(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
パーキングギヤ及びパーキングポールを含んで構成され出力軸をロックするパーキング機構を有する自動変速機を搭載した全輪駆動車のトランスファクラッチの制御装置において、
車両の速度を検出する車速検出手段と、
前記車両を制動するブレーキの操作状態を検出するブレーキ操作検出手段と、
前記自動変速機を構成する変速機構から従駆動輪側の駆動系に伝達される駆動力を調節するトランスファクラッチと、
前記車両の運転状態に基づいて、前記トランスファクラッチの締結力を制御するトランスファクラッチ制御手段と、を備え、
前記トランスファクラッチ制御手段は、前記ブレーキが操作されており、かつ車両の速度が所定の速度以下になったときに、前記トランスファクラッチを解放し、その後、前記ブレーキが操作されて車両の速度がゼロになった場合に、前記トランスファクラッチを締結することを特徴とするトランスファクラッチの制御装置。
前記トランスファクラッチ制御手段は、前記自動変速機のシフトレンジがニュートラルレンジの場合には、前記トランスファクラッチの解放及び再締結を禁止することを特徴とする請求項1又は2に記載のトランスファクラッチの制御装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように、特許文献1に記載されている技術によれば、捩り変形として蓄積された捩りトルクの解放に伴うショックや異音を防止することができる。しかしながら、特許文献1の技術では、動力伝達系を構成する駆動軸等にねじれが生じている状態で、Pレンジが選択された際(パーキングギヤがロックされる際)に、パーキングギヤとパーキングポールとが接触することにより生じる異音に関してはなんら考慮されていない。
【0007】
すなわち、上述したように動力伝達系を構成する駆動軸等にねじれが生じている状態で、Pレンジが選択され、自動変速機の出力軸に嵌合されたパーキングギヤがロックされる際には、例えば前進クラッチが解放され、パーキングギヤとパーキングポールとが嵌合するまでの間、動力伝達系を構成する駆動軸等のねじれが解放されて、パーキングギヤが回転し、パーキングギヤとパーキングポールとが接触することにより歯打ち音(異音)が生じることがある。
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載されている技術では、このようなパーキングギヤとパーキングポールとが接触することによって生じる歯打ち音を防止することは考慮されておらず、よって、このような歯打ち音を防止することはできなかった。
【0009】
本発明は、上記問題点を解消する為になされたものであり、出力軸をロックするパーキング機構を有する自動変速機を搭載したAWD車のトランスファクラッチの制御装置であって、パーキングレンジ選択時における、パーキングギヤとパーキングポールとの歯打ち音(異音)を低減することが可能なトランスファクラッチの制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係るトランスファクラッチの制御装置は、パーキングギヤ及びパーキングポールを含んで構成され出力軸をロックするパーキング機構を有する自動変速機を搭載した全輪駆動車のトランスファクラッチの制御装置において、車両の速度を検出する車速検出手段と、車両を制動するブレーキの操作状態を検出するブレーキ操作検出手段と、自動変速機を構成する変速機構から従駆動輪側の駆動系に伝達される駆動力を調節するトランスファクラッチと、車両の運転状態に基づいて、トランスファクラッチの締結力を制御するトランスファクラッチ制御手段とを備え、トランスファクラッチ制御手段が、ブレーキが操作されており、かつ車両の速度が所定の速度以下になったときにトランスファクラッチを解放し、その後、ブレーキが操作されて車両の速度がゼロになった場合にトランスファクラッチを締結することを特徴とする。
【0011】
本発明に係るトランスファクラッチの制御装置によれば、ブレーキが操作されている(車両が制動されている)状態で車両の速度が所定の速度以下(例えば停止直前の極低車速)になったとき、すなわち、ブレーキが操作されて車両が停止し、動力伝達系の駆動軸等にねじれが生じ得る状態になる直前に、トランスファクラッチが一旦解放される。そして、その後、ブレーキが操作されたまま(車両が制動されたまま)車両が停止した場合にトランスファクラッチが再締結される。よって、この一連の動作により、ブレーキが操作されて車両が停止しているときには、自動変速機とトランスファクラッチとの間の動力伝達系を構成する駆動軸等にはねじれが生じているが、トランスファクラッチと駆動輪との間の動力伝達系を構成する駆動軸等にはねじれが生じていない状態が作り出される。