(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記微細気泡分散液が、アガロース、ペクチン、カラギーナン、キサンタンガム、タマリンドガム、ジェランガム、グァーガム、アラビアガム、ゼラチン、にかわ、カルボキシメチルセルロース、プロピレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドンから選ばれる1種、または2種以上の増粘剤を、0.01〜10wt%有することを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の中空金属粒子の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下に、本発明を詳細に説明する。
本発明は、微細気泡分散液中で、金属微粒子を微細気泡の表面に吸着させる工程、前記金属微粒子を凝集させて外殻を形成する工程、を有することを特徴とする中空金属粒子の製造方法に関する。
【0009】
・微細気泡
本発明において、微細気泡とは、直径約0.1μm〜1000μmの気泡のことを意味する。微細気泡の中で、直径約0.1μm〜1μmの気泡をウルトラファインバブル、直径約1μm〜100μmの気泡をマイクロバブル、直径約100μm〜1000μmの気泡をサブミリバブルという。また、ウルトラファインバブルとマイクロファインバブルとを合わせた、直径約0.1μm〜100μmの気泡はファインバブルと総称される。(ISO/TC281参照)
ここで、本発明において、ウルトラファインバブル、及びマイクロバブルの直径は、微細気泡分散液をレーザー回折式粒度分布計(株式会社島津製作所製、商品名:SALD7100)により測定した数平均径を意味し、サブミリバブルの直径は、写真撮影法で測定した数平均径を意味する。
【0010】
水中には、水分子が電離したH
+とOH
−とが存在している。OH
−の水和エネルギーは、H
+の水和エネルギーよりも小さいため、微細気泡界面にOH
−が集まり、微細気泡は水中で負に帯電する。負に帯電した微細気泡同士は反発しあうため、微細気泡が合一して大きな泡となることはなく、微細気泡は水中で極めて安定している。
【0011】
また、微細気泡は、上昇速度が極めて小さいという特徴を有する。微細気泡の上昇速度(ν)は下記式1に示す、Stokesの式で推定できる。
式1: ν=Δρgd
B2/18μ
L
ここで、Δρは液と気泡内ガスとの密度差、gは重力加速度、d
Bは微細気泡の直径、μ
Lは液粘度を示す。
【0012】
上記式1から導かれるように、微細気泡の上昇速度は直径の2乗に比例するので、直径1mmの気泡と比べると、直径100μmの気泡の上昇速度は100分の1、直径10μmの気泡の上昇速度は10000分の1となる。
【0013】
本発明において、微細気泡を形成する気体の種類は特に限定されない。例えば、窒素、酸素、水素、ヘリウム、二酸化炭素など汎用されている気体を使用することができる。この気体は混合して用いることもでき、混合物である空気を使用することもできる。また、ホルムアルデヒド、二酸化硫黄、水素、一酸化炭素等の還元能を有する気体を含ませることもできる。
【0014】
・微細気泡発生装置
本発明において、微細気泡分散液の作成に使用する微細気泡発生装置の種類は特に限定されない。例えば、加圧溶解式、旋回液流式、スタティックミキサー式、エゼクター式、ベンチュリ式、極微細孔式、超音波付加中空針状ノズル式、蒸気凝縮式などの任意の微細気泡発生装置を用いることができる。
液中に上記微細気泡発生装置により微細気泡を発生させることにより、微細気泡分散液が得られる。上記したように、微細気泡は液中で極めて安定しているため、微細気泡分散液は、撹拌、加熱、混合等の通常の実験操作を施すことができる。
【0015】
なお、加圧溶解式、極微細孔式、超音波付加中空針状ノズル式、蒸気凝縮式などの微細気泡発生装置では、液回分式操作で微細気泡分散液を作製できる。
【0016】
(金属)
