特許第6432668号(P6432668)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6432668
(24)【登録日】2018年11月16日
(45)【発行日】2018年12月5日
(54)【発明の名称】過給機付エンジン
(51)【国際特許分類】
   F02D 23/00 20060101AFI20181126BHJP
   F02D 21/08 20060101ALI20181126BHJP
   F02B 37/00 20060101ALI20181126BHJP
   F02B 39/04 20060101ALI20181126BHJP
   F02B 37/12 20060101ALI20181126BHJP
   F02M 26/08 20160101ALI20181126BHJP
   F02D 43/00 20060101ALI20181126BHJP
   F02D 45/00 20060101ALI20181126BHJP
【FI】
   F02D23/00 J
   F02D21/08 311B
   F02B37/00 302F
   F02B39/04
   F02B37/12 302B
   F02M26/08 351
   F02M26/08 321
   F02D21/08 301H
   F02D43/00 301N
   F02D43/00 301R
   F02D43/00 301W
   F02D45/00 310E
   F02M26/08 301
   F02M26/08 331
【請求項の数】3
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2017-237649(P2017-237649)
(22)【出願日】2017年12月12日
【審査請求日】2018年3月23日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森実 健一
【審査官】 佐々木 淳
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−174493(JP,A)
【文献】 特開2008−280923(JP,A)
【文献】 特開2009−191685(JP,A)
【文献】 特開2008−151051(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 23/00
F02B 37/00
F02B 37/12
F02B 39/04
F02D 21/08
F02D 43/00
F02D 45/00
F02M 26/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載されたエンジン本体と、
上記エンジン本体に接続された吸気通路及び排気通路と、
上記吸気通路に設けられたコンプレッサホイールと、当該コンプレッサホイールを駆動する電動モータとを有しかつ、当該電動モータによって過給する電動式過給機と、
上記排気通路に配設されたタービンと上記吸気通路における上記電動式過給機よりも上流に配設されたコンプレッサとを有しかつ、排気エネルギーを利用して過給するターボ過給機と、
上記タービンよりも下流の上記排気通路と上記コンプレッサよりも上流の上記吸気通路とを連通し、排気ガスの一部を上記吸気通路に還流させるEGR通路及び当該EGR通路に設けられかつ、開度調整されるEGR弁と、
上記タービンよりも上流の上記排気通路と上記電動式過給機よりも下流の上記吸気通路とを連通し、排気ガスの一部を上記吸気通路に還流させる第2EGR通路及び当該第2EGR通路に設けられかつ、開度調整される第2EGR弁と、
上記エンジン本体の気筒内に燃料を供給する燃料供給部と、
加速要求信号を受けて上記燃料供給部による燃料の供給量を増やす上記車両の加速時に、上記EGR弁を開弁することにより上記EGR通路を開くと共に、上記電動式過給機の過給圧が上昇するよう上記電動式過給機に制御信号を出力する制御部と、を備え、
上記制御部は、上記車両の少なくとも加速初期時に、上記第2EGR通路を介した排気ガスの還流量を、上記EGR通路を介した排気ガスの還流量よりも少なくし、
上記制御部は、上記車両の加速時に、上記電動式過給機を、上記電動モータが最高トルクよりも低いトルクとなるような、及び/又は、上記コンプレッサホイールが限界回転数よりも低い回転するとなるようなパーシャル状態で作動させる過給機付エンジン。
【請求項2】
請求項に記載の過給機付エンジンにおいて、
上記制御部は、上記加速要求信号を受ける前から上記電動式過給機をパーシャル状態で作動させる過給機付エンジン。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の過給機付エンジンにおいて、
上記エンジン本体は、幾何学的圧縮比が16以下のディーゼルエンジンである過給機付エンジン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ここに開示する技術は、過給機付エンジンに関する。
【背景技術】
【0002】
排気通路に配設されたタービンと吸気通路に配設されたコンプレッサとを有するターボ過給機を備える過給機付エンジンが知られている。
【0003】
また、例えば特許文献1には、ターボ過給機に加えて、吸気通路に電動式過給機が設けられた過給機付のディーゼルエンジンが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−180710号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ディーゼルエンジンにおいては、燃焼速度及び燃焼温度を低くしてRawNOxの生成を抑制するために、排気ガスの一部を吸気通路に還流させている。特許文献1に記載されたディーゼルエンジンは、高圧EGRシステムと低圧EGRシステムとを備えている。高圧EGRシステムは、ターボ過給機のタービンよりも上流の排気通路とターボ過給機のコンプレッサよりも下流の吸気通路とを連通する高圧EGR通路を有している。低圧EGRシステムは、ターボ過給機のタービンよりも下流の排気通路とターボ過給機のコンプレッサよりも上流の吸気通路とを連通する低圧EGR通路と、低圧EGR通路を流れる排気ガスを冷却するEGRクーラとを有している。エンジンが部分負荷領域において定常状態で運転しているときは、低圧EGRシステム及び高圧EGRシステムのそれぞれによってEGRガスを吸気通路に還流させると共に、ターボ過給機の過給圧によって、燃料量に応じた量の新気を気筒内に導入する。このことにより、混合気の当量比及び燃焼室内の温度をそれぞれ適切に調整することができて、RawNOxの生成、及び、スート(煤)の発生が抑制される。
