【実施例1】
【0015】
以下に、本発明に係る冷間ロール成形角形鋼管柱と通しダイアフラムの溶接接合構造を、図示した実施例に基づいて説明する。
先ず、
図1は、柱梁鉄骨構造の枢要部を示している。冷間ロール成形角形鋼管柱1に溶接接合された上下の通しダイアフラム2へ、H形鋼で成る梁材4のフランジ部が溶接接合されている。
次に、
図2及び3は、冷間ロール成形角形鋼管柱1と通しダイアフラム2の溶接接合部3を示している。図中の符号30は溶接材料、符号31は裏当て金である。なお、溶接ボンド部の設計基準強度は、通しダイアフラムの設計基準強度と同じである。
【0016】
本発明に係る冷間ロール成形角形鋼管柱1と通しダイアフラム2の溶接接合構造の特徴は、構造物の健全性を維持できる可能な範囲において、通しダイアフラム2が、冷間ロール成形角形鋼管柱1の設計基準強度よりも低い設計基準強度の圧延鋼材で構成されていることである。
上記「背景技術」及び「発明が解決しようとする課題」の欄で既に述べたように、通例、通しダイアフラム2は、
図4中の「従来の組合せ」欄で示したように、冷間ロール成形角形鋼管柱1以上の設計基準強度の圧延鋼材で構成される。つまり、冷間ロール成形角形鋼管柱1の設計基準強度と通しダイアフラム2の設計基準強度の比(通しダイアフラム2の設計基準強度/冷間ロール成形角形鋼管柱1の設計基準強度)が1.0以上となる構成とされている。前記通しダイアフラム2の設計基準強度が冷間ロール成形角形鋼管柱1の設計基準強度よりも低いと、該通しダイアフラム2が先行して塑性変形してしまい、その後は当該箇所だけが変形してしまうからである。
本発明に係る冷間ロール成形角形鋼管柱1と通しダイアフラム2の溶接接合構造は、上記の発想を逆転させた構成である。
【0017】
具体的には、
図4中の「本発明の組合せ」欄で示したように、上記冷間ロール成形角形鋼管柱1の設計基準強度を326N/mm
2〜400N/mm
2の範囲とし、上記通しダイアフラム2の設計基準強度が325N/mm
2〜365N/mm
2の範囲として、前記冷間ロール成形角形鋼管柱1の設計基準強度と通しダイアフラム2の設計基準強度の比(通しダイアフラム2の設計基準強度/冷間ロール成形角形鋼管柱1の設計基準強度)は0.81
3〜0.997の範囲とする。
そして、
図3に示すように、前記冷間ロール成形角形鋼管柱1と通しダイアフラム2の板厚比(通しダイアフラム2の板厚dt/冷間ロール成形角形鋼管柱1の板厚ct)が1.0以上である。冷間ロール成形角形鋼管柱1の板厚ctが、通しダイアフラム2の板厚dtよりも厚いと、通しダイアフラム2が、同冷間ロール成形角形鋼管柱1よりも先に壊れてしまう不都合が生じるからである。因みに、本発明では、冷間ロール成形角形鋼管柱1より通しダイアフラム2の材料自体の強度を低下させているため、通しダイアフラム2のせん断耐力が低下する。そのため、冷間ロール成形角形鋼管柱1の板厚ctを通しダイアフラム2の板厚dtより薄くすることで、通しダイアフラム2のせん断耐力を向上させている。
【0018】
冷間ロール成形角形鋼管1の全塑性曲げ耐力を下記[数1]の数式<1>に示す。数式<1>は、冷間ロール成形角形鋼管1の塑性断面係数と設計基準強度の積で、冷間ロール成形角形鋼管1の応力度が設計基準強度に達するときである。冷間ロール成形角形鋼管−通しダイアフラム溶接接合部の最大曲げ耐力を数式<2>に示す。数式<2>は、冷間ロール成形角形鋼管−通しダイアフラム溶接接合部の塑性断面係数と通しダイアフラムの引張強さの積で、冷間ロール成形角形鋼管−通しダイアフラム溶接接合部の応力度が引張強さに達するときである。なお、全塑性曲げ耐力を算定する場合、設計基準強度を1.1倍まで乗じた基準強度で算定することが認められている。
数式<1>と数式<2>の比を数式<3>に示す。数式<3>の値が接合部係数α(例えば、1.20)以上であれば、柱及び梁の設計耐力よりも一定以上の設計耐力を有する保有耐力接合を満足(構造物の健全性を維持)しているということである。
【0019】
[数1]
cMp =cZp×cσy ・・・<1>
dM
u =
dZ
p×
dσ
t ・・・<2>
ただし、前記
cM
p、
dM
u は次式<3>を満足するものとする。
dM
u≧α・
