特許第6434740号(P6434740)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社小糸製作所の特許一覧

<>
  • 特許6434740-車両用表示システム 図000002
  • 特許6434740-車両用表示システム 図000003
  • 特許6434740-車両用表示システム 図000004
  • 特許6434740-車両用表示システム 図000005
  • 特許6434740-車両用表示システム 図000006
  • 特許6434740-車両用表示システム 図000007
  • 特許6434740-車両用表示システム 図000008
  • 特許6434740-車両用表示システム 図000009
  • 特許6434740-車両用表示システム 図000010
  • 特許6434740-車両用表示システム 図000011
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6434740
(24)【登録日】2018年11月16日
(45)【発行日】2018年12月5日
(54)【発明の名称】車両用表示システム
(51)【国際特許分類】
   B60Q 1/26 20060101AFI20181126BHJP
   G08G 1/16 20060101ALI20181126BHJP
   B60R 21/00 20060101ALI20181126BHJP
   B60Q 1/00 20060101ALI20181126BHJP
【FI】
   B60Q1/26 Z
   G08G1/16 C
   B60R21/00 991
   B60Q1/00 G
【請求項の数】7
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2014-163379(P2014-163379)
(22)【出願日】2014年8月11日
(65)【公開番号】特開2016-37260(P2016-37260A)
(43)【公開日】2016年3月22日
【審査請求日】2017年7月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001133
【氏名又は名称】株式会社小糸製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100087826
【弁理士】
【氏名又は名称】八木 秀人
(72)【発明者】
【氏名】柴田 裕一
(72)【発明者】
【氏名】八木 隆之
(72)【発明者】
【氏名】田中 秀忠
(72)【発明者】
【氏名】中澤 美紗子
(72)【発明者】
【氏名】早川 三千彦
(72)【発明者】
【氏名】増田 剛
(72)【発明者】
【氏名】津田 俊明
【審査官】 當間 庸裕
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−184428(JP,A)
【文献】 特開2009−149152(JP,A)
【文献】 特開2010−211404(JP,A)
【文献】 特開2008−201407(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60Q 1/26
B60Q 1/00
B60R 21/00
G08G 1/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
情報を路面に表示する車両用表示システムであって、
車両への歩行者,他車両等の他者の接近を検出する他者検出手段と、
交差点の接近を検出する交差点検出手段と、
前記他者検出手段または前記交差点検出手段で他者または交差点の接近を検出した場合に、前記車両の前方の路面に対し、所定領域に、所定形状を動かして表示する表示手段と、
を備え、
前記所定形状は、前記所定領域の前後方向に延びる棒状マークであって、前記表示手段は、前記所定形状を前記所定領域内に左右方向に動かす、
ことを特徴とする車両用表示システム。
【請求項2】
情報を路面に表示する車両用表示システムであって、
車両への歩行者,他車両等の他者の接近を検出する他者検出手段と、
交差点の接近を検出する交差点検出手段と、
前記他者検出手段または前記交差点検出手段で他者または交差点の接近を検出した場合に、前記車両の前方の路面に対し、所定領域に、所定形状を動かして表示する表示手段と、
を備え、
前記所定形状は、前記所定領域の左右方向に延びる棒状マークであって、前記表示手段は、前記所定形状を前記所定領域内に前方向に動かす、
ことを特徴とする車両用表示システム。
【請求項3】
前記車両の走行車線の中央部では、前記所定形状の表示を止める,または前記所定形状の光量を前記車両の走行車線の左右部を照射する光量より下げて表示することを特徴とする請求項1記載の車両用表示システム。
