(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記親水性粒子が、親水性樹脂、表面を親水化した樹脂、及び表面を親水化した炭素のうちの少なくとも一つであることを特徴とする請求項1又は2に記載の空気電池用正極。
【背景技術】
【0002】
空気電池は、空気中の酸素を活物質として利用するものであり、経済的で且つ長期無保守で使用できる電源である。従来の空気電池としては、金属製負極ケースと空気孔を有する金属製正極ケースとをガスケットを介して嵌め合せてケース嵌合体を形成し、このケース嵌合体の内部空間に、負極、電解液、セパレータ、空気極(正極)、及び撥水膜などを配置した構造を有するボタン型空気電池が知られている。
【0003】
上記のボタン型空気電池は、ケース嵌合体の内部空間がセパレータにより分割され、一方の空間には亜鉛とこれに含浸された電解液を充填して負極とし、他方の空間には触媒を配置して空気極(正極)としている。また、空気極のセパレータと反対側の面にはポリテトラフルオロエチレン(PTFE)多孔質フィルムからなる撥水膜が配置され、さらに、この撥水膜には拡散紙が密着して設けられている。
【0004】
そして、上記のボタン型空気電池においては、正極活物質としての空気中の酸素が、正極ケースの底部に穿設された空気孔から取り入れられ、拡散紙及び撥水膜を介して空気極に供給される。この場合、拡散紙は、空気極全面に酸素を均一に供給する機能を果たし、また、撥水膜は、酸素を電池内部(正極)に供給するとともに、空気孔を介して電解液が電池外に漏出するのを防止する機能を果たす。
【0005】
上述のような構成の空気電池としては、ガス拡散層上に触媒層を積層するとともに触媒層中のガス拡散層側に集電体を偏在させて配置し、且つガス拡散層から触媒層の頂面の方向に縮径した円錐台状の空気極を備えた空気電池が公知である(例えば、特許文献1参照。)。
【0006】
このボタン型空気電池は、電池の製造に際し、触媒層の崩れが少なく、触媒層側周面と正極ケース内壁との接触性が良好であるため電池内部抵抗を低減できる。また、触媒層が崩れて発生する塊状の触媒が異物として電池構成部品間に挟み込まれるのを抑制できるので、耐漏液性に優れることが知られている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところが、上記したような従来のボタン型空気電池は、比較的低出力のものが多い。これに対して、近年では、自動車の主電源若しくは補助電源として使用する空気電池の研究開発が進められており、このような車載用の空気電池は高出力化が必須となっている。
【0009】
本発明は、このような従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、空気電池の高出力化を実現することができる空気電池用正極及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の空気電池用正極は、触媒層と液密通気層とを積層した構造を有している。そして、空気電池用正極は、触媒層が、導電性を有する炭素粒子と、
金属及びその化合物並びにこれらの合金から成る電極触媒である触媒粒子と、前記炭素粒子及び前記触媒粒子
の材料とは異なる
材料から成る親水性粒子と、前記炭素粒子、前記触媒粒子及び前記親水性粒子を結着するバインダーとを含有する多孔質層から成り、前記液密通気層が、導電性炭素の一次粒子の凝集体から成る導電パス材、及び
黒鉛又は活性炭から成る多孔質体構成粒子を含有する多孔質層であることを特徴としている。
【0011】
また、本発明の空気電池用正極の製造方法は、上述のような空気電池用正極を製造する方法であり、以下の工程を含む。
(A)液密通気層を形成する液密通気層用インクと、触媒層を形成する触媒層用インクを調製し、
(B)保持体上に、液密通気層用インクを塗布して乾燥し、
(C)上記液密通気層前駆体上に触媒層用インクを塗布して乾燥し、
(D)上記液密通気層前駆体及び上記触媒層前駆体を焼成して上記液密通気層及び上記触媒層を形成し、
(E)形成した上記液密通気層及び上記触媒層を上記保持体から剥離させる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、液密通気層とともに正極を構成する触媒層が、炭素粒子と触媒粒子とバインダーと親水性粒子を含有する多孔質層から成るものとしたため、触媒層において、親水性粒子により電解液が浸入し易くなり、触媒、酸素及び電解液の三相界面の活性点が多くなるので、これにより空気電池の高出力化を実現することができる。また、空気電池においては、触媒層の組成により高出力化を実現するので、高出力化に伴って全体構造の小型化を図ることも可能となる。
