I成分近似モデルとI成分信号についての偏差平方和対応値、およびQ成分近似モデルとQ成分信号についての偏差平方和対応値を、アンテナが180度よりも多く回転する区間に渡り算出して、I成分信号に一致するI成分近似モデル、およびQ成分信号に一致するQ成分近似モデルを決定する。
【0033】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の発明における低周波信号を、I成分信号とQ成分信号に分けている。また、近似モデルも、I成分近似モデル、Q成分近似モデルとしている。そして、方向決定部は、I成分信号とI成分近似モデルについての偏差平方和対応値と、Q成分信号とQ成分近似モデルについての偏差平方和対応値を算出している。
【0034】
I成分信号とQ成分信号に分けて、それらの信号と近似モデルについての偏差平方和対応値を算出している理由は、I成分近似モデル、Q成分近似モデルにおける未知パラメータである方位角を180度よりも広い範囲に渡り変化させるからである。すなわち、方位角の探索範囲が180度よりも広いからである。
【0035】
詳しくは後述するが、I成分近似モデルおよびQ成分近似モデルは、方位角が180度異なっていることに加えて、位相も異なっている波形と互いに同じ波形になることがある。そのため、方位角の探索範囲が180度よりも広い場合、I成分近似モデルおよびQ成分近似モデルのいずれか一方だけでは、方位角を確定させることができない。
【0036】
しかし、I成分近似モデルおよびQ成分近似モデルのいずれかが、方位角が180度異なっている波形と同じ波形になるパラメータを他方の近似モデルに代入すると、その他方の近似モデルでは、方位角が互いに180度異なっている2つの波形は異なる波形になる。したがって、方位角の探索範囲が180度よりも広くても、I成分近似モデルおよびQ成分近似モデルの2つのモデルを用いることにより、方位角を確定させることができる。
【0037】
請求項4記載の発明では、低周波信号生成部は、中心周波数が0Hzとなる低周波信号を生成し、
方向決定部は、偏差平方和対応値を算出する区間を、アンテナが360度回転する区間とする。
【0038】
請求項5記載の発明では、低周波信号生成部は、中心周波数が0HzとなるI成分信号およびQ成分信号を生成し、
方向決定部は、偏差平方和対応値を算出する区間を、アンテナが360度回転する区間とする。
【0039】
これら請求項4、5記載の発明によれば、低周波信号生成部は、中心周波数が0Hzとなる低周波信号あるいはI成分信号およびQ成分信号を生成している。中心周波数が0Hzとなる場合、アンテナが1回転する間において、近似モデルの正の周波数の区間における位相誤差と、その近似モデルの負の周波数における位相誤差とが、逆符号で絶対値が等しくなる。そして、偏差平方和対応値を算出する区間をアンテナが360度回転する区間としているので、位相誤差を精度よく相殺することができる。そのため、近似モデルから決定する方位角の精度がより向上する。
【0040】
請求項6記載の発明では、近似モデルは、複数の到来波の合成波を低周波信号に変換したモデルであって、無線タグが送信する電波の周波数をf
RF、アンテナの回転半径をR、光速をv
c、時刻をt、各到来波の方位角をφ
m、各到来波の仰角をδ
m、各到来波の振幅をA
m、各到来波の位相をΨ
m、到来波の数をN、近似モデルをV
refとしたとき、式1または式2と、式3、式4、式5で表されるモデルであり、
【数1】
【数2】
【数3】
【数4】
【数5】
方向決定部は、サンプリング番号をk、総サンプリング数をK、測定信号と近似モデルとの差をV
k、差の平均値をVバーとしたとき、式6で表す偏差平方和eが最小となる複数の到来波の方位角および仰角の組み合わせを探索するものであって、
【数6】
式6をBで偏微分した式と、式6をCで偏微分した式をそれぞれ0とすることで立式される連立方程式を解くことによりB、Cを算出し、算出したB、Cを用いて、偏差平方和eが最小となる複数の到来波の方位角および仰角の組み合わせを探索する。
【0041】
この請求項6に係る発明によれば、振幅Aと位相ΨをパラメータとするB、Cを連立方程式により算出できるので、式6における未知パラメータから到来波の振幅Aと位相Ψを除外できる。したがって、探索する必要がある未知パラメータが少なくなるので、計算を迅速に行うことができる。
【0042】
請求項7記載の発明では、I成分近似モデルおよびQ成分近似モデルは、それぞれ、複数の到来波の合成波のI成分、Q成分を低周波信号に変換したモデルであって、無線タグが送信する電波の周波数をf
RF、アンテナの回転半径をR、光速をv
c、時刻をt、各到来波の方位角をφ
m、各到来波の仰角をδ
m、各到来波の振幅をA
m、各到来波の位相をΨ
m、到来波の数をN、I成分近似モデルをI
ref、Q成分近似モデルをQ
refとしたとき、I成分近似モデルは式7、式9、式10、式11で表されるモデルであり、Q成分近似モデルは式8、式9、式10、式11で表されるモデルであり、
【数7】
【数8】
【数9】
【数10】
【数11】
方向決定部は、サンプリング番号をk、総サンプリング数をK、I成分信号とI成分近似モデルとの差をI
k、I成分信号とI成分近似モデルとの差の平均値をIバー、Q成分信号とQ成分近似モデルとの差をQ
k、Q成分信号とQ成分近似モデルとの差の平均値をQバーとしたとき、式12で表す偏差平方和eが最小となる複数の到来波の方位角および仰角の組み合わせを探索するものであって、
【数12】
式12をBで偏微分した式と、式12をCで偏微分した式をそれぞれ0とすることで立式される連立方程式を解くことによりB、Cを算出し、算出したB、Cを用いて、偏差平方和eが最小となる複数の到来波の方位角および仰角の組み合わせを探索する。
【0043】
この請求項7に係る発明も、連立方程式によりB、Cを算出できるので、式12における未知パラメータから到来波の振幅Aと位相Ψを除外できる。したがって、探索する必要がある未知パラメータが少なくなるので、計算を迅速に行うことができる。
