(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6433985
(24)【登録日】2018年11月16日
(45)【発行日】2018年12月5日
(54)【発明の名称】脳神経の耳麻酔により疾患を処置する方法
(51)【国際特許分類】
A61K 31/4152 20060101AFI20181126BHJP
A61K 31/245 20060101ALI20181126BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20181126BHJP
A61K 47/10 20060101ALI20181126BHJP
A61K 47/12 20060101ALI20181126BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20181126BHJP
A61P 25/20 20060101ALI20181126BHJP
A61P 11/04 20060101ALI20181126BHJP
A61P 11/06 20060101ALI20181126BHJP
A61P 3/04 20060101ALI20181126BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20181126BHJP
【FI】
A61K31/4152ZMD
A61K31/245
A61K9/08
A61K47/10
A61K47/12
A61P25/00 101
A61P25/20
A61P11/04
A61P11/06
A61P3/04
A61P43/00 121
【請求項の数】11
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2016-512111(P2016-512111)
(86)(22)【出願日】2014年5月5日
(65)【公表番号】特表2016-522819(P2016-522819A)
(43)【公表日】2016年8月4日
(86)【国際出願番号】US2014036855
(87)【国際公開番号】WO2014179814
(87)【国際公開日】20141106
【審査請求日】2017年4月21日
(31)【優先権主張番号】61/819,023
(32)【優先日】2013年5月3日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】515300826
【氏名又は名称】トーマス エム.クルーズ
【氏名又は名称原語表記】Thomas M.CREWS
(74)【代理人】
【識別番号】100169904
【弁理士】
【氏名又は名称】村井 康司
(74)【代理人】
【識別番号】100117422
【弁理士】
【氏名又は名称】堀川 かおり
(72)【発明者】
【氏名】トーマス エム.クルーズ
【審査官】
山村 祥子
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許出願公開第2012/0252720(US,A1)
【文献】
米国特許第06093417(US,A)
【文献】
International Journal of Pediatric Otorhinolaryngology,2012年,Vol.76,p.1229-1235
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 45/00
A61K 31/4152
A61K 31/245
A61K 9/08
A61K 47/10
A61K 47/12
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)鎮痛薬としてアンチピリンと(ii)麻酔薬としてベンゾカインとを含む、特定の脳神経と関係する、扁桃摘出術後の咽頭痛又は口腔咽頭痛、咽頭扁桃切除術後の咽頭痛又は口腔咽頭痛、喘息、食欲抑制による肥満、神経性咳、ヒステリー球、痙攣性発声障害、咽頭痛及び胃食道逆流性疾患からなる群から選択される疾患の治療用医薬組成物であって、
該医薬組成物は、そのような治療を必要としている被験体の外耳道に、前記被験体の特定の脳神経の活動を、前記医薬組成物が投与されていない被験体における前記特定の脳神経の生理学的活動と比べて生理学的に変更するのに十分な濃度で投与するためのものである医薬組成物。
【請求項2】
(i)アンチピリンと(ii)ベンゾカインとを含む、扁桃摘出術後の咽頭痛の治療用医薬組成物であって、
該医薬組成物は、該医薬組成物を投与する前の直前の168時間以内に扁桃摘出術を受けた被験体の外耳道に、前記被験体の迷走神経の活動を、前記医薬組成物が投与されていない被験体における迷走神経の生理学的活動と比べて生理学的に変更するのに十分な濃度で投与するためのものである医薬組成物。
【請求項3】
前記医薬組成物を投与する前の直前の48時間以内に扁桃摘出術を受けたものに投与するためのものであるか、
扁桃摘出術を受けてから4時間以内に、前記被験体の前記外耳道に投与するためのものである請求項2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
(i)アンチピリンと(ii)ベンゾカインとを含み、咽頭扁桃切除術後の咽頭痛の治療用の医薬組成物であった。
該医薬組成物は、該医薬組成物を投与する前の直前の168時間以内に咽頭扁桃切除術を受けた被験体の外耳道に、前記被験体の迷走神経の活動を、前記医薬組成物が投与されていない被験体における迷走神経の生理学的活動と比べて生理学的に変更するのに十分な濃度で投与するためのものである医薬組成物。
【請求項5】
前記医薬組成物を投与する前の直前の48時間以内に咽頭扁桃切除術を受けたものに投与するためのものであるか、
咽頭扁桃切除術を受けてから4時間以内に、前記被験体の前記外耳道に前記医薬組成物が投与するためのものである請求項4に記載の医薬組成物。
【請求項6】
(i)アンチピリンと(ii)ベンゾカインとを含み、喘息の治療用の医薬組成物であって、
該医薬組成物は、そのような治療を必要としている被験体の外耳道に、前記被験体の迷走神経の活動を、前記医薬組成物が投与されていない被験体における迷走神経の生理学的活動と比べて生理学的に変更するのに十分な濃度で投与するためのものである医薬組成物。
【請求項7】
直前の48時間以内に喘息発作を起こしたものに投与するためのものであるか、
直前の60分以内に喘息発作を起こしたものに投与するためのものであるか、
前記医薬組成物の前記投与後に前記被験体をモニタリングし、前記被験体が別の喘息発作を患っていることが示されたものに前記医薬組成物の第2の投与を行うためのものである請求項6に記載の医薬組成物。