そのため、その後、P(パーキング)レンジが選択され、パーキングギヤがロックされるときに、トランスファクラッチと駆動輪との間の動力伝達系を構成する駆動軸等が有する軸剛性により、自動変速機とトランスファクラッチとの間の駆動軸等のねじれが解放されることによって生じるパーキングギヤの回転が抑制される。その結果、パーキングレンジ選択時における、パーキングギヤとパーキングポールとの歯打ち音(異音)を低減することが可能となる。なお、この場合、車両が完全に停止する前にトランスファクラッチが一旦解放され、車両が停止したときにトランスファクラッチが再締結されるため、運転者が、車両停止後すぐにPレンジを選択したとしても、パーキングギヤとパーキングポールとの歯打ち音を低減することができる。
【0012】
本発明に係るトランスファクラッチの制御装置では、上記所定の速度がゼロであり、トランスファクラッチ制御手段が、ブレーキが操作されており、かつ車両の速度がゼロになったときにトランスファクラッチを一旦解放した後、再度締結することが好ましい。
【0013】
この場合、ブレーキが操作されて(制動されて)車両が停止したときに、トランスファクラッチが一旦解放された後、再締結される。そのため、上述したように、自動変速機とトランスファクラッチとの間の動力伝達系を構成する駆動軸等にはねじれが生じているが、トランスファクラッチと駆動輪との間の動力伝達系を構成する駆動軸等にはねじれが生じていない状態が作り出される。そのため、その後、P(パーキング)レンジが選択され、パーキングギヤがロックされるときに、トランスファクラッチと駆動輪との間の動力伝達系を構成する駆動軸等が有する軸剛性によって、自動変速機とトランスファクラッチとの間の駆動軸等のねじれが解放されることによって生じるパーキングギヤの回転が抑制される。その結果、パーキングレンジ選択時における、パーキングギヤとパーキングポールとの歯打ち音(異音)を低減することが可能となる。
【0014】
本発明に係るトランスファクラッチの制御装置では、自動変速機のシフトレンジがニュートラルレンジの場合には、トランスファクラッチ制御手段が、トランスファクラッチの解放及び再締結を禁止することが好ましい。
【0015】
自動変速機のシフトレンジがニュートラルレンジの場合には、駆動力がかからないため、動力伝達系を構成する駆動軸等にはねじれが生じない。そのため、パーキングギヤがロックされる際に、パーキングギヤとパーキングポールとの歯打ち音も生じない。よって、このような場合には、トランスファクラッチの解放及び再締結を禁止することにより、不要な動作が行われることを防止することができる。
【0016】
本発明に係るトランスファクラッチの制御装置は、自動変速機のシフトレンジを選択する操作を受け付け、当該操作に応じた選択情報を出力するセレクト手段と、セレクト手段により出力される選択情報に応じて自動変速機のシフトレンジを切り替える切替手段とを備え、セレクト手段によりパーキングレンジを選択する操作が受け付けられた場合、トランスファクラッチ制御手段が、トランスファクラッチが再締結された後に、切替手段に対して、自動変速機のシフトレンジをパーキングレンジに切替えることを許可することが好ましい。
【0017】
この場合、トランスファクラッチが一旦解放された後に再締結され、その後に、自動変速機のシフトレンジがパーキングレンジに切替えられる。よって、例えば、車両が停止すると同時に、又は車両が停止する直前にP(パーキング)レンジが選択されたような状況であっても、パーキングギヤとパーキングポールとの歯打ち音を確実に低減することが可能となる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、出力軸をロックするパーキング機構を有する自動変速機を搭載したAWD車(全輪駆動車)において、パーキングレンジ選択時における、パーキングギヤとパーキングポールとの歯打ち音(異音)を低減することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図中、同一又は相当部分には同一符号を用いることとする。また、各図において、同一要素には同一符号を付して重複する説明を省略する。
【0021】
まず、
図1及び
図2を併せて用いて、実施形態に係るトランスファクラッチの制御装置1の構成について説明する。
図1は、トランスファクラッチの制御装置1、及び該制御装置が搭載されたAWD(All Wheel Drive:全輪駆動)車のパワートレイン並びに駆動力伝達系の構成を示すブロック図である。また、
