(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6433411
(24)【登録日】2018年11月16日
(45)【発行日】2018年12月5日
(54)【発明の名称】同期電動機用ドライブ装置
(51)【国際特許分類】
H02P 27/06 20060101AFI20181126BHJP
H02P 6/16 20160101ALI20181126BHJP
【FI】
H02P27/06
H02P6/16
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-223433(P2015-223433)
(22)【出願日】2015年11月13日
(65)【公開番号】特開2017-93229(P2017-93229A)
(43)【公開日】2017年5月25日
【審査請求日】2017年11月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】501137636
【氏名又は名称】東芝三菱電機産業システム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107928
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 正則
(72)【発明者】
【氏名】林 誠
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 伸也
【審査官】
樋口 幸太郎
(56)【参考文献】
【文献】
特開2005−091269(JP,A)
【文献】
特開2011−185190(JP,A)
【文献】
特開2013−090547(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 27/06
H02P 6/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸にレゾルバが取り付けられた同期電動機を駆動するインバータと、
前記インバータの出力電流である第1の検出電流を検出する第1の電流検出器と、
前記同期電動機の界磁電流である第2の検出電流を検出する第2の電流検出器と、
前記インバータを制御するインバータ制御部を具備し、
前記インバータ制御部は、
前記レゾルバの位置検出角、前記第1及び第2の検出電流から前記同期電動機の負荷角を求める演算手段と、
前記第1の検出電流を、前記レゾルバの位置検出角に前記負荷角を加えた値を基準位相として変換して同期電動機のトルク電流帰還を得る変換手段と、
前記トルク電流帰還とトルク電流基準とを比較してその差分が最小となるように電圧位相補償値を出力する電流制御手段と、
前記電圧位相補償値と前記レゾルバの位置検出角と前記負荷角とを合算して前記インバータの出力電圧位相を得る電圧位相演算手段と、
前記レゾルバの位置検出角を補正する位置補正手段と
を有し、
前記位置補正手段は、
前記同期電動機のトルク電流が所定の閾値以下で且つ前記同期電動機の回転速度が所定の閾値以上のとき、前記電流制御手段の積分増幅器の出力を積分して前記レゾルバの位置検出角に加算するようにしたことを特徴とする同期電動機のドライブ装置。
【請求項2】
前記トルク電流基準は、
前記レゾルバの位置検出角から求められた前記同期電動機の速度帰還と、与えられた速度指令とを比較してその差分が最小となるように制御する速度制御手段の出力であることを特徴とする請求項1に記載の同期電動機用ドライブ装置。
【請求項3】
前記位置補正手段は、
前記トルク帰還電流値の増大に応じてその出力を低減させるような補正手段を有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の同期電動機用ドライブ装置。
【請求項4】
前記同期電動機の回転速度が基底速度以下のとき、通常の2軸ベクトル制御を行うようにしたことを特徴とする請求項1乃至請求項3に何れか1項に記載の同期電動機用ドライブ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、同期電動機用ドライブ装置に関し、特に制御特性を改善した同期電動機用ドライブ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
