特許第6432681号(P6432681)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6432681
(24)【登録日】2018年11月16日
(45)【発行日】2018年12月5日
(54)【発明の名称】電動圧縮機の駆動装置
(51)【国際特許分類】
   H02P 6/20 20160101AFI20181126BHJP
   H02P 6/18 20160101ALI20181126BHJP
【FI】
   H02P6/20
   H02P6/18
【請求項の数】10
【全頁数】30
(21)【出願番号】特願2017-528353(P2017-528353)
(86)(22)【出願日】2016年6月23日
(86)【国際出願番号】JP2016068712
(87)【国際公開番号】WO2017010256
(87)【国際公開日】20170119
【審査請求日】2017年7月27日
(31)【優先権主張番号】特願2015-140823(P2015-140823)
(32)【優先日】2015年7月14日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110001128
【氏名又は名称】特許業務法人ゆうあい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】酒井 剛志
【審査官】 尾家 英樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−102193(JP,A)
【文献】 特開2008−306914(JP,A)
【文献】 実開平07−027909(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 6/20
H02P 27/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
同期電動機(12)のステータコイル(14)から発生する回転磁界によりロータ(13)を回転させて、このロータの回転力によって圧縮機構(11)を駆動して流体を圧縮する電動圧縮機(10)の駆動装置であって、
複数のスイッチング素子(SW1、SW2、…SW6)から構成されるインバータ回路(51)と、
前記複数のスイッチング素子をスイッチングさせることにより、直流電源(70)から出力される直流電圧に基づいて前記インバータ回路から前記ステータコイルに交流電流を流して前記ステータコイルから前記回転磁界を発生させる駆動部(53)と、
前記圧縮機構の停止後に前記圧縮機構が再び起動する際、前記圧縮機構の流体吸入口側と流体吐出口側との間の圧力差が所定値以上であるか否かを判定する判定部(S113)と、
前記圧縮機構が再び起動を開始するときの初期の所定時間における前記複数のスイッチング素子の単位時間あたりのスイッチング回数を設定して、前記圧縮機構が再び起動するときに前記ロータの回転数を所定回転数まで上昇させる交流電流を前記インバータ回路から前記ステータコイルに流すように前記駆動部を制御する再起動部(S117、S118、S119、S118A、S119A)と
前記圧力差を示す圧力差情報を求める算出部(S107、S122)と、
前記圧縮機構を停止させるように前記駆動部を制御する停止部(S106)と、を備え、
前記圧力差が所定値以上であると前記判定部が判定したときには、前記圧力差が所定値未満であると前記判定部が判定したときに比べて、前記複数のスイッチング素子の単位時間あたりのスイッチング回数を前記再起動部が少なく設定し、
前記複数のスイッチング素子は、直列接続された一対のスイッチング素子を相毎に構成することにより、複数対のスイッチング素子を構成し、前記複数対のスイッチング素子は、正極母線(51a)と負極母線(51b)との間にて並列接続されており、
前記再起動部は、前記ロータの回転数を所定回転数まで上昇させる交流電流を前記インバータ回路から前記ステータコイルに流すために、電圧が周期的に変化する前記相毎の電圧指令波を設定し、
前記駆動部は、前記相毎の電圧指令波が、電圧が周期的に変化するキャリア波より大きいときには前記相毎の一対のスイッチング素子のうち正極母線側スイッチング素子(SW1、SW2、SW3)をオンして負極母線側スイッチング素子(SW4、SW5、SW6)をオフし、前記相毎の前記電圧指令波が前記キャリア波より小さいときには前記負極母線側スイッチング素子をオンして前記正極母線側スイッチング素子をオフし、
さらに前記再起動部は、前記キャリア波の周波数であるキャリア周波数を設定することにより、前記複数のスイッチング素子の単位時間あたりのスイッチング回数を設定し、
前記再起動部は、前記所定時間に前記駆動部で用いられる前記キャリア周波数を前記圧力差情報に基づいて設定し、
前記圧力差が大きいほど前記キャリア周波数が低くなるように前記再起動部が前記キャリア周波数を設定し、
前記算出部は、前記停止部が実行されているとき、前記インバータ回路の温度を検出する温度検出部(58)の検出温度を前記圧力差情報とする電動圧縮機の駆動装置。
【請求項2】
同期電動機(12)のステータコイル(14)から発生する回転磁界によりロータ(13)を回転させて、このロータの回転力によって圧縮機構(11)を駆動して流体を圧縮する電動圧縮機(10)の駆動装置であって、
複数のスイッチング素子(SW1、SW2、…SW6)から構成されるインバータ回路(51)と、
前記複数のスイッチング素子をスイッチングさせることにより、直流電源(70)から出力される直流電圧に基づいて前記インバータ回路から前記ステータコイルに交流電流を流して前記ステータコイルから前記回転磁界を発生させる駆動部(53)と、
前記圧縮機構の停止後に前記圧縮機構が再び起動する際、前記圧縮機構の流体吸入口側と流体吐出口側との間の圧力差が所定値以上であるか否かを判定する判定部(S113)と、
前記圧縮機構が再び起動を開始するときの初期の所定時間における前記複数のスイッチング素子の単位時間あたりのスイッチング回数を設定して、前記圧縮機構が再び起動するときに前記ロータの回転数を所定回転数まで上昇させる交流電流を前記インバータ回路から前記ステータコイルに流すように前記駆動部を制御する再起動部(S117、S118、S119、S118A、S119A)と
前記圧力差を示す圧力差情報を求める算出部(S107、S122)と、を備え、
前記圧力差が所定値以上であると前記判定部が判定したときには、前記圧力差が所定値未満であると前記判定部が判定したときに比べて、前記複数のスイッチング素子の単位時間あたりのスイッチング回数を前記再起動部が少なく設定し、
前記複数のスイッチング素子は、直列接続された一対のスイッチング素子を相毎に構成することにより、複数対のスイッチング素子を構成し、前記複数対のスイッチング素子は、正極母線(51a)と負極母線(51b)との間にて並列接続されており、
前記再起動部は、前記ロータの回転数を所定回転数まで上昇させる交流電流を前記インバータ回路から前記ステータコイルに流すために、電圧が周期的に変化する前記相毎の電圧指令波を設定し、
前記駆動部は、前記相毎の電圧指令波が、電圧が周期的に変化するキャリア波より大きいときには前記相毎の一対のスイッチング素子のうち正極母線側スイッチング素子(SW1、SW2、SW3)をオンして負極母線側スイッチング素子(SW4、SW5、SW6)をオフし、前記相毎の前記電圧指令波が前記キャリア波より小さいときには前記負極母線側スイッチング素子をオンして前記正極母線側スイッチング素子をオフし、
さらに前記再起動部は、前記キャリア波の周波数であるキャリア周波数を設定することにより、前記複数のスイッチング素子の単位時間あたりのスイッチング回数を設定し、
前記再起動部は、前記所定時間に前記駆動部で用いられる前記キャリア周波数を前記圧力差情報に基づいて設定し、
前記圧力差が大きいほど前記キャリア周波数が低くなるように前記再起動部が前記キャリア周波数を設定し、
前記算出部は、前記再起動部が実行されているとき、前記インバータ回路の温度を検出する温度検出部(58)の検出値、および前記インバータ回路から前記ステータコイルに流れる交流電流を検出する電流検出部(57)の検出値のうちいずれかを前記圧力差情報とする電動圧縮機の駆動装置。
【請求項3】
同期電動機(12)のステータコイル(14)から発生する回転磁界によりロータ(13)を回転させて、このロータの回転力によって圧縮機構(11)を駆動して流体を圧縮する電動圧縮機(10)の駆動装置であって、
複数のスイッチング素子(SW1、SW2、…SW6)から構成されるインバータ回路(51)と、
前記複数のスイッチング素子をスイッチングさせることにより、直流電源(70)から出力される直流電圧に基づいて前記インバータ回路から前記ステータコイルに交流電流を流して前記ステータコイルから前記回転磁界を発生させる駆動部(53)と、
前記圧縮機構の停止後に前記圧縮機構が再び起動する際、前記圧縮機構の流体吸入口側と流体吐出口側との間の圧力差が所定値以上であるか否かを判定する判定部(S113)と、
前記圧縮機構が再び起動を開始するときの初期の所定時間における前記複数のスイッチング素子の単位時間あたりのスイッチング回数を設定して、前記圧縮機構が再び起動するときに前記ロータの回転数を所定回転数まで上昇させる交流電流を前記インバータ回路から前記ステータコイルに流すように前記駆動部を制御する再起動部(S117、S118、S119、S118A、S119A)と
前記圧力差を示す圧力差情報を求める算出部(S107、S122)と、
前記再起動部の実行後に、前記インバータ回路から前記ステータコイルに流れる交流電流を検出する電流検出部(57)の検出値を電流指令値に近づけるように前記駆動部を制御する通常制御部(S103)と、を備え、
前記圧力差が所定値以上であると前記判定部が判定したときには、前記圧力差が所定値未満であると前記判定部が判定したときに比べて、前記複数のスイッチング素子の単位時間あたりのスイッチング回数を前記再起動部が少なく設定し、
前記複数のスイッチング素子は、直列接続された一対のスイッチング素子を相毎に構成することにより、複数対のスイッチング素子を構成し、前記複数対のスイッチング素子は、正極母線(51a)と負極母線(51b)との間にて並列接続されており、
前記再起動部は、前記ロータの回転数を所定回転数まで上昇させる交流電流を前記インバータ回路から前記ステータコイルに流すために、電圧が周期的に変化する前記相毎の電圧指令波を設定し、
前記駆動部は、前記相毎の電圧指令波が、電圧が周期的に変化するキャリア波より大きいときには前記相毎の一対のスイッチング素子のうち正極母線側スイッチング素子(SW1、SW2、SW3)をオンして負極母線側スイッチング素子(SW4、SW5、SW6)をオフし、前記相毎の前記電圧指令波が前記キャリア波より小さいときには前記負極母線側スイッチング素子をオンして前記正極母線側スイッチング素子をオフし、
さらに前記再起動部は、前記キャリア波の周波数であるキャリア周波数を設定することにより、前記複数のスイッチング素子の単位時間あたりのスイッチング回数を設定し、
前記再起動部は、前記所定時間に前記駆動部で用いられる前記キャリア周波数を前記圧力差情報に基づいて設定し、
