【文献】
Chang-Joo Kim(ETRI),Adaptive Spreading Scheme, IEEE 802.22-06/0145r1,IEEE, インターネット<URL:https://mentor.ieee.org/802.22/dcn/06/22-06-0145-01-0000-etri-adaptive-spreading-scheme.ppt>,2007年 7月
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照しつつ、本発明の様々な実施形態について説明する。ただし、本発明の技術的範囲はそれらの実施形態に限定されず、特許請求の範囲に記載された発明とその均等物に及ぶ点に留意されたい。
【0018】
<第1実施形態>
図1は、無線端末2における処理概要の一例を示す図である。
【0019】
無線端末2は、例えば、ドアの開閉を検出し開閉情報を遠隔地で利用するIoTシステムにおける、通信機能を有する開閉センサ等として利用可能である。以下、無線端末2が発電し蓄電した電気の電圧に基づいてSF値を選択し、選択したSF値を適用してデータをスペクトラム拡散方式で送信するまでの処理の概要について説明する。
【0020】
SF(拡散率)とは、スペクトラム拡散方式で無線通信を行う際の送信データ速度(ビットレート)に対する拡散符号速度(チップレート)の比である。LoRa規格においてSF値は7〜12の6段階の値をとることができ、値が大きいほど通信の耐ノイズ性が高くなり、通信可能な距離が長くなる。ただし、SF値が大きいほど、同じサイズのデータの送信に長時間を要するため、無線端末2の消費電力が大きくなる。
【0021】
無線端末2は、太陽光を受けて発電し、発電した電気を蓄電する(S1)。次に、無線端末2は、自らが設置されたドアの開閉状態を検出し、検出結果に基づいてデータを生成する(S2)。次に、無線端末2は、蓄電した電気の電圧を測定し(S3)、測定した電圧に対応するSF値を選択する(S4)。次に、無線端末2は、選択したSF値を適用して、データをスペクトラム拡散方式で送信する(S5)。
【0022】
このように、本発明に係る無線端末2は、蓄電した電気の電圧を測定し、その電圧に対応するSF値を適用してデータをスペクトラム拡散方式で送信できる。このため、無線端末2は、蓄電した電気の電圧、すなわち無線端末2が使用可能な電気の量に応じてSF値を選択することが可能である。
【0023】
図2は、無線通信システム1の概略構成の一例を示す図である。
【0024】
無線通信システム1は、無線端末2、2’、2”と、ゲートウェイ3と、ネットワークサーバ4と、アプリケーションサーバ5、5’とを有する。無線端末2、2’及びゲートウェイ3は、スペクトラム拡散方式の無線通信により接続され、ゲートウェイ3、ネットワークサーバ4及びアプリケーションサーバ5は、インターネット等の通信ネットワークを介して接続される。一例として、無線通信システム1はLoRaWAN規格に準拠し、無線端末2、2’、2”とゲートウェイ3との間の通信の変調方式はLoRa規格に準拠しているものとする。
【0025】
無線端末2、2’、2”は、データをゲートウェイ3へ送信する。ゲートウェイ3は、無線端末2とゲートウェイ3との間の通信に用いるLoRa形式のデータを、ゲートウェイ3とネットワークサーバ4との間の通信に用いるIPデータ形式に変換して、ネットワークサーバ4へ送信する。1つのゲートウェイ3は複数の無線端末2、2’、2”からデータを受信することができる。
【0026】
ネットワークサーバ4は、無線端末2からゲートウェイ3へ送信されたデータを各アプリケーションサーバ5、5’等へ転送する。アプリケーションサーバ5、5’は、ネットワークサーバ4から送信されたデータ、すなわち無線端末2等のデータを用いた処理を実行する。
【0027】
図3aは無線端末2の外観図の一例を示す図であり、
図3bは無線端末2を設置する自動ドア6の外観図の一例を示す図である。
【0028】
無線端末2の一例は、ドアの開閉を検出する磁気センサを有する無線端末である。無線端末2の表面には、発電素子21と表示装置28とが配置されている。発電素子21は、環境発電により発電を行う素子であり、例えば、光発電用の太陽電池、振動発電用の圧電素子、温度差発電用の熱電変換素子などである。表示装置28は、無線端末2の動作状況を表示するためのデバイスであり、例えば、LED(Light Emitting Diode)、小型電球等である。本実施形態においては、発電素子21が太陽電池、表示装置28がLEDの例を示す。