本発明の一次粒子である金属微粒子の製造方法は特に限定されず、熱プラズマ法、CVD法等の気相法、固相合成法、乾式粉砕法、湿式粉砕法等の固相法、還元法、噴霧法等の液相法を使用することができる。これらの中で、還元法と湿式粉砕法とが、金属微粒子の分散液が得られ、そのまま中空金属粒子の製造に用いることができるため好ましい。金属の種類は限定されず、具体的には周期表の第3族から第11族に含まれる遷移金属であれば特に制限することなく使用することができる。また、純金属だけでなく、酸化物、硫化物、炭化物、窒化物、塩化物、フッ化物等も用いることができる。
還元法により、金属イオンを金属微粒子に還元、析出させるならば、銀、銅、金が、析出した金属微粒子が凝集しやすいため好ましい。ここで、本発明において還元される金属イオンは単原子イオンに限定されず、錯イオン、多原子イオンでもよい。
なお、金属微粒子の数平均粒子径は、金属微粒子分散液をレーザー回折式粒度分布計(株式会社島津製作所製、商品名:SALD7100)により測定した値を意味する。
【0017】
(還元剤)
還元法における、金属イオンの還元反応に使用する還元剤は、特に限定することなく使用することができる。例えば、グリオキサール、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、二酸化硫黄、水素、一酸化炭素、アスコルビン酸、グルコン酸、グルコース、蟻酸、酒石酸、ハイドロキノン、ヒドラジン、亜硫酸ナトリウム、水素化ホウ素ナトリウム等が挙げられる。これらの中で、還元させる金属種や、還元反応の速度に応じて、適切な還元剤を選択すればよい。還元剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を用いることもできる。2種以上の還元剤は、反応開始時に液中に含有させておいてもよく、先の還元剤での反応が終了した後に、異なる還元剤を添加してもよい。
【0018】
例えば、ジアンミン銀(I)イオン([Ag(NH
3)
2]
+)から銀を析出させるのであれば、グルコース、ホルムアルデヒド等が好適に用いられる。テトラアンミン銅(II)イオン([Cu(NH
3)
4]
2+)から銅を析出させるのであればアスコルビン酸等、テトラヨード金(III)イオン([AuI
4]
−)や、テトラクロロ金(III)イオン([AuCl
4]
−)から金を析出させるのであればアスコルビン酸、シュウ酸等が好適に用いられる。
【0019】
還元反応は、金属イオン溶液と還元剤溶液とを別々に調製し、これらを混合して反応液として開始することが一般的であり、本発明においても、上記手法を採用することができる。さらに、本発明は、還元剤を含有する気体からなる微細気泡を発生させ、この微細気泡から液中に溶解した還元剤により還元反応を進行させることもできる。微細気泡に含有させられる還元剤としては、気体であるホルムアルデヒド、二酸化硫黄、水素、一酸化炭素などを挙げることができる。また、還元剤は、液中、微細気泡中の両方に含ませてもよい。
【0020】
(中空金属粒子の形成)
本発明の中空金属粒子の製造方法を
図1に示す。
微細気泡1が液中に分散している微細気泡分散液中に、一次粒子である金属微粒子2が存在すると、金属微粒子は濡れ性が悪いため微細気泡表面に吸着する。そして微細気泡表面で金属微粒子が凝集して外殻を形成することにより、中空金属粒子3が形成される。金属微粒子の数平均粒子径は1nm〜200nmが凝集しやすく外殻を形成しやすいため、好ましい。
なお、
図1において、中空金属粒子はその断面が示されており、実際に製造される中空金属粒子は閉殻の球である。
【0021】
金属微粒子を還元法により製造するならば、微細気泡は、混合前の金属イオン溶液、混合前の還元剤溶液、または、混合後の反応液のいずれに分散させても良い。微細気泡を分散させる方法としては、上記液中に微細気泡を直接発生させてもよく、微細気泡分散液と混合してもよい。
金属微粒子を湿式粉砕法により製造するならば、粉砕後に得られる金属微粒子分散液中に微細気泡を直接発生させてもよく、微細気泡分散液と混合してもよい。
また、粉末状の金属微粒子であれば、予め金属微粒子分散液を調製し、この分散液中に微細気泡を直接発生させるか、微細気泡分散液と混合すればよい。
【0022】
