(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6433907
(24)【登録日】2018年11月16日
(45)【発行日】2018年12月5日
(54)【発明の名称】可変用量設定機構を備える薬剤送達装置
(51)【国際特許分類】
A61M 5/24 20060101AFI20181126BHJP
A61M 5/20 20060101ALI20181126BHJP
A61M 5/31 20060101ALI20181126BHJP
A61M 5/315 20060101ALI20181126BHJP
【FI】
A61M5/24 500
A61M5/20 510
A61M5/31 520
A61M5/315 550R
【請求項の数】11
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2015-542291(P2015-542291)
(86)(22)【出願日】2013年11月19日
(65)【公表番号】特表2016-501062(P2016-501062A)
(43)【公表日】2016年1月18日
(86)【国際出願番号】EP2013074133
(87)【国際公開番号】WO2014076289
(87)【国際公開日】20140522
【審査請求日】2016年10月3日
(31)【優先権主張番号】12193146.3
(32)【優先日】2012年11月19日
(33)【優先権主張国】EP
(31)【優先権主張番号】61/729,757
(32)【優先日】2012年11月26日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】596113096
【氏名又は名称】ノボ・ノルデイスク・エー/エス
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】ホホルト, イェスパ
(72)【発明者】
【氏名】モンラズ, ミケール
(72)【発明者】
【氏名】アナスン, カーステン シャウ
(72)【発明者】
【氏名】グルベ, ミゲル スコウエンボー
(72)【発明者】
【氏名】ピーダーソン, ベニー ピーダー スミゼック
【審査官】
小原 一郎
(56)【参考文献】
【文献】
特開2001−170176(JP,A)
【文献】
国際公開第2012/022771(WO,A2)
【文献】
国際公開第2011/154480(WO,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 5/24
A61M 5/20
A61M 5/31
A61M 5/315
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)第1のリザーバユニット(35)と、(b)第2のリザーバユニット(30)と、(c)主要ユニット(10)とを備える薬剤送達システム(1)であって、
(a)第1のリザーバユニット(35)は、
第1の濃度を有する所与の薬剤の第1の製剤と
第1の製剤に対応する第1の機械的識別子と
を含み、
(b)第2のリザーバユニット(30)は、
第2の濃度を有する所与の薬剤の第2の製剤と
第2の製剤に対応する第2の機械的識別子(32)と
を含み、
(c)主要ユニット(10)は、
第1のリザーバユニット及び第2のリザーバユニットの何れかが主要ユニットに対してマウントされることを可能にする、マウント手段(20)と
設定用量サイズに応じて、マウントされたリザーバユニットから薬剤を吐出するための薬剤吐出手段であって、所与の状態に対して所定のきざみ幅で設定される、所与の薬剤に対する所望の用量サイズを、ユーザが設定することを可能にする回転式用量設定部材を含む、用量設定手段(11,12,14,15,19)を備える、薬剤吐出手段と
を含み、
薬剤吐出手段は、きざみ幅が第1の薬剤体積に対応する用量設定部材の第1の角変位量に対応する、第1の状態を有し、
薬剤吐出手段は、きざみ幅が第2の薬剤体積に対応する用量設定部材の第2の角変位量に対応する、第2の状態を有し、
