(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6434260
(24)【登録日】2018年11月16日
(45)【発行日】2018年12月5日
(54)【発明の名称】測定装置、ひずみ測定方法、PC鋼より線、及び光ファイバ部材
(51)【国際特許分類】
G01B 11/16 20060101AFI20181126BHJP
G02B 6/44 20060101ALI20181126BHJP
G02B 6/02 20060101ALI20181126BHJP
G01D 5/353 20060101ALI20181126BHJP
【FI】
G01B11/16 Z
G02B6/44 366
G02B6/44 396
G02B6/02 A
G01D5/353 B
【請求項の数】12
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2014-185462(P2014-185462)
(22)【出願日】2014年9月11日
(65)【公開番号】特開2016-57231(P2016-57231A)
(43)【公開日】2016年4月21日
【審査請求日】2017年2月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】390021119
【氏名又は名称】ヒエン電工株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】302061613
【氏名又は名称】住友電工スチールワイヤー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100122781
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 寛
(72)【発明者】
【氏名】山野辺 慎一
(72)【発明者】
【氏名】今井 道男
(72)【発明者】
【氏名】曽我部 直樹
(72)【発明者】
【氏名】千桐 一芳
(72)【発明者】
【氏名】小林 俊之
(72)【発明者】
【氏名】山田 眞人
(72)【発明者】
【氏名】松原 喜之
(72)【発明者】
【氏名】及川 雅司
【審査官】
梶田 真也
(56)【参考文献】
【文献】
特開2000−046527(JP,A)
【文献】
特開平06−234327(JP,A)
【文献】
特開2006−250647(JP,A)
【文献】
特開2012−112690(JP,A)
【文献】
米国特許第7154081(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 11/00 − 11/30
G01B 21/20 − 21/32
G01D 5/26 − 5/38
G02B 6/00 − 6/10
G02B 6/245 − 6/25
G02B 6/44 − 6/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のPC鋼線が集合してなるPC鋼線群に設置され光ファイバを有する長尺の光ファイバ部材を備え、前記光ファイバからの光信号に基づいて前記PC鋼線群に関連する所定の測定対象量を測定する測定装置であって、
前記光ファイバ部材は、
前記PC鋼線群の表面で、互いに隣接する前記PC鋼線同士の間に形成される谷間に挿入され、当該隣接するPC鋼線に沿って延在するように設置されると共に、当該隣接するPC鋼線のうちの1本にのみ接着されており、
前記PC鋼線群の長手方向に直交する断面内において、前記隣接するPC鋼線のうちの1本に接着される第1の輪郭線と、前記隣接するPC鋼線のうちの他の1本の表面に沿って延びる第2の輪郭線と、を有することを特徴とする測定装置。
【請求項2】
前記光ファイバ部材は、
光ファイバ素線と当該光ファイバ素線を覆う被覆とを含む前記光ファイバと、
前記光ファイバを包囲する樹脂製のフィラーと、を有することを特徴とする請求項1に記載の測定装置。
【請求項3】
前記光ファイバ部材は、
前記PC鋼線群の長手方向に直交する断面内において、
前記隣接するPC鋼線のそれぞれの表面と、前記隣接するPC鋼線の共通の接線と、で囲まれた領域内に収容されることを特徴とする請求項1又は2に記載の測定装置。
【請求項4】
前記光ファイバ部材は、
