特許第6434585号(P6434585)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6434585-空気入りタイヤ 図000009
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6434585
(24)【登録日】2018年11月16日
(45)【発行日】2018年12月5日
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 11/00 20060101AFI20181126BHJP
【FI】
   B60C11/00 D
【請求項の数】4
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2017-159644(P2017-159644)
(22)【出願日】2017年8月22日
【審査請求日】2018年7月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000002288
【氏名又は名称】三洋化成工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松井 僚児
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 達也
(72)【発明者】
【氏名】橋本 直也
(72)【発明者】
【氏名】西本 剛
【審査官】 岩本 昌大
(56)【参考文献】
【文献】 特開平8−188675(JP,A)
【文献】 特開平11−315168(JP,A)
【文献】 特開平8−231766(JP,A)
【文献】 特開平8−217917(JP,A)
【文献】 特開2001−89604(JP,A)
【文献】 特開平8−269243(JP,A)
【文献】 特開2006−152079(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/099325(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 1/00−19/12
C08K 3/00−13/08
C08L 1/00−101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トレッドを有する空気入りタイヤであって、
前記トレッドの損失正接(tanδ)をその測定温度に対してプロットして得られるtanδの温度分布曲線において、
ピーク位置の温度が−20.0℃〜0.0℃であり、
前記ピーク位置のtanδが0.80以上であり、
前記ピーク位置の温度から20℃減算した温度における温度分布曲線の接線と、前記ピーク位置の温度から20℃加算した温度における温度分布曲線の接線との交点のtanδが、下記式(1)を満たす空気入りタイヤ。
ピーク位置のtanδ−0.05≦交点のtanδ≦ピーク位置のtanδ+0.05 式(1)
【請求項2】
前記ピーク位置の温度から20℃減算した温度におけるtanδ、前記ピーク位置の温度から20℃加算した温度におけるtanδがそれぞれ、下記式(2)、(3)を満たす請求項1記載の空気入りタイヤ。
ピーク位置の温度から20℃減算した温度におけるtanδ≧ピーク位置のtanδ×0.20 式(2)
ピーク位置の温度から20℃加算した温度におけるtanδ≧ピーク位置のtanδ×0.20 式(3)
【請求項3】
前記ピーク位置の温度から20℃減算した温度におけるtanδ、前記ピーク位置の温度から20℃加算した温度におけるtanδが、下記式(4)を満たす請求項1又は2に記載の空気入りタイヤ。
|ピーク位置の温度から20℃減算した温度におけるtanδ−ピーク位置の温度から20℃加算した温度におけるtanδ|≦0.30 式(4)
【請求項4】
前記ピークの下記式(5)に定義される半値幅が30以下である請求項1〜3のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
式(5):半値幅=ピーク位置のtanδの半分の値となる高温側の温度−ピーク位置のtanδの半分の値となる低温側の温度
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車に対する安全性への要求に伴い、タイヤのトレッドには、ウェットグリップ性能の改善が要求されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、希土類元素系触媒を用いて合成された油展ブタジエンゴムや所定のスチレンブタジエンゴム、無機充填剤等を含むゴム組成物により、ウェットグリップ性能を改善する技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2015−232114号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方、グローバル化に伴って同一タイヤの使用地域が拡大してきており、たとえば、欧州と南アフリカの両路面において同時にウェットグリップ性能を高めることが求められるようになっている。
本発明は、前記課題を解決し、異なる地域の路面で充分なウェットグリップ性能を発揮する空気入りタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、トレッドを有する空気入りタイヤであって、
上記トレッドの損失正接(tanδ)をその測定温度に対してプロットして得られるtanδの温度分布曲線において、
ピーク位置の温度が−20.0℃〜0.0℃であり、
上記ピーク位置のtanδが0.80以上であり、
上記ピーク位置の温度から20℃減算した温度における温度分布曲線の接線と、上記ピーク位置の温度から20℃加算した温度における温度分布曲線の接線との交点のtanδが、下記式(1)を満たす空気入りタイヤに関する。
ピーク位置のtanδ−0.05≦交点のtanδ≦ピーク位置のtanδ+0.05 式(1)
【0007】
上記ピーク位置の温度から20℃減算した温度におけるtanδ、上記ピーク位置の温度から20℃加算した温度におけるtanδがそれぞれ、下記式(2)、(3)を満たすことが好ましい。
ピーク位置の温度から20℃減算した温度におけるtanδ≧ピーク位置のtanδ×0.20 式(2)
ピーク位置の温度から20℃加算した温度におけるtanδ≧ピーク位置のtanδ×0.20 式(3)
【0008】
上記ピーク位置の温度から20℃減算した温度におけるtanδ、上記ピーク位置の温度から20℃加算した温度におけるtanδが、下記式(4)を満たすことが好ましい。
|ピーク位置の温度から20℃減算した温度におけるtanδ−ピーク位置の温度から20℃加算した温度におけるtanδ|≦0.30 式(4)
【0009】
上記ピークの下記式(5)に定義される半値幅が30以下であることが好ましい。
式(5):半値幅=ピーク位置のtanδの半分の値となる高温側の温度−ピーク位置のtanδの半分の値となる低温側の温度
【発明の効果】
【0010】
本発明は、トレッドを有する空気入りタイヤであって、前記トレッドの損失正接(tanδ)をその測定温度に対してプロットして得られるtanδの温度分布曲線において、ピーク位置の温度が−20.0℃〜0.0℃であり、前記ピーク位置のtanδが0.80以上であり、前記ピーク位置の温度から20℃減算した温度における温度分布曲線の接線と、前記ピーク位置の温度から20℃加算した温度における温度分布曲線の接線との交点のtanδが、上記式(1)を満たす空気入りタイヤであるので、異なる地域の路面で充分なウェットグリップ性能を発揮できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】トレッドゴムのtanδの温度分布曲線の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の空気入りタイヤは、トレッドゴムのtanδの温度分布曲線において、ピーク位置の温度が−20.0℃〜0.0℃であり、前記ピーク位置のtanδが0.80以上であり、前記ピーク位置の温度から20℃減算した温度における温度分布曲線の接線と、前記ピーク位置の温度から20℃加算した温度における温度分布曲線の接線との交点のtanδが、下記式(1)を満たす。これにより、異なる地域の路面で充分なウェットグリップ性能を発揮できる。
ピーク位置のtanδ−0.05≦交点のtanδ≦ピーク位置のtanδ+0.05 式(1)
【0013】
本発明の空気入りタイヤでは、以下の作用効果により、異なる地域の路面で充分なウェットグリップ性能を発揮できるものと推察される。
