特許第6433574号(P6433574)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6433574
(24)【登録日】2018年11月16日
(45)【発行日】2018年12月5日
(54)【発明の名称】電動パワーステアリング装置
(51)【国際特許分類】
   B62D 5/04 20060101AFI20181126BHJP
   H02P 6/16 20160101ALI20181126BHJP
   G01B 21/22 20060101ALI20181126BHJP
   B62D 6/00 20060101ALN20181126BHJP
【FI】
   B62D5/04
   H02P6/16
   G01B21/22
   !B62D6/00
【請求項の数】8
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-501773(P2017-501773)
(86)(22)【出願日】2015年2月26日
(86)【国際出願番号】JP2015055629
(87)【国際公開番号】WO2016135923
(87)【国際公開日】20160901
【審査請求日】2017年2月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110423
【弁理士】
【氏名又は名称】曾我 道治
(74)【代理人】
【識別番号】100111648
【弁理士】
【氏名又は名称】梶並 順
(74)【代理人】
【識別番号】100122437
【弁理士】
【氏名又は名称】大宅 一宏
(74)【代理人】
【識別番号】100147566
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100161171
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 潤一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100161115
【弁理士】
【氏名又は名称】飯野 智史
(74)【代理人】
【識別番号】100090011
【弁理士】
【氏名又は名称】茂泉 修司
(72)【発明者】
【氏名】飯田 一
(72)【発明者】
【氏名】後閑 博
(72)【発明者】
【氏名】小河 賢二
【審査官】 田々井 正吾
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−231588(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/110206(WO,A1)
【文献】 特開2014−079033(JP,A)
【文献】 特開2012−046047(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 5/04
G01B 21/22
H02P 6/16
B62D 6/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブラシレスモータによりアシストする電動パワーステアリング装置において、
主電源がOFFのとき、外力により回された前記ブラシレスモータからの誘起電圧を整流回路を介して検出し、前記誘起電圧を高回転検出閾値及び低回転検出閾値と比較判定し、前記誘起電圧が、前記高回転検出閾値以下から前記高回転検出閾値以上になる第1遷移状態のときには前記ブラシレスモータが高回転状態にあると判定して前記ブラシレスモータに接続された回転角センサの間欠励磁周期を予め決められた短い周期にするとともに、前記誘起電圧が、前記高回転検出閾値以上から前記高回転検出閾値以下になる第2遷移状態のときには、前記整流回路の出力電圧の山−山間の電気角に相当する待機時間が経過した時点以後に前記誘起電圧が前記低回転検出閾値以下になる第3の遷移状態のときには前記ブラシレスモータが低回転状態にあると判定して前記間欠励磁周期を予め決められた長い周期にする周期切替部を備え、
前記周期切替部は、クロックのカウントで時間を計測するタイマと、前記タイマからのトリガによりスイッチをON/OFFすることでタイマの時間間隔による間欠周期で前記回転角センサ及び前記ブラシレスモータの回転角度位置を検出する回転角度位置検出部に電流を流す、
電動パワーステアリング装置。
【請求項2】
