(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
有機過酸化物を含有する有機酸エステル系液体を白金族金属触媒が担持された担持体に接触させ、該白金族金属触媒が担持された担持体が、モノリス構造を有する有機多孔質アニオン交換体に白金族金属触媒が担持されてなるものである請求項1又は請求項2に記載の有機酸エステル系液体の製造方法。
前記白金族金属触媒が、モノリス構造を有する有機多孔質アニオン交換体に、平均粒子径1〜100nmの白金族金属のナノ粒子が担持されている白金族金属担持触媒であり、
該モノリス構造を有する有機多孔質アニオン交換体が、連続骨格相と連続空孔相からなり、連続骨格の厚みが1〜100μm、連続空孔の平均直径が1〜1000μm、全細孔容積が0.5〜50mL/gであり、乾燥状態での重量当りのイオン交換容量が0.5〜6mg当量/gであり、イオン交換基が該モノリス構造を有する有機多孔質アニオン交換体中に均一に分布しているものであることを特徴とする請求項1ないし請求項4の何れかの請求項に記載の有機酸エステル系液体の製造方法。
前記モノリス構造を有する有機多孔質アニオン交換体が、互いにつながっているマクロポアとマクロポアの壁内に平均直径が1〜1000μmの共通の開口(メソポア)を有する連続気泡構造を有し、全細孔容積が1〜50mL/gであり、乾燥状態での重量当りのイオン交換容量が0.5〜6mg当量/gであり、イオン交換基が該モノリス構造を有する有機多孔質アニオン交換体中に均一に分布しているものであることを特徴とする請求項3ないし請求項5の何れかの請求項に記載の有機酸エステル系液体の製造方法。
前記モノリス構造を有する有機多孔質アニオン交換体が、平均粒子径1〜50μmの有機ポリマー粒子が凝集して三次元的に連続した骨格部分を形成し、その骨格間に平均直径が20〜100μmの三次元的に連続した空孔を有し、全細孔容積が1〜10mL/gであり、乾燥状態での重量当りのイオン交換容量が0.5〜6mg当量/gであり、イオン交換基が該モノリス構造を有する有機多孔質アニオン交換体中に均一に分布しているものであることを特徴とする請求項3ないし請求項5の何れかの請求項に記載の有機酸エステル系液体の製造方法。
前記モノリス構造を有する有機多孔質アニオン交換体が、イオン交換基が導入された全構成単位中、架橋構造単位を0.3〜5.0モル%含有する芳香族ビニルポリマーからなる平均太さが1〜60μmの三次元的に連続した骨格と、その骨格間に平均直径が10〜200μmの三次元的に連続した空孔とからなる共連続構造体であって、全細孔容積が0.5〜10mL/gであり、乾燥状態での重量当りのイオン交換容量0.5〜6mg当量/gであり、イオン交換基が該モノリス構造を有する有機多孔質アニオン交換体中に均一に分布しているものであることを特徴とする請求項3ないし請求項5の何れかの請求項に記載の有機酸エステル系液体の製造方法。
前記モノリス構造を有する有機多孔質アニオン交換体が、気泡状のマクロポア同士が重なり合い、この重なる部分が平均直径30〜300μmの開口となる連続マクロポア構造体であり、全細孔容積が0.5〜10mL/g、乾燥状態での重量当りのイオン交換容量が0.5〜6mg当量/gであり、イオン交換基が該モノリス構造を有する有機多孔質アニオン交換体中に均一に分布しており、且つ該連続マクロポア構造体(乾燥体)の切断面のSEM画像において、断面に表れる骨格部面積が、画像領域中25〜50%であるものであることを特徴とする請求項3ないし請求項5の何れかの請求項に記載の有機酸エステル系液体の製造方法。
前記モノリス構造を有する有機多孔質アニオン交換体が、連続骨格相と連続空孔相からなり、該骨格は、表面に固着する直径4〜40μmの多数の粒子体又は該有機多孔質体の骨格表面上に形成される大きさが4〜40μmの多数の突起体を有し、連続空孔の平均直径が10〜150μm、全細孔容積が0.5〜10mL/gであり、乾燥状態での重量当りのイオン交換容量が0.5〜6mg当量/gであり、イオン交換基が該モノリス構造を有する有機多孔質アニオン交換体中に均一に分布しているものであることを特徴とする請求項3ないし請求項5の何れかの請求項に記載の有機酸エステル系液体の製造方法。
前記モノリス構造を有する有機多孔質アニオン交換体が、気泡状のマクロポア同士が重なり合い、この重なる部分が水湿潤状態で平均直径20〜300μmの開口となる連続マクロポア構造体であり、該連続マクロポア構造体の骨格部の表層部が多孔構造であり、水湿潤状態での体積当たりのアニオン交換容量が0.4mg当量/mL以上であり、アニオン交換基が該モノリス構造を有する有機多孔質アニオン交換体中に均一に分布しているものであることを特徴とする請求項3ないし請求項5の何れかの請求項に記載の有機酸エステル系液体の製造方法。
過酸化物価(POV)が100mmoL/kg以下である上記有機酸エステル系液体から、過酸化物価(POV)が2mmoL/kg以下になるまで上記有機酸エステル系液体中の有機過酸化物を除去する請求項1ないし請求項13に記載の有機酸エステル系液体の製造方法。
上記有機酸エステル系液体が、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸プロピル、乳酸ブチル、ピルビン酸メチル、ピルビン酸エチル及びピルビン酸ブチルよりなる群から選ばれた少なくとも1種を含む請求項1ないし請求項14に記載の有機酸エステル系液体の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本発明について説明するが、本発明は、以下の具体的形態に限定されるものではなく、技術的思想の範囲内で任意に変形することができる。
【0036】
本発明は、電子部品作製用レジストの溶剤である有機酸エステル系液体、又は、電子部品作製用リンス液である有機酸エステル系液体に含有される有機過酸化物を除去する方法である。
本発明の特徴の一つは、上記有機酸エステル系液体中から有機過酸化物を除去しておこうと考えたことであり、本発明は、上記有機酸エステル系液体中から有機過酸化物を除去しておくと、前記効果を発揮することを確認してなされたものである。
【0037】
本発明における「電子部品」とは、有機過酸化物の存在が製作工程及び/又は最終製品に悪影響を及ぼす可能性のある電子部品であれば特に限定はないが、具体的には、例えば、電子管、半導体等の能動部品(素子);振動子、圧電素子等の受動部品(素子);プリント基板、アンテナ等の機構部品;等を言う。
中でも本発明の効果を奏する対象電子部品は、以下に限定されるものではないが、例えば、電子管としては、プラズマディスプレイ、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ等のディスプレイ;撮像管;等が挙げられ、半導体としては、集積回路(IC)、トランジスタ、ダイオード;等が挙げられる。集積回路(IC)としては、大規模集積回路(LSI);ダイナミックランダムアクセスメモリ(DRAM)、スタティックランダムアクセスメモリ(SRAM)等の汎用メモリ;等が挙げられる。また、プリント基板としては、ハイブリッド集積回路等が挙げられる。
【0038】
例えば、撮像管、ディスプレイ、集積回路(IC)、プリント基板等の電子部品を作製する過程では微細加工が必要であり、各種レジストによる画像形成(パターニング)が行われる。かかるレジストとしては、例えば、CCDイメージセンサ等の撮像素子用カラーフィルターレジスト;液晶、プラズマ、有機EL等のディスプレイ用カラーフィルターレジスト;集積回路(IC)作製用のフォトレジスト等の電磁波(可視光線、紫外線、X線等)レジスト;集積回路(IC)作製用の電子線等の粒子線レジスト;プリント基板作製用のレジスト等が挙げられる。
【0039】
これらレジストによる画像形成では、レジスト液を各種基板に塗布し、「光、X線等の電磁波;電子線等の粒子線;等のエネルギー線によるパターニング照射」(以下、単に「露光」と言う)を行い、次いで、現像液で現像後、リンス液でリンスする等の処理を行った後、基板上に残存するレジストを剥離除去し、その後、必要に応じて剥離液をリンスする。
【0040】
本発明の「有機酸エステル系液体の製造方法」は、電子部品作製に際して、微細加工する際に使用するレジストの溶剤である有機酸エステル系液体から有機過酸化物を除去する製造方法であり、また、電子部品作製に際して、現像後の現像液を除去するリンス液、若しくは、役目を終えた残存レジストを剥離した後の剥離液を除去するリンス液である有機酸エステル系液体から有機過酸化物を除去する製造方法である。
【0041】
本発明によって、レジストの溶剤である有機酸エステル系液体から有機過酸化物を除去しておくと、現像後に前記したように良好なレジスト形状が得られる。また、本発明によって、リンス液である有機酸エステル系液体から有機過酸化物を除去しておくと、前記したようにリンス後に、有機過酸化物の残存を抑制できる。
【0042】
本発明の「有機酸エステル系液体の製造方法」は、前記有機酸エステル系液体に含有される有機過酸化物を除去する方法であって、該有機酸エステル系液体を白金族金属触媒に接触させることによって、該有機液体中の有機過酸化物を除去することを特徴とする。
白金族金属触媒としては、ルテニウム触媒、ロジウム触媒、パラジウム触媒、オスミウム触媒、イリジウム触媒又は白金触媒が挙げられる。これらは、1種類を単独で用いても、2種類以上を組み合わせて用いてもよく、更に、2種類以上の金属を合金として用いてもよい。中でも有機過酸化物を除去する効果が高い点で、パラジウム触媒、白金触媒、白金/パラジウム合金触媒等が好ましく、同様の点で、パラジウム触媒が特に好ましい。
【0043】
上記白金族金属触媒は担持体に担持させて、そこに有機酸エステル系液体を接触させることが好ましい。すなわち、本発明の「有機過酸化物除去有機酸エステル系液体製造方法」は、上記有機酸エステル系液体を白金族金属触媒が担持された担持体に接触させて有機過酸化物を除去することが好ましい。
担持体としては、上記白金族金属触媒を好適に担持させて、該白金族金属触媒の有機過酸化物の除去効果を発揮させるものであれば特に限定はないが、具体的には、例えば、シリカ、アルミナ、タルク、ゼオライト、ケイ酸カルシウム、珪藻土、アロフェン、パーライト、等の無機担持体;活性炭、炭水化物、合成樹脂等の有機担持体が挙げられる。
【0044】
上記「合成樹脂」としては、イオン交換樹脂、微細な孔を有する架橋樹脂等が好ましいものとして挙げられる。
上記イオン交換樹脂としては、特に限定はないが、強塩基性アニオン交換樹脂、弱塩基性アニオン交換樹脂等のアニオン交換樹脂が、有機過酸化物を効率良く除去するために特に好ましい。また、「微細な孔を有する架橋樹脂」としては、独立気泡や「貫通していない穴」のみからなるものではなく、貫通孔を有する架橋樹脂が、より好ましいものとして挙げられる。ここで、「架橋樹脂」とは、架橋しており樹脂成分が有機液体中に実質的に溶解して来ない樹脂を言う。
【0045】
更には、「貫通孔を有する架橋樹脂」として、モノリス(Monolith)構造を有する架橋樹脂が、特に好ましいものとして挙げられる。ここで、「モノリス構造」とは、微細な連続した貫通孔を有する構造を言う。
【0046】
本発明のより好ましい態様は、上記担持体が、モノリス構造を有する強塩基性アニオン交換体である前記の有機過酸化物の除去方法である。
本発明における担持体は、モノリス構造を有するアニオン交換体に白金族金属触媒が担持されてなるものが、有機酸エステル系液体から有機過酸化物を除去する能力が高い。すなわち、有機過酸化物の除去方法の特に好ましい態様は、「モノリス構造を有するアニオン交換体に白金族金属触媒が担持されてなる担持体」に、有機酸エステル系液体を接触させる方法である。
【0047】
以下、「モノリス構造を有する有機多孔質アニオン交換体に白金族金属触媒が担持されてなる担持体」について説明する。
本発明における「モノリス構造を有する有機多孔質アニオン交換体」とは、特開2010−240641の段落番号[0164]から「0260]に「第1のモノリス陰イオン交換体」、「第2のモノリス陰イオン交換体」、「第3のモノリス陰イオン交換体」、「第4のモノリス陰イオン交換体」として記載されているもの、及び、特開2010−240641の実施例に記載されているもの、並びに、高分子論文集,Vol.62,No.1,pp.7-16(2005)に記載されているものが含まれる。
本発明における「モノリス構造を有する有機多孔質アニオン交換体に白金族金属触媒が担持されてなる担持体」とは、特開2010−240641の段落番号[0261]から「0267」に記載されているもの、並びに、高分子論文集,Vol.68,No.5,pp.320-325(2011)に記載されているものが含まれる。
【0048】
本発明における「モノリス構造を有する有機多孔質アニオン交換体に白金族金属触媒が担持されてなる担持体」において、「モノリス構造を有する有機多孔質アニオン交換体」は、モノリス構造体に陰イオン交換基を導入することで得られるものである。
本明細書においては、「モノリス構造を有する有機多孔質体」を単に「モノリス」と略記する場合がある。また、「モノリス構造を有する有機多孔質アニオン交換体」を、単に「モノリス構造を有するアニオン交換体」又は「モノリス陰イオン交換体」と略記する場合がある。
【0049】
以下に、限定はされないが好ましい「モノリス構造を有するアニオン交換体(モノリス陰イオン交換体)に白金族金属触媒が担持されてなる担持体」の調製方法と構成の一例を示す。
【0050】
本発明の有機酸エステル系液体の製造方法は、前記白金族金属触媒が、モノリス構造を有する有機多孔質アニオン交換体に、平均粒子径1〜100nmの白金族金属のナノ粒子が担持されている白金族金属担持触媒であり、
該モノリス構造を有する有機多孔質アニオン交換体が、連続骨格相と連続空孔相からなり、連続骨格の厚みが1〜100μm、連続空孔の平均直径が1〜1000μm、全細孔容積が0.5〜50mL/gであり、乾燥状態での重量当りのイオン交換容量が0.5〜6mg当量/gであり、イオン交換基が該モノリス構造を有する有機多孔質アニオン交換体中に均一に分布しており、該白金族金属の担持量が乾燥状態で0.004〜20質量%であるものであることを特徴とする前記の有機酸エステル系液体の製造方法であることが好ましい。
【0051】
本発明における「モノリス構造を有するアニオン交換体(モノリス陰イオン交換体)」は、以下の第1ないし第6のモノリス陰イオン交換体であることが特に好ましい。
以下に、第1ないし第6のモノリス陰イオン交換体、及び、それに白金族金属触媒が担持されてなる担持体について説明する。
【0052】
<第1のモノリス陰イオン交換体の説明>
第1のモノリス陰イオン交換体は、互いにつながっているマクロポアとマクロポアの壁内に平均直径が1〜1000μmの共通の開口(メソポア)を有する連続気泡構造を有し、全細孔容積が1〜50mL/gであり、乾燥状態での重量当りのイオン交換容量が0.5〜6mg当量/gであり、イオン交換基が該モノリス構造を有する有機多孔質アニオン交換体中に均一に分布しているものであることを特徴とする。
図1に、第1のモノリス陰イオン交換体の形態例のSEM写真を示す。
【0053】
第1のモノリス陰イオン交換体は、気泡状のマクロポア同士が重なり合い、この重なる部分が乾燥状態で平均直径1〜1000μm、好ましくは10〜200μm、特に好ましくは20〜100μmの共通の開口(メソポア)となる連続マクロポア構造体であり、その大部分がオープンポア構造のものである。オープンポア構造は、液体を流せば該マクロポアと該メソポアで形成される気泡内が流路となる。マクロポアとマクロポアの重なりは、1個のマクロポアで1〜12個、多くのものは3〜10個である。第1のモノリス陰イオン交換体のメソポアの平均直径は、モノリスに陰イオン交換基を導入する際、モノリス全体が膨潤するため、モノリスのメソポアの平均直径よりも大となる。
【0054】
メソポアの乾燥状態での平均直径が1μm未満であると、通液時の圧力損失が著しく大きくなってしまい、メソポアの乾燥状態での平均直径が1000μmを越えると、被処理液とモノリス陰イオン交換体との接触が不十分となり、有機過酸化物の除去特性が低下してしまう。
モノリス陰イオン交換体の構造が上記のような連続気泡構造となることにより、マクロポア群やメソポア群を均一に形成できると共に、特開平8−252579号公報等に記載されるような粒子凝集型多孔質体に比べて、細孔容積や比表面積を格段に大きくすることができる。
【0055】
なお、乾燥状態のモノリスの開口の平均直径及び乾燥状態の第1のモノリス陰イオン交換体の開口の平均直径は、水銀圧入法により測定される値である。また、水湿潤状態の第1のモノリス陰イオン交換体の開口の平均直径は、乾燥状態の第1のモノリス陰イオン交換体の開口の平均直径に、膨潤率を乗じて算出される値である。
具体的には、水湿潤状態の第1のモノリス陰イオン交換体の直径がx1(mm)であり、その水湿潤状態の第1のモノリス陰イオン交換体を乾燥させ、得られる乾燥状態の第1のモノリス陰イオン交換体の直径がy1(mm)であり、この乾燥状態の第1のモノリス陰イオン交換体を水銀圧入法により測定したときの開口の平均直径がz1(μm)であったとすると、水湿潤状態の第1のモノリス陰イオン交換体の開口の平均直径(μm)は、次式「水湿潤状態の第1のモノリス陰イオン交換体の開口の平均直径(μm)=z1×(x1/y1)」で算出される。
【0056】
また、陰イオン交換基導入前の乾燥状態のモノリスの開口の平均直径、及びその乾燥状態のモノリスに陰イオン交換基導入したときの乾燥状態のモノリスに対する水湿潤状態の第1のモノリス陰イオン交換体の膨潤率が分かる場合は、乾燥状態のモノリスの開口の平均直径に、膨潤率を乗じて、水湿潤状態の第1のモノリス陰イオン交換体の開口の平均直径を算出することもできる。
【0057】
本発明に係る第1のモノリス陰イオン交換体の全細孔容積は、1〜50mL/g、好適には2〜30mL/gである。全細孔容積が1mL/g未満であると、通液時の圧力損失が大きくなってしまい、更に、単位断面積当りの透過液量が小さくなり、処理能力が低下してしまう。一方、全細孔容積が50mL/gを超えると、機械的強度が低下して、特に高流速で通液した際にモノリス陰イオン交換体が大きく変形してしまい。更に、被処理液とモノリス陰イオン交換体及びそれに担持された白金族金属ナノ粒子との接触効率が低下するため、触媒効果も低下してしまう。
【0058】
全細孔容積は、従来の粒子状多孔質イオン交換樹脂では、せいぜい0.1〜0.9mL/gであるから、それを越える従来にはない1〜50mL/gの高細孔容積、高比表面積のものが使用できる。なお、本発明では、第1のモノリス陰イオン交換体の全細孔容積は、水銀圧入法により測定される値である。また、第1のモノリス陰イオン交換体の全細孔容積は、乾燥状態でも、水湿潤状態でも、同じである。
【0059】
本発明に係る第1のモノリス陰イオン交換体の乾燥状態での質量当りの陰イオン交換容量は、0.5〜6.0mg当量/gが好ましい。乾燥状態での質量当りの陰イオン交換容量が0.5mg当量/g未満であると、白金族金属のナノ粒子担持量が低下してしまい、過酸化水素分解特性又は溶存酸素除去特性が低下してしまう。一方、乾燥状態での質量当りの陰イオン交換容量が6.0mg当量/gを超えると、イオン形の変化によるモノリス陰イオン交換体の膨潤及び収縮の体積変化が著しく大きくなり、場合によっては、モノリス陰イオン交換体にクラックや破砕が生じる。
なお、本発明に係る第1のモノリス陰イオン交換体の水湿潤状態における体積当りの陰イオン交換容量は特に限定されないが、通常、0.05〜0.5mg当量/mLである。なお、イオン交換基が表面のみに導入された多孔質体のイオン交換容量は、多孔質体やイオン交換基の種類により一概には決定できないものの、せいぜい500μg当量/gである。
【0060】
本発明に係る第1のモノリス陰イオン交換体において、連続マクロポア構造体の骨格を構成する材料は、架橋構造を有する有機ポリマー材料である。該ポリマー材料の架橋密度は特に限定されないが、ポリマー材料を構成する全構成単位に対して、0.3〜10モル%、好適には0.3〜5モル%の架橋構造単位を含んでいることが好ましい。