【0006】
ところで、部分負荷領域において車両の運転者がアクセルペダルを踏んで加速要求を行ったときには、燃料量が増加することに対応して気筒内に導入する新気量を増やすと共に、EGRガス量も増やす必要がある。ところが、低圧EGRシステムは、高圧EGRシステムに比べてEGRガスの供給経路長が長いため、車両の加速初期時にEGRガスの供給遅れが生じてしまう。そのため、車両の加速時には、低圧EGRシステムの応答遅れを補うように、高圧EGRシステムによるEGRガスを吸気通路に還流することになる。しかし、高圧EGRシステムのEGRガスは、低圧EGRシステムのEGRガスよりも高温であるため、気筒内の温度が高くなってしまい、燃焼速度及び燃焼温度が高くなることでRawNOxが生成されてしまうという問題がある。
【0007】
また、加速後期には、低圧EGRシステムによるEGRガスを吸気通路に還流させることが可能になるため、高圧EGRシステムのEGRガスを減らすことによってRawNOxの生成を抑制することが可能になる一方で、加速初期時に高圧EGRシステムによってEGRガスを還流させていた分、排気エネルギーが低下しているから、ターボ過給機による過給圧が上がり難く、加速要求に伴い増量した燃料量に見合う新気量を確保することが困難になる。その結果、加速後期は、スートの発生を招いてしまう。
【0008】
ここに開示する技術は、加速時におけるエミッション性能の低下を防止する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
ここに開示する技術は、過給機付エンジンにおいて、少なくとも車両の加速時に、電動式過給機を利用して、混合気の当量比を能動的に調整することを特徴とする。
【0010】
具体的に、ここに開示する過給機付エンジンは、車両に搭載されたエンジン本体と、上記エンジン本体に接続された吸気通路及び排気通路と、上記吸気通路に設けられたコンプレッサホイールと、当該コンプレッサホイールを駆動する電動モータとを有しかつ、当該電動モータによって過給する電動式過給機と、上記排気通路に配設されたタービンと上記吸気通路における上記電動式過給機よりも上流に配設されたコンプレッサとを有しかつ、排気エネルギーを利用して過給するターボ過給機と、上記タービンよりも下流の上記排気通路と上記コンプレッサよりも上流の上記吸気通路とを連通し、排気ガスの一部を上記吸気通路に還流させるEGR通路及び当該EGR通路に設けられかつ、開度調整されるEGR弁と、上記エンジン本体の気筒内に燃料を供給する燃料供給部と、加速要求信号を受けて上記燃料供給部による燃料の供給量を増やす上記車両の加速時に、上記EGR弁を開弁することにより上記EGR通路を開くと共に、上記電動式過給機の過給圧が上昇するよう上記電動式過給機に制御信号を出力する制御部と、を備えている。
【0011】
この構成によると、加速要求信号を受けて燃料の供給量を増やす車両の加速時に、電動式過給機は、過給圧が上昇するように動作する。ここで、電動式過給機は、停止した状態から駆動することによって過給圧を上昇させてもよいし、駆動している状態において、過給圧を上昇させてもよい。過給圧が上がることにより、気筒内に導入される新気を速やかに増やすことができる。気筒内の混合気の当量比が低くなってスートの発生を抑制することができる。
【0012】
また、上記の構成では、電動式過給機による過給圧を上げるときに、吸気通路において電動式過給機よりも上流に接続されたEGR通路を開いている。電動式過給機の作動に伴って、EGR通路を介してEGRガスが吸気通路に吸い出されるから、車両の加速時に、新気量の増量と共に、気筒内に導入されるEGRガス量も増やすことができる。EGR通路は、排気通路においてターボ過給機のタービンよりも下流に接続されているため、EGRガスの温度は比較的低い。従って、筒内温度が高くなり過ぎることを防止しながら、EGRガス量を増やすことによって気筒内のガスの比熱を増大することができる。燃焼速度及び燃焼温度を低く抑えることが可能になって、RawNOxの生成が抑制される。
【0013】
従って、加速時におけるエミッション性能の低下が防止される。
【0014】
上記過給機付エンジンは、上記タービンよりも上流の上記排気通路と上記電動式過給機よりも下流の上記吸気通路とを連通し、排気ガスの一部を上記吸気通路に還流させる第2EGR通路及び当該第2EGR通路に設けられかつ、開度調整される第2EGR弁を備え、上記制御部は、上記車両の少なくとも加速初期時に、上記第2EGR通路を介した排気ガスの還流量を、上記EGR通路を介した排気ガスの還流量よりも少なくする。
【0015】
第2EGR通路は、排気通路においてターボ過給機のタービンよりも上流に接続されるから、第2EGR通路を介して還流されるEGRガスの温度は、前記EGR通路を介して還流されるEGRガスの温度よりも高い。車両の少なくとも加速初期時に、第2EGR通路を介して気筒内に導入されるEGRガス量を、相対的に少なくする。第2EGR通路を介して気筒内に導入されるEGRガス量をゼロにすることも含む。第2EGR通路を介したEGRガス量を少なくすることにより、筒内温度が高くなり過ぎることが防止され、RawNOxの生成防止に有利になる。
【0016】
上記制御部は、上記車両の加速時に、上記電動式過給機をパーシャル状態で作動させる。ここで、「電動式過給機をパーシャル状態で作動させる」とは、電動モータが最高トルクよりも低いトルクとなるように、電動式過給機が作動する、及び/又は、コンプレッサホイールが限界回転数よりも低い回転数となるように、電動式過給機が作動することを意味する。電動式過給機をパーシャル状態で作動させると、電動モータの消費電力が低くなると共に、コンプレッサホイールの効率が高くなる。そして、ターボ過給機と電動式過給機との両方を備えた過給機付エンジンにおいて、電動式過給機を補助的に作動させることによって、電力消費を少なくすることができる。
【0017】
上記制御部は、上記加速要求信号を受ける前から上記電動式過給機をパーシャル状態で作動させる、としてもよい。
【0018】
