特許第6434725号(P6434725)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6434725リン含有物質の溶融処理方法及び溶融炉の運転方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6434725
(24)【登録日】2018年11月16日
(45)【発行日】2018年12月5日
(54)【発明の名称】リン含有物質の溶融処理方法及び溶融炉の運転方法
(51)【国際特許分類】
   C02F 11/10 20060101AFI20181126BHJP
   C02F 11/12 20060101ALI20181126BHJP
【FI】
   C02F11/10 AZAB
   C02F11/12 Z
【請求項の数】8
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2014-136546(P2014-136546)
(22)【出願日】2014年7月2日
(65)【公開番号】特開2015-33691(P2015-33691A)
(43)【公開日】2015年2月19日
【審査請求日】2017年6月8日
(31)【優先権主張番号】特願2013-143401(P2013-143401)
(32)【優先日】2013年7月9日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】100107478
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 薫
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 淳
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 洋仁
(72)【発明者】
【氏名】寳正 史樹
(72)【発明者】
【氏名】岡田 正治
(72)【発明者】
【氏名】野邑 尚史
【審査官】 菊地 寛
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−029998(JP,A)
【文献】 特開2000−140895(JP,A)
【文献】 特開平11−342378(JP,A)
【文献】 国際公開第2006/072982(WO,A1)
【文献】 特開平06−007798(JP,A)
【文献】 特開平09−206797(JP,A)
【文献】 米国特許第05190672(US,A)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リンが乾燥物質換算量の0.04wt%以上含まれるリン含有物質に対して含水量を調整する前処理ステップと、前記前処理ステップで水分が調整されたリン含有物質を溶融炉に投入して溶融する溶融ステップと、前記溶融ステップで溶融生成されたスラグを冷却して固化する冷却ステップと、を含むリン含有物質の溶融処理方法であって、
リン含有物質に3価の鉄化合物を添加する鉄化合物添加ステップを前記前処理ステップまたはその前後に実行し、前記溶融ステップで、前記鉄化合物添加ステップで添加された3価の鉄化合物が2価の鉄化合物に還元され保持される還元性雰囲気でリン含有物質を溶融することで、リン含有物質に含まれるリン成分の揮散を防止するとともに、リン成分のリン化鉄を含む金属リン化合物への移行を抑制しながらリン成分をスラグに捕捉するリン含有物質の溶融処理方法。
【請求項2】
リン含有物質が下水汚泥であり、前処理ステップで下水汚泥の水分が調整される請求項1記載のリン含有物質の溶融処理方法。
【請求項3】
前記鉄化合物添加ステップで、鉄(Fe)量が乾燥物質換算量DS(Dry Solid)に対して1〜8wt%の範囲に入るように3価の鉄化合物が添加される請求項1または2記載のリン含有物質の溶融処理方法。
【請求項4】
前記鉄化合物添加ステップで用いられる3価の鉄化合物が、四酸化第三鉄(Fe)、酸化第二鉄(Fe)、水酸化第二鉄(Fe(OH))、塩化第二鉄(FeCl)、硫酸第二鉄(Fe(SO)の何れか一種または複数種である請求項1から3の何れかに記載のリン含有物質の溶融処理方法。
【請求項5】
リン含有物質に塩基度調整剤を添加してリン含有物質の塩基度が0.2から1.0の範囲に入るように調整する塩基度調整ステップを、前記溶融ステップより前に実行する請求項1から4の何れかに記載のリン含有物質の溶融処理方法。
【請求項6】
リン含有物質に塩基度調整剤を添加してリン含有物質の塩基度が0.7±0.1の範囲に入るように調整する塩基度調整ステップを、前記溶融ステップより前に実行する請求項1から4の何れかに記載のリン含有物質の溶融処理方法。
【請求項7】