なお、金属微粒子は、微細気泡表面だけでなく、液槽等の容器と微細気泡分散液との固液界面、微細気泡分散液の液面である気液界面にも集まり凝集する。固液界面での金属微粒子の凝集を防ぐために、容器、または容器内壁面は、疎水性の材料、例えば、ステンレス、アクリル、フッ素樹脂等から形成、または被覆されていることが好ましい。
【0023】
中空金属粒子を製造するためには、微細気泡表面全体に金属微粒子が吸着して、この金属微粒子が強固に凝集して外殻を形成しなければならない。中空金属粒子の形成中に、未完成の中空金属粒子である外殻片が微細気泡表面から離脱しないために、微細気泡が液中で激しく動くことは好ましくない。したがって、金属微粒子を吸着、凝集させる際に、微細気泡分散液の撹拌は行わない。
【0024】
上記したように、本発明において、還元剤を含有する気体からなる微細気泡を発生させることもできる。還元剤を含有する気体からなる微細気泡を利用した本発明の中空金属粒子の製造方法を
図2に示す。
微細気泡1を形成する気体が還元剤を含有すると、微細気泡から液中に溶解した還元剤により還元反応が進行する。そのため、還元反応は微細気泡近傍のみで進行し、一次粒子である金属微粒子2は微細気泡近傍で析出する。析出した金属微粒子が、微細気泡表面で凝集して外殻を形成することにより、中空金属粒子3が形成される。
【0025】
微細気泡が還元剤を含有する製造方法では、金属微粒子は微細気泡に近い位置で析出するため、析出した金属微粒子はすぐ近くの微細気泡表面に吸着しやすい。容器との固液界面や、液面である気液界面よりも、微細気泡表面に金属微粒子が多く集まるため、中空金属粒子を効率的に製造することができる。
【0026】
本発明では、微細気泡表面上で金属微粒子を凝集させることで中空金属粒子が製造されるので、製造される中空金属粒子の粒径は、微細気泡の直径に依存する。
微細気泡の直径が大きいと、微細気泡の表面全体を覆うのに必要な金属微粒子の量が多くなるため、金属微粒子が凝集して中空金属粒子を形成するのに必要な時間が長くなる。しかし、直径の大きな微細気泡は上昇速度が速く、液面に浮かび上がり気泡が弾けるまでの時間(以下、液中滞留時間という。)が短いため、金属微粒子の吸着が十分に行われない。さらに上昇速度が速いと液との摩擦によって吸着した金属微粒子が剥離しやすいため、中空金属粒子が形成されにくい。そのため、直径が大きな微細気泡表面で金属微粒子を凝集させ、大きな粒径の中空金属粒子を製造するには、液中滞留時間を長くすること、上昇速度を遅くすることが必要である。液中滞留時間を長くするには、液高を高くする、微細気泡の上昇速度を遅くするという方法が挙げられるが、液高を高くすると、製造設備が大規模になる、必要な液量が増える、という問題がありコストが増加してしまう。そのため、中空金属微粒子の生成に最も効果的なのは微細気泡の上昇速度を遅くして液中滞留時間を長くすることである。
【0027】
・降伏応力
上昇速度を遅くするには微細気泡分散液として、降伏応力を持つ塑性流体を使用すればよい。流体は、降伏応力を持つ塑性流体と、降伏応力を持たない粘性流体とに分類される。ずり速度により粘度が変わらない流体が粘性流体であり、水や低分子溶媒等が該当する。ずり速度により粘度が変わるものが非ニュートン流体であり、そのうち、特定の力(降伏応力)以上の力を加えないと流動しないものを塑性流体という。塑性流体とするための手法は特に制限されないが、増粘剤を添加する方法が、降伏応力の調整が容易であるため好ましい。増粘剤としては塑性流体が得られるものであれば特に制限することなく使用することができ、例えば、アガロース、ペクチン、カラギーナン、キサンタンガム、タマリンドガム、ジェランガム、グァーガム、アラビアガム、ゼラチン、にかわ、カルボキシメチルセルロース、プロピレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドンなどを挙げることができる。増粘剤の配合量は、特に制限されないが、通常、0.01〜10wt%である。
ここで、本発明の降伏応力は、2重円筒型回転式粘度計(デジタル粘度計(LV DV−III Ultra,BROOKFIELD)を用いて測定した、液体がHerchel−Bulkleyモデルに基づくと仮定した時の数値である。
