(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
上記金属多孔質体は、ニッケル(Ni)、ニッケル(Ni)−スズ(Sn) 合金、ニッケル(Ni)−スズ(Ni)−クロム(Cr)合金、フェライト系ステンレス合金、インコネル(Ni基)合金から選ばれた材料から形成されている、請求項2または請求項2を引用する請求項3から請求項6のいずれか1項に記載の膜電極複合体。
上記アノード部材積層工程において、上記多孔質アノード部材の少なくとも上記固体電解質層近傍が変形させられて積層される、請求項11に記載の膜電極複合体の製造方法。
上記多孔質アノード部材を準備する工程は、金属多孔質体を形成する工程と、この金属多孔質体の表面に、コーティング層を形成する工程とを含む、請求項11又は請求項12に記載の膜電極複合体の製造方法。
上記多孔質アノード部材を準備する工程は、多孔質アノード部材に、触媒を保持させる工程を含む、請求項11から請求項13のいずれか1項に記載の膜電極複合体の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0012】
〔本願発明の実施形態の概要〕
本願発明の実施形態に係る膜電極複合体は、固体電解質層と、この固体電解質層の一側に設けられるアノード層と、他側に設けられるカソード層とを備えて構成される膜電極複合体であって、上記アノード層が、上記固体電解質層に押し付けられて積層されるとともに、導電性を有する多孔質アノード部材を備えて構成されている、
【0013】
本実施形態では、上記固体電解質層と上記アノード層とが一体焼成されていないため、焼成工程等において、これらの境界面において構成材料間の反応が生じることはなく、電気抵抗が増加したり、イオン伝導性が低下することはない。
【0014】
しかも、固体電解質層をアノード層とともに焼成する必要がないことから、製造工程を削減できる。また、アノード層と集電体を兼用することが可能となり、部品点数を削減することもできる。
【0015】
また、上記固体電解質層と上記アノード層は、押し付けられて積層されている。したがって、これら部材間の熱膨張率等の差違が大きい場合においても、一体焼成した場合のように、熱膨張率等に起因する割れ等が生じる恐れがなく、品質の高い燃料電池を構成できる。
【0016】
また、上記固体電解質層と上記アノード層を構成する材料の焼成時における挙動や、熱膨張率等を同じに設定する必要もない。このため、固体電解質層及びアノード層を構成する材料の選択の幅が格段に広がる。この結果、最適な材料から、上記固体電解質層及び上記アノード層を形成することが可能となり、燃料電池の性能を高めることも可能となる。
【0017】
本実施形態においては、上記固体電解質層をアノード層に保持することなく形成する必要があるため、固体電解質層に所定の強度をもたす必要がある。このため、アノードサポート構造を採用する場合に比べて、固体電解質層の厚みをある程度大きく設定するのが好ましい。一方、上記固体電解質層の厚みが大きくなると、電気抵抗が大きくなったりイオン伝導性が低下する恐れがある。しかし、近年の材料技術の進展によって、厚みを大きく設定しても、電気伝導性やイオン伝導性が大きく低下することがなくなった。本実施形態では、固体電解質層の強度を確保するため、上記固体電解質層の厚みを0.1〜1mmに設定するのが好ましい。
【0018】
上記固体電解質層を構成する材料は特に限定されることはなく、焼成法によって形成さるものであれば、種々の材料から構成される固体電解質材料を採用できる。たとえば、LSGM(ランタンガレート)、YSZ(イットリア安定化ジルコニア)、GDC(ガドリニウムドープセリア)等を採用できる。
【0019】
上記カソード層を構成する材料も特に限定されることはなく、上記固体電解質層に積層した後、焼成できるものであればよい。たとえば、SSC(Sm
0.5Sr
0.5CoO
3)や、LSCF(ランタンストロンチウムコバルトフェライト)等を採用できる。