【請求項4】
前記所定形状を前記所定領域の前端に向かうにつれて早く動かすことを特徴とする請求項2に記載の車両用表示システム。
【請求項5】
前記所定領域の後端に向かうほど前記所定形状の幅を太く表示することを特徴とする請求項2又は請求項4に記載の車両用表示システム。
【請求項6】
前記所定形状を、前記所定領域の領域中心から領域側方に向けて動かすことを特徴とする請求項1に記載の車両用表示システム。
【請求項7】
前記所定形状と前記車両のヘッドランプの配光とのコントラストを、前記所定形状がやや相対的明部となるように表示することを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の車両用表示システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、情報を路面等に表示する車両用表示システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、路面上に図形や文字等を照射(描画)することで、車両の情報を、歩行者,他車両等の他者に対して通知・警告する車両用表示システムが知られている。例えば特許文献1には、交差点へ進入しようとする他者に対して、図形による警告マークを交差点の路面上に表示することで、車両の接近を通知・警告する車両用表示システムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−184428号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、図形や文字等による表示は、警告を受ける他者の目線で変形しないように表示することが難しく、表示が歪んで情報が認識されないおそれがある。また、他者に対する表示は、概して車両の運転者にとっては煩わしく、運転の快適性を損なうという問題がある。
【0005】
本発明は、前述した課題を解決するために提案されたものであって、警告を受ける他者には気づきやすく、車両の運転者には違和感を与えない表示を行うことのできる車両用表示システムを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の車両用表示システムは、車両への歩行者,他車両等の他者の接近を検出する他者検出手段と、交差点の接近を検出する交差点検出手段と、前記他者検出手段または前記交差点検出手段で他者または交差点の接近を検出した場合に、前記車両の前方の路面に対し、所定領域に、所定形状を動かして表示する表示手段と、を有することを特徴とする。
【0007】
この態様によれば、歩行者,他車両等の他者と車両が接近した場合、または車両が交差点に接近した場合に、車両前方の路面に所定形状が動的に表示される。これにより、他者に対しては、静的な表示よりも視覚的注意を引き、車両の接近に気づきやすくすることができる。同時に、車両の運転者に対しては、断続的な表示となるため、運転中の煩わしさを低減することができる。
【0008】
上記態様における車両用表示システムで、前記所定形状は、前記所定領域の前後方向に延びる棒状マークであって、前記表示手段は、前記所定形状を前記所定領域内に左右方向に動かすことを特徴とする。これによれば、簡易な形状を往復させる表示であるため、描画の歪みの問題を考慮することなく、前述の効果を達成することができる。
【0009】
上記態様において、前記車両の走行車線の中央部では、前記所定形状の表示を止める,または前記所定形状の光量を前記車両の走行車線の左右部を照射する光量より下げて表示することが好ましい。これによれば、運転者のちらつきによる違和感を低減できる。
【0010】
または、上記態様における車両用表示システムで、前記所定形状は、前記所定領域の左右方向に延びる棒状マークであって、前記表示手段は、前記所定形状を前記所定領域内に前方向に動かすことを特徴とする。この態様によっても、簡易な形状を前進させる表示であるため、描画の歪みの問題を考慮する必要がなく、前述の効果を達成することができる。
【0011】
上記態様において、前記所定形状は前記所定領域の前端に向かうにつれて早く動かすことが好ましい。これにより、車両からより遠方ほど動きの早い表示がなされるので、接近の早期の段階ほど他者の気づきを促すことができる。
【0012】
上記態様において、前記所定領域の後端に向かうほど前記所定形状の幅を太く表示することが好ましい。これにより、他者に車両との距離感の情報を伝えられる。
【0013】
または、上記態様における車両用表示システムで、前記所定形状を、前記所定領域内に領域中心から領域側方に向けて動かすことを特徴とする。この態様によっても、簡易な形状が広がるパターンの表示であるため、描画の歪みの問題を考慮することなく、前述の効果を達成することができる。
