(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6433712
(24)【登録日】2018年11月16日
(45)【発行日】2018年12月5日
(54)【発明の名称】荷重付加装置
(51)【国際特許分類】
F16H 7/08 20060101AFI20181126BHJP
F02B 67/06 20060101ALI20181126BHJP
【FI】
F16H7/08 B
F02B67/06 A
【請求項の数】7
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-162114(P2014-162114)
(22)【出願日】2014年8月8日
(65)【公開番号】特開2016-38036(P2016-38036A)
(43)【公開日】2016年3月22日
【審査請求日】2017年4月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004640
【氏名又は名称】日本発條株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】特許業務法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小 林 貴 雄
(72)【発明者】
【氏名】平 岡 和 人
【審査官】
高橋 祐介
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第00/034685(WO,A1)
【文献】
特開2003−322190(JP,A)
【文献】
特開2005−054889(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 7/08
F02B 67/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
薄板材が複数回巻かれたゼンマイばねと、前記ゼンマイばねを保持する保持部材とを備え、
移動部材に設けられた相手部材と前記相手部材を押圧するテンショナーの推進部材の先端部分の少なくとも一方に凹部が形成され、
前記ゼンマイばねの外周部が前記凹部と対応した状態で前記相手部材と前記推進部材の先端部分との間に前記ゼンマイばねの外周部が挟まれるように前記保持部材が前記推進部材の先端部分又は相手部材に取り付けられ、前記保持部材は前記ゼンマイばねの両端面を挟んだ部分に前記ゼンマイばねの巻き上げのための窓部が開口していることを特徴とする荷重付加装置。
【請求項2】
請求項1記載の荷重付加装置であって、
前記保持部材はゼンマイばねの拡縮作動に応じて前記相手部材または前記推進部材に対して変位することを特徴とする荷重付加装置。
【請求項3】
請求項1又は2記載の荷重付加装置であって、
前記保持部材は前記ゼンマイばねの拡縮作動を許容した状態で前記相手部材または前記推進部材に取り付けられていることを特徴とする荷重付加装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項記載の荷重付加装置であって、
前記ゼンマイばねは外周部が前記凹部に当接した収容状態で保持部材に保持されることを特徴とする荷重付加装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項記載の荷重付加装置であって、
前記ゼンマイばねは外周部が前記相手部材または推進部材に直接に又は前記保持部材を介して間接的に当接していることを特徴とする荷重付加装置。
【請求項6】
薄板材が複数回巻かれたゼンマイばねと、移動部材に設けられた相手部材を押圧するためのテンショナーとを備え、
前記テンショナーは、相手部材を押圧するために進退移動する推進部材と、この推進部材の後退方向側に同軸的に連結され回転することにより前記推進部材を進退させる回転部材と、ばね力によって前記回転部材を回転させるコイルばねと、前記推進部材を進退移動可能に収容するケースとを備え、
前記回転部材の後端面に当接するように受け部材が設けられ、前記回転部材に対応した前記ケースの底壁部に受け凹部が形成され、前記ゼンマイばねは外周部が前記受け部材及び前記ケースの受け凹部に当接して撓み及び戻りの繰り返し作動が可能となっていることを特徴とする荷重付加装置。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1項記載の荷重付加装置であって、
前記移動部材は自動車のエンジン内で無端状となって移動するタイミングチェーン又はタイミングベルトであり、前記相手部材は前記エンジン内に揺動可能に設けられ前記移動部材が摺動するガイドアームであることを特徴とする荷重付加装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車のエンジン等に用いられるテンショナーの作動補助を行うための荷重付加装置に関する。
