【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)本発明の少なくとも一実施形態に係る過給システムは、
エンジンに供給される空気を圧縮するための第1コンプレッサと、前記第1コンプレッサを駆動するための電動機と、を有する第1過給機と、
前記電動機の漏れ電流を計測するための漏れ電流計測部と、
前記第1過給機を制御するための第1制御装置と、を備え、
前記第1制御装置は、前記漏れ電流計測部による計測結果が第1閾値以上のとき、前記計測結果が前記第1閾値未満のときに比べて前記電動機の出力指令値の上限値を低く設定し、該上限値以下の範囲内にて前記電動機の出力を制御するように構成された電動機制御部を含む。
【0007】
電動機において巻線の絶縁劣化が起きると、その進行に応じて漏れ電流が増加する。
上記(1)の構成では、電動機の漏れ電流の計測結果が第1閾値以上のとき、すなわち、電動機が故障しているか、又は故障しそうであるときに、そうでない時よりも電動機の出力指令値の上限値が低く設定されて、該上限値の範囲内にて電動機の出力が制御される。このため、電動機の故障判定後に直ちに電動機が停止される場合に比べて、緩やかに電動機出力が低減されるので、ドライバビリティの悪化が緩和される。また、電動機の絶縁劣化は電動機の電線(電動機巻線や電動機から外部に至る電線)の温度に依存し、電線温度が高いほど進行しやすい。この点上記(1)の構成では、電動機の出力を下げることで電動機の電線温度が下がるので、電動機の絶縁劣化の進行を抑制することができる。
【0008】
(2)幾つかの実施形態では、上記(1)の構成において、
前記電動機制御部は、
前記計測結果が前記第1閾値以上、且つ、前記第1閾値よりも大きい第2閾値未満である場合、前記電動機の出力指令値の前記上限値を前記計測結果が前記第1閾値未満の場合に比べて小さく、且つ、ゼロよりも大きい値に設定し、
前記計測結果が前記第2閾値以上である場合、前記電動機の出力指令値の前記上限値をゼロに設定するように構成される。
上記(2)の構成では、電動機の漏れ電流が増加して第1閾値以上となったときに電動機の出力指令値の上限値をゼロより大きい値に減少させ、第1閾値よりも大きい第2閾値以上となったときに電動機の出力指令値の上限値をゼロに設定する。このため、電動機の漏れ電流の増加に従い電動機の出力指令値の上限値を段階的に減少させるので、電動機の故障判定後に直ちに電動機が停止される場合に比べて、緩やかに電動機出力が低下されるので、ドライバビリティの悪化が緩和される。
【0009】
(3)幾つかの実施形態では、上記(1)又は(2)の構成において
前記第1過給機は、
前記エンジンからの排ガス及び前記電動機により回転駆動可能に構成された第1タービンと、
前記第1タービンに流入する前記排ガスの流路面積を調節するように構成された第1ノズルベーンと、をさらに有し、
前記第1制御装置は、前記漏れ電流計測部の計測結果に基づいて、前記第1ノズルベーンの開度を制御するための第1ベーン制御部をさらに備え、
前記第1ベーン制御部は、前記漏れ電流計測部による計測結果が前記第1閾値以上のとき、前記電動機制御部による前記電動機の前記出力指令値の前記上限値の低下に応答して、前記計測結果が前記第1閾値未満のときに比べて前記流路面積が小さくなるように前記第1ノズルベーンの開度を制御するように構成される。
電動機により回転駆動される過給機においては、電動機の出力を低下させることで、過給圧は低下する。一方、タービンに流入する排ガスの流路面積を調節可能に構成されたノズルベーンを備える過給機では、ノズルベーンの開度を小さくして流路面積を絞ることで、過給圧は上昇する。
上記(3)の構成によれば、電動機の漏れ電流が増加して、電動機の出力指令値の上限値を低下させるときに、該出力指令値の低下に応答してノズルベーンの開度を小さくする。すなわち、電動機の出力指令値の低下による過給圧の低下に応じて、ノズルベーンの開度を小さくして過給圧を上昇させるので、電動機制御部による制御を行いながら、過給システムによる過給圧を確保することができる。