前記圧力差が大きいほど前記キャリア周波数が低くなるように前記再起動部が前記キャリア周波数を設定し、
前記算出部は、前記通常制御部が実行されているとき、前記インバータ回路の温度を検出する温度検出部(58)の検出値、前記電流検出部によって検出される検出値、および前記電流指令値のうちいずれかを前記圧力差情報とする電動圧縮機の駆動装置。
【請求項4】
動作に伴って動作音を発生する車載装置(21、41)を備える自動車に適用され、
前記圧力差が所定値以上であると前記判定部が判定した場合において、前記車載装置を動作させる制御を行うマスキング部(S115、S116)を備え、
前記相毎の前記一対のスイッチング素子がスイッチングする際に前記キャリア周波数に起因して前記電動圧縮機から音が発生するときに前記マスキング部が前記車載装置から動作音を発生させるようになっている請求項1ないしのいずれか1つに記載の電動圧縮機の駆動装置。
【請求項5】
動作に伴って動作音を発生する車載装置(21、41)を備える自動車に適用され、同期電動機(12)のステータコイル(14)から発生する回転磁界によりロータ(13)を回転させて、このロータの回転力によって圧縮機構(11)を駆動して流体を圧縮する電動圧縮機(10)の駆動装置であって、
複数のスイッチング素子(SW1、SW2、…SW6)から構成されるインバータ回路(51)と、
前記複数のスイッチング素子をスイッチングさせることにより、直流電源(70)から出力される直流電圧に基づいて前記インバータ回路から前記ステータコイルに交流電流を流して前記ステータコイルから前記回転磁界を発生させる駆動部(53)と、
前記圧縮機構の停止後に前記圧縮機構が再び起動する際、前記圧縮機構の流体吸入口側と流体吐出口側との間の圧力差が所定値以上であるか否かを判定する判定部(S113)と、
前記圧縮機構が再び起動を開始するときの初期の所定時間における前記複数のスイッチング素子の単位時間あたりのスイッチング回数を設定して、前記圧縮機構が再び起動するときに前記ロータの回転数を所定回転数まで上昇させる交流電流を前記インバータ回路から前記ステータコイルに流すように前記駆動部を制御する再起動部(S117、S118、S119、S118A、S119A)と
前記圧力差が所定値以上であると前記判定部が判定した場合において、前記車載装置を動作させる制御を行うマスキング部(S115、S116)とを備え
前記複数のスイッチング素子は、直列接続された一対のスイッチング素子を相毎に構成することにより、複数対のスイッチング素子を構成し、前記複数対のスイッチング素子は、正極母線(51a)と負極母線(51b)との間にて並列接続されており、
前記再起動部は、前記ロータの回転数を所定回転数まで上昇させる交流電流を前記インバータ回路から前記ステータコイルに流すために、電圧が周期的に変化する前記相毎の電圧指令波を設定し、
前記駆動部は、前記相毎の電圧指令波が、電圧が周期的に変化するキャリア波より大きいときには前記相毎の一対のスイッチング素子のうち正極母線側スイッチング素子(SW1、SW2、SW3)をオンして負極母線側スイッチング素子(SW4、SW5、SW6)をオフし、前記相毎の前記電圧指令波が前記キャリア波より小さいときには前記負極母線側スイッチング素子をオンして前記正極母線側スイッチング素子をオフし、
さらに前記再起動部は、前記キャリア波の周波数であるキャリア周波数を設定することにより、前記複数のスイッチング素子の単位時間あたりのスイッチング回数を設定し、
前記圧力差が所定値以上であると前記判定部が判定したときには、前記圧力差が所定値未満であると前記判定部が判定したときに比べて、前記複数のスイッチング素子の単位時間あたりのスイッチング回数を前記再起動部が少なく設定し、
前記相毎の前記一対のスイッチング素子がスイッチングする際に前記キャリア周波数に起因して前記電動圧縮機から音が発生するときに前記マスキング部が前記車載装置から動作音を発生させるようになっている電動圧縮機の駆動装置。
【請求項6】
前記圧力差を示す圧力差情報を求める算出部(S107、S122)を備え、
前記再起動部は、前記所定時間に前記駆動部で用いられる前記キャリア周波数を前記圧力差情報に基づいて設定し、
前記圧力差が大きいほど前記キャリア周波数が低くなるように前記再起動部が前記キャリア周波数を設定する請求項に記載の電動圧縮機の駆動装置。
【請求項7】
前記再起動部は、前記所定時間に前記駆動部で用いられる前記キャリア周波数を前記圧力差情報に基づいて設定するとともに、この設定した前記キャリア周波数を前記駆動部で用いる前記所定時間を前記圧力差情報に基づいて設定し、
前記圧力差が大きいほど前記所定時間が長くなるように前記再起動部が前記所定時間を設定する請求項1、2、3、4、6のいずれか1つに記載の電動圧縮機の駆動装置。
【請求項8】
前記直流電源は、前記正極母線と前記負極母線との間に接続されている請求項ないしのいずれか1つに記載の電動圧縮機の駆動装置。
【請求項9】
前記直流電源は、スター結線されて中性点(14x)を有する前記ステータコイルの前記中性点と、前記正極母線および前記負極母線のうちいずれか一方の母線との間に接続されている請求項ないしのいずれか1つに記載の電動圧縮機の駆動装置。
【請求項10】
前記流体としての冷媒を圧縮する前記電動圧縮機(10)と、
前記電動圧縮機から吐出される冷媒が車室外空気に放熱する第1熱交換器(20)と、
前記第1熱交換器から流れた冷媒が車室内空気から吸熱する第2熱交換器(40)と、
前記電動圧縮機、前記第1熱交換器、および前記第2熱交換器とともに冷凍サイクルを構成し、前記第1熱交換器の冷媒出口から前記第2熱交換器の冷媒入口に流れる冷媒を減圧する減圧弁(30)と、
前記第1熱交換器を通過する前記車室外空気の空気流を発生させる第1送風機(21)と、
前記第2熱交換器を通過する前記車室内空気の空気流を発生させる第2送風機(41)と、を備える自動車に搭載され、
前記圧力差が所定値以上であると前記判定部が判定した場合において、前記再起動部が前記駆動部を制御する前に、前記第1送風機および前記第2送風機のうち少なくとも1つの送風機を制御して前記第1熱交換器および第2熱交換器のうち前記1つの送風機に対応する熱交換器を通過する空気流を発生させることにより、前記冷媒および前記空気流の間で熱を移動させて前記圧力差を小さくする圧力制御部(S115、S116)を備える請求項1ないしのいずれか1つに記載の電動圧縮機の駆動装置。
【発明の詳細な説明】
【関連出願への相互参照】
【0001】
本出願は、2015年7月14日に出願された日本特許出願番号2015−140823号に基づくもので、ここにその記載内容が参照により組み入れられる。
【技術分野】
【0002】
本開示は、電動圧縮機の駆動装置に関するものである。
【背景技術】
【0003】
従来、電動圧縮機用の同期モータの駆動装置では、低圧冷媒と高圧冷媒との圧力差に対する起動性と、インバータ回路の寿命の両方を考慮した起動制御が、例えば特許文献1に記載されている。
【0004】
この特許文献1では、圧縮機の停止指令が発生されたときのインバータ回路からステータコイルへ流れる電流値に基づいて、次に起動するときにインバータ回路からステータコイルへ流れる起動電流の目標電流値が決められている。
【0005】
圧縮機の停止指令が発生されたときの前記電流値が大きいときには、圧力差が大きいとして、目標電流値を大きくしている。圧縮機の停止指令が発生されたときの前記電流値が小さいときには、圧力差が小さいとして、目標電流値を小さくしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2014−3802号公報
【発明の概要】
【0007】
上記特許文献1の駆動装置では、上述の如く、圧縮機の停止指令が発生されたときのインバータ回路からステータコイルへ流れる電流値に基づいて、次に起動するときの起動電流の目標電流値を決めている。しかし、前記電流値が大きいときには、圧力差が大きいとして、目標電流値を大きくしている。このため、圧力差が大きいときにはインバータ回路から発生する熱量が多くなる。
【0008】
本開示は、圧縮機構の停止後にロータを再び起動する際に圧力差が大きいときにインバータ回路が発熱することを抑えるようにした電動圧縮機の駆動装置を提供することを目的とする。
【0009】
本開示の1つの観点によれば、同期電動機のステータコイルから発生する回転磁界によりロータを回転させて、このロータの回転力によって圧縮機構を駆動して流体を圧縮する電動圧縮機の駆動装置は、
複数のスイッチング素子から構成されるインバータ回路と、
複数のスイッチング素子をスイッチングさせることにより、直流電源から出力される直流電圧に基づいてインバータ回路からステータコイルに交流電流を流してステータコイルから回転磁界を発生させる駆動部と、
圧縮機構の停止後に圧縮機構が再び起動する際、圧縮機構の流体吸入口側と流体吐出口側との間の圧力差が所定値以上であるか否かを判定する判定部と、
圧縮機構が再び起動を開始するときの初期の所定時間における複数のスイッチング素子の単位時間あたりのスイッチング回数を設定して、圧縮機構が再び起動するときにロータの回転数を所定回転数まで上昇させる交流電流をインバータ回路からステータコイルに流すように駆動部を制御する再起動部と
前記圧力差を示す圧力差情報を求める算出部(S107、S122)と、
前記圧縮機構を停止させるように前記駆動部を制御する停止部(S106)と、を備え、
圧力差が所定値以上であると判定部が判定したときには、圧力差が所定値未満であると判定部が判定したときに比べて、複数のスイッチング素子の単位時間あたりのスイッチング回数を再起動部が少なく設定し、
前記複数のスイッチング素子は、直列接続された一対のスイッチング素子を相毎に構成することにより、複数対のスイッチング素子を構成し、前記複数対のスイッチング素子は、正極母線(51a)と負極母線(51b)との間にて並列接続されており、
前記再起動部は、前記ロータの回転数を所定回転数まで上昇させる交流電流を前記インバータ回路から前記ステータコイルに流すために、電圧が周期的に変化する前記相毎の電圧指令波を設定し、
前記駆動部は、前記相毎の電圧指令波が、電圧が周期的に変化するキャリア波より大きいときには前記相毎の一対のスイッチング素子のうち正極母線側スイッチング素子(SW1、SW2、SW3)をオンして負極母線側スイッチング素子(SW4、SW5、SW6)をオフし、前記相毎の前記電圧指令波が前記キャリア波より小さいときには前記負極母線側スイッチング素子をオンして前記正極母線側スイッチング素子をオフし、
さらに前記再起動部は、前記キャリア波の周波数であるキャリア周波数を設定することにより、前記複数のスイッチング素子の単位時間あたりのスイッチング回数を設定し、
前記再起動部は、前記所定時間に前記駆動部で用いられる前記キャリア周波数を前記圧力差情報に基づいて設定し、
前記圧力差が大きいほど前記キャリア周波数が低くなるように前記再起動部が前記キャリア周波数を設定し、
前記算出部は、前記停止部が実行されているとき、前記インバータ回路の温度を検出する温度検出部(58)の検出温度を前記圧力差情報とする
