特許第6434525号(P6434525)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6434525綱赤血球増殖因子並びにその調製方法及び使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6434525
(24)【登録日】2018年11月16日
(45)【発行日】2018年12月5日
(54)【発明の名称】綱赤血球増殖因子並びにその調製方法及び使用
(51)【国際特許分類】
   C07K 14/475 20060101AFI20181126BHJP
   A61K 38/18 20060101ALI20181126BHJP
   A61P 7/06 20060101ALI20181126BHJP
【FI】
   C07K14/475ZNA
   A61K38/18
   A61P7/06
【請求項の数】4
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2016-548248(P2016-548248)
(86)(22)【出願日】2014年1月27日
(65)【公表番号】特表2017-506221(P2017-506221A)
(43)【公表日】2017年3月2日
(86)【国際出願番号】CN2014071586
(87)【国際公開番号】WO2015109604
(87)【国際公開日】20150730
【審査請求日】2016年7月21日
(31)【優先権主張番号】201410036118.X
(32)【優先日】2014年1月24日
(33)【優先権主張国】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】516219587
【氏名又は名称】南京必▲優▼康生物技▲術▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110000659
【氏名又は名称】特許業務法人広江アソシエイツ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】金以▲豊▼
(72)【発明者】
【氏名】▲呉▼奇
(72)【発明者】
【氏名】▲張▼太平
(72)【発明者】
【氏名】▲馬▼▲暁▼▲艶▼
(72)【発明者】
【氏名】宣佶
【審査官】 田ノ上 拓自
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/003649(WO,A1)
【文献】 特開平06−116300(JP,A)
【文献】 Blood, 1994年,Vol.83, No.1,p.260-268
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 1/00−19/00
A61K 38/18
A61P 7/06
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
WPIDS/WPIX(STN)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミノ酸配列が、α1−アンチトリプシン前駆体の418個のアミノ酸中の断片であり、同一ファミリーに属し、
バンド1−1;配列番号1の24〜418番目のアミノ酸配列、
バンド1−2;配列番号1の25〜418番目のアミノ酸配列、
バンド1−3;配列番号1の27〜418番目のアミノ酸配列、又は
バンド1−4;配列番号1の30〜418番目のアミノ酸配列、
である糖タンパク質又は非糖タンパク質であって、前記断片がRGFファミリーに属する綱赤血球増殖因子を含有することを特徴とする、綱赤血球を増殖させるための薬物。
【請求項2】
(1)0.02mol/LのPBSで、ヒト血漿由来のα1−アンチトリプシン製剤を2.5mg/mlとなるように溶解させる工程と、
(2)HPLC C18F逆相カラムで中性分離して3個のタンパク質ピーク群を得る工程と、ここで、活性測定により、第3ピーク群が綱赤血球の成長促進活性があり、
(3)第3ピーク群を更にHPLC C18Fで二次分離し、溶離勾配を増加させることにより10個のタンパク質収集部分を得る工程であって、ここで、活性測定により、第8収集部分により高い活性があり、
(4)第8収集部分に調製的SDS−PAGEを行い、タンパク質を有することが明らかなゲルバンドを切り取ってすりつぶし、水で繰り返して抽出し、濃縮した後純度と活性を測定し、且つシークエンシングを行う工程と、
から構成される、請求項1に記載の綱赤血球増殖因子の調製方法。
【請求項3】
請求項1に記載の綱赤血球増殖因子を含有する、貧血治療薬物。
【請求項4】