【0014】
或いは、上記態様における車両用表示システムは、前記所定形状と前記車両のヘッドランプの配光とのコントラストを、前記所定形状がやや相対的明部となるように表示することが好ましい。これにより、車両の運転者の違和感がいっそう低減できるとともに、他者の視覚には所定形状が点滅しているように見えるので、いっそう気づきやすくすることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、歩行者,他車両等の他者と車両が接近するおそれがある状況で、警告を受ける他者には気づきやすく、車両の運転者には違和感を与えない表示を行うことのできる車両用表示システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の一実施形態に係る車両用表示システムを含む車両用灯具の正面図
図2】車両用灯具の縦断面図
図3】レーザ光源ユニットの側面図
図4】走査機構の斜視図
図5】制御装置を説明する機能ブロック図
図6】車両用灯具による配光を示す図
図7】車両用表示システムによる表示の動作を説明する図
図8】(a)車両用表示システムによる第1の実施例を説明する図、(b)その変形例を説明する図、(c)その変形例を説明する図
図9】車両用表示システムによる第2の実施例を説明する図、(b)その変形例を説明する図
図10】車両用表示システムによる第3の実施例を説明する図
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に、本発明の好適な実施形態を図面を参照しながら説明する。
【0018】
(全体構成)
図1は本発明の一実施形態に係る車両用灯具1の正面図、図2は車両用灯具1の縦断面図(図1に示す線II−IIに沿う断面図)である。車両用表示システム7は、車両Cの車両用灯具1に含まれている。車両用灯具1は車両Cの前部の左右にそれぞれ設けられる前照灯であり、以下の構成は右側前照灯の一例である。以下、車両用灯具1に関する構成について、車両Cに装着された車両用灯具1を正面視した状態(図1の状態)を基準に、上下左右前後を表す。
【0019】
なお、車両用表示システム7は、左前照灯に搭載されていても、左右の前照灯に搭載されて同期して後述する所定形状の動的なマークMを形成する構成であってもよい。また、車両用表示システム7は、車両用灯具1の灯室内に含まれる構成に限られず、例えば車両Cの屋根上に前方を向けて固定されるなど、車両用灯具1の外部に配置されてもよい。
【0020】
図1および図2に示すように、車両用灯具1は、開口部を有する箱状のランプボディ2と、その開口部に取り付けられた透光性のある樹脂又はガラス等で形成された前面カバー3とで画成された灯室内に、ハイビーム用配光パターンを形成するハイビーム用光源ユニット5,ロービーム用配光パターンを形成するロービーム用光源ユニット6,および車両用表示システム7を有する。
【0021】
ハイビーム用光源ユニット5およびロービーム用光源ユニット6は、例えば反射型やプロジェクタ型の灯具ユニットを用いてよく、ここではその種類を問わない。図2に示すロービーム用光源ユニット6の構成はその一例であり、ロービーム用光源ユニット6は、LED161,リフレクタ162および投影レンズ163を用いたプロジェクタ型の灯具ユニットで構成されている。図2の矢印B1は、ロービーム用光源ユニット6による出射光の一部を示している。ハイビーム用光源ユニット5およびロービーム用光源ユニット6は、これらの支持部材となる金属製の鉛直ブラケット4に対しシェードを兼ねる水平ブラケット160等を用いて固定されている。鉛直ブラケット4は、コーナー部のうち3か所がエイミングスクリュ14によってランプボディ2に固定されている。車両用灯具1は、各エイミングスクリュ14を回転させることにより光軸を上下左右に調整可能である。
【0022】
ハイビーム用光源ユニット5,ロービーム用光源ユニット6および後述する車両用表示システム7(の表示手段8)の灯室内前方には、それぞれの出射光の灯具前方への進行を許容する開口部を有する目隠し材のエクステンション12が設けられている。
【0023】
(車両用表示システム)
車両用表示システム7は、歩行者や他車両等(以下、他者とも称する)の車両Cへの接近を検出する他者検出部56(他者検出手段)および交差点の接近を検出する交差点検出部57(交差点検出手段)を含む制御装置9と、他者検出部56または交差点検出部57で他者または交差点の接近を検出した場合に動作されるレーザ光源ユニット10および走査機構11を含む表示手段8と、を有する。
【0024】
(表示手段)
まず、表示手段8を説明する。表示手段8は、後述する制御装置9により動作される、レーザ光源ユニット10と走査機構11を有する。
【0025】
(レーザ光源ユニット)