鉄(Fe)リン(P)シリカ(Si)比(=Fe/(P+Si)[mol/mol])が0.2〜0.8の範囲に入るように前記鉄化合物を添加する鉄リンシリカ比調整ステップを前記鉄化合物添加ステップに含み、前記鉄リンシリカ比調整ステップを前記溶融ステップより前に実行する請求項6記載のリン含有物質の溶融処理方法。
【請求項8】
溶流度が60%以上になるように、前記鉄化合物添加ステップと前記塩基度調整ステップを、前記溶融ステップより前に実行する請求項5から7の何れかに記載のリン含有物質の溶融処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、下水汚泥のようなリン含有物質を溶融処理する際に、リン含有物質に含まれているリン成分が排ガスへ揮散するのを抑制して、当該リン成分をスラグ中に捕捉するリン含有物質の溶融処理方法及び溶融炉の運転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
下水処理場で発生する汚泥は、その減容化、安定化及び再利用化を目的として溶融炉で溶融処理してスラグ化されている。
【0003】
例えば、図8に示すように、濃縮汚泥に凝集剤の一例であるポリ硫酸第二鉄を添加して凝集させた後に脱水機1で脱水し、貯留ピット2に貯留した脱水汚泥を順次乾燥機3で乾燥した乾燥汚泥をホッパー4に貯留する前処理ステップと、前処理ステップで水分が低減調整された下水汚泥をホッパー4から順次溶融炉5に投入して溶融する溶融ステップと、溶融ステップで溶融されたスラグを冷却して固化する冷却ステップを経てスラグ化されている。
【0004】
溶融炉5から排出された排ガスは、廃熱ボイラ6、乾式電気集塵機7、排煙処理塔8、湿式電気集塵機9を通して処理され、湿式電気集塵機9の返流水は水処理設備で浄化処理されている。
【0005】
近年、下水処理後の排水の富栄養化を防止するために、下水の高度処理で脱リン工程が実行され、下水処理場で発生する余剰汚泥に含まれるリン成分の濃度が上昇している。このようなリン成分の濃度の高い下水汚泥を溶融する際に、汚泥中のリン成分が溶融炉で揮散してダストとともに煙道に移行すると、付着性や腐食性の高いリン酸化合物となって煙道の閉塞や排ガス処理設備の腐食を招く等の問題が生じるために様々な対応策が提案されている。
【0006】
特許文献1には、予め下水汚泥中のFe/Pの比率と強熱減量VTSの相関において経験則としてFe/Pの比率の適値を定め、被溶融物である下水汚泥を分析してFe/Pの比率とVTSを求め、分析値のFe/Pが経験則の適値より大きくなるように、溶融炉へ投入する前の下水汚泥に鉄粉を添加することによって、リン成分をスラグ側に捕捉する技術が提案されている。
【0007】
ところで、溶融炉で下水汚泥を溶融処理する際に、そのまま溶融すると汚泥の融点が高くなり、溶流性が悪くなる虞があるため、予め汚泥成分を調整することによって融点を下げるように処理されている。通常は、CaO/SiO[w/w]で表される塩基度が所定の範囲に入るように、汚泥に消石灰Ca(OH)や珪砂(SiO)等が添加される。
【0008】
汚泥中の酸性酸化物であるリン成分は、溶融処理時に生じる還元反応で揮散しても、添加された鉄と直ちに結合して金属リン化鉄(金属リン化合物)としてスラグ中に捕捉される。
【0009】
尚、酸化第一鉄(FeO)も融点降下作用を示すことが知られており、汚泥中に酸化第一鉄(FeO)が含まれると融点が低下する傾向がみられる。
【0010】
特許文献2には、溶融炉に汚泥を投入する前に、水分を含有する汚泥に3価金属からなる燐固定物質を添加して、炉内で生成するスラグ中に、汚泥中の燐及び燐酸と燐固定物質とを反応させて、金属燐化合物或いは金属燐酸化合物として固定する汚泥溶融方法が提案され、燐固定物質として、酸化第二鉄、水酸化第二鉄、塩化第二鉄、硫酸第二鉄等の3価鉄化合物や、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、硫酸アルミニウム等のアルミニウム化合物が開示されている。5価の元素であるリンが3価の金属と結合しやすいという特性に着目した技術である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2006‐15173号公報
【特許文献2】特開2001‐9500号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかし、上述した従来技術は、何れもリン成分を金属化合物としてスラグ中に捕捉する技術であり、スラグ中にこのような金属状の粒子が混入していると、例えばコンクリート骨材やセメント原料としてそのまま再利用することができず、金属状粒子の除去のために費用の掛かる別途の分離選別処理が必要になるという問題があった。
【0013】
また、特許文献1に開示された技術を採用する場合には、約1300℃で溶流度60%以上を確保するために、塩基度調整剤を汚泥に添加して塩基度(CaO/SiO)を0.4〜0.8と狭い範囲に調整する必要があるが、対象汚泥の組成の変動に追従できずにこの範囲を逸脱することも多く、安定した操炉に支障を来すことがあった。そのため、高めの溶融温度で操炉せざるを得ず、リン成分の揮散を効果的に抑制することが困難となるばかりか耐火物の損耗を招き、化石燃料の消費量が増す等の問題もあった。