【0044】
請求項8記載の発明では、方向決定部は、偏差平方和対応値として、偏差平方和eを算出する式から測定信号のみの項を除いた式により計算される値を算出する。
【0045】
このようにすれば、測定信号のみの項を演算しなくても、偏差平方和eが最小となる複数の到来波の方位角および仰角の組み合わせを探索できることから、計算量を少なくできる。
【0046】
請求項9記載の発明では、方向決定部は、偏差平方和対応値として、偏差平方和eを算出する式からI成分信号のみの項およびQ成分信号のみの項を除いた式により計算される値を算出する。
【0047】
この請求項9においても、測定信号のみの項を演算しなくても、偏差平方和eが最小となる複数の到来波の方位角および仰角の組み合わせを探索できることから、計算量を少なくできる。
【0048】
請求項10記載の発明では、偏差平方和対応値を算出する式の一部であって、zが定まることにより値を計算できるz因子項に、複数の方位角、時刻を入力して計算したz因子項の計算値を記憶した記憶部(220)を備えており、
方向決定部は、記憶部に記憶されているz因子項の計算値を用いて、偏差平方和対応値を算出する。
【0049】
このように、予め計算したz因子項の計算値を用いて偏差平方和対応値を算出すれば、方位角および仰角を探索する際の演算量が少なくなるので、方位角および仰角を迅速に推定できる。
【0050】
請求項11記載の発明は、請求項1〜10のいずれか1項に記載の電波到来方向推定装置と、無線タグとを備えた電波到来方向推定システムである。
【発明を実施するための形態】
【0052】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。本実施形態の電波到来方向推定システムは、
図1に示す無線タグリーダ1と無線タグ300とを含んで構成される。無線タグリーダ1は、請求項の電波到来方向推定装置として機能する。
【0053】
無線タグ300は、予め設定された一定の搬送波周波数f
0の無変調波を送信する。この無線タグ300はアクティブ型であり、電波は連続的に送信してもよいが、電池寿命の点で、断続的に電波を送信することが好ましい。無線タグ300は人に携帯されるものであり、衣服のポケットに容易に収容可能な大きさである。
【0054】
無線タグリーダ1は、受信部100と、信号処理部200とを備え、受信部100は、アンテナ部110と、低周波信号生成部120とを備える。
【0055】
[アンテナ部110の説明]
アンテナ部110は、アンテナ111、回転盤112、駆動部113を備える。アンテナ111は、回転盤112の外周縁に固定される。アンテナ111の形状および大きさは、無線タグ300が送信する無変調波を受信でき、回転盤112において回転中心以外の場所に固定できる大きさであれば、それ以外に制限はない。
【0056】
回転盤112は、駆動部113によって回転させられる。回転盤112の形状は円盤形状に限らないが、駆動部113に対して偏心していないことが望ましい。回転盤112は、室内にも容易に設定できる大きさになっている。たとえば、直径10cmの円盤である。回転盤112が回転すると、その上に固定されているアンテナ111も同時に回転する。
【0057】
駆動部113は、モーターを備えた構成であり、一定周期で回転盤112を回転させる。この一定周期は、確保したいドップラーシフトから定まるアンテナ111の回転速度と、アンテナ111の回転半径から定める。
【0058】
[低周波信号生成部120の説明]
低周波信号生成部120は、バンドパスフィルタ121、局部発振器122、ミキサ123、ローパスフィルタ124、A/D変換器125、位相シフト器126、ミキサ127、ローパスフィルタ128、A/D変換器129を備えている。
【0059】
バンドパスフィルタ121は、無線タグ300が送信する電波の周波数を中心として、アンテナ111が回転することにより生じるドップラーシフトから定まる周波数域を通過周波数帯域としている。このバンドパスフィルタ121には、アンテナ111が受信した受信信号が入力され、この受信信号からノイズを除去する。なお、受信信号がアンテナ111からバンドパスフィルタ121に送られる伝送路上において、回転盤112とともに回転する回転側伝送路の一端と、その一端に対向する非回転側伝送路の一端との間は、アンテナパターンを対向させて無線により伝送するようにしている。ただし、無線による伝送に代えて、スリップリングを用いてもよい。
【0060】
局部発振器122は、無線タグ300が送信する搬送波周波数f
0と同じ周波数の局部発振信号を生成する。ミキサ123は、局部発振信号と、バンドパスフィルタ121が出力した信号を混合して、局部発振信号の周波数とバンドパスフィルタ121が出力した周波数との和の周波数および差の周波数の信号を出力する。
【0061】
ローパスフィルタ124は、ミキサ123が出力した信号から、局部発振信号の周波数とバンドパスフィルタ121が出力した周波数の差の周波数の信号を抽出する。局部発振信号の周波数が、無線タグ300が送信する搬送波周波数f
0と同じ周波数であることから、ローパスフィルタ124が抽出する信号は、中心周波数が0Hzとなっている。このローパスフィルタ124が出力する信号を、以下、I成分信号という。A/D変換器125は、ローパスフィルタ124が抽出したアナログ信号であるI成分信号をデジタル信号に変換する。
【0062】
位相シフト器126は、局部発振信号の位相を90°シフトさせる。ミキサ127は、位相シフト器126により90°位相がシフトされた局部発振信号と、バンドパスフィルタ121が出力した信号とを混合する。ローパスフィルタ128は、ミキサ127が出力した信号から、局部発振信号の周波数とバンドパスフィルタ121が出力した周波数の差の周波数の信号を抽出する。ただし、ローパスフィルタ128が出力する信号は、I成分信号に対して90°位相がずれている。ローパスフィルタ128が出力する信号を、以下、Q成分信号という。このQ成分信号も中心周波数は0Hzとなっている。A/D変換器129は、ローパスフィルタ128が抽出したアナログ信号であるQ成分信号をデジタル信号に変換する。なお、A/D変換器125、129が出力するI成分信号、Q成分信号は、請求項の低周波信号および測定信号に相当する。