【0028】
降伏応力を示す塑性流体中において、微細気泡の運動を阻止する力F
Dは、下記式2で表される。
式2: F
D=τ0×π(d/2)
2
ここで、τ0は液の降伏応力[N/m
2]、dは微細気泡の直径[m]を示す。
【0029】
また、微細気泡に加わる浮力F
Uは、下記式3で表される。
式3: F
U=VΔρg
ここで、Vは微細気泡の体積[m
3]、Δρは液と微細気泡との密度差[kg/m
3]、gは重力加速度[m/s
2]を示す。
【0030】
降伏応力を示す液中の微細気泡には、運動を阻止する力が加わる。浮上する微細気泡に対して、この力が浮上を妨げるように加わるため、微細気泡が浮上する速度が遅くなり液中滞留時間が長くなる。直径の大きな微細気泡の液中滞留時間が長くなると、その表面で金属微粒子が吸着、凝集して外殻を形成することができるため、粒径の大きな中空金属粒子を製造することができる。
【0031】
ここで、F
D≧F
Uとなる直径の微細気泡は、降伏応力由来の運動を阻止する力が浮力よりも大きいため浮上できない。F
D=F
Uとなる直径(以下、限界直径という。)d0は、上記式2、3より導くことができ、下記式4で表される。
式4: d0=(3τ0)/(2Δρg)
【0032】
上記式4より、限界直径は液の降伏応力により定まるため、微細気泡の浮遊状態を、微細気泡に作用する降伏応力に基づいて制御することができる。例えば、密度1000kg/m
3、降伏応力τ0が0.327N/m
2である液中における微細気泡の限界直径d0は約50μmと算出される。この液中では、直径が約50μm未満の微細気泡は浮上することができず、直径が約50μmより大きな微細気泡のみが浮上できる。
【0033】
この液中で、直径約0.1μm〜1000μmの微細気泡を用いて中空金属粒子の製造を行うと、限界直径以下の微細気泡(例えば、直径約0.1μm〜50μm)は、浮上することができず、いわば液中滞留時間が無限であるため、その表面上で中空金属粒子が完成する。製造された粒径の小さな中空金属粒子は降伏応力により運動できないため、液中で浮上も沈殿もせずに漂い続ける。
十分な液中滞留時間を有する微細気泡(例えば、直径約50〜100μm)は、その表面に金属微粒子が吸着、凝集して外殻を形成して中空金属粒子が製造される。この中空金属粒子は、降伏応力よりも浮力が大きいため浮上することができ、また、内部に微細気泡を包含しており低密度であるため、液面に浮かび上がる。
上昇速度が速い微細気泡(例えば、直径約100〜1000μm)は、その表面で金属微粒子が吸着、凝集して中空金属粒子が完成する前に液面に浮上して弾けてしまうため、中空金属粒子ではなく外殻片が製造される。この外殻片は、微細気泡とともに液面に浮上する。
すなわち、本発明の製造方法によると、微細気泡の浮遊状態を降伏応力に基づいて制御することができ、限界直径よりも小さい直径の微細気泡からは液中に漂った状態の中空金属粒子を、限界直径よりも大きい直径の微細気泡からは液面に浮かび上がった状態の中空金属粒子を得ることができる。
なお、上記した微細気泡の直径は単なる一例であり、実際には液高や、反応速度等により、得られる中空金属粒子の粒径は異なる。
【0034】
上記したように、本発明の製造方法では、液の降伏応力を制御することにより、限界直径より略大きな粒径の中空金属粒子を選択的に液面に浮上させ、限界直径より略小さな粒径の中空金属粒子を選択的に液中に漂わせることができるため、特定の粒度分布を有する中空金属粒子を選り分けることができる。
液の降伏応力は、液面に浮上させる中空金属粒子の粒径に応じて、0.05〜1.0N/m
2の範囲で適宜調整することができる。降伏応力は、増粘剤の種類、濃度、液温等により調製することができる。
また、中空金属粒子の外殻の厚さは、微細気泡表面に凝集する金属微粒子量に依存するため、液中滞留時間が長くなるほど外殻は厚くなる。すなわち、外殻の厚さは、降伏応力と微細気泡が発生する深さにより制御することができる。
【0035】
降伏応力を示す液中で中空金属粒子を製造した後の様子を
図3に示す。