一般に、電動式過給機を停止状態から駆動させる際には大きな電力が必要となる。このため、加速要求がないときには電動式過給機を停止しておいて、加速要求信号を受けたときに電動式過給機を駆動するよりも、加速要求の有無にかかわらず、電動式過給機をパーシャル状態で作動させるようにすれば、電動式過給機によって過給圧を上昇させる際の電力消費を抑えることができる。
【0019】
上記エンジン本体は、幾何学的圧縮比が16以下のディーゼルエンジンである、としてもよい。幾何学的圧縮比が16以下のディーゼルエンジンは、圧縮端温度が低くなりやすい。前述したように、車両の加速時に、電動式過給機の過給圧を上昇することによって、気筒内の新気量の割合を増やすと、気筒内のガスの比熱比が上がって、圧縮開始前の気筒内の温度が低くても、圧縮端温度は高くなる。従って、前記の構成の過給機付エンジンは、低圧縮比のディーゼルエンジンにおいて、混合気の着火性を確保する上で有利である。
【発明の効果】
【0020】
以上説明したように、ここに開示する技術は、加速時におけるエミッション性能の低下を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1は、過給機付エンジンを示す概略図である。
図2図2は、過給機付エンジンの気筒内を示す断面図である。
図3図3は、過給機付エンジンの制御系を示すブロック図である。
図4図4は、電動式過給機の作動形態を示すマップである。
図5図5の上図は、電動式過給機のコンプレッサの特性を示す性能曲線グラフであり、図5の下図は、電動式過給機の電動モータの特性を示す図である。
図6図6は、ディーゼルエンジンのφ−Tマップである。
図7図7は、電動式過給機が無いときと、電動式過給機が有るときとにおいて、車両の加速初期時における気筒内のガス組成の違いを例示する図である。
図8図8は、予混合燃焼制御時の燃料の噴射形態の一例と、それに伴う熱発生率の履歴の一例を示す概略図である。
図9図9は、リタード制御の燃料の噴射形態の一例と、それに伴う熱発生率の履歴の一例を示す概略図である。
図10図10は、PCMによるエンジン制御の処理動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、過給機付エンジンの実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。図1は、実施形態に係るエンジン1を示す。このエンジン1のエンジン本体10は、車両に搭載されるとともに、軽油を主成分とした燃料が供給されるディーゼルエンジンであって、複数の気筒30a(図2において1つのみ図示している)が設けられたシリンダブロック30と、このシリンダブロック30上に配設されたシリンダヘッド31と、シリンダブロック30の下側に配設され、潤滑油が貯留されたオイルパン39とを有している。このエンジン1の各気筒30a内には、ピストン32(図2参照)が往復摺動可能にそれぞれ嵌挿されていて、このピストン32と、シリンダブロック30と、シリンダヘッド31とによって燃焼室33(図2参照)が区画されている。ピストン32の頂面には、図2に拡大して示すように、ディーゼルエンジンでのリエントラント型のようなキャビティ32aが形成されている。キャビティ32aは、ピストン32が圧縮上死点付近に位置するときには、後述するインジェクタ38に相対する。また、ピストン32は、シリンダブロック30内においてコンロッドを介してクランクシャフトと連結されている。尚、燃焼室33の形状は、図示する形状に限定されるものではない。例えばキャビティ32aの形状、ピストン32の頂面形状、及び、燃焼室33の天井部の形状等は、適宜変更することが可能である。
【0023】
図2に示すように、シリンダヘッド31には、気筒30a毎に、吸気ポート34及び排気ポート35が形成されているとともに、これら吸気ポート34及び排気ポート35には、燃焼室33側の開口を開閉する吸気弁36及び排気弁37がそれぞれ配設されている。
【0024】
各吸気弁36は吸気側カム40によって開閉され,各排気弁37は排気側カム41によって開閉される。吸気側カム40及び排気側カム41は、上記クランクシャフトの回転と連動してそれぞれ回転駆動される。図示は省略するが、吸気弁36及び排気弁37のそれぞれの開閉タイミングや開閉期間を調整するための、例えば油圧作動式の弁可変機構が設けられている。
【0025】
シリンダヘッド31にはまた、気筒30a毎に、気筒30a内に燃料を直接噴射するインジェクタ(つまり、燃料供給部)38が取り付けられている。インジェクタ38は、図2に示すように、その噴口が燃焼室33の天井面の中央部分から、その燃焼室33内に臨むように配設されている。インジェクタ38は、エンジン1の運転状態に応じて設定された噴射タイミングでかつ、エンジン1の運転状態に応じた量の燃料を、燃焼室33内に直接噴射する。
【0026】
図1に示すように、エンジン本体10の一側面には、各気筒30aの吸気ポート34に連通する様に吸気通路50が接続されている。一方、エンジン本体10の他側面には、各気筒30aからの既燃ガス(つまり、排気ガス)を排出する排気通路60が接続されている。詳しくは後述するが、吸気通路50及び排気通路60には、吸気の過給を行うターボ過給機56が設けられている。
【0027】
吸気通路50の上流端部には、吸入空気を濾過するエアクリーナ54が配設されている。一方、吸気通路50における下流側近傍には、サージタンク51が配設されている。このサージタンク51よりも下流側の吸気通路50は、気筒30a毎に分岐する独立吸気通路とされ、これら各独立吸気通路の下流端が各気筒30aの吸気ポート34にそれぞれ接続されている。
【0028】
吸気通路50におけるエアクリーナ54とサージタンク51との間には、上流側から下流側へ向かって順に、ターボ過給機56のコンプレッサ56aと、電動式過給機18と、スロットル弁55と、熱交換器としての水冷式のインタークーラ57とが配設されている。スロットル弁55は基本的には全開状態とされるが、エンジン1の停止時には、ショックが生じないように全閉状態とされる。インタークーラ57は、例えば吸気マニホールド内に設けられる。
【0029】
吸気通路50には、電動式過給機18をバイパスする吸気側バイパス通路53が設けられている。吸気側バイパス通路53は、その上流端が、吸気通路50におけるコンプレッサ56aと電動式過給機18との間に接続される一方、下流端が、吸気通路50における電動式過給機18とスロットル弁55との間に接続されている。吸気側バイパス通路53には、吸気側バイパス通路53へ流れる空気量を調整するための吸気側バイパス弁58が配設されている。この吸気側バイパス弁58の開度を調整することによって、電動式過給機18で過給される吸気量と、吸気側バイパス通路53を通る吸気量との割合を段階的に又は連続的に変更することができるようになる。