【背景技術】
【0002】
2輪車、4輪車等の自動車のエンジンは、タイミングチェーン、タイミングベルト等の無端状の移動部材を用いて車軸に動力を伝達している。これらの移動部材は適正な張力によって走行(移動)する必要がある。このためテンショナーがエンジンに組み付けられ、テンショナーが移動部材を所定の力で押圧することにより移動部材に伸びや緩みが生じた場合に、その張力を一定に保つようにしている。
【0003】
図12は自動車のエンジン本体200の内部を示す。エンジン本体200の内部には、従動軸である一対のカムスプロケット210、210と駆動軸であるクランクスプロケット220とが配置されており、これらのスプロケット210、210、220の間に移動部材としてのタイミングチェーン230が無端状となって掛け渡されている。そしてクランクスプロケット220の回転によってタイミングチェーン230がスプロケット210、210、220の間を移動(走行)する。タイミングチェーン230の移動路上には、相手部材としてのチェーンガイド等のガイドアーム240がタイミングチェーン230に接触するように配置され、タイミングチェーン230がガイドアーム240の前面(右面)241に沿って摺動するようになっている。チェーンガイド等のガイドアーム240は支軸250を中心に揺動可能となっており、この揺動によってタイミングチェーン230の張力を調整する。
【0004】
符号300は、ガイドアーム240をタイミングチェーン230に押圧するためにエンジン本体200の内部に設けられたテンショナーである。テンショナー300は軸方向への伸縮動作によってガイドアーム240を押圧する構造のものが一般的に使用される。
【0005】
図13は、テンショナー300の一般的な構造を示す。筒状の推進部材320と、ねじ部330によって推進部材320と螺合したシャフト状の回転部材340と、回転部材340に回転トルクを付与するコイルばね350と、これらを収容するケース310とを備えており、ケース310がボルト止め等によってエンジン本体200に固定される。推進部材320はケース310の先端部分に取り付けられた軸受部材360によって回転が拘束され、これにより推進部材320はねじ部330を介して伝達された回転部材340の回転力によってケース310に対して進出しガイドアーム240を介してタイミングチェーン230を押圧する。一方、タイミングチェーン230の張力が大きくなると、ガイドアーム240が推進部材320を押し戻すため、推進部材320が回転部材340を逆方向に回転させながら後退する。これらの動作によってタイミングチェーン230の張力を一定に保つ。
【0006】
テンショナー300やガイドアーム240は、エンジンからの振動によるタイミングチェーン230の張力変動を繰り返し受けた状態となっており、エンジンの振動が大きい場合には、異音が発生したり、テンショナー300の各部品に過大な負荷が作用して部品が破損することがある。このためエンジンの振動を吸収する必要がある。特許文献1及び2には、このための構造が記載されている。
【0007】
特許文献1では、ガイドアームのテンショナーとの対向部分に円弧状の突出部を形成すると共に、テンショナーの推進部材の先端部分に樹脂や金属からなるキャップを取り付け、このキャップが突出部と当接することによる緩衝作用により振動吸収を行う構造となっている。
特許文献2では、揺動するガイドアームの全体を樹脂によって形成し、このガイドアームにおけるテンショナーとの対向部分にゴムからなるパッド部を設け、このパッド部による緩衝作用によって振動吸収する構造となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平11−201245号公報
【特許文献2】特開2013−83279号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1及び2に記載された従来の緩衝に用いるキャップやパッド部が樹脂やゴムの場合、高温油中における熱劣化が発生したり、振動時の高荷重に耐えられずに潰れを起こす問題がある。これに対してキャップやパッド部として、金属を用いる場合には高温油中での耐久性を備えることができるが、その反面、高荷重に対する必要な撓みを得ることが難しいと共に、緩衝機能を発揮するために必要なヒス特性(撓み−荷重特性)を得ることができない問題がある。
以上のような問題に対応するため、テンショナー自体の特性を変更してエンジンからの振動に対する良好な緩衝機能を有したテンショナーとすることが検討されているが、テンショナーは本来的に張力調整を行う構造であり、この張力調整機能に加えて緩衝機能等の広範な機能を有した特性を有するテンショナーを開発することが困難となっているのが現状である。
