(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
開口が形成された地板と、前記開口を開閉しかつ移動方向と略直交する方向を長手方向とする1枚以上のシャッタ羽根と、前記シャッタ羽根を駆動する駆動部とを有するシャッ
タ装置であって、前記1枚以上のシャッタ羽根のうち少なくとも1つが繊維強化積層体であって、
前記繊維強化積層体が、
第1の繊維強化層と、
第2の繊維強化層と、
前記第1の繊維強化層及び前記第2の繊維強化層の間に設けられた金属層と、
を備え、
前記第1の繊維強化層及び前記第2の繊維強化層と前記金属層との間には、接合層が介在し、
前記接合層は、前記第1の繊維強化層及び前記第2の繊維強化層に含まれる繊維と前記金属層との間に設けられ、且つ前記第1の繊維強化層及び前記第2の繊維強化層の繊維を保持する樹脂組成物と同一の成分によって一体的に形成されている樹脂組成物の層を含み、
前記金属層の表層には、前記接合層の一部を構成する複数の微細凹部を有する表面処理層が設けられ、
前記樹脂組成物の層の少なくとも一部が前記表面処理層の前記微細凹部内に埋設された
ことを特徴とするシャッタ装置。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、後述する実施形態において説明するが、第1の繊維強化層と、第2の繊維強化層と、第1の繊維強化層及び前記第2の繊維強化層の間に設けられた金属層と、を備えた繊維強化積層体に関するものである。このような繊維強化積層体は、軽量でありながら十分な遮光性を有しており、シャッタ羽根の材料として好適に使用できる。
【0012】
特に、金属層は、シームレスな金属シートから形成されることが好ましい。繊維強化積層体としての十分な遮光性を確保できるためである。また、第1の繊維強化層及び第2の繊維強化層の間と金属層との間には、接合層が介在していることが好ましい。この接合層は、第1の繊維強化層及び第2の繊維強化層に含まれる繊維と金属層との間に、繊維と金属層とを接続するように設けられた層である。
【0013】
一実施形態において、この接合層は、第1の繊維強化層及び第2の繊維強化層と金属層とを接着しており、第1の繊維強化層及び第2の繊維強化層の繊維を保持する樹脂組成物と同一の成分を含んでいる。このように、第1の繊維強化層及び第2の繊維強化層の繊維を保持する樹脂組成物と同一の成分を用いて第1の繊維強化層及び第2の繊維強化層と金属層とを接着することにより、接着強度が向上する。また、良好な平面性を有する繊維強化積層体を容易に製造することができる。このような繊維強化積層体は、第1の繊維強化層及び第2の繊維強化層と金属層とを、第1の繊維強化層及び第2の繊維強化層の繊維を保持する樹脂組成物と同一の成分を有する接着剤で接着することにより製造することができる。一方で、後述するように、繊維に樹脂組成物を含浸させることにより得られたプリプレグシートで金属層を挟み、加圧成形することにより、このような繊維強化積層体を得ることもできる。後者の方法は、良好な平面性を有する繊維強化積層体を製造しやすい点で有利である。
【0014】
別の実施形態において、この接合層は、金属層の元素を有する金属酸化物の層と、樹脂組成物の層と、の少なくとも一方を含んでいる。ここで接合層における樹脂組成物の層は、例えば、第1の繊維強化層及び第2の繊維強化層の繊維を保持する樹脂組成物(マトリックス樹脂等)と同一の成分の層である。樹脂組成物の層は、隣接する第1の繊維強化層又は第2の繊維強化層と一体的に形成されているのがよい。これにより、第1の繊維強化層と金属層との間、また第2の繊維強化層と金属層との間の接合強度を高めることができる。
【0015】
繊維強化層と比較して、良好な平面性を有する金属層を得ることは容易である。例えば、圧延材からなる軽金属部材は、CFRPプリプレグシートと比較して均一な面内厚さ分布を有する。したがって、金属層を用いることは、平面性の高いシャッタ羽根を作製するために有利となる。一実施形態において、平面性を確保するために、金属層の層厚は10μm以上であり、別の実施形態においては15μm以上であり、さらなる実施形態においては20μm以上である。薄い金属箔を用いる場合、例えば繊維強化層中の繊維の直径よりも十分に薄い金属箔を用いる場合、加圧成形時に繊維の形状に沿って金属箔が変形してしまうことが考えられる。一方で、十分な厚さを有する金属層を用いることにより、金属層の変形が防がれ、繊維強化積層体の平面性を確保することがより容易となる。このような観点から、一実施形態においては、繊維強化層中の繊維の直径の50%よりも厚い金属層が用いられ、別の実施形態においては、繊維強化層中の繊維の直径よりも厚い金属層が用いられる。また、一実施形態においては、作製された繊維強化積層体中において金属層が平坦であるように、例えば中心線表面粗さRaが10nm以下であるように、金属層の厚さが選択される。
【0016】
また、加熱処理により繊維強化層を成形する場合、繊維強化層(又はその前駆体であるプリプレグシート)に含まれるマトリックス樹脂は粘度が低下する。中間層として金属層を配置することにより、金属層を両側から挟み込んでいる繊維強化層中のマトリックス樹脂が、金属層を超えて流動することが妨げられる。このため、マトリックス樹脂の量が一方の繊維強化層に偏ることが抑制され、すなわちそれぞれの繊維強化層におけるマトリックス樹脂と炭素繊維との割合が均一化される。その結果、各繊維強化層の厚さの対称性を確保することができるため、厚さの非対称性に起因して生じる反りを抑制することができる。この理由からも、本実施形態に係る繊維強化積層体を用いて、平面性の良好なシャッタ羽根を形成することができる。以上のように、本実施形態に係る繊維強化積層体を用いることで、板厚の増加を抑えながらも、平面性が良好で光学特性に優れたシャッタ羽根、カメラ用シャッタ及びカメラを実現することができる。
【0017】
一実施形態に係る繊維強化積層体は、第1の繊維強化層と第2の繊維強化層との間に金属層が介在する構造を有する。ここで、この金属層は、繊維強化積層体における実質的な芯材として機能するベース基材である。すなわち、金属層は、第1の繊維強化層と第2の繊維強化層との間において実質的に芯材として機能するとともに、第1の繊維強化層と第2の繊維強化層とを貼り付ける対象となるベース基材として機能する。したがって、金属層は、第1の繊維強化層及び第2の繊維強化層の中間材として機能するだけでなく、繊維強化積層体の全体のフラットな姿勢を保持する母材としての役割を有する。
【0018】
このような構成を有する繊維強化積層体をカメラのシャッタ羽根として使用する場合、金属層が各繊維強化層の芯材として機能するため、移動に伴って(すなわちシャッタ羽根の走行に伴って)シャッタ羽根に生じる波打ち変形を効果的に抑えることができる。このため、シャッタ羽根の走行姿勢を安定化させるために、このような構成は極めて有効である。また、このような構成により、シャッタ羽根の引張り応力に対する強度を高めることができる。さらに、各繊維強化層が金属層の表面強度を高めるための補強層として機能することにより、十分な剛性を得ることができ、繰り返し駆動(例えばシャッタ羽根の連続駆動)においても十分な耐久性を確保できる。
【0019】
第1の繊維強化層又は第2の繊維強化層は、上述したように、金属層の表面に接合され、金属層の表面強度を高める役割を有する。このため、上述の繊維強化積層体をカメラのシャッタ羽根として使用した場合、シャッタ羽根に接合される部材との接合強度が向上する。例えば、回転可能に接合される駆動アームを支える軸部材の、シャッタ羽根に対する接合強度を高めることができる。さらには、シャッタ羽根を連続駆動させる場合であっても、金属層の表面強度が向上しているため、シャッタ羽根に接合される部材との接合部分において十分な剛性を確保することができる。
【0020】
また、第1の繊維強化層及び第2の繊維強化層と金属層との接合強度を高めるために、金属層の表層に複数の凹部を設けることができる。例えば、金属層の表層(表面上)、例えば、金属層の両表面側の少なくとも一方には、接合層の一部を構成する複数の微細凹部を有する表面処理層が設けられているのがよい。なお、金属層の端面においても表面処理層を設けてもよい。この場合、第1の繊維強化層と前記第2の繊維強化層との少なくとも一方の繊維を保持する樹脂組成物は凹部内に入り込みうる。例えば、接合層の一部を構成する樹脂組成物の層の少なくとも一部(接合成分)が、上記表面処理層の微細凹部内に入り込んで埋設、そして一体化されることができる。これにより、第1の繊維強化層及び第2の繊維強化層と金属層との界面、具体的には、接合層と金属層、第1の繊維強化層と接合層、第2の繊維強化層と接合層の境界部分において、複数のアンカー部分が形成され、アンカー効果によって両者の接合強度が高められる。したがって、上記表面処理層は、接合層の一部が埋設されることから、実質的に接合強化層(密着強化層)として接合層の一部を構成する。
【0021】
また、上述した金属層における表面処理層としては、黒色化処理が施された層であることがよい。これは、例えば、繊維強化積層体として光遮蔽(光遮断)用のシャッタ羽根の構造体に好適だからである。もちろん、第1の繊維強化層又は第2の繊維強化層内にカーボンブラック等の黒色成分を含有させてもよいし、第1の繊維強化層又は第2の繊維強化層の表面に黒色の塗料を施すことで光遮蔽効果を向上させてもよい。なお、金属層を酸化処理した後、染色処理を施すことでも黒色化を実現できる。例えば、金属層上に多孔質皮膜を形成した後に、金属層を黒染め染色液等に浸漬することにより、多孔質皮膜を染色することができる。こうして、多孔質皮膜上の遮光性を一層高めることが可能となる。黒染め染色液としては、既知の染色液を使用することが可能である。例えば、クロム又はコバルト等の金属と酸性アゾ染料とを錯体化して得られる、金属錯体型の酸性アゾ染料を使用することができる。
【0022】
さらに、本発明では、上述した金属層における表面処理層としては、例えば、金属層の表面を陽極酸化又は化成処理によって形成された層としてもよい。これにより、金属層の表面が電解処理又は化学的な処理によって微細な凹凸面となり、その結果、上述した接合層における表面処理層と樹脂組成物の層との接合面が増大し、高い接合強度を得ることができる。このとき、金属層の表面を陽極酸化してなる表面処理層の酸化面が接合層における樹脂組成物の層との界面を形成することになり、この酸化面は微細な凹凸面となるため表面積が実質的に大きくなる。このため、例えば、第1の繊維強化層又は第2の繊維強化層の繊維を保持する接合成分(例えば樹脂成分)が微細な凹凸に浸潤(流入)し易くなり、上述したアンカー効果によって高い接合強度を確保することができる。
