【実施例】
【0022】
本発明に係る引出しおよびキャビネットの実施例を
図1〜8を参照して説明する。本発明の実施例の引出し1は、
図1(a)、(b)に示すように、キャビネット2から引出しと収納が可能に設けられている。本発明の引出し1は、連結部材3によって互いに連結させて引出すことが可能な主引出し6と内引出し7を有する。
【0023】
主引出し6は、
図1(a)および
図2(a)に示すように、前壁部10、後壁部11、左右の両側壁部12および底壁部13を有する。そして、主引出し6は、
図3(a)に示すように、その後壁部11の後面16に、連結部材3の構成要素である主引出し連結部17がビス18で固定されている。本実施例では、主引出し連結部17は、後で詳記するマグネット21で吸着される金属板22である。
【0024】
内引出し7は、
図1(a)および
図2(b)に示すように、前壁部24、後壁部25、左右の両側壁部26および底壁部27を有する。そして、内引出し7は、
図3(a)および
図4(a)に示すように、その下面30に台座28がビス19(
図4(a)参照)で固定されている。
【0025】
本実施例ではこの台座28を介して、内引出し7の底壁部27の下面30に連結部材3の構成要素である内引出し連結部31が取り付けられている。内引出し連結部31は、
図3(a)、(b)および
図4に(a)、(b)示すように、台座28の下面35を摺動するスライド体29を備え、樹脂で形成されている。
【0026】
スライド体29は、その本体にマグネット21を埋設(モールドまたはカバー)して備えており、左右に張り出したフランジ34には、上下方向に貫通し前後方向に長軸を有する左右の長穴36が互いに平行に形成されている。この左右の長穴36を通して左右のビス32が台座28の下面に螺着されている。
【0027】
ビス32は、長穴36内をその長手方向に相対的に移動可能なように、その直径は長穴36の幅(正確には長穴36の横幅)より小さく形成されている(
図4(a)、(b)参照)。また、スライド体29の上面の四隅には、台座28の下面35に対してスライド可能な半球状の突起37が形成されている。
【0028】
この突起37は、スライド体29の台座28の下面35に対するすべり性を良くする効果があるが、必須の構成ではなく、スライド体29と台座28の下面35自体の表面が平滑であれば、それ自体でスライドが可能である。
【0029】
このような構成であるから、スライド体29は、左右のビス32が左右の長穴36にガイドされて前後方向(引出し方向)に案内され、しかも四隅の突起37が台座28の下面35をスライドして、前後方向に移動可能である。
【0030】
このため、スライド体29に埋設されたマグネット21は、スライド体29と一体で金属板22に向かって磁力によって、または金属板22で押されて、反引出し方向(収納方向)に移動する。その移動可能範囲は、ビス32が長穴36で移動できる前後方向の範囲内である。
【0031】
このように、マグネット21と、内引出し連結部31のスライド体29に形成され、かつ前後方向に沿った長軸を有する長穴36と、長穴36内に可動に挿通され、スライド体29を引出し方向にスライド可能に台座28の下面35に取り付けるビス32と、により構成され、マグネット21を埋設したスライド体29を、内引出し7の下面30に対して移動可能にする機構を、本発明では位置調整機構という。
【0032】
なお、本実施例では、上記のとおり内引出し7の下面30に台座28がビス19で固定され、この台座28を介して、内引出し7の底壁部27の下面30に内引出し連結部31が取り付けられている。しかし、図示はしないが、内引出し7の下面30に台座28を固定することなく、内引出し7の底壁部27の下面30にビス32を固定し、内引出し連結部31のスライド体29を、直接、底壁部27の下面30にスライド可能に取り付ける構成としてもよい。
【0033】
図1(a)は、主引出し6および内引出し7が、それぞれキャビネット2内に収まって閉じられており、それぞれの最奥収納位置にある状態を示す。この状態では、
図3(a)に示すように、主引出し連結部17である金属板22は、内引出し連結部31のマグネット21の前面に当接し互いに吸着されている。
【0034】
ビス32が、スライド体29の長穴36の前後方向の中心にある(
図3(a)、
図4(b)参照)ように、スライド体29をビス32で台座28の下面35に取り付けられる構成が望ましく、主引出し6、主引出し連結部17、内引出し7および内引出し連結部31の寸法、位置関係が設計される。
【0035】
なお、本実施例では、主引出し連結部17を金属板22とし、内引出し連結部31をマグネット21を埋設し位置調整機構を有するスライド体29を備えた構成としたが、これとは逆に、
図5に変形例に示すように、主引出し連結部17として、マグネット21を埋設し位置調整機構を有するスライド体29を備え、内引出し連結部31を金属板22としてもよい。この変形例では、主引出し6の後壁部11の上面に、台座28を介して位置調整機構を備えたスライド体29を設ける構成とすればよい。
【0036】
(作用)
以上の構成から成る実施例の引出し1およびキャビネット2の作用について説明する。本発明の引出し1およびキャビネット2の特徴は、主引出し6および内引出し7の製造または組立時の作業において、寸法、組立てが設計値どおりとならず、主引出し6および内引出し7のそれぞれの寸法およびキャビネットの組立ての際に位置ずれが生じても、引出し1の動作に従来の引出しのような問題が生じることなくスムースに動作させることが可能となる点である。
