(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ナノカーボンが、フラーレン及びカーボンナノチューブからなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1に記載の液状熱硬化性樹脂組成物。
【発明を実施するための形態】
【0009】
実施の形態1.
実施の形態1に係る液状熱硬化性樹脂組成物は、熱硬化性樹脂と、ナノカーボンと、熱硬化性樹脂及びナノカーボンと反応する官能基を分子末端に有する有機系添加剤と、重合性不飽和モノマーと、重合性不飽和モノマーの重合開始剤とを含有するものである。
【0010】
図1は、本発明の液状熱硬化性樹脂組成物の成分の状態を示す模式図である。熱硬化性樹脂1は、ナノカーボン2及び有機系添加剤5を介してネットワーク構造を形成している。有機系添加剤5は、ナノカーボンとの反応部位3及び熱硬化性樹脂1との反応部位4を有している。また、重合性不飽和モノマーは、ナノカーボンと反応するとともに自己重合により重合体6となり、ネットワーク構造を形成している。
【0011】
熱硬化性樹脂1は、ワニス含浸用又は注型用に使用される樹脂であれば特に限定されるものではなく、具体的には、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂及びこれらの混合物が挙げられる。これらの中でも、エポキシ樹脂を用いることが好ましい。エポキシ樹脂は、一分子当たり2個以上のエポキシ基を有するエポキシ化合物からなるものである。エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、臭素化ビスフェノールA型ポキシ樹脂、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビスフェノールAF型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、フルオレン型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、フェノール−ノボラック型エポキシ樹脂、オルソクレゾール−ノボラック型エポキシ樹脂、トリス(ヒドロキシフェニル)メタン型エポキシ樹脂、テトラフェニロールエタン型エポキシ樹脂などのグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、エピクロルヒドリンとカルボン酸との縮合によって得られるグリジジルエステル型エポキシ樹脂、トリグリシジルイソシアネートやエピクロルヒドリンとヒダントイン類との反応によって得られるヒダントイン型エポキシ樹脂のような複素環式エポキシ樹脂などが挙げられる。これらのエポキシ樹脂は、単独で用いてもよいし、又は2種以上を混合して用いてもよい。
【0012】
熱硬化性樹脂1は、全樹脂配合量100質量部に対して、30質量部以上80質量部以下含有されることが好ましい。熱硬化性樹脂1の含有量が上記範囲外であると、樹脂の強度が弱く、成形性に問題が生じることがある。
【0013】
熱硬化性樹脂1としてエポキシ樹脂を用いる場合、エポキシ樹脂の硬化剤及び硬化促進剤を必要に応じて併用してもよい。エポキシ樹脂の硬化剤は、エポキシ樹脂と化学反応してエポキシ樹脂を硬化させるものである。このような硬化剤としては、エポキシ樹脂を硬化させるものであれば適宜使用することができ、その種類は特に限定されるものではない。硬化剤としては、例えば、エチレンジアミン、ポリアミドアミンなどのアミン系硬化剤、無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、4−メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、4−メチルテトラヒドロ無水フタル酸、テトラブロモ無水フタル酸などの酸無水物系硬化剤などが挙げられる。また、エポキシ樹脂の硬化促進剤は、エポキシ樹脂の硬化速度を上げるものである。このような硬化促進剤は、エポキシ樹脂の硬化を促進させるものであれば適宜使用することができ、その種類は特に限定されるものではない。
【0014】
