特許第6434541号(P6434541)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6434541過給システム及び過給システム用制御装置並びに過給システムの運転方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6434541
(24)【登録日】2018年11月16日
(45)【発行日】2018年12月5日
(54)【発明の名称】過給システム及び過給システム用制御装置並びに過給システムの運転方法
(51)【国際特許分類】
   F02B 39/10 20060101AFI20181126BHJP
   F02B 37/04 20060101ALI20181126BHJP
   F02B 37/24 20060101ALI20181126BHJP
   F02B 37/12 20060101ALI20181126BHJP
   F02B 37/00 20060101ALI20181126BHJP
   F02B 37/013 20060101ALI20181126BHJP
【FI】
   F02B39/10
   F02B37/04 C
   F02B37/24
   F02B37/12 302Z
   F02B37/00 500B
   F02B37/013
【請求項の数】8
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2016-571633(P2016-571633)
(86)(22)【出願日】2015年1月30日
(86)【国際出願番号】JP2015052659
(87)【国際公開番号】WO2016121094
(87)【国際公開日】20160804
【審査請求日】2017年3月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】誠真IP特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】山下 幸生
(72)【発明者】
【氏名】久保 博義
(72)【発明者】
【氏名】後藤 満文
(72)【発明者】
【氏名】坂本 武蔵
【審査官】 倉橋 紀夫
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−220124(JP,A)
【文献】 特開2005−137127(JP,A)
【文献】 特許第4295753(JP,B2)
【文献】 特開2012−173053(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/018411(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02B 33/00 − 41/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンに供給される空気を圧縮するための第1コンプレッサと、前記第1コンプレッサを駆動するための電動機と、を有する第1過給機と、
前記電動機の漏れ電流を計測するための漏れ電流計測部と、
前記第1過給機を制御するための第1制御装置と、を備える過給システムであって、
前記第1制御装置は、前記漏れ電流計測部による計測結果が第1閾値以上のとき、前記計測結果が前記第1閾値未満のときに比べて前記電動機の出力指令値の上限値を低く設定し、該上限値以下の範囲内にて前記電動機の出力を制御するように構成された電動機制御部を含み、
前記第1過給機は、
前記エンジンからの排ガス及び前記電動機により回転駆動可能に構成された第1タービンと、
前記第1タービンに流入する前記排ガスの流路面積を調節するように構成された第1ノズルベーンと、をさらに有し、
前記第1制御装置は、前記漏れ電流計測部の計測結果に基づいて、前記第1ノズルベーンの開度を制御するための第1ベーン制御部をさらに備え、
前記第1ベーン制御部は、前記過給システムによる過給圧と目標過給圧との偏差に基づいて前記第1ノズルベーンの第1目標開度を決定するとともに、前記上限値による前記電動機の前記出力指令値の低減量に応じて、前記流路面積が小さくなるように、前記第1目標開度を補正して第1補正開度を求め、前記第1ノズルベーンの開度を前記第1補正開度に制御するように構成された
ことを特徴とする過給システム。
【請求項2】
前記電動機制御部は、
前記計測結果が前記第1閾値以上、且つ、前記第1閾値よりも大きい第2閾値未満である場合、前記電動機の出力指令値の前記上限値を前記計測結果が前記第1閾値未満の場合に比べて小さく、且つ、ゼロよりも大きい値に設定し、
前記計測結果が前記第2閾値以上である場合、前記電動機の出力指令値の前記上限値をゼロに設定する
ように構成されたことを特徴とする請求項1に記載の過給システム。
【請求項3】
エンジンに供給される空気を圧縮するための第1コンプレッサと、前記第1コンプレッサを駆動するための電動機と、を有する第1過給機と、
前記電動機の漏れ電流を計測するための漏れ電流計測部と、
前記第1過給機を制御するための第1制御装置と、を備える過給システムであって、
前記第1制御装置は、前記漏れ電流計測部による計測結果が第1閾値以上のとき、前記計測結果が前記第1閾値未満のときに比べて前記電動機の出力指令値の上限値を低く設定し、該上限値以下の範囲内にて前記電動機の出力を制御するように構成された電動機制御部を含み、
前記エンジンに供給される空気を圧縮するための第2コンプレッサと、前記エンジンからの排ガスによって回転駆動されて前記第2コンプレッサを駆動するように構成された第2タービンと、前記第2タービンに流入する前記排ガスの流路面積を調節するように構成された第2ノズルベーンと、を有する第2過給機と、
前記第2過給機を制御するための第2制御装置と、をさらに備え、
前記第1過給機と前記第2過給機のうち一方は低圧段過給機であり、
前記第1過給機と前記第2過給機のうち他方は、前記低圧段過給機の前記コンプレッサで圧縮された空気をさらに圧縮して前記エンジンに供給するように構成された高圧段過給機であり、
前記第2制御装置は、前記漏れ電流計測部による計測結果に基づいて、前記第2ノズルベーンの開度を制御するように構成された第2ベーン制御部を含み、
前記第2ベーン制御部は、前記過給システムによる過給圧と目標過給圧との偏差に基づいて前記第2ノズルベーンの第2目標開度を決定するとともに、前記上限値による前記電動機の前記出力指令値の低減量に応じて、前記流路面積が小さくなるように、前記第2目標開度を補正して第2補正開度を求め、前記第2ノズルベーンの開度を前記第2補正開度に制御するように構成された
ことを特徴とする過給システム。
【請求項4】
前記電動機は、バッテリからの直流電圧を三相交流電圧に変換して電動機巻線に供給するためのインバータを含み、
前記漏れ電流計測部は、前記インバータと前記電動機との間の三相交流の電流を一括して計測可能な電流計を含むことを特徴とする請求項1乃至の何れか一項に記載の過給システム。
