(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1は、本発明の実施例に係る人物検知システム100が搭載される建設機械としてのショベルの側面図である。ショベルの下部走行体1には、旋回機構2を介して上部旋回体3が搭載される。上部旋回体3には、ブーム4が取り付けられる。ブーム4の先端にはアーム5が取り付けられ、アーム5の先端にはバケット6が取り付けられる。ブーム4、アーム5、及びバケット6は掘削アタッチメントを構成し、ブームシリンダ7、アームシリンダ8、及びバケットシリンダ9によりそれぞれ油圧駆動される。また、上部旋回体3には、キャビン10が設けられ、且つエンジン等の動力源が搭載される。また、上部旋回体3の上部には撮像装置40が取り付けられる。具体的には、上部旋回体3の後端上部、左端上部、右端上部に後方カメラ40B、左側方カメラ40L、右側方カメラ40Rが取り付けられる。また、キャビン10内にはコントローラ30及び出力装置50が設置される。
【0010】
図2は、人物検知システム100の構成例を示す機能ブロック図である。人物検知システム100は、主に、コントローラ30、撮像装置40、及び出力装置50を含む。
【0011】
コントローラ30は、ショベルの駆動制御を行う制御装置である。本実施例では、コントローラ30は、CPU及び内部メモリを含む演算処理装置で構成され、内部メモリに格納された駆動制御用のプログラムをCPUに実行させて各種機能を実現する。
【0012】
また、コントローラ30は、各種装置の出力に基づいてショベルの周辺に人物が存在するかを判定し、その判定結果に応じて各種装置を制御する。具体的には、コントローラ30は、撮像装置40の出力を受け、抽出部31及び識別部32のそれぞれに対応するソフトウェアプログラムを実行する。そして、その実行結果に応じてショベルの駆動制御を実行し、或いは、出力装置50から各種情報を出力させる。なお、コントローラ30は、画像処理専用の制御装置であってもよい。
【0013】
撮像装置40は、ショベルの周囲の画像を撮像する装置であり、撮像した画像をコントローラ30に対して出力する。本実施例では、撮像装置40は、CCD等の撮像素子を採用するワイドカメラであり、上部旋回体3の上部において光軸が斜め下方を向くように取り付けられる。
【0014】
出力装置50は、各種情報を出力する装置であり、例えば、各種画像情報を表示する車載ディスプレイ、各種音声情報を音声出力する車載スピーカ等を含む。本実施例では、出力装置50は、コントローラ30からの制御指令に応じて各種情報を出力する。
【0015】
抽出部31は、撮像装置40が撮像した撮像画像から識別処理対象画像を抽出する機能要素である。具体的には、抽出部31は、比較的演算量の少ない画像処理(以下、「前段画像認識処理」とする。)によって識別処理対象画像を抽出する。前段画像認識処理は、局所的な輝度勾配又はエッジに基づく簡易な特徴、Hough変換等による幾何学的特徴、輝度に基づいて分割された領域の面積又はアスペクト比に関する特徴等を抽出する画像処理を含む。識別処理対象画像は、後続の画像処理の対象となる画像部分(撮像画像の一部)であり、人物候補画像を含む。人物候補画像は、人物画像である可能性が高いとされる画像部分(撮像画像の一部)である。
【0016】
識別部32は、抽出部31が抽出した識別処理対象画像に含まれる人物候補画像が人物画像であるかを識別する機能要素である。具体的には、識別部32は、比較的演算量の多い画像処理(以下、「後段画像認識処理」とする。)によって人物候補画像が人物画像であるかを識別する。後段画像認識処理は、HOG(Histograms of Oriented Gradients)特徴量に代表される画像特徴量記述と機械学習により生成した識別器とを用いた画像認識処理等を含む。識別部32が人物候補画像を人物画像として識別する割合は、抽出部31による識別処理対象画像の抽出が高精度であるほど高くなる。なお、識別部32は、夜間、悪天候時等の撮像に適さない環境下で所望の品質の撮像画像を得られない場合等においては、人物候補画像の全てが人物画像であると識別してもよい。すなわち、抽出部31が抽出した識別処理対象画像における人物候補画像の全てを人物であると識別してもよい。人物の検知漏れを防止するためである。
【0017】
次に、
図3A及び
図3Bを参照し、後方カメラ40Bが撮像したショベル後方の撮像画像における人物画像の見え方について説明する。なお、