従来は、ウェットグリップ性能を改善するために主にピーク位置のtanδの大きさに注目されてきたが、異なる地域の路面に対応するためには、ピーク位置のtanδの大きさだけでは不十分であることが本発明者らの検討の結果明らかとなってきた。確かに、ピーク位置のtanδが大きければ大きいほどウェットグリップ性能は高くなるが、ピーク形状がシャープ過ぎると異なる地域の路面に対応できないことが本発明者らの検討の結果明らかとなってきた。本発明者らの試行錯誤の結果、ピーク位置の温度が特定範囲内にあると共に、ピーク位置のtanδが特定値以上であり、かつ、ピーク位置の温度±20℃の範囲においてtanδが大きい場合に、ドイツや南アフリカ共和国の路面におけるウェットグリップ性能を両立できることがわかってきた。そして、ピーク位置の温度±20℃位置での温度分布曲線の各接線の交点(2本の接線の交点のtanδ)とピークトップ(ピーク位置のtanδ)の差を指標とすることで、異なる地域の路面で充分なウェットグリップ性能を発揮できることがわかってきた。具体的には、交点のtanδと、ピーク位置のtanδとの差が小さい場合に異なる地域の路面で充分なウェットグリップ性能を発揮できることが判明した。このように、本発明は、ピーク位置の温度が特定範囲内にあると共に、ピーク位置のtanδが特定値以上であり、かつ、交点のtanδと、ピーク位置のtanδとの差が小さいため、異なる地域の路面で充分なウェットグリップ性能を発揮できるという知見(技術的思想)を見出し、完成に至ったものである。従って、本発明では、異なる地域の路面で充分なウェットグリップ性能を発揮できる。
【0014】
次に、図1を用いて、接線の引き方等を説明する。
図1には、トレッドゴムのtanδの温度分布曲線C1の一例が描かれている。tanδの温度分布曲線C1のピークトップはPPに示す点であり、PPに示す点の温度がピーク位置の温度tPに、PPに示す点のtanδがピーク位置のtanδに相当する。ピーク位置の温度tPから20℃減算した温度がt1であり、ピーク位置の温度tPから20℃加算した温度がt2である。ピーク位置の温度から20℃減算した温度t1における温度分布曲線の接線とは、温度分布曲線C1上の温度t1の点P1における接線L1を意味する。同様に、ピーク位置の温度から20℃加算した温度t2における温度分布曲線の接線とは、温度分布曲線C1上の温度t2の点P2における接線L2を意味する。ピーク位置の温度から20℃減算した温度における温度分布曲線の接線と、前記ピーク位置の温度から20℃加算した温度における温度分布曲線の接線との交点は、接線L1と接線L2の交点であるPLに示す点を意味し、該交点のtanδは、PLに示す点のtanδを意味する。そして、PPに示す点のtanδ(ピーク位置のtanδ)とPLに示す点のtanδ(交点のtanδ)との差d1が0.05以内と小さい場合、異なる地域の路面で充分なウェットグリップ性能を発揮できる。
【0015】
なお、接線の引き方は、トレッドゴムのtanδの温度分布曲線を関数で表現し、該関数に基づいて接線の式を算出することにより行えばよい。具体的には、トレッドゴムのtanδの温度分布曲線を表現する関数がy=f(x)の場合、該曲線の温度t1における接線、温度t2における接線は、それぞれ、y=f’(t1)(x−t1)+f(t1)、y=f’(t2)(x−t2)+f(t2)となる。
【0016】
また、ピーク位置の温度から20℃減算した温度t1におけるtanδは、P1に示す点のtanδを意味し、ピーク位置の温度から20℃加算した温度t2におけるtanδは、P2に示す点のtanδを意味する。
【0017】
本明細書において、トレッドゴム(加硫後)の損失正接(tanδ)をその測定温度に対してプロットして得られるtanδの温度分布曲線は、トレッドゴム(加硫後)について、粘弾性スペクトロメータを用い、周波数10Hz、初期歪10%、振幅±0.25%および昇温速度2℃/minの条件下で、−120℃から70℃までの温度範囲で、tanδの温度分布曲線を測定することにより得られる。
【0018】
本発明では、トレッドのtanδの温度分布曲線において、ピーク位置の温度が−20.0℃〜0.0℃にある。これにより、良好なウェットグリップ性能が得られると共に、異なる地域の路面で充分なウェットグリップ性能を発揮できる前提条件が満たされる。
ピーク位置の温度の下限は、好ましくは−18℃、より好ましくは−16℃、更に好ましくは−12℃であり、ピーク位置の温度の上限は、好ましくは−5℃、より好ましくは−7℃、更に好ましくは−10℃である。
【0019】
本発明では、トレッドのtanδの温度分布曲線において、ピーク位置のtanδが0.80以上である。これにより、良好なウェットグリップ性能が得られると共に、異なる地域の路面で充分なウェットグリップ性能を発揮できる前提条件が満たされる。
ピーク位置のtanδは大きければ大きいほどよく、ピーク位置のtanδの下限は、好ましくは0.85、より好ましくは0.90、更に好ましくは1.00であり、上限は特に限定されない。
【0020】
本発明では、トレッドのtanδの温度分布曲線において、ピーク位置の温度から20℃減算した温度における温度分布曲線の接線と、ピーク位置の温度から20℃加算した温度における温度分布曲線の接線との交点のtanδが、下記式(1)を満たす。式(1)は、ピーク位置のtanδと交点のtanδとの差が0.05以内であることを規定しており、式(1)を満たすことにより、異なる地域の路面においてウェットグリップ性能を両立できる。
ピーク位置のtanδと交点のtanδとの差は小さければ小さいほどよく、該差の上限は、好ましくは0.04、より好ましくは0.02、更に好ましくは0.01であり、該差が0.00であること(差がないこと)が特に好ましい。
ピーク位置のtanδ−0.05≦交点のtanδ≦ピーク位置のtanδ+0.05 式(1)
【0021】
なお、本発明では、tanδの温度分布曲線において、複数のピークトップが存在してもよく、その場合、少なくとも1つのピークについて、ピーク位置の温度、ピーク位置のtanδ、ピーク位置のtanδと交点のtanδとの差が上記範囲内となればよい。
【0022】
ピーク位置の温度、ピーク位置のtanδ、ピーク位置のtanδと交点のtanδとの差の目標値が定まれば、当業者であれば容易にこれらの目標値を満たすトレッドゴムを製造することができる。
具体的には、tanδを変化させることができる種々の手法が使用でき、例えば、ゴム成分に関しては、種類が異なるものを多く使用する手法、ミクロ構造が異なるものを併用する手法、スチレン量が異なるスチレンブタジエンゴムを併用する手法、変性基を有するスチレンブタジエンゴムを併用する手法、充填材に関しては、シリカやカーボンブラックの粒径、量を調節する手法、複数の充填材を併用する手法、表面処理された充填材を使用する手法、アグリゲート特性の異なる複数の充填材を併用する手法の他、シランカップリング剤の種類、量を調節する手法、樹脂(特に、ゴム成分と相溶する樹脂)の種類、量を調節する手法、複数の樹脂を使用する手法、混練中のゴムの加工性を向上させる薬品と使用する手法、常温で液状の高分子量成分を使用する手法、プロセスオイルの種類・量を調節する手法などを組み合わせることにより、ピーク位置の温度、ピーク位置のtanδ、ピーク位置のtanδと交点のtanδとの差が上記範囲内のトレッドゴムを製造できる。
なかでも、ゴム成分として複数のゴム成分を使用することが好ましく、3種類以上のゴム成分を併用することがより好ましく、4種類以上のゴム成分を併用することが更に好ましく、5種類以上のゴム成分を併用することが特に好ましい。また、ゴム成分として、スチレンブタジエンゴム、イソプレン系ゴム、ブタジエンゴムを併用することも好ましい。ゴム成分を上記態様とすることにより、tanδの温度分布曲線を適度にブロードな曲線とすることができ、ピーク位置の温度、ピーク位置のtanδ、ピーク位置のtanδと交点のtanδとの差を上記範囲内とすることができる。また、後述する式(1)で表される化合物を配合することも特に好ましい。これにより、tanδの絶対値を大きくすることができる。
【0023】
ピーク位置の温度を上記温度範囲内とするためには、スチレン量が20質量%以上のスチレンブタジエンゴム(好ましくは溶液重合スチレンブタジエンゴム)をゴム成分100質量%中60質量%以上配合することが好ましく、スチレン量が20質量%以上のスチレンブタジエンゴム(好ましくは溶液重合スチレンブタジエンゴム)を複数配合し、スチレン量が20質量%以上のスチレンブタジエンゴムの合計含有量をゴム成分100質量%中60質量%以上とすることがより好ましい。その他のゴム成分としては、後述するジエン系ゴムを使用できる。また、樹脂(好ましくはゴム成分と相溶する樹脂)を使用する手法、可塑剤の種類を変更する手法等を用いればよい。
【0024】
ピーク位置のtanδを上記範囲内とするためには、スチレン量が20質量%以上のスチレンブタジエンゴム(好ましくは溶液重合スチレンブタジエンゴム)をゴム成分100質量%中60質量%以上配合することが好ましく、スチレン量が20質量%以上のスチレンブタジエンゴム(好ましくは溶液重合スチレンブタジエンゴム)を複数配合し、スチレン量が20質量%以上のスチレンブタジエンゴムの合計含有量をゴム成分100質量%中60質量%以上とすることがより好ましい。また、シリカやカーボンブラックの配合量や粒径等のアグリゲート特性を調整する手法、複数の充填材を併用する手法、樹脂(好ましくはゴム成分と相溶する樹脂)を使用する手法、後述する式(1)で表される化合物を配合する手法等を用いればよい。
【0025】
ピーク位置のtanδと交点のtanδとの差を上記範囲内とするためには、ピーク位置のtanδを上記範囲内とするための手法と同様の手法等を用いればよい。
【0026】
本発明では、トレッドのtanδの温度分布曲線において、ピーク位置の温度から20℃減算した温度におけるtanδ、ピーク位置の温度から20℃加算した温度におけるtanδがそれぞれ、下記式(2)、(3)を満たすことが好ましい。これにより、異なる地域の路面で充分なウェットグリップ性能をより好適に発揮できる。