【0023】
陽極酸化処理においては、例えば、有機酸電解液(例えば、硫酸、シュウ酸又はリン酸等)を使用して、金属層(例えばアルミニウム合金)を陽極として電解が行われる。発生した酸素が金属層と結合することにより、金属層上に多孔質の酸化皮膜が形成される。
【0024】
また、金属層の表面に対して陽極酸化又は化成処理を行うことにより形成された表面処理層は、金属層の元素を有する金属酸化物が主成分であり、金属層(母材)と比較して材質的に硬い層が形成されることになる。その結果、最終的に繊維強化積層体とした際に更なる剛性の向上を確保することが可能となる。結果として、例えば、この繊維強化積層体をシャッタ羽根に適用した場合には、シャッタユニット内でシャッタ羽根が走行する際に発生するシャッタ羽根の撓みが低減されることになり、シャッタ羽根の駆動時における走行安定性が向上することになり、シャッタ羽根としての耐久性も向上することになる。
【0025】
上記表面処理層の好ましい厚さとしては例えば1〜8μm程度である。厚さが1〜3μm程度あれば良好な密着性を得ることができ、層間の密着性をより向上させるためには厚さを3〜6μmとすることがより好ましい。なお、表面処理としては、上述した酸化処理の代わりに、あるいは酸化処理を行った後に、金属層の両面、又は第1の繊維強化層及び第2の繊維強化層のうち金属層と接合する側の面に対し、予めシランカップリング剤、あるいはプライマーを塗布することで密着性を高めるようにしてもよい。
【0026】
また、繊維強化積層体をシャッタ羽根として用いる場合、繊維強化積層体の端面に黒色化処理を施すことができる。この場合、繊維強化積層体の端面(具体的には金属層の端面)における不要な光反射を抑えることができる。このように、金属層の表面に表面処理を行うだけでなく、金属層の端面に表面処理を行うこともできる。
【0027】
金属層の両面に表面処理を施す場合、製造プロセスの効率性を考慮すると、金属層の両面に施す表面処理と同一の表面処理を金属層の端面に施すのがよい。また、このような金属層の端面処理については、金属層の両面に繊維強化層をそれぞれ接合した後に金属層の端面処理を施してもよいし、金属層の両面及び端面に表面処理を施した後、その金属層の両面に繊維強化層を接合してもよい。このように金属層の端面処理は、金属層の全周にわたって施すのが剛性強化の面で好ましいが、光反射だけを考慮すると、光に接する端面のみに施すようにしてもよい。なお、金属層の端面処理によって金属層の両面に施した表面処理層と実質的に連続した表面処理層を設けることが、金属層(最終的にはシャッタ羽根)の剛性強化の面で好ましい。
【0028】
この黒色化処理については、例えば、陽極酸化処理や黒染め染色化処理(例えば、金属錯体型の酸性アゾ染料等を黒染め染色液として用いることが可能である)が挙げられるが、金属層の材質等によって適宜調整すればよく、単独で用いても併用してもよい。
【0029】
ここで、上述した第1の繊維強化層と第2の繊維強化層とは、積層体として応力バランスを考慮すると、厚みを実質的に同等とするのがよい。第1の繊維強化層又は第2の繊維強化層の厚さは、内在させる繊維の直径(細さ)や本数等を適宜変更することで調整可能である他、これら繊維を保持するための成分(接合成分)の量を適宜変更することでも調整可能である。また、上述した第1の繊維強化層と第2の繊維強化層とは、積層体としての応力バランスを考慮すると、繊維の密度が実質的に同等であるのがよい。
【0030】
また、第1の繊維強化層又は第2の繊維強化層の厚さは、上述した金属層の厚さと同等又はそれ以上の厚さで設けることが好ましい。これは、繊維強化積層体としての剛性を確保するためである。
【0031】
また、繊維強化積層体の全体の厚さを薄く、又は単位面積当たりの重量の軽量化を実現するためには、各繊維強化層の厚さを薄く、更に金属層の厚さを相対的に薄くすることで対応可能である。一方、金属層の厚さを厚くすると、繊維強化積層体の全体重量が重くなるため、本発明では、第1の繊維強化層の厚さと第2の繊維強化層の厚さとの和を、金属層の厚さよりも大きくするのが好ましい。
【0032】
すなわち、本発明においては、例えば、金属層の厚みをXとし、第1の繊維強化層の厚みをY1とし、第2の繊維強化層の厚みをY2とした場合、次の関係式(1)〜(4)のうちの少なくとも1つを、好ましくは全てを満たすようにするのが好ましい。
Y1=Y2 ・・・(1)
X<(Y1+Y2) ・・・(2)
X≦Y1 ・・・(3)
X≦Y2 ・・・(4)
【0033】
なお、金属層の厚みは、例えば、アルミニウム合金又はマグネシウム合金を用いた場合、10μm〜50μmとするのがよく、更に、15μm〜30μmとするのがよい。金属層の厚みが薄すぎると、繊維強化積層体の剛性及び金属層の平坦性(平面度)が低下し、例えば、シャッタ羽根に適用する場合には、高速走行でシャッタ羽根が撓んだり、他の部材との衝突に対する耐久性が低下するからである。また、金属層の厚みが厚過ぎると、剛性は高まるが、軽量化には不利となり、例えば、シャッタ羽根に適用する場合には、高速走行に対して不利となるからである。特に、金属層をより厚くすることにより、例えば10μm以上とすることにより、ダボ等を設けるためにシャッタ羽根に穴を開ける際にクラックが生じることを防ぐことができる。
【0034】
なお、上述した事情から、金属層の材質は、軽量で強度の高い軽金属であることが好ましく、高剛性の材料であるジェラルミン、超ジェラルミン、超超ジェラルミンを用いるのがよい。また、マグネシウム系合金を用いる場合には、圧延処理ができるもの、あるいは塑性加工に適するものであるのがよく、Mg−Al−Zn、Mg−Zn−Zr、Mg−Li−Al等を好適に用いることが可能である。
【0035】
また、上記金属層を挟み込む第1の繊維強化層、第2の繊維強化層は、炭素繊維強化シートであるのが好ましく、その厚みは、10〜80μmとするのがよく、更に15〜40μmとするのがよい。例えば、第1及び第2の繊維強化層を形成する炭素繊維強化シートの厚みが厚くなり過ぎると軽量化には不利であり、炭素繊維強化シートの厚みが薄くなり過ぎると繊維を覆うマトリックス樹脂から炭素繊維が露出したりあるいは炭素繊維分布が不均一となり易く、強度の面で不利となる。また、シャッタ羽根に適用する場合には、高速走行や剛性を確保する上で、炭素繊維強化シートの厚みを考慮する必要がある。
【0036】
なお、金属層と第1の繊維強化層及び第2の繊維強化層との間に介在する接合層の厚さは、例えば、上記金属層の表面に形成される表面処理層を含めると、約4〜8μm程度となる。
【0037】
特に、繊維強化積層体をシャッタ羽根として用いる場合、繊維強化積層体を軽量化することが望ましい。例えば、金属層を、第1の繊維強化層及び第2の繊維強化層よりも薄くすることで、シャッタ羽根を軽量化することが可能となる。また、第1及び第2の繊維強化層によって挟まれる金属層を軽金属材料で作製することにより、シャッタ羽根をより軽量化することができる。こうして、シャッタ羽根の遮光性を確保しつつ、軽量なシャッタ羽根を得ることができる。
【0038】
上記のような構成のシャッタ羽根においては、第1及び第2の繊維強化層の平均密度を[ρ1]、金属層の平均密度を[ρ2]とした場合、金属層の厚さが第1及び第2の繊維強化層の厚さに対して(ρ1/ρ2)倍未満であることが、軽量化に有利である。例えば、金属層の密度を2〜3g/cm
3程度、又はそれ以下にするのが、シャッタ羽根の軽量化及び強度の確保のために有効である。また、金属層の材料として、アルミニウム合金からなる圧延材を用いることが軽量化のために有利である。さらに、金属層が、陽極酸化処理等により得られる表面処理層を両面に有することは有利である。表面処理により金属層の剛性が高まるため、金属層をより薄くすることができ、シャッタ羽根をより軽量化することが可能となる。
【0039】
第1及び第2の繊維強化層の平均密度[ρ1]は、関係式:A×(1−(C/100))+(B×C)で求められる。ここで、第1及び第2の繊維強化層における繊維の密度を[A](g/cm
3)、その繊維を保持する保持材(マトリックス樹脂等)の密度を[B](g/cm
3)とする。また、第1及び第2の繊維強化層中に含まれる上記保持材の含有率を[C](重量%)とする。この関係式にしたがって、第1及び第2の繊維強化層の厚さを[T1](μm)とし、金属層の厚さ[T2](μm)をT1×(ρ1/ρ2)(μm)未満とすることで、シャッタ羽根を十分に軽量化することができる。
【0040】
さらに、本発明では、上述した構成に加えて、第1の繊維強化層が有する繊維方向と、第2の繊維強化層が有する繊維方向とを実質的に同一方向とするのが好ましい。これは、繊維方向が交差することで全方向での応力バランスが整合されるが、繊維方向を揃えると一方向(繊維方向と直交する方向)への剛性を高めることが可能となる他、繊維強化積層体の平坦性(平面度)を確保することが可能となるからである。繊維方向を揃えるとシャッタ羽根として必要となる繊維強化積層体の平坦性(平面度)を確保しつつ、一方向(繊維方向と平行方向)への剛性を高めることが可能となる。
【0041】
なお、上述した金属層は、例えば、軽金属の層であることが好ましく、例えば、アルミニウム合金又はマグネシウム合金であることが好ましい。これらの合金は、軽量でありながら金属成分の組成によって剛性を調整することが可能となるからである。特に、金属層としては、生産性等の観点から、シート状の圧延材を用いることが好適である。この場合、金属層の圧延方向に対して上述した第1の繊維強化層及び第2の繊維強化層の各繊維方向を交差、あるいは直交させることが好ましく、更に、上述したように第1の繊維強化層及び第2の強化繊維層の各繊維方向を一方向に揃えて、これに金属層の圧延方向を交差させる、特に直交させるようにするのが好ましい。羽根材面内における繊維方向と繊維方向に直交する方向に対する平坦性(平面度)のバランス確保に有利となる。
【0042】
