(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6434518
(24)【登録日】2018年11月16日
(45)【発行日】2018年12月5日
(54)【発明の名称】放水路
(51)【国際特許分類】
F28B 9/04 20060101AFI20181126BHJP
F28B 9/06 20060101ALI20181126BHJP
F28F 19/00 20060101ALI20181126BHJP
【FI】
F28B9/04
F28B9/06
F28F19/00 501B
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2016-538143(P2016-538143)
(86)(22)【出願日】2015年1月29日
(86)【国際出願番号】JP2015052564
(87)【国際公開番号】WO2016121063
(87)【国際公開日】20160804
【審査請求日】2016年6月9日
【審判番号】不服2017-4134(P2017-4134/J1)
【審判請求日】2017年3月22日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000211307
【氏名又は名称】中国電力株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】一色国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】和田 泰孝
【合議体】
【審判長】
紀本 孝
【審判官】
山崎 勝司
【審判官】
井上 哲男
(56)【参考文献】
【文献】
実開昭55−131476(JP,U)
【文献】
特開平9−53254(JP,A)
【文献】
特開2001−228288(JP,A)
【文献】
特許第3833417(JP,B2)
【文献】
特開2014−185460(JP,A)
【文献】
特許第4390669(JP,B2)
【文献】
特開2011−191090(JP,A)
【文献】
特許第2823174(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F28B9/04
E02B1/00-9/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
海から取り入れた海水により冷却対象設備を冷却して冷却後の海水を前記海に放出するための、水面上に空間を有し蓋渠もしくは暗渠により構成される放水路であって、
前記放水路の前記空間に外気を流入させるための取込口と、前記空間の空気を排出する排出口と、を備えており、
前記放水路の放水口は海中に設けられ、
前記取込口および前記排出口は、前記放水路の中央より海面側に偏らせて、前記放水路の長軸の方向に互いに間隔を隔てて配置されていることを特徴とする放水路。
【請求項2】
前記取込口と前記排出口との少なくともいずれか一方にファンを備えていることを特徴とする請求項1に記載の放水路。
【請求項3】
前記海から取り入れた前記海水には、塩素系薬剤が注入されており、
冷却後の前記海水を前記海に放出する放水口は海中に配置され、
前記外気は、前記冷却対象設備と前記海水の海面との間において、前記海面側の部位を流通することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の放水路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷却対象設備を冷却した後の海水を海に放出するための放水路に関する。
【背景技術】
【0002】
冷却対象設備を冷却した後の海水を海に放出するための放水路としては、例えば、発電設備に設けられた復水器を海水で冷却する設備を備える冷却水流路が知られている(例えば、特許文献1参照)。この冷却水流路は、海から海水を取り込んで復水器へ供給するための取水路と、復水器を通った海水を海へ放出するための放水路とを有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4390669号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような冷却水流路は、復水器の冷却に利用した海水を海へ放出している。このため、海に放出される海水は、取水時よりも高温になっている。このような冷却水として利用された海水は、環境保全のために、放出される海水と取水された海水との温度差が一定の協定値以下であることが要求される。このため、冷却に利用した後の海水は、放出する前に上記の要求を満足できるように温度を下げなければならないという課題がある。
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、冷却に利用した後の海水の温度を低下させることができる放水路を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前述の目的を達成するため本発明は、海から取り入れた海水により冷却対象設備を冷却して冷却後の海水を前記海に放出するための、水面上に空間を有し蓋渠もしくは暗渠により構成される放水路であって、前記放水路の前記空間に外気を流入させるための取込口と、前記空間の空気を排出する排出口と、を備えており、
前記放水路の放水口は海中に設けられ、前記取込口および前記排出口は、
前記放水路の中央より海面側に偏らせて、
前記放水路の長軸の方向に互いに間隔を隔てて配置されていることを特徴とする放水路である。
【0006】