図3はレーザ光源ユニット10の側面図である。なお、図3では、レーザ光源ユニット10の筐体内部を透視して示している。レーザ光源ユニット10は、いわゆるRGBレーザユニットであり、赤レーザ光を出射する第1光源15,緑レーザ光を出射する第2光源16および青レーザ光を出射する第3光源17が、それぞれ基板を介して支持台18に固定されている。レーザ光源ユニット10は、各光源15,16,17からの各出射光を各集光レンズ20,21,22により平行光として集光し、各ダイクロイックミラー25,26,27に入射して、ダイクロイックミラー27,26,25を通過させることでRGB合成するため、その合成レーザ光B2は白色光を形成可能である。レーザ光B2は、レーザ光源ユニット10の筐体に設けられた集光レンズ19へ向けて反射され、外部へ出射される。なお、集光レンズ19は必須の構成ではない。レーザ光源ユニット10は、その光軸が下方に向かうように鉛直ブラケット4の前面に固定されている(図2参照)。レーザ光源ユニット10は、この他に、各光源15,16,17の出力を制御する監視装置28を有しており、照射強度および合成レーザ光の照射強度は監視されている。なお、レーザ光源ユニット10の光源は、各光源15,16,17によるRGBの3つの光源を有する構成に限られず、単体の白色光源を備えること、または、RGBの3つに橙色のレーザダイオードを追加した4つの光源を備えること、または、青色レーザダイオ−ドの出射光を黄色の蛍光体に通過させる構成を備えることにより、白色光を発生するものであってもよい。また、各光源15,16,17は、レーザダイオード以外の他のレーザ装置によって構成されていてもよい。
【0026】
(走査機構)
図4は走査機構11の斜視図である。走査機構11はガルバノミラーであり、ベース部37,第1回動体38,第2回動体39,第1トーションバー40,第2トーションバー41,永久磁石42,43および端子部44を有する。
【0027】
第1回動体38は、ベース部37の中央開口部に設けられた一対の第1トーションバー40により、ベース部37に対して左右(水平方向)に回動可能に支持されている。第2回動体39は、第1回動体38の中央開口部に設けられた一対の第2トーションバー41により、第1回動体38に対して上下(鉛直方向)に回動可能に支持されている。第2回動体39の前面には、銀蒸着やメッキなど処理等によって反射部36が形成されている。第1回動体38には制御装置9に接続された第1コイル(図示せず)が、第2回動体39には制御装置9に接続された第2コイル(図示せず)が配線されている。ベース部37には、第1トーションバー40が延びる方向と直交する位置に一対の永久磁石42が設けられ、第2トーションバー41が延びる方向と直交する位置に一対の永久磁石43が設けられている。第1コイルおよび第2コイルは、端子部44を介して制御装置9に接続されている。
【0028】
前述の第1コイルと永久磁石42および前述の第2コイルと永久磁石43は、後述する図5の走査用アクチュエータ58を構成する。走査用アクチュエータ58は、第1コイルおよび第2コイルに流れる駆動電流の大きさと向きを個別に変化させることにより、反射部36の向きを第1回動体38および第2回動体39の回動に基づき上下左右に変化させる。走査機構11は、レーザ光源ユニット10の光軸上に反射部36が配置され、かつその出射光が灯具前方に反射されるように、鉛直ブラケット4に固定された水平保持プレート13,13により、灯具前方下側から灯具後方上側に向けて傾斜した状態で固定されている(図2参照)。なお、走査機構11には、ポリゴンミラー等の他のスキャン光学系、または多数の微細なミラー角度を電気信号によって個別に制御することができるMEMSミラー等が採用されてよい。
【0029】
(制御装置)
図5は制御装置9を説明する機能ブロック図である。なお、図5の構成は一例であって、制御装置9は、ハードウェア的には半導体素子や電気回路で実現でき、ソフトウェア的にはコンピュータプログラムで実現されるが、これらの様々な組み合わせによって他のかたちでも実現可能であることは当業者には容易に想到される事項である。制御装置9は、灯具ECU(電子制御装置)51、ROM52、RAM53等を有する。ROM52には、各種制御プログラムが記録され、灯具ECU51は、ROM52に記録された各種制御プログラムをRAM53において実行し、各種制御信号を生成する。制御装置9は、例えばランプボディ2に固定されている。
【0030】
灯具ECU51は、車両用灯具1の灯室内か車両Cに設けられた車載カメラ60およびミリ波レーダ等の車載センサ62,ならびに高度道路交通システムや交差点カメラまたは監視カメラ等の外部システム63等で検出したデータを、有線または各種通信手段を用いて受信可能である。また、灯具ECU51は、車両Cに備えられたカーナビゲーションシステム61から自車両の現在位置に関するデータを、有線または各種通信手段を用いて受信可能である。これらも車両用表示システム7を構成しており、他者検出手段および/または交差点検出手段の一を構成している。