式(2)及び式(3)の下限値は、大きければ大きいほどよく、好ましくは0.30、より好ましくは0.40、更に好ましくは0.50であり、上限は、式(1)を満たすことが出来る限り特に限定されない。
ピーク位置の温度から20℃減算した温度におけるtanδ≧ピーク位置のtanδ×0.20 式(2)
ピーク位置の温度から20℃加算した温度におけるtanδ≧ピーク位置のtanδ×0.20 式(3)
【0027】
式(2)、(3)を満たすためには、分子量の大きなスチレンブタジエンゴム、ブタジエンゴムを使用する手法、2種以上のスチレンブタジエンゴムを併用する手法、イソプレン系ゴムと、イソプレン系ゴムと相溶するゴム成分を併用する手法、後述する式(1)で表される化合物を配合する手法、樹脂(好ましくはゴム成分と相溶する樹脂)を使用する手法等を用いればよい。
【0028】
本発明では、トレッドのtanδの温度分布曲線において、ピーク位置の温度から20℃減算した温度におけるtanδ、ピーク位置の温度から20℃加算した温度におけるtanδが、下記式(4)を満たすことが好ましい。これにより、異なる地域の路面で充分なウェットグリップ性能をより好適に発揮できる。
式(4)の上限値は小さければ小さいほどよく、好ましくは0.20、より好ましくは0.10、更に好ましくは0.05であり、0.00であることが特に好ましい。
|ピーク位置の温度から20℃減算した温度におけるtanδ−ピーク位置の温度から20℃加算した温度におけるtanδ|≦0.30 式(4)
【0029】
式(4)を満たすためには、式(2)、(3)を満たすための手法と同様の手法等を用いればよい。
【0030】
本発明では、トレッドのtanδの温度分布曲線において、ピークの下記式(5)に定義される半値幅が30以下であることが好ましい。これにより、異なる地域の路面で充分なウェットグリップ性能をより好適に発揮できる。
半値幅の上限は、好ましくは27、より好ましくは25、更に好ましくは23であり、半値幅の下限は、好ましくは10、より好ましくは12、更に好ましくは14である。
式(5):半値幅=ピーク位置のtanδの半分の値となる高温側の温度−ピーク位置のtanδの半分の値となる低温側の温度
【0031】
半値幅を上記範囲内とするためには、式(2)、(3)を満たすための手法と同様の手法等を用いればよい。
【0032】
上記トレッドは、トレッド用ゴム組成物を加硫することにより製造できる。以下において、トレッド用ゴム組成物について説明する。
【0033】
本発明で使用できるゴム成分としては、イソプレン系ゴム、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)、ブチルゴム(IIR)、スチレン−イソプレン−ブタジエン共重合ゴム(SIBR)等のジエン系ゴムが挙げられる。これらジエン系ゴムは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なかでも、ピーク位置の温度、ピーク位置のtanδ、ピーク位置のtanδと交点のtanδとの差を好適に所望の値とすることができ、本発明の効果がより好適に得られるという理由から、ゴム成分として複数のゴム成分を使用することが好ましく、3種類以上のゴム成分を併用することがより好ましく、4種類以上のゴム成分を併用することが更に好ましく、5種類以上のゴム成分を併用することが特に好ましい。また、ゴム成分として、スチレンブタジエンゴム、イソプレン系ゴム、ブタジエンゴムを併用することも好ましい。
【0034】
SBRとしては特に限定されず、例えば、乳化重合スチレンブタジエンゴム(E−SBR)、溶液重合スチレンブタジエンゴム(S−SBR)等を使用できる。
【0035】
SBRのスチレン量は、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、更に好ましくは15質量%以上である。スチレン量が5質量%以上であると、より良好なウェットグリップ性能が得られる傾向がある。上記スチレン量は、好ましくは45質量%以下、より好ましくは40質量%以下、更に好ましくは35質量%以下である。スチレン量が45質量%以下であると、発熱が小さくなり、より良好な低燃費性能が得られる傾向がある。
なお、本明細書において、スチレン量は、H−NMR測定により算出される。
【0036】
SBRのビニル量は、好ましくは30質量%以上、より好ましくは40質量%以上である。ビニル量が30質量%以上であると、より良好なウェットグリップ性能が得られる傾向がある。上記ビニル量は、好ましくは60質量%以下、より好ましくは50質量%以下である。ビニル量が60質量%以下であると、より良好な耐摩耗性能が得られる傾向がある。
なお、本明細書において、ビニル量(1,2−結合ブタジエン単位量)は、赤外吸収スペクトル分析法によって測定できる。
【0037】
ピーク位置の温度、ピーク位置のtanδ、ピーク位置のtanδと交点のtanδとの差を好適に所望の値とすることができ、本発明の効果がより好適に得られるという理由から、スチレン量が異なる複数のSBRを配合することが好ましく、スチレン量が異なる3種類以上のSBRを配合することがより好ましい。
3種類のSBRを使用する場合、例えば、スチレン量10〜25質量%(好ましくは10〜15質量%)のSBR A、スチレン量20〜40質量%(好ましくは20〜30質量%)のSBR B、スチレン量25〜50質量%(好ましくは35〜50質量%)のSBR Cを使用すればよい。
【0038】
SBRは、非変性SBRでもよいし、変性SBRでもよいが、本発明の効果がより良好に得られるという理由から、変性SBRであることが好ましい。
【0039】
変性SBRとしては、シリカやカーボンブラック等の充填剤と相互作用する官能基を有するSBRであればよく、例えば、SBRの少なくとも一方の末端を、上記官能基を有する化合物(変性剤)で変性された末端変性SBR(末端に上記官能基を有する末端変性SBR)や、主鎖に上記官能基を有する主鎖変性SBRや、主鎖及び末端に上記官能基を有する主鎖末端変性SBR(例えば、主鎖に上記官能基を有し、少なくとも一方の末端を上記変性剤で変性された主鎖末端変性SBR)や、分子中に2個以上のエポキシ基を有する多官能化合物により変性(カップリング)され、水酸基やエポキシ基が導入された末端変性SBR等が挙げられる。
【0040】
上記官能基としては、例えば、アミノ基、アミド基、シリル基、アルコキシシリル基、イソシアネート基、イミノ基、イミダゾール基、ウレア基、エーテル基、カルボニル基、オキシカルボニル基、メルカプト基、スルフィド基、ジスルフィド基、スルホニル基、スルフィニル基、チオカルボニル基、アンモニウム基、イミド基、ヒドラゾ基、アゾ基、ジアゾ基、カルボキシル基、ニトリル基、ピリジル基、アルコキシ基、水酸基、オキシ基、エポキシ基等が挙げられる。なお、これらの官能基は、置換基を有していてもよい。なかでも、本発明の効果がより好適に得られるという理由から、カルボキシル基、アミド基、アミノ基(好ましくはアミノ基が有する水素原子が炭素数1〜6のアルキル基に置換されたアミノ基)、アルコキシ基(好ましくは炭素数1〜6のアルコキシ基)、アルコキシシリル基(好ましくは炭素数1〜6のアルコキシシリル基)が好ましい。
【0041】
上記SBRとしては、例えば、住友化学(株)、JSR(株)、旭化成(株)、日本ゼオン(株)等の製品を使用できる。
【0042】
SBRを含有する場合、ゴム成分100質量%中のSBRの含有量(複数のSBRを使用する場合は合計含有量)は、好ましくは30質量%以上、より好ましくは50質量%以上、更に好ましくは60質量%以上、特に好ましくは70質量%以上である。30質量%以上であると、より良好なウェットグリップ性能が得られる傾向がある。また、上記SBRの含有量は、好ましくは90質量%以下、より好ましくは85質量%以下である。90質量%以下であると、より良好な低燃費性能、耐摩耗性能が得られる傾向がある。
【0043】
BRとしては特に限定されず、例えば、高シス含量のBR、シンジオタクチックポリブタジエン結晶を含有するBR等を使用できる。
【0044】
上記BRは、非変性BRでもよいし、変性BRでもよいが、本発明の効果がより良好に得られるという理由から、変性BRであることが好ましい。
変性BRとしては、上述の変性SBRと同様の官能基が導入された変性BRが挙げられる。
【0045】
上記BRとしては、例えば、宇部興産(株)、JSR(株)、旭化成(株)、日本ゼオン(株)等の製品を使用できる。
【0046】
BRを含有する場合、ゴム成分100質量%中のBRの含有量(複数のBRを使用する場合は合計含有量)は、好ましくは5質量%以上、好ましくは10質量%以上である。5質量%以上であると、より良好な低燃費性能、耐摩耗性能が得られる傾向がある。また、上記BRの含有量は、好ましくは40質量%以下、より好ましくは25質量%以下である。40質量%以下であると、より良好なウェットグリップ性能が得られる傾向がある。
【0047】
イソプレン系ゴムとしては、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、改質NR、変性NR、変性IR等が挙げられる。NRとしては、例えば、SIR20、RSS♯3、TSR20等、タイヤ工業において一般的なものを使用できる。IRとしては、特に限定されず、例えば、IR2200等、タイヤ工業において一般的なものを使用できる。改質NRとしては、脱タンパク質天然ゴム(DPNR)、高純度天然ゴム(UPNR)等、変性NRとしては、エポキシ化天然ゴム(ENR)、水素添加天然ゴム(HNR)、グラフト化天然ゴム等、変性IRとしては、エポキシ化イソプレンゴム、水素添加イソプレンゴム、グラフト化イソプレンゴム等、が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0048】