冷却対象設備を冷却後の海水が、水面上に空間を有する蓋渠もしくは暗渠により構成される放水路内を流通する際には、水面上の空間内には湿気が多いい空気が滞留するが、上記のような取込口と排出口とを備え水面上に空間を有する蓋渠もしくは暗渠により構成される放水路によれば、湿気が多い空気が排出口から排出されるとともに、取込口から湿気が少ない空気が流入される。取込口から取り込まれた湿気が少ない外気が水面上の空間を流通することにより、海水をより蒸発させることが可能である。このとき、冷却後の海水が放水路内にて気化される気化熱により海水温度を低下させることが可能である。
【0007】
かかる放水路であって、前記取込口と前記排出口との少なくともいずれか一方にファンを備えていることが望ましい。
【0008】
このような、放水路によれば、取込口と排出口との少なくともいずれか一方にファンを備えているので、外気を水面上の空間内に強制的に送り込んで、海水温度を効率良く低下させることが可能である。
【0009】
かかる放水路であって、冷却後の前記海水を前記海に放出する放水口は海中に配置され、前記取込口と前記排出口のうちの一方は、前記冷却対象設備側に偏らせて配置され、前記取込口と前記排出口のうちの他方は、海面側に偏らせて設けられていることが望ましい。
【0010】
このような放水路によれば、冷却対象設備と放水口とを繋ぐ放水路の冷却対象設備側に偏らせて取込口または排出口が設けられ、水面上の空間の端となる海面側に偏らせて排出口または取込口が設けられているので、外気を水面上の空間のより長い範囲内を流通させることが可能である。このため、外気により海水の温度の効率良く低下させることが可能である。
【0011】
かかる放水路であって、前記海から取り入れた前記海水には、塩素系薬剤が注入されており、冷却後の前記海水を前記海に放出する放水口は海中に配置され、前記取込口および前記排出口は、前記冷却対象設備と前記海水の海面との間において前記海面側の部位に互いに間隔を隔てて配置されていることが望ましい。
【0012】
このような放水路によれば、海水には塩素系薬剤が注入されているので、放水路内への海洋生物の付着を抑えることが可能である。また、揮発性である塩素系薬剤が注入された海水が水面上の空間に取り込まれた外気に晒されるので、塩素系薬物をより揮発させて、放水する排水への塩素系薬物の残留を抑えることが可能である。このとき、取込口および排出口は、冷却対象設備と海水の海面との間において海面側の部位に互いに間隔を隔てて配置されているので、放水路内を流通する海水は、放水路の全長における少なくとも冷却対象設備側では、外気に晒されない。このため、海に放出される海水の温度を低下させるとともに塩素系薬剤の濃度を低下させつつ、放水路内に海洋生物が付着することを抑制することが可能である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、冷却に利用した後の海水の温度を低下させることができる放水路を提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の一実施形態に係わる放水路を備えた火力発電所の概略平面図である。
【
図2】本実施形態の放水路を説明する模式図である。
【
図3】本実施形態の放水路の変形例を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一実施形態として、例えば、冷却対象設備を火力発電所の復水器とする冷却設備の放水路について説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る火力発電所10の概略平面図である。
図1に示すように、火力発電所10は海2に臨む敷地に建設されている。
【0016】
火力発電所10には、例えば、燃料貯蔵設備12、燃料タンク14、発電設備16等の各種設備が設けられている。本実施形態では、発電設備16に設けられた復水器18を海水で冷却するものとしており、海2から海水を取り込んで復水器18へ供給するための取水路20と、復水器18を通った海水を海2へ放出するための、水面上に空間を有し蓋渠もしくは暗渠により構成される放水路22とが設置される場合がある。海水は取水路20の先端の取水口24から取り込まれ、取水路20を流れて復水器18を通過し、放水路22を流れてその先端の放水口26から海2へ放出される。取水口24及び放水口26は、いずれも海中に設けられている。
【0017】
放水路22は、
図2に示すように、復水器18側から放水口26まで繋がっている。放水路22が、水面上に空間を有し蓋渠もしくは暗渠により構成される場合、放水路22内の、海面2aより下に位置する部位には、海水が充満し、海面2aより上側では、復水器18を通過して高温となった海水が、放水路22の底22a側を流通し、流通する海水の水面上には、海水が気化して湿度が高くなった空気が滞留する空間Sが放水路22に沿って形成される。
【0018】
水面上に空間Sを有し蓋渠もしくは暗渠により構成される放水路22の底22aと対面する上面22b側には、海水が流通する方向(以下、流通方向という)において復水器18側と海面2a側とに、放水路22内の水面上の空間Sと外部とを連通する、少なくとも2つの開口22c、22dが設けられている。
【0019】
本実施形態では、2つの開口22c、22dが設けられており、2つの開口22c、22dのうちの1つには、このような放水路22内の空気を外部に排出するためのファン28が設けられている。このため、ファン28が稼働することにより、ファン28が設けられていない側の開口22dから外気が、このような放水路22内に取り込まれ、ファン28が設けられた開口22cからは放水路22外に放水路22内の空気が排出される。すなわち、ファン28が設けられている開口が排出口としての排気口22cであり、ファン28が設けられていない開口が取込口としての吸気口22dをなしている。本実施形態においては、吸気口22dを、放水路22における中央より復水器18側に偏らせ、排気口22cを放水路22における中央より海面2a側に偏らせて設けることにより、吸気口22dと排気口22cとがより広く間隔を隔てるように、吸気口22dと排気口22cとを配置し、冷却後の海水がより長い間、外気に晒されるようにしている。