【0029】
図3bに示すとおり、無線端末2は自動ドア6の固定部に配置され、磁石7は、自動ドア6の可動部の、自動ドア6が開状態のときに無線端末2に近接する位置に配置される。自動ドア6が開くと、磁石7が無線端末2に近接することにより、無線端末2は磁束が所定量以上になったことを検出し、自動ドア6が開状態になったと判定する。自動ドア6が閉じると、磁石7が無線端末2から離れることにより、無線端末2は磁束が所定量未満になったことを検出し、自動ドア6が閉状態になったと判定する。
【0030】
図4は、無線端末2の概略構成図の一例である。
【0031】
無線端末2は、周囲の物理現象を検出し、検出した物理現象をデータとしてゲートウェイ3へ送信する。そのために、無線端末2は、発電素子21と、電源IC(Integrated Circuit)22と、蓄電素子23と、第1電圧検出回路24と、センサ25と、第2電圧検出回路26と、マイコン27と、表示装置28と、送信モジュール29とを備える。
【0032】
電源IC22は、発電素子21により生じた電気を昇圧し、蓄電素子23に供給するコンバータであり、本実施の形態においてはDC−DCコンバータである。蓄電素子23は、電源IC23により昇圧された電気を蓄え、蓄えた電気をマイコン27、送信モジュール29等の負荷回路へ供給するキャパシタである。なお、キャパシタの代わりに二次電池を用いることができる。
【0033】
第1電圧検出回路24及び第2電圧検出回路26は、蓄電素子23の出力電圧を検出する回路である。第1電圧検出回路24は、蓄電素子23と、蓄電素子23の出力電圧により動作する負荷回路(センサ25、第2電圧検出回路26、マイコン27、表示装置28、及び送信モジュール29)との接続を切り替えるスイッチ24aを有する。本実施形態の一例において、無線端末2の負荷回路が動作可能な最小電圧Vminは3.0V、最大電圧Vmaxは3.6Vである。なお、最小電圧Vmin及び最大電圧Vmaxを他の値とすることも可能である。
【0034】
センサ25は、周囲の物理現象を検出し、検出した物理現象を電気信号に変換するデバイスである。本実施形態の一例においては、センサ25は自動ドア6の開閉を検出するための磁気センサである。センサ25は、目的とする物理現象を検出できればどのようなデバイスでも良く、例えば、磁気センサ、光センサ、温度センサ、電流センサ、超音波センサ、加速度/振動センサ、接触センサ等である。
【0035】
マイコン27は、無線端末2の全体的な動作を統括的に制御するものであり、例えば、マイクロコントローラである。このために、マイコン27は、入出力部271と、記憶部272と、制御部273とを有する。
【0036】
入出力部271は、GPIO(General Purpose Input/Output)、UART(Universal Asynchronous Receiver/Transmitter)等を有する。入出力部271は、センサ25、第2電圧検出回路26からの電気信号を制御部273に入力し、制御部273から供給されるデータを送信モジュール29等に出力する。
【0037】
記憶部272は、例えば、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等の半導体メモリを有する。記憶部272は、制御部273による処理に用いられるドライバプログラム、オペレーティングシステムプログラム、アプリケーションプログラム、データ等を記憶する。
【0038】
例えば、記憶部272は、ドライバプログラムとして、送信モジュール29を制御する通信デバイスドライバプログラム等を記憶する。また、記憶部272は、オペレーティングシステムプログラムとして、LoRa等の通信方式による接続制御プログラム等を記憶する。また、記憶部272は、センサ25の検出結果に基づくデータを記憶するため、バッファ272a(図示せず)を有する。
【0039】