イソプレン系ゴムを含有する場合、ゴム成分100質量%中のイソプレン系ゴムの含有量(複数のイソプレン系ゴムを使用する場合は合計含有量)は、好ましくは5質量%以上、好ましくは10質量%以上である。5質量%以上であると、より良好な低燃費性能、耐摩耗性能が得られる傾向がある。また、上記イソプレン系ゴムの含有量は、好ましくは30質量%以下、より好ましくは20質量%以下である。30質量%以下であると、より良好なウェットグリップ性能が得られる傾向がある。
【0049】
トレッド用ゴム組成物は、カーボンブラックを含有することが好ましい。
カーボンブラックとしては、特に限定されないが、N134、N110、N220、N234、N219、N339、N330、N326、N351、N550、N762等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0050】
カーボンブラックの窒素吸着比表面積(NSA)は、5m/g以上が好ましく、50m/g以上が更に好ましく、100m/g以上が特に好ましい。5m/g以上であると、補強性が向上し、より良好なウェットグリップ性能が得られる傾向がある。また、上記NSAは、200m/g以下が好ましく、150m/g以下がより好ましく、130m/g以下が更に好ましい。200m/g以下であると、カーボンブラックの良好な分散が得られやすく、より良好な耐摩耗性能、低燃費性能が得られる傾向がある。
なお、カーボンブラックの窒素吸着比表面積は、JIS K6217−2:2001によって求められる。
【0051】
カーボンブラックのジブチルフタレート吸油量(DBP)は、好ましくは5ml/100g以上、より好ましくは50ml/100g以上、更に好ましくは100ml/100g以上である。5ml/100g以上であると、補強性が向上し、より良好なウェットグリップ性能が得られる傾向がある。また、上記DBPは、好ましくは300ml/100g以下、より好ましくは200ml/100g以下、更に好ましくは130ml/100g以下である。300ml/100g以下であると、より良好な耐摩耗性能が得られる傾向がある。
なお、カーボンブラックのDBPは、JIS K6217−4:2001の測定方法によって求められる。
【0052】
カーボンブラックとしては、例えば、旭カーボン(株)、キャボットジャパン(株)、東海カーボン(株)、三菱化学(株)、ライオン(株)、新日化カーボン(株)、コロンビアカーボン社等の製品を使用できる。
【0053】
カーボンブラックを含有する場合、カーボンブラックの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、1質量部以上、好ましくは5質量部以上である。1質量部以上であると、十分な補強性を得ることができ、より良好なウェットグリップ性能が得られる傾向がある。また、上記含有量は、30質量部以下、好ましくは15質量部以下である。30質量部以下であると、より良好な低燃費性能が得られる傾向がある。
【0054】
トレッド用ゴム組成物は、シリカを含有することが好ましい。シリカとしては、例えば、乾式法シリカ(無水ケイ酸)、湿式法シリカ(含水ケイ酸)等が挙げられるが、シラノール基が多いという理由から、湿式法シリカが好ましい。
【0055】
シリカとしては、例えば、デグッサ社、ローディア社、東ソー・シリカ(株)、ソルベイジャパン(株)、(株)トクヤマ等の製品を使用できる。
【0056】
シリカの窒素吸着比表面積(NSA)は、50m/g以上が好ましく、100m/g以上がより好ましい。50m/g以上では、より良好なウェットグリップ性能が得られる傾向がある。また、シリカのNSAは、300m/g以下が好ましく、250m/g以下がより好ましく、200m/g以下が更に好ましい。300m/g以下であると、より良好な低燃費性能が得られる傾向がある。
なお、シリカの窒素吸着比表面積は、ASTM D3037−81に準じてBET法で測定される値である。
【0057】
ピーク位置の温度、ピーク位置のtanδ、ピーク位置のtanδと交点のtanδとの差を好適に所望の値とすることができ、本発明の効果がより好適に得られるという理由から、窒素吸着比表面積が異なる2種のシリカ(シリカ(1)及び(2))を配合することが好ましい。
【0058】
シリカ(1)のNSAは好ましくは130m/g以下、より好ましくは125m/g以下、更に好ましくは120m/g以下である。シリカ(1)のNSAが130m/g以下であると、シリカ(2)との混合により得られる効果が大きい傾向がある。また、シリカ(1)のNSAは20m/g以上が好ましく、50m/g以上がより好ましく、80m/g以上が更に好ましい。シリカ(1)のNSAが20m/g以上では、より良好なウェットグリップ性能が得られる傾向がある。
【0059】
窒素吸着比表面積(NSA)130m/g以下のシリカとしては、例えば、デグッサ社製のULTRASIL360(NSA50m/g)、ローディア社製のZEOSIL115GR(NSA115m/g)、ローディア社製のZEOSIL1115MP(NSA115m/g)等が挙げられる。
【0060】
シリカ(2)のNSAは、150m/g以上、好ましくは160m/g以上、より好ましくは170m/g以上である。シリカ(2)のNSAが150m/g以上では、シリカ(1)との混合により得られる効果が大きい傾向がある。また、シリカ(2)のNSAは、300m/g以下が好ましく、240m/g以下がより好ましく、200m/g以下が更に好ましい。シリカ(2)のNSAが300m/g以下であると、良好な低燃費性能が得られる傾向がある。
【0061】
窒素吸着比表面積(NSA)150m/g以上のシリカとしては、例えば、デグッサ社製のULTRASILVN3(NSA175m/g)、ローディア社製のZEOSIL1165MP(NSA160m/g)、ローディア社製のZEOSIL1205MP(NSA200m/g)等が挙げられる。
【0062】
シリカを含有する場合、シリカの含有量(複数のシリカを使用する場合は合計含有量)は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは20質量部以上、より好ましくは40質量部以上である。20質量部以上であると、より良好なウェットグリップ性能が得られる傾向がある。該含有量は、好ましくは150質量部以下、より好ましくは100質量部以下、更に好ましくは70質量部以下である。150質量部以下であると、加工性と低燃費性能のバランスがより改善される。
【0063】
トレッド用ゴム組成物は、シリカと共にシランカップリング剤を含むことが好ましい。
シランカップリング剤としては、特に限定されず、例えば、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(2−トリエトキシシリルエチル)テトラスルフィド、ビス(4−トリエトキシシリルブチル)テトラスルフィド、ビス(3−トリメトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(2−トリメトキシシリルエチル)テトラスルフィド、ビス(2−トリエトキシシリルエチル)トリスルフィド、ビス(4−トリメトキシシリルブチル)トリスルフィド、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(2−トリエトキシシリルエチル)ジスルフィド、ビス(4−トリエトキシシリルブチル)ジスルフィド、ビス(3−トリメトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(2−トリメトキシシリルエチル)ジスルフィド、ビス(4−トリメトキシシリルブチル)ジスルフィド、3−トリメトキシシリルプロピル−N,N−ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、2−トリエトキシシリルエチル−N,N−ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、3−トリエトキシシリルプロピルメタクリレートモノスルフィド、などのスルフィド系、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、2−メルカプトエチルトリエトキシシラン、Momentive社製のNXT、NXT−Zなどのメルカプト系、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシランなどのビニル系、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシランなどのアミノ系、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、などのグリシドキシ系、3−ニトロプロピルトリメトキシシラン、3−ニトロプロピルトリエトキシシランなどのニトロ系、3−クロロプロピルトリメトキシシラン、3−クロロプロピルトリエトキシシランなどのクロロ系などがあげられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、本発明の効果がより良好に得られるという理由から、スルフィド系、メルカプト系が好ましく、メルカプト系が好ましい。