エリスロポエチンと組み合わせて使用することを特徴とする、請求項3に記載の貧血治療薬物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は医薬生物学の技術分野に属し、具体的には綱赤血球増殖因子並びにその調製方法及び使用に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、臨床において重症貧血を治療するための最も効果的な薬物はエリスロポエチン(rhu−EPO)である。1989年に米国アムジェン社の組換えヒト(rhu)EPOがFDAに承認されて以来、rhu−EPOは既に一般に受け入れられ、DNA組換え薬物の最も成功した例に発展した。EPOは赤血球の生成において今まで発見した唯一の特定の赤血球増殖因子である。幹細胞増殖因子(SCF)及び様々なコロニー刺激因子(CSFs)もまた赤血球の生成促進作用を有すると報告されたが、それらの作用は多機能的であり、排他的でない。現在まで、新たな重症貧血を治療する薬物は未だ発見されていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明が解決しようとする課題は、新たな綱赤血球増殖因子(Reticulocyte Growth Factor;RGF)並びにその調製方法及び使用を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の研究過程において、腎細胞培養液並びにヒト尿及び血漿にも赤血球の生成を促進する活性を有するタンパク質が存在し、その分子量、免疫原性、及び受容体でさえもEPOと異なることが発見された。しかし、この活性タンパク質の含有量は非常に低く、十分な純品を取得して性質を研究することが困難であった。最後にヒト血漿由来のα1−アンチトリプシン(α1−antitrypsin)製剤の不純物が高い綱赤血球生成促進活性を有することを見出した。本発明は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)等の生化学的精製手段により得られたいくつの高活性タンパク質であり、いずれもα1−アンチトリプシンの前駆体(precusor)における長さの異なるペプチド断片であり、長さの異なる糖を有し、ある成分には糖が少なく、あるいは糖がないことが同定された。
【0005】
本発明の技術的手段
1.RGFの精製
a.シグマ(Sigma)社製のα1−アンチトリプシン製剤(A−9024)はヒト血漿由来であり、高い綱赤血球生成促進活性がある。活性の測定は程雅琴教授のマウス綱赤血球測定法を採用した。具体的な方法は以下の通りである。
【0006】
動物:ICRマウス、体重18〜22g、雄性
【0007】
サンプル:RGFの活性に応じて希釈し、一般的には5〜20μg/mlである。
【0008】
方法:3匹のマウスを1群として、0.06ml、0.12ml、及び0.24mlで3日間筋肉注射した。4日目に目の縁から採血し、100U/mlヘパリンナトリウムを20μl投入した蓋付きチューブに7〜8滴添加して均一に混合し、50μlの血液を取り出し、これをスライドガラスの一端にプレコーティングされた、乾燥ブリリアントクレシルブルー染料に滴下し、十分に混合させ、湿気箱に30分間放置した。第2のスライドガラスで単層細胞を押圧し、自然乾燥させた後、メタノールで固定し、その後ライト染色液で対比染色を行うと共に、乾燥させないように0.02mol/LのPBS(pH6.8)を滴下し、30分間後、PBS又は蒸留水で染色液を洗浄した。
【0009】
高倍率油浸レンズで観察すると、綱赤血球中の核物質は、ブリリアントクレシルブルーにより濃紺色の点状、線状、鎖状又は集塊状に染色することができ、一方、赤血球は核物質を含まない。計測により、一般に500〜1000個の赤血球があり、ここから綱赤血球の百分率を算出する。各サンプルについて2枚のスライドガラスを観察して平均値を取り、各組の3匹のマウスについて更に平均値を取り、コントロール(0.12μlの生理食塩水)の綱赤血球百分率を引いて、綱赤血球の純増%を得た。1%増加する毎に1単位(U)と定義し、注射されたタンパク質の量(1回の注射量)から比活性を算出し、即ち1mgあたりのタンパク質の刺激により増加した単位(U/mg)を比活性とした。
【0010】
生理食塩水を用いて、異なる濃度のα1−アンチトリプシン製剤を調製した。15匹のICRマウス(体重18〜22gg、雄性)を3匹ずつ5組に分け、コントロール組のマウスには0.12mlの生理食塩水を筋肉注射し、他の組のマウスには、濃度の異なるアンチトリプシン製剤0.12mlを注射し、3日間連続的に注射した後、4日目に目の縁から採血し、ブリリアントクレシルブルーで染色し、油浸レンズで、赤血球中の綱赤血球の百分率をカウントした。その結果、該製剤における綱赤血球生成促進活性が強く、出発材料として更に単離・精製することができることが証明された。結果を以下の表に示す。