制御部273は、一又は複数個のプロセッサ及びその周辺回路を有する。制御部273は、無線端末2の全体的な動作を統括的に制御するものであり、例えば、CPU(Central Processing Unit)である。制御部273は、無線端末2の各種処理が記憶部272に記憶されているプログラム等に応じて適切な手順で実行されるように、送信モジュール29等の動作を制御する。制御部273は、記憶部272に記憶されているプログラム(ドライバプログラム、オペレーティングシステムプログラム、アプリケーションプログラム等)に基づいて処理を実行する。また、制御部273は、複数のプログラム(アプリケーションプログラム等)を並列に実行できてもよい。
【0040】
制御部273は、データ生成部274、電圧値算出部275、SF値選択部276、表示部277、及びデータ決定部278等を有する。制御部273が有するこれらの各部は、制御部273が有するプロセッサ上で実行されるプログラムによって実装される機能モジュールである。あるいは、制御部273が有するこれらの各部は、独立した集積回路、マイクロプロセッサ、又はファームウェアとして無線端末2に実装されても良い。
【0041】
送信モジュール29は、LoRa等の無線の通信インターフェース回路を有する。送信モジュール29は、制御部273により設定されるSF値等を適用し、スペクトラム通信方式の無線通信によって、ゲートウェイ3等へデータを送信する。送信モジュール29は、送信に加えて、ゲートウェイ3等から送信されるデータを受信し、制御部273に供給できる送受信モジュールであってもよい。
【0042】
図5は、記憶部272が記憶する、蓄電素子23の出力電圧と、送信データサイズと、SF値との関係の一例を示す表である。
【0043】
記憶部272には、蓄電素子23の出力電圧であるVddと、送信モジュール29が送信するセンサ25の検出結果に基づくデータのサイズと、送信モジュール29がデータの送信時に適用するSF値とが相互に関連付けて記憶される。データのサイズは、LoRaWAN規格のMAC層のフレームにおけるペイロードのサイズを示す。なお、無線端末2が送信するデータが固定長の場合、
図5の表からデータサイズの列を削除した、VddとSF値との対応表を用いることができる。
【0044】
図5の(1)の一番上の行は、出力電圧Vddが3.5Vより大きく3.6V以下の場合において、データサイズが10バイト未満であれば、SF値=12を選択することを示す。
図5の(1)の上から2番目の行は、Vddが3.4Vより大きく3.5V以下の場合において、データサイズが10バイト以上、25バイト未満であれば、SF値=11を選択することを示す。
【0045】
図5の(6)の最終行に、SF値「無し」と記載された行がある。これは、出力電圧Vddが3.1V以下のように低い場合、SF値を最小の7にしてもデータ送信の途中に出力電圧Vddが最小電圧Vmin(3.0V)を下回ることを示す。出力電圧Vddが最小電圧Vminを下回るとスイッチ24aがOFF状態に切り替わり、送信モジュール29等への電気の供給が停止するため、データの送信が停止する。この場合、データの送信に適用できるSF値は無いため、SF値の欄は「無し」と記載されている。
【0046】
図6は、バッファ272aに記憶されるデータの一例を示す図である。
【0047】
バッファ272aは、センサ25の検出結果に基づくデータを一時的に記憶する。バッファ272aは、自動ドア6の開閉状態である「開」または「閉」の情報と、直近の開閉状態検出時からの経過時間(秒)とを組にして記憶する。
図6の例は、最も古いデータは順序が「1」のものであり、状態が「開」、直近の閉状態検出からの時間間隔は10秒であることを示す。2番目に古いデータは順序が「2」のものであり、状態が「閉」、順序が「1」のデータの検出からの時間間隔は30秒であることを示す。
【0048】
なお、
図6の表の最も左の列(「順序」「1」…「4」の列)と、最も上の行(「順序」「状態」「時間間隔」の行)は、説明の都合上記載したものであり、バッファ272aに記憶されるものではない。また、バッファ272aに記憶できるデータの最大数は4つに限らず、1つ以上であればよい。
【0049】
図7は、無線端末2の電気供給状態の遷移を示す状態遷移図である。
【0050】
最初に、蓄電素子23は蓄電されていないため、出力電圧Vddは負荷回路の動作可能な最大電圧Vmaxより低い。このとき、無線端末2は電気供給停止状態(S101)にある。蓄電素子23が発電素子21により充電され、出力電圧Vddが最大電圧Vmaxと等しくなるまで増加すると、第1電圧検出回路24はスイッチ24aをON状態に切り替える。スイッチ24aがON状態に切り替わることにより、蓄電素子23に蓄えられた電気が負荷回路に供給され、無線端末2は電気供給状態(S102)となる。