架橋構造単位が0.3モル%未満であると、機械的強度が不足するため好ましくなく、一方、10モル%を越えると、陰イオン交換基の導入が困難になる場合があるため好ましくない。
【0061】
該ポリマー材料の種類に特に制限はなく、例えば、ポリスチレン、ポリ(α−メチルスチレン)、ポリビニルトルエン、ポリビニルベンジルクロライド、ポリビニルビフェニル、ポリビニルナフタレン等の芳香族ビニルポリマー;ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン;ポリ塩化ビニル、ポリテトラフルオロエチレン等のハロゲン化ポリオレフィン;ポリアクリロニトリル等のニトリル系ポリマー;ポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸グリシジル、ポリアクリル酸エチル等の(メタ)アクリル系ポリマー等の架橋重合体が挙げられる。上記ポリマーは、単独のビニルモノマーと架橋剤を共重合させて得られるポリマーでも、複数のビニルモノマーと架橋剤を重合させて得られるポリマーであってもよく、また、二種類以上のポリマーがブレンドされたものであってもよい。
【0062】
これら有機ポリマー材料の中で、連続マクロポア構造形成の容易さ、陰イオン交換基導入の容易性と機械的強度の高さ、及び酸又はアルカリに対する安定性の高さから、芳香族ビニルポリマーの架橋重合体が好ましく、特に、スチレン−ジビニルベンゼン共重合体やビニルベンジルクロライド−ジビニルベンゼン共重合体が好ましい材料として挙げられる。
【0063】
本発明に係る第1のモノリス陰イオン交換体の陰イオン交換基としては、トリメチルアンモニウム基、トリエチルアンモニウム基、トリブチルアンモニウム基、ジメチルヒドロキシエチルアンモニウム基、ジメチルヒドロキシプロピルアンモニウム基、メチルジヒドロキシエチルアンモニウム基等の四級アンモニウム基や、第三スルホニウム基、ホスホニウム基等が挙げられる。
【0064】
本発明に係る第1のモノリス陰イオン交換体において、導入された陰イオン交換基は、多孔質体の表面のみならず、多孔質体の骨格内部にまで均一に分布している。ここで言う「アニオン交換基が均一に分布している」とは、陰イオン交換基の分布が少なくともμmオーダーで表面及び骨格内部に均一に分布していることを指す。陰イオン交換基の分布状況は、対陰イオンを塩化物イオン、臭化物イオンなどにイオン交換した後、EPMAを用いることで、比較的簡単に確認することができる。また、陰イオン交換基が、モノリスの表面のみならず、多孔質体の骨格内部にまで均一に分布していると、表面と内部の物理的性質及び化学的性質を均一にできるため、膨潤及び収縮に対する耐久性が向上する。
【0065】
(第1のモノリス陰イオン交換体の製造方法)
本発明に係る第1のモノリス陰イオン交換体の製造方法としては、特に制限されず、陰イオン交換基を含む成分を1段階でモノリス陰イオン交換体にする方法、陰イオン交換基を含まない成分によりモノリスを形成し、その後、陰イオン交換基を導入する方法などが挙げられる。これらの方法のうち、陰イオン交換基を含まない成分によりモノリスを形成し、その後、陰イオン交換基を導入する方法は、モノリス陰イオン交換体の多孔構造の制御が容易であり、陰イオン交換基の定量的導入も可能であるため好ましい。
【0066】
特開2002−306976号公報記載の方法に準じた、製造方法の一例を以下示す。すなわち、当該第1のモノリス陰イオン交換体は、陰イオン交換基を含まない油溶性モノマー、界面活性剤、水及び必要に応じて重合開始剤を混合し、油中水滴型エマルジョンを得、これを重合させて多孔質体を形成し、その後、陰イオン交換基を導入する。
【0067】
陰イオン交換基を含まない油溶性モノマーとしては、四級アンモニウム基等の陰イオン交換基を含まず、水に対する溶解性が低く、親油性のモノマーを指すものである。これらモノマーの具体例としては、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、ビニルベンジルクロライド、ジビニルベンゼン、エチレン、プロピレン、イソブテン、ブタジエン、イソプレン、クロロプレン、塩化ビニル、臭化ビニル、塩化ビニリデン、テトラフルオロエチレン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、酢酸ビニル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、トリメチロールプロパントリアクリレート、ブタンジオールジアクリレート、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸グリシジル、エチレングリコールジメタクリレート等が挙げられる。これらモノマーは、一種単独又は二種以上を組み合わせて使用することができる。
【0068】
ただし、本発明においては、ジビニルベンゼン、エチレングリコールジメタクリレート等の架橋性モノマーを少なくとも油溶性モノマーの一成分として選択し、その含有量を全油溶性モノマー中、0.3〜10モル%、好適には0.3〜5モル%とすることが、後の工程で陰イオン交換基を定量的に導入し、かつ、実用的に十分な機械的強度を確保できる点で好ましい。
【0069】
界面活性剤は、陰イオン交換基を含まない油溶性モノマーと水とを混合した際に、油中水滴型(W/O)エマルジョンを形成できるものであれば特に制限はなく、ソルビタンモノオレエート、ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノパルミテート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタントリオレエート、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート等の非イオン界面活性剤;オレイン酸カリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、スルホコハク酸ジオクチルナトリウム等の陰イオン界面活性剤;ジステアリルジメチルアンモニウムクロライド等の陽イオン界面活性剤;ラウリルジメチルベタイン等の両性界面活性剤を用いることができる。これら界面活性剤は一種単独又は二種類以上を組み合わせて使用することができる。なお、油中水滴型エマルジョンとは、油相が連続相となり、その中に水滴が分散しているエマルジョンを言う。
【0070】
上記界面活性剤の添加量としては、油溶性モノマーの種類及び目的とするエマルジョン粒子(マクロポア)の大きさによって大幅に変動するため一概には言えないが、油溶性モノマーと界面活性剤の合計量に対して約2〜70%の範囲で選択することができる。また、必ずしも必須ではないが、多孔質体の気泡形状やサイズを制御するために、メタノール、ステアリルアルコール等のアルコール;ステアリン酸等のカルボン酸;オクタン、ドデカン、トルエン等の炭化水素;テトラヒドロフラン、ジオキサン等の環状エーテルを系内に共存させることもできる。
【0071】
また、多孔質体形成の際、必要に応じて用いられる重合開始剤は、熱及び光照射によりラジカルを発生する化合物が好適に用いられる。重合開始剤は水溶性であっても油溶性であってもよく、例えば、2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビスイソ酪酸ジメチル、4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)、1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウロイル、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、テトラメチルチウラムジスルフィド等アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスジメチルバレロニトリル、アゾビスシクロヘキサンニトリル、アゾビスシクロヘキサンカルボニトリル、過酸化ベンゾイル、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素−塩化第一鉄、過硫酸ナトリウム−酸性亜硫酸ナトリウム、テトラメチルチウラムジスルフィド等が挙げられる。ただし、場合によっては、重合開始剤を添加しなくても加熱のみや光照射のみで重合が進行する系もあるため、そのような系では重合開始剤の添加は不要である。
【0072】
陰イオン交換基を含まない油溶性モノマー、界面活性剤、水及び重合開始剤を混合し、油中水滴型エマルジョンを形成させる際の混合方法としては、特に制限はなく、各成分を一括して一度に混合する方法、油溶性モノマー、界面活性剤及び油溶性重合開始剤である油溶性成分と、水や水溶性重合開始剤である水溶性成分とを別々に均一溶解させた後、それぞれの成分を混合する方法などが使用できる。
【0073】
エマルジョンを形成させるための混合装置についても特に制限はなく、通常のミキサー、ホモジナイザー、高圧ホモジナイザーや、被処理物を混合容器に入れ、該混合容器を傾斜させた状態で公転軸の周りに公転させながら自転させることで、被処理物を攪拌混合する、所謂遊星式攪拌装置等を用いることができ、目的のエマルジョン粒径を得るのに適切な装置を選択すればよい。
【0074】
また、混合条件についても特に制限はなく、目的のエマルジョン粒径を得ることができる攪拌回転数や攪拌時間を、任意に設定することができる。これらの混合装置のうち、遊星式攪拌装置はW/Oエマルジョン中の水滴を均一に生成させることができ、その平均径を幅広い範囲で任意に設定できるため、好ましく用いられる。
【0075】
このようにして得られた油中水滴型エマルジョンを重合させる重合条件は、モノマーの種類、開始剤系により様々な条件が選択できる。例えば、重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル、過酸化ベンゾイル、過硫酸カリウム等を用いたときには、不活性雰囲気下の密封容器内において、30〜100℃で1〜48時間、加熱重合させればよく、開始剤として過酸化水素−塩化第一鉄、過硫酸ナトリウム−酸性亜硫酸ナトリウム等を用いたときには、不活性雰囲気下の密封容器内において、0〜30℃で1〜48時間重合させればよい。重合終了後、内容物を取り出し、イソプロパノール等の溶剤でソックスレー抽出し、未反応モノマーと残留界面活性剤を除去してモノリスを得る。
【0076】
<第2のモノリス陰イオン交換体の説明>
第2のモノリス陰イオン交換体は、平均粒子径1〜50μmの有機ポリマー粒子が凝集して三次元的に連続した骨格部分を形成し、その骨格間に平均直径が20〜100μmの三次元的に連続した空孔を有し、全細孔容積が1〜10mL/gであり、乾燥状態での重量当りのイオン交換容量が0.5〜6mg当量/gであり、イオン交換基が該モノリス構造を有する有機多孔質アニオン交換体中に均一に分布しているものであることを特徴とする。
図2に、第2のモノリス陰イオン交換体の形態例のSEM写真を示す。
【0077】
第2のモノリス陰イオン交換体の基本構造は、架橋構造単位を有する平均粒子径が水湿潤状態で1〜50μm、好ましくは1〜30μmの有機ポリマー粒子が凝集して三次元的に連続した骨格部分を形成し、その骨格間に平均直径が水湿潤状態で20〜100μm、好ましくは20〜90μmの三次元的に連続した空孔を有する粒子凝集型構造であり、当該三次元的に連続した空孔が液体や気体の流路となる。
【0078】
有機ポリマー粒子の平均粒子径が水湿潤状態で1μm未満であると、骨格間の連続した空孔の平均直径が水湿潤状態で20μm未満と小さくなってしまうため好ましくなく、50μmを超えると、有機液体とモノリス陰イオン交換体との接触が不十分となり、その結果、有機過酸化物除去効果が低下してしまうため好ましくない。また、骨格間に存在する三次元的に連続した空孔の平均直径が水湿潤状態で20μm未満であると、有機液体を透過させた際の圧力損失が大きくなってしまうため好ましくなく、一方、100μmを越えると、有機液体とモノリス陰イオン交換体との接触が不十分となり、有機過酸化物除去特性が低下してしまうため好ましくない。
【0079】
なお、第2のモノリス陰イオン交換体の有機ポリマー粒子の水湿潤状態での平均粒子径は、SEMを用いることで簡便に測定される。具体的には、先ず、乾燥状態の第2のモノリス陰イオン交換体の断面の任意に抽出した部分のSEM写真を撮り、そのSEM写真中の全粒子の有機ポリマー粒子の直径を測定して、乾燥状態の第2のモノリス陰イオン交換体中の有機ポリマー粒子の平均粒子径を測定する。次いで、得られた乾燥状態の有機ポリマー粒子の平均粒子径に、膨潤率を乗じて、水湿潤状態の第2のモノリス陰イオン交換体中の有機ポリマー粒子の平均粒子径を算出する。
【0080】
例えば、水湿潤状態の第2のモノリス陰イオン交換体の直径がx1(mm)であり、その水湿潤状態の第2のモノリス陰イオン交換体を乾燥させ、得られる乾燥状態の第2のモノリス陰イオン交換体の直径がy1(mm)であり、この乾燥状態の第2のモノリス陰イオン交換体の断面のSEM写真を撮り、そのSEM写真中の全粒子の有機ポリマー粒子の直径を測定したときの平均粒子径がz1(μm)であったとすると、水湿潤状態の第2のモノリス陰イオン交換体中の有機ポリマー粒子の平均粒子径(μm)は、次式「水湿潤状態の第2のモノリス陰イオン交換体中の有機ポリマー粒子の平均粒子径(μm)=z1×(x1/y1)」で算出される。
【0081】
また、陰イオン交換基導入前の乾燥状態のモノリス中の有機ポリマー粒子の平均粒子径、及びその乾燥状態のモノリスに陰イオン交換基導入したときの乾燥状態のモノリスに対する水湿潤状態の第2のモノリス陰イオン交換体の膨潤率が分かる場合は、乾燥状態のモノリス中の有機ポリマー粒子の平均粒子径に、膨潤率を乗じて、水湿潤状態の第2のモノリス陰イオン交換体中の有機ポリマー粒子の平均粒子径を算出することもできる。
【0082】
本発明に係る第2のモノリス陰イオン交換体の全細孔容積は、1〜10mL/gである。全細孔容積が1mL/g未満であると、通液時の圧力損失が大きくなってしまうため好ましくなく、更に、単位断面積当りの透過液量が小さくなり、処理能力が低下してしまうため好ましくない。一方、全細孔容積が10mL/gを超えると、第2のモノリス陰イオン交換体の体積当りのイオン交換容量が低下し、体積当りの白金族金属担持量が低下してしまうため好ましくない。
なお、本発明では、モノリス(第2のモノリス陰イオン交換体)の全細孔容積は、水銀圧入法により求められる。また、モノリス(第2のモノリス陰イオン交換体)の全細孔容積は、乾燥状態でも、水湿潤状態でも、同じである。
【0083】
本発明に係る第2のモノリス陰イオン交換体において、有機ポリマー粒子が凝集して三次元的に連続した骨格部分の材料は、架橋構造単位を有する有機ポリマー材料である。すなわち、該有機ポリマー材料は、ビニルモノマーからなる構成単位と、分子中に2個以上のビニル基を有する架橋剤構造単位とを有するものであり、該ポリマー材料は、ポリマー材料を構成する全構成単位に対して、1〜5モル%、好ましくは1〜4モル%の架橋構造単位を含んでいる。架橋構造単位が1モル%未満であると、機械的強度が不足するため好ましくなく、一方、5モル%を越えると、上記骨格間に三次元的に連続して存在する空孔径が小さくなってしまい、圧力損失が大きくなってしまうため好ましくない。該ポリマー材料の種類に特に制限はなく、たとえば第1のモノリスを構成するようなポリマー材料と同様であり、その説明を省略する。
【0084】
第2のモノリス陰イオン交換体において、水湿潤状態における体積当りの陰イオン交換容量は特に限定されないが、通常0.2〜1.0mg当量/mLである。本発明に係る第2のモノリス陰イオン交換体は、圧力損失を低く押さえたままで体積当りの陰イオン交換容量を格段に大きくすることができる。体積当りのイオン交換容量が0.2mg当量/mL未満であると、体積当りの白金族金属ナノ粒子担持量が低下してしまうため好ましくない。一方、体積当りの陰イオン交換容量が1.0mg当量/mLを超えると、イオン形の変化による第2のモノリス陰イオン交換体の膨潤及び収縮の体積変化が著しく大きくなり、場合によっては、第2のモノリス陰イオン交換体にクラックや破砕が生じるため好ましくない。
【0085】
なお、第2のモノリス陰イオン交換体の乾燥質量当りの陰イオン交換容量は特に限定されないが、陰イオン交換基を多孔質体の表面及び骨格内部にまで均一に導入しているため、3〜6mg当量/gの値を示す。イオン交換基が表面のみに導入された多孔質体のイオン交換容量は、多孔質体やイオン交換基の種類により一概には決定できないもののせいぜい500μg当量/gである。
【0086】
第2のモノリス陰イオン交換体の製造で使用するビニルモノマー・油溶性モノマーとしては、第1のモノリス陰イオン交換体の製造で使用する油溶性モノマーと同様であり、その説明を省略する。
【0087】
第2のモノリス陰イオン交換体の製造における架橋剤は、第1のモノリス陰イオン交換体製造で使用する架橋剤と同様であり、その説明を省略する。ビニルモノマーと架橋剤の合計量に対する架橋剤の使用量({架橋剤/(ビニルモノマー+架橋剤)}×100)は、1〜5モル%、好ましくは1〜4モル%である。架橋剤の使用量は得られるモノリスの多孔構造に大きな影響を与え、架橋剤の使用量が5モル%を超えると、骨格間に形成される連続空孔の大きさが小さくなってしまうため好ましくない。一方、架橋剤使用量が1モル%未満であると、多孔質体の機械的強度が不足し、通液時に大きく変形したり、多孔質体の破壊を招いたりするため好ましくない。
【0088】
本発明で用いられる有機溶媒は、ビニルモノマーや架橋剤は溶解するがビニルモノマーが重合して生成するポリマーは溶解しない有機溶媒、言い換えると、ビニルモノマーが重合して生成するポリマーに対する貧溶媒である。該有機溶媒は、ビニルモノマーの種類によって大きく異なるため一般的な具体例を列挙することは困難であるが、例えば、ビニルモノマーがスチレンの場合、有機溶媒としては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ヘキサノール、シクロヘキサノール、オクタノール、2−エチルヘキサノール、デカノール、ドデカノール、エチレングリコール、テトラメチレングリコール、グリセリン等のアルコール類;ジエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル等の鎖状エーテル類;ヘキサン、オクタン、デカン、ドデカン等の鎖状飽和炭化水素類等が挙げられる。
これらのうち、アルコール類が、静置重合により粒子凝集構造が形成されやすくなると共に、三次元的に連続した空孔が大きくなるため好ましい。また、ベンゼンやトルエンのようにポリスチレンの良溶媒であっても、上記貧溶媒と共に用いられ、その使用量が少ない場合には、有機溶媒として使用される。
【0089】
第2のモノリスの製造で用いられる重合開始剤としては、第1のモノリス陰イオン交換体の製造で使用する
重合開始剤と同様であり、その説明を省略する。重合開始剤の使用量は、モノマーの種類や重合温度等によって大きく変動するが、ビニルモノマーと架橋剤の合計量に対する重合開始剤の使用量({重合開始剤/(ビニルモノマー+架橋剤)}×100)は、約0.01〜5モル%である。
【0090】
第2のモノリスの製造方法において、有機溶媒に溶解したビニルモノマーの重合が早く進む条件で行なえば、平均粒子径1μmに近い有機ポリマー粒子が沈降し凝集して三次元的に連続した骨格部分を形成させることができる。ビニルモノマーの重合が早く進む条件とは、ビニルモノマー、架橋剤、重合開始剤及び重合温度などにより異なり一概には決定できないものの、架橋剤を増やす、モノマー濃度を高くする、温度を高くするなどである。このような重合条件を加味して、平均粒子径1〜50μmの有機ポリマー粒子を凝集させる重合条件を適宜決定すればよい。
【0091】
また、その骨格間に平均直径が20〜100μmの三次元的に連続した空孔を形成するには、前述の如く、ビニルモノマーと架橋剤の合計量に対する架橋剤の使用量を特定量とすればよい。また、モノリスの全細孔容積を0.5〜10mL/gとするには、ビニルモノマー、架橋剤、重合開始剤及び重合温度などにより異なり一概には決定できないものの、概ね有機溶媒、モノマー及び架橋剤の合計使用量に対する有機溶媒使用量({有機溶媒/(有機溶媒+モノマー+架橋剤)}×100)が、30〜80質量%、好適には40〜70質量%のような条件で重合すればよい。