別の実施形態においては、第1の繊維強化層又は第2の繊維強化層は、繊維方向が繊維強化積層体の長手方向に対して傾いた状態で金属層に接合されている。さらなる実施形態においては、第1の繊維強化層と第2の繊維強化層との双方が、繊維方向が長手方向に対して傾いた状態で金属層に接合される。一実施形態において、繊維強化積層体は短冊状薄板である。このような形態の繊維強化積層体は、フォーカルプレーンシャッタ等のシャッタ羽根として使用することができる。この場合、第1の繊維強化層又は第2の繊維強化層は、繊維方向が短冊状薄板の長手方向に対して傾いた状態で金属層に接合されている。さらなる一実施形態において、第1の繊維強化層又は第2の繊維強化層は、繊維方向が短冊状薄板の長手方向に対して所定の角度を有する方向に延在した状態で金属層に接合されている。シャッタ羽根を繰り返し高速駆動すると、シャッタ羽根に様々な変形応力が付加される。シャッタ羽根に対してこのような応力がかかると、シャッタ羽根の端面近傍に配置された繊維がほつれてしまう(脱落してしまう)ことがある。しかしながらこのような構成によれば、繊維方向が短冊状薄板の縁部と交差するため、シャッタ羽根の縁部において繊維が脱落することによりシャッタ羽根の端部が毛羽立ってしまうことを効果的に抑制できる。短冊状薄板の長手方向に対して繊維方向がなす角度は、特に限定されないが、例えば、繊維の脱落を効果的に抑制する観点から10度以上でありうる。また、繊維強化積層体の適切な剛性を維持する観点から20度以下でありうる。
【0043】
さらに、一実施形態においては、短冊状薄板の厚さ方向からの平面視において、第1の繊維強化層の繊維方向と第2の繊維強化層の繊維方向とが交差している。例えば、短冊状薄板の長手方向における第1の繊維強化層の繊維方向と、短冊状薄板の長手方向における第2の繊維強化層の繊維方向とは、金属層を挟んで実質的に交差している。具体的な一実施形態においては、短冊状薄板の厚さ方向からの平面視において、短冊状薄板の長手方向に対して第1の繊維強化層の繊維方向がなす角度は+10°〜+20°である。その一方で、同じ長手方向に対して第2の繊維強化層の繊維方向がなす角度は−10°〜−20°である。このような構成は、シャッタ羽根の連続駆動時において上記のような繊維の脱落を効果的に抑制しつつ、様々な応力が加わったとしても走行姿勢を安定に保つために有利である。
【0044】
また、上述した第1の繊維強化層及び第2の繊維強化層として適用する繊維としては、炭素繊維とするのがよく、この場合には、第1の繊維強化層及び第2の繊維強化層が、例えば、炭素繊維強化樹脂層であることが好ましい。炭素繊維を用いることで、軽量で剛性も高くなり、非常に効果的である。
【0045】
一実施形態において、第1の繊維強化層と第2の繊維強化層との少なくとも一方は、金属層とは反対側の面に反射低減層を有している。反射低減層は、光反射を低減する層である。反射低減層を設けることにより、繊維強化層の表面における光反射を低減することができるため、繊維強化積層体がシャッタ羽根の材料としてより有利に用いられる。一実施形態においては、反射低減層が設けられた繊維強化層は、黒色塗膜が設けられた繊維強化層と同等の低反射特性を有している。
【0046】
一実施形態において、反射低減層は、繊維強化層の表面に設けられた凹凸形状を有する層である。例えば、反射低減層は、繊維強化層の表面において炭素繊維を覆っている、所定の中心線平均粗さRaを有するマトリックス樹脂の層でありうる。ここで、中心線平均粗さRaとは、1本の炭素繊維に沿って測定されたマトリックス樹脂の中心線平均粗さRaである。より具体的には、中心線平均粗さRaとは、繊維強化繊維層の最表層に配置された単繊維表面における、積層されたマトリックス樹脂の微視的な中心線平均粗さRaのことを指す。
【0047】
繊維強化層においては、通常、一方向に揃っている炭素繊維にマトリックス樹脂が含浸されている。したがって、繊維強化層の表面において、炭素繊維同士の間には凹凸が生じている。例えば、炭素繊維の直径が5〜8μmであれば、これに応じた凹凸が生じることとなる。したがって、炭素繊維の向きを考慮せずに中心線平均粗さRaを測定すると、得られた巨視的な中心線平均粗さRaには炭素繊維同士間の凹凸が反映される。一方で、1本の炭素繊維に沿って、炭素繊維を覆っているマトリックス樹脂の中心線平均粗さRaを測定することにより、微視的な中心線平均粗さRaを測定することができる。本発明者らの検討によれば、1本の炭素繊維に沿って微細な凹凸形状を形成することにより、すなわちこの微視的な中心線平均粗さRaを制御することにより、繊維強化層の表面における光反射を低減することができる。
【0048】
図5を参照して、微視的な中心線平均粗さRaについてさらに説明する。
図5には、金属層52と、繊維強化層51とを備える繊維強化積層体が示されている。繊維強化層51は、繊維方向55に沿って配列している複数の繊維54を有している。また、繊維強化層51は、表面に反射低減層53を有している。本実施形態において、微視的な中心線平均粗さRaは、反射低減層53の中心線平均粗さRaを繊維54の表面に沿って測定した際に得られる値を指す。
【0049】
このように、1本の繊維の表面を被覆しているマトリックス樹脂表面の凹凸形状を制御することにより、表面反射を低減することができる。その結果として、画素数を増やすことにより分解能が向上した撮像素子を搭載している撮影装置においても使用可能な、光学的に十分な能力を有するシャッタ羽根を作製することが可能となる。
【0050】
反射低減層の中心線平均粗さRaは、一実施形態においては10nm以上であり、さらなる実施形態においては30nm以上である。また、一実施形態においては300nm以下であり、さらなる実施形態においては200nm以下である。中心線平均粗さRaの値を10nm以上とすることにより、繊維強化層表面が鏡面となることを防ぎ、シャッタ羽根として求められる低反射率性を向上させることができる。また、中心線平均粗さRaの値を300nm以下とすることにより、凸部の機械的な強度が向上するため、シャッタ羽根同時が接触した際に凸部が脱落してゴミが発生することを防ぐことができる。
【0051】
一実施形態において、第1の繊維強化層と第2の繊維強化層との少なくとも一方は、金属層とは反対側の面に摩擦低減層を有している。摩擦低減層とは、摺動抵抗を少なくするように形成された層のことである。一実施形態においては、摩擦低減層として、複数の凸部が表面に形成された層が用いられる。このような摩擦低減層を形成することにより、駆動時におけるシャッタ羽根同士の接触箇所を減らすことができ、摺動抵抗を少なくすることができる。結果として、より少ない駆動力でシャッタ羽根を駆動することが可能となる。
【0052】
一実施形態において、摩擦低減層に形成された凸部のアスペクト比は1未満である。アスペクト比とは、凸部の幅をX、高さをYとした場合における、Y/Xの値のことである。ここで、凸部の幅Xとは、凸部の平面視像に外接する平行な2直線の間隔のうち最短のものをいう。また、凸部の高さYとは、繊維強化層表面から凸部先端までの距離のことをいう。凸部のアスペクト比を1未満とすることにより、凸部の機械的な強度を確保することができ、駆動時における凸部の脱落を防ぐことができる。この結果として、撮像に影響を及ぼすゴミの発生を抑制することができる。
【0053】
摩擦低減層は、マトリックス樹脂とは異なる材料の層であってもよいし、繊維強化層に含まれるマトリックス樹脂の層であってもよい。
【0054】
凸部の形状は特に限定されず、例えば円形、楕円形又は多角形等でありうる。凸部の大きさ、高さ(突出長)、及び凸部間のピッチも特に限定されない。一実施形態において、凸部の平面視における直径、対角線、又は幅は、約100μm以上約500μm以下でありうる。また、凸部間のピッチは、約50μm以上約300μm以下でありうる。さらに、凸部の高さ(突出長)は、約2μm以上約10μm以下でありうる。
【0055】
摩擦低減層は、シャッタ装置の仕様に応じて、
図8に示すように繊維強化積層体の両面に形成されていてもよいし、
図9に示すように繊維強化積層体の片面に形成されていてもよい。
図9のように片面に摩擦低減層が形成されたシャッタ羽根を用いる場合、摩擦低減層が形成された面と摩擦低減層が形成されていない面とが互いに接触するように、シャッタ羽根をシャッタ装置に組み込むことにより、摺動抵抗をより少なくすることができる。
【0056】
摩擦低減層63の一例を
図7に示す。
図7の例においては、第1の形状を有する凸部64と、第2の形状を有する凸部65とが、金属層62を挟む繊維強化層61の表面に設けられている。以下では、繊維強化層の表面に設けられた第1の形状を有する複数の凸部をパターンAと呼び、第2の形状を有する複数の凸部をパターンBと呼ぶ。パターンAは、同等の高さを有する複数の凸部で構成されている。
図7の例においては、パターンAとパターンBとの間では、凸部の高さが異なる。一実施形態において、パターンAの凸部の高さは約4μm以上約10μmでありうる。また、パターンBの凸部の高さは約2μm以上約8μm以下でありうる。一実施形態において、良好な摩擦低減層が得られるように、パターンAの凸部の高さとパターンBの凸部の高さとの差は約2μm以上約6μm以下である。
【0057】
図8,9は、摩擦低減層を有する繊維強化積層体の断面図の一例を示す。
図8は、繊維強化積層体の双方の繊維強化層に摩擦低減層が設けられている例を示す。また、
図9は、繊維強化積層体の一方の繊維強化層に摩擦低減層が設けられている例を示す。
図8,9に示すように、パターンAの凸部の高さは、パターンBの凸部の高さよりもhだけ高い。
【0058】
フォーカルプレーンシャッタの羽根としてシャッタ羽根が駆動する際、シャッタ羽根は、複数のシャッタ羽根の表面が接触している状態で摺動する。
図7に示される摩擦低減層を有することにより、より高いパターンAの凸部は他のシャッタ羽根と優先的に接触する。一方で、より低いパターンBの凸部は、他のシャッタ羽根とは接触しにくい。また、
