(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記(C成分)のエチレン性不飽和二重結合と水酸基を有するオリゴエステル化セルロース繊維が、 (F成分)セルロース繊維100の質量比、(B成分)不飽和ジカルボン酸無水物1〜10の質量比、 (G成分)エチレン性不飽和二重結合およびエポキシ基を同一分子内に含む化合物1〜15の質量比にて加熱混練して得られることを特徴とする請求項1に記載の改質ポリプロピレン系樹脂組成物の製造方法。
前記(D成分)の分子内にポリオキシアルキレン鎖を有し、かつ末端にエチレン性不飽和二重結合をもつ化合物が、メトキシポリエチレングリコールアクリレートであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の改質ポリプロピレン系樹脂組成物の製造方法。
【背景技術】
【0002】
ポリプロピレンは、使用範囲は非常に幅広く、最も多く使用されているプラスチック素材の一つである。その使用は一般家庭で使用される身の回りのさまざま製品から工業用部品などにも使用されている。家電製品やスポーツ用品、自動車用部品や医療機器などに使用されている。こうした幅広い用途の理由は、ポリプロピレンが、樹脂の中で最も比重が軽く、極めて加工性が高い上に、優れた強度を持っていることが挙げられる。しかしながら、ポリプロピレンには大きな短所があり、接着剤が無く接着が困難な素材である。そのような背景の中で、最近特に、接着性の優れた新しいポリプロピレン樹脂の開発が望まれている。
【0003】
ポリプロピレンは、表面の極性が小さく、化学的に安定で、有機溶剤に侵されることが少ないという性質を持っている。そのため、表面の濡れが悪く、インキの接着性も劣る。これを解決する方法としては、無水マレイン酸変性ポリプロピレンと多官能親水性ポリマーとの共重合による改質ポリプロピレン系樹脂の開発が提案されている(特許文献1)。
この方法の問題点としては、ポリプロピレンの分子骨格中に3級炭素を有することから、グラフト反応の際に、ポリプロピレン分子鎖のβ開裂反応を生じ、両反応の競争反応となる。一般的には、β開裂反応速度の方がグラフト反応速度よりも早く、グラフト量を向上させると、結果的にメルトフローレートの顕著な上昇、つまり分子量の著しい低下を伴うことが知られている。そして、著しく低分子量化した変性ポリプロピレンは機械的強度の低下が大きい。したがって、ポリプロピレンに極性基を含有する方法は、接着性改善に好ましい方法ではあるが、グラフト量を向上し過ぎると、結果的に機械的強度の低下の原因となる(特許文献2)。
【0004】
一方、機械的強度を余り必要としない用途、例えばフィルム成形、シート成形、ブロー成形などにも、ポリオレフィンの接着性改良研究が積極的に行われている。変性ポリオレフィンと反応性の官能基を1個有するポリオキシアルキレン鎖含有化合物から形成される改質剤が提案されている(特許文献3)。 また、ホットメルト型接着樹脂フィルムに、エチレン性二重結合およびエポキシ基を同一分子内に含む単量体を用いてグラフト変性した変性ポリオレフィン系樹脂組成物の開発が行われている(特許文献4)。
しかしながら、曲げ強度など機械的強度を必要とする用途には問題がある。
【0005】
一方、成形体の強度の低下を招くことなく、臭気や着色の発生を抑制する目的で、熱可塑性樹脂と変性セルロース繊維を高温で溶融混練する際に、特定のエポキシ基を有する添加剤を加える方法が提案されている(特許文献5)。 しかしながら、この方法は高温で溶融混練や成形加工されても分解物の発生が少なく、相対的に着色が抑制された成形体を得ることができるが、本発明の目的である接着性を改良することは出来ない。
【0006】
また、優れた曲げ強度、引張強度、および曲げ弾性率を有する樹脂組成物として、ポリオレフィン、エポキシ変性ポリオレフィン、セルロース繊維を含有することを特徴とする樹脂組成物が提案されている(特許文献6)。 また、ポリオレフィンに、無水マレイン酸変性ポリオレフィン樹脂、セルロース繊維、有機過酸化物を含有した樹脂組成物は、セルロース繊維の分散性を向上させ、成形材料の機械的強度を向上させることが記載されている(特許文献7)。 しかしながら、特許文献6および特許文献7いずれの樹脂組成物においても、 得られる複合材料の接着性は必ずしも満足できるものではなく 不十分であった。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の改質ポリプロピレン系樹脂組成物の製造方法およびその成形体の実施の形態について、本発明の成形体の好適な製造手順に従って詳細に説明するが、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々に変更して実施することができる。
【0021】
(1) (A成分)ポリプロピレン100質量部
(B成分)不飽和ジカルボン酸無水物1〜15質量部
(C成分)エチレン性不飽和二重結合と水酸基を有するオリゴエステル化セルロース繊維1〜200質量部
(D成分)分子内にポリオキシアルキレン鎖を有し、かつ末端にエチレン性不飽和二重結合をもつ化合物1〜40質量部