第1のリザーバユニットがマウントされる場合、薬剤吐出手段は第1の機械的識別子を用いて第1の状態に設定され、第2のリザーバユニットがマウントされる場合、薬剤吐出手段は第2の機械的識別子を用いて第2の状態に設定される、
薬剤送達システム(1)。
【請求項2】
第1の状態及び第2の状態のきざみ幅は、第1の薬剤濃度及び第2の薬剤濃度に対応し、これにより、所与の数のきざみ幅に対して同量の薬剤が吐出される、請求項1に記載の薬剤送達システム。
【請求項3】
用量設定手段は、第1の所定のきざみ幅及び第2の所定のきざみ幅で設定可能な、ラチェット機構(13、14、15)を備える、請求項1又は2に記載の薬剤送達システム。
【請求項4】
ラチェット機構は、吐出機構の第1の状態及び第2の状態に対応する、第1の状態及び第2の状態を有する、請求項3に記載の薬剤送達システム。
【請求項5】
ラチェット機構は、
第1のきざみ幅サイズを有する第1のラチェットリング(13)、
第2のきざみ幅サイズを有する第2のラチェットリング(14)、
第1のラチェットリングに面し且つ第1のきざみ幅サイズを有する第1のラチェット部分と、第2のラチェットリングに面し且つ第2のきざみ幅サイズを有する第2のラチェット部分とを有する、連結リング(15)
吐出機構の第1の状態及び第2の状態に対応する、第1の状態及び第2の状態を有する、連結手段(19)
を備え、
連結リング及び第2のラチェットリングは、第1の状態で互いに対して回転をロックされ、これにより、第1のきざみ幅サイズを有するラチェットがもたらされ、
連結リング及び第1のラチェットリングは、第2の状態で互いに対して回転をロックされ、これにより、第2のきざみ幅サイズを有するラチェットがもたらされる、
請求項4に記載の薬剤送達システム。
【請求項6】
第1の製剤及び第2の製剤の各々に対して、同じ所定のきざみ幅で、薬剤用量を表示するように適合される、ディスプレイ手段を更に備える、請求項1から5のいずれか一項に記載の薬剤送達システム。
【請求項7】
用量設定部材は、第1の回転可能な目盛及び第2の回転可能な目盛の形態のディスプレイ手段に、動作可能に連結され、第1の目盛は吐出手段が第1の状態にある場合に可視であり、第2の目盛は吐出手段が第2の状態にある場合に可視である、請求項6に記載の薬剤送達システム。
【請求項8】
ディスプレイ手段は、用量設定部材に動作可能に連結された、回転可能なドラム部材を備え、第1の目盛及び第2の目盛はドラム部材上に配置される、請求項7に記載の薬剤送達システム。
【請求項9】
ディスプレイ手段は、
プロセッサ手段、
電子制御式ディスプレイ手段、及び
用量設定部材に動作可能に連結される、エンコーダ手段、を備え、
第1のリザーバユニットがマウントされる場合、エンコーダ手段は第1の機械的識別子を用いて第1の状態に設定され、第2のリザーバユニットがマウントされる場合、エンコーダ手段は第2の機械的識別子を用いて第2の状態に設定され、
これにより、設定された薬剤用量が、第1の製剤及び第2の製剤の各々に対して、同じ所定のきざみ幅で表示される、
請求項6に記載の薬剤送達システム。
【請求項10】
主要ユニットは、用量の設定中に、各きざみ幅に対して、所与の状態に対して、触知性及び/又は可聴性の信号を生成するように適合される、信号生成手段を更に備える、
請求項1から9のいずれか一項に記載の薬剤送達システム。
【請求項11】
薬剤吐出手段は、手動で作動するばね又は予め付勢されたばねにより手動で駆動される、請求項1から10のいずれか一項に記載の薬剤送達システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、ある量の薬剤を経皮送達するように適合された医療用送達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明の開示においてはインスリンの送達による糖尿病治療が主に参照されるが、これは本発明の使用の一例に過ぎない。
【0003】