同期電動機の駆動制御を行う場合、一般的にはベクトル制御に基づくパルス幅変調(PWM)に従って電動機電流が制御される。そして、基底速度以上で低減トルク特性で運転する場合は、PWMによる電圧可変制御でなく、電圧は一定で界磁軸に対する電圧の位相を制御することが行われている(例えば特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−124544号公報(全体)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に示されるような位相制御によってドライブ装置の出力電流を制御する構成の場合、同期電動機の回転位置を検出する必要があり、通常はレゾルバが用いられる。ところがこのレゾルバは、周囲温度によってその出力が変化するため、例えば同期電動機の周囲温度が調整時から変化したとき、検出誤差が生じ、その結果トルク特性に変化が生じて正常な運転ができない場合があった。この対策として、温度検出を行って位置検出角を補正することが考えられるが、そのためには温度検出器が必要となってしまう。本発明は上記問題点に鑑みて為されたもので、温度検出器を設けることなくレゾルバ出力の温度ドリフト補正が可能となる同期電動機用ドライブ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、本発明の同期電動機用ドライブ装置は、回転軸にレゾルバが取り付けられた同期電動機を駆動するインバータと、前記インバータの
出力電流
である第1の検出電流を検出する第1の電流検出器と、前記同期電動機の界磁電流
である第2の検出電流を検出する第2の電流検出器と、前記インバータを制御するインバータ制御部を具備し、前記インバータ制御部は、前記レゾルバの位置検出角、前記第1及び第2の検出電流から前記同期電動機の負荷角を求める演算手段と、前記第1の検出電流を、前記レゾルバの位置検出角に前記負荷角を加えた値を基準位相として変換して同期電動機のトルク電流帰還を得る変換手段と、前記トルク電流帰還とトルク電流基準とを比較してその差分が最小となるように電圧位相補償値を出力する電流制御手段と、前記電圧位相補償値と前記レゾルバの位置検出角と前記負荷角とを合算して前記インバータの出力電圧位相を得る電圧位相演算手段と、前記レルバの位置検出角を補正する位置補正手段とを有し、前記位置補正手段は、前記同期電動機のトルク電流が所定の閾値以下で且つ前記同期電動機の回転速度が所定の閾値以上のとき、前記電流制御手段の積分増幅器の出力を積分して前記レゾルバの位置検出角に加算するようにしたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0006】
この発明によれば、温度検出器を設けることなくレゾルバ出力の温度ドリフト補正が可能となる同期電動機用ドライブ装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本発明の実施例1に係る同期電動機用ドライブ装置の回路構成図。
【
図2】本発明の実施例1に係る同期電動機用ドライブ装置のトルク電流増幅器の内部構成図。
【
図3】本発明の実施例1に係る同期電動機用ドライブ装置の温度補正回路の内部構成図。
【
図4】本発明の実施例2に係る同期電動機用ドライブ装置の温度補正回路の内部構成図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照して本発明の実施例について説明する。
【実施例1】
【0009】
以下、本発明の実施例1に係る同期電動機用ドライブ装置を
図1乃至
図3を参照して説明する。
【0010】
図1は、本発明の実施例1に係る同期電動機用ドライブ装置の回路構成図である。交流電源1から整流器2に交流が給電され、これを所望の電圧の直流に変換し、平滑コンデンサ3を介してインバータ4に与える。インバータ4は直流を交流電圧に変換して同期電動機5を駆動する。インバータ4を構成するパワーデバイスはインバータ制御部10から与えられるゲート信号によってオンオフ制御されている。同期電動機5の回転軸にはレゾルバ6が取り付けられており、この位置検出角はインバータ制御部10に与えられる。また、インバータ4の出力側には電流検出器7が設けられ、この出力も電流帰還Iu、Iv、Iwとしてインバータ制御部10に与えられる。また、同期電動機5の界磁巻線は励磁用電源8によって直流励磁されており、界磁電流は電流検出器9で検出されてインバータ制御部10に与えられる。
【0011】
次にインバータ制御部10の内部構成について説明する。
【0012】