【0063】
[信号処理部200の説明]
信号処理部200は、信号取得部210、記憶部220、方向決定部230を備える。信号取得部210は、A/D変換器125、129からI成分信号、Q成分信号を取得して、取得した信号を記憶部220に格納する。
【0064】
無線タグ300は無変調波を送信している。しかし、アンテナ111は回転盤112が回転することにより、無線タグ300に対する距離が変化する。そのため、アンテナ111が受信する電波の周波数は変動する。したがって、信号取得部210が取得するI成分信号およびQ成分信号も周波数が変動する。
【0065】
記憶部220には、請求項の偏差平方和対応値である、後述する式70に示すEを計算する式を記憶している。また、記憶部220には、このEを算出する式で用いる変数Sについて、時刻t、方位角φ、仰角δを種々変更して予め計算した計算値も記憶している。
【0066】
Eは、偏差平方和eを算出する式から測定信号のみの項を除いた式により算出される値である。偏差平方和eは、測定信号と、この測定信号を、平面波近似によりモデル化した近似モデルとの差である残差について算出した偏差平方和である。
【0067】
また、本実施形態では、測定信号は、具体的には、I成分信号およびQ成分信号であるので、近似モデルもI成分信号をモデル化したI成分近似モデルと、Q成分信号をモデル化したQ成分近似モデルである。まず、これらI成分近似モデルおよびQ成分近似モデルを説明する。
【0068】
[I成分近似モデル、Q成分近似モデルの説明]
I成分近似モデル、Q成分近似モデルを説明するには、まず、アンテナ111が受信する受信信号を、近似を行わないで表したモデル(以下、厳密モデル)を説明する必要がある。
【0069】
図2は、アンテナ111と無線タグ300との相対位置を説明する図である。この
図2に示すように、以下の説明では、無線タグ300が送信する電波は、周波数がf
RF、振幅がA、位相がΨ
Tであるとする。アンテナ111の回転角速度はωとし、回転角度はθとする。時間tを用いると、θ=ωtとなる。また、基準方位に対する無線タグ300の方位角をφ、回転盤112の中心位置と無線タグ300とを結ぶ線分が回転盤112を含む平面に対してなす角を仰角δとし、アンテナ111の回転半径をRとする。
【0070】
また、無線タグ300と回転盤112の中心との距離をL
0、無線タグ300とアンテナ111との間の距離をL
Rとし、無線タグ300の位置をP
t(x
t、y
t、z
t)、回転盤112の中心位置をP
0(x
0、y
0、z
0)、アンテナ111の位置をP
R(x
R、y
R、z
R)とする。
【0071】
アンテナ111の初期角度をx軸方向であるとすると、アンテナ111の位置P
Rは、下記式13で表すことができる。
【数13】
【0072】
また、無線タグ300の位置P
tは、回転盤112の中心位置P
0(x
0、y
0、z
0)、仰角δ、方位角φを用いて式14で表すことができる。
【数14】
【0073】
無線タグ300とアンテナ111との間の距離L
Rは式15で表すことができる。この式15に、式13、式14を代入して整理すると、式16が得られる。
【数15】
【数16】
【0074】
式16が得られるので、光速をv
Cとすると、アンテナ111が受信する受信信号V
Rは式17で表すことができる。
【数17】
【0075】
通常、空中に放射するために電波の周波数は高い。したがって、受信信号V
Rの周波数も高いので、ローカル信号とミキシングして周波数を下げる。周波数f
LO、位相Ψ
LOの信号でミキシングすると、ミキシング後の受信信号V
Rは式18で表される。この式18が厳密モデルである。
【数18】
【0076】
アンテナ111が円運動することに伴いL
Rは増減する。したがって、式18から、ミキシング後の受信信号V
Rの周波数は、時間経過により変動することが分かる。そのため、精度のよい解析を行うにはある程度の窓幅が必要になるフーリエ変換法では、ミキシング後の受信信号V
Rを精度よく解析することができない。
【0077】
そこで、本実施形態ではモデルマッチにより、方位角φおよび仰角δの推定を行う。しかし、式18に示した厳密モデルは、無線タグ300とアンテナ111との間の距離L
Rを含んでおり、この距離L
Rは、式15に示すように、式全体が平方根内にある。したがって、式18の厳密モデルを用いると、複雑な計算が必要となる。本実施形態では、計算を簡略化するために、無線タグ300が送信する電波を平面波であると近似して、式18に示した厳密モデルを近似した近似モデルを用いる。
【0078】
無線タグ300が送信する電波を平面波であると考えると、アンテナ111が受信する電波は、アンテナ111の位置によらず、無線タグ300からアンテナ111の回転中心に向かう電波と平行になっていると考えることができる。
【0079】
この場合、
図3に示すように、アンテナ111に到達する電波は、無線タグ300からアンテナ111の回転中心への電波に対して垂直な平面P
Lの上の近似電波発信源300aから送信されたとみなすことができる。
【0080】
図3において、L
R’は近似電波発信源300aからアンテナ111までの距離である。また、sは方位角φの方向を表す軸である。このs軸とz軸とを含む平面を表す図が
図4である。
【0081】
図4から、近似電波発信源300aからアンテナ111までの近似距離L
R’は、式19で表すことができることが分かる。
【数19】
【0082】
式19に示す近似距離L
R’をL
Rの代わりに用いる、すなわち、式18に対して距離L
Rに近似距離L
R’を代入し、さらに、位相をΨ’としてまとめると、式20が得られる。この式20を、以下では近似モデルという。
【数20】
【0083】