前記ブラシレスモータが、永久磁石のP極N極ペアを1組とするとき、k組の永久磁石で構成された回転子と、所定の角度でシフトして設置されたh個のグループで構成されh相の電気端子を持つ界磁コイル群で構成されており、
前記整流回路の出力電圧は、h相分h本の前記誘起電圧に対する半波整流電圧であり、前記待機時間は、twait_a(sec)=360(deg)÷h÷k÷(360(deg)×60(sec)×r_m(rpm))(ただし、r_m(rpm)は前記ブラシレスモータの回転軸の回転速度)から求められるangle_a(deg)=360(deg)÷h(相)の角度相当時間である
請求項1に記載の電動パワーステアリング装置。
【請求項3】
前記ブラシレスモータが、永久磁石のP極N極ペアを1組とするとき、k組の永久磁石で構成された回転子と、所定の角度でシフトして設置されたh個のグループで構成されh相の電気端子を持つ界磁コイル群で構成されており、
前記整流回路の出力電圧は、h相分h本の前記誘起電圧に対する全波整流電圧であり、前記待機時間は、twait_a(sec)=360(deg)÷h÷2÷k÷(360(deg)×60(sec)×r_m(rpm))(ただし、r_m(rpm)は前記ブラシレスモータの回転軸の回転速度)から求められるangle_a(deg)=360(deg)÷h(相)÷2の角度相当時間である
請求項1に記載の電動パワーステアリング装置。
【請求項4】
前記高回転検出閾値は、前記モータの最も低く想定される高回転数時の山の頂上に実質的に等しい値に設定され、前記低回転検出閾値は、前記整流回路に用いられる整流素子の順方向電圧であって最も高く想定される谷の値より大きい値と実質的に等しい値に設定される
請求項1から3のいずれか一つに記載の電動パワーステアリング装置。
【請求項5】
前記周期切替部は、前記第1遷移状態を保持している状態において、1周期前の間欠周期の前記モータの回転角を保持し、各間欠励磁周期毎に、前記1周期前の保持された回転角と現周期の回転角との差分の回転角移動量を累積加算するとともに、前記第1遷移状態後の前記累積加算の示す回転角移動量が、前記angle_a(deg)=360(deg)÷h(相)に達したときを前記待機時間とする
請求項2に記載の電動パワーステアリング装置。
【請求項6】
前記周期切替部は、前記第1遷移状態を保持し続けている状態において、1周期前の間欠周期の前記モータの回転角を保持し、各間欠励磁周期毎に、前記1周期前の保持された回転角と現周期の回転角との差分の回転角移動量を累積加算するとともに、前記第2遷移状態後の前記累積加算の示す回転角移動量が、前記angle_b(deg)=360(deg)÷h(相)÷2に達したときを前記待機時間とする
請求項3に記載の電動パワーステアリング装置。
【請求項7】
前記周期切替部は、前記誘起電圧を検出する誘起電圧検出部からの電圧信号によるモータ回転速度の代わりに、前記回転角センサの出力信号を受けた回転角度位置検出部の出力と、前記1周期前の回転角を保持する1周期前角度位置保持部の出力との角度位置差分からモータ回転速度を検出する回転角速度検出部を備える
請求項5又は6に記載の電動パワーステアリング装置。
【請求項8】
前記周期切替部は、前記誘起電圧を検出する誘起電圧検出部からの電圧信号によるモータ回転速度に加えて、前記回転角センサの出力信号を受けた回転角度位置検出部の出力と、前記1周期前の回転角を保持する1周期前角度位置保持部の出力との角度位置差分からモータ回転速度を検出する回転角速度検出部を備える
請求項5又は6に記載の電動パワーステアリング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は自動車の電動パワーステアリング装置に関し、特にブラシレスモータの回転角と回転数を回転角センサにより検出してこれらの回転角と回転数から自動車の操舵軸の絶対操舵角を算出し操舵力をブラシレスモータによりアシストする電動パワーステアリング装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
このような電動パワーステアリング装置としては、主電源がON状態のときにはブラシレスモータの回転角センサとしての例えばレゾルバの励磁コイルを通常の連続した正弦波で励磁し、主電源がOFFになったときには、バッテリの消費電流を低減するために、自動車のバッテリでバックアップされたバックアップ回路により、レゾルバの励磁コイルを間欠励磁してブラシレスモータの回転角と回転数を検出し自動車の操舵軸の操舵角を算出する。
【0003】