図7の例によれば、パターンAの凸部は、パターンBの凸部よりも少ない。このため、シャッタの駆動時に他のシャッタ羽根に接触する凸部の数が少なくなり、摺動抵抗を少なくすることができる。結果として、より少ない駆動力でシャッタ羽根を駆動することが可能となる。また、パターンAの凸部の数が少ないため、駆動時のシャッタ羽根同士の接触により凸部の少なくとも一部が脱落して破片が発生する頻度が低くなる。このため、シャッタ羽根同士の接触によるゴミの発生を効果的に抑制することができる。一方で、パターンBの凸部を設けることにより、加圧成形により繊維強化積層体を形成する際に、偏在のために過剰となっているマトリックス樹脂をパターンBの凸部に逃がすことができるため、平面性の高い繊維強化積層体を得やすくなる。
【0059】
繊維強化積層体は、例えば、第1の繊維強化層、金属層、及び第2の繊維強化層をこの順で積層することにより作製することができる。例えば、未硬化又は半硬化の繊維強化樹脂層で金属層を挟むように積層してから樹脂を硬化させることにより、繊維強化積層体を作製することができる。この場合、第1の繊維強化層に含まれる繊維と金属層との間には、第1の繊維強化層の繊維を保持する樹脂組成物の層が存在する。この樹脂組成物の層は接合層の一部を構成し、第1の繊維強化層、特に第1の繊維強化層の繊維を保持する樹脂組成物部分と、一体的に形成されている。第2の繊維強化層に含まれる繊維と金属層との間にも、同様に第2の繊維強化層の繊維を保持する樹脂組成物の層が存在する。
【0060】
また、金属層の表面に接合層の一部を構成する複数の微細凹部を有する表面処理層を設けてから積層を行うことにより、接合層の一部を構成する樹脂組成物の層は、少なくとも一部が表面処理層の微細凹部に埋設された状態となる。
【0061】
なお、上述した本発明の繊維強化積層体は、薄さと軽さを必要とする用途に適しており、例えば、カメラのシャッタ羽根等に好適である。したがって、本発明は、例えば、開口が形成された地板と、この開口を開閉しかつ移動方向と略直交する方向を長手方向とする1枚以上のシャッタ羽根と、このシャッタ羽根を駆動する駆動部とを有するシャッタ装置において、1枚以上のシャッタ羽根のうち少なくとも1つに上述した繊維強化積層体を適用することが可能であり、このようなシャッタ装置を備えたカメラの性能向上に寄与するものである。
【0062】
以下に、上述した本発明の繊維強化積層体を適用した構造体としての一実施形態に係るシャッタ羽根と、このシャッタ羽根を用いたシャッタ装置(光路開閉装置)について、図面を参照しながら説明する。しかしながら、本発明は以下の実施形態には限定されず、特許請求の範囲の記載された本発明の概念に従うあらゆる変更及び修正が可能である。すなわち、本発明は、本発明の精神に従う他の技術にも応用することができる。
【0063】
図1は、本実施形態に係るシャッタ装置の正面形状を表す。
図1に表すシャッタ装置10は、フォーカルプレーンシャッタユニットである。また、
図2は、
図1のII−II’における矢視断面図である。本実施形態に係るフォーカルプレーンシャッタユニット10は、いわゆる縦走りタイプと呼称されているものである。すなわち、フォーカルプレーンシャッタユニット10は上下方向に走行する先幕11及び後幕12を有し、これら先幕11及び後幕12を用いてシャッタ地板24の開口部が開閉される。先幕11及び後幕12は1枚以上のシャッタ羽根で構成される。具体的には、先幕11は相互に重なり合う5枚のシャッタ羽根13,14,15,16,17で構成され、後幕12は相互に重なり合う4枚のシャッタ羽根18,19,20,21で構成される。それぞれのシャッタ羽根13〜21の長手方向は、移動方向に対して略直交している。
【0064】
枠状のシャッタ地板24には、複数のスペーサー22を介して、枠状のカバー板23が平行に取り付けられている。また、カバー板23とシャッタ地板24との間には、先幕11と後幕12とを仕切る枠状の仕切り板25が、シャッタ地板24に対して傾斜して取り付けられている。先幕11はカバー板23と仕切り板25との間に配置され、後幕12は仕切り板25とシャッタ地板24との間に配置されている。
【0065】
先幕11を構成するシャッタ羽根13〜17の長手方向における一端(
図1中、左側)には、先幕支持アーム26と先幕駆動アーム27とがそれぞれピンで止められている。同様に、後幕12を構成するシャッタ羽根18〜21の長手方向における一端にも、後幕支持アーム28と後幕駆動アーム29とがそれぞれピンで止められている。これらの先幕駆動アーム27及び後幕駆動アーム29は、カバー板23及びシャッタ地板24に形成された円弧状の案内溝30、31に対してそれぞれ摺動可能に係合している。また、先幕駆動アーム27及び後幕駆動アーム29の基端部は、駆動部(不図示)に連結されている。駆動部が先幕駆動アーム27及び後幕駆動アーム29を動かすことにより、連動して先幕支持アーム26及び後幕支持アーム28も動き、シャッタ羽根13〜17及び18〜21が動いて光路が開閉される。
【0066】
以上のようなフォーカルプレーンシャッタユニット10の構成は一例にすぎず、特開平10−186448号公報、特開2002−229097号公報、特開2003−280065号公報等に記載されている周知の構成を用いることができる。
【0067】
以下に、シャッタ羽根13〜21の構成について詳しく説明する。シャッタ羽根13〜21のうちの少なくとも1つは、第1の繊維強化層と、第2の繊維強化層と、第1及び第2の繊維強化層の間に設けられた金属層と、を含む繊維強化積層体からなるシャッタ羽根である。この積層体からなるシャッタ羽根を、以下、本実施形態に係るシャッタ羽根と呼ぶ。シャッタ羽根13〜21の全てが本実施形態に係るシャッタ羽根であることは、耐久性及び小型化の点で好ましい。しかしながら、コストを減らすために、本実施形態に係るシャッタ羽根と、他のシャッタ羽根とを併用してもよい。本実施形態に係るシャッタ羽根は強度が高いため、より衝撃を受けやすいシャッタ羽根として用いることが好適である。具体的には、本実施形態に係るシャッタ羽根を、シャッタ開閉時の移動量がより大きいシャッタ羽根として用いることができる。
図1の例においては、より移動量が大きく衝撃を受けやすいシャッタ羽根13,14,20,21として本実施形態に係るシャッタ羽根を用いることができる。併用しうるシャッタ羽根としては特に限定されないが、例えばアルミニウム合金の板材からなるシャッタ羽根等が挙げられる。
【0068】
図3は、本実施形態に係るシャッタ羽根の一例の断面図を表す。
図3のシャッタ羽根は、炭素繊維強化樹脂層32,36と、炭素繊維強化樹脂層32,36の間に配置された金属層34と、金属層の元素を有する金属酸化物と第1の繊維強化層及び第2の繊維強化層の繊維を保持する樹脂組成物(マトリックス樹脂等)を含む接合層33,35とを含む積層体からなる。もっとも、3層以上の炭素繊維強化樹脂層が積層されていてもよいし、シャッタ羽根が2層以上の金属層を有していてもよい。また、金属層34が炭素繊維強化樹脂層32,36と接している必要はなく、さらなる他の層が積層されていてもよい。炭素繊維強化樹脂は平滑性が高く、シャッタ羽根同士が接触する部分の材料として好適に用いられる。この観点から、被写体又は撮像部(例えば撮像素子又はフィルム)に面するシャッタ羽根の表面が炭素繊維強化樹脂層であることは好ましい。
【0069】
炭素繊維強化樹脂層32,36としては、炭素繊維強化樹脂で構成されていれば特に限定されない。例えば、母材としてエポキシ樹脂を含む炭素繊維強化樹脂を用いることができる。製造の容易性の観点から、プリプレグシートを用いることは好ましい。具体的には、炭素繊維層に熱硬化性エポキシ樹脂を含浸させて半硬化させたシートが、目開きを抑えやすい点で好ましく用いられる。
【0070】
また、炭素繊維層に熱可塑性樹脂を含浸させて得られたシートを、炭素繊維強化樹脂層32,36の材料として用いることもできる。熱可塑性樹脂を用いる場合、熱硬化性樹脂を用いる場合と比べて短い加熱時間で成形を行うことができるため、より短時間で炭素繊維強化樹脂層32,36を得ることができる。したがって、シャッタ羽根の生産性を向上させることができる。
【0071】
シャッタ羽根を高速なシャッタスピードで走行させる際における走行中及び停止直後のシャッタ羽根の波打ちを極力抑えることにより、繰り返し駆動に対する耐久性を確保することが望ましい。繊維強化積層体をシャッタ羽根の構成部材として使用するためには、このために必要な曲げ剛性が求められる。繊維強化樹脂の曲げ剛性は、繊維強度と、樹脂中の繊維量とにより影響される。繊維強化樹脂中の繊維量を増やすことにより、繊維強化樹脂の曲げ剛性が向上するため、シャッタ羽根の耐久性も向上する。このような観点から、一実施形態においては、繊維強化樹脂中の繊維の体積分率、すなわち炭素繊維強化樹脂層32,36における炭素繊維の体積分率(Vf)は0.50以上であり、さらなる実施形態においては0.60以上である。
【0072】
図4には、金属層42と、繊維強化層41と、を備える繊維強化積層体が示されている。
図4において、繊維強化層41は、繊維43とマトリックス樹脂44とで構成されている。繊維強化層41に占める繊維43の体積の割合が、繊維強化樹脂中の繊維の体積分率(Vf)に相当する。
【0073】
一方で、繊維強化樹脂中の繊維の体積分率が大きいほど、繊維層中に隙間無くマトリックス樹脂を含浸させることは困難になる。一実施形態においては、繊維の体積分率(Vf)が0.50以上であっても繊維同士の隙間の細部にまで樹脂が十分に浸透するように、繊維強化樹脂の材料として、熱可塑性樹脂の低分子オリゴマーを繊維層に含浸させて得られたシートを用いることができる。一例としては、所定のサイジング処理を施して得られた炭素繊維に、熱可塑性樹脂の低分子オリゴマーを含浸させることにより得られたプリプレグシートを使用することができる。
【0074】
熱可塑性樹脂は、重合度が大きくなると粘度が上昇する。重合度の大きい熱可塑性樹脂を用いてプリプレグシートを作製する場合には、熱可塑性樹脂を加圧及び/又は加熱することにより粘度を低下させてから繊維を含浸することができる。しかしながら、熱可塑性樹脂は依然としてある程度の粘度を有しているため、特に繊維の体積分率が多い場合においては、繊維内部まで均一に樹脂を含浸させることは容易ではなかった。一方で、熱可塑性樹脂は、低分子オリゴマーの状態では分子量が小さいために比較的粘度が低い。したがって、繊維層中に粘度の低い低分子オリゴマーを含浸させる場合、必要最小限の量の熱可塑性樹脂を、空隙を生じないように繊維層中に浸透させることができる。このため、より性能の高いシャッタ羽根を得るために繊維の体積分率を大きくした場合であっても、内部欠陥の少ない繊維強化樹脂を得ることができる。