cM
p ・・・<3>
ここで、
前記
cZ
pの算出は、
ctおよび
cdを使用する。
前記
dZ
pの算出は、(
ct+1/4
ct)および(
cd+
2×1/4×
ct)を使用する。
cM
p :冷間ロール成形角形鋼管の全塑性曲げ耐力
dM
u :冷間ロール成形角形鋼管−通しダイアフラム溶接接合部の最大曲げ耐力
cZ
p :冷間ロール成形角形鋼管の塑性断面係数
dZ
p :冷間ロール成形角形鋼管−通しダイアフラム溶接接合部の塑性断面係数
cσ
y:冷間ロール成形角形鋼管の設計基準強度
dσ
t:通しダイアフラムの引張強さ
α :接合部係数(1.20)
【0020】
ここで、上記数式<1>〜<3>に、一例として本発明の数値範囲内である下記の数値を代入して保有耐力接合を満足しているか否かについて検討する。
(1)冷間ロール成形角形鋼管柱1の数値について
外径cdは400mm×400mmである。
板厚ctは22mmである。
前記外径cd及び板厚ctから求められる塑性断面係数cZpは4,390cm
3である。
設計基準強度cσyは365N/mm
2である。
前記数値を上記数式<1>へ代入すると、全塑性曲げ耐力cMp=cZp×cσy=4,390cm
3×365N/mm
2=1,602,350kN・mmとなる。
(2)通しダイアフラム2の数値について
溶接接合部の外径(cd+2×1/4×ct)は411mm×411mmである。
冷間ロール成形角形鋼管柱1の板厚ctと溶接の余盛り(1/4×ct)の和である溶接接合部3の寸法dSは、27.5mmである。
前記外径及び溶接接合部3の寸法dSから求められる塑性断面係数dZpは5,550cm
3である。
引張強さ(
dσt)は490N/mm
2である。
前記数値を上記数式<2>へ代入すると、最大曲げ耐力(dMu)=dZp×
dσt=5,550cm
3×490N/mm
2=2,719,500kN・mm
(3)全塑性曲げ耐力(cMp)と最大曲げ耐力(dMu)を上記数式<3>へ代入
前記(1)と(2)で求めた全塑性曲げ耐力(cMp)と最大曲げ耐力(dMu)により、dMu/cMp=2,719,500kN・mm/1,602,350kN・mm =1.697>1.2(α)となる。
また、冷間ロール成形角形鋼管柱1
の板厚と通しダイアフラム2の溶接接合部3
の寸法との比(溶接接合部3の寸法dS/冷間ロール成形角形鋼管柱1の板厚ct)は、27.5mm/22mm>1.0となる。
したがって、上記冷間ロール成形角形鋼管柱1及びダイアフラム2の数値は、柱及び梁の設計耐力よりも一定以上の設計耐力を有する保有耐力接合を満足しているので、構造物の健全性を維持できる範囲といえる。
【0021】
以上より、冷間ロール成形角形鋼管柱1の設計基準強度cσyが365N/mm2で、通しダイアフラム2の引張強さ(dσt)が490N/mm2(設計基準強度は図5より325N/mm2)のとき、即ち、前記冷間ロール成形角形鋼管柱1の設計基準強度と通しダイアフラム2の設計基準強度の比(通しダイアフラム2の設計基準強度/冷間ロール成形角形鋼管柱1の設計基準強度)が、前記0.813〜0.997の範囲内である325/365≒0.890のとき(図4中の「本発明の組合せ」欄の上から2行目参照)、保有耐力接合を満足(構造物の健全性を維持)していることが分かった。
<下限値である0.813についての検討>
同様に、上記した手法に倣い、前記0.813〜0.997のうち下限値である0.813について、保有耐力接合を満足(構造物の健全性を維持)しているか否かについて検討する。具体的には、図4中の「本発明の組合せ」欄の上から4行目の、前記cσyが400N/mm2で、前記dσtが490N/mm2(設計基準強度は図5より325N/mm2)で、前記比(通しダイアフラム2の設計基準強度/冷間ロール成形角形鋼管柱1の設計基準強度)が325/400≒0.813のときを検討する。
(1)冷間ロール成形角形鋼管柱1の数値について
外径cdは400mm×400mmである。
板厚ctは22mmである。
前記外径cd及び板厚ctから求められる塑性断面係数cZpは4,390cm
3である。
設計基準強度cσyは
400N/mm
2である。
前記数値を上記数式<1>へ代入すると、全塑性曲げ耐力cMp=cZp×cσy=4,390cm