【0014】
さらに、酸化していない鉄粉は、水分と反応すると発熱するため、発火事故等を回避する観点で、溶融炉へ投入する直前の汚泥に添加せざるを得ず、そのため鉄粉が汚泥に均質に分布しないという問題もあった。そのため、リン成分の揮散防止の観点で汚泥に鉄粉を過剰に添加せざるを得ず、結果としてスラグ中に混在する金属粒子、つまりリン化鉄を含む金属リン化合物が増加するという結果になっていた。特に近年、鉄粉価格が上昇する傾向にあり、リン成分の揮散を回避しながら下水汚泥を含むリン含有物質を溶融するためのランニングコストが非常に高くなっているため、スラグの再利用コストも含めて経済性に富んだ処理方法が求められている。
【0015】
本発明の目的は、上述した問題点に鑑み、リン成分の揮散を抑制しながらもスラグ中にリン化鉄を含む金属リン化合物の混入を低減でき、経済性に富んだリン含有物質の溶融処理方法及び溶融炉の運転方法を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上述の目的を達成するため、本発明によるリン含有物質の溶融処理方法の第一特徴構成は、特許請求の範囲の請求項1に記載した通り、リンが乾燥物質換算量の0.04wt%以上含まれるリン含有物質に対して含水量を調整する前処理ステップと、前記前処理ステップで水分が調整されたリン含有物質を溶融炉に投入して溶融する溶融ステップと、前記溶融ステップで溶融生成されたスラグを冷却して固化する冷却ステップと、を含むリン含有物質の溶融処理方法であって、リン含有物質に3価の鉄化合物を添加する鉄化合物添加ステップを前記前処理ステップまたはその前後に実行し、前記溶融ステップで、前記鉄化合物添加ステップで添加された3価の鉄化合物が2価の鉄化合物に還元され保持される還元性雰囲気でリン含有物質を溶融することで、リン含有物質に含まれるリン成分の揮散を防止するとともに、リン成分のリン化鉄を含む金属リン化合物への移行を抑制しながらリン成分をスラグに捕捉する点にある。
【0017】
鉄粉と異なり3価の鉄化合物であれば、下水汚泥のような湿ったリン含有物質に添加しても発熱する虞がないため、リン含有物質に対して含水量を調整する前処理ステップまたはその前後に添加することができ、従ってリン含有物質と当該鉄化合物とが均質に分布するように十分に混合できるようになる。このような3価の鉄化合物とリン含有物質との混合物が溶融炉に投入されると、溶融過程で3価の鉄化合物から生成される酸化第一鉄(FeO)によって融点降下作用が発現し、例えば、約1300℃の溶融温度のときに、鉄に対するリン含有物質の好ましい塩基度0.4〜0.8よりも広い範囲で溶流度60%以上を確保でき、しかも被溶融物中のリン成分の揮散が抑制されてリンが金属リン化合物ではない形態でスラグ中に捕捉されるようになるという新知見が得られた。
【0018】
当該新知見によれば、塩基度の調整範囲が広くなるため、それだけ塩基度調整剤の使用量が少なくて済み、また調整された塩基度と酸化第一鉄(FeO)による融点降下作用によってスラグの溶融温度をさらに低下させることができるので、リン成分の揮散量を大きく低減させることができるようになる。しかも、鉄粉(Fe)を添加する場合と異なり発熱する虞がないため、事前に十分にリン含有物質と均質に混合できるので鉄化合物を過剰に投入する必要が無く、その結果スラグに混入する金属リン化合物を含む金属粒子の量も大きく低減できるようになる。このような鉄化合物は近年上昇傾向にある鉄粉価格よりも安価に入手できることもあり、総合的にランニングコストを大きく低減でき、得られたスラグを効果的に再利用できるようになる。
【0019】
同第二の特徴構成は、同請求項2に記載した通り、上述した第一の特徴構成に加えて、リン含有物質が下水汚泥であり、前処理ステップで下水汚泥の水分が調整される点にある。
【0020】
リン含有物質として下水汚泥が好適な溶融処理の対象となり、前処理ステップで下水汚泥から水分が調整されることで、効率的に溶融処理が行われるようになる。
【0021】
同第三の特徴構成は、同請求項3に記載した通り、上述した第一または第二の特徴構成に加えて、前記鉄化合物添加ステップで、鉄(Fe)量が乾燥物質換算量DS(Dry Solid)に対して1〜8wt%の範囲に入るように3価の鉄化合物が添加される点にある。
【0022】
鉄(Fe)量が乾燥物質換算量DS(Dry Solid)に対して1〜8wt%の範囲に入るように、リン含有物質に添加される3価の鉄化合物の量が調整されると、溶融温度が比較的低温であっても溶流度60%以上を確保できるようになり、リン成分の揮散を抑制しながら、効果的にリンをスラグに捕捉することができるようになる。
【0023】