薬剤注射装置は、薬剤や生物学的製剤を自己投与せねばならない患者の生活を、大きく改善してきた。薬剤注射装置は、注射手段を備えたアンプルと大差ない単純な使い捨て装置を含む形態をとるか、多機能で高度に洗練された電子制御式器具であり得る。形態に関わらず、これらは、注射薬や生物学的製剤を自己投与する患者にとって大きな助けであることが明らかとなっている。これらはまた、自己投与の実施ができない患者に注射薬物を投与する介護者も支援している。
【0004】
特にペン型注射装置は、薬剤やインスリンなどの生物学的製剤の投与に際して、正確にして便利で多くの場合、個別的な投与方法であることが証明されている。最新の装置はより洗練されてきており、最後の投与の時間と量を思い出させるためのメモリや、インスリン装置の場合は血糖値モニタなど、多岐に渡り且つ堅牢な機能を含むことが多い。ペン型注射装置は、装置の一端の最遠位部から突出する針を備え、典型的には円筒形であるが、針がもはや装置の一端の最遠位部から突出しない他の形状を有する装置もあり、これらは例えば、デンマーク、バウスベアのNovo Nordisk A/S社のInnovo(登録商標)及びInnoLet(登録商標)である。
【0005】
典型的には、注射装置は、対象となる薬物、例えば、1.5mlや3.0mlのインスリン又は成長ホルモンを収容する予め充填されたカートリッジを使用する。カートリッジは、典型的には一端に針穿刺可能な膜、及び、注射装置の投与機構によって移動するように設計された対向するピストンを備えた、概して円筒形の透明なアンプルの形態である。一般的に注射装置は、下記の2つのタイプである。「持続可能」な装置と「使い捨て」装置である。持続可能な装置は、ユーザが、1つのカートリッジを別のカートリッジ、典型的には空のカートリッジに代わり新しいカートリッジへと交換することができるように設計されている。対照的に、使い捨て装置は、ユーザによる交換が不可能な一体化されたカートリッジを備え、すなわちカートリッジが空になると装置全体が廃棄される。カートリッジを覆い保護する着脱可能なペンキャップと、穿通可能な膜を備えた針マウント部分と、該当する場合にはマウントされた針とを備えた注射装置がほとんどである。通常、針を保護するための内側針キャップを備える。
【0006】
インスリン製剤は、100IU/mlの濃度、すなわち、3mlカートリッジ内に300IUで提供されるのが通常である。ただし、所与の薬剤を異なる濃度で提供することが望ましいことがあり、例えば、所与のタイプのインスリンが100IU/ml又は200IU/mlのいずれかの濃度を有するカートリッジで提供され、後者は、所与の用量の活性薬剤のうち半量のみが送達される。
【0007】
WO2012/022771号明細書は、カートリッジの属性を検知するように適合された、電子制御式薬剤送達システムを開示している。属性は薬剤濃度であり、これによりシステムが薬剤濃度の変動を許容するために、ディスペンスする薬剤の体積を変動させることができる。EP1095668号明細書は、カートリッジの径を検知し、ピストンが所与の量の薬剤を吐出するために前進すべき距離を算出するように適合された、電子制御式薬剤送達システムを開示する。
【0008】
しかしながら、薬剤濃度に従って設定され得る電子制御式輸液ポンプを除くと、従来の機械的薬剤送達装置は、用量設定機構の各きざみ幅に対して一定量の薬剤を吐出するように設計され、例えば、設定された30IUのインスリン用量は、0.3mlのインスリン製剤の吐出という結果になる。これに応じて、所与の薬剤カートリッジが間違った装置で使用されないことを保証しなければならず、各薬剤濃度に対して特に適合された薬剤吐出装置が提供されねばならない。
【0009】
上述を考慮し、本発明の目的は、所与の薬剤を様々な濃度のカートリッジにより、コストをかけずに供給できる機械的吐出機構を有する薬剤送達システムを提供することである。装置は、単純、安全且つ利便性の高いものであるべきである。
【発明の概要】
【0010】
本発明の開示において、上述の一又は複数の目的に対処する、又は、後述の開示から及び例示的実施形態の記載から明らかな目的に対処する、実施形態及び態様が記載される。
【0011】