図3A及び
図3Bの2つの撮像画像は、後方カメラ40Bの撮像画像の例である。また、
図3A及び
図3Bの点線円は人物画像の存在を表し、実際の撮像画像には表示されない。
【0018】
後方カメラ40Bは、ワイドカメラであり、且つ、人物を斜め上から見下ろす高さに取り付けられる。そのため、撮像画像における人物画像の見え方は、後方カメラ40Bから見た人物の存在方向によって大きく異なる。例えば、撮像画像中の人物画像は、撮像画像の左右の端部に近いほど傾いて表示される。これは、ワイドカメラの広角レンズに起因する像倒れによる。また、後方カメラ40Bに近いほど頭部が大きく表示される。また、脚部がショベルの車体の死角に入って見えなくなってしまう。これらは、後方カメラ40Bの設置位置に起因する。そのため、撮像画像に何らの加工を施すことなく画像処理によってその撮像画像に含まれる人物画像を識別するのは困難である。
【0019】
そこで、本発明の実施例に係る人物検知システム100は、識別処理対象画像を正規化することで、識別処理対象画像に含まれる人物画像の識別を促進する。なお、「正規化」は、識別処理対象画像を所定サイズ及び所定形状の画像に変換することを意味する。本実施例では、撮像画像において様々な形状を取り得る識別処理対象画像は射影変換によって所定サイズの長方形画像に変換される。なお、射影変換としては例えば8変数の射影変換行列が用いられる。
【0020】
ここで、
図4〜
図6Cを参照し、人物検知システム100が識別処理対象画像を正規化する処理(以下、「正規化処理」とする。)の一例について説明する。なお、
図4は、抽出部31が撮像画像から識別処理対象画像を切り出す際に用いる幾何学的関係の一例を示す概略図である。
【0021】
図4のボックスBXは、実空間における仮想立体物であり、本実施例では、8つの頂点A〜Hで定められる仮想直方体である。また、点Prは、識別処理対象画像を参照するために予め設定される参照点である。本実施例では、参照点Prは、人物の想定立ち位置として予め設定される点であり、4つの頂点A〜Dで定められる四角形ABCDの中心に位置する。また、ボックスBXのサイズは、人物の向き、歩幅、身長等に基づいて設定される。本実施例では、四角形ABCD及び四角形EFGHは正方形であり、一辺の長さは例えば800mmである。また、直方体の高さは例えば1800mmである。すなわち、ボックスBXは、幅800mm×奥行800mm×高さ1800mmの直方体である。
【0022】
4つの頂点A、B、G、Hで定められる四角形ABGHは、撮像画像における識別処理対象画像の領域に対応する仮想平面領域TRを形成する。また、仮想平面領域TRとしての四角形ABGHは、水平面である仮想地面に対して傾斜する。
【0023】
なお、本実施例では、参照点Prと仮想平面領域TRとの関係を定めるために仮想直方体としてのボックスBXが採用される。しかしながら、撮像装置40の方向を向き且つ仮想地面に対して傾斜する仮想平面領域TRを任意の参照点Prに関連付けて定めることができるのであればこの限りではない。例えば、他の仮想立体物を用いた関係等の他の幾何学的関係が採用されてもよく、関数、変換テーブル等の他の数学的関係が採用されてもよい。
【0024】
図5は、ショベル後方の実空間の上面視であり、参照点Pr1、Pr2を用いて仮想平面領域TR1、TR2が参照された場合における後方カメラ40Bと仮想平面領域TR1、TR2との位置関係を示す。なお、本実施例では、参照点Prは、仮想地面上の仮想グリッドの格子点のそれぞれに配置可能である。但し、参照点Prは、仮想地面上に不規則に配置されてもよく、後方カメラ40Bの仮想地面への投影点から放射状に伸びる線分上に等間隔に配置されてもよい。例えば、各線分は1度刻みで放射状に伸び、参照点Prは各線分上に100mm間隔に配置されてもよい。
【0025】
図4及び
図5に示すように、四角形ABFE(
図4参照。)で定められるボックスBXの第1面は、参照点Pr1を用いて仮想平面領域TR1が参照される場合、後方カメラ40Bに正対するように配置される。すなわち、後方カメラ40Bと参照点Pr1とを結ぶ線分は、参照点Pr1に関連して配置されるボックスBXの第1面と上面視で直交する。同様に、ボックスBXの第1面は、参照点Pr2を用いて仮想平面領域TR2が参照される場合にも、後方カメラ40Bに正対するように配置される。すなわち、後方カメラ40Bと参照点Pr2とを結ぶ線分は、参照点Pr2に関連して配置されるボックスBXの第1面と上面視で直交する。この関係は、参照点Prが何れの格子点上に配置された場合であっても成立する。すなわち、ボックスBXは、その第1面が常に後方カメラ40Bに正対するように配置される。