3×
400N/mm
2=
1,756,000kN・mmとなる。
(2)通しダイアフラム2の数値について
溶接接合部の外径(cd+2×1/4×ct)は411mm×411mmである。
冷間ロール成形角形鋼管柱1の板厚ctと溶接の余盛り(1/4×ct)の和である溶接接合部3の寸法dSは、27.5mmである。
前記外径及び溶接接合部3の寸法dSから求められる塑性断面係数dZpは5,550cm
3である。
引張強さ(dσt)は490N/mm
2である。
前記数値を上記数式<2>へ代入すると、最大曲げ耐力(dMu)=dZp×dσt=5,550cm
3×490N/mm
2=2,719,500kN・mm
(3)全塑性曲げ耐力(cMp)と最大曲げ耐力(dMu)を上記数式<3>へ代入
前記(1)と(2)で求めた全塑性曲げ耐力(cMp)と最大曲げ耐力(dMu)により、dMu/cMp=2,719,500kN・mm/
1,756,000kN・mm =
1.549>1.2(α)となる。
したがって、上記冷間ロール成形角形鋼管柱1及びダイアフラム2の数値は、柱及び梁の設計耐力よりも一定以上の設計耐力を有する保有耐力接合を満足しているので、構造物の健全性を維持できる範囲といえる。
<上限値である0.997についての検討>
同様に、上記した手法に倣い、前記0.813〜0.997のうち上限値である0.997について、保有耐力接合を満足(構造物の健全性を維持)しているか否かについて検討する。具体的には、図4中の「本発明の組合せ」欄の上から1行目の、前記cσyが326N/mm2で、前記dσtが490N/mm2(設計基準強度は図5より325N/mm2)で、前記比(通しダイアフラム2の設計基準強度/冷間ロール成形角形鋼管柱1の設計基準強度)が325/326≒0.997のときを検討する。
(1)冷間ロール成形角形鋼管柱1の数値について
外径cdは400mm×400mmである。
板厚ctは22mmである。
前記外径cd及び板厚ctから求められる塑性断面係数cZpは4,390cm
3である。
設計基準強度cσyは
326N/mm
2である。
前記数値を上記数式<1>へ代入すると、全塑性曲げ耐力cMp=cZp×cσy=4,390cm
3×
326N/mm
2=
1,431,140kN・mmとなる。
(2)通しダイアフラム2の数値について
溶接接合部の外径(cd+2×1/4×ct)は411mm×411mmである。
冷間ロール成形角形鋼管柱1の板厚ctと溶接の余盛り(1/4×ct)の和である溶接接合部3の寸法dSは、27.5mmである。
前記外径及び溶接接合部3の寸法dSから求められる塑性断面係数dZpは5,550cm
3である。
引張強さ(dσt)は490N/mm
2である。
前記数値を上記数式<2>へ代入すると、最大曲げ耐力(dMu)=dZp×dσt=5,550cm
3×490N/mm
2=2,719,500kN・mm
(3)全塑性曲げ耐力(cMp)と最大曲げ耐力(dMu)を上記数式<3>へ代入
前記(1)と(2)で求めた全塑性曲げ耐力(cMp)と最大曲げ耐力(dMu)により、dMu/cMp=2,719,500kN・mm/
1,431,140kN・mm =
1.900>1.2(α)となる。
したがって、上記冷間ロール成形角形鋼管柱1及びダイアフラム2の数値は、柱及び梁の設計耐力よりも一定以上の設計耐力を有する保有耐力接合を満足しているので、構造物の健全性を維持できる範囲といえる。
<0.973、0.888、0.913についても検討>
その他、図4中の「本発明の組合せ」欄の上から3行目の0.973、5行目の0.888、および6行目の0.913についても検討する。
前記0.973の場合、前記cσyが365N/mm2で、前記dσtが520N/mm2(設計基準強度は355N/mm2)である。
上記手法と同様に、これらの数値を前記数式<1>〜<3>に代入すると、
<1>全塑性曲げ耐力cMp=cZp×cσy=4,390cm3×365N/mm2=1,602,350kN・mm
<2>最大曲げ耐力(dMu)=dZp×dσt=5,550cm3×520N/mm2=2,886,000kN・mm
<3>dMu/cMp=2,886,000kN・mm/1,602,350kN・mm =1.801>1.2(α)となる。