図2は、無段変速機(CVT)30のパーキング機構110の構成を示す図である。なお、本実施形態では、シフトバイワイヤ(SBW)式の無段変速機30を搭載した、FF(Front engine Front drive)ベースのパートタイム式AWD車を例にして説明する。
【0022】
エンジン20は、例えば水平対向型の4気筒ガソリンエンジンである。エンジン20の出力軸(クランクシャフト)21には、クラッチ機能とトルク増幅機能を持つトルクコンバータ22、及び、前後進切替機構27を介して、エンジン20からの駆動力を変換して出力する無段変速機(特許請求の範囲に記載の自動変速機に相当)30が接続されている。
【0023】
トルクコンバータ22は、主として、ポンプインペラ23、タービンライナ24、及びステータ25から構成されている。出力軸21に接続されたポンプインペラ23がオイルの流れを生み出し、ポンプインペラ23に対向して配置されたタービンライナ24がオイルを介してエンジン20の動力を受けて出力軸を駆動する。両者の間に位置するステータ25は、タービンライナ24からの排出流(戻り)を整流し、ポンプインペラ23に還元することでトルク増幅作用を発生させる。また、トルクコンバータ22は、入力と出力とを直結状態にするロックアップクラッチ26を有している。トルクコンバータ22は、非ロックアップ状態のときはエンジン20の駆動力をトルク増幅して無段変速機30に伝達し、ロックアップ時はエンジン20の駆動力を無段変速機30に直接伝達する。
【0024】
前後進切替機構27は、駆動輪10(左前輪10FL,右前輪10FR,左後輪10RL,右後輪10RR)の正転と逆転(車両の前進と後進)とを切り替えるものである。前後進切替機構27は、主として、ダブルピニオン式の遊星歯車列、前進クラッチ28及び後進ブレーキ29を備えている。前後進切替機構27では、前進クラッチ28、及び後進ブレーキ29それぞれの状態を制御することにより、エンジン駆動力の伝達経路を切り替えることが可能に構成されている。
【0025】
より具体的には、D(ドライブ)レンジが選択された場合には、前進クラッチ28を締結して後進ブレーキ29を解放することにより、タービン軸31の回転がそのまま後述するプライマリ軸32に伝達され、車両を前進走行させることが可能となる。一方、R(リバース)レンジが選択された場合には、前進クラッチ28を解放して後進ブレーキ29を締結することにより、遊星歯車列を作動させてプライマリ軸32の回転方向を逆転させることができ、車両を後進走行させることが可能となる。
【0026】
また、N(ニュートラル)レンジ又はP(パーキング)レンジが選択されたときには、前進クラッチ28及び後進ブレーキ29を解放することにより、タービン軸31とプライマリ軸32とは切り離され、前後進切替機構27はプライマリ軸32に動力を伝達しないニュートラル状態となる。なお、前進クラッチ28及び後進ブレーキ29の動作は、後述するトランスミッション制御装置(以下「TCU」ともいう)50、及びバルブボディ(コントロールバルブ)60によって制御される。
【0027】
無段変速機30の変速機構33は、前後進切替機構27を介してトルクコンバータ22のタービン軸(出力軸)31と接続されるプライマリ軸32と、該プライマリ軸32と平行に配設されたセカンダリ軸37とを有している。プライマリ軸32には、プライマリプーリ34が設けられている。プライマリプーリ34は、プライマリ軸32に接合された固定プーリ34aと、該固定プーリ34aに対向して、プライマリ軸32の軸方向に摺動自在に装着された可動プーリ34bとを有し、それぞれのプーリ34a,34bのコーン面間隔、すなわちプーリ溝幅を変更できるように構成されている。一方、セカンダリ軸37には、セカンダリプーリ35が設けられている。セカンダリプーリ35は、セカンダリ軸37に接合された固定プーリ35aと、該固定プーリ35aに対向して、セカンダリ軸37の軸方向に摺動自在に装着された可動プーリ35bとを有し、プーリ溝幅を変更できるように構成されている。
【0028】
プライマリプーリ34とセカンダリプーリ35との間には駆動力を伝達するチェーン36が掛け渡されている。プライマリプーリ34及びセカンダリプーリ35の溝幅を変化させて、各プーリ34,35に対するチェーン36の巻き付け径の比率(プーリ比)を変化させることにより、変速比が無段階に変更される。
【0029】
ここでプライマリプーリ34(可動プーリ34b)には油圧室34cが形成されている。一方、セカンダリプーリ35(可動プーリ35b)には油圧室35cが形成されている。プライマリプーリ34、セカンダリプーリ35それぞれの溝幅は、プライマリプーリ34の油圧室34cに導入されるプライマリ油圧と、セカンダリプーリ35の油圧室35cに導入されるセカンダリ油圧とを調節することにより設定・変更される。