【0026】
図6A〜
図6Cは、撮像画像から正規化画像を生成する処理の流れを示す図である。具体的には、
図6Aは、後方カメラ40Bの撮像画像の一例であり、実空間における参照点Prに関連して配置されるボックスBXを示す。また、
図6Bは、撮像画像における識別処理対象画像の領域TRg(以下、「識別処理対象画像領域TRg」とする。)を切り出した図であり、
図6Aの撮像画像に映し出された仮想平面領域TRに対応する。また、
図6Cは、識別処理対象画像領域TRgを有する識別処理対象画像を正規化した正規化画像TRgtを示す。
【0027】
図6Aに示すように、実空間上で参照点Pr1に関連して配置されるボックスBXは、実空間における仮想平面領域TRの位置を定め、そして、仮想平面領域TRに対応する撮像画像上の識別処理対象画像領域TRgを定める。
【0028】
このように、実空間における参照点Prの位置が決まれば、実空間における仮想平面領域TRの位置が一意に決まり、撮像画像における識別処理対象画像領域TRgも一意に決まる。そして、抽出部31は、識別処理対象画像領域TRgを有する識別処理対象画像を正規化して所定サイズの正規化画像TRgtを生成できる。本実施例では、正規化画像TRgtのサイズは、例えば縦64ピクセル×横32ピクセルである。
【0029】
図7(A1)〜
図7(C2)は、撮像画像と識別処理対象画像領域と正規化画像との関係を示す図である。具体的には、
図7A1は、撮像画像における識別処理対象画像領域TRg3を示し、
図7A2は、識別処理対象画像領域TRg3を有する識別処理対象画像の正規化画像TRgt3を示す。また、
図7B1は、撮像画像における識別処理対象画像領域TRg4を示し、
図7B2は、識別処理対象画像領域TRg4を有する識別処理対象画像の正規化画像TRgt4を示す。同様に、
図7C1は、撮像画像における識別処理対象画像領域TRg5を示し、
図7C2は、識別処理対象画像領域TRg5を有する識別処理対象画像の正規化画像TRgt5を示す。
【0030】
図7(A1)〜
図7(C2)に示すように、撮像画像における識別処理対象画像領域TRg5は、撮像画像における識別処理対象画像領域TRg4より大きい。識別処理対象画像領域TRg5に対応する仮想平面領域と後方カメラ40Bとの間の距離が、識別処理対象画像領域TRg4に対応する仮想平面領域と後方カメラ40Bとの間の距離より小さいためである。同様に、撮像画像における識別処理対象画像領域TRg4は、撮像画像における識別処理対象画像領域TRg3より大きい。識別処理対象画像領域TRg4に対応する仮想平面領域と後方カメラ40Bとの間の距離が、識別処理対象画像領域TRg3に対応する仮想平面領域と後方カメラ40Bとの間の距離より小さいためである。すなわち、撮像画像における識別処理対象画像領域は、対応する仮想平面領域と後方カメラ40Bとの間の距離が大きいほど小さい。その一方で、正規化画像TRgt3、TRgt4、TRgt5は何れも同じサイズの長方形画像である。
【0031】
このように、抽出部31は、撮像画像において様々な形状及びサイズを取り得る識別処理対象画像を所定サイズの長方形画像に正規化し、人物画像を含む人物候補画像を正規化できる。具体的には、抽出部31は、正規化画像の所定領域に人物候補画像の頭部であると推定される画像部分(以下、「頭部画像部分」とする。)を配置する。また、正規化画像の別の所定領域に人物候補画像の胴体部であると推定される画像部分(以下、「胴体部画像部分」とする。)を配置し、正規化画像のさらに別の所定領域に人物候補画像の脚部であると推定される画像部分(以下、「脚部画像部分」とする。)を配置する。また、抽出部31は、正規化画像の形状に対する人物候補画像の傾斜(像倒れ)を抑えた状態で正規化画像を取得できる。
【0032】
次に、
図8A及び
図8Bを参照し、識別処理対象画像領域が、人物画像の識別に悪影響を与える識別に適さない画像領域(以下、「識別処理不適領域」とする。)を含む場合の正規化処理について説明する。識別処理不適領域は、人物画像が存在し得ない既知の領域であり、例えば、ショベルの車体が映り込んだ領域(以下、「車体映り込み領域」とする。)、撮像画像からはみ出た領域(以下、「はみ出し領域」とする。)等を含む。なお、