より具体的には、主電源がOFFのとき、ブラシレスモータには電源は与えられないが、何らかの理由でハンドルが回されたとき、逆にモータから誘起電圧が発生するので、ブラシレスモータの端子で検出した起電圧に応じて、起電圧が判定閾値より高ければ回転数も高いので上記の間欠励磁の周期を短く、すなわち分周比を小さくし、起電圧が判定閾値より低ければ回転数も低いので上記の間欠励磁の周期を長く、すなわち分周比を大きくするというように間欠励磁周期を切り替えるものがある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第5140122号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の特許文献1のように、レゾルバの2つの検出コイルによる検出電圧の正負の組み合わせからレゾルバの1回転を90°毎に4つの領域、すなわち象限に区分し、間欠励磁の周期毎にその象限の状態を監視することにより回転数カウンタの値を増減しているが、このような構成だと、間欠周期の初期でハンドル回転に急な加速が掛かったような場合、象限を1つ以上跨いで回転角度が移動してしまうと角度を読み飛ばしてしまうことになる。
【0006】
また、上記の特許文献1では、モータの高回転−低回転の判定閾値にはヒステリシスを設けていないが、実際の判定には2つの閾値による何らかのヒステリシスが必要である。
三相ブラシレスモータの端子の三相の誘起電圧を、例えば半波整流回路を経由して検出する場合、整流回路内の平滑化用のコンデンサの容量が専らノイズ対策のため小さく、検出電圧は図7に示すように、山と谷を或る所定の電気角で繰り返す波形となる。従って、この場合のヒステリシス幅、すなわち閾値間隔は、検出電圧の山と谷の電位差以上に大きくしないと、高回転しているにも拘わらず、低回転と判定されてしまう可能性がある。
【0007】
しかしながら、低回転側の閾値、すなわち戻り検出閾値を下げることは、低回転モードの回転範囲が狭くなり、結果的に消費電流低減には不利となる。また高回転側の閾値、すなわち検出閾値は、高速操舵されても、正しくモータの回転数が検出できるように上限が決定されている。
【0008】
また、誘起電圧の検出に半波整流回路を用いた場合、整流のためのダイオードの順方向電圧VFの温度特性のばらつきが大きく、例えばショットキーダイオードの場合には、0.05〜0.40Vの順方向電圧VFとなり、ブラシレスモータの誘起電圧発生も1.0V未満のところで検出しなければならないことを考えると、高回転検出閾値及び低回転検出用の戻り検出閾値の決定や全条件での安定した検出動作は難しいものになる。
【0009】
本来は、三相の交点電圧、すなわち図7の谷電圧を基準に高回転検出と低回転検出の閾値を設定できれば、理想的な半波整流回路の場合、最大で山−山間又は谷−谷間の電気角が120°あり、モータ端子の誘起電圧の0V基準値M0から見て、谷は山のSin(30°)=Sin(150°)=1/2の電圧となるので、理想的には谷がある交点電圧を越えるときを高回転検出とした時に、その交点電圧の1/2を低回転検出の戻り閾値と決定すれば、高回転検出と低回転検出はモータの加減速に対して安定的に切り替わって動作する。
【0010】
しかしながら、誘起電圧の温度特性と誘起電圧が低いモータを使用し、温度が低く整流ダイオードの順方向電圧降下VFが大きく出る図7の例のような場合には、三相の交点電圧が順方向電圧VFに埋もれてしまうことになり、谷点を基準に高回転検出と低回転検出の2つの閾値電圧を設定できなくなる。
【0011】
高回転検出は、誘起電圧がVFを越えた電圧領域の山の部分で閾値を設定し、低回転検出閾値を回転ゼロの整流出力電圧0Vの点R0、すなわち整流ダイオードの順方向電圧VFの点R0に設定したとしても、高回転検出周辺の一定角速度で回った場合に回転検出信号は、山谷の変化によりハンチング(振動)してしまうことになり、最悪の場合、この120°間で実際には高速回転しているので読み飛ばしを起こすことになってしまう。
【0012】
また、全波整流回路による誘起電圧を検出した場合、三相の交点電圧を基準に高回転検出と低回転検出の閾値が設定できれば、最大で山−山間の電気角60°相当区間での山から谷への落ち込みが、半波整流時が1/2であるのに対して√3/2しか降下を考慮しなくて済むため、その意味では半波整流検出より最適である。ただし、全波整流の場合は、整流ダイオード順方向電圧VFが2倍に降下してしまうので、やはり三相の交点電圧が2×順方向電圧VFに埋もれてしまうという問題がある。
