【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の研究過程において、腎細胞培養液並びにヒト尿及び血漿にも赤血球の生成を促進する活性を有するタンパク質が存在し、その分子量、免疫原性、及び受容体でさえもEPOと異なることが発見された。しかし、この活性タンパク質の含有量は非常に低く、十分な純品を取得して性質を研究することが困難であった。最後にヒト血漿由来のα1−アンチトリプシン(α1−antitrypsin)製剤の不純物が高い綱赤血球生成促進活性を有することを見出した。本発明は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)等の生化学的精製手段により得られたいくつの高活性タンパク質であり、いずれもα1−アンチトリプシンの前駆体(precusor)における長さの異なるペプチド断片であり、長さの異なる糖を有し、ある成分には糖が少なく、あるいは糖がないことが同定された。
【0005】
本発明の技術的手段
1.RGFの精製
a.シグマ(Sigma)社製のα1−アンチトリプシン製剤(A−9024)はヒト血漿由来であり、高い綱赤血球生成促進活性がある。活性の測定は程雅琴教授のマウス綱赤血球測定法を採用した。具体的な方法は以下の通りである。
【0006】
動物:ICRマウス、体重18〜22g、雄性
【0007】
サンプル:RGFの活性に応じて希釈し、一般的には5〜20μg/mlである。
【0008】
方法:3匹のマウスを1群として、0.06ml、0.12ml、及び0.24mlで3日間筋肉注射した。4日目に目の縁から採血し、100U/mlヘパリンナトリウムを20μl投入した蓋付きチューブに7〜8滴添加して均一に混合し、50μlの血液を取り出し、これをスライドガラスの一端にプレコーティングされた、乾燥ブリリアントクレシルブルー染料に滴下し、十分に混合させ、湿気箱に30分間放置した。第2のスライドガラスで単層細胞を押圧し、自然乾燥させた後、メタノールで固定し、その後ライト染色液で対比染色を行うと共に、乾燥させないように0.02mol/LのPBS(pH6.8)を滴下し、30分間後、PBS又は蒸留水で染色液を洗浄した。
【0009】
高倍率油浸レンズで観察すると、綱赤血球中の核物質は、ブリリアントクレシルブルーにより濃紺色の点状、線状、鎖状又は集塊状に染色することができ、一方、赤血球は核物質を含まない。計測により、一般に500〜1000個の赤血球があり、ここから綱赤血球の百分率を算出する。各サンプルについて2枚のスライドガラスを観察して平均値を取り、各組の3匹のマウスについて更に平均値を取り、コントロール(0.12μlの生理食塩水)の綱赤血球百分率を引いて、綱赤血球の純増%を得た。1%増加する毎に1単位(U)と定義し、注射されたタンパク質の量(1回の注射量)から比活性を算出し、即ち1mgあたりのタンパク質の刺激により増加した単位(U/mg)を比活性とした。
【0010】
生理食塩水を用いて、異なる濃度のα1−アンチトリプシン製剤を調製した。15匹のICRマウス(体重18〜22gg、雄性)を3匹ずつ5組に分け、コントロール組のマウスには0.12mlの生理食塩水を筋肉注射し、他の組のマウスには、濃度の異なるアンチトリプシン製剤0.12mlを注射し、3日間連続的に注射した後、4日目に目の縁から採血し、ブリリアントクレシルブルーで染色し、油浸レンズで、赤血球中の綱赤血球の百分率をカウントした。その結果、該製剤における綱赤血球生成促進活性が強く、出発材料として更に単離・精製することができることが証明された。結果を以下の表に示す。
【0011】
【表1】
【0012】
以上の表の結果は、α1−アンチトリプシン製剤には、高い綱赤血球生成促進活性が確実に含まれていることを示している。
【0013】
b.α1−アンチトリプシン製剤を、0.02mol/LのPBS(pH6.8)で濃度が2mg/mlとなるように溶解させる。HPLC C