ナノカーボン2は、ナノサイズの炭素材料を示す。ナノサイズとは、1000nm以下のサイズのことであり、1nmより小さいサイズも含む。ナノカーボン2は、それ自体の寸法のうち、最も小さい寸法がナノサイズであればよい。例えば、ナノカーボン2がシート状である場合には、その厚みがナノサイズであればよい。ナノカーボン2が繊維状である場合には、その直径がナノサイズであればよい。ナノカーボン2が粒子状である場合には、粒子径がナノサイズであればよい。ナノカーボン2は、ナノサイズの炭素材料、すなわち炭素原子から構成される化合物であれば特に限定されるものではなく、具体的には、フラーレン、カーボンナノチューブ、カーボンブラック及びこれらの混合物が挙げられる。ナノカーボン2の寸法は、ナノカーボン2を溶解しない溶媒(水、アルコールなど)中に分散させた後、分散液を動的光散乱法で測定したり、分散液を基板上に滴下し、溶媒を揮発させた後、原子間力顕微鏡又は走査型電子顕微鏡で観察することで求めることができる。なお、これらのナノカーボンとしては、化学工業56巻、P50−62(2005)に記載されるものが挙げられる。これらのナノカーボンは、高いラジカル捕捉性を有しており、樹脂が高温下で分解開始する際に、分子結合が切れて生じるラジカルを捕捉する作用がある。このため、樹脂にナノカーボンを添加することで樹脂の耐熱性を向上させる効果を示すことが知られている。これらのナノカーボンの中でも、フラーレン及びカーボンナノチューブからなる群から選択される少なくとも1種を用いることが好ましく、フラーレンを用いることが更に好ましい。フラーレンは、有機溶剤に溶解可能であるため、他のナノカーボンに比べ分散性が良く、作業性に優れる。
【0015】
フラーレンとしては、例えば、C36、C60、C70、C76、C78、C82、C84、C90、C96及び一分子中の炭素数が96を超え且つ最大凝集塊径が30nm以下の高次フラーレンなどを挙げることができる。これらの中でも、C60、C70、C76及びC82を用いることが好ましい。「フラーレン誘導体」とは、フラーレン骨格を有する化合物一般を意味する。「フラーレン骨格」とは、球殻状の炭素分子からなる骨格の総称である。フラーレン骨格には、例えば、C36、C60、C70、C76、C78、C82、C84、C90、C96及び一分子中の炭素数が96を超え且つ最大凝集塊径が30nm以下の高次フラーレンが含まれる。これらのフラーレンは、公知の方法によって合成することができる。例えば、C36の製造方法は、New Daiamond. vol.16, No2, 2000, p.30-31に開示されている。C60、C70、C76、C78、C82、C84、C90及びC96の製造方法は、J. Phys. Chem., 94, 8634(1990)にアーク放電法による製造方法が開示されている。また、一分子中の炭素数が96を超え且つ最大凝集塊径が30nm以下の高次フラーレンは上記アーク放電法の副生物として得ることができる。また、フラーレンの表面に、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数2〜6のアルケニル基、炭素数2〜6のアルキニル基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、エポキシ基、アミノ基等の官能基を有するフラーレン誘導体を用いることができる。上記アミノ基は式−NR
2で表される。ここで、Rは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数2〜6のアルケニル基、炭素数2〜6のアルキニル基又は分子量30〜50,000のポリエーテル鎖であることができる。上記アミノ基において置換基Rがポリエーテル鎖であるときには、その末端は水酸基又は炭素数1〜6のアルコキシル基であることができる。フラーレン誘導体の中でも、フェニルフラーレン酪酸メチルエステルは、溶剤への溶解性に優れるため特に好ましい。
【0016】
