特許第6432914号(P6432914)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6432914
(24)【登録日】2018年11月16日
(45)【発行日】2018年12月5日
(54)【発明の名称】水処理方法および水処理装置
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/44 20060101AFI20181126BHJP
   B01D 65/06 20060101ALI20181126BHJP
   B01D 67/00 20060101ALI20181126BHJP
【FI】
   C02F1/44 D
   C02F1/44 F
   C02F1/44 A
   B01D65/06
   B01D67/00
【請求項の数】7
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2017-34585(P2017-34585)
(22)【出願日】2017年2月27日
(62)【分割の表示】特願2016-539244(P2016-539244)の分割
【原出願日】2016年3月1日
(65)【公開番号】特開2017-87213(P2017-87213A)
(43)【公開日】2017年5月25日
【審査請求日】2017年2月27日
(31)【優先権主張番号】特願2015-167745(P2015-167745)
(32)【優先日】2015年8月27日
(33)【優先権主張国】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110423
【弁理士】
【氏名又は名称】曾我 道治
(74)【代理人】
【識別番号】100111648
【弁理士】
【氏名又は名称】梶並 順
(74)【代理人】
【識別番号】100122437
【弁理士】
【氏名又は名称】大宅 一宏
(74)【代理人】
【識別番号】100147566
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100161171
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 潤一郎
(72)【発明者】
【氏名】今村 英二
(72)【発明者】
【氏名】山内 登起子
(72)【発明者】
【氏名】安永 望
【審査官】 片山 真紀
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−300071(JP,A)
【文献】 特開2015−000371(JP,A)
【文献】 特開2007−061697(JP,A)
【文献】 特開2012−200631(JP,A)
【文献】 米国特許第06161435(US,A)
【文献】 特開2008−221058(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/44
B01D 61/00−71/82
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
分離膜の一次側から二次側へ向けて被処理水をろ過するろ過工程と、前記分離膜を前記二次側から前記一次側へ向けて洗浄する逆洗工程とを含むサイクルを繰り返す水処理方法において、
前記逆洗工程に用いるオゾンを前記分離膜へ注入するステップと、
繰り返した前記サイクルのうち、先のサイクルを第1サイクル、前記第1サイクルに続いて実施される後のサイクルを第2サイクルとしたとき、前記第2サイクルの際に注入する前記オゾンの注入量を前記第2サイクルの際のろ過工程実施時間で除した値、前記第1サイクルの際に注入した前記オゾンの注入量を前記第1サイクルの際のろ過工程実施時間で除した値より少なくなる条件が成立するように、前記第2サイクルにおける前記オゾンの注入量および前記ろ過工程実施時間を制御するステップと
を有し、
前記分離膜は疎水性であり、
前記被処理水は、前記分離膜との親和性が高い汚濁物質を含み、
前記逆洗工程により前記分離膜の親水化を促す
水処理方法。
【請求項2】
前記分離膜の膜間差圧値を検出するステップと、
検出した前記膜間差圧値に基づいて前記ろ過工程から前記逆洗工程へと移行させるステップと
をさらに有する請求項1に記載の水処理方法。
【請求項3】
前記一次側の溶解性有機物濃度と前記二次側の溶解性有機物濃度との差を膜の目詰まり状態を表す指標として検出するステップと、
検出した前記指標に基づいて前記ろ過工程から前記逆洗工程へと移行させるステップと
をさらに有する請求項1に記載の水処理方法。
【請求項4】
超音波センサによる膜性状の測定結果から前記分離膜の目詰まり状態指標を算出するステップと、
算出した前記目詰まり状態指標に基づいて前記ろ過工程から前記逆洗工程へと移行させるステップと
をさらに有する請求項1に記載の水処理方法。
【請求項5】
検知部による膜性状の検知結果から前記分離膜の目詰まり状態指標を算出するステップと、
算出した前記目詰まり状態指標に基づいて前記ろ過工程から前記逆洗工程へと移行させるステップと
をさらに有する請求項1に記載の水処理方法。
【請求項6】
前記ろ過工程においては、前記一次側に微生物群が存在し、前記二次側に処理水が存在し、
前記逆洗工程においては、前記一次側に微生物群が存在し、前記二次側にオゾン含有水が存在する
請求項1から5のいずれか1項に記載の水処理方法。
【請求項7】
分離膜を用いて被処理水をろ過するろ過処理と、前記分離膜を洗浄する逆洗処理と、を含むサイクルを繰り返す水処理装置において、
前記逆洗処理に用いるオゾンを前記分離膜へ注入するオゾン注入部と、
前記オゾン注入部による前記分離膜への前記オゾンの注入量を制御する制御部とを備え、
前記制御部は、繰り返した前記サイクルのうち、先のサイクルを第1サイクル、前記第1サイクルに続いて実施される後のサイクルを第2サイクルとしたとき、前記第2サイクルの際の前記オゾンの注入量を前記第2サイクルの際のろ過工程実施時間で除した値、前記第1サイクルの際の前記オゾンの注入量を前記第1サイクルの際のろ過工程実施時間で除した値より少なくなる条件が成立するように、前記第2サイクルにおける前記オゾンの注入量および前記ろ過工程実施時間を制御し、
前記分離膜は疎水性であり、
前記被処理水は、前記分離膜との親和性が高い汚濁物質を含み、
前記逆洗処理により前記分離膜の親水化を促す