【0030】
変速機構33のセカンダリ軸37は、一対のギヤ(リダクションドライブギヤ、リダクションドリブンギヤ)からなるリダクションギヤ38を介して、カウンタ軸39につながれており、変速機構33で変換された駆動力は、リダクションギヤ38を介して、カウンタ軸39に伝達される。カウンタ軸39には、パーキングギヤ114が取り付けられている。
【0031】
ここで、
図2を参照しつつ、無段変速機30のパーキング機構110について説明する。パーキング機構110は、P(パーキング)レンジが選択されたときに、車輪10が回転しないよう無段変速機内部で回転をロックする機構である。後述するシフトバイワイヤ・コントロールユニット(以下「SBW−CU」という)80により駆動されるSBWアクチュエータ81(例えば電動モータ)の出力軸にはディテンドプレート111が取り付けられている。ディテンドプレート111には、パーキングロッド112が軸方向に進退可能に接続されている。一方、上述したように、無段変速機30のカウンタ軸39には、パーキングギヤ114がスプライン嵌合されている。また、該パーキングギヤ114と噛み合うことができるように、パーキングポール113が揺動可能に設けられている。
【0032】
P(パーキング)レンジが選択された場合には、SBWアクチュエータ81(電動モータ)が回動されることにより、ディテンドプレート111が揺動して、パーキングロッド112が軸方向に進出する。そして、該パーキングロッド112のテーパ部によってパーキングポール113が背面から押されて揺動し、パーキングギヤ114と噛み合う。これにより、無段変速機30の回転がロックされる。
【0033】
図1に戻り、カウンタ軸39は、一対のギヤ(カウンタドライブギヤ、カウンタドリブンギヤ)からなるカウンタギヤ40を介して、フロントドライブシャフト43につながれている。カウンタ軸39に伝達された駆動力は、カウンタギヤ40、及び、フロントドライブシャフト43を介してフロントディファレンシャル(以下「フロントデフ」ともいう)44に伝達される。フロントデフ44は、例えば、ベベルギヤ式の差動装置である。フロントデフ44からの駆動力は、左前輪ドライブシャフト45Lを介して左前輪10FLに伝達されるとともに、右前輪ドライブシャフト45Rを介して右前輪10FRに伝達される。
【0034】
一方、上述したカウンタ軸39上のカウンタギヤ40(カウンタドライブギヤ)の後段には、リヤディファレンシャル50に伝達される駆動力を調節するトランスファクラッチ41が介装されている。トランスファクラッチ41は、4輪の駆動状態(例えば前輪10FL,10FRのスリップ状態等)やエンジントルクなどに応じて締結力(すなわち後輪10RL,10RR(特許請求の範囲の従駆動輪に相当)へのトルク分配率)が制御される。よって、カウンタ軸39に伝達された駆動力は、トランスファクラッチ41の締結力に応じて分配され、後輪10RL,10RR側にも伝達される。
【0035】
より具体的には、カウンタ軸39の後端は、一対のギヤ(トランスファドライブギヤ、トランスファドリブンギヤ)からなるトランスファギヤ42を介して、車両後方へ延在するプロペラシャフト46とつながれている。よって、カウンタ軸39に伝達され、トランスファクラッチ41によって調節(分配)された駆動力は、トランスファギヤ42(トランスファドリブンギヤ)から、プロペラシャフト46を介してリヤディファレンシャル47に伝達される。
【0036】
リヤディファレンシャル47には左後輪ドライブシャフト48L及び右後輪ドライブシャフト48Rが接続されている。リヤディファレンシャル47からの駆動力は、左後輪ドライブシャフト48Lを介して左後輪10RLに伝達されるとともに、右後輪ドライブシャフト48Rを介して右後輪10RRに伝達される。
【0037】
また、車両のフロア(センターコンソール)等には、運転者によるシフト操作を受付けるシフトレバー55が設けられている。シフトレバー55には、シフトレバー55と連動して動くように接続され、該シフトレバー55の選択位置を検出するレンジスイッチ54が取り付けられている。レンジスイッチ54は、TCU50に接続されており、検出されたシフトレバー55の選択位置が、TCU50に読み込まれる。すなわち、シフトレバー55及びレンジスイッチ54は、特許請求の範囲に記載のセレクト手段として機能する。なお、シフトレバー55では、5つのシフトレンジ、すなわち、駐車レンジ(パーキング(P)レンジ)、後進走行レンジ(リバース(R)レンジ)、中立レンジ(ニュートラル(N)レンジ)、前進走行レンジ(ドライブ(D)レンジ)、及び、手動レンジ(マニュアル(M)レンジ)を選択的に切り換えることができる。
【0038】