したがって、第1の態様によれば、第1の濃度を有する所与の薬剤の第1の製剤を含む第1のリザーバユニットと、第1の製剤に対応する第1の機械的識別子と、第2の濃度を有する所与の薬剤の第2の製剤を含む第2のリザーバユニットと、第2の製剤に対応する第2の機械的識別子とを備える、薬剤送達システムが提供される。システムは、主要ユニットを備え、主要ユニットは、第1のリザーバユニット及び第2のリザーバユニットのいずれかが主要部に対してマウントされることを可能にする、マウント手段と、設定された用量サイズに対応して、マウントされたリザーバユニットから薬剤を吐出するための、薬剤吐出手段と、回転式用量設定部材を備えた用量設定手段を備える。用量設定手段は、ユーザが所与の薬剤の所望の用量サイズを設定することを可能にし、用量サイズは所与の状態に対する所定のきざみ幅で設定される。このようなシステムにおいて、薬剤吐出手段は、第1の状態と第2の状態を有し、第1の状態では、きざみ幅が用量設定部材の第1の角変位量に対応し、第2の状態では、きざみ幅が第2の薬剤体積に対応する用量設定部材の第2の角変位量に対応する。さらに、第1のリザーバユニットがマウントされる場合、薬剤吐出手段は第1の識別子を用いて第1の状態に設定され、第2のリザーバユニットがマウントされる場合、薬剤吐出手段は第2の識別子を用いて第2の状態に設定される。
【0012】
上記の構成によって、主要ユニット(例えば、薬剤送達装置の形態の)が提供され、ここで、カートリッジによって制御される設定可能な機械的薬剤吐出機構が、基本的には従来の薬剤送達装置のように、ユーザが用量設定部材を回転させることによって、2つの薬剤濃度のどちらに対しても設定できることを保証する。この方式で、単純、安全、且つ従来型の装置と基本的に類似することにより利便性の高い薬剤送達装置が、ユーザに提供される。
【0013】
第1の状態でのきざみ幅と第2の状態でのきざみ幅は、第1の薬剤濃度及び第2の薬剤濃度に対応してよく、そうすれば、一定回数のきざみで同量の活性薬剤を吐出させることができる。
【0014】
例示的な実施形態で、用量設定手段は、第1の所定のきざみ幅及び第2の所定のきざみ幅に設定可能なラチェット機構を備え、ラチェット機構の第1の状態及び第2の状態は、吐出機構の第1の状態及び第2の状態に対応する。
【0015】
ラチェット機構は、第1のきざみ幅サイズを有する第1のラチェットリング、第2のきざみ幅サイズを有する第2のラチェットリング、第1のラチェットリングに面し且つ第1のきざみ幅サイズを有する第1のラチェット部分と、第2のラチェットリングに面し且つ第2のきざみ幅サイズを有する第2のラチェット部分とを有する、連結リング、を備え得る。このような機構において、連結手段は、吐出機構の第1の状態及び第2の状態に対応する、第1の状態及び第2の状態を有し、連結リング及び第2のラチェットリングは、第1の状態で互いに対して回転をロックされ、これにより、第1のきざみ幅サイズを有するラチェットがもたらされ、連結リング及び第1のラチェットリングは、第2の状態で互いに対して回転をロックされ、これにより、ラチェットは第2のきざみ幅サイズを有する。
【0016】
本発明の上述の記載において、第1の濃度及び第2の濃度を備え且つ第1の識別子及び第2の識別子に対応する、第1のリザーバユニット及び第2のリザーバユニットが記載されているが、当該システムがさらなる濃度及び識別子を備えたさらなるリザーバユニットを備えてもよい。
【0017】
マウント手段は、リザーバユニットが主要部に対して取り付けられることを可能にする、従来型の取り外し可能な後方装填型カートリッジホルダ、又は取り外し不可能な前方装填型カートリッジホルダの形態であり得る。リザーバユニットは、代替的に、使い捨て可能なカートリッジホルダに予めマウントされて供給され、主要部マウント手段は、リザーバユニットが直接的に取り付けられることを可能にする連結手段の形態であり得る。後者の場合、識別子は、使い捨て可能なカートリッジホルダ部の部分として形成され得る。
【0018】
主要ユニットは、例えば1IUのインスリンの第1の製剤及び第2の製剤の各々に対して、同じ所定のきざみ幅で薬剤用量を表示するように適合された、ディスプレイ手段を備え得る。
【0019】