【0011】
【表1】
【0012】
以上の表の結果は、α1−アンチトリプシン製剤には、高い綱赤血球生成促進活性が確実に含まれていることを示している。
【0013】
b.α1−アンチトリプシン製剤を、0.02mol/LのPBS(pH6.8)で濃度が2mg/mlとなるように溶解させる。HPLC C18逆相カラムで中性分離して3個のタンパク質ピーク群を得た。活性測定により、第3ピーク群が活性を有することが分かる。C18逆相カラムの分離パターンを図1に示し、その結果を表2に示す。
【0014】
【表2】
【0015】
c.更に第3ピーク群の溶離勾配を大きくして再度C18逆相カラムを用いて、10個の収集部分を得た。活性測定の結果、第8収集部分の活性が最も高く、次いで第7及び9収集部分であり、他の7個の収集部部分はいずれも活性を有していない。分離パターンを図2に示し、活性測定の結果を以下の表に示す。
【0016】
【表3】
【0017】
d.第8収集部分について調製的(preparative)SDS−PAGE(図3に示す。)を行い、クマシーブリリアントブルー染色の表示位置に基づいて、未染色ゲルからバンド1〜4の4本のゲルを切り取り、それぞれすりつぶした後、水で24時間、3回連続的に抽出し、上澄液を合わせ、凍結乾燥させた後活性測定を行った。その結果、バンド1、バンド2、及びバンド3の抽出液のみが活性を示し、バンド4は活性を示さなかった。結果を以下の表に示す。
【0018】
【表4】
【0019】
これらの抽出液を凍結乾燥した後、更にSDS−PAGE検査を行った結果、バンド1及び3にはいずれも明瞭な染色バンドがあり、バンド2は活性が高いが、バンド1のサンプルに近いので、汚染の恐れがあり、また、染色もぼやけており、明らかに単一のバンドではない。よって、バンド1及び3のサンプルを蘇州普泰生物技術公司に送ってシークエンシングを行った。同定の結果、バンド1及び3がいずれもα1−アンチトリプシンの前駆体(precusor)であると確定した。我々はこのファミリーのペプチド断片を、いずれも綱赤血球増殖因子ファミリーRGFsと呼び、前駆体(precusor)の配列は以下の通りである(配列番号1)。
【0020】
【化1】
【0021】
2、RGFの化学的性質
その化学性質を確定するために、調製的電気泳動で得られたバンド1及び3のN端とC端のアミノ酸配列を測定すべく、DTTでジスルフィド結合を開裂し、次いでヨードアセトアミドで−SH基を保護してSDS−PAGEを行い、ゲルのクマシーブリリアントブルー染色を行った後、現れたバンド1及び3のゲルを切り取って、蘇州普泰生物技術有限公司に送り、N端及びC端の配列を測定した。その結果、バンド1(即ち、蘇州普泰生物技術有限公司のシークエンシング報告におけるRGF−6))に含まれる4種の成分がいずれもα1−アンチトリプシン前駆体の長さの異なる断片であり、N端の部位がわずかに異なり、C端がいずれも前駆体のC端であることを示す。
【0022】
バンド3(即ち、蘇州普泰生物技術有限公司の報告におけるRGF−8))は単一の成分であり、N端及びC端がいずれもバンド1−2と完全に同じで、25位〜418位の計394個のアミノ酸からなるが、バンド1の分子量は約50000であり、バンド3の分子量よりも10000以上大きい。バンド1には糖が含まれ、バンド1の成分が糖タンパク質であることが知られているため、分子量から、バンド3のタンパク質には糖が含まれない、あるいは糖の含有量が極めて少ないと推定した。
【0023】
このため、RGFファミリーは、α1−アンチトリプシン前駆体に由来する、長さ及び糖含有量が異なるタンパク質断片群である。そのアミノ酸配列は以下の通りである。
【0024】
N端(バンド1−1;配列番号2)
【化2】
【0025】
N端(バンド1−2;配列番号3)
【化3】
【0026】
N端(バンド1−3;配列番号4)
【化4】
【0027】
N端(バンド1−4;配列番号5)
【化5】
【0028】
C端(配列番号6)
【化6】
【0029】
3.RGFの生物学的性質
a.再生不良性貧血マウスに対するRGFの治療作用。本実験は江蘇省中医学院薬理教研室に委託することにより実施した。
【0030】
モデリング:18〜22gの雄性マウスに対して、100mg/kgのシクロホスファミドを3日間連続して腹腔内注射(ip)した。
【0031】
試験:マウスを5組に分けた。中国国内生産品(寧紅欣)のEPOを用いた。RGFは本実験室で調製された製品であり、8日間連続的に筋肉注射した後採血して、RBC及びWBCを検査した。その結果を以下の表に示す。