上述したようにパワートレインの駆動力伝達系が構成されることにより、例えば、シフトレバー55がDレンジに操作された場合には、前進クラッチ28が係合され、エンジン駆動力が無段変速機30のプライマリ軸32に入力される。無段変速機30により変換された駆動力は、セカンダリ軸37から出力され、リダクションギヤ38、カウンタ軸39、カウンタギヤ40を介してフロントドライブシャフト43に伝達される。そして、フロントディファレンシャル44によって駆動力が左右に分配され、左右の前輪10FL,10FRに伝達される。したがって、左右の前輪10FL,10FRは、車両4が走行状態にあるときには、常に駆動される。
【0039】
一方、カウンタ軸39に伝達された駆動力の一部は、トランスファクラッチ41、及びトランスファギヤ42を介してプロペラシャフト46に伝達される。ここで、トランスファクラッチ41に所定のクラッチトルクが付与されると、そのクラッチトルクに応じて分配された駆動力がプロペラシャフト46に出力される。そして、リヤディファレンシャル47を介して駆動力が後輪10RL,10RRにも伝達される。これにより、FFベースのパートタイム式AWD車としての機能が発揮される。
【0040】
無段変速機30を変速させるための油圧、すなわち、上述したプライマリ油圧及びセカンダリ油圧は、バルブボディ(コントロールバルブ)60によってコントロールされる。バルブボディ60は、スプールバルブと該スプールバルブを動かすソレノイドバルブ(電磁弁)を用いてバルブボディ60内に形成された油路を開閉することで、オイルポンプから吐出された油圧を調整して、プライマリプーリ34の油圧室34c及びセカンダリプーリ35の油圧室35cに供給する。同様に、バルブボディ60は、スプールバルブと該スプールバルブを動かすソレノイドバルブを用いてバルブボディ60内に形成された油路を開閉することで、オイルポンプから吐出された油圧を調整して、前進クラッチ28、後進ブレーキ29、及びトランスファクラッチ41に各クラッチを締結/解放するための油圧を供給する。
【0041】
無段変速機30の変速制御は、TCU50によって実行される。すなわち、TCU50は、上述したバルブボディ60を構成するソレノイドバルブ(電磁弁)の駆動を制御することにより、プライマリプーリ34の油圧室34c及びセカンダリプーリ35の油圧室35cに供給する油圧を調節して、無段変速機30の変速比を変更する。同様に、TCU50は、上述したバルブボディ60を構成するソレノイドバルブの駆動を制御することにより、前進クラッチ28、後進ブレーキ29に供給する油圧を調節して前後進を切り替えるとともに、トランスファクラッチ41に供給する油圧を調節して、後輪10RL,10RRへ伝達される駆動力の分配比率を調節する。
【0042】
ここで、TCU50は、CAN(Controller Area Network)100を介して、ビークルダイナミック・コントロールユニット(以下「VDCU」という)70、及びSBW−CU80等と相互に通信可能に接続されている。
【0043】
VDCU70には、ブレーキペダルが踏まれているか否かを検出するブレーキスイッチ71や、ブレーキアクチュエータ74のマスタシリンダ圧力(ブレーキ油圧)を検出するブレーキ液圧センサ72が接続されている。ブレーキスイッチ71及びブレーキ液圧センサ72は、特許請求の範囲に記載のブレーキ操作検出手段として機能する。また、VDCU70には、車両の各車輪の回転速度(車速)を検出する車輪速センサ73等も接続されている。
【0044】
VDCU70は、ブレーキペダルの操作量(踏み込み量)に応じてブレーキアクチュエータ74を駆動して車両を制動するとともに、車両挙動を各種センサ(例えば車輪速センサ73、操舵角センサ、加速度センサ、ヨーレートセンサ等)により検知し、自動加圧によるブレーキ制御とエンジン20のトルク制御により、横滑りを抑制し、旋回時の車両安定性を確保する。
【0045】
VDCU70は、検出したブレーキスイッチ71やブレーキ液圧等の制動情報(ブレーキ操作情報)や車輪速(車速)等を、CAN100を介してTCU50に送信する。なお、VDCU70は、例えば、プリクラッシュセーフティ機能を有する運転支援装置から、自動制動(自動ブレーキ/プリクラッシュブレーキ)要求情報を受信した場合には、自動的にブレーキアクチュエータ74を駆動して車両を制動する。その際に、VDCU70は、このような制動情報(ブレーキ操作情報)もCAN100を介してTCU50に送信する。よって、特許請求の範囲に記載の「ブレーキの操作状態」には、運転者によるブレーキペダルの踏み込みの他、自動制動(自動ブレーキ)の操作状態をも含むものとする。
【0046】