上記したように、製造終了後の液面には、限界直径よりも略大きな粒径の中空金属粒子3と、未完成の中空金属粒子である外殻片4が浮かんでいる。また、気液界面で凝集した板状の金属片5も浮かんでいる。すなわち、製造終了後に液面に浮かんでいる金属には、中空金属粒子3と外殻片4と板状の金属片5とが含まれている。限界直径よりも略小さな粒径の中空金属粒子6は浮上も沈殿もすることができないため、液中に漂っている。
【0036】
液面に浮かんでいる金属を回収して、洗浄した後のモデルを
図4に示す。
中空金属粒子3は、閉殻であり粒子内部の中空部に水が侵入しないため低密度である。一方、外殻片4と板状の金属片5は、バルク金属であり密度が大きい。そのため、製造終了後には液面に浮かび上がっているが、本来は水に沈殿する。液面上に浮かんでいる金属を洗浄すると、外殻片4と板状の金属片5は沈殿するが、中空金属粒子3は浮かんだままなので、中空金属粒子を容易に選り分けることができる。
【0037】
粒径の小さな中空金属粒子6は、増粘剤の濃度を低くする、液の温度を高める等により、液の降伏応力を小さくする、または、液をニュートン流体とすると、液面に浮上するため、容易に回収することができる。また、この中空金属粒子6は、降伏応力を示す液中で極めて安定して存在しているため、中空金属粒子の分散液のまま用いることもできる。なお、液中に分散している中空金属粒子6は、ろ過、遠心分離によっても回収できるが、潰れてしまうものがあるため、液面に浮上させてから回収することが好ましい。
【0038】
上記したように、本発明の製造方法によると、限界直径よりも略大きな粒径の中空金属粒子は液面に浮かび上がる。そのため、中空金属粒子の製造に用いる液槽の上部に切欠き部等を形成し、水、原料、微細気泡等を供給しながら前記切欠き部等からの微細気泡分散液の上層を回収することで、中空金属粒子を連続的に製造することができる。連続生産する際には、微細気泡の液中滞留時間を長くするために、微細気泡は反応槽下部で発生させる、または、微細気泡分散液を反応槽下部から供給することが好ましい。微細気泡を発生させる、または、微細気泡分散液を供給する反応槽下部は、反応槽底面から液高の3分の1までが好ましく、5分の1までがより好ましく、反応槽底面が最も好ましい。
また、水を反応槽下部から供給しながら連続生産を行うと、液中に漂う限界直径よりも略小さな粒径の中空金属粒子も新たに供給される水に押し出されるように液の上層に移動するため、上層とともに回収することができる。
【0039】
・中空金属粒子
上記製造方法により、金属を外殻とし、粒径が0.1〜1000μmである中空金属粒子を製造することができる。なお、本発明において、中空金属粒子の粒径は、3Dリアルサーフィスビュー顕微鏡(株式会社キーエンス製、装置名:VE−8800)で観察した画像を画像解析ソフト(日鐵住金テクノロジー株式会社、ソフト名:粒子解析III)で解析した200〜400個の粒子の数平均粒子径を意味する。
本発明の製造方法により製造される中空金属粒子は、液中で微細気泡を包み込みながら形成されるため、閉殻であるという従来の中空金属粒子とは一見して区別できる外観を有している。これに対し、従来の製造方法では、芯物質を除去する際に、外殻に開口部が生じてしまうため、閉殻の中空金属粒子は得られない。
さらに、本発明の中空金属粒子は、真球である微細気泡表面で凝集して外殻を形成するため、真球状で、その内面が非常に平滑である。本発明の中空金属粒子は閉殻で、真球状であり、強度、流動性に優れているため、樹脂等と混合したり、分散液をポンプで循環させたりしても、潰れにくい。
【実施例】
【0040】
次に、本発明を実施例に基づいて、さらに具体的に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【実施例1】
【0041】
・銀鏡反応による銀析出を利用した中空金属粒子の製造
硝酸銀の0.3mol/L水溶液5.0mlに、2.0mol/Lのアンモニア水を徐々に加えると、茶褐色の酸化銀(I)の沈殿が生じた。さらにアンモニア水を加えると、ジアンミン銀(I)イオン([Ag(NH
3)
2]