【0051】
電気供給状態(S102)において、負荷回路が電気を使用することにより、蓄電素子23の出力電圧Vddが負荷回路の動作可能な最小電圧Vminまで減少すると、第1電圧検出回路24はスイッチ24aをOFF状態に切り替える。スイッチ24aがOFF状態に切り替わることにより、蓄電素子23に蓄えられた電気は負荷回路に供給されず、無線端末2は電気供給停止状態(S101)となる。このように、蓄電素子23の出力電圧Vddの値の変化によって、無線端末2は、電気供給停止状態(S101)と電気供給状態(S102)のいずれかの状態をとる。
【0052】
図8は、制御部273によるデータ記憶処理の一例を示すフローチャートである。この処理は、無線端末2が電気供給状態(S102)のときに実行され、電気供給停止状態(S101)のときには実行されない。なお、以下に説明する動作は、予め記憶部272に記憶されているプログラムに基づき、主にCPU等を備える制御部273により無線端末2の各要素と協働して実行される。
【0053】
最初に、センサ25は、自動ドア6の閉状態から開状態への、または開状態から閉状態への変化を検出し、変化に対応する電気信号(検出信号)をマイコン27へ出力する。制御部273は、センサ25が出力する電気信号の検出を待機する状態にあり、電気信号を検出すると(S201)、データ生成部274は検出された電気信号に対応するデータを生成する(S202)。次に、データ生成部274は、生成したデータを記憶部272のバッファ272aに記憶する(S203)。次に、制御部273はセンサ25の出力する電気信号の検出を待機する状態に戻る。制御部273は、センサ25が出力した電気信号を検出する度、この処理を実行する。
【0054】
なお、S203においてバッファ272aがデータで一杯の場合、データ生成部274は、最も古いデータを削除して新しいデータをバッファ272aに記憶してもよいし、新しいデータをバッファ272aに記憶せず、削除してもよい。
【0055】
図9は、制御部273によるデータ送信処理の一例を示すフローチャートである。この処理は、無線端末2が電気供給状態(S102)のときに実行され、電気供給停止状態(S101)のときには実行されない。また、この処理は、
図8に示すデータ記憶処理と並行して実行されることが好ましい。なお、以下に説明する動作は、予め記憶部272に記憶されているプログラムに基づき、主にCPU等を備える制御部273により無線端末2の各要素と協働して実行される。
【0056】
最初に、制御部273は、バッファ272aから最も古いデータを1つ読み出す(S301)。バッファ272aにデータが存在しない場合、制御部273はバッファ272aに新たなデータが記憶されるまで待機し、データが記憶された後に読み出す。
【0057】
次に、電圧値算出部275は、第2電圧検出回路26の出力する電気信号(電圧信号)から蓄電素子23の出力電圧Vddを算出する(S302)。次に、SF値選択部276は、
図5に示す対応表を使用して、バッファ272aから読み出したデータのサイズと、電圧値算出部275が算出した出力電圧Vddとに基づいてSF値を選択する(S303)。以後、S303で選択されたSF値をSF1と呼ぶことがある。データのサイズが固定長であり、対応表として出力電圧VddとSF値との対応表が用いられる場合、SF値選択部276は、データのサイズを参照することなく、電圧値算出部275が算出した出力電圧Vddに基づいてSF値を選択することができる。
【0058】
SF値選択部276は、例えば、蓄電素子23の出力電圧Vddが所定電圧未満の場合、出力電圧Vddが所定電圧以上の場合より小さなSF値を選択することができる。これにより、無線端末2は、出力電圧Vddが低いときは小さなSF値を適用して通信し、電気の使用量を減らすことが可能である。また、SF値選択部276は、送信の耐ノイズ性を高めるため、出力電圧がVddの際にそのサイズのデータの送信に適用可能なSF値の中で最も大きなSF値を選択することができる。また、SF値選択部276は、低消費電力を重視し、出力電圧がVddの際にそのサイズのデータの送信に適用可能なSF値の中で最も小さなSF値を選択することができる。
【0059】