同第四の特徴構成は、同請求項4に記載した通り、上述した第一から第三の何れかの特徴構成に加えて、前記鉄化合物添加ステップで用いられる3価の鉄化合物が、四酸化第三鉄(Fe)、酸化第二鉄(Fe)、水酸化第二鉄(Fe(OH))、塩化第二鉄(FeCl)、硫酸第二鉄(Fe(SO)の何れか一種または複数種である点にある。
【0024】
リン含有物質に添加される3価の鉄化合物は、一種に限定されるものではなく、酸化第三鉄(Fe)、酸化第二鉄(Fe)、水酸化第二鉄(Fe(OH))、塩化第二鉄(FeCl)、硫酸第二鉄(Fe(SO)の何れか一種または複数種を用いることができる。
【0025】
同第五の特徴構成は、同請求項5に記載した通り、上述した第一から第四の何れかの特徴構成に加えて、リン含有物質に塩基度調整剤を添加してリン含有物質の塩基度が0.2から1.0の範囲に入るように調整する塩基度調整ステップを、前記溶融ステップより前に実行する点にある。
【0026】
リン含有物質の塩基度が0.2から1.0の範囲に調整されていると、鉄化合物添加ステップで添加される2価または3価の鉄化合物から溶融処理時に生成される酸化第一鉄(FeO)によって発現する融点降下作用と相俟って、相対的に低い融点で好ましい溶流度が確保できるようになる。
【0027】
同第六の特徴構成は、同請求項6に記載した通り、上述した第一から第四の何れかの特徴構成に加えて、リン含有物質に塩基度調整剤を添加してリン含有物質の塩基度が0.7±0.1の範囲に入るように調整する塩基度調整ステップを、前記溶融ステップより前に実行する点にある。
【0028】
リン含有物質の塩基度が0.7±0.1の範囲に調整されていると、鉄化合物添加ステップで添加される2価または3価の鉄化合物から溶融処理時に生成される酸化第一鉄(FeO)によって発現する融点降下作用と相俟って、より低い融点で好ましい溶流度が確保できるようになり、リン成分の揮散を効果的に抑制できるようになる。
【0029】
同第七の特徴構成は、同請求項7に記載した通り、上述した第六の特徴構成に加えて、鉄(Fe)リン(P)シリカ(Si)比(=Fe/(P+Si)[mol/mol])が0.2〜0.8の範囲に入るように前記鉄化合物を添加する鉄リンシリカ比調整ステップを前記鉄化合物添加ステップに含み、前記鉄リンシリカ比調整ステップを前記溶融ステップより前に実行する点にある。
【0030】
鉄化合物添加ステップで鉄リンシリカ比が0.2〜0.8の範囲に入るように鉄化合物が添加されると、従来に比較して極めて低い融点で好ましい溶流度が確保できるようになり、リン成分の揮散を効果的に抑制できるとともに、化石燃料の使用量を抑制できるようになる。
【0031】
同第八の特徴構成は、同請求項8に記載した通り、上述した第五から第七の何れかの特徴構成に加えて、溶流度が60%以上になるように、前記鉄化合物添加ステップと前記塩基度調整ステップを、前記溶融ステップより前に実行する点にある。
【0032】
鉄化合物添加ステップで添加される鉄化合物の添加量、及び塩基度調整ステップで添加される塩基度調整剤の添加量を調整することにより、比較的低い融点で安定した溶融処理を行なうことができ、リン成分の揮散を効果的に抑制することができるようになる。
【発明の効果】
【0033】
以上説明した通り、本発明によれば、リン成分の揮散を抑制しながらもスラグ中にリン化鉄を含む金属リン化合物の混入を低減でき、経済性に富んだリン含有物質の溶融処理方法及び溶融炉の運転方法を提供することができるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】本発明によるリン含有物質の溶融処理方法の説明図
図2】(a),(b)溶融炉の説明図
図3】(a)は鉄粉または酸化第二鉄を添加した汚泥の塩基度と溶流度の特性図、(b)は鉄粉または酸化第二鉄を添加した汚泥の鉄(Fe)リン(P)シリカ(Si)比(=Fe/(P+Si))とリン固定化率の特性図
図4】鉄(Fe)量の添加量に対する汚泥の塩基度と溶流度の特性図
図5】(a)は酸化第二鉄を添加した汚泥を溶融して得られたスラグの説明図、(b)は鉄粉を添加した汚泥を溶融して得られたスラグの説明図
図6】(a)〜(c)は溶流度試験の説明図
図7】(a)はリンが金属ではない形態でスラグに捕捉された状態、つまりリン元素が架橋となる酸素原子を介してガラス中に取り込まれた状態の一例を示す説明図、(b)はリン元素が酸素原子を含まずに延展性や光沢、高い熱伝導性等の金属的性質を示す状態で取り込まれた一例を示す説明図
図8】従来の下水汚泥溶融処理方法の説明図
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本発明によるリン含有物質の溶融処理方法及び溶融炉の運転方法の実施形態を説明する。
【0036】