【0075】
一実施形態において、熱可塑性樹脂の低分子オリゴマーとしては、2量体から10量体程度のものが用いられる。繊維層にこのような低分子オリゴマーを含浸させることにより得られるプリプレグシートは、第1の温度T1においては2量体から10量体程度のさらなる重合が可能な低分子オリゴマーを有している。この温度T1は、低分子オリゴマーが溶融して低粘度化する一方で、重合反応が進行しない温度である。この温度T1において、プリプレグシート中に含まれる低分子オリゴマーは、繊維同士の隙間にさらに浸透する。また、第1の温度T1よりも高い第2の温度T2へと温度を上昇させることにより、低分子オリゴマー同士の重合反応が進行し、その後冷却することにより熱可塑性樹脂が硬化する。以上のように、一実施形態において用いられる熱可塑性樹脂は、第1の温度T1においては粘度の低い低分子オリゴマーの状態を維持し、第2の温度T2においては重合反応を起こすという性質を有している。
【0076】
一実施形態において、重合前の低分子オリゴマーは、第1の温度T1において溶融粘度が10mPa・s〜1000mPa・sであり、さらなる実施形態においては10mPa・s〜100mPa・sである。溶融粘度が低いほど、低分子オリゴマーは、プリプレグシート中の繊維間に浸透しやすい。上述のように、加圧及び加熱による成形前のプリプレグシートに含まれる熱可塑性樹脂は、繊維間の隙間に分散した低分子オリゴマーの状態であり、加熱後に熱可塑性樹脂は重合度の大きい高分子の状態になる。一実施形態において、高分子とは、10量体を超える重合体のことを指す。
【0077】
このように溶融粘度が低い低分子オリゴマーを含むプリプレグシートを用いることは、微細凹部を有する表面処理層を金属層が有している場合に特に有利である。すなわち、低分子オリゴマーは、表面処理層の微細凹部に入り込みやすいため、繊維強化層と金属層との間により強固なアンカー部分が形成される。このため、繊維強化層と金属層との間の接合強度がより高められる。
【0078】
重合反応が進行しやすいように、このプリプレグシートには、さらに重合反応の触媒が含まれている。すなわち、第1の温度T1では触媒の存在下であっても重合反応は進行しない。一方で、第2の温度T2においては、触媒の存在下において低分子オリゴマーの重合反応が進行し、高分子重合体が形成される。すなわち、繊維強化積層体を形成するために第2の温度T2において加圧成形を行うと、プリプレグシート中に含まれる熱可塑性樹脂を構成する低分子オリゴマーが触媒の存在下で重合することにより、繊維強化層が形成される。
【0079】
加熱による低分子オリゴマーの重合反応の結果得られた繊維強化層中のマトリックス樹脂には、未反応の低分子オリゴマーと、重合により形成された高分子重合体とが含まれる。一実施形態において、低分子オリゴマーの溶融粘度は、高分子重合体の溶融粘度の1/1000以下である。このような性質を有することにより、内部欠陥の少なさと、繊維強化層の強度との双方を確保しうる。
【0080】
熱可塑性樹脂の種類は特に限定されないが、例えば環状オリゴマーポリエステル、環状オリゴマーポリカーボネート、直鎖ポリエステル、又は直鎖ポリアミド等を挙げることができる。具体例としては、環状オリゴマーポリブチレンテレフタレート又は環状オリゴマーポリエチレンテレフタレートが挙げられ、さらなる具体例としては、環状オリゴマーポリブチレンテレフタレート(ポリ(1,4−ブチレンテレフタレート))が挙げられる。熱可塑性樹脂として環状オリゴマーポリブチレンテレフタレートを用いる場合、第1の温度T1は例えば150〜155℃付近であってもよく、第1の温度T1における溶融粘度は20mPa・s程度でありうる。また、第2の温度T2は例えば200〜205℃付近でありうる。
【0081】
強度を向上させる観点から、繊維方向が一方向にそろっている炭素繊維強化樹脂層を用い、各炭素繊維強化樹脂層間で繊維方向がそろうように炭素繊維強化樹脂層を積層することが好ましい。より好ましくは、炭素繊維強化樹脂の繊維方向がシャッタ羽根の長手方向と略一致するように、炭素繊維強化樹脂層が積層されることが好ましい。
【0082】
強度を向上させる観点から、各炭素繊維強化樹脂層32,36の厚さは10μmを超えることが好ましく、15μmを超えることがより好ましい。厚さが10μmを超えることにより、炭素繊維が樹脂から飛び出してしまうことがよりよく防止され、強度が向上する。また、軽量性及びシャッタ装置を小型化しうる点で、各炭素繊維強化樹脂層32,36の厚さは80μm未満であることが好ましく、40μm以下であることがより好ましい。
【0083】
金属層34の材料は特に限定されない。例えば、従来シャッタ羽根の材料として用いられていた材料を用いることができる。金属層34は、軽量で比強度の高い軽金属の層であることが好ましく、金属層34の材料としてアルミニウム合金又はマグネシウム合金を用いることがより好ましい。
【0084】
アルミニウム合金としては、ジュラルミン、超ジュラルミン、又は超超ジュラルミン等を用いることができ、より剛性の高い超超ジュラルミンを用いることが好ましい。マグネシウム合金としては、Mg−Al−Zn、Mg−Zn−Zr、Mg−Li−Al、又はMg−Mn等を用いることができ、圧延処理が可能なため長尺の板材が製造できるMg−Al−Znを使用することが好ましい。例えば、特開2002−348646号公報に記載の方法で、0.03mm〜1.2mmの厚さを有する、塑性加工に適する良質のマグネシウム合金板材の製造が可能である。
【0085】
金属層34の厚さは、使用する材料に応じて適宜設定できるが、剛性及び平面性を向上させる観点から、10μmを超えることが好ましく、15μm以上であることがより好ましい。厚さが10μmを超えることにより、シャッタ羽根が高速走行する際に羽根がたわみ、シャッタ地板24又はカバー板23の開口部の端面に衝突して破損することをよりよく防止することができる。また、軽量性の点で、50μm以下であることが好ましく、30μm以下であることがより好ましい。
【0086】
また、金属層34と各炭素繊維強化樹脂層32,36との間には接合層33,35が設けられている。この接合層33,35は、陽極酸化被膜又は化成処理被膜のような表面処理層を有することが好ましい。表面処理層は、上述したように金属層と炭素繊維強化樹脂層との密着性を向上させる。密着性の向上により、シャッタ羽根の平面性が向上し、また耐久性及び耐環境性が向上する。さらに、表面処理層を設けることにより、炭素繊維強化樹脂層の目開きが防止されうる。
【0087】
陽極酸化処理は、金属の表面加工の分野で通常用いられている方法に従って行うことができる。また、化成処理も、金属の表面加工の分野で通常用いられている方法を用いることができる。
【0088】
シャッタ羽根の表面には、さらなる表面加工がなされてもよい。例えば、反射防止のために、シャッタ羽根の表面を黒色にしてもよい。黒色化の方法としては、黒色の塗装を行う方法や、スパッタリング法、蒸着法、又はプラズマCVD法等により黒色の膜を成膜する方法等が挙げられる。
【0089】
本実施形態に係るシャッタ羽根は、金属層34に接合層を構成する陽極酸化被膜又は化成処理被膜を形成した後で、炭素繊維強化樹脂層32,36と金属層34とを接着させることにより製造することができる。例えば、炭素繊維強化樹脂層及び金属層をシャッタ羽根の形状に打ち抜いてから積層することができる。この場合には、金属層の端面に対して黒色化処理のような表面処理を行ってから、積層を行うことができる。また、炭素繊維強化樹脂層と金属層とを積層してからシャッタ羽根の形状に打ち抜いてもよい。この場合には、打ち抜き加工の後に金属層の端面に対して黒色化処理のような表面処理を行うことができる。打ち抜き方法は特に限定されず、ワイヤーカット又はプレス抜き等を用いることができる。低コスト性の点で、プレス抜きを用いることが好ましい。
【0090】
炭素繊維強化樹脂層32,36と金属層34との接着方法は、特に限定されない。例えば、未硬化又は半硬化の炭素繊維強化樹脂層を金属層と積層してから樹脂を硬化させることにより、炭素繊維強化樹脂層を金属層と接着させることができる。特に、熱硬化性樹脂を含む炭素繊維強化樹脂を用い、加圧下で加熱しながら樹脂を硬化させる方法(ホットプレス法)が、製造の容易性の点で好ましい。もっとも、接着剤を用いて、炭素繊維強化樹脂層を金属層と接着させてもよい。
【0091】
この際に、微細な凹凸形状を表面に有する部材でプリプレグシート及び金属層34を挟んで加圧することにより、プリプレグシートの表面に微細な凹凸形状を設けることができる。こうして、プリプレグシートから得られる炭素繊維強化樹脂層32,36の表面に上述の反射低減層を設けることができる。すなわち、反射率が十分に低減するように反射低減層の中心線平均粗さRaを選択し、選択された中心線平均粗さRaに対応する凹凸形状を炭素繊維強化樹脂層の表面に形成することにより、反射低減層を設けることができる。
【0092】
例えば、形成すべき微細凹凸形状と同等の中心線平均粗さRaを有する型を用いることにより、プリプレグシートの表面に微細凹凸形状を転写することができる。この場合には、炭素繊維強化樹脂層32,36が型から外れやすくなるように、型に離型剤を塗布することができる。また、形成すべき微細凹凸形状と同等の中心線平均粗さRaを有する離型シートをプリプレグシートの表面に重ねてから圧力を加えることによっても、プリプレグシートの表面に微細凹凸形状を転写することができる。離型シートとしては、マトリックス樹脂から外れやすく、加熱温度に耐えられる耐熱性を有しているのであれば特に限定されず、例えばPTFEシート等を用いることができる。この場合、離型剤を用いる必要はない。
【0093】
具体的な反射低減層の形成方法の一例を以下に説明する。まず、プリプレグシートと金属層34との積層体の両面に、設けようとする反射低減層と同等の中心線平均粗さRaを有する、PTFEシート等の離型シートを重ね合わせる。こうして得られた積層体をホットプレス機の加圧板の間に配置した後、120〜140℃の温度で1〜2時間、0.1〜0.5MPaの圧力で成形を行う。熱硬化樹脂をマトリックス樹脂として用いる場合、プリプレグシート中の未硬化のマトリックス樹脂の粘度が低下して離型シート表面に形成された微細な凹部に流入する。その後、マトリックス樹脂が硬化反応により三次元状に架橋することで、炭素繊維強化樹脂層の表面に離型シートの微細凹凸形状が転写される。こうして、反射低減層が炭素繊維強化樹脂層32,36の表面に形成されたシャッタ羽根材を作製することができる。マトリックス樹脂として熱可塑性樹脂を用いる場合であっても、同様に炭素繊維強化樹脂層の表面に離型シートの微細凹凸形状を転写することができる。