水処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膜を用いた水処理技術に関し、特に、疎水性膜の改質を行う洗浄処理を含む水処理方法および水処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
上水処理、下水処理等の水処理において、被処理水に含まれる汚濁物質を被処理水中から分離し、清澄な処理水として得る固液分離技術が広く行われている。
【0003】
例えば、この固液分離技術としては、凝集剤を被処理水に添加し、被処理水中に含まれる汚濁物質を凝集させ、重力沈降にて分離する凝集沈殿技術、あるいは凝集物を含んだ被処理水にマイクロバブルを注入し、マイクロバブルに凝集物を吸着させ、浮上させて分離を行う加圧浮上技術などがある。
【0004】
しかしながら、これらの技術は、被処理水や凝集物の性状、水温、水流などの影響を強く受け、処理が不安定であるとともに、広大な沈殿槽や浮上分離槽が必要になるなどの課題があった。
【0005】
これに対し、近年、これらの代替技術として、分離膜による膜ろ過技術が盛んに導入されている。この膜ろ過技術は、表面に無数の微細な孔を有した「膜」により、被処理水のろ過を行い、固液分離を行うものである。この膜は、セラミックなどの無機材からなる「無機膜」と、高分子有機ポリマーからなる「有機膜」とに大別される。
【0006】
膜ろ過技術は、膜の孔径以上の大きさのものであれば、被処理水中の汚濁物質を確実に分離除去でき、非常に清澄な処理水を、安定して得ることができる。しかしながら、ろ過に伴って、膜面には汚濁物質が蓄積するため、孔を閉塞させ、ろ過が困難な状態に陥るという問題があった。特に、疎水性有機膜は、被処理水中に含まれる疎水性汚濁物質との親和性が高く、閉塞しやすく、長時間の安定したろ過が困難であった。
【0007】
このようにして、膜が閉塞した場合には、酸化剤などの薬品を用いた洗浄を行い、膜のろ過能力を回復させる必要がある。例えば、このような膜の洗浄剤として、オゾンを用いた従来方法がある(例えば、特許文献1参照)。
【0008】
この特許文献1は、水処理装置に搭載した膜モジュールにオゾン水を供給して、膜に付着した汚濁物質を除去し、膜を洗浄する技術に関するものである。さらに、この特許文献1は、被処理水ろ過時の膜間差圧を測定し、この測定値に基づいてオゾン供給量を変動させるものである。
【0009】
この一方で、疎水性有機膜のオゾンを用いた親水化による従来方法もある(例えば、特許文献2参照)。この特許文献2に係る発明は、オゾン水に疎水性有機膜を浸漬するなどして、オゾンと膜とを接触させ、親水化を行うものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2003−300071号公報
【特許文献2】特許第3242983号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、従来技術には、以下のような課題がある。
例えば、特許文献1に係る技術は、原水中の有機物など、疎水性汚濁物質負荷が極端に上昇した場合には、急激な閉塞が生じる。このため、オゾン洗浄の都度、オゾン濃度を調整したところで、頻繁に洗浄しなければならないことに代わりはなく、やはり、長期間の安定したろ過が困難であった。
【0012】
一方、特許文献2に係る技術は、膜を親水化して、疎水性汚濁物質の付着を抑制することが可能である。しかしながら、この特許文献2に係る方法は、100時間もの長時間にわたり、10mg/Lのオゾンを含む水を膜に接触させることで、ようやく十分な親水化の効果が得られる。
【0013】
また、この特許文献2に係る方法は、少ないオゾン接触時間で親水化を完了させようとした場合には、高濃度のアルカリ性溶媒にて前処理を行う必要がある。従って、実際の水処理装置に膜モジュールを搭載して実施しようとした場合には、別途アルカリ供給設備が必要になるほか、大量のアルカリ廃液が発生する課題があった。
【0014】
本発明は、前記のような課題を解決するためになされたものであり、疎水性有機膜を用いた水処理技術において、特別な前処理、また設備を用いることなく、従来技術と比較して極めて短時間のオゾン接触時間で疎水性膜の改質を行い、長期間安定したろ過が可能な水処理方法および水処理装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明に係る水処理方法は、分離膜の一次側から二次側へ向けて被処理水をろ過するろ過工程と、分離膜を二次側から一次側へ向けて洗浄する逆洗工程とを含むサイクルを繰り返す水処理方法において、逆洗工程に用いるオゾンを分離膜へ注入するステップと、繰り返したサイクルのうち、先のサイクルを第1サイクル、第1サイクルに続いて実施される後のサイクルを第2サイクルとしたとき、第2サイクルの際に注入するオゾンの注入量を第2サイクルの際のろ過工程実施時間で除した値、第1サイクルの際に注入したオゾンの注入量を第1サイクルの際のろ過工程実施時間で除した値より少なくなる条件が成立するように、第2サイクルにおけるオゾンの注入量およびろ過工程実施時間を制御するステップとを有し、分離膜は疎水性であり、処理水は、分離膜との親和性が高い汚濁物質を含み、逆洗工程により分離膜の親水化を促すものである。
【0016】
また、本発明に係る水処理装置は、分離膜を用いて被処理水をろ過するろ過処理と、分離膜を洗浄する逆洗処理と、を含むサイクルを繰り返す水処理装置において、逆洗処理に用いるオゾンを分離膜へ注入するオゾン注入部と、オゾン注入部による分離膜へのオゾンの注入量を制御する制御部とを備え、制御部は、繰り返したサイクルのうち、先のサイクルを第1サイクル、第1サイクルに続いて実施される後のサイクルを第2サイクルとしたとき、第2サイクルの際のオゾンの注入量を第2サイクルの際のろ過工程実施時間で除した値が、第1サイクルの際のオゾンの注入量を第1サイクルの際のろ過工程実施時間で除した値より少なくなる条件が成立するように、第2サイクルにおけるオゾンの注入量およびろ過工程実施時間を制御し、分離膜は疎水性であり、処理水は、分離膜との親和性が高い汚濁物質を含み、逆洗工程により分離膜の親水化を促すものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、疎水性有機膜を用いて被処理水をろ過する「ろ過工程」と、ろ過工程を中断し、疎水性有機膜へのオゾン含有流体の注入を行う「オゾン注入工程」とからなるサイクルを繰り返し実施するとともに、サイクルごとに、オゾン注入工程におけるオゾン注入量をろ過工程実施時間で除して得られる「オゾン注入量指数」を算出し、次サイクルにおけるオゾン注入量指数を、現在のサイクルで算出されたオゾン注入量指数に対して同等もしくは小さくするようにして、水処理を実施する構成を備えている。この結果、疎水性有機膜を用いた水処理技術において、特別な前処理、また設備を用いることなく、従来技術と比較して極めて短時間のオゾン接触時間で疎水性膜の改質を行い、長期間安定したろ過が可能な水処理方法および水処理装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の実施の形態1に係る水処理装置を、浸漬型膜分離活性汚泥法において適用する場合の水処理システム全体の構成を示した図である。