図8A及び
図8Bは、識別処理対象画像領域と識別処理不適領域との関係を示す図であり、
図7C1及び
図7C2に対応する。また、
図8Aの右下がりの斜線ハッチング領域は、はみ出し領域R1に対応し、左下がりの斜線ハッチング領域は、車体映り込み領域R2に対応する。
【0033】
本実施例では、抽出部31は、識別処理対象画像領域TRg5がはみ出し領域R1及び車体映り込み領域R2の一部を含む場合、それらの識別処理不適領域をマスク処理する。そして、マスク処理した後で、識別処理対象画像領域TRg5を有する識別処理対象画像の正規化画像TRgt5を生成する。なお、抽出部31は、正規化画像TRgt5を生成した後で、正規化画像TRgt5における識別処理不適領域に対応する部分をマスク処理してもよい。
【0034】
図8Bは、正規化画像TRgt5を示す。また、
図8Bにおいて、右下がりの斜線ハッチング領域は、はみ出し領域R1に対応するマスク領域M1を表し、左下がりの斜線ハッチング領域は、車体映り込み領域R2の一部に対応するマスク領域M2を表す。
【0035】
このようにして、抽出部31は、識別処理不適領域の画像をマスク処理することで、識別処理不適領域の画像が識別部32による識別処理に影響を及ぼすのを防止する。このマスク処理により、識別部32は、識別処理不適領域の画像の影響を受けることなく、正規化画像におけるマスク領域以外の領域の画像を用いて人物画像であるかを識別できる。なお、抽出部31は、マスク処理以外の他の任意の公知方法で、識別処理不適領域の画像が識別部32による識別処理に影響を及ぼさないようにしてもよい。
【0036】
次に、
図9を参照し、抽出部31が生成する正規化画像の特徴について説明する。なお、
図9は、正規化画像の例を示す図である。また、
図9に示す14枚の正規化画像は、図の左端に近い正規化画像ほど、後方カメラ40Bから近い位置に存在する人物候補の画像を含み、図の右端に近い正規化画像ほど、後方カメラ40Bから遠い位置に存在する人物候補の画像を含む。
【0037】
図9に示すように、抽出部31は、実空間における仮想平面領域TRと後方カメラ40Bとの間の後方水平距離(
図5に示すY軸方向の水平距離)に関係なく、何れの正規化画像内においてもほぼ同じ割合で頭部画像部分、胴体部画像部分、脚部画像部分等を配置できる。そのため、抽出部31は、識別部32が識別処理を実行する際の演算負荷を低減でき、且つ、その識別結果の信頼性を向上できる。なお、上述の後方水平距離は、実空間における仮想平面領域TRと後方カメラ40Bとの間の位置関係に関する情報の一例であり、抽出部31は、抽出した識別処理対象画像にその情報を付加する。また、上述の位置関係に関する情報は、仮想平面領域TRに対応する参照点Prと後方カメラ40Bとを結ぶ線分の後方カメラ40Bの光軸に対する上面視角度等を含む。
【0038】
次に、
図10を参照し、実空間における仮想平面領域TRと後方カメラ40Bとの間の後方水平距離と、正規化画像における頭部画像部分の大きさとの関係について説明する。なお、
図10上図は、後方カメラ40Bからの後方水平距離がそれぞれ異なる3つの参照点Pr10、Pr11、P12のところに人物が存在する場合の頭部画像部分の大きさL10、L11、L12を示す図であり、横軸が後方水平距離に対応する。また、
図10下図は、後方水平距離と頭部画像部分の大きさの関係を示すグラフであり、縦軸が頭部画像部分の大きさに対応し、横軸が後方水平距離に対応する。なお、
図10上図及び
図10下図の横軸は共通である。また、本実施例は、カメラ高さを2100mmとし、頭部HDの中心の地面からの高さを1600mmとし、頭部の直径を250mmとする。
【0039】
図10上図に示すように、参照点Pr10で示す位置に人物が存在する場合、頭部画像部分の大きさL10は、後方カメラ40Bから見た頭部HDの仮想平面領域TR10への投影像の大きさに相当する。同様に、参照点Pr11、Pr12で示す位置に人物が存在する場合、頭部画像部分の大きさL11、L12は、後方カメラ40Bから見た頭部HDの仮想平面領域TR11、TR12への投影像の大きさに相当する。なお、正規化画像における頭部画像部分の大きさは投影像の大きさに伴って変化する。
【0040】
そして、
図10下図に示すように、正規化画像における頭部画像部分の大きさは、後方水平距離がD1(例えば700mm)以上ではほぼ同じ大きさを維持するが、後方水平距離がD1を下回ったところで急激に増大する。