18逆相カラムで中性分離して3個のタンパク質ピーク群を得た。活性測定により、
第3ピーク群が活性を有することが分かる。C
18逆相カラムの分離パターンを
図1に示し、その結果を表2に示す。
【0014】
【表2】
【0015】
c.更に第3ピーク群の溶離勾配を大きくして再度C
18逆相カラムを用いて、10個の収集部分を得た。活性測定の結果、第8収集部分の活性が最も高く、次いで第7及び9収集部分であり、他の7個の収集部部分はいずれも活性を有していない。分離パターンを
図2に示し、活性測定の結果を以下の表に示す。
【0016】
【表3】
【0017】
d.第8収集部分について調製的(preparative)SDS−PAGE(
図3に示す。)を行い、クマシーブリリアントブルー染色の表示位置に基づいて、未染色ゲルからバンド1〜4の4本のゲルを切り取り、それぞれすりつぶした後、水で24時間、3回連続的に抽出し、上澄液を合わせ、凍結乾燥させた後活性測定を行った。その結果、バンド1、バンド2、及びバンド3の抽出液のみが活性を示し、バンド4は活性を示さなかった。結果を以下の表に示す。
【0018】
【表4】
【0019】
これらの抽出液を凍結乾燥した後、更にSDS−PAGE検査を行った結果、バンド1及び3にはいずれも明瞭な染色バンドがあり、バンド2は活性が高いが、バンド1のサンプルに近いので、汚染の恐れがあり、また、染色もぼやけており、明らかに単一のバンドではない。よって、バンド1及び3のサンプルを蘇州普泰生物技術公司に送ってシークエンシングを行った。同定の結果、バンド1及び3がいずれもα1−アンチトリプシンの前駆体(precusor)であると確定した。我々はこのファミリーのペプチド断片を、いずれも綱赤血球増殖因子ファミリーRGFsと呼び、前駆体(precusor)の配列は以下の通りである(配列番号1)。
【0020】
【化1】
【0021】
2、RGFの化学的性質
その化学性質を確定するために、調製的電気泳動で得られたバンド1及び3のN端とC端のアミノ酸配列を測定すべく、DTTでジスルフィド結合を開裂し、次いでヨードアセトアミドで−SH基を保護してSDS−PAGEを行い、ゲルのクマシーブリリアントブルー染色を行った後、現れたバンド1及び3のゲルを切り取って、蘇州普泰生物技術有限公司に送り、N端及びC端の配列を測定した。その結果、バンド1(即ち、蘇州普泰生物技術有限公司のシークエンシング報告におけるRGF−6))に含まれる4種の成分がいずれもα1−アンチトリプシン前駆体の長さの異なる断片であり、N端の部位がわずかに異なり、C端がいずれも前駆体のC端であることを示す。
【0022】
バンド3(即ち、蘇州普泰生物技術有限公司の報告におけるRGF−8))は単一の成分であり、N端及びC端がいずれもバンド1−2と完全に同じで、25位〜418位の計394個のアミノ酸からなるが、バンド1の分子量は約50000であり、バンド3の分子量よりも10000以上大きい。バンド1には糖が含まれ、バンド1の成分が糖タンパク質であることが知られているため、分子量から、バンド3のタンパク質には糖が含まれない、あるいは糖の含有量が極めて少ないと推定した。
【0023】
このため、RGFファミリーは、α1−アンチトリプシン前駆体に由来する、長さ及び糖含有量が異なるタンパク質断片群である。そのアミノ酸配列は以下の通りである。
【0024】
N端(バンド1−1;配列番号2)
【化2】
【0025】
N端(バンド1−2;配列番号3)
【化3】
【0026】
N端(バンド1−3;配列番号4)
【化4】
【0027】
N端(バンド1−4;配列番号5)
【化5】
【0028】
C端(配列番号6)
【化6】
【0029】
3.RGFの生物学的性質
a.再生不良性貧血マウスに対するRGFの治療作用。本実験は江蘇省中医学院薬理教研室に委託することにより実施した。
【0030】