(E成分)有機過酸化物0.1〜10質量部
を、
第一反応 (A成分)と(B成分)と(E成分)
第二反応 (C成分)または(C成分)と(E成分)
第三反応 (D成分)と(E成分)
の順に混入して、加熱混練することを特徴とする改質ポリプロピレン系樹脂組成物の製造方法。
【0022】
(2)前記(C成分)のエチレン性不飽和二重結合と水酸基を有するオリゴエステル化セルロース繊維が、 (F成分)セルロース繊維100の質量比、(B成分)不飽和ジカルボン酸無水物1〜10の質量比、 (G成分)エチレン性不飽和二重結合およびエポキシ基を同一分子内に含む化合物1〜15の質量比にて加熱混練して得られることを特徴とする、
(1)に記載の改質ポリプロピレン系樹脂組成物の製造方法。
【0023】
(3)前記(B成分)不飽和ジカルボン酸無水物が、無水マレイン酸であることを特徴とする、(1)または(2)に記載の改質ポリプロピレン系樹脂組成物の製造方法。
【0024】
(4)前記(D成分)の分子内にポリオキシアルキレン鎖を有し、かつ末端にエチレン性不飽和二重結合をもつ化合物が、メトキシポリエチレングリコールアクリレートであることを特徴とする、(1)〜
(3)のいずれか1項に記載の改質ポリプロピレン系樹脂組成物の製造方法。
【0026】
(A成分)ポリプロピレンについて
ポリプロピレンとは、プロピレンの単独重合体またはプロピレンを主成分とする共重合体である。これらの具体例としては、ポリプロピレン、プロピレンとエチレンとのランダムあるいはブロック共重合体、プロピレンと1−ブテンとのランダムあるいはブロック共重合体、プロピレンとエチレンと1−ブテンとのランダムあるいはブロック三元共重合体などが挙げられる。また、プロピレンの単独重合体またはプロピレンを主成分とする共重合体には、酢酸ビニル、アクリル酸、アクリル酸エステル、アクリル酸アルキルエステル、メタクリル酸、メタクリル酸エステル、メタクリル酸アルキルエステルなどの他のモノマーも1種以上共重合させることができる。
【0027】
(B成分)不飽和ジカルボン酸無水物について
(A成分)ポリプロピレンは、非極性ポリマーであり、諸物質に対する界面接着性が
悪い。この問題点を解決する方法として、(A成分)ポリプロピレンに、(B成分)不飽和ジカルボン酸無水物をグラフト結合させて不飽和ジカルボン酸無水物変性ポリプロピレンを得る方法が一般的に行われている。この方法には、溶媒法と溶融法とがあるが、本発明で使用するのは、溶融法が好ましい。溶媒法は溶剤の完全除去が困難である上、コスト面で不利である。溶融法はポリプロピレンの低分子化の程度は著しく押さえることができるが、一方、不飽和ジカルボン酸無水物の未反応成分が多く残存する難点がある。しかしながら、本発明では、不飽和ジカルボン酸無水物変性ポリプロピレンを得た後、(C成分)オリゴエステル化セルロース繊維を反応系内に混入するため、不飽和ジカルボン酸無水物の未反応成分を除去する必要がない大きな利点がある。即ち、未反応不飽和ジカルボン酸無水物を、オリゴエステル化セルロース繊維が取り込んでくれるためである。一方、(A成分)ポリプロピレンに、(B成分)不飽和ジカルボン酸無水物をグラフト結合させて不飽和ジカルボン酸無水物変性ポリプロピレンを得るためには、後述する(E成分)有機過酸化物が必要である。(E成分)有機過酸化物は、主として、ポリプロピレンから水素を引き抜いてラジカルを発生させ、エチレン性不飽和二重結合と反応させるために必要である。
【0028】
本発明で用いる(B成分)不飽和ジカルボン酸無水物としては、無水マレイン酸、無水フタル酸、無水コハク酸、無水テトラヒドロフタル酸、無水ヘキサヒドロフタル酸、無水フマル酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸などが挙げられる。これらの(B成分)不飽和ジカルボン酸無水物の中では、工業生産に優れ、かつ得られる成形体の機械的性質がより優れることから、無水マレイン酸がより好ましい。
【0029】
(B成分)不飽和ジカルボン酸無水物の添加量は、ベースとなる(A成分)ポリプロピレン100質量部に対して、1〜15質量部の範囲内にあることが好ましく、さらには1〜10質量部の範囲内にあることが好ましい。1質量部未満では不飽和ジカルボン酸無水物によるグラフト変性量が少なくなり、改質効果が期待できない。15質量部を超えると得られた成形体の機械的特性が低下する傾向がある。
【0030】
表1に記載の第一反応、第二反応、第三反応について