【0041】
そこで、識別部32は、後方水平距離に応じて識別処理の内容を変更する。例えば、識別部32は、教師あり学習(機械学習)の手法を用いる場合、所定の後方水平距離(例えば650mm)を境に、識別処理で用いる学習サンプルをグループ分けする。具体的には、近距離用グループと遠距離用グループに学習サンプルを分けるようにする。この構成により、識別部32は、より高精度に人物画像を識別できる。
【0042】
以上の構成により、人物検知システム100は、撮像装置40の方向を向き且つ水平面である仮想地面に対して傾斜する仮想平面領域TRに対応する識別処理対象画像領域TRgから正規化画像TRgtを生成する。そのため、人物の高さ方向及び奥行き方向の見え方を考慮した正規化を実現できる。その結果、人物を斜め上から撮像するように建設機械に取り付けられる撮像装置40の撮像画像を用いた場合であっても建設機械の周囲に存在する人物をより確実に検知できる。特に、人物が撮像装置40に接近した場合であっても、撮像画像上の十分な大きさの領域を占める識別処理対象画像から正規化画像を生成できるため、その人物を確実に検知できる。
【0043】
また、人物検知システム100は、実空間における仮想直方体であるボックスBXの4つの頂点A、B、G、Hで形成される矩形領域として仮想平面領域TRを定義する。そのため、実空間における参照点Prと仮想平面領域TRとを幾何学的に対応付けることができ、さらには、実空間における仮想平面領域TRと撮像画像における識別処理対象画像領域TRgとを幾何学的に対応付けることができる。
【0044】
また、抽出部31は、識別処理対象画像領域TRgに含まれる識別処理不適領域の画像をマスク処理する。そのため、識別部32は、車体映り込み領域R2を含む識別処理不適領域の画像の影響を受けることなく、正規化画像におけるマスク領域以外の領域の画像を用いて人物画像であるかを識別できる。
【0045】
また、抽出部31は、識別処理対象画像を抽出した場合、仮想平面領域TRと撮像装置40との位置関係に関する情報として両者間の後方水平距離をその識別処理対象画像に付加する。そして、識別部32は、その後方水平距離に応じて識別処理の内容を変更する。具体的には、識別部32は、所定の後方水平距離(例えば650mm)を境に、識別処理で用いる学習サンプルをグループ分けする。この構成により、識別部32は、より高精度に人物画像を識別できる。
【0046】
また、抽出部31は、参照点Pr毎に識別処理対象画像を抽出可能である。また、識別処理対象画像領域TRgのそれぞれは、対応する仮想平面領域TRを介して、人物の想定立ち位置として予め設定される参照点Prの1つに関連付けられる。そのため、人物検知システム100は、人物が存在する可能性が高い参照点Prを任意の方法で抽出することで、人物候補画像を含む可能性が高い識別処理対象画像を抽出できる。この場合、人物候補画像を含む可能性が低い識別処理対象画像に対して、比較的演算量の多い画像処理による識別処理が施されてしまうのを防止でき、人物検出処理の高速化を実現できる。
【0047】
次に、
図11、
図12A、及び
図12Bを参照し、人物候補画像を含む可能性が高い識別処理対象画像を抽出部31が抽出する処理の一例について説明する。なお、
図11は、抽出部31が撮像画像から識別処理対象画像を切り出す際に用いる幾何学的関係の一例を示す概略図であり、
図4に対応する。また、
図12A及び
図12Bは、撮像画像における特徴画像の一例を示す図である。なお、特徴画像は、人物の特徴的な部分を表す画像であり、望ましくは、実空間における地面からの高さが変化し難い部分を表す画像である。そのため、特徴画像は、例えば、ヘルメットの画像、肩の画像、頭の画像、人物に取り付けられる反射板若しくはマーカの画像等を含む。
【0048】
特に、ヘルメットは、その形状がおよそ球体であり、その投影像が撮像画像上に投影されたときに撮像方向によらず常に円形に近いという特徴を有する。また、ヘルメットは、表面が硬質で光沢又は半光沢を有し、その投影像が撮像画像上に投影されたときに局所的な高輝度領域とその領域を中心とする放射状の輝度勾配を生じさせ易いという特徴を有する。そのため、ヘルメットの画像は、特徴画像として特に相応しい。なお、その投影像が円形に近いという特徴、局所的な高輝度領域を中心とする放射状の輝度勾配を生じさせ易いという特徴等は、撮像画像からヘルメットの画像を見つけ出す画像処理のために利用されてもよい。また、撮像画像からヘルメットの画像を見つけ出す画像処理は、例えば、輝度平滑化処理、ガウス平滑化処理、輝度極大点探索処理、輝度極小点探索処理等を含む。