【請求項8】
(i)アンチピリンと(ii)ベンゾカインとを含み、食欲抑制用の医薬組成物であって、
該医薬組成物は、そのような治療を必要としている被験体の外耳道に、前記被験体の迷走神経の活動を、前記医薬組成物が投与されていない被験体における迷走神経の生理学的活動と比べて生理学的に変更するのに十分な濃度で投与するためのものである医薬組成物。
【請求項9】
24時間の間に少なくとも3回投与するためのものであるか、
前記被験体が空腹を感じた直後に、前記被験体の前記外耳道に前記医薬組成物を投与するためのものであるか、
食物が前記被験体により摂取される約20分〜約60分前に、前記被験体の前記外耳道に前記医薬組成物を投与するためのものであるか、
食物の摂取と同時に、前記被験体の前記外耳道に前記医薬組成物を投与するためのものである請求項8に記載の医薬組成物。
【請求項10】
前記医薬組成物が、抗生物質、血管収縮薬、グリセリンまたは酢酸のうちの1つ以上をさらに含むか、溶液の投与形態を有するか、泡沫の投与形態を有する請求項1〜9のいずれか1つに記載の医薬組成物。
【請求項11】
前記鎮痛薬であるアンチピリンが、1mL当たり50〜60mgの濃度で前記医薬組成物中に存在し、前記麻酔薬であるベンゾカインが、1mL当たり10〜20mgの濃度で前記医薬組成物中に存在するか、
1mL当たり50〜55mgの濃度で前記医薬組成物中に存在し、前記麻酔薬が、1mL当たり10〜15mgの濃度で前記医薬組成物中に存在する請求項1〜10のいずれか1つに記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、Thomas M.Crewsによる2013年5月3日に出願された米国仮特許出願第61/819,023号明細書の利益およびこれに対する優先権を主張するものであり、優先権としてその出願日に対する権利を有するものである。米国仮特許出願第61/819,023号明細書の明細書、図および全開示内容が、あらゆる目的のために、具体的な参照により本明細書に援用される。
【0002】
本開示は、第五脳神経(三叉神経)、第七脳神経(顔面神経)、第九脳神経(舌咽神経)、および第十脳神経(迷走神経)の耳麻酔を行うことにより種々の疾患を処置するための方法に関する。
【背景技術】
【0003】
第十脳神経としても知られている迷走神経は、12対の脳神経の10番目のものであり、脳神経の中で最も長い。延髄錐体と下小脳脚との間において延髄を出ると、迷走神経は、頸静脈孔を通って延び、次いで、頸動脈鞘に入り、内頸動脈と内頸静脈との間を通って頭よりも下方に向かい、頸部、胸部および腹部に至り、そこで、迷走神経は、内臓の神経支配に寄与する。迷走神経の解剖学的構造を、
図1および
図2に図示する。
【0004】
頸静脈孔から出ると、迷走神経は、頸静脈神経節および節状神経節または上迷走神経節および下迷走神経節を形成する。頸静脈神経節は、舌咽神経の岩様部神経節からのフィラメントにより結合される。迷走神経の耳介枝もまた、それが頸静脈窩の側壁から乳突小管に入る時に、第十脳神経の頸静脈神経節からおよび舌咽神経の岩様部神経節からの接続を有する。迷走神経(vagas)の耳介枝は、側頭骨をかすめて通りながら鼓室乳突裂から出て2つの枝に分かれる。一方は、耳介後方の神経と結合し、他方は、耳の裏側の皮膚および後外耳道に分布する。
【0005】
迷走神経は、中枢神経系に身体器官の状態についての感覚情報を伝える。迷走神経中の神経線維のおよそ80%は、内臓の状態を脳に伝達する求心性神経または感覚神経であり、残りの20%は、遠心性神経または機能神経である。
【0006】
迷走神経は、多くの他の生理学的機能に加えて、これらに限定されないが、呼吸、発語、発汗、喉頭が呼吸時に開いたままでいることを促進すること、心拍をモニタリングし調節すること、および胃内の食物の消化を含む、多くの身体機能の調節を担っている。
【0007】
その結果として、迷走神経の操作および結果として起こるそれの正常な生理学的機能の変更は、迷走神経調節と関係する多様なヒト病気に対して甚大な効果を有し得る。しかしながら、迷走神経の機能を変更するための当該技術分野において利用可能な現行の手順は、極めて侵襲性が高い。こうした現用の手順は、多くの場合、患者の体内への人工機械デバイスの埋込みに依拠している。極めて侵襲性の高い外科的手順であることに加えて、これらの方法は、非常に費用がかかる。
【0008】
例えば、米国食品医薬品局は、1990年代後期に、迷走神経刺激法(VNS)と呼ばれる、部分発症癲癇(partial onset epilepsy)の処置のための手順を認可した。VNSは、癲癇発作を患っている被験体内にペースメーカー様デバイスを設置するための外科的手順として行われる。患者の頸部領域内部に埋め込まれるこのデバイスは、迷走神経を通じて穏やかな電気インパルスを送るために使用される。このデバイスは、電池で動き、電気パルス発生器を有している。これが埋め込まれた後に、絶縁プラスチックを備えた電極が、患者の頸部の皮膚の下から迷走神経の方に送られる。パルスは、2、3秒毎にオンになり、次いでオフになることにより、交互に動作するように設定される。
【0009】
研究者らはまた、食欲を抑制するために、肥満患者の胃内でこれらのペースメーカー様デバイスを利用して迷走神経の機能を遮断する可能性も調査し始めた。この場合もまた、これらの手順は極めて侵襲性が高く、患者の体内への人工デバイスの埋込みを必要とする。
【0010】
外科医の中には、肥満を処置するために迷走神経切断手順を行うものもいた。これらの手順では、外科医は、患者の迷走神経を完全に切断してしまう。これらの手順により、被験体は成功裏に減量することが可能になるが、そのような侵襲性で永久的な外科的手順は、多くの患者にとって問題をはらむものであることは明らかである。
【0011】
第七脳神経または顔面神経は、12対の脳神経のうちの1つである(
図3参照)。顔面神経は、その主要な機能が顔の筋肉に運動神経支配を提供することであるために、このように呼ばれている。顔面神経が刺激する他の筋肉は、広頸筋、顎二腹筋後腹、およびアブミ骨筋である。顔面神経の感覚および副交感神経部分は中間神経内を走り、以下の要素、すなわち、(1)舌の前方3分の2に対する味覚;(2)涙腺、鼻および副鼻腔、口の粘液腺、ならびに顎下および舌下唾液腺に対する分泌線維ならびに血管運動線維;ならびに(3)外耳道および耳の裏側の領域からの皮膚感覚インパルスを提供する。また、中間神経から翼口蓋神経節に向かい、鼻および副鼻腔の粘膜および粘膜下組織に向かう、副交感神経インパルスが、それらの静脈容量(venous capacitance)および鬱血レベルを決定すると考えられる。