前記PC鋼線群の中心軸線に対して互いに対称に位置する第1の光ファイバ部材及び第2の光ファイバ部材として対で配置されていることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の測定装置。
【請求項5】
前記PC鋼線群が、前記複数のPC鋼線がより合わされてなるPC鋼より線であることを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の測定装置。
【請求項6】
前記光ファイバ部材の前記光ファイバに光信号を発信する光信号発信部と、
前記光ファイバからの光信号を受信する光信号受信部と、
前記光信号受信部で受信された前記光信号を解析し前記PC鋼線群のひずみを前記測定対象量として取得するひずみ解析部と、を更に備えたことを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載の測定装置。
【請求項7】
請求項1〜6の何れか1項に記載の測定装置を用いて、前記PC鋼線群のひずみ状態を測定する装置測定工程を備えたことを特徴とするひずみ測定方法。
【請求項8】
前記PC鋼線群の架設後、前記装置測定工程の前に、前記隣接するPC鋼線同士の間において当該隣接するPC鋼線に沿って延在するように前記光ファイバ部材を設置し、当該隣接するPC鋼線のうちの1本にのみ前記光ファイバ部材を接着する光ファイバ部材設置工程を更に備えることを特徴とする請求項7に記載のひずみ測定方法。
【請求項9】
前記光ファイバ部材は、前記PC鋼線群の中心軸線に対して互いに対称に位置する第1の光ファイバ部材及び第2の光ファイバ部材として対で配置されており、
前記PC鋼線群の一端側において前記第1及び第2の光ファイバ部材の光ファイバ同士が接続され、
前記PC鋼線群の他端側において、前記第1及び第2の光ファイバ部材の光ファイバが当該光ファイバに光信号を発信する光信号発信部と、当該光ファイバからの光信号を受信する光信号受信部と、にそれぞれ接続されることを特徴とする請求項7又は8に記載のひずみ測定方法。
【請求項10】
より合わされた複数のPC鋼線を有するPC鋼線群と、
光ファイバ素線と当該光ファイバ素線を覆う被覆とを含む光ファイバと、前記光ファイバを包囲する樹脂製のフィラーと、を有する光ファイバ部材と、を備え、
前記光ファイバ部材は、
前記PC鋼線同士の間において当該隣接するPC鋼線に沿って延在するように設置され、
前記PC鋼線群の長手方向に直交する断面内において、前記隣接するPC鋼線のそれぞれの表面と、前記隣接するPC鋼線の共通の接線と、で囲まれた領域内に収容されており、
前記隣接するPC鋼線のうちの1本にのみ接着されていることを特徴とするPC鋼より線。
【請求項11】
前記光ファイバ部材は、
前記PC鋼線群の中心軸線に対して互いに対称に位置する第1の光ファイバ部材及び第2の光ファイバ部材として対で配置されていることを特徴とする請求項10に記載のPC鋼より線。
【請求項12】
PC鋼線群の互いに隣接する前記PC鋼線同士の間において当該隣接するPC鋼線に沿って延在するように設置されるための光ファイバ部材であって、
光ファイバ素線と当該光ファイバ素線を覆う被覆とを含む光ファイバと、前記光ファイバを包囲する樹脂製のフィラーと、を有し、
前記PC鋼線群の長手方向に直交する断面内において、前記隣接するPC鋼線のうちの1本に接着される第1の輪郭線と、前記隣接するPC鋼線の他の1本の表面に沿って延びる第2の輪郭線と、を有し、
前記PC鋼線群の長手方向に直交する断面内において、前記隣接するPC鋼線のそれぞれの表面と、前記隣接するPC鋼線の共通の接線と、で囲まれた領域内に収容され、
前記フィラーのうち、前記第1の輪郭線を含む部位は、前記PC鋼線に対する接着性を有する材料で形成され、前記第2の輪郭線を含む部位は、前記PC鋼線に対する接着性を有しない材料で形成されることを特徴とする光ファイバ部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定装置、ひずみ測定方法、PC鋼より線、及び光ファイバ部材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、このような分野の技術として、下記特許文献1の