【0013】
従って、前述の半波整流回路の場合と同じく、高回転検出は、誘起電圧がVFを越えた電圧領域で閾値を設定し、且つ低回転検出閾値を回転ゼロの整流出力電圧0Vの点R0に設定したとしても、高回転検出周辺の一定角速度で回った場合に回転検出信号は、山谷の変化によりハンチング(振動)してしまうことになり、最悪の場合、この60°間で実際には高速回転しているので読み飛ばしを起こすことになってしまう。
【0014】
実際にモータによっては求める回転数で十分な誘起電圧が得られずヒステリシスを設けると、GNDレベルに近くなって低回転だと判定して戻れなくなるケースが発生する。また一方で、外部からのモータの回転数の急な変動入力に対してモータの各相の波形が上下に変動し、交点である谷点が上下変動したとき、谷点が下がることで本来無い谷点を誤検出することで、読み飛ばしてしまうことが起こる。
【0015】
本発明は、斯かる課題を解決するためになされたもので、その目的は、主電源OFF時に、回転角センサを間欠的な周期で励磁するときの2つの判定閾値に最適なヒステリシスを設けることにより、ハンドル回転に急な加速が掛かったような場合でも閾値の読み飛ばしが無く回転角センサによるブラシレスモータの回転角と回転数を正確に検出できる電動パワーステアリング装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記の目的を達成するため、本発明に係るブラシレスモータによりアシストする電動パ
ワーステアリング装置は、主電源がOFFのとき、外力により回された前記ブラシレスモータからの誘起電圧を整流回路を介して検出し、前記誘起電圧を高回転検出閾値及び低回転検出閾値と比較判定し、前記誘起電圧が、前記高回転検出閾値以下から前記高回転検出閾値以上になる第1遷移状態のときには前記ブラシレスモータが高回転状態にあると判定して前記ブラシレスモータに接続された回転角センサの間欠励磁周期を予め決められた短い周期にするとともに、前記誘起電圧が、前記高回転検出閾値以上から前記高回転検出閾値以下になる第2遷移状態のときには、前記整流回路の出力電圧の山−山間の電気角に相当する待機時間が経過した時点以後に前記誘起電圧が前記低回転検出閾値以下になる第3の遷移状態のときには前記ブラシレスモータが低回転状態にあると判定して前記間欠励磁周期を予め決められた長い周期にする周期切替部を備え、前記周期切替部は、クロックのカウントで時間を計測するタイマと、前記タイマからのトリガによりスイッチをON/OFFすることでタイマの時間間隔による間欠周期で前記回転角センサ及び前記ブラシレスモータの回転角度位置を検出する回転角度位置検出部に電流を流すものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、ブラシレスモータの端子電圧を検出することにより、モータの回転速度を2つの閾値に基づき高回転または低回転判定するとき、検出電圧が一旦高回転判定閾値以上となった場合、高回転モードの継続が可能となるため、高回転−低回転の判定閾値のヒステリシス幅を検出電圧波形に影響されることなく決定ができ、より低い消費電流を実現する事ができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明に係る電動パワーステアリング装置の実施の形態1を示す回路ブロック図である。
図2】本発明に係る電動パワーステアリング装置の実施の形態1の具体例を示す回路ブロック図である。
図3】本発明に係る電動パワーステアリング装置の実施の形態2を示す回路ブロック図である。
図4】本発明に係る電動パワーステアリング装置の実施の形態2の具体例を示す回路ブロック図である。
図5】本発明に係る電動パワーステアリング装置の各実施の形態に用いる誘起電圧検出部の一実施例として半波整流回路)を示す回路図である。
図6】本発明に係る電動パワーステアリング装置の各実施の形態に用いる誘起電圧検出部の別の実施例として全波整流回路)を示す回路図である。請求項1の誘起電圧検出の一実施例の全波整流を示す回路である。
図7】本発明に係る電動パワーステアリング装置の各実施の形態に用いる三相モータの誘起電圧の半波整流波形と閾値との関係を示したグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明に係る電動パワーステアリング装置を、その実施形態を示した図を参照して詳細に説明する。なお、各図において同一または相当する部分に付いては同一符号を付す。
【0020】
実施の形態1.