【0010】
(4)幾つかの実施形態では、上記(3)の構成において、前記第1ベーン制御部は、前記過給システムによる過給圧と目標過給圧との偏差に基づいて前記第1ノズルベーンの第1目標開度を決定し、前記第1ノズルベーンの開度を前記第1目標開度に制御するように構成される。
上記(4)の構成では、過給システムによる過給圧と目標過給圧との偏差に基づいて決定された目標開度となるように第1ノズルベーンをフィードバック制御するので、電動機制御部による制御を行いながら、過給圧を目標過給圧に近付けることができる。
【0011】
(5)幾つかの実施形態では、上記(4)の構成において、前記第1ベーン制御部は、前記上限値による前記電動機の前記出力指令値の低減量に応じて前記第1目標開度を補正して第1補正開度を求め、前記第1ノズルベーンの開度を前記第1補正開度に制御するように構成される。
上記(5)の構成では、前記上限値によって電動機の出力指令値が低減された量に応じてフィードバック制御における第1ノズルベーンの目標開度を補正するので、目標開度を補正しない場合に比べて、過給圧を迅速に目標過給圧に近付けることができる。
【0012】
(6)幾つかの実施形態では、上記(1)〜(5)の何れかの構成において、
前記エンジンに供給される空気を圧縮するための第2コンプレッサと、前記エンジンからの排ガスによって回転駆動されて前記第2コンプレッサを駆動するように構成された第2タービンと、前記第2タービンに流入する前記排ガスの流路面積を調節するように構成された第2ノズルベーンと、を有する第2過給機と、
前記第2過給機を制御するための第2制御装置と、をさらに備え、
前記第1過給機と前記第2過給機のうち一方は低圧段過給機であり、
前記第1過給機と前記第2過給機のうち他方は、前記低圧段過給機の前記コンプレッサで圧縮された空気をさらに圧縮して前記エンジンに供給するように構成された高圧段過給機であり、
前記第2制御装置は、前記漏れ電流計測部による計測結果が前記第1閾値以上のとき、前記電動機制御部による前記電動機の前記出力指令値の前記上限値の低下に応答して、前記計測結果が前記第1閾値未満のときに比べて前記流路面積が小さくなるように前記ノズルベーンの開度を制御するように構成された第2ベーン制御部を含む。
上記(6)の構成では、第1過給機の電動機の漏れ電流が増加して、電動機の出力指令値の上限値を低下させるときに、該出力指令値の低下に応答して第2過給機のノズルベーンの開度を小さくする。すなわち、第1過給機での圧力比低下に応答して第2過給機での圧力比を上昇させるので、電動機制御部による制御を行いながら、過給システムによる過給圧を確保することができる。
【0013】
(7)幾つかの実施形態では、上記(6)の構成において、前記第2ベーン制御部は、前記過給システムによる過給圧と目標過給圧との偏差に基づいて前記第2ノズルベーンの第2目標開度を決定し、前記第2ノズルベーンの開度を前記第2目標開度に制御するように構成される。
上記(7)の構成では、過給システムによる過給圧と目標過給圧との偏差に基づいて決定された目標開度となるように第2ノズルベーンをフィードバック制御するので、電動機制御部による制御を行いながら、過給圧を目標過給圧に近付けることができる。
【0014】
(8)幾つかの実施形態では、上記(7)の構成において、前記第2ベーン制御部は、前記上限値による前記電動機の前記出力指令値の低減量に応じて前記第2目標開度を補正して第2補正開度を求め、前記第2ノズルベーンの開度を前記第2補正開度に制御するように構成される。
上記(8)の構成では、前記上限値によって電動機の出力指令値が低減された量に応じてフィードバック制御における第2ノズルベーンの目標開度を補正するので、目標開度を補正しない場合に比べて、過給圧を迅速に目標過給圧に近付けることができる。
【0015】
(9)幾つかの実施形態では、上記(1)〜(8)の何れかの構成において、
前記電動機は、バッテリからの直流電圧を三相交流電圧に変換して電動機巻線に供給するためのインバータを含み、
前記漏れ電流計測部は、前記インバータと前記電動機との間の三相交流の電流を一括して計測可能な電流計を含む。