モデリング:18〜22gの雄性マウスに対して、100mg/kgのシクロホスファミドを3日間連続して腹腔内注射(ip)した。
【0031】
試験:マウスを5組に分けた。中国国内生産品(寧紅欣)のEPOを用いた。RGFは本実験室で調製された製品であり、8日間連続的に筋肉注射した後採血して、RBC及びWBCを検査した。その結果を以下の表に示す。
【0032】
【表5】
【0033】
明らかにシクロホスファミドによりマウス貧血を引き起こすことができ、EPO又はRGFの注射によりいずれも赤血球の生成を促進することができる。また、半分のEPOと半分のRGFの組み合わせによりマウス赤血球生成の治療する場合、単独での全量による治療効果よりも良く、明らかな相乗効果が示された。尚、注意すべきのは、RGF及びEPOは白血球の生成にも促進効果があり、且つ相乗効果も同じである。
【0034】
b.マウス綱赤血球の生成に対するRGFとEPOとの相乗効果
動物:ICRマウス30匹(雄性、体重18〜22g)を3匹ずつ10組に分けた。
【0035】
実験:RGF及びEPOを以下の3種の濃度:(a)RGF 5μg/ml、(b)EPO(アムジェン社製rhuEPO)18U/ml、(c)RGFとEPOとの等量混合、に配合した。(a)、(b)及び(c)を各組のマウスにそれぞれ0.06ml、0.12ml、0.24mlの3種の用量で3日間連続的に注射した。4日目に目の縁から採血し、スライドガラスに塗り、染色させ、顕微鏡で綱赤血球の増加百分率を検査した。結果を以下の表に示す。
【0036】
【表6】
【0037】
RGF及びEPOはいずれも優れた綱赤血球生成促進活性があり、18U/mlのEPO及び5μg/mlのRGFの活性は非常に近似し、等量のEPOとRGFとを混合した後、明らかな相乗効果が示され、特に0.24mlを注射した試験組は、同様に0.24mlのEPO又はRGFを注射した組よりも、綱赤血球増加百分率が50%程度高い。そして、このような現象はRGFが生体内(インビボ)でマウスEPOの生成を促進することにより発生した見せかけである可能性があるかどうかを調べるため、異なる用量のRGFをマウスに3日間注射した後、マウス血液中のEPOレベルをモノクローナル抗体で測定し、生理食塩水コントロール群と比較した。その結果、EPOレベルが上昇していなかったことから、この可能性は排除された。よって、EPO及びRGFが赤血球の異なる発育段階に作用し、両者のリレー作用により、自然に赤血球の生成速度を増速させると推定した。この仮説は以下の蛍光標識実験で確認された。
【0038】
以上の2つの実験ではいずれも、RGFとEPOとの相乗効果が示され、この現象は重症貧血症の治療に非常に重要な意義があり、貧血症をより合理的且つ効果的に治療することができることを示している。
【0039】
c.蛍光標識試験
蛍光染料ローダミン(RB200)でEPOを標識した。蛍光顕微鏡で観察すると、EPOは赤色であった。また、蛍光染料FITCでRGFを標識した。蛍光顕微鏡で観察すると、RGFは緑色である。4匹のマウスの長骨から約20mlの骨髄細胞サンプルを採取し、1000r/mで4分間遠心し、上澄液を除去し、6mlのハンクス液に再度懸濁し、リンパ細胞分離液で分離し、界面細胞を採取して遠心した。細胞をRPMI1640培養液で1.8×10
6/mlの細胞懸濁液へと希釈し、5mlを取って遠心し、0.3mlのPBSに再度懸濁し、FITC−RGF60μl及びRB200−EPO60μlを添加し、冷蔵庫で30分間放置し、蛍光顕微鏡で観察した。その結果、細胞の大部分は二重標識で、少数の細胞がFITC−RGF単一標識であったが、最終までRB200−EPO単一標識の細胞は見つからなかった。この現象は、赤血球の発育過程の初期段階においてRGFが作用し、RGFの促進により細胞が次の発育段階に達してからEPOの受容体が現れ、従って、RGFとEPOの受容体が共に発現した二重受容体細胞が現れたことを示している。