また、別の観点によれば、同期電動機(12)のステータコイル(14)から発生する回転磁界によりロータ(13)を回転させて、このロータの回転力によって圧縮機構(11)を駆動して流体を圧縮する電動圧縮機(10)の駆動装置は、
複数のスイッチング素子(SW1、SW2、…SW6)から構成されるインバータ回路(51)と、
前記複数のスイッチング素子をスイッチングさせることにより、直流電源(70)から出力される直流電圧に基づいて前記インバータ回路から前記ステータコイルに交流電流を流して前記ステータコイルから前記回転磁界を発生させる駆動部(53)と、
前記圧縮機構の停止後に前記圧縮機構が再び起動する際、前記圧縮機構の流体吸入口側と流体吐出口側との間の圧力差が所定値以上であるか否かを判定する判定部(S113)と、
前記圧縮機構が再び起動を開始するときの初期の所定時間における前記複数のスイッチング素子の単位時間あたりのスイッチング回数を設定して、前記圧縮機構が再び起動するときに前記ロータの回転数を所定回転数まで上昇させる交流電流を前記インバータ回路から前記ステータコイルに流すように前記駆動部を制御する再起動部(S117、S118、S119、S118A、S119A)と、
前記圧力差を示す圧力差情報を求める算出部(S107、S122)と、を備え、
前記圧力差が所定値以上であると前記判定部が判定したときには、前記圧力差が所定値未満であると前記判定部が判定したときに比べて、前記複数のスイッチング素子の単位時間あたりのスイッチング回数を前記再起動部が少なく設定し、
前記複数のスイッチング素子は、直列接続された一対のスイッチング素子を相毎に構成することにより、複数対のスイッチング素子を構成し、前記複数対のスイッチング素子は、正極母線(51a)と負極母線(51b)との間にて並列接続されており、
前記再起動部は、前記ロータの回転数を所定回転数まで上昇させる交流電流を前記インバータ回路から前記ステータコイルに流すために、電圧が周期的に変化する前記相毎の電圧指令波を設定し、
前記駆動部は、前記相毎の電圧指令波が、電圧が周期的に変化するキャリア波より大きいときには前記相毎の一対のスイッチング素子のうち正極母線側スイッチング素子(SW1、SW2、SW3)をオンして負極母線側スイッチング素子(SW4、SW5、SW6)をオフし、前記相毎の前記電圧指令波が前記キャリア波より小さいときには前記負極母線側スイッチング素子をオンして前記正極母線側スイッチング素子をオフし、
さらに前記再起動部は、前記キャリア波の周波数であるキャリア周波数を設定することにより、前記複数のスイッチング素子の単位時間あたりのスイッチング回数を設定し、
前記再起動部は、前記所定時間に前記駆動部で用いられる前記キャリア周波数を前記圧力差情報に基づいて設定し、
前記圧力差が大きいほど前記キャリア周波数が低くなるように前記再起動部が前記キャリア周波数を設定し、
前記算出部は、前記再起動部が実行されているとき、前記インバータ回路の温度を検出する温度検出部(58)の検出値、および前記インバータ回路から前記ステータコイルに流れる交流電流を検出する電流検出部(57)の検出値のうちいずれかを前記圧力差情報とする。
また、別の観点によれば、同期電動機(12)のステータコイル(14)から発生する回転磁界によりロータ(13)を回転させて、このロータの回転力によって圧縮機構(11)を駆動して流体を圧縮する電動圧縮機(10)の駆動装置は、
複数のスイッチング素子(SW1、SW2、…SW6)から構成されるインバータ回路(51)と、
前記複数のスイッチング素子をスイッチングさせることにより、直流電源(70)から出力される直流電圧に基づいて前記インバータ回路から前記ステータコイルに交流電流を流して前記ステータコイルから前記回転磁界を発生させる駆動部(53)と、
前記圧縮機構の停止後に前記圧縮機構が再び起動する際、前記圧縮機構の流体吸入口側と流体吐出口側との間の圧力差が所定値以上であるか否かを判定する判定部(S113)と、
前記圧縮機構が再び起動を開始するときの初期の所定時間における前記複数のスイッチング素子の単位時間あたりのスイッチング回数を設定して、前記圧縮機構が再び起動するときに前記ロータの回転数を所定回転数まで上昇させる交流電流を前記インバータ回路から前記ステータコイルに流すように前記駆動部を制御する再起動部(S117、S118、S119、S118A、S119A)と、
前記圧力差を示す圧力差情報を求める算出部(S107、S122)と、
前記再起動部の実行後に、前記インバータ回路から前記ステータコイルに流れる交流電流を検出する電流検出部(57)の検出値を電流指令値に近づけるように前記駆動部を制御する通常制御部(S103)と、を備え、
前記圧力差が所定値以上であると前記判定部が判定したときには、前記圧力差が所定値未満であると前記判定部が判定したときに比べて、前記複数のスイッチング素子の単位時間あたりのスイッチング回数を前記再起動部が少なく設定し、
前記複数のスイッチング素子は、直列接続された一対のスイッチング素子を相毎に構成することにより、複数対のスイッチング素子を構成し、前記複数対のスイッチング素子は、正極母線(51a)と負極母線(51b)との間にて並列接続されており、
前記再起動部は、前記ロータの回転数を所定回転数まで上昇させる交流電流を前記インバータ回路から前記ステータコイルに流すために、電圧が周期的に変化する前記相毎の電圧指令波を設定し、
前記駆動部は、前記相毎の電圧指令波が、電圧が周期的に変化するキャリア波より大きいときには前記相毎の一対のスイッチング素子のうち正極母線側スイッチング素子(SW1、SW2、SW3)をオンして負極母線側スイッチング素子(SW4、SW5、SW6)をオフし、前記相毎の前記電圧指令波が前記キャリア波より小さいときには前記負極母線側スイッチング素子をオンして前記正極母線側スイッチング素子をオフし、
さらに前記再起動部は、前記キャリア波の周波数であるキャリア周波数を設定することにより、前記複数のスイッチング素子の単位時間あたりのスイッチング回数を設定し、
前記再起動部は、前記所定時間に前記駆動部で用いられる前記キャリア周波数を前記圧力差情報に基づいて設定し、
前記圧力差が大きいほど前記キャリア周波数が低くなるように前記再起動部が前記キャリア周波数を設定し、
前記算出部は、前記通常制御部が実行されているとき、前記インバータ回路の温度を検出する温度検出部(58)の検出値、前記電流検出部によって検出される検出値、および前記電流指令値のうちいずれかを前記圧力差情報とする
【0010】
これによれば、圧力差が所定値以上であるときには、圧力差が所定値未満であるときに比べて、ロータが再び起動を開始するときの初期の所定時間における単位時間あたりのスイッチング回数を少なくすることができる。このため、圧縮機構の停止後に再びロータを起動する場合において圧力差が大きいときにインバータ回路が発熱することを抑えることができる。
【0011】
但し、スイッチング回数とは、複数のスイッチング素子において、オン、オフのうち一方の状態から他方の状態に変化する回数のことである。正極母線側スイッチング素子は、複数のスイッチング素子のうち正極母線に接続されているスイッチング素子である。負極母線側スイッチング素子は、複数のスイッチング素子のうち負極母線に接続されているスイッチング素子である。
【0012】
また、別の観点によれば、電動圧縮機の駆動装置は、動作に伴って動作音を発生する車載装置を備える自動車に適用され、
圧力差が所定値以上であると判定部が判定した場合において、車載装置を動作させる制御を行うマスキング部を備え、
相毎の一対のスイッチング素子がスイッチングする際にキャリア周波数に起因してインバータ回路から振動音が発生するときにマスキング部が車載装置から動作音を発生させるようになっている。
【0013】
これによれば、インバータ回路からの振動音を車載装置からの動作音によってマスキングして、インバータ回路からの振動音が乗員等に違和感を与えること未然に防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】第1実施形態における冷凍サイクル装置の電気的構成を示す図である。
図2図1の制御回路の圧縮機制御処理を示すフローチャートである。
図3図2中の再起動制御処理の詳細を示すフローチャートである。
図4図1の駆動回路で用いられる相毎の電圧指令波とキャリア波とを示す図である。
図5図1の駆動回路で用いられる相毎の電圧指令波とキャリア波とを示す図である。
図6図1の駆動回路で用いられる相毎の電圧指令波とキャリア波とを示す図である。
図7】第1実施形態において再起動時におけるキャリア周波数の変化を示す図である。
図8】第1実施形態において再起動時におけるキャリア周波数の変更に伴って損失の低下を示す模式図である。
図9】第1実施形態においてキャリア周波数および損失の関係を示すヒストグラムである。
図10】第2実施形態の再起動制御処理の詳細を示すフローチャートである。
図11】第2実施形態において再起動時におけるキャリア周波数の変化を示す図である。
図12】第3実施形態の再起動制御処理の詳細を示すフローチャートである。
図13】第3実施形態において再起動時におけるキャリア周波数の変化を示す図である。
図14】第4実施形態の制御回路の圧縮機制御処理を示すフローチャートである。
図15】第5実施形態における駆動装置の電気的構成を示す図である。
図16】第6実施形態における駆動装置の電気的構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、説明の簡略化を図るべく、図中、同一符号を付してある。
【0016】
(第1実施形態)
図1に本開示に係る電動圧縮機の駆動装置が適用された冷凍サイクル装置1の第1実施形態を示す。冷凍サイクル装置1は、自動車に搭載された車載冷凍サイクル装置である。本実施形態の自動車は、走行用モータを備える電気自動車やハイブリット自動車である。
【0017】
冷凍サイクル装置1は、車載空調装置を構成するものであって、電動圧縮機10、凝縮器20、減圧弁30、蒸発器40、駆動装置50、および電子制御装置60を備える。
【0018】
電動圧縮機10は、圧縮機構11、および同期電動機12を備える。圧縮機構11は、同期電動機12のロータ13の回転力によって冷媒(すなわち流体)を吸入して圧縮して吐出する。圧縮機構11としては、例えばスクロール式圧縮機やロータリ式圧縮機が用いられる。
【0019】
同期電動機12は、ロータ13およびステータコイル14を備える。ロータ13は、回転軸13aを通して回転力を圧縮機構11に出力する。ロータ13としては、例えば複数の永久磁石が埋め込まれたものが用いられる。
【0020】
ステータコイル14は、U相コイル14a、V相コイル14b、およびW相コイル14cをスター結線して中性点14xを備える。ステータコイル14は、ロータ13に回転磁界を与える。
【0021】
凝縮器20は、圧縮機構11から吐出される高圧冷媒を電動ファン21から送風される車室外空気により冷却する熱交換器である。電動ファン21は、凝縮器20を通過する車室外空気の流れを発生させる。凝縮器20および電動ファン21は、自動車のエンジンルーム内に配置されている。
【0022】