図2に示されたPC鋼より線が知られている。このPC鋼より線は複数のPC鋼線で構成されるPC鋼線群であり、PC鋼線同士の間の谷間には、光ファイバが接着剤で貼付けられている。そして、光ファイバの端部から入出力される光信号を分析し光ファイバのひずみを測定することで、PC鋼より線のひずみ状態を測定可能とするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−46527号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、この種のPC鋼線群は、曲げられた状態で使用される場合もある。また、PC鋼線群は、例えば直径2m程度のリールに巻き取られた状態で製造・運搬されるのが通常であり、また施工中にも曲げられる機会はあり得る。PC鋼線群が曲げられた場合、PC鋼線群の内側と外側との曲率半径の差によって、PC鋼線群を構成するPC鋼線同士が互いに長手方向に滑ることになる。
【0005】
ここで、PC鋼線同士の間の谷間に設置された光ファイバは、隣接する2本のPC鋼線の表面に接着されている。従って、この2本のPC鋼線同士が長手方向に滑ると、光ファイバの接着層は、2本のPC鋼線同士の位置ずれに追従できずにPC鋼線から剥離する可能性がある。このとき接着層は、必ずしも2本のPC鋼線のうちの一方から剥離するといったものではなく、接着層のある部位は一方のPC鋼線から剥離し、他の部位は他方のPC鋼線から剥離するといった事象が発生する。このように、接着層の各部位が不規則にPC鋼線から剥離することにより、この不規則な剥離状態に起因する複雑なひずみが光ファイバに生じる。そうすると、光ファイバの状態は、PC鋼線群に係る測定対象量を正確に反映するものではなくなり、測定の精度が低下してしまう。
【0006】
この課題に鑑み、本発明は、PC鋼線群に関する測定対象量の測定精度を向上する測定装置、ひずみ測定方法、PC鋼より線、及び光ファイバ部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の測定装置は、複数のPC鋼線が集合してなるPC鋼線群に設置され光ファイバを有する長尺の光ファイバ部材を備え、光ファイバからの光信号に基づいてPC鋼線群に関連する所定の測定対象量を測定する測定装置であって、光ファイバ部材は、互いに隣接するPC鋼線同士の間において当該隣接するPC鋼線に沿って延在するように設置されると共に、当該隣接するPC鋼線のうちの1本にのみ接着されていることを特徴とする。
【0008】
この測定装置では、光ファイバ部材は、隣接するPC鋼線のうちの1本にのみ接着されている。PC鋼線同士が長手方向にずれたとき、光ファイバ部材は接着された1本のPC鋼線のみに追従するので、接着部分の不規則な剥離状態は発生し難い。その結果、光ファイバ部材には接着部分の不規則な剥離状態に起因する複雑なひずみが生じにくく、PC鋼線群の測定対象量の測定の精度が向上する。
【0009】
また、具体的な構成として、光ファイバ部材は、光ファイバ素線と当該光ファイバ素線を覆う被覆とを含む光ファイバと、光ファイバを包囲する樹脂製のフィラーと、を有することとしてもよい。
【0010】
また、具体的な構成として、光ファイバ部材は、PC鋼線群の長手方向に直交する断面内において、隣接するPC鋼線のそれぞれの表面と、隣接するPC鋼線の共通の接線と、で囲まれた領域内に収容されることとしてもよい。
【0011】
また、光ファイバ部材は、PC鋼線群の長手方向に直交する断面内において、隣接するPC鋼線のうちの1本に接着される第1の輪郭線と、隣接するPC鋼線のうちの他の1本の表面に沿って延びる第2の輪郭線と、を有することとしてもよい。この構成によれば、光ファイバ部材が、隣接するPC鋼線同士の間に安定して設置される。
【0012】
また、光ファイバ部材は、PC鋼線群の中心軸線に対して互いに対称に位置する第1の光ファイバ部材及び第2の光ファイバ部材として対で配置されていることとしてもよい。この構成によれば、PC鋼線群の中心軸線に対して互いに対称な位置における測定対象量を取得することができる。
【0013】
また、具体的には、PC鋼線群が、複数のPC鋼線がより合わされてなるPC鋼より線であることとしてもよい。
【0014】
また、本発明の測定装置は、光ファイバ部材の光ファイバに光信号を発信する光信号発信部と、光ファイバからの光信号を受信する光信号受信部と、光信号受信部で受信された光信号を解析しPC鋼線群のひずみを測定対象量として取得するひずみ解析部と、を更に備えてもよい。
【0015】