【請求項5】
前記電動機は、バッテリからの直流電圧を三相交流電圧に変換して電動機巻線に供給するためのインバータを含み、
前記漏れ電流計測部は、前記バッテリと前記インバータとの間の往きと帰りの直流電流を一括して計測可能な電流計を含むことを特徴とする請求項1乃至の何れか一項に記載の過給システム。
【請求項6】
前記漏れ電流計測部は、前記電動機の絶縁抵抗値を計測可能な絶縁抵抗計を含むことを特徴とする請求項1乃至の何れか一項に記載の過給システム。
【請求項7】
請求項1乃至の何れか一項に記載の過給システムに用いられる制御装置であって、
前記漏れ電流計測部による計測結果が第1閾値以上のとき、前記計測結果が前記第1閾値未満のときに比べて前記電動機の出力指令値の上限値を低く設定し、該上限値以下の範囲内にて前記電動機の出力を制御するように構成された電動機制御部を含む第1制御装置を備えることを特徴とする過給システム用制御装置。
【請求項8】
エンジンに供給される空気を圧縮するための第1コンプレッサと、前記第1コンプレッサを駆動するための電動機と、を有する第1過給機を備える過給システムの運転方法であって、
前記電動機の漏れ電流を計測する漏れ電流計測ステップと、
前記漏れ電流計測ステップでの計測結果が第1閾値以上のとき、前記計測結果が前記第1閾値未満のときに比べて前記電動機の出力指令値の上限値を低く設定する出力上限値設定ステップと、
前記出力上限値設定ステップで設定された前記上限値以下の範囲内にて前記電動機の出力を制御する出力制御ステップと、
を備え、
前記第1過給機は、
前記エンジンからの排ガス及び前記電動機により回転駆動可能に構成された第1タービンと、
前記第1タービンに流入する前記排ガスの流路面積を調節するように構成された第1ノズルベーンと、をさらに有し、
前記出力制御ステップは、前記漏れ電流計測ステップでの計測結果に基づいて、前記第1ノズルベーンの開度を制御する第1ベーン制御ステップを含み、
前記第1ベーン制御ステップでは、前記過給システムによる過給圧と目標過給圧との偏差に基づいて前記第1ノズルベーンの第1目標開度を決定するとともに、前記上限値による前記電動機の前記出力指令値の低減量に応じて、前記流路面積が小さくなるように、前記第1目標開度を補正して第1補正開度を求め、前記第1ノズルベーンの開度を前記第1補正開度に制御する
ことを特徴とする過給システムの運転方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、過給システム及び過給システム用制御装置並びに過給システムの運転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電動機(モータ)の故障の代表例である巻線の絶縁劣化が起きると、絶縁劣化の進行に応じて漏れ電流が増加することが知られている。
このような漏れ電流を検出する手法として、特許文献1には、エアコン用電動コンプレッサシステムにおいてインバータモータに電圧が供給される際の漏電の有無を検知するための漏電検出システムが開示されている。この漏電検出システムでは、漏電検出センサにより漏電を検知するようになっており、漏電が検出された場合には、直ちにインバータモータへの電力の供給を停止して、インバータモータの運転を停止するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−298220号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、例えば電動機によって駆動されるコンプレッサを備える電動スーパーチャージャや、エンジン排気によるコンプレッサの駆動が電動機によって補助される電動アシストターボチャージャ等の電動機を備える過給機が知られている。このような電動機を備えた過給機では、漏電が検出された際に上述のように直ちに電動機の運転を停止すると、エンジン出力及び車速が急に低下するため、ドライバビリティが悪化する可能性がある。
【0005】
上述の事情に鑑みて、本発明の少なくとも一実施形態は、電動機の故障に起因するドライバビリティの悪化を緩和可能な過給システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)本発明の少なくとも一実施形態に係る過給システムは、
エンジンに供給される空気を圧縮するための第1コンプレッサと、前記第1コンプレッサを駆動するための電動機と、を有する第1過給機と、
前記電動機の漏れ電流を計測するための漏れ電流計測部と、
前記第1過給機を制御するための第1制御装置と、を備え、
前記第1制御装置は、前記漏れ電流計測部による計測結果が第1閾値以上のとき、前記計測結果が前記第1閾値未満のときに比べて前記電動機の出力指令値の上限値を低く設定し、該上限値以下の範囲内にて前記電動機の出力を制御するように構成された電動機制御部を含む。
【0007】
電動機において巻線の絶縁劣化が起きると、その進行に応じて漏れ電流が増加する。
上記(1)の構成では、電動機の漏れ電流の計測結果が第1閾値以上のとき、すなわち、電動機が故障しているか、又は故障しそうであるときに、そうでない時よりも電動機の出力指令値の上限値が低く設定されて、該上限値の範囲内にて電動機の出力が制御される。このため、電動機の故障判定後に直ちに電動機が停止される場合に比べて、緩やかに電動機出力が低減されるので、ドライバビリティの悪化が緩和される。また、電動機の絶縁劣化は電動機の電線(電動機巻線や電動機から外部に至る電線)の温度に依存し、電線温度が高いほど進行しやすい。この点上記(1)の構成では、電動機の出力を下げることで電動機の電線温度が下がるので、電動機の絶縁劣化の進行を抑制することができる。
【0008】
(2)幾つかの実施形態では、上記(1)の構成において、
前記電動機制御部は、
前記計測結果が前記第1閾値以上、且つ、前記第1閾値よりも大きい第2閾値未満である場合、前記電動機の出力指令値の前記上限値を前記計測結果が前記第1閾値未満の場合に比べて小さく、且つ、ゼロよりも大きい値に設定し、
前記計測結果が前記第2閾値以上である場合、前記電動機の出力指令値の前記上限値をゼロに設定するように構成される。
上記(2)の構成では、電動機の漏れ電流が増加して第1閾値以上となったときに電動機の出力指令値の上限値をゼロより大きい値に減少させ、第1閾値よりも大きい第2閾値以上となったときに電動機の出力指令値の上限値をゼロに設定する。このため、電動機の漏れ電流の増加に従い電動機の出力指令値の上限値を段階的に減少させるので、電動機の故障判定後に直ちに電動機が停止される場合に比べて、緩やかに電動機出力が低下されるので、ドライバビリティの悪化が緩和される。
【0009】
(3)幾つかの実施形態では、上記(1)又は(2)の構成において
前記第1過給機は、
前記エンジンからの排ガス及び前記電動機により回転駆動可能に構成された第1タービンと、
前記第1タービンに流入する前記排ガスの流路面積を調節するように構成された第1ノズルベーンと、をさらに有し、