カーボンナノチューブは、カーボンナノファイバーの一種である。炭素によって作られる六員環ネットワーク(グラフェンシート)が単層又は多層の同軸管状になったものであり、単層のものをシングルウォールナノチューブ(SWNT)、複層のものをマルチウォールナノチューブ(MWNT)という。特に、二層のものはダブルウォールナノチューブ(DWNT)とも呼ばれる。これらのカーボンナノチューブは、公知の方法によって合成することができる。例えばアーク放電法は、大気圧よりもやや低い圧力のアルゴン又は水素の雰囲気下で、炭素棒で作製された電極材料の間にアーク放電を行うことで、陰極に堆積した多層カーボンナノチューブを得る方法である。カーボンナノチューブは、平均直径が100nm以下であり且つ平均長さが20μm以下のものを用いることが好ましい。平均直径が100nm超であるか又は平均長さが20μm超であるカーボンナノチューブは、樹脂中で凝集し、結果として樹脂硬化物の耐熱性が低下する場合がある。
【0017】
ナノカーボン2は、樹脂及び有機溶媒への分散性が十分ではなく、添加量が多いと凝集してしまう。そのため、耐熱性及び強度向上のために、ナノカーボン2は、液状熱硬化性樹脂組成物に対して、0.1質量%以上10質量%以下含有されることが必要である。ナノカーボン2の含有量が0.1質量%未満であると、耐熱性を向上させる効果が得られない。一方、ナノカーボン2の含有量が10質量%超であると、ナノカーボン2の凝集及び沈殿が生じ、均一な樹脂硬化物を得ることが困難となる。
【0018】
熱硬化性樹脂1及びナノカーボン2と反応する官能基を分子末端に有する有機系添加剤5としては、アゾ化合物を挙げることができる。アゾ化合物とは、アゾ基−N=N−により2つの有機官能基R
1及びR
2が連結されている構造R
1−N=N−R
2を有するものである。R
1及びR
2は、炭素数2〜30の直鎖又は分岐の炭化水素基であり、炭化水素基中に酸素原子、硫黄原子又は窒素含有基が含まれてもよい。硬化性樹脂1と反応する官能基としては、カルボン酸基、水酸基、アミノ基、イソシアネート基、エーテル基などが挙げられる。硬化性樹脂1と反応する官能基は、有機官能基R
1及びR
2中に含まれる。有機系添加剤5は、これらの官能基の1種を含むものであってもよいし、又は2種以上を含むものであってもよい。中でも、カルボン酸基、水酸基及びアミノ基からなる群から選択される少なくとも1種を含む有機系添加剤5を用いることが好ましい。また、有機系添加剤5の相溶性が低い場合、少量のメタノール、エタノール、エーテル、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドなどに溶解させてから配合してもよい。有機系添加剤5は、50℃以上100℃以下の温度で熱分解し、窒素ガスと・R
1及び・R
2で表されるラジカルとを発生する。これらのラジカルは、ナノカーボン2の高いラジカル補足性によりナノカーボン2と反応する。例えば、ナノカーボン2としてフラーレンC60を使用した場合、有機系添加剤5が熱分解して反応することで、(R
1)−C60−(R
1)、(R
1)−C60−(R
2)及び(R
2)−C60−(R
2)で表される構造を有するナノカーボン誘導体が形成される。有機系添加剤5は、50℃以上100℃以下の温度で熱分解し、ナノカーボン2と反応してナノカーボン誘導体を形成するものが好ましく、80℃以上100℃以下の温度で熱分解し、ナノカーボン2と反応してナノカーボン誘導体を形成するものがより好ましい。50℃未満の温度でナノカーボン2と反応する有機系添加剤5を用いると、室温条件でも反応が進行する恐れがあり、樹脂の硬化が制御できず、耐熱性が低下する場合がある。100℃超の温度でナノカーボン2と反応する有機系添加剤5を用いると、液状熱硬化性樹脂組成物中に含まれる重合性不飽和モノマーと反応し、結果として樹脂硬化物の耐熱性が低下する場合がある。
【0019】
有機系添加剤5は、ナノカーボン2に対して、10質量%以上50質量%以下含有されることが好ましい。有機系添加剤5の含有量が上記範囲内であると、高耐熱性及び高強度を有する樹脂硬化物を効率よく得ることができる。
【0020】
