(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6433101
(24)【登録日】2018年11月16日
(45)【発行日】2018年12月5日
(54)【発明の名称】分子終端シリコンナノ粒子を利用した複合型太陽電池
(51)【国際特許分類】
H01L 31/054 20140101AFI20181126BHJP
H01L 31/068 20120101ALI20181126BHJP
【FI】
H01L31/04 620
H01L31/06 300
【請求項の数】5
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2017-519155(P2017-519155)
(86)(22)【出願日】2016年5月11日
(86)【国際出願番号】JP2016064037
(87)【国際公開番号】WO2016185978
(87)【国際公開日】20161124
【審査請求日】2017年10月20日
(31)【優先権主張番号】特願2015-103575(P2015-103575)
(32)【優先日】2015年5月21日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100104215
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100196575
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 満
(74)【代理人】
【識別番号】100168181
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 哲平
(74)【代理人】
【識別番号】100117330
【弁理士】
【氏名又は名称】折居 章
(74)【代理人】
【識別番号】100160989
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 正好
(74)【代理人】
【識別番号】100168745
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 彩子
(74)【代理人】
【識別番号】100176131
【弁理士】
【氏名又は名称】金山 慎太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100197398
【弁理士】
【氏名又は名称】千葉 絢子
(74)【代理人】
【識別番号】100197619
【弁理士】
【氏名又は名称】白鹿 智久
(72)【発明者】
【氏名】深田 直樹
(72)【発明者】
【氏名】ダッタ ムリナル
【審査官】
吉岡 一也
(56)【参考文献】
【文献】
特開2013−16787(JP,A)
【文献】
S. G. Dorofeev et. al., On the Application of Thin Films of Silicon Nanoparticles for Increasing Solar Cell Efficiency,Semiconductors,米国,Pleiades Publishing Ltd.,2014年 3月,Vol.48, No.3,360-368
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 31/054
H01L 31/06−31/078
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
可視光域の少なくとも一部の照射光を電気に変換するpn接合太陽電池を形成する半導体の最表面にシリコンナノ粒子を設け、
前記シリコンナノ粒子の少なくとも一部は直径が5nm以下であるとともに、その表面は酸化されておらず、且つ分子長が5nm以下の炭化水素により終端されており、
前記シリコンナノ粒子は照射された紫外線を吸収して前記太陽電池へのエネルギー移動を行う複合型太陽電池。
【請求項2】
前記炭化水素はアルケンまたはアルカンである、請求項1に記載の複合型太陽電池。
【請求項3】
前記pn接合太陽電池はシリコンpn接合太陽電池である、請求項1または2に記載の複合型太陽電池。
【請求項4】
前記半導体はシリコン基板上に設けられたシリコンナノワイヤを含む、請求項3に記載の複合型太陽電池。
【請求項5】