式17と異なり、式20は平方根がないシンプルな形になっている。本実施形態では、この式20に示した近似モデルを元にして導出したI成分近似モデルとQ成分近似モデルを用いる。
【0084】
I成分近似モデルとQ成分近似モデルを用いる理由は、式20の近似モデルは、実際の受信波形に対して位相誤差が生じるからである。
図5に、適当なパラメータを設定した近似モデルの波形と、近似なしの波形、すなわち厳密モデルの波形とを比較して示す。
【0085】
近似なしの波形に比べて、近似モデルの波形は位相が進んでいる。近似モデルの波形の位相が進む理由は、
図6に示すように、近似モデルでは、電波が到達するまでの距離が短いためである。
【0086】
図6において、無線タグ300とアンテナ111の間の距離L
Rと近似距離L
R’との差は、アンテナ111の角度が電波到来方向に対して垂直なほど大きい。また、その差の最大値は、無線タグ300がアンテナ111に近いほど大きく、アンテナ111の回転半径Rが大きいほど大きくなる。したがって、近似モデルを用いて求める無線タグ300の方位角φと仰角δの誤差も、アンテナ111の角度が電波到来方向に対して垂直なほど大きく、また、無線タグ300がアンテナ111に近く、かつ、アンテナ111の回転半径Rが大きいほど大きくなる。
【0087】
本実施形態で用いるI成分近似モデル、Q成分近似モデルは、式20の近似モデルの中心周波数を0Hzまで落とし、かつ、I成分とQ成分に分けた信号のモデルである。
【0088】
受信信号V
Rの中心周波数を0Hzまで低下させるためには、無線タグ300が送信する周波数f
RFと同じ周波数の信号を受信信号V
Rにミキシングすればよい。ミキシング後の信号のI成分を表す式は、式18においてf
IF=0とすることで得られる。また、ミキシング後の信号のQ成分は、ミキシング後の信号のI成分に直交している。したがって、ミキシング後の信号のI成分、Q成分を表す式は、式21で表すことができる。
【数21】
【0089】
位相Ψ
Tと位相Ψ
LOは固定値であるので、これらをまとめると、ミキシング後の信号のI成分、Q成分を表す式は、式22で表すことができる。
【数22】
【0090】
この式22のL
Rに、式19に示したL
R’を代入すると、式23が得られる。式23はI成分近似モデルとQ成分近似モデルである。
【数23】
【0091】
図7は、
図5の近似モデルの波形に対応するI成分近似モデルの波形と、近似なしの波形のI成分信号とを比較して示している。
図8は、
図5の近似モデルの波形に対応するQ分近似モデルの波形と、近似なしの波形のQ成分信号とを比較して示している。なお、
図7、8の例は、無線タグ300が0度方向に存在している場合である。
【0092】
図7、
図8に示すように、I成分近似モデル、Q成分近似モデルともに、近似なしの波形に対する位相誤差は生じている。しかし、
図5とは異なり、I成分近似モデル、Q成分近似モデルともに、近似なしの波形に対して、位相は進んだり遅れたりしている。
【0093】
より詳しくは、0度から180度までは、I成分近似モデル、Q成分近似モデルの波形は近似なしの波形よりも位相が遅れ、180度から360度までは位相が進んでいる。
【0094】
この理由は次の通りである。中心周波数を0Hzとしているので、アンテナ111が無線タグ300から遠ざかる方向に移動しているときは、ドップラーシフトにより、I成分信号、Q成分信号は負の周波数となる。負の周波数となる区間では、正の周波数となる区間とは回転方向が反転する。回転方向が反転するため、位相がずれる方向も、正の周波数となる区間とは反対方向になるのである。
【0095】
この位相遅れと位相進みを両方とも生じさせて、それら位相遅れと位相進みを互いに相殺するために、本実施形態では、中心周波数を0Hzとしている。
【0096】
[2つの近似モデルを用いる理由]
しかし、中心周波数を0Hzとすると、測定信号をI成分信号およびQ成分信号に分け、それらI成分信号およびQ成分信号をともにマッチングしないと、方位角φを一意に決定できない場合が生じる。
【0097】
I成分近似モデルおよびQ成分近似モデルともに、方位角φが180度異なっていても、同じ波形になることがあるからである。このことを式変形を行なって説明する。
【0098】
式23において、φにφ+π、Ψに−Ψを代入すると、式24になる。
【数24】
【0099】
cos(a−π)=−cos(a)であるから、式24は式25に変形できる。
【数25】
【0100】
cos(−a)=cos(a)、sin(−a)=−sin(a)であるから、式25は式26に変形できる。
【数26】
【0101】
式26におけるI成分近似モデルは、式23におけるI成分近似モデルと同じである。つまり、I成分近似モデルは、方位角φが180度異なっていても、合わせて位相Ψが逆符号になると、それらを互いに区別することができない。しかし、式23におけるQ成分信号モデルと、式26におけるQ成分信号モデルは異なるため、Q成分信号モデルから、(φ、Ψ)と(φ+π、−Ψ)とを区別できることが分かる。
【0102】
しかし、Q成分近似モデルは、(φ、Ψ)と(φ+π、−Ψ+π)を区別することができない。このことを次に説明する。
【0103】
式23において、φにφ+π、Ψに−Ψ+πを代入すると、式27になる。
【数27】
【0104】
cos(a−π)=−cos(a)であるから、式27は式28に変形できる。
【数28】
【0105】
cos(a+π)=−cos(a)、sin(a+π)=−sin(a)であるから、式28は、式29に変形できる。
【数29】
【0106】
cos(−a)=cos(a)、sin(−a)=−sin(a)であるから、式29は式30に変形できる。
【数30】
【0107】
式30におけるQ成分近似モデルは、式23におけるQ成分近似モデルと同じである。したがって、Q成分近似モデルは、(φ、Ψ)と(φ+π、−Ψ+π)を区別することができない。しかし、式23におけるI成分信号モデルと、式30におけるI成分信号モデルは異なるため、I成分信号モデルから、(φ、Ψ)と(φ+π、−Ψ+π)とを区別できることが分かる。