【0064】
シランカップリング剤としては、式(2)で表されるシランカップリング剤を使用することが好ましい。これにより、ピーク位置の温度、ピーク位置のtanδ、ピーク位置のtanδと交点のtanδとの差を好適に所望の値とすることができ、本発明の効果がより好適に得られる。
【化1】
(式(2)中、pは1〜3の整数、qは1〜5の整数、kは5〜12の整数である。)
【0065】
式(2)において、pは1〜3の整数であるが、2が好ましい。pが3以下であると、カップリング反応が速い傾向がある。
qは1〜5の整数であるが、2〜4が好ましく、3がより好ましい。qが1〜5であると合成が容易である傾向がある。
kは5〜12の整数であるが、5〜10が好ましく、6〜8がより好ましく、7が更に好ましい。
【0066】
式(2)で表されるシランカップリング剤としては、例えば、3−オクタノイルチオ−1−プロピルトリエトキシシランなどが挙げられる。
【0067】
シランカップリング剤としては、例えば、デグッサ社、Momentive社、信越シリコーン(株)、東京化成工業(株)、アヅマックス(株)、東レ・ダウコーニング(株)等の製品を使用できる。
【0068】
シランカップリング剤を含有する場合、シランカップリング剤の含有量は、シリカ100質量部に対して、3質量部以上が好ましく、5質量部以上がより好ましい。3質量部以上であると、シランカップリング剤を配合したことによる効果が得られる傾向がある。また、上記含有量は、20質量部以下が好ましく、15質量部以下がより好ましい。20質量部以下であると、配合量に見合った効果が得られ、良好な混練時の加工性が得られる傾向がある。
【0069】
トレッド用ゴム組成物は、下記式(1)で表される化合物を含有することが好ましい。これにより、ピーク位置の温度、ピーク位置のtanδ、ピーク位置のtanδと交点のtanδとの差を好適に所望の値とすることができ、本発明の効果がより好適に得られる。
【化2】
(式(1)中、Xは−CONH−又は−COO−を表す。Rは炭素数7〜23のアルキル基又は炭素数7〜23のアルケニル基を表す。Rは炭素数1〜3のアルキレン基を表す。RとRはそれぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜3のアルキル基又は炭素数1〜3のヒドロキシアルキル基を表し、少なくとも1つは前記ヒドロキシアルキル基である。)
【0070】
上記式(1)で表される化合物を含有することにより、ピーク位置の温度、ピーク位置のtanδ、ピーク位置のtanδと交点のtanδとの差を好適に所望の値とすることができる理由は定かではないが、以下のように推測される。
上記式(1)で表される化合物は、分子末端に位置するRおよび/またはRのヒドロキシ基、並びに分子中央付近に位置するXのCONH基又はCOO基の2箇所で適度な極性を発現し、シリカなどの白色充填剤表面(特に、白色充填剤表面のヒドロキシ基)と適度に吸着(相互作用)することが可能である。そのため、白色充填剤の表面がこの化合物により覆われ、該化合物が白色充填剤の表面を疎水化することにより、白色充填剤同士の凝集を抑制すること、および配合物の粘度を低減させることができるため、ゴム中での白色充填剤の分散性を効率的に向上させることができる。その結果、ピーク位置の温度、ピーク位置のtanδ、ピーク位置のtanδと交点のtanδとの差を好適に所望の値とすることができる。
【0071】
更に、以下のように推測される。上記式(1)で表される化合物は、従来から白色充填剤の分散性改善剤として使用されている脂肪酸モノエタノールアミドおよび脂肪酸ジエタノールアミドと比べ、−CONH−又は−COO−とアルカノール基との間にアミノ基を有することを特徴とする。分子鎖中に上記アミノ基及びヒドロキシ基を有することにより、白色充填剤表面(特に、白色充填剤表面のヒドロキシ基)への吸着性が向上し、配合物の粘度の低減効果に優れ、ゴム中の白色充填剤の分散性をより向上させることができる。さらには、分子鎖中に上記アミノ基及びヒドロキシ基を有し、シリカへの吸着性が高いため、シランカップリング剤や変性ポリマーの変性基とシリカとの相互作用、シリカの分散性を相乗的に向上できる。その結果、ピーク位置の温度、ピーク位置のtanδ、ピーク位置のtanδと交点のtanδとの差を好適に所望の値とすることができる。
【0072】
式(1)中、Xは、分子中央部分の極性(電子吸引性)を高め、製造が容易であるという観点から、−CONH−又は−COO−を表す。なかでも、本発明の効果がより好適に得られるという理由から、Xは−CONH−が好ましい。
【0073】
式(1)中のRは、白色充填剤への吸着性、式(1)で表される化合物自身の疎水化力の観点から、炭素数7〜23のアルキル基又は炭素数7〜23のアルケニル基であり、該アルキル基およびアルケニル基は、直鎖状、分枝鎖状および環状の何れでもよいが、直鎖状が好ましい。例えば、オクチル基、ノニル基、イソノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、イソトリデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、ヘンイコシル基、トリコシル基などのアルキル基、オクテニル基、ノネニル基、デセニル基、ヘプタデセニル基などのアルケニル基が挙げられる。また、該化合物の原料としては、好ましくは、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、オレイン酸、ヤシ油脂肪酸、パーム核油脂肪酸、パーム油脂肪酸、水添パーム油脂肪酸、牛脂脂肪酸、水添牛脂脂肪酸などの脂肪酸、それら脂肪酸のメチルエステル、及びヤシ油、パーム核油、パーム油、水添パーム油、牛脂、水添牛脂等の油脂等が挙げられる。
【0074】
式(1)におけるRの炭素数が23を超える場合は、アミノ基やCOO基などの極性基の密度が低くなり、極性が下がるため白色充填剤の表面への吸着性能が低下する傾向がある。一方、Rの炭素数が6以下の場合は、上記吸着性能が過大となり、シランカップリング剤と白色充填剤(特に、シリカ)の結合を阻害する傾向がある。
本発明の効果がより好適に得られるという理由から、Rのアルキル基及びアルケニル基の炭素数は、好ましくは9〜21、より好ましくは11〜19、更に好ましくは15〜19である。
【0075】
としては、本発明の効果がより好適に得られるという理由から、アルキル基が好ましい。
【0076】
式(1)中のRは、適度な疎水・親水の両性界面活性機能を上記式(1)で表される化合物に付与する観点から、炭素数1〜3のアルキレン基であり、該アルキレン基は、直鎖状および分枝鎖状の何れでもよいが、直鎖状が好ましい。
【0077】
炭素数1〜3のアルキレン基としては、例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基が挙げられる。
【0078】
式(1)におけるRの炭素数が3を超える場合は、適度な疎水・親水の両性界面活性機能を上記式(1)で表される化合物に付与できなくなり、白色充填剤の表面への吸着性能が低下する傾向がある。
【0079】
式(1)中のR及びRは、式(1)で表される化合物の末端部における白色充填剤への吸着性の観点から、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜3のアルキル基又は炭素数1〜3のヒドロキシアルキル基を表し、少なくとも1つは前記ヒドロキシアルキル基である。
【0080】
炭素数1〜3のアルキル基は、直鎖状、分枝鎖状および環状の何れでもよいが、直鎖状が好ましい。炭素数1〜3のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基が挙げられる。
【0081】
アルキル基の炭素数が3を超える場合は、アミノ基やヒドロキシ基などの極性基の密度が低くなり、極性が下がるため白色充填剤の表面への吸着性能が低下する傾向がある。
【0082】
炭素数1〜3のヒドロキシアルキル基は、直鎖状、分枝鎖状および環状の何れでもよいが、直鎖状が好ましい。炭素数1〜3のヒドロキシアルキル基のアルキル基(すなわち、炭素数1〜3のアルキル基)としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基が挙げられる。
【0083】
ヒドロキシアルキル基の炭素数が3を超える場合は、アミノ基やヒドロキシ基などの極性基の密度が低くなり、極性が下がるため白色充填剤の表面への吸着性能が低下する傾向がある。
【0084】
及びRとしては、本発明の効果がより好適に得られるという理由から、一方が水素原子、もう一方がヒドロキシアルキル基であることが好ましい。これにより、分子鎖中のアミノ基が末端のヒドロキシ基と同じく白色充填剤表面(特に、白色充填剤表面のヒドロキシ基)に吸着しやすくなり、白色充填剤表面が生じさせる酸性を中和しやすくなるためと推測される。
【0085】