【0032】
【表5】
【0033】
明らかにシクロホスファミドによりマウス貧血を引き起こすことができ、EPO又はRGFの注射によりいずれも赤血球の生成を促進することができる。また、半分のEPOと半分のRGFの組み合わせによりマウス赤血球生成の治療する場合、単独での全量による治療効果よりも良く、明らかな相乗効果が示された。尚、注意すべきのは、RGF及びEPOは白血球の生成にも促進効果があり、且つ相乗効果も同じである。
【0034】
b.マウス綱赤血球の生成に対するRGFとEPOとの相乗効果
動物:ICRマウス30匹(雄性、体重18〜22g)を3匹ずつ10組に分けた。
【0035】
実験:RGF及びEPOを以下の3種の濃度:(a)RGF 5μg/ml、(b)EPO(アムジェン社製rhuEPO)18U/ml、(c)RGFとEPOとの等量混合、に配合した。(a)、(b)及び(c)を各組のマウスにそれぞれ0.06ml、0.12ml、0.24mlの3種の用量で3日間連続的に注射した。4日目に目の縁から採血し、スライドガラスに塗り、染色させ、顕微鏡で綱赤血球の増加百分率を検査した。結果を以下の表に示す。
【0036】
【表6】
【0037】
RGF及びEPOはいずれも優れた綱赤血球生成促進活性があり、18U/mlのEPO及び5μg/mlのRGFの活性は非常に近似し、等量のEPOとRGFとを混合した後、明らかな相乗効果が示され、特に0.24mlを注射した試験組は、同様に0.24mlのEPO又はRGFを注射した組よりも、綱赤血球増加百分率が50%程度高い。そして、このような現象はRGFが生体内(インビボ)でマウスEPOの生成を促進することにより発生した見せかけである可能性があるかどうかを調べるため、異なる用量のRGFをマウスに3日間注射した後、マウス血液中のEPOレベルをモノクローナル抗体で測定し、生理食塩水コントロール群と比較した。その結果、EPOレベルが上昇していなかったことから、この可能性は排除された。よって、EPO及びRGFが赤血球の異なる発育段階に作用し、両者のリレー作用により、自然に赤血球の生成速度を増速させると推定した。この仮説は以下の蛍光標識実験で確認された。
【0038】
以上の2つの実験ではいずれも、RGFとEPOとの相乗効果が示され、この現象は重症貧血症の治療に非常に重要な意義があり、貧血症をより合理的且つ効果的に治療することができることを示している。
【0039】
c.蛍光標識試験
蛍光染料ローダミン(RB200)でEPOを標識した。蛍光顕微鏡で観察すると、EPOは赤色であった。また、蛍光染料FITCでRGFを標識した。蛍光顕微鏡で観察すると、RGFは緑色である。4匹のマウスの長骨から約20mlの骨髄細胞サンプルを採取し、1000r/mで4分間遠心し、上澄液を除去し、6mlのハンクス液に再度懸濁し、リンパ細胞分離液で分離し、界面細胞を採取して遠心した。細胞をRPMI1640培養液で1.8×10/mlの細胞懸濁液へと希釈し、5mlを取って遠心し、0.3mlのPBSに再度懸濁し、FITC−RGF60μl及びRB200−EPO60μlを添加し、冷蔵庫で30分間放置し、蛍光顕微鏡で観察した。その結果、細胞の大部分は二重標識で、少数の細胞がFITC−RGF単一標識であったが、最終までRB200−EPO単一標識の細胞は見つからなかった。この現象は、赤血球の発育過程の初期段階においてRGFが作用し、RGFの促進により細胞が次の発育段階に達してからEPOの受容体が現れ、従って、RGFとEPOの受容体が共に発現した二重受容体細胞が現れたことを示している。
【発明の効果】
【0040】
本発明の有益な効果
赤血球の分化成熟は多段階で多因子が関与する複雑な過程であるが、赤血球の生成を促進する第2因子は20年以上発見されていなかったため、綱赤血球増殖因子の発見は非常に重要な意義がある。綱赤血球増殖因子とEPOとを組み合わせて使用すると、単独で使用した場合と比べて効果がより優れる。赤血球の異なる発育段階には異なる因子の誘導及び促進が必要であると証明され、これは赤血球発育の全過程を知り、重症貧血を治療することに対して新たな始まりとなる。本発明は、正常のマウスと再生不良性貧血マウスに現れたRGFとEPOとの相乗効果を解釈することに寄与した。それらは赤血球の異なる発育段階に役割を果たすことから、骨髄細胞はRGFの作用でより多くのEPO受容体を生成し、それにより二重受容体細胞に発育し、EPOが続いて役割を果たし、そのリレー促進により、より良い効果があることを理解することができる。本発明は重症貧血の治療に新たな薬物を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0041】