【0094】
また、摩擦低減層の凸部に対応する凹部を表面に有する部材でプリプレグシート及び金属層34を挟んで加圧することにより、プリプレグシートの表面に上述の摩擦低減層を設けることができる。例えば、
図7を用いて説明したパターンA,Bの形状に対応する複数の凹部が形成されたPTFEシート等の離型シートを、プリプレグシートの表面に重ね合わせる。その後、反射低減層を形成する場合と同様に加熱成形を行うことにより、摩擦低減層が炭素繊維強化樹脂層32,36の表面に形成されたシャッタ羽根材を作製することができる。
【0095】
摩擦低減層をシャッタ羽根の両面に形成する場合は、複数の凹部が形成された離型シートを、両面のプリプレグシート上に重ね合わせることができる。また、摩擦低減層をシャッタ羽根の片面に形成する場合は、複数の凹部が形成された離型シートを、どちらか一方のプリプレグシート上に重ね合わせるとともに、凹部の無いPTFEシートを、他方のプリプレグシートに重ね合わせることができる。
【0096】
また、摩擦低減層の凸部に対応する複数の凹部が形成された離型シートの中心線平均粗さRaをさらに制御することにより、繊維強化層上に反射低減層と摩擦低減層との双方を設けることもできる。
【0097】
本実施形態においては、上述のように、金属層を両側から挟み込んでいる繊維強化層中のマトリックス樹脂が、金属層を超えて流動することが妨げられる。このため、一方の繊維強化層において、反射低減層又は摩擦低減層の凸部を形成するために必要となるマトリックス樹脂が不足することが防止され、より高い再現率をもって反射低減層又は摩擦低減層を形成することができる。また、金属層に表面処理層が設けられている場合、表面処理層の凹部に入り込んでアンカー効果を発現するために必要となるマトリックス樹脂が不足することが防止され、繊維強化層と金属層との密着性を向上させることができる。
【0098】
その後、ホットプレス機の加熱を停止して徐冷を行う。例えば、ホットプレス機を50℃以下まで冷やしてから、繊維強化積層体を取り出すことができる。その後、表面の離型シートを取り除くことで、炭素繊維強化樹脂層32,36の表面に所望の反射低減層又は摩擦低減層が形成されている繊維強化積層体が得られる。このように離型シートを用いることで、反射低減層又は摩擦低減層に離型剤が付着したり、反射低減層又は摩擦低減層を破損したりする可能性を減らすことができる。
【0099】
本実施形態に係るシャッタ装置は、例えばカメラに設置して用いることができる。すなわち、筐体と、レンズのような光学系と、撮像素子のような撮像部とを備えるカメラにおいて、光学系を通って撮像素子に入射する光路をふさぐように、シャッタ装置を配置することができる。
【実施例】
【0100】
以下に、実施例により本発明の実施形態をさらに説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、これらに限定されるものではない。
【0101】
[実施例1]
実施例1にかかるシャッタ羽根の製造方法について、以下に説明する。
【0102】
炭素繊維プリプレグシートは、シャッタ羽根の平面形状(光入射面の形状)に対応する形状を有するように打ち抜いて使用した。ここで、プリプレグシートの繊維方向が、シャッタ羽根の長手方向となるように、打ち抜きを行った。プリプレグシートの厚みは15μmであった。
【0103】
金属層としては、アルミニウム合金である超々ジュラルミンを用いた。用いたアルミニウム合金の組成は、亜鉛5.5重量%、マグネシウム2.5%、銅1.6%、及びその他の不可避的な不純物であり、残りがアルミニウムである。アルミニウム合金も、シャッタ羽根の平面形状(光入射面の形状)に対応する形状を有するように打ち抜いて使用した。アルミニウム合金の厚みは15μmであった。
【0104】
まず、金属層の表面に陽極酸化処理を行うことで、上述した接合層の少なくとも一部である表面処理層を形成した。具体的には、材料を脱脂した後に、材料を挟むように材料の両側に電極を配置し、硫酸(200g/L)を用いて、15℃、電流密度1.5A/dm
2の条件で、15分間の陽極酸化処理を行った。
【0105】
さらに、陽極酸化後の金属層に対し、TAC BLACK−SLH(奥野製薬工業株式会社製)を用いて、黒色染色を行った。
【0106】
得られた金属層を、2枚のプリプレグシートの間に挟んだ。そして、0.5MPaの圧力、60℃、その後90℃、その後120℃の温度でホットプレスを行った。2枚のプリプレグシートの繊維方向は、シャッタ羽根の長手方向に揃っていた。そして、積層体の最表層及び端面に黒色塗装を行うことにより、シャッタ羽根を作製した。得られたシャッタ羽根の構成を
図3に表す。
【0107】
[実施例2]
金属層の厚みを20μm、プリプレグシートの厚みを35μmとしたこと以外は、実施例1と同様にして、シャッタ羽根を作製した。
【0108】
[実施例3]
実施例3においては、金属層として、厚み15μmのマグネシウム合金を用いた。用いたマグネシウム合金の組成は、アルミニウム3重量%、亜鉛1重量%、及びその他の不可避的な不純物であり、残りがマグネシウムである。
【0109】
この金属層に対し、化成処理を行うことで、表面処理層を形成した。具体的には、マグネシウム用化成処理液を用いて、化成処理を行った。
【0110】
化成処理後の金属層と、実施例1と同様に用意した2枚のプリプレグシート(厚み15μm)とを用いて、実施例1と同様にシャッタ羽根を作製した。
【0111】
[実施例4]
金属層の厚みを20μm、プリプレグシートの厚みを35μmとしたこと以外は、実施例3と同様にして、シャッタ羽根を作製した。
【0112】
[シャッタ羽根の評価]
実施例1〜4で得られたシャッタ羽根について、耐久性、耐剥離性、平面度、及び遮光性を評価した。耐久性は、シャッタ羽根をシャッタに組み込み、シャッタ羽根をシャッタスピード1/8000秒を実現する幕速で繰り返し走行させることにより評価した。耐剥離性は、クロスカットを行い、テープ剥離試験を行うことにより評価した。
【0113】
【表1】
【0114】
実施例1〜4で得られたシャッタ羽根は、十分な遮光性を有することが確認された。
【0115】
さらに、実施例1〜4で得られたシャッタ羽根は平面性を有した。実施例1〜4で得られたシャッタ羽根はより高い平面性を有することから、プリプレグシート及び金属層の膜厚が10μmを超えることがより好ましいものと考えられた。
【0116】
また、実施例1〜4で得られたシャッタ羽根は耐久性を有した。これらの結果より炭素繊維強化プリプレグシートの膜厚が10μmを超え80μm未満の範囲であること、及び金属層の膜厚が10μmを超え50μm未満の範囲にあることがより好ましいものと考えられた。
【0117】
さらに、接合層を有する実施例1〜4で得られたシャッタ羽根は、より高い耐剥離性密着性を有することから、金属層とプリプレグシートとの間に接合層を設けることが、使用中の剥離をよりよく防止しうる点で好ましいものと考えられた。
【0118】
[実施例5]
シャッタ羽根材を構成する炭素繊維強化樹脂層として、CFRPプリプレグシート(三菱レイヨン製,商品名:パイロフィルプリプレグCFRP,厚さ36μm,硬化推奨温度130℃)を2枚用意した。この炭素繊維強化樹脂層においては、炭素繊維が連続で一方向に揃えられており、エポキシ樹脂が主成分となっている。この炭素繊維強化樹脂層において、炭素繊維の密度は1.81g/cm
3、マトリックス樹脂として用いられるエポキシ樹脂の密度は1.20g/cm
3、炭素樹脂強化樹脂中におけるエポキシ樹脂の含有率は30重量%であった。炭素樹脂強化樹脂の平均密度は1.63(g/cm
3)と算出された。
【0119】
次に中間層を構成する軽金属層として、圧延材からなるアルミニウム(Al)合金シート(A2024)を準備した。本実施例で使用するAl合金シートの密度は約2.77g/cm
3であった。金属層の厚さ[T2](μm)をT1×(ρ1/ρ2)(μm)未満とするためには、Al合金シートの厚さは、36×(1.63/2.77)=21.2μm未満とする必要がある。この算出結果を参考にして、厚さが21μmである圧延Al合金シート材を用意した。
【0120】
このAl合金シートに対して、表面処理を行った。具体的には、まずこのAl合金シートに対して表面を脱脂する処理を行った後に、濃度200g/L、浴温15℃となるように調整された硫酸溶液中で、電流密度1.0A/dm
2、電解時間10分の条件で陽極酸化処理を行った。その後、TAC BLACK−SLH(奥野製薬工業株式会社製)を用いて、Al合金シート上の陽極酸化皮膜に対して染色処理を行った。
【0121】
次に、Al合金シートとCFRPプリプレグシート(CFRP)とを、CFRP/Al合金シート/CFRPの順に重ね合わせて積層シートを準備した。ここで、CFRPプリプレグシートは、互いの繊維方向が平行になるように、すなわち面対称となるように配置した。さらに、離型シートとして厚さ50μmのPTFEシートを用意し、積層シートの両面に重ね合わせた。こうして、離型シート/CFRP/Al合金シート/CFRP/離型シートという積層構造が得られた。
【0122】
こうして得られた積層構造をホットプレス機にセットした後、0.3MPaの圧力が積層構造に加えられるように圧力を調整した。その後、この圧力下において、室温から毎分1.5℃の昇温速度で130℃になるまでホットプレス機を加熱し、さらに130℃で2時間保持した。その後、ホットプレス機の加熱を停止して徐冷を行い、積層構造の温度が50℃以下であることを確認してから積層構造を取り出した。そして、表層に配置されている離型シートを取り除くことにより、カメラ用シャッタ羽根を得るための積層シートを得た。同様の方法で、所定の枚数のカメラ用シャッタ羽根を得るために、積層シートを複数作製した。こうして得られた積層シートから、プレスによる打ち抜き加工により所定のシャッタ羽根形状を有するシャッタ羽根を打ち抜くことにより、カメラ用シャッタ羽根を得た。
