(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について、図面に基づいて説明する。なお、本発明は、ここに記載される実施形態に限定されるものではない。
【0012】
「基本構成」
図1には、実施形態に係る多相巻線の基本構成が示されている。この例では、車載電池などの直流電源からの直流電力が供給されるインバータ10を有し、このインバータ10から3相交流電流が出力される。インバータ10は周知の構成でよく、例えば正負母線間に2つのスイッチング素子が直列接続されたレグを3本有し、各スイッチング素子の所定のスイッチングによって各レグの中間部分から3相の交流電流を出力するものとできる。インバータ10から出力される交流電流は、互いに120°位相がずれたもので、これら3相を便宜的にA,B,C相と呼び、3相の線電流をIa,Ib,Icと表す。なお、3相交流電流は、インバータ10から出力されるものでなく、3相交流の動力用電源などからのものでもよい。
【0013】
そして、インバータ10からのA,B,C相の出力は、2つの3相巻線20,30に接続される。3相巻線20は、デルタ結線されたU,V,W相の3相の巻線を有しており、U相の巻終りとV相の巻始め、V相の巻終りとW相の巻始め、W相の巻終りとU相の巻始めが接続されている。また、3相巻線30は、U’,V’,W’相の3相の巻線を有しており、U’相の巻終りとW’相の巻始め、W’相の巻終りとV’相の巻始め、V’相の巻終りとU’相の巻始めが接続されている。なお、図において、3相巻線20の各相電流をIu,Iv,Iw、3相巻線30の各相電流Iu’,Iv’,Iw’をと表す。
【0014】
ここで、デルタ結線で接続した3相の巻線に流れる相電流は、ここに供給される線電流に比べ、振幅は1:√3になり、位相は30°進むことが知られている。本実施形態では、2並列にしたデルタ結線の巻線について、接続順を入れ替えている。従って、線電流からの位相のずれ方が反転しあい、結果的に回転電機の各相巻線に流れる相電流の位相は60°ずつずれることになる。
【0015】
すなわち、インバータ10の出力である3相の線電流Ia,Ib,Icに対し、3相巻線20の各相電流をIu,Iv,Iwは30°進み、3相巻線30の各相電流をIu’,Iv’,Iw’は30°遅れる。これによって、
図2に示されるように、IuはIaに対し30°進み、Iu’はIaに対し30°遅れ、IvはIbに対し30°進み、Iv’はIbに対し30°遅れ、IwはIcに対し30°進み、Iw’はIcに対し30°遅れる。このため、2つの3相巻線20,30に流れる各相電流Iu,Iu’,Iv,Iv’,Iw,Iw’がそれぞれ60°ずつずれた位相を有する6相の交流電流となる。
【0016】
このようにして、1つのインバータ10からの出力を2並列のデルタ結線の3相巻線20,30に互いに60°ずつずれた6相の相電流として流すことができる。従って、2つの3相巻線20,30を回転電機の固定子に巻回することで、6相の回転磁界を生起することができ、この回転磁界によって回転子を回転駆動することできる。
【0017】
従って、1つの3相交流電流によって、回転電機を6相化することができ、インバータも1台でよい。そして、得られた6相の回転電機は、
図3に示すように、3相の回転電機に比べ、高トルク化、高出力化することができる。
「回転電機の構成」
【0018】
上述のように、実施形態に係る多相巻線によれば、6相の相電流を得ることができる。そこで、この多相巻線を鉄芯に巻回して形成した固定子において、6相の相電流による回転磁界を発生することができ、この固定子の内側に回転子を配置することで、6相の相電流で駆動する回転電機(電動機)を得ることができる。
【0019】
「構成例1」