重合性不飽和モノマーとしては、スチレン誘導体、(メタ)アクリレート誘導体などが挙げられる。スチレン誘導体としては、例えば、スチレン、1−メチル−2−ビニルベンゼン、1−エチル−2−ビニルベンゼン、1−プロピル−2−ビニルベンゼン、1−メチル−3−ビニルベンゼン、1−エチル−3−ビニルベンゼン、1−プロピル−3−ビニルベンゼン、1−エチル−4−ビニルベンゼン、1−プロピル−4−ビニルベンゼン、1,2−メチル−4−ビニルベンゼン、1,3−メチル−4−ビニルベンゼン、1,4−メチル−4−ビニルベンゼン、1,2−エチル−4−ビニルベンゼン、1,3−エチル−4−ビニルベンゼン、1,4−エチル−4−ビニルベンゼン、1,2−メチル−5−ビニルベンゼン、1,3−メチル−5−ビニルベンゼン、1,4−メチル−5−ビニルベンゼン、1,2−エチル−5−ビニルベンゼン、1,3−エチル−5−ビニルベンゼン、1,4−エチル−5−ビニルベンゼン、1,2−メチル−6−ビニルベンゼン、1,3−メチル−6−ビニルベンゼン、1,4−メチル−6−ビニルベンゼン、1,2−エチル−6−ビニルベンゼン、1,3−エチル−6−ビニルベンゼン、1,4−エチル−6−ビニルベンゼン、オルト−t−ブチルスチレン、m−t−ブチルスチレン、p−t−ブチルスチレンなどが挙げられる。アクリレート誘導体としては、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、カルビトール(メタ)アクリレート、イソボロニル(メタ)アクリレート、3−メトキシブチル(メタ)アクリレート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチル−2−ヒドロキシプロピルフタレート、エチレングリコール(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ビスフェノキシエタノールフルオレンジアクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリ((メタ)アクリロイロキシエチル)フォスフェート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。これらの重合性不飽和モノマーは、単独で用いてもよいし、又は2種以上を混合して用いてもよい。これらの重合性不飽和モノマーの中でも、スチレン及び2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートからなる群から選択される少なくとも一種を用いることが好ましい。また、重合性不飽和モノマーは、室温(25℃)で50mPa・s以下の粘度を有することが好ましい。室温における粘度が50mPa・sを越える重合性不飽和モノマーを用いると、含浸可能な粘度になる温度が高くなり、結果として樹脂が硬化し始めるまでの時間(可使時間)が短くなることで作業性が低下する。
【0021】
重合性不飽和モノマーは、全樹脂配合量100質量部に対して、10質量部以上70質量部以下含有されることが好ましい。重合性不飽和モノマーの含有量が上記範囲内であると、含浸性のより高い液状熱硬化性樹脂組成物を提供することができる。
【0022】
重合性不飽和モノマーの重合開始剤としては、100℃以上の10時間半減期温度を有するものが好ましく、例えば、ジクミルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5(ジベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、ジ−t−ブチルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3、ジ−t−アミルパーオキサイド、2,2−ジ(t−ブチルパーオキシ)ブタン、n―ブチル−4,4−ジ(t−ブチルパーオキシ)パレレート、エチル3,3−ジ(t−ブチルパーオキシ)ブチレート、1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、t−アミルハイドロパーオキサイドなどが挙げられる。重合性不飽和モノマーの重合開始剤の10時間半減期温度の上限は特に限定されるものではないが、通常、170℃以下である。
【0023】
可使時間を長くする観点から、重合性不飽和モノマーの重合開始剤は、全樹脂配合量100質量部に対して、0.001質量部以上5.0質量部以下含有されることが好ましい。重合性不飽和モノマーの重合開始剤の含有量が0.001質量部未満であると、重合を開始させる効果が十分に得られない。一方、重合性不飽和モノマーの重合開始剤の含有量が5.0質量部超であると、重合反応が急激に進行(暴走)したり、可使時間が短くなるといった問題が生じる場合がある。
【0024】