前記第1制御装置は、前記漏れ電流計測部の計測結果に基づいて、前記第1ノズルベーンの開度を制御するための第1ベーン制御部をさらに備え、
前記第1ベーン制御部は、前記漏れ電流計測部による計測結果が前記第1閾値以上のとき、前記電動機制御部による前記電動機の前記出力指令値の前記上限値の低下に応答して、前記計測結果が前記第1閾値未満のときに比べて前記流路面積が小さくなるように前記第1ノズルベーンの開度を制御するように構成される。
電動機により回転駆動される過給機においては、電動機の出力を低下させることで、過給圧は低下する。一方、タービンに流入する排ガスの流路面積を調節可能に構成されたノズルベーンを備える過給機では、ノズルベーンの開度を小さくして流路面積を絞ることで、過給圧は上昇する。
上記(3)の構成によれば、電動機の漏れ電流が増加して、電動機の出力指令値の上限値を低下させるときに、該出力指令値の低下に応答してノズルベーンの開度を小さくする。すなわち、電動機の出力指令値の低下による過給圧の低下に応じて、ノズルベーンの開度を小さくして過給圧を上昇させるので、電動機制御部による制御を行いながら、過給システムによる過給圧を確保することができる。
【0010】
(4)幾つかの実施形態では、上記(3)の構成において、前記第1ベーン制御部は、前記過給システムによる過給圧と目標過給圧との偏差に基づいて前記第1ノズルベーンの第1目標開度を決定し、前記第1ノズルベーンの開度を前記第1目標開度に制御するように構成される。
上記(4)の構成では、過給システムによる過給圧と目標過給圧との偏差に基づいて決定された目標開度となるように第1ノズルベーンをフィードバック制御するので、電動機制御部による制御を行いながら、過給圧を目標過給圧に近付けることができる。
【0011】
(5)幾つかの実施形態では、上記(4)の構成において、前記第1ベーン制御部は、前記上限値による前記電動機の前記出力指令値の低減量に応じて前記第1目標開度を補正して第1補正開度を求め、前記第1ノズルベーンの開度を前記第1補正開度に制御するように構成される。
上記(5)の構成では、前記上限値によって電動機の出力指令値が低減された量に応じてフィードバック制御における第1ノズルベーンの目標開度を補正するので、目標開度を補正しない場合に比べて、過給圧を迅速に目標過給圧に近付けることができる。
【0012】
(6)幾つかの実施形態では、上記(1)〜(5)の何れかの構成において、
前記エンジンに供給される空気を圧縮するための第2コンプレッサと、前記エンジンからの排ガスによって回転駆動されて前記第2コンプレッサを駆動するように構成された第2タービンと、前記第2タービンに流入する前記排ガスの流路面積を調節するように構成された第2ノズルベーンと、を有する第2過給機と、
前記第2過給機を制御するための第2制御装置と、をさらに備え、
前記第1過給機と前記第2過給機のうち一方は低圧段過給機であり、
前記第1過給機と前記第2過給機のうち他方は、前記低圧段過給機の前記コンプレッサで圧縮された空気をさらに圧縮して前記エンジンに供給するように構成された高圧段過給機であり、
前記第2制御装置は、前記漏れ電流計測部による計測結果が前記第1閾値以上のとき、前記電動機制御部による前記電動機の前記出力指令値の前記上限値の低下に応答して、前記計測結果が前記第1閾値未満のときに比べて前記流路面積が小さくなるように前記ノズルベーンの開度を制御するように構成された第2ベーン制御部を含む。
上記(6)の構成では、第1過給機の電動機の漏れ電流が増加して、電動機の出力指令値の上限値を低下させるときに、該出力指令値の低下に応答して第2過給機のノズルベーンの開度を小さくする。すなわち、第1過給機での圧力比低下に応答して第2過給機での圧力比を上昇させるので、電動機制御部による制御を行いながら、過給システムによる過給圧を確保することができる。
【0013】
(7)幾つかの実施形態では、上記(6)の構成において、前記第2ベーン制御部は、前記過給システムによる過給圧と目標過給圧との偏差に基づいて前記第2ノズルベーンの第2目標開度を決定し、前記第2ノズルベーンの開度を前記第2目標開度に制御するように構成される。
上記(7)の構成では、過給システムによる過給圧と目標過給圧との偏差に基づいて決定された目標開度となるように第2ノズルベーンをフィードバック制御するので、電動機制御部による制御を行いながら、過給圧を目標過給圧に近付けることができる。
【0014】
(8)幾つかの実施形態では、上記(7)の構成において、前記第2ベーン制御部は、前記上限値による前記電動機の前記出力指令値の低減量に応じて前記第2目標開度を補正して第2補正開度を求め、前記第2ノズルベーンの開度を前記第2補正開度に制御するように構成される。
上記(8)の構成では、前記上限値によって電動機の出力指令値が低減された量に応じてフィードバック制御における第2ノズルベーンの目標開度を補正するので、目標開度を補正しない場合に比べて、過給圧を迅速に目標過給圧に近付けることができる。
【0015】
(9)幾つかの実施形態では、上記(1)〜(8)の何れかの構成において、
前記電動機は、バッテリからの直流電圧を三相交流電圧に変換して電動機巻線に供給するためのインバータを含み、
前記漏れ電流計測部は、前記インバータと前記電動機との間の三相交流の電流を一括して計測可能な電流計を含む。
上記(9)の構成によれば、インバータと電動機との間の三相交流における零相電流を計測することによって電動機の漏れ電流を計測することができる。
【0016】
(10)幾つかの実施形態では、上記(1)〜(9)の何れかの構成において、
前記電動機は、バッテリからの直流電圧を三相交流電圧に変換して電動機巻線に供給するためのインバータを含み、
前記漏れ電流計測部は、前記バッテリと前記インバータとの間の往きと帰りの直流電流を一括して計測可能な電流計を含む。
上記(10)の構成によれば、バッテリとインバータとの間の往きと帰りの直流電流の合計を計測することによって電動機の漏れ電流を計測することができる。
【0017】
(11)幾つかの実施形態では、上記(1)〜(10)の何れかの構成において、前記漏れ電流計測部は、前記電動機の絶縁抵抗値を計測可能な絶縁抵抗計を含む。
上記(11)の構成によれば、電動機の絶縁抵抗値の低下から電動機の漏れ電流を検出することができる。また、電動機の絶縁抵抗値の計測は、電動機がバッテリから電力の供給を受けていなくても可能であるので、上記(11)の構成によれば、電動機が稼働していないときでも、電動機の漏れ電流を検知することができる。
【0018】
(12)本発明の少なくとも一実施形態に係る過給システム用制御装置は、
前記(1)〜(11)の何れかの構成を有する過給システムに用いられる制御装置であって、
前記漏れ電流計測部による計測結果が第1閾値以上のとき、前記計測結果が前記第1閾値未満のときに比べて前記電動機の出力指令値の上限値を低く設定し、該上限値以下の範囲内にて前記電動機の出力を制御するように構成された電動機制御部を含む第1制御装置を備える。
【0019】