本発明は、先ず、(A成分)ポリプロピレン、(B成分)不飽和ジカルボン酸無水物、(E成分)有機過酸化物を加熱混練して、不飽和ジカルボン酸無水物変性ポリプロピレンを得る(第一反応)。次に、得られた不飽和ジカルボン酸無水物変性ポリプロピレンに、未反応不飽和ジカルボン酸無水物を取り除くことなく、(E成分)有機過酸化物の存在下または非存在下で、 (C成分)エチレン性不飽和二重結合と水酸基を有するオリゴエステル化セルロース繊維を混入して、加熱混練させる(第二反応)。この結果、本発明の特徴である、不飽和ジカルボン酸無水物変性ポリプロピレン中の酸無水物基と(C成分)オリゴエステル化セルロース繊維中の水酸基との間に、エステル化反応による架橋結合が起こり得る。同時に、(E成分)有機過酸化物が存在する場合には、不飽和ジカルボン酸無水物変性ポリプロピレンから水素を引き抜いてラジカルを発生させ、(C成分)オリゴエステル化セルロース繊維中のエチレン性不飽和二重結合とグラフト反応による架橋結合が起こり得る。即ち、ポリプロピレンとセルロース繊維が架橋結合され得ることにより、優れた機械的強度を有する成形体が得られることを見出した。その後、さらに反応系内に、 (D成分)分子内にポリオキシアルキレン鎖を有し、かつ末端にエチレン性不飽和二重結合をもつ化合物と(E成分)有機過酸化物を混入して、加熱混練する(第三反応)ことによりグラフト反応が促進され、本発明の改質ポリプロピレン系樹脂組成物が得られることを見出した。
【0031】
(E成分)有機過酸化物について
(E成分)有機過酸化物としては、一般に過酸化物またはアゾ化合物などが挙げられる。前記有機過酸化物の具体例としては、ジクミルパーオキサイド、2,5−ジメチールー2,5ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルクミルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシベンゾエート、ケトンパーオキサイド、ハイドロパーオキサイド、メチルエチルケトンパーオキサイド、アシルパーオキサイド、アルキルパーエステル、ジアシルパーオキサイド、モノパーオキシカーボネート、パーオキシジカーボネートが挙げられる。
【0032】
これらの中でも、ベースとなるポリプロピレンからの水素引き抜き能力が高い有機過酸化物が好ましく、そのような有機過酸化物の具体例としては、例えばジクミルパーオキサイド、2,5−ジメチールー2,5ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルクミルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシベンゾエート、ケトンパーオキサイド、ハイドロパーオキサイドなどが挙げられる。
【0033】
前記(E成分)有機過酸化物の添加量は、ベースとなる(A成分)ポリプロピレン100質量部に対して、0.1〜10質量部の範囲内にあることが好ましく、さらには0.1〜8質量部、特には0.1〜5質量部の範囲内にあることが好ましい。0.1質量部未満では水素引き抜き効果が期待できなく、10質量部を超えると得られた成形体の機械的特性が低下する傾向がある。
【0034】
(C成分)エチレン性不飽和二重結合と水酸基を有するオリゴエステル化セルロー
ス繊維について
本発明で用いる(C成分)エチレン性不飽和二重結合と水酸基を有するオリゴエステル化セルロース繊維としては、 (F成分)セルロース繊維100の質量比、(B成分)不飽和ジカルボン酸無水物1〜10の質量比、 (G成分)エチレン性不飽和二重結合およびエポキシ基を同一分子内に含む化合物1〜15の質量比にて加熱混練して得られる。得られたオリゴエステル化セルロース繊維は、側鎖にエチレン性不飽和二重結合と水酸基を有するものである。
【0035】
(G成分)エチレン性不飽和二重結合およびエポキシ基を同一分子内に含む化合物について
本発明で用いる(G成分)エチレン性不飽和二重結合およびエポキシ基を同一分子内に含む化合物としては、メタクリル酸グリシジル、アリルグリシジルエーテル、グリシジルアクリレート、ビニルシクロヘキセンモノエポキサイドなどが挙げられる。これらの中では、成形体の接着性および機械的性質をより向上させることができることから、メタクリル酸グリシジルがより好ましい。
【0036】
(C成分)エチレン性不飽和二重結合と水酸基を有するオリゴエステル化セルロー
ス繊維の製造方法について
本発明の(C成分)エチレン性不飽和二重結合と水酸基を有するオリゴエステル化セルロース繊維の製造方法について以下述べる。(C成分)オリゴエステル化セルロース繊維は、(F成分)セルロース繊維と(B成分)不飽和ジカルボン酸無水物と(G成分)エチレン性不飽和二重結合およびエポキシ基を同一分子内に含む化合物(以下、メタクリル酸グリシジルで置き換える)とを加熱混練することにより得られる。
【0037】
セルロースは、植物細胞の細胞壁および繊維が主成分であり、 天然の植物資源の1/3を占め、地球上で最も多く存在する炭水化物である。多数のβ―グルコース分子がグリコシド結合により直鎖状に重合した天然高分子である。本発明で使用する(F成分)セルロース繊維としては、例えば、木材繊維、セルロース繊維、コットンリンター、ケナフ、マニラ麻、サイザル麻、ジュート、麦わら、竹、葦などの天然セルロースを主成分とする繊維が使用できる。
【0038】
特に、セルロース繊維としては、化学パルプを乾式解繊機で解繊したセルロース繊維が好ましい。化学処理を施して溶解させると、長い繊維状のセルロースとして再生することができる(再生セルロース繊維とも呼ばれる)。本発明で用いるセルロース繊維(F成分)は、乾式解繊機により繊維一本一本まで解されてあれば、その後、繊維塊(例えば、綿