【0020】
ところで、復水器18へ供給された海水は、温度が上昇して気化した蒸気とともに放水路22に流入する。このとき、水面上に空間Sを有し蓋渠もしくは暗渠により構成される放水路22が外部に対して閉ざされて復水器18と海2とを連通している場合には、放水路22内の限られた水面上の空間Sに蒸気が滞留して飽和した状態となるので、表面2b側の海水は気化するものの、表面2bより底22a側の海水は温度が下がりにくく、海2に放出される海水の温度は協定値以下に下がり難い。このため、放出される海水の温度を下げるために、例えば、多量の海水を取水するため取水路20を拡幅する、或いは、より温度の低い海水を復水器18に供給するために海2のより深い所の、より低い温度の海水を取り込むことが考えられる。しかしながら、これらの方法は、設備が大きくなるとともにコストが高騰するおそれがある。
【0021】
そこで、本願発明の放水路22では、上述したように、水面上に空間Sを有し蓋渠もしくは暗渠により構成される放水路22の上面22bに少なくとも2つの開口となる吸気口22dおよび排気口22cを設けることにより、放水路22内に外気を取り込むこととしている。特に排気口22cにはファン28を設け、排気口22cから放水路22外に、放水路22内の空気を積極的に排出することにより、放水路22内により多くの外気を取り込むことを可能としている。このように、放水路22内の空気を排出するとともに、放水路22内に当該放水路22内の空気より湿度が低く低温の外気を取り込むことにより、放水路22内を海水が気化し易い環境とする。
【0022】
水面上に空間Sを有し蓋渠もしくは暗渠により構成される放水路22内の海水は、吸気口22dから取り込まれた湿度が低い外気により、放水路22内を流れる海水の表面2b側が蒸発する。このときの気化熱により表面2b側の海水の温度が低下するとともに塩分濃度が上昇することにより密度が高くなるので、表面側2bの海水が、放水路22の底22a側に移動し、底22a側の高温の海水との間にて対流が生じる。表面2b側に移動した高温の海水は、表面2bに至ることにより外気に晒されて蒸発し密度が高くなって底22a側に移動し底22a側の海水と順次入れ替わり、放水路22内の海水全体の温度が低下する。このため、排水の温度を効率良く低下させることが可能である。
【0023】
本実施形態では、排気口22cにファン28を設けて強制的に蒸気を排出させる構成としたので、吸気口22dからは外気が放水路22内の水面上の空間S内に強制的に送り込まれる。このため、放水する海水の温度をさらに効率良く低下させることが可能である。
【0024】
また、吸気口22dと排気口22cとをより広く間隔を隔てて配置したので、外気を水面上の空間Sのより長い範囲に渡って流通させることが可能である。このため、外気により海水の温度の効率良く低下させることが可能である。
【0025】
上記実施形態においては、海2から取水した海水を、そのまま復水器18に供給する例について説明したが、取水路20および放水路22内への海洋生物の付着を抑えるために、復水器18に供給する海水に塩素系薬剤を注入しておいてもよい。この場合には、水面上に空間Sを有し蓋渠もしくは暗渠により構成される放水路22内に外気を取り込むことにより、揮発性を有する塩素系薬剤がより揮発および蒸発しやすくなるので、海に放出する海水の残留塩素系薬物の濃度を低下させることが可能である。
【0026】
このように復水器18に供給する海水に塩素系薬物を注入する場合には、
図3に示すように、吸気口22dと排気口22cとの間隔を広く隔てつつも、吸気口22dと排気口22cとを水面上に空間Sを有し蓋渠もしくは暗渠により構成される放水路22の中央より海面2a側に偏らせて配置することが望ましい。すなわち、放水路22のうちの海面2a側にて、放水路22内の海水が、放水路22内に取り込まれた外気に晒されることが望ましい。復水器18側よりも海面2a側にて塩素系薬物が蒸発し易くすることにより放水路の復水器18側では、塩素系薬物の濃度が高い海水を流通させることができるので、放水路22内において塩素系薬物の濃度が高い海水をより長く流通させることが可能である。このため、海水温を効率良く低下させるとともに、塩素系薬物の濃度も効率良く低下させることが可能である。
【0027】
上記実施形態においては、排気口22cにファン28を設けた例について説明したが、ファンは必ずしも設けられていなくとも、水面上に空間を有し蓋渠もしくは暗渠により構成される放水路の内外の温度差および圧力差により外気が取り込まれるように開口だけが設けられていても構わない。また、吸気口側に水面上の空間に外気を取り込むためのファンが設けられていても構わず、吸気口および排気口のいずれにもファンが設けられていても構わない。
【0028】
上記実施形態においては、吸気口22dと排気口22cとを各々1つずつ備えた例について説明したが、水面上に空間を有し蓋渠もしくは暗渠により構成される放水路内を外気が流れる範囲が確保できれば、それぞれ複数設けられていてもよい。また、上記実施形態においては、吸気口22dを復水器18側に、排気口22cを海面2a側に配置した例について説明したが、吸気口22dを海面2a側に、排気口22cを復水器18側に配置してもよい。
【0029】
上記実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0030】
2 海、2a 海面、2b 表面、10 火力発電所、12 燃料貯蔵設備、
14 タンク、16 発電設備、18 復水器、20 取水路、22 放水路、
22a 底、22b 上面、22c 排気口(開口)、22d 吸気口(開口)、
24 取水口、26 放水口、28 ファン、
S 水面上の空間