本発明のひずみ測定方法は、上記の何れかの測定装置を用いて、PC鋼線群のひずみ状態を測定する装置測定工程を備えたことを特徴とする。上記何れかの測定装置を用いることにより、PC鋼線群の測定対象量の測定の精度が向上する。
【0016】
また、本発明のひずみ測定方法は、PC鋼線群の架設後、装置測定工程の前に、隣接するPC鋼線同士の間において当該隣接するPC鋼線に沿って延在するように光ファイバ部材を設置し、当該隣接するPC鋼線のうちの1本にのみ光ファイバ部材を接着する光ファイバ部材設置工程を更に備えてもよい。
【0017】
また、本発明のひずみ測定方法では、光ファイバ部材は、PC鋼線群の中心軸線に対して互いに対称に位置する第1の光ファイバ部材及び第2の光ファイバ部材として対で配置されており、PC鋼線群の一端側において第1及び第2の光ファイバ部材の光ファイバ同士が接続され、PC鋼線群の他端側において、第1及び第2の光ファイバ部材の光ファイバが当該光ファイバに光信号を発信する光信号発信部と、当該光ファイバからの光信号を受信する光信号受信部と、にそれぞれ接続されることとしてもよい。
【0018】
本発明のPC鋼より線は、より合わされた複数のPC鋼線を有するPC鋼線群と、光ファイバ素線と当該光ファイバ素線を覆う被覆とを含む光ファイバと、光ファイバを包囲する樹脂製のフィラーと、を有する光ファイバ部材と、を備え、光ファイバ部材は、PC鋼線同士の間において当該隣接するPC鋼線に沿って延在するように設置され、PC鋼線群の長手方向に直交する断面内において、隣接するPC鋼線のそれぞれの表面と、隣接するPC鋼線の共通の接線と、で囲まれた領域内に収容されていることを特徴とする。
【0019】
また、光ファイバ部材は、隣接するPC鋼線のうちの1本にのみ接着されていることとしてもよい。また、光ファイバ部材は、PC鋼線群の中心軸線に対して互いに対称に位置する第1の光ファイバ部材及び第2の光ファイバ部材として対で配置されていることとしてもよい。
【0020】
本発明の光ファイバ部材は、PC鋼線群の互いに隣接するPC鋼線同士の間において当該隣接するPC鋼線に沿って延在するように設置されるための光ファイバ部材であって、光ファイバ素線と当該光ファイバ素線を覆う被覆とを含む光ファイバと、光ファイバを包囲する樹脂製のフィラーと、を有し、PC鋼線群の長手方向に直交する断面内において、隣接するPC鋼線のうちの1本に接着される第1の輪郭線と、隣接するPC鋼線の他の1本の表面に沿って延びる第2の輪郭線と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、PC鋼線群に関する測定対象量の測定精度を向上する測定装置、ひずみ測定方法、PC鋼より線、及び光ファイバ部材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の実施形態に係るPC鋼より線の斜視図である。
【
図2】PC鋼より線の長手方向に直交する断面を取った断面図である。
【
図3】PC鋼より線に用いられる光ファイバ部材の斜視図である。
【
図4】PC鋼より線の要部を拡大して示す断面図である。
【
図5】PC鋼より線の変形例の要部を拡大して示す断面図である。
【
図6】PC鋼より線の他の変形例の要部を拡大して示す断面図である。
【
図7】(a)は光ファイバ部材の変形例を示す斜視図であり、(b)はそれを用いたPC鋼より線の要部を拡大して示す断面図である。
【
図8】(a),(b)はそれぞれ、PC鋼より線の更に他の変形例の要部を拡大して示す断面図である。
【
図9】(a),(b)は、ひずみ測定装置の例を示すブロック図である。
【
図10】PC鋼より線の変形例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照しつつ本発明に係る測定装置、ひずみ測定方法、PC鋼より線、及び光ファイバ部材の実施形態について詳細に説明する。
【0024】
図1は、本実施形態に係るPC鋼より線1の斜視図であり、
図2はその長手方向に直交する断面を取った断面図である。
図3は、PC鋼より線1に用いられる光ファイバ部材9の斜視図であり、