【0031】
灯具ECU51は、さらに、レーザ光源制御部54,アクチュエータ制御部55,他者検出部56,交差点検出部57を有する。
【0032】
他者検出部56は、前述の他者の存在をセンシングする手段(車載カメラ60,車載センサ62,外部システム63)から、車両Cへの他者の接近の情報を取得・検出する。
【0033】
交差点検出部57は、前述の車載カメラ60またはカーナビゲーションシステム61から交差点の接近の情報を取得・検出する。
【0034】
レーザ光源制御部54は、他者検出部56または交差点検出部57で他者または交差点の接近を検出した場合に、検出部56,57が取得した情報に基づき、各光源15,16,17によるレーザ光の色,出射強度および点消灯を光源毎に制御する。
【0035】
アクチュエータ制御部55は、他者検出部56または交差点検出部57で他者または交差点の接近を検出した場合に、検出部56,57が取得した情報に基づき、レーザ光源制御部54の制御と対応して、走査用アクチュエータ58を制御し、後述する走査領域SAにレーザ光B2を走査する。
【0036】
(車両用表示システムによる表示)
図6は車両用灯具1による配光を示す図、図7は車両用表示システム7による表示の動作を説明する図である。図6は、車両用灯具1の前方25mの位置に仮想的にたてられた仮想鉛直スクリーンを示しており、車両用灯具1により、ロービーム用光源ユニット6によるロービーム用配光パターンPLと、ハイビーム用光源ユニット5によるハイビーム用配光パターンPHが形成されている。これらのパターンの形状は周知であるので説明は割愛する。符号CRは車両Cの走行車線(路面)である。
【0037】
車両用表示システム7は、図6に示す矩形の走査領域SA内を走査可能に設定されている。車両用表示システム7の走査領域SAは、走行車線CRの路肩および隣接車線と車両Cの前方10メートル〜50メートルとをカバーできるよう設定されるのが好ましく、例えば仮想鉛直スクリーンで、上下端はH−H線の−0.5°〜−4°、左右端はV−V線の10°〜−10°の範囲に設定されるのが好ましい。
【0038】
まず、車両用表示システム7に電源が投入されると、制御装置9は、車載カメラ60,車載センサ62,外部システム63,およびカーナビゲーションシステム61からのデータを受信し、交差点検出部57で、交差点73の位置等の情報を取得する。同時に、他者検出部56で、歩行者71,他車両等の他車両72,の存在および位置等の情報を取得する。車両用表示システム7への電源の投入は、例えば車両Cの始動とともに自動で、または車内に設置された操作スイッチによりなされてよい。
【0039】
次に、他者検出部56または交差点検出部57が他者または交差点が接近したと検出した場合、制御装置9は、表示手段8を駆動して、所定形状のマークMを動的に描画する。他者および交差点の接近の検出(判定基準)は、当業者の有する知識に基づいて設定されてよい。また、他者検出部56による接近の検出は、他者が歩行者なのか車両なのか、または歩行者は横断歩行者なのか直線路歩行者なのかに応じて、接近の判定基準をそれぞれに設けてよい。
【0040】
他者または交差点が接近したと検出した場合の、表示手段8による動的なマークMの描画は、例えば、図7のように行われる。符号S1はその発光点による走査線の一例である。走査機構11は、アクチュエータ制御部55からの制御信号に基づいて反射部36を回動し、走査領域SA内を水平に、位置を微小距離d1だけ下方にずらしながら高速に走査する。これに対応して、レーザ光源ユニット10は、レーザ光源制御部54からの制御信号に基づいて、走査機構11の走査がマークMの描画領域である時間中は第1〜第3光源(15〜17)を一部または全て点灯してレーザ光B2を出射し、マークMの描画領域以外の時間中は第1〜第3光源(15〜17)を全て消灯させる。図7において、走査線S1の点線部は消灯して走査がなされている部分、実線部は点灯して走査がなされている部分である。車両用表示システム7は、走査領域SA内を高速で一巡(1スキャン)することにより、発光点の積層で任意の形状のマークMを描画することができる。そして、マークMを例えば右へ動かしたい場合は、続けて、二回目のスキャンで一回目のスキャンによるマークM1を微小距離d2だけ右にずらしたマークM2を描画し、三回目のスキャンでマークM2を微小距離d2だけ右にずらしたマークM3を描画し、これを所定の位置のマークMNまで順次繰り返すと、マークMが、所定の領域において右へ動くように表示される。なお、走査機構11による走査は水平に行うものに限らず、マークMの形状および/または動作に適した走査が採られてよい。