【0092】
重合条件として、モノマーの種類、開始剤の種類により様々な条件を選択することができる。例えば、開始剤として2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウロイル、過硫酸カリウム等を用いたときには、不活性雰囲気下の密封容器内において、30〜100℃で1〜48時間加熱重合させればよい。重合終了後、内容物を取り出し、未反応ビニルモノマーと有機溶媒の除去を目的に、アセトン等の溶剤で抽出してモノリスを得る。
【0093】
<第3のモノリス陰イオン交換体の説明>
第3のモノリス陰イオン交換体は、イオン交換基が導入された全構成単位中、架橋構造単位を0.3〜5.0モル%含有する芳香族ビニルポリマーからなる平均太さが1〜60μmの三次元的に連続した骨格と、その骨格間に平均直径が10〜200μmの三次元的に連続した空孔とからなる共連続構造体であって、全細孔容積が0.5〜10mL/gであり、乾燥状態での重量当りのイオン交換容量0.5〜6mg当量/gであり、イオン交換基が該モノリス構造を有する有機多孔質アニオン交換体中に均一に分布しているものであることを特徴とする。
図3に、第3のモノリス陰イオン交換体の形態例のSEM写真を示し、
図4に、第3のモノリス陰イオン交換体のSEM写真の断面として表れる骨格部を転写した図を示す。
【0094】
第3のモノリス陰イオン交換体は、陰イオン交換基が導入された全構成単位中、架橋構造単位を0.3〜5.0モル%含有する芳香族ビニルポリマーからなる平均太さが水湿潤状態で1〜60μmの三次元的に連続した骨格と、その骨格間に平均直径が水湿潤状態で10〜200μmの三次元的に連続した空孔とからなる共連続構造体であって、全細孔容積が0.5〜10mL/gであり、水湿潤状態での体積当りのイオン交換容量が0.2〜1.0mg当量/mLであり、陰イオン交換基が該多孔質イオン交換体中に均一に分布している。
【0095】
第3のモノリス陰イオン交換体は、陰イオン交換基が導入された平均太さが水湿潤状態で1〜60μm、好ましくは3〜58μmの三次元的に連続した骨格と、その骨格間に平均直径が水湿潤状態で10〜200μm、好ましくは15〜180μm、特に好ましくは20〜150μmの三次元的に連続した空孔とからなる共連続構造体である。
すなわち、共連続構造は
図4の模式図に示すように、連続する骨格相1と連続する空孔相2とが絡み合ってそれぞれが共に3次元的に連続する構造10である。この連続した空孔2は、従来の連続気泡型モノリスや粒子凝集型モノリスに比べて空孔の連続性が高くてその大きさに偏りがないため、極めて均一なイオンの吸着挙動を達成できる。また、骨格が太いため機械的強度が高い。
【0096】
第3のモノリス陰イオン交換体の骨格の太さ及び空孔の直径は、モノリスに陰イオン交換基を導入する際、モノリス全体が膨潤するため、モノリスの骨格の太さ及び空孔の直径よりも大となる。この連続した空孔は、従来の連続気泡型や粒子凝集型に比べて空孔の連続性が高くてその大きさに偏りがないため、極めて均一な陰イオンの吸着挙動を達成できる。三次元的に連続した空孔の平均直径が水湿潤状態で10μm未満であると、通液時の圧力損失が大きくなってしまうため好ましくなく、200μmを超えると、有機液体と有機多孔質陰イオン交換体との接触が不十分となり、その結果、有機液体中の有機過酸化物の除去が不十分となるため好ましくない。
【0097】
また、骨格の平均太さが水湿潤状態で1μm未満であると、体積当りの陰イオン交換容量が低下するといった欠点のほか、機械的強度が低下して、特に高流速で通液した際に第3のモノリス陰イオン交換体が大きく変形してしまうため好ましくない。更に、有機液体と第3のモノリス陰イオン交換体との接触効率が低下し、触媒効果が低下するため好ましくない。一方、骨格の太さが60μmを越えると、骨格が太くなり過ぎ、通液時の圧力損失が増大するため好ましくない。
【0098】
上記連続構造体の空孔の水湿潤状態での平均直径は、水銀圧入法で測定した乾燥状態の第3のモノリス陰イオン交換体の空孔の平均直径に、膨澗率を乗じて算出される値である。具体的には、水湿潤状態の第3のモノリス陰イオン交換体の直径がx2(mm)であり、その水湿潤状態の第3のモノリス陰イオン交換体を乾燥させ、得られる乾燥状態の第3のモノリス陰イオン交換体の直径がy2(mm)であり、この乾燥状態の第3のモノリス陰イオン交換体を水銀圧入法により測定したときの空孔の平均直径がz2(μm)であったとすると、第3のモノリス陰イオン交換体の空孔の水湿潤状態での平均直径(μm)は、次式「水湿潤状態の第3のモノリス陰イオン交換体の空孔の平均直径(μm)=z2×(x2/y2)」で算出される。
【0099】
また、陰イオン交換基導入前の乾燥状態のモノリスの空孔の平均直径、及びその乾燥状態のモノリスに陰イオン交換基導入したときの乾燥状態のモノリスに対する水湿潤状態の第3のモノリス陰イオン交換体の膨澗率が分かる場合は、乾燥状態のモノリスの空孔の平均直径に、膨澗率を乗じて、水湿潤状態の第3のモノリス陰イオン交換体の空孔の平均直径を算出することもできる。
【0100】
また、上記連続構造体の骨格の水湿潤状態での平均太さは、乾燥状態の第3のモノリス陰イオン交換体のSEM観察を少なくとも3回行い、得られた画像中の骨格の太さを測定し、その平均値に、膨澗率を乗じて算出される値である。
具体的には、水湿潤状態の第3のモノリス陰イオン交換体の直径がx3(mm)であり、その水湿潤状態の第3のモノリス陰イオン交換体を乾燥させ、得られる乾燥状態の第3のモノリス陰イオン交換体の直径がy3(mm)であり、この乾燥状態の第3のモノリス陰イオン交換体のSEM観察を少なくとも3回行い、得られた画像中の骨格の太さを測定し、その平均値がz3(μm)であったとすると、水湿潤状態の第3のモノリス陰イオン交換体の連続構造体の骨格の平均太さ(μm)は、次式「水湿潤状態の第3のモノリス陰イオン交換体の連続構造体の骨格の平均太さ(μm)=z3×(x3/y3)」で算出される。
【0101】
また、陰イオン交換基導入前の乾燥状態のモノリスの骨格の平均太さ、及びその乾燥状態のモノリスに陰イオン交換基導入したときの乾燥状態のモノリスに対する水湿潤状態の第3のモノリス陰イオン交換体の膨澗率が分かる場合は、乾燥状態のモノリスの骨格の平均太さに、膨澗率を乗じて、水湿潤状態の第3のモノリス陰イオン交換体の骨格の平均太さを算出することもできる。なお、骨格は棒状であり円形断面形状であるが、楕円断面形状等異径断面のものが含まれていてもよい。この場合の太さは短径と長径の平均である。
【0102】
また、第3のモノリス陰イオン交換体の全細孔容積は、0.5〜10mL/gである。全細孔容積が0.5mL/g未満であると、通液時の圧力損失が大きくなってしまうため好ましくなく、更に、単位断面積当りの透過液量が小さくなり、処理液量が低下してしまうため好ましくない。一方、全細孔容積が10mL/gを超えると、体積当りの陰イオン交換容量が低下し、白金族金属ナノ粒子の担持量も低下し触媒効果が低下するため好ましくない。また、機械的強度が低下して、特に高流速で通液した際に第3のモノリス陰イオン交換体が大きく変形してしまうため好ましくない。
更に、有機液体と第3のモノリス陰イオン交換体との接触効率が低下するため、有機過酸化物除去効果も低下してしまうため好ましくない。三次元的に連続した空孔の大きさ及び全細孔容積が上記範囲にあれば、有機液体との接触が極めて均一で接触面積も大きく、かつ低圧力損失下での通液が可能となる。なお、モノリス(モノリス中間体、モノリス、モノリス陰イオン交換体)の全細孔容積は、乾燥状態でも、水湿潤状態でも、同じである。
【0103】
第3のモノリス陰イオン交換体において、共連続構造体の骨格を構成する材料は、全構成単位中、0.3〜5モル%、好ましくは0.5〜3.0モル%の架橋構造単位を含んでいる芳香族ビニルポリマーであり疎水性である。架橋構造単位が0.3モル%未満であると、機械的強度が不足するため好ましくなく、一方、5モル%を越えると、多孔質体の構造が共連続構造から逸脱しやすくなる。該芳香族ビニルポリマーの種類に特に制限はなく、例えば、ポリスチレン、ポリ(α−メチルスチレン)、ポリビニルトルエン、ポリビニルベンジルクロライド、ポリビニルビフェニル、ポリビニルナフタレン等が挙げられる。
【0104】
上記ポリマーは、単独のビニルモノマーと架橋剤を共重合させて得られるポリマーでも、複数のビニルモノマーと架橋剤を重合させて得られるポリマーであってもよく、また、二種類以上のポリマーがブレンドされたものであってもよい。これら有機ポリマー材料の中で、共連続構造形成の容易さ、陰イオン交換基導入の容易性と機械的強度の高さ、及び酸又はアルカリに対する安定性の高さから、スチレン−ジビニルベンゼン共重合体やビニルベンジルクロライド−ジビニルベンゼン共重合体が好ましい。
【0105】
第3のモノリス陰イオン交換体は、水湿潤状態での体積当りの陰イオン交換容量が0.2〜1.0mg当量/mLのイオン交換容量を有する。体積当りの陰イオン交換容量が0.2mg当量/mL未満であると、体積当りの白金族金属のナノ粒子担持量が低下してしまうため好ましくない。一方、体積当りの陰イオン交換容量が1.0mg当量/mLを超えると、通液時の圧力損失が増大してしまうため好ましくない。なお、第3のモノリス陰イオン交換体の乾燥状態における質量当りの陰イオン交換容量は特に限定されないが、イオン交換基が多孔質体の骨格表面及び骨格内部にまで均一に導入しているため、3〜6mg当量/gである。
なお、イオン交換基が骨格表面のみに導入された多孔質体のイオン交換容量は、多孔質体やイオン交換基の種類により一概には決定できないものの、せいぜい500μg当量/gである。
【0106】
第3のモノリス陰イオン交換体における陰イオン交換基としては、第1のモノリス陰イオン交換体における陰イオン交換基と同様であり、その説明を省略する。第3のモノリス陰イオン交換体において、導入された陰イオン交換基は、多孔質体の表面のみならず、多孔質体の骨格内部にまで均一に分布している。均一分布の定義は、第1のモノリス陰イオン交換体の均一分布の定義と同じである。
【0107】
(第3のモノリス陰イオン交換体の製造方法)
第3のモノリス陰イオン交換体は、イオン交換基を含まない油溶性モノマー、界面活性剤及び水の混合物を撹拌することにより油中水滴型エマルジョンを調製し、次いで油中水滴型エマルジョンを重合させて全細孔容積が16mL/gを超え、30mL/g以下の連続マクロポア構造のモノリス状の有機多孔質中間体を得るI工程、芳香族ビニルモノマー、一分子中に少なくとも2個以上のビニル基を有する全油溶性モノマー中、0.3〜5モル%の架橋剤、芳香族ビニルモノマーや架橋剤は溶解するが芳香族ビニルモノマーが重合して生成するポリマーは溶解しない有機溶媒及び重合開始剤からなる混合物を調製するII工程、II工程で得られた混合物を静置下、且つI工程で得られたモノリス状の有機多孔質中間体の存在下に重合を行い、共連続構造体を得るIII工程、該III工程で得られた共連続構造体に陰イオン交換基を導入する工程を行うことで得られる。
【0108】
第3のモノリス陰イオン交換体におけるモノリス中間体を得るI工程は、特開2002−306976号公報記載の方法に準拠して行なえばよい。
【0109】
I工程において、イオン交換基を含まない油溶性モノマーとしては、第1のモノリス陰イオン交換体の製造で使用する油溶性モノマーと同様であり、その説明を省略する。ただし、ジビニルベンゼン、エチレングリコールジメタクリレート等の架橋性モノマーを少なくとも油溶性モノマーの一成分として選択し、その含有量を全油溶性モノマー中、0.3〜5モル%、好ましくは0.3〜3モル%とすることが、共連続構造の形成に有利となるため好ましい。
【0110】
界面活性剤は、第1のモノリス陰イオン交換体のI工程で使用する界面活性剤と同様であり、その説明を省略する。
【0111】
また、I工程では、油中水滴型エマルジョン形成の際、必要に応じて重合開始剤を使用してもよい。重合開始剤は、第1のモノリス陰イオン交換体の製造で使用する
重合開始剤と同様であり、その説明を省略する。
【0112】
イオン交換基を含まない油溶性モノマー、界面活性剤、水及び重合開始剤を混合し、油中水滴型エマルジョンを形成させる際の混合方法としては、第1のモノリス陰イオン交換体のI工程における混合方法と同様であり、その説明を省略する。
【0113】
第3のモノリス陰イオン交換体の製造方法において、I工程で得られるモノリス中間体は、架橋構造を有する有機ポリマー材料、好適には芳香族ビニルポリマーである。該ポリマー材料の架橋密度は特に限定されないが、ポリマー材料を構成する全構成単位に対して、0.3〜5モル%、好ましくは0.3〜3モル%の架橋構造単位を含んでいることが好ましい。
架橋構造単位が0.3モル%未満であると、機械的強度が不足するため好ましくない。一方、5モル%を超えると、モノリスの構造が共連続構造を逸脱し易くなるため好ましくない。特に、全細孔容積が16〜20mL/gと本発明の中では小さい場合には、共連続構造を形成させるため、架橋構造単位は3モル%未満とすることが好ましい。
【0114】
モノリス中間体のポリマー材料の種類は、第1のモノリス陰イオン交換体のモノリス中間体のポリマー材料の種類と同様であり、その説明を省略する。モノリス中間体の全細孔容積は、16mL/gを超え、30mL/g以下、好適には16mL/gを超え、25mL/g以下である。
【0115】
すなわち、このモノリス中間体は、基本的には連続マクロポア構造ではあるが、マクロポアとマクロポアの重なり部分である開口(メソポア)が格段に大きいため、モノリス構造を構成する骨格が二次元の壁面から一次元の棒状骨格に限りなく近い構造を有している。これを重合系に共存させると、モノリス中間体の構造を型として共連続構造の多孔質体が形成される。全細孔容積が小さ過ぎると、ビニルモノマーを重合させた後で得られるモノリスの構造が共連続構造から連続マクロポア構造に変化してしまうため好ましくなく、一方、全細孔容積が大き過ぎると、ビニルモノマーを重合させた後で得られるモノリスの機械的強度が低下したり、体積当たりの陰イオン交換容量が低下したりしてしまうため好ましくない。モノリス中間体の全細孔容積を第3のモノリス陰イオン交換体の特定の範囲とするには、モノマーと水の比を、概ね1:20〜1:40とすればよい。
【0116】
また、モノリス中間体は、マクロポアとマクロポアの重なり部分である開口(メソポア)の平均直径が乾燥状態で5〜150μmである。開口の平均直径が乾燥状態で5μm未満であると、ビニルモノマーを重合させた後で得られるモノリスの開口径が小さくなり、流体透過時の圧力損失が大きくなってしまうため好ましくない。一方、150μmを超えると、ビニルモノマーを重合させた後で得られるモノリスの開口径が大きくなりすぎ、有機液体とモノリス陰イオン交換体との接触が不十分となり、その結果、有機過酸化物特性が低下してしまうため好ましくない。
モノリス中間体は、マクロポアの大きさや開口の径が揃った均一構造のものが好適であるが、これに限定されず、均一構造中、均一なマクロポアの大きさよりも大きな不均一なマクロポアが点在するものであってもよい。
【0117】
第3のモノリス陰イオン交換体の製造方法において、II工程は、芳香族ビニルモノマー、一分子中に少なくとも2個以上のビニル基を有する全油溶性モノマー中、0.3〜5モル%の架橋剤、芳香族ビニルモノマーや架橋剤は溶解するが芳香族ビニルモノマーが重合して生成するポリマーは溶解しない有機溶媒及び重合開始剤からなる混合物を調製する工程である。
【0118】
II工程は、ビニルモノマー、一分子中に少なくとも2個以上のビニル基を有する架橋剤、ビニルモノマーや架橋剤は溶解するがビニルモノマーが重合して生成するポリマーは溶解しない有機溶媒及び重合開始剤からなる混合物を調製する工程である。なお、I工程とII工程の順序はなく、I工程後にII工程を行ってもよく、II工程後にI工程を行ってもよい。
【0119】
II工程で用いられるビニルモノマーとしては、分子中に重合可能なビニル基を含有し、有機溶媒に対する溶解性が高い親油性のビニルモノマーであれば、特に制限はないが、上記重合系に共存させるモノリス中間体と同種類もしくは類似のポリマー材料を生成するビニルモノマーを選定することが好ましい。
これらビニルモノマーの具体例としては、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、ビニルベンジルクロライド、ビニルビフェニル、ビニルナフタレン等の芳香族ビニルモノマー、エチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブテン等のα−オレフィン、ブタジエン、イソプレン、クロロプレン等のジエン系モノマー、塩化ビニル、臭化ビニル、塩化ビニリデン、テトラフルオロエチレン等のハロゲン化オレフィン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のニトリル系モノマー、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸グリシジル等の(メタ)アクリル系モノマーが挙げられる。これらモノマーは、一種単独又は二種以上を組み合わせて使用することができる。
【0120】
本発明で好適に用いられるビニルモノマーは、スチレン、ビニルベンジルクロライド等の芳香族ビニルモノマーである。なお、I工程とII工程の順序はなく、I工程後にII工程を行ってもよく、II工程後にI工程を行ってもよい。第3のモノリス陰イオン交換体の製造方法において、II工程で用いられる芳香族ビニルモノマーとしては、分子中に重合可能なビニル基を含有し、有機溶媒に対する溶解性が高い親油性の芳香族ビニルモノマーであれば、特に制限はないが、上記重合系に共存させるモノリス中間体と同種類もしくは類似のポリマー材料を生成するビニルモノマーを選定することが好ましい。
【0121】
これら芳香族ビニルモノマーの添加量は、重合時に共存させるモノリス中間体に対して、質量で5〜50倍、好ましくは5〜40倍である。芳香族ビニルモノマー添加量がモノリス中間体に対して5倍未満であると、棒状骨格を太くできず陰イオン交換基導入後の体積当りの陰イオン交換容量が小さくなってしまうため好ましくない。一方、芳香族ビニルモノマー添加量が50倍を超えると、連続空孔の径が小さくなり、通液時の圧力損失が大きくなってしまうため好ましくない。
【0122】
II工程で用いられる架橋剤は、分子中に少なくとも2個の重合可能なビニル基を含有し、有機溶媒への溶解性が高いものが好適に用いられる。架橋剤の具体例としては、ジビニルベンゼン、ジビニルナフタレン、ジビニルビフェニル、エチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ブタンジオールジアクリレート等が挙げられる。これら架橋剤は、一種単独又は二種以上を組み合わせて使用することができる。好ましい架橋剤は、機械的強度の高さと加水分解に対する安定性から、ジビニルベンゼン、ジビニルナフタレン、ジビニルビフェニル等の芳香族ポリビニル化合物である。
【0123】
架橋剤使用量は、ビニルモノマーと架橋剤の合計量(全油溶性モノマー)に対して0.3〜5モル%、特に0.3〜3モル%である。架橋剤使用量が0.3モル%未満であると、モノリスの機械的強度が不足するため好ましくなく、一方、多過ぎると、陰イオン交換基の定量的導入が困難になる場合があるため好ましくない。なお、上記架橋剤使用量は、ビニルモノマー/架橋剤重合時に共存させるモノリス中間体の架橋密度とほぼ等しくなるように用いることが好ましい。両者の使用量があまりに大きくかけ離れると、生成したモノリス中で架橋密度分布の偏りが生じ、陰イオン交換基導入反応時にクラックが生じやすくなる。
【0124】