【0108】
このように、式23のI成分近似モデル、Q成分近似モデルは、それぞれ、単独では方位角φを180度ずらした場合との区別ができないので、180度よりも広い角度範囲にわたり探索する場合には、I成分近似モデルとQ成分近似モデルの両方が必要になる。
【0109】
[合成波の近似モデルの説明]
式30に示した近似モデルは、単一波のモデルである。無線タグリーダ1が電波到来方向を推定する環境では、マルチパスが生じることが想定される。そこで、マルチパスによって生じた複数の到来波が合成された合成波の近似モデルを考える必要がある。
【0110】
合成波のI成分近似モデルおよびQ成分近似モデルは、それぞれ、式30に示すモデルを複数波分、足し合わせたモデルになるので、式31で表すことができる。
【数31】
【0111】
式31を、合成する到来波の数をNとして一般化すると、式32になる。
【数32】
【0112】
[残差の偏差平方和の説明]
本実施形態では、I成分近似モデルとI成分信号の残差の偏差平方和およびQ成分近似モデルとQ成分信号の残差の偏差平方和を考える。具体的には、上記2つの偏差平方和を加算した偏差平方和eを考える。この偏差平方和eを考える理由は、I成分信号およびQ成分信号に含まれている直流オフセット成分の影響を除去するためである。
【0113】
I成分信号およびQ成分信号に含まれている直流オフセット成分は、受信部100を構成する種々の素子の温度特性などにより生じる。これに対して、I成分近似モデルやQ成分近似モデルには、直流オフセット成分は考慮されていない。そのため、この直流オフセット成分の影響を除去して、I成分信号とI成分近似モデルの一致、およびQ成分信号とQ成分近似モデルの一致を評価する必要がある。直流オフセットの影響により、I成分近似モデルとI成分信号との間、およびQ成分近似モデルとQ成分信号との間に絶対値の違いがあっても、波形の形状が互いに似ていれば、どの時刻でも残差は似たような値になる。したがって、波形の形状が互いに似ていれば、残差の偏差平方和は小さくなる。そこで、本実施形態では、これらの信号とモデルの残差の偏差平方和により、互いの一致度を評価するのである。
【0114】
残差の偏差平方和eを計算が簡単な式とするために、まず、I成分近似モデルおよびQ成分近似モデルを簡略化する。
【0115】
式32の一部を式33に示す変数zに置き換えると、式34が得られる。
【数33】
【数34】
【0116】
さらに、振幅Aと位相Ψを、式35に示す変数B
m、変数C
mに変換すると、式34の一部は式36のように変換できる。
【数35】
【数36】
【0117】
この式36を用いると、式34は式37のように表すことができる。
【数37】
【0118】
連続時間系で、I成分信号I
get(t)とI成分近似モデルI
ref(t)の残差I
tは式38で表され、Q成分信号Q
get(t)とQ成分近似モデルQ
ref(t)の残差Q
tは式39で表される。
【数38】
【数39】
【0119】
したがって、連続時間系において、残差I
tの平均Iバーは式40で表され、残差Q
tの平均Qバーは式41で表される。なお、tはサンプリング時刻、Tは、サンプリング期間、換言すれば、偏差平方和eを算出する期間である。
【数40】
【数41】
【0120】
これら式40、式41より、離散時間系において、残差I
tの偏差平方和と残差Q
tの偏差平方和の和である偏差平方和eは式42で表される。なお、k、Kは、それぞれ連続時間系におけるt、Tに対応しており、kはサンプリング番号、Kは総サンプリング数である。
【数42】
【0121】
式42に示す偏差平方和eが最小になる近似モデルが、測定したI成分信号、Q成分信号を最もよく表している。式42は、式38〜式41から分かるように、I成分近似モデルI
ref(t)とQ成分近似モデルQ
ref(t)が定まることにより求められる。
【0122】
そして、式35に示した文字の置き換えをしたことにより、I成分近似モデルI
refとQ成分近似モデルQ
refにおける未知パラメータ、すなわち、式42における未知パラメータは方位角φ
m、仰角δ
m、B
m、C
mとなる。
【0123】
ここで、B
m、C
mを求めることを考える。偏差平方和eをn番目の到来波のB
n、C
nでそれぞれ偏微分すると、式43、式44が得られる。
【数43】
【数44】
【0124】
この式43、式44において、偏微分の項は、式45、式46に示すように、zのみの変数、すなわち、到来方向である方位角φと仰角δのみの変数となる。
【数45】
【数46】
【0125】
これら式45、式46と式38〜式41により、式43を置き換えると、式47が得られる。
【数47】
【0126】
式47を、式37を用いて変形すると、式48が得られる。
【数48】
【0127】
式48をB
m、C
mについて整理すると、式49が得られる。
【数49】
【0128】
Cについても同様の式変形をする。すなわち、式45、式46と式38〜式41により、式44を置き換えると、式50が得られる。
【数50】
【0129】
式50を、式37を用いて変形すると、式51が得られる。
【数51】
【0130】
式51をB
m、C
mについて整理すると、式52が得られる。
【数52】
【0131】
式49、式52を文字の置き換えにより単純化するため、式53〜式58に示す下記変数を考える。変数Dは、測定信号が得られれば計算できる変数であり、変数Sはzの変数である。
【数53】
【数54】
【数55】
【数56】
【数57】
【数58】
【0132】
式53〜式58に示した変数により、式49、式52を置き換えると、式59、式60が得られる。
【数59】
【数60】
【0133】
Eを最小にするB
m、C
mを求めたいので、式59、式60の左辺を0とした式を考えることになる。すなわち、式61を考える。
【数61】
【0134】
式61は、n番目(n=1〜N)の到来波ごとに、B
m、C
mに関して、2N本の連立方程式が得られる。方位角φ
m、φ
n、仰角δ
m、δ
nを当てはめればz
