(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
一対のビードコアに跨ってカーカス層を構成するカーカスプライと、前記カーカスプライのタイヤ径方向外方のトレッド部とを備え、前記カーカスプライは、前記トレッド部から前記ビードコアに至る本体プライと、前記ビードコアの周りでそれぞれ折り返された折返しプライとを有するタイヤであって、
前記折返しプライの端部は、タイヤ最大幅位置を超える高さ位置まで延び、
ビード部のビードフィラー高さは、タイヤ断面高さの20〜60%の範囲であり、
タイヤ断面高さの30%の高さ位置において、ビードフィラー幅W2は ビードフィラー根本幅W1の10〜30%の範囲であり、
トレッド幅がタイヤ最大幅の81〜95%の範囲であり、
タイヤ幅方向断面で、タイヤ最大幅位置を通りかつトレッド幅方向に延びる延長線上における前記カーカスプライの曲率半径が30mm以上であり、
前記折返しプライの端部は、前記本体プライと、前記本体プライのタイヤ径方向外側に
配置されたベルト層との間にまで延びている、タイヤ。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、タイヤとして乗用車用の空気入りタイヤを例に挙げ、添付図面を参照しつつ本発明の実施の形態を説明する。以下の説明では、同一または類似の部分には、適宜に、同一又は類似の符号を付してその詳細な説明を省略している。
【0011】
図1は、本発明の一実施形態(以下、本実施形態という)に係る空気入りタイヤの構成を示すタイヤ幅方向断面図である。なお、本明細書でタイヤ幅方向断面とは、トレッド幅方向Wに沿っていて、かつタイヤ周方向に直交する断面である。
【0012】
本実施形態の空気入りタイヤ10は、一対のビードコア12に跨ってカーカス層Kを構成するカーカスプライ14と、カーカスプライ14のタイヤ径方向外側に配置されたベルト層16と、ベルト層16のタイヤ径方向外側に配置されたトレッド部18とを備える。カーカスプライ14は、トレッド部18からビードコア12に至る本体プライ14mと、各ビードコア12の周りで折り返された折返しプライ14eとを有する。折返しプライ14eの端部14uは、タイヤ最大幅位置SWMを超える高さ位置まで延びている。なお、タイヤ最大幅位置SWMの高さはタイヤ断面高さSHの略50%である。
【0013】
ビード部11のビードフィラー高さBFHは、タイヤ断面高さSHの20〜60%の範囲である。しかも、タイヤ断面高さSHの30%の高さ位置SH3におけるビードフィラー幅W2は、ビードフィラー根本幅W1の40%以下の範囲である。従って、ビードフィラー22はいわゆるスリムハイビードフィラーとなっている。なお、本明細書でビードフィラー高さBFHとは、ビードコア12のタイヤ径方向外側に隣接するビードフィラー根本22bからビードフィラー頂点22uまでのタイヤ径方向高さのことである。
【0014】
また、トレッド幅TWがタイヤ最大幅SWの81%以上(好ましくは83%以上)の範囲であり、タイヤ幅方向断面で、タイヤ最大幅位置SWMを通りかつトレッド幅方向Wに延びる延長線FL1上における本体プライ14mの曲率半径Rが30mm以上である。従って、空気入りタイヤ10は、タイヤサイド部24のカーカスプライ14の径が比較的大きいタイヤである。本実施形態では、タイヤ最大幅位置SWMでの本体プライ14mの曲率半径Rは、ショルダー部での曲率半径よりも大きく、クラウン部(トレッド部)での曲率半径よりも小さくされている。
【0015】
また、本実施形態では、トレッド部18のトレッド幅方向長さであるトレッド幅TWがタイヤ最大幅SWの95%以下にされている。ここでトレッド幅TWとは、正規内圧充填、無負荷状態で、タイヤ赤道線CLの両側のトレッド端T同士のトレッド幅方向Wにおける距離である。トレッド端Tは、タイヤ幅方向断面におけるトレッド部18とサイドウォール部26との間のタイヤ外周面の角部20において、当該角部20のトレッド部18側のタイヤ外周面の接線と当該角部20のサイドウォール部26側のタイヤ外周面の接線とが交差する点である。
【0016】