【0123】
[実施例6]
シャッタ羽根材を構成する炭素繊維強化樹脂層として、CFRPプリプレグシート(三菱レイヨン製,商品名:パイロフィルプリプレグCFRP,厚さ32μm,硬化推奨温度130℃)を2枚用意した。この炭素繊維強化樹脂層においては、炭素繊維が連続で一方向に揃えられており、エポキシ樹脂が主成分となっている。この炭素繊維強化樹脂層の平均密度は、実施例5と同様、1.63(g/cm
3)である。
【0124】
次に中間層を構成する軽金属層として、圧延材からなるアルミニウム(Al)合金シート(A2024)を準備した。本実施例で使用するAl合金シートの密度は約2.77g/cm
3であった。金属層の厚さ[T2](μm)をT1×(ρ1/ρ2)(μm)未満とするためには、Al合金シートの厚さは、32×(1.63/2.77)=18.8μm未満とする必要がある。この算出結果を参考にして、厚さが18μmである圧延Al合金シート材を用意した。さらにこのAl合金シートに対して、実施例5と同様に表面処理を行った。その後、このAl合金シート及びCFRPプリプレグシートを用いて、実施例5と同様にシャッタ羽根を作製した。
【0125】
[実施例7]
シャッタ羽根材を構成する炭素繊維強化樹脂層として、CFRPプリプレグシート(三菱レイヨン製,商品名:パイロフィルプリプレグCFRP,厚さ26μm,硬化推奨温度130℃)を2枚用意した。この炭素繊維強化樹脂層においては、炭素繊維が連続で一方向に揃えられており、エポキシ樹脂が主成分となっている。この炭素繊維強化樹脂層の平均密度は、実施例5と同様、1.63(g/cm
3)である。
【0126】
次に中間層を構成する軽金属層として、圧延材からなるアルミニウム(Al)合金シート(A2024)を準備した。本実施例で使用するAl合金シートの密度は約2.77g/cm
3であった。金属層の厚さ[T2](μm)をT1×(ρ1/ρ2)(μm)未満とするためには、Al合金シートの厚さは、26×(1.63/2.77)=15.3μm未満とする必要がある。この算出結果を参考にして、厚さが15μmである圧延Al合金シート材を用意した。さらにこのAl合金シートに対して、実施例5と同様に表面処理を行った。その後、このAl合金シート及びCFRPプリプレグシートを用いて、実施例5と同様にシャッタ羽根を作製した。
【0127】
このように、実施例5〜7では、金属層の厚さ[T2](μm)がT1×(ρ1/ρ2)(μm)未満となるようにシャッタ羽根が作製された。実施例5〜7で得られたシャッタ羽根は、十分な耐久性と遮光性を有することが確認された。
【0128】
[実施例8]
中間層を構成する金属層として、両面に対してシランカップリング剤により表面処理が施されたアルミニウム(Al)合金シート(A2024,厚さ22μm)を準備した。また、炭素繊維プリプレグシートとして、連続した炭素繊維が一方向に揃えられており、マトリックス樹脂がエポキシ樹脂である、厚さ30μmのプリプレグシート(三菱レイヨン製,商品名パイロフィルプリプレグCFRP)を用意した。次に、Al合金シートと炭素繊維プリプレグシート(CFRP)とを、CFRP/Al合金/CFRPの順となるように積層した。ここで、CFRPプリプレグシートは、互いの繊維方向が平行になるように、すなわち面対称となるように配置した。
【0129】
そして、この積層体をホットプレス機にセットした後、圧力0.3MPa、温度130℃の条件で2時間加熱加圧成形することにより、プリプレグシートに含まれる未硬化のエポキシ樹脂を硬化し、プリプレグシートとAl合金シートとを接着した。こうして得られた積層シートに対してプレス抜き加工を施すことにより、複数のシャッタ羽根が余剰部分を介してつながっているシート材を得た。
【0130】
次いで、プレス抜き加工により得られたシート材の、シャッタ羽根の外形を構成する端面に対して陽極酸化処理を行うことにより、シャッタ羽根の端面に多孔質の陽極酸化皮膜を形成した。具体的には、シート材の表面を脱脂した後に、濃度200g/L、浴温15℃となるように調整した硫酸溶液を用いて、電流密度1.5A/dm
2、電解時間15分の条件で陽極酸化処理を行った。
【0131】
その後、TAC BLACK−SLH(奥野製薬工業株式会社製)を用いて、シャッタ羽根の外形を構成する端面に形成された多孔質の陽極酸化皮膜に対して染色処理を行った。さらに、複数のシャッタ羽根をつなぐ余剰部分を機械的に切除することにより、カメラ用シャッタ羽根を得た。こうして、金属層のうち少なくとも光に接する端面を含む外周に対して黒色化処理が施されているシャッタ羽根を作製した。
【0132】
[実施例9]
中間層を構成する金属層として、実施例8と同様のAl合金シート(A2024,厚さ21μm)を準備した。また、炭素繊維プリプレグシートとして、実施例8と同様のプリプレグシート(三菱レイヨン製,商品名パイロフィルプリプレグCFRP)を用意した。これらのAl合金シート及びプリプレグシートに対して、各々プレス抜き加工を施すことにより、複数のシャッタ羽根形状を有する部材が余剰部分を介してつながっているAl合金シート材及びプリプレグシート材を得た。
【0133】
次いで、プレス抜き加工により得られたAl合金シート材に対して陽極酸化処理を行うことにより、Al合金シート材の表面及び端面に多孔質の陽極酸化皮膜を形成した。陽極酸化処理の条件は、実施例8と同様のものを用いた。その後、TAC BLACK−SLH(奥野製薬工業株式会社製)を用いて、Al合金シート材の表面及び端面に形成された陽極酸化皮膜に対して染色処理を行った。
【0134】
さらに、染色処理されたAl合金シート材とプリプレグシート材(CFRP)とを、CFRP/Al合金/CFRPの順となるように積層した。ここで、CFRPプリプレグシートは、互いの繊維方向が平行になるように、すなわち面対称となるように配置した。こうして得られた積層体をホットプレス機にセットした後、実施例8と同様の条件で加熱加圧成形することにより、プリプレグシートに含まれる未硬化のエポキシ樹脂を硬化し、プリプレグシートとAl合金シートとを接着した。こうして、複数のシャッタ羽根が余剰部分を介してつながっているシート材を得た。その後、複数のシャッタ羽根をつなぐ余剰部分を機械的に切除することにより、カメラ用シャッタ羽根を得た。こうして、金属層の全面にわたって黒色化処理が施されているシャッタ羽根を作製した。
【0135】
実施例8,9で得られたシャッタ羽根は、十分な耐久性と遮光性を有することが確認された。
【0136】
[実施例10]
シャッタ羽根材を構成する炭素繊維強化層の材料として、炭素繊維が連続で一方向に揃えられている炭素繊維プリプレグシート(厚さ30μm)を用意した。プリプレグシートにはマトリックス樹脂として環状オリゴマーポリブチレンテレフタレートが含まれていた。また、プリプレグシート中の炭素繊維の体積分率(Vf)は0.50となるように調整されていた。環状オリゴマーポリブチレンテレフタレートは2〜4量体の環状オリゴマーであった。この環状オリゴマーは重合反応性を有し、後述する温度条件下において重合反応が可能な熱可塑性樹脂であった。また、この環状オリゴマーは重合前には20mPa・sの溶融粘度を有し、重合後の樹脂は100000mPa・sの溶融粘度を有していた。さらに、マトリックス樹脂中には、後述する温度条件下において環状オリゴマーポリブチレンテレフタレートの開環重合反応を進行させる触媒が含まれていた。
【0137】
次に、中間層を構成する軽金属層として、圧延材からなるアルミニウム(Al)合金シート(A2024,厚さ22μm)を用意した。Al合金シートに対しては、表面脱脂処理、陽極酸化処理、及び染色処理を行った。陽極酸化処理は、濃度200g/L、浴温15℃となるように調整した硫酸溶液中、電流密度1.0A/dm
2、電解時間10分間の条件で行った。染色処理には、奥野製薬工業株式会社製のTAC BLACK−SLHを用いて行った。
【0138】
次に、炭素繊維プリプレグシートとAl合金シートとを、層構成が炭素繊維プリプレグシート/Al合金シート/炭素繊維プリプレグシートとなるように重ね合わせることにより、積層シートを用意した。ここで、2枚の炭素繊維プリプレグシートは、面対称に、すなわち互いの繊維方向が平行になるように配置した。さらに、離型シートとして厚さ50μmのPTFEシートを用意し、PTFEシートを積層シートの両面に重ねて配置した。
【0139】
硬化成形用のホットプレスの金型温度を、環状オリゴマーポリブチレンテレフタレートの開環重合反応が進行する温度T2として200℃に設定した。そして、ホットプレスを用いて積層シートに対して圧力0.3MPaの条件で約1〜2分間加圧し、加圧状態のまま約1時間冷却した。その後、離型シートを取り除くことで、カメラ用シャッタ羽根を得るための繊維強化積層体を得た。
【0140】
以上の工程を繰り返すことにより、複数枚の繊維強化積層体を作製した。こうして得られた繊維強化積層体に対してプレスによる打ち抜き加工を行うことで、所定の形状を有するカメラ用シャッタ羽根を作製した。得られたシャッタ羽根の断面をSEM(走査型電子顕微鏡)を用いて観察したところ、繊維の内部まで樹脂が浸透していた。また、実施例1〜4と同様にクロスカット法により密着性を評価したところ、積層体からの剥離は観察されなかった。さらに、実施例1〜4と同様に1/8000秒のシャッタスピードにおける耐久試験を行ったところ、30万回の駆動によっても異常は生じなかった。
【0141】
以上の実施例においては、炭素繊維強化層に含まれるマトリックス樹脂として低分子オリゴマーを前駆体とする熱可塑性樹脂が用いられ、かつ繊維強化層に含まれる炭素繊維の体積分率が0.50以上とされた。このような構成により、炭素繊維の体積分率が十分に高い状態で、炭素繊維間の細部にまでマトリックス樹脂を十分に浸透させることができた。このため、ボイド等の欠陥の無い炭素繊維強化層を形成することができた。このような炭素繊維強化層を有するシャッタ羽根は、十分な曲げ剛性を有していた。また、マトリックス樹脂として熱硬化性樹脂を使用した場合と比較して硬化時間を大幅に短縮することができた。結果として、シャッタ羽根の生産性が大きく改善されるとともに、駆動時及び停止時の波打ちが最小限に抑えられかつ駆動耐久性に優れているシャッタ装置及びカメラを提供することができた。
【0142】