図2】本発明の実施の形態1におけるオゾン溶解手法の一例を示した説明図である。
図3】本発明の実施の形態1における図2とは異なるオゾン溶解手法の一例を示した説明図である。
図4】本発明の実施の形態1に係る水処理方法において、ろ過工程およびオゾン注入工程を繰り返し実行する一連処理を示したフローチャートである。
図5】本発明の実施の形態2に係る水処理装置を、浸漬型膜分離活性汚泥法において適用する場合の水処理システム全体の構成を示した図である。
図6】本発明の実施の形態2に係る水処理装置を、浸漬型膜分離活性汚泥法において適用する場合の、図5とは異なる水処理システム全体の構成を示した図である。
図7】本発明の実施の形態2における生物処理槽4の溶解性有機物濃度Aと処理水槽8の溶解性有機物濃度Bの差分A−Bと、膜間差圧の上昇速度との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の水処理方法および水処理装置の好適な実施の形態につき図面を用いて説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態1、2の記載内容に限定されるものではない。例えば、以下では、浸漬型膜分離活性汚泥法に本発明を適用した例を挙げるが、これに限らず、本発明は、膜モジュールを槽外に設置した槽外型膜分離活性汚泥法にも適用可能である。
【0020】
さらには、対象を廃水処理に限る必要はなく、上水処理や用水処理など、疎水性有機膜を分離膜として用いて被処理水中の汚濁物質を分離する場合には、本発明の効果を得ることができる。
【0021】
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1に係る水処理装置を、浸漬型膜分離活性汚泥法において適用する場合の水処理システム全体の構成を示した図である。図1中の水処理装置は、被処理水を生物処理槽4に導入するための被処理水導入配管1と、生物処理槽4内へ送風を行うための空気導入配管2とを備えている。空気導入配管2は、散気装置3と接続されている。
【0022】
生物処理槽4には、活性汚泥26が貯留され、また、分離膜5が活性汚泥26に浸漬されるように設置されている。分離膜5は、透過水移送配管6が接続されている。さらに、透過水移送配管6上には、バルブ20と膜ろ過ポンプ7が設置されている。
【0023】
また、処理水槽8には、ポンプ9を介して処理水移送配管15が接続されている。そして、処理水移送配管15上には、処理水送水ポンプ9、バルブ22が設置されている。さらに、処理水移送配管15には、処理水排出配管16と逆洗配管10が接続されている。そして、処理水排出配管16には、バルブ21が配置され、逆洗配管10には、バルブ23が設置されている。
【0024】
また、図1の水処理装置は、オゾン注入装置11を備えている。そして、このオゾン注入装置11は、オゾン発生装置12、オゾン濃縮装置13、オゾン溶解装置14を含んで構成されている。
【0025】
オゾン注入装置11には、オゾン注入配管27が接続されている。そして、オゾン注入配管27は、逆洗配管10に接続されている。さらに、オゾン注入配管27上には、オゾン注入量計測器17およびバルブ19が設置されている。さらに、オゾン注入装置11およびオゾン注入量計測器17は、オゾン注入量指数算出器18と接続されている。
【0026】
また、オゾン注入量計測器17は、少なくとも、オゾン注入配管27を流れるオゾン含有流体のオゾン濃度、流量、オゾン注入時間の計測を可能とする計測器35と、計測結果からオゾン注入量を算出する演算器36とを含んで構成されている。
【0027】
次に、本実施の形態1における水処理装置の動作について説明する。
本実施の形態1における水処理装置は、分離膜を用いて被処理水をろ過する「ろ過工程」と、ろ過工程を中断し、疎水性有機膜へのオゾン含有流体の注入を行う「オゾン注入工程」(本発明に係る「逆洗工程」の一例)とを行う1サイクルを、繰り返す水処理方法である。
【0028】
そして、本実施の形態1における水処理方法は、1サイクルごとに、オゾン注入工程におけるオゾン注入量をろ過工程実施時間で除して得られる「オゾン注入量指数」を算出し、次サイクルにおけるオゾン注入量指数を、算出結果である直前の工程の「オゾン注入量指数」と同等、もしくはそれよりも小さくすることを特徴とするものである。そこで、以下では、「ろ過工程」、「オゾン注入工程」のそれぞれについて、詳細に説明する。
【0029】
<ろ過工程>
ろ過工程は、主に被処理水の分離膜5によるろ過操作と、処理水槽8に貯留された透過水28を用いた分離膜5の逆圧洗浄(以下、逆洗と称す)操作とを繰り返し実施する工程である。そこで、以下では、ろ過操作と逆洗操作に分けて説明するとともに、ろ過工程からオゾン注入工程への切り換え条件判断処理についても説明する。
【0030】
(1)ろ過操作
被処理水は、被処理水導入配管1を介して、生物処理槽4に導入される。被処理水に含まれる有機物等の汚濁物質は、生物処理槽4に貯留された活性汚泥26により吸着、または分解され、被処理水中から除去され、この結果、被処理水は、浄化される。
【0031】
浄化された被処理水は、膜ろ過ポンプ7により吸引されると同時に、分離膜5によってろ過され、透過水28となり、透過水移送配管6、膜ろ過ポンプ7を介して、処理水槽8へと移送される。このとき、バルブ20は、開いた状態にある。さらに、バルブ19、バルブ21は、閉じた状態にある。
【0032】