【0010】
本発明は、以上のような問題点を考慮してなされたものであり、良好な緩衝機能を得ることができ、耐久性を備え、しかもテンショナーへの設計変更を不要とした汎用性のある荷重付加装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、請求項1記載の発明の荷重付加装置は、薄板材が複数回巻かれたゼンマイばねと、前記ゼンマイばねを保持する保持部材とを備え、移動部材に設けられた相手部材と前記相手部材を押圧するテンショナーとの間に前記ゼンマイばねが挟まれるように前記保持部材が前記相手部材又は前記テンショナーに取り付けられていることを特徴とする。
【0012】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の荷重付加装置であって、前記保持部材は前記ゼンマイばねの拡縮作動を許容した状態で前記相手部材または前記テンショナーに取り付けられていることを特徴とする。
【0013】
請求項3記載の発明は、請求項1又は2記載の荷重付加装置であって、前記ゼンマイばねを収容する凹部が前記相手部材又は前記テンショナーに形成され、前記ゼンマイばねは外周部が前記凹部に当接した収容状態で前記相手部材または前記テンショナーに取り付けられることを特徴とする。
【0014】
請求項4記載の発明は、請求項1〜3のいずれか1項記載の荷重付加装置であって、前記ゼンマイばねは外周部が前記相手部材またはテンショナーに直接に又は前記保持部材を介して間接的に当接していることを特徴とする。
【0015】
請求項5記載の発明の荷重付加装置は、薄板材が複数回巻かれたゼンマイばねと、移動部材に設けられた相手部材を押圧するために進退移動する推進部材を有するテンショナーとを備え、前記ゼンマイばねが前記推進部材の後退方向側に位置するように前記テンショナーに配置されていることを特徴とする。
【0016】
請求項6記載の発明は、請求項5記載の荷重付加装置であって、前記テンショナーは前記推進部材を進退移動可能に収容するケースを備え、前記ゼンマイばねは前記推進部材の後退方向側に設けた回転部材とケースとの間に配置されていることを特徴とする。
【0017】
請求項7記載の発明は、請求項1乃至6のいずれか1項記載の荷重付加装置であって、 前記移動部材は自動車のエンジン内で無端状となって移動するタイミングチェーン又はタイミングベルトであり、前記相手部材は前記エンジン内に揺動可能に設けられ前記移動部材が摺動するガイドアームであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、良好な緩衝機能を得ることができ、耐久性を備え、テンショナーへの設計変更を不要とした汎用性のある荷重付加装置とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の第1実施形態の荷重付加装置を自動車のエンジンに適用した状態を示す断面図である。
【
図2】第1実施形態の荷重付加装置及びその周辺を示す側面図である。
【
図5】本発明の第2実施形態の荷重付加装置及びその周辺を示す側面図である。
【
図7】本発明の第3実施形態の荷重付加装置及びその周辺を示す側面図である。
【
図8】本発明の第4実施形態の荷重付加装置及びその周辺を示す側面図である。
【
図9】第4実施形態の荷重付加装置を示す断面図である。
【
図10】本発明の第5実施形態の荷重付加装置の断面であり、
図11のI−I線断面図である。
【
図11】第5実施形態の荷重付加装置の断面であり、
図10のH−H線断面図である。
【
図12】一般的なテンショナーが組み込まれた自動車のエンジン本体の内部を示す断面図である。
【
図13】一般的なテンショナーを示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を図示する実施形態により具体的に説明する。各実施形態において、同一の部材には同一の符号を付して対応させてある。又、各実施形態において、上下方向及び前後方向を図示する矢印方向として説明する。
【0021】
(第1実施形態)
図1〜
図4は、本発明の第1実施形態の荷重付加装置1であり、自動車のエンジンに適用された実施形態を示す。荷重付加装置1はエンジンに用いられているチェーンガイド等のガイドアーム240を相手部材とし、このガイドアーム240に取り付けられて使用される。
【0022】
図1はこの実施形態の荷重付加装置1が組み込まれたエンジン本体200を示し、