次に、SF値選択部276が送信に適用可能なSF値を選択できる場合(S304のY)、制御部273は、選択されたSF値とバッファ272aに記憶されたデータとを送信モジュール29に入力し、送信モジュール29がデータを送信するよう制御する。SF値選択部276が送信に適用可能なSFを選択できる場合とは、
図5の表でSF値の欄が「無し」以外のケースに該当する場合である。
【0060】
次に、送信モジュール29は、入力されたSF値を適用して、入力されたデータをゲートウェイ3へ送信する(S305)。次に、制御部273は、データの送信が成功した後、送信したデータをバッファ272aから削除する(S306)。
【0061】
次に、表示部277は、SF値選択部276が選択したSF1が所定のSF値であるか否かを判定する(S307)。所定のSF値とは、例えば、耐ノイズ性や通信距離の長さを重視する場合は12である。また、所定のSF値は、10〜12のように幅を持った値でもよい。またネットワークサーバ4から指示された値でも良い。
【0062】
SF1が所定のSF値の場合、表示部277は、データの送信状態が正常な旨を表示するよう表示装置28を制御し、表示装置28はその表示を行う(S308)。SF1が所定のSF値ではない場合、表示部277は、データの送信状態が異常な旨を表示するよう表示装置28を制御し、表示装置28はその表示を行う(S309)。例えば、所定のSF値を12に設定し、SF1が11以下のときに表示装置28がデータの送信状態が異常な旨を表示することにより、無線端末2の使用者は、蓄電素子23の蓄電量が足りない、または、データの送信量が想定より多いことを知ることができる。
【0063】
SF値選択部276が送信に適用可能なSF値を選択できない場合(S304のN)、制御部273は、送信モジュール29がデータを送信するよう制御しない。次に、表示部277は、送信不可である旨を表示するよう表示装置28を制御し、表示装置28はその表示を行う(S310)。次に、制御部273は所定時間待機した後に(S311)、S301以下の処理を行う。これにより、送信されなかったデータ(1回前にS301で読み出したデータ)はバッファ272aに記憶されているため、SF値選択部276は、蓄電素子23の出力電圧Vddが増加した後にその状態に応じたSF値を新たに選択できる。送信モジュール29は、新たに選択されたSF値、すなわち最新の出力電圧Vddに応じたSF値を適用して、送信されなかったデータ(バッファ272aが記憶するデータ)を送信できる。
【0064】
なお、S305で送信モジュール29がデータを送信している間にスイッチ24aがON状態からOFF状態に切り替わった場合、蓄電素子23からマイコン27、送信モジュール29等への電気の供給が停止し、送信モジュール29は送信を中断する。これに伴い、ゲートウェイ3はデータの受信に失敗する。これに対応するため、バッファ272aとして不揮発性のメモリを使用し、制御部273は、スイッチ24aが再びON状態に切り替わった後、OFF状態に切り替わった時点で送信していたデータを再送する制御を行ってもよい。
【0065】
具体的には、スイッチ24aが再びON状態に切り替わった後、制御部273は、
図9に示すデータ送信処理をS301から実行する。これにより、データの送信漏れを防ぐことができる。また、S302で新たに算出した出力電圧Vddに基づいてS303でSF値が選択されるため、最新の状況に適したSF値を適用してデータを送信できる。
【0066】
図10は、無線端末2の動作状況の一例を示すグラフである。
【0067】
図10は、太陽電池である発電素子21の発電量に影響する周囲の明るさ、データ送信時のSF値、スイッチ24aの状態、及び、蓄電素子23の出力電圧Vddの関係を示す。
図10の一番上のグラフの横軸は時間、縦軸は蓄電素子23の出力電圧Vddを示す。なお、蓄電素子23の充電に要する時間は数時間〜数日、送信モジュール29によるデータの送信に要する時間は数10ms〜数秒程度であるが、出力電圧Vddの変化の傾向を把握しやすくするため、横軸の縮尺は適宜変更して表記する。以下、このグラフを参照しながら、無線端末2の主な動作について説明する。
【0068】