本発明は、疎水性有機膜をオゾンにより改質するものである。このため、分離膜5は、疎水性有機膜である。なお、分離膜5の材質は、疎水性であり、有機物からなる膜であれば限定されない。具体的には、例えば、ポリビニルフルオライド(PVF)、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)、テトラフルオロエチレンーエチレン共重合体(ETFE)などが挙げられる。機械的強度などの観点から、特にPVDFが分離膜5として好適である。
【0033】
また、分離膜5の形状は、中空糸膜、チューブラー膜など、逆洗に好適な形状であることが望ましい。ただし、物理的強度の課題が解決されれば、平膜であってもよい。
【0034】
また、被処理水は、例えば、都市下水でもよいし、産業排水であれば、食品加工廃水や半導体製造過程から排出される廃水など、疎水性有機膜との親和性の高い汚濁物質を含むものであれば、いかなるものであっても、本発明の効果を得ることができる。
【0035】
また、図1においては、散気装置3による生物処理槽4内への散気を行っている。しかしながら、散気を行わない、いわゆる「嫌気膜分離活性汚泥法」を採用しても、本発明の適用は、可能である。もしくは、図示していないが、微生物供給用として、散気装置3で発生させる気泡径よりも小さい気泡径の散気装置を設置してもよい。
【0036】
(2)逆洗操作
所定時間経過した後、膜ろ過ポンプ7による吸引を停止し、バルブ20を閉じる。続いて、処理水送水ポンプ9を起動させると同時にバルブ21を開くことで、処理水槽8に貯留された透過水28が、逆洗配管10を介して分離膜5へと注入される。
【0037】
このような逆洗操作により、物理的に除去可能な分離膜5内の汚濁物質や分離膜5の表面に付着した汚濁物質を水圧によって剥離させるなどして、分離膜5の物理洗浄を行う。
【0038】
なお、本実施の形態1では、ろ過工程に逆洗操作を含む場合を説明したが、逆洗操作は、必ずしも必要ではなく、省略してもよい。すなわち、単にろ過をせずに、分離膜5を静置させておくだけでもよい。
【0039】
また、ろ過操作と逆洗操作の実施は、運転管理者により、都度、装置の操作を行うことで、手動により繰り返し実施してもよい。また、例えば、タイマーを備えるなどして、それぞれの操作が自動で繰り返し実施可能なようにすることも可能であり、この場合には、省力化が可能である。手動、自動、いずれの方法であっても、本発明の効果は、変わりなく得ることが可能である。
【0040】
また、ろ過工程の実施時間は、同様に、運転管理者により、都度、装置の操作を行うことで、手動により調整してもよい。また、例えば、タイマーを設けて、あらかじめ設定した時間のみ行われるようにしてもよいし、カウンターなどを設けて、ろ過操作、逆洗操作の実施回数があらかじめ設定した回数に到達したところで終了させるなどしてもよい。
【0041】
いずれの方法であっても、ろ過工程1回あたりの実施時間が管理できればよい。さらに、後述のオゾン注入量計測器17によって算出されたオゾン注入量と、ろ過工程実施時間とからオゾン注入量指数Rを算出し、その結果を、次サイクルに反映するようにすれば、本発明の効果を得ることができる。
【0042】
また、ろ過操作、逆洗操作が行われている一方で、処理水槽8内の透過水28は、処理水送水ポンプ9によってオゾン溶解装置14へと移送される。また、処理水槽8の水位が所定の水位を上回った場合には、透過水28は、オゾン溶解装置14へと移送されるばかりでなく、処理水排出配管16を介して、系外へと排出される。透過水28のオゾン溶解装置14への移送時には、バルブ22は開いた状態であり、透過水28の系外への排出時には、バルブ23は開いた状態である。また、処理水移送配管15と処理水排出配管16の交点に、三方弁を設置して開閉動作を実施してもよい。
【0043】
(3)ろ過工程からオゾン注入工程への切り換え条件判断処理
膜間差圧を検知可能な手段として、例えば、圧力計を備えておき、この圧力計の値があらかじめ設定した値に到達したところで、ろ過工程を終え、オゾン注入工程に移行することができる。圧力計により検知された膜間差圧の値は、常時監視され、オゾン注入量指数算出器18へ転送される。
【0044】
<オゾン注入工程>
圧力計で検出された膜間差圧があらかじめ設定された許容値、例えば、5〜100KPaの間で設定された許容値に達した場合、もしくは超えた場合に、ろ過工程は、終了する。そして、ろ過工程終了後、オゾン注入工程が開始される。
【0045】
そこで、以下では、オゾン注入工程を、オゾン水生成、分離膜へのオゾン水注入、オゾン注入量計測、オゾン注入量指数演算に分けて説明する。
【0046】
(1)オゾン水生成
オゾン注入工程においては、まず、オゾン発生装置12により発生したオゾンガスが、オゾン濃縮装置13へと移送され、オゾン濃縮装置13において濃縮される。その後、濃縮されたオゾンは、ガスとしてオゾン濃縮装置13から排出され、オゾン溶解装置14に注入される。オゾン溶解装置14には、前述の通り、透過水28が貯留されており、透過水28とオゾンガスとが接触することで、オゾン含有水が作製される。
【0047】
オゾン溶解装置14におけるオゾン溶解の方法としては、例えば、図2または図3に示す手法を採用することができる。図2は、本発明の実施の形態1におけるオゾン溶解手法の一例を示した説明図である。また、図3は、本発明の実施の形態1における図2とは異なるオゾン溶解手法の一例を示した説明図である。
【0048】
図2に示すように、オゾン溶解槽29の下部には、オゾン導入配管31と接続されたオゾン散気装置30が設けられている。そして、オゾン散気装置30から、貯留された透過水28にオゾンガスを吹き込むことで、オゾンを溶解させる。
【0049】
また、図3に示すように、オゾン導入配管31と接続されたエジェクタ32、および循環ポンプ33を設けて、透過水28を循環配管34を介して、循環ポンプ33にて循環させながら、エジェクタ32によりオゾンガスを吸引させることで、オゾンを溶解させてもよい。なお、図2および図3におけるオゾン導入配管31は、オゾン濃縮装置13と接続されている。
【0050】
オゾン濃縮装置13を設けることで、1000mg/NL程度の極めて高濃度のオゾンガスを得ることができる。この結果、高い濃度のオゾン含有水を得ることができ、これにより、高い膜洗浄効果を得ることができる。ただし、本発明は、必ずしもオゾン濃縮装置が必要ではなく、必要に応じて省略してもよい。
【0051】
オゾン濃縮装置13を省略した場合には、オゾン導入配管31は、オゾン発生装置12と接続され、オゾン溶解装置14には、オゾン発生装置12から直接、オゾンガスが供給される。
【0052】