【0030】
電動式過給機18は、吸気通路50内に設けられたコンプレッサホイール18aと、このコンプレッサホイール18aを駆動する電動モータ18bとから構成されている。電動モータ18bを駆動することによって、コンプレッサホイール18aが回転駆動されて、吸気の過給が行われる。つまり、電動式過給機18は、排気エネルギーを利用しない過給機である。電動式過給機18の過給圧能力(つまり、電動式過給機18による過給圧)は、電動モータ18bの駆動力を変更することで変更される。詳しくは後述するが、電動式過給機18は、エンジン1の作動中はパーシャル状態で作動されるようになっている。
【0031】
電動モータ18bは、上記車両に搭載されたバッテリ19に蓄積された電力によって駆動される。電動モータ18bの駆動力の大きさは、該電動モータ18bに供給される電力の大きさによって変更される。バッテリ19には、例えば、車両に搭載されたオルタネータ(図示省略)によって発電された電力が蓄積される。バッテリ19は、例えば48Vバッテリとしてもよい。電動モータ18bは、48V電流が供給されて駆動してもよい。
【0032】
上記インタークーラ57は、水冷式であって、ラジエータ90に対して、供給経路91及びリターン経路92を介して接続されている。供給経路91には、ウォータポンプ93が接続されている。ウォータポンプ93によって、供給経路91に吐出された冷媒としての冷却水は、供給経路91、インタークーラ57、リターン経路92及びラジエータ90を通って、再びウォータポンプ93に戻り、再度、供給経路91に吐出されて、インタークーラ57へ供給される。そして、冷却水がインタークーラ57を通過するときに、該冷却水と吸気との間で熱交換されて、吸気が冷却される。インタークーラ57で温度が上昇した冷却水は、ラジエータ90で例えば大気と熱交換されて冷却される。
【0033】
上記排気通路60の上流側の部分は、気筒30a毎に分岐して排気ポート35の外側端に接続された独立排気通路と該各独立排気通路が集合する集合部とを有する排気マニホールドによって構成されている。
【0034】
この排気通路60における上記排気マニホールドよりも下流側には、上流側から順に、ターボ過給機56のタービン56bと、酸化触媒61と、ディーゼルパティキュレートフィルタ62(以下、DPF62という)と、排気シャッター弁64とが配設されている。
【0035】
ターボ過給機56は、排気ガスのエネルギー(つまり、排気エネルギー)を受けて回転駆動されるものである。具体的には、ターボ過給機56のタービン56bが排気エネルギーを受けて回転駆動されると、連結シャフト56cを介してコンプレッサ56aが回転駆動されて、吸気の過給が行われる。排気通路60には、ターボ過給機56をバイパスするための排気側バイパス通路63が設けられている。この排気側バイパス通路63には、該排気側バイパス通路63へ流れる排気ガスの流量を調整するためのウエストゲートバルブ65が配設されている。ターボ過給機56はタービンケース(図示省略)内に収容されている。
【0036】
ターボ過給機56は、タービンケース内に可動ベーンが配設された可変容量式のターボ過給機としてもよい。可動ベーンの開度を調整することによって、タービン56bを実質的にバイパスして排気ガスを流すことができるのであれば、排気側バイパス通路63及びウエストゲートバルブ65を省略することもできる。
【0037】
酸化触媒61は、排気ガス中のCO及びHCが酸化されてCO及びHOが生成される反応を促すものである。また、DPF62は、エンジン1の排気ガス中に含まれるスート等の微粒子を捕集するものである。
【0038】
排気シャッター弁64は、その開度を調整することで、排気通路60内の排気圧を調整することが可能な弁である。この排気シャッター弁64は、例えば、後述する低圧EGR通路70によって、排気通路60を流れる排気ガスの一部を吸気通路50に還流させる際に、排気通路60内の排気圧を高めるために利用される場合がある。
【0039】
このエンジン1は、NOxを浄化するための触媒を備えていない。但し、ここに開示する技術は、NOxを浄化するための触媒を備えたエンジンに適用することを排除しない。
【0040】
本実施形態では、吸気通路50と排気通路60とに接続され、排気通路60を流れる排気ガスの一部を吸気通路50に還流可能な高圧EGR通路80及び低圧EGR通路70が設けられている。
【0041】
高圧EGR通路80は、吸気通路50におけるインタークーラ57とサージタンク51との間の部分(つまり、電動式過給機18よりも下流側の部分)と、排気通路60における上記排気マニホールドとターボ過給機56のタービン56bとの間の部分(つまり、ターボ過給機56のタービン56bよりも上流側の部分)とに接続されている。高圧EGR通路80内には、該高圧EGR通路80を通って吸気通路50に還流される排気ガス(以下、高圧EGRガスという)の流量を調整する電磁式の高圧EGR弁82が設けられている。該高圧EGR弁82は、その開度を調整することによって、高圧EGRガスの流量を調整するように構成されている。高圧EGR通路80は、「第2EGR通路」に対応する。以下、高圧EGR通路80を含むシステムを、高圧EGRシステム8と呼ぶ。
【0042】
一方で、低圧EGR通路70は、吸気通路50におけるエアクリーナ54とターボ過給機56のコンプレッサ56aとの間の部分(つまり、ターボ過給機56のコンプレッサ56aよりも上流側の部分)と、排気通路60におけるDPF62と排気シャッター弁64との間の部分(つまり、ターボ過給機56のタービン56bよりも下流側の部分)とに接続されている。低圧EGR通路70には、該低圧EGR通路70を通って吸気通路50に還流される排気ガス(以下、低圧EGRガスという)を冷却するEGRクーラ71と、低圧EGRガスの流量を調整する電磁式の低圧EGR弁72とが設けられている。該低圧EGR弁72は、高圧EGR弁82と同様に、その開度を調整することによって、低圧EGRガスの流量を調整するように構成されている。低圧EGR通路70は、「EGR通路」に対応する。以下、低圧EGR通路70を含むシステムを、低圧EGRシステム7と呼ぶ。
【0043】