II工程で用いられる有機溶媒は、ビニルモノマーや架橋剤は溶解するがビニルモノマーが重合して生成するポリマーは溶解しない有機溶媒、言い換えると、ビニルモノマーが重合して生成するポリマーに対する貧溶媒である。該有機溶媒は、ビニルモノマーの種類によって大きく異なるため一般的な具体例を列挙することは困難であるが、例えば、ビニルモノマーがスチレンの場合、有機溶媒としては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ヘキサノール、シクロヘキサノール、オクタノール、2−エチルヘキサノール、デカノール、ドデカノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、テトラメチレングリコール、グリセリン等のアルコール類、ジエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、セロソルブ、メチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等の鎖状(ポリ)エーテル類、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、イソオクタン、デカン、ドデカン等の鎖状飽和炭化水素類、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸セロソルブ、プロピオン酸エチル等のエステル類が挙げられる。また、ジオキサンやTHF、トルエンのようにポリスチレンの良溶媒であっても、上記貧溶媒と共に用いられ、その使用量が少ない場合には、有機溶媒として使用することができる。
【0125】
これら有機溶媒の使用量は、上記ビニルモノマーの濃度が30〜80質量%となるように用いることが好ましい。有機溶媒使用量が上記範囲から逸脱してビニルモノマー濃度が30質量%未満となると、重合速度が低下したり、重合後のモノリス構造が本発明の範囲から逸脱してしまうため好ましくない。一方、ビニルモノマー濃度が80質量%を超えると、重合が暴走する恐れがあるため好ましくない。
【0126】
II工程で用いられる重合開始剤は、第1のモノリス陰イオン交換体の製造で用いる重合開始剤と同様であり、その説明を省略する。
【0127】
第3のモノリス陰イオン交換体の製造方法において、III工程は、II工程で得られた混合物を静置下、且つ該I工程で得られたモノリス中間体の存在下に重合を行い、該モノリス中間体の連続マクロポア構造を共連続構造に変化させ、共連続構造のモノリスを得る工程である。III工程で用いるモノリス中間体は、本発明の斬新な構造を有するモノリスを創出する上で、極めて重要な役割を担っている。特表平7−501140号等に開示されているように、モノリス中間体不存在下でビニルモノマーと架橋剤を特定の有機溶媒中で静置重合させると、粒子凝集型のモノリス状有機多孔質体が得られる。
【0128】
それに対して、本発明の第3のモノリスのように上記重合系に特定の連続マクロポア構造のモノリス中間体を存在させると、重合後のモノリスの構造は劇的に変化し、粒子凝集構造は消失し、上述の共連続構造のモノリスが得られる。その理由は詳細には解明されていないが、モノリス中間体が存在しない場合は、重合により生じた架橋重合体が粒子状に析出・沈殿することで粒子凝集構造が形成されるのに対し、重合系に全細孔容積が大きな多孔質体(中間体)が存在すると、ビニルモノマー及び架橋剤が液相から多孔質体の骨格部に吸着又は分配され、多孔質体中で重合が進行し、モノリス構造を構成する骨格が二次元の壁面から一次元の棒状骨格に変化して共連続構造を有するモノリス状有機多孔質体が形成されると考えられる。
【0129】
反応容器の内容積は、モノリス中間体を反応容器中に存在させる大きさのものであれば特に制限されず、反応容器内にモノリス中間体を載置した際、平面視でモノリスの周りに隙間ができるもの、反応容器内にモノリス中間体が隙間無く入るもののいずれであってもよい。このうち、重合後の骨太のモノリスが容器内壁から押圧を受けることなく、反応容器内に隙間無く入るものが、モノリスに歪が生じることもなく、反応原料などの無駄がなく効率的である。なお、反応容器の内容積が大きく、重合後のモノリスの周りに隙間が存在する場合であっても、ビニルモノマーや架橋剤は、モノリス中間体に吸着、分配されるため、反応容器内の隙間部分に粒子凝集構造物が生成することはない。
【0130】
III工程において、反応容器中、モノリス中間体は混合物(溶液)で含浸された状態に置かれる。II工程で得られた混合物とモノリス中間体の配合比は、前述の如く、モノリス中間体に対して、芳香族ビニルモノマーの添加量が質量で5〜50倍、好ましくは5〜40倍となるように配合するのが好適である。これにより、適度な大きさの空孔が三次元的に連続し、且つ骨太の骨格が3次元的に連続する共連続構造のモノリスを得ることができる。
【0131】
反応容器中、混合物中の芳香族ビニルモノマーと架橋剤は、静置されたモノリス中間体の骨格に吸着、分配され、モノリス中間体の骨格内で重合が進行する。共連続構造を有するモノリスの基本構造は、平均太さが乾燥状態で0.8〜40μmの三次元的に連続した骨格と、その骨格間に平均直径が乾燥状態で5〜100μmの三次元的に連続した空孔が配置された構造である。上記三次元的に連続した空孔の乾燥状態の平均直径は、水銀圧入法により細孔分布曲線を測定し、細孔分布曲線の極大値として得ることができる。乾燥状態のモノリスの骨格の太さは、SEM観察を少なくとも3回行い、得られた画像中の骨格の平均太さを測定して算出すればよい。また、共連続構造を有するモノリスは、0.5〜10mL/gの全細孔容積を有する。
【0132】
第3のモノリス陰イオン交換体は、共連続構造のモノリスに陰イオン交換基が導入されるため、例えばモノリスの1.4〜1.9倍に大きく膨潤する。また、空孔径が膨澗で大きくなっても全細孔容積は変化しない。従って、第3のモノリス陰イオン交換体は、3次元的に連続する空孔の大きさが格段に大きいにもかかわらず、骨太骨格を有するため機械的強度が高い。また、骨格が太いため、水湿潤状態での体積当りの陰イオン交換容量を大きくでき、更に、有機液体液を低圧、大流量で長期間通液することが可能である。
【0133】
<第4のモノリス陰イオン交換体の説明>
第4のモノリス陰イオン交換体は、気泡状のマクロポア同士が重なり合い、この重なる部分が平均直径30〜300μmの開口となる連続マクロポア構造体であり、全細孔容積が0.5〜10mL/g、乾燥状態での重量当りのイオン交換容量が0.5〜6mg当量/gであり、イオン交換基が該モノリス構造を有する有機多孔質アニオン交換体中に均一に分布しており、且つ該連続マクロポア構造体(乾燥体)の切断面のSEM画像において、断面に表れる骨格部面積が、画像領域中25〜50%であるものであることを特徴とする。
図5に、第4のモノリス陰イオン交換体の形態例のSEM写真を示し、
図6に、第4のモノリス陰イオン交換体の共連続構造の模式図を示す。
【0134】
第4のモノリス陰イオン交換体は、気泡状のマクロポア同士が重なり合い、この重なる部分が水湿潤状態で平均直径30〜300μm、好ましくは30〜200μm、特に好ましくは40〜100μmの開口(メソポア)となる連続マクロポア構造体である。第4のモノリス陰イオン交換体の開口の平均直径は、モノリスに陰イオン交換基を導入する際、モノリス全体が膨潤するため、モノリスの開口の平均直径よりも大となる。水湿潤状態での開口の平均直径が30μm未満であると、通液時の圧力損失が大きくなってしまうため好ましくなく、水湿潤状態での開口の平均直径が大き過ぎると、有機液体と第4のモノリス陰イオン交換体及び担持された白金族金属ナノ粒子との接触が不十分となり、その結果、有機過酸化物除去特性が低下してしまうため好ましくない。なお、本発明では、乾燥状態のモノリス中間体の開口の平均直径、乾燥状態のモノリスの開口の平均直径及び乾燥状態の第4のモノリス陰イオン交換体の開口の平均直径は、水銀圧入法により測定される値である。
【0135】
また、水湿潤状態の第4のモノリス陰イオン交換体の開口の平均直径は、乾燥状態の第4のモノリス陰イオン交換体の開口の平均直径に、膨澗率を乗じて算出される値であり、算出の方法は第1のモノリスで用いる方法と同様なので省略する。
【0136】
第4のモノリス陰イオン交換体において、連続マクロポア構造体の切断面のSEM画像において、断面に表れる骨格部面積が、画像領域中、25〜50%、好ましくは25〜45%である。断面に表れる骨格部面積が、画像領域中、25%未満であると、細い骨格となり、機械的強度が低下して、特に高流速で通液した際に第4のモノリス陰イオン交換体が大きく変形してしまうため好ましくない。更に、有機液体と第4のモノリス陰イオン交換体及びそれに担持された白金族金属ナノ粒子との接触効率が低下し、触媒効果が低下するため好ましくなく、50%を超えると、骨格が太くなり過ぎ、通液時の圧力損失が増大するため好ましくない。
なお、特開2002−306976号公報記載のモノリスは、実際には水に対する油相部の配合比を多くして骨格部分を太くしても、共通の開口を確保するためには配合比に限界があり、断面に表れる骨格部面積の最大値は画像領域中、25%を超えることはできない。
【0137】
SEM画像を得るための条件は、切断面の断面に表れる骨格部が鮮明に表れる条件であればよく、例えば倍率100〜600、写真領域が約150mm×100mmである。SEM観察は、主観を排除したモノリスの任意の切断面の任意の箇所で撮影された切断箇所や撮影箇所が異なる3枚以上、好ましくは5枚以上の画像で行うのがよい。切断されるモノリスは、電子顕微鏡に供するため、乾燥状態のものである。SEM画像における切断面の骨格部を
図5及び
図6を参照して説明する。また、
図6は
図5のSEM写真の断面として表れる骨格部を転写したものである。
【0138】
図5及び
図6中、概ね不定形状で且つ断面で表れるものは本発明の「断面に表れる骨格部(符号12)」であり、
図5に表れる円形の孔は開口(メソポア)であり、また、比較的大きな曲率や曲面のものはマクロポア(
図6中の符号13)である。
図6の断面に表れる骨格部面積は、矩形状画像領域11中、28%である。このように、骨格部は明確に判断できる。SEM画像において、切断面の断面に表れる骨格部の面積の測定方法としては、特に制限されず、当該骨格部を公知のコンピューター処理などを行い特定した後、コンピューターなどによる自動計算又は手動計算による算出方法が挙げられる。手動計算としては、不定形状物を、四角形、三角形、円形又は台形などの集合物に置き換え、それらを積層して面積を求める方法が挙げられる。
【0139】
また、第4のモノリス陰イオン交換体の全細孔容積は、0.5〜10mL/g、好ましくは0.8〜7mL/gである。全細孔容積が0.5mL/g未満であると、通液時の圧力損失が大きくなってしまうため好ましくなく、更に、単位断面積当りの透過流体量が小さくなり、処理能力が低下してしまうため好ましくない。一方、全細孔容積が10mL/gを超えると、機械的強度が低下して、特に高流速で通液した際に第4のモノリス陰イオン交換体が大きく変形してしまうため好ましくない。更に、有機液体と第4のモノリス陰イオン交換体及びそれに担持された白金族金属ナノ粒子との接触効率が低下するため、触媒効果も低下してしまうため好ましくない。なお、本発明では、モノリス(モノリス中間体、モノリス、モノリス陰イオン交換体)の全細孔容積は、水銀圧入法により測定される値である。また、モノリス(モノリス中間体、モノリス、モノリス陰イオン交換体)の全細孔容積は、乾燥状態でも、水湿潤状態でも、同じである。
【0140】
第4のモノリス陰イオン交換体において、水湿潤状態における体積当りの陰イオン交換容量は特に限定されないが、通常0.2〜1.0mg当量/mLである。第4のモノリス陰イオン交換体は、開口径を更に大きくすると共に、連続マクロポア構造体の骨格を太くする(骨格の壁部を厚くする)ことができるため、圧力損失を低く押さえたままで体積当りの陰イオン交換容量を飛躍的に大きくすることができる。
体積当りの陰イオン交換容量が0.2mg当量/mL未満であると、体積当りの白金族金属のナノ粒子担持量が低下してしまうため好ましくない。一方、体積当りの陰イオン交換容量が1.0mg当量/mLを超えると、通液時の圧力損失が増大してしまうため好ましくない。なお、第4のモノリス陰イオン交換体の質量当りの陰イオン交換容量は特に限定されないが、陰イオン交換基が多孔質体の表面及び骨格内部にまで均一に導入しているため、3〜6mg当量/gである。なお、イオン交換基が表面のみに導入された多孔質体のイオン交換容量は、多孔質体やイオン交換基の種類により一概には決定できないものの、せいぜい500μg当量/gである。
【0141】
第4のモノリス陰イオン交換体において、連続マクロポア構造体の骨格を構成する材料は、架橋構造を有する有機ポリマー材料である。該ポリマー材料の架橋密度は特に限定されないが、ポリマー材料を構成する全構成単位に対して、0.3〜10モル%、好適には0.3〜5モル%の架橋構造単位を含んでいることが好ましい。架橋構造単位が0.3モル%未満であると、機械的強度が不足するため好ましくなく、一方、10モル%を越えると、陰イオン交換基の導入が困難になる場合があるため好ましくない。
【0142】
該ポリマー材料の種類に特に制限はなく、たとえば第一のモノリスを構成するようなポリマー材料を用いることができるので省略する。
【0143】
第4のモノリス陰イオン交換体における陰イオン交換基としては、第1のモノリス陰イオン交換体における陰イオン交換基と同様であり、その説明を省略する。第4のモノリス陰イオン交換体において、導入された陰イオン交換基は、多孔質体の表面のみならず、多孔質体の骨格内部にまで均一に分布している。均一分布の定義は、第1のモノリス陰イオン交換体の均一分布の定義と同じである。
【0144】
(第4のモノリス陰イオン交換体の製造方法)
第4のモノリス陰イオン交換体は、イオン交換基を含まない油溶性モノマー、界面活性剤及び水の混合物を撹拌することにより油中水滴型エマルジョンを調製し、次いで油中水滴型エマルジョンを重合させて全細孔容積が5〜16mL/gの連続マクロポア構造のモノリス状の有機多孔質中間体(モノリス中間体)を得るI工程、ビニルモノマー、1分子中に少なくとも2個以上のビニル基を有する架橋剤、ビニルモノマーや架橋剤は溶解するがビニルモノマーが重合して生成するポリマーは溶解しない有機溶媒及び重合開始剤からなる混合物を調製するII工程、II工程で得られた混合物を静置下、且つ該I工程で得られたモノリス中間体の存在下に重合を行い、モノリス中間体の骨格より太い骨格を有する骨太有機多孔質体を得るIII工程、該III工程で得られた骨太有機多孔質体に陰イオン交換基を導入するIV工程、を行うことにより得られる。
【0145】
第4のモノリス陰イオン交換体の製造方法において、I工程は、特開2002−306976号公報記載の方法に準拠して行なえばよい。
【0146】
I工程のモノリス中間体の製造において、イオン交換基を含まない油溶性モノマーとしては、第1のモノリス陰イオン交換体の製造で使用する油溶性モノマーと同様であり、その説明を省略する。
【0147】
界面活性剤は、第1のモノリス陰イオン交換体製造で使用する界面活性剤と同様であり、その説明を省略する。
【0148】
また、I工程では、油中水滴型エマルジョン形成の際、必要に応じて重合開始剤を使用してもよい。重合開始剤は、第1のモノリス陰イオン交換体の製造で使用する
重合開始剤と同様であり、その説明を省略する。
【0149】
イオン交換基を含まない油溶性モノマー、界面活性剤、水及び重合開始剤を混合し、油中水滴型エマルジョンを形成させる際の混合方法としては、第1のモノリス陰イオン交換体のI工程における混合方法と同様であり、その説明を省略する。
【0150】
I工程で得られるモノリス中間体は、連続マクロポア構造を有する。これを重合系に共存させると、モノリス中間体の構造を型として骨太の骨格を有する多孔構造が形成される。また、モノリス中間体は、架橋構造を有する有機ポリマー材料である。
該ポリマー材料の架橋密度は特に限定されないが、ポリマー材料を構成する全構成単位に対して、0.3〜10モル%、好ましくは0.3〜5モル%の架橋構造単位を含んでいることが好ましい。架橋構造単位が0.3モル%未満であると、機械的強度が不足するため好ましくない。特に、全細孔容積が10〜16mL/gと大きい場合には、連続マクロポア構造を維持するため、架橋構造単位を2モル%以上含有していることが好ましい。一方、10モル%を越えると、陰イオン交換基の導入が困難になる場合があるため好ましくない。
【0151】
モノリス中間体のポリマー材料の種類としては、特に制限はなく、前述のモノリスのポリマー材料と同じものが挙げられる。これにより、モノリス中間体の骨格に同様のポリマーを形成して、骨格を太らせ均一な骨格構造のモノリスを得ることができる。
【0152】
モノリス中間体の全細孔容積は、5〜16mL/g、好適には6〜16mL/gである。全細孔容積が小さ過ぎると、ビニルモノマーを重合させた後で得られるモノリスの全細孔容積が小さくなりすぎ、流体透過時の圧力損失が大きくなるため好ましくない。一方、全細孔容積が大き過ぎると、ビニルモノマーを重合させた後で得られるモノリスの構造が連続マクロポア構造から逸脱するため好ましくない。モノリス中間体の全細孔容積を上記数値範囲とするには、モノマーと水の比を、概ね1:5〜1:20とすればよい。
【0153】
また、モノリス中間体は、マクロポアとマクロポアの重なり部分である開口(メソポア)の平均直径が乾燥状態で20〜200μmである。乾燥状態での開口の平均直径が20μm未満であると、ビニルモノマーを重合させた後で得られるモノリスの開口径が小さくなり、通液時の圧力損失が大きくなってしまうため好ましくない。一方、200μmを超えると、ビニルモノマーを重合させた後で得られるモノリスの開口径が大きくなりすぎ、有機液体とモノリス陰イオン交換体との接触が不十分となり、その結果、有機過酸化物除去特性が低下してしまうため好ましくない。モノリス中間体は、マクロポアの大きさや開口の径が揃った均一構造のものが好適であるが、これに限定されず、均一構造中、均一なマクロポアの大きさよりも大きな不均一なマクロポアが点在するものであってもよい。
【0154】
II工程で用いられるビニルモノマーとしては、第3のモノリス陰イオン交換体で用いるビニルモノマーと同様であり説明を省略する。
【0155】
II工程で用いるビニルモノマーの添加量は、重合時に共存させるモノリス中間体に対して、質量で3〜50倍、好ましくは4〜40倍である。ビニルモノマー添加量が多孔質体に対して3倍未満であると、生成したモノリスの骨格(モノリス骨格の壁部の厚み)を太くできず、陰イオン交換基導入後の体積当りの陰イオン交換容量が小さくなってしまうため好ましくない。一方、ビニルモノマー添加量が50倍を超えると、開口径が小さくなり、通液時の圧力損失が大きくなってしまうため好ましくない。
【0156】
II工程で用いられる架橋剤は、第4のモノリス陰イオン交換体で用いられる架橋剤と同様であり、その説明を省略する。架橋剤使用量は、ビニルモノマーと架橋剤の合計量に対して0.3〜10モル%、特に0.3〜5モル%であることが好ましい。架橋剤使用量が0.3モル%未満であると、モノリスの機械的強度が不足するため好ましくない。一方、10モル%を越えると、陰イオン交換基の導入量が減少してしまう場合があるため好ましくない。
【0157】
II工程で用いられる有機溶媒とその使用量は、第4のモノリス陰イオン交換体のII工程で使用する有機溶媒と同様であり、その説明を省略する。
【0158】
重合開始剤としては、第1のモノリス陰イオン交換体の製造で使用する
重合開始剤と同様であり、その説明を省略する。
【0159】
III工程は、II工程で得られた混合物を静置下、且つ該I工程で得られたモノリス中間体の存在下に重合を行い、該モノリス中間体の骨格より太い骨格を有する骨太のモノリスを得る工程である。III工程で用いるモノリス中間体は、本発明の斬新な構造を有するモノリスを創出する上で、極めて重要な役割を担っている。特表平7−501140号等に開示されているように、モノリス中間体不存在下でビニルモノマーと架橋剤を特定の有機溶媒中で静置重合させると、粒子凝集型のモノリス状有機多孔質体が得られる。
【0160】