(2)分離膜へのオゾン水注入
オゾン溶解装置14で作製されたオゾン含有水は、オゾン注入配管27を介して、分離膜5へ注入される。注入の方法は、例えば、オゾン注入配管27上にポンプを設けるなどして、圧送してもよいし、オゾン溶解装置14を生物処理槽4の水面よりも高い位置に設置して、重力による注入を行ってもよい。
【0053】
(3)オゾン注入量計測
オゾン注入工程におけるオゾン注入量は、オゾン注入量計測器17によって計測される。オゾン注入量計測器17は、上述したように、少なくとも、オゾン注入配管27を流れるオゾン含有流体のオゾン濃度、流量、オゾン注入時間の各パラメータの計測を可能とする計測器35と、計測結果からオゾン注入量を算出する演算器36を備えている。
【0054】
また、オゾン注入量計測器17は、計測器35と演算器36とを一体型とした装置としてもよいし、計測器35のみをオゾン注入配管27上に設置し、演算器36を独立して設置し、この間を信号線で接続して信号を授受する形態としてもよい。
【0055】
さらに、計測器35は、上述した各パラメータを一括して測定可能な装置としてもよいし、オゾン濃度計、流量計、タイマーなどを個別に設置した構成としてもよい。いずれにせよ、計測器35における各パラメータの測定結果は、演算器36へと伝達される。そして、演算器36は、下式(1)により、オゾン濃度と流量とオゾン注入時間の積を求めることによって、オゾン注入量を算出する。
Q=C×F×Ti (1)
【0056】
上式(1)における各パラメータは、以下のものである。
Q:オゾン注入量(mgO
C:オゾン濃度(mgO/L)
F:オゾン含有流体流量(L/min)
Ti:オゾン注入時間(min)
【0057】
これらのパラメータに、特に限定はない。ただし、オゾン濃度Cは、低すぎれば分離膜5の洗浄効果や、改質の効果が十分に得られなくなる。このため、オゾン濃度Cは、5〜1000mg/Lとするのがよい。
【0058】
また、オゾン注入時間Tiについても、短すぎれば、やはり分離膜5の洗浄効果や、改質の効果が十分に得られなくなり、その一方で、長すぎれば、水処理装置として処理効率が低下してしまう。このため、オゾン注入時間Tiは、5〜180分、好ましくは5〜120分とするのがよい。
【0059】
また、オゾン含有流体流量Fは、1回のオゾン注入工程の実施で、単位膜面積あたり0.2〜20L程度のオゾン含有流体が注入されるような値とするのがよい。
【0060】
(4)オゾン注入量指数演算
本発明では、各サイクルのオゾン注入量Qとろ過工程実施時間Tsから得られる下式(2)のオゾン注入量指数Rが、下式(3)を満たすようにして、各サイクルのオゾン注入工程におけるオゾン注入条件が決定される。
R=Q/Ts (2)
Q1/Ts1≧Q2/Ts2 (3)
【0061】
上式(2)、(3)における各パラメータは、以下のものである。
R:オゾン注入量指数(mgO/min)
Q:オゾン注入量(mgO
Ts:ろ過工程実施時間(min)
Q1:前サイクルのオゾン注入量(mgO
Q2:当サイクルのオゾン注入量(mgO
Ts1:前サイクルのろ過工程実施時間(min)
Ts2:当サイクルのろ過工程実施時間(min)
【0062】
発明者らが鋭意検討した結果、疎水性有機膜とオゾンとの接触は、連続して行うよりも、オゾンを含んでいない液と交互に接触させ、かつ、オゾン注入量とオゾンを含んでいない液の通液時間との比を徐々に低くすることで、累計のオゾン接触時間を短くしながら疎水性膜の改質が可能であることを見出した。
【0063】
例えば、各サイクルにおけるろ過工程実施時間を一定として運用した場合には、Qの値がサイクル毎に減少するよう運転すればよい。また、各サイクルにおけるろ過工程実施時間をサイクル毎に増大させながら運転を行ってもよい。
【0064】
なお、オゾン注入量指数Rの算出、および次サイクルのオゾン注入条件の決定は、オゾン注入量指数算出器18によって行われる。このオゾン注入量指数算出器18は、上式(3)の計算が可能であり、また決定されたオゾン注入条件を、オゾン注入装置11およびオゾン注入量計測器17に伝達することのできる演算装置である。
【0065】
具体的には、オゾン注入量指数算出器18は、例えば、PLCやC言語コントローラなどでよい。また、他のポンプ、バルブ等の機器の制御を行うために演算装置を設ける場合には、オゾン注入量指数算出器18にて、統括制御を行う制御器としての役割を同時に負わせることも可能である。
【0066】
さらに、演算器36をオゾン注入配管27から独立して設置し、演算器36と計測器35との接続を信号線で接続するような構成とする場合には、オゾン注入量指数算出器18にて、演算器36としての役割を同時に負わせることも可能である。オゾン注入工程が終了すると、ろ過工程が再開される。
【0067】
上述したろ過工程およびオゾン注入工程のサイクルの繰返し動作について、フローチャートを用いて、整理して説明する。図4は、本発明の実施の形態1に係る水処理方法において、ろ過工程およびオゾン注入工程を繰り返し実行する一連処理を示したフローチャートである。なお、図4のフローチャートの説明に当たっては、オゾン注入量指数算出器18が、統括制御を行う制御器の役割を果たすとして説明する。
【0068】
図4のフローチャートは、ろ過工程であるステップS100と、オゾン注入工程であるステップS200が、繰り返し行われる一連処理を示している。
【0069】
まず始めに、ろ過工程内のステップS101において、制御器は、上述したろ過操作を実行する。そして、ステップS102において、制御器は、ろ過工程からオゾン注入工程への切り換え条件が成立したか否かを判断する。この判断処理に当たって、制御器は、上述したように、圧力計を用いて膜圧差圧を検出し、許容値との比較を行うこととなる。
【0070】
また、この判断処理に当たって、制御器は、圧力計の代わりに、膜性状検知器24あるいは膜間差圧検知器25を用いることもでき、詳細は、実施の形態2において説明する。
【0071】
そして、制御器は、ステップS102において、ろ過工程からオゾン注入工程への切り換え条件が成立したと判断した場合には、ステップS200のオゾン注入工程の処理に進む。一方、制御器は、ステップS102において、ろ過工程からオゾン注入工程への切り換え条件が成立していないと判断した場合には、ステップS103に進み、逆洗操作を実行後、ステップS101に戻り、ろ過操作以降を繰り返し実行することとなる。
【0072】