本発明の液状熱硬化性樹脂組成物には、作業性を向上させるため、希釈溶剤を添加してもよい。このような希釈溶剤としては、アルコール、脂肪族カルボン酸エステル、芳香族カルボン酸エステル、ケトン、エーテル、エーテルエステル、脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素などが挙げられる。
【0025】
本発明の液状熱硬化性樹脂組成物は、上記した各成分を混合することにより調製することができる。このようにして得られた液状熱硬化性樹脂組成物は、誘導電動機、タービン発電機等の高圧回転機の固定子に組み込まれる固定子コイルに含浸される樹脂組成物、及び積層体用ガラスクロスや有機不織布等の絶縁基材に含浸される樹脂組成物として用いることができるが、特に高圧回転機用の固定子コイルの含浸用樹脂組成物として好適に用いられる。
【0026】
本発明の液状熱硬化性樹脂組成物の硬化物は、上記した液状熱硬化性樹脂組成物を加熱することによりナノカーボンと有機系添加剤とを反応させてナノカーボン誘導体を合成する工程、及びナノカーボン誘導体を含有する樹脂組成物を更に加熱することにより熱硬化性樹脂とナノカーボン誘導体とを反応させるとともにナノカーボン誘導体と重合性不飽和モノマーとを反応させる工程を経ることで製造することができる。ナノカーボンを有機系添加剤と反応させてナノカーボン誘導体を形成することで、ナノカーボンと熱硬化性樹脂との界面の接着性が向上し、硬化物の耐熱性が向上するだけでなく、強度も向上する。また、熱硬化性樹脂の反応温度より低い温度でナノカーボン誘導体を形成し、その後に硬化させているため、1工程で硬化物が製造できる(ナノカーボン誘導体を合成するための複数工程を経る必要がない)。
【0027】
ナノカーボン誘導体を形成する工程では、液状熱硬化性樹脂組成物を熱硬化性樹脂の反応温度より低い温度、好ましくは50℃以上100℃以下で、3時間以上5時間以下、加熱すればよい。続く工程では、形成されたナノカーボン誘導体を含有する樹脂組成物を、好ましくは110℃以上160℃以下で、2時間以上8時間以下、更に、170℃以上250℃以下で、1時間以上3時間以下で加熱すればよい。このような工程を経ることで高耐熱性及び高強度を有する樹脂硬化物を効率よく提供することができる。
【0028】
実施の形態2.
実施の形態2に係る固定子コイルは、コイル導体と、コイル導体の周囲に設けられた絶縁層とを備え、この絶縁層が、上記した液状熱硬化性樹脂組成物の硬化物を含むものである。コイル導体としては、絶縁被膜を有する電線あるいはガラステープなどの絶縁材で被覆された平角形状の金属素線を積層したものを用いることができる。
【0029】
図2に示すように、コイル導体10と絶縁層9とを有する固定子コイルは、固定子鉄心11の内周側に形成された複数のスロット12内で上下2段に収納され、これらの固定子コイル間にスペーサー13が挿入されると共に、スロット12の開口端部に固定子コイルを固定するためのウェッジ14が挿入される。
【0030】
このような構造を有する固定子コイルは、以下のようにして製造される。
まず、絶縁被覆7された複数の素線8を束ねて構成されたコイル導体10の外周部に、絶縁テープを一部(例えば、絶縁テープの幅の半分の部分)が互いに重なるように複数回巻き付ける。ここで、コイル導体10を構成する素線としては、導電性であれば特に限定されず、銅、アルミニウム、銀などからなる素線を用いることができる。
【0031】
次に、コイル導体10に巻き付けた絶縁テープに液状熱硬化性樹脂組成物を含浸させる。ここで、含浸に用いられる液状熱硬化性樹脂組成物としては、実施の形態1において説明したものを用いることができる。含浸方法としては、特に限定されず、当該技術分野において公知の方法を用いることができる。含浸方法の例としては、真空含浸、真空加圧含浸、常圧含浸などが挙げられる。含浸の際の条件は、特に限定されることはなく、使用する液状熱硬化性樹脂組成物の種類に応じて適宜調整すればよい。なお、平角状の金属素線でなく、絶縁被膜を有する電線を用いた場合は絶縁テープを具備していなくてもよい。
【0032】
本実施の形態による固定子コイルは、絶縁層に含まれる樹脂硬化物の耐熱性及び強度が優れるため、機器の小型化、高出力化及び信頼性の向上を図ることができる。
【0033】
実施の形態3.