減圧弁30は、凝縮器20によって冷却された高圧冷媒を減圧する。具体的には、減圧弁30は、凝縮器20の冷媒出口および蒸発器40の冷媒入口の間の冷媒通路の断面積を制御する弁体31、およびこの弁体を駆動する電動アクチュエータ32から構成されている。
【0023】
蒸発器40は、減圧弁30により減圧された低圧冷媒により電動ファン41から送風される車室内空気を冷却する。電動ファン41は、蒸発器40を通過する車室内空気の流れを発生させる。蒸発器40および電動ファン41は、車室内のうちインストメントパネルの下側に配置されて、車室内空調装置を構成する。
【0024】
駆動装置50は、インバータ回路51、コンデンサ52、駆動回路53、検出回路54、制御回路55、電圧センサ56、電流センサ57、および温度センサ58を備える。
【0025】
インバータ回路51は、高圧電源70の出力電圧に基づいて三相交流電流をステータコイル14に流す。高圧電源70は、インバータ回路51等に直流電圧を出力する直流電源である。インバータ回路51は、スイッチング素子SW1、SW2、SW3、SW4、SW5、SW6およびダイオードD1、D2、D3、D4、D5、D6から構成されている。
【0026】
スイッチング素子SW1、SW4は負極母線51bと正極母線51aとの間に直列接続されている。スイッチング素子SW2、SW5は負極母線51bと正極母線51aとの間で直列接続されている。スイッチング素子SW3、SW6は負極母線51bと正極母線51aとの間で直列接続されている。
【0027】
正極母線51aは、高圧電源70の正極電極に接続され、負極母線51bは、高圧電源70の負極電極に接続されている。
【0028】
スイッチング素子SW1、SW4は、W相に対応するように設けられており、スイッチング素子SW1、SW4の共通接続点T1は、W相コイル14cに接続されている。スイッチング素子SW2、SW5は、V相に対応するように設けられており、スイッチング素子SW2、SW5の共通接続点T2は、V相コイル14bに接続されている。スイッチング素子SW3、SW6は、U相に対応するように設けられており、スイッチング素子SW3、SW6の共通接続点T3は、U相コイル14aに接続されている。
【0029】
なお、スイッチング素子SW1、SW2…SW6としては、例えば、絶縁ゲートバイポーラスイッチング素子や電界効果型スイッチング素子等の半導体スイッチング素子が用いられている。
【0030】
ダイオードD1、D2、D3、D4、D5、D6は、スイッチング素子SW1、SW2、SW3、SW4、SW5、SW6のうち対応するスイッチング素子に逆並列になるように配置されている。
【0031】
コンデンサ52の正極電極は、インバータ回路51の正極母線51aに接続されている。コンデンサ52の負極電極は、インバータ回路51の負極母線51bに接続されている。
【0032】
コンデンサ71の正極電極は、高圧電源70の正極電極に接続され、コンデンサ71の負極電極は、高圧電源70の負極電極に接続されている。コンデンサ52の正極電極とコンデンサ71の正極電極との間には、コイル72が接続されている。
【0033】
本実施形態のコイル72、コンデンサ52、71は、正極母線51aおよび負極母線51bの間に電圧を安定させるLCフィルタを構成する。
【0034】
駆動回路53は、PWM制御処理によってインバータ回路51をスイッチング動作させるパルス状の制御信号を出力する。PWM制御処理は、制御回路55から与えられる電圧指令波とキャリア波との比較に応じてインバータ回路51をスイッチング動作させる処理である。本実施形態のキャリア波は、基準電位(具体的には、零電位)から正極側および負極側に電圧が周期的に変化する三角波である。
【0035】
検出回路54は、センサ56、57、58の各検出信号を制御回路55の演算処理で使用される状態量に変換する。電圧センサ56は、コンデンサ52の正極電極および負極電極の間の電圧を検出する電圧センサである。本実施形態の電圧センサ56としては、抵抗分圧方式等のセンサが用いられる。
【0036】
電流センサ57は、U相電流iu、V相電流iv、およびW相電流iwをそれぞれ検出する。U相電流iuは、スイッチング素子SW3、SW6の共通接続点T3からU相コイル14aに流れる電流である。V相電流ivは、スイッチング素子SW2、SW5の共通接続点T2からV相コイル14bに流れる電流である。W相電流iwは、スイッチング素子SW1、SW4の共通接続点T1からW相コイル14cに流れる電流である。
【0037】
なお、図1中電流iu、1v、iwの電流の流れる方向は、それぞれ各矢印の方向を正とする。本実施形態の電流センサ57は、カレントトランス方式、ホール素子方式、およびシャント抵抗方式等の電流センサが用いられる。
【0038】
温度センサ58は、インバータ回路51の温度を検出するセンサである。本実施形態では、温度センサ58としては、スイッチング素子SW1、SW2、・・・・SW6のうちいずれかの表面温度や雰囲気温度を検出する温度センサを用いる。
【0039】
制御回路55は、マイクロコンピュータ、メモリ、タイマ等から構成され、検出回路54の出力信号と電子制御装置60から与えられる回転数指令値Nmとに基づいて、駆動回路53を介してスイッチング素子SW1、SW2、SW3、SW4、SW5、SW6を制御する制御処理を実行する。
【0040】
電子制御装置60は、エアコンECUである。電子制御装置60は、エアコンスイッチ61や各種の空調センサの出力信号に基づいて、空調制御処理を実行する。空調制御処理では、電子制御装置60は、駆動装置50を介して同期電動機12を制御するとともに、電動ファン21、41、および減圧弁30を制御する。エアコンスイッチ61は、乗員の操作によって、電動圧縮機10の運転、および停止を指令するスイッチである。
【0041】
なお、電子制御装置60、駆動回路53、検出回路54、および制御回路55は、低圧電源の出力電圧によって動作する。低圧電源は、その出力電圧が高圧電源70の出力電圧よりも低く設定されている。
【0042】
次に、本実施形態の冷凍サイクル装置1の作動について説明する。
【0043】
まず、電子制御装置60は、エアコンスイッチ61や各種の空調センサの出力信号に基づいて、圧縮機構11を起動させるべきか否かを繰り返し判定する。そして電子制御装置60は、この判定毎に判定結果に基づいて、ONフラグ或いはOFFフラグを動作フラグとして制御回路55に出力する。ONフラグは、制御回路55に対して圧縮機構11を起動させる起動指令である。OFFフラグは、制御回路55に対して圧縮機構11を停止させる停止指令である。
【0044】
さらに、電子制御装置60は、エアコンスイッチ61や各種の空調センサの出力信号に基づいて、回転数指令値Nmを求める。回転数指令値Nmは、ロータ13の目標回転数である。
【0045】
制御回路55は、図2図3に示すフローチャートにしたがって、圧縮機制御処理を実行する。図2は圧縮機制御処理を示すフローチャートである。図3は、図2中の再起動制御処理の詳細を示すフローチャートである。
【0046】
圧縮機制御処理の実行は、電源スイッチがオンされて低圧電源から制御回路55に直流電力が供給されたときに、開始される。
【0047】
まず、制御回路55は、ステップS100では、電子制御装置60から動作フラグを取得する。次に、この取得した動作フラグはONフラグであるか否かを判定する(ステップS101)。そして、動作フラグがOFFフラグであるときにはステップS101でNOと判定して、ステップS100に戻る。このため、動作フラグとしてのOFFフラグを繰り返し取得する場合には、ステップS100における動作フラグの取得処理およびステップS101のNO判定を繰り返す。
【0048】
その後、動作フラグとしてのONフラグを取得したときにはステップS101でYESと判定する。これに伴い、ステップS102において起動制御を実行する。本実施形態の起動制御としては、ロータ13の回転を開始させてロータ13の回転数を所定回転数Ncまで徐々に上昇させる強制転流制御を実行する。
【0049】
なお、所定回転数Ncは、ステータコイル14に発生する誘起電圧が所定値以上になり、制御回路55がセンサ56、57の検出値によってロータ13の回転数を求めることが可能になるロータ13の回転数である。
【0050】
具体的には、制御回路55は、ロータ13の実際の回転数Naを所定回転数Ncまで徐々に上昇させるための電圧指令波を算出する。この電圧指令波は、インバータ回路51からステータコイル14に流れる三相交流電流の大きさがロータ13の回転を開始できる所定電流値となるように設定される。以下、説明の便宜上、強制転流制御で用いられる電圧指令波を電圧指令波VSとする。電圧指令波VSは、図4に例示されている。
【0051】
電圧指令波VSは、相毎の電圧指令波をなすもので、U相指令波VU、V相指令波VV、およびW相指令波VWから構成される三相の指令波である。指令波VU、VV、VWは、キャリア波Knの基準電位と同一電位の基準電位から正極側および負極側に電圧が周期的に変化する正弦波である。
【0052】
本実施形態のキャリア波Knは、図4に示すように、基準電位(具体的には、零電位)から正極側および負極側に電圧が周期的に変化する三角波である。キャリア波Knの波高値VBとしては、電圧センサ56の検出値が設定される。この場合、キャリア波Knの周波数(以下、キャリア周波数という)としてfpwm1が用いられる。
【0053】
制御回路55は、このようなキャリア波Knと電圧指令波VSとを駆動回路53に設定する。このため、駆動回路53は、電圧指令波VSとキャリア波Knとを相毎に比較してスイッチング素子SW1、SW2、…SW6のうちいずれをオンさせるかを決定する。
【0054】
U相指令波VUは、スイッチング素子SW3、SW6に対応している。U相指令波VUがキャリア波Knより大きいときには、駆動回路53は、正極母線51a側のスイッチング素子SW3をオンして負極母線51b側のスイッチング素子SW6をオフする。U相指令波VUがキャリア波Knより小さいときには、駆動回路53は、スイッチング素子SW3をオフしてスイッチング素子SW6をオンする。
【0055】
V相指令波VVは、スイッチング素子SW2、SW5に対応している。駆動回路53は、U相指令波VUの場合と同様に、V相指令波VVとキャリア波Knとの比較に応じて、正極母線51a側のスイッチング素子SW2および負極母線51b側のスイッチング素子SW5のうち一方のスイッチング素子をオフして、他方のスイッチング素子をオンする。
【0056】
駆動回路53は、同様に、W相指令波VWとキャリア波Knとの比較に応じて、正極母線51a側のスイッチング素子SW1および負極母線51b側のスイッチング素子SW4のうち一方のスイッチング素子をオフして、他方のスイッチング素子をオンする。
【0057】
駆動回路53は、このようにスイッチング素子SW1、SW2、…SW6のうちいずれをオンさせるかを決定し、この決定された情報を含む制御信号を求めることになる。駆動回路53は、このような制御信号をインバータ回路51に出力する。このため、スイッチング素子SW1、SW2、SW3、SW4、SW5、SW6がスイッチング動作する。これに伴い、共通接続点T1、T2、T3から三相交流電流がステータコイル14に流れる。このため、ステータコイル14から回転磁界が発生する。これに伴い、ロータが回転磁界に同期して回転する。これにより、ロータ13の回転数を所定回転数Ncまで徐々に上昇させることができる。