SBW−CU80は、CAN100を介してTCU50から受信した、シフトレンジを含む各種情報等に基づいて、制御信号(モータ駆動信号)を生成して出力し、SBWアクチュエータ81を駆動する。SBWアクチュエータ81は、SBW−CU80からの制御信号に応じて、無段変速30のマニュアル弁を動かして、無段変速機30のシフトレンジを切り替える。すなわち、SBW−CU80及びSBWアクチュエータ81は、特許請求の範囲に記載の切替手段として機能する。なお、SBW−CU80とSBWアクチュエータ81とは、一体的に構成されていてもよい。
【0047】
なお、SBW−CU80は、P(パーキング)レンジが選択された場合に、TCU50からパーキングロックを許可する旨の情報を受信した後に、パーキングロックを行うようにしてもよい。ただし、その際に、Pレンジが選択された後、所定時間(数秒程度)経過した場合には、許可情報の有無にかかわらず、パーキングロックを行うことが好ましい。
【0048】
TCU50には、無段変速機30の出力軸(セカンダリ軸37)近傍に取り付けられ、該出力軸の回転数を検出する出力軸回転センサ(車速センサ)52、及びプライマリプーリ34の回転数を検出するプライマリプーリ回転センサ53が接続されている。また、TCU50には、シフトレバー55の選択位置を検出するレンジスイッチ54が接続されている。さらに、TCU50は、CAN100を介して、上述した、ブレーキスイッチ71やブレーキ液圧等の制動情報(ブレーキ操作情報)、及び車輪速(車速)等の情報を受信する。
【0049】
TCU50は、演算を行うマイクロプロセッサ、該マイクロプロセッサに各処理を実行させるためのプログラムや変速マップ等を記憶するROM、演算結果などの各種データを記憶するRAM、12Vバッテリによってその記憶内容が保持されるバックアップRAM、及び入出力I/F等を有して構成されている。
【0050】
TCU50は、変速マップに従い、車両の運転状態(例えばアクセルペダル開度、車速、あるいはエンジン回転数)に応じて自動で変速比を無段階に変速する。なお、変速マップはTCU50内のROMに格納されている。
【0051】
また、TCU50は、上述した各種センサ等から取得した各種情報に基づいて、トランスファクラッチ制御(AWD制御)を実行する。さらに、TCU50は、P(パーキング)レンジ選択時(パーキングロック時)における、パーキングギヤ114とパーキングポール113との歯打ち音(異音)を低減するようにトランスファクラッチ41の油圧を制御する機能を有している。そのため、TCU50は、トランスファクラッチ制御部51を機能的に有している。TCU50では、ROMに記憶されているプログラムがマイクロプロセッサによって実行されることにより、トランスファクラッチ制御部51の機能が実現される。
【0052】
トランスファクラッチ制御部51は、車両の運転状態(例えば、4輪の駆動状態やエンジントルク等)に基づいて、トランスファクラッチ41の締結力(すなわち後輪10RL,10RRへの駆動力分配率)をリアルタイムに制御する。すなわち、トランスファクラッチ制御部51は、特許請求の範囲に記載のトランスファクラッチ制御手段として機能する。
【0053】
特に、トランスファクラッチ制御部51は、ブレーキペダルが踏み込まれており(車両が制動されており)、かつ車両の速度が所定の速度(例えば停止直前の極低車速)以下になったときにトランスファクラッチ41を一旦解放する。そして、トランスファクラッチ制御部51は、その後、ブレーキペダルが踏み込まれた状態(車両が制動された状態)で車両の速度がゼロになった場合(車両が停止された場合)にトランスファクラッチ41を再締結する。
【0054】
なお、トランスファクラッチ制御部51は、ブレーキペダルが踏み込まれており(車両が制動されており)、かつ車両の速度がゼロになったときに、トランスファクラッチ41を一旦(一時的に)解放した後、再度締結するようにしてもよい。
【0055】
このようなトランスファクラッチ41の解放及び再締結により、トルクコンバータ22とトランスファクラッチ41との間の動力伝達系を構成する駆動軸(例えば、タービン軸31、プライマリ軸32、セカンダリ軸37、カウンタ軸39、フロントドライブシャフト43、左前輪ドライブシャフト45L、及び右前輪ドライブシャフト45R)にはねじれが生じており、トランスファクラッチ41と後輪10RL,10RRとの間の動力伝達系を構成する駆動軸(例えば、プロペラシャフト46、左後輪ドライブシャフト48L、及び右後輪ドライブシャフト48R)にはねじれが生じていない状態が作り出される。
【0056】