図1に示す本実施形態1は、自動車の操舵力を永久磁石のP極−N極対を1組とするとき、k組の永久磁石で構成された回転子と、所定の角度でシフトして設置されたh個のグループで構成されh相の電気端子を持つ界磁コイル群とで構成された三相ブラシレスモータ7と、電源ONの時に動作する電動パワーステアリング主回路21と、この主回路21に接続された、それぞれ点線で示す回転角度検出部23及びバックアップ回路22とを備えた電動パワーステアリング装置を示している。モータ7は、その軸が歯車などを介してハンドル回転軸に常時直結されている。
【0021】
点線で示す回転角度検出部23は、ブラシレスモータ7の回転角を電気信号に変換して取り出す回転角センサ8と、その回転角信号から回転角度位置を検出する回転角度位置検出部5とで構成されている。また、点線で示すバックアップ回路22は、一点鎖線で示す周期切替部24と回転数検出部13と通信部15とで構成されている。さらに、周期切替部24は、間欠周期切替部1と回転角速度検出部2と誘起電圧検出部3と回転角度移動量計算部4とを含んでいる。
【0022】
誘起電圧検出部3は、主回路21からモータ7へのモータ相電圧を同時に入力し、検出した誘起電圧を回転角速度検出部2に与える。なお、回転角速度検出部2が、「回転角速度」と称しているのは、誘起電圧の波形が「回転角速度」を示しているためである。
【0023】
回転角速度検出部2は、その誘起電圧を、図7に示す高回転検出閾値Th1及びこの高回転検出閾値Th1より低い低回転検出用の戻り検出閾値Th2と比較判定し、誘起電圧が高回転検出閾値Th1以下から高回転検出閾値Th1以上になる第1遷移状態のときには高回転状態にあると判定してブラシレスモータ7に接続された回転角センサ8の間欠励磁周期を予め決めた短い周期とする信号、すなわち分周比を小さくする信号を間欠周期切替部1に与える。これとともに、誘起電圧が、高回転検出閾値Th1以上から高回転検出閾値Th1以下になる第2遷移状態のときには、これを知らせる信号を回転角度移動量計算部4に与える。
【0024】
なお、後述する図7に示すように、上記の高回転検出閾値Th1は、誘起電圧検出部3内の整流回路の出力としてモータ7の最も低く想定される高回転数時の山の頂上に近い値に設定される。実際には閾値を超える必要があるので、僅かに山の値を下回る値に設定される。また、戻り検出閾値としての低回転検出閾値Th2は、整流回路に用いられるダイオードの順方向電圧VFであって最も高く想定される谷の値より大きい値R0に近い値に設定される。実際には、閾値Th2を下回る必要があるので、R0より僅かに大きい値に設定される。
【0025】
さらに、回転角速度検出部2は、誘起電圧が高回転状態から低回転検出閾値Th2以下になった第3遷移状態のときには低回転状態にあると判定して回転角センサ8の間欠励磁周期を予め決められた長い周期とする信号、すなわち分周比を大きくする信号を間欠周期切替部1に与える。
【0026】
回転角度移動量計算部4は、待機タイマ30を内蔵し、回転角速度検出部2からの第2遷移状態を受けてから、誘起電圧から得られる整流電圧の山−山間の電気角に相当する待機時間が経過した時点までをクロック10により待機タイマ30がカウントして、このカウント値に達したことを間欠周期切替部1に知らせる。
【0027】
間欠周期切替部1は、タイマ9を内蔵し、回転角速度検出部2からの高回転又は低回転状態に対応した間欠周期に関する信号を受けて、回転角センサ8と回転角度位置検出部5への間欠周期の信号を与える。これとともに、間欠周期切替部1は、回転角度移動量計算部4からの信号に基づき、低回転に対応する間欠周期の信号出力を一定時間待機させる。
なお、バックアップ回路22の回転数検出部13は、回転角度位置検出部5からの回転角度位置信号を受けて回転数を算出し、通信部15を介して主回路21へ送る。
【0028】
図2は、図1に示した実施の形態1のより具体的な回路例を示したもので、スイッチ20が入った場合は、電源17がONして、主回路21におけるCPU18及びインバータ16、並びに回転角センサ8に電源が供給され、CPU18は回転角センサ8の情報をもらいながらモータ7を16インバータを通じて回転制御する。
【0029】
スイッチ20がOFFでモータ7が駆動されない場合、ハンドルを通じてモータ7の回転軸に外力により回転する場合、バッテリ19からの電源供給により始終、観測電源11は電源供給可能状態にあり、間欠周期切替部1によってモータ7の回転が検出されない間は、間欠周期にてスイッチ12により回転角センサ8と回転角度位置検出部5に間欠的に電源が供給される。
【0030】