外部から与えられた速度基準ωr*と速度帰還ωrの差分は速度制御器11の入力となる。速度帰還ωrは、後述するように、補正された位置検出角θrを入力とする微分器21の出力である。速度制御器62においてはこの両者の偏差が最小となるように調節制御し、トルク基準T*を出力する。トルク基準T*は除算器12で磁束指令φ*によって除算され、トルク電流基準IT*を得る。このトルク電流基準IT*はトルク電流帰還ITと比較され、両者の偏差が電流制御器13の入力となる。トルク電流帰還ITは3相−MT変換器19の出力であるが、その詳細は後述する。電流制御器13はトルク電流基準IT*とトルク電流帰還ITの偏差が最小となるように電圧位相補償値Δθ*を出力して電圧位相演算器14に与える。電圧位相演算器14においては、機械角/電気角変換器20の出力である位置検出角θrと、磁束演算器18の出力である負荷角δと、この電圧位相補償値Δθ*を合算して電圧位相基準θ*を得る。この電圧位相基準θ*はインバータ4の出力電圧位相の指令値となるが、上記これらの角度の関連については後述する。
【0013】
電圧位相基準θ*と外部から与えられるインバータ4が出力すべき電圧の電圧振幅基準値V1とが極座標3相変換器15に与えられると、極座標3相変換器15は入力された極座標基準値を3相電圧基準値Vu*、Vv*、Vw*に変換する。そして、この3相電圧基準値Vu*、Vv*、Vw*をPWM変換器16によってインバータ4を構成するパワーデバイスのゲート信号に変換してインバータ4を駆動する。
【0014】
電流検出器7で検出されたIu、Iv、Iwの3相電流帰還は、3相dq変換器17に与えられ、ここで2軸の電流帰還Id及びIqに変換される。このときの変換基準位相は補正された位置検出角θrである。ここで、補正された位置検出角θrは、レゾルバ6の検出位置を機械角/電気角変換器20で電気角に換算したものを後述する位置補正回路21で補正したものである。機械角/電気角変換器20は、同期電動機5の極数をPとすると、検出機械角にP/2を乗算して求める。この補正された位置検出角θrは同期電動機5の磁極である界磁巻線の位置を示しているので、d軸電流帰還Idは界磁巻線軸の電流、q軸電流帰還Iqはこれと直交する軸の電流となる。
【0015】
ここで、q軸電流帰還Iqはトルク電流帰還ITとは異なる。トルク電流帰還ITは、3相電流帰還Iu、Iv、Iwを3相−MT変換器19で変換して求める。3相−MT変換器19の変換基準位相は、上記磁極位置検出値θrに負荷角δを加算した値となっている。この負荷角δは同期電動機5に負荷電流Iu、Iv、Iwが流れたとき、その負荷電流Iu、Iv、Iwの電機子反作用によって電動機の主磁束が界磁巻線軸からずれる角度を示す。従って3相−MT変換器19のトルク軸に相当するトルク電流帰還ITはこのずれた主磁束に直交するので、実際の同期電動機5を2軸制御する場合のトルク軸電流となる。尚、負荷角δはトルク電流帰還ITが少ない領域ではトルク電流帰還ITに比例する角度であり、内部相差角とも称される。この負荷角δは、d軸電流帰還Id及びq軸電流帰還Iqと、電流検出器9で検出された界磁電流Ifとを磁束演算器18に与えることによって得ることができる。磁束演算器18は、これらの電流と同期電動機5の定数からギャップ磁束を演算し、更にdq軸のギャップ磁束から負荷角δを演算する。尚、界磁電流Ifは励磁用電源8の出力であるが、この励磁用電源8には磁束指令φ*を入力とする界磁電流演算器22の出力によって制御されている。
【0016】
次に、位置補正回路21の構成及び動作について、
図2及び
図3も参照して以下に説明する。
図2は電流制御器13の内部構成図である。電流制御器13は、トルク電流基準IT*とトルク電流帰還ITの差分を、比例増幅器131で増幅したものと積分増幅器132で増幅したものとの合算値が電圧位相補償値Δθ*となるように構成されたPI制御器である。そして、積分増幅器132の出力を位置補正回路21の入力とする。
【0017】
図3は位置補正回路21の内部構成図である。積分増幅器132の出力は、スイッチ回路216を介して積分回路217に与えられ、この積分回路217の出力が位置補正量ΔθTとなる。スイッチ回路216の閉路条件は、以下の構成で作成されている。トルク電流帰還ITは絶対値回路211を介して比較回路212のa端子に与えられる。比較回路212のb端子には最小電流設定値Iminが与えられる。そして比較回路212は電流帰還ITの絶対値が最小電流設定値Imin以下のとき、信号1をAND回路213に出力する。同様に速度帰還ωrは絶対値回路214を介して比較回路212のa端子に与えられる。比較回路212のb端子には最大速度設定値ωmaxが与えられる。そして比較回路215は速度帰還ωrの絶対値が最大速度設定値ωmax以上のとき、信号1をAND回路213に出力する。そしてAND回路213は両方の条件が成立したとき、スイッチ回路216を閉路する。
【0018】