【0058】
次に制御回路55は、ステップS103において、通常制御処理を実行する。まず、電子制御装置60から指令される回転数指令値Nmに基づいて電流指令値Isを求める。電流指令値Isは、インバータ回路51からステータコイル14に出力されるべき目標値としての三相交流電流の大きさおよび位相を示す情報である。
【0059】
ここで、電圧センサ56の検出値、および電流センサ57の検出値に基づいてロータ13の実際の回転数Naを求める。そして、実際の回転数Naを回転数指令値Nmに近づけるとともに、電流センサ57の検出値を電流指令値Isに近づけるための電圧指令波を求める。電圧指令波は、U相指令波、V相指令波、およびW相指令波からなるものである。以下、通常制御処理で用いられる電圧指令波を強制転流制御で用いられる電圧指令波VSと区別するために、通常制御処理で用いられる電圧指令波を電圧指令波VSaとする。
【0060】
さらに制御回路55は、キャリア周波数がfpwm1であるキャリア波Knと電圧指令波VSaとを駆動回路53に設定する。このため、駆動回路53は、電圧指令波VSaとキャリア波Knと相毎に比較してスイッチング素子SW1、SW2、…SW6のうちいずれをオンさせるかを決定する。駆動回路53は、この決定された情報を含む制御信号をインバータ回路51に出力する。
【0061】
このため、スイッチング素子SW1、SW2、SW3、SW4、SW5、SW6がスイッチング動作する。これに伴い、共通接続点T1、T2、T3から三相交流電流がステータコイル14に流れる。このため、ステータコイル14から回転磁界が発生する。これに伴い、ロータが回転磁界に同期して回転する。これにより、ロータ13の回転数を回転数指令値Nmに追従させるようにロータ13の回転数を制御することができる。
【0062】
このように制御されるロータ13の回転力によって圧縮機構11が駆動される。このため、圧縮機構11が蒸発器40の冷媒出口側から冷媒を吸入して圧縮して高圧冷媒を吐出する。このため、高圧冷媒は凝縮器20において、電動ファン21から送風される車室外空気により冷却される。この冷却された高圧冷媒は、減圧弁30によって減圧される。そして、この減圧された低圧冷媒は、蒸発器40において、電動ファン41から送風される車室内空気から吸熱して蒸発する。
【0063】
なお、電動ファン21、41、および減圧弁30の電動アクチュエータ32は、電子制御装置60によって制御される。
【0064】
次に、ステップS104において、電子制御装置60から動作フラグを取得する。さらに、圧縮機構11の冷媒吸入口側および冷媒吐出口側の間の冷媒圧力差を示す差圧判定情報を取得する(ステップS107)。
【0065】
本実施形態の差圧判定情報としては、例えば、温度センサ58によって検出されるインバータ回路51の温度が用いられる。
【0066】
ここで、ロータ13から圧縮機構11に出力されるトルク(以下、単にトルクともいう)と、冷媒圧力差とは、相関関係を有する。トルクは、インバータ回路51からステータコイル14に流れる三相交流電流によって発生するため、トルクと三相交流電流とは相関関係を有する。さらに、インバータ回路51から発生する熱は、三相交流電流の大きさによって変化するため、熱と三相交流電流とは、相関関係を有する。このため、冷媒圧力差と熱とは相間関係を有する。したがって、温度センサ58の検出温度によって冷媒圧力差を推定することができる。
【0067】
次に制御回路55は、このステップS104で取得した動作フラグはONフラグであるか否かを判定する(ステップS105)。動作フラグがONフラグであるときにはYESとステップS105で判定する。これに伴い、ステップS103に戻る。このため、動作フラグがONフラグである限り、通常制御処理(ステップS103)、動作フラグ取得処理(ステップS104)、差圧判定情報取得処理(ステップS107)、およびステップS105のYES判定を繰り返し実行する。
【0068】
そして制御回路55は、ステップS107を実行する毎に、差圧判定情報を繰り返し取得する。このため、N回目のステップS107で取得した差圧判定情報を、(N−1)回目のステップS107で取得した差圧判定情報に置き換えてメモリに記憶する。N、(N−1)は、ステップS107の実行回数である。
【0069】
その後、ステップS104において電子制御装置60から動作フラグとしてOFFフラグを取得すると、ステップS105でNOと判定して、タイマによるカウントを開始する。タイマは、ステップS105でNOと判定してから経過した時間をカウントするタイマである。以下、タイマにより計測された時間を計測時間tという。
【0070】
次のステップS106に移行して、ロータ13を停止させる停止制御処理を行う。具体的には、スイッチング素子SW1、SW2、SW3、SW4、SW5、SW6を全てオフさせる制御信号を駆動回路53からインバータ回路51に出力させる。これに伴い、インバータ回路51は、インバータ回路51からステータコイル14に三相交流電流を流すことを止める。これにより、ロータ13、および圧縮機構11が停止する。
【0071】
次に制御回路55は、ステップS108において、上記ステップS107で取得した差圧判定情報に基づいて差圧フラグをメモリに設定する。
【0072】
具体的には、温度センサ58の検出温度が温度Ta未満であるときには、冷媒圧力差が閾値S1未満であるとして、差圧フラグとしての差圧フラグNをメモリに設定する。
【0073】
温度センサ58の検出温度が温度Ta以上で、かつ温度Tb未満であるときには、冷媒圧力差が閾値S1以上、かつ閾値S2未満であるとして、差圧フラグとしての差圧フラグAをメモリに設定する。なお、温度Tbは温度Taより大きい。また、閾値S2は閾値S1より大きい。
【0074】
温度センサ58の検出温度が温度Tb以上であるときには、冷媒圧力差が閾値S2以上であるとして、差圧フラグとしての差圧フラグBをメモリに設定する。
【0075】
このようにインバータ回路51の温度に基づいて差圧フラグをメモリに記憶することができる。
【0076】
次に、ステップS109では、電子制御装置60から動作フラグを取得する。次に、ステップS110において、タイマによりカウントされた計測時間tが所定時間以上であるか否かを判定する。
【0077】
ここで、計測時間tが所定時間未満であるときには、ステップS110でNOと判定する。次に、上記ステップS109で取得した動作フラグがOFFフラグであるときにはNOとステップS111で判定して、ステップS109に戻る。このため、計測時間tが所定時間未満であり、かつ動作フラグがOFFフラグである限り、動作フラグ取得処理(ステップS109)、ステップS110のNO判定、およびステップS111のNO判定を繰り返す。
【0078】
また、タイマによりカウントされた計測時間tが所定時間未満であり、かつステップS109で取得した動作フラグはONフラグであるときには、ステップS110でNOと判定して、かつステップS111でYESと判定する。これに伴い、ステップS120の再起動制御処理を実行する。図3は、ステップS120の再起動制御処理の詳細を示すフローチャートである。
【0079】
制御回路55は、再起動制御処において、まず図3のステップS113において、メモリに設定された差圧フラグが差圧フラグA、差圧フラグB、および差圧フラグNのうちいずれであるかを判定する。
【0080】
まず、上記ステップS113において、差圧フラグが差圧フラグNであると判定したきには、冷媒圧力差が閾値S1未満であるとして、電動ファン21、41の動作を開始するために制御信号を電子制御装置60に出力する。このため、電子制御装置60が電動ファン21、41を制御して電動ファン21、41による送風を開始させる。したがって、凝縮器20を通過する車室外空気の空気流れと、蒸発器40を通過する車室内空気の空気流れとが発生する(ステップS114)。
【0081】
これに加えて制御回路55は、起動モードNにおいて強制転流制御によって圧縮機構11の再起動制御を行う(ステップS117)。
【0082】
具体的には、PWM制御処理で用いる図4に示すキャリア波Knと電圧指令波VSとを駆動回路53に設定する。キャリア波Knは、キャリア周波数がfpwm1であるキャリア波である。
【0083】
このため、駆動回路53は、電圧指令波VSとキャリア波Knとを相毎に比較してスイッチング素子SW1、SW2、…SW6のうちいずれをオンさせるかを決定し、この決定された情報を含む制御信号をインバータ回路51に出力する。
【0084】
このように制御信号がインバータ回路51に与えられると、スイッチング素子SW1、SW2、SW3、SW4、SW5、SW6がスイッチング動作する。これに伴い、共通接続点T1、T2、T3から三相交流電流がステータコイル14に流れる。
【0085】
したがって、ステータコイル14から回転磁界が発生する。これに伴い、ロータが回転磁界に同期して回転する。これにより、ロータ13の回転数を所定回転数Ncまで徐々に上昇させることができる。このとき、圧縮機構11がロータ13の回転力により駆動される。
【0086】
これにより、圧縮機構11が低圧冷媒を蒸発器40の冷媒出口から吸入して圧縮して高圧冷媒を吐出する。凝縮器20は、圧縮機構11から吐出される高圧冷媒から車室外空気に放熱させる。減圧弁30は、凝縮器20によって冷却された高圧冷媒を減圧する。蒸発器40は、減圧弁30により減圧された低圧冷媒によって車室内空気を冷却する。その後、制御回路55は、ステップS103に移行する。
【0087】
一方、制御回路55は、上記ステップS113において、差圧フラグが差圧フラグAであると判定したとき、冷媒圧力差が閾値S1以上、かつ閾値S2未満であるとして、電動ファン21、41の動作を開始するために制御信号を電子制御装置60に出力する。このため、凝縮器20を通過する車室外空気の空気流れと、蒸発器40を通過する車室内空気の空気流れとが発生する(ステップS115)。
【0088】
これに加えて制御回路55は、差圧起動モードAにおいて強制転流制御によって圧縮機構11の再起動制御を行う(ステップS118)。
【0089】
まず、圧縮機構11が再び起動を開始するときの初期の所定時間TSに用いるキャリア波Kaと電圧指令波VSとを駆動回路53に設定する。初期の所定時間TSについては図7に例示され、キャリア波Kaについては図5に例示される。キャリア波Kaは、キャリア周波数がfpwm2であるキャリア波である。fpwm2は、fpwm1よりも低いキャリア周波数である。
【0090】
このため、駆動回路53は、圧縮機構11が再び起動を開始するときの初期の所定時間TSの間において、電圧指令波VSとキャリア波Kaと相毎に比較する。そして駆動回路53は、比較結果に基づいて、スイッチング素子SW1、SW2、…SW6のうちいずれをオンさせるかを決定し、この決定された情報を含む制御信号をインバータ回路51に出力する。
【0091】
その後、図7に示すように、所定時間TS以降になると、制御回路55は、キャリア波Knと電圧指令波VSとを駆動回路53に設定する。