【0012】
第七脳神経の副交感神経部分は、脳幹内の唾液核に由来しており、顔面神経の運動神経(motor division)とは別に内耳道(interior acoustic meatus)に入る。副交感神経部分は、膝神経節の近位の顔面神経と組み合わさる。その線維は、大浅錐体神経を通って膝神経節を出て、大深錐体神経により結合されて、ヴィディウス神経または翼突管神経を形成し、ここでそれらは一緒に前進して、翼口蓋神経節でシナプスを形成する。そこで、それらは、眼、鼻、副鼻腔、口蓋、咽頭、および唾液腺に、副交感神経支配を提供する。膝神経節は、迷走神経の耳介枝およびそれの第七脳神経への接続を介して外耳道から一般体性求心性線維を受ける。一般体性感覚求心性線維は、膝神経節でシナプスを形成する。
【0013】
三叉神経または第五脳神経は、12対の脳神経の5番目のものであり、全ての脳神経の中で最も大きい(
図4参照)。三叉神経は、顔、頭皮、外耳道の皮膚、粘液膜(mucus membrane)、および頭部の他の内部構造の、大感覚神経である。三叉神経はまた、咀嚼筋に対する運動神経支配としての機能を有し、固有受容線維を含有する。三叉神経はさらに、それの様々な枝による、脳硬膜からの感覚神経支配を有する。第五脳神経は、かなり大規模である。主感覚核は、橋から上部脊髄に延びる。この核は、三叉神経節またはガッサー神経節としても知られている半月神経節からそれの求心性線維を受ける。三叉神経節は、それの3つの主要な神経(division)のための感覚線維の細胞体を含有する。三叉神経節は、3つの大きな感覚神経(sensory division)、すなわち、眼神経、上顎神経、および下顎神経を受ける。感覚根線維は、この神経節を後方に出て、橋へのそれらの挿入を経る。
【0014】
第九脳神経としても知られている舌咽神経は、12の両側脳神経(paracranial nerve)の9番目のものであり、これは、鼓室神経として知られ、感覚線維および分泌線維の両方を有している(
図5および
図6参照)。この神経は、感覚および運動の混合神経である。感覚要素は、咽頭および扁桃領域ならびに舌の裏側の粘液膜(mucus membrane)に感覚を与える体性求心性線維からなる。脳幹からの舌咽神経の表在の起始は、オリーブと下脚(inferior peduncle)との間の溝内の3または4本の細根による。舌咽神経は、頸静脈孔を通って頭蓋から出て、内頸動脈と内頸静脈との間を前方に走行する。頸静脈孔から出ると、舌咽神経は、1対の神経節腫脹(ganglionic swelling)、すなわち、上神経節または頸静脈神経節および下神経節または岩様部神経節を形成する。この神経節は、この神経の感覚線維の細胞体を含有する。第九神経は、迷走神経または第十脳神経、顔面神経、および交感神経節と連絡する。
【0015】
舌咽神経は、5つの異なる一般的機能を有している:(1)運動線維(特殊内臓遠心性線維)が、茎突咽頭筋に伝達のための経路を供給し;(2)内臓運動線維(一般内臓遠心性線維)が、耳下腺の副交感神経支配を提供し;(3)内臓感覚線維(一般内臓求心性線維)が、頸動脈洞および頸動脈小体から内臓感覚情報を運び;(4)一般感覚線維(一般体性遠心性線維)が、外耳の皮膚、鼓膜の内面、上部咽頭、および舌の後方3分の1からの一般感覚情報を提供し;かつ、(5)特殊感覚線維(特殊求心性線維)が、舌の後方3分の1(有郭乳頭を含む)からの味覚を提供する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
したがって、迷走神経または他の脳神経の機能を侵襲性の外科的手順または人工デバイスによって変更することに頼らない、迷走神経および他の脳神経と関係する疾患を処置する方法に対する大きな必要性が、医療社会に存在する。具体的には、非侵襲性で、安全、有効、かつ経済的である、迷走神経および他の脳神経の機能を変更する手順に対する大きな必要性が、当該技術分野に存在する。
【課題を解決するための手段】
【0017】
様々な実施形態において、本発明は、第五脳神経(三叉神経)、第七脳神経(顔面神経)、第九脳神経(舌咽神経)、および第十脳神経(迷走神経)と関係する多くのヒト疾患およびそれらの症状を処置するための、安全な、非侵襲性の手順を提供する。本開示は、侵襲性の、費用のかかる外科的手順に依拠しない、神経の正常な生理学的機能を妨害する方法を提供する。開示される方法は、求心性シグナルおよび遠心性シグナルの両方の伝達が、三叉神経、顔面神経、舌咽神経または迷走神経によって伝達されるのを「遮断する」ことができる。神経上のシグナル伝達のそのような遮断は、薬学的組成物が被験体の外耳道に投与される局所的耳麻酔手順によって達成される。それらの神経の機能調節を可能にするのは、それらの神経の経皮耳麻酔ならびにそれらのそれぞれの神経節との特定の密接な近接および関係である。特定の疾患過程の発現の調節を結果としてもたらすのは、そうした機能調節である。
【0018】
例示的な実施形態において、本開示は、疾患の症状を処置するための方法であって、被験体の外耳道に、(i)鎮痛薬と(ii)麻酔薬とを含む医薬組成物を局所的に投与することを含む、方法を提供する。一実施形態において、鎮痛薬は、アンピロン、ジピロン、アンチピリン、アミノピリン、およびプロピフェナゾンからなる群から選択される少なくとも1種のピラゾロン誘導体である。好ましい実施形態において、鎮痛薬は、アンチピリンである。一実施形態において、麻酔薬は、ベンゾカイン、クロロプロカイン、コカイン、シクロメチカイン、ジメトカイン、ラロカイン、ピペロカイン、プロポキシカイン、プロカイン、ノボカイン、プロパラカイン、テトラカイン、アメトカイン、アルチカイン、ブピバカイン、シンコカイン、ジブカイン、エチドカイン、レボブピバカイン、リドカイン、リグノカイン、メピバカイン、プリロカイン、ロピバカイン、トリメカイン、およびそれらの薬学的に受容可能な誘導体からなる群から選択される少なくとも1つである。好ましい実施形態において、麻酔薬は、ベンゾカインである。
【0019】
開示される方法によって処置できる疾患は非常に多い。特定の神経により刺激される器官または身体組織と関係する任意の疾患が、本方法により潜在的に処置され得るであろう。本方法によって処置できる以下の疾患、すなわち、喘息、神経性咳、ヒステリー球、痙攣性発声障害、胃食道逆流性疾患、および肥満が特に言及される。本方法はまた、扁桃摘出術後または咽頭扁桃切除術後の咽頭痛または口腔咽頭痛を処置するのにも好適である。
【0020】