さらに、本発明の正極は、上記の触媒層と、導電パス材及び多孔質体構成粒子を含有する液密通気層とを採用したことにより、電解液の透過を阻止しつつ酸素の供給を可能にし、且つ厚さ方向の導電性に優れたものとなり、空気電池の高出力化を実現する。
【発明を実施するための形態】
【0014】
〈第1実施形態〉
図1に示す空気電池用の正極10は、触媒層11と液密通気層12とを積層した構造を有し、触媒層11上に液密通気層12が積層されている。なお、本明細書では、説明の便宜上、触媒層11上に液密通気層12を「積層」と記載したが、両層が隣接するとともに、触媒層11への空気取り入れ孔又は流路(図示せず)が配置される側、即ち図示しない電解液の配置側の反対側に、液密通気層12が配置されていればよく、必ずしも「積層」という文言に限定されるものではない。
【0015】
触媒層11は、炭素粒子1と、触媒粒子2と、バインダー3と、親水性粒子4とを含有し、炭素粒子1、触媒粒子2及び親水性粒子4がバインダー3によって結着されて、多孔質層を形成している。他方、液密通気層12としては、PTFE製の多孔質フィルムから成る撥水膜などを用いることも可能である。
【0016】
炭素粒子1は、導電性を有する炭素材料であれば特に限定されるものではなく、ダイヤモンド以外のいわゆる活性炭、黒鉛、鱗片状黒鉛、カーボンブラック及びアセチレンブラックなどを挙げることができる。
【0017】
触媒粒子2は、従来公知の空気電池正極用の電極触媒を用いることができ、その形状や大きさは、特に限定されるものではなく、従来公知の触媒成分と同様の形状及び大きさを採用することができる。
【0018】
バインダー3は、炭素粒子1、触媒粒子2及び親水性粒子4を結着して多孔質層を形成できる機能を有すれば充分であるが、電解液に対する撥液性、典型的には撥水性を有していることが好ましい。
【0019】
親水性粒子4は、触媒層11に含有されているだけで出力向上の効果に貢献し得るものであるが、好ましい実施形態として、その平均粒子径をbとし、炭素粒子の一次粒子の平均粒子径又は炭素粒子の表面の平均孔径をaとしたときに、1/2a≦b≦10aの関係であるものとしている。この親水性粒子4は、より好ましい実施形態として、その平均粒子径bが、炭素粒子1の一次粒子の平均粒子径に近いものとしており、一例として、平均粒子径が35nm程度のコロイダルシリカを用いることができる。また、親水性粒子4は、触媒層11における含有率が、5〜30%の範囲であることが望ましく、さらに、10〜20%の範囲であることがより望ましい。
【0020】
上記の空気電池用正極10は、
図2に示す組電池を構成する空気電池A,Bに使用される。空気電池A,Bは、いずれも触媒層11に液密通気層12を積層して成る正極10と、負極20と、両極10,20の間に配置
したセパレータ30を備えており、セパレータ30には電解液(D)が含浸させてある。
【0021】
正極10の液密通気層12は、両空気電池A,Bの間に形成される空気流路40に露出しており、触媒層11に空気中の酸素が供給される構造となっている。図示例の両空気電池A,Bは、正極10及び負極20の外周にホルダー60が配置してあり、正極10及び負極20の外周とホルダー60とが一体的に接合されている。これにより、正極10及び負極20とホルダー60との接合部からの電解液(D)の漏れを防止する構成となっている。さらに、両空気電池A,Bの間の空気流路40には、断面が波形の集電体50が介装してある。このように、空気電池A,Bは、集電体50を介して積み重なったスタック構造にして組電池を構成している。
【0022】
なお、
図2に示した組電池において、電解液(D)はセパレータ30に含浸されているが、電解液は正極10と負極20に接触すればよいので、符号30部分を空間とし、この空間に電解液を充填してもよい。また、正極10や負極20に含ませてもよいことは言うまでもない。
【0023】
上記構成を備えた空気電池用正極10は、液密通気層12とともに当該正極10を構成する触媒層11が、炭素粒子1と触媒粒子2とバインダー3と親水性粒子4を含有する多孔質層から成るものとしたため、触媒層11において、
図1に示すように、親水性粒子4により電解液Dが浸入し易くなり、触媒、液密通気層12を通過した酸素、及び電解液Dの三相界面の活性点が多くなる。
【0024】
これにより、上記正極10は、
図2に示すような空気電池A,B並びに組電池を構成した際には、空気電池A,Bの高出力化を実現することができ、とくに、触媒層
11の組成により高出力化を実現しているので、全体構造に大きな影響がなく、高出力化に伴って空気電池A,Bの小型化を図ることも可能となる。したがって、このような高出力で且つ小型の空気電池A,B及び組電池は、車載用の電源として非常に有用である。
【0025】