最初に、時刻t1〜t3のグラフは、無線端末2が動作を開始し、データを送信する際の例を示す。時刻t1までは無線端末2の配置された場所が暗いため、蓄電素子23に電気が蓄えられていない。時刻t1に無線端末2の配置された場所が明るくなったため、発電素子21が発電を開始した。発電された電気が蓄電素子23に蓄えられたことにより、蓄電素子23の出力電圧Vddが増加した。
【0069】
時刻t2に出力電圧VddがVmaxまで増加すると、これを検出した第1電圧検出回路24は、スイッチ24aをOFF状態からON状態に切り替えた。スイッチ24aをON状態に切り替えたことにより、蓄電素子23からセンサ25、マイコン27、送信モジュール29等に電気が供給され、
図8及び
図9に示すフローチャートの動作が開始した。
【0070】
時刻t2にマイコン27等が動作を開始するとほぼ同時に、センサ25が自動ドア6の開閉状態の変化を検出し、データ生成部274は状態の変化に対応するデータを生成し、バッファ272aに記憶した(
図8のS201〜S203)。次に、SF値選択部276は、出力電圧Vddが最大電圧Vmaxであり、データを送信するために十分な電気が蓄電素子23に蓄えられていたため、耐ノイズ性の高いSF値=12を選択した(
図9のS302〜S304のY)。次に、送信モジュール29はSF値=12を適用してデータを送信した(
図9のS305)。送信モジュール29がデータの送信に電気を使用したことにより、時刻t2〜t3にかけて出力電圧Vddが減少した。
【0071】
次に、時刻t3〜t5のグラフは、無線端末2が、出力電圧Vddが最大値Vmaxに達する前に自動ドア6の開閉状態の変化を検出し、データを送信する際の例を示す。時刻t3に送信モジュール29がデータの送信を終了すると、制御部273は、センサ25の検出結果に基づくデータの受信待ち状態となった(
図9のS301)。この状態において、センサ25、マイコン27、送信モジュール29等の回路が使用する電気は、発電素子21から蓄電素子23に供給される電気より少ない。このため、時刻t3〜t4にかけて、蓄電素子23には電気が蓄えられ、出力電圧Vddは増加した。
【0072】
時刻t4に、センサ25が自動ドア6の開閉状態の変化を新たに検出すると、時刻t2〜t3のときと同様に、データ生成部274はセンサ25の検出結果に基づくデータを生成した(
図8のS201〜S203)。出力電圧Vddが最大電圧Vmaxに達していなかったことから、SF値選択部276はSF値として12より小さな8を選択した(
図9のS303)。その結果、送信時間(t4からt5)が前回の送信時間(t2からt3)より短かったことを除き、このデータの送信処理は時刻t2〜t3における処理と同様である。
【0073】
次に、時刻t5〜t7のグラフは、無線端末2が、出力電圧Vddが最大値Vmaxに達した直後に自動ドア6の開閉状態の変化を検出し、データを送信する際の例を示す。時刻t5〜t7の間の処理は、時刻t5における蓄電素子23の出力電圧がVmaxであり、その結果、SF値選択部276がSF値=12を選択したことを除いて、時刻t3〜t4の間の処理と同様である。
【0074】
次に、時刻t7〜t10のグラフは、周囲の明るさの変化によって発電素子21の発生する電気の量が変化する際の例を示す。時刻t7にデータ送信は終了し、無線端末2の配置された場所が明るい状態から薄暗い状態に変化した。この変化により、時刻t8にかけて、センサ25、マイコン27、送信モジュール29等の負荷回路が使用した電気は、発電素子21から蓄電素子23に供給される電気より多く、その結果、出力電圧Vddは減少した。その後、時刻t8に無線端末2の配置された場所が明るい状態に変化したことに伴い、発電素子21の発電量及び蓄電素子23の出力電圧Vddは増加した。
【0075】
次に、時刻t10以降のグラフは、無線端末2によるデータの送信途中に出力電圧Vddが最小値Vminに達した際の例を示す。時刻t11から、送信モジュール29はSF値=10を適用してデータを送信したが、SF値選択部276がSF値を選択した時の想定より多くの電気を使用した。この電気の使用により、時刻t12において、送信モジュール29によるデータの送信途中に出力電圧VddがVminまで低下した。出力電圧Vddの低下を検出した第1電圧検出回路24は、スイッチ24aをON状態からOFF状態に制御した。スイッチ24aをOFF状態に制御したことにより、時刻t12以降、出力電圧VddがVmaxに達するまで、送信モジュール29はデータの送信を停止した。
【0076】
以上詳述したように、