前記シリコンナノワイヤはシリコンマトリクス中に埋め込まれ、前記半導体の最表面は前記シリコンマトリクスの表面である、請求項4に記載の複合型太陽電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分子終端シリコンナノ粒子をpn接合太陽電池(以下、単に太陽電池と称する)の表面に塗布等の任意の手段により置くことで、分子終端シリコンナノ粒子で吸収された太陽光のエネルギーをボトムのシリコン太陽電池層へエネルギー移動することで、太陽電池の変換効率を向上させた複合型太陽電池に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、多結晶シリコンを利用した太陽電池が原料の安全性、資源の豊富性、製造コストおよび変換効率の観点で太陽電池材料の主流として利用されている。しかしながら、変換効率が比較的高いといっても、多結晶シリコンを利用した太陽電池の理論的に導き出される最大変換効率は28.5%程度であり、新しい技術・概念を利用した高効率化が求められている。
【0003】
これまでに、シリコン系太陽電池の変換効率の増大のために様々な試みが行われている。その一つに表面パッシベーション技術がある(非特許文献1)。この技術は、表面でのキャリアの再結合による変換効率の低下を抑制するために行われている。一方、タンデム構造或いは異種材料の複合化により、幅広い波長分布を持つ太陽光エネルギーの利用効率を向上させることも変換効率の改善において非常に重要な課題となっている(非特許文献2)。
【0004】
しかしながら、前者では変換効率の理論的な上限はそのまま残り、また太陽電池の変換効率が理論効率に接近するにつれて、変換効率の向上は急激に困難となる。また、後者では確かに高い変換効率を実現することはできるものの、変換素子作成のための工程数の増加や高価な使用原料により、太陽電池に強く求められている低価格化が非常に困難であり、また使用原料の毒性も問題となる。
【0005】
更にはタンデム構造太陽電池は基本的には波長帯域毎に最適化された太陽電池を積層して相互に直列接続した構造を取るため、直列接続されたこれらの太陽電池を流れる電流を整合させる必要がある。この直列構造により、タンデム構造太陽電池を設計する際に想定した太陽光スペクトル分布(例えばAM1.5G)から外れた照射条件(曇天、朝夕等)では変換効率が大きく低下するという問題があり、年間を通した実際の運転中の平均変換効率と最適条件下の変換効率との差が大きい。並列接続構成を取る改良型のタンデム構造太陽電池も提案されているが、元々複雑なタンデム構造太陽電池の構造がこの改良により一層複雑化するため、必ずしも有利とは言えない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、特殊な材料を使用しない簡単な構造を付加することでシリコン系太陽電池の変換効率を理論的な変換効率とは無関係に向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一側面によれば、可視光域の少なくとも一部の照射光を電気に変換するpn接合太陽電池を形成する半導体の最表面にシリコンナノ粒子を設け、前記シリコンナノ粒子の少なくとも一部は直径が5nm以下であるとともに、その表面は分子長が5nm以下の炭化水素により終端されており、前記シリコンナノ粒子は照射された紫外線を吸収して前記太陽電池へのエネルギー移動を行う複合型太陽電池が与えられる。
ここで、前記炭化水素はアルケンまたはアルカンであってよい。
また、前記pn接合太陽電池はシリコンpn接合太陽電池であってよい。
また、前記半導体はシリコン基板上に設けられたシリコンナノワイヤを含んでよい。
また、前記シリコンナノワイヤはシリコンマトリクス中に埋め込まれ、前記半導体の最表面は前記シリコンマトリクスの表面であってよい。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、シリコン系太陽電池上に分子終端されたシリコン粒子を塗布するだけで簡単にシリコン系太陽電池のエネルギー変換効率を増大させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】分子終端シリコンナノ粒子の作製プロセス図。
【
図2】1−オクタデセンで終端されたシリコン粒子の(a)高分解能透過電子顕微鏡写真および(b)フーリエ変換赤外吸収分光による表面分析結果を示すグラフ。
【
図3】(a)無電解エッチングにより形成したシリコン基板上のn型シリコンナノワイヤアレイの走査型顕微鏡写真、(b)n型シリコンナノワイヤアレイの表面にCVDによりp型シリコン層を形成したものの走査型電子顕微鏡写真、(c)太陽電池セルの写真、(d)最終的に作製された太陽電池構造の模式図。
【
図4】1−オクタデセンで終端されたシリコン粒子を用いた場合(SiQDsあり)と用いなかった場合(SiQDsなし)の(a)太陽電池特性(I−V特性)評価および(b)外部量子効果測定の結果を示すグラフ。
【
図5】1−オクタデセンで終端されたシリコン粒子のシリコン基板上およびガラス基板上におけるフォトルミネッセンス寿命測定結果を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の一形態によれば、分子終端シリコンナノ粒子をpn接合シリコン太陽電池(以下、pn接合シリコン太陽電池を単にシリコン太陽電池と称する)を形成する半導体の最表面に塗布することで、太陽光の特に紫外領域の波長の光吸収感度を増大させ、その分子終端シリコンナノ粒子で吸収された太陽光のエネルギーをボトムのシリコン層へエネルギー移動することで、太陽電池の変換効率を向上する。