誘起電圧検出部3、回転角速度検出部2、回転角度移動量計算部4、CLK10、1周期前角度位置保持部6、間欠周期切替部1、異常検出部30、反時計回りの回転角移動量(CCW)積算部131、及び時計回りの回転角移動量(CW)積算部132は、観測電源11により始終電源供給を受け動作している。スイッチ20がOFFの時のモータの回転角度位置は回転角移動量積算部131と回転角移動量積算部132に蓄えられ、スイッチ20がONの時初めて通信部15に電源が供給され、CPU18に通信部15から回転角移動量積算部131,132の反時計回りの回転角移動積算量CCWと時計回りの回転角移動積算量CWが送られる。
【0031】
電動パワーステアリング装置の主電源17がONになっていて電動パワーステアリング主回路21からブラシレスモータ7へモータ相電圧U,V,Wが与えられ、このときにハンドルに運転者からの回転力が加わると、ギアを介して操舵軸(図示せず)に結合されたブラシレスモータ7に取り付けられたレゾルバなどの回転角センサ8を含む回転角度検出部23から回転角度位置情報が得られる。この回転角度位置情報の変化量からブラシレスモータ7の回転数を算出すると共に接続された操舵軸の操舵角を算出し保持することにより、ブラシレスモータ7による操舵軸へのアシスト機能が発揮される。
【0032】
今、自動車からキーが外されるなどして主電源17が遮断されアシスト機能が停止している間は、電動パワーステアリング主回路21が遮断されアシスト機能が停止している。このとき、自動車のバッテリ19により電源がバックアップされることで、例えば、停車中に運転者がハンドルを回すなどの操作を行って操舵軸に外力が加わると、バックアップ回路22により励磁信号が回転角センサ8に与えられ、回転角センサ8による回転角度位置情報の変化量から回転数を算出する。ブラシレスモータ7にギアを介して接続された操舵軸の操舵角を算出し保持する。
【0033】
通信部15は、主電源17がONになって電動パワーステアリング主回路21を構成するCPU18が動作を開始した後に回転数検出部13で検出した回転数をシリアル通信手段を介して送信し、CPU18が受信して以降のCPU18による回転数計測を継続し、次に主電源17がOFFになった時には、以降のバックアップ回路22による間欠周期の励磁による回転数計測を継続するために、CPU18による回転数計測値をシリアル通信手段を介して受信して、回転数検出部13に渡す機能を備えている。
【0034】
次に、主電源17がOFFになった時の動作について以下に説明する。
誘起電圧検出部3は、ブラシレスモータ7の回転軸が外力により回されることで、ブラシレスモータ7の回転速度に比例した振幅を持つ誘起電圧がモータ7の端子に発生し、端子の誘起電圧のh相分h本の電気信号を、誘起電圧として検出する。
【0035】
回転角速度検出部2は、その入力側に、例えば図5に示すような半波整流回路を備えている。この整流回路を通った後の整流電圧は、整流回路の平滑化回路が専らノイズ除去を目的とするため、平滑化コンデンサの容量が小さく、以て実質的には平滑化されずに、図7に示すような波形となり、図7に示す高回転検出閾値Th1及び低回転検出閾値Th2と比較される。
【0036】
そして、整流電圧が、高回転検出閾値Th1以下から以上に遷移するとき、前記の間欠励磁周期を短い間隔、すなわち分周比を小さく設定する制御信号を間欠周期切替部1に送る。整流電圧が、低回転検出閾値Th2以上から以下に遷移するときは、モータ7が低回転状態にあるから、前記の間欠励磁周期を長い間隔、すなわち分周比を大きくなるように間欠周期切替部1に制御信号を送る。
【0037】
間欠周期切替部1は、クロック(CLK)10のカウントで時間を計測するタイマ9を内蔵し、このタイマ9からのトリガによりスイッチ12をON/OFFすることで、タイマ9の時間間隔による間欠周期で、観測電源11から、回転角センサ8及び回転角度位置検出部5に電流を流す。これによって、回転角センサ8の励磁コイルが励磁されてモータ7の回転角が検出される。この検出された回転角は回転角度位置検出部5に送られて回転角度位置が算出され、回転角速度検出部2及び回転角度移動量計算部4に送られる。
【0038】
回転角度移動量計算部4は、タイマ9からの間欠励磁周期信号とは別に、クロック10をカウントする待機タイマ30を内蔵し、前記整流電圧が第2遷移状態のときに、その状態を保持し続ける時間として、待機タイマ30の待機時間twait_aを次のように求める。
360(deg)÷h÷k÷(360(deg)×60(sec)×r_m(rpm)) ・・・・・式(1)
ここで、r_m(rpm)は、ブラシレスモータ7の回転軸の回転速度である。
【0039】