【0020】
また、上記カソード層の厚みや強度を大きく設定して、固体電解質−カソード積層体の強度を高めた構成を採用することもできる。
【0021】
本実施形態に係る上記アノード層は、導電性を有し、固体電解質層に押し付けられてアノード電極及び集電体として機能する種々の多孔質アノード部材を備えて構成できる。たとえば、炭素繊維等から形成された多孔質体や、Ni等の金属多孔質体を採用することができる。金属多孔質体を上記多孔質アノード部材として採用することにより、高い耐熱性と導電性を確保できる。
【0022】
また、上記固体電解質層に押し付けられて積層された場合に、所要の導電性を発揮できるとともに、固体電解質層の局部等に大きな力が作用しないように、上記アノード層の上記固体電解質層側を所定量圧縮変形させた状態で押し付けることができるものを採用するのが好ましい。気孔率の大きなシート状多孔質体を両側面から圧縮すると、圧縮面近傍が大きく変形させられる。特に、金属多孔質体では、圧縮力を大きくしていくと、圧縮面近傍から塑性変形が生じる。固体電解質層に接する界面近傍で塑性変形を生じさせることにより、一部に大きな力が作用することがなくなり、上記固体電解質層に作用する圧縮力が均一化されて固体電解質層の損傷を防止できる。また、接触圧力を均一化できるため、固体電解質層の表面全域で良好な導電性を確保できる。さらに、上記固体電解質層に接触する部分が圧壊された状態で積層されるため、上記固体電解質層に対する接触面積が大きくなり接触抵抗が減少して導電性が高まる。一方、厚み方向中間部分の気孔率は界面近傍より大きくなるため、ガスの流動抵抗が大きく低下することもない。所要の導電性を確保するため、弾性変形及び塑性変形を含む厚み方向の変形が2〜10%となる状態で押し付けて積層するのが好ましい。
【0023】
上記多孔質アノード部材を、導電性を有する金属多孔質体から構成することができる。上記金属多孔質体として、導電性を有する種々の材料から形成された金属多孔質体を採用できる。たとえば、ニッケル(Ni)、ニッケル(Ni)−スズ(Sn)合金、ニッケル(Ni)−スズ(Ni)−クロム(Cr)合金、フェライト系ステンレス合金、インコネル(Ni基)合金等から選ばれた材料から形成することができる。
【0024】
上記金属多孔質体の形態も特に限定されることはない。たとえば、金属繊維を編成し、あるいは交絡させて形成したシート状の金属多孔質体を採用できる。
【0025】
また、上記金属多孔質体として、外殻と、中空又は導電性材料の一方又は双方からなる芯部とを有する骨格を備え、上記骨格が一体的に連続する三次元網目構造を備えるものを採用することができる。
【0026】
上記三次元網目構造を備える多孔質基材は、大きな気孔率で形成できるとともに、骨格が一体的につながっているため導電性も高い。また、均一な気孔径で各気孔を形成できるため、ガスの流動抵抗が低く、燃料電池の効率を高めることができる。また、気孔率や気孔径を容易に調整することができるため、固体電解質層に対するガスの拡散機能を確保できるとともに、ガスの流路として機能させることができる。しかも、圧縮変形させた場合圧縮面近傍が塑性変形させられるため、固体電解質層の局部に大きな力が作用するのを防止しつつ、高い導電性を得ることができる。
【0027】
上記多孔質アノード部材は、上記固体電解質層の表面に直接押し付けて積層することもできるし、種々の導電性材料から形成された部材を介して押し付けて積層することもできる。たとえば、より導電性が高く、柔らかい多孔質体や粉体を介して、上記アノード層を押し付けて積層することもできる。たとえば、銀粉や銀ペースト等を介して、上記多孔質アノード部材を押し付けて積層することもできる。
【0028】
上記多孔質アノード部材の積層状態を保持する手法も特に限定されることはない。たとえば、上記多孔質アノード部材を、燃料電池の構成部材、たとえばセパレータ等を介して押し付けることができる。
【0029】