図4は、PC鋼より線1の光ファイバ部材9が取り付けられた部分を拡大して示す断面図である。図に示されるように、PC鋼より線1は、同一径の複数本(本実施形態では7本)のPC鋼線3がより合されて構成されるより線部(PC鋼線群)5と、より線部5の表面に取り付けられた光ファイバ部材9とを備えている。PC鋼より線1の伸縮等によってひずみが発生した場合、表面に取り付けられた光ファイバ部材9の光ファイバ25もPC鋼より線1の変形に対応してひずむ。従って、光ファイバ25へ入出力する光信号を分析することにより光ファイバ25のひずみを測定し、間接的にPC鋼より線1のひずみを測定することができる。
【0025】
光ファイバ部材9は、中央に埋め込まれた直径約0.9mmの光ファイバ25を有している。光ファイバ25は、直径約0.2mmの光ファイバ素線21と、当該光ファイバ素線21を覆う被覆23とを有している。被覆23は、例えばポリアミド系材料からなる。更に光ファイバ部材9は、光ファイバ25を包囲する樹脂製のフィラー27を有している。このような光ファイバ部材9は、フィラー27を押出し成型で製造する際に、フィラー27内に光ファイバ25を配置する方法で製造することができる。また、スリットを有するフィラー27を押出し成型で製造した後、スリットから光ファイバ25を挿入し接着剤で固定してもよい。フィラー27の材料の樹脂としては、例えば、ポリエチレン樹脂等を採用することができる。
【0026】
より線部5の表面では、互いに隣接する2本のPC鋼線3同士の間に谷間11が形成されている。光ファイバ部材9は谷間11に挿入され、2本のPC鋼線3に挟まれた状態で、当該PC鋼線3に沿って螺旋状に延在している。以下、光ファイバ部材9を挟む2本のPC鋼線3を特に区別する必要がある場合には、それぞれをPC鋼線3a,3bと称する。また、光ファイバ部材9の側面のうちPC鋼線3aに対面する側面を第1側面14aと称し、PC鋼線3bに対面する側面を第2側面14bと称する。
【0027】
図3及び
図4に示されるとおり、長尺をなす光ファイバ部材9は略三角形の断面をなし、略三角形断面の谷間11に挿入し易いようになっている。厳密には、光ファイバ部材9の断面は凹状の円弧をなす輪郭線を少なくとも2つ有している。すなわち、光ファイバ部材9の断面は、一方のPC鋼線3aの表面3sに沿ってほぼ同じ曲率で延びる第1円弧輪郭線13aと、他方のPC鋼線3bの表面3tに沿ってほぼ同じ曲率で延びる第2円弧輪郭線13bとを有している。第1円弧輪郭線13aは第1側面14aに対応し、第2円弧輪郭線13bは第2側面14bに対応している。この構成により、光ファイバ部材9は谷間11内に安定して保持される。このような光ファイバ部材9の形状は、「フィラー形状」などと呼ばれる場合がある。
【0028】
更に、本実施形態においては、光ファイバ部材9の断面は、更に第1円弧輪郭線13a及び第2円弧輪郭線13bと同一形状の凹状の円弧をなす第3円弧輪郭線13cを有している。そして、光ファイバ25は、光ファイバ部材9の断面の中央に配置されている。この構成によれば、光ファイバ部材9は、その長手方向軸周りに120度ずつ回転させても同じように使用可能であり、当該回転方向の向きを気にせずに光ファイバ部材9をより線部5に設置することができる。
【0029】
上記のように光ファイバ部材9の断面の3つの輪郭線を同一形状とする構成は必須ではない。光ファイバ部材9の断面の第3の輪郭線は、例えば
図5に示されるように直線13dとしてもよく、また、
図6に示されるように凸状の曲線13eとしてもよく、その他の形状にしてもよい。但し、いずれの場合にも、PC鋼線3aの表面3sと、PC鋼線3bの表面3tと、PC鋼線3a,3bの外側の共通の接線15(
図1)と、で囲まれた略三角形の領域内に、光ファイバ部材9の断面が収容されることが好ましい。また、
図4〜
図6の何れの断面形状においても、光ファイバ部材9の略三角形断面のうち内側に位置する頂点に寄せて光ファイバ25を配置してもよい。この場合、光ファイバ25がPC鋼より線1の内側寄りに配置され光ファイバ25の保護(例えば、断線防止)の観点から好ましい。
【0030】
光ファイバ部材9は、互いに隣接する2本のPC鋼線3a,3bのうちの1本にのみ接着されている。具体的には、光ファイバ部材9の第1側面14aは接着層17を介してPC鋼線3aの表面3sに接着されているが、第2側面14bはPC鋼線3bの表面3tに接着されておらず単に接しているだけである。或いは、第2側面14bは、PC鋼線3bの表面3tから僅かに浮いていてもよい。接着層17の接着剤としては、例えばエポキシ系接着剤等を使用することができる。
【0031】