+)を形成して酸化銀(I)の沈殿が消失した。アンモニア水は、合計で2.2ml加えた。この液に、pH調整剤として1.0mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液を0.4ml、増粘剤としてキサンタンガム(SIGMA−ALDRICH株式会社製、商品名:Xanthan gum、製品番号:G1253−500G、Batch#:014K0210)の0.6wt%水溶液を0.6ml加え、銀鏡反応溶液とした。
【0042】
銀鏡反応の還元剤であるグルコースの5vol%水溶液中に、加圧溶解式のマイクロバブル発生装置(株式会社オーラテック製、商品名:OM4−MDG−045)を用いて、空気を気泡とする微細気泡を発生させて、微細気泡分散液とした。この分散液中の微細気泡の直径は10〜40μmの範囲であり、数平均径は22.9μmであった。
【0043】
上記銀鏡反応溶液8.2mlと上記微細気泡分散液16mlとを混合した反応液を、試験管に液高3cmとなるように入れ、55℃の温浴中で10分間静置した。反応液中のキサンタンガムの濃度は0.015wt%であり、この反応液の20℃における降伏応力は0.123N/m
2であった。
【0044】
銀鏡反応の化学式は、以下のとおりであり、ジアンミン銀(I)イオンが鎖状構造のグルコース末端のアルデヒド基により還元され、金属銀が析出する。
C
6H
12O
6+2[Ag(NH
3)
2]
++2OH
−
→C
6H
12O
7+2Ag+4NH
3+H
2O
【0045】
加熱後に表面に浮かんでいる銀を網ですくい取り、純水で洗浄した。洗浄後も浮かんでいる銀を網ですくい取り、シャーレ上で乾燥させた。得られた銀をエポキシ樹脂中に包埋し、走査型電子顕微鏡で観察したところ、粒径10〜20μmの中空銀粒子が得られたことが確認できた。得られた中空銀粒子の数平均粒子径は14.80μmであった。
【0046】
図5に中空銀粒子の走査型電子顕微鏡画像、
図6に中空銀粒子の外殻を拡大した走査型電子顕微鏡画像を示す。走査型電子顕微鏡による観察により、本発明の中空銀粒子が閉殻で、略真球状であること、一次粒子である金属微粒子が凝集して外殻が形成されていることが確認できた。
また、洗浄後に沈殿した銀に含まれる未完成の中空金属粒子である外殻片を回収して、同様の手法で走査型顕微鏡により観察した。
図7に外殻片の走査型電子顕微鏡画像、
図8に外殻片の内面を拡大した走査型電子顕微鏡画像を示す。
図6、8より、本発明の中空銀粒子の内面が外面に比べて滑らかであることが確認できた。
【実施例2】
【0047】
銀鏡反応溶液と微細気泡分散液とを混合した反応液を、試験管にそれぞれ液高1.40cm、5.00cm、8.70cmとなるように入れた以外は、上記実施例1と同様にして中空銀粒子を製造した。
液高3.00cmである実施例1と合わせて、得られた中空銀粒子の数平均粒子径を表1に示す。
【0048】
【表1】
【0049】
液高が高くなるにつれ、製造される中空銀粒子の数平均粒子径が大きくなることが確認できた。これは、液高が高くなると、上昇速度の早い、直径の大きな微細気泡でも液中滞留時間が長くなるため、直径の大きな微細気泡表面上でも中空銀粒子が完成したためである。
【実施例3】
【0050】
銀鏡反応溶液を調製する際に加えるキサンタンガム水溶液の濃度を、それぞれ0.4wt%、1.8wt%、3.4wt%とした以外は、実施例1と同様にして中空銀粒子を作成した。反応液中のキサンタンガムの濃度はそれぞれ、0.010wt%、0.045wt%、0.085wt%であり、それぞれの反応液の20℃における降伏応力は0.0906N/m
2、0.247N/m
2、0.434N/m
2であった。
【0051】
反応液でのキサンタンガム濃度が0.015wt%である実施例1と合わせて、得られた中空銀粒子の数平均粒子径を表2に示す。
【0052】
【表2】
【0053】
キサンタンガム濃度が0.010wt%では、中空銀粒子が得られなかった。これは、液の降伏応力が小さく、微細気泡の液中滞留時間が短かったため、中空銀粒子が完成しなかったためである。キサンタンガム濃度が0.010wt%、微細気泡の直径が10〜40μmの条件下では、液高3.00cmでは中空銀粒子が完成しなかったが、反応液の液高を高くして、液中滞留時間を長くすれば中空銀粒子が得られると予想される。