【0037】
位置ずれがない場合:
図1(a)、
図3(a)は、主引出し6および内引出し7が、それぞれキャビネット2内に収納され、引出し1が完全に閉じられた状態を示す。この状態は、主引出し6および内引出し7の製造または組立が設計値通り理想的に行われ、位置ずれがなく、主引出し6および内引出し7が閉じられた状態で、主引出連結部17である金属板22と内引出し連結部31のマグネット21が丁度、当接した状態にある。
【0038】
この状態から、
図1(b)に示すように主引出し6を前方に引いて開けると、金属板22とマグネット21は、互いに吸着された状態で前方に移動し、スライド体29の長穴36の後端にビス32が当接し、ビス32が固定された台座28を介して内引出し7も主引出し6に連動して前方に移動する。
【0039】
位置ずれがある場合1:
しかしながら、通常は、主引出し6および内引出し7の製造または組立において位置ずれが生じ易い。例えば、
図6(a)、(b)は、主引出し6および内引出し7が、それぞれ後壁部11、25の後面が、最奥収納位置X1、Y1までキャビネット2内に収納されて完全に閉じられた状態を示す。
【0040】
このように主引出し6および内引出し7が閉じた状態で、例えば、主引出し6の前後方向の長さが設計値より短い等の位置ずれがあると、主キャビネット2の金属板22が内引出し7のマグネット21まで到達せず、
図6(b)に示すように、両者の間に間隔d1が生じてしまう。
【0041】
このように位置ずれがある場合でも、内引出し連結部31のスライド体29に埋設されたマグネット21の磁力によって、主キャビネット2の金属板22に向けてスライド体29と一体でマグネット21が前方に移動し、
図6(c)に示すように、主キャビネット2の金属板22と内引出し7のマグネット21は、互いに吸着する。
【0042】
従って、
図7(a)、(b)に示すように、主引出し6を前方に引き出すと、金属板22、マグネット21、スライド体29、ビス32および台座28を介して、内引出し7も前方に引き出される。このような引出しの過程では、
図7(b)に示すように、ビス32はスライド体29の長孔36の後面38に当接して前方に押され、内引出し7が前方に引き出されることとなる。
【0043】
図示はしないが、主引出し6および内引出し7が共に開いた状態から、主引出し6を後方に押して閉じると、主引出し6の金属板22が内引出し7のマグネット21およびスライド体29を押して、ビス32および台座28を介して内引出し7を後方に押すので、主引出し6および内引出し7が共に後方に移動してキャビネット2内に収納されて閉じる。
【0044】
なお、主引出し6および内引出し7が共に開いた状態から、主引出し6から離して内引出し7のみを後方に押して閉じる過程では、ビス32はスライド体29の長孔36の後面38に当接し、スライド体29を後方に押しながら移動し、その最奥収納位置Y1まで移動する。その後、主引出し6を後方に押して閉じて、主引出し6を最奥収納位置X1まで移動すると、
図7(c)の状態となる。
【0045】
この
図7(c)に示す状態では、マグネット21が
図6(b)の状態に比べると、主引出し6の金属板22に対して右側に寄っており、間隔d2がより開いている(間隔d2>間隔d1)が、このような場合でも、マグネット21の磁力により、マグネット21が主引出し6の金属板22の方向に移動して、
図6(c)に示すような吸着状態となるので、主引出し6を前方に引くことによって、主引出し6と内引出し7を連動して共に開くことができる。
【0046】
位置ずれがある場合2
図6(a)、(b)は、主引出し6の前後方向の長さが設計値より短い等の位置ずれがあるために、主引出し6を閉じた際に主引出し6の金属板22がマグネット21まで到達しない場合であるが、逆に、
図8(a)に想像線で示すように、主引出し6の前後方向の長さが設計値より長い等の位置ずれがあるために、主引出し6を完全に閉じた際に、主引出し6の金属板22がマグネット21の前端より後方の位置X1’まで移動する場合がある。
【0047】
図8(a)に示すような場合は、仮にマグネット21が従来のキャビネット50(
図9参照)のように内引出し7に移動不能に固定されていると、主引出し6の金属板22がマグネット21に当接して停止し、想像線X1’の位置まで移動させることはできない。従って、主引出し6をキャビネット2内に完全に収納することができず、前方に僅かに開いた状態となってしまう。
【0048】
しかしながら、本発明の引出し1は、スライド体29およびマグネット21が内引出し7に対して長孔36の範囲内で前後方向に可動であるために、
図8(b)に示すように、主引出し6の金属板22がマグネット21に当接してからスライド体29をその長孔36の範囲内で後方に押し込んで移動させることができる。そのために、主引出し6は、
図8(b)に示すように、
図8(a)の想像線で示す最奥位置X1’の位置まで移動可能となり、主引出し6も完全に閉じることが可能となる。
【0049】
以上、本発明に係る引出しおよびキャビネットを実施するための形態を実施例に基づいて説明したが、本発明はこのような実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された技術的事項の範囲内でいろいろな実施例があることは言うまでもない。