m、z
nが求められるので、方位角φ
m、φ
n、仰角δ
m、δ
nを当てはめると、式61の連立方程式は、各nについて、2N個の未知パラメータB
m、C
mに関して2N本得られる。したがって、探索値である方位角φ
m、φ
n、仰角δ
m、δ
nを当てはめれば、連立方程式を解いて、未知パラメータB
m、C
mが算出できる。また、式35より、式62が得られるので、B
m、C
mが求まると、振幅A
mと位相Ψ
mも決定できる。
【数62】
【0135】
このように式61の連立方程式を解くことによりB
m、C
mが算出できるので、方位角φ
mと仰角δ
mの組み合わせを探索するだけで、Eが最小になる近似モデル、つまり、偏差平方和eが最小になる近似モデルを決定できる。
【0136】
さらに、本実施形態では、偏差平方和eが最小になる近似モデルを決定するための計算を簡単にするために、以下の式変形を行う。式42を展開すると、式63が得られる。
【数63】
【0137】
式63に、式38、式39、式40、式41を代入すると、式64が得られる。
【数64】
【0138】
式64を展開して整理すると式65が得られる。
【数65】
【0139】
式65に示す各項のうち、I成分信号I
get(t)のみの項、Q成分信号Q
get(t)のみの項は、I成分近似モデルI
refおよびQ成分近似モデルQ
refの値に影響されない。そこで、式65の右辺から、I成分信号I
get(t)のみの項、Q成分信号Q
get(t)のみの項を除いた式66に示すEを考える。
【数66】
【0140】
このEが最小となるとき、偏差平方和eも最小となる。そこで、本実施形態では、Eを最小にするI成分近似モデルI
refとQ成分近似モデルQ
refを探索する。
【0141】
本実施形態では、式66をそのまま用いて、Eを最小にするI成分近似モデルI
refとQ成分近似モデルQ
refを探索するのではなく、さらに式変形をする。
【0142】
式37より、式67、式68、式69が得られる。
【数67】
【数68】
【数69】
【0143】
これら式67、式68、式69を式66に代入すると、式70が得られる。
【数70】
【0144】
この式70に示す式は記憶部220に記憶されている。また、式70には、式71に示す変数Sが含まれている。
【数71】
【0145】
記憶部220には、式71に示す各変数Sについて、zの値を種々変更して計算した計算値のテーブルも記憶されている。このテーブルを、以下、事前計算テーブルとする。式71に示す各変数Sはzが定まれば値を計算できる変数であり、請求項のz因子項に相当する。
【0146】
zは、式33に示したように、変数として時刻t、方位角φ、仰角δを持つ。事前計算テーブルには、時刻tを、サンプリング周期ずつ、1周期2π/ω分変化させ、方位角ω、仰角δは、必要な角度分解能に基づいて定まる角度ピッチで変化させて、それら時刻t、方位角ω、仰角δの組み合わせ毎に式71に示した変数Sを計算した計算値が含まれている。
【0147】
方向決定部230は、Eが最小になる到来方向(すなわち方位角φ
mと仰角δ
m)の組み合わせを決定し、この到来方向の組み合わせを、実際に電波が到来している到来方向であるとする。具体的には、方向決定部230は、以下に示す工程1〜工程8を行って、Eが最小になる到来方向の組み合わせを決定する。
【0148】
工程1では、最新のI成分信号、Q成分信号からEを算出する区間分のI成分信号、Q成分信号を、記憶部220から取得する。この区間は、本実施形態では、アンテナ111が360度回転する時間区間である。
【0149】
工程2では、取り出したI成分信号、Q成分信号に対して、式72に示す補正を行う。なお、式72において、I
get’およびQ
get’は、工程1で取り出したI成分信号、Q成分信号である。また、A
cは非接触部振幅比である。非接触部とは、アンテナ111の伝送経路上における回転側伝送路の一端とその一端に対向する非回転側伝送路の一端との間であり、非接触部振幅比は、回転側伝送路の一端における信号の振幅と、非回転側伝送路の一端における振幅の比である。この非接触部振幅比A
cは時間により変化する。非接触部振幅比A
cが時間により変化する理由は、回転盤112の周囲には回路等があるので、回転盤112の回転位置により、非接触部の電波環境が異なるからである。非接触部振幅比A
cは、予め計測して設定されている。
【数72】
【0150】
工程2の計算を行う理由は、I成分近似モデル、Q成分近似モデルは、非接触部における振幅の変化を考慮していないモデルであるため、これらのモデルと比較するI成分信号、Q成分信号も、非接触部における振幅変化の影響を除去することが好ましいからである。
【0151】
工程3では、N波分の到来波について、到来方向の組み合わせ、すなわち、探索する方位角φと仰角δの組み合わせを決定する。この組み合わせは、予め決定されていてもよい。
【0152】
工程4では、工程3で決定した到来波の到来方向の組み合わせについて、それぞれ、事前計算テーブルから計算値を取得する。
【0153】
工程5では、工程3で決定した到来方向の組み合わせ毎に、工程2、工程4で取得した計算値を用いて式61に示した連立方程式を解いて、到来方向の組み合わせ毎に、B
m、C
mを求める。
【0154】
工程6では、工程4で取得した計算値と、工程2、5で計算した計算値とを使って、式70に示すEを、工程3で決定した到来波の到来方向ごとに計算する。工程7では、工程6で計算したEのうちの最小値を決定する。工程8では、工程7で決定したEの最小値に対応する到来方向の組み合わせを、実際に電波が到来している方向とする。そして、実際に電波が到来している方向のうち、たとえば、最大振幅となっている方向を、無線タグ300が存在している方向とする。
【0155】
上述した本実施形態では、回転盤112の小型化が可能である。その理由は次の通りである。すでに説明したように、Pseudo-doppler法では、無線タグ300が送信する周波数f
RFの変動と区別することができる程度の大きさのドップラーシフトが生じる速度でアンテナ111を回転させる必要がある。