タービン発電機などの回転電機の固定子に、実施の形態2で説明した固定子コイルを適用した実施の形態について説明する。
【0034】
図3及び
図4は、回転電機の固定子の要部を模式的に示す図であり、
図3は、回転軸に沿った断面を示す図(横断面図)であり、
図4は、回転軸に直交する断面を
図3の矢印A方向から見た図(縦断面図)である。
図3及び
図4において、回転電機の固定子は、回転子を収納する円筒状の固定子鉄心11と、この固定子鉄心11の外周部に周方向に所定間隔をあけて設けられ固定子鉄心11を軸方向に締付ける複数(この例では8本)の鉄心締付部材15と、固定子鉄心11の外周部に軸方向に所定間隔をあけて設けられ固定子鉄心11を鉄心締付部材15の上から中心部方向に締付ける如く保持する軸方向に平な複数(この例では4箇所)の保持リング16と、固定子鉄心11の周りを間隔をあけて包囲する円筒状のフレーム17と、このフレーム17内面に軸方向に所定間隔をあけて軸心方向に突設されたリング状の複数(この例では5箇所)の中枠部材18と、隣り合う中枠部材18の相互に固定されてその軸方向中央部で保持リング16に固定されたばね板からなる複数(この例では4本)の弾性支持部材19などを備えている。
【0035】
図3及び
図4に示される固定子は、例えばタービン発電機の電機子を構成するものであり、固定子鉄心11の内周部には軸方向に形成されたスロットが周方向に所定数設けられ、そのスロット内には固定子コイルが配設されている。
【0036】
タービン発電機などの回転電機にあっては、一層の高出力化や小型化が求められている。高出力化及び小型化を実現するためにはコイル絶縁物の絶縁性能を向上させることが必須である。本発明に係る樹脂を回転電機の固定子コイルに適用することにより、一層の高出力化及び小型化を図ることができる効果が期待できる。またこれらのコイルは通常、樹脂と絶縁テープなどを組み合わせて使用し、コイルの絶縁特性と製造容易性に優れたものを提供することが可能である。
【0037】
なお、実施の形態1に記載した液状硬化性樹脂組成物は、実施の形態2に記載した固定子コイル及び実施の形態3に記載したタービン発電機の電機子だけではなく、各種モータ、発電機などの回転電機におけるコイルの絶縁用途に適用可能である。回転電機におけるコイルを実施の形態1に記載した液状硬化性樹脂組成物を用いて絶縁することにより、耐熱性及び強度が高い樹脂硬化物でコイル間の隙間及び回転機とコイルとの間の隙間が埋められて、絶縁性能を向上させるとともに、絶縁破壊及びコイルの変形を防止することができる。
【実施例】
【0038】
以下、本発明の液状熱硬化性樹脂組成物について、実施例及び比較例を挙げて具体的に説明する。
【0039】
〔実施例1〕
熱硬化性樹脂としてのビスフェノールA型エポキシ樹脂(商品名「JER828」、三菱化学製)28質量部、エポキシ樹脂硬化剤としての脂環式酸無水物(商品名「HN−2200」、日立化成株式会社製)22質量部、エポキシ樹脂硬化促進剤としてのオクチル酸亜鉛0.1質量部、ナノカーボンとしてのフラーレンC60(商品名「ナノムパープル」、フロンティアカーボン株式会社製)0.1質量部、熱硬化性樹脂及びナノカーボンと反応する官能基を分子末端に有する有機系添加剤としての4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)(東京化成工業株式会社製)0.03質量部、重合性不飽和モノマーとしてのスチレン(25℃における粘度:0.8mPa・s、和光純薬工業株式会社製)49.7質量部、及び重合性不飽和モノマーの重合開始剤としての過酸化物(商品名「ルペロックス(登録商標)DCP、アルケマ吉富株式会社、10時間半減期温度:117℃)0.1質量部を混合して液状熱硬化性樹脂組成物を調製した。
【0040】
図5に示すフローチャートに従って樹脂硬化物を製造した。まず、液状熱硬化性樹脂組成物を80℃に加熱し、80℃で3時間保持することで、フラーレン誘導体が溶解した液状熱硬化性樹脂組成物を得た。加熱前の液状熱硬化性樹脂組成物は紫色であったが、加熱することで橙色に変色したことから、フラーレンの誘導体化が進んだことが分かる。その後、液状熱硬化性樹脂組成物を120℃に加熱し、120℃で5時間保持することで、エポキシ樹脂とフラーレン誘導体とを反応させた。また、重合開始剤により重合性不飽和モノマーが活性種を発生させ、自己重合及びフラーレン誘導体と反応させた。この加熱工程では樹脂組成物は完全に硬化せず、一部液状であった。この生成物をアセトン、トルエンで洗浄し、不溶解成分のガスクロマトグラフィー質量分析(GC−MS)を行った。その結果、不溶解成分中にはエポキシ樹脂とフラーレン成分、スチレンが重合したポリマー成分が観測された。エポキシ樹脂、フラーレン成分、スチレンは未反応の場合、アセトンもしくはトルエンに可溶である。この結果から、エポキシ樹脂とフラーレン誘導体との反応、及びフラーレン誘導体とスチレンとの反応が進行していることを確認した。更に、樹脂組成物を180℃に加熱し、180℃で2時間保持することで、樹脂硬化物を得た。