それに対して、本発明のように上記重合系に連続マクロポア構造のモノリス中間体を存在させると、重合後のモノリスの構造は劇的に変化し、粒子凝集構造は消失し、上述の骨太のモノリスが得られる。その理由は詳細には解明されていないが、モノリス中間体が存在しない場合は、重合により生じた架橋重合体が粒子状に析出・沈殿することで粒子凝集構造が形成されるのに対し、重合系に多孔質体(中間体)が存在すると、ビニルモノマー及び架橋剤が液相から多孔質体(中間体)の骨格部に吸着又は分配され、多孔質体(中間体)中で重合が進行して骨太骨格のモノリスが得られると考えられる。
【0161】
なお、開口径は重合の進行により狭められるが、モノリス中間体の全細孔容積が大きいため、例え骨格が骨太になっても適度な大きさの開口径が得られる。
【0162】
反応容器の内容積は、第4のモノリス陰イオン交換体のII工程で使用する反応容器と同様のものを用いればよく、その説明を省略する。
【0163】
III工程において、反応容器中、モノリス中間体は混合物(溶液)で含浸された状態に置かれる。II工程で得られた混合物とモノリス中間体の配合比は、前述の如く、モノリス中間体に対して、ビニルモノマーの添加量が質量で3〜50倍、好ましくは4〜40倍となるように配合するのが好適である。これにより、適度な開口径を有しつつ、骨太の骨格を有するモノリスを得ることができる。反応容器中、混合物中のビニルモノマーと架橋剤は、静置されたモノリス中間体の骨格に吸着、分配され、モノリス中間体の骨格内で重合が進行する。
【0164】
加熱重合により、モノリス中間体の骨格に吸着、分配したビニルモノマーと架橋剤が該骨格内で重合し、該骨格を太らせる。重合終了後、内容物を取り出し、未反応ビニルモノマーと有機溶媒の除去を目的に、アセトン等の溶剤で抽出して骨太のモノリスを得る。次に、上記の方法によりモノリスを製造した後、陰イオン交換基を導入する方法が、得られる第4のモノリス陰イオン交換体の多孔構造を厳密にコントロールできる点で好ましい。
【0165】
<第5のモノリス陰イオン交換体(複合モノリス陰イオン交換体)の説明>
第5のモノリス陰イオン交換体は、連続骨格相と連続空孔相からなり、該骨格は、表面に固着する直径4〜40μmの多数の粒子体又は該有機多孔質体の骨格表面上に形成される大きさが4〜40μmの多数の突起体を有し、連続空孔の平均直径が10〜150μm、全細孔容積0.5〜10mL/gであり、乾燥状態での重量当りのイオン交換容量が0.5〜6mg当量/gであり、イオン交換基が該モノリス構造を有する有機多孔質アニオン交換体中に均一に分布しているものであることを特徴とする。
図7に、第5のモノリス陰イオン交換体の形態例のSEM写真を示し、
図8に、第5のモノリス陰イオン交換体の突起体の模式的な断面図を示す。
【0166】
第5のモノリス陰イオン交換体は、複合モノリスに陰イオン交換基を導入することで得られるものであり、連続骨格相と連続空孔相からなる有機多孔質体と、該有機多孔質体の骨格表面に固着する直径4〜40μmの多数の粒子体又は該有機多孔質体の骨格表面上に形成される大きさが4〜40μmの多数の突起体との複合構造体である。なお、本明細書中、「粒子体」及び「突起体」を併せて「粒子体等」と言うことがある。更に、複合モノリス陰イオン交換体は、厚み1mm以上、水湿潤状態での孔の平均直径が10〜300μm、全細孔容積0.5〜10mL/gであり、水湿潤状態での体積当りのイオン交換容量0.2mg当量/mL以上であり、イオン交換基が該複合構造体中に均一に分布している。
【0167】
複合モノリス陰イオン交換体の連続骨格相と連続空孔相は、SEM画像により観察することができる。複合モノリス陰イオン交換体の基本構造としては、連続マクロポア構造及び共連続構造が挙げられる。複合モノリス陰イオン交換体の骨格相は、柱状の連続体、凹状の壁面の連続体あるいはこれらの複合体として表れるもので、粒子状や突起状とは明らかに相違する形状のものである。
【0168】
複合モノリス、すなわち、陰イオン交換基が導入される前の有機多孔質体の好ましい構造としては、気泡状のマクロポア同士が重なり合い、この重なる部分が乾燥状態で平均直径10〜150μmの開口となる連続マクロポア構造体(以下、「第5−1の複合モノリス」とも言う。)、及び乾燥状態で平均太さが0.8〜40μmの三次元的に連続した骨格と、その骨格間に乾燥状態で平均直径が10〜200μmの三次元的に連続した空孔とからなる共連続構造体(以下、「第5−2の複合モノリス」とも言う。)が挙げられる。
【0169】
そして、本発明に係る複合モノリス陰イオン交換体としては、この第5−1の複合モノリスに陰イオン交換基が導入された複合モノリス陰イオン交換体(以下、「第5−1の複合モノリス陰イオン交換体」とも言う。)及び、この第5−2の複合モノリスに陰イオン交換基が導入された複合モノリス陰イオン交換体(以下、「第5−2の複合モノリス陰イオン交換体」とも言う。)が好ましい。
【0170】
第5−1の複合モノリス陰イオン交換体の場合、該第5−1の複合モノリス陰イオン交換体は、気泡状のマクロポア同士が重なり合い、この重なる部分が水湿潤状態で平均直径10〜150μm、好ましくは20〜150μm、特に好ましくは30〜150μmの開口(メソポア)となる連続マクロポア構造体であり、該マクロポアと該開口(メソポア)で形成される気泡内が流路となる。連続マクロポア構造は、マクロポアの大きさや開口の径が揃った均一構造のものが好適であるが、これに限定されず、均一構造中、均一なマクロポアの大きさよりも大きな不均一なマクロポアが点在するものであってもよい。
【0171】
第5−1の複合モノリス陰イオン交換体の水湿潤状態での開口の平均直径が10μm未満であると、通液時の圧力損失が大きくなってしまうため好ましくなく、また、水湿潤状態での開口の平均直径が150μmを超えると、有機液体とモノリス陰イオン交換体及び担持された白金族金属ナノ粒子との接触が不十分となり、その結果、有機過酸化物の除去特性が低下してしまうため好ましくない。
【0172】
また、水湿潤状態の第5−1の複合モノリス陰イオン交換体の開口の平均直径は、乾燥状態の複合モノリス陰イオン交換体の開口の平均直径に、膨潤率を乗じて算出される値であり、算出の方法は第1のモノリスでもちいる方法と同様なので省略する。
【0173】
第5−2の複合モノリス陰イオン交換体の場合、該第5−2の複合モノリス陰イオン交換体は、水湿潤状態で平均太さが1〜60μm、好ましくは5〜50μmの三次元的に連続した骨格と、その骨格間に水湿潤状態での平均直径が10〜200μm、好ましくは15〜180μmの三次元的に連続した空孔を有する共連続構造である。
【0174】
第5−2の複合モノリス陰イオン交換体の三次元的に連続した空孔の水湿潤状態での平均直径が10μm未満であると、通液時の圧力損失が大きくなってしまうため好ましくなく、また、200μmを超えると、有機液体とモノリス陰イオン交換体及び担持された白金族金属ナノ粒子との接触が不十分となり、その結果、有機過酸化物除去特性が低下してしまうため好ましくない。また、第5−2の複合モノリス陰イオン交換体の骨格の平均太さが水湿潤状態で1μm未満であると、体積当りの陰イオン交換容量が低下するといった欠点のほか、機械的強度が低下して、特に高流速で通液した際にモノリス陰イオン交換体が大きく変形してしまうため好ましくない。
一方、第5−2の複合モノリス陰イオン交換体の骨格の平均太さが水湿潤状態で50μmを越えると、骨格が太くなり過ぎ、通液時の圧力損失が増大するため好ましくない。
【0175】
上記第5−2の複合モノリス陰イオン交換体の空孔の水湿潤状態での平均直径は、乾燥状態の複合モノリス陰イオン交換体の開口の平均直径に、膨澗率を乗じて算出される値であり、算出の方法は第3のモノリスでもちいる方法と同様なので省略する。
【0176】
また、第5−2の複合モノリス陰イオン交換体の全細孔容積は、0.5〜10mL/gである。全細孔容積が0.5mL/g未満であると、通液時の圧力損失が大きくなってしまうため好ましくなく、更に、単位断面積当りの透過液量が小さくなり、処理液量が低下してしまうため好ましくない。一方、全細孔容積が10mL/gを超えると、体積当りの陰イオン交換容量が低下し、白金族金属ナノ粒子の担持量も低下し触媒効果が低下するため好ましくない。また、機械的強度が低下して、特に高流速で通液した際にモノリス陰イオン交換体が大きく変形してしまうため好ましくない。更に、有機液体とモノリス陰イオン交換体との接触効率が低下するため、有機過酸化物除去効果も低下してしまうため好ましくない。
三次元的に連続した空孔の大きさ及び全細孔容積が上記範囲にあれば、有機液体との接触が極めて均一で接触面積も大きく、かつ低圧力損失下での通液が可能となる。なお、モノリス(モノリス中間体、モノリス、モノリス陰イオン交換体)の全細孔容積は、乾燥状態でも、水湿潤状態でも、同じである。
【0177】
複合モノリス陰イオン交換体の孔の水湿潤状態での平均直径は、10〜200μmである。第5−1の複合モノリス陰イオン交換体の場合、複合モノリス陰イオン交換体の水湿潤状態での孔径の好ましい値は20〜150μmであり、また、第5−2の複合モノリス陰イオン交換体の場合、複合モノリス陰イオン交換体の水湿潤状態での孔径の好ましい値は15〜180μmである。
【0178】
本発明に係る複合モノリス陰イオン交換体において、水湿潤状態での粒子体の直径及び突起体の大きさは、4〜40μm、好ましくは4〜30μm、特に好ましくは4〜20μmである。なお、本発明において、粒子体及び突起体は、共に骨格表面に突起状に観察されるものであり、粒状に観察されるものを粒子体と称し、粒状とは言えない突起状のものを突起体と称する。
図8に、突起体の模式的な断面図を示す。
図8中の(A)〜(E)に示すように、骨格表面1から突き出している突起状のものが突起体2であり、突起体2には、(A)に示す突起体2aのように粒状に近い形状のもの、(B)に示す突起体2bのように半球状のもの、(C)に示す突起体2cのように骨格表面の盛り上がりのようなもの等が挙げられる。また、他には、突起体2には、(D)に示す突起体2dのように、骨格表面1の平面方向よりも、骨格表面1に対して垂直方向の方が長い形状のものや、(E)に示す突起体2eのように、複数の方向に突起した形状のものもある。また、突起体の大きさは、SEM観察したときのSEM画像で判断され、個々の突起体のSEM画像での幅が最も大きくなる部分の長さを指す。
【0179】
本発明に係る複合モノリス陰イオン交換体において、全粒子体等中、水湿潤状態で4〜40μmの粒子体等が占める割合は70%以上、好ましくは80%以上である。なお、全粒子体等中の水湿潤状態で4〜40μmの粒子体等が占める割合は、全粒子体等の個数に占める水湿潤状態で4〜40μmの粒子体等の個数割合を指す。また、骨格相の表面は全粒子体等により40%以上、好ましくは50%以上被覆されている。
なお、全粒子体等による骨格層の表面の被覆割合は、SEMにより表面観察にしたときのSEM画像上の面積割合、つまり、表面を平面視したときの面積割合を指す。壁面や骨格を被覆している粒子の大きさが上記範囲を逸脱すると、流体と複合モノリス陰イオン交換体の骨格表面及び骨格内部との接触効率を改善する効果が小さくなってしまうため好ましくない。なお、全粒子体等とは、水湿潤状態で4〜40μmの粒子体等以外の大きさの範囲の粒子体及び突起体も全て含めた、骨格層の表面に形成されている全ての粒子体及び突起体を指す。
【0180】
上記複合モノリス陰イオン交換体の骨格表面に付着した粒子体等の水湿潤状態での直径又は大きさは、乾燥状態の複合モノリス陰イオン交換体のSEM画像の観察により得られる粒子体等の直径又は大きさに、乾燥状態から水湿潤状態となった際の膨潤率を乗じて算出した値、又は陰イオン交換基導入前の乾燥状態の複合モノリスのSEM画像の観察により得られる粒子体等の直径又は大きさに、陰イオン交換基導入前後の膨潤率を乗じて算出した値である。
具体的には、水湿潤状態の複合モノリス陰イオン交換体の直径がx4(mm)であり、その水湿潤状態の複合モノリス陰イオン交換体を乾燥させ、得られる乾燥状態の複合モノリス陰イオン交換体の直径がy4(mm)であり、この乾燥状態の複合モノリス陰イオン交換体をSEM観察したときのSEM画像中の粒子体等の直径又は大きさがz4(μm)であったとすると、水湿潤状態の複合モノリス陰イオン交換体の粒子体等の直径又は大きさ(μm)は、次式「水湿潤状態の複合モノリス陰イオン交換体の粒子体等の直径又は大きさ(μm)=z4×(x4/y4)」で算出される。
【0181】
そして、乾燥状態の複合モノリス陰イオン交換体のSEM画像中に観察される全ての粒子体等の直径又は大きさを測定して、その値を基に、1視野のSEM画像中の全粒子体等の水湿潤状態での直径又は大きさを算出する。この乾燥状態の複合モノリス陰イオン交換体のSEM観察を少なくとも3回行い、全視野において、SEM画像中の全粒子体等の水湿潤状態での直径又は大きさを算出して、直径又は大きさが4〜40μmにある粒子体等が観察されるか否かを確認し、全視野において確認された場合、複合モノリス陰イオン交換体の骨格表面上に、直径又は大きさが水湿潤状態で4〜40μmにある粒子体等が形成されていると判断する。
【0182】
また、上記に従って1視野毎にSEM画像中の全粒子体等の水湿潤状態での直径又は大きさを算出し、視野毎に、全粒子体等に占める水湿潤状態で4〜40μmの粒子体等の割合を求め、全視野において、全粒子体等中の水湿潤状態で4〜40μmの粒子体等が占める割合が70%以上であった場合には、複合モノリス陰イオン交換体の骨格表面に形成されている全粒子体等中、水湿潤状態で4〜40μmの粒子体等が占める割合は70%以上であると判断する。
また、上記に従って1視野毎にSEM画像中の全粒子体等による骨格層の表面の被覆割合を求め、全視野において、全粒子体等による骨格層の表面の被覆割合が40%以上であった場合には、複合モノリス陰イオン交換体の骨格層の表面が全粒子体等により被覆されている割合が40%以上であると判断する。
【0183】
また、陰イオン交換基導入前の乾燥状態の複合モノリスの粒子体等の直径又は大きさと、その乾燥状態のモノリスに陰イオン交換基導入したときの乾燥状態の複合モノリスに対する水湿潤状態の複合モノリス陰イオン交換体の膨潤率とが分かる場合は、乾燥状態の複合モノリスの粒子体等の直径又は大きさに、膨潤率を乗じて、水湿潤状態の複合モノリス陰イオン交換体の粒子体等の直径又は大きさを算出して、上記と同様にして、水湿潤状態の複合モノリス陰イオン交換体の粒子体等の直径又は大きさ、全粒子体等中、水湿潤状態で4〜40μmの粒子体等が占める割合、粒子体等による骨格層の表面の被覆割合を求めることもできる。
【0184】
本発明に係る複合モノリス陰イオン交換体において、粒子体等による骨格相表面の被覆率が40%未満であると、有機液体と複合モノリス陰イオン交換体の骨格内部及び骨格表面との接触効率を改善する効果が小さくなり、有機過酸化物の除去特性の改善効果が低下してしまうため好ましくない。上記粒子体等による被覆率の測定方法としては、複合モノリス陰イオン交換体のSEM画像による画像解析方法が挙げられる。
【0185】
また、本発明に係る複合モノリス陰イオン交換体の全細孔容積は、0.5〜10mL/g、好ましくは0.8〜7mL/gである。
複合モノリス陰イオン交換体の全細孔容積が0.5mL/g未満であると、通液時の圧力損失が大きくなってしまうため好ましくなく、更に、単位断面積当りの透過流体量が小さくなり、処理能力が低下してしまうため好ましくない。一方、複合モノリス陰イオン交換体の全細孔容積が10mL/gを超えると、機械的強度が低下して、特に高流速で通液した際に複合モノリス陰イオン交換体が大きく変形してしまうため好ましくない。更に、有機液体と複合モノリス陰イオン交換体及びそれに担持された白金族金属ナノ粒子との接触効率が低下するため、触媒効果も低下してしまうため好ましくない。また、モノリス中間体、複合モノリス及び複合モノリス陰イオン交換体の全細孔容積は、乾燥状態でも、水湿潤状態でも、同じである。
【0186】
本発明に係る複合モノリス陰イオン交換体は、水湿潤状態での体積当りの陰イオン交換容量が0.2mg当量/mL以上、好ましくは0.3〜1.8mg当量/mLの陰イオン交換容量を有する。
複合モノリス陰イオン交換体の体積当りの陰イオン交換容量が0.2mg当量/mL未満であると、体積当りの白金族金属のナノ粒子担持量が低下してしまうため好ましくない。一方、複合モノリス陰イオン交換体の体積当りの陰イオン交換容量が1.8mg当量/mLを超えると、通液時の圧力損失が増大してしまうため好ましくない。なお、本発明に係る複合モノリス陰イオン交換体の乾燥状態における質量当りの陰イオン交換容量は特に限定されないが、陰イオン交換基がモノリス陰イオン交換体の骨格表面及び骨格内部にまで均一に導入しているため、3〜6mg当量/gである。なお、陰イオン交換基が骨格の表面のみに導入された有機多孔質陰イオン交換体の陰イオン交換容量は、有機多孔質体や陰イオン交換基の種類により一概には決定できないものの、せいぜい500μg当量/gである。
【0187】
本発明に係る複合モノリス陰イオン交換体において、連続空孔構造の骨格相を構成する材料は、架橋構造を有する有機ポリマー材料である。該ポリマー材料の架橋密度は特に限定されないが、ポリマー材料を構成する全構成単位に対して、0.3〜10モル%、好適には0.3〜5モル%の架橋構造単位を含んでいることが好ましい。架橋構造単位が0.3モル%未満であると、機械的強度が不足するため好ましくなく、一方、10モル%を越えると、陰イオン交換基の導入が困難となり、導入量が減少してしまう場合があるため好ましくない。
【0188】
該ポリマー材料の種類に特に制限はなく、たとえば第1のモノリスを構成するようなポリマー材料を用いることができるので省略する。
【0189】
本発明に係る複合モノリス陰イオン交換体において、有機多孔質体の骨格相を構成する材料と骨格相の表面に形成される粒子体等とは、同じ組織が連続した同一材料のもの、同じではない組織が連続する互いが異なる材料のものなどが挙げられる。同じではない組織が連続する互いが異なる材料のものとしては、ビニルモノマーの種類が互いに異なる材料の場合、ビニルモノマーや架橋剤の種類は同じであっても互いの配合割合が異なる材料の場合などが挙げられる。
【0190】
本発明に係る複合モノリス陰イオン交換体の陰イオン交換基としては、第1のモノリス陰イオン交換体における陰イオン交換基と同様であり、その説明を省略する。第2のモノリス陰イオン交換体において、導入された陰イオン交換基は、多孔質体の表面のみならず、多孔質体の骨格内部にまで均一に分布している。均一分布の定義は、第1のモノリス陰イオン交換体の均一分布の定義と同じである。
【0191】
本発明に係る複合モノリス陰イオン交換体は、その厚みは1mm以上であり、膜状の多孔質体とは区別される。厚みが1mm未満であると、多孔質体1つ当たりのイオン交換容量が極端に低くなるため好ましくない。本発明に係る複合モノリス陰イオン交換体の厚みは、好ましくは3〜1000mmである。また、本発明に係る複合モノリス陰イオン交換体は、骨格の基本構造が連続空孔構造であるため、機械的強度が高い。
【0192】
<複合モノリス陰イオン交換体の製造方法>
本発明に係る複合モノリス陰イオン交換体は、陰イオン交換基を含まない油溶性モノマー、界面活性剤及び水の混合物を撹拌することにより油中水滴型エマルションを調製し、次いで油中水滴型エマルションを重合させて全細孔容積が5〜30mL/gの連続マクロポア構造のモノリス状の有機多孔質中間体(モノリス中間体)を得るI工程、ビニルモノマー、一分子中に少なくとも2個以上のビニル基を有する架橋剤、ビニルモノマーや架橋剤は溶解するがビニルモノマーが重合して生成するポリマーは溶解しない有機溶媒及び重合開始剤からなる混合物を調製するII工程、II工程で得られた混合物を静置下、且つ該I工程で得られたモノリス中間体の存在下に重合を行い、複合構造を有する複合モノリスを得るIII工程、該III工程で得られた複合モノリスに陰イオン交換基を導入する工程、を行うことにより得られる。
【0193】
本発明に係る複合モノリス陰イオン交換体の製造方法において、I工程は、特開2002−306976号公報記載の方法に準拠して行なえばよい。
【0194】
(モノリス中間体の製造方法)
I工程のモノリス中間体の製造において、イオン交換基を含まない油溶性モノマーとしては、第1のモノリス陰イオン交換体の製造で使用する油溶性モノマーと同様であり、その説明を省略する。