以上の説明により、位置補正回路21は、同期電動機5の回転速度が所定の閾値以上で且つ負荷率が所定値以下のとき、位置補正量ΔθTを出力する。同期電動機5が無負荷運転されている状態であって、機械角/電気角変換器20の出力である位置検出角θrが正確であれば、位置補正量ΔθTは0になる筈であるので、この状態で位置検出角θrに位置補正量ΔθTを加えた状態で全体の閉ループ系がバランスしていれば、位置検出角θrは温度ドリフト等で位置補正量ΔθTだけ誤差が生じたと考えることができる訳である。この位置補正量ΔθTは積分回路217によって積分ホールドされているので、AND回路213の出力が0になってスイッチ回路216が開路状態になってもその値が保持される。
【0019】
尚、
図1において位置補正回路21の出力位置補正量ΔθTに外部から与えられる位置検出器取付誤差補正量ΔθPが加えられているが、これは文字通りレゾルバ6の取り付け時の誤差を補正するものであり、何らかの方法で得られた取付誤差を常時補正するようにしているものである。この実施例1によれば、位置検出器取付誤差補正量ΔθPに誤差を含んでいても、その誤差と前述の温度ドリフト誤差を包括して位置補正量ΔθTが得られるので、その誤差も補正することが可能となる。また、位置検出器取付誤差補正量ΔθPを与えなくてもその取付誤差を含む補正が可能となる。
【0020】
次に位置補正量ΔθTの符号について考察する。温度ドリフト等に起因する位置ずれが、負荷角δを小さくする方向に生じたときには、この位置ずれを補正する位置補正量ΔθTは正符号となり、逆の場合は負符号となる。位置ずれが、負荷角δを小さくする方向に生じるということは、同期電動機5が正回転時に逆転方向にずれていることになり、逆に位置ずれが、負荷角δを大きくする方向に生じるということは、同期電動機5が正回転時に正回転方向にずれていることになる。
【実施例2】
【0021】
図4は本発明の実施例2に係る同期電動機用ドライブ装置の温度補正回路21Aの内部構成図である。この実施例2の各部について、
図3の本発明の実施例1に係る同期電動機用ドライブ装置の位置補正回路21の内部構成図の各部と同一部分は同一符号で示し、その説明は省略する。この実施例2が実施例1と異なる点は、トルク電流帰還ITを入力とする低減特性回路218を設け、この出力と積分回路217の出力とを乗算器219で乗算することによって位置補正量ΔθTを得るようにした点である。
【0022】
同期電動機5が所定の速度以上で運転されている条件においては、同期電動機5の鉄損及び機械損が必然的に生じているので、トルク電流帰還ITは0にはならない。トルク電流帰還ITが0でなければ、積分増幅器132の出力が常に生じている状態であるので、
図3における積分器217の出力の位置補正量ΔθTはその分過補正になっていると考えられる。このため
図4の低減特性回路218によってこの過補正分を吸収する。尚、低減特性回路218はトルク電流帰還ITに反比例するような演算を行えば良いが、実測データ等に基づいたテーブルを参照して求めるようにしても良い。
【0023】
以上、いくつかの実施例について説明したが、これらの実施例は例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施例は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施例やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0024】
例えば、
図1に示した電圧位相演算器14による位相制御は同期電動機5が所定の速度以上のときに行い、所定速度未満においては通常の2軸ベクトル制御に切り替えて運転するようにしても良い。この場合は、所定速度以上で磁束指令φ*を速度に比例して弱める界磁弱め制御を行うのが普通である。
【0025】
また、
図1の速度制御器11は必ずしも必要ではなく、トルク電流基準ITを電流制御器13に直接与えてトルク制御を行うようにしても良い。
【0026】
また、界磁電流演算器22の出力と界磁電流Ifを突き合わせて閉ループ制御する構成としても良く、更に、同期電動機5の無効電流が所定の値となるような界磁電流制御を行っても良い。
【符号の説明】
【0027】
1 交流電源
2 整流器
3 平滑コンデンサ
4 インバータ
5 同期電動機
6 レゾルバ
7 励磁用電源
8、9 電流検出器
10 インバータ制御部
11 速度制御器
12 除算器
13 電流制御器
14 電圧位相演算器
15 極座標3相変換器
16 PWM制御器
17 3相dq変換器
18 磁束演算器
19 3相−MT変換器
20 機械角/電気角変換器
21、21A 位置補正回路
22 界磁電流演算器
131 比例増幅器
132 積分増幅器
211、214 絶対値回路
212、215 比較回路
213 AND回路
216 スイッチ回路
217 積分回路
218 低減特性回路
219 乗算器