ステップS200のオゾン注入工程に進んだ場合には、ステップS201において、制御器は、オゾン水を生成する。次に、ステップS202において、制御器は、分離膜5へのオゾン水注入を実行する。次に、ステップS203において、制御器は、オゾン注入量計測器17により計測されたオゾン注入量を取得する。
【0073】
そして、ステップS204において、制御器は、上式(2)に基づいてオゾン注入量指数を算出する。さらに、制御器は、上式(3)に示したように、次回のサイクルにおけるオゾン注入量指数が、今回のサイクルにおけるオゾン注入量指数以下となるように、次回のサイクルにおけるオゾン注入量Qとろ過工程実施時間Tsを設定し、ステップS100のろ過工程に戻る。
【0074】
従って、上式(3)を満たすための注入条件としては、例えば、次のような設定が考えられる。
[条件1]ろ過工程実施時間Tsに関しては、各サイクルで一定とし、オゾン注入量Qをサイクルが進むごとに、前回サイクル以下の値となるようにする。
[条件2]オゾン注入量Qに関しては、各サイクルで一定とし、ろ過工程実施時間Tsをサイクルが進むごとに、前回サイクル以上の値となるようにする。
[条件3]ろ過工程実施時間Tsおよびオゾン注入量Qともに、各サイクルで一定とする。
【0075】
しかしながら、この図4に示したような自動運転を行わなければ、必ずしも本発明の効果が得られないわけではない。例えば、運転管理員によって、サイクルの度にオゾン注入量指数Rを算出し、上式(3)を満たすようにオゾン注入条件を調整してもよい。
【0076】
また、本水処理装置の運転を開始させた直後であり、オゾン注入工程がこれまでに一度も行われていない状態、またはメンテナンスなどのために運転を中断し再開させた状態において、初回のオゾン注入工程におけるオゾン注入量Qは、単位膜面積あたり、すなわち、1mあたり300mgO〜3000mgOとなるように注入すればよい。
【0077】
また、本実施の形態1では、オゾン溶解装置14を設けて、オゾン含有水を作製し、これをオゾン含有流体として分離膜5に注入する場合について説明した。しかしながら、オゾンガスを直接、分離膜5に注入するように操作を行っても、発明の効果は得られる。この場合には、オゾン溶解装置14は、省略可能であり、オゾン発生装置12、オゾン濃縮装置13のいずれかから直接、オゾン注入配管27を介して、分離膜5にオゾンが注入されることとなる。さらに、オゾン含有水を作製しながら、オゾン含有水でろ過膜を洗浄することも可能である。
【0078】
以上のように、実施の形態1によれば、疎水性有機膜とオゾンとの接触を連続して行うのではなく、オゾンを含んでいない液と交互に接触させ、かつ、オゾン注入量とオゾンを含んでいない液の通液時間との比を同等もしくは、徐々に低くして、水処理を行う構成を備えている。
【0079】
換言すると、本実施の形態1に係る水処理装置は、疎水性有機膜を用いて被処理水をろ過する「ろ過工程」と、ろ過工程を中断し、疎水性有機膜へのオゾン含有流体の注入を行う「オゾン注入工程」とからなるサイクルを繰り返し実施するとともに、サイクルごとに、オゾン注入工程におけるオゾン注入量をろ過工程実施時間で除して得られる「オゾン注入量指数」を算出し、次サイクルにおけるオゾン注入量指数を、現在のサイクルで算出されたオゾン注入量指数に対して同等もしくは小さくするようにして、水処理を実施することを技術的特徴としている。
【0080】
この結果、疎水性有機膜を用いた水処理技術において、特別な前処理、また設備を用いることなく、従来技術と比較して極めて短時間のオゾン接触時間で疎水性膜の改質を行い、長期間安定したろ過が可能な水処理方法および水処理装置を実現できる。
【0081】
実施の形態2.
本実施の形態2では、オゾンによる不必要な洗浄をなくし、オゾン使用量の抑制を図ることのできる水処理装置について説明する。
【0082】
図5は、本発明の実施の形態2に係る水処理装置を、浸漬型膜分離活性汚泥法において適用する場合の水処理システム全体の構成を示した図である。本実施の形態2における図5の構成は、先の実施の形態1における図1の構成と比較すると、透過水移送配管6上に、膜性状検知器24と膜間差圧検知器25がさらに設けられている点が異なっている。そこで、これらの相違点を中心に、以下に説明する。
【0083】
本発明は、先の実施の形態1で詳述したように、分離膜5にオゾンを接触させ、疎水性膜の改質を行い、長期間の安定したろ過を可能にするものである。ここで、疎水性膜の改質が完了した場合には、極めて長時間の安定したろ過が可能になる。よって、改質が完了した場合には、オゾンによる膜洗浄の頻度を大幅に減らしてよいこととなる。むしろ、不必要な洗浄は、いたずらにオゾン使用量を増やすことになり、不経済である。
【0084】
よって、膜性状検知器24は、膜の状態、すなわち、膜の改質の具合を定量的に適宜確認する。そして、膜性状検知器24によって、改質が十分になされたと判断された後には膜が閉塞した場合のみ、すなわち、膜間差圧検知器25で検出された膜間差圧が上昇した場合のみ、オゾン注入工程が開始されるようにして、水処理を実行するのがよい。
【0085】
なお、膜間差圧検知器25で検出される圧力のオゾン注入工程へ切り替わる閾値は、2〜100kPa、好ましくは3〜30kPa、さらに好ましくは5〜20kPaの間で設定するのがよい。言い換えれば、親水化処理されたろ過膜やあらかじめ改質されたろ過膜を使用すれば、オゾン注入量指数Rを必ずしも小さくする必要がなく、オゾン注入量指数Rを各サイクルで一定に保ちながら、ろ過を継続することも可能である。
【0086】
もちろん、オゾン注入量指数Rを各サイクルで一定、もしくは小さくすることを、ランダムに組み変えてろ過を継続させることも可能である。なお、親水化の方法は、オゾンに限らず、過酸化水素等の他の酸化剤を使用した場合も同様である。
【0087】
次亜塩素酸ナトリウム水溶液等の薬品を用いた従来のろ過膜の洗浄工程は、次亜塩素酸ナトリウムの酸化力が弱い。このため、ろ過膜の目詰まり物質が完全には除去されず、蓄積されていく。従って、膜ろ過工程と膜の薬品洗浄工程のサイクルを繰り返すほど、その洗浄時間や薬品の濃度を高くする必要があった。
【0088】
これに対して、我々は、以下のことを発見した。
・ろ過膜をオゾン含有水で洗浄することによって、未ろ過の状態にまで復元できる。
・膜ろ過工程と膜のオゾン含有水洗浄工程のサイクルを繰り返すほど、その洗浄時間やオゾン含有水濃度を前のサイクルと同等以下にできる。