図1には、リン含有物質が下水汚泥である場合の溶融処理方法が示されている。活性汚泥法や膜分離活性汚泥法等を用いて生物処理する下水処理装置から余剰汚泥として引抜かれた濃縮汚泥は、凝集剤の一例であるポリ硫酸第二鉄{(FeOH)(SO4)3−n/2が添加されて凝集され、その後にスクリュープレスやフィルタプレス等の脱水機1で脱水処理されて貯留ピット2に貯留される。尚、この脱水処理で脱水汚泥の含水率は約70〜85%となる。
【0037】
貯留ピット2に貯留された脱水汚泥は、塩基度調整剤である消石灰(Ca(OH))またはSiO、及び3価の鉄化合物である酸化第二鉄(Fe)が添加され、蒸気式の乾燥機3に投入されて撹拌されながら乾燥処理されて乾燥汚泥となり、ホッパー4に貯留される。尚、この乾燥処理で乾燥汚泥の含水率は約20〜30%となる。
【0038】
濃縮汚泥を凝集、脱水、乾燥する処理が、下水汚泥の水分を調整(ここでは水分を除去)する前処理ステップとなり、塩基度調整剤を添加するステップが塩基度調整ステップとなり、下水汚泥に酸化第二鉄(Fe)を添加するステップが鉄化合物添加ステップとなる。鉄化合物添加ステップは、上述の前処理ステップまたはその前後に実行されるのであれば、何れのステップで実行されてもいい。
【0039】
尚、前処理ステップの水分を調整する方法として、フィルタプレス、遠心脱水、スクリュープレス等の機械的な機構を用いる方法、化学反応による反応熱、蒸気や排ガスの保有熱等を利用する直接または間接加熱による方法、さらに相対的に水分を減らすために、古紙や乾燥した汚泥等を加える方法等を用いることができる。
【0040】
前処理ステップで溶融に適した30%以下まで含水率が調整され、塩基度調整剤及び3価の鉄化合物が添加された下水汚泥は、コンベア機構を介してホッパー4から順次溶融炉5に投入されて溶融処理され、溶融炉5で溶融生成されたスラグは、その後冷却して固化される。溶融炉として表面式溶融炉、電気式溶融炉、旋回式溶融炉、コークスベッド炉等を用いることができ、特に旋回式溶融炉、表面式溶融炉を好適に用いることができる。本実施形態では表面式溶融炉に属する回転式表面溶融炉が用いられている。
【0041】
図2に示すように、回転式表面溶融炉5は、燃焼器51が配置された天井部52の周囲に立設された内筒53と、底部中央に出滓口54が形成された有底の外筒55とが共通軸心周りに配置され、外筒55を軸心周りに回転させる回転機構を備え、外筒55が内筒53に対して回転可能に構成されている。
【0042】
燃焼器51は、燃料タンクから供給される燃料とブロワから供給される空気を混合して燃焼させるバーナで構成され、燃料の供給量を調整することによって溶融スラグの温度が1300℃前後になるように主燃焼室56の温度が調整される。
【0043】
内筒53と外筒55の間に形成された蓄積部57に投入された乾燥汚泥は、内筒53と外筒55の相対回転により内筒53の下縁部から主燃焼室56に供給される。汚泥の露出面が燃焼器51の燃焼火炎により溶融して、主燃焼室56の底面の中央部に形成された出滓口54から溶融スラグとして滴下排出される。出滓口24から滴下した溶融スラグは、下方に配置された水槽で急冷され水砕スラグとなる。
【0044】
つまり、回転式表面溶融炉5で溶融ステップが実行され、溶融ステップで溶融されたスラグを冷却して固化する冷却ステップが出滓口54の下方に配置された水槽で実行される。
【0045】
図1に戻り、溶融炉5から排出された排ガスは、廃熱ボイラ6、乾式電気集塵機7、排煙処理塔8、湿式電気集塵機9を通して処理され、湿式電気集塵機9の返流水は水処理設備で浄化処理される。
【0046】
このような酸化第二鉄(Fe)と汚泥との混練物が溶融炉に投入されると、下水汚泥が溶融する過程で酸化第二鉄(Fe)の周囲が還元性雰囲気となり、還元生成された酸化第一鉄(FeO)によって融点降下作用が発現し、例えば、約1300℃の溶融温度のときに、鉄に対する汚泥の好ましい塩基度0.4〜0.8よりも広い範囲で溶流度60%以上を確保でき、しかも汚泥中のリン成分の揮散が抑制されてリンが金属でない形態でスラグ中に捕捉されるようになる。つまり、下水汚泥中のリン成分は、リン化鉄を含む金属リン化合物への移行が抑制されつつ、金属でない形態でスラグ中に捕捉される。
【0047】
図7(a)には、ガラス(スラグ)を構成する一部元素の結合状態が示されており、リン(P)が金属ではない形態でスラグに捕捉されている状態(図中、一点鎖線の円で囲まれた部位)が例示されている。つまり、リン元素(P)が架橋となる酸素原子(O)を介してガラス中に捕捉されている。
【0048】
図7(b)には、リン元素(P)が架橋となる酸素原子を含まずに、延展性や光沢、高い熱伝導性等の金属的性質を示す状態でスラグに取り込まれた状態の一例が示されている。これが、リン化鉄を含む金属リン化合物等の金属粒子となる。
【0049】
尚、鉄粉(Fe)の代わりに酸化第二鉄(Fe)を使用すると、リンの全てが金属でない形態でスラグ中に捕捉されるというわけではなく、一部はリン化鉄の形態でスラグに捕捉され、一部は揮散することになるが、大半の酸化第二鉄(Fe)が酸化第一鉄(FeO)となってスラグに固定されるとともに、下水汚泥に含まれる大半のリンが金属でない形態でスラグ中に捕捉されることを意味する。