上記多孔質アノード部材は、燃料電池に組み付ける際に、上記固体電解質層に押し付けて積層するように構成することもできるし、あらかじめ固体電解質層の表面に積層状態で保持しておき、組み付け時に押し付け力を作用させることもできる。たとえば、銀ペースト等の接着成分で、上記固体電解質層と上記多孔質アノード部材とを仮止めしておき、燃料電池に組み付ける際に押し付け力を作用させるように構成することができる。
【0030】
上記多孔質アノード部材に、耐蝕性や導電性を高める表面コーティング層を設けることができる。上記表面コーティング層を設ける手法は特に限定されることはなく、たとえば、メッキ法等によって形成できる。たとえば、マンガンコバルトメッキや、コバルトニッケルメッキを施すことができる。これにより、燃料電池の性能や耐久性を高めることができる。
【0031】
また、上記多孔質アノード部材に、触媒成分を保持させることもできる。たとえば、Ni、Fe、Co、Ag、Pt、Pdの単体金属やこれらの合金、また、YSZ(イットリア安定化ジルコニア)、GDC(ガドリニウムドープセリア)、LSGM(ランタンガレート)、SSZ(スカンジア安定化ジルコニア)、BCY(イットリウム添加バリウムセレイト)、BZY(イットリウム添加ジルコン酸バリウム)などのイオン導電体単体やこれらの複合体、さらに、金属や合金とイオン導電体との複合体等の触媒成分を気孔内に保持させることができる。これにより、燃料電池の発電性能を高めることができる。
【0032】
上記膜電極複合体は、上記固体電解質層を形成する固体電解質層形成工程と、上記固体電解質層の他側に上記カソード層を形成するカソード層形成工程と、多孔質アノード部材を準備する工程と、上記多孔質アノード部材を、上記固体電解質層の一側に押し付けて積層するアノード部材積層工程とを含んで製造することができる。本実施形態では、上記アノード部材が集電体を兼用している。また、アノード層を固体電解質層とともに焼結する必要もない。このため、部品点数及び製造工程が削減される。
【0033】
上記固体電解質層形成工程は、種々の手法や工程を含んで行うことができる。たとえば、粉体状の固体電解質材料を圧粉成形する工程と、上記圧粉成形された固体電解質材料を焼成する工程とを含んで、上記固体電解質層形成工程を構成することができる。
【0034】
上記カソード層形成工程は、焼成された固体電解質層の片面に、カソード層形成材料を所定の厚みで塗着して焼成することにより行うことができる。カソード材料は、固体電解質材料の焼成温度より低い温度で焼成することができるため、固体電解質材料が変形等する恐れはない。また、焼成前の固体電解質材料成形体の表面にカソード材料を塗着して、同時に焼成することもできる。
【0035】
上記多孔質アノード部材を準備する工程は、アノード層に採用する多孔質材料に応じて種々の工程を含んで構成することができる。たとえば、上記多孔質アノード部材を準備する工程として、導電性のある繊維を編成あるいは交絡させて、シート状の多孔質アノード部材を形成する工程を含ませることができる。
【0036】
また、外殻と、中空又は導電性材料の一方又は双方からなる芯部とを有する骨格を備え、上記骨格が一体的に連続する三次元網目構造を備える金属多孔質体を製造する工程を含ませることができる。たとえば、住友電気工業の金属多孔質体(登録商標:セルメット)を採用することができる。
【0037】
たとえば、Niから形成された金属多孔質体を製造する場合、三次元網目状の樹脂多孔質基材に導電化処理を施して表面導電化層を形成する工程と、上記導電化層の上にNiメッキ層を形成するNiメッキ層形成工程と、少なくとも酸素が存在する雰囲気中で上記樹脂多孔質基材を消失させる基材消失工程と、還元性雰囲気中で、300℃〜1100℃の温度を作用させる還元工程とを含ませることができる。
【0038】
上記構造の金属多孔質体は、骨格が三次元網目構造に形成されているため、気孔率を大きく設定することができる。また、所要の気孔率のものを容易に形成できる。しかも、各気孔の孔径をほぼ一定に形成することができるため、ガスの拡散性が高く、固体電解質層に対してガスを均一に作用させることができる。また、上記金属多孔質体の気孔率が大きいため、アノード層として機能させることができるばかりでなく、ガス流路として機能させることもできる。