図4には、構成例1の回転電機を示す。固定子40は、環状の鉄芯42とこれに巻回される巻線44とからなる。鉄芯42は、環状のヨーク42aと、このヨーク42aの周方向所定距離毎に設けられ内方に向けて伸びるティース42bとを有し、隣接するティース42b間に形成されるスロットに各相の巻線44が配置される。また、固定子40の内側に同心状に円筒状の回転子50が径方向に所定間隔をあけて配置されている。
【0020】
巻線44は、U,V,W相を構成する3相巻線20と、U’V’W’相を構成する3相巻線30と含み、6相巻線を構成する。
【0021】
この例において、鉄芯42は12個のスロットを有しており、6相の多相巻線は、巻ピッチが180°で重ね巻の分布巻である。1つのスロットから180°位相が異なる(反対側)スロットに至る巻線が、上端左からU,U’,V,V’,W,W’が順に配置される。そして、2つの3相巻線20,30とインバータ10とは
図1に示すように結線となっており、
図2に示すような相電流が流れ、6相の相電流により電動機が駆動される。なお、巻線44は、鉄芯42から軸方向に飛び出す巻線端部(コイルエンド)が互いに重ね合わされるように巻かれている。
【0022】
また、回転子50には、その周囲に180°位相を異ならせて極性の異なる一対の永久磁石52が配置されている。従って、固定子40に生起される回転磁界によって回転子50が回転される。
【0023】
「構成例2」
図5には、構成例2の回転電機を示す。この例では、鉄芯42に分布巻の巻線を巻回した固定子40の内側に、リラクタンストルクを発生する回転子50を配置している。
【0024】
ここで、構成例2の固定子40では、巻きピッチが180°よりも小さくなるように巻回している。すなわち、150°離れたスロット間で巻線44を巻回している。また、図示の例では、鉄芯42から軸方向に飛び出す巻線端部は2つの3相巻線20,30(巻線44)について周方向で反対方向に巻いている(例えば、U相とU’相の巻線の巻線端部での巻線の伸びる方向が反対)。しかし、2つの巻線44を同一方向に上から被せるように巻いてもよい。この場合、巻ピッチの小さい方の巻線44と巻ピッチの大きい方の巻線44の巻線端部が同心状に配置されることになり、分布巻の同心巻となる。
【0025】
また、
図5の回転子50は、永久磁石を有さず、鉄芯のみで構成している。すなわち、回転子50は、磁束を通しやすいQ軸と、磁束を通しにくいD軸により突極性を有し、リラクタンストルクを発生する回転子である。
【0026】
「構成例3」
図6には、構成例3の回転電機を示す。この例では、固定子40は、巻きピッチ60°の集中巻で構成している。固定子40のスロット数は12スロットから6スロットに変更されている。鉄芯42の6つのティース42bにそれぞれ1相の巻線を巻回しており、1つのスロットでは、周方向両側に巻回する2相の巻線が配置されている。このように、巻きピッチが60°で1つのティース毎に巻線が巻回されることから、鉄芯42から軸方向に飛び出す巻線端部(コイルエンド)において、互いに重ねる必要はない。また、回転子50は、
図4と同じ、一対の永久磁石52を備えたものである。
【0027】
「構成例4」
図7には、構成例4の電動機を示す。この例では、固定子40は、巻きピッチ120°の集中巻で構成している。従って、各相巻線は、巻線端部で互いに重なる構造となる。
【0028】
回転子50の構造は、図示のように、円筒状の回転子50の周辺部分に所定間隔をおいて複数の軸方向に伸びる溝部を形成し、この溝部にアルミや銅など電気抵抗の低い導電材54を充填している。そして、これら導電材54は、回転子50の軸方向端部でそれぞれを短絡接続するかご形構造を有する。すなわち、かご形の導電体構造に誘導電流が流れ、トルクを発生する誘導電動機である。なお、溝部は、この例で16個も設けられており、それぞれが内側に向けて先細り状の長方形状で、隣接する溝部間の鉄芯がほぼ長方形状になっている。
【0029】
従来の3相集中巻の誘導電動機、従来の分布巻の誘導電動機、構成例4の誘導電動機における、発生トルクを計算した結果を
図8に示す。