【0195】
界面活性剤は、第1のモノリス陰イオン交換体のI工程で使用する界面活性剤と同様であり、その説明を省略する。
【0196】
また、I工程では、油中水滴型エマルジョン形成の際、必要に応じて重合開始剤を使用してもよい。重合開始剤は、第1のモノリス陰イオン交換体の製造で使用する
重合開始剤と同様であり、その説明を省略する。
【0197】
イオン交換基を含まない油溶性モノマー、界面活性剤、水及び重合開始剤を混合し、油中水滴型エマルジョンを形成させる際の混合方法としては、第1のモノリス陰イオン交換体のI工程における混合方法と同様であり、その説明を省略する。
【0198】
I工程で得られるモノリス中間体は、連続マクロポア構造を有する。これを重合系に共存させると、そのモノリス中間体の構造を鋳型として連続マクロポア構造の骨格相の表面に粒子体等が形成したり、共連続構造の骨格相の表面に粒子体等が形成したりする。また、モノリス中間体は、架橋構造を有する有機ポリマー材料である。該ポリマー材料の架橋密度は特に限定されないが、ポリマー材料を構成する全構成単位に対して、0.3〜10モル%、好ましくは0.3〜5モル%の架橋構造単位を含んでいることが好ましい。架橋構造単位が0.3モル%未満であると、機械的強度が不足するため好ましくない。一方、10モル%を越えると、多孔質体の柔軟性が失われたり、陰イオン交換基の導入が困難になったりする場合があるため好ましくない。
【0199】
モノリス中間体のポリマー材料の種類としては、特に制限はなく、前述の複合モノリスのポリマー材料と同じものが挙げられる。これにより、モノリス中間体の骨格に同様のポリマーを形成して、複合構造のモノリスを得ることができる。
【0200】
モノリス中間体の全細孔容積は、5〜30mL/g、好適には6〜28mL/gである。モノリス中間体の全細孔容積が小さ過ぎると、ビニルモノマーを重合させた後で得られるモノリスの全細孔容積が小さくなりすぎ、流体透過時の圧力損失が大きくなるため好ましくない。一方、モノリス中間体の全細孔容積が大き過ぎると、ビニルモノマーを重合させた後で得られる複合モノリスの構造が不均一になりやすく、場合によっては構造崩壊を引き起こすため好ましくない。モノリス中間体の全細孔容積を上記数値範囲とするには、モノマーと水の比(質量)を、概ね1:5〜1:35とすればよい。
【0201】
このモノマーと水との比を、概ね1:5〜1:20とすれば、モノリス中間体の全細孔容積が5〜16mL/gの連続マクロポア構造のものが得られ、III工程を経て得られる複合モノリスは第5−1の複合モノリスとなる。また、該配合比率を、概ね1:20〜1:35とすれば、モノリス中間体の全細孔容積が16mL/gを超え、30mL/g以下の連続マクロポア構造のものが得られ、III工程を経て得られる複合モノリスは第5−2の複合モノリスとなる。
【0202】
また、モノリス中間体は、マクロポアとマクロポアの重なり部分である開口(メソポア)の乾燥状態での平均直径が20〜200μmである。モノリス中間体の乾燥状態での開口の平均直径が20μm未満であると、ビニルモノマーを重合させた後で得られるモノリスの開口径が小さくなり、通液時の圧力損失が大きくなってしまうため好ましくない。一方、モノリス中間体の乾燥状態での開口の平均直径が200μmを超えると、ビニルモノマーを重合させた後で得られるモノリスの開口径が大きくなり過ぎ、有機液体とモノリス陰イオン交換体との接触が不十分となり、その結果、有機過酸化物除去特性が低下してしまうため好ましくない。モノリス中間体は、マクロポアの大きさや開口の径が揃った均一構造のものが好適であるが、これに限定されず、均一構造中、均一なマクロポアの大きさよりも大きな不均一なマクロポアが点在するものであってもよい。
【0203】
(複合モノリスの製造方法)
II工程は、ビニルモノマー、1分子中に少なくとも2個以上のビニル基を有する第2架橋剤、ビニルモノマーや第2架橋剤は溶解するがビニルモノマーが重合して生成するポリマーは溶解しない有機溶媒及び重合開始剤からなる混合物を調製する工程である。なお、I工程とII工程の順序はなく、I工程後にII工程を行ってもよく、II工程後にI工程を行ってもよい。
【0204】
II工程で用いるビニルモノマーとしては、第3のモノリス陰イオン交換体で用いるビニルモノマーと同様であり説明を省略する。
【0205】
これらビニルモノマーの添加量は、重合時に共存させるモノリス中間体に対して、質量で3〜50倍、好ましくは4〜40倍である。ビニルモノマー添加量が多孔質体に対して3倍未満であると、生成したモノリスの骨格に粒子体を形成できず、陰イオン交換基導入後の体積当りの陰イオン交換容量が小さくなってしまうため好ましくない。一方、ビニルモノマー添加量が50倍を超えると、開口径が小さくなり、通液時の圧力損失が大きくなってしまうため好ましくない。
【0206】
II工程で用いられる架橋剤は、分子中に少なくとも2個の重合可能なビニル基を含有し、有機溶媒への溶解性が高いものが好適に用いられる。架橋剤の具体例としては、ジビニルベンゼン、ジビニルナフタレン、ジビニルビフェニル、エチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ブタンジオールジアクリレート等が挙げられる。これら架橋剤は、1種単独又は2種以上を組み合わせて使用することができる。好ましい架橋剤は、機械的強度の高さと加水分解に対する安定性から、ジビニルベンゼン、ジビニルナフタレン、ジビニルビフェニル等の芳香族ポリビニル化合物である。
【0207】
架橋剤の使用量は、ビニルモノマーと架橋剤の合計量に対して0.3〜20モル%、特に0.3〜10モル%であることが好ましい。架橋剤使用量が0.3モル%未満であると、モノリスの機械的強度が不足するため好ましくない。一方、20モル%を越えると、モノリスの脆化が進行して柔軟性が失われる、陰イオン交換基の導入量が減少してしまう場合があるため好ましくない。
【0208】
II工程で用いられる有機溶媒は、第3のモノリス陰イオン交換体のII工程で使用する有機溶媒と同様であり、その説明を省略する。
【0209】
重合開始剤としては、第3のモノリス陰イオン交換体のII工程で使用する重合開始剤と同様であり、その説明を省略する。
【0210】
III工程は、II工程で得られた混合物を静置下、且つ該I工程で得られたモノリス中間体の存在下、重合を行い、複合モノリスを得る工程である。III工程で用いるモノリス中間体は、本発明に係る斬新な構造を有する複合モノリスを創出する上で、極めて重要な役割を担っている。特表平7−501140号等に開示されているように、モノリス中間体不存在下でビニルモノマーと架橋剤を特定の有機溶媒中で静置重合させると、粒子凝集型のモノリス状有機多孔質体が得られる。それに対して、本発明のように上記重合系に連続マクロポア構造のモノリス中間体を存在させると、重合後の複合モノリスの構造は劇的に変化し、粒子凝集構造ではなく、上述の特定の骨格構造を有する複合モノリスが得られる。
【0211】
反応容器の内容積は、モノリス中間体を反応容器中に存在させる大きさのものであれば特に制限されず、反応容器内にモノリス中間体を載置した際、平面視でモノリスの周りに隙間ができるもの、反応容器内にモノリス中間体が隙間無く入るもののいずれであってもよい。このうち、重合後の複合モノリスが容器内壁から押圧を受けることなく、反応容器内に隙間無く入るものが、モノリスに歪が生じることもなく、反応原料などの無駄がなく効率的である。なお、反応容器の内容積が大きく、重合後のモノリスの周りに隙間が存在する場合であっても、ビニルモノマーや架橋剤は、モノリス中間体に吸着、分配されるため、反応容器内の隙間部分に粒子凝集構造物が生成することはない。
【0212】
III工程において、反応容器中、モノリス中間体は混合物(溶液)で含浸された状態に置かれる。II工程で得られた混合物とモノリス中間体の配合比は、前述の如く、モノリス中間体に対して、ビニルモノマーの添加量が質量で3〜50倍、好ましくは4〜40倍となるように配合するのが好適である。これにより、適度な開口径を有しつつ、特定の骨格を有する複合モノリスを得ることができる。反応容器中、混合物中のビニルモノマーと架橋剤は、静置されたモノリス中間体の骨格に吸着、分配され、モノリス中間体の骨格内で重合が進行する。
【0213】
重合条件は、モノマーの種類、開始剤の種類により様々な条件が選択できる。例えば、開始剤として2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウロイル等を用いたときには、不活性雰囲気下の密封容器内において、20〜100℃で1〜48時間加熱重合させればよい。加熱重合により、モノリス中間体の骨格に吸着、分配したビニルモノマーと架橋剤が該骨格内で重合し、該特定の骨格構造を形成させる。重合終了後、内容物を取り出し、未反応ビニルモノマーと有機溶媒の除去を目的に、アセトン等の溶剤で抽出して特定骨格構造の複合モノリスを得る。
【0214】
上述の複合モノリスを製造する際に、下記(1)〜(5)の条件のうち、少なくとも1つを満たす条件下でII工程又は、III工程行うと、本発明の特徴的な構造である、骨格表面に粒子体等が形成された複合モノリスを製造することができる。
(1)、III工程における重合温度が、重合開始剤の10時間半減温度より、少なくとも5℃低い温度である。
(2)II工程で用いる架橋剤のモル%が、I工程で用いる架橋剤のモル%の2倍以上である。
(3)II工程で用いるビニルモノマーが、I工程で用いた油溶性モノマーとは異なる構造のビニルモノマーである。
(4)II工程で用いる有機溶媒が、分子量200以上のポリエーテルである。
(5)II工程で用いるビニルモノマーの濃度が、II工程の混合物中、30質量%以下である。
【0215】
(上記(1)の説明)
10時間半減温度は重合開始剤の特性値であり、使用する重合開始剤が決まれば10時間半減温度を知ることができる。また、所望の10時間半減温度があれば、それに該当する重合開始剤を選択することができる。III工程において、重合温度を低下させることで、重合速度が低下し、骨格相の表面に粒子体等を形成させることができる。その理由は、モノリス中間体の骨格相の内部でのモノマー濃度低下が緩やかとなり、液相部からモノリス中間体へのモノマー分配速度が低下するため、余剰のモノマーがモノリス中間体の骨格層の表面近傍で濃縮され、その場で重合したためと考えられる。
【0216】
好ましい重合温度は、用いる重合開始剤の10時間半減温度より少なくとも10℃低い温度である。重合温度の下限値は特に限定されないが、温度が低下するほど重合速度が低下し、重合時間が実用上許容できないほど長くなってしまうため、重合温度を10時間半減温度に対して5〜20℃低い範囲に設定することが好ましい。
【0217】
(上記(2)の説明)
II工程で用いる架橋剤のモル%を、I工程で用いる架橋剤のモル%の2倍以上に設定して重合すると、本発明に係る複合構造を有する複合モノリスが得られる。その理由は、モノリス中間体と含浸重合によって生成したポリマーとの相溶性が低下し相分離が進行するため、含浸重合によって生成したポリマーはモノリス中間体の骨格相の表面近傍に排除され、骨格相表面に粒子体等の凹凸を形成したものと考えられる。なお、架橋剤のモル%は、架橋密度モル%であって、ビニルモノマーと架橋剤の合計量に対する架橋剤量(モル%)を言う。
【0218】
II工程で用いる架橋剤モル%の上限は特に制限されないが、架橋剤モル%が著しく大きくなると、重合後のモノリスにクラックが発生する、モノリスの脆化が進行して柔軟性が失われる、陰イオン交換基の導入量が減少してしまう場合があるといった問題点が生じるため好ましくない。好ましい架橋剤モル%の倍数は2倍〜10倍である。一方、I工程で用いる架橋剤モル%をII工程で用いられる架橋剤モル%に対して2倍以上に設定しても、骨格相表面への粒子体等の形成は起こらず、本発明に係る複合モノリスは得られなかった。
【0219】
(上記(3)の説明)
II工程で用いるビニルモノマーが、I工程で用いた油溶性モノマーとは異なる構造のビニルモノマーであると、本発明に係る複合構造を有する複合モノリスが得られる。例えば、スチレンとビニルベンジルクロライドのように、ビニルモノマーの構造が僅かでも異なると、骨格相表面に粒子体等が形成された複合モノリスが生成する。一般に、僅かでも構造が異なる二種類のモノマーから得られる二種類のホモポリマーは互いに相溶しない。 したがって、I工程で用いたモノリス中間体形成に用いたモノマーとは異なる構造のモノマーをII工程で用いて、III工程で重合を行うと、II工程で用いたモノマーはモノリス中間体に均一に分配や含浸がされるものの、重合が進行してポリマーが生成すると、生成したポリマーはモノリス中間体とは相溶しないため、相分離が進行し、生成したポリマーはモノリス中間体の骨格相の表面近傍に排除され、骨格相の表面に粒子体等の凹凸を形成したものと考えられる。
【0220】
(上記(4)の説明)
II工程で用いる有機溶媒が、分子量200以上のポリエーテルであると、本発明に係る複合構造を有する複合モノリスが得られる。ポリエーテルはモノリス中間体との親和性が比較的高く、特に低分子量の環状ポリエーテルはポリスチレンの良溶媒、低分子量の鎖状ポリエーテルは良溶媒ではないがかなりの親和性を有している。しかし、ポリエーテルの分子量が大きくなると、モノリス中間体との親和性は劇的に低下し、モノリス中間体とほとんど親和性を示さなくなる。このような親和性に乏しい溶媒を有機溶媒に用いると、モノマーのモノリス中間体の骨格内部への拡散が阻害され、その結果、モノマーはモノリス中間体の骨格の表面近傍のみで重合するため、骨格相表面に粒子体等が形成され骨格表面に凹凸を形成したものと考えられる。
【0221】
ポリエーテルの分子量は、200以上であれば上限に特に制約はないが、あまりに高分子量であると、II工程で調製される混合物の粘度が高くなり、モノリス中間体内部への含浸が困難になるため好ましくない。好ましいポリエーテルの分子量は200〜100000、特に好ましくは200〜10000である。また、ポリエーテルの末端構造は、未修飾の水酸基であっても、メチル基やエチル基等のアルキル基でエーテル化されていてもよいし、酢酸、オレイン酸、ラウリン酸、ステアリン酸等でエステル化されていてもよい。
【0222】
(上記(5)の説明)
II工程で用いるビニルモノマーの濃度が、II工程中の混合物中、30質量%以下であると、本発明に係る複合モノリスが得られる。II工程でモノマー濃度を低下させることで、重合速度が低下し、前記(1)と同様の理由で、骨格相表面に粒子体等が形成でき、骨格相表面に凹凸を形成されることができる。モノマー濃度の下限値は特に限定されないが、モノマー濃度が低下するほど重合速度が低下し、重合時間が実用上許容できないほど長くなってしまうため、モノマー濃度は10〜30質量%に設定することが好ましい。
【0223】
このようにして得られる複合モノリス、すなわち、陰イオン交換基が導入される前の複合構造を有する有機多孔質体の好ましい構造としては、気泡状のマクロポア同士が重なり合い、この重なる部分が乾燥状態で平均直径5〜120μmの開口となる連続マクロポア構造体(「第5−1の複合モノリス」)及び乾燥状態での平均太さが0.8〜40μmの三次元的に連続した骨格と、その骨格間に乾燥状態での直径が5〜100μmの三次元的に連続した空孔とからなる共連続構造体(「第5−2の複合モノリス」)が挙げられる。
【0224】
複合モノリスが第5−1のモノリスの場合、該第5−1の複合モノリスは、気泡状のマクロポア同士が重なり合い、この重なる部分が乾燥状態で平均直径10〜120μm、好ましくは20〜120μm、特に好ましくは25〜120μmの開口(メソポア)となる連続マクロポア構造体であり、該マクロポアと該開口(メソポア)で形成される気泡内が流路となる。連続マクロポア構造は、マクロポアの大きさや開口の径が揃った均一構造のものが好適であるが、これに限定されず、均一構造中、均一なマクロポアの大きさよりも大きな不均一なマクロポアが点在するものであってもよい。
第5−1の複合モノリスの乾燥状態での開口の平均直径が10μm未満であると、陰イオン交換基導入後のモノリス陰イオン交換体の開口の平均直径も小さくなり、通液時の圧力損失が大きくなってしまうため好ましくなく、また、乾燥状態での開口の平均直径が120μmを超えると、陰イオン交換基導入後のモノリス陰イオン交換体の開口の平均直径が大きくなり過ぎて、有機液体とモノリス陰イオン交換体及び担持された白金族金属ナノ粒子との接触が不十分となり、その結果、有機過酸化物除去特性が低下してしまうため好ましくない。
【0225】
第5−2の複合モノリスの場合、該第5−2の複合モノリスは、乾燥状態での平均太さが0.8〜40μmの三次元的に連続した骨格と、その骨格間に乾燥状態での平均直径が8〜120μmの三次元的に連続した空孔を有する共連続構造である。第5−2の複合モノリスの三次元的に連続した空孔の乾燥状態での平均直径が8μm未満であると、陰イオン交換基導入後のモノリス陰イオン交換体の開口の平均直径も小さくなり、通液時の圧力損失が大きくなってしまうため好ましくなく、また、120μmを超えると、陰イオン交換基導入後のモノリス陰イオン交換体の開口の平均直径が大きくなり過ぎて有機液体とモノリス陰イオン交換体及び担持された白金族金属ナノ粒子との接触が不十分となり、その結果、有機過酸化物除去特性が低下してしまうため好ましくない。
【0226】
また、第5−2の複合モノリスの骨格の乾燥状態での平均太さが0.8μm未満であると、陰イオン交換基導入後のモノリス陰イオン交換体の体積当りの陰イオン交換容量が低下するといった欠点のほか、機械的強度が低下して、特に高流速で通液した際にモノリス陰イオン交換体が大きく変形してしまうため好ましくない。一方、骨格の乾燥状態での平均太さが40μmを越えると、陰イオン交換基導入後のモノリス陰イオン交換体の骨格が太くなり過ぎ、通液時の圧力損失が増大するため好ましくない。
【0227】
<第6のモノリス陰イオン交換体(切断型モノリス陰イオン交換体)の説明>
第6のモノリス陰イオン交換体は、気泡状のマクロポア同士が重なり合い、この重なる部分が水湿潤状態で平均直径20〜300μmの開口となる連続マクロポア構造体であり、該連続マクロポア構造体の骨格部の表層部が多孔構造であり、水湿潤状態での体積当たりのアニオン交換容量が0.4mg当量/mL以上であり、アニオン交換基が該モノリス構造を有する有機多孔質アニオン交換体中に均一に分布しているものであることを特徴とする。
図9に、第6のモノリス陰イオン交換体の
図10における「A」の部分の形態例のSEM写真を示し、
図10に、第6のモノリス陰イオン交換体の基本構造の模式図を示す。
【0228】
第6のモノリス陰イオン交換体の基本構造を模式図である
図10を参照して説明する。
図10中、右側の四角図は、モノリス陰イオン交換体の壁部(骨格部)Aを拡大した模式図である。モノリス陰イオン交換体10は気泡状のマクロポア1同士が重なり合い、この重なる部分が共通の開口(メソポア)2となる連続マクロポア構造であり、開口2の平均直径が水湿潤状態で20〜300μm、好ましくは20〜200μm、特に20〜150μmであり、マクロポア1と開口2で形成される連続気泡内が流路となる。モノリス陰イオン交換体10は気泡状のマクロポア1同士が重なり合い、この重なる部分が共通の開口(メソポア)2となる連続マクロポア構造であり、開口2の平均直径が水湿潤状態で20〜300μm、好ましくは20〜200μm、特に20〜150μmであり、マクロポア1と開口2で形成される連続気泡内が流路となる。
【0229】
モノリス陰イオン交換体の開口の平均直径は、モノリスに陰イオン交換基を導入する際、モノリス全体が膨潤するため、モノリスの開口の平均直径よりも大となる。連続マクロポア構造は、マクロポアの大きさや開口の径が揃った均一構造のものが好適であるが、これに限定されず、均一構造中、均一なマクロポアの大きさよりも大きな不均一なマクロポアが点在するものであってもよい。モノリス陰イオン交換体の水湿潤状態での開口(メソポア)の平均直径が20μm未満であると、通液時の圧力損失が大きくなってしまうため好ましくなく、また、水湿潤状態での開口(メソポア)の平均直径が300μmを超えると、有機液体とモノリス陰イオン交換体及び担持された白金族金属ナノ粒子との接触が不十分となり、その結果、有機過酸化物除去特性が低下してしまうため好ましくない。