状)となっても良い。解繊されたセルロース繊維の寸法は特に制限はないが、繊維長は0.05〜10mmが好ましく、0.1〜5mmがより好ましい。繊維径は5〜100μmが好ましく、10〜50μmがより好ましい。なお、解繊されたセルロース繊維の寸法においては、成形体の強度を高めるために、特にアスペクト比(長さ/直径)が重要となる。本発明における解繊されたセルロース繊維のアスペクト比は5〜1000が好ましく、10〜100がより好ましい。
【0039】
本発明では、 (F成分)セルロース繊維と(B成分)不飽和ジカルボン酸無水物とのエステル化反応により、高付加率のエステル化セルロース繊維が得られる。つまり、セルロース繊維中の活性な水酸基と不飽和ジカルボン酸無水物中の無水酸基とは、無溶媒下においても容易に付加エステル化反応を起こして、カルボキシル基が導入されたエステル化セルロース繊維が得られる。一般に、エステル化セルロース繊維は、半エステルである。これらの塩は水溶性であり、不安定である。しかしながら、ジエステルの形にすれば非常に安定なものが得られる。したがって、エステル化セルロース繊維中のカルボキシル基に、不飽和結合を有するモノエポキシ化合物中のエポキシ基を付加させることによりエポキシ化合物―付加エステル化セルロース繊維が得られる。得られたもののIRスペクトルでは1715〜1735cm
−1にエステル結合の吸収が明確に見られる。 さらに、3400
cm
−1に水酸基の強い吸収が認められる。これは、エポキシ基とカルボキシル基との開
環エステル化反応によって生じた水酸基とセルロース繊維骨格中の未反応水酸基によるものと考えられる。
【0040】
上記のエポキシ化合物―付加エステル化セルロース繊維に、さらに、酸無水物とエポキシ化合物を高温下で反応させると、酸無水物とエポキシ化合物が交互に付加する、いわゆる、交互付加エステル化反応が起こる。そして、セルロース繊維を骨格とした(C成分)オリゴエステル化セルロース繊維が得られる。この場合、(G成分)メタクリル酸グリシジルのようなエチレン性不飽和二重結合およびエポキシ基を同一分子内に含む化合物を使用すると重合性二重結合を有するオリゴエステル鎖が生成する。このような重合性のオリゴエステル鎖を有する(C成分)オリゴエステル化セルロース繊維は高温、高圧下ではセルロース成分の可塑化を伴って架橋反応が起こると考えられるので興味がある。そこで、(F成分)セルロース繊維と(B成分)不飽和ジカルボン酸無水物と(G成分)メタクリル酸グリシジルとを、一段で中間体を単離せずにオリゴエステル化反応を行った。生成物はアセトン可溶部と不溶部から成っている。不溶部はオリゴエステル化セルロース繊維であり、これらはIRスペクトルにおいて、1720cm
−1にエステル結合の強い吸収を示す。一方、可溶部は粘ちゅう状態の液体であるが、これはセルロース繊維骨格に結合していない自由なオリゴエステルである(オリゴマー)。本発明で使用する、(C成分)エチレン性不飽和二重結合と水酸基を有するオリゴエステル化セルロース繊維は、上記オリゴマーを含有した方が、改質ポリプロピレン系樹脂組成物の熱流動性において好ましい影響を与える。
【0041】
以下、さらに詳しく、本発明の(C成分)オリゴエステル化セルロース繊維の製造方法を説明する。先ず、用意したセルロース繊維を熱風乾燥器で乾燥させて用いた。所定量の半分のセルロース繊維を密閉式加圧型ニーダーの混合槽内に投入する。一度、密閉式加圧型ニーダーを稼動して、混合槽内のセルロース繊維を圧縮して、セルロース繊維の嵩密度を高める。次に、残りの半分のセルロース繊維と所定量の不飽和ジカルボン酸無水物を密閉式加圧型ニーダーの混合槽内に投入する。その後、セルロース繊維と不飽和ジカルボン酸無水物の好適なエステル化反応条件(反応温度、反応時間、混練回転数)で、混練と同時にエステル化反応を行う。エステル化反応後、加圧蓋を徐々に開け、所定量のメタクリル酸グリシジルを密閉式加圧型ニーダーの混合槽内に投入する。その後、エステル化セルロース繊維とメタクリル酸グリシジルの好適なオリゴエステル化反応条件(反応温度、反応時間、混練回転数)で、混練と同時にオリゴエステル化反応を行う。オリゴエステル化反応後、加圧蓋を徐々に開き、(C成分)オリゴエステル化セルロース繊維を取り出す。
【0042】
本発明の(C成分)オリゴエステル化セルロース繊維のセルロース繊維中に付加される不飽和ジカルボン酸無水物とメタクリル酸グリシジルの付加量は、それぞれの仕込み量によっても異なるが、一般に、セルロース繊維に対して、1〜30質量%であることが好ましい。1質量%以下では(C成分)オリゴエステル化セルロース繊維とポリプロピレンとの相溶性が悪くなり、好ましい成形体が得られない。また、30質量%以上になると、不飽和ジカルボン酸無水物とメタクリル酸グリシジルとのオリゴエステル化反応で得られるオリゴマーの量が多くなり経済的でない。不飽和ジカルボン酸無水物に対してメタクリル酸グリシジルの仕込み量は、酸無水物1モルに対してエポキシ化合物1〜2モルが適当である。さらには、酸無水物1モルに対してエポキシ化合物1.1〜1.3モルの範囲に入ることが好ましい。
【0043】