図12と対応した符号を付してある。すなわちエンジン本体200の内部には、従動軸である一対のカムスプロケット210、210と駆動軸であるクランクスプロケット220とが配置されており、これらのスプロケット210、210、220の間に移動部材としてのタイミングチェーン230が無端状となって掛け渡されている。タイミングチェーン230は本発明の移動部材となるものであり、移動部材としてのタイミングチェーン230は、クランクスプロケット220の回転によってスプロケット210、210、220の間を移動(走行)する。タイミングチェーン230の移動路上には、相手部材としてのチェーンガイド等のガイドアーム240がタイミングチェーン230に接触するように配置され、タイミングチェーン230がガイドアーム240の前面241に沿って摺動するようになっている。チェーンガイド等のガイドアーム240は支軸250を中心に揺動可能となっており、この揺動によってタイミングチェーン230の張力を調整する。
【0023】
タイミングチェーン230の張力を調整するため、エンジン本体200の内部には、テンショナー300が取り付けられている。テンショナー300は
図13に示す一般的なテンショナーが用いられ、ケース310がエンジン本体200にボルト止め等によって固定されている。ケース310の内部には、コイルばねによって回転付勢された回転部材と、回転部材に螺合し回転が拘束された推進部材が設けられている(いずれも図示省略)。推進部材320の先端部分はケース310から突出してガイドアーム240に対向している。この実施形態において、荷重付加装置1はテンショナー300の推進部材320に対向するようにガイドアーム240に取り付けられる。
【0024】
図2は荷重付加装置1及びその周辺部分を示す拡大図、
図3は
図2のE−E線断面図、
図4は
図3のF−F線断面図である。
【0025】
図2に示すように、荷重付加装置1はゼンマイばね3と、ゼンマイばね3を保持する保持部材4とによって形成されており、全体がガイドアーム240の背面242に取り付けられている。ガイドアーム240の背面242におけるテンショナー300(推進部材320)との対向部位にはゼンマイばね3を収容する凹部243が形成されている。
図4に示すように、ガイドアーム240の凹部243は、上下方向両側の斜面部244と、斜面部244の間で窪むように連設した底部245とによって形成されており、斜面部244にゼンマイばね3の外周部31が当接する。ゼンマイばね3の外周部31が斜面部244に当接することにより、ガイドアーム240とゼンマイばね3との間で荷重が相互に作用する。なお、底部245にはゼンマイばね3の外周部31が非当接状態となる。
【0026】
図2及び
図3に示すように、保持部材4は保持部41と腕部42とを有し、腕部42がガイドアーム240の背面242に係止されることによりガイドアーム240に取り付けられる。この取り付けにより保持部材4はゼンマイばね3を保持した状態となり、ゼンマイばね3は相手部材としてのガイドアーム240と、ガイドアーム240を押圧するテンショナー300との間に挟まれるように設けられる。
【0027】
保持部材4の保持部41は、所定厚さでゼンマイばね3の方向に湾曲した傘形状となっており、ゼンマイばね3と対向した前面には凹部45が形成されている。凹部45は、上下方向両側の斜面部46と、斜面部46の間に窪むように連設した底部47とによって形成されており、斜面部46がゼンマイばね3の外周部31に当接する一方、底部47はゼンマイばね3の外周部31との非当接状態となる。ゼンマイばね3の外周部31が斜面部46に当接することによりゼンマイばね3と保持部材4との間で荷重が相互に作用する。保持部41はゼンマイばね3を覆うように設けられており、その背面部分がテンショナー300の推進部材320に当接する当接部41となっている。
【0028】
腕部42は保持部41の左右両側からガイドアーム240の方向に延びており、その延設端部(前端部)が屈曲されて係止爪部43となっている。係止爪部43はガイドアーム240に形成した係止凹部246に係止され、これにより腕部42がゼンマイばね3の両端面を挟んだ状態で保持部材4がガイドアーム240に取り付けられる。係止爪部43の厚みは係止凹部246の幅よりも小さくなっており、係止爪部43が係止凹部246に係止されると、係止爪部43と係止凹部246との間に隙間が形成される。このため、保持部材4はガイドアーム240の厚さ方向(前後方向)に変位可能となっている。従って、ゼンマイばね3の拡縮作動に応じて保持部材4が前後方向に変位するため、ゼンマイばね3の拡縮作動を許容することができる状態となっている。
【0029】
ゼンマイばね3はばね性を有した薄板材を複数回渦巻き状に巻くことにより形成され、渦巻き状の内端部が巻き上げ部32となっている。渦巻き状の外端部は外端係止部33となっており、この外端係止部33が保持部材4の保持部41の端部に係止される。保持部材4の腕部42には、窓部44が開口しており、窓部44から巻き上げ部材(図示省略)を挿入して回転操作することにより適宜ゼンマイばね3を巻き上げる(縮径させる)ことができる。ゼンマイばね3は拡径する際における薄板材間の摩擦抵抗があるため、拡径する力が比較的小さい反面、縮径する際における薄板材間の摩擦抵抗があるため、縮径に必要な力が大きい特性を有しており、この特性によって良好な緩衝機能を発揮することができる。