式(1)で表される具体的な化合物としては、例えば、ラウリン酸アミドエチルアミノエタノール、ステアリン酸アミドエチルアミノエタノール等の脂肪酸アミドエチルアミノエタノール;ラウリン酸エステルエチルアミノエタノール、ステアリン酸エステルエチルアミノエタノール等の脂肪酸エステルエチルアミノエタノール;ステアリン酸アミド(Nメチル)エチルアミノエタノール、ステアリン酸アミド(Nエタノール)エチルアミノエタノール、ラウリン酸アミドメチルアミノエタノール、ステアリン酸アミドメチルアミノエタノール、ラウリン酸アミドプロピルアミノエタノール、ステアリン酸アミドプロピルアミノエタノール、ラウリン酸アミドエチルアミノメタノール、ステアリン酸アミドエチルアミノメタノール、ラウリン酸アミドエチルアミノプロパノール、ステアリン酸アミドエチルアミノプロパノール、ステアリン酸エステル(Nメチル)エチルアミノエタノール、ステアリン酸エステル(Nエタノール)エチルアミノエタノール、ラウリン酸エステルメチルアミノエタノール、ステアリン酸エステルメチルアミノエタノール、ラウリン酸エステルプロピルアミノエタノール、ステアリン酸エステルプロピルアミノエタノール、ラウリン酸エステルエチルアミノメタノール、ステアリン酸エステルエチルアミノメタノール、ラウリン酸エステルエチルアミノプロパノール、ステアリン酸エステルエチルアミノプロパノールなどが挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なかでも、本発明の効果がより好適に得られるという理由から、脂肪酸アミドエチルアミノエタノールが好ましく、ラウリン酸アミドエチルアミノエタノール、ステアリン酸アミドエチルアミノエタノールがより好ましく、ステアリン酸アミドエチルアミノエタノールがさらに好ましい。これらの化合物は、分子鎖中のアミノ基が末端のヒドロキシ基と同じく白色充填剤表面(特に、白色充填剤表面のヒドロキシ基)に吸着しやすく、白色充填剤表面が生じさせる酸性を中和しやすいためと推測される。
【0086】
式(1)で表される化合物は公知の方法により合成でき、例えば、脂肪酸又は脂肪酸メチルエステルと2−(2−アミノエチルアミノ)エタノールを混合し、120℃〜180℃で加熱し、生成した水又はメタノールを留去することで、脂肪酸アミドエチルアミノエタノールを得ることができる。
【0087】
式(1)で表される化合物を含有する場合、式(1)で表される化合物のゴム成分100質量部に対する含有量は、白色充填剤と適度に相互作用し、シランカップリング剤が配合されている場合はシランカップリング剤と白色充填剤(特に、シリカ)の反応を阻害することなく、すなわち、白色充填剤の表面に過度な滑性を与えることなく、粘度低減効果および白色充填剤の分散性向上効果を発現するという理由から、0.5質量部以上が好ましく、1質量部以上がより好ましく、2質量部以上がさらに好ましい。また、該化合物の含有量は、白色充填剤の表面に過度な滑性を与えることなく、低燃費性能、ウェットグリップ性能、耐摩耗性能を向上させるという理由から、10質量部以下が好ましく、8質量部以下がより好ましく、6質量部以下がさらに好ましい。
【0088】
トレッド用ゴム組成物は、芳香族系樹脂を含む軟化剤成分を含有することが好ましい。これにより、ピーク位置の温度、ピーク位置のtanδ、ピーク位置のtanδと交点のtanδとの差を好適に所望の値とすることができ、本発明の効果がより好適に得られる。本発明において、軟化剤成分とは、アセトンに可溶な成分を意味し、具体的には、芳香族系樹脂の他、プロセスオイルや植物油脂等のオイル、液状ジエン系重合体、ポリテルペン樹脂等が挙げられる。
【0089】
芳香族系樹脂とは、構成成分として芳香族化合物を含むポリマーである。芳香族化合物としては、芳香環を有する化合物であれば特に限定されないが、例えば、フェノール、アルキルフェノール、アルコキシフェノール、不飽和炭化水素基含有フェノールなどのフェノール化合物;ナフトール、アルキルナフトール、アルコキシナフトール、不飽和炭化水素基含有ナフトールなどのナフトール化合物;スチレン、アルキルスチレン、アルコキシスチレン、不飽和炭化水素基含有スチレンなどのスチレン誘導体;クマロン、インデンなどが挙げられる。
【0090】
芳香族系樹脂としては、例えば、α−メチルスチレン系樹脂、クマロンインデン樹脂、芳香族変性テルペン樹脂、テルペン芳香族樹脂等が挙げられる。なかでも、本発明の効果がより良好に得られる点から、α−メチルスチレン系樹脂、芳香族変性テルペン樹脂が好ましく、α−メチルスチレン系樹脂がより好ましい。
α−メチルスチレン系樹脂としては、α−メチルスチレン単独重合体や、α−メチルスチレンとスチレンとの共重合体等が挙げられる。クマロンインデン樹脂は、樹脂の骨格(主鎖)を構成するモノマー成分として、クマロン及びインデンを含む樹脂であり、クマロン、インデン以外に骨格に含まれるモノマー成分としては、スチレン、メチルインデン、ビニルトルエンなどが挙げられる。芳香族変性テルペン樹脂としては、テルペン樹脂を芳香族化合物(好ましくはスチレン誘導体、より好ましくはスチレン)で変性して得られる樹脂、及び該樹脂に水素添加処理した樹脂が挙げられる。テルペン芳香族樹脂としては、テルペン化合物と芳香族化合物(好ましくはスチレン誘導体、フェノール化合物、より好ましくはスチレン)とを共重合した樹脂、及び該樹脂に水素添加処理した樹脂が挙げられる。
【0091】
α−メチルスチレン系樹脂としては、例えば、SYLVARES SA85(SYLVATRAX 4401)、SA100、SA120、SA140(アリゾナケミカル社製)、FTR0100、2120、2140、7100(三井化学(株)製)等が挙げられる。クマロンインデン樹脂としては、G−90、V−120(日塗化学(株)製)、NOVARES C10、C30、C70、C80、C90、C100、C120、C140、C160(Rutgers Chemicals社)等が挙げられる。芳香族変性テルペン樹脂としては、YSレジン TO85、TO105、TO115、TO125、クリアロン M125、M115、M105、K100、K4100(ヤスハラケミカル(株)製)等が挙げられる。テルペン芳香族樹脂としてはYSポリスター U130、U115、T160、T145、T130、T115、T100、T80、T30、S145、G150、G125、N125、K125、TH130、UH115(ヤスハラケミカル(株)製)、タマノル803L、901(荒川化学工業(株)製)、SYLVARES TP95、TP96、TP300、TP2040、TP2019、TP2040HM、TP7042、TP105、TP115(アリゾナケミカル社製)等が挙げられる。
【0092】
芳香族系樹脂の軟化点は、好ましくは30℃以上、より好ましくは60℃以上である。また、該軟化点は、好ましくは160℃以下、より好ましくは130℃以下である。上記数値範囲内であると、本発明の効果がより良好に得られる傾向がある。
なお、本発明において、軟化点は、JIS K 6220−1:2001に規定される軟化点を環球式軟化点測定装置で測定し、球が降下した温度である。
【0093】
芳香族系樹脂を含有する場合、芳香族系樹脂の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは2質量部以上である。また、上記含有量は、10質量部以下、好ましくは7質量部以下である。上記数値範囲内であると、本発明の効果がより良好に得られる傾向がある。
【0094】
オイルとしては、例えば、プロセスオイル、植物油脂、又はその混合物が挙げられる。プロセスオイルとしては、例えば、パラフィン系プロセスオイル、アロマ系プロセスオイル、ナフテン系プロセスオイルなどを用いることができる。植物油脂としては、ひまし油、綿実油、あまに油、なたね油、大豆油、パーム油、やし油、落花生湯、ロジン、パインオイル、パインタール、トール油、コーン油、こめ油、べに花油、ごま油、オリーブ油、ひまわり油、パーム核油、椿油、ホホバ油、マカデミアナッツ油、桐油等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、本発明の効果が良好に得られるという理由から、プロセスオイルが好ましい。
【0095】
液状ジエン系重合体としては、重量平均分子量が50000以下のジエン系重合体であれば特に限定されず、例えば、スチレンブタジエン共重合体(ゴム)、ブタジエン重合体(ゴム)、イソプレン重合体(ゴム)、アクリロニトリルブタジエン共重合体(ゴム)等が挙げられる。なかでも、液状スチレンブタジエン共重合体(液状SBR)、液状ブタジエン重合体(液状BR)が好ましい。
【0096】
液状ジエン系重合体の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは1000以上、より好ましくは1500以上である。Mwが1000未満では、耐摩耗性能が低下する傾向がある。また、Mwは、好ましくは50000以下、より好ましくは20000以下、更に好ましくは15000以下である。Mwが50000を超えると、雪氷上性能、特に初期雪氷上性能が低下する傾向がある。また、ゴム成分との分子量の差が小さくなり、軟化剤としての効果が発揮されにくい傾向がある。
【0097】
ポリテルペン樹脂としては、α−ピネン樹脂、β−ピネン樹脂、リモネン樹脂、ジペンテン樹脂、β−ピネン/リモネン樹脂などのテルペン樹脂の他、該テルペン樹脂に水素添加処理した水素添加テルペン樹脂も挙げられる。
【0098】
軟化剤成分を含有する場合、軟化剤成分の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは3質量部以上である。また、上記含有量は、好ましくは20質量部以下、より好ましくは10質量部以下である。上記数値範囲内であると、本発明の効果がより良好に得られる傾向がある。
