特許第6434801号(P6434801)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6434801
(24)【登録日】2018年11月16日
(45)【発行日】2018年12月5日
(54)【発明の名称】タイヤ加硫用金型
(51)【国際特許分類】
   B29C 33/02 20060101AFI20181126BHJP
   B29C 35/02 20060101ALI20181126BHJP
   B29L 30/00 20060101ALN20181126BHJP
【FI】
   B29C33/02
   B29C35/02
   B29L30:00
【請求項の数】2
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2014-255900(P2014-255900)
(22)【出願日】2014年12月18日
(65)【公開番号】特開2016-112865(P2016-112865A)
(43)【公開日】2016年6月23日
【審査請求日】2017年10月31日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104134
【弁理士】
【氏名又は名称】住友 慎太郎
(72)【発明者】
【氏名】田中 尚
【審査官】 田代 吉成
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−144414(JP,A)
【文献】 特開2010−76344(JP,A)
【文献】 特開2015−136835(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 33/02
B29C 35/02
B29L 30/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄系金属からなりかつタイヤ軸方向両側に配されるサイドウォール形成用の一対のサイドモールドと、アルミ系金属からなりかつ環状に配置される複数のセグメントからなるトレッド形成用のトレッドモールドとを具え、
各前記サイドモールドの半径方向外端の第1の突合わせ部と、前記セグメントのタイヤ軸方向両側かつ半径方向内端の第2の突合わせ部とを互いに突き合わせた金型閉状態にてタイヤの加硫成形を行うタイヤ加硫用金型であって、
前記第1の突合わせ部は、タイヤ軸心と同心な円筒面をなす第1の突合わせ面を具え、かつ第2の突合わせ部は、タイヤ軸心と同心な円筒面の一部をなしかつ前記第1の突合わせ面に突き合わされる第2の突合わせ面を具えるとともに、
前記第1の突合わせ面の常温である基準温度Taにおける半径R1aは、前記第2の突合わせ面の基準温度Taにおける半径R2aよりも大であることを特徴とするタイヤ加硫用金型。
【請求項2】
前記サイドモールドの熱膨張係数をα1、前記セグメントの熱膨張係数をα2、前記基準温度Taから加硫温度Tbまでの上昇温度をΔTとするとき、前記半径R1a、R2aは、下記式(1)を充足することを特徴とする請求項1記載のタイヤ加硫用金型。
0.998≦{R2a×(1+α2×ΔT)}/{R1a×(1+α1×ΔT)}≦1.002 −−−(1)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セグメントの耐久性を向上させたタイヤ加硫用金型に関する。
【背景技術】
【0002】
図5(A)、(B)に示すように、タイヤ加硫用金型aは、タイヤ軸方向両側に配されるサイドウォール形成用の一対のサイドモールドbと、環状に配置される複数のセグメントc1からなるトレッド形成用のトレッドモールドcとを具える。そして、各前記サイドモールドbの半径方向外端の第1の突合わせ面sbと、前記セグメントc1のタイヤ軸方向両側かつ半径方向内端の第2の突合わせ面scとを互いに突き合わせた金型閉状態Yにてタイヤの加硫成形が行われる(特許文献1参照。)。
【0003】
このとき、図6に示すように、従来の第1、第2の突合わせ面sb、scは、常温時において互いに同径をなすように形成されている。