【0092】
このように差圧起動モードAでは、圧縮機構11が再び起動を開始するときの初期の所定時間TSには駆動回路53がキャリア波Kaを用いて、所定時間TS以降になると駆動回路53がキャリア波Knを用いる。
【0093】
このため、所定時間TS以降では、駆動回路53は、電圧指令波VSとキャリア波Knと相毎に比較してスイッチング素子SW1、SW2、…SW6のうちいずれをオンさせるかを決定し、この決定された情報を含む制御信号をインバータ回路51に出力する。
【0094】
このような制御信号がインバータ回路51に出力されることにより、スイッチング素子SW1、SW2、SW3、SW4、SW5、SW6がスイッチング動作する。これに伴い、共通接続点T1、T2、T3から三相交流電流がステータコイル14に流れる。したがって、ステータコイル14から回転磁界が発生する。
【0095】
これに伴い、ロータ13が回転磁界に同期して回転する。これにより、ロータ13の回転数を所定回転数Ncまで徐々に上昇させることができる。このとき、圧縮機構11がロータ13の回転力により駆動される。これにより、圧縮機構11が低圧冷媒を吸入して圧縮して高圧冷媒を吐出する。これに伴い、凝縮器20、減圧弁30、および蒸発器40が上述と同様に作動する。その後、制御回路55は、ステップS103に移行する。
【0096】
一方、制御回路55は、上記ステップS113において、差圧フラグが差圧フラグBであると判定したとき、冷媒圧力差が閾値S2以上であるとし、電動ファン21、41の動作を開始するために制御信号を電子制御装置60に出力する。このため、凝縮器20を通過する車室外空気の空気流れと、蒸発器40を通過する車室内空気の空気流れとが発生する(ステップS115)。
【0097】
これに加えて、差圧起動モードBにおいて強制転流制御によって圧縮機構11の再起動制御を行う(ステップS119)。
【0098】
まず、圧縮機構11が再び起動を開始するときの初期の所定時間TSに用いるキャリア波Kbと電圧指令波VSとを駆動回路53に設定する。キャリア波Kbは図6に例示されている。キャリア波Kbは、キャリア周波数がfpwm3であるキャリア波である。fpwm3は、fpwm2よりも低いキャリア周波数である。
【0099】
このため、駆動回路53は、圧縮機構11が再び起動を開始するときの初期の所定時間TSにおいて、電圧指令波VSとキャリア波Kbと相毎に比較してスイッチング素子SW1、SW2、…SW6のうちいずれをオンさせるかを決定する。そして、駆動回路53はこの決定された情報を含む制御信号をインバータ回路51に出力する。
【0100】
そして、所定時間TS以降になると、制御回路55は、キャリア波Knと電圧指令波VSとを駆動回路53に設定する。
【0101】
このため、駆動回路53は、電圧指令波VSとキャリア波Knとを相毎に比較してスイッチング素子SW1、SW2、…SW6のうちいずれをオンさせるかを決定し、この決定された情報を含む制御信号をインバータ回路51に出力する。
【0102】
このように差圧起動モードBでは、圧縮機構11が再び起動を開始するときの初期の所定時間TSには、駆動回路53がキャリア波Kbを用いて、所定時間TS以降になると駆動回路53がキャリア波Knを用いる。
【0103】
ここで、差圧起動モードBと差圧起動モードAとは、所定時間TSに駆動回路53で用いるキャリア周波数が相違するだけで、その他の作動は同様である。このため、差圧起動モードBにおける圧縮機構11の再起動制御の説明を簡素化する。
【0104】
本実施形態では、差圧起動モードA、或いは差圧起動モードBにおいて、ステップS118、S119の圧縮機構11の再起動制御を行う前に、電動ファン21、41を作動させる。
【0105】
ここで、キャリア周波数fpwm2、fpwm3が人間の可聴周波数の範囲内に入っているときには、インバータ回路51において、スイッチング素子SW1、SW2、・・・SW6のスイッチング動作に伴って、耳障りな振動音が発生する。この振動音は、キャリア周波数fpwm2、fpwm3に起因して発生する。
【0106】
そこで、本実施形態では、ステップS118、S119における圧縮機構11の再起動制御の実行中に、上記ステップS115の送風制御処理により電動ファン21、41を送風させる。このとき、電動ファン21、41からファンの風切り音や電動モータの回転音が発生する。このような電動ファン21、41から発生する動作音がインバータ回路51や電動圧縮機10のステータコイル14から発生する振動音をマスキングすることになる。このため、インバータ回路51から発生する耳障りな振動音が乗員等に違和感を与えることを未然に防ぐことができる。
【0107】
また、制御回路55が、図2のステップS105でNOと判定してから、ステップS111でNO判定を繰り返し実行すると、計測時間tが長くなる。この場合、冷媒吸入口および冷媒吐出口の間の冷媒圧力差に起因して、圧縮機構11や減圧弁30の隙間を通して冷媒が流れるため、冷媒圧力差が小さくなる。
【0108】
このため、制御回路55は、ステップS111でNO判定を繰り返し実行した後に、計測時間tが所定時間以上になると、ステップS110でYESと判定する。
【0109】
この場合、制御回路55は、メモリに設定された差圧フラグ、およびタイマによる計測時間tを初期化する(ステップS112)。これにより、メモリに記憶される差圧判定情報および計測時間tが破棄されることなる。
【0110】
その後、ステップS100に戻る。このため、ステップS100で動作フラグを取得し、この動作フラグがONフラグであるときには、ステップS101でYESと判定して、ステップS102の起動制御を実行する。このため、駆動回路53は、PWM制御処理においてキャリア周波数fpwm1であるキャリア波Knが用いられる。その後、ステップS103・・・S112、S113、S119、S100、S101、S102を繰り返す。
【0111】
制御回路55は、このように圧縮機制御処理を実行することにより、計測時間tが所定時間以上になると、ステップS110でYESと判定して、メモリに記憶される差圧判定情報や計測時間tを破棄する(ステップS112)。また制御回路55は、計測時間tが所定時間未満で、かつステップS111でYESと判定すると、ステップS120の再起動制御処理を実行する。
【0112】
以上説明した本実施形態によれば、駆動装置50は、インバータ回路51を備える。インバータ回路51には、直列接続された一対のスイッチング素子SW1、SW2、…SW6が相毎に設けられ、正極母線51aと負極母線51bとの間に複数対のスイッチング素子が並列接続されている。駆動回路53は、電圧が周期的に変化する相毎の電圧指令波VSが、電圧が周期的に変化するキャリア波より大きいときには相毎の一対のスイッチング素子のうち正極母線側スイッチング素子をオンして負極母線側スイッチング素子をオフする。また駆動回路53は、相毎の電圧指令波VSがキャリア波より小さいときには負極母線側スイッチング素子をオンして正極母線側スイッチング素子をオフする。駆動回路53が相毎の一対のスイッチング素子をオン、オフすることにより、高圧電源70の出力電圧に基づいてインバータ回路51からステータコイル14に三相交流電流を流してステータコイル14から回転磁界を発生させるようになっている。
【0113】
制御回路55は、圧縮機構11の起動時にロータ13の回転数を所定回転数Ncまで上昇させる三相交流電流をインバータ回路51からステータコイル14に流すようにインバータ回路51を駆動回路53を介して制御する。
【0114】
ここで、電動圧縮機10以外の走行用モータ等の機器で大電力を利用する場合には、電動圧縮機10を停止させたり、或いは乗員の操作ミス等によりエアコンスイッチ61をマニュアル操作して電動圧縮機10を停止させたりするシーンが考えられる。
【0115】
このため、電動圧縮機10を再起動させる条件としてまれに起きる厳しい条件が存在する。例えば、電動圧縮機10を最大出力で駆動しているときに、突然停止された後、即再起動要求が電子制御装置60から要求される条件である。電動圧縮機10が最大出力で駆動していた状況ということは、車載空調装置としては高い空調性能が必要な環境条件であり、できる限り速やかな電動圧縮機10の再起動が要求される。このため、冷媒圧力差が大きい状態で、電動圧縮機10を起動させることが必要となる場合がある。
【0116】
そこで、制御回路55は、圧縮機構11の停止後に駆動回路53を制御して圧縮機構11が再び起動するときの冷媒圧力差が閾値S1以上であるか否かを判定する。制御回路55は、冷媒圧力差が閾値S1以上であると判定したとき、冷媒圧力差が閾値S1未満であると判定したときに比べて、圧縮機構11の再び起動を開始するときの初期の所定時間に駆動回路53で用いられるキャリア波の周波数を少なく設定することを特徴とする。
【0117】
以上により、冷媒圧力差が閾値S1以上であるときには、冷媒圧力差が閾値S1未満であるときに比べて、再び起動を開始するときの初期の所定時間TSにおけるスイッチング素子SW1・・・SW6の単位時間あたりのスイッチング回数を少なくすることができる。スイッチング回数とは、スイッチング素子SW1・・・SW6において、オン、オフのうち一方の状態から他方の状態に変化する回数のことである。このため、圧縮機構11が再び起動する場合において冷媒圧力差が閾値S1以上であるときに、スイッチング素子SW1・・・SW6、コンデンサ52、71、およびコイル72の損失を小さくすることができる。これにより、再起動時において冷媒圧力差が大きいときに、図8に示すように、インバータ回路51等の発熱を抑えることができる。
【0118】
本実施形態では、制御回路55は、冷媒圧力差が閾値S1未満であるときキャリア周波数をfpwm1(例えば、20kHz)とする。また制御回路55は、冷媒圧力差が閾値S1以上で、かつ閾値S2未満であるときキャリア周波数をfpwm2(例えば、10kHz)とする。また制御回路55は、冷媒圧力差が閾値S2以上であるときキャリア周波数をfpwm3(例えば、5kHz)とする。
【0119】
ここで、スイッチング素子SW1、SW2、・・・SW6等の損失Wは、図9に示すように、キャリア周波数が小さくなるほど、小さくなる。このため、冷媒圧力差が大きくなるほど、損失Wを小さくすることができる。したがって、冷媒圧力差が閾値S2以上であるときには、冷媒圧力差が閾値S1以上で、かつ閾値S2未満であるときに比べて、キャリア周波数の下げ幅を増やすことにより、損失Wをより一層小さくすることができる。
【0120】
このように本実施形態では、図8で示すように、制御回路55は、キャリア周波数は変化させるが、電動圧縮機10を駆動するための電流値を変化させない。したがって、冷媒圧力差が閾値S1以上であっても、同期電動機12から圧縮機構11への出力不足等が問題となることはなく、圧縮機構11が再起動することに支障はない。
【0121】
これら効果により、電動圧縮機10の差圧起動モードA、Bを実行する際に熱対策や起動電流の増大等をすることなく、また体格を増大することなく、速やかに圧縮機構11を再起動することが可能である。
【0122】