キサンタンガム濃度が高く、降伏応力が大きくなるにつれ、製造される中空銀粒子の数平均粒子径が大きくなることが確認できた。これは、降伏応力が大きくなると、限界直径が大きくなり、この限界直径より略大きな粒径の中空金属粒子が選択的に液面に浮かび上がったためである。なお、本実施例において、降伏応力の測定は20℃、中空銀粒子の製造は55℃で行っているため、上記式4に降伏応力の実測値を代入して算出される限界直径の値と、得られた中空銀粒子の粒子径とは一致していない。
【実施例4】
【0054】
・銅鏡反応による銅析出を利用した中空金属粒子の製造
硝酸銅の0.3mol/L水溶液5.0mlに、3.0mol/Lのアンモニア水を2.2ml加えて硝酸銅を溶解し、テトラアンミン銅(II)イオン([Cu(NH
3)
4]
2+)溶液とした。この液に、pH調整剤として1.0mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液を0.4ml、増粘剤としてキサンタンガム(SIGMA−ALDRICH株式会社製、商品名:Xanthan gum 製品番号:G1253−500G Batch#:014K0210)の0.6wt%水溶液を6.0ml加え、銅鏡反応溶液とした。
【0055】
銅鏡反応の還元剤であるアスコルビン酸の5vol%水溶液中に、加圧溶解式のマイクロバブル発生装置(株式会社オーラテック製、商品名:OM4−MDG−045)を用いて、空気を気泡とする微細気泡を発生させて、微細気泡分散液とした。この分散液中の微細気泡の直径は90〜300μmの範囲であり、数平均径は100μmであった。
【0056】
上記銅鏡反応溶液13.6mlと上記微細気泡分散液16mlとを混合した反応液を、試験管に液高3cmとなるように入れ、55℃の温浴中で10分間静置した。反応液中のキサンタンガムの濃度は0.265wt%であった。
【0057】
銅鏡反応の化学式は、以下のとおりであり、テトラアンミン銅(II)イオンがアスコルビン酸により還元され、金属銅が析出する。
[Cu(NH
3)
4]
2++アスコルビン酸+2OH
−
→デヒドロアスコルビン酸+Cu+4NH
3+2H
2O
【0058】
加熱後に表面に浮かんでいる銅を網ですくい取り、純水で洗浄した。洗浄後も浮かんでいる銅を網ですくい取り、シャーレ上で乾燥させた。得られた銅をエポキシ樹脂中に包埋し、走査型電子顕微鏡で観察したところ、90〜300μmの中空銅粒子が得られたことが確認できた。得られた中空銅粒子の数平均粒子径は100μmであった。キサンタンガムの濃度が高く、降伏応力が大きいため、粒径の大きな中空銅粒子が得られた。
図9に中空銅粒子の走査型電子顕微鏡画像を、
図10にその拡大図を示す。走査型電子顕微鏡による観察により、本発明の中空銅粒子が閉殻であることが確認できた。
【実施例5】
【0059】
・金鏡反応による金析出を利用した中空金属粒子の製造
蒸留水7.6mlに、ヨウ化カリウム0.6g及びヨウ素0.1gを投入して攪拌溶解させた。この溶液に金を0.1g投入して撹拌溶解させてテトラヨード金(III)イオン([AuI
4]
−)溶液とした。さらに、増粘剤としてキサンタンガム(SIGMA−ALDRICH株式会社製、商品名:Xanthan gum 製品番号:G1253−500G Batch#:014K0210)の0.6wt%水溶液を4.0ml加え、金鏡反応溶液とした。
【0060】
金鏡反応の還元剤であるアスコルビン酸の5vol%水溶液中に、加圧溶解式のマイクロバブル発生装置(株式会社オーラテック製、商品名:OM4−MDG−045)を用いて、空気を気泡とする微細気泡を発生させて、微細気泡分散液とした。この分散液中の気泡の直径は50〜200μmの範囲であり、数平均径は70μmであった。
【0061】
上記金鏡反応溶液11.6mlと上記ファインバブル分散液16mlとを混合した反応液を、試験管に液高3.00cmとなるように入れ、55℃の温浴中で10分間静置して、中空金粒子を製造した。反応液中のキサンタンガムの濃度は0.207wt%であった。