例示的な実施形態で、用量設定手段は、薬剤吐出手段が第1の状態又は第2の状態の何れかにあるとき、所与の薬剤量、例えば1IUのインスリンの所定のきざみ幅で設定できる、回転可能な用量設定部材を備え、きざみ幅毎の回転量は、設定された状態にしたがって変動する。用量設定部材は、第1の回転可能な目盛(scale)及び第2の回転可能な目盛の形態の、ディスプレイ手段に動作可能に連結され、第1の目盛は吐出手段が第1の状態にある場合に可視であり、第2の目盛は吐出手段が第2の状態である場合に可視であり、例えば、回転可能なドラム部材が用量設定部材に動作可能に連結され、第1の目盛及び第2の目盛は、ドラム部材上に配置され得る。
【0020】
代替的に、主要ユニットは、プロセッサ手段、電子制御式ディスプレイ、及び用量設定部材に動作可能に連結される、エンコーダ手段を備え得る。このような構成で、エンコーダ手段は、第1のリザーバユニットがマウントされる場合に第1の識別子を用いて第1の状態に設定されることができ、エンコーダ手段は、第2のリザーバユニットがマウントされる場合に第2の識別子を用いて第2の状態に設定されることができ、設定された薬剤用量、例えば1IUのインスリンが、第1の製剤及び第2の製剤の各々に対して、同じ所定きざみ幅で表示される。
【0021】
薬剤送達システムは、用量の設定中に、各きざみ幅に対して、所与の状態に対する触知性及び/又は可聴性の信号を生成するように適合される、信号生成手段をさらに備える。薬剤吐出手段は、手動で作動するばね又は予め付勢されたばねによって、手動で駆動され得る。
【0022】
主要ユニットは、用量の設定中に、各きざみ幅に対して、(所与の状態に対する)触知性及び/又は可聴性の信号を生成するように適合される、信号生成手段を備え得る。例えば、各きざみ幅に対して「クリック」音が生成され得る。音は、吐出機構の先天的な構成要素、例えばラチェット機構によって、又は別個の機構によって、生成され得る。
【0023】
本書で使用する際、「薬剤(drug)」という用語は、制御された方式で中空針などの送達手段を通過することが可能な、液体、溶液、ジェル又は微細懸濁液といった、任意の薬剤含有流動可能薬物を含むことが意図されている。代表的な薬剤はペプチド(例えばインスリン、インスリン含有薬剤、GLP−1含有薬剤及びその誘導体)、タンパク質、ホルモン、生物学的由来製剤又は生理活性製剤、ホルモン製剤及び遺伝子製剤、栄養処方並びにその他の固形状(調合したもの)もしくは液体状双方の物質、などの医薬を含む。例示的な実施形態の説明において、インスリン含有薬剤の使用を参照する。
【0024】
以下に、図面を参照して発明を更に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】は、ラチェット機構を備えた薬剤送達装置を示す。
【
図2】第1のカートリッジ及び第2のカートリッジが挿入された、
図1の装置を示す。
【
図3】第1のカートリッジ及び第2のカートリッジが挿入された、
図1の装置を示す。
【0026】
図面において、同様の構造物は、主として同様の参照番号で識別される。
【発明を実施するための形態】
【0027】
後述で「上方」「下方」「右」「左」「水平」「垂直」などの語、又は類似の相対的表現が使用される場合、これらは添付図面にのみ言及するものであり実際の使用状況を指すものではない。示される図面は概略表現であり、このため種々の構造体の構成及びそれらの相対的寸法は例示目的のみを意図する。所与の構成要素に対して部材又は要素という語が使用される場合、一般的には、記載される実施形態においてその構成要素が一体型の構成要素であるということを示すが、代替的に、同じ部材が幾つかのサブ構成要素を備えてもよく、記載された構成要素が2つ又はそれよりも多く、例えば、単一の射出成型部品として機械製造された、一体型の構成要素として提供されることもあり得る。
【0028】
図1を参照し、薬剤送達装置1について記載する。図示の装置は、本発明の例示及び理解のために主に必要な要素のみを示す「デモンストレータ」と見なすことができる。
【0029】