さらに他の実施形態において、開示される方法によって処置できる疾患としては、心疾患、発作性(孤立性)(迷走神経性)心房細動、反射性収縮期失神(reflex systolic syncope)、体位性起立性頻脈症候群(POTS)、過剰催吐反射、食道性嚥下困難症、嘔吐、悪心、嚥下痛、食道痛、食道神経痛、胃炎、消化不良、胆嚢疾患、胆嚢炎痛(colecistitis pain)、腹痛、食道運動障害または食道運動不全、痙攣性結腸、膵臓痛または痙攣、小児疝痛、直腸痙攣および直腸痛、膀胱痙攣(過活動膀胱)、間質性膀胱炎、月経困難症、早期分娩、骨盤痛、慢性骨盤痛、慢性前立腺炎痛、子癇、子癇前症、HELLP症候群、膀胱炎痛、過敏性腸症候群、コーン病(Cohn’s disease)、潰瘍性大腸炎、逆流性疾患、胃炎、胃腸炎症状、妊娠悪阻、小児疝痛、肝腎症候群、食欲抑制、胆嚢痛、食道の炎症、胃の炎症、結腸の炎症、腎臓痛(結石、感染症、または腫瘍による)、遺尿症、排尿障害、性交疼痛症、大便失禁、多量月経期、頻尿、持続性膣出血、勃起抑制(inhibit erection)、早漏防止、過剰発汗抑制(inhibit excessive sweating)、尿管痙攣、月経痙攣、子宮痙攣、卵巣痛および痙攣、ファローピウス管痛および痙攣、小児喘息、成人喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、気管支粘液(bronchial mucus)、急性気管支炎、喘息性気管支炎、慢性気管支炎、気管支痙攣、嚢胞性線維症、肺の炎症、気腫、胸膜炎性胸痛、肋間筋痛、神経痛、挿管および抜管に続発する気管支痙攣、狭心症、心臓迷走神経遮断、血管迷走神経反射障害、徐脈、低血圧症、起立性低血圧症、高血圧症、糖尿病、ショック、敗血症性ショック、血糖の減少、膵臓の炎症、迷走神経または心臓に関する理由に続発する失神、血管迷走神経性失神、徐脈型不整脈、皮膚の血管拡張、神経痛、喉頭痙攣、急性喉頭炎、喉頭痛、慢性喉頭炎、抜管後および挿管後の喉頭痙攣、口蓋ミオクローヌス、扁桃摘出術後の疼痛、いびき、アレルギー性鼻炎、血管運動性鼻炎、炎症性ポリポーシス(鼻)、慢性副鼻腔炎、慢性鼻鬱血、アレルギー性結膜炎、くしゃみ、しゃっくり、鼻炎、耳鳴、嚥下障害、クループ、慢性疲労症候群、線維筋痛症(慢性)、癲癇、強迫性障害、パニック発作、心的外傷後ストレス障害、ツレット症候群、局所性ジストニー、疼痛性チック、過食症、不安、鬱病、不穏下肢症候群、自律神経障害、家族性企図振戦、片頭痛、自閉症圏、不安頭痛、不眠症または睡眠障害、多発性硬化症、網様体賦活系の調節、末梢神経障害、失行症、頸肩痛、ならびにパーキンソン病が挙げられるが、これらに限定されない。
【0021】
したがって、本方法が、一般的に、特定の神経機能の「遮断」の恩恵を受け得る任意の疾患、病気、または身体状態の処置に適用されることは明らかである。すなわち、神経の神経学的シグナルを伝達する能力の阻害の恩恵を受けるであろう任意の状態が、開示される方法に包含される。
【0022】
本明細書に開示される方法において、医薬組成物は、被験体の外耳道に、被験体の神経の活動を、当該医薬組成物が投与されていない被験体における神経の生理学的活動と比べて生理学的に変更するのに十分な濃度で投与される。したがって、開示されるとおりの方法において利用される本医薬組成物は、神経のその長さに沿って神経学的シグナルを伝達する自然の能力を妨害することができる。これらのシグナルは、求心性および遠心性の両方であり、本方法によって遮断または阻害される。
【0023】
医薬組成物中に存在する鎮痛薬の量は、1mL当たり約1〜100mg、1mL当たり約10〜100mg、1mL当たり約20〜100mg、1mL当たり約30〜100mg、1mL当たり約40〜100mg、1mL当たり約50〜100mg、1mL当たり約60〜100mg、1mL当たり約70〜100mg、1mL当たり約80〜100mg、1mL当たり約90〜100mg、または1mL当たり約100mgを含み得る。一部の実施形態において、存在する鎮痛薬の量は、1mL当たり約50〜60mg、または1mL当たり約54mg、または1mL当たり約50〜55mg、または1mL当たり約55〜60mgである。
【0024】
医薬組成物中に存在する麻酔薬の量は、1mL当たり約1〜100mg、1mL当たり約10〜100mg、1mL当たり約20〜100mg、1mL当たり約30〜100mg、1mL当たり約40〜100mg、1mL当たり約50〜100mg、1mL当たり約60〜100mg、1mL当たり約70〜100mg、1mL当たり約80〜100mg、1mL当たり約90〜100mg、または1mL当たり約100mgを含み得る。一部の実施形態において、存在する麻酔薬の量は、1mL当たり約1〜20mg、または1mL当たり約1〜15mg、または1mL当たり約5〜15mg、または1mL当たり約10〜20mg、または1mL当たり約10〜15mg、または1mL当たり約14mgである。
【0025】
1回の投薬の間に患者に投与される医薬組成物の総量は、約0.001〜0.01mLの溶液、または約0.01〜0.1mLの溶液、または約0.1〜0.5mLの溶液、または約0.1〜1mLの溶液、または約1〜1.5mLの溶液、または約1.5〜2mLの溶液、または約2〜5mLの溶液、または約5〜10mLの溶液を含み得る。投与は、1回の典型的な投薬の間に患者の外耳道に「数滴」の溶液を適用する「ドロッパー」ボトルを使用することを含み得る。そのような投与は、1mL=約15〜20滴、0.5mL=約10滴、0.25mL=約5滴を含み得る。
【0026】
本明細書で使用される場合、別段の明示的な定めのない限り、全ての数(例えば、値、範囲、量、または百分率を表しているもの)は、「約」という語が、たとえこの語が明示的に現れていなくとも、あたかも前にあるかのように読まれ得る。本明細書に記載されるあらゆる数値範囲は、そこに包含される全ての部分範囲を含むことが意図される。複数形の語は単数形の語を包含し、逆に、単数形の語は複数形の語を包含する。例えば、単数形「a」、「an」、および「the」は、明示的かつ明白に1つの指示対象に限定されない限り、複数の指示対象を含む。
【0027】
特定の実施形態において、本方法により処置される被験体は、耳感染症に罹っていない。さらに、特定の実施形態において、本方法により処置される被験体は、耳の痛みを有していない、または耳痛を感じていない。
【0028】
特定の態様において、本方法は、耳感染症に罹っている患者に対しては利用されない。すなわち、本方法は、特定の実施形態において、耳感染症に罹っているまたは耳感染症に伴う耳痛を有している患者に対する利用を明確に排除する。特定の実施形態は、耳の痛みまたは耳痛を感じている被験体に対して当該方法を利用することを明確に排除する。これらの実施形態において、当該方法の第1の工程は、患者が耳痛もしくは耳の痛み、または耳痛を引き起こし得る耳内組織の腫脹、または耳感染症を有していないことを保証するための処置医による耳の診察を含み得る。一部の態様において、患者が前述のもののいずれも有していないことの確認後に、患者の外耳道が、開示される医薬組成物で処置され得、好ましい実施形態において、当該医薬組成物は、アンチピリンおよびベンゾカインを含む。