【0049】
また、撮像画像において局所的な高輝度領域を中心とする放射状のグラデーション(輝度勾配)を生じさせ易いという特徴を安定的に引き出すために、撮像装置40の近くには照明装置が設置されてもよい。この場合、照明装置は、例えば、撮像装置40の撮像領域を照らすように照明装置41の上に取り付けられる。
【0050】
図13は、照明装置41が搭載されたショベルの側面図である。具体的には、後方カメラ40B、左側方カメラ40L、右側方カメラ40Rの上に後方ライト41B、左側方ライト41L、右側方ライト41Rが取り付けられる。
【0051】
この構成により、照明装置は、ヘルメットからの反射光によって形成される撮像画像における局所的な高輝度領域を中心とする放射状の輝度勾配を強調できる。また、照明装置は、背景色と見分けがつきにくい色のヘルメットを目立たせることができ、また、屋内、夜間等、環境光が少ない場所でもヘルメットを目立たせることができる。
【0052】
本実施例では、抽出部31は、前段画像認識処理によって、撮像画像におけるヘルメット画像(厳密にはヘルメットであると推定できる画像)を見つけ出す。ショベルの周囲で作業する人物はヘルメットを着用していると考えられるためである。そして、抽出部31は、見つけ出したヘルメット画像の位置から最も関連性の高い参照点Prを導き出す。その上で、抽出部31は、その参照点Prに対応する識別処理対象画像を抽出する。
【0053】
具体的には、抽出部31は、
図11に示す幾何学的関係を利用し、撮像画像におけるヘルメット画像の位置から関連性の高い参照点Prを導き出す。なお、
図11の幾何学的関係は、実空間における仮想頭部位置HPを定める点で
図4の幾何学的関係と相違するが、その他の点で共通する。
【0054】
仮想頭部位置HPは、参照点Pr上に存在すると想定される人物の頭部位置を表し、参照点Prの真上に配置される。本実施例では、参照点Pr上の高さ1700mmのところに配置される。そのため、実空間における仮想頭部位置HPが決まれば、実空間における参照点Prの位置が一意に決まり、実空間における仮想平面領域TRの位置も一意に決まる。また、撮像画像における識別処理対象画像領域TRgも一意に決まる。そして、抽出部31は、識別処理対象画像領域TRgを有する識別処理対象画像を正規化して所定サイズの正規化画像TRgtを生成できる。
【0055】
逆に、実空間における参照点Prの位置が決まれば、実空間における仮想頭部位置HPが一意に決まり、実空間における仮想頭部位置HPに対応する撮像画像上の頭部画像位置APも一意に決まる。そのため、頭部画像位置APは、予め設定されている参照点Prのそれぞれに対応付けて予め設定され得る。なお、頭部画像位置APは、参照点Prからリアルタイムに導き出されてもよい。
【0056】
そこで、抽出部31は、前段画像認識処理により後方カメラ40Bの撮像画像内でヘルメット画像を探索する。
図12Aは、抽出部31がヘルメット画像HRgを見つけ出した状態を示す。そして、抽出部31は、ヘルメット画像HRgを見つけ出した場合、その代表位置RPを決定する。なお、代表位置RPは、ヘルメット画像HRgの大きさ、形状等から導き出される位置である。本実施例では、代表位置RPは、ヘルメット画像HRgを含むヘルメット画像領域の中心画素の位置である。
図12Bは、
図12Aにおける白線で区切られた矩形画像領域であるヘルメット画像領域の拡大図であり、そのヘルメット画像領域の中心画素の位置が代表位置RPであることを示す。
【0057】
その後、抽出部31は、例えば最近傍探索アルゴリズムを用いて代表位置RPの最も近傍にある頭部画像位置APを導き出す。
図12Bは、代表位置RPの近くに6つの頭部画像位置AP1〜AP6が予め設定されており、そのうちの頭部画像位置AP5が代表位置RPの最も近傍にある頭部画像位置APであることを示す。
【0058】
そして、抽出部31は、
図11に示す幾何学的関係を利用し、導き出した最近傍の頭部画像位置APから、仮想頭部位置HP、参照点Pr、仮想平面領域TRを辿って、対応する識別処理対象画像領域TRgを抽出する。その後、抽出部31は、抽出した識別処理対象画像領域TRgを有する識別処理対象画像を正規化して正規化画像TRgtを生成する。
【0059】