【0039】
また、上記固体電解質層に上記金属多孔質体を押し付けた際に、導電性を高めるとともに、固体電解質層を傷めないように、容易に変形するものを採用するのが好ましい。上記三次元網目構造を有する金属多孔質体は気孔径が一定であるため、固体電解質層の局部に押し付け力が集中することがない。しかも、目付量を小さく設定することにより、固体電解質に接する面の近傍が容易に変形するものを得ることができる。たとえば、目付量が200〜500g/m
2の金属多孔質体を採用するのが好ましい。
【0040】
燃料電池は高温で作動させられるため、耐久性を高めるために、アノード層を構成する部材に所定の耐蝕性を持たせるのが好ましい。たとえば、上記金属多孔質体に耐蝕性のある金属等をメッキする工程や、耐蝕性を高めるための合金化工程を含ませることもできる。たとえば、マンガンコバルトめっきや、コバルトニッケルめっきを施すめっき工程を行うことができる。また、耐蝕性を高めるために、たとえば、Snとの合金化工程をおこなうこともできる。
【0041】
上記アノード部材積層工程は、種々の手法によって行うことができる。たとえば、燃料電池を組み付ける工程において、セパレータ等を用いて、上記多孔質アノード部材を固体電解質層に押し付けて積層することができる。また、燃料電池に組み付ける前に、固体電解質層に治具等を用いて押し付け、積層することができる。この場合、上記アノード層と上記固体電解質層とを銀ペースト等の接着成分を介して仮止めして、積層状態に保持することができる。
【0042】
上記アノード部材積層工程において、上記多孔質アノード部材の少なくとも上記固体電解質層近傍を変形させて積層するのが好ましい。これにより、上記固体電解質層との間の導電性を高めて、燃料電池の性能を向上させることができる。また、上記固体電解質層側の多孔質アノード部材の気孔率が小さくなり、固体電解質層近傍におけるガスの拡散作用を高めることができる。
【0043】
〔実施形態の詳細〕
以下、実施形態の詳細を図に基づいて説明する。
【0044】
図1及び
図2に、固体酸化物燃料電池のセル構造101を概念的に示す。なお、
図1には、一つのセル構造を示しているが、発電の電圧を高めるため複数のセルが厚み方向に複数積層されて燃料電池が構成される。
【0045】
燃料電池セル101は、固体電解質層2を挟むようにして、空気極としてのカソード層4と燃料極としてのアノード層3とを有する膜電極複合体5を備えて構成される。上記固体電解質層2は、たとえば、LSGM(ランタンガレート)、YSZ(イットリア安定化ジルコニア)、GDC(ガドリニウムドープセリア)等から形成できる。
【0046】
本実施形態に係る上記カソード層4は、上記固体電解質層2の一側の所定領域に、カソード材料を一体焼成して形成されている。一方、上記アノード層3は、金属多孔質体からなる多孔質アノード部材8を、上記固体電解質層2の他側に押し付けて積層することにより設けられている。
【0047】
上記膜電極複合体5のカソード層4の外側には、金属多孔質体からなる集電体9を介して集電部材7が設けられている。上記集電体9は、気孔率の大きな金属多孔質体から形成されており、ガス流路11として機能するように構成されている。
【0048】
一方、上記膜電極複合体5の上記アノード層3の外側には、集電部材6が直接積層して設けられている。本実施形態では、上記アノード層3を、金属多孔質体から形成することにより、ガス流路10及び集電体としても機能するように構成されている。
【0049】
上記集電体9及び上記多孔質アノード部材8は、導電性を有する多孔質体から形成されており、これら部材に設定された上記ガス流路10,11を流れるガスを上記カソード層4及び上記固体電解質層2に拡散して作用させる。上記集電体9は、上記カソード層4と集電部材7とを電気的に接続して導通させるように構成されている。また、上記多孔質アノード部材8は、上記固体電解質層2と集電部材6とを電気的に接続して導通させるように構成されている。