また、上記の空気電池A,Bにおいては、正極10の液密通気層12が導電性を有するので、図示の如く空気流路40に集電体50を配置するだけで、対向した負極20と正極10との電気接続を実現することができ、具体的には、空気電池Aと空気電池Bを直列に接続した組電池を簡易に得ることができる。この場合、負極20と正極10は、電気接点面積が広く、あたかも面で電気接続を行うことができるので、通電損失を低減することができる。
【0026】
ここで、
図3(A)〜(C)は、親水性粒子4の平均粒子径及び含有率を異ならせた場合での、正極10の絶縁抵抗を説明するグラフである。
【0027】
親水性粒子4の平均粒子径が、炭素粒子1の一次粒子の平均粒子径(約35nm)と同等である場合には、
図3(B)に示すように、最大出力が得られ、長期放電耐久性も高いものとなる。
【0028】
また、親水性粒子4の平均粒子径が、20nm以下すなわち炭素粒子1の一次粒子の平均粒子径よりも小さい場合には、
図3(A)に示すように、絶縁抵抗が高くなり、とくに、親水性粒子4の含有率が10%及び20%のものに比べて、含有率が30%のものでは高電流域での性能低下が顕著である。なお、親水性粒子4は、平均粒子径が20nm以下であるとしても、含有率を適切に選択すれば出力向上の一定の効果がある。
【0029】
さらに、親水性粒子4の平均粒子径が、200nm以上すなわち炭素粒子1の一次粒子の平均粒子径よりも大きい場合には、
図3(C)に示すように、絶縁抵抗は低いものの、全体的に出力が低めになり、とくに、親水性粒子4の含有率が10%及び20%のものに比べて、含有率が30%のものでは高電流域での性能低下が顕著である。出力低下は、親水性粒子4の平均粒子径の増大により、三相界面の活性点が減少したためと推測される。なお、親水性粒子4は、平均粒子径が200nm以上であるとしても、含有率を適切に選択すれば出力向上する一定の効果がある。さらに、平均粒子径が350nmを超えた場合には、
図3(D)に示すように、全体的に抵抗が増加し、著しく出力が低下した。
【0030】
以上のことから、空気電池用正極10は、より望ましくは、親水性粒子4の平均粒子径bを、炭素粒子の一次粒子の平均粒子径又は炭素粒子の表面の平均孔径をaとしたときに、1/2a≦b≦10aの関係にすることで、空気電池の高出力化を実現できることが判明した。また、触媒層11における親水性粒子4の含有率を5〜30%の範囲とし、より望ましくは10〜20%の範囲とすることで、絶縁抵抗が低くなり、空気電池のさらなる高出力化に貢献し得ることが判明した。
【0031】
〈第2実施形態〉
図4に示す空気電池用正極10は、触媒層11と液密通気層12とを積層した構造を有し、触媒層11上に液密通気層12が積層されている。触媒層11は、第1実施形態と同様に、炭素粒子1と、触媒粒子2と、バインダー3と、親水性粒子4とを含有する多孔質層から成るものである。
【0032】
この実施形態の正極10は、液密通気層12が、導電性炭素の一次粒子の凝集体から成る導電パス材1aと、及び導電性炭素粒子から成る多孔質体構成粒子1bを含有する多孔質層で形成されており、図示例では、触媒層11と同じ様に、導電パス材1a及び多孔質体構成粒子1bをバインダー3で決着して多孔質層を形成している。
【0033】
導電パス材1aは、例えばカーボンブラックである。多孔質体構成粒子1bは、例えば黒鉛や活性炭のような多孔質体である。なお、バインダー3は、触媒層11のものと同様に、導電パス材1a及び多孔質体構成粒子1bを結着して多孔質層を形成できる機能を有すれば充分であり、電解液に対する撥液性(撥水性)を有するものである。
【0034】
上記構成を備えた空気電池用正極10は、とくに触媒層11において、先の実施形態と同様に、親水性粒子4により電解液Dが浸入し易くなり、触媒、酸素及び電解液Dの三相界面の活性点が多くなる。また、正極10は、上記の触媒層11と、導電パス材1a及び多孔質体構成粒子1bを含有する液密通気層12とを採用したことにより、電解液Dの透過を阻止しつつ酸素の供給を可能にし、且つ厚さ方向の導電性に優れたものとなる。これにより、上記の正極10は、
図2に示すような空気電池A,Bの高出力化を実現する。
【0035】
また、上記の正極10は、触媒層11及び液密通気層12がいずれも多孔質層であるから、
図4中に点線枠で示す双方の間において、馴染みが良好な界面を得ることができ、実質的に、触媒層11と液密通気層12とがほぼ一体化している。このように、触媒層11と液密通気層12とを一体化すると、正極10の機械的強度が向上し、これに伴って正極10を薄くすることができるので、絶縁抵抗の低減や空気電池のさらなる高出力化を実現し、空気電池の小型化にも貢献し得る。このような一体化は、後述するこの空気電池用正極の製造方法によって行うことができる。