【0011】
バルクSiのバンドギャップは室温で約1.1eVである。ナノ粒子のようにサイズが小さくなるとバンドギャップは増大する。ナノ粒子の直径が5nm以下になると、バンドギャップはサイズに応じておおよそ1.5eVから3eV程度まで増大する(非特許文献3)。ナノ粒子はバルク材料に比べて光吸収効率が高く、特に紫外光に関して感度が高い。
【0012】
シリコンナノ粒子の表面は通常であれば1〜2nmの酸化膜で覆われ、その界面にはダングリングボンド型の欠陥(原子同士が結合していない未結合のボンド)が存在する。ダングリングボンド型欠陥が界面或いは表面に存在すると、太陽光の吸収により誘起された光誘起キャリアは、その欠陥が形成する深い準位により再結合し、キャリア(電気)を有効的に取り出すことが困難になる。一方、シリコンナノ粒子の表面を化学種で完全に終端できた場合、酸化膜で覆われた場合と異なり界面には欠陥が形成されず、太陽光発電のための良好な吸収材料として利用できるようになる。
【0013】
そこで、分子終端シリコンナノ粒子を塗布等の任意の手段によりシリコン系太陽電池の表面に設けた構造を考える。シリコンナノ粒子の表面を分子終端した場合、太陽光の吸収によりシリコンナノ粒子内部で発生した光誘起キャリアを、電荷移動(Charge transfer)により下地のシリコン太陽電池に伝達することはできない。表面の分子終端が電荷移動の邪魔をするためである。したがって、太陽光の吸収によりシリコンナノ粒子内部で発生した光誘起キャリアである電子とホールは、最終的には再結合する。その際に、無輻射的に再結合エネルギーを下地のシリコン太陽電池に伝達できれば、言い換えれば、その再結合により発生したエネルギーで効率よく太陽電池内部を励起できれば、そこで発生するキャリアが増大し、結果的には太陽電池として取り出せる電流値が増大する。これが、エネルギー移動により電流値が増大し、変換効率が増大する原理である。なお、ここでシリコンナノ粒子から下地のシリコン太陽電池に伝達されるエネルギーによってシリコン太陽電池内に励起される電流は、等価回路的に見れば、シリコン太陽電池側の本来の太陽電池機能によって生成される電流に相当する電流源に対して、シリコンナノ粒子から伝達されてきたエネルギーによって励起される電流に相当する電流源が並列接続されることにより加算された電流となる。従って、本発明において、シリコン太陽電池側の本来の太陽電池機能とシリコンナノ粒子からシリコン太陽電池に伝達されるエネルギーによってそこに電流を励起する作用とは本質的に互いに独立しており、両者から生じる電流を整合させる必要がないことに注意されたい。
【0014】
ここで、ナノ粒子で吸収された太陽光エネルギーを上述のエネルギー移動によって移動させる先は、バルクのシリコン或いはナノ構造でもキャリア輸送に優れた一次元構造であるシリコンナノワイヤ等とする必要がある。その場合、シリコン粒子表面を終端する分子の実効長と分子の種類が重要となる。以下で説明する本発明の実施例では1−オクタデセンを分子種として採用した。このように、分子長を約5nm以下にし、且つ、シリコンナノ粒子表面をC−H結合で終端することで、シリコンナノ粒子からシリコン太陽電池材料へのエネルギー移動を初めて実現し、更にはナノワイヤ構造との複合化により、系全体としての高効率を実現でき、しかも照射光のスペクトル変化によって敏感に変換効率が変化することのない、新規なシリコン系の太陽電池を実現できた。ここで、シリコンナノ粒子表面をC−H結合で終端することで、シリコンナノ粒子表面の未結合手であるダングリングボンド型欠陥を電気的に不活性にし、更には、シリコンナノ粒子表面の再酸化を抑制し、シリコンナノ粒子の凝集を抑制する効果がある。
【0015】
なお、上ではシリコンナノ粒子表面を終端する分子として1−オクタデセンを例に挙げて説明したが、他にはたとえば上記の分子長の制限を満たすアルケンまたはアルカンであれば使用可能である。アルケンまたはアルカン等として1−オクタデセンよりも分子量の小さい分子、例えばペンテン、ヘキセン等でもよい。ただし、炭素数が少ない場合には、時間の経過に伴ってナノ粒子が再酸化されてしまうようなことが起きれば、ナノ粒子の凝集が起こりやすくなる可能性がある。そのため、複合型太陽電池の具体的な構造、使用材料、想定している使用環境等に応じて終端用の分子を適宜選択すればよい。
【0016】