ついで、密閉式加圧型ニーダーの混合槽内の反応温度は、総体的には70〜200℃の範囲である。70℃以下ではエステル化反応およびオリゴエステル化反応が進みにくく、200℃以上ではセルロース繊維が熱分解を起こして好ましくない。好ましくは、100〜150℃である。加熱時間は2〜120分間が好ましい。一方、密閉式加圧型ニーダーの混練回転数は10〜70min
−1で良好であるが、セルロース繊維を短繊維化しない方が好ましく、そのためにも回転数は小さい方が好ましい。
【0044】
(A成分)ポリプロピレンと(F成分)セルロース繊維の架橋結合について
(A成分)ポリプロピレンと(B成分)不飽和ジカルボン酸無水物と(E成分)有機過酸化物を加熱混練して得られた不飽和ジカルボン酸無水物変性ポリプロピレは、(E成分)有機過酸化物によって、(A成分)ポリプロピレンから水素を引き抜いてラジカルを発生させ、発生させたラジカルを開始剤として、(B成分)不飽和ジカルボン酸無水物を(A成分)ポリプロピレンにグラフトさせることにより製造される(第一反応)。したがって、不飽和ジカルボン酸無水物変性ポリプロピレンは、ポリプロピレン中に酸無水物基が導入されたものである。一方、(C成分)オリゴエステル化セルロース繊維は、前述したように、側鎖にエチレン性不飽和二重結合と水酸基を有している。したがって、不飽和ジカルボン酸無水物変性ポリプロピレと(C成分)オリゴエステル化セルロース繊維を加熱混練させると、不飽和ジカルボン酸無水物変性ポリプロピレン中に導入された酸無水物基と(C成分)オリゴエステル化セルロース繊維中に導入された側鎖の水酸基との間に、エステル結合による架橋反応が起こり得ると考えられる。さらに、不飽和ジカルボン酸無水物変性ポリプロピレと(C成分)オリゴエステル化セルロース繊維を加熱混練させる反応系内に(E成分)有機過酸化物が存在すると、不飽和ジカルボン酸無水物変性ポリプロピレンから水素を引き抜いてラジカルを発生させ、(C成分)オリゴエステル化セルロース繊維中に存在するエチレン性不飽和二重結合とグラフト反応が促進されて架橋結合されると考えられる(第二反応)。ポリプロピレンとセルロース繊維が架橋結合されることにより、本発明の改質ポリプロピレン系樹脂組成物を成形加工した成形体は、成形体の強度を飛躍的に向上し得るものとなる。
【0045】
密閉式加圧型ニーダーの混合槽内に投入する(C成分)エチレン性不飽和二重結合と
水酸基を有するオリゴエステル化セルロース繊維の配合量は、(A成分)ポリプロピレン100質量部に対して、(C成分)オリゴエステル化セルロース繊維は1〜200質量部である。好ましくは20〜150質量部の範囲であり、さらに好ましくは50〜100質量部である。(C成分)の配合量が1質量部以下では目的とする接着性および機械的強度の改質効果が得られない。一方、配合量が範囲を超えると、改質効果が飽和域に達するので200質量部を上限とすることが好ましい。
【0046】
(D成分)分子内にポリオキシアルキレン鎖を有し、かつ末端にエチレン性不飽和二重結合をもつ化合物について
本発明の(D成分)分子内にポリオキシアルキレン鎖を有し、かつ末端にエチレン性不飽和二重結合をもつ化合物は、分子内にポリオキシアルキレン鎖およびエチレン性不飽和二重結合を1個以上有していれば、どのような化学構造、化学結合であってもよい。またポリオキシアルキレン鎖においては、分子中にただ1種類でもよいし、アルキル鎖の異なるポリオキシアルキレン鎖が複数存在してもよい。これらの化合物の具体例としては、ポリアルキレングリコールモノアクリレート類、ポリアルキレングリコールモノメタクリレート類、アルキル基末端ポリアルキレングリコールモノアクリレート類、アルキル基末端ポリアルキレングリコールモノメタクリレート類、ポリアルキレングリコールジアクリレート類、ポリアルキレングリコールジメタクリレート類、さらには、ビスフェノールA骨格含有ポリアルキレングリコールジアクリレート類、ビスフェノールA骨格含有ポリアルキレングリコールジメタクリレート類などが挙げられる。
【0047】
ポリアルキレングリコールモノアクリレート類としては、ポリエチレングリコールモノアクリレート、ポリプロピレングリコールモノアクリレート、ポリテトラメチレングリコールモノアクリレート、ポリ(エチレングリコール/プロピレングリコール)モノアクリレートなどが挙げられる。
【0048】
ポリアルキレングリコールモノメタクリレート類としては、ポエチレングリコールモノメタクリレート、ポリプロピレングリコールモノメタクリレート、ポリテトラメチレングリコールモノメタクリレートなどが挙げられる。
【0049】
アルキル基末端ポリアルキレングリコールモノメタクリレート類としては、メトキシポリエチレングリコールモノアクリレート、エトキシポリエチレングリコールモノアクリレート、プロポキシポリエチレングリコールモノアクリレート、プトキシポリエチレングリコールモノアクリレート、ヘキトキシポリエチレングリコールモノアクリレート、オクトキシポリエチレングリコールモノアクリレートなどが挙げられる。
【0050】