・この結果、洗浄時間短縮によるろ過水取得量の増大を実現することができさらに、膜の目詰まりによる寿命を延長できる。
【0089】
なお、オゾンと鉄やマンガンが反応すると沈殿物が生じるため、あらかじめフィルタ等でこれらの物質を除去しておくのがよい。
【0090】
特に、膜ろ過の一次側に活性汚泥が存在する場合、すなわち、膜分離活性汚泥法の場合には、本サイクルを繰り返すことで、ろ過膜の透水性が増加し、安定してろ過を継続できる効果が顕著になることが分かった。これは、ろ過膜を目詰まりさせた有機物とオゾンが反応し、低分子化・親水化した有機物の一部が、ろ過膜に付着した状態が維持されて、ろ過膜の透水性が増加したためである。
【0091】
すなわち、本発明のオゾン注入工程は、単にろ過膜の材料の親水性を高めるだけでなく、ろ過膜に付着した有機物を改質し、これを利用してろ過膜の透水性を高めているという画期的な洗浄工程である。これは、PVDF等のろ過膜の材質を親水化することに加えて、ろ過膜表面に薄皮を付けるように、親水性の高い有機物の層を設けることで実現している。
【0092】
さらに、本サイクルを繰り返すことにより、本有機物の層が付着するろ過膜内の領域が徐々に拡大し、ろ過膜の透水性が高まる。この結果、オゾン注入量指数Rを各サイクルで一定、もしくは前回のサイクルと同等以下の値で運転する、もしくはこれらの運転を順序ランダムに混在して使用することにより、目詰まりのしにくい運転が可能となる。
【0093】
これは、単に、オゾン含有水でろ過膜の洗浄を繰り返し実施していただけでは分からず、今回のような、ろ過膜の透水性に着目した評価を実施したことで、明確化された事象である。
【0094】
膜性状検知器24の具体例としては、例えば、圧力計が挙げられる。すなわち、オゾン注入工程開始直後における、圧力計が示す膜へのオゾン含有流体注入圧力が、あらかじめ設定した圧力閾値を下回った場合には、膜の改質が十分になされたものと判断できる。例えば、圧力閾値は、2〜100kPa、好ましくは3〜30kPa、さらに好ましくは5〜20kPaの間で設定するのがよい。
【0095】
膜性状検知器24を使用せず、膜ろ過時の膜間差圧検知器25のみを使用することも可能である。膜性状検知器24もしくは膜間差圧検知器25の具体例としては、超音波による膜性状の検出方法を採用することができる。この検出方法は、超音波を分離膜5に照射して、その反射波の強度から、もしくは反射波と照射波の強度との比から、膜付着物の有無を把握するものである。
【0096】
膜の目詰まり状態を表す指標として、膜ろ過前後、すなわち、一次側の未ろ過水の溶解性有機物濃度Aと、二次側のろ過水の溶解性有機物濃度Bの差分A−Bを使用することも可能である。これにより、間接的にろ過膜に蓄積された有機物量を把握することが可能である。A−Bの値は、膜の一次側に活性汚泥が存在するとき、膜の一次側に下水二次処理水や浄水原水、河川水、工業用水等が存在するときよりも高くなる傾向がある。
【0097】
A−Bの変動により、A−Bが大きくなると、ろ過膜により多くの有機物が付着していることが考えられる。A−Bの値を指標とし、この指標をある値以下に保つことによって、安定した膜ろ過運転が可能である。
【0098】
そこで、A−Bを目詰まりの指標として用いた場合の膜ろ過運転を実現するシステム構成について、図6を用いて説明する。図6は、本発明の実施の形態2に係る水処理装置を、浸漬型膜分離活性汚泥法において適用する場合の、図5とは異なる水処理システム全体の構成を示した図である。この図6に示した構成は、図5の構成を基に、一次側の未ろ過水の溶解性有機物濃度Aを測定するために生物反応槽4に設置された溶解性有機物濃度測定部42、および二次側のろ過水の溶解性有機物濃度Bを測定するために処理水槽8に設置された溶解性有機物濃度測定部41をさらに備えている。
【0099】
そして、溶解性有機物濃度測定部42は、信号線45を介して溶解性有機物濃度差試算部43に接続され、溶解性有機物濃度測定部41は、信号線44を介して溶解性有機物濃度差試算部43に接続されている。さらに、溶解性有機物濃度差試算部43は、信号線46を介して、オゾン注入量指数算出器18に接続されている。
【0100】
また、膜性状検知器24は、信号線48を介してオゾン注入量指数算出器18に接続され、膜間差圧検知器25は、信号線47を介してオゾン注入量指数算出器18に接続されている。
【0101】
次に、図6に示したシステムの動作について説明する。溶解性有機物濃度測定部42で測定された生物処理槽4の溶解性有機物濃度Aと、と溶解性有機物濃度測定部41で測定された処理水槽8の溶解性有機物濃度Bの値は、それぞれ信号線45、44を介して、溶解性有機物濃度差試算部43へ送られる。
【0102】
溶解性有機物濃度差試算部43は、生物処理槽4の溶解性有機物濃度Aと処理水槽8の溶解性有機物濃度Bとの差分、A−Bを算出し、算出結果を、信号線46を介してオゾン注入量指数算出器18に送信する。この結果、A−Bの値に従って、洗浄工程が開始される。
【0103】
図7は、本発明の実施の形態2における生物処理槽4の溶解性有機物濃度Aと処理水槽8の溶解性有機物濃度Bの差分A−Bと、膜間差圧の上昇速度との関係を示す図である。A−Bの値が小さいほど、膜間差圧の上昇速度が大きくなっている。
【0104】
nを今回のサイクル、n+1を時間のサイクルとすると、A−Bの値が、例えば、25mg/L以上であれば、膜へ付着する有機物量が多く、
Qn/Tsn=(Qn+1)/(Tsn+1)
として、オゾン洗浄工程を制御することが可能である。一方、A−Bの値が25mg/L未満であれば、
Qn/Tsn>(Qn+1)/(Tsn+1)
として、オゾン洗浄工程を制御することが可能である。
【0105】
A−Bの値は、5〜40mg/Lの範囲で設定することが好ましい。A−Bの値が5mg/Lより小さいと、分離膜の目詰まり量が小さすぎて、オゾン水洗浄工程に移行する回数が多くなり、経済的でない。一方、A−Bの値が40mg/Lより大きいと、分離膜の目詰まり量が大きくなりすぎて、洗浄の効果が得られにくくなり、ろ過できなくなる。
【0106】
ここで、オゾン注入量指数算出器18は、膜間差圧検知器25で検知された膜間差圧の値と、A−Bの値と、超音波の反射波の強度の全ての指標を使用して、オゾン注入工程への切り替えを判断することが可能である。具体的には、それぞれの指標について、オゾン注入工程に切り替わることを判断するための閾値があらかじめ設定されており、いずれかの指標が最初に閾値に達したときに、オゾン注入工程に切り替えられることができる。