上述したように、シリコンナノ粒子のバンドギャップはバルクのシリコンよりも大きいため、特に紫外光領域の光に対して吸収効率が高い。そこで、分子終端シリコンナノ粒子をシリコン太陽電池の最表面に塗布し、分子終端シリコンナノ粒子で吸収された太陽光のエネルギーをボトムのシリコン太陽電池層へ効率よくエネルギー移動することで、このような複合された太陽電池系全体としての光電変換対象波長域が、従来のシリコン系太陽電池単独の場合の波長域に比較して紫外線側に広がり、太陽電池の変換効率を簡便に向上させることができる。
【0017】
この変換効率向上の方策は、従来のシリコン太陽電池とは全く独立してシリコンナノ粒子中で行われる効率の高い光エネルギー吸収の結果を利用するものであり、従来のタンデム構造の太陽電池と同様な光電変換効率の向上を図ることができる。更には、光のエネルギーを最終的に電気の形に変換するのはもっぱらシリコンナノ粒子からのエネルギー移動先である従来の太陽電池側であるため、シリコンナノ粒子を利用する箇所への配線の引き回し等の構造を設けることが不要となり、製造が簡単になる。更に、本発明では高価であったり有害な元素・化合物などの成分を追加する必要がないため、製造コストや安全性の面でも有利である。また上で詳述したように、本発明の複合型太陽電池においては、等価回路で考えた場合、シリコン太陽電池が吸収した光による光電変換の出力とシリコンナノ粒子が吸収した光による光電変換の出力とがシリコン太陽電池内で並列接続されていることにより、典型的なタンデム構造の太陽電池と比べて、照射光のスペクトル変化による変換効率への影響が少ない。
【0018】
また本発明は、シリコンナノ粒子よりも小さなバンドギャップを有する太陽電池材料、例えばゲルマニウムを利用した太陽電池等へも応用が可能である。
【実施例】
【0019】
本実施例では、n型シリコンナノワイヤをp型シリコンマトリクスに埋め込んだ試料に、シリコンナノ粒子を塗布した。n型シリコンナノワイヤはシリコン基板を硝酸銀によりエッチングする無電解エッチングにより、n型シリコン基板上に形成した(非特許文献1)。p型シリコンマトリクスに関しては、エッチング後に化学気相体積(CVD)法により形成した。
【0020】
シリコンナノ粒子の製造に関してはいくつかの手法があり、代表的なものとしては、スパッタ法(非特許文献4)、レーザーアブレーション法(非特許文献5)、エッチング法(非特許文献6)、シルセスキオキサン等のシリコン系酸化物粒子を還元する方法(非特許文献7)(
図1)が存在する。何れの手法で作製されたシリコンナノ粒子でも問題なく使用できるが、重要な点としてはその直径を5nm以下とすることである。もちろん、直径が5nmを上回るシリコンナノ粒子が一部含まれてもよいが、光電変換効率を上げるためにはそのような過大な直径のものは少ないことが望ましい。
【0021】
通常のシリコンナノ粒子は大気中において簡単に表面が酸化される。この酸化膜とシリコン結晶との界面にはダングリングボンド型の欠陥がどうしても生じてしまい、太陽光の吸収で発生したキャリアの再結合を引き起こし、変換効率の低下につながる。そこで、分子終端を行う前に表面酸化膜を1%程度のフッ酸溶液等で除去し、表面を水素終端の状態に変換する必要がある。
【0022】
次に、表面酸化膜が完全に除去された後の分子終端に関して説明する(
図1)。
図1は、分子終端シリコンナノ粒子の作製プロセス図である。本発明では、1−オクタデセンを分子終端に利用した。1−オクタデセンおよびメチレン溶液をそれぞれ5mL含んだ混合溶液に水素終端シリコンナノ粒子を導入し、アルゴンガスのバブリングにより1時間脱ガスを行った。その後、アルゴンガス雰囲気で145℃の熱処理を5〜10時間行うことで1−オクタデセンで安定に終端されたシリコンナノ粒子が得られる(
図2(a))。
図2(a)は、1−オクタデセンで終端されたシリコン粒子の高分解能透過電子顕微鏡写真である。この表面状態をフーリエ変換赤外吸収分光により調べた結果(
図2(b))、シリコンナノ粒子表面にC−H結合が形成されていることが分かった。
図2(b)は、フーリエ変換赤外吸収分光による表面分析結果を示すグラフである。生成された1−オクタデセン終端シリコンナノ粒子をトルエン溶媒に分散させ、シリコン太陽電池の表面に塗布し、2時間真空中で乾燥させる。
図3にn型シリコンナノワイヤをp型シリコンマトリクスに埋め込んだ試料のSEM像と最終的に作製した太陽電池セル構造の模式図を示す。
図3(a)は無電解エッチングにより形成したシリコン基板上のn型シリコンナノワイヤアレイの走査型顕微鏡写真であり、
図3(b)はn型シリコンナノワイヤアレイの表面にCVDによりp型シリコン層を形成したものの走査型電子顕微鏡写真であり、
図3(c)は太陽電池セルの写真であり、
図3(d)は最終的に作製された太陽電池構造の模式図である。
図3(d)には、分子終端シリコンナノ粒子1と、表面電極2と、p型シリコンマトリクス3と、n型シリコンナノワイヤ4と、シリコン基板5と、裏面電極6と、が示されている。
【0023】
図4に、このようにして作製した複合型太陽電池の特性評価のために行ったI−V測定結果および外部量子効率を調べた結果を示す。より詳細に、