【0099】
軟化剤成分としては、例えば、丸善石油化学(株)、住友ベークライト(株)、ヤスハラケミカル(株)、東ソー(株)、Rutgers Chemicals社、BASF社、アリゾナケミカル社、日塗化学(株)、(株)日本触媒、JXエネルギー(株)、荒川化学工業(株)、田岡化学工業(株)、出光興産(株)、三共油化工業(株)、(株)ジャパンエナジー、オリソイ社、H&R社、豊国製油(株)、昭和シェル石油(株)、富士興産(株)等の製品を使用できる。
【0100】
トレッド用ゴム組成物は、酸化亜鉛を含むことが好ましい。
酸化亜鉛としては、従来公知のものを使用でき、例えば、三井金属鉱業(株)、東邦亜鉛(株)、ハクスイテック(株)、正同化学工業(株)、堺化学工業(株)等の製品を使用できる。
【0101】
酸化亜鉛を含有する場合、酸化亜鉛の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは0.5質量部以上、より好ましくは1質量部以上である。また、上記含有量は、好ましくは10質量部以下、より好ましくは5質量部以下である。上記数値範囲内であると、本発明の効果がより良好に得られる傾向がある。
【0102】
トレッド用ゴム組成物は、ステアリン酸を含むことが好ましい。
ステアリン酸としては、従来公知のものを使用でき、例えば、日油(株)、NOF社、花王(株)、和光純薬工業(株)、千葉脂肪酸(株)等の製品を使用できる。
【0103】
ステアリン酸を含有する場合、ステアリン酸の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは0.5質量部以上、より好ましくは1質量部以上である。また、上記含有量は、好ましくは10質量部以下、より好ましくは5質量部以下である。上記数値範囲内であると、本発明の効果が良好に得られる傾向がある。
【0104】
トレッド用ゴム組成物は、老化防止剤を含むことが好ましい。
老化防止剤としては、例えば、フェニル−α−ナフチルアミン等のナフチルアミン系老化防止剤;オクチル化ジフェニルアミン、4,4′−ビス(α,α′−ジメチルベンジル)ジフェニルアミン等のジフェニルアミン系老化防止剤;N−イソプロピル−N′−フェニル−p−フェニレンジアミン、N−(1,3−ジメチルブチル)−N′−フェニル−p−フェニレンジアミン、N,N′−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミン等のp−フェニレンジアミン系老化防止剤;2,2,4−トリメチル−1,2−ジヒドロキノリンの重合物等のキノリン系老化防止剤;2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、スチレン化フェノール等のモノフェノール系老化防止剤;テトラキス−[メチレン−3−(3′,5′−ジ−t−ブチル−4′−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン等のビス、トリス、ポリフェノール系老化防止剤などが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。なかでも、p−フェニレンジアミン系老化防止剤が好ましく、N−(1,3−ジメチルブチル)−N′−フェニル−p−フェニレンジアミンがより好ましい。
【0105】
老化防止剤としては、例えば、精工化学(株)、住友化学(株)、大内新興化学工業(株)、フレクシス社等の製品を使用できる。
【0106】
老化防止剤を含有する場合、老化防止剤の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは0.5質量部以上、より好ましくは1質量部以上である。また、上記含有量は、好ましくは10質量部以下、より好ましくは5質量部以下である。上記数値範囲内であると、本発明の効果が良好に得られる傾向がある。
【0107】
トレッド用ゴム組成物は、ワックスを含むことが好ましい。
ワックスとしては、特に限定されず、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス等の石油系ワックス;植物系ワックス、動物系ワックス等の天然系ワックス;エチレン、プロピレン等の重合物等の合成ワックスなどが挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、本発明の効果がより良好に得られるという理由から、石油系ワックスが好ましく、パラフィンワックスがより好ましい。
【0108】
ワックスとしては、例えば、大内新興化学工業(株)、日本精蝋(株)、精工化学(株)等の製品を使用できる。
【0109】
ワックスを含有する場合、ワックスの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは1質量部以上、より好ましくは2質量部以上である。また、上記含有量は、好ましくは20質量部以下、より好ましくは10質量部以下である。上記数値範囲内であると、本発明の効果が良好に得られる傾向がある。
【0110】
トレッド用ゴム組成物は、硫黄を含むことが好ましい。
硫黄としては、ゴム工業において一般的に用いられる粉末硫黄、沈降硫黄、コロイド硫黄、不溶性硫黄、高分散性硫黄、可溶性硫黄などが挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0111】
硫黄としては、例えば、鶴見化学工業(株)、軽井沢硫黄(株)、四国化成工業(株)、フレクシス社、日本乾溜工業(株)、細井化学工業(株)等の製品を使用できる。
【0112】
硫黄を含有する場合、硫黄の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは0.5質量部以上、より好ましくは1質量部以上である。また、上記含有量は、好ましくは10質量部以下、より好ましくは5質量部以下、更に好ましくは3質量部以下である。上記数値範囲内であると、本発明の効果が良好に得られる傾向がある。
【0113】
トレッド用ゴム組成物は、加硫促進剤を含むことが好ましい。
加硫促進剤としては、2−メルカプトベンゾチアゾール、ジ−2−ベンゾチアゾリルジスルフィド、N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアジルスルフェンアミド等のチアゾール系加硫促進剤;テトラメチルチウラムジスルフィド(TMTD)、テトラベンジルチウラムジスルフィド(TBzTD)、テトラキス(2−エチルヘキシル)チウラムジスルフィド(TOT−N)等のチウラム系加硫促進剤;N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアゾールスルフェンアミド、N−t−ブチル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N−オキシエチレン−2−ベンゾチアゾールスルフェンアミド、N−オキシエチレン−2−ベンゾチアゾールスルフェンアミド、N,N’−ジイソプロピル−2−ベンゾチアゾールスルフェンアミド等のスルフェンアミド系加硫促進剤;ジフェニルグアニジン、ジオルトトリルグアニジン、オルトトリルビグアニジン等のグアニジン系加硫促進剤を挙げることができる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、本発明の効果がより好適に得られるという理由から、スルフェンアミド系加硫促進剤、グアニジン系加硫促進剤が好ましい。
【0114】
加硫促進剤を含有する場合、加硫促進剤の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは1質量部以上、より好ましくは3質量部以上である。また、上記含有量は、好ましくは10質量部以下、より好ましくは7質量部以下である。上記数値範囲内であると、本発明の効果が良好に得られる傾向がある。
【0115】
前記ゴム組成物には、前記成分の他、タイヤ工業において一般的に用いられている添加剤を配合することができ、有機過酸化物;炭酸カルシウム、タルク、アルミナ、クレー、水酸化アルミニウム、マイカなどの充填剤;可塑剤、滑剤などの加工助剤;等を例示できる。
【0116】
トレッド用ゴム組成物は、例えば、前記各成分をオープンロール、バンバリーミキサーなどのゴム混練装置を用いて混練し、その後加硫する方法等により製造できる。
【0117】
混練条件としては、加硫剤及び加硫促進剤以外の添加剤を配合する場合、混練温度は、通常50〜200℃であり、好ましくは80〜190℃であり、混練時間は、通常30秒〜30分であり、好ましくは1分〜30分である。
加硫剤、加硫促進剤を配合する場合、混練温度は、通常100℃以下であり、好ましくは室温〜80℃である。また、加硫剤、加硫促進剤を配合した組成物は、通常、プレス加硫などの加硫処理が施される。加硫温度としては、通常120〜200℃、好ましくは140〜180℃である。
【0118】
本発明の空気入りタイヤは、上記トレッド用ゴム組成物を用いて通常の方法で製造される。すなわち、上記成分を配合したゴム組成物を、未加硫の段階でトレッド形状にあわせて押出し加工し、他のタイヤ部材とともに、タイヤ成型機上にて通常の方法で成形することにより、未加硫タイヤを形成する。この未加硫タイヤを加硫機中で加熱加圧することによりタイヤを得る。
【0119】