【0230】
また、水湿潤状態のモノリス陰イオン交換体の開口の平均直径は、乾燥状態のモノリス陰イオン交換体の開口の平均直径に、膨澗率を乗じて算出される値であり、算出の方法は第1のモノリスで用いる方法と同様なので省略する。
【0231】
なお、モノリス陰イオン交換体10は骨格の表層部に多孔構造を有するが、骨格中に占める表層部の割合が小さいこと、更に多孔構造が「巣」のような非連続孔が大部分であることから、水銀圧入法によりメソポアの平均直径を求めることができる。
【0232】
モノリス陰イオン交換体10において、連続マクロポア構造体の骨格部6は内層部3と表層部4からなり、表層部4が多孔構造である。すなわち多孔構造は表層部4中に水湿潤状態で直径が0.1〜30μm、特に0.1〜15μmの細孔7が無数に存在する、表層部の断面が所謂蜂の巣に類似する構造のものである。多数の細孔7は、互いに独立のものあるいは隣接の孔同士が連通しているものもある。水湿潤状態で表層部4の厚みは概ね1〜45μmである。
【0233】
なお、
図10中、符号5は気相(気泡)部である。骨格部6の多孔構造は、連続マクロポア構造体(乾燥体)を切断した面のSEM(走査型電子顕微鏡による二次電子像)画像で確認することができる。すなわち、モノリス陰イオン交換体10としては、多孔構造を構成する細孔7が外部から観察されないもの(以下、「一体型モノリス陰イオン交換体」とも言う。)又は骨格切断面などの端面に多孔構造を構成する細孔7が外部から観察されるもの(以下、「切断型モノリス陰イオン交換体」とも言う。)が挙げられる。
一体型モノリス陰イオン交換体は反応容器から取り出し切断を施さないものであり、切断型モノリス陰イオン交換体は刃物等で切断した例えばサイコロ形状のものである。本発明に係るモノリス陰イオン交換体に白金族金属を担持した本発明の白金族金属担持触媒を、触媒として使用すれば、多孔構造の表面層に対する液の浸透が速く、液と陰イオン交換基との接触効率が高くなり、触媒活性が高くなる。
【0234】
上記連続マクロポア構造体の水湿潤状態での表層部の細孔直径は、乾燥状態のモノリス陰イオン交換体のSEM観察を少なくとも3回行い、得られた画像中の細孔直径を測定し、その平均値に、膨潤率を乗じて算出される値である。具体的には、水湿潤状態のモノリス陰イオン交換体の直径がx2(mm)であり、その水湿潤状態のモノリス陰イオン交換体を乾燥させ、得られる乾燥状態のモノリス陰イオン交換体の直径がy2(mm)であり、この乾燥状態のモノリス陰イオン交換体のSEM観察を少なくとも3回行い、得られた画像中の細孔直径を測定し、その平均値がz2(μm)であったとすると、モノリス陰イオン交換体の連続構造体の表層部の水湿潤状態での細孔直径(μm)は、次式「モノリス陰イオン交換体の連続マクロポア構造体の表層部の水湿潤状態での細孔直径(μm)=z2×(x2/y2)」で算出される。
また、陰イオン交換基導入前の乾燥状態のモノリスの表層部の細孔直径、及びその乾燥状態のモノリスに陰イオン交換基導入したときの乾燥状態のモノリスに対する水湿潤状態のモノリス陰イオン交換体の膨潤率が分かる場合は、乾燥状態のモノリスの表層部の細孔直径に、膨潤率を乗じて、水湿潤状態のモノリス陰イオン交換体の表層部の細孔直径を算出することもできる。なお、モノリス陰イオン交換体の表層部の厚みも同様の方法で算出することができる。
【0235】
なお、切断型モノリス陰イオン交換体は、骨格部の表層部の多孔構造が表面に表れるため比表面積が格段に大きく、ほとんどの場合、モノリス陰イオン交換体を乾燥させて測定した比表面積は20〜70m
2/gである。切断型モノリス陰イオン交換体は、比表面積が大きいため、これに白金族金属を担持した本発明の白金族金属担持触媒を触媒として用いた場合、流体との接触面積が大きく、かつ流体の円滑な流通が可能となるため、優れた触媒性能が発揮できる。なお、本発明では、モノリス及びモノリス陰イオン交換体の比表面積は、乾燥体を水銀圧入法により測定した値である。
【0236】
本発明に係るモノリス陰イオン交換体は、水湿潤状態での体積当りの陰イオン交換容量が0.2mg当量/mL以上、好ましくは0.2〜1.8mg当量/mLの陰イオン交換容量を有する。モノリス陰イオン交換体の体積当りの陰イオン交換容量が0.4mg当量/mL未満であると、体積当りの白金族金属のナノ粒子担持量が低下してしまうため好ましくない。一方、モノリス陰イオン交換体の体積当りの陰イオン交換容量が1.8mg当量/mLを超えると、通液時の圧力損失が増大してしまうため好ましくない。なお、本発明に係るモノリス陰イオン交換体の乾燥状態における質量当りの陰イオン交換容量は特に限定されないが、陰イオン交換基がモノリス陰イオン交換体の骨格表面及び骨格内部にまで均一に導入されているため、3〜6mg当量/g(乾燥体)である。なお、陰イオン交換基が骨格の表面のみに導入された有機多孔質陰イオン交換体の陰イオン交換容量は、有機多孔質体や陰イオン交換基の種類により一概には決定できないものの、せいぜい500μg当量/g(乾燥体)である。
【0237】
第6のモノリス陰イオン交換体における陰イオン交換基としては、第6のモノリス陰イオン交換体における陰イオン交換基と同様であり、その説明を省略する。第6のモノリス陰イオン交換体において、導入された陰イオン交換基は、多孔質体の表面のみならず、多孔質体の骨格内部にまで均一に分布している。均一分布の定義は、第1のモノリス陰イオン交換体の均一分布の定義と同じである。
【0238】
本発明に係るモノリス陰イオン交換体は、その厚みは1mm以上であり、膜状の多孔質体とは区別される。厚みが1mm未満であると、多孔質体1枚当たりの陰イオン交換容量が極端に低くなるため好ましくない。本発明に係るモノリス陰イオン交換体の厚みは、好ましくは3〜1000mmである。また、本発明に係るモノリス陰イオン交換体は、骨格の基本構造が連続マクロポア構造であるため、機械的強度が高い。
【0239】
また、本発明に係るモノリス陰イオン交換体は、0.5〜10mL/g、好適には0.8〜7mL/gの全細孔容積を有するものである。全細孔容積が0.5mL/g未満であると、単位断面積当りの透過液量や透過気体量が小さくなり、処理能力が低下してしまうため好ましくない。一方、全細孔容積が10mL/gを越えると、触媒活性が低下してしまうため好ましくない。なお、本発明では、モノリス(モノリス中間体、モノリス、モノリス陰イオン交換体)の全細孔容積は、水銀圧入法により測定される値である。また、モノリス(モノリス中間体、モノリス、モノリス陰イオン交換体)の全細孔容積は、乾燥状態でも、水湿潤状態でも、同じである。
【0240】
該ポリマー材料の種類に特に制限はなく、たとえば第1のモノリスを構成するようなポリマー材料を用いることができるので省略する。
【0241】
<モノリス陰イオン交換体の製造方法>
本発明に係るモノリス陰イオン交換体は、陰イオン交換基を含まない油溶性モノマー、界面活性剤及び水の混合物を撹拌することにより油中水滴型エマルションを調製し、次いで油中水滴型エマルションを重合させて全細孔容積が5〜16mL/gの連続マクロポア構造のモノリス状の有機多孔質中間体(モノリス中間体)を得るI工程、ビニルモノマー、1分子中に少なくとも2個以上のビニル基を有する架橋剤、炭素数3〜9の脂肪族アルコール及び重合開始剤からなる混合物を調製する工程であって、ビニルモノマー、架橋剤及び脂肪族アルコール混合物中のビニルモノマー濃度(質量%)を56〜80%とするか、若しくはビニルモノマー濃度を40%以上、56%未満とし、且つビニルモノマーと架橋剤の合計量に対する該架橋剤の量を0.1〜1モル%とするII工程、II工程で得られた混合物を静置下、且つ該I工程で得られたモノリス中間体の存在下に重合を行い、モノリス状の有機多孔質体(モノリス)を得る、III工程、該、III工程で得られたモノリスに陰イオン交換基を導入する工程、を行うことにより得られる。
【0242】
なお、本発明に係るモノリス陰イオン交換体の製造方法において、I工程は、特開2002−306976号公報記載の方法に準拠して行なえばよい。
【0243】
(モノリス中間体の製造方法)
I工程のモノリス中間体の製造は、第4のモノリス陰イオン交換体のI工程同様であり、その説明を省略する。
【0244】
(モノリスの製造方法)
II工程は、ビニルモノマー、1分子中に少なくとも2個以上のビニル基を有する第2架橋剤、炭素数3〜9の脂肪族アルコール及び重合開始剤からなる混合物を調製する工程であって、ビニルモノマー、第2架橋剤及び脂肪族アルコール混合物中のビニルモノマー濃度(質量%)を56〜80%とするか、若しくはビニルモノマー濃度を40%以上、56%未満とし、且つビニルモノマーと第2架橋剤の合計量に対する該第2架橋剤の量を0.1〜1モル%とする工程である。なお、I工程とII工程の順序はなく、I工程後にII工程を行ってもよく、II工程後にI工程を行ってもよい。
【0245】
II工程で用いられる有機溶媒は、第3のモノリス陰イオン交換体のII工程で使用する有機溶媒と同様であり、その説明を省略する。
【0246】
ビニルモノマー、第2架橋剤及び脂肪族アルコール混合物中のビニルモノマー濃度(質量%)が56〜80%の場合、ビニルモノマーと第2架橋剤の合計量に対する該第2架橋剤の量は、好ましくは0.1〜5モル%、更に好ましくは0.3〜4モル%である。一方、ビニルモノマー、第2架橋剤及び脂肪族アルコール混合物中のビニルモノマー濃度が40%以上、56%未満の場合、ビニルモノマーと第2架橋剤の合計量に対する該第2架橋剤の量は0.1〜1モル%、好ましくは0.2〜1モル%である。ビニルモノマー濃度が上記範囲を逸脱すると、骨格部への多孔構造導入が認められなくなる。また、ビニルモノマー濃度が80%を超えると、重合熱の除熱が困難となり、重合反応の制御が困難になるため好ましくない。
【0247】
これらビニルモノマーの添加量は、重合時に共存させるモノリス中間体に対して、質量で3〜70倍、好ましくは4〜50倍である。ビニルモノマー添加量がモノリス中間体に対して3倍未満であると、骨格部への多孔構造導入が困難になるため好ましくない。一方、ビニルモノマー添加量が70倍を超えると、開口径が小さくなり、通液時の圧力損失が大きくなってしまうため好ましくない。
【0248】
II工程で用いられる第2架橋剤は、第3のモノリス陰イオン交換体のII工程で使用する架橋剤と同様であり、その説明を省略する。
【0249】
第2架橋剤の使用量は、ビニルモノマー、第2架橋剤、脂肪族アルコール混合物中のビニルモノマー濃度(質量%)により変動するが、ビニルモノマーと第2架橋剤の合計量に対して0.1〜5モル%、特に0.2〜5モル%であることが好ましい。第2架橋剤使用量が0.1モル%未満であると、モノリスの機械的強度が不足するため好ましくない。一方、5モル%を越えると、骨格部分への多孔構造導入が困難になるため好ましくない。なお、上記第2架橋剤使用量は、ビニルモノマー/第2架橋剤重合時に共存させるモノリス中間体の架橋密度とほぼ等しくなるように用いることが好ましい。両者の使用量があまりに大きくかけ離れると、生成したモノリス中で架橋密度分布の偏りが生じ、陰イオン交換基導入反応時にクラックが生じやすくなる。
【0250】
II工程で用いられる溶媒は、炭素数3〜9の脂肪族アルコールである。該脂肪族アルコールの具体例としては、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、イソブタノール、sec−ブタノール、t−ブタノール、1−ペンタノール、1−ヘキサノール、シクロヘキサノール、1−オクタノール、2−エチルヘキサノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、テトラメチレングリコール、グリセリン、セロソルブ、メチルセロソルブ、ブチルセロソルブ等が挙げられる。
【0251】
また、上記脂肪族アルコール以外の溶媒であっても、その使用量が少ない場合には、上記脂肪族アルコールに添加して使用することができる。これら脂肪族アルコールの使用量は、上記ビニルモノマー濃度が40〜80質量%となるように用いることが好ましい。脂肪族アルコール使用量が上記範囲から逸脱してビニルモノマー濃度が40%未満となると、骨格部分への多孔構造導入が困難になるため好ましくない。一方、ビニルモノマー濃度が80質量%を超えると、重合熱の除熱が困難となり、重合反応の制御が困難になるため好ましくない。
【0252】
重合開始剤としては、第3のモノリス陰イオン交換体製造のII工程で使用する重合開始剤と同様であり、その説明を省略する。
【0253】
III工程は、II工程で得られた混合物を静置下、且つ該I工程で得られたモノリス中間体の存在下、重合を行い、該モノリス中間体の骨格より太い骨格を有し、且つ骨格の表面層が多孔構造を有するモノリスを得る工程である。
【0254】
反応容器の内容積は、第3のモノリス陰イオン交換体製造で用いる反応容器と同様であり、その説明を省略する。
【0255】
III工程において、反応容器中、モノリス中間体は混合物(溶液)で含浸された状態に置かれる。II工程で得られた混合物とモノリス中間体の配合比は、前述の如く、モノリス中間体に対して、ビニルモノマーの添加量が質量で3〜70倍、好ましくは4〜50倍となるように配合するのが好適である。これにより、適度な開口径を有しつつ、骨格中にも多孔構造が導入されたモノリスを得ることができる。反応容器中、混合物中のビニルモノマーと第2架橋剤は、静置されたモノリス中間体の骨格に吸着、分配され、モノリス中間体の骨格内で重合が進行する。この重合が進行する過程において、多孔構造が形成される理由の詳細については不明であるものの、ビニルモノマー濃度が著しく高い場合や架橋剤量が著しく少ない場合、重合の進行が不均一となり、架橋構造が偏在してしまうためと考えられる。
【0256】
重合条件は、モノマーの種類、開始剤の種類により様々な条件が選択できる。例えば、開始剤として2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウロイル等を用いたときには、不活性雰囲気下の密封容器内において、30〜100℃で1〜48時間加熱重合させればよい。加熱重合により、モノリス中間体の骨格に吸着、分配したビニルモノマーと第2架橋剤が該骨格内で重合し、該骨格を太らせるとともに、骨格中に多孔構造を形成していく。重合終了後、内容物を取り出し、未反応ビニルモノマーと有機溶媒の除去を目的に、メタノールやアセトン等の溶剤で抽出して特定骨格構造のモノリスを得る。
【0257】
モノリスは気泡状のマクロポア1同士が重なり合い、この重なる部分が共通の開口(メソポア)2となる連続マクロポア構造であり、乾燥状態における開口2の平均直径が15〜200μm、好ましくは15〜150μm、特に15〜100μmである。また、モノリスは骨格の表層部にモノリス陰イオン交換体と同様の多孔構造を有する。モノリスの多孔構造は表層部4中に乾燥状態における直径が0.1〜20μm、特に0.1〜10μmの細孔7が無数に存在する、SEM断面が所謂蜂の巣に類似する構造のものである。
【0258】
次に、本発明に係るモノリス陰イオン交換体の製造方法について説明する。該モノリス陰イオン交換体の製造方法としては、特に制限はないが、上記の方法によりモノリスを製造した後、陰イオン交換基を導入する方法が、得られるモノリス陰イオン交換体の多孔構造を厳密にコントロールできる点で好ましい。
【0259】
第1〜第6のモノリスに陰イオン交換基を導入する方法としては、特に制限はなく、高分子反応やグラフト重合等の公知の方法を用いることができる。例えば、四級アンモニウム基を導入する方法としては、モノリスがスチレン−ジビニルベンゼン共重合体等であればクロロメチルメチルエーテル等によりクロロメチル基を導入した後、三級アミンと反応させる方法、モノリスをクロロメチルスチレンとジビニルベンゼンの共重合により製造し、三級アミンと反応させる方法、モノリスに、均一にラジカル開始基や連鎖移動基を骨格表面及び骨格内部導入し、N,N,N−トリメチルアンモニウムエチルアクリレートやN,N,N−トリメチルアンモニウムプロピルアクリルアミドをグラフト重合する方法;同様にグリシジルメタクリレートをグラフト重合した後、官能基変換により四級アンモニウム基を導入する方法等が挙げられる。
【0260】
これらの方法のうち、四級アンモニウム基を導入する方法としては、スチレンージビニルベンゼン共重合体にクロロメチルメチルエーテル等によりクロロメチル基を導入した後、三級アミンと反応させる方法やクロロメチルスチレンとジビニルベンゼンの共重合によりモノリスを製造し、三級アミンと反応させる方法が、イオン交換基を均一かつ定量的に導入できる点で好ましい。なお、導入するイオン交換基としては、トリメチルアンモニウム基、トリエチルアンモニウム基、トリブチルアンモニウム基、ジメチルヒドロキシエチルアンモニウム基、ジメチルヒドロキシプロピルアンモニウム基、メチルジヒドロキシエチルアンモニウム基等の四級アンモニウム基や、第三スルホニウム基、ホスホニウム基等が挙げられる。
【0261】
なお、第1〜第6のモノリス陰イオン交換体に白金族金属を担持させた触媒をカラムに充填し、有機液体を透過させた際の圧力損失は、これを1m充填したカラムに通液線速度(LV)1m/hで通液した際の圧力損失(以下、「差圧係数」と言う。)で示すと、0.001〜0.1MPa/m・LVの範囲、特に0.005〜0.05MPa/m・LVであることが好ましい。
【0262】
<モノリス構造を有するアニオン交換体全般>
モノリス構造を有するアニオン交換体の全細孔容積は、1〜50mL/gが好ましく、2〜30mL/gが特に好ましい。全細孔容積が小さ過ぎると、圧力損失が大きくなってしまう、単位断面積当りの通液量が小さくなり、処理能力が低下してしまう場合がある。
一方、全細孔容積が大き過ぎると、機械的強度が低下して、変形してしまう場合があり、有機液体と「モノリス構造を有するアニオン交換体」及びそれに担持された白金族金属触媒との接触効率が低下するため、触媒効果が低下してしまう場合がある。
全細孔容積は、水銀圧入法により測定される値である。また、全細孔容積は、乾燥状態でも水湿潤状態でも同じである。
【0263】
モノリス構造を有するアニオン交換体の乾燥状態での重量当りのアニオン交換容量は、特に限定はないが、0.5〜5.0mg当量/gが好ましい。アニオン交換容量が少な過ぎると、白金族金属触媒の担持量が低下してしまい、有機過酸化物の除去効率が低下してしまう場合がある。
一方、アニオン交換容量が大き過ぎると、イオン形の変化による「モノリス構造を有するアニオン交換体」の体積変化が大きくなり、モノリス構造を有するアニオン交換体にクラックや破砕を生じさせる場合がある。
【0264】
白金族金属粒子の平均粒子径は、通常1〜100nmであり、好ましくは1〜50nm、更に好ましくは1〜20nmである。平均粒子径が小さ過ぎると、粒子が担持体から脱離する可能性が高くなり、一方、平均粒子径が大き過ぎると、金属の単位質量当たりの表面積が少なくなり触媒効果が効率的に得られなくなる場合がある。
乾燥状態のモノリス構造を有するアニオン交換体に担持されている白金族金属触媒粒子の担持量は、「白金族金属触媒が担持されたモノリス構造を有するアニオン交換体」である担持体全体に対して、通常0.004〜20質量%、好ましくは0.005〜15質量%である。
担持量が少な過ぎると、有機過酸化物の除去効果が不十分になる場合がある。一方、担時量が多過ぎると、無駄であり、白金族金属触媒粒子の離脱が認められる場合がある。
【0265】
白金族金属の担持方法には特に制約はなく、公知の方法により、モノリス構造を有するアニオン交換体に白金族金属触媒である粒子を担持させることにより得ることができる。
例えば、乾燥状態のモノリス構造を有するアニオン交換体を塩化パラジウムの塩酸水溶液に浸漬し、塩化パラジウム酸アニオンをイオン交換によりモノリス構造を有するアニオン交換体に吸着させ、次いで、還元剤と接触させてパラジウム金属粒子を、モノリス構造を有するアニオン交換体に担持する方法や、モノリス構造を有するアニオン交換体をカラムに充填し、塩化パラジウムの塩酸水溶液を通液して塩化パラジウム酸アニオンをイオン交換によりモノリス構造を有するアニオン交換体に吸着させ、次いで、還元剤を通液してパラジウム金属粒子を、モノリス構造を有するアニオン交換体に担持する方法等が挙げられる。