また、タイヤ最大幅SWは、正規内圧充填、無負荷での空気入りタイヤ10の最大幅であり、リムガード、凸文字を含まない、サイド外輪郭線での最大幅である。
【0017】
また、本実施形態では、カーカス層Kは、トレッド幅方向W(タイヤ幅方向)に対して傾斜する複数のコード30によって構成される1枚のカーカスプライ14で形成されている。そして、このコード30とトレッド幅方向Wとの傾斜角度(
図2参照)θは20度以下である。
【0018】
また、折返しプライ14eの端部14uは、本体プライ14mと、本体プライ14mのタイヤ径方向外側に配置されたベルト層16との間にまで延びている。すなわち、ベルト層16の一部が折返しプライの一部に重なっている。
(作用、効果)
【0019】
以下、本実施形態の作用、効果を説明する。本実施形態では、折返しプライ14eの端部14uは、タイヤ最大幅位置SWMを超える高さ位置にまで延びている。また、ビード部11のビードフィラー高さBFHは、タイヤ断面高さSHの20〜60%の範囲であり、しかも、タイヤ断面高さSHの30%の高さ位置SH3におけるビードフィラー幅W2は、ビードフィラー根本幅W1の40%以下の範囲である。そして、トレッド幅TWがタイヤ最大幅SWの81%以上の範囲であり、タイヤ幅方向断面におけるタイヤ最大幅位置SWMでのカーカスプライ14の曲率半径Rが30mm以上である。
【0020】
この構成により、タイヤサイド部24に補強ゴム層や補強コードを配置しなくてもタイヤサイド部の剛性が十分に確保される。従って、十分な操縦安定性が確保されるとともに、タイヤの大幅な軽量化を達成することにより転がり抵抗を大きく低減化させることができる。
【0021】
この効果は、特に、タイヤ幅方向断面において細く長く延びているビードフィラー22によって剛性の補強がなされていることが大きく寄与している。本実施形態では、ビードフィラー22の厚みはタイヤ径方向外方に行くに従い漸減しており、上端側(タイヤ径方向外端側)では薄い板状部になっていると見ることができる。この構造は、従来の三角形のビードフィラーとゴムスキージとを組み合わせて製造することができる。ゴム種としては、従来のビードフィラーと同じ硬いゴムを用いる(なお、サイドゴムなどの周辺に隣接するゴムよりは硬い)。
【0022】
また、ビードフィラー高さBFHがタイヤ断面高さSHの20〜60%の範囲にされている。20%よりも低いと十分な操縦安定性を得ることができず、60%よりも高いと転がり抵抗(以下、適宜、RRという)が高くなり過ぎる。
【0023】
また、タイヤ断面高さSHの30%の位置におけるビードフィラー幅W2は、ビードフィラー根本幅W1の40%以下の範囲であり、この位置におけるビードフィラー幅W2が十分に細いことでRR低減に大きく寄与している。
【0024】
この位置でビードフィラー幅W2がビードフィラー根本幅W1の40%よりも太いと、重量増などの理由によりRR性(転がり抵抗の低減性)が悪化する。また、ビードフィラー22付近ではあまり変形し難いので変形領域が局所的となって発熱量が大きくなりRRの性能低下の原因となる。また、タイヤサイド部24で本体プライ14mの曲率半径Rを30mm以上にし難い。
【0025】
また、トレッド幅TWが、タイヤ最大幅SWの81%以上であるので、耐摩耗性能を確保することができる。タイヤ最大幅SWに対するトレッド幅TWの比率が81%未満であると、トレッド部5の耐摩耗性能が悪化するおそれがある。
【0026】
また、高速旋回時等で横力が掛かる場合には、特にサイドウォール部26に歪による変形が生じる。このとき、タイヤ最大幅位置SWMを通りかつトレッド幅方向Wに延びる延長線FL1上におけるカーカスプライ14の曲率半径(以下、適宜、サイド曲率半径という)Rが30mm以上であることにより、当該変形をサイドウォール部26全体で受けることができるので、サイドウォール部26の局所的な変形を抑制し、転がり抵抗の悪化や操縦安定性の低下を抑制できる。サイド曲率半径Rが30mm未満であると、カーカス層Kを構成するコードの張力の高めることができず、サイドウォール部26において局所的な変形が発生するおそれがある。このような局所的な変形がサイドウォール部26に生じると、当該変形部分に歪みが集中し、転がり抵抗の悪化や操縦安定性の低下を招く懸念がある。