【0062】
金鏡反応の化学式は、以下のとおりであり、テトラヨード金(III)酸イオンがアスコルビン酸により還元され、金属金が析出する。
[AuI
4]
−+2アスコルビン酸
→2デヒドロアスコルビン酸+Au+4HI
【0063】
加熱後に表面に浮かんでいる金を網ですくい取り、純水で洗浄した。洗浄後も浮かんでいる金を網ですくい取り、シャーレ上で乾燥させた。得られた金をエポキシ樹脂中に包埋し、観察した走査型電子顕微鏡画像を
図11に示す。走査型電子顕微鏡から、60〜130μmの中空金粒子が得られたことが確認できた。得られた中空金粒子の数平均粒子径は70.0μmであった。キサンタンガムの濃度が高く、降伏応力が大きいため、粒径の大きな中空金粒子が得られた。
【実施例6】
【0064】
・還元剤である水素からなる微細気泡を用いた中空金属粒子の製造
硝酸銀の0.9mol/L水溶液50.0mlに、6.0mol/Lのアンモニア水を徐々に加えると、茶褐色の酸化銀(I)の沈殿が生じた。さらにアンモニア水を加えると、ジアンミン銀(I)イオン([Ag(NH
3)
2]
+)を形成して酸化銀(I)の沈殿が消失した。アンモニア水は、合計で25.0ml加えた。この液に、pH調整剤として1.5mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液を4.0ml、増粘剤としてキサンタンガム(SIGMA−ALDRICH株式会社製、商品名:Xanthan gum、製品番号:G1253−500G、Batch#:014K0210)の0.6wt%水溶液を10.0ml加え、反応液とした。この反応液89.0mlを、耐圧容器(ポリエチレンテレフタレート製、容量500ml)に入れた。反応液中のキサンタンガムの濃度は0.067wt%であり、この反応液の20℃における降伏応力は0.33N/m
2であった。
【0065】
反応液を含む耐圧容器を水素ガスボンベに接続し、0.3MPaまで加圧して弁を閉じた。耐圧容器をガスボンベから外して、1分間振とうして水素を溶解させた後、予め70℃の恒温槽内に放置して調温しておいた反応容器に向けて弁を開放して反応液を勢い良く放出し、回分式の加圧溶解法により水素からなる微細気泡を発生させ、微細気泡分散液とした。この微細気泡分散液中の微細気泡の直径は18〜83μmの範囲であり、数平均径は29.9μmであった。回分式加圧溶解法であったため、微細気泡の径にバラツキが大きかった。水素は燃焼・爆発しやすいため回分式加圧溶解法を用いたが、防爆仕様の適切な装置を用いれば、他の微細気泡発生方法を使用することができる。
【0066】
微細気泡分散液を、そのまま70℃に設定した恒温槽内に10分間静置して、微細気泡中の水素を還元剤として銀鏡反応を進行させた。なお、銀鏡反応は加熱しないと進行しないため、恒温槽内でしか銀鏡反応は進行していない。
【0067】
銀鏡反応の化学式は、以下のとおりであり、ジアンミン銀(I)イオンが水素により還元され、金属銀が析出する。
H
2+2[Ag(NH
3)
2]
++2OH
−
→2Ag+4NH
3+2H
2O
【0068】
反応終了後、反応容器を恒温槽から取り出したところ、実施例1の方法と比較して反応容器の壁面に付着している銀の量が明らかに少なかった。これは、実施例6の製造方法では、微細気泡から溶解した水素のみが還元剤として働くため、銀鏡反応が微細気泡のごく近傍のみで起こり、析出した金属微粒子は微細気泡に素早く吸着し、反応容器の壁面に吸着した銀が少なかったためである。
【0069】
反応液の表面に浮かんでいる銀を網ですくい取り、純水で洗浄し、洗浄後も浮かんでいる銀を網ですくい取り、シャーレ上で乾燥させた。得られた銀をエポキシ樹脂中に包埋し、観察した走査型電子顕微鏡画像を
図12に示す。走査型電子顕微鏡画像から、粒径18.4〜37.7μmの中空銀粒子が得られたことが確認できた。得られた中空銀粒子の数平均粒子径は28.4μmであった。また、得られた中空銀粒子の表面は、実施例1で得られた中空銀粒子と比較して滑らかであった。これは、実施例6で析出した金属微粒子は微細気泡に素早く吸着されるため、一次粒子が成長する時間が短かったためである。