これは、angle_a(deg)=360(deg)÷h(相)の角度相当を、モータ7の回転軸が回転する時間を待機時間twait_a(sec)とするとき、高回転検出閾値Th1以上から高回転検出閾値Th1以下への第2遷移時に待機タイマ30がカウントを開始し、待機時間twait_aに到達するまで、低回転検出閾値Th2の以上から以下への第3遷移時に前記間欠周期を長くする設定を間欠周期切替部1に対して待機させるものである。
【0040】
今、モータ7が電動パワーステアリング主回路21からの相電力供給で駆動されていないときに、ハンドルを回されるなど、回転軸への外力により回転させられた場合、モータ7の各相には回転速度に比例した誘起電圧が発生する。
極対数=5のモータ7を三相モータ、誘起電圧検出部3を図5のような半波整流回路で構成した場合、誘起電圧は図7のような互いに電気角の位相が120°(=360°÷三相)ずれた三相の正弦波電圧波形となる。
【0041】
これは、図7のような山−谷の波形のため、安定的に電圧を検出するには山−谷間の電圧差より大きいヒステリシスを設けて電圧比較を行う必要がある。
しかしながら、誘起電圧定数の低いモータでは検出したい回転速度に対して谷部分が半波整流回路のダイオードの順方向電圧VFの降下量を下回ると、低回転用の間欠周期に戻る信号が出力できない。
【0042】
そのため、ヒステリシスを小さく取る代わりに回転角度移動量計算部4を追加し、モータ誘起電圧が降下して高速周期信号が無効となってから、誘起電圧検出の閾値の回転速度で電気角120°分の回転する時間をクロック10でカウントすることで待機させてから間欠周期信号を間欠周期切替部1に出力する。それまでは高速周期は維持されるので、途中で大きくモータの回転速度が加速されても読み飛ばすことが無くなる。
【0043】
モータ7の回転速度が単調に減少すれば、当該電気角120°分の時間が経過してから低回転状態に対応する間欠周期に戻るし、途中で加速された場合は、電気角120°を過ぎた時刻で再度誘起電圧発生のピーク点を迎えるため、誘起電圧は閾値Th1を越える。これにより、回転角度移動量計算部4にも入力されている間欠周期切替部1への高速周期信号が再度アサートされ、当該電気角120°分の時間カウントはリセットされ、再度当該高速周期信号が無効となるまで待つことになる。
【0044】
このように、設定が困難な大きなヒステリシスの代わりに、例えば、タイマなどの時間処理として、一旦、高回転モードに入った後はモータ誘起電圧の発生が高回転検出に満たず高速周期切替信号が無効となった後、高回転検出閾値角速度での電気角移動量120°相当以上の時間は低回転モードに戻らないこととする。
【0045】
これにより、検出信号が谷に入ってレベルが下がって低回転を示しているのに、実際はモータの回転加速が増加しているような場合にも低回転用の間欠周期に戻ることを防止し高速周期のまま回転角速度を観測するので読み飛ばすことはなくなる。
三相誘起電圧の交点電圧を基準に低回転への戻りの閾値を設定できなかったことに対して、低回転の閾値を誘起電圧の低いモータでも読み飛ばしが発生しないよう対応することができる。
【0046】
図6は、上記の誘起電圧検出部3を全波整流回路で構成する場合を示し、この全波整流の場合には、三相モータ7の電気角の位相は60°(=360°÷(三相×2))ずれた6相の正弦波電圧波形となる。谷の電圧が半波整流より高くなるが、全波整流ではダイオード2個分の2×順方向電圧VF分降下するため、全波整流が半波整流に対して必ずしも有利という訳ではない。回転角度移動量計算部4での時間若しくは角度位置の計算は、電気角120°でなく60°となる。
【0047】
極対数=5の三相モータの回転速度を、図6に示すような全波整流回路からのモータの誘起電圧信号を用いて推定する場合、電気角が機械角の5倍となり、高速モードのままで状態を維持する角度位置の移動量が360°÷3÷2=60°となる。高回転検出閾値角速度での電気角移動量60°相当以上の時間は低回転モードに戻らないこととする。
【0048】
上述のように、高回転側の検出閾値Th1は、整流回路のダイオード順方向電圧VFの想定される最大値に設定され、また低回転側の閾値、すなわち戻り検出閾値Th2は、整流ダイオードの順方向電圧VFとして想定される最大電圧値、すなわち、実質的に整流出力電圧がゼロとなる値R0の近傍に設定される。
【0049】
また、図2の実施例では、異常検出部30を用いているが、これは、回転角センサ8の出力信号が4象限で示されるので、これを監視することにより、読み飛ばしを検出するものであるが、これは待機タイマの時間設定によっても、極めて僅かではあるが、読み飛ばしが生じ得るためである。
【0050】
さらに、回転数検出部13においては、反時計回りの回転角移動量(CCW)積算と時計回りの回転角移動量(CW)積算が可能である。
【0051】
実施の形態2.