電動機において巻線の絶縁劣化が起きると、その進行に応じて漏れ電流が増加する。
上記(12)の構成では、電動機の漏れ電流の計測結果が第1閾値以上のとき、すなわち、電動機が故障しているか、又は故障しそうであるときに、そうでない時よりも電動機の出力指令値の上限値が低く設定されて、該上限値の範囲内にて電動機の出力が制御される。このため、電動機の故障判定後に直ちに電動機が停止される場合に比べて、緩やかに電動機出力が低減されるので、ドライバビリティの悪化が緩和される。また、電動機の絶縁劣化は電動機の電線(電動機巻線や電動機から外部に至る電線)の温度に依存し、電線温度が高いほど進行しやすい。この点上記(12)の構成では、電動機の出力を下げることで電動機の電線温度が下がるので、電動機の絶縁劣化の進行を抑制することができる。
【0020】
(13)本発明の少なくとも一実施形態に係る過給システムの運転方法は、
エンジンに供給される空気を圧縮するための第1コンプレッサと、前記第1コンプレッサを駆動するための電動機と、を有する第1過給機を備える過給システムの運転方法であって、
前記電動機の漏れ電流を計測する漏れ電流計測ステップと、
前記漏れ電流計測ステップでの前記計測結果が前記第1閾値以上のとき、前記計測結果が前記第1閾値未満のときに比べて前記電動機の出力指令値の上限値を低く設定する出力上限値設定ステップと、
前記出力上限値設定ステップで設定された前記上限値以下の範囲内にて前記電動機の出力を制御する出力制御ステップと、を備える。
【0021】
電動機において巻線の絶縁劣化が起きると、その進行に応じて漏れ電流が増加する。
上記(13)の方法では、電動機の漏れ電流の計測結果が第1閾値以上のとき、すなわち、電動機が故障しているか、又は故障しそうであるときに、そうでない時よりも電動機の出力指令値の上限値が低く設定されて、該上限値の範囲内にて電動機の出力が制御される。このため、電動機の故障判定後に直ちに電動機が停止される場合に比べて、緩やかに電動機出力が低減されるので、ドライバビリティの悪化が緩和される。また、電動機の絶縁劣化は電動機の電線(電動機巻線や電動機から外部に至る電線)の温度に依存し、電線温度が高いほど進行しやすい。この点上記(1)の方法では、電動機の出力を下げることで電動機の電線温度が下がるので、電動機の絶縁劣化の進行を抑制することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明の少なくとも一実施形態によれば、電動機の故障に起因するドライバビリティの悪化を緩和可能な過給システムが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】一実施形態に係る過給システムの構成を示す図である。
図2】一実施形態に係る過給システムの構成を示す図である。
図3】一実施形態に係る過給機の有するタービンの概略断面図である。
図4】一実施形態に係る過給システム用制御装置の構成を示す図である。
図5】一実施形態に係る過給システムの運転方法のフローチャートである。
図6】一実施形態に係るノズルベーン開度制御のフローチャートである。
図7】一実施形態に係るノズルベーン開度制御のフローチャートである。
図8】一実施形態に係る過給システムの制御ブロック図である。
図9】一実施形態に係る過給システムの構成を示す図である。
図10】一実施形態に係る過給システムの構成を示す図である。
図11】一実施形態に係る過給システムの構成を示す図である。
図12】一実施形態に係る過給システムの構成を示す図である。
図13】一実施形態に係る過給システム用制御装置の構成を示す図である。
図14】一実施形態に係る過給システムの運転方法のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、添付図面を参照して本発明の幾つかの実施形態について説明する。ただし、実施形態として記載されている又は図面に示されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、本発明の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
【0025】
図1図2及び図9図12は、それぞれ、一実施形態に係る過給システムの構成を示す図である。図1図2及び図9図12に示すように、過給システム1は、車両等に搭載されるエンジン8に供給される空気の圧力を圧縮するように構成された第1過給機2と、漏れ電流計測部4と、制御装置100と、を備える。第1過給機2は、エンジン8に供給される空気を圧縮するための第1コンプレッサ10と、第1コンプレッサ10を駆動するための電動機12とを有する。漏れ電流計測部4は、電動機12の漏れ電流を計測するように構成される。また、制御装置100は、第1過給機2を制御するための第1制御装置110を含む。
【0026】
図1図9および図10に示す第1過給機2は、第1コンプレッサ10が電動機12によって駆動される電動スーパーチャージャである。ここで、電動機12は、バッテリ30からの直流電圧を三相交流電圧に変換して電動機巻線に供給するためのインバータ28を含み、インバータ28を介してバッテリ30から電力の供給を受けて、回転エネルギーを生成するように構成される。第1コンプレッサ10は、回転軸11を介して電動機12に接続されており、電動機12により生成された回転エネルギーによって回転軸11が回転して第1コンプレッサ10が回転駆動されて、第1コンプレッサ10に流入した吸気が圧縮されるようになっている。
【0027】
図2図11および図12に示す第1過給機2は、第1タービン14をさらに備え、エンジン8からの排ガスにより第1タービン14が回転駆動されるとともに、排ガスによる第1タービン14の回転駆動が電動機12によって補助される電動アシストターボチャージャである。すなわち、第1タービンは、エンジン8からの排ガス及び電動機12により回転駆動可能に構成される。この第1過給機2では、第1タービン14が回転軸11を介して第1コンプレッサ10と接続されており、第1コンプレッサ10と同軸で回転可能に構成される。第1過給機において、第1タービン14は、エンジン8からの排ガスが流入することにより回転駆動されて、これに伴い回転軸11を介して第1コンプレッサ10が同軸駆動されて、第1コンプレッサ10に流入した吸気が圧縮されるようになっている。
【0028】
図2図11および図12に示す第1過給機2において、電動機12は、図1等に示す第1過給機2と同様に、バッテリ30からの直流電圧を三相交流電圧に変換して電動機巻線に供給するためのインバータ28を含み、インバータ28を介してバッテリ30から電力の供給を受けて、回転エネルギーを生成するように構成される。そして、回転軸11の回転又は第1コンプレッサ10の回転駆動を補助するように構成される。
【0029】
図2に示す第1過給機2は、第1タービン14に流入するエンジン8からの排ガスの流路面積を調節するように構成された第1ノズルベーン16をさらに有する。