[実施例11]
シャッタ羽根材を構成する炭素繊維強化樹脂層として、CFRPプリプレグシート(三菱レイヨン製,商品名パイロフィルプリプレグCFRP,厚さ30μm,単糸径7μm,硬化推奨温度130℃)を用意した。このCFRPプリプレグシートは、炭素繊維が連続で一方向に揃えられており、マトリックス樹脂の主成分としてエポキシ樹脂を含有している。
【0143】
次に、中間層を構成する金属層として、圧延材からなるアルミニウム(Al)合金シート(A2024,厚さ22μm)を準備した。このAl合金シートに対し、表面を脱脂する処理を行った後に陽極酸化処理を行った。陽極酸化処理は、濃度200g/L、浴温15℃となるように調整された硫酸溶液中で、電流密度1.0A/dm
2、電解時間10分の条件で行った。その後、TAC BLACK−SLH(奥野製薬工業株式会社製)を用いて、Al合金シート表面に形成された多孔質皮膜に対して染色処理を行った。
【0144】
次に、Al合金シートとCFRPプリプレグシート(CFRP)とを、CFRP/Al合金シート/CFRPの層構成となるように重ね合わせることにより、積層シートを準備した。この際、互いの繊維方向が平行になるように、面対称にCFRPプリプレグシートを配置した。さらに、表面の中心線平均粗さRaが40nmであるPTFE製シート(厚さ50μm)を離型シートとして準備し、積層シートの両面に、すなわちCFRPプリプレグシート上に重ね合わせた。
【0145】
こうして得られた積層シートをホットプレス機にセットした後、圧力が0.3MPaとなるように圧力をかけた。この状態で、室温から毎分1.5℃の昇温速度で130℃になるまで昇温を行い、130℃の状態で2時間保持した。その後、ホットプレス機の加熱を停止し、積層シートの温度が50℃以下となるまで徐冷を行ってから、積層シートを取り出した。その後、積層シート表層に配置された離型シートを取り除くことで、繊維強化積層体を得た。繊維強化積層体に対してプレスによる打ち抜き加工を行うことで、所定の形状を有するカメラ用シャッタ羽根を複数作製した。
【0146】
[実施例12]
実施例11と同様のCFRPプリプレグシートを、CFRP/CFRP/CFRPの層構成となるように重ね合わせて積層シートを準備した。このとき、炭素繊維の配向方向は0°/90°/0°であった。さらに、表面の中心線平均粗さRaが制御されていないPTFE製シートを離型シートとして準備し、積層シートの両面に重ね合わせた。そして、実施例11と同様の条件で、ホットプレス機を用いて繊維強化積層体を得た。さらに、繊維強化積層体の両面に黒色塗装を行った。具体的には、東京ペイント製CN50を用いて、積層シート両面に片面当たり5μmの厚さを有する黒色塗膜を形成した。得られた繊維強化積層体に対してプレスによる打ち抜き加工を行うことで、所定の形状を有するカメラ用シャッタ羽根を複数作製した。
【0147】
[実施例13]
【0148】
離型シートとして、表面の中心線平均粗さRaが5nmであるETFE製シート(厚さ50μm)を用いたことを除き、実施例11と同様に繊維強化積層体を作製した。また、この繊維強化積層体を用いて、実施例11と同様にカメラ用シャッタ羽根を複数作製した。
【0149】
実施例11〜13で得られたシャッタ羽根について種々の特性を評価した。表2はその評価結果を示す。実施例11及び13で得られたシャッタ羽根の平面性に関する良品率は、実施例12と比較して良好であった。ここで、平面性に関する良品率とは、平面性が良好であったシャッタ羽根の割合を示す。
【0150】
また、実施例11〜13で得られたシャッタ羽根の炭素繊維表面に形成された反射低減層の表面粗さを計測した。具体的には、炭素繊維の繊維方向に沿って単糸(単繊維)の表面上に形成されている、マトリックス樹脂表面の中心線平均粗さRaを測定した。さらに、実施例11〜13で得られたシャッタ羽根の光反射率を、分光光度計を用いて測定した。測定結果を
図6,7に示す。
【0151】
【表2】
【0152】
図6に示すように、実施例11で得られたシャッタ羽根の反射率は、黒色塗装がなされている実施例12で得られたシャッタ羽根の反射率とほぼ同等であった。また、実施例13で得られたシャッタ羽根の反射率は、可視光領域において、実施例12で得られたシャッタ羽根の反射率よりも大きいことが確認された。上記の結果から、炭素繊維の単糸表面における反射低減層の中心線平均粗さRaを制御することにより、シャッタ羽根の光反射率を低減できることが確認された。具体的には、反射低減層の中心線平均粗さRaを10nm以上とすることにより、シャッタ羽根の光反射率を十分に低減できることが確認された。
【0153】
また、実施例11〜13で得られたシャッタ羽根が取り付けられているシャッタ装置をカメラに組み込んで、撮影された画像を評価した。その結果、実施例11,12で得られたシャッタ羽根を用いた場合、光反射に起因する著しい画質の劣化は観察されなかった。一方で、実施例13で得られたシャッタ羽根を用いた場合、シャッタ羽根表面における光反射に起因すると考えられる画質の低下が観察された。
【0154】
以上のように、実施例11のように中間層として金属層を設けることにより、シャッタ羽根として要求される平面性及び遮光性を実現することができる。また、繊維強化層の表層に、微視的な中心線平均粗さRa及び表面反射率が制御されているシャッタ羽根を作製することができる。
【0155】
[実施例14]
シャッタ羽根材を構成する炭素繊維強化樹脂層として、CFRPプリプレグシート(三菱レイヨン製,商品名パイロフィルプリプレグCFRP,厚さ30μm,硬化推奨温度130℃)を用意した。このCFRPプリプレグシートは、炭素繊維が連続で一方向に揃えられており、マトリックス樹脂の主成分としてエポキシ樹脂を含有している。
【0156】
次に、中間層を構成する金属層として、圧延材からなるアルミニウム(Al)合金シート(A2024,厚さ22μm)を準備した。このAl合金シートに対し、表面を脱脂する処理を行った後に陽極酸化処理を行った。陽極酸化処理は、濃度200g/L、浴温15℃となるように調整された硫酸溶液中で、電流密度1.0A/dm
2、電解時間10分の条件で行った。その後、TAC BLACK−SLH(奥野製薬工業株式会社製)を用いて、Al合金シート表面に形成された多孔質皮膜に対して染色処理を行った。
【0157】
次に、Al合金シートとCFRPプリプレグシート(CFRP)とを、CFRP/Al合金シート/CFRPの層構成となるように重ね合わせることにより、積層シートを準備した。この際、互いの繊維方向が平行になるように、面対称にCFRPプリプレグシートを配置した。さらに、
図7に示すパターンA,Bの凸部に対応する凹部が設けられたPTFEシート(厚さ50μm)を離型シートとして用意し、積層シートの両面に、すなわちCFRPプリプレグシート上に重ね合わせた。ここで、パターンAの凸部の平面視における対角線長さは300μm、高さ(突出長)は7μmであった。また、パターンBの凸部の平面視における直径は400μm、高さ(突出長)は4μmであった。また、パターンAの凸部とパターンBの凸部との間のピッチは250μmであった。
【0158】
こうして得られた積層シートをホットプレス機にセットした後、圧力が0.3MPaとなるように圧力をかけた。この状態で、室温から毎分1.5℃の昇温速度で130℃になるまで昇温を行い、130℃の状態で2時間保持した。その後、ホットプレス機の加熱を停止し、積層シートの温度が50℃以下となるまで徐冷を行ってから、積層シートを取り出した。その後、積層シート表層に配置された離型シートを取り除くことで、摩擦低減層が形成された繊維強化積層体を得た。繊維強化積層体に対してプレスによる打ち抜き加工を行うことで、所定の形状を有するカメラ用シャッタ羽根を複数作製した。
【0159】
こうして得られたシャッタ羽根の特性を評価した。評価結果を表3に示す。シャッタ羽根の平面性に関する良品率は96%であった。このように、本実施例で得られたシャッタ羽根の平面性は良好であることが確認された。また、本実施例で作製したシャッタ羽根を先幕シャッタ羽根と後幕シャッタ羽根との双方として用いて、
図1に示されるようなシャッタ装置(フォーカルプレーンシャッタ)を作製し、駆動耐久試験を行なった。得られたシャッタ装置には、常温常湿下において30万回開閉を行っても問題が生じなかった。このように、本実施例に係るシャッタ羽根はカメラ用シャッタ羽根として十分な耐久性を有していることが確認された。また、駆動耐久試験後にシャッタ装置を確認したところ、摩擦低減層の脱落に起因するゴミの発生は観察されなかった。さらに、駆動耐久試験後にシャッタ羽根表面を顕微鏡で観察したところ、摩擦低減層の脱落に起因する、又は摺動痕等に起因する著しい傷の発生は見られなかった。
【0160】
【表3】
【0161】
[実施例15]
図7に示すパターンA,Bの凸部に対応する凹部が設けられたPTFEシート(厚さ50μm)を、積層シートの一方の面に重ね合わせたことを除き、実施例14と同様にカメラ用シャッタ羽根を得た。積層シートの他方の面には、パターンの無いPTFEシート(厚さ50μm)が重ね合わされた。
【0162】
こうして得られたシャッタ羽根の特性を評価した。評価結果を表3に示す。シャッタ羽根の平面性に関する良品率は95%であった。このように、本実施例で得られたシャッタ羽根の平面性は良好であることが確認された。また、本実施例で作製したシャッタ羽根を先幕シャッタ羽根と後幕シャッタ羽根との双方として用いて、
図1に示されるようなシャッタ装置(フォーカルプレーンシャッタ)を作製し、駆動耐久試験を行なった。この際、摩擦低減層を設けた面とパターンの無い面とが互いに接触するように、シャッタ羽根は配置された。得られたシャッタ装置には、常温常湿下において30万回開閉を行っても問題が生じなかった。このように、本実施例に係るシャッタ羽根はカメラ用シャッタ羽根として十分な耐久性を有していることが確認された。また、駆動耐久試験後にシャッタ装置を確認したところ、摩擦低減層の脱落に起因するゴミの発生は観察されなかった。さらに、駆動耐久試験後にシャッタ羽根表面を顕微鏡で観察したところ、摩擦低減層の脱落に起因する、又は摺動痕等に起因する著しい傷の発生は見られなかった。
【0163】
以上、本発明の一例として各実施例を挙げて具体的に説明したが、本発明は上述した形態に限定されるものではない。