上述のように構成されたエンジン1は、図3に示すように、パワートレイン・コントロール・モジュール(以下、PCMという)100によって制御される。PCM100は、CPU101、メモリ102、カウンタタイマ群103、インターフェース104及びこれらのユニットを接続するバス105を有するマイクロプロセッサで構成されている。PCM100は、制御部の一例である。PCM100には、エンジン冷却水の温度を検出する水温センサSW1、過給圧を検出する過給圧センサSW2、吸入空気温度を検出する吸気温度センサSW3、排気温度を検出する排気温度センサSW4、上記クランクシャフトの回転角を検出するクランク角センサSW5、車両のアクセルペダル(図示省略)の操作量に対応したアクセル開度を検出するアクセル開度センサSW6、車両の車速を検出する車速センサSW7、及び、ターボ過給機56のタービン56bの回転数を検出するタービン回転数センサSW8からの検出信号が入力される。
【0044】
PCM100は、クランク角センサSW5の検出結果からエンジン1のエンジン回転数を算出し、アクセル開度センサSW6の検出結果からエンジン負荷を算出する。また、PCM100は、水温センサSW1の検出温度が所定温度Tcよりも低いときに、気筒30a内の温度が低い、エンジン1の冷間状態であると判定し、アクセル開度センサSW4で検出されたアクセル開度に基づいて、車両の運転者の加速要求の有無を判定する。
【0045】
PCM100は、入力された検出信号に基づいて、インジェクタ38、電動モータ18b、各種の弁55,58,64,65,72,82のアクチュエータへ制御信号を出力する。PCM100は、また吸気弁36及び排気弁37の弁可変機構にも制御信号を出力する。
【0046】
上記エンジン1は、その幾何学的圧縮比を12以上16以下とした、比較的低圧縮比となるように構成されており、これによってエミッション性能の向上及び燃焼効率の向上を図るようにしている。このエンジン1では、ターボ過給機56及び電動式過給機18による新気量の調整と、低圧EGRガス及び高圧EGRガスの調整と、によって、幾何学的圧縮比の低圧縮比化を補っている。
【0047】
(電動式過給機の制御の概要)
次に、PCM100による電動式過給機18の制御について説明する。図4には、電動式過給機18の制御の態様を示す。PCM100は、基本的には、エンジン本体10の運転中は電動式過給機18を常時回転させるようにしているが、水温センサSW1によって検出されるエンジン冷却水の温度と、クランク角センサSW5によって検出されるエンジン1の回転速度とに基づいて、電動式過給機18の回転数(すなわち過給圧)を制御している。具体的には、低水温ないしエンジン低速の領域が最も回転数が高く、そこから、高水温又はエンジン高速となるに連れて、回転数を減少させるように制御する。
【0048】
また、本実施形態では、水温が80℃以上になるか、又は、エンジン回転数がr1を超えることによって、ターボ過給機56のコンプレッサ56aの圧力比が1.2以上になるようなエンジン回転数の領域においては、電動式過給機18をアイドル回転状態にするとともに、吸気側バイパス弁58を全開にして、該電動式過給機18による過給が、実質的に行われないようにする。このようにすれば、水温が80℃以上になるか又は上記圧力比が1.2以上になるエンジン回転の領域において、電動式過給機18の回転を止めることなく、ターボ過給機56によってのみ過給を行うようにすることができる。
【0049】
上記のように、電動式過給機18を常時回転させることによって、後述するように、電動式過給機18によって過給圧を上昇させる際に、電動式過給機18を一時的に停止させて、必要な場面で駆動させるようなオン−オフの制御を行うよりも、電動式過給機18(厳密には、電動式過給機18を作動させるための電動モータ18b)を効率的に作動させることができる。
【0050】
図5には、電動式過給機18の特性を表す性能曲線を示している。図5の上図は電動式過給機18のコンプレッサホイール18aの特性を示す性能曲線グラフであり、縦軸は電動式過給機18の圧力比(つまり、下流側の圧力に対する上流側の圧力の比)、横軸は吐出流量である。図5の上図において、曲線LLは回転限界ライン、直線SLはサージライン、直線CLはチョークラインを表している。これらのラインで囲まれた領域が電動式過給機18の運転可能領域である。この領域の中央側に位置するほど電動式過給機18の運転効率が高くなる。
【0051】
電動式過給機18は、ターボ過給機56を補助すると共に、気筒30a内に導入する新気量の調整を目的として使用するため、図5の上図にメッシュで示すような、回転限界ラインから離れた領域内において、エンジン冷却水の水温とエンジン回転数とに応じて、適切な回転数でもって作動される。つまり、電動式過給機18は限界回転数から大きく離れたパーシャル状態で運転される。
【0052】
図5の下図は、電動式過給機18の電動モータ18bの特性を例示しており、縦軸は電動モータ18bのトルク、横軸は電動モータ18bの回転数である。図5の下図の一点鎖線は、等消費電力となる線を示しており、図の右上になるほど消費電力が高く、左下になるほど消費電力が低い。電動式過給機18は、図5の上図におけるメッシュで示す領域内において作動されるが、このとき電動モータ18bは、図5の下図におけるメッシュで示す領域内において作動する。電動モータ18bの消費電力は比較的低くかつ、電動モータ18bの効率は比較的高い。電動モータ18bが最高トルクよりも低いトルクで作動している状態を、電動式過給機18のパーシャル状態で運転していると呼んでもよい。前述したように、電動式過給機18は、エンジン本体10の運転中は常時回転しているものの、電動式過給機18をパーシャル状態で運転することによって、消費電力を少なくすることが可能である。
【0053】
尚、図4に示すアイドル回転領域においては、電動式過給機18を停止させるようにしてもよい。
【0054】
(エンジンの燃焼制御)
上記PCM100によるエンジン1の基本的な制御は、主にアクセル開度に基づいて要求駆動力を決定し、これに対応する燃焼状態が実現するように、気筒30a内に導入する新気量、高圧EGRガス量、及び、低圧EGRガス量を調整すると共に、燃料の噴射量や噴射時期等をインジェクタ38の作動制御によって実現するものである。
【0055】