ここで、図3を参照して、ノズルベーンによる排ガスの流路面積の調節について説明する。図3は、一実施形態に係る過給機の有するタービン(ここでは第1タービン14)の概略断面図である。図3に示すように、第1タービン14は、タービンケーシング50内に複数の動翼56が取り付けられたタービンロータ54を備える。タービンロータ54は回転軸11を介して第1コンプレッサ10に接続される。エンジン8からの排ガスが第1タービン14に流入すると、動翼56が排ガスの流れを受けてタービンロータ54が回転し、これにより第1コンプレッサ10が回転駆動されるようになっている。タービンロータ54の外周側には、支持軸17を回動軸として回動自在に構成された複数のノズルベーン16が設けられている。
【0030】
複数のノズルベーン16は、アクチュエータ(不図示)によって支持軸17を回転させることで開度を変化させることができるようになっている。図3において、破線で示されるノズルベーン16aは、実線で示されるノズルベーン16よりも開度が大きい状態である。すなわち、破線で示されるノズルベーン16a同士の間の距離D2は、実線で示されるノズルベーン16同士の間の距離D1よりも大きい。このため、排ガスの流路面積は、開度が小さい時に比べて、開度が大きい時の方が大きくなる。
ノズルベーン16の開度を減少させる(すなわち、排ガスの流路面積を減少させる)ことで、排ガスの第1タービン14への流入速度が上昇するため、過給システム1による過給圧を上昇させることができる。また、ノズルベーン16の開度を開く(すなわち、排ガスの流路面積を増加させる)ことで、排ガスの第1タービン14への流入速度が減少するため、過給システム1による過給圧を減少させることができる。このようにして、ノズルベーン16の開度を調整することにより、過給システム1による過給圧を調節することができる。
【0031】
図1図2及び図9図12に示す過給システム1では、吸気管路32に導入された空気(吸気)は、第1過給機2の第1コンプレッサ10に流入し、第1コンプレッサ10の回転により圧縮される。第1コンプレッサ10で圧縮された吸気は、インタークーラ34で冷却され、スロットルバルブ(不図示)でその吸気量が調整されて、吸気マニフォールド36を介してエンジン8の各気筒に供給されるようになっている。エンジン8の各気筒には、圧縮空気及び燃料が供給されて、これらが燃焼して生成した排ガスは、排気マニフォールド38を介して排気管路40に排出されるようになっている。
なお、吸気管路32において、吸気マニフォールド36よりも上流側には、エンジン8に供給される空気の圧力(過給圧)を計測するための圧力センサ5が設けられていてもよい。
【0032】
図2に示す過給システム1では、エンジン8からの排ガスは、第1過給機2の第1タービン14に流入し、第1タービン14で仕事をした後の排ガスが排気管路40に排出されるようになっている。
排気管路40には、第1タービン14を迂回するバイパス管路42が接続されていてもよく、バイパス管路42には、ウェイストゲートバルブ43が設けられていてもよい。ウェイストゲートバルブ43の開度を調節することにより、第1タービン14に流入する排ガスの流量及びバイパス管路42に流れる排ガスの流量を調節することができ、これにより、第1タービン14及びこれと同軸駆動する第1コンプレッサ10の回転数を制御できるようになっている。ウェイストゲートバルブ43の開度は、制御装置100によって制御されるようになっていてもよい。
【0033】
図4は、一実施形態に係る過給システム用制御装置の構成を示す図である。図4に示すように、一実施形態に係る過給システム1に用いられる制御装置100は、第1過給機2を制御するための第1制御装置110を備える。一実施形態において、第1制御装置110は、電動機制御部112と、第1ベーン制御部114と、を含む。
制御装置100は、過給システム1を制御するためのECUであってもよい。また、制御装置100は、エンジン8を制御するためのエンジンECUとは独立に設けられたECUであってもよい。
制御装置100は、中央処理装置(CPU)、ランダムアクセスメモリ(RAM)、リードオンリメモリ(ROM)、およびI/Oインターフェイス等を含んで構成されたマイクロコンピュータであってもよい。
【0034】
一実施形態に係る制御装置100を用いた過給システム1の運転方法について、図5のフローチャートに沿って説明する。図5は、一実施形態に係る過給システムの運転方法のフローチャートである。
【0035】
まず、第1コンプレッサを駆動するための電動機12の漏れ電流を計測する(S2)。電動機12の漏れ電流は、漏れ電流計測部4(後で説明する)を用いて計測する。
電動機12において、電動機12の故障の代表例である巻線の絶縁劣化が起きると、その進行に応じて漏れ電流が増加する。すなわち、漏れ電流の値により、電動機12の故障の進行の状態を知ることができる。
漏れ電流計測部4で得られた計測値は、電気信号として第1制御装置110に送られるようになっている。
【0036】
次に、S2における電動機12の漏れ電流の計測結果が予め設定された第1閾値を超えたか否かを判定する(S4)。第1制御装置110は記憶部(メモリ)を備えていてもよく、第1閾値は、予め記憶部に記憶されていてもよい。そして、第1制御装置110は、記憶部に記憶された第1閾値と、漏れ電流計測部4から送られた計測値とを比較するように構成されていてもよい。
【0037】
S4において電動機12の漏れ電流の計測結果が第1閾値未満であると判定された場合(S4のNo)、特に何も行わずにフローを終了する。あるいは、再度S2に戻って漏れ電流を計測するステップを行ってもよい。
一方、S4において電動機12の漏れ電流の計測結果が第1閾値以上であると判定された場合(S4のYes)、電動機制御部112によって、漏れ電流の計測結果が第1閾値未満であるときに比べて電動機12の出力指令値の上限値を低く設定し、該上限値以下の範囲内にて電動機12の出力を制御する(S8またはS10)。
このように、電動機12の漏れ電流の計測結果が第1閾値以上のとき、すなわち、電動機12が故障しているか、又は故障しそうであるときに、そうでない時よりも電動機12の出力指令値の上限値が低く設定されて、該上限値の範囲内にて電動機12の出力が制御される。このため、電動機12の故障判定後に直ちに電動機12が停止される場合に比べて、緩やかに電動機12の出力が低減されるので、ドライバビリティの悪化が緩和される。また、電動機12の絶縁劣化は電動機12の電線(電動機巻線や電動機から外部に至る電線)の温度に依存し、電線温度が高いほど進行しやすい。この点、上述のように電動機12の出力を下げることで電動機12の電線温度が下がるので、電動機12の絶縁劣化の進行を抑制することができる。
なお、電動機制御部112は、電動機12の出力を制御するために、電動機12の出力が所望の値となるように、インバータ28が電動機12に与える電圧を制御するようになっていてもよい。
【0038】