図8から構成例4によって、従来の集中巻から2倍、従来の分布巻と比べても1.2倍のトルクが得られることが分かる。
【0030】
このように、本実施形態の6相駆動の回転電機では、集中巻で十分大きなトルクが得られる。集中巻は、小型化しやすく、また自動組立が容易であり、構成例4のメリットとなる。また、誘導電動機は、永久磁石電動機に比べ高回転数での駆動に向いており、構成例4では十分なトルクが得られるため、より広い回転数範囲での用途で好適である。
【0031】
「構成例5」
図9には、構成例5の回転電機を示す。この例では、固定子40は、スロットが24個であり、巻きピッチ120°の集中巻で構成している。すなわち、
図6と同様に互いの巻線を重ねることなく、巻きピッチ60°に相当する巻き方としており、1つのティース42bに1相の巻線44が集中巻で巻回されており、図示のようにU,U’,U,U’,V,V’,V,V’,W,W’,W,W’相の巻線が順番に形成され、これが機械角180°に形成され、これがもう1セット設けられている。また、回転子50は10個の永久磁石(N極、S極が交互に5つずつ設けられている)を備える。このように、固定子40の集中巻のスロット数と、回転子50の極数が割り切れない分数となる分数スロット集中巻となっている。なお、分数スロットの巻線の詳細については、特開2010−28957号公報などを参照されたい。
【0032】
分数スロット集中巻のスロット数と極数の組合せで一般的なもののひとつに12スロット10極の3相駆動の電動機があるが、
図9では、2並列のデルタ結線とするためスロット数を従来の12スロットから24スロットに変更している。
【0033】
「構成例6」
図10には、構成例6の電動機を示す。この例では、構成例5の巻きピッチを120°にし、
図7の構成と同様に互いに軸方向端部で重ねながら巻く集中巻構成としている。すなわち、2つのティース42bに跨がって、1相の巻線を集中巻きしている。
【0034】
「構成例7」
図11には、構成例7の電動機を示す。この例では、固定子40は、トロイダル巻で構成している。回転子50は、
図4,6と同様の2極の永久磁石を備えている。
【0035】
図示のように、トロイダル巻は巻線を半径方向に巻回し、同じ周方向位置で同相コイルを形成する。鉄芯(固定子コア)42には、径方向の外側および内側にスロットが形成され、この径方向の2つのスロット間で1相の巻線が巻回される。この例では、周方向に12個のスロットがあり、反時計回りで、U,U’,W,W’,V,V’相の巻線が順に巻回されている。このように、3相巻線で周方向に位置を変えることで回転磁界を発生し、回転子50が駆動される。この例では、3相巻線を2つ設けることで6相として、6相巻線としている。
【0036】
「構成例8」
図12は分布巻の空芯コイルで固定子40が形成されている。すなわち、機械角90°に、電気角360°の6相の巻線44が空芯で巻回されている。例えば、第1象限の0°から反時計回りに、0°から開始される巻線が配置するスペースをスロットとすれば、スロットは0°、15°、30°・・・と15°毎に位置する。また、各スロットについて、内側スロットと外側スロットがある。
【0037】
U相巻線は、0°内側スロットから45°外側スロットに、U’相巻線は、15°内側スロットから60°外側スロットに巻回される。また、V相巻線は、30°内側スロットから75°外側スロットに、V’相巻線は、45°内側スロットから90°外側スロットに巻回される。そして、このようにして、6相の巻線44が4セット設けられて、空芯コイルによる固定子40が構成されている。
【0038】
また、空芯コイルの固定子40の内側に内側回転子50a、外側に外側回転子50bを配置している。回転子50a,50bは、固定子40に向く側に8つ永久磁石(N,S角4つ)を同相で有している。
【0039】
このようにして、空芯コイルの固定子40により形成される6相の回転磁界によって、回転子50a、50bが一緒に回転する。
【0040】