図1】HPLC C18逆相カラムによるα1−アンチトリプシン製剤の第1次分離のクロマトグラムであり、第2次分離により3個の収集部分が得られ、そのうちの第3部分が活性を有する。
図2】第1次分離よりも分離勾配を大きくしたHPLC C18逆相カラムによる第2次分離であり、10個の収集部分が得られ、そのうちの矢印で示す第8ピークの収集部分の活性が高い。
図3】第2次HPLC分離で得られた10個の収集部分中の第8収集部分のSDS−PAGE図であり、そのうち,分子量が50000程度で最深染色部分がバンド1(RGF−P1)と呼ばれ、分子量が40000程度である部分がバンド3(RGF−P3)と呼ばれ、P1とP3との間の部分がRGF−P2と呼ばれ、P1以上の部分には活性がない。
【発明を実施するための形態】
【0042】
1.2瓶のα1−アンチトリプシン(α1−antitrypsin)製剤を、0.02mol/LのPBS(pH7.0)で濃度が2.5mg/mlとなるように溶解させる。高圧液体クロマトグラフィー(HPLC)C18カラムで中性分離して3個のタンパク質ピーク群を得た。図1に示すように、そのうちの第3ピーク群が強いマウス綱赤血球生成促進作用を示す
【0043】
2.第3ピーク群の溶離勾配を大きくして再度分離した。その結果、10個の収集部分が得られ、図2及び表3に示すように、そのうち、第7、8及び9収集部分のみが綱赤血球生成促進活性を示し、第8収集部分の活性が最も高かった。
【0044】
3.第8収集部分について調製的SDS−PAGEを行い、1本のゲルを縦方向に切り取って、クマシーブリリアントブルー染色で染色することにより、タンパク質バンドの位置を確定した。分子量約50000の位置では比較的深色で幅広いバンドが現われ、対応するゲル塊を切り取ってバンド1とした。分子量約40000の位置における明瞭なバンドを切り取り、バンド3とした。バンド1と3との間の3〜4本の染色体はぼやけており、そのうちのバンド1に近いものをバンド2とし、分子量50000〜68000の間のバントをバンド4とした。これらの4部分のバンドのゲルをそれぞれガラス棒ですりつぶし、水で24時間抽出して上澄液を吸引し、更に3回繰り返した。5日目に、4回の抽出により得られた抽出液を合わせて凍結乾燥させ、更に少量の水に溶解させた後、活性を測定した。その結果、バンド1、2及び3の抽出液にはいずれも高い活性があり、バンド4には活性が認められなかった。この結果を表3に示す。
【0045】
4.バンド1、2及び3の抽出液に対してSDS−PAGEを行った。バンド1及びバンド3には明瞭な染色帯があり、一方、バンド2の染色帯がぼやけており、一部のバンドの位置がバンド1に近すぎることから、バンド1及び3の染色ゲルのみを蘇州普泰生物技術有限公司に送って配列を測定した。測定結果により、バンド1及び3のサンプルがいずれもα1−アンチトリプシンの前駆体(precusor)の一部であることが証明された。結果はアミノ酸配列として示す。
【0046】
5.バンド1及び3の化学性質を確定するために、N端とC端のアミノ酸配列を測定すべく、ゲル抽出液をDTT処理してジスルフィド結合を開裂し、次いでヨードアセトアミドで−SH基を保護してSDS−PAGEを行い、バンド1及び3の染色ゲルを蘇州普泰生物技術有限公司に送って配列を測定した。結果を付属書類2に示す。N端とC端の配列測定の結果から、バンド1に含まれる4種の成分がいずれも、418個のアミノ酸からなるα1−アンチトリプシン前駆体の、長さが異なる断片であり、これらの断片のN端の開始点は異なり、それぞれ24位、25位、27位及び30位のアミノ酸であり、C端がいずれも同じ前駆体の末端であった。バンド3は単一の成分であり、その構造はバンド1−2と完全に同じであり、即ち25位〜418位の計394個のアミノ酸からなる。しかし、分子量が糖を含むバンド1よりも小さいため、分子量に基づいて、バンド3は糖が含まないか、あるいは糖の含有量が極めて少ないと推定された。
【0047】
6.α1−アンチトリプシンの前駆体の配列は知られており、また、その分子量が46878であることも知られている。バンド1及び3の分子量はいずれも前駆体の分子量よりも小さく、且つ分子量40000〜50000の間の更にいくつかの成分も活性を示した。アンチトリプシンの前駆体は、長さの異なる複数のペプチド断片の群に分解することができ、これらのペプチド断片もまた、長さの異なる糖鎖を有するか、あるいは糖鎖がないと推定された。ペプチド断片により構成された活性タンパク質群が異なる作用部位を有するか否かはまだ不明であるが、EPOと共に生物体における赤血球生成の調整作用に関与することは明らかである。
図1
図2
図3
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]