図6は、エンジン1のφ−Tマップを例示している。φ−Tマップは、燃焼温度(T)と、混合気の当量比(φ)とからなる平面において、未燃成分であるCO/HC、スート及びNOxが発生する領域を示すマップである。燃焼温度が高いとNOxの領域に入ってしまうと共に、当量比が高いとスートの領域に入ってしまう。また、燃焼温度が低すぎると、CO/HCの領域に入ってしまう。エンジン1は、新気量、高圧EGRガス量、及び、低圧EGRガス量を調整すると共に、燃料の噴射量や噴射時期等を調整することにより、φ−Tマップにおける、CO/HC、スート及びNOxが発生する領域に入らないような燃焼を実現する。
【0056】
具体的に、エンジン1は、部分負荷運転(つまり、全開負荷を除く負荷における運転)時には、ターボ過給機56による過給圧によって、燃料供給量に対応する量の新気を気筒30a内に導入することにより、混合気の当量比が高くなり過ぎないよう調整すると共に、気筒30a内にEGRガスを導入することにより、燃焼速度及び燃焼温度が高くなり過ぎることを回避して、RawNOxの発生を抑制する。気筒30a内に導入するEGRガスは、エンジン1の温間時には、主に、低温の低圧EGRガスであり、必要に応じて、高温の高圧EGRガスを気筒30a内に導入してもよい。
【0057】
また、RawNOxの生成を抑制するために、エンジン1は、図8に例示するように、部分負荷運転時において、圧縮上死点(TDC)よりも前に少なくとも1回の燃料噴射を行う前段噴射と、該前段噴射よりも後に、該前段噴射よりも燃料噴射量の多いメイン噴射とを実行する。図8の噴射例では、圧縮上死点(TDC)前の圧縮行程中において2回の前段噴射を実行し、圧縮上死点付近で、前段噴射よりも燃料噴射量の多いメイン噴射を1回実行し、さらにメイン噴射の後、プレ噴射と同等の燃料噴射量でアフタ噴射を1回実行している。以下、この噴射形態を予混合燃焼制御という。
【0058】
この予混合燃焼制御で実行される2回の前段噴射のうち、相対的に噴射時期の早い1回目の燃料噴射はパイロット噴射であり、2回目の燃料噴射はプレ噴射である。圧縮上死点よりも前にパイロット噴射及びプレ噴射を行うことにより、空気と燃料とのミキシング性が高くなって、圧縮行程中に混合気の化学反応が進行する。これにより、筒内温度が比較的低くても燃焼が可能となって、図8の熱発生履歴に示すように、圧縮上死点前に、前段噴射で噴射された燃料による前段燃焼が発生する。
【0059】
上記予混合燃焼制御による前段燃焼によって、圧縮端温度及び圧縮端圧力を高めることができる。これにより、メイン噴射開始時点における気筒内の温度及び圧力を最適にすることができ、メイン噴射における着火性及び燃焼性を向上させることができる。この結果、圧縮上死点付近で、安定してメイン燃焼を発生させることができるため、エンジン1の仕事量を大きくすることができ、ひいては燃費の向上を図ることができる。また、着火性が向上されることにより、スートの発生を抑制することができるとともに、メイン燃焼での熱発生の急上昇、すなわち燃焼期間が極端に短くなることを防止することができ、NOxの発生を抑制することができる。
【0060】
また、筒内圧力が低下する膨張行程期間内にアフタ噴射を行うことによって、スートを燃焼させることができ、燃焼室33からのスートの排出を抑制することができる。
【0061】
(車両加速時のエンジン制御)
ここで、エンジン1が部分負荷運転をしている状態で、車両の運転者がアクセルペダルを踏んで加速要求を行ったときには、排気エミッション性能の低下を防止するためには、燃料量が増加することに対応して気筒30a内に導入する新気量を増やすと共に、EGRガス量も増やす必要がある。ところが、低圧EGRシステム7は、高圧EGRシステム8に比べてEGRガスの供給経路長が長いため、車両の加速初期時に、EGRガスの供給遅れが生じてしまう。そのため、車両の加速時には、低圧EGRシステム7の応答遅れを補うように、高圧EGRシステム8によって高圧EGRガスを吸気通路50に還流することになるが、高圧EGRガスは低圧EGRガスよりも高温であるため、気筒30a内の温度が高くなってしまい、燃焼速度及び燃焼温度が高くなることでRawNOxが生成されてしまうという問題がある。
【0062】
また、低圧EGRシステム7によるEGRガスの還流が可能になって、RawNOxの生成が抑制されるようになっても、高圧EGRシステム8によってEGRガスを還流していたため、ターボ過給機56のタービン56bに供給される排気エネルギーが低くなっており、ターボ過給機56の過給圧が上がり難くて、車両の加速後期には、気筒30a内に導入する新気量が不足してしまう。新気量の不足によって、今度は、スートの発生を招いてしまう。
【0063】
このエンジン1は、加速時におけるエミッション性能の低下を防止するために、電動式過給機18を利用して、混合気の当量比を能動的に調整する。具体的には、運転者がアクセルペダルを踏んで加速要求を行ったときに、PCM100は、電動式過給機18の駆動が必要か否かを判断し、必要であると判断したときには、電動式過給機18を駆動して過給圧を高める。これにより、ターボ過給機56による過給圧が上がらなくても、気筒30a内に導入する新気量を増やすことができるから、加速時におけるスートの発生を抑制することができる。
【0064】
また、低圧EGR通路70が、吸気通路50において、電動式過給機18よりも上流に接続されているため、電動式過給機18を駆動することに伴って、低圧EGR通路70を介して低圧EGRガスが、吸気通路50に吸い出される。このため、新気量の増量と共に、気筒30a内に導入するEGRガスも増量することができる。高温の高圧EGRガスの導入量を増やさないため、気筒30a内の温度上昇を回避しながら、気筒30a内のガスの比熱を増大することができる。燃焼速度及び燃焼温度を低く抑えることが可能になって、車両の加速時に、RawNOxが生成されることが抑制される。また、低圧EGRガスを吸い出す際に、排気シャッター弁64を閉じないから、燃費の向上に有利になる。
【0065】
このように、エンジン1は、車両の加速時に電動式過給機18による過給圧を高めることによって、気筒30aに導入する新気量及びEGRガス量を調整することができる。その結果、車両の加速時にエミッション性能が低下してしまうことを防止することができる。
【0066】