上述のように、S4において電動機12の漏れ電流の計測結果が第1閾値以上であると判定された場合(S4のYes)、さらに漏れ電流の計測結果が第1閾値よりも大きい第2閾値を超えるか否かを判定するよう(S6)になっていてもよい。そして、S6において電動機12の漏れ電流の計測結果が第2閾値未満である場合には(S6のNo)、電動機制御部112は、電動機12の出力指令値の上限値を、漏れ電流の計測結果が第1閾値未満の場合に比べて小さく、且つ、ゼロよりも大きい値に設定し、該上限値以下の範囲内にて電動機12の出力を制御する(S8)。一方、S6において電動機12の漏れ電流の計測結果が第2閾値以上である場合には(S6のYes)、電動機制御部112によって、電動機12の出力指令値の上限値をゼロに設定し、電動機12の出力がゼロとなるように制御する(S10)。
この場合、電動機12の漏れ電流の増加に従い電動機12の出力指令値の上限値を段階的に減少させるので、電動機12の故障判定後に直ちに電動機12が停止される場合に比べて、緩やかに電動機12の出力が低下されるので、ドライバビリティの悪化が緩和される。
【0039】
第2閾値は、第1制御装置110の記憶部に予め記憶されていてもよい。そして、第1制御装置110は、記憶部に記憶された第2閾値と、漏れ電流計測部4から送られた計測値とを比較するように構成されていてもよい。
【0040】
第1過給機2が、第1タービン14および第1タービン14に流入するエンジン8からの排ガスの流路面積を調節するための第1ノズルベーン16を有する場合、第1ベーン制御部114により第1ノズルベーン16の開度を制御して(S12)、過給システム1による過給圧を確保するようになっていてもよい。より具体的には、第1ベーン制御部114は、漏れ電流計測部4による計測結果が第1閾値以上のとき(S4のYes)、S8またはS10における電動機制御部112による電動機12の出力指令値の上限値の低下に応答して、漏れ電流の計測結果が第1閾値未満のときに比べて第1タービン14に流入する排ガスの流路面積が小さくなるように第1ノズルベーン16の開度を制御する。
このように、電動機12の出力指令値の低下による過給圧の低下に応じて、第1ノズルベーン16の開度を小さくして過給圧を上昇させるので、電動機制御部112による制御を行いながら、過給システム1による過給圧を確保することができる。
【0041】
図6および図7は、それぞれ、一実施形態に係る第1ノズルベーン開度を制御するステップ(S12)のフローチャートである。一実施形態では、図6に示すように、第1ノズルベーン16の制御に際して、第1ベーン制御部114により、過給システム1による過給圧と目標過給圧との偏差に基づいて第1ノズルベーン16の第1目標開度を決定し(S14)、第1ノズルベーン16の開度を第1目標開度に制御する(S16)。
このように、過給システム1による過給圧と目標過給圧との偏差に基づいて決定された目標開度となるように第1ノズルベーン16をフィードバック制御(例えば、PI制御またはPID制御)することで、電動機制御部112による制御を行いながら、過給圧を目標過給圧に近付けることができる。
なお、過給システム1による過給圧は、圧力センサ5によって計測されて、電気信号として第1制御装置110に送られるようになっていてもよい。
【0042】
一実施形態では、図7に示すように、第1ベーン制御部114により、過給システム1による過給圧と目標過給圧との偏差に基づいて第1ノズルベーン16の第1目標開度を決定した後(S18)、S8またはS10にて設定された上限値による電動機12の出力指令値の低減量に応じて第1ノズルベーン16の第1目標開度を補正して第1補正開度を求め(S20)、第1ノズルベーン16の開度を第1補正開度に制御する(S22)。
このように、上限値によって電動機12の出力指令値が低減された量に応じてフィードバック制御における第1ノズルベーン16の目標開度を補正するので、目標開度を補正しない場合に比べて、過給圧を迅速に目標過給圧に近付けることができる。
【0043】
図8は、一実施形態に係る過給システムの制御ブロック図である。この制御ブロック図には、上述した電動機制御部112および第1ベーン制御部114における制御演算の流れが示されている。
図8に示す制御ブロック図において、まず、指令値算出部102にて、過給システム1における目標過給圧P、および、圧力センサ5により計測された、過給システム1による実際の過給圧Pに基づいて、目標過給圧Pを達成するためのモータ出力指令値Pおよびノズルベーン開度指令値(第1目標開度)Oが算出される。なお、モータ出力指令値Pおよびノズルベーン開度指令値(第1目標開度)Oの算出にあたり、過給圧Pや目標過給圧Pに加えて、車速、エンジン回転数、アクセル踏み込み量などを考慮してもよい。
【0044】
電動機制御部112においては、上限値決定部104により、漏れ電流計測部4によって計測された漏れ電流Iの値に基づいて、電動機12の出力指令値の上限値が決定される。たとえば、漏れ電流計測部4による計測結果が上述の第1閾値以上のとき、漏れ電流の計測結果が1閾値未満のときに比べて電動機12の出力指令値の上限値を低く設定する。そして、リミッタ106において、設定された出力指令値の上限値以下となるように、モータ出力指令値Pに制限をかけることによりPが得られる。こうして得られたPがモータ出力指令値として、電動機12の出力の制御に用いられる。
【0045】
第1ベーン制御部114においては、補正部108にて、第1ノズルベーン16の第1目標開度Oを補正して、第1補正開度(第1ノズルベーン開度指令値)Oを得る。
補正部108では、電動機12の出力指令値の低減量、すなわち、指令値算出部102にて算出されたモータ出力指令値Pと、リミッタ106により上限値が制限されたモータ出力指令値Pとの差に応じて、第1ノズルベーン16の第1目標開度が補正されて、第1補正開度(第1ノズルベーン開度指令値)Oが得られる。こうして得られたOが第1補正開度(第1ノズルベーン開度指令値)として、第1ノズルベーン16の開度の制御に用いられる。
【0046】
図9図12に示す実施形態に係る過給システム1は、第2過給機6と、第2過給機6を制御するための第2制御装置120と、をさらに備える。
【0047】
第2過給機6は、エンジン8に供給される空気を圧縮するための第2コンプレッサ20と、エンジン8からの排ガスによって回転駆動されて第2コンプレッサ20を駆動するように構成された第2タービン24と、を有するターボチャージャである。また、第2過給機6は、第2タービン24に流入する排ガスの流路面積を調節するように構成された第2ノズルベーン26を有する。
第1過給機2と第2過給機6は、過給システム1において直列に配置されており、第1過給機2と第2過給機6のうち一方は低圧側(すなわち、吸気の入り口に近い方)に配置される低圧段過給機(90)である。また、第1過給機2と第2過給機6のうち他方は、低圧段過給機(90)のコンプレッサ(第1コンプレッサ10または第2コンプレッサ20)で圧縮された空気をさらに圧縮してエンジン8に供給するように構成された高圧段過給機(92)である。
【0048】