【0036】
次に、上述した空気電池用正極や空気電池の構成材料などについて説明する。
〈炭素粒子〉
触媒層11を構成する炭素粒子としては、導電性を有する炭素材料であれば特に限定されるものではなく、ダイヤモンド以外のいわゆる活性炭、黒鉛、鱗片状黒鉛、カーボンブラック及びアセチレンブラックなどを挙げることができる。
【0037】
〈触媒粒子〉
触媒粒子(触媒成分)としては、従来公知の空気電池正極用の電極触媒を用いることができ、具体的には、白金(Pt)、ルテニウム(Ru)、イリジウム(Ir)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、オスミウム(Os)、タングステン(W)、鉛(Pb)、鉄(Fe)、クロム(Cr)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、マンガン(Mn)、バナジウム(V)、モリブデン(Mo)、ガリウム(Ga)、アルミニウム(Al)等の金属及びその化合物、並びにこれらの合金などを例示することができる。
【0038】
触媒粒子の形状や大きさは、特に限定されるものではなく、従来公知の触媒成分と同様の形状及び大きさを採用することができる。また、触媒粒子の平均粒子径は、30nm〜10μmであることが好ましい。触媒粒子の平均粒子径がこのような範囲内にあると、電気化学反応が進行する有効電極面積に関連する触媒利用率と触媒担持の簡便さとのバランスを適切に制御することができる。なお、「触媒粒子の平均粒子径」は、X線回折における触媒成分の回折ピークの半値幅から求められる結晶子径や、透過型電子顕微鏡像によって調べられる触媒成分の粒子径の平均値として測定することができる。
【0039】
〈バインダー〉
バインダーとしては、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエーテルニトリル(PEN)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリイミド(PI)、ポリアミド(PA)、セルロース、カルボキシメチルセルロース(CMC)、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリ塩化ビニル(PVC)、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、エチレン・プロピレンゴム、エチレン・プロピレン・ジエン共重合体、スチレン・ブタジエン・スチレンブロック共重合体及びその水素添加物、スチレン・イソプレン・スチレンブロック共重合体及びその水素添加物などの熱可塑性高分子、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、エチレン・テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、エチレン・クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、ポリフッ化ビニル(PVF)等のフッ素樹脂、ビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン系フッ素ゴム(VDF−HFP系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF−HFP−TFE系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド−ペンタフルオロプロピレン系フッ素ゴム(VDF−PFP系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド−ペンタフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF−PFP−TFE系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド−パーフルオロメチルビニルエーテル−テトラフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF−PFMVE−TFE系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド−クロロトリフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF−CTFE系フッ素ゴム)等のビニリデンフルオライド系フッ素ゴム、エポキシ樹脂等が挙げられる。中でも、ポリフッ化ビニリデン、ポリイミド、スチレン・ブタジエンゴム、カルボキシメチルセルロース、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリアクリロニトリル、ポリアミドを挙げることができる。このようなバインダーは、1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0040】