【0030】
この実施形態の荷重付加装置1は、ゼンマイばね3を縮径した緊張状態とし、この緊張状態でガイドアーム240の凹部243にゼンマイばね3を収容し、保持部材4をガイドアーム240に取り付ける。これによりガイドアーム240とテンショナー300との間にゼンマイばね3が挟まれた状態となる。この状態では保持部材4における保持部41の当接部41aがテンショナー300の推進部材320と当接しており、緊張状態のゼンマイばね3は保持部材4をテンショナー300の方向に付勢した状態となる。
【0031】
エンジンからの振動を受けると、移動部材としてのタイミングチェーン230からガイドアーム240に交番荷重が作用し、ゼンマイばね3は保持部材4を介してガイドアーム240とテンショナー300との間で交番荷重を受ける。ゼンマイばね3は薄板材が複数回密着して巻かれており、交番荷重によりゼンマイばね3は撓み及び反対への戻りの繰り返し作動を行う。この繰り返し作動により薄板材間で摩擦が発生するため、保持部材4の前後動の荷重特性線図にヒス特性が発生する。このためガイドアーム240から激しい振動が作用してもこの振動を緩衝して受け流すことが可能となり、共振等の抑制を行うことができる。
【0032】
ゼンマイばね3が振動を緩衝させることからテンショナー300に緩衝特性を付与する必要がなく、緩衝特性付与のための設計や仕様の選択が不要となり、テンショナー300の選択に大きな自由度を付与することができる。この実施形態において、ゼンマイばね3の緩衝特性は、薄板材の板厚、板幅、長さや外径の大きさを選定することにより、要求されるばね定数に設定することが容易であり、設計自由度が高くなる。さらに、ゼンマイばね3がガイドアーム240の凹部243に収容された状態で荷重付加装置1がガイドアーム240に取り付けられるため、取り付けのための高さスペースが小さくなり、取り付け状態が嵩張ることを抑制することができる。又、ゼンマイばね3及び保持部材4は金属によって形成されるため、熱劣化の発生がないと共に高荷重に耐えることができ、耐久性が向上する。
【0033】
(第2実施形態)
図5及び
図6は本発明の第2実施形態の荷重付加装置1Aを示す。この実施形態においても、荷重付加装置1Aをエンジン本体200に適用している。
【0034】
この実施形態では、保持部材4の腕部42が保持部41の上下端部からガイドアーム240の長さ方向に沿って延びており、延設した腕端部42aがガイドアーム240の方向に屈曲している。腕端部42aには係止爪部43が形成されている。ガイドアーム240には、それぞれの腕端部42aに対応した係止凹部246が形成されており、腕端部42aの係止爪部43がそれぞれの係止凹部246に係止され、この係止により保持部材4(荷重付加装置1A)がガイドアーム240に取り付けられる。保持部材4の腕部42は長手方向(上下方向)に長く、又、腕部42を含めた保持部材4の全体をポリアミド樹脂(例えばナイロン)等の樹脂によって形成する。このため、保持部材4はゼンマイばね3の拡縮作動に応じて伸縮するため、ゼンマイばね3の拡縮作動を許容することができる状態となっている。保持部41にはゼンマイばね3の両端面を挟む挟み片部48が形成されており、ゼンマイばね3は保持部41及び挟み片部48に保持された状態でガイドアーム240の凹部243に収容される。この実施形態において、ゼンマイばね3の外端係止部33は一方(下方)の腕部42に係止される。
【0035】
この実施形態においても、ゼンマイばね3が縮径された緊張状態で荷重付加装置1Aがガイドアーム240に取り付けられる。これにより、ゼンマイばね3がガイドアーム240とテンショナー300に挟まれた状態となる。このような構造では、第1実施形態と同様にエンジンからの交番荷重を受けることにより、ゼンマイばね3が撓み及び反対への戻りの繰り返し作動を行い、この繰り返し作動により薄板材間で摩擦が発生するため、保持部材4の前後動の荷重特性線図にヒス特性が発生する。このためガイドアーム240から激しい振動が作用してもこの振動を緩衝して受け流すことが可能となり、共振等の抑制を行うことができる。従って、テンショナー300に緩衝特性を付与する必要がなく、緩衝特性付与のための設計や仕様の選択が不要となり、テンショナー300の選択に大きな自由度を付与することができる。又、保持部材4の形状や大きさは相手部材であるガイドアーム240に合わせて適宜変更することが可能である。
【0036】
(第3実施形態)
図7は本発明の第3実施形態の荷重付加装置1Bを示す。この実施形態においても、荷重付加装置1Bをエンジン本体200に適用している。
【0037】