図9および図10に示す過給システム1において、第1過給機2は、前述したように、第1コンプレッサ10が電動機12によって駆動される電動スーパーチャージャである。このうち、図9に示す過給システム1では、電動スーパーチャージャである第1過給機2が低圧段過給機90であり、ノズルベーンを有するターボチャージャである第2過給機6が高圧段過給機92である。図10に示す過給システム1では、ノズルベーンを有するターボチャージャである第2過給機6が低圧段過給機90であり、電動スーパーチャージャである第1過給機2が高圧段過給機92である。
図11および図12に示す過給システム1において、第2過給機6は、前述したように、エンジン8からの排ガスにより第1タービン14が回転駆動されるとともに、排ガスによる第1タービン14の回転駆動が電動機12によって補助される電動アシストターボチャージャである。このうち、図11に示す過給システム1では、電動アシストターボチャージャである第1過給機2が低圧段過給機90であり、ノズルベーンを有するターボチャージャである第2過給機6が高圧段過給機92である。図10に示す過給システム1では、ノズルベーンを有するターボチャージャである第2過給機6が低圧段過給機90であり、電動アシストターボチャージャである第1過給機2が高圧段過給機92である。
【0049】
図9図12に示す過給システム1は、低圧段過給機90のコンプレッサ(10又は20)及び高圧段過給機92のコンプレッサ(20又は10)が配置される吸気管路32において、高圧段過給機92のコンプレッサ(20又は10)の上流側と下流側を結び、該コンプレッサ(20又は10)をバイパスするように設けられた再循環通路46と、再循環通路46に設けられた再循環バルブ47とを含む。過給システム1におけるサージングを抑制するために、吸気管路32に導入されて低圧段過給機90のコンプレッサ(10又は20)及び高圧段過給機92のコンプレッサ(20又は10)で圧縮された空気の一部を、再循環バルブ47を介して再循環通路46を通って高圧段過給機92のコンプレッサ(20又は10)の入口に戻すことができるようになっている。
【0050】
図9及び図10に示す過給システム1では、エンジン8からの排ガスは、第2過給機6の第2タービン24に流入し、第2タービン24で仕事をした後の排ガスが排気管路40に排出されるようになっている。
排気管路40には、第2タービン24を迂回するバイパス管路42が接続されていてもよく、バイパス管路42には、ウェイストゲートバルブ43が設けられていてもよい。ウェイストゲートバルブ43の開度を調節することにより、第2タービン24に流入する排ガスの流量及びバイパス管路42に流れる排ガスの流量を調節することができ、これにより、第2タービン24及びこれと同軸駆動する第2コンプレッサ20の回転数を制御できるようになっている。ウェイストゲートバルブ43の開度は、制御装置100によって制御されるようになっていてもよい。
【0051】
図11及び図12に示す過給システム1では、エンジン8からの排ガスは、高圧段過給機92のタービン(24又は14)及び低圧段過給機90のタービン(14又は24)に、この順に流入し、低圧段過給機90のタービン(14又は24)で仕事をした後の排ガスが排気管路40に排出されるようになっている。
排気管路40には、低圧段過給機90のタービン(14又は24)を迂回するバイパス管路42が接続されていてもよく、バイパス管路42には、ウェイストゲートバルブ43が設けられていてもよい。ウェイストゲートバルブ43の開度を調節することにより、低圧段過給機90のタービン(14又は24)に流入する排ガスの流量及びバイパス管路42に流れる排ガスの流量を調節することができ、これにより、低圧段過給機90のタービン(14又は24)及びこれと同軸駆動する低圧段過給機90のコンプレッサ(10又は20)の回転数を制御できるようになっている。ウェイストゲートバルブ43の開度は、制御装置100によって制御されるようになっていてもよい。
また、排気管路40と排気マニフォールド38とは、高圧段過給機92のタービン(24又は14)を迂回するように構成された第2バイパス流路48が接続されている。エンジン8からの排気の一部は、第2バイパス流路48に設けられたバイパス弁45を介して、高圧段過給機92のタービン(24又は14)を通らずに、低圧段過給機90のタービン(14又は24)に流入できるようになっている。そして、バイパス弁45の開度を調節することにより、高圧段過給機92のタービン(24又は14)及び低圧段過給機90のタービン(14又は24)に流入する排ガスの流量を調節することができ、これにより、高圧段過給機92のタービン(24又は14)及び低圧段過給機90のタービン(14又は24)及びこれと同軸駆動する高圧段過給機92のコンプレッサ(20又は10)及び低圧段過給機90のコンプレッサ(10又は20)の回転数を制御できるようになっている。バイパス弁45の開度は、制御装置100によって制御されるようになっていてもよい。
【0052】
図13は、一実施形態に係る過給システム用制御装置の構成を示す図である。図13に示すように、一実施形態に係る過給システム1に用いられる制御装置100は、第1過給機2を制御するための第1制御装置110と、第2過給機6を制御するための第2制御装置120とを備える。一実施形態において、第1制御装置110は、電動機制御部112と、第1ベーン制御部114と、を含み、第2制御装置120は、第2ベーン制御部を含む。第1制御装置110及び第2制御装置120の各々は、中央処理装置(CPU)、ランダムアクセスメモリ(RAM)、リードオンリメモリ(ROM)、およびI/Oインターフェイス等を含んで構成されたマイクロコンピュータであってもよい。
図9図12に示す過給システム1は、例えば、図13に示す制御装置100を用いて制御することができる。
【0053】
第1制御装置110及び第2制御装置120を含む制御装置100を用いた過給システム1の運転方法について、図14のフローチャートに沿って説明する。図14は、一実施形態に係る過給システムの運転方法のフローチャートである。
ここで、図14におけるS32、S34、S36、S38及びS40は、それぞれ、図5のフローチャートにおけるS2、S4、S6、S8及びS10と同様であるので、説明を省略する。
【0054】
S34において、電動機12の漏れ電流の計測結果が第1閾値以上であると判定されたとき(S34のYes)、第2ベーン制御部122により第2ノズルベーン26の開度を制御して(S42)、過給システム1による過給圧を確保するようになっていてもよい。より具体的には、第2ベーン制御部122は、漏れ電流計測部4による計測結果が第1閾値以上のとき(S34のYes)、S38またはS40における電動機制御部112による電動機12の出力指令値の上限値の低下に応答して、漏れ電流の計測結果が第1閾値未満のときに比べて第2タービン24に流入する排ガスの流路面積が小さくなるように第2ノズルベーン26の開度を制御する。