アルキル基末端ポリアルキレングリコールモノメタクリレート類としては、メトキシポリエチレングリコールモノメタクリレート、エトキシポリエチレングリコールモノメタクリレート、ブトキシポリエチレングリコールモノメタクリレートなどが挙げられる。
【0051】
ポリアルキレングリコールジアクリレート類としては、ポリエチレングリコールジアクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレート、ポリテトラメチレングリコールジアクリレート、ポリ(エチレングリコール/プロピレングリコール)ジアクリレートなどが挙げられる。
【0052】
ポリアルキレングリコールジメタクリレート類としては、ポリエチレングリコールジメタクリレート、ポリプロピレングリコールジメタクリレート、ポリテトラメチレングリコールジメタクリテート、ポリ(エチレングリコール/プロピレングリコール)ジメタクリレートなどが挙げられる。
【0053】
ビスフェノールA骨格含有ポリアルキレングリコールジアクリレート類としては、ポリエチレングリコールービスフェノールA−ジアクリレート、ポリプロピレングリコールービスフェノールA−ジアクリレートなどが挙げられる。
【0054】
ビスフェノールA骨格含有ポリアルキレングリコールジメタクリレート類としては、ポリエチレングリコールービスフェノールA−ジメタクリレート、ポリ(エチレングリコーループロピレングリコール)−ビスフェノールA−ジメタクリレートなどが挙げられる。
【0055】
これらの中でも、本発明の(D成分)分子内にポリオキシアルキレン鎖を有し、かつ末端にエチレン性不飽和二重結合をもつ化合物としては、メトキシーポリエチレングリコールアクリレートが最も好ましい。メトキシーポリエチレングリコールアクリレートは、本発明の改質ポリプロピレン系樹脂組成物を成形加工して得られた成形体において、接着性の改質効果が最も大きい。
【0056】
本発明の(A成分)ポリプロピレンに対する(D成分)分子内にポリオキシアルキレン鎖を有し、かつ末端にエチレン性不飽和二重結合をもつ化合物の配合量は、(A成分)100質量部に対して、(D成分)1から40質量部の範囲であり、好ましくは5〜35質量部である。(D成分)の配合量が1質量部以下では目的とする接着性の改質効果が得られにくい傾向がある。一方、配合量が範囲を超えると、接着性の改質効果が飽和域に達するので40質量部を上限とすることが好ましい。
【0057】
本発明は、(A成分)ポリプロピレンと(B成分)不飽和ジカルボン酸無水物と(E成分)有機過酸化物を加熱混練する第一反応、さらに得られた反応系内に、(C成分)エチレン性不和二重結合と水酸基を有するオリゴエステル化セルロース繊維または(C成分)エチレン性不飽和二重結合と水酸基を有するオリゴエステル化セルロース繊維と(E成分)有機過酸化物を混入して、加熱混練する第二反応、さらに得られた反応系内に、(D成分)分子内にポリオキシアルキレン鎖を有し、かつ末端にエチレン性不飽和二重結合をもつ化合物と(E成分)有機過酸化物を混入して、加熱混練する第三反応から得られることを特徴とする改質ポリプロピレン系樹脂組成物の製造方法である。
【0058】
(D成分)メトキシーポリエチレングリコールアクリレート中のエチレン性不飽和二重結合は、(E成分)有機過酸化物によって発生させた、不飽和ジカルボン酸無水物変性ポリプロピレン中から水素を引き抜いたラジカルとグラフト反応をおこし、架橋されることが考えられる。また、(D成分)メトキシーポリエチレングリコールアクリレート中のエチレン性不飽和二重結合は、(C成分)オリゴエステル化セルロース繊維中に存在するエチレン性不飽和二重結合とも共重合反応を起こして架橋されるものと考えられる。(A成分)、(B成分)、(C成分)、および(D成分)は、化学的に結合されて、強固一体となり得るものである。その結果、機械的強度の優れた成形体が得られ、また水に対する優れた濡れ性をポリプロピレン系樹脂基材に付与された成形体が得られる。
【0059】
本発明の反応に用いる装置については、特に限定はない。例えば、密閉式加圧型ニーダー、一軸押出機、二軸押出機、プラストミル、バンバリーミキサー、加熱ロールなどが好適に用いられる。なお、混練条件については、各成分の種類と組み合わせにより任意に設定できるが、反応温度は70℃〜200℃の範囲であり、反応時間は約1時間以内であることが材料の熱安定性、および反応効率などの観点から好ましい。
【0060】
本発明の改質ポリプロピレン系樹脂組成物を製造する際、本発明で用いた成分以外の成分を混入して製造しても良い。例えば、熱可塑性樹脂が用いられる。無処理のポリプロピレンを混入することも可能である。その場合、本発明の改質ポリプロピレン系樹脂組成物からなる成形体の濡れ性(接着性)が著しく低下する。また、第一反応として調製する換わりに、事前に調製された不飽和ジカルボン酸無水物変性ポリプロピレンを用いることもできる。その他、混入する成分としては、通常良く知られた安定剤、離型剤、無機系難燃剤、有機系難燃剤、紫外線吸収剤、顔料、染料、可塑剤などが挙げられる。これらは単独または2種以上併せて使用することができる。
【0061】