【0029】
本方法において利用される開示される医薬組成物は、さらなる成分(例えば、抗生物質、血管収縮薬、グリセリン、および酢酸)を含み得る。
【0030】
当該医薬組成物は、任意の薬学的に受容可能なキャリアまたはアジュバントを含み得、溶液、泡沫、ジェル、クリーム、ペースト、ローション、エマルジョン、および前述のものの組み合わせとして、処方され得る。
【0031】
当該医薬組成物は、必要に応じて、1日1回、1日2回、1日3回、1日4回、1日5回、1日6回、1日7回、1日8回、1日9回、1日10〜20回、または、最高で、1日を通して連続的に、投与され得る。さらに、特定の実施形態において、医薬組成物は、喘息発作の発症時に投与される。他の実施形態において、医薬組成物は、空腹を感じている人に対して投与される。当該方法の一部の態様は、咽頭領域に痛みを感じている患者に対する医薬組成物の投与を含む。特定の実施形態は、耳痛を感じている、または耳感染症に罹っている、または耳感染症に伴う耳内腫脹を有する患者には、教示される組成物を利用しないことを企図している。これらの実施形態において、迷走神経と関係する疾患を処置する開示される方法は、患者が耳痛を発現させた時に、即時に中止または停止され得る。
【0032】
開示される方法により処置されるべき特に好ましい病気は、術後扁桃摘出術または術後咽頭扁桃切除術と関係する咽頭痛または口腔咽頭痛である。これらの実施形態は、前述の外科的手順後に患者が感じる痛みを処置する。これらの実施形態において、医薬組成物は、当該医薬組成物を投与する前の直前の168時間(または7日)、直前の48時間、直前の24時間、直前の12時間、直前の4時間以内に扁桃摘出術もしくは咽頭扁桃切除術を受けた、または術後すぐの被験体の外耳道に適用される。したがって、本方法は、開示される手順および医薬組成物を、術後に咽頭または口腔咽頭領域に痛みを感じた直後に利用するように、医師が患者に処方することを企図している。
【0033】
開示される方法により処置されるべき別の特に好ましい病気または疾患は、喘息である。特定の実施形態において、急性喘息発作が、本方法により処置される。これらの実施形態は、医薬組成物を、急性喘息発作を現在経験している被験体の外耳道に投与することを含む。さらに、これらの実施形態は、過去48時間、24時間、12時間、6時間、または1時間の間に喘息発作を経験した被験体の処置を含み得る。したがって、本明細書で教示される方法は、患者の喘息の処置および管理のために、通常の気管支拡張薬およびコルチコステロイドと共に使用され得る。当該方法は、患者の正常ピーク流量示度の50〜79%(すなわち、American Lung Associationにより分類される場合の「イエローゾーン」)のピーク呼気流量(PEFR)を経験している喘息患者に対する使用に好適であり得る。当該方法はまた、患者の正常ピーク流量示度の50%未満(すなわち、「レッドゾーン」)のピーク呼気流量を経験している患者に対する使用にも好適である。当該方法は、患者が重度の喘息発作を経験した場合に救助吸入器(rescue inhaler)と共に利用され得る。その結果として、一部の実施形態において、本医薬組成物は、キットの一構成要素であり、前記キットは、救助吸入器およびアンチピリンとベンゾカインとを含む医薬組成物を含む。このキットは、重度の喘息発作を起こす恐れがある患者と共に保たれることが意図される。さらに、一部の実施形態において、医薬組成物は、例えば学校の教室に置いておかれる緊急応急処置キットの一部である。これらの実施形態において、先生は、生徒が重度の喘息発作を起こしたが直ちに利用可能な救助吸入器がない時などの緊急の時に、本医薬組成物を利用し得るであろう。
【0034】
本方法はまた、慢性喘息の処置における使用にも好適である。これらの実施形態において、患者は、急性喘息発作の発症を予防するために、開示される組成物を、本開示において教示されるとおりに利用する。これらの方法において、慢性喘息は、本方法の連続的な使用により管理される。したがって、特定の実施形態において、本明細書で提示される医薬組成物は、喘息発作の発症の前に、喘息に罹っている患者に投与される。例えば、本方法の特定の実施形態は、スポーツをする患者において喘息を制御するのに有効である。多くの場合、喘息を患っている患者は、身体運動時に呼吸能力の低下を経験することになり、これは、場合によっては、吸入器の使用を必要とする重度の喘息発作に繋がり得る。本方法は、被験体がスポーツをすることに従事する前の、アンチピリンおよびベンゾカインを含む医薬組成物での、被験体の外耳道の処置を可能にする。このように、本方法は、喘息発作を生じる可能性を低減するために、身体活動に従事する前に患者が利用するための有効な療法であり得る。
【0035】
開示される方法により処置されるべき別の特に好ましい状態または疾患は、肥満である。本方法は、患者の食欲を抑制する方法を提供することによって肥満を処置する。患者の食欲を抑制することによることで、本方法は、医師が患者の体重を管理することに利用するための新たな手段を提供する。したがって、肥満は、教示される医薬組成物を被験体の外耳道に投与することにより処置され得る。一部の実施形態において、被験体は、被験体が空腹感を感じるたびに、教示される医薬組成物で処置される。さらに、一部の実施形態は、開示される医薬組成物を、食事が取られる直前に、または食事が取られる10分〜60分前に、または食事が取られる20〜60分前に、または食事が取られる30〜60分前に、または食事の摂取と同時に、被験体の外耳道に投与する。したがって、一部の態様において、迷走神経の耳麻酔の本方法は、患者が任意の食物を食べる前の1時間以内に、患者に対して利用される。このようにして、患者の食欲が十分に満たされ、より少ない食物が摂取されることになる。さらに、一部の実施形態は、朝、好ましくは被験体が朝食を取る前に、開示される医薬組成物を被験体の外耳道に投与するものであり、こうすることで、少なくとも昼食まで続く有効な食欲抑制薬を提供する。
【0036】
一部の実施形態において、本医薬組成物および処置方法は、患者の食欲を抑えるための医薬組成物の利用を含むだけでなく、特定の食事および運動レジメンも含み得る、包括的な減量プログラムの一部である。
【0037】