図4(a)は、1−オクタデセンで終端されたシリコン粒子を用いた場合(SiQDsあり)と用いなかった場合(SiQDsなし)の太陽電池特性(I−V特性)評価の結果を示すグラフである。
図4(b)は、1−オクタデセンで終端されたシリコン粒子を用いた場合(SiQDsあり)と用いなかった場合(SiQDsなし)の外部量子効果測定の結果を示すグラフである。ここでは、本発明の実施例の複合型太陽電池と、シリコンナノ粒子を使用しなかった以外は当該実施例と同一構造、すなわちシリコン太陽電池の表面にシリコンナノワイヤ及びp型シリコンマトリクスが付着している構造の比較対象用太陽電池とを比較した。その結果、本発明の実施例と比較対照用太陽電池とでは、開放電圧および構造因子に変化はないが、本発明の実施例では、短絡電流が約16%増大し、変換効率が10.9%から12.9%へ増大した。
【0024】
短絡電流の増大はシリコンナノ粒子から下地のシリコン太陽電池層へのエネルギー移動が生じたためである。シリコンナノ粒子から下地のシリコン太陽電池層へのエネルギー移動に関しては、
図5のフォトルミネッセンスの実験結果から証明される。
図5は、1−オクタデセンで終端されたシリコン粒子のシリコン基板上およびガラス基板上におけるフォトルミネッセンス寿命測定結果を示すグラフである。ガラス基板上およびシリコン基板上に1−オクタデセンで終端されたシリコン粒子を分散させた場合のシリコンナノ粒子の発光寿命を調べた結果を解析すると、シリコン基板上の場合に著しく発光寿命が減少し、下地がシリコン基板の場合にナノ粒子から下地のシリコン基板へのエネルギー移動が効率よく発生していることが実証できている。
【0025】
当然ながら、本発明は上述の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲内で多様な変形が可能である。例えば、上で図示し説明した実施例ではn型シリコン基板上に設けられたn型シリコンナノワイヤを一旦p型シリコンマトリクス中に埋め込み、このシリコンマトリクスの表面に分子終端シリコンナノ粒子を塗布した。実施例でこの構造を採用したのは、上面の電極構造(表面電極2)がナノワイヤに比べて容易に形成でき、また電極とのコンタクトも容易にできるためである。したがって、シリコンナノワイヤを完全に埋め込むのではなく、n型シリコンナノワイヤの表面にp型のシリコンシェル層を形成し、その表面にシリコンナノ粒子を塗布しても良い。更には、n型層とp型層は逆になっても良い。何れの構造においても、エネルギー移動効果としては同じ効果が期待できる。このように、本発明においては、太陽電池の構成要素であって、分子終端シリコンナノ粒子が受け取った紫外線のエネルギーをエネルギー移動により受け取り、太陽電池からの電気出力に寄与するキャリアを生成することができる任意の箇所にシリコンナノ粒子を設置することができる。なお、シリコンナノ粒子の配置に関して、シリコンマトリクス等の紫外線吸収率が低いといっても、紫外線がシリコンナノ粒子に到達する前に多少とも吸収が起こるとシリコンナノ粒子の効果が低減してしまうため、この点からは太陽電池内部ではなく表面に置く方が好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0026】
以上のように本発明は太陽電池の高効率化に寄与する簡便で新しい技術として産業上大いに利用されることが期待される。
【符号の説明】
【0027】
1 分子終端シリコンナノ粒子
2 表面電極
3 p型シリコンマトリクス
4 n型シリコンナノワイヤ
5 シリコン基板
6 裏面電極
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0028】
【非特許文献1】M. Dutta and N. Fukata, Nano Energy 11, 219-225 (2015).
【非特許文献2】S. D. Wolf, A. Descoeudres, Z. C. Holman, and C. Ballif, Green 2, 7 (2012).
【非特許文献3】T. Takagahara and K. Takeda, Phys. Rev. B46 (23), 15578-15581 (1992).
【非特許文献4】K. Sato, H. Tsuji, K. Hirakuri, N. Fukata, and Y. Yamauchi, Chem. Commun. 25, 3759-3761 (2009).
【非特許文献5】村上浩一、牧村哲也、深田直樹、レーザー研究 33, 5-11(2005)
【非特許文献6】S. Azuma and S. sato, Chem. Lett. 40 (11), 1294-1296 (2011).
【非特許文献7】J. G. C. Veinot, Chem. Commun. 4160-4168 (2006).