【0041】
〔実施例2〕
フラーレンC60の添加量を1質量部に変更し、4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)の添加量を0.3質量部に変更し、スチレンの添加量を48.5質量部に変更したこと以外は実施例1と同様にして、樹脂硬化物を得た。
【0042】
〔実施例3〕
フラーレンC60の添加量を5質量部に変更し、4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)の添加量を1.5質量部に変更し、スチレンの添加量を43.3質量部に変更したこと以外は実施例1と同様にして、樹脂硬化物を得た。
【0043】
〔実施例4〕
フラーレンC60の添加量を10質量部に変更し、4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)の添加量を3.0質量部に変更し、スチレンの添加量を36.8質量部に変更したこと以外は実施例1と同様にして、樹脂硬化物を得た。
【0044】
〔実施例5〕
フラーレンC60の添加量を1質量部に変更し、4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)の添加量を0.3質量部に変更し、スチレンの添加量を48.5質量部に変更し、硬化条件の80℃で3時間保持を60℃で5時間保持へ変更したこと以外は実施例1と同様にして、樹脂硬化物を得た。
【0045】
〔実施例6〕
フラーレンC60の添加量を1質量部に変更し、4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)の添加量を0.3質量部に変更し、スチレンの添加量を48.5質量部に変更し、硬化条件の80℃で3時間保持を100℃で3時間保持へ変更したこと以外は実施例1と同様にして、樹脂硬化物を得た。
【0046】
〔実施例7〕
フラーレンC60の添加量を1質量部に変更し、0.03質量部の4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)の代わりに0.3質量部の2,2’−アゾビス[2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]を用い、スチレンの添加量を48.5質量部に変更し、硬化条件の80℃で3時間保持を90℃で3時間保持へ変更したこと以外は実施例1と同様にして、樹脂硬化物を得た。
【0047】
〔実施例8〕
フラーレンC60の添加量を1質量部に変更し、0.03質量部の4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)の代わりに0.3質量部の2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩を用い、スチレンの添加量を48.5質量部に変更したこと以外は実施例1と同様にして、樹脂硬化物を得た。
【0048】
〔実施例9〕
フラーレンC60の添加量を1質量部に変更し、4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)の添加量を0.3質量部に変更し、49.7質量部のスチレンの代わりに48.5質量部の2−ヒドロキシエチルメタクリレート(25℃における粘度:6mPa・s)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、樹脂硬化物を得た。
【0049】
〔実施例10〕
0.1質量部のフラーレンC60の代わりに1質量部のカーボンナノチューブ(多層カーボンナノチューブ、平均直径10〜20nm、平均長さ5〜20μm、東京化成工業株式会社製)を用い、4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)の添加量を0.3質量部に変更し、スチレンの添加量を48.5質量部に変更したこと以外は実施例1と同様にして、樹脂硬化物を得た。
【0050】
〔実施例11〕
硬化条件の80℃で3時間保持を50℃で5時間保持へ変更したこと以外は実施例1と同様にして、樹脂硬化物を得た。
【0051】
〔実施例12〕