一部の態様において、局所的医薬組成物を患者の外耳道に適用する人は、何らかの肉眼で見える障害物(すなわち、耳垢、皮膚、感染症、化膿、または腫脹)がないかを調べるために、患者の耳の中の表面を覗き込めるように、十分な明かりを得るべきである。この人は、外耳道をまっすぐにするように、外側および上方に優しく耳介を引っ張り得る。予め温めておいた、かなり粘り気のある、教示される医薬組成物を含む点耳薬が、側方耳開口部の後方または後部壁に適用されるべきである。この滴剤は、各滴が外耳道をゆっくりと下方に移動することを可能にしながら、非常にゆっくりとかつ慎重に、1度に1滴ずつ適用されるべきである。最適な適用のために、患者の頭部は、それの側面が、平らな軟らかい表面の上に載っているべきである。外耳道の後部壁および鼓膜は、迷走神経線維の大部分を有しており、したがって、この領域への指向された適用が望ましい。一部の態様において、10歳未満の子供は、片耳当たり4〜8滴を必要とし、成人および12歳より上の子供は、麻酔のために、通常、6〜10滴を必要とする。一部の実施形態において、必要とされる局所麻酔を迷走神経に提供するように外耳道内での薬剤の維持を確実にするために、滴剤に続いて、必ず、約1時間にわたり、側方外耳道内に綿玉が入れられる。この綿は、1時間後に除去され得る。
【0038】
迷走神経の生理学的変更により影響を受ける疾患を処置するための迷走神経の耳麻酔の目的での患者の外耳道への医薬組成物の投与は、一部の実施形態において、「Crews手技」と称される。迷走神経に麻酔をかけるための導管として外耳道を利用するこのCrews手技は、当該技術分野に存在する欠点に悩まない。
【0039】
本開示の実施形態のこれらおよび他の特徴、態様、および利点は、以下の説明、特許請求の範囲、および下で説明される添付の図面と関連させることで、より良く理解されてくるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【
図1】
図1は、迷走神経の複雑な解剖学的構造の図解である。耳介枝が示されている。
【
図2】
図2は、身体の片側の副交感神経(parasympathetic division)の神経支配を示した、迷走神経の複雑な解剖学的構造の図解である。
【
図3】
図3は、顔面神経の解剖学的構造の図解である。
【
図4】
図4は、三叉神経の解剖学的構造の図解である。
【
図5】
図5は、舌咽神経の解剖学的構造の図解である。
【
図7】
図7は、ヒト耳内部の図解である。外耳道が示されている。
【発明を実施するための形態】
【0041】
1つ以上の好ましい実施形態の詳細な説明が、本明細書で提供される。しかしながら、本開示は、様々な形態で具現化され得ることが理解されるべきである。したがって、本明細書に開示される特定の詳細は、限定するものと解釈されるべきではなく、特許請求の範囲のための基礎として、および任意の適切な様式で本開示を使用するように当業者に教示するための代表的な基礎として、解釈されるべきである。
【0042】
A.脳神経に沿った神経学的シグナルの伝達の妨害
第十脳神経(迷走神経)は、非常に多くの身体器官と関係しており、それの正常な生理学的機能の変更は、多くのヒト病気に対して甚大な効果を有し得る。すなわち、特定の神経における神経学的シグナルの伝導を「遮断する」または「妨害する」または「麻痺させる」ことにより、その神経によって刺激される多くの器官に影響を及ぼすことができる。その結果として、神経に沿って伝達されるシグナルの伝達を遮断することは、それらのシグナルの性質が求心性であろうと遠心性であろうと、種々の器官および組織の正常な生理学的応答を変更するであろう。このことは、延いては、特定の神経によって刺激されるヒト器官および組織と関係する種々の疾患または病気を処置することに対して甚大な影響を及ぼし得る。
【0043】
第七脳神経(顔面神経)の皮膚部分の耳麻酔は、副交感神経線維および感覚線維が麻痺させられる、遮断される、または別の方法で調節されるところの膝神経節にシグナルを戻す。膝神経節の麻酔およびそれの翼口蓋神経節への接続が、顔面神経を通しての遠心性シグナルの伝達を調節または遮断する役目をする。これは、これらに限定されないが、アレルギー性鼻炎、血管運動性鼻炎、炎症性鼻ポリポーシス、慢性副鼻腔炎、慢性鼻鬱血、アレルギー性結膜炎、くしゃみ、およびあらゆる形態の鼻炎などの疾患過程に甚大な影響を及ぼし得る。
【0044】
第五脳神経(三叉神経)の感覚態様は、硬膜、眼の粘液膜(mucus membrane)、鼻および副鼻腔の粘液膜(mucus membrane)、外耳道鼓膜の皮膚からの情報を処理する。外耳道の皮膚の耳麻酔は、次いで、三叉神経の下顎神経の耳介側頭枝を介して三叉神経節にシグナルを送る。三叉神経節を通しての求心性シグナルの調節は、多数の疾患過程に対して甚大な効果を有している。硬膜、眼、鼻および副鼻腔からのそうした求心性シグナルを調節することは、様々な疾患過程の調節に繋がる。眼神経、上顎神経、および下顎神経を通過する硬膜シグナルの操作は、頭痛および片頭痛の処置において甚大な効果を有している。三叉神経の眼神経および上顎神経からの求心性シグナルの操作または調節または遮断は、アレルギー性鼻炎、血管運動性鼻炎、あらゆる形態の鼻炎、炎症性鼻ポリポーシス、慢性副鼻腔炎、慢性鼻鬱血、アレルギー性結膜炎およびくしゃみに関係する、第七脳神経の運動神経(motor division)からの調節された遠心性シグナルを結果としてもたらすであろう。
【0045】
第九脳神経(舌咽神経)の皮膚部分の耳麻酔ならびにそれの岩様部神経節への近接ならびにそれの第七脳神経および第十脳神経への接続は、特定の疾患過程に対して甚大な効果を有し得る。舌咽神経と第七および第十脳神経のものとの間の神経接続のため、それらの神経に特異的な疾患過程も調節され得る。局所的耳麻酔による影響を受け得る舌咽神経に特異的な疾患としては、咽頭痛、扁桃摘出術後の疼痛、くしゃみ、および耳下腺唾液分泌が挙げられるが、これらに限定されない。
【0046】
したがって、本発明のいくつかの実施形態は、迷走神経、三叉神経、顔面神経、または舌咽神経を介した遠心性シグナルの伝達を遮断する方法を含む。本開示の別の実施形態は、迷走神経、三叉神経、顔面神経、または舌咽神経を介したシグナルviの求心性伝達を遮断する。本開示はまた、迷走神経、三叉神経、顔面神経、または舌咽神経を介した求心性および遠心性の両方のシグナル伝達が遮断される方法も提供する。
【0047】
B.医薬組成物
本開示の方法は、そのような処置を必要としている被験体の外耳道への医薬組成物の適用を利用する。外耳道は、
図7に図示されている。当該医薬組成物は、鎮痛薬および麻酔薬を含む。
【0048】
本開示の実施形態に存在する鎮痛薬は、ピラゾロン(C
3H
4N
2O)誘導体である。3−ピラゾロンの分子構造は、次のとおりである。