例えば図7は、電動式過給機18を備えず、ターボ過給機56のみを備えている比較例としての過給機付エンジンと、電動式過給機18及びターボ過給機56を備えている実施例としての過給機付エンジンとのそれぞれにおいて、車両の加速初期時における気筒30a内のガス組成を比較した図である。図7の縦軸は圧縮端温度を表しており、図7は、比較例及び実施例のそれぞれで、圧縮端温度が同じになるように、気筒30a内のガス組成を設定している。尚、図7に示す「新気」「低圧EGRガス」及び「高圧EGRガス」を示す四角の面積は、気筒30a内に充填された全ガスに対する、各ガス成分の比率(%)を表している。従って、図7において、比較例として示す左側のガス組成における各ガス成分の面積と、実施例として示す右側のガス組成における各ガス成分の面積との大小関係は、各ガス成分の充填量の大小関係を示すとは限らない。
【0067】
先ず、電動式過給機18を備えていない比較例の過給機付エンジンにおいては、前述の通り、低圧EGRシステム7の応答遅れのために、加速初期においては、低圧EGRガスの代わりに高圧EGRガスを気筒30a内に導入している。高圧EGRガスの割合が多くなって、気筒30a内の温度が高くなりやすい。その結果、RawNOxの生成を招く恐れがある。
【0068】
これに対し、電動式過給機18を備えている実施例の過給機付エンジンにおいては、車両の加速初期時に、電動式過給機18による過給圧を高めることによって、新気及び低圧EGRガスの両方について、気筒30a内への導入量を増やすことができる。高圧EGRガスの導入量は、低圧EGRガスの導入量よりも少なくなる。気筒30a内への高圧EGRガスの導入量を増やす必要がないため、気筒30a内の温度が高くなることを回避して、RawNOxの生成を抑制することができる。また、加速時に増量した燃料量に見合う新気量を確保して混合気の当量比を下げているため、スートの発生も防止することができる。
【0069】
そして、車両の加速時にエミッション性能の低下を防止しながら、Pmaxを速やかに高めることができ、加速フィーリングを向上させることができる。Pmaxが高まると、排気エネルギーが上がるから、ターボ過給機56による過給圧が上昇する。加速後期においては、ターボ過給機56によって目標過給圧を満たすことができるようになるから、電動式過給機18による過給圧を低下させる。電動式過給機18を停止してもよいし、電動式過給機18をアイドル回転状態にしてもよい。このことにより、電動式過給機18の消費電力を少なくすることができる。電動式過給機18の過給圧を低下させるタイミングは、適宜のタイミングに設定すればよい。例えばPmaxの変化履歴に基づいて、電動式過給機18の過給圧を低下させるタイミングを設定してもよい。
【0070】
ここで、車両の加速時に、前述した電動式過給機18を駆動して過給圧を高めることに加えて、図9に例示するように、燃料の噴射開始時期を、車両の加速前に比べて遅角させてもよい。
【0071】
具体的には、前段噴射におけるパイロット噴射を停止させかつアフタ噴射を停止させるとともに、プレ噴射及びメイン噴射の噴射時期を遅角させる。また、図9の例では、メイン噴射を2回に分けて行う。以下、この噴射形態をリタード燃焼制御という。尚、2回のメイン噴射の燃料噴射量の合計値は、リタード燃焼制御での前段噴射(プレ噴射)よりも多い。尚、ここで示す燃料の噴射形態は一例であって、リタード燃焼制御時のプレ噴射及びメイン噴射の噴射時期及び燃料の噴射量は、車両の要求駆動力に基づいて適宜変更される。
【0072】
パイロット噴射を停止させかつプレ噴射を遅角させると、空気と燃料とのミキシング性自体は低下するため、図9の上図に示すように、圧縮上死点前に前段燃焼が発生しなくなる。電動式過給機18によって過給を行うことで、吸気密度を高くして、気筒30a内に出来る限り多くの新気を導入することによって、気筒30a内のガスの比熱比が上がって、圧縮端温度は十分に高くなるから、圧縮上死点よりも後に、前段燃焼及びメイン燃焼が発生する。
【0073】
上記リタード燃焼制御によって、圧縮比が低くても安定したメイン燃焼が可能となるため、燃焼温度が過剰に高くなることを防止することができ、NOxの発生を抑制することができる。また、新気量が多くなれば、吸気温度が低下するため、これによっても燃焼温度の上昇を抑えて、NOxの発生を抑制することができる。リタード燃焼制御においては、燃焼後期においても、図8に示す予混合燃焼制御時よりも燃焼温度が高く、アフタ噴射を行わなくても、スートを燃焼させることができる。アフタ噴射を省略することによって、燃費性能の向上に有利になる。
【0074】
車両の加速時に、電動式過給機18を駆動して過給圧を高めることに加えて、リタード燃焼制御を行うことによって、Pmaxを、より速やかに高めることができる。そこで、車両の加速時には、Pmaxの変化履歴に基づいて、具体的には、Pmaxの立ち上がりの傾きが小さいときには、電動式過給機18を駆動して過給圧を高めることに加えて、リタード燃焼制御を行うことによって、Pmaxを、より速やかに高める一方、Pmaxの立ち上がりの傾きが小さいときには、電動式過給機18を駆動して過給圧を高めることを行う一方、リタード燃焼制御は行わないようにしてもよい。
【0075】
次に、PCM100によるエンジン制御の処理動作を、図10のフローチャートに基づいて説明する。尚、図10に示すフローチャートは、エンジン本体10が、温間時でかつ、部分負荷領域において運転しているときのフローチャートである。
【0076】
最初のステップS101で、PCM100は、各種センサからの信号を読み込みエンジン1の運転状態を判定する。次のステップS102で、PCM100は、図4に例示するマップに従って、電動式過給機18を、アイドル回転状態にするか否かを判定する。ステップS102の判定がNOのときには、制御プロセスはステップS103に進む。ステップS103において、PCM100は、電動式過給機18を駆動する。PCM100は、エンジン1の水温と、エンジン回転数とに応じて、電動式過給機18の回転数を、高回転数、中回転数、又は、低回転数とする。
【0077】
ステップS102の判定がYESのときには、制御プロセスはステップS104に進む。電動式過給機18は、アイドル回転状態になる。
【0078】
ステップS104でPCM100は、運転者の加速要求があったか否かを判定する。PCM100は、運転者の加速要求の有無を、アクセル開度センサSW6の検出値に基づいて判定する。加速要求があったときには、制御プロセスはステップS105に進み、加速要求がないときには、制御プロセスはステップS113に進む。
【0079】