図7の状態遷移図と、
図8及び
図9に示すフローチャートとに従って動作することによって、無線端末2は、蓄電素子23の出力電圧Vddに応じてSF値を選択し、使用可能な電力量に応じて通信の耐ノイズ性を変更することが可能である。
【0077】
<第1変形例>
以下、
図11を用いて、第1変形例について説明する。第1変形例では、SF値と出力電圧とに基づいて送信するデータを決定する。
【0078】
第1実施形態では、無線端末2は1回に1つのデータを送信するが、第1変形例では、無線端末2は、1回に2つ以上のデータを送信することが可能である。第1変形例における無線端末2の構成及び他の処理フローは、
図9のS304のYとS305との間にS401〜S403の処理が実行されることを除き、第1実施形態と同じである。
図9のフローチャートの動作と同じ内容については説明を省略する。
【0079】
最初に、S304のYに該当する場合、データ決定部278は、バッファ272aに次のデータが格納されているか否かを確認する(S401)。バッファ272aに次のデータが格納されていない場合(S401のN)、S305の処理へ進む。
【0080】
バッファ272aに次のデータが格納されている場合(S401のY)、データ決定部278は、S303で選択したSF値であるSF1と、出力電圧Vddとに基づいて送信可能な最大のデータサイズを決定する(S402)。次に、データ決定部278は、S402で決定したデータサイズ以下の範囲で、バッファ272aに格納されているデータの中から、送信するデータをバッファ272aへの格納順に選択し、送信対象として決定する(S403)。S403において、データ決定部278は、最大のデータサイズに収まる範囲で最大の個数のデータを選択してもよいし、最大の個数より少ない個数のデータを選択してもよい。データ決定部278がS403の処理を行った後、S305の処理へ進む。
【0081】
S401〜S403の処理を実行することにより、無線端末2は、1つのデータを送信する際のSF値と同一のSF値を適用して複数のデータを一度に送信できるため、複数のデータを複数回に分けて送信する場合と比べ、フレームヘッダ等のオーバーヘッドを削減できる。これにより、同一サイズのデータを送信する際の時間を短縮することが可能となり、無線端末2の消費電力を削減することが可能となる。
【0082】
なお、第1変形例では、データ決定部278がSF値と出力電圧とに基づいて送信するデータを決定する際に、データがバッファ272aに格納された順に(すなわち、FIFO(First In First Out)となるように)送信するデータを決定した。データの決定方法はこれに限らず、例えば、バッファ272aに複数のデータが格納されている場合、データ決定部278は、1つ以上の所定数おきに格納されたデータを対象として送信するデータを決定してもよい。また、データ決定部278は、データがバッファ272aに格納された順序と逆順に、送信するデータを決定してもよい。制御部273は、これらの規則により送信対象から除外されたデータを、バッファ272aから削除してもよい。
【0083】
また、第1変形例では、データが1つの場合のSF値と同一のSF値を適用して送信できる個数のデータを送信データとした。データの決定方法はこれに限らず、例えば、SF値を小さくすることによりデータレートを増加させ、より多くのデータを送信データとしてもよい。
【0084】
本発明は本実施形態に限定されるものではない。例えば、本実施形態では、無線通信システム1はLoRaWAN規格に準拠し、無線端末2とゲートウェイ3との間の通信の変調方式はLoRa規格に準拠するものとしたが、無線端末2がSF値を変更できる通信方式であれば、他の通信方式を使用してもよい。
【0085】
当業者は、本発明の精神及び範囲から外れることなく、様々な変更、置換及び修正をこれに加えることが可能であることを理解されたい。
【解決手段】本発明に係る無線端末(2)は、発電素子(21)と、発電素子(21)により充電される蓄電素子(23)と、蓄電素子(23)の出力電圧を検出する電圧検出回路(26)と、出力電圧に基づいてSF(拡散率)値を選択するSF値選択部(276)と、物理現象を検出するセンサ(25)と、出力電圧により動作し、且つ、SF値を適用して、センサ(25)の検出結果に基づくデータをスペクトラム拡散方式で送信する送信モジュール(29)と、を有する。