【0050】
上記膜電極複合体5の両側に、上記集電体9、上記集電部材7、上記多孔質アノード部材8及び集電部材6を積層するとともに、周縁部をガスケット15,16でシールして、上記セル101が構成されている。
【0051】
上記ガス流路11には酸化剤としての酸素を含む空気が導入され、上記カソード層4に、上記集電体9を介して酸素が供給される。上記ガス流路10には、燃料として水素を含む燃料ガスが導入され、上記アノード層3として機能する多孔質アノード部材8を介して固体電解質層2に水素が供給される。
【0052】
上記アノード層3の固体電解質層近傍において、H
2 →2H
+ +2e
- の反応が生じる。一方、カソード層4においては、1/2O
2 +2H
+ +2e
- →H
2 Oの反応が生じる。これにより、水素イオンがアノード層3から固体電解質層2を通ってカソード層4へと移動するとともに、電子が上記多孔質アノード部材8から上記集電部材6、上記集電部材7、上記集電体9、上記カソード層4へと流れ、電力が得られる。なお、上記セル101は、図示しない加熱装置によって所定温度に加熱される。
【0053】
図1においては、理解を容易にするため、固体電解質層2及びカソード層4の厚みを実際より大きく描いている。
【0054】
上記カソード層4は、たとえば、SSC(Sm
0.5 Sr
0.5CoO
3 )や、LSCF(ランタンストロンチウムコバルトフェライト)、LSM(ランタンストロンチウムマンガネイト),BSCF(BaSrCoFe系酸化物)等から形成できる。また、上記集電体9は、導電性を有する種々の多孔質体から形成できる。たとえば、多孔質アノード部材8と同じ金属多孔質体から構成することもできる。
【0055】
上記カソード層4は酸素極であり、その近傍は強い腐食環境となる。このため、上記カソード層4及び集電体9は、耐蝕性の高い材料から形成するのが好ましい。一方、アノード層3は、燃料極であり、その近傍は還元性雰囲気となるため、多孔質アノード部材8には、カソード層4ほどの耐蝕性は要求されない。本実施形態では、上記固体電解質層2に、金属多孔質体からなる多孔質アノード部材を押し付けることにより積層して、アノード層3を構成したものである。
【0056】
本実施形態では、上記固体電解質層2と上記アノード層3とが一体焼成されていないため、焼成工程等において、これらの境界面において構成材料間の反応が生じることはなく、電気抵抗が増加したり、イオン伝導性が低下することはない。
【0057】
また、上記固体電解質層2をアノード層3とともに焼成する必要がないことから、製造工程を削減できる。また、アノード層3と集電体を兼用することが可能となり、部品点数を削減することもできる。
【0058】
また、
図3に示すように、上記固体電解質層2と上記アノード層3は、押し付けられて積層される。したがって、これら部材間の熱膨張率等の差違が大きい場合においても、一体焼成した場合のように、熱膨張率等に起因する割れ等が生じる恐れがなく、品質の高い燃料電池を構成できる。
【0059】
さらに、上記固体電解質層2と上記アノード層3を構成する材料の焼成時における挙動や、熱膨張率等を同じに設定する必要もない。このため、固体電解質層2及びアノード層3を構成する材料の選択の幅が格段に広がる。この結果、最適な材料から、上記固体電解質層及び上記アノード層を形成することが可能となり、燃料電池101の性能を高めることも可能となる。
【0060】
〔実施例1〕
(燃料電池セルの製造工程及び構成)
(1)固体電解質層形成工程
図4に示すように、固体電解質材料(LSGM:ランタンガレート)をプレス成形して(
図4のS101)、板状の固体電解質成形体を形成し、1500℃で5時間焼成して(
図4のS102)、厚みが300μmの板状の固体電解質層2を形成した。
【0061】
(2)カソード層形成工程:
焼成した上記固体電解質成形体に、カソード材料(SSC:Sm
0.5Sr
0.5CoO
3)をスクリーン印刷により塗着し(
図4のS103)、950℃で0.5時間焼成することにより(
図4のS104)、厚みが40μmのカソード層4を固体電解質層2と一体形成した。
【0062】
(3)アノード部材形成工程:
上述した手法により、ニッケルから、三次元網目構造を備える金属多孔質体を形成して、多孔質アノード部材を形成した(
図4のS111)。上記アノード部材は、気孔率96%、厚み1mm、目付量400g/m
2である。
【0063】
(4)アノード部材積層工程:
上記集電部材7、上記集電体9、上記カソード層4を設けた固体電解質層2、多孔質アノード部材8及び集電部材6を積層し、上記多孔質アノード部材8を上記固体電解質層2に押し付けるようにして、燃料電池セル101を組み立てた(
図4のS105及びS106)。アノード部材8は、押し付け力よって、厚みが5%減少させられた状態で積層された。上記アノード部材8は、上記固体電解質層2及び集電部材6との界面面近傍で塑性変形が生じた状態で押し付けられている。
【0064】
(性能試験の概要)
上記燃料電池セル101を1000℃に加熱して還元した後(S107)、水素ガス(H
2100%)及び空気を、それぞれ100cc/minで流動させて性能試験を行った(S108)。
【0065】
(試験結果)
図7に示すように、実施例1に係る膜電極複合体を用いた燃料電池では、206mW/cm
2の出力を得ることができた。特に、上記アノードの部材を上記のように押し付けて積層することにより、SOFCとして十分な出力が得られることを確認できた。
【0066】
〔実施例2〕
(燃料電池セルの製造工程及び構成)
(1)固体電解質層形成工程
実施例1と同じ工程によって、第1の実施例と同じ構成の固体電解質層を形成した(
図5のS201〜S202)。
【0067】
(2)カソード層形成工程
実施例1と同じ工程によって、実施例1と同じ構成のカソード層を形成した(
図5のS203〜S204)。
【0068】
(3)アノード部材形成工程
実施例1と同様の手法により、実施例1と同じ構成の金属多孔質体を形成した(S211)。この金属多孔質体に、厚み5μmのCo−Niメッキを施した(S212)。なお、上記Co−Niメッキの成分構成は、質量比でCo成分が3に対して、Ni成分が1となるように設定した。
【0069】
(4)アノード部材積層工程:
実施例1と同様に、上記多孔質アノード部材8を上記固体電解質層2に押し付けるようにして、燃料電池セル101を組み立てた(S205,S206)。アノード部材8は、押し付け力よって、厚みが5%減少させられた状態で積層された。第1の実施例と同様に、上記アノード部材8は、上記固体電解質層2及び集電部材6との界面近傍で塑性変形が生じた状態で押し付けられている。
【0070】
(性能試験の概要)
上記燃料電池セル101を1000℃に加熱して還元し(S107)、性能試験を行った(S108)。
性能試験の条件は、実施例1と同じとした。
【0071】
(試験結果)
図9に示すように、実施例2に係る膜電極複合体を用いた燃料電池では、217mW/cm
2の出力を得ることができた。また、
図8には、実施例1に係る膜電極複合体を用いた燃料電池の性能曲線も描いている。実施例2に係る膜電極複合体を用いた燃料電池の出力は、実施例1に係る膜電極複合体を用いた燃料電池の出力(206mW/cm
2)に比べて高い出力を得ることができた。これは、これは、Co−Niメッキによって導電性が高まるとともに、アノード部材8の触媒活性が向上したためであると思われる。
【0072】
〔実施例3〕
(燃料電池セルの製造工程及び構成)
(1)固体電解質層形成工程
実施例1と同じ工程によって、実施例1と同じ構成の固体電解質層を形成した(
図5のS201〜S202)。
【0073】
(2)カソード層形成工程
実施例1と同じ工程によって、実施例1と同じ構成のカソード層を形成した(
図5のS203〜S204)。