【0107】
もしくは、膜間差圧検知器25で検知された値、A−Bの値、および超音波の反射波の強度のいずれか1つの指標を使用して、オゾン注入工程への切り替えを行ってもよい。特に、最も精度よく本発明による水処理制御を実行できる方法は、膜間差圧の値のみを使用する方法である。
【0108】
超音波の周波数として10〜2000MHz、強度として1〜1000Wを使用することが好ましい。さらに、反射波と照射波の強度との比、すなわち、照射波強度に対する反射波強度の比が0.1〜0.9の間となるように設定することが好ましい。
【0109】
本発明では、オゾン注入工程においてオゾンをろ過膜5に注入している。このため、ろ過膜5で消費されなかったオゾンが、ろ過膜5を介して生物処理槽4に導入される。生物処理槽4に導入されたオゾンは、生物処理槽4内の活性汚泥や溶解性有機物と反応し、これらの物質を酸化させる。
【0110】
このような反応によって、生物処理槽4内に蓄積された生物難分解性有機物、あるいはろ過膜に付着しやすいタンパク質、糖類等の高分子有機物が、オゾンによって低分子化される。この結果、活性汚泥の活性を向上させるとともに、これらの有機物を、ろ過膜5に付着しにくい物質に変換させる効果が得られる。
【0111】
先の実施の形態1では、図4のフローチャート中のステップS102における「工程切り換え条件成立」を判断するに当たって、圧力計を用いて膜間差圧を計測する場合を説明した。これに対して、本実施の形態2では、このステップS102の判定処理として、上述したように、膜性状検知器24、膜間差圧検知器25、あるいは超音波センサを、膜間差圧を検出するためのセンサとして代用することができる。
【0112】
膜の改質が十分になされたものとの判断が下された以降のサイクルについては、膜間差圧検知器25によって検知された膜間差圧の値に応じて、オゾン注入工程を開始させる。オゾン注入工程開始の目安としては、膜間差圧の値が10〜50kPa、好ましくは15〜50kPaに到達した場合とするのがよい。
【0113】
なお、本実施の形態2では、膜性状検知器24と膜間差圧検知器25とを別個に設置した場合について述べたが、膜性状検知器24を圧力計とする場合には、膜間差圧検知器25を省略し、膜性状検知器24にて膜間差圧を検知してもよい。
【0114】
以上のように、実施の形態2によれば、疎水性膜の改質状態を定量的にモニタし、改質が十分になされたと判断できる場合には、オゾンによる不必要な洗浄をなくすことのできる構成を備えている。この結果、先の実施の形態1の効果に加え、オゾン使用量の抑制を図ることができる。
【0115】
<具体的な実施例>
図2に記載の水処理装置に対して、具体的なデータによる実施例により、本発明の効果を検証した。ただし、膜性状検知手段24は使用せず、膜間差圧検知手段25として圧力計を使用した。使用した膜は、PVDF製の精密ろ過膜を使用した中糸空膜モジュールであり、各条件で、ろ過工程実施時間の累計は、1800分に統一した。
【0116】
被処理水として都市下水を使用し、活性汚泥を用いてこの都市下水を処理した。試験期間中に必要な水量は、一度にサンプリングして、別途用意した槽内で混合、均一化した。また、生物処理槽4に同時に4本の分離膜5を浸漬させて、以下に示す実施例1、実施例2、実施例3、比較例1のそれぞれの実験を行った。すなわち、被処理水の水質変動や活性汚泥の性状は、各分離膜で同じ条件となる。
【0117】
膜のろ過面積は、0.1mである。また、オゾン含有水注入により水位が上昇した場合には、必要に応じて曝気槽から汚泥を抜き出し、または、別途濃縮しておいた汚泥を添加して、水位および汚泥濃度を一定に保った。
<実施例1>
1回目の単位膜面積あたりのQが、1600mgO/mとなるように、オゾン水濃度C、オゾン水流量F、オゾン注入時間Tiを設定して、分離膜5を洗浄した。その後、オゾン水濃度C、流量Fを一定として、オゾン注入時間Tiのみを変えて、ろ過と洗浄のサイクルを繰り返した。
【0118】
本サイクルを5回繰り返した後、槽から膜を取り出し、水道水で分離膜5の表面を洗浄した。続いて、超純水を満たした水槽内に分離膜5を移し、水温25℃での清水ろ過差圧を測定した。この実施例1による検証を行うことで、以下の表1の結果が得られた。
【0119】
【表1】
【0120】
<実施例2>
1回目の単位膜面積あたりのQが、600mgO/mとなるように、オゾン水濃度C、オゾン水流量F、オゾン注入時間Tiを設定して、分離膜5を洗浄した。その後、オゾン注入量Qを一定として、オゾン注入時間Tiのみを変えてろ過と洗浄のサイクルを繰り返した。
【0121】
本サイクルを5回繰り返した後、槽から膜を取り出し、水道水で分離膜5の表面を洗浄した。続いて、超純水を満たした水槽内に分離膜5を移し、水温25℃での清水ろ過差圧を測定した。この実施例2による検証を行うことで、以下の表2の結果が得られた。
【0122】
【表2】
【0123】
<実施例3>
単位膜面積あたりのQが、600mgO/mとなるように、オゾン水濃度C、オゾン水流量F、オゾン注入時間Tiを設定して、分離膜5を洗浄した。オゾン注入量指数Rを一定として、洗浄のサイクルを繰り返した。
【0124】
本サイクルを5回繰り返した後、槽から膜を取り出し、水道水で分離膜5の表面を洗浄した。続いて、超純水を満たした水槽内に分離膜5を移し、水温25℃での清水ろ過差圧を測定した。この実施例3による検証を行うことで、以下の表3の結果が得られた。
【0125】
【表3】
【0126】
<比較例1>
単位膜面積あたりのQが36000mgO/mとなるように、オゾン水濃度C、オゾン水流量F、オゾン注入時間Tiを設定して、分離膜5を1回洗浄した。続いて、超純水を満たした水槽内に分離膜5を移し、水温25℃での清水ろ過差圧を測定した。この比較例1による検証を行うことで、以下の表4の結果が得られた。
【0127】
【表4】
【0128】
以上の実施例1〜3と比較例1の検証により、改質したろ過膜の清水ろ過差圧を測定した結果を、以下の表5にまとめる。
【0129】
【表5】
【0130】
なお、上表5には、オゾン水洗浄未実施の場合も、リファレンスとして追記した。表5に示す結果より、実施例1〜3の洗浄法により、短時間で十分なろ過膜の親水化効果を得ることができることがわかる。従って、既存の発明に対する本発明の優位性は、明らかである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7