本発明の空気入りタイヤは、乗用車用タイヤ、大型乗用車用、大型SUV用タイヤ、トラック、バスなどの重荷重用タイヤ、ライトトラック用タイヤに好適に使用可能である。
【実施例】
【0120】
実施例に基づいて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0121】
以下、実施例及び比較例で用いた各種薬品について説明する。
NR:TSR20
SBR1:変性SBR(下記製造例1で調製したSBR、スチレン量:25質量%、ビニル量:50質量%)
SBR2:変性SBR(下記製造例2で調製したSBR、スチレン量:10質量%、ビニル量:40質量%)
SBR3:変性SBR(下記製造例3で調製したSBR、スチレン量:40質量%、ビニル量:45質量%)
BR:変性BR(下記製造例4で調製、シス量40質量%)
カーボンブラック:NSA114m/g、DBP吸収量114ml/100g
シリカ1:NSA175m/g
シリカ2:NSA115m/g
シランカップリング剤:3−オクタノイルチオ−1−プロピルトリエトキシシラン
オイル:ナフテン系プロセスオイル
樹脂:α−メチルスチレン系樹脂(α−メチルスチレンとスチレンとの共重合体)、軟化点85℃、Tg43℃
ワックス:日本精蝋(株)製のオゾエース0355
化合物1:ストラクトール社製のEF44(脂肪酸亜鉛)
化合物2:ラウリン酸アミドエチルアミノエタノール、下記式で表される化合物(式(1)で表される化合物)
【化3】
化合物3:ステアリン酸アミドエチルアミノエタノール、下記式で表される化合物(式(1)で表される化合物)
【化4】
化合物4:ステアリン酸アミド(Nメチル)エチルアミノエタノール、下記式で表される化合物(式(1)で表される化合物)
【化5】
化合物5:ステアリン酸アミド(Nエタノール)エチルアミノエタノール、下記式で表される化合物(式(1)で表される化合物)
【化6】
ステアリン酸:日油(株)製のステアリン酸「椿」
老化防止剤1:N−フェニル−N’−(1,3−ジメチルブチル)−p−フェニレンジアミン
老化防止剤2:ポリ(2,2,4−トリメチル−1,2−ジヒドロキノリン)
酸化亜鉛:三井金属鉱業(株)製の亜鉛華1号
硫黄:細井化学(株)製のHK−200−5(5%オイル硫黄)
加硫促進剤1:N−tert−ブチル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド
加硫促進剤2:N,N’−ジフェニルグアニジン
【0122】
(製造例1)
窒素置換されたオートクレーブ反応器に、シクロヘキサン、テトラヒドロフラン、スチレン、及び1,3−ブタジエンを仕込んだ。反応器の内容物の温度を20℃に調整した後、n−ブチルリチウムを添加して重合を開始した。断熱条件で重合し、最高温度は85℃に達した。重合転化率が99%に達した時点でブタジエンを追加し、更に5分重合させた後、3−ジメチルアミノプロピルトリメトキシシランを変性剤として加えて15分間反応を行った。重合反応終了後、2,6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾールを添加した。次いで、スチームストリッピングにより脱溶媒を行い、110℃に調温された熱ロールにより乾燥して変性スチレンブタジエンゴム(SBR1)を得た。
【0123】
(製造例2)
窒素置換されたオートクレーブ反応器に、シクロヘキサン、テトラヒドロフラン、スチレン、及び1,3−ブタジエンを仕込んだ。反応器の内容物の温度を20℃に調整した後、n−ブチルリチウムを添加して重合を開始した。断熱条件で重合し、最高温度は85℃に達した。重合転化率が99%に達した時点でブタジエンを追加し、更に5分重合させた後、3−ジエチルアミノプロピルトリメトキシシランを変性剤として加えて15分間反応を行った。重合反応終了後、2,6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾールを添加した。次いで、スチームストリッピングにより脱溶媒を行い、110℃に調温された熱ロールにより乾燥して変性スチレンブタジエンゴム(SBR2)を得た。
【0124】
(製造例3)
窒素置換されたオートクレーブ反応器に、ヘキサン、1,3−ブタジエン、スチレン、テトラヒドロフラン、エチレングリコールジエチルエーテルを投入した。次に、ビス(ジエチルアミノ)メチルビニルシラン及びn−ブチルリチウムを、それぞれ、シクロヘキサン溶液及びn−ヘキサン溶液として投入し、重合を開始した。
撹拌速度を130rpm、反応器内温度を65℃とし、単量体を反応器内に連続的に供給しながら、1,3−ブタジエンとスチレンの共重合を3時間行った。次に、得られた重合体溶液を130rpmの撹拌速度で撹拌し、N−(3−ジメチルアミノプロピル)アクリルアミドを添加し、15分間反応を行った。重合反応終了後、2,6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾールを添加した。次いで、スチームストリッピングにより脱溶媒を行い、110℃に調温された熱ロールにより乾燥して変性スチレンブタジエンゴム(SBR3)を得た。
【0125】
(製造例4)
窒素雰囲気下、メスフラスコに3−ジメチルアミノプロピルトリメトキシシランを入れ、さらに無水ヘキサンを加えて、末端変性剤を作成した。
充分に窒素置換した耐圧容器にn−ヘキサン、ブタジエン、TMEDAを加え、60℃に昇温した。次に、ブチルリチウムを加えた後、50℃に昇温させ3時間撹拌した。次に、上記末端変性剤を追加し30分間撹拌を行った。反応溶液にメタノール及び2,6−tert−ブチル−p−クレゾールを添加後、反応溶液をメタノールが入ったステンレス容器に入れて凝集体を回収した。得られた凝集体を24時間減圧乾燥させ、変性BRを得た。
【0126】
(実施例及び比較例)
表1に示す配合内容に従い、(株)神戸製鋼所製のバンバリーミキサーを用いて、硫黄及び加硫促進剤以外の材料を150℃の条件下で5分間混練りし、混練り物を得た。次に、得られた混練り物に硫黄及び加硫促進剤を添加し、オープンロールを用いて、80℃の条件下で5分間練り込み、未加硫ゴム組成物を得た。得られた未加硫ゴム組成物をトレッドの形状に成形し、他のタイヤ部材とともに貼り合わせて未加硫タイヤを形成し、170℃の条件下で10分間プレス加硫し、試験用タイヤ(サイズ:195/65R15)を製造した。得られた試験用タイヤを用いて表1に示す評価を行い、結果を表1に示した。
【0127】
(tanδの温度分布曲線)
各試験用タイヤから切り出したトレッドゴム(加硫後)について、(株)岩本製作所製の粘弾性スペクトロメータを用い、周波数10Hz、初期歪10%、振幅±0.25%および昇温速度2℃/minの条件下で、−120℃から70℃までの温度範囲で、tanδの温度分布曲線を測定した。そして、得られたtanδの温度分布曲線を基に各数値を算出し、算出した値を表1に示した。
なお、表中、+20℃位置でのtanδ、−20℃位置でのtanδは、それぞれ、ピーク位置の温度から20℃加算した温度におけるtanδ、ピーク位置の温度から20℃減算した温度におけるtanδを意味する。
【0128】
(ウェットグリップ性能)
各試験用タイヤを車両(国産FF2000cc)の全輪に装着して、湿潤アスファルト路面(路面温度が20℃の路面又は路面温度が40℃の路面)にて初速度100km/hからの制動距離を求め、比較例1を100とした時の指数で表示した(ウェットグリップ性能指数)。指数が大きいほど制動距離が短く、ウェットグリップ性能に優れることを示す。
路面温度が20℃の路面、路面温度が40℃の路面は、それぞれ、ドイツの路面、南アフリカ共和国の路面に対応する。
【0129】
(低温脆化性)
各試験用タイヤから切り出したトレッドゴム(加硫後)について、JIS K3601の低温脆化破壊試験法にしたがって脆化温度を測定し、以下の基準にて評価した。
○:脆化温度が−25℃以下
×:脆化温度が−25℃を超える
低温脆化性が×の場合、冬場など気温が低下した場合にゴムが破壊されるおそれがあり、タイヤとして使用できない。
【0130】
【表1】
【0131】
表1より、トレッドの損失正接(tanδ)をその測定温度に対してプロットして得られるtanδの温度分布曲線において、ピーク位置の温度が−20.0℃〜0.0℃であり、前記ピーク位置のtanδが0.80以上であり、前記ピーク位置の温度から20℃減算した温度における温度分布曲線の接線と、前記ピーク位置の温度から20℃加算した温度における温度分布曲線の接線との交点のtanδが、上記式(1)を満たす実施例の空気入りタイヤは、異なる地域の路面で充分なウェットグリップ性能を発揮できることが明らかとなった。
【要約】
【課題】異なる地域の路面で充分なウェットグリップ性能を発揮する空気入りタイヤを提供する。
【解決手段】トレッドを有する空気入りタイヤであって、
前記トレッドの損失正接(tanδ)をその測定温度に対してプロットして得られるtanδの温度分布曲線において、
ピーク位置の温度が−20.0℃〜0.0℃であり、
前記ピーク位置のtanδが0.80以上であり、
前記ピーク位置の温度から20℃減算した温度における温度分布曲線の接線と、前記ピーク位置の温度から20℃加算した温度における温度分布曲線の接線との交点のtanδが、下記式(1)を満たす空気入りタイヤに関する。
ピーク位置のtanδ−0.05≦交点のtanδ≦ピーク位置のtanδ+0.05 式(1)
【選択図】図1
図1