また、光ファイバ部材9をPC鋼線3a,3bのうちの1本にのみ接着するための構成としては、次のようなものも考えられる。光ファイバ部材9の製造において、2種類の樹脂を用いてフィラー27を押し出し成形する。このとき、フィラー27の第1側面14aを含む部位のみが接着性を有する第1の樹脂材料で形成され、第2側面14bを含むその他の部位が接着性を有しない第2の樹脂材料で形成されるようにする。接着性を有する第1の樹脂材料としてはナイロン樹脂、ポリエステル樹脂等が使用可能であり、接着性を有しない第2の樹脂としてはポリエチレン樹脂等が使用可能である。
【0032】
また、樹脂自身に接着性がある変性ポリエチレンなどの接着型樹脂を上記第1の樹脂材料として使用し、接着性がない一般ポリエチレンを上記第2の樹脂材料として使用することもできる。変性ポリエチレンは、加熱状態においてPC鋼線3に対する接着性を発揮する。この場合、より線部5を予熱した状態で光ファイバ部材9を谷間11に挿入することで、第1の樹脂材料で形成された第1側面14aのみが第1の樹脂材料の接着性によってPC鋼線3aに接着される。
【0033】
上記のように、光ファイバ部材9がPC鋼線3の1本(PC鋼線3a)にのみ接着される構成によれば、例えば、PC鋼より線1が曲げられたときなど、PC鋼線3aとPC鋼線3bとが長手方向に滑った場合に、光ファイバ部材9はPC鋼線3aに追従し、PC鋼線3bに対しては長手方向に滑ることになる。従ってこの場合、光ファイバ部材9及び接着層17にはほぼPC鋼線3aからの影響のみが作用し、接着層17の不規則な剥離状態は発生し難い。よって、光ファイバ部材9には接着層17の不規則な剥離状態に起因する複雑なひずみが生じにくく、その結果、PC鋼より線1のひずみの測定の精度が向上する。
【0034】
また,
図7(a),(b)に示されるとおり、光ファイバ部材9は略正三角形の断面をなしていてもよい。この場合、光ファイバ部材9は断面内において、PC鋼線3aの表面3sに接着される直線をなす第1輪郭線19aと、PC鋼線3bの表面3tに沿って延びる直線をなす第2輪郭線19bと、を有する。光ファイバ部材9が略正三角形断面をなす形状であれば、第1側面14a,第2側面14b(
図3)のような曲面を有する形状に比べて製造が容易でありサイズ調整も容易である。光ファイバ部材9が谷間11に挿入され、互いに隣接する2本のPC鋼線3a,3bのうちの1本にのみ接着されることが可能である。図の例の場合、第1輪郭線19aに対応する第1側面18aが接着層17を介してPC鋼線3aの表面3sに接着され、第2輪郭線19bに対応する第2側面18bはPC鋼線3bの表面3tに接着されていない。
【0035】
なお、
図7(b)は、PC鋼より線1が呼び径15.2mm、光ファイバ素線21を覆う被覆23の直径が0.24mmの場合に、光ファイバ部材9の断面を1辺2.0mmの正三角形断面とした場合を示す。同様に
図8(a)は、PC鋼より線1が呼び径15.2mm、光ファイバ素線21を覆う被覆23の直径が0.9mmの場合に、光ファイバ部材9の断面を1辺2.0mmの正三角形断面とした場合を示す。
図7(b)、
図8(a)の何れの場合も、PC鋼線3a,3bの表面3s,3tと、PC鋼線3a,3bの外側の共通の接線15と、で囲まれた略三角形の領域内に、光ファイバ部材9の断面を収容可能である。
【0036】
またこの場合、
図8(b)に示されるように、光ファイバ部材9の外側の輪郭線を凸状の曲線19eとしてもよい。但し、この場合にも、PC鋼線3a,3bの表面3s,3tと、PC鋼線3a,3bの外側の共通の接線15と、で囲まれた略三角形の領域内に、光ファイバ部材9の断面が収容されることが好ましい。
【0037】
なお、光ファイバ部材9は略正三角形の場合には、粘性が高い接着剤を用いることにより、図に示されるように第1側面18aと表面3sとの間隙に充填された接着層17が形成されるので、ある程度の接着面積をもって第1側面18aが表面3sに接着固定される。また前述のように、フィラー27の第1側面18aを含む部位のみを接着型樹脂として加熱により第1側面18aを接着させる構成を採用した場合においても、接着性樹脂が軟化し第1側面18aが表面3sに沿うように変形するので、ある程度の接着面積をもって第1側面18aが表面3sに接着固定される。
【0038】
図1及び