【化1】
【0049】
異性体形態5−ピラゾロンの誘導体もまた、本開示に包含される。
【0050】
本方法の特定の実施形態は、ピラゾロン誘導体としてアンチピリンを利用する。アンチピリン(C
11H
12N
2O)は、フェナゾンとも称される。アンチピリンの分子構造は、次のとおりである。
【化2】
【0051】
本開示の一部の実施形態に存在する麻酔薬は、エステルベースの麻酔薬である。特定の実施形態において、麻酔薬はベンゾカイン(C
9H
11NO
2)であり、その分子式は、次のとおりである。
【化3】
【0052】
本方法のさらなる実施形態は、アミドベースの麻酔薬を利用する。
【0053】
本方法の好ましい実施形態において、開示される医薬組成物は、鎮痛薬としてアンチピリンを含み、麻酔薬としてベンゾカインを含む。
【0054】
当該医薬組成物は、次のもの、すなわち、溶液、泡沫、ジェル、クリーム、ペースト、ローション、エマルジョン、および前述のものの組み合わせを含むがこれらに限定されない多くのやり方で処方され得る。
【0055】
さらに、本開示は、医薬組成物の有効成分(例えば、アンチピリンおよびベンゾカイン)が、次いで患者の外耳道内に入れられる材料中に注入され得ることを企図している。例えば、綿ガーゼ材が、本医薬組成物を含有するように構成され得るであろう。前記ガーゼは、外耳道を本医薬組成物に曝露するための好都合な適用方法を提供する。
【0056】
C.医薬組成物の適用の解剖学的部位
本方法は、開示される医薬組成物を患者の外耳道に適用することを企図している。外耳道は、本医薬組成物を適用し、迷走神経または他の脳神経に沿った神経学的シグナルの妨害を達成するためのヒト解剖学的構造における好都合な場所として使えることが見出された。すなわち、患者の外耳道内に本明細書に記載されるとおりの医薬組成物を入れることにより、身体が当該組成物を吸収し、迷走神経または他の脳神経が「遮断」され、その結果、神経の正常な生理学的機能が変更されることになることが発見された。特定の神経に麻酔をかけるための導管として外耳道を利用する本方法は、先行技術に存在する欠点に悩まない。
【0057】
記載されるとおりの医薬組成物を適用する本方法は、侵襲性でなく、外科的手順に伴う危険を呈さない。さらに、本方法は、人工デバイスを患者の体内に挿入することに依拠しない。本方法は、開示される非侵襲性の手順が人工デバイスまたは手術なしに迷走神経または他の脳神経の機能を変更することができるので、従来技術と比較して著しい進歩を表すことは明らかである。本方法は経済的でもあり、したがって、人口の大多数に処置の利用機会を提供するであろう。
【0058】
次に、迷走神経上のシグナル伝達を遮断する方法の現在開示されている実施形態について、以下の実施例に照らしてさらに詳しく述べる。これらの実施例の各々において、開示される方法は、特定の脳神経と関係するヒト疾患または病気を成功裏に処置することができた。すなわち、迷走神経または他の脳神経に対して耳麻酔を行う開示される方法、すなわち、「Crews手技」により、以下の実施例において処置された状態を臨床的に有効な程度まで制御することができた。
【実施例】
【0059】
実施例1:扁桃摘出術後の咽頭痛または口腔咽頭痛の処置
A.プロトコル
扁桃摘出術後の咽頭痛または口腔咽頭痛を患っている患者を処置するための方法の有効性を評価するために、本方法の好ましい実施形態の試験を行った。
【0060】
扁桃摘出術を先に受けた500名の患者に、扁桃摘出術後の10日の継続期間にわたり、1日3回、各耳に、アンチピリン(約54.0mg)およびベンゾカイン(約14.0mg)を含む6滴の医薬組成物を利用するように指示した。
【0061】
B.結果
処置された500名の患者のうち495名の患者が、咽頭痛および/または口腔咽頭痛の著しい減少を報告した。
【0062】
実施例2:咽頭扁桃切除術後の咽頭痛または口腔咽頭痛の処置
A.プロトコル
咽頭扁桃切除術後の咽頭痛または口腔咽頭痛を患っている患者を処置するための方法の有効性を評価するために、本方法の好ましい実施形態の試験を行った。
【0063】
咽頭扁桃切除術を先に受けた200名の患者に、咽頭扁桃切除術後の7日の継続期間にわたり、1日2回、各耳に、アンチピリン(約54.0mg)およびベンゾカイン(約14.0mg)を含む6滴の医薬組成物を利用するように指示した。
【0064】
B.結果
処置された200名の患者のうち200名の患者が、咽頭痛および/または口腔咽頭痛の著しい減少を報告した。
【0065】
実施例3:喘息の処置
A.プロトコル
慢性喘息および急性喘息発作を患っている患者を処置するための方法の有効性を評価するために、本方法の好ましい実施形態の試験を行った。
【0066】
喘息に罹っている10名の患者に、2ヶ月にわたり、朝、各耳に、アンチピリン(約54.0mg)およびベンゾカイン(約14.0mg)を含む6滴の医薬組成物を利用するように指示した。
【0067】
重度の急性喘息発作を患った患者は、即時に患者の外耳道を前述の医薬組成物で満たすことによっても処置された。
【0068】
B.結果
処置された10名の患者のうち10名の患者が、喘息発作の著しい減少を報告した。
【0069】
さらに、重度の喘息発作を患った患者は、処置から60分以内に、彼の肺に到達する酸素の量の劇的な増加を経験した。
【0070】
実施例4:肥満の処置(すなわち、食欲抑制の方法)
A.プロトコル
肥満を患っている患者を処置するための方法の有効性を評価するために、本方法の好ましい実施形態の試験を行った。
【0071】
5名の過体重患者に、無期限に、朝、各耳に、アンチピリン(約54.0mg)およびベンゾカイン(約14.0mg)を含む6滴の医薬組成物を利用するように指示した。
【0072】
B.結果
処置された5名の患者のうち5名全ての患者が、処置を利用している間、食欲の著しい減少を報告した。食欲の著しい減少は、体重減少に繋がる。
【0073】
実施例5:神経性咳の処置
A.プロトコル
神経性咳を患っている患者を処置するための方法の有効性を評価するために、本方法の好ましい実施形態の試験を行った。
【0074】
神経性咳を患っている4名の患者に、7日の継続期間にわたり、および次いで、必要に応じてのみ、1日2回、各耳に、アンチピリン(約54.0mg)およびベンゾカイン(約14.0mg)を含む6滴の医薬組成物を利用するように指示した。
【0075】
B.結果
処置された4名の患者のうち4名全ての患者が、咳の著しい減少を報告した。
【0076】
実施例6:ヒステリー球の処置
A.プロトコル
ヒステリー球を患っている患者を処置するための方法の有効性を評価するために、本方法の好ましい実施形態の試験を行った。
【0077】