【0156】
回転盤112を高速に回転させてしまうと窓幅が狭くなる。しかし、本実施形態では、フーリエ変換ではなく、受信部100が出力するI成分信号、Q成分信号と、それらにそれぞれ対応するI成分近似モデル、Q成分近似モデルとの残差の偏差平方和の合計値を表すEを算出する。つまり、窓幅には拘束されない手法で方位角φと仰角δを求めている。そのため、回転盤112を高速に回転させてドップラーシフトを大きくすることができるので、回転盤112に固定したアンテナ111の速度を速くするために回転盤112を大きくする必要がない。したがって、回転盤112の小型化が可能である。また、角度分解能を高くするためには、数値探索するピッチを狭くすればよいことから、角度分解能を高くすることも容易である。
【0157】
また、すでに説明したように、アンテナ111が受信する電波を厳密にモデル化すると、式18、16に示す複雑なモデルとなり、演算量が多くなってしまう。そこで、本実施形態では、I成分近似モデル、Q成分近似モデルを用いる。無線タグ300が送信する電波は、実際には球面波であるが、I成分近似モデル、Q成分近似モデルは、無線タグ300が送信する電波を平面波であると近似して求めている。
【0158】
平面波とする近似は、アンテナ111の位置によらず、無線タグ300はアンテナ111に対して同じ方向に存在するとみなすものである。アンテナ111の回転半径Rと比較して、アンテナ111から無線タグ300までの距離が長いほど、アンテナ111が回転しても、アンテナ111に対する無線タグ300の方向変化は少ない。本実施形態では、すでに説明したように、回転盤112を小型化することができる。回転盤112が小型であれば、アンテナ111の回転半径Rも小さくなる。アンテナ111の回転半径Rが小さくなれば、アンテナ111の回転半径Rと比較して、アンテナ111から無線タグ300までの距離L
Rが長くなりやすい。したがって、平面波とする近似は、回転盤112が小型化できる本実施形態においては、アンテナ111が受信する電波を厳密にモデル化した場合に対する精度低下が少ない。厳密にモデル化した場合に対する精度低下が少ないので、平面波とする近似は、回転盤112が小型化できる本実施形態では、精度よく電波到来方向を推定できる。
【0159】
また、本実施形態のI成分近似モデル、Q成分近似モデルは、式23に示すように、厳密モデルには存在する平方根がない。したがって、厳密モデルを用いる場合に比較して、演算量も大きく低減できる。
【0160】
さらに、本実施形態では、この近似モデルとI成分信号I
getやQ成分信号Q
getの一致を評価する値としてEを用い、Eが最小となる近似モデルにおける方位角φ
m、仰角
mを決定する。
【0161】
このEは、残差の偏差平方和eからI成分信号I
getのみの項、Q成分信号Q
getのみの項を除いた値である。したがって、Eも、近似モデルとI成分信号I
getやQ成分信号Q
getとの間の残差のばらつきを示している。
【0162】
I成分信号、Q成分信号に含まれている直流オフセット成分は短時間ではほとんど変動しないことから、この直流オフセット成分が残差に与える影響は、短時間では一定とみなすことができる。したがって、I成分信号、Q成分信号に含まれている直流オフセット成分は、残差のばらつきを示す値であるEにはほとんど影響しない。そのため、近似モデルとI成分信号I
getやQ成分信号Q
getの一致度を評価する値としてEを用いることで、I成分信号、Q成分信号に含まれている直流オフセット成分が基板温度などの影響で変動しても、精度よく方位角φ
m、仰角δ
mを決定でき、また、直流オフセット成分を未知パラメータとしてないので、演算量が増大することも抑制できる。
【0163】
また、本実施形態では、式61に示している連立方程式によりB
m、C
mを算出できるようにしているので、探索する必要がある未知パラメータから到来波の振幅A
mと位相Ψ
mを除外できる。したがって、探索する必要がある未知パラメータが少なくなるので、計算を迅速に行うことができる。
【0164】
また、本実施形態では、式65に示した残差の偏差平方和eを計算するのではなく、この偏差平方和eからI成分信号I
getのみの項とQ成分信号Q
getのみの項を除いた値であるEを計算する。これにより、I成分信号I
getのみの項とQ成分信号Q
getのみの項を演算しなくても、残差の偏差平方和eが最小となる複数の到来波の方位角φ
m、仰角δ
mの組み合わせを探索できることから、計算量を少なくできる。
【0165】
さらに、本実施形態では、時刻t、方位角φ
m、仰角δ
mを種々変更して予め計算した式71に示す変数Sの計算値を記憶部220に記憶しており、この計算値を用いてEを算出する。これによっても、方位角φ
m、仰角δ
mを推定する際の演算量が少なくなるので、方位角φ
m、仰角δ
mを迅速に推定できる。
【0166】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、次の変形例も本発明の技術的範囲に含まれ、さらに、下記以外にも要旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施できる。なお、以下の説明において、それまでに使用した符号と同一番号の符号を有する要素は、特に言及する場合を除き、それ以前の実施形態における同一符号の要素と同一である。また、構成の一部のみを説明している場合、構成の他の部分については先に説明した実施形態を適用できる。
【0167】
<変形例1>
前述の実施形態の局部発振器122に代えて、変形例1では、
図9に示すように、リファレンスアンテナ130と、バンドパスフィルタ131を備える。リファレンスアンテナ130は、回転盤112の付近に固定される。また、回転盤112の回転中心に固定されてもよい。回転盤112の回転中心は、回転盤112が回転しても位置が変わらないからである。
【0168】