なお、これらのバインダーの中では、耐熱性及び耐薬品性の観点から、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリプロピレン(PP)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)及びエチレン・テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)を特に好適に使用することができる。
【0041】
〈親水性粒子〉
親水性粒子には、金属を採用することができ、具体的には、マンガンやニッケルなどの金属を採用することができ、この際、負極に用いた金属以外の金属を用いることが望ましい。このように、金属製の親水性粒子を用いることで、導電性の向上や触媒の活性化などを図ることができ、空気電池のさらなる高出力化に貢献し得る。
【0042】
また、親水性粒子には、親水性樹脂、表面を親水化した樹脂、及び表面を親水化した炭素のうちの少なくとも一つを採用することができる。この際、親水性粒子に親水性樹脂や表面を親水化した樹脂を用いれば、それらの樹脂にバインダーとしての機能をも期待することができ、正極の強度向上、強度向上に伴う薄肉化、及び薄肉化に伴う絶縁抵抗の低減などを実現し得る。また、親水性粒子に炭素を使用すれば、導電性も確保することができ、正極全体の導電性向上などを実現し得る。なお、粒子の親水化としては、PP(ポリプロピレン)樹脂などを用いた表面親水化処理が挙げられる。
【0043】
さらに、親水性粒子には、金属酸化物を採用することができる。この場合、金属酸化物としては、シリカやアルミナなどのように一般的な親水化に使用する酸化物が好ましい。このように親水性の高い金属酸化物製の親水性粒子を用いることで、触媒、酸素及び電解液の三相界面のさらなる微細化が実現でき、空気電池のさらなる高出力化に貢献し得るものとなる。
【0044】
〈導電パス材〉
液密通気層の導電パス材は、同液密通気層をシート化する際、多孔質体構成粒子が面内方向に偏りやすいので、シートの厚さ方向の抵抗を確保するために一定量混ぜることが望ましく、例えばカーボンブラックやアセチレンブラックである。
【0045】
〈多孔質体構成粒子〉
多孔質体構成粒子は、導電性が高く且つ夫々の粒子が独立している黒鉛や、活性炭のような多孔質体などを採用することができる。
【0046】
〈負極〉
負極としては、例えば、標準電極電位が水素より卑な金属単体又は合金から成る負極活物質を含む。場合によっては、多孔質の材料で形成することができる。標準電極電位が水素より卑な金属単体としては、例えばリチウム(Li)、亜鉛(Zn)、鉄(Fe)、アルミニウム(Al)、マグネシウム(Mg)、マンガン(Mn)、ケイ素(Si)、チタン(Ti)、クロム(Cr)、バナジウム(V)などを挙げることができる。また、合金を適用することもできる。しかしながら、これらに限定されるものではなく、空気電池に適用される従来公知の材料を用いることができる。
【0047】
〈電解液〉
電解液も従来公知のものを用いることができるが、例えば、塩化カリウム、塩化ナトリウム及び水酸化カリウムなどの水溶液や非水溶液を用いることができる。
【0048】
〈セパレータ〉
セパレータとしては、空気電池に使用する従来公知の材料を用いることができる。具体的には、水溶液である電解液に対しては、例えば、撥水処理を行っていないグラスペーパー、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィンから成る微多孔膜を好適に用いることができる。
【0049】
〈集電体〉
集電体は、集電機能を有するものであれば、特に限定されることはなく、例えば、ステンレス鋼(SUS)や銅、ニッケルなどの金属でできたものを使用することができる。また、樹脂に導電性材料をコーティングした材料も用いることができる。さらに、その形状も特に限定されるものではなく、金網状やエキスパンドメタル状、波板状など各種の形状を適用することができる。
【0050】
次に、本発明の空気電池用正極の製造方法について説明する。
この製造方法は、第2実施形態として
図4に示した空気電池用正極を製造する方法であって、以下の工程(A)〜(E)を含むものである。
(A)液密通気層を形成する液密通気層用インクと、触媒層を形成する触媒層用インクを調製する。
(B)保持体上に、液密通気層用インクを塗布して乾燥させることにより、液密通気層前駆体を形成する。