図2に示されるように、PC鋼より線1においては、上記のような光ファイバ部材9が、より線部5上に2本取り付けられている。2本の光ファイバ部材9は、PC鋼より線1の中心軸線Aに対して互いに対称の位置に一対として配置されている。この2本の光ファイバ部材9を特に区別する必要がある場合には、それぞれを光ファイバ部材9a,9bと称する。
【0039】
なお、光ファイバ部材9を一対で配置する構成は必須ではなく、1本の光ファイバ部材9のみがより線部5上に取り付けられてもよい。また、本実施形態のPC鋼より線1は一対2本の光ファイバ部材9を有するが、光ファイバ部材9を2対以上有してもよく、より線部5の表面上のすべての谷間11に対して光ファイバ部材9が取り付けられてもよい。
【0040】
続いて、本発明の測定装置の実施形態として、上記PC鋼より線1のひずみ(測定対象量)を測定するためのひずみ測定装置の例を説明する。
【0041】
図9(a)に示されるひずみ測定装置31は、光ファイバの両端からレーザ光を入出力するタイプの測定装置である。
図9(b)に示されるひずみ測定装置41は、光ファイバの片端からレーザ光を入出力するタイプの測定装置である。
【0042】
ひずみ測定装置31,41は、いずれも、前述の光ファイバ部材9と、光ファイバ部材9の光ファイバ25に光信号を発信する光信号発信部33と、光ファイバ25からの光信号を受信する光信号受信部35と、光信号受信部35で受信された光信号を解析しPC鋼より線1のひずみ状態を取得するひずみ解析部37と、ひずみ解析部37で取得されたひずみ状態を表示する表示部39と、を備えている。
【0043】
光信号発信部33と光信号受信部35とは例えば一体の測定器として構成されてもよい。ひずみ解析部37は例えばコンピュータ等の演算装置であり、表示部39は例えば演算装置による演算結果を画面表示するディスプレイモニタである。解析部37と表示部39とを一体で備えるパーソナルコンピュータ等を採用してもよい。光信号発信部33、光信号受信部35、及び光ファイバ25は、光分岐器38、カプラ40等を介しながら適宜接続される。
図9(a)の方式の測定装置の詳細は、例えば、特許第5192742号公報に示されており、
図9(b)の方式の測定装置の詳細は、例えば、特許第3152314号公報に示されている。いずれも、入出力される光信号に基づいて光ファイバの長手方向のひずみ分布を測定することにより、PC鋼より線1の長手方向の各位置に発生しているひずみを間接的に知ることができる。
【0044】
続いて、本発明のひずみ測定方法の実施形態として、上記PC鋼より線1のひずみを測定するためのひずみ測定方法の例を説明する。
【0045】
(光ファイバ部材設置工程)
通常のPC鋼より線(より線部5に相当)を架設した後、隣接するPC鋼線3同士の谷間11に光ファイバ部材9を挿入し接着することで、光ファイバ部材9を含むPC鋼より線1を形成する。このとき、光ファイバ部材9は前述のとおり隣接するPC鋼線3のうちの1本にのみ接着する。ここでは、中心軸線Aを挟んで対称の位置に光ファイバ部材9a(第1の光ファイバ部材)及び光ファイバ部材9b(第2の光ファイバ部材)を設置するものとする。この光ファイバ部材設置工程は、通常のPC鋼より線の架設後であれば、当該PC鋼より線の緊張前、緊張途中、緊張後の何れのタイミングで実行してもよい。
【0046】
次に、PC鋼より線1の一端1A側(
図9(a)参照)において、光ファイバ部材9a,9bの光ファイバ25を剥き出して両者の端部25sと25tとを接続する。また、PC鋼より線1の他端1B側(
図9(a)参照)において、光ファイバ部材9a,9bのそれぞれの光ファイバ25の端部25h,25jを、前述のひずみ測定装置31の光信号発信部33及び光信号受信部35にそれぞれ接続する。これにより、PC鋼より線1のほぼ全長分を往復する1本の光ファイバ25が形成される。光ファイバ25がフィラー27で被覆されているため、断線しにくい。なお、端部25h,25jを取り出すために、フィラー27に補強の糸(図示せず)を埋設してもよい。
【0047】
(装置測定工程)