本発明の改質ポリプロピレン系樹脂組成物を用いて、各種成形方法により成形体を製造することができる。成形方法としては、一般的な成形方法を用いることができ、特に制限されない。例えば、射出成形法、トランスファ成形法、プレス成形法、押出成形法などを挙げることができる。成形体によって成形方法を選定すれば良い。
【実施例】
【0062】
次に、実施例などに基づいて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、かかる実施例などに制限されるものではない。なお、試験材料としては、下記のものを使用した。
(A成分)ポリプロピレンとしては、ブロックポリプロピレン(日本ポリプロ株式会社製、ノバテックBC05B)を使用した。
(B成分)不飽和ジカルボン酸無水物としては、無水マレイン酸(試薬)を使用した。
(D成分)分子内にポリオキシアルキレン鎖を有し、かつ末端にエチレン性不飽和二重結合をもつ化合物としては、メトキシーポリエチレングリコールアクリレート(共栄社化学株式会社製、ライトアクリレート130A)を使用した。
(E成分)有機過酸化物としては、1,3−ビス(t―ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン(火薬アクゾ株式会社製、パーカドックス14S−FL)を使用した。
(F成分)セルロース繊維としては、化学パルプを乾式解繊機で解繊したセルロース繊維〔数平均繊維長300μm、数平均繊維径20μm、嵩密度0.08g/cm
3、レッテンマイヤー株式会社製、商品名:ARBOCEL、BC200〕を使用した。
(G成分)エチレン性不飽和二重結合およびエポキシ基を同一分子内に含む化合物としては、メタクリル酸グリシジル(試薬)を使用した。
また、製造例、実施例、および比較例に用いた反応混練装置としては、密閉式加圧型ニーダー[1バッチ容量300cc、(株)トーシン、加圧式ニーダー(登録商標)TDO.3−3型]を使用した。
【0063】
(製造例1)オリゴエステル化セルロース繊維(C1成分)
セルロース繊維(F成分)を熱風乾燥機で乾燥させて用いた。密閉式加圧型ニーダーの混合槽内に、セルロース繊維(F成分)の所定量の半分(47.50質量部)を投入する。その後、密閉式加圧型ニーダーを稼動して、混合槽内のセルロース繊維(F成分)を圧縮して、セルロース繊維(F成分)の嵩密度を高める。次に、残りの半分(47.50質量部)のセルロース繊維(F成分)と無水マレイン酸(B成分)1.82質量部を密閉式加圧型ニーダーの混合槽内に投入する。その後、反応温度130℃、反応時間15分間、混練回転数50rpm
−1の条件で混練を行った。次に、加圧蓋を徐々に開き、メタクリル酸グリシジル(G成分)3.18質量部を密閉式加圧型ニーダーの混合槽内に投入する。その後、反応温度130℃、反応時間15分間、混練回転数50rpm
−1の条件で混練を行い、オリゴエステル化セルロース繊維(C1成分)を得た。
【0064】
(製造例2)オリゴエステル化セルロース繊維(C2成分)
セルロース繊維(F成分)を熱風乾燥機で乾燥させて用いた。密閉式加圧型ニーダーの混合槽内に、セルロース繊維(F成分)の所定量の半分(46.50質量部)を投入する。その後、密閉式加圧型ニーダーを稼動して、混合槽内のセルロース繊維(F成分)を圧縮して、セルロース繊維(F成分)の嵩密度を高める。次に、残りの半分(46.50質量部)のセルロース繊維(F成分)と無水マレイン酸(B成分)2.55質量部を密閉式加圧型ニーダーの混合槽内に投入する。その後、反応温度130℃、反応時間15分間、混練回転数50rpm
−1の条件で混練を行った。次に、加圧蓋を徐々に開き、メタクリル酸グリシジル(G成分)4.45質量部を密閉式加圧型ニーダーの混合槽内に投入する。その後、反応温度130℃、反応時間15分間、混練回転数50rpm
−1の条件で混練を行い、オリゴエステル化セルロース繊維(C2成分)を得た。
【0065】
(実施例1)
密閉式加圧型ニーダーの混合槽内に、ポリプロピレン(A成分)39.43質量部、無水マレイン酸(B成分)1.00質量部、および有機過酸化物(E成分)0.49質量部を投入する。その後、反応温度180℃、反応時間20分間、混練回転数50rpm
−1の条件で混練した。次に、密閉式加圧型ニーダーの混合槽内に、製造例1で得たオリゴエステル化セルロース繊維(C1成分)52質量部を投入し、反応温度180℃、反応時間10分間、混練回転数50rpm
−1の条件で混練した。その後さらに、密閉式加圧型ニーダーの混合槽内に、メトキシ-ポリエチレングリコールアクリレート(D成分)6.59質量部、および有機過酸化物(E成分)0.49質量部を投入して、反応温度180℃、反応時間20分間、混練回転数50rpm
−1の条件で混練を行い、改質ポリプロピレン系樹脂組成物を得た。
【0066】
(実施例2)
実施例1の改質ポリプロピレン系樹脂組成物において、各成分の配合量を下記表1に示すように変更した以外は実施例1と同様にして、改質ポリプロピレン系樹脂組成物を得た。
【0067】
(実施例3)
密閉式加圧型ニーダーの混合槽内に、ポリプロピレン(A成分)41.51質量部、無水マレイン酸(B成分)0.93質量部、および有機過酸化物(E成分)0.46質量部を投入する。その後、反応温度180℃、反応時間20分間、混練回転数50rpm