【0050】
主燃焼室の全域が還元性雰囲気である必要はなく、少なくとも酸化第二鉄(Fe)の周囲が還元性雰囲気であればよく、このような環境は汚泥に含まれる有機物が熱分解されるときに発生する一酸化炭素等の還元性ガスにより実現される。
【0051】
逆に、炉内を長時間還元性雰囲気にすると、lFeO−mP−nCaO−oSiO系(l,m,n,oは、任意の整数)のスラグから鉄が還元されて金属粒子として析出するとともに、リン成分が揮散してしまうので、局所的な還元性雰囲気や弱い還元性雰囲気がリン成分のスラグへの捕捉にとってより良い条件となる。
【0052】
つまり、図2(b)に示すように、溶融炉に投入された被溶融物は、その表面から溶融して底部中央の出滓口54から滴下するのであるが、溶融スラグ層L1と未溶融層L2との境界領域では、被溶融物に含まれる有機成分等が熱分解されて還元性雰囲気となる。そのような還元性雰囲気下で酸化第二鉄(Fe)が還元されて酸化第一鉄(FeO)となり、スラグの融点降下剤として機能し、図7(a)に示したような態様でスラグに固定される。スラグの融点が下がるため、リンの揮散が抑制されるとともに鉄が金属リン化合物として結合することなくスラグに捕捉される。即ち、リン含有物質である被溶融物がスラグへ変化する周辺で還元性であればよく、炉内は酸化性雰囲気と還元性雰囲気の何れであってもよい。
【0053】
鉄粉(Fe)に対する汚泥の好ましい塩基度0.4〜0.8よりも調整範囲が広くなるため、それだけ塩基度調整剤の使用量が少なくて済み、また調整された塩基度と酸化第一鉄(FeO)による融点降下作用によってスラグの融点をさらに低下させることができるので、排ガス処理設備等の閉塞や腐食を来すリン成分の揮散量を大きく低減させることができるようになる。
【0054】
鉄粉(Fe)と異なり酸化第二鉄(Fe)のような3価の鉄化合物であれば、湿った汚泥に添加しても発熱する虞がないため、下水汚泥の水分を除去する前処理ステップまたはその前後のいつの時点でも添加することができ、従って、鉄粉(Fe)を添加する場合と異なり、事前に十分に汚泥と混練できる機会が確保できるので鉄化合物を過剰に投入することが無く、均一に分散することができる。その結果、スラグに混入する金属粒子の量も大きく低減できるようになる。
【0055】
鉄化合物添加ステップで、鉄(Fe)量が乾燥物質換算量DS(Dry Solid)に対して1〜8wt%、好適には3〜5wt%の範囲に入るように2価または3価の鉄化合物が添加されることが好ましく、溶融温度が比較的低温であっても溶流度60%以上を確保できるようになり、リン成分の揮散を抑制しながら、効果的にリンをスラグに捕捉することができるようになる。
【0056】
鉄化合物添加ステップで添加される鉄化合物は、3価の鉄化合物に限らず2価の鉄化合物であってもよい。3価の鉄化合物は、酸化第二鉄(Fe)に限らず、水酸化第二鉄(Fe(OH))、塩化第二鉄(FeCl)、硫酸第二鉄(Fe(SO)、ポリ硫酸第二鉄{(FeOH)(SO4)3−n/2等の何れか一種または複数種を好適に用いることができる。本実施形態では、濃縮汚泥を凝集するために用いられるポリ硫酸第二鉄{(FeOH)(SO4)3−n/2が添加された後に、さらに酸化第二鉄(Fe)が添加されるように鉄化合物添加ステップが実現されている。
【0057】
また、鉄化合物添加ステップで用いられる2価の鉄化合物として、酸化第一鉄(FeO)、水酸化第一鉄(Fe(OH))、塩化第一鉄(FeCl)、硫酸第一鉄(FeSO)、四酸化第三鉄(Fe)、炭酸第一鉄(FeCO)等の何れか一種または複数種を好適に用いることができる。2価及び3価の鉄化合物を組み合わせて用いてもよい。
【0058】
例えば、酸化第二鉄(Fe)は、以下の還元反応によって四酸化第三鉄(Fe)になり、さらに還元されて酸化第一鉄(FeO)となる。
3Fe+CO → 2Fe+CO
Fe+CO → 3FeO+CO
【0059】
例えば、塩化第二鉄(FeCl)は、以下の加水分解反応によって酸化第二鉄(Fe)になり、さらに還元反応によって酸化第一鉄(FeO)となる。
2FeCl+3HO → Fe+6HCl
【0060】
例えば、水酸化第二鉄(Fe(OH))は、以下の熱分解反応によって酸化第二鉄(Fe)になり、さらに還元反応によって酸化第一鉄(FeO)となる。
2Fe(OH) → Fe+3H
【0061】
例えば、硫酸第二鉄(Fe(SO)は、以下の熱分解反応によって酸化第二鉄(Fe)になり、さらに還元反応によって酸化第一鉄(FeO)になる。
Fe(SO → Fe+3SO
【0062】
例えば、硫酸第一鉄(FeSO)は、以下の還元反応によって酸化第二鉄(Fe)になり、さらに還元されて酸化第一鉄(FeO)になる。
4FeSO+C → 2Fe+4SO+CO