その後、ひずみ測定装置31を用い、光ファイバ25の全長分の各箇所のひずみの分布が測定される。ここでは、光ファイバ25の前半部分のひずみ分布と後半部分のひずみ分布は、互いにPC鋼より線1の中心軸線Aを挟む対称位置のひずみを示すことになる。従って、例えば、PC鋼より線1が屈曲している箇所があった場合、当該箇所の屈曲内側のひずみと屈曲外側のひずみとの両方の情報を得ることができる。よって、このような2つのひずみ分布の情報を用いることにより、PC鋼より線1のひずみ状態をより正確に知ることができる。なお、前述したとおり、光ファイバ部材9を一対のみならず2対以上設置することにより、更にPC鋼より線1のひずみ状態を詳細に知ることもできる。また、この測定方法においては、光ファイバ部材9a,9bは、それぞれ1本のPC鋼線3に対してのみ接着されるので、前述のとおり、PC鋼より線1が曲げられたとしても接着層17の不規則な剥離状態は発生し難く、PC鋼より線1のひずみの測定の精度が向上する。
【0048】
なお、上述した例では、ひずみ測定装置31(
図9(a))を用いて光ファイバ25の両端にレーザ光を入射する方式で測定を行っているが、ひずみ測定装置41(
図9(b))を用いて光ファイバ25の片端にレーザ光を入出力する方式で測定を行ってもよい。この場合、PC鋼より線1が光ファイバ部材9を1本のみ有する場合であっても、当該1本の光ファイバ部材9の光ファイバ25の片端を光信号発信部33及び光信号受信部35に接続することにより、測定が可能である。
【0049】
上記実施形態の測定方法では、光ファイバ25をフィラー27内に組み込む工程と、それをPC鋼より線に設置する工程と、を分離したものと考えることができる。これにより、PC鋼より線1の架設後(緊張前、緊張途中、緊張後)の任意の段階で光ファイバ25をPC鋼より線1に設置することが可能である。また、実施形態のように一対2本に限られず、所望の本数の光ファイバ25をPC鋼より線1に設置することが可能である。なお、上記実施形態では、架設現場で、通常のPC鋼より線に光ファイバ部材9を設置する例を説明したが、光ファイバ部材9を備えるPC鋼より線1を予め工場で製造してもよい。
【0050】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限られるものではなく、各請求項に記載した要旨を変更しない範囲で変形したものであってもよい。例えば、本発明は、実施形態のような7本よりのPC鋼より線に限定されず、例えば19本よりのPC鋼より線、或いは他のPC鋼より線にも同様に適用することができる。また、実施形態では、PC鋼線群に関連する測定対象量として、PC鋼より線1のひずみを測定しているが、本発明は、ひずみに限られず温度、変形、圧力、振動、衝撃等の測定方法及び測定装置にも適用することができる。
【0051】
また、実施形態では、PC鋼より線1の全長のひずみを測定したが、PC鋼より線の一部のみに光ファイバ部材9を設置し、当該一部についてのひずみ測定を行ってもよい。また、実施形態では、光ファイバ部材9のうちPC鋼線3に接する第1側面14a及び第2側面14bを円柱面としているが、この構成は必須ではなく、PC鋼線3に接する面は例えば平面であってもよい。また、実施形態ではより線部5の表面の谷間11に光ファイバ部材9を設置したが、より線部5の内部の隙間に光ファイバ部材9を設置してもよい。すなわち、例えば、
図10に示されるように、互いに隣接する3つのPC鋼線3a,3b,3c同士の間の隙間12に光ファイバ部材9を設置してもよい。この場合も、光ファイバ部材9は、3つのPC鋼線3a,3b,3cの何れか1本にのみ接着される。実施形態及び変形例で説明した各構成要素を含め、以上説明した各々の構成要素は、適宜組み合わせて採用することもできる。
【0052】
なお、PC鋼線同士が長手方向に滑り光ファイバ部材の接着層が不規則に剥離することによる測定精度の低下を抑制するためには、フィラー27を容易に変形する材料(例えば、弾性係数が小さい材料)で構成することも考えられる。この場合、PC鋼線3a,3bの長手方向のずれに対して、フィラー27が変形することにより追従し、接着部分の剥離が抑制されるので、光ファイバ部材9が2本のPC鋼線3a,3bの両方に接着されてもよい。
【符号の説明】
【0053】
1…PC鋼より線(PC鋼線群)、3,3a,3b…PC鋼線、5…より線部、9…光ファイバ部材、9a…第1の光ファイバ部材、9b…第2の光ファイバ部材、13a…第1円弧輪郭線、13b…第2円弧輪郭線、15…共通の接線、19a…第1輪郭線、19b…第2輪郭線、21…光ファイバ素線、23…被覆、25…光ファイバ、27…フィラー、31,41…ひずみ測定装置、33…光信号発信部、35…光信号受信部、37…ひずみ解析部、A…中心軸線。