この実施形態では、テンショナー300に対向する保持部41を省略した保持部材4を用いるものである。保持部材4は湾曲した三角形状となってガイドアーム240からゼンマイばね3の方向に延びる板状の一対の保持体49によって形成されており、一対の保持体49がねじ50によってガイドアーム240に固定されることにより、ゼンマイばね3の両端面を挟むようになっている。
【0038】
ゼンマイばね3は板状の一対の保持体49に挟持された状態でガイドアーム240の背面242の凹部243に収容され、外端係止部33はガイドアーム240の背面242に係止される。このゼンマイばね3はテンショナー300の推進部材320に直接に当接しており、推進部材320の前面にはゼンマイばね3の外周部31に対応した凹部320aが形成されている。なお、凹部320aを形成することなく、推進部材320の前面をフラット面としても良い。
【0039】
この実施形態においても、ゼンマイばね3が縮径された緊張状態で荷重付加装置1Bがガイドアーム240に取り付けられる。ゼンマイばね3は直接にテンショナー300の推進部材320に当接した状態でガイドアーム240とテンショナー300に挟まれる。このような構造では、エンジンからの交番荷重を受けることにより、ゼンマイばね3が撓み及び反対への戻りの繰り返し作動を行い、この繰り返し作動により薄板材間で摩擦が発生するため、保持部材4(保持体49)の前後動の荷重特性線図にヒス特性が発生する。このためガイドアーム240から激しい振動が作用してもこの振動を緩衝して受け流すことが可能となり、共振等の抑制を行うことができる。従って、テンショナー300に緩衝特性を付与する必要がなく、緩衝特性付与のための設計や仕様の選択が不要となり、テンショナー300の選択に大きな自由度を付与することができる。
【0040】
(第4実施形態)
図8及び
図9は、本発明の第4実施形態の荷重付加装置1Cを示す。この実施形態の荷重付加装置1Cは、テンショナー300に取り付けられ、テンショナー300への取り付け状態でテンショナー300と相手部材としてのガイドアーム240とにゼンマイばね3が挟まれる。
【0041】
テンショナー300は、
図9に示すように、筒状の推進部材320と、ねじ部330によって推進部材320と螺合したシャフト状の回転部材340と、回転部材340に回転トルクを付与するコイルばね350と、これらを収容するケース310とを備え、ケース310がボルト止め等によってエンジン本体200の内部に固定される。推進部材320はケース310の先端部分に取り付けられた軸受部材360によって回転が拘束され、これにより推進部材320はねじ部330を介して伝達された回転部材340の回転力によってケース310に対して右方向に進出しガイドアーム240を介してタイミングチェーン230を押圧する。一方、タイミングチェーン230の張力が大きくなってガイドアーム240が推進部材320を押し戻すことにより、推進部材320が回転部材340を逆方向に回転させながら左方向に後退する。符号370は、回転部剤340を回転させることにより回転部剤340を介してコイルばね350を巻き締めるため、ケース310の後端部から挿入される巻締め治具である。
【0042】
荷重付加装置1Cは,テンショナー300の推進部材320の先端(左端)部分に取り付けられる。荷重付加装置1Cを取り付けるため、推進部材320の先端部分には、凹部321が形成されている。凹部321は、底部323と、底部323の両側の斜面部322とによって形成されており、斜面部322にゼンマイばね3の外周部31が当接し、この当接によってゼンマイばね3が凹部321への収容状態となる。ゼンマイばね3の外周部31が斜面部322に当接することにより、推進部材320とゼンマイばね3との間で荷重が相互に作用する。
【0043】
荷重付加装置1Cは第1実施形態と同様な構造となっており、保持部41及び腕部42を有した保持部材4と、保持部材4に保持されるゼンマイばね3とによって形成されている。保持部41は第1実施形態と同様に、底部47の両側から斜面部46が連設されており、斜面部46にゼンマイばね3の外周部31が当接する。保持部41の当接部41aは
図8に示すように、相手部材としてのガイドアーム240に当接する。腕部42の後端部(右端部)には係止爪部43が形成され、この係止爪部43が推進部材320に形成した係止凹部324に係止され、この係止によって荷重付加装置1Cが推進部材320に取り付けられる。
この実施形態においても、第1実施形態と同様に、係止爪部43の厚みは係止凹部324の幅よりも小さくなっており、係止爪部43が係止凹部324に係止されると、係止爪部43と係止凹部324との間に隙間が形成される。このため、保持部材4は推進部材320の軸方向の長さ方向左右方向)に変位可能となっており、ゼンマイばね3の拡縮作動に応じて保持部材4が前後方向に変位するため、ゼンマイばね3の拡縮作動を許容することができる状態となっている。