構造上、回転子50は、内側、外側のどちらか一方でよいが、一方のみとした場合には、空芯コイルの回転子50と反対側にヨークとなる鉄芯42が必要となる。
【0041】
「構成例9」
図13は集中巻の空芯コイルである。固定子40は内側と外側の2層となっており、各層に、U,V,W相、U’,V’,W’相の集中巻きの巻線が配置される。この例では、機械角360°に4セットの巻線が配置されており、U,U’,V,V’,W,W’の各相巻線は、周方向において機械角で15°(電気角で60°)ずれて配置されている。
【0042】
回転子50については、
図12の構成例8と同一であり、6相駆動も同様に行われる。
【0043】
「構成例4(
図7),構成例5−6(
図9−10)の効果」
ここで、構成例4,5−6の6相の多相巻線によって、高調波の発生を抑制して、回転電機をスムーズに回転できることを説明する。
【0044】
「構成例4による高調波の相殺」
通常の集中巻巻線に三相電流を流した場合の巻線起磁力を
図14に示す。
図14の横軸は電気角で、縦軸は起磁力の大きさを表す。図の上部の絵は三相巻線の配置を表している。
図14から、通常の集中巻の巻線起磁力は、電気1周期の1次成分の他、2次高調波も存在することが分かる。
【0045】
構成例4の巻線配置と、そこに流れる2つの三相電流(U,V,W相電流と、U’,V’,W’相電流)、それぞれで発生する巻線起磁力を
図15に示す。なお、図においては、U,V,W相巻線と、U’,V’,W’相巻線について、U1,V1,W1,U2,V2,W2と表してある。
【0046】
このように、それぞれの巻線起磁力の1次成分は同位相であるのに対し、2次高調波の位相が反転していることが分かる。これらを組み合わせた巻線起磁力を
図16に示す。
【0047】
図16から、構成例4における巻線起磁力の1次成分は維持しつつ、2次高調波成分が相殺されていることが分かる。
【0048】
「構成例5−6による高調波の相殺」
上述した特開2010−28957号公報にも挙げられているステータ9スロット/ロータ8極の分数スロット集中巻の巻線起磁力を
図17に示す。このように、9スロット分数スロット集中巻の巻線起磁力には、電気1周期における1次成分の他、4次成分と5次成分の高調波が重畳していることが分かる。これらの高調波成分により、それぞれ8極、10極で回転電機を駆動することが可能になる。
【0049】
しかし、例えば、8極でモータ駆動したい場合、巻線起磁力の1次成分や5次成分はトルクリップルや損失増加の要因になるため、少ないことが望ましい。
【0050】
本特許の構成例5−6において、U,V,W相、U’,V’,W’相の1,4,5次の電流を
図18に示す。このように、それぞれの巻線起磁力の4次成分は同位相であるのに対し、1次および5次成分は位相が反転していることが分かる。そこで、これらを組み合わすと、
図19に示すように、1次および5次成分を相殺することができる。
【0051】
従って、構成例5−6の巻線起磁力には1次および5次成分が相殺され、4次成分のみが発生し、効率良く8極駆動が可能になる。
【0052】
「実施形態の効果」
デルタ結線で接続した3相の巻線に流れる電流は、端子に流れてくる線電流から各相に流れるときに、その電流の振幅は1:√3になり、位相は30°ずれる。この性質を利用し、2並列にしたデルタ結線の3相巻線において、それぞれの接続順を入れ替えることで線電流からの位相のずれ方が反転しあい、結果的に回転電機の各相巻線に流れる電流位相は60°ずつずれることになる。
【0053】
従って、インバータから出力される、ABC相の3相線電流が回転電機の各相巻線に流れるときに互いに60°ずつ位相の異なるU,U’,V,V’,W,W’相電流になる。このため、本実施形態の回転電機は、3相の回転電機に比べ、発生トルクは増加し、出力1.5も向上する。
【0054】
さらに、構成例4,5−6によれば、2対の巻線により、不要な高調波を相殺して効果的な駆動ができる。