(C)液密通気層前駆体上に触媒層用インクを塗布して乾燥させることにより、触媒層前駆体を形成する。
(D)液密通気層前駆体及び触媒層前駆体を焼成することにより、液密通気層及び触媒層を形成する。
(E)形成した液密通気層及び触媒層を、上記保持体から剥離させる。
【0051】
まずは、
図5(A)に示すように、工程(A)にて、液密通気層用インクIA(A−a)及び触媒層用インクIB(A−b)を調製する。液密通気層用インクIAは、導電パス材、多孔質体形成粒子、及びバインダーを溶媒に混合することにより得ることができる。また、触媒層用インクIBは、炭素粒子、触媒粒子、バインダー及び親水性粒子を溶媒に混合することにより得ることができる。なお、各インクを調製する際に用いられる溶媒としては、特に制限されないが、水やメタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコールなどのアルコール系溶媒などが挙げられる。また、各インクには、必要に応じて公知の界面活性剤や増粘剤を混合してもよい。
【0052】
次に、
図5(B)に示すように、(B)工程において、保持体H上に液密通気層用インクIAを塗布して乾燥させる。これにより、液密通気層前駆体12Aを形成する。(B)工程で使用する保持体Hは、乾燥や焼成に耐える耐熱性を有すれば充分であるが、液密通気層や触媒層の剥離性に優れているものが好ましい。具体的には、各種ガラス板や各種セラミックス板、各種耐熱性樹脂板などを挙げることができる。なお、液密通気層用インクIAの乾燥温度は、インク中の溶媒が除去される温度ならば特に限定されないが、例えば80〜120℃とすることが好ましい。
【0053】
次に、
図5(C)に示すように、(C)工程において、固化した液密通気層前駆体12A上に触媒層用インクIBを塗布して乾燥させる。これにより、液密通気層前駆体12A上に触媒層前駆体11Aを形成する。なお、触媒層用インクIBの乾燥温度は、インク中の溶媒が除去される温度ならば特に限定されないが、例えば80〜120℃とすることが好ましい。
【0054】
その後、(D)工程において、積層された液密通気層前駆体12A及び触媒層前駆体11Aを焼成する。この焼成温度は特に限定されないが、例えば100〜350℃とすることが好ましい。なお、上記乾燥及び焼成は、不活性雰囲気で行ってもよく、空気中で行ってもよい。
【0055】
最後に、
図5(D)に示すように、(E)工程にて、液密通気層12及び触媒層11を保持体Hから剥離する。これにより、液密通気層12及び触媒層11が一体化した空気電池用正極10を得ることができる。
【0056】
なお、上記の製造方法では、液密通気層前駆体12A及び触媒層前駆体11Aを形成してから、双方を同時に焼成するものとした。各層12,11を個別に焼成することも可能である。すなわち、液密通気層前駆体12Aを形成した後に、これを焼成して液密通気層12とし、その後、液密通気層12上に触媒層前駆体11Aを形成し、これを焼成して触媒層11液密通気層12としても良い。
【0057】
このように、本実施形態の正極は、従来の燃料電池用電極を調製する手法を用いることにより、容易に形成することが可能となる。また、本実施形態の製造方法では、液密通気層と触媒層とを別個に作成した後、接合することにより正極を作成してもよい。ただ、好ましくは、上述のように、液密通気層又は液密通気層前駆体上に触媒層用インクを塗布して乾燥及び焼成することにより、正極を作成することが好ましい。この製法により、液密通気層と触媒層との間に、酸素、触媒成分及び電解液の三層界面を形成しやすくなるため、電池出力を高めることが可能となる。
【0058】
〈第3実施形態〉
図6に示す空気電池用正極10は、触媒層11と液密通気層12とを積層した構造を有している。触媒層11は、炭素粒子、触媒粒子、バインダー、及び親水性粒子を含有する多孔質層から成るものである。液密通気層12は、第1及び第2の実施形態で説明したものを採用することができる。そして、この実施形態の正極10は、液密通気層12が、触媒層11の配置側と反対側(図中で上側)の面に、導電性多孔体70を備えたものとなっている。
【0059】
導電性多孔体70としては、金網、エッチング、エキスパンドメタル、パンチングメタル等の金属メッシュ類や、樹脂メッシュに導電性コーティングを施したものなどを用いることができる。このような導電性多孔体70を備えた正極10は、先の各実施形態と同様の作用及び効果を得ることができるうえに、面内方向の導電性が大幅に高められ、また、強度の向上を実現することができる。
【0060】
以上、本発明を若干の実施形態によって説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内で種々の変形が可能である。