【0044】
この実施形態の荷重付加装置1Cも第1実施形態と同様に作用することができる。すなわちエンジンからの交番荷重がガイドアーム240から保持部材4に作用し、ゼンマイばね3はガイドアーム240と推進部材320との間で交番荷重を受ける。ゼンマイばね3は薄板材が複数回密着して巻かれており、交番荷重によりゼンマイばね3は撓み及び反対への戻りの繰り返し作動を行う。この繰り返し作動により薄板材間で摩擦が発生するため、保持部材4の前後動の荷重特性線図にヒス特性が発生し、ガイドアーム240から激しい振動が作用してもこの振動を緩衝して受け流すことが可能となり、共振等の抑制を行うことができる。
特に、この実施形態では、荷重付加装置1Cがテンショナー300に取り付けられているため、ガイドアーム240に対して凹部を形成する等の加工が不要となり、一般的なガイドアームを用いることができ汎用性が拡大する。又、テンショナー300としては、コイルばね350に加えて推進部材320の進退移動をロックするラチェットを組み込んだ構造、その他の構造であっても良い。
【0045】
(第5実施形態)
図10及び
図11は、本発明の第5実施形態の荷重付加装置1Dを示す。荷重付加装置1Dは、ゼンマイばね3がテンショナー300の内部に組み込まれることにより形成されている。すなわち荷重付加装置1Dは、ゼンマイばね3と、テンショナー300とによって形成されるものである。
【0046】
テンショナー300は、
図9及び
図13と同様な構造のものが使用され、ボルト止め等によってエンジン本体200内に固定されるケース310を備え、さらにコイルばね350によって回転付勢された回転部材340と、回転部材340にねじ部330を介して螺合し軸受部材260により回転が拘束された筒状の推進部材320とを備えている。推進部材320はコイルばね350のばね力で回転部材340が回転することによりケース310から進出してガイドアーム240を押圧する一方、ガイドアーム240から荷重が入力することにより後退する。
【0047】
ゼンマイばね3は推進部材320の後退方向側に位置するように2つがケース310内に配置される。推進部材320の後退方向には、回転部材340が同軸的に連結されており、2つのゼンマイばね3はこの回転部材340とケース310との間に配置される。2つのゼンマイばね3を配置するため、回転部材340の後端部には、受け部材6が配置される。受け部材6は回転部材340の後端面に形成された受け凹部341に当接するように設けられており、底部61と底部61周囲の斜面部62とを有し、斜面部62にそれぞれのゼンマイばね3の外周部31が当接する。一方、ケース310の回転部材340に対応した底壁部310aの内面には、底部311と底部311周囲の斜面部312とからなる受け凹部313が形成され、受け凹部313の斜面部312にゼンマイばね3の外周部31が当接している。又、ケース310の底壁部310aには、2つのゼンマイばね3を区画して配置するための隔壁部314が突出するように形成されている(
図10)。このような構造では、ゼンマイばね3は回転部材340とケース310とに挟まれた状態で配置される。
【0048】
このような構造において、エンジン本体からの交番荷重は、推進部材320から回転部材340に伝達され、回転部材340から受け部材6を介して交番荷重がそれぞれのゼンマイばね3に作用する。ゼンマイばね3は薄板材が複数回密着して巻かれており、ゼンマイばね3はケース310の内部で撓み及び反対への戻りの繰り返し作動を行う。この繰り返し作動により薄板材間で摩擦が発生するため、回転部材340の前後動の荷重特性線図にヒス特性が発生し、ガイドアーム240から激しい振動が作用してもこの振動を緩衝して受け流すことが可能となり、共振等の抑制を行うことができる。
この実施形態においては、ゼンマイばね3がテンショナー300に組み込まれることによりゼンマイばね3がテンショナー300の一部を構成しており、ガイドアーム240やテンショナーの外側にゼンマイばね3を別途取り付ける必要がなく、緩衝のための構造を簡単とすることができると共にエンジン本体への組み付けが容易となる。なお、テンショナー300としては、コイルばね350に加えて推進部材320の進退移動をロックするラチェットを組み込んだ構造、その他の構造であっても良い。
【0049】
以上の実施形態では、自動車のエンジンに使用される荷重付加装置を示したが、これに限らず、開閉作動する自動車のエンジンの吸気バルブやその他の開閉機構や直線移動機構に対しても同様に適用することができる。
【符号の説明】
【0050】
1A、1B、1C、1D 荷重付加装置
3 ゼンマイばね
31 外周部
4 保持部材
200 エンジン本体
230 タイミングチェーン(移動部材)
240 ガイドアーム(相手部材)
300 テンショナー