【0041】
以上の構成による車両用表示システム7により表示できる動的なマークMの好適な例を、図8図10に示す実施例に基づいて説明する。図8図10は、車両CおよびマークMを上方から見たものである。符号31は歩行者、符号32は他車両、符号33は交差点を示している。以下、マークMに関して、上方から見た状態(図8図10の状態)を基準に、左右前後を表す。
【実施例1】
【0042】
図8aは車両用表示システムによる第1の実施例を説明する図、図8bおよび図8cはその変形例である。この実施例では、図8aに示すように、所定領域Dは、車両Cの走行車線CRの道路幅に亘りかつ扇状に広がる形状に設定されている。所定領域Dの左右幅は、予め当業者の知識に基づいて固定的に設定されてもよいし、灯具ECU51により車載カメラ60等のデータからレーンマークや路肩等を検出して道路幅を特定し道路幅に応じて変動的に設定されてもよい。所定領域Dの前後長さは、車両Cの前方10メートル〜50メートルをカバーできるよう設定されるのが好ましく、万が一、歩行者が路上にとび出しても車両制御により衝突が回避できる距離よりも遠くで歩行者が表示を認知できることが好ましい。
【0043】
車両用表示システム7は、歩行者71または他車両72あるいは交差点73の接近を検出し、最も先に接近を検出したもの、または最も警告が必要な状況と判断したものに対する情報に基づいて、扇状の所定領域D内に前後方向に延びる縦棒状のマークMを表示する。そして、走査領域SAのスキャンを順次繰り返すことにより、このマークMを、扇状の所定領域D内に左右方向に周期的に動かして表示する。マークMは、車両Cの運転者に対する煩わしさを低減させるため、ゆっくりと動かすことが好ましく、例えば周期2回/秒程度で移動させるのが好ましい。
【0044】
この実施例によれば、歩行者71,他車両72と車両Cが接近するおそれがある状況で、縦棒状のマークMが左右に動的に表示されることにより、歩行者71,他車両72(の運転者)に対しては、静的な表示よりも視覚的注意を引き、車両Cの接近に気づきやすくすることができる。同時に、車両Cの運転者に対しては、断続的な表示となるため、運転中の煩わしさを低減することができる。また、縦棒状のマークMを左右に往復させる表示であるため、歩行者71,他車両72(の運転者)に対しては直感的に注意が喚起され、多少の描画の歪みが生じていても、それによって注意喚起の効果が低下することはない。
【0045】
なお、図8bに示すように、車両用表示システム7は、所定領域Dの一部エリアでレーザ光を消灯または減光させてもよい。好ましくは、走行車線CRの中央部にかかる域,すなわち所定領域Dの中央部ではレーザ光源ユニット10を消灯して走査し、走行車線CRの左右端にかかる域,すなわち所定領域Dの左右部でのみ点灯して走査するよう制御する。または、所定領域Dの中央部では所定領域Dの左右部よりも照射強度を弱めるか走査速度を遅くして光量を下げて点灯するよう制御する。すなわち、図8bで一点鎖線で示したマークMは表示せず(或いは減光し)、実線で示したマークMを表示することで、運転者の注視する域ではマークMが視認されにくくなるため、歩行者71,他車両72に対しての効果は維持された上で、車両Cの運転者に対してはちらつきによる違和感を低減することができる。
【0046】
なお、所定領域Dは、走行車線CR上に限らず、他者検出部56が得た情報を基に、該当する他者の近辺に設定されるようにしてもよい。例えば、図8cに示すように、該当する歩行者71の足元に所定領域Dを設定して、マークMを動的に表示させてもよい。
【実施例2】
【0047】
図9aは車両用表示システム7による第2の実施例を説明する図、図9bはその変形例である。この実施例では、図9aに示すように、所定領域Dは、車両Cの走行車線CR上に縦長矩形状に設定されている。この場合の所定領域Dの左右幅および前後長さも、固定的または変動的に設定されてよいが、例えば車両Cの前方10メートルから50メートル、左右幅3メートルに設定されるのが好ましい。
【0048】
車両用表示システム7は、歩行者71または他車両72あるいは交差点73の接近を検出し、最も先に接近を検出したもの、または最も警告が必要な状況と判断したものに対する情報に基づいて、縦長矩形の所定領域D内に左右方向に延びる横棒状のマークMを表示する。そして、走査領域SAのスキャンを順次繰り返すことにより、このマークMを、縦長矩形の所定領域D内に後から前へ一方向に周期的に動かして表示する。
【0049】