【0063】
例えば、炭酸第一鉄(FeCO)は、以下の熱分解反応によって酸化第一鉄(FeO)になる。
FeCO → FeO+CO
【0064】
また、下水汚泥に塩基度調整剤を添加して下水汚泥の塩基度が0.2から1.0の範囲に入るように調整する塩基度調整ステップを、溶融ステップより前に実行することが好ましく、鉄化合物添加ステップで添加される3価の鉄化合物から溶融処理時に生成される酸化第一鉄(FeO)によって発現する融点降下作用と相俟って、鉄粉(Fe)を添加するより相対的に低い融点で好ましい溶流度が確保できるようになる。
【0065】
下水汚泥に塩基度調整剤を添加して下水汚泥の塩基度を0.7±0.1の範囲に調整する塩基度調整ステップを、溶融ステップより前に実行することがさらに好ましく、鉄化合物添加ステップで添加される3価の鉄化合物から溶融処理時に生成される酸化第一鉄(FeO)によって発現する融点降下作用と相俟って、より低い融点で好ましい溶流度が確保できるようになり、リン成分の揮散を効果的に抑制できるようになる。
【0066】
またさらに、鉄(Fe)リン(P)シリカ(Si)比(=Fe/(P+Si)[mol/mol])が0.2〜0.8の範囲に入るように鉄化合物を添加する鉄リンシリカ比調整ステップが鉄化合物添加ステップに含まれ、鉄リンシリカ比調整ステップを溶融ステップより前に実行することが好ましい。
【0067】
鉄化合物添加ステップで鉄リンシリカ比が0.2〜0.8の範囲に入るように鉄化合物が添加されると、従来に比較して極めて低い融点で好ましい溶流度が確保できるようになるとともにリン固定化率も80%以上となり、リン成分の揮散を効果的に抑制できるとともに、化石燃料の使用量を抑制できるようになる。
【0068】
さらにまた、溶流度が60%以上になるように、鉄化合物添加ステップと塩基度調整ステップを、溶融ステップより前に実行することが好ましく、比較的低い温度で安定した溶融処理を行なうことができ、リン成分の揮散を効果的に抑制することができるようになる。
【0069】
つまり、水分が調整・除去された下水汚泥を溶融する溶融炉に対して、予め下水汚泥に鉄(Fe)量が乾燥物質換算量DS(Dry Solid)に対して1〜8wt%の範囲に入るように2価または3価の鉄化合物を添加し、撹拌した後に溶融炉に投入して鉄化合物の周囲が還元性雰囲気となる状態で下水汚泥を溶融するように運転されることが好ましい。
【0070】
尚、塩基度調整ステップと鉄化合物添加ステップの順番に制限はなく、塩基度調整剤と鉄化合物を事前に混合し、一緒に添加するステップとしてもよい。
【0071】
本発明は、リンが乾燥物質換算量の0.04wt%以上含まれるリン含有物質に好適に用いることができ、このようなリン含有物質として、下水汚泥の他に、田畑の土壌、家畜の糞尿、し尿汚泥、リン含有鉱石の残渣等にも本発明が好適に用いられる。例えば、下水汚泥には0.5〜3wt%、田畑の土壌には0.04〜1wt%、家畜の糞尿には0.5〜3wt%、し尿汚泥には2〜3wt%のリンが含有されている。
【実施例】
【0072】
以下に、下水汚泥に3価の鉄化合物を添加した場合の溶融特性の実験結果を説明する。
図3(a)には、前処理後の下水汚泥に塩基度調整剤を添加して塩基度を振ったサンプル汚泥に対して、それぞれ鉄粉(Fe)または酸化第二鉄(Fe)を添加した試験片を、電気炉を用いて1300℃で加熱した場合の溶流度特性が示されている。図中、破線で示される特性が鉄粉の特性であり、実線で示される特性が酸化第二鉄の特性である。
【0073】
サンプル汚泥の鉄(Fe)リン(P)シリカ(Si)比(=Fe/(P+Si)[mol/mol])は0.45であり、鉄粉または酸化第二鉄の添加量は、それぞれ乾燥物質換算量DS(Dry Solid)に対して5wt%である。
【0074】
溶流度とは、図6(a),(b),(c)に示すように、船形形状の磁性ボードの一端部側に試験片を充填し、充填部が上方になるように磁性ボードを所定角度(5°)傾斜させた状態で、所定温度に保持された電気炉内に所定時間(15分)静置し、その後取り出して室温で冷却したときの試験片の状態を計測して、以下の式に基づいて算出される値である。
溶流度(M値)=(L−L)/L×100
【0075】
通常、溶流度が60%となる温度が溶流点として評価され、溶流度40%で溶融炉は運転可能で、溶流度が60%以上であれば溶融性が高いと判断される。尚、磁性ボードは長さ150mm、幅20mm、高さ70mmで、約10mlの容量に形成され、磁性ボードに充填される試験片の長さは70mmに設定される。
【0076】
図3(a)に示されているように、鉄粉を添加した場合には、塩基度が約0.4〜0.8の範囲(R−Fe)で溶流度60%以上を確保できるのに対して、酸化第二鉄を添加した場合には、塩基度が約0.2〜1.0の範囲(R−Fe)で溶流度60%以上を確保できることが判明した。
【0077】