0.1質量部のフラーレンC60の代わりに1質量部のフラーレン誘導体(フェニルフラーレン酪酸メチルエステル、シグマアルドリッチ製)を用い、4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)の添加量を0.3質量部に変更し、スチレンの添加量を48.5質量部に変更したこと以外は実施例1と同様にして、樹脂硬化物を得た。
【0052】
〔比較例1〕
フラーレンC60の添加量を0.01質量部に変更し、4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)の添加量を0.003質量部に変更し、スチレンの添加量を49.8質量部に変更したこと以外は実施例1と同様にして、樹脂硬化物を得た。
【0053】
〔比較例2〕
フラーレンC60の添加量を12質量部に変更し、4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)の添加量を3.6質量部に変更し、スチレンの添加量を34.2質量部に変更したこと以外は実施例1と同様にして、樹脂硬化物を得た。
【0054】
〔比較例3〕
フラーレンC60及び4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)を添加せず、スチレンの添加量を49.8質量部に変更したこと以外は実施例1と同様にして、樹脂硬化物を得た。
【0055】
〔比較例4〕
フラーレンC60の添加量を1質量部に変更し、4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)を添加せず、スチレンの添加量を48.8質量部に変更したこと以外は実施例1と同様にして、樹脂硬化物を得た。
【0056】
実施例1〜12及び比較例1〜4で得られた樹脂硬化物の耐熱性及び強度の評価を下記方法に従って行なった。
<耐熱性の評価>
約5mgの樹脂硬化物を準備し、それを熱重量測定装置(TG−DTA6300、株式会社日立ハイテクサイエンス製)に投入し、空気雰囲気下、900℃まで5℃/分で昇温し、10質量%減少温度を求めた。10質量%減少温度が高い程、耐熱性が優れているといえる。比較例3の樹脂硬化物の10質量%減少温度と比べて、耐熱温度が15℃以上上昇したものを◎、10℃以上15℃未満上昇したものを○、同等のものを△とした。耐熱性の評価結果を表1〜3に示す。更に、ナノカーボンの添加量のみを変更した実施例1〜4並びに比較例1及び2については、ナノカーボンの添加量と10質量%減少温度との関係を
図6に示す。
<強度の評価>
樹脂硬化物を寸法70mm×10mm×3mmに切断して試験片を作製した。その試料片をオートグラフ(Shimadzu製)にセットし、JIS K 7171に従って曲げ試験を行なった。比較例3の樹脂硬化物の強度を基準とし、相対強度が20%以上上昇したものを○、相対強度が同等のものを△、相対強度が20%以上低下したものを×とした。強度の評価結果を表1〜3に示す。
【0057】
【表1】
【0058】
【表2】
【0059】
【表3】
【0060】
表1〜3及び
図6から分かるように、液状熱硬化性樹脂組成物に対してナノカーボンを0.1質量%以上10質量%以下の範囲で添加した実施例1〜12では、高い耐熱性を有する樹脂硬化物が得られた。一方、ナノカーボンの添加量が0.1質量%未満である比較例1及び10質量%超である比較例2では、耐熱性の向上効果は確認できなかった。
【0061】
表1〜3から分かるように、液状熱硬化性樹脂組成物に対してナノカーボンを0.1質量%以上10質量%以下の範囲で添加した実施例1〜12では、高い強度を有する樹脂硬化物が得られた。
【0062】
上記の結果から、液状熱硬化性樹脂組成物にナノカーボンを特定の割合で含有させることで、樹脂硬化物の耐熱性が改善されることが分かった。また、熱硬化性樹脂及びナノカーボンと反応する官能基を分子末端に有する有機系添加剤を加えることで、樹脂硬化物の強度も改善されることが分かった。
【0063】
なお、本国際出願は、2017年5月17日に出願した日本国特許出願第2017−098181号に基づく優先権を主張するものであり、この日本国特許出願の全内容を本国際出願に援用する。
熱硬化性樹脂(1)と、ナノカーボン(2)と、前記熱硬化性樹脂及び前記ナノカーボンと反応する官能基を分子末端に有する有機系添加剤(5)と、重合性不飽和モノマーと、重合性不飽和モノマーの重合開始剤とを含有する液状熱硬化性樹脂組成物であって、前記ナノカーボン(2)が、前記液状熱硬化性樹脂組成物に対して、0.1質量%以上10質量%以下含有される液状熱硬化性樹脂組成物。