ステップS105でPCM100は、エンジン1の要求駆動力(アクセル開度等に基づくに駆動力)を算出する。ステップS106では、PCM100は、上記ステップS105で算出された要求駆動力を実現するための、燃料噴射量及び燃料噴射時期を決定すし、ステップS107では、PCM100は、要求駆動力を実現するための、目標EGR率を算出し、ステップS108では、要求駆動力を実現するための、目標過給圧を算出する。
【0080】
続くステップS109では、PCM100は、目標過給圧と実過給圧との差を算出する。そして、ステップS101において、PCM100は、ステップS109において算出した目標過給圧と実過給圧との差に基づいて、電動式過給機18の駆動が必要か否かを判定する。電動式過給機18の駆動が必要なときには、制御プロセスは、ステップS112に進み、PCM100は、前述したように、電動式過給機18に電力を供給することによって過給圧を高める。
【0081】
一方、ステップS110において、PCM100が、電動式過給機18の駆動が不要と判断したときには、制御プロセスは、ステップS112に進まずに、ステップS111に進む。
【0082】
ステップS111においてPCM100は、ステップS107において算出した目標EGR率を実現するように低圧EGR弁72及び高圧EGR弁82の開度を調整して、気筒30a内のガス組成を所望の状態にした上で、ステップS106において決定した燃料噴射量及び燃料噴射時期に従って、インジェクタ38に燃料噴射を実行させる。
【0083】
制御プロセスはその後、ステップS101に戻る。車両の加速初期に電動式過給機18の過給圧を上昇させたときでも、加速後期において電動式過給機18の駆動が不要になれば、ステップS110の判定がNOになって、電動式過給機18による過給圧は低下する。
【0084】
一方、加速要求がないため移行をしたステップS113において、PCM100は、ステップS105と同様に、エンジン1の要求駆動力を算出し、続くステップS114において、PCM100は、ステップS106と同様に、上記ステップS113で算出された要求駆動力を実現するための、燃料噴射量及び燃料噴射時期を決定する。
【0085】
ステップS115において、PCM100は、ステップS107と同様に、要求駆動力を実現するための、目標EGR率を算出し、ステップS116では、ステップS108と同様に、PCM100は、要求駆動力を実現するための、目標過給圧を算出する。
【0086】
そして、ステップS117で、PCM100は、ステップS115において算出した目標EGR率を実現するように低圧EGR弁72及び高圧EGR弁82の開度を調整して、気筒30a内のガス組成を所望の状態にした上で、ステップS114において決定した燃料噴射量及び燃料噴射時期に従って、インジェクタ38に燃料噴射を実行させる。
【0087】
従って、PCM100は、車両の加速時に、電動式過給機18によって過給圧を高めるから、気筒30a内に導入される新気を速やかに増やすことができる。混合気の当量比を能動的に調整することによって、スートの発生を抑制しながら、エンジン本体10のPmaxを速やかに高めて、加速フィーリングを向上させることができる。
【0088】
また、電動式過給機18の駆動に伴い、低圧EGR通路70から低圧EGRガスを吸気通路50に吸い出して、気筒30a内に導入されるEGRガスも増やすことができるから、燃焼速度及び燃焼温度が高くなり過ぎることを抑制して、RawNOxの生成を抑制することができる。
【0089】
従って、このエンジン1は、加速時におけるエミッション性能の低下を防止することができる。
【0090】
また、電動式過給機18の過給圧を上昇することによって、図7に例示するように、気筒30a内の新気量の割合を増やすと、気筒30a内のガスの比熱比が上がって、圧縮開始前の気筒内の温度が低くても、圧縮端温度は高くなる。従って、幾何学的圧縮比が16以下に設定された低圧縮比のディーゼルエンジンにおいて、混合気の着火性を確保する上で有利になる。
【0091】
また、加速開始時に電動式過給機18によって過給圧を速やかに高めて、エンジン本体10のPmaxを速やかに高めることにより、排気エネルギーが上がるから、ターボ過給機56による過給圧も、速やかに上昇させることができる。加速後期において、ターボ過給機56によって目標過給圧を満たすことができるようになれば、電動式過給機18の過給圧を低下させることにより、エミッション性能の低下を防止すると共に、消費電力を少なくすることができる。
【0092】
また、電動式過給機18は、加速要求の有無にかかわらず、図4又は図5に示すように、パーシャル状態で作動するため、加速の度に、電動式過給機18の電動モータに突入電力が供給されることを回避することができる。これにより、電動式過給機18により過給圧を上昇させる際の電力消費を抑えることができると共に、電動式過給機18の信頼性向上にも有利になる。
【0093】
本発明は、上記実施形態に限られるものではなく、請求の範囲の主旨を逸脱しない範囲で代用が可能である。
【0094】
例えばここに開示する技術は、ディーゼルエンジンに適用することに限定されず、ガソリンや、ナフサを含む燃料を用いるエンジンに、適用することも可能である。
【0095】
上述の実施形態は単なる例示に過ぎず、本発明の範囲を限定的に解釈してはならない。本発明の範囲は請求の範囲によって定義され、請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。
【符号の説明】
【0096】
1 エンジン
10 エンジン本体
18 電動式過給機
38 インジェクタ(燃料供給部)
50 吸気通路
56 ターボ過給機
56a コンプレッサ
56b タービン
60 排気通路
70 低圧EGR通路(EGR通路)
80 高圧EGR通路(第2EGR通路)
100 PCM
SW5 クランク角センサ(センサ)
【要約】
【課題】加速時におけるエミッション性能の低下を防止する。
【解決手段】過給機付エンジンは、エンジン本体10と、電動式過給機18と、ターボ過給機56と、ターボ過給機のタービン56bよりも下流の排気通路60とターボ過給機のコンプレッサ56aよりも上流の吸気通路50とを連通するEGR通路70と、気筒30a内に燃料を供給する燃料供給部(インジェクタ38)と、加速要求信号を受けて燃料供給部による燃料の供給量を増やす車両の加速時に、EGR通路を開くと共に、電動式過給機の過給圧が上昇するよう電動式過給機に制御信号を出力する制御部(PCM100)と、を備えている。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10