このようにして、抽出部31は、撮像画像における人物の特徴画像の位置であるヘルメット画像HRgの代表位置RPと、予め設定された頭部画像位置APの1つ(頭部画像位置AP5)とを対応付けることで識別処理対象画像を抽出する。
【0060】
なお、抽出部31は、
図11に示す幾何学的関係を利用する代わりに、頭部画像位置APと参照点Pr、仮想平面領域TR、又は識別処理対象画像領域TRgとを直接的に対応付ける参照テーブルを利用し、頭部画像位置APに対応する識別処理対象画像を抽出してもよい。
【0061】
また、抽出部31は、山登り法、Mean-shift法等の最近傍探索アルゴリズム以外の他の公知のアルゴリズムを用いて代表位置RPから参照点Prを導き出してもよい。例えば、山登り法を用いる場合、抽出部31は、代表位置RPの近傍にある複数の頭部画像位置APを導き出し、代表位置RPとそれら複数の頭部画像位置APのそれぞれに対応する参照点Prとを紐付ける。このとき、抽出部31は、代表位置RPと頭部画像位置APが近いほど重みが大きくなるように参照点Prに重みを付ける。そして、複数の参照点Prの重みの分布に基づき、重みの極大点に最も近い重みを有する参照点Prから識別処理対象画像領域TRgを抽出する。
【0062】
次に、
図14を参照し、コントローラ30の抽出部31が識別処理対象画像を抽出する処理(以下、「画像抽出処理」とする。)の一例について説明する。なお、
図14は、画像抽出処理の一例の流れを示すフローチャートである。
【0063】
最初に、抽出部31は、撮像画像内でヘルメット画像を探索する(ステップST1)。本実施例では、抽出部31は、前段画像認識処理により後方カメラ40Bの撮像画像をラスタスキャンしてヘルメット画像を見つけ出す。
【0064】
撮像画像でヘルメット画像HRgを見つけ出した場合(ステップST1のYES)、抽出部31は、ヘルメット画像HRgの代表位置RPを取得する(ステップST2)。
【0065】
その後、抽出部31は、取得した代表位置RPの最近傍にある頭部画像位置APを取得する(ステップST3)。
【0066】
その後、抽出部31は、取得した頭部画像位置APに対応する識別処理対象画像を抽出する(ステップST4)。本実施例では、抽出部31は、
図11に示す幾何学的関係を利用し、撮像画像における頭部画像位置AP、実空間における仮想頭部位置HP、実空間における人物の想定立ち位置としての参照点Pr、及び、実空間における仮想平面領域TRの対応関係を辿って識別処理対象画像を抽出する。
【0067】
なお、抽出部31は、撮像画像でヘルメット画像HRgを見つけ出さなかった場合には(ステップST1のNO)、識別処理対象画像を抽出することなく、処理をステップST5に移行させる。
【0068】
その後、抽出部31は、撮像画像の全体にわたってヘルメット画像を探索したかを判定する(ステップST5)。
【0069】
撮像画像の全体を未だ探索していないと判定した場合(ステップST5のNO)、抽出部31は、撮像画像の別の領域に対し、ステップST1〜ステップST4の処理を実行する。
【0070】
一方、撮像画像の全体にわたるヘルメット画像の探索を完了したと判定した場合(ステップST5のYES)、抽出部31は今回の画像抽出処理を終了させる。
【0071】
このように、抽出部31は、最初にヘルメット画像HRgを見つけ出し、見つけ出したヘルメット画像HRgの代表位置RPから、頭部画像位置AP、仮想頭部位置HP、参照点(想定立ち位置)Pr、仮想平面領域TRを経て識別処理対象画像領域TRgを特定する。そして、特定した識別処理対象画像領域TRgを有する識別処理対象画像を抽出して正規化することで、所定サイズの正規化画像TRgtを生成できる。
【0072】
次に、
図15を参照し、画像抽出処理の別の一例について説明する。なお、
図15は、画像抽出処理の別の一例の流れを示すフローチャートである。
【0073】
最初に、抽出部31は、頭部画像位置APの1つを取得する(ステップST11)。その後、抽出部31は、その頭部画像位置APに対応するヘルメット画像領域を取得する(ステップST12)。本実施例では、ヘルメット画像領域は、頭部画像位置APのそれぞれについて予め設定された所定サイズの画像領域である。
【0074】
その後、抽出部31は、ヘルメット画像領域内でヘルメット画像を探索する(ステップST13)。本実施例では、抽出部31は、前段画像認識処理によりヘルメット画像領域内をラスタスキャンしてヘルメット画像を見つけ出す。