【0004】
他方、タイヤ加硫用金型aにおいて、サイドモールドbは、マーキング等のデザイン加工が施されるため、ショットブラスト等の金型クリーニングによってもデザインが摩滅しないように、硬質の鉄系金属(例えばSS400)にて形成される。これに対してセグメントc1は、鋳造・切削等の金型製作工程での加工性を考慮して軟質のアルミ系金属(例えばAC4)にて形成されている。
【0005】
しかしタイヤ加硫用金型aは、加硫時、例えば160〜190℃の加硫温度まで加熱される。そのため、サイドモールドb(鉄系金属)とセグメントc1(アルミ系金属)との熱膨張率の違いにより、第1、第2の突合わせ面sb、scの半径rb、rcは、常温時に同じであっても、加硫温度時には、図7(A)に誇張して示すように、第2の突合わせ面scの半径rc1が、第1の突合わせ面sbの半径rb1よりも大となる。
【0006】
その結果、図7(B)に誇張して示すように、加硫温度時の金型閉状態Yにおいて、前記半径差に起因して、第1、第2の突合わせ面sb、sc間の接触圧が不均一となる。そして、接触圧の高い部位Qを起点としてセグメントc1が変形するなど、セグメントc1の耐久性が低下するという問題が生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2013−144414号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで発明は、第1の突合わせ面の常温での半径を、第2の突合わせ面の常温での半径よりも大とすることを基本として、加硫時の突合わせ面間の接触圧の不均一を緩和でき、セグメントの耐久性を向上しうるタイヤ加硫用金型を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、鉄系金属からなりかつタイヤ軸方向両側に配されるサイドウォール形成用の一対のサイドモールドと、アルミ系金属からなりかつ環状に配置される複数のセグメントからなるトレッド形成用のトレッドモールドとを具え、
各前記サイドモールドの半径方向外端の第1の突合わせ部と、前記セグメントのタイヤ軸方向両側かつ半径方向内端の第2の突合わせ部とを互いに突き合わせた金型閉状態にてタイヤの加硫成形を行うタイヤ加硫用金型であって、
前記第1の突合わせ部は、タイヤ軸心と同心な円筒面をなす第1の突合わせ面を具え、かつ第2の突合わせ部は、タイヤ軸心と同心な円筒面の一部をなしかつ前記第1の突合わせ面に突き合わされる第2の突合わせ面を具えるとともに、
前記第1の突合わせ面の常温である基準温度Taにおける半径R1aは、前記第2の突合わせ面の基準温度Taにおける半径R2aよりも大であることを特徴としている。
【0010】
本発明に係る前記タイヤ加硫用金型では、前記サイドモールドの熱膨張係数をα1、前記セグメントの熱膨張係数をα2、前記基準温度Taから加硫温度Tbまでの上昇温度をΔTとするとき、
前記半径R1a、R2aは、下記式(1)を充足することが好ましい。
0.998≦{R2a×(1+α2×ΔT)}/{R1a×(1+α1×ΔT)}≦1.002 −−−(1)
【発明の効果】
【0011】
本発明は叙上の如く、常温時において、第1の突合わせ面の半径を、第2の突合わせ面の半径よりも大に設定している。そのため、加硫温度時においては、第1の突合わせ面と第2の突合わせ面との半径差を減じることが可能になる。
【0012】
これにより、加硫温度時において、第1の突合わせ面と第2の突合わせ面との接触面積が増加する。その結果、第1、第2の突合わせ面間の接触圧の不均一を緩和でき、セグメントの耐久性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】(A)、(B)は本発明のタイヤ加硫用金型の作動状態を示す断面図である。
図2】その一部を示す斜視図である。
図3】サイドモールド及びセグメントを概念的に示す部分斜視図である。