つまり、酸化第二鉄を添加する場合には、溶流度60%以上を確保できる塩基度の調整範囲が広がるので、塩基度調整剤の添加量を低く抑制することができることが明らかになった。
【0078】
そして、塩基度が0.7±0.1の範囲で極めて高い溶流度を確保できるようになり、塩基度をこの範囲に調整すると溶融温度が1300℃よりも50℃程度低い温度であっても良好に溶融炉は運転可能となる。その結果、汚泥に含まれるリン成分の揮散をさらに効果的に抑制できるようになることが判明した。
【0079】
図3(b)には、前処理後の下水汚泥に塩基度調整剤を添加して塩基度を0.7に調整したサンプル汚泥に対して、鉄粉または酸化第二鉄を添加して鉄(Fe)リン(P)シリカ(Si)比(=Fe/(P+Si)[mol/mol])を変えた試験片を、電気炉を用いて1300℃で加熱した場合のリン固定化率が示されている。図中、破線で示される特性が鉄粉の特性であり、実線で示される特性が酸化第二鉄の特性である。
【0080】
図3(b)の実線で示される特性で明らかなように、酸化第二鉄を添加してサンプル汚泥の鉄(Fe)リン(P)シリカ(Si)比を0.2に調整すると約80%のリン固定化率が得られ、0.4以上に調整すると約90%という高いリン固定化率が得られることが判明した。
【0081】
当該特性図には、さらにこのような汚泥に酸化第二鉄を添加して実炉で運転したときのデータが黒三角でプロットされている。実炉では塩基度が0.7±0.1の範囲に調整され、鉄(Fe)リン(P)シリカ(Si)比が0.35,0.45,0.51に設定された状態で運転され、そのときにサンプリングされたデータが黒三角で示されている。
【0082】
以上から、鉄(Fe)リン(P)シリカ(Si)比を0.2〜0.8の範囲に調整することが好ましく、0.25〜0.55の範囲に調整することがさらに好ましく、0.30から0.50の範囲に調整することが最も好ましいことが明らかになった。鉄(Fe)リン(P)シリカ(Si)比を0.30から0.50の範囲に調整することで、酸化第二鉄の添加量を抑制しながらも良好にリンをスラグ中に固定できるようになり、ランニングコストを抑制できる点でも好ましい。リン固定化率を下げるとそれだけ鉄化合物に要するランニングコストが低減できるが、排ガス処理設備や煙道に付着したダストの清掃頻度が増加する。そのため、清掃頻度との兼ね合いで、少なくともリン固定化率を60%程度に調整することも可能である。尚、塩基度が約0.2〜1.0の範囲でも同様の傾向があることが確認されている。
【0083】
図4には、約0.2〜1.2の範囲の塩基度のサンプル汚泥に、乾燥物質換算量DS(Dry Solid)に対する重量比で鉄(Fe)量が3〜5wt%となる範囲で酸化第二鉄を添加した場合の溶流度特性が示されている。電気炉を用いて1300℃で加熱した場合の特性である。塩基度にも依存するが、鉄(Fe)量が乾燥物質換算量DSに対して3〜5wt%の範囲に入るように調整されていると広範囲で溶流度60%以上を確保できることが判明した。
【0084】
図5(a),(b)には、塩基度が0.7に調整され、鉄粉または酸化第二鉄が添加されることにより、鉄(Fe)量が乾燥物質換算量DSに対して3wt%に調整された試験片を1300℃で溶融した場合のスラグの写真が示されている。図5(a)は酸化第二鉄が添加された場合のスラグであり、図5(b)は鉄粉が添加された場合のスラグである。
【0085】
汚泥に鉄粉(Fe)が添加された場合にはスラグに球状の金属粒子が析出していることが観察される(図5(b)中、白丸で囲まれている領域参照)。当該金属粒子を成分分析すると、鉄(Fe)やリン化鉄(FeP)を主成分とする金属リン化合物であることが判明した。これに対して、図5(a)には、殆ど金属粒子が確認できない状態で、汚泥に添加された酸化第二鉄(Fe)が、酸化第一鉄(FeO)に還元された状態でスラグに溶解し、汚泥中のリン成分も鉄と金属リン化合物として化合することなく、リンが金属でない形態でスラグ中に捕捉されていることが確認された。
【0086】
尚、本実施例で用いた酸化第二鉄はメジアン径11μm(d50)の粉体を利用したが、メジアン径1mm(d50)程度のものから利用でき、反応速度を速めるという観点で粒度は細かい方がより好ましい。
【0087】
本願明細書等で記載した「鉄粉」や「酸化第二鉄」あるいは「鉄化合物」は、それぞれ純度100%のものに限るのではなく、多少の不純物を含んでいる場合が含まれる。つまり、「鉄粉」であれば一部が酸化鉄などの化合物となっていたり、鉄化合物であれば鉄が化合物の形態をとらず鉄として残っているものも含まれる。換言すると、主としてその物質を含んでいるものを意味して記載をしている。また、鉄化合物は異なる鉄化合物の混合物でもよいものである。
【符号の説明】
【0088】
1:脱水機
2:貯留ピット
3:乾燥機
4:ホッパー
5:溶融炉
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8