この実施例によれば、歩行者71,他車両72と車両Cが接近するおそれがある状況で、横棒状のマークMを前方に動的に送る表示がなされることにより、歩行者71,他車両72(の運転者)に対しては、静的な表示よりも視覚的注意を引き、車両Cの接近に気づきやすくすることができる。同時に、車両Cの運転者に対しては、断続的な表示となるため、運転中の煩わしさを低減することができる。また、横棒状のマークMが前に移動する表示であるため、歩行者71,他車両72(の運転者)に対しては直感的に注意が喚起され、多少の描画の歪みが生じていても、それによって注意喚起の効果が低下することはない。
【0050】
なお、この実施例では、車両用表示システム7は、マークMを所定領域Dの前端に向かうにつれて徐々に表示速度(前進する速度)を早めるように表示するのが好ましい。これにより、車両Cから遠方となるほど動きの早い表示がなされるので、接近の早期の段階ほど歩行者71,他車両72の運転者の気づきを促すことができる。
【0051】
なお、この実施例では、図9bに示すように、車両用表示システム7は、所定領域Dの後端に向かうほど横棒状のマークMの幅を太く表示するのが好ましい。これにより、歩行者71,他車両72は、棒の太さに応じて他者に車両との距離感を知ることができる。
【0052】
なお、この実施例では、歩行者71の位置に応じて,すなわち歩行者71が図9aに示す走行車線CRを横断する横断歩行者71cなのか走行車線CRに沿って歩行する直線路歩行者71aなのかに応じて、マークMの表示速度を変えてもよい。車両用表示システム7は、横断歩行者71cに対しては、気づかせやすくするために、直線路歩行者71aに対するものよりも表示速度を早くして表示する。一方、直線路歩行者71aに対しては、横断歩行者71cに対するものと同じ速度で表示すると過度の圧迫感を与え不要な注意を引き起こすおそれがあるため、横断歩行者71cの歩行速度に応じた表示速度で表示する。
【実施例3】
【0053】
図10は車両用表示システム7による第3の実施例を説明する図である。この実施例では、図10に示すように、所定領域Dは、交差点検出部57により検出された交差点73に円形状に設定されている。この場合の所定領域Dの範囲も、固定的または変動的に設定されてよい。車両用表示システム7は、交差点73を検出したとき、所定領域D内に渦巻き状のマークMを表示する。そして、走査領域SAのスキャンを順次繰り返すことにより、このマークMを、所定領域Dの領域中心DOから領域側方DSに向けて這い出すように旋回させて表示する。なお、他の実施例では動的なマークMは車両Cとともに進行してよいが、本実施例では、動的なマークMは車両Cの進行に伴わず交差点73に固定的に表示されるよう設定されてもよい。
【0054】
この実施例によっても、歩行者71,他車両72と車両Cが接近するおそれがある状況で、渦巻き状のマークMが動的に旋回して表示されることにより、歩行者71,他車両72(の運転者)に対しては、静的な表示よりも視覚的注意を引き、車両Cの接近に気づきやすくすることができる。同時に、車両Cの運転者に対しては、断続的な表示となるため、運転中の煩わしさを低減することができる。また、渦巻き状のマークMが旋回する表示であるため、多少の描画の歪みが生じていても、それによって注意喚起の効果が低下することはない。なお、マークMは、他には波紋、放射状のマークであってもよい。
【0055】
(他の変形例)
なお、車両用表示システム7は、所定領域D内の運転者が注視する範囲内において、レーザ光源制御部54によりレーザ光源ユニット10の照射強度を弱めるか走査機構11の走査速度を速くして、ヘッドランプ(光源ユニット5,6)の配光と比較してマークMがやや相対的明部となるように光量を調整し、輝度の差を低減させるように制御することが好ましい。ヘッドランプ(光源ユニット5,6)の配光とマークMとのコントラストを意図的に低減させることで、車両Cの運転者の違和感がいっそう低減できるとともに、歩行者71や他車両72(の運転者)にはマークMがより複雑に制御されているように見えるので、いっそう早い気づきを与えることができるため、注意喚起の効果を高めることができる。
【0056】
以上の動的な表示の実施例および変形例は本発明の一例であり、各実施例および各変形例を当業者の知識に基づいて組み合わせることも可能であり、そのような動的な表示の形態は本発明の範囲に含まれる。
【0057】
なお、マークMを動的に表示する車両用表示システム7は、表示手段8としてレーザ光を走査する機構を採用しているが、これ以外にも、例えば、光源光をマークMの形状の光透過孔を有する揺動機構に対して照射してマークMを機械駆動的に揺動させる構成や、複数光源を順次点灯させる構成が採られてもよい。
【符号の説明】
【0058】
1 車両用前照灯
7 車両用表示システム
8 表示手段
9 制御装置
56 他者検出部
57 交差点検出部
71 歩行者
72 他車両
73 交差点
C 車両
CR 走行車線(路面)
D 所定領域
M 所定形状のマーク
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10