【0027】
そして、本実施形態では、トレッド幅TWがタイヤ最大幅SWの95%以下である。トレッド幅TWがこれよりも大きいと、ショルダー角部に変形が集中、すなわち、ショルダー角部に歪が集中し易くなり、発熱量が大きくなることで、転がり抵抗が低下するおそれが考えられる。本実施形態のように、トレッド幅TWがタイヤ最大幅SWの81〜95%の範囲となっていることにより、タイヤサイド部24で本体プライ14mの曲率半径Rを30mm以上という大きな値にし易い。
【0028】
また、カーカス層Kは、トレッド幅方向Wに対して傾斜する複数のコード30によって構成される1枚のカーカスプライ14で形成されており、このコード30とトレッド幅方向Wとの傾斜角度θは、20度以下である。これにより、カーカスプライ14の剛性が上がり、操縦安定性が更に向上する。
【0029】
また、折返しプライ14eの端部14uは、本体プライ14mと、本体プライ14mのタイヤ径方向外側に配置されたベルト層との間にまで延びた、いわゆるエンベロープ構造となっている。このように、折返しプライ14eの端部14uをベルト層6に重ねて配置することで、サイドウォール部26及びカーカス層Kの剛性を高め、操縦安定性を更に向上させることができる。
【0030】
なお、タイヤ幅方向断面におけるタイヤ最大幅位置SWMでのカーカスプライ14の曲率半径Rが60mm以下であることにより、曲率半径Rが大きすぎてショルダー角部に歪が集中して発熱量が多くなって転がり抵抗が悪化するという懸念が十分になくなる。曲率半径Rが50mm以下であると、この懸念は全くなくなる。
【0031】
また、ビードフィラー高さBFHは、タイヤ最大幅位置SWMを超える高さであることが、旋回時の剛性向上という観点で好ましい。ただし転がり抵抗への影響を考慮すると、タイヤ断面高さSHの40%を超える位置のビードフィラー幅は、ビードフィラー根本幅W1の10%以下であることが好ましい。また、最低限の剛性確保という観点で、タイヤ断面高さSHの20%の高さ位置でのビードフィラー幅は、ビードフィラー根本幅W1の80%以上であることが好ましい。
【0032】
また、タイヤ断面高さSHの30%の位置において、ビードフィラー幅W2は ビードフィラー根本幅W1の10〜30%の範囲であることが更に好ましい。10%以上とすることで操縦安定性を確保することができ、30%以下とすることで転がり抵抗を十分に低減させることができる。
【0033】
また、ビードフィラー高さBFHがタイヤ断面高さSHの40〜60%の範囲であると、高い操縦安定性能を発揮することができ、且つ、転がり抵抗との背反が少ない為、最もバランスの良い性能を確保することができる。
【0034】
また、本体プライ14mの曲率半径Rが30mm以上となっている部位が、タイヤ最大幅位置SWMからタイヤ断面高さSHの±5%の部位、より好ましくは±10%の領域にまで広がっていると、更に十分な操縦安定性を確保することができる。
【0035】
また、本実施形態では、コード30とトレッド幅方向Wとの傾斜角度θ(
図2参照)が20度以下である例で説明したが、本発明ではコード30とトレッド幅方向Wとのなす角度を20度以下に限定するものではなく、空気入りラジアルタイヤのようにコード30とトレッド幅方向Wとのなす角度が90度であってもよい。
【0036】
また、トレッドパターンが複数の周方向溝(主溝)を備え、周方向溝のうちの最外側溝であるショルダー周方向溝(ショルダー主溝)のトレッド幅方向外側に位置するショルダー陸部においてトレッドパターンがラグ溝(横溝)を更に備え、このラグ溝はショルダー主溝に開口せず、接地端を超えてトレッド幅方向外側に延びている構成にしてもよい。ここで、接地端とは、空気入りタイヤを正規リムに組み付け、正規内圧を充填し、正規荷重を負荷したときのタイヤ幅方向最外側の接地部分を指す。