このように、電動機12の出力指令値の低下による過給圧の低下に応じて、第2ノズルベーン26の開度を小さくして過給圧を上昇させるので、電動機制御部112による制御を行いながら、過給システム1による過給圧を確保することができる。
【0055】
S42における第2ノズルベーン26の開度は、例えば、上記に説明した図6又は図7に示したフローチャートに従って制御することができる。
すなわち、一実施形態では、図6に示すように、第2ノズルベーン26の制御に際して、第2ベーン制御部122により、過給システム1による過給圧と目標過給圧との偏差に基づいて第2ノズルベーン26の第2目標開度を決定し(S14)、第2ノズルベーン26の開度を第2目標開度に制御する(S16)。
このように、過給システム1による過給圧と目標過給圧との偏差に基づいて決定された目標開度となるように第2ノズルベーン26をフィードバック制御(例えば、PI制御またはPID制御)することで、電動機制御部112による制御を行いながら、過給圧を目標過給圧に近付けることができる。
【0056】
また、一実施形態では、図7に示すように、第2ベーン制御部122により、過給システム1による過給圧と目標過給圧との偏差に基づいて第2ノズルベーン26の第2目標開度を決定した後(S18)、S38またはS40にて設定された上限値による電動機12の出力指令値の低減量に応じて第2ノズルベーン26の第2目標開度を補正して第2補正開度を求め(S20)、第2ノズルベーン26の開度を第2補正開度に制御する(S22)。
このように、上限値によって電動機12の出力指令値が低減された量に応じてフィードバック制御における第2ノズルベーン26の目標開度を補正するので、目標開度を補正しない場合に比べて、過給圧を迅速に目標過給圧に近付けることができる。
【0057】
次に、幾つかの実施形態に係る漏れ電流計測部4について説明する。
一実施形態では、漏れ電流計測部4は、バッテリ30からの直流電圧を三相交流電圧に変換して電動機巻線に供給するためのインバータ28と、電動機12との間の三相交流の電流を一括して計測可能な電流計である。このような電流計として、クランプ電流計が挙げられる。
例えばクランプ電流計を用いて、インバータ28と電動機12との間の三相交流における零相電流を一括して計測することによって電動機12の漏れ電流を計測することができる。すなわち、三相交流の電流を一括して計測した合計電流がゼロであれば、電動機12の巻線において絶縁に問題が無く、漏れ電流が発生していないことを示す。一方、三相交流の電流を一括して計測した合計電流がゼロでなければ、電動機12において漏れ電流が発生していることを示し、合計電流の値が増加していれば、巻線の絶縁劣化が進行していることを示す。
【0058】
一実施形態では、漏れ電流計測部4は、バッテリ30とインバータ28との間の往きと帰りの直流電流を一括して計測可能な電流計である。このような電流計として、クランプ電流計が挙げられる。
例えばクランプ電流計を用いて、バッテリ30とインバータ28との間の往きと帰りの直流電流の合計を一括して計測することによって電動機12の漏れ電流を計測することができる。すなわち、バッテリ30とインバータ28との間の往きと帰りの直流電流を一括して計測した合計電流がゼロであれば、電動機12の巻線において絶縁に問題が無く、漏れ電流が発生していないことを示す。一方、バッテリ30とインバータ28との間の往きと帰りの直流電流を一括して計測した合計電流がゼロでなければ、電動機12において漏れ電流が発生していることを示し、合計電流の値が増加していれば、巻線の絶縁劣化が進行していることを示す。
【0059】
一実施形態では、漏れ電流計測部4は、電動機12の絶縁抵抗値を計測可能な絶縁抵抗計である。
電動機12の絶縁抵抗値の低下は、電動機12の漏れ電流の増加を意味する。よって、電動機12の絶縁抵抗値を計測するための絶縁抵抗計により、電動機12の漏れ電流を検出することができる。また、電動機12の絶縁抵抗値の計測は、電動機12がバッテリ30から電力の供給を受けていなくても可能であるので、絶縁抵抗計を用いる場合、電動機12が稼働していないときでも、電動機12の漏れ電流を検知することができる。
【0060】
なお、漏れ電流計測部4による漏れ電流の監視は、制御装置100が行ってもよい。また、漏れ電流計測部4による漏れ電流の監視は、制御装置100が直接行わずに、インバータコントローラが行い、通信(例えばCAN)経由で制御装置100に送られるようになっていてもよい。
【0061】
このように、電動機12が最終的な絶縁不良に陥る前に、電動機12の故障の予兆である漏れ電流の増加から異常を検知し、これに基づいて電動機12の出力の制御を行うことで、電動機12の故障に起因するドライバビリティの悪化が緩和可能となる。
【0062】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述した実施形態に限定されることはなく、上述した実施形態に変形を加えた形態や、これらの形態を適宜組み合わせた形態も含む。
【0063】
本明細書において、「ある方向に」、「ある方向に沿って」、「平行」、「直交」、「中心」、「同心」或いは「同軸」等の相対的或いは絶対的な配置を表す表現は、厳密にそのような配置を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の角度や距離をもって相対的に変位している状態も表すものとする。
また、本明細書において、「同一」、「等しい」及び「均質」等の物事が等しい状態であることを表す表現は、厳密に等しい状態を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の差が存在している状態も表すものとする。
また、本明細書において、一の構成要素を「備える」、「含む」、又は、「有する」という表現は、他の構成要素の存在を除外する排他的な表現ではない。
【符号の説明】
【0064】
1 過給システム
2 第1過給機
4 電流計測部
5 圧力センサ
6 第2過給機
8 エンジン
10 第1コンプレッサ
11 回転軸
12 電動機
14 第1タービン
16 第1ノズルベーン
17 支持軸
20 第2コンプレッサ
24 第2タービン
26 第2ノズルベーン
28 インバータ
30 バッテリ
32 吸気管路
34 インタークーラ
36 吸気マニフォールド
38 排気マニフォールド
40 排気管路
42 バイパス管路
43 ウェイストゲートバルブ
45 バイパス弁
46 再循環通路
47 再循環バルブ
48 第2バイパス流路
50 タービンケーシング
54 タービンロータ
56 動翼
90 低圧段過給機
92 高圧段過給機
100 制御装置
102 指令値算出部
104 上限値決定部
106 リミッタ
108 補正部
110 第1制御装置
112 電動機制御部
114 第1ベーン制御部
120 第2制御装置
122 第2ベーン制御部
図1
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