【0075】
ヘルメット画像領域内でヘルメット画像HRgを見つけ出した場合(ステップST13のYES)、抽出部31は、そのときの頭部画像位置APに対応する識別処理対象画像を抽出する(ステップST14)。本実施例では、抽出部31は、
図11に示す幾何学的関係を利用し、撮像画像における頭部画像位置AP、実空間における仮想頭部位置HP、実空間における人物の想定立ち位置としての参照点Pr、及び、実空間における仮想平面領域TRの対応関係を辿って識別処理対象画像を抽出する。
【0076】
なお、抽出部31は、ヘルメット画像領域内でヘルメット画像HRgを見つけ出さなかった場合には(ステップST13のNO)、識別処理対象画像を抽出することなく、処理をステップST15に移行させる。
【0077】
その後、抽出部31は、全ての頭部画像位置APを取得したかを判定する(ステップST15)。そして、全ての頭部画像位置APを未だ取得していないと判定した場合(ステップST15のNO)、抽出部31は、未取得の別の頭部画像位置APを取得し、ステップST11〜ステップST14の処理を実行する。一方、全ての頭部画像位置APを取得したと判定した場合(ステップST15のYES)、抽出部31は今回の画像抽出処理を終了させる。
【0078】
このように、抽出部31は、最初に頭部画像位置APの1つを取得する。そして、取得した頭部画像位置APに対応するヘルメット画像領域でヘルメット画像HRgを見つけ出した場合に、そのときの頭部画像位置APから、仮想頭部位置HP、参照点(想定立ち位置)Pr、仮想平面領域TRを経て、識別処理対象画像領域TRgを特定する。そして、特定した識別処理対象画像領域TRgを有する識別処理対象画像を抽出して正規化することで、所定サイズの正規化画像TRgtを生成できる。
【0079】
以上の構成により、人物検知システム100の抽出部31は、撮像画像における特徴画像としてのヘルメット画像を見つけ出し、そのヘルメット画像の代表位置RPと所定画像位置としての頭部画像位置APの1つとを対応付けることで識別処理対象画像を抽出する。そのため、簡易なシステム構成で後段画像認識処理の対象となる画像部分を絞り込むことができる。
【0080】
なお、抽出部31は、最初に撮像画像からヘルメット画像HRgを見つけ出し、そのヘルメット画像HRgの代表位置RPに対応する頭部画像位置APの1つを導き出し、その頭部画像位置APの1つに対応する識別処理対象画像を抽出してもよい。或いは、抽出部31は、最初に頭部画像位置APの1つを取得し、その頭部画像位置APの1つに対応する特徴画像の位置を含む所定領域であるヘルメット画像領域内にヘルメット画像が存在する場合に、その頭部画像位置APの1つに対応する識別処理対象画像を抽出してもよい。
【0081】
また、抽出部31は、
図11に示すような所定の幾何学的関係を利用し、撮像画像におけるヘルメット画像の代表位置RPから識別処理対象画像を抽出してもよい。この場合、所定の幾何学的関係は、撮像画像における識別処理対象画像領域TRgと、識別処理対象画像領域TRgに対応する実空間における仮想平面領域TRと、仮想平面領域TRに対応する実空間における参照点Pr(人物の想定立ち位置)と、参照点Prに対応する仮想頭部位置HP(人物の想定立ち位置に対応する人物の特徴的な部分の実空間における位置である仮想特徴位置)と、仮想頭部位置HPに対応する撮像画像における頭部画像位置AP(仮想特徴位置に対応する撮像画像における所定画像位置)との幾何学的関係を表す。
【0082】
以上、本発明の好ましい実施例について詳説したが、本発明は、上述した実施例に制限されることはなく、本発明の範囲を逸脱することなしに上述した実施例に種々の変形及び置換を加えることができる。
【0083】
例えば、上述の実施例では、ショベルの上部旋回体3の上に取り付けられる撮像装置40の撮像画像を用いて人物を検知する場合を想定するが、本発明はこの構成に限定されるものではない。例えば、クレーン、リフマグ機等の本体部に取り付けられる撮像装置の撮像画像を用いる構成にも適用され得る。
【0084】
また、上述の実施例では、3つのカメラを用いてショベルの死角領域を撮像するが、1つ、2つ、又は4つ以上のカメラを用いてショベルの死角領域を撮像してもよい。
【0085】
また、本願は、2014年6月3日に出願した日本国特許出願2014−115226号に基づく優先権を主張するものであり、この日本国特許出願の全内容を本願に参照により援用する。