そのため、その後、P(パーキング)レンジが選択され、パーキングギヤ114がロックされるときに、トランスファクラッチ41と後輪10RL,10RRとの間の動力伝達系を構成する駆動軸等が有する軸剛性により、前進クラッチ28が解放されてトルクコンバータ22とトランスファクラッチ41との間の駆動軸のねじれが解放されることによって生じるパーキングギヤ114の回転が抑制される。その結果、P(パーキング)レンジ選択時における、パーキングギヤ114とパーキングポール113との歯打ち音(異音)が低減される。
【0057】
なお、無段変速機30のシフトポジションがN(ニュートラル)レンジの場合には、動力伝達系を構成する駆動軸等に駆動力がかからず、該駆動軸等にねじれが生じないため、トランスファクラッチ制御部51は、トランスファクラッチ41の解放及び再締結を禁止する。
【0058】
また、トランスファクラッチ制御部51は、トランスファクラッチ41が再締結された後に、SBW−CU80に対して、無段変速機30のシフトレンジをP(パーキング)レンジに切替えることを許可する情報をCAN100を介して送信するようにしてもよい。
【0059】
次に、
図3を参照しつつ、トランスファクラッチの制御装置1の動作について説明する。
図3は、トランスファクラッチの制御装置1によるトランスファクラッチ制御(歯打ち音低減制御)の処理手順を示すフローチャートである。本処理は、主として、TCU50において、所定のタイミングで繰り返し実行される。
【0060】
ステップS100では、無段変速機30のシフトレンジがD(ドライブ)レンジ又はR(リバース)レンジであるか否かについての判断が行われる。ここで、シフトポジションがDレンジ又はRレンジである場合には、ステップS102に処理が移行する。一方、シフトポジションがDレンジ及びRレンジでないとき、すなわち、N(ニュートラル)レンジのときには、本処理から一旦抜ける。
【0061】
ステップS102では、ブレーキペダルが踏み込まれており(制動中であり)、かつ、車速が所定値以下(例えば停止直前の極低車速、又は車速ゼロ)であるか否かについての判断が行われる。ここで、双方の条件が満足された場合には、ステップS104に処理が移行する。一方、双方の条件が満足されていないとき、又は、いずれか一方の条件が満足されていないときには、本処理から一旦抜ける。
【0062】
ステップS104では、トランスファクラッチ41が解放される。その後、ステップS106では、車速がゼロであるか否か(ブレーキペダルが踏まれて車両が停止したか否か)についての判断が行われる。ここで、車速がゼロの場合には、ステップS108に処理が移行する。一方、車速がゼロでないときには、ステップS104に処理が移行し、車速がゼロになるまで(車両が停止するまで)ステップS104,S106の処理が繰り返して実行される。
【0063】
ステップS108では、トランスファクラッチ41が再締結される。これにより、トルクコンバータ22とトランスファクラッチ41との間の動力伝達系を構成する駆動軸(タービン軸31、プライマリ軸32、セカンダリ軸37、カウンタ軸39、フロントドライブシャフト43、左前輪ドライブシャフト45L、及び右前輪ドライブシャフト45R)にはねじれが生じ、トランスファクラッチ41と後輪10RL,RRとの間の動力伝達系を構成する駆動軸(プロペラシャフト46、左後輪ドライブシャフト48L、及び右後輪ドライブシャフト48R)にはねじれが生じていない状態が作り出される。
【0064】
その後、P(パーキング)レンジが選択されたときに、パーキングギヤ114とパーキングポール113とが嵌合されてパーキングギヤ114がロックされる(ステップS110)。
【0065】
以上、詳細に説明したように、本実施形態によれば、ブレーキペダルが踏まれている(車両が制動されている)状態で車両の速度が所定の速度以下(例えば停止直前の極低車速)になったとき、すなわち、ブレーキペダルが踏まれて車両が停止し、動力伝達系の駆動軸等にねじれが生じ得る状態になる直前に、トランスファクラッチ41が一旦解放される。そして、その後、ブレーキペダルが踏み込まれたまま(車両が制動されたまま)車両が停止した場合にトランスファクラッチ41が再締結される。よって、この一連の動作により、ブレーキペダルが踏まれて車両が停止したときには、トルクコンバータ22とトランスファクラッチ41との間の動力伝達系を構成する駆動軸等にはねじれが生じているが、トランスファクラッチ41と後輪10RL,10RRとの間の動力伝達系を構成する駆動軸等にはねじれが生じていない状態が作り出される。そのため、その後、P(パーキング)レンジが選択され、パーキングギヤ114がロックされるときに、トランスファクラッチ41と後輪10RL,10RRとの間の動力伝達系を構成する駆動軸等が有する軸剛性によって、前進クラッチ28が解放されてトルクコンバータ22とトランスファクラッチ41との間の駆動軸等のねじれが解放されることによって生じるパーキングギヤ114の回転が抑制される。その結果、P(パーキング)レンジ選択時における、パーキングギヤ114とパーキングポール113との歯打ち音(異音)を低減することが可能となる。なお、この場合、車両が完全に停止する前にトランスファクラッチ41が一旦解放され、車両が停止したときにトランスファクラッチ41が再締結されるため、運転者が、車両停止後すぐにPレンジを選択したとしても、パーキングギヤ114とパーキングポール113との歯打ち音を低減することができる。