装置は、回転式近位用量設定部材11を備える主要(又はボディ)部10、軸方向に変位可能なピストン(図示せず)を備えた薬剤充填済みカートリッジ(又はリザーバ)30を受容し保持するための、遠位カートリッジホルダ20、並びに、針アセンブリがリザーバと流体連通してマウントされるように適合された針マウント31が関連付けられた、遠位出口を含む。図示の実施形態で、識別子32が後述のように針マウントの部分として形成される。針マウントは、図示の実施形態のようにカートリッジの部分であるか、カートリッジを保持する構造物の部分の何れかであり得る。主要部は、ユーザが作動可能な用量設定手段を含む、薬剤吐出手段、及び、ピストンを遠位方向に移動し、これによりユーザ設定が可能な薬剤用量をリザーバから吐出するための、軸方向に変位可能なピストンロッドを有する駆動手段を備える。図示の実施形態で、駆動手段(図示せず)は、用量設定中に付勢され次いでピストンロッドを遠位方向に駆動するために解放される、ばねを含み、このような設計により、用量設定部材は用量設定中に軸方向に移動しない。駆動手段は、自動的に又は手動でピストンロッドを遠位方向に、用量設定手段の実際の設定状態によって決定されるようにユーザ設定用量に対応する程度、駆動するのに適した、任意の構成を有し得る。
【0030】
図1の実施形態を参照すると、用量設定手段はラチェット機構を含み、ラチェット機構は、遠位ラチェットリング13が一体に形成された円筒形ラチェット部材12を有し、第1の数の歯、例えば図示の実施形態では24の歯を含む、遠位方向を向くラチェット面を有する。ラチェット部材は、用量設定部材11に回転式に連結され、わずかに軸方向に移動可能である。ラチェット機構は、カートリッジホルダと一体に形成され、且つ、第2の数の歯、例えば図示の実施形態では48の歯を備えた遠位静止ラチェットリング14を備える、近位方向を向くラチェット面を更に含む。2つのラチェット面の間に、軸方向に移動可能なラチェット連結リング15が配置され、このリングは、遠位方向を向くラチェット面と係合するように適合され且つ同じ数の歯すなわち24の歯を備える、近位方向を向くラチェット面、並びに、近位方向を向くラチェット面と係合するように適合され且つ同じ数の歯すなわち48の歯を備える、遠位方向を向くラチェット面、を含む。ばね16は、ラチェット部材に遠位方向の付勢力をもたらし、これによりラチェット面を係合させる。ラチェット連結リング15及び隣接するラチェット部材12の部分及びラチェットリング14の各々は、外周に等間隔で配置された軸方向に向く複数のスプライン突起17を備え、この突起は、後述のように、3つのラチェット部分が、対応するように構成された連結部材18とスプライン関係において係合することを可能にする。
【0031】
ラチェット機構は、カートリッジに設けられた突起の形態の識別子によって2つの状態の間で作動されることができる、連結部材19の形態の連結具を含む。より具体的には、軸方向に移動可能な連結アクチュエータ21がカートリッジホルダ内に収容され且つ挿入されたカートリッジの識別子に係合するように適合された、遠位部、及び、連結部材を2つの位置間で作動させるように適合された、近位部22を含む。代替的に、識別子はカートリッジの近位端に配置されてもよく、これにより、(長い)連結アクチュエータの必要性が避けられる。
図2及び3を参照すると、連結部材はリング(又は図示のような部分的リング)の形態であり、
図4に示すように、このリングの内面に配置される幾つかのスプライン突起18を介してラチェット機構と係合する。ばね(図示せず)は、連結部材に遠位付勢力をもたらす。連結部材は、第1の状態に対応する最遠位位置(付勢手段によって促される)と、第2の状態に対応する再近位位置との間で移動可能である。第1の状態で、連結部材は静止リング及び連結リングと係合しており、これにより、ラチェット部材12の対向するラチェット面とラチェット連結リング15とが相互作用し、ラチェット部材が、現在は静止している連結リングに対して回転するにつれて、例えば「回転毎の24クリック」音をもたらす。