「正規リム」とは、タイヤのサイズに応じて下記の規格に規定された標準リムをいい、「正規内圧」とは、下記の規格に記載されている、適用サイズにおける単輪の最大負荷能力に対応する空気圧をいい、「正規荷重」とは、下記の規格の適用サイズにおける単輪の最大荷重(最大負荷能力)をいうものとする。そして規格とは、タイヤが生産または使用される地域に有効な産業規格であって、たとえば、日本では「日本自動車タイヤ協会」の“JATMA YEAR BOOK”であり、アメリカ合衆国では“THE TIRE AND RIM ASSOCIATION INC.”の“YEAR BOOK”であり、欧州では、“The European Tyre and Rim Technical Organisation”の“STANDARD MANUAL”である。
【0037】
特に、トレッド幅TWが広くなると、タイヤの中央と端部側とでは、より径差が大きくなる傾向にあることから、トレッド幅TW方向の外側端に近い領域では、すべりによるショルダー摩耗が生じやすい。そこで、ショルダー陸部にラグ溝を配置することでタイヤ剛性を低下させて接地長をかせぐとともに、ラグ溝を周方向溝には開口しない構成にすることで、タイヤ端部付近での径差が極端に小さくなることを抑制し、偏摩耗を防ぐことができる。更に、ショルダー周方向溝間の中央領域にラグ溝を形成しない構成にするので、よりタイヤの端部付近での径差が極端に小さくなることを抑制し、偏摩耗を防ぐことができる。
【0038】
なお、ラグ溝幅が1mm以下であるサイプでは上記の影響が小さいため、中央領域の陸部に形成することができる。
【0039】
以上、いくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲はそれらに限定することは意図していない。これらの実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これらの実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【0040】
[実験例]
本発明者は、上記実施形態の空気入りタイヤ10として実施例1〜21を、比較用の空気入りタイヤとして比較例1〜6を、従来の空気入りタイヤの一例として従来例1を、それぞれ用いて、走行時での操縦安定性、転がり抵抗(RR)性の評価を行った。各タイヤのタイヤ条件、および、評価結果を
図3に示す。タイヤサイズは225/45R17とした。リム幅は8Jである。
【0041】
操縦安定性に関しては、車両(BMW325i)に装着して試験走行し、テストドライバーによるフィーリングで評価した。転がり抵抗性に関しては、各タイヤをリムに組み付けて内圧を240kPaにし、転がり抵抗試験ドラムに装着し、正規荷重、所定の試験速度(80km/h)で転がり抵抗の値を測定することで、転がり抵抗性を評価した。これらの評価では、従来例1のタイヤでの評価値を100とし、他のタイヤでは従来例1に対する相対的な評価値を求めた。操縦安定性、転がり抵抗性とも、評価値が大きいほど性能が良いことを示す。そして、操縦安定性および転がり抵抗性の合計値を総合評価とした。
図3からわかるように、実施例1〜21では、何れも、従来例1に比べ、総合評価の値が良かった。
【0042】
なお、比較例1では、補強コードが配置されていないので軽量化されているが、タイヤ最大幅位置でのカーカスの曲率半径(サイド曲率半径)が小さいので、タイヤサイド部の変形による発熱が大となりRR性はさほど向上しなかったと考えられる。
【0043】
比較例2では、ビードフィラーのタイヤ径方向長さが短くなったが、ビード近傍の剛性低下によりタイヤサイド部の変形が大きくなるのでRRの性能はさほど向上しなかったと考えられる。
【0044】
実施例7からは、サイド曲率半径Rが大きすぎると他のタイヤ部位(例えばショルダー部)に変形が集中する可能性が考えられる。
【0045】
比較例4では、トレッド幅TWが狭いとサイド曲率半径Rが大きくてもショルダー部付近の変形が大きくなるので、発熱量が多くなり、RR性は総合的には低くなったと考えられる。
【0046】
実施例17からは、ショルダー角部が直角形状に近づくと、この直角形状部での変形が局所的になって発熱量が大きくなる可能性が考えられる。