局部発振器122を用いる場合には、局部発振器122が発振する周波数と、無線タグ300が送信する周波数が完全には一致しない。したがって、I成分信号、Q成分信号の中心周波数を精度よく0Hzとすることが難しいのに対して、リファレンスアンテナ130を用いる場合には、I成分信号、Q成分信号の中心周波数を精度よく0Hzとすることができる。
【0169】
<変形例2>
前述の実施形態では、Eを算出する区間をアンテナ111が360度回転する区間としていたが、この区間は、アンテナ111が180度よりも多く回転する区間であればよい。
【0170】
I成分信号、Q成分信号の周波数の正負が反転するのは、アンテナ111と、アンテナ111の回転中心と、無線タグ300が一直線上に並ぶときである。そのため、アンテナ111が180度回転するごとに、I成分信号、Q成分信号は、周波数の正負が反転する。
図7、
図8の例では、0度と180度で周波数の正負が反転する。
【0171】
Eを算出する区間が、アンテナ111が180度よりも多く回転する区間であれば、周波数が正となる区間および負となる区間の両方が含まれることになる。したがって、少なくとも、Eを算出する区間は、アンテナ111が180度よりも多く回転する区間であれば、位相誤差の少なくとも一部を相殺することができる。
【0172】
<変形例3>
前述の実施形態では、I成分信号およびQ成分信号の2つの測定信号を用いていた。2つの測定信号を用いていた理由は、I成分近似モデルとQ成分近似モデルは方位角φが180度異なっていても同じ波形になることがあるからである。
【0173】
したがって、方位角φの探索範囲が180度以下であれば、I成分信号およびQ成分信号のいずれか一方のみを用いて方位角φ、仰角δを決定してもよい。この場合、もちろん、I成分近似モデルおよびQ成分近似モデルのいずれか一方のみを用いる。このとき用いるI成分近似モデルまたはQ成分近似モデルは請求項の低周波近似モデルに相当する。また、このとき用いるI成分信号またはQ成分信号は請求項の低周波信号および測定信号に相当する。
【0174】
また、I成分信号およびQ成分信号のいずれか一方のみでよいことから、I成分信号、Q成分信号に分ける必要がない。I成分信号、Q成分信号に分けない場合、前述の実施形態におけるI成分信号をそのまま測定信号Vとして扱うことになる。
【0175】
よって、測定信号の近似モデルV
refは、式37に示したI成分近似モデルにおけるIをVに置き換えた下記式73で表すことができる。
【数73】
【0176】
式37は式34に示すI成分近似モデルに対して文字の置き換えをした式である。周知のように、sinとcosは、互いに90度位相が異なっているのみで、形状が互いに同じであることから、測定信号の近似モデルV
refを式34に示すQ成分近似モデルの式と考えることもできる。この場合、測定信号の近似モデルV
refは、式37に示したQ成分近似モデルにおけるQをVに置き換えた下記式74で表すことができる。
【数74】
【0177】
この式73または式74に示した近似モデルV
refを用いる場合、偏差平方和eは、式42に示した右辺を第1項または第2項のみとすることになるので、式75で表される。
【数75】
【0178】
<変形例4>
前述の実施形態では、I成分信号、Q成分信号は、中心周波数が0Hzとなる信号であったが、I成分信号、Q成分信号の中心周波数は0Hzでなくてもよい。ただし、最大ドップラーシフトよりも低いことが好ましい。最大ドップラーシフトとは、無線タグ300が静止していると仮定して、アンテナ111の回転のみにより生じるドップラーシフトの最大値である。最大ドップラーシフトは、アンテナ111の速度ベクトルが、無線タグ300に向かう方向に最大となるとき、および、無線タグ300から遠ざかる方向に最大となるときのドップラーシフトである。
【0179】
I成分信号、Q成分信号の中心周波数が最大ドップラーシフトよりも低ければ、I成分信号、Q成分信号には、負の周波数が生じることになる。負の周波数が生じれば、Eを算出する区間に、周波数が正となる区間および負となる区間の両方を含ませることができる。したがって、I成分信号、Q成分信号の中心周波数は、最大ドップラーシフトよりも低ければ、0Hzでなくてもよいのである。
【0180】
中心周波数が0Hzでない場合、中心周波数をf
IFとすると、I成分近似モデル、Q成分近似モデルは、式23の外側のかっこ内に、2πf
IFtの項が入るモデルになる。
【0181】
<変形例5>
アンテナ111の回転半径Rに対してアンテナ111と無線タグ300との距離L
Rが短いほど、近似モデルを用いることによる位相誤差は大きくなる。換言すれば、無線タグ300の方位角φを決定する状況が、主として、アンテナ111の回転半径Rに対してアンテナ111と無線タグ300との距離L
Rが長い状況であれば、位相誤差が方位角φの推定精度に与える誤差は小さい。位相誤差の影響が小さい場合には、負の周波数が生じるように中心周波数を低下させなくてもよい。
【0182】
したがって、受信部100は、中心周波数が最大ドップラーシフトよりも高い周波数となる測定信号を出力し、方向決定部230は、近似モデルとして、式20の近似モデルを用いてもよい。
【0183】
<変形例6>
前述の実施形態では、仰角δも未知パラメータとしていたが、人に携帯される無線タグ300からの電波到来方向を決定する場合、仰角δは重要でない場合も多い。したがって、仰角δを一定、たとえば、0度としてもよい。仰角δを0度とする場合、これまでに示したcosδを1とすることになる。
【0184】
<変形例7>
前述の実施形態の方向決定部230は、工程2において非接触部振幅比A
cにより工程1で取り出したI成分信号、Q成分信号を補正していたが、この工程2を省略しても必要な方向推定精度が得られる場合、工程2は省略してもよい。
【0185】
<変形例8>
前述の実施形態では、偏差平方和対応値としてEを算出していたが、もちろん、偏差平方和対応値として偏差平方和eを算出してもよい。さらに、この偏差平方和eを総サンプリング数で割った値、すなわち、分散を偏差平方和対応値として算出してもよい。