図4】(A)は基準温度(常温)時における第1、第2の突合わせ面の突き合わせ状態を示す断面図、(B)は加硫温度時における第1、第2の突合わせ面の突き合わせ状態を示す断面図である。
図5】(A)、(B)は従来のタイヤ加硫用金型を示す断面図である。
図6】従来の突合わせ面を示す断面図である。
図7】(A)、(B)は従来の突合わせ面による問題点を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
図1に示すように、本実施形態のタイヤ加硫用金型1は、タイヤ軸方向両側に配されるサイドウォール形成用の一対のサイドモールド2と、環状に配置される複数(n個)のセグメント3からなるトレッド形成用のトレッドモールド4とを具える。
【0015】
タイヤ加硫用金型1では、各前記サイドモールド2の半径方向外端の第1の突合わせ部5と、各前記セグメント3のタイヤ軸方向両側かつ半径方向内端の第2の突合わせ部6とを互いに突き合わせた金型閉状態YにてタイヤTの加硫成形が行われる。
【0016】
前記サイドモールド2は、タイヤTのサイドウォールを成形するサイドウォール成形面2Sを具え、トレッドモールド4は、タイヤTのトレッドを成形するトレッド成形面4Sを具える。なお従来と同様、サイドモールド2は鉄系金属から形成され、またトレッドモールド4はアルミ系金属から形成される。鉄系金属として、例えば純鉄、鋼、ステンレスなどが挙げられる。またアルミ系金属として、例えば純アルミ、アルミ合金(例えばAl-Cu系合金、Al-Mn系合金、Al-Mg系合金、Al-Zn系合金等)が挙げられる。
【0017】
図中において、符号10Uは、上のサイドモールド2を取付ける昇降可能な上部プレートであって、例えばヒータ内蔵の上のプラテン板11U、又はこの上のプラテン板11Uを固定するプレス機の昇降台12等に、例えばシリンダなどの周知の昇降手段(図示しない)を介して昇降自在に支持される。
【0018】
又符号10Lは、下のサイドモールド2を支持する下部プレートであって、例えばプレス台(図示しない)に固定の下のプラテン板11Lに取付けられる。又符号13は、各1個のセグメント3が交換自在に取付くトレッドセクターである。このトレッドセクター13は、環状のアクチェータ14の下降に伴い、セグメント3とともに半径方向内方に移動し、前記第1、第2の突合わせ部5、6が互いに突き合わされることにより金型閉状態Yとなる。
【0019】
図3は、サイドモールド2の一部、及びセグメント3の一部が示される斜視図であり、第1、第2の突合わせ部5、6が明瞭に示されるように、サイドモールド2とセグメント3とは視点の位置を違えて図示される。同図に示されるように、前記第1の突合わせ部5は、タイヤ軸心と同心な円筒面をなす第1の突合わせ面20を具える。この第1の突合わせ面20は、そのタイヤ軸方向内縁20eにて、前記サイドウォール成形面2Sと接続する。
【0020】
又第2の突き合わせ部6は、タイヤ軸心と同心な円筒面の一部をなす第2の突合わせ面22を具え、各第2の突合わせ面22が協働して前記円筒面を構成する。また第2の突合わせ面22は、金型閉状態Yにおいて、第1の突合わせ面20に突き合わされる。なお第2の突合わせ面22は、そのタイヤ軸方向内縁22eにて、前記トレッド成形面4Sと接続する。
【0021】
そして図4(A)に誇張して示すように、常温である基準温度Taにおいて、第1の突合わせ面20の半径R1aは、前記第2の突合わせ面22の半径R2aよりも大に設定されている。なお基準温度Taとして、25℃が採用される。
【0022】
この基準温度Ta時(常温時)において、第1、第2の突合わせ面20、22を突き合わせた時(即ち、金型閉状態Yの時)には、同図に示されるように、R1a>R2a であることにより、第2の突合わせ面22は、その周方向両端側の接触圧が、周方向中央側の接触圧よりも大となる。即ち、接触圧は不均一化する。しかしこの段階では、金型温度が低く熱膨張していないため、サイドモールド2とセグメント3との間の締め付け力自体小さい。即ち、接触圧の差自体小となるため、セグメント3の耐久性は維持される。なお基準温度Ta時における金型閉状態Yにおいては、周方向で隣り合うセグメント3の周方向端面間には、熱膨張を想定した間隙G1が予め形成される。