【0066】
本実施形態によれば、ブレーキペダルが踏まれた状態(制動された状態)で車両が停止したときに、トランスファクラッチ41を一旦解放した後、再締結するように制御することもできる。このようにしても、トルクコンバータ22とトランスファクラッチ41との間の動力伝達系を構成する駆動軸等にはねじれが生じているが、トランスファクラッチ41と後輪10RL,10RRとの間の動力伝達系を構成する駆動軸等にはねじれが生じていない状態が作り出される。そのため、その後、P(パーキング)レンジが選択され、パーキングギヤ114がロックされるときに、トランスファクラッチ41と後輪10RL,10RRとの間の動力伝達系が有する軸剛性によって、前進クラッチ28が解放されてトルクコンバータ22とトランスファクラッチ41との間のねじれが解放されることによって生じるパーキングギヤ114の回転が抑制される。その結果、P(パーキング)レンジ選択時における、パーキングギヤ114とパーキングポール113との歯打ち音を低減することが可能となる。
【0067】
本実施形態によれば、無段変速機30のシフトレンジがN(ニュートラル)レンジの場合には、トランスファクラッチ41の解放及び再締結が禁止される。無段変速機30のシフトレンジがN(ニュートラル)レンジの場合には、動力伝達系を構成する駆動軸等に駆動力がかからないため、該駆動軸等にはねじれが生じない。そのため、パーキングギヤ114がロックされる際に、パーキングギヤ114とパーキングポール113との歯打ち音も生じない。よって、このような場合には、トランスファクラッチ41の解放及び再締結を禁止することにより、不要な動作が行われることを防止することができる。
【0068】
なお、本実施形態によれば、P(パーキング)レンジを選択する操作が受け付けられた場合、トランスファクラッチ41が再締結された後に、SBW−CU80に対して、無段変速機30のシフトレンジをP(パーキング)レンジに切替えることを許可するように制御することもできる。このようにすれば、トランスファクラッチ41が一旦解放された後に再締結され、その後に、無段変速機30のシフトレンジがP(パーキング)レンジに切替えられる。よって、例えば、車両が停止すると同時に、又は車両が停止する直前にP(パーキング)レンジが選択されたような状況であっても、パーキングギヤ114とパーキングポール113との歯打ち音を確実に低減することが可能となる。
【0069】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく種々の変形が可能である。例えば、上記実施形態では、本発明をチェーン式の無段変速機(CVT)に適用したが、チェーン式の無段変速機に代えて、例えば、ベルト式の無段変速機や、トロイダル式の無段変速機等にも適用することができる。また、無段変速機に代えて、有段自動変速機(AT)にも適用することができる。
【0070】
上記実施形態では、トランスファクラッチ41として油圧式のものを用いたが、電磁ソレノイド式のクラッチを用いてもよい。
【0071】
また、上述した駆動力伝達系の構成(例えばギヤや軸等の配置等)は一例であり、上記実施形態には限られない。
【0072】
さらに、上記実施形態では、TCU50、VDCU70、及びSBW−CU80それぞれをCAN100で相互に通信可能に接続したが、システムの構成はこのような形態に限られることなく、例えば、機能的な要件やコスト等を考慮して、任意に変更することができる。その場合に、上記実施形態では、トランスファクラッチ41の制御をTCU50によって行ったが、TCU50から独立した専用のAWDコントローラによって制御する構成としてもよい。
【0073】
上記実施形態では、本発明をSBW式の無段変速機30に適用した場合を例にして説明したが、ワイヤー式のコンベンショナルな無段変速機に適用してもよい。
【0074】
なお、上記実施形態では、主として、D(ドライブ)レンジからP(パーキング)レンジにシフトする場合を例にして説明したが、R(リバース)レンジからP(パーキング)レンジにシフトする場合にも、同様にトランスファクラッチ41を制御することにより、パーキングロック時の歯打ち音(異音)を低減することができる。