−1の条件で混練をした。次に、密閉式加圧型ニーダーの混合槽内に、製造例2で得たオリゴエステル化セルロース繊維(C2成分)50質量部、および有機過酸化物(E成分)0.46質量部を投入し、反応温度180℃、反応時間10分間、混練回転数50rpm
−1の条件で混練した。その後さらに、密閉式加圧型ニーダーの混合槽内に、メトキシ-ポリエチレングリコールアクリレート(D成分)6.18質量部、および有機過酸化物(E成分)0.46質量部を投入して、反応温度180℃、反応時間20分間、混練回転数50rpm
−1の条件で混練を行い、改質ポリプロピレン系樹脂組成物を得た。
【0068】
(実施例4)
実施例3の改質ポリプロピレン系樹脂組成物において、各成分の配合量を下記表1に示すように変更した以外は実施例3と同様にして、改質ポリプロピレン系樹脂組成物を得た。
【0069】
(比較例1)
密閉式加圧型ニーダーの混合槽内に、ポリプロピレン(A成分)39.43質量部、無水マレイン酸(B成分)1.00質量部、および有機過酸化物(E成分)0.49質量部を投入する。その後、反応温度180℃、反応時間20分間、混練回転数50rpm
−1の条件で混練した。次に、密閉式加圧型ニーダーの混合槽内に、メトキシ-ポリエチレングリコールアクリレート(D成分)6.59質量部、および有機過酸化物(E成分)0.49質量部を投入して、反応温度180℃、反応時間20分間、混練回転数50rpm
−1の条件で混練を行った。その後さらに、密閉式加圧型ニーダーの混合槽内に、製造例1で得たオリゴエステル化セルロース繊維(C1成分)52質量部を投入し、反応温度180℃、反応時間10分間、混練回転数50rpm
−1の条件で混練して、改質ポリプロピレン系樹脂組成物を得た。
【0070】
(比較例2)
比較例1の改質ポリプロピレン系樹脂組成物において、各成分の配合量を下記表1に示すように変更した以外は比較例1と同様にして、改質ポリプロピレン系樹脂組成物を得た。
【0071】
(比較例3)
密閉式加圧型ニーダーの混合槽内に、ポリプロピレン(A成分)41.97質量部、無水マレイン酸(B成分)0.93質量部、および有機過酸化物(E成分)0.46質量部を投入する。その後、反応温度180℃、反応時間20分間、混練回転数50rpm
−1の条件で混練した。次に、密閉式加圧型ニーダーの混合槽内に、メトキシ-ポリエチレングリコールアクリレート(D成分)6.18質量部、および有機過酸化物(E成分)0.46質量部を投入して、反応温度180℃、反応時間20分間、混練回転数50rpm
−1の条件で混練した。その後さらに、密閉式加圧型ニーダーの混合槽内に、製造例2で得たオリゴエステル化セルロース繊維(C2成分)50質量部を投入し、反応温度180℃、反応時間10分間、混練回転数50rpm
−1の条件で混練して、改質ポリプロピレン系樹脂組成物を得た。
【0072】
(比較例4)
比較例3の改質ポリプロピレン系樹脂組成物において、各成分の配合量を下記表1に示すように変更した以外は比較例3と同様にして、改質ポリプロピレン系樹脂組成物を得た。
【0073】
実施例1〜4および比較例1〜4で得られた改質ポリプロピレン系樹脂組成物を粉砕して、射出成形用試験材料とした。次に、該試験材料を射出成形機のホッパー内に挿入し、暖められたシリンダー内のスクリューによって溶融した後、冷却された金型内に射出してダンベル型試験片を得た。
【0074】
上記で得られた各種ダンベル型試験片の特性値を調べた。濡れ特性は、濡れ性チェック用ダインペン(表面エネルギー値評価用テストペン)で評価した。目的とする濡れ張力の値は、38dyn以上である。事前に、濡れ張力と濡れ性チェック用ダインペンの関係を確認した。強度(曲げ強度)、剛性(曲げ弾性率)、射出成形性(熱流動性)、射出成形性(バリの発生)、および比重(軽さ)は、自動車用内装部品に用いられる成形材料物性と比較した。評価方法は、次のような基準で評価した[評価基準:劣る ×<△<○ 優れる]。
【0075】
【表1】
【0076】
表1に示された結果から、実施例1〜4の改質ポリプロピレン系樹脂組成物から得られた成形体は、優れた接着性(濡れ評価)を示した。また、強度(曲げ強度)、剛性(曲げ弾性率)、射出成形性(熱流動性)、および射出成形性(バリ発生)においても、良好な結果を示した。一方、比較例1〜4の改質ポリプロピレン系樹脂組成物から得られた成形体は、オリゴエステル化セルロース繊維の含有質量%が低くなると(比較例2、比較例4)、接着性(濡れ評価)の低下が見られた。また、比較例1〜4の改質ポリプロピレン系樹脂組成物から得られた成形体は、強度(曲げ強度)および剛性(曲げ弾性率)が悪くなり、機械的強度において大きな問題点を有するものであった。さらに、比較例1〜4の改質ポリプロピレン系樹脂組成物から得られた成形体は、射出成形時にバリの発生が多く、成形性に問題を有するものであった。
機械的強度を損なうことなく、水に対する優れた濡れ性をポリプロピレン系樹脂基材に付与する改質ポリプロピレン系樹脂組成物の製造方法およびその成形体を提供することを目的とする。