本実施形態では、制御回路55が電子制御装置60から動作フラグとしてOFFフラグを繰り返し取得し、かつ上記のステップS106の停止制御処理を実行後に経過した経過時間が所定時間以上になると、メモリに設定された差圧フラグを初期化する。このため、実際の冷媒圧力差が小さくなった状態で、差圧起動モードAや差圧起動モードBで圧縮機構11の起動を行うことを未然に防止することができる。
【0123】
(第2実施形態)
上記第1実施形態では、再起動時に駆動回路53に用いるキャリア周波数を冷媒圧力差に基づいて設定した例について説明したが、これに代えて、次のようにする。
【0124】
すなわち、本第2実施形態では、再起動時に駆動回路53で用いるキャリア周波数を冷媒圧力差に基づいて設定し、この設定したキャリア周波数を駆動回路53に用いる初期の所定時間を冷媒圧力差に基づいて設定する。
【0125】
図10は、第2実施形態の圧縮機制御処理における、ステップS120の再起動制御処理の詳細を示すフローチャートである。図10のフローチャートは、図3のフローチャートの代替に用いられる。図10図3で同一符号が付されたステップにおいては、同一の処理が実行される。図10中のステップS118Aは、図3中のステップS118の代わりに用いられている。図10中のステップS119Aは、図3中のステップS119の代わりに用いられている。
【0126】
制御回路55は、ステップS113において、差圧フラグが差圧フラグBであると判定したときに、ステップS116を経てステップS119Aに移行して、差圧起動モードB’で再起動する。
【0127】
このとき、制御回路55は、再び起動を開始するときの初期の所定時間に用いるキャリア波Kaと電圧指令波VSとを駆動回路53に設定するとともに、キャリア波Kaを用いる初期の所定時間としての初期の所定時間TSbを駆動回路53に設定する。
【0128】
このため、駆動回路53は、図11に示すように、初期の所定時間TSbにおいて、キャリア波Kbに代わるキャリア波Kaと電圧指令波VSと比較してスイッチング素子SW1、SW2、…SW6のうちいずれをオンさせるかを決定する。
【0129】
その後、所定時間TSb以降では、制御回路55は、電圧指令波VSとキャリア波Knを駆動回路53に設定する。
【0130】
したがって、駆動回路53は、電圧指令波VSとキャリア波Knと相毎に比較してスイッチング素子SW1、SW2、…SW6のうちいずれをオンさせるかを決定する。
【0131】
制御回路55は、ステップS113において、差圧フラグが差圧フラグAであると判定したときに、ステップS115を経てステップS118Aに移行して、差圧起動モードA’で再起動する。
【0132】
このとき、制御回路55は、再び起動を開始するときの初期の所定時間に用いるキャリア波Kaと電圧指令波VSとを駆動回路53に設定するとともに、キャリア波Kaを用いる初期の所定時間として、図11に示す所定時間TSaを、駆動回路53に設定する。
【0133】
このため、駆動回路53は、初期の所定時間TSaにおいて、キャリア波Kaと電圧指令波VSと比較してスイッチング素子SW1、SW2、…SW6のうちいずれをオンさせるかを決定する。
【0134】
その後、所定時間TSa以降では、制御回路55は、電圧指令波VSとキャリア波Knを駆動回路53に設定する。
【0135】
したがって、駆動回路53は、電圧指令波VSとキャリア波Knとを相毎に比較してスイッチング素子SW1、SW2、…SW6のうちいずれをオンさせるかを決定する。
【0136】
このように、制御回路55は、差圧フラグが差圧フラグAであると判定したときにはキャリア波Kaを用いる初期の所定時間を所定時間TSaとする。また制御回路55は、差圧フラグが差圧フラグBであると判定したときに、キャリア波Kaを用いる初期の所定時間を所定時間TSbとする。
【0137】
ここで、図11に示すように、所定時間TSaは、所定時間TSbに比べて短く設定されている。このため、差圧フラグが差圧フラグBであるときには、差圧フラグが差圧フラグAである場合に比べて、キャリア波Kaを用いる所定時間が長くなる。このため、冷媒圧力差が大きくなるほど、キャリア波Kaを用いる時間が長くなる。よって、冷媒圧力差が大きくなるほど、損失Wを小さくする時間を長くすることができる。
【0138】
(第3実施形態)
上記第1実施形態では、通常制御処理の実行中に差圧判定情報を取得するようにした例について説明したが、これに代えて、再起動制御処理の実行中に差圧判定情報を取得する本第3実施形態について説明する。
【0139】
図12は、第3実施形態の圧縮機制御処理中におけるステップS120の再起動制御処理の詳細を示すフローチャートである。図12のフローチャートは、図3のフローチャートの代わりに用いられる。図12図3で同一符号が付されたステップSにおいては、同一の処理が実行される。図12は、図3において、ステップS122、S123、S124を追加したものである。
【0140】
本実施形態では、制御回路55は、ステップS117、S118、S119のいずれかで再起動制御処理を実行した後、ステップS122において、冷媒圧力差を示す差圧判定情報を取得する。本実施形態の差圧判定情報としては、電流センサ57によって検出される三相交流電流を差圧判定情報として用いる。
【0141】
再起動制御処理の実行中では、インバータ回路51からステータコイル14に流れる三相交流電流の大きさは、ロータ13の回転を開始できる所定電流値に制御され、三相交流電流の位相は、ロータ13から出力されるトルクによって変化する。トルクと冷媒圧力差は、相関関係にある。このため、三相交流電流によってトルクを求めることができる。よって、電流センサ57によって検出される三相交流電流によって冷媒圧力差を求めることができる。その後、ステップS123において、上記ステップS108と同様、上記ステップS122で取得した差圧判定情報に基づいて差圧フラグをメモリに設定する。
【0142】
ここで、制御回路55は、ステップS118の差圧起動モードA或いはステップS119の差圧起動モードBにおいて圧縮機構11の再起動制御を実施する前に、ステップS115或いはステップS116において、電動ファン21、41による送風処理を行う。
【0143】
このとき、電動ファン21によって凝縮器20を通過する車室外空気の流れが発生する。凝縮器20では、高圧冷媒から車室外空気に熱が移動する。このため、圧縮機構11の冷媒吐出口側の高圧冷媒の圧力が小さくなる。
【0144】
電動ファン41によって蒸発器40を通過する車室内空気の流れが発生する。蒸発器40では、車室内空気から低圧冷媒に熱が移動する。このため、圧縮機構11の冷媒吸入口側の低圧冷媒の圧力が高くなる。これにより、冷媒圧力差を小さくなる。
【0145】
さらに、制御回路55が電子制御装置60を介して減圧弁30を制御することにより、凝縮器20の冷媒出口および蒸発器40の冷媒入口の間の冷媒通路の断面積を大きくする。つまり、減圧弁30の開度を大きくして、冷媒圧力差をさらに小さくすることができる。
【0146】
次のステップS124において、再起動制御が終了したか否かを判定する。具体的には、電圧センサ56の検出値、および電流センサ57の検出値に基づいてロータ13の実際の回転数Naを求める。この実際の回転数Naが所定回転数Ncに到達したか否かを判定する。実際の回転数Naが所定回転数Nc未満であるときには、再起動制御が終了していないとしてステップS124においてNOと判定する。これに伴い、ステップS113に戻る。このため、実際の回転数Naが所定回転数Nc未満である限り、ステップS113〜S119、S122、S123、およびステップS124のNO判定を繰り返す。このため、実際の回転数Naが所定回転数Nc未満である限り、差圧判定情報を繰り返し取得し、この取得する毎に、メモリに設定される差圧フラグを更新することになる。
【0147】
例えば、再起動開始後の1回目のステップS113において、メモリに設定された差圧フラグが差圧フラグBであると判定したときには、ステップS116を経てから、差圧起動モードBにおいてロータ13の再起動制御を行う(ステップS119)。
【0148】
その後、1回目よりも後のN回目のステップS113において、メモリに設定された差圧フラグが差圧フラグAであると判定したときには、ステップS115を経てから、差圧起動モードAにおいてロータ13の再起動制御を行う(ステップS118)。
【0149】
次に、N回目よりも後のM回目のステップS113において、メモリに設定された差圧フラグが差圧フラグNであると判定したときには、ステップS114を経てから、差圧起動モードNにおいてロータ13の再起動制御を行う(ステップS117)。
【0150】
このように差圧フラグが差圧フラグB、差圧フラグA、差圧フラグNの順に変化するに伴い、図13に示すように、キャリア周波数がfpwm3、fpwm2、fpwm1の順に変化する。
【0151】
その後、実際の回転数Naが所定回転数Ncに到達すると、再起動制御が終了したとしてステップS124においてYESと判定する。これに伴い、ステップS103に移行する。
【0152】
以上説明した本実施形態によれば、再起動制御処理の実行中に差圧判定情報を繰り返し取得し、この取得する毎に、メモリに設定される差圧フラグを更新することになる。このため、冷媒圧力差の変化に伴って駆動回路53で用いるキャリア周波数を更新することができる。
【0153】
本実施形態では、電動ファン21、41の送風によって冷媒圧力差を小さくする。さらに、減圧弁30の開度を大きくして、冷媒圧力差をさらに小さくする。このため、ロータ13から圧縮機構11に出力されるトルクを下げることができる。よって、インバータ回路51から発生する熱量を下げることができる。
【0154】
(第4実施形態)
上記第1実施形態では、ステップS103の通常制御を実行しているときに、差圧判定情報を取得した例について説明したが、これに代えて、ステップS106の停止制御を実行しているときに差圧判定情報を取得する本第4実施形態について説明する。
【0155】
図14は、第4実施形態の圧縮機制御処理を示すフローチャートである。図14図2で同一符号が付されたステップにおいては、同一の処理が実行される。図14のフローチャートでは、ステップS107がステップS106、S108の間に配置されている。本実施形態の制御回路55がステップS107において、ステップS106のロータ13の停止制御を実行しているときに、差圧判定情報を取得する。本実施形態の差圧判定情報としては、温度センサ58によって検出されるインバータ回路51の温度が用いられる。
【0156】
ここで、温度センサ58の検出温度は、ステップS105でNOと判定したときのインバータ回路51から発生した熱等によって決まる。温度センサ58の検出温度は、ステップS106の停止制御の実行直前にステップS103の通常制御によってインバータ回路51からステータコイル14に流れる三相交流電流によって変化する。したがって、温度センサ58の検出温度と、ステップS106の停止制御の実行直前のトルクとは、相関関係がある。ステップS106の停止制御の実行直前のトルクと、ステップS106の停止制御の実行直前の冷媒圧力差とは、相関関係がある。このため、温度センサ58の検出温度によって冷媒圧力差を推定することができる。