【0074】
(3)アノード部材形成工程
実施例1と同様の手法により、実施例1と同じ構成の金属多孔質体を形成した(S211)。この金属多孔質体に、厚み5μmのMn−Coメッキを施した(S212)。なお、上記Mn−Coメッキの成分構成は、質量比でMn成分が9に対して、Co成分が1となるように設定した。
【0075】
(4)アノード部材積層工程:
実施例1と同様に、上記多孔質アノード部材8を上記固体電解質層2に押し付けるようにして、燃料電池セル101を組み立てた(S205,S206)。アノード部材8は、押し付け力よって、厚みが5%減少させられた状態で積層された。第1の実施例と同様に、上記アノード部材8は、上記固体電解質層2及び集電部材6との界面近傍で塑性変形が生じた状態で押し付けられている。
【0076】
(性能試験の概要)
上記燃料電池セル101を1000℃に加熱して還元し(S207)、性能試験を行った(S208)。
性能試験の条件は、実施例1と同じとした。
【0077】
(試験結果)
図9に示すように、実施例3に係る膜電極複合体を用いた燃料電池では、311mW/cm
2の出力を得ることができた。また、
図8には、実施例1に係る膜電極複合体を用いた燃料電池の性能曲線も描いている。実施例3に係る膜電極複合体を用いた燃料電池の出力は、実施例1に係る膜電極複合体を用いた燃料電池の出力(206mW/cm
2)に比べて高い出力を得ることができた。これは、Mn−Coメッキによって導電性が高まるとともに、アノード部材8の触媒活性が向上したためであると思われる。また、
図8に示す実施例2に係る燃料電池より高い出力を得ることができた。これは、Mn−Coメッキの触媒活性が、Co−Niメッキより高いからであると考えらえる。
【0078】
〔実施例4〕
(燃料電池セルの製造工程及び構成)
(1)固体電解質層形成工程
実施例1と同じ工程によって、実施例1と同じ構成の固体電解質層を形成した(
図6のS301〜S302)。
【0079】
(2)カソード層形成工程
実施例1と同じ工程によって、実施例1と同じ構成のカソード層を形成した(
図6のS303〜S304)。
【0080】
(3)アノード部材形成工程
実施例1と同様の手法により、実施例1と同じ構成の金属多孔質体を形成した(S311)。この金属多孔質体に、NiOからなる触媒を充填した(S312)。触媒は、1μmの平均粒径を有し、充填量は、80〜90vol%に設定した。
【0081】
(4)アノード部材積層工程:
実施例1と同様に、上記多孔質アノード部材8を上記固体電解質層2に押し付けるようにして、燃料電池セル101を組み立てた(S305,S306)。アノード部材8は、押し付け力よって、厚みが5%減少させられた状態で積層された。第1の実施例と同様に、上記アノード部材8は、上記固体電解質層2及び集電部材6との界面近傍で塑性変形が生じた状態で押し付けられている。
【0082】
(性能試験)
上記燃料電池セル101を1000℃に加熱して還元し(S307)、性能試験を行った(S308)。
性能試験の条件は、実施例1と同じとした。
【0083】
(試験結果)
図10に示すように、実施例4に係る膜電極複合体を用いた燃料電池では、401mW/cm
2の出力を得ることができた。また、
図10には、実施例1に係る膜電極複合体を用いた燃料電池の性能曲線、及び実施例3に係る膜電極複合体を用いた燃料電池の性能曲線も描いている。実施例4に係る膜電極複合体を用いた燃料電池の出力は、実施例1及び実施例3に係る膜電極複合体を用いた燃料電池の出力(206mW/cm
2、311mW/cm
2)に比べて高い出力を得ることができた。これは、充填したNiOが発電時に還元されて、触媒として高い活性を有するためであると考えられる。
【0084】
上記に開示された本発明の実施の形態は、あくまで例示であって、本発明の範囲はこれら発明の実施の形態に限定されない。本発明の範囲は、特許請求の範囲の記載によって示され、更に、特許請求の範囲の記載と均等の意味及び範囲内での全ての変更を含むものである。