また、配位子由来の化学構造を介して、モノリス構造を有する有機多孔質体に白金族触媒である粒子を担持させてもよい。
【0266】
その際、用いられる還元剤にも特に制約はなく、ギ酸、シュウ酸、クエン酸、アスコルビン酸等のカルボン酸;ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド等のアルデヒド;水素化ホウ素ナトリウム;ヒドラジン等が挙げられる。
【0267】
白金族金属担持触媒において、白金族金属ナノ粒子の担体であるモノリス構造を有するアニオン交換体のイオン形は、白金族金属粒子を担持した後は、通常、塩化物形のような塩形となる。また、白金族金属触媒は、モノリス構造を有するアニオン交換体のイオン形を、OH
−形、NO
3−形等に再生したものが高い有機過酸化物の除去効果を奏するために好ましい。
モノリス構造を有するアニオン交換体のOH
−形への再生方法には特に制限はなく、水酸化ナトリウム水溶液を通液する等の公知の方法を用いればよい。
【0268】
本発明において、有機過酸化物が除去される対象となる「電子部品作製用レジストの溶剤である有機液体又は電子部品作製用リンス液である有機酸エステル系液体」としては、かかる目的に使用される有機酸エステル系液体であれば特に限定はなく、何れの有機酸エステル系液体にも適用が可能である。
【0269】
上記「有機酸エステル系液体」としては、特に限定はないが、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸プロピル、乳酸ブチル、ピルビン酸メチル、ピルビン酸エチル、ピルビン酸ブチル等のカルボン酸エステル系液体等が挙げられる。
【0270】
本発明の有機過酸化物の除去方法においては、有機酸エステル系液体の過酸化物価(POV)が、好ましくは2mmol/kg以下になるまで、より好ましくは1mmol/kg以下になるまで、特に好ましくは0.5mmol/kg以下になるまで、更に好ましくは0.3mmol/kg以下になるまで、最も好ましくは0.1mmol/kg以下になるまで除去することである。
本発明によれば、過酸化物価(POV)が2mmoL/kg以下になるまで、有機過酸化物を除去可能であるし、電子部品作製用レジストの溶剤である有機酸エステル系液体に対しても、電子部品作製用リンス液である有機酸エステル系液体に対しても、過酸化物価(POV)が2mmoL/kg以下であれば前記した本発明の効果が奏されるからである。
【0271】
特に好ましくは、過酸化物価(POV)が100mmol/kg以下である上記有機液体から、過酸化物価(POV)が2mmoL/kg以下になるまで上記有機酸エステル系液体中の有機過酸化物を除去する有機過酸化物の除去方法である。
更に好ましくは、過酸化物価(POV)が0.01mmol/kg以上100mmol/kg以下である上記有機液体から、過酸化物価(POV)が2mmoL/kg以下になるまで上記有機酸エステル系液体中の有機過酸化物を除去する有機過酸化物の除去方法である。
本発明の実施に先立って、予め過酸化物価(POV)が100mmol/kg以下になるまで、公知の方法で有機過酸化物を除去しておくことも好ましい。
【0272】
過酸化物価(POV)が、1mmol/kg以下になるまで有機過酸化物を除去することがより好ましく、0.5mmol/kg以下が特に好ましく、0.3mmol/kg以下が更に好ましく、0.1mmol/kg以下が最も好ましい。本発明によれば、上記がコストを考えても達成可能であるし、電子部品作製用には、有機過酸化物の量として上記下限が特に望ましい。
なお、上記「処理後の有機酸エステル系液体中の有機過酸化物の残存量の下限」(除去レベル)は、公知の方法で水から過酸化水素を除去する際の「処理後の水中の過酸化水素の残存量」(除去レベル)より多い。それは、量的に、有機酸エステル系液体から有機過酸化物を除去する方が、水から過酸化水素を除去するより難しいからであり、有機液体の場合には、上記下限が達成できれば電子部品作製用にも好適に使用できる。
【0273】
更に、上記有機酸エステル系液体の保管、運送等を経過して使用されるまでの期間中、時間と共に、該液体中の有機過酸化物の増加が認められていた。そのため、有機酸エステル系液体にとって、単位時間当たりの過酸化物価(POV)の経時増加量[mmol/(kg・月)]は重要な性能基準になる。
本発明の「経時増加量[mmol/(kg・月)]」では、「月」は「30日」を示すものとする。
【0274】
本発明によれば、過酸化物価(POV)の経時による増加量(以下、「過酸化物価(POV)経時増加量」又は単に「経時増加量」と略記する)が2mmol/(kg・月)以下になるまで、有機過酸化物を除去可能であるし、電子部品作製用レジストの溶剤である有機酸エステル系液体に対しても、電子部品作製用リンス液である有機酸エステル系液体に対しても、過酸化物価(POV)の経時増加量が2mmol/(kg・月)以下であれば前記した本発明の効果が奏される。
【0275】
好ましくは、過酸化物価(POV)経時増加量が100mmol/(kg・月)以下である上記液体から、過酸化物価(POV)経時増加量が2mmol/(kg・月)以下になるまで上記有機酸エステル系液体中の有機過酸化物を除去する有機過酸化物の除去方法である。
【0276】
過酸化物価(POV)の経時増加量が1mmol/(kg・月)以下になるまで、有機過酸化物を除去しておくことがより好ましく、0.5mmol/(kg・月)以下が特に好ましく、0.2mmol/(kg・月)以下が更に好ましい。
本発明によれば、上記がコストを考えても達成可能であるし、電子部品作製用には、有機過酸化物の経時増加量として上記下限が特に望ましい。
【0277】
本発明の有機過酸化物の除去方法においては、特に限定はないが、対象となる有機酸エステル系液体を充填カラムに通液する方法が好ましい。
その場合、有機過酸化物の濃度が上記濃度以下になるまで(なるように)通液することが好ましく、空間速度(SV)については、特に限定はないが、10hr
−1以上2000hr
−1以下が好ましく、20hr
−1以上500hr
−1以下がより好ましく、30hr
−1以上300hr
−1以下が特に好ましい。
上記下限以上であれば流量を多くできコスト的に有利であり、本発明によれば上記下限以上でも電子部品作製用に好適に使用できるレベルで有機過酸化物が除去できる。一方、上記上限以上であると十分に有機過酸化物の除去ができない場合がある。
【0278】
「空間速度(SV)」とは、白金族金属触媒又は白金族金属触媒が担持された担持体を通過する1時間当たりの有機液体の質量を、白金族金属触媒又は白金族金属触媒が担持された担持体の質量で割った値である。言い換えると、単位時間あたりに有機酸エステル系液体が担持体等に接触する時間の逆数である。
【0279】
本発明の有機酸エステル系液体の製造方法を用いれば、本発明の前記効果を発揮する「電子部品作製用レジスト溶剤やリンス液」が製造できる。
本発明の他の態様は、電子部品作製用レジストの溶剤である有機酸エステル系液体又は電子部品作製用リンス液である有機酸エステル系液体から、有機過酸化物を過酸化物価(POV)が2mmoL/kg以下になるまで除去してなる有機過酸化物除去有機酸エステル系液体である。
また、本発明の他の態様は、過酸化物価(POV)が100mmoL/kg以下である有機酸エステル系液体から、過酸化物価(POV)が2mmoL/kg以下になるまで除去してなる有機過酸化物除去有機酸エステル系液体である。
【0280】
また、前記の有機酸エステル系液体の製造方法を使用して、電子部品作製用レジストの溶剤である有機酸エステル系液体又は電子部品作製用リンス液である有機酸エステル系液体に含有される有機過酸化物を除去する工程を含むことを特徴とする電子部品作製用レジスト溶剤又は電子部品作製用リンス液の製造方法である。
【0281】
また、本発明の他の態様は、前記の有機酸エステル系液体の製造方法を使用して、電子部品作製用レジストの溶剤である有機酸エステル系液体又は電子部品作製用リンス液である有機液体に含有される有機酸エステル系過酸化物を除去してなり、過酸化物価(POV)が2mmoL/kg以下のものであることを特徴とする電子部品作製用レジスト溶剤又は電子部品作製用リンス液である。
すなわち、前記の有機過酸化物除去有機酸エステル系液体を含有し、電子部品作製用レジストの溶剤又は電子部品作製用リンス液として使用されるものであって、過酸化物価(POV)が2mmoL/kg以下のものである電子部品作製用レジスト溶剤又は電子部品作製用リンス液である。
【0282】
また、本発明の他の態様は、前記の有機酸エステル系液体の製造方法を使用して、電子部品作製用レジストの溶剤である有機酸エステル系液体又は電子部品作製用リンス液である有機液体に含有される有機酸エステル系過酸化物を除去してなり、過酸化物価(POV)経時増加量が100mmol/(kg・月)以下である上記液体から、過酸化物価(POV)経時増加量が2mmol/(kg・月)以下のものであることを特徴とする電子部品作製用レジスト溶剤又は電子部品作製用リンス液である。
すなわち、前記の有機過酸化物除去有機酸エステル系液体を含有し、電子部品作製用レジストの溶剤又は電子部品作製用リンス液として使用されるものであって、過酸化物価(POV)経時増加量が2mmol/(kg・月)以下のものである電子部品作製用レジスト溶剤又は電子部品作製用リンス液である。
【0283】
過酸化物価(POV)は、2mmol/kg以下が好ましく、1mmol/kg以下がより好ましく、0.5mmol/kg以下が特に好ましく、0.3mmol/kg以下が更に好ましく、0.1mmol/kg以下が最も好ましい。本発明によれば、上記下限がコストを考えても達成可能であるし、電子部品作製用には、有機過酸化物は上記下限が望ましい。
【実施例】
【0284】
以下に、実施例及び比較例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限りこれらの実施例に限定されるものではない。
【0285】
調製例
<白金族金属触媒が担持された担持体の調製>
<<パラジウム(Pd)が担持されたモノリス構造を有するアニオン交換体の調製>>
白金族金属触媒が担持された担持体として、前記した「第3のモノリス陰イオン交換体」である「パラジウム(Pd)が担持されたモノリス構造を有するアニオン交換体」(以下、「Pd/M」又は「Pd−M」と略記する)は、オルガノ(株)から入手した。
構成・態様(製造方法で規定)は、高分子論文集,Vol.68,No.5,pp.320-325(2011)に詳しく記載されているが、以下にその製造方法の要点を記載する。
【0286】
(1)第1段の重合
乳化剤、スチレン、ジビニルベンゼン、及び、ラジカル重合開始剤を混合し、均一溶液とした。この溶液と純水とを容器に入れ、ミキサーを用いて撹拌して、油中水滴型(W/O型)エマルションを調製した。
このエマルションの入った容器の内部を窒素置換した後、密封し静置下加熱して重合を行った。
重合終了後、容器から重合した樹脂を取り出し、ソックスレー抽出により精製した後、減圧乾燥を行い、モノリス構造体(A)を合成した。
【0287】
(2)第2段の重合
スチレン、ジビルベンゼン、「ポリスチレンの貧溶媒」、及び、ラジカル重合開始剤を混合し均一溶液とした。この溶液に、工程(1)で合成したモノリス構造体(A)を浸漬し、窒素雰囲気下で脱泡してモノリス構造体(A)内部に該溶液を浸透させた。
窒素雰囲気下で密封した後、静置下で加熱して重合させた。
重合終了後、容器から取り出し、ソックスレー抽出にて精製し、減圧乾燥することで、モノリス構造体(B)を合成した。
【0288】
(3)クロロメチル化
工程(2)で得られたモノリス構造体(B)とクロロメチルメチルエーテルとを、四塩化スズの存在下反応させ、モノリス構造体(B)にクロロメチル基を導入した。
【0289】
(4)アミノ化
工程(3)で得られた「クロロメチル化されたモノリス構造体(B)」を、トリメチルアミンとTHFの混合溶液に浸漬して反応させ、四級アンモニウム基を導入した。
反応終了後、得られた「モノリス構造を有するアニオン交換体」を純水で洗浄し、内部まで純水で置換した。
最終的に得られた「モノリス構造を有するアニオン交換体」は、直径190mm、厚み40mmの円柱状であり、四級アンモニウム基の対イオンは塩化物イオンであった。
【0290】
(5)白金族金属触媒の担持
工程(4)で得られた「モノリス構造を有するアニオン交換体」を厚み10mmの円盤状に切り出した。Pd源にはPdCl
2を用い、希塩酸に溶解させた上で、水で希釈して用いた。Pd種として2価の[PdCl
4]
2−(塩化パラジウム酸イオン)がイオン交換により導入されるものと考えられたので、切り出した「モノリス構造を有するアニオン交換体」を所定濃度に調製したPdCl
2水溶液中に浸潰し、イオン交換により塩化パラジウム酸イオンを導入した。
純水にて十分洗浄した後、ヒドラジン水溶液を用い還元を行い、パラジウム(Pd)触媒を担持させた。
その後、1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液に浸漬し、撹拌することで、イオン形をOH
−形とした後、純水で洗浄し、目的の「モノリス構造を有するアニオン交換体に白金族金属触媒が担持されてなる担持体」(Pd/M)を得た。
また、その一部は、硝酸封鎖形にした。
【0291】
評価例
<過酸化物価(POV)の測定>
有機液体中の過酸化物価(POV)は、ISO3960に準じて測定した。
【0292】
実施例1
<振盪法による効果確認>
白金族金属触媒が担持されてなる担持体として、調製例で調製したPd/M(OH
−形、Pd担持量は3質量%)及びPd/M(硝酸封鎖形、Pd担持量は5質量%)を評価した。
有機酸エステル系液体の一例として、乳酸エチル(ETL)を評価した。
【0293】
予め試験液である乳酸エチル液体で洗浄した「白金族金属触媒が担持されてなる担持体」である、Pd/M(OH
−形)及びPd/M(硝酸封鎖形)を、何れも、Pdとして10mgとなるように、秤量又は切り出した(Pd/Mは、約7mm角に切り出した)。
それら担持体を、過酸化物価を定量したそれぞれの乳酸エチル液体100mLに添加し、500mLの褐色瓶に入れ、25℃で12時間振盪した。
振盪後、担持体を濾別して過酸化物価を定量した。結果を以下の表1に示す。
【0294】
【表1】
【0295】
表1から分かる通り、25℃で12時間振盪後には、過酸化物価(POV)が減少した。
【0296】
実施例2
<カラムに充填して空間速度(SV)を変化させて効果確認(1)>
内径10mmのカラムに、7.9mL(層高10cm)のPd/M(OH
−形)を充填し、過酸化物価を測定した乳酸エチル(ETL)を、上向流で通水空間速度(SV)を変えて通液した。
カラム出口でサンプリングした乳酸エチル(ETL)の過酸化物価(POV)を定量した。結果を以下の表2に示す。
【0297】
【表2】
【0298】
表2から明らかなように、通水空間速度(SV)を変えても、過酸化物価(POV)の減少が確認された。通水の空間速度(SV)が、10[hr
−1]のときには、過酸化物価(POV)が0.15[mmol/kg]と極めて小さくなった。
【0299】
実施例3
<カラムに充填して空間速度(SV)を変化させて効果確認(2)>
内径75mmのカラムに、水湿潤状態で830mL(層高161mm)のPd/M(OH
−形)を充填し、過酸化物価を測定した乳酸エチル(ETL)を、上向流で通水空間速度(SV)を変えて通液した。なお、Pd/M(OH
−形)の体積は、乳酸エチル中で760mLに収縮する。
カラム出口でサンプリングした乳酸エチル(ETL)の過酸化物価(POV)を定量した。結果を以下の表3に示す。
【0300】
【表3】
【0301】
表3から明らかなように、カラムをスケールアップした場合も、通水空間速度(SV)を変えても、過酸化物価(POV)の減少が確認された。
【0302】
実施例4
<カラムに充填して循環させて効果確認(1)>
内径10mmのカラムに、7.9mL(層高10cm)のPd/M(OH
−形)を充填し、試料液として過酸化物価(POV)を3段階(0.22、0.53、5.40mmol/kg)に変化させた乳酸エチル(ETL)を、上向流で循環しながら通液した。空間速度(SV)は、177hr
−1に統一した。
一定時間ごとにカラム出口付近からサンプリングして、乳酸エチル(ETL)の過酸化物を定量した。結果を以下の表4(700分後の結果)と
図11に示す。
【0303】
【表4】
【0304】
表4及び
図11から明らかなように、過酸化物価は、処理時間の経過と共に減少した。評価試料となる乳酸エチル(ETL)の、初期の(通液前の)過酸化物価(POV)を変えて評価した結果、初期の(通液前の)過酸化物価(POV)の大小にかかわらず、何れも0.1mmol/kg以下まで除去できることが確認された。
【0305】
実施例5
<カラムに充填して循環させて効果確認(2)>
内径75mmのカラムに、水湿潤状態で830mL(層高161mm)のPd/M(OH
−形)を充填し、試料液として過酸化物価(POV)1.54mmol/kgの乳酸エチル(ETL)を、上向流で循環しながら通液した。空間速度(SV)は、1040hr
−1に統一した。なお、Pd/M(OH
−形)の体積は、乳酸エチル中で760mLに収縮する。
一定時間ごとにカラム出口付近からサンプリングして、乳酸エチル(ETL)の過酸化物を定量した。結果を以下の
図12に示す。
【0306】
図12から明らかなように、過酸化物価は、処理時間の経過と共に減少した。
【0307】
実施例6
<経時安定性の確認>
実施例4で得られた「通液後にPOV=0.06mmol/kgとなった乳酸エチル(ETL)」(「モノリス処理」と略記する)、「通液をしておらずPOV=5.40mmol/kgの乳酸エチル(ETL)」(「モノリス未処理」と略記する)を、それぞれ20℃で、1カ月間(30日間)、暗所に静置経時保存した。
結果を表5に示す。
【0308】
【表5】
【0309】
発明の有機酸エステル系液体の製造方法で製造された「モノリス処理」は、保管中の過酸化物価の経時上昇の幅を、「モノリス未処理」に比較して抑制できた。すなわち、求めた過酸化物価(POV)経時増加量は、「モノリス処理」が0.14mmoL/(kg・月)であったのに対し、「モノリス未処理」が5.10mmoL/(kg・月)であった。
これより、本発明の有機酸エステル系液体の製造方法で製造された有機酸エステル系液体は、過酸化物価(POV)に関して、「過酸化物価(POV)経時増加量」が抑制されたものであることが分かった。すなわち、経時安定性が優れていることが分かった。
【0310】
実施例7
<POVが増加した有機酸エステル系液体の再処理方法>
実施例6で得られた「1カ月間(30日間)保管後に過酸化物価(POV)が10.50mmol/kgとなった乳酸エチル(ETL)」を、内径10mmのカラムに、7.9mL(層高10cm)のPd/M(OH
−形)を充填し、上向流で循環しながら通液した。空間速度(SV)は、177hr
−1にした。
一定時間ごとにカラム出口付近からサンプリングして、乳酸エチル(ETL)中の過酸化物を定量した。処理前後の乳酸エチル(ETL)の過酸化物価(POV)を、以下の表6(700分後の結果)に示す。
【0311】
【表6】
【0312】
表6から分かる通り、保管中に過酸化物価(POV)が10.50mmol/kgに増加した乳酸エチル(ETL)は、通液後には過酸化物価(POV)が0.06mmoL/kgとなり、本発明は「有機酸エステル系液体の再処理方法」として優れていることが分かった。
乳酸エチル(ETL)の回収率は99.9質量%であった。また、充填直後のカラムに代えて3カ月間連続通液したカラムを使用しても、上記と同様の結果が得られた。
更に、3カ月間連続通液したカラムを使用して、処理前と処理後700分循環後の乳酸エチル(ETL)の金属含量をICP−MS(Pd含む23元素)を用いて分析したが、処理前後で金属含量の増加は確認されなかった。