【0157】
(第5実施形態)
上記第1〜第4実施形態では、高圧電源70を正極母線51aと負極母線51bとの間に接続した例について説明したが、これに代えて、図15に示すように、高圧電源70をステータコイル14の中性点14xと負極母線51bとの間に接続してもよい。
【0158】
図15は、本第5実施形態の駆動装置50の電気回路構成を示す。図15図1で同一の符号が付された要素は同一のものであり、それらについての説明を省略する。本実施形態のステータコイル14の中性点14xは、高圧電源70を介してグランドに接続されている。
【0159】
上記第5実施形態では、コンデンサ52を正極母線51aと負極母線51bとの間に接続した例について説明したが、これに代えて、コンデンサ52をステータコイル14の中性点14xと正極母線51aとの間に接続してもよい。
【0160】
(第6実施形態)
上記第5実施形態では、高圧電源70をステータコイル14の中性点14xと負極母線51bとの間に接続した例について説明したが、これに代えて、図16に示すように、高圧電源70をステータコイル14の中性点14xと正極母線51aとの間に接続してもよい。
【0161】
図16は、本第6実施形態の駆動装置50の電気回路構成を示す。図16図1で同一の符号が付された要素は同一のものであり、それらについての説明を省略する。本実施形態のステータコイル14の中性点14xはグランドに接続されている。
【0162】
上記第6実施形態では、コンデンサ52を正極母線51aと負極母線51bとの間に接続した例について説明したが、これに代えて、コンデンサ52をステータコイル14の中性点14xと負極母線51bとの間に接続してもよい。
【0163】
(他の実施形態)
(1)上述の第1実施形態では、ステップS107において、差圧判定情報としては、インバータ回路51の温度を用いた例について説明したが、これに代えて、(a)(b)(c)のようにしてもよい。
【0164】
(a)インバータ回路51からステータコイル14に流れる三相交流電流を検出する電流センサ57の検出値を差圧判定情報として用いてもよい。
【0165】
ここで、トルクと冷媒圧力差とは、相関関係にある。三相交流電流とトルクは、相関関係にある。このため、電流センサ57によって検出される三相交流電流によって冷媒圧力差を推定することができる。
【0166】
(b)電流指令値Isを差圧判定情報として用いる。
【0167】
ステップS103の通常制御処理では、電流センサ57により検出される三相交流電流を電流指令値Isに近づけるための三相交流電流がインバータ回路51からステータコイル14に流れる。このため、電流センサ57により検出される三相交流電流は、電流指令値Isに近い値になる。したがって、インバータ回路51からステータコイル14に流れる三相交流電流に近い値を電流指令値Isとして求めることができる。これにより、電流指令値Isによって冷媒圧力差を推定することができる。
【0168】
このように、三相交流電流や電流指令値Isによって冷媒圧力差を推定し、この推定した冷媒圧力差によって差圧フラグを設定することになる。
【0169】
(c)上記(a)で求められた冷媒圧力差、上記(b)で求められた冷媒圧力差、およびインバータ回路51の温度で求められた冷媒圧力差のうち、いずれか2つ以上の冷媒圧力差の平均値をステップS107の差圧判定情報として用いてもよい。
【0170】
(2)上述の第3実施形態では、制御回路55は、ステップS122において、差圧判定情報としては、インバータ回路51からステータコイル14に流れる三相交流電流を差圧判定情報として用いた例について説明したが、これに代えて、差圧判定情報として温度センサ58によって検出されるインバータ回路51の温度を用いてもよい。
【0171】
ここで、再起動制御処理の実行時にインバータ回路51から発生する熱は、インバータ回路51からステータコイル14に流れる三相交流電流によって変化する。このため、インバータ回路51から発生する熱とトルクとは、相関関係にある。トルクと冷媒圧力差とは、相関関係にある。したがって、インバータ回路51の温度によって冷媒圧力差を推定することができる。
【0172】
(3)上述の各実施形態では、電動圧縮機10を冷凍サイクル装置1に適用した例について説明したが、これに代えて、冷凍サイクル装置1以外の装置に電動圧縮機10を適用してもよい。
【0173】
(4)上述の各実施形態では、キャリア波として、基準電位から正極側および負極側に電圧が周期的に変化する三角波を用いた例を示した。しかし、これに代えて、基準電位から正極側および負極側に電圧が周期的に変化する波ならば、三角波以外の鋸波を用いてもよい。
【0174】
(5)上述の各実施形態では、多相交流同期電動機として三相交流同期電動機を用いた例を示したが、これに限らず、多相交流同期電動機として、2相、或いは、4相以上の多相交流同期電動機を用いてもよい。
【0175】
(6)上述の各実施形態では、再起動時において、冷媒圧力差によってキャリア周波数を決めた例について説明したが、これに加えて、制御回路55は、再起動時において、インバータ回路51からステータコイル14に流れる三相交流電流としての起動電流の大きさを冷媒圧力差によって決めてもよい。
【0176】
例えば、冷媒圧力差が大きくなるほど、起動電流の大きさを大きくし、冷媒圧力差が小さくなるほど、起動電流の大きさを小さくすることができる。これにより、再起動時において冷媒圧力差が小さい場合にも、スイッチング素子SW1、SW2、SW3、SW4、SW5、SW6等から発生する熱量を小さくすることができる。
【0177】
(7)上述の各実施形態では、同期電動機12においてスター結線したステータコイル14を用いた例について説明したが、これに代えて、ステータコイル14としてはデルタ結線したものを用いてもよい。
【0178】
(8)上述の各実施形態では、制御回路55は、電子制御装置60から与えられるONフラグ或いはOFFフラグを用いてステップS101、S105、S111の判定を行った例について説明したが、これに代えて、次のようにしてもよい。すなわち、制御回路55は、回転数指令値Nmを用いてステップS101、S105、S111の判定を行ってもよい。
【0179】
(9)上述の各実施形態では、2つの差圧起動モードA、B、或いは、2つの差圧起動モードA’、B’を用いて、再起動制御を行った例について説明したが、これに代えて、1つの差圧起動モードを用いて再起動制御を行ってもよい。
【0180】
例えば、制御回路55は、冷媒圧力差が閾値S1未満であるときには、起動モードNでステップS117の再起動制御を行う。冷媒圧力差が閾値S1以上であるときには、差圧起動モードAでステップS118の再起動制御を行う。
【0181】
(10)上記各実施形態では、ステップS115、S116の送風処理において電動ファン41、21をそれぞれ動作させた例について説明したが、これに代えて、制御回路55は、ステップS115、S116送風処理において電動ファン41、21のうちいずれか一方を動作させてもよい。
【0182】
(11)上記各実施形態では、駆動回路53によってPWM制御処理を実施した例について説明したが、これに代えて、制御回路55によってPWM制御処理を実施してもよい。
【0183】
(12)上記各実施形態では、キャリア周波数を変えることにより、スイッチング素子SW1・・・SW6の単位時間あたりのスイッチング回数を変えた例について説明した。しかし、これに限らず、制御回路55は、キャリア周波数を用いることなく、スイッチング素子SW1・・・SW6の単位時間あたりのスイッチング回数を変えてもよい。すなわち、制御回路55は、PWM制御処理とは異なる制御によってスイッチング素子SW1・・・SW6の単位時間あたりのスイッチング回数を変えてもよい。
【0184】
(13)上記各実施形態では、電動ファン21、41から発生する動作音によってインバータ回路51から発生する振動音をマスキングした例について説明した。しかし、これに代えて、制御回路55は、電動ファン21、41以外の車載装置から発生する動作音によってインバータ回路51から発生する振動音をマスキングしてもよい。
【0185】
(14)上記各実施形態では、駆動装置50を電気自動車やハイブリット自動車に適用した例について説明した。しかし、これに代えて、電気自動車やハイブリット自動車以外で、走行用エンジンを備える自動車に、駆動装置1を適用してもよい。
【0186】
(15)上記第2実施形態では、キャリア波Kaを駆動回路53に用いる初期の所定時間を冷媒圧力差に基づいて設定した例について説明したが、これに代えて、次の(a)(b)のようにしてもよい。(a)上記第3、第4、第5、第6の実施形態および他の実施形態において、制御回路55は、キャリア波Kaを駆動回路53に用いる初期の所定時間を冷媒圧力差に基づいて設定する。(b)上記第1実施形態および他の実施形態において、制御回路55は、キャリア波Kbを駆動回路53に用いる初期の所定時間を冷媒圧力差に基づいて設定する。
【0187】
(16)なお、本開示は上記した実施形態に限定されるものではなく、適宜変更が可能である。また、上記各実施形態は、互いに無関係なものではなく、組み合わせが明らかに不可な場合を除き、適宜組み合わせが可能である。また、上記各実施形態において、実施形態を構成する要素は、特に必須であると明示した場合および原理的に明らかに必須であると考えられる場合等を除き、必ずしも必須のものではないことは言うまでもない。また、上記各実施形態において、実施形態の構成要素の個数、数値、量、範囲等の数値が言及されている場合、特に必須であると明示した場合および原理的に明らかに特定の数に限定される場合等を除き、その特定の数に限定されるものではない。また、上記各実施形態において、構成要素等の形状、位置関係等に言及するときは、特に明示した場合および原理的に特定の形状、位置関係等に限定される場合等を除き、その形状、位置関係等に限定されるものではない。
【0188】
ステップS117、S118、S119、S118A、S119Aが再起動部に対応している。ステップS113が判定部に対応し、スイッチング素子SW1、SW2、SW3が正極母線側スイッチング素子に対応している。スイッチング素子SW4、SW5、SW6が負極母線側スイッチング素子に対応し、ステップS107、ステップS122が算出部に対応している。
【0189】
ステップS106が停止部に対応し、ステップS103が通常制御部に対応し、ステップS115、S116がマスキング部、或いは圧力制御部に対応している。凝縮器20が第1熱交換器に対応し、電動ファン21が車載装置、第1送風機に対応し、蒸発器40が第2熱交換器に対応している。
【0190】
電動ファン41が車載装置、第2送風機に対応し、駆動装置50が駆動部に対応している。電流センサが電流検出部に対応し、温度センサ58が温度検出部に対応し、高圧電源70が直流電源に対応している。また、差圧判定情報が圧力差情報に対応している。なお、上記実施形態のメモリは、非遷移的実体的記憶媒体である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16