【0023】
これに対して、図4(B)に誇張して示すように、加硫温度Tb時においては、サイドモールド2とセグメント3とが大きく熱膨張する。このとき、サイドモールド2(鉄系金属)とセグメント3(アルミ系金属)との熱膨張率の違いにより、第2の突合わせ面22の半径の増加率量Δr2は、第1の突合わせ面20の半径の増加率量Δr1よりも大となる。従って前述の如く、R1a>R2a と設定することで、加硫温度Tb時における第2の突合わせ面22の半径R2bと第1の突合わせ面20の半径R1bとの差|R2b−R1b|を減じることが可能になる。
【0024】
これにより、加硫温度Tb時において、第1の突合わせ面20と第2の突合わせ面22との接触面積が増加する。その結果、第1、第2の突合わせ面20、22間の接触圧の不均一を緩和でき、セグメントの耐久性を向上させることができる。
【0025】
ここで、セグメント3の耐久性の向上効果を高く発揮させるためには、前記半径R1a、R2aが下記式(1)を充足することが好ましい。式(1)において、α1はサイドモールド2の熱膨張係数、α2はセグメント3の熱膨張係数、ΔTは基準温度Taから加硫温度Tbまでの上昇温度を示す。
0.998≦{R2a×(1+α2×ΔT)}/{R1a×(1+α1×ΔT)}≦1.002 −−−(1)
【0026】
式中の{R2a×(1+α2×ΔT)}は、加硫温度Tb時における第2の突合わせ面22の半径R2bに相当する。また{R1a×(1+α1×ΔT)}は、加硫温度Tb時における第1の突合わせ面10の半径R1bに相当する。従って、前記式(1)により、加硫温度Tb時における第2の突合わせ面22の半径R2bと第1の突合わせ面20の半径R1bとの差|R2b−R1b|を0に近づけることができる。{R2a×(1+α2×ΔT)}/{R1a×(1+α1×ΔT)}が0.998を下回る、或いは1.002を上回る場合には、差|R2b−R1b|が大きくなって、前記耐久性の向上効果を高く発揮することが難しくなる。なお上昇温度ΔTとして160℃が採用される。
【0027】
以上、本発明の特に好ましい実施形態について詳述したが、本発明は図示の実施形態に限定されることなく、種々の態様に変形して実施しうる。
【実施例】
【0028】
図1に示す構造のタイヤ加硫用金型を表1の仕様に基づいて試作し、セグメントにおける耐久性についてテストした。金型は、タイヤサイズ195/65R15の乗用車用タイヤの金型であり、各金型とも、突合わせ面の半径のみ相違し、それ以外は実質的に同仕様である。表1では、
F={R2a×(1+α2×ΔT)}/{R1a×(1+α1×ΔT)}
としてFの値を変化させている。
【0029】
サイドモールドは、鉄系金属(SS400)からなり、その熱膨張係数α1は1.15×10−5(単位/K)、セグメントはアルミ系金属(AC4)からなり、その熱膨張係数α2は2.24×10−5(単位/K)である。また各金型とも、第1の突合わせ面の基準温度Taにおける半径R1aは298mmで同一であり、第2の突合わせ面の半径R2aのみ変化させることにより、下記式(2)のFの値を相違させている。なお、前記基準温度Taは25℃であり、加硫温度Tbは185℃(即ち、上昇温度ΔT=160℃)である。
【0030】
耐久性は、各金型において、タイヤを1000本加硫するごとに、セグメントの突合わせ面の形状を測定し、CAD3次元モデルと比較した。そして、各セグメントについて、それぞれ突合わせ面の変形(変位量)が最も大きかった箇所を測定し、その変形の平均値によって評価した。数値が小さい方が変形が少なく、セグメントの耐久性に優れている。
【0031】
【表1】
【符号の説明】
【0032】
1 タイヤ加硫用金型
2 サイドモールド
3 セグメント
4 トレッドモールド
5 第1の突合わせ部
6 第2の突合わせ部
20 第1の突合わせ面
22 第2の突合わせ面
Y 金型閉状態
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7