したがって、上記冷間ロール成形角形鋼管柱1及びダイアフラム2の数値は、柱及び梁の設計耐力よりも一定以上の設計耐力を有する保有耐力接合を満足しているので、この場合も構造物の健全性を維持できる範囲といえる。
同様に、0.888の場合、前記cσyが400N/mm2で、前記dσtが520N/mm2(設計基準強度は355N/mm2)である。
上記手法と同様に、これらの数値を前記数式<1>〜<3>に代入すると、
<1>全塑性曲げ耐力cMp=cZp×cσy=4,390cm3×400N/mm2=1,756,000kN・mm
<2>最大曲げ耐力(dMu)=dZp×dσt=5,550cm3×520N/mm2=2,886,000kN・mm
<3>dMu/cMp=2,886,000kN・mm/1,756,000kN・mm =1.644>1.2(α)となる。
したがって、上記冷間ロール成形角形鋼管柱1及びダイアフラム2の数値は、柱及び梁の設計耐力よりも一定以上の設計耐力を有する保有耐力接合を満足しているので、この場合も構造物の健全性を維持できる範囲といえる。
同様に、0.913の場合、前記cσyが400N/mm2で、前記dσtが520N/mm2(設計基準強度は365N/mm2)である。
上記手法と同様に、これらの数値を前記数式<1>〜<3>に代入すると、
<1>全塑性曲げ耐力cMp=cZp×cσy=4,390cm3×400N/mm2=1,756,000kN・mm
<2>最大曲げ耐力(dMu)=dZp×dσt=5,550cm3×520N/mm2=2,886,000kN・mm
<3>dMu/cMp=2,886,000kN・mm/1,756,000kN・mm =1.644>1.2(α)となる。
したがって、上記冷間ロール成形角形鋼管柱1及びダイアフラム2の数値は、柱及び梁の設計耐力よりも一定以上の設計耐力を有する保有耐力接合を満足しているので、この場合も構造物の健全性を維持できる範囲といえる。
上記のとおり、本発明に係る冷間ロール成形角形鋼管柱1と通しダイアフラム2の溶接接合構造は、通しダイアフラム2を冷間ロール成形角形鋼管柱1の設計基準強度よりも低い設計基準強度の圧延鋼材で構成するので、一般的な強度の材料を使用することができ、材料コストを削減することができる。
また、溶接材料の強度は冷間ロール成形角形鋼管柱1または通しダイアフラム2の強度のうち、高い方の強度以上とする必要があるが、冷間ロール成形角形鋼管柱1の設計基準強度よりも低い設計基準強度の圧延鋼材で構成することで、溶接材料の強度を低く設計することができるから、溶接材料の種類は限定されないし、溶接コストも削減できる。
また、通しダイアフラム2の設計基準強度は、325N/mm
2〜365N/mm
2の範囲であるから、寒冷地であっても予熱をする必要がない。つまり、その溶接手間を省くことができるから、施工性が非常に良く、溶接コストを削減することができる。
【0022】
更に、
図5中のB欄で示した本発明の冷間ロール成形角形鋼管とダイアフラムの組み合わせにおいて、冷間ロール成形角形鋼管の強度区分が490N/mm
2級、基準強度が365N/mm
2の場合、ダイアフラムの強度区分は490N/mm
2級、基準強度が325N/mm
2〜345N/mm
2だと対応可能なグレード(
図6を参照)はR、M、H又はSとなり、工場数は1913程度である。また、ダイアフラムの強度区分は520N/mm
2級、基準強度が355N/mm
2〜365N/mm
2だと対応可能なグレードはH又はSとなり、工場数は316程度となる。いずれにしても、
図5中のA欄で示した同じ強度区分で成る従来の組み合わせと比較して、鉄骨製作工場の工場数が大幅に増加するので、生産性が非常に高まる。
【0023】
なお、冷間ロール成形角形鋼管柱1の外径
cdは、150mm〜550mmの範囲である。そのため、使用される建物の規模は中小であり、対応可能なグレードがR、M、Hが多く、コスト削減に非常に効果的である。
【0024】
以上、実施例を図面に基づいて説明したが、本発明は、図示例の限りではなく、その技術的思想を逸脱しない範囲において、当業者が通常に行う設計変更、応用のバリエーションの範囲を含むことを念のために言及する。