上記(9)の構成によれば、インバータと電動機との間の三相交流における零相電流を計測することによって電動機の漏れ電流を計測することができる。
【0016】
(10)幾つかの実施形態では、上記(1)〜(9)の何れかの構成において、
前記電動機は、バッテリからの直流電圧を三相交流電圧に変換して電動機巻線に供給するためのインバータを含み、
前記漏れ電流計測部は、前記バッテリと前記インバータとの間の往きと帰りの直流電流を一括して計測可能な電流計を含む。
上記(10)の構成によれば、バッテリとインバータとの間の往きと帰りの直流電流の合計を計測することによって電動機の漏れ電流を計測することができる。
【0017】
(11)幾つかの実施形態では、上記(1)〜(10)の何れかの構成において、前記漏れ電流計測部は、前記電動機の絶縁抵抗値を計測可能な絶縁抵抗計を含む。
上記(11)の構成によれば、電動機の絶縁抵抗値の低下から電動機の漏れ電流を検出することができる。また、電動機の絶縁抵抗値の計測は、電動機がバッテリから電力の供給を受けていなくても可能であるので、上記(11)の構成によれば、電動機が稼働していないときでも、電動機の漏れ電流を検知することができる。
【0018】
(12)本発明の少なくとも一実施形態に係る過給システム用制御装置は、
前記(1)〜(11)の何れかの構成を有する過給システムに用いられる制御装置であって、
前記漏れ電流計測部による計測結果が第1閾値以上のとき、前記計測結果が前記第1閾値未満のときに比べて前記電動機の出力指令値の上限値を低く設定し、該上限値以下の範囲内にて前記電動機の出力を制御するように構成された電動機制御部を含む第1制御装置を備える。
【0019】
電動機において巻線の絶縁劣化が起きると、その進行に応じて漏れ電流が増加する。
上記(12)の構成では、電動機の漏れ電流の計測結果が第1閾値以上のとき、すなわち、電動機が故障しているか、又は故障しそうであるときに、そうでない時よりも電動機の出力指令値の上限値が低く設定されて、該上限値の範囲内にて電動機の出力が制御される。このため、電動機の故障判定後に直ちに電動機が停止される場合に比べて、緩やかに電動機出力が低減されるので、ドライバビリティの悪化が緩和される。また、電動機の絶縁劣化は電動機の電線(電動機巻線や電動機から外部に至る電線)の温度に依存し、電線温度が高いほど進行しやすい。この点上記(12)の構成では、電動機の出力を下げることで電動機の電線温度が下がるので、電動機の絶縁劣化の進行を抑制することができる。
【0020】
(13)本発明の少なくとも一実施形態に係る過給システムの運転方法は、
エンジンに供給される空気を圧縮するための第1コンプレッサと、前記第1コンプレッサを駆動するための電動機と、を有する第1過給機を備える過給システムの運転方法であって、
前記電動機の漏れ電流を計測する漏れ電流計測ステップと、
前記漏れ電流計測ステップでの前記計測結果が前記第1閾値以上のとき、前記計測結果が前記第1閾値未満のときに比べて前記電動機の出力指令値の上限値を低く設定する出力上限値設定ステップと、
前記出力上限値設定ステップで設定された前記上限値以下の範囲内にて前記電動機の出力を制御する出力制御ステップと、を備える。
【0021】
電動機において巻線の絶縁劣化が起きると、その進行に応じて漏れ電流が増加する。
上記(13)の方法では、電動機の漏れ電流の計測結果が第1閾値以上のとき、すなわち、電動機が故障しているか、又は故障しそうであるときに、そうでない時よりも電動機の出力指令値の上限値が低く設定されて、該上限値の範囲内にて電動機の出力が制御される。このため、電動機の故障判定後に直ちに電動機が停止される場合に比べて、緩やかに電動機出力が低減されるので、ドライバビリティの悪化が緩和される。また、電動機の絶縁劣化は電動機の電線(電動機巻線や電動機から外部に至る電線)の温度に依存し、電線温度が高いほど進行しやすい。この点上記(1)の方法では、電動機の出力を下げることで電動機の電線温度が下がるので、電動機の絶縁劣化の進行を抑制することができる。