図1に示す第2の状態で、連結部材は連結リングとラチェット部材とを係合しており、これにより、連結リングの対向するラチェット面と静止リング14とが相互作用し、例えば、ラチェット部材、及びしたがってラチェットリングが、静止リング14に対して回転するにつれて、例えば「回転毎の48クリック」音をもたらす。この方式で、装填された薬剤カートリッジに対応するきざみ幅で、用量が設定されることができる。クリック音はきざみ幅に対応するので、ユーザには対応するフィードバックが与えられ、例えば、異なる回転量に関わらず、1クリックは1IUのインスリンに等しい。
【0032】
上述のように、連結リングの軸方向移動は、カートリッジ上の識別子によって、連結アクチュエータを介して制御される。図示の実施形態で、
図2のカートリッジ35は100IU/mlインスリン製剤を含み、
図3のカートリッジ30は200IU/mlインスリン製剤を含む。200IUカートリッジが「正数の(positive)」識別子32を有し、これが連結リングを移動させ、よって連結が第1の状態から第2の状態へと設定されることになるのに対し、100IUカートリッジは「無の(none)」識別子を有するので、挿入されたとき連結リングを移動しない。しかしながら、本発明の状況では、このような「無の」識別子は(数としてのゼロ値に相当する)識別子と見なされ、連結が第1の状態に設定されるものの、連結は、物理的に、挿入されるカートリッジがないことに相当する初期状態に維持される。
【0033】
完全に又は部分的に機械化された薬剤送達装置のほとんどは、第1の製剤及び第2の製剤の各々に対して、同じ所定のきざみ幅で、薬剤用量(例えばインスリンのIUや成長ホルモンのmg)を表示するように適合された、ディスプレイ手段を有する。
【0034】
例えば、用量設定手段は、きざみ幅に対応する指標が印字された回転可能な目盛ドラムを含み、ここで、用量設定手段が例えば1IUに設定可能である。しかしながら、上述の装置において同じ目盛が使用された場合、1IUは2つのきざみ幅に相当し、したがって、倍量の活性薬剤に相当する。同様に、このような目盛ドラムに対して、きざみ幅毎の回転量は設定状態にしたがって変動することとなり、例えば、24IUと48IUとが、用量設定部材11の360度回転に対してそれぞれ24IUと48IUである。このことは幾つかの方式で達成され、例えば、目盛に2つの目盛が印字され、第1の目盛は吐出手段が第1の状態である場合に可視であり、第2の目盛は吐出手段が第2の状態である場合に可視である。どちらの目盛が可視であるかは、装置の設定状態に対応した第1の位置と第2の位置とを有する、可動窓を用いて制御される。例えば、このような窓は、上述の連結リングを制御するものと同じ手段によって制御され得る。
【0035】
代替的に、薬剤送達装置が、プロセッサ、電子制御式ディスプレイ手段、及び用量設定部材に動作可能に連結されたエンコーダ手段を含み、エンコーダ手段は、第1のカートリッジがマウントされるとき第1の識別子を用いて第1の状態に設定され、エンコーダ手段は、第2のカートリッジがマウントされる場合に第2の識別子を用いて第2の状態に設定され、これにより、設定された薬剤用量が、第1の製剤及び第2の製剤に対して、同じ所定のきざみ幅で表示される。この構成によって、ディスプレイは用量設定機構に機械的に連結されないが、ユーザには、装填されるカートリッジのタイプに関わらず1「クリック」が1IUのインスリンに対応する、ラチェットクリック音による機械的フィードバックがもたらされる。
【0036】
上述の実施形態において、エンコーダは、360度/48=7.5度の分度(resolution)を有する回転式のタイプであり、第2の状態における1つのエンコーダステップが1きざみ幅したがって1IUのインスリンに対応し、第1の状態における2つのエンコーダステップが1きざみ幅したがって1IUのインスリンに対応し得る。
【0037】
好ましい実施形態の上述の記載において、種々のコンポーネントに対して記載された機能を提供する種々の構造体及び手段は、本発明のコンセプトが当業者たる読者にとっては自明である程度に示されたものである。種々のコンポーネントにおける詳細な構築及び仕様は、本発明の仕様の規定に沿って当業者により実施される通常の設計工程の対象と見なされる。