ヒステリー球を患っている2名の患者に、無期限に、必要に応じて、1日1回、各耳に、アンチピリン(約54.0mg)およびベンゾカイン(約14.0mg)を含む6滴の医薬組成物を利用するように指示した。
【0078】
B.結果
処置された2名の患者のうち2名全ての患者が、喉の窮屈さの著しい減少を報告した。
【0079】
実施例7:痙攣性発声障害の処置
A.プロトコル
痙攣性発声障害を患っている患者を処置するための方法の有効性を評価するために、本方法の好ましい実施形態の試験を行った。
【0080】
痙攣性発声障害を患っている1名の患者に、無期限に、必要に応じて、1日1回、各耳に、アンチピリン(約54.0mg)およびベンゾカイン(約14.0mg)を含む6滴の医薬組成物を利用するように指示した。
【0081】
B.結果
患者は、処置を使用したほぼ直後に、喉の嗄声および声帯の痙攣の著しい減少を報告した。
【0082】
実施例8:喉頭痛の処置
A.プロトコル
喉頭痛を患っている患者を処置するための方法の有効性を評価するために、本方法の好ましい実施形態の試験を行った。
【0083】
喉頭痛を患っている2名の患者に、無期限に、必要に応じて、1日1回、各耳に、アンチピリン(約54.0mg)およびベンゾカイン(約14.0mg)を含む6滴の医薬組成物を利用するように指示した。
【0084】
B.結果
処置された2名の患者のうち全ての患者が、喉頭痛の著しい減少を報告した。
【0085】
実施例9:胃食道逆流性疾患の処置
A.プロトコル
胃食道逆流性疾患(GERD)を患っている患者を処置するための方法の有効性を評価するために、本方法の好ましい実施形態の試験を行った。
【0086】
GERDを患っている2名の患者に、無期限に、必要に応じて、1日1回、各耳に、アンチピリン(約54.0mg)およびベンゾカイン(約14.0mg)を含む6滴の医薬組成物を利用するように指示した。
【0087】
B.結果
処置された2名の患者のうち2名全ての患者が、酸逆流および胸焼けの著しい減少を報告した。
【0088】
前述の臨床実験からの結果は、以下に表1において見出され得る。
【0089】
【表1】
【0090】
開示される方法によって処置できる疾患は非常に多い。特定の神経により刺激される器官または身体組織と関係する任意の疾患が、本方法により潜在的に処置され得るであろう。本方法によって処置できる以下の疾患、すなわち、喘息、神経性咳、ヒステリー球、痙攣性発声障害、胃食道逆流性疾患、および肥満が特に言及される。本方法はまた、扁桃摘出術後または咽頭扁桃切除術後の咽頭痛または口腔咽頭痛を処置するのにも好適である。
【0091】
さらに他の実施形態において、開示される方法によって処置できる疾患としては、心疾患、発作性(孤立性)(迷走神経性)心房細動、反射性収縮期失神(reflex systolic syncope)、体位性起立性頻脈症候群(POTS)、過剰催吐反射、食道性嚥下困難症、嘔吐、悪心、嚥下痛、食道痛、食道神経痛、胃炎、消化不良、胆嚢疾患、胆嚢炎痛(colecistitis pain)、腹痛、食道運動障害または食道運動不全、痙攣性結腸、膵臓痛または痙攣、小児疝痛、直腸痙攣および直腸痛、膀胱痙攣(過活動膀胱)、間質性膀胱炎、月経困難症、早期分娩、骨盤痛、慢性骨盤痛、慢性前立腺炎痛、子癇、子癇前症、HELLP症候群、膀胱炎痛、過敏性腸症候群、コーン病(Cohn’s disease)、潰瘍性大腸炎、逆流性疾患、胃炎、胃腸炎症状、妊娠悪阻、小児疝痛、肝腎症候群、食欲抑制、胆嚢痛、食道の炎症、胃の炎症、結腸の炎症、腎臓痛(結石、感染症、または腫瘍による)、遺尿症、排尿障害、性交疼痛症、大便失禁、多量月経期、頻尿、持続性膣出血、勃起抑制(inhibit erection)、早漏防止、過剰発汗抑制(inhibit excessive sweating)、尿管痙攣、月経痙攣、子宮痙攣、卵巣痛および痙攣、ファローピウス管痛および痙攣、小児喘息、成人喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、気管支粘液(bronchial mucus)、急性気管支炎、喘息性気管支炎、慢性気管支炎、気管支痙攣、嚢胞性線維症、肺の炎症、気腫、胸膜炎性胸痛、肋間筋痛、神経痛、挿管および抜管に続発する気管支痙攣、狭心症、心臓迷走神経遮断、血管迷走神経反射障害、徐脈、低血圧症、起立性低血圧症、高血圧症、糖尿病、ショック、敗血症性ショック、血糖の減少、膵臓の炎症、迷走神経または心臓に関する理由に続発する失神、血管迷走神経性失神、徐脈型不整脈、皮膚の血管拡張、神経痛、喉頭痙攣、急性喉頭炎、喉頭痛、慢性喉頭炎、抜管後および挿管後の喉頭痙攣、口蓋ミオクローヌス、扁桃摘出術後の疼痛、いびき、アレルギー性鼻炎、血管運動性鼻炎、炎症性ポリポーシス(鼻)、慢性副鼻腔炎、慢性鼻鬱血、アレルギー性結膜炎、くしゃみ、しゃっくり、鼻炎、耳鳴、嚥下障害、クループ、慢性疲労症候群、線維筋痛症(慢性)、癲癇、強迫性障害、パニック発作、心的外傷後ストレス障害、ツレット症候群、局所性ジストニー、疼痛性チック、過食症、不安、鬱病、不穏下肢症候群、自律神経障害、家族性企図振戦、片頭痛、自閉症圏、不安頭痛、不眠症、多発性硬化症、網様体賦活系の調節、末梢神経障害、失行症、頸肩痛、ならびにパーキンソン病が挙げられるが、これらに限定されない。
【0092】
特に、以下の疾患または障害、すなわち、血管迷走神経反射障害、慢性気管支炎、喘息性気管支炎、低血圧症、高血圧症、糖尿病、膀胱痙攣、月経困難症、骨盤痛、膀胱炎痛、遺尿症、排尿障害、性交疼痛症、多量月経流量期、頻尿、痙攣性発声障害、いびき、アレルギー性鼻炎、血管運動性鼻炎、慢性副鼻腔炎、慢性鼻鬱血、アレルギー性結膜炎、くしゃみ、しゃっくり、鼻炎、嚥下障害、過敏性腸症候群、胃炎、食欲抑制、慢性疲労症候群、線維筋痛症、不安、鬱病、不穏下肢症候群、家族性企図振戦、片頭痛、自閉症圏、不安頭痛、不眠症、睡眠障害、失行症、および頸肩痛と関係する症状または状態について処置された最低5名の患者がいた場合において、上記の方法に従って処置された患者の半分より多くにおいて改善が報告された。他の列挙された疾患または密接に関係する疾患についても、同様の肯定的な結果(すなわち、処置された全患者のうちの全てまたは半分より多くについて報告された肯定的な結果)が認められた。
【0093】
迷走神経および他の脳神経と関係する種々の疾患を処置するための方法が様々な実施形態に関して本出願に記載されてきたが、当該方法の範囲は、そのように開示された特定の実施形態に限定されることが意図されるものではない。それに反して、逆に当該方法は、以下の特許請求の範囲の範囲および趣旨の範囲内に含まれ得るような代替物、改変物、および等価物を対象として含むことが意図される。