図3に示す実施の形態2では、実施の形態1と比較して当該電気角120°又は60°分の経過時間を検出するために、間欠周期切替部1が作る周期で起動される回転角センサ8及び角度位置検出部5により検出されたモータ回転角度位置と、実施の形態1でも使用されている1周期前角度位置保持部6に保持された1周期前角度位置との差分から各周期毎の移動量を回転角度移動量計算部4は把握する。そして、これを毎周期累積加算することで当該電気角120°分の正確な移動量を計算して、間欠周期を低速モード用に切り替える。このため、累積加算器31を内蔵した回転角度移動量計算部40を用いている。従って、この累積加算器31には、クロック10からのクロック信号は不要である。
【0052】
タイマ動作の代わりに例えば、60°若しくは120°の角度確認として間欠周期毎の角度位置と1間欠周期前の角度位置の差分を累積加算することで、角度位置移動量が60°若しくは120°越えることを確認し、低回転モードへ切り替えることも可能である。
【0053】
図4は、この図3に示した実施の形態2を具体的に示したもので、図3に加えて、実施例1と同様に、異常検出部30が用いられていることである。
このような実施の形態2においても、図5の半波整流回路及び図6の全波整流回路は適用される。
【0054】
単調な減速でなく、当該電気角120°又は60°分の正確な移動量計算中、途中で加速された場合は実施の形態1と同様の動きをする。回転角センサ8はいくつか実現方法がある。レゾルバを用い励磁部に電流を流すことで電磁誘導にて4本の信号線に電気信号として出力されることになる。また、モータ7の回転軸に磁石を取り付け、その近傍に磁気抵抗をもつデバイスやホール素子を置いて電流を流すことで、磁石の回転を電気信号で取り出すことが可能となる。
【0055】
なお、モータ回転速度検出方法としては、回転角速度検出部2は、誘起電圧検出部3からの電圧信号によるモータ回転速度検出も可能であるし、若しくは、回転角度位置検出部5の出力と、1周期前角度位置保持部6の出力との差分によるモータ回転速度検出も可能である。該誘起電圧由来の情報のみからの高速周期への切替も可能なら、回転角センサ8由来の角度位置差分のみによる高速周期への切替も可能である。または、該誘起電圧由来の情報と回転角センサ8由来の角度位置差分の情報のANDなどの方法で両方を突き合わせて高速周期への切替を行うことも可能である。
【符号の説明】
【0056】
1 間欠周期切替部、2 回転角速度検出部、3 誘起電圧検出部、4,40 回転角度移動量計算部、5 角度位置検出部、6 1周期前角度位置保持部、7 ブラシレスモータ、8 モータの回転角センサ、9 タイマ、10 クロック、11 観測電源、12
観測電源を間欠周期切替の信号で入り切りするスイッチ、13 回転数検出部、15 通信部、18 CPU、19 バッテリ、20 電動パワーステアリングのON/OFFスイッチ、21 電動パワーステアリング主回路、22 バックアップ回路、23 回転角度検出部、24 周期切替部、30 待機タイマ、31 累積加算器、131 回転角移動量(CCW)積算部、132 回転角移動量(CW)積算部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7