特許第6434832号(P6434832)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6434832モータ制御装置、及びこれを用いた電動パワーステアリング装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6434832
(24)【登録日】2018年11月16日
(45)【発行日】2018年12月5日
(54)【発明の名称】モータ制御装置、及びこれを用いた電動パワーステアリング装置
(51)【国際特許分類】
   H02P 27/06 20060101AFI20181126BHJP
   B62D 5/04 20060101ALI20181126BHJP
   B62D 6/00 20060101ALI20181126BHJP
   H02P 29/024 20160101ALI20181126BHJP
   H02P 29/60 20160101ALI20181126BHJP
   B62D 101/00 20060101ALN20181126BHJP
   B62D 119/00 20060101ALN20181126BHJP
【FI】
   H02P27/06
   B62D5/04
   B62D6/00
   H02P29/024
   H02P29/60
   B62D101:00
   B62D119:00
【請求項の数】8
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-54507(P2015-54507)
(22)【出願日】2015年3月18日
(65)【公開番号】特開2016-174510(P2016-174510A)
(43)【公開日】2016年9月29日
【審査請求日】2017年9月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立オートモティブシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129425
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 護晃
(74)【代理人】
【識別番号】100087505
【弁理士】
【氏名又は名称】西山 春之
(74)【代理人】
【識別番号】100168642
【弁理士】
【氏名又は名称】関谷 充司
(72)【発明者】
【氏名】飯島 郁弥
(72)【発明者】
【氏名】小関 知延
(72)【発明者】
【氏名】矢次 富美繁
【審査官】 樋口 幸太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−091456(JP,A)
【文献】 特開2003−134795(JP,A)
【文献】 特開2014−176229(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 27/06
B62D 5/04
B62D 6/00
H02P 29/024
H02P 29/60
B62D 101/00
B62D 119/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動モータを駆動する複数系統のモータ駆動回路と、前記複数系統のモータ駆動回路を制御する制御装置とを備え、
前記制御装置は、正常時に比べて温度上昇が早い場合に、前記複数系統のモータ駆動回路から前記電動モータへ供給する各系統間の電流の分担比を変化させ、温度上昇率の差異に基づき故障を検出し、故障した系統のモータ駆動回路の電流を正常な系統のモータ駆動回路の電流より小さくなるように制御し、
前記温度上昇率の差異に基づく故障の検出は、温度上昇率の実測値と推定値との差から故障したモータ駆動回路を特定するものであり、前記温度上昇率の実測値は検出温度と所定温度の上昇に要した実測時間とから求め、前記温度上昇率の推定値は推定温度と所定温度の上昇に要する推定時間とから求める、ことを特徴とするモータ制御装置。
【請求項2】
前記温度上昇率の推定値は、前記制御装置により、前記モータ駆動回路の消費電流から発熱量を算出し、前回の温度上昇率の推定値と周囲温度とから放熱量を算出し、発熱量、放熱量及び前回の温度上昇率の推定値に基づいて算出する、ことを特徴とする請求項に記載のモータ制御装置。
【請求項3】
前記制御装置は、前記検出温度の所定値の上昇、所定時間の経過、及び前記推定温度の所定値の上昇のいずれかの成立毎に前記温度上昇率の推定値を算出する、ことを特徴とする請求項またはに記載のモータ制御装置。
【請求項4】
それぞれが電源リレー回路を有し、電動モータを駆動する複数系統のモータ駆動回路と、前記電源リレー回路の発熱による温度上昇を検出するための温度センサと、前記複数系統のモータ駆動回路を制御する制御装置とを備え、
前記制御装置は、前記温度センサから入力された温度検出信号に基づき、正常時に比べて温度上昇が早い場合に、前記複数系統のモータ駆動回路から前記電動モータへ供給する各系統間の電流の分担比を変化させ、温度上昇率の差異に基づき故障を検出し、故障した系統のモータ駆動回路の電流を正常な系統のモータ駆動回路の電流より小さくなるように制御する、ことを特徴とするモータ制御装置。
【請求項5】
前記制御装置は、各系統間の電流の分担比を変化させて温度上昇率が低下した場合に、電流を増加させた系統のモータ駆動回路により前記電動モータを駆動する、ことを特徴とする請求項1乃至いずれか1つの項に記載のモータ制御装置。
【請求項6】
前記制御装置は、各系統間の電流の分担比を変化させたときの温度上昇率の増大が所定値よりも大きい場合に、電流を増加させた系統のモータ駆動回路が故障していると判定する、ことを特徴とする請求項1乃至いずれか1つの項に記載のモータ制御装置。
【請求項7】
電動モータによって操舵力をアシストする電動パワーステアリング装置であって、
前記電動モータを駆動する複数系統のモータ駆動回路と、前記複数系統のモータ駆動回路を制御する制御装置とを備え、
前記制御装置は、正常時に比べて温度上昇が早い場合に、前記複数系統のモータ駆動回路から前記電動モータへ供給する各系統間の電流の分担比を変化させ、温度上昇率の差異に基づき故障を検出し、故障した系統のモータ駆動回路を停止させ、残りのモータ駆動回路で前記電動モータを駆動してアシストを継続し、
前記温度上昇率の差異に基づく故障の検出は、温度上昇率の実測値と推定値との差から故障したモータ駆動回路を特定するものであり、前記温度上昇率の実測値は検出温度と所定温度の上昇に要した実測時間とから求め、前記温度上昇率の推定値は推定温度と所定温度の上昇に要する推定時間とから求める、ことを特徴とする電動パワーステアリング装置。
【請求項8】
電動モータによって操舵力をアシストする電動パワーステアリング装置であって、
それぞれが電源リレー回路を有し、電動モータを駆動する複数系統のモータ駆動回路と、前記電源リレー回路の発熱による温度上昇を検出するための温度センサと、前記複数系統のモータ駆動回路を制御する制御装置とを備え、
前記制御装置は、前記温度センサから入力された温度検出信号に基づき、正常時に比べて温度上昇が早い場合に、前記複数系統のモータ駆動回路から前記電動モータへ供給する各系統間の電流の分担比を変化させ、温度上昇率の差異に基づき故障を検出し、故障した系統のモータ駆動回路を停止させ、残りのモータ駆動回路で前記電動モータを駆動してアシストを継続する、ことを特徴とする電動パワーステアリング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数系統のインバータを有するモータ制御装置、及びこれを用いた電動パワーステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、2系統のインバータを有し、大電流が通電されることによる損傷を防止する電動機駆動装置、及びこれを用いた電動パワーステアリング装置が開示されている。この特許文献1の技術では、制御部で電源リレーのショート故障を検出し、ショート故障が生じていない電源リレーを同時にオンすることで、大電流が通電されることによる電源リレーや、電子部品が実装された基板等の損傷を防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2014−45578号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1のように複数系統のインバータを有するモータ制御装置において、電源リレーが故障すると大きな電流が流れた際に異常発熱することがある。例えば、MOSFETからなる逆接保護リレーが故障してオフすると、このMOSFETのソース・ドレイン間の寄生ダイオードを介して電流が流れる。逆接保護リレーの故障時の消費電力は、場合によっては正常時の10倍以上にも達する。このため発熱量が大きくなり、過熱保護によってモータ出力が低下する、という問題がある。
【0005】
本発明は上記のような事情に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、過熱保護によるモータ出力の低下を抑制できるモータ制御装置、及びこれを用いた電動パワーステアリング装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のモータ制御装置は、電動モータを駆動する複数系統のモータ駆動回路と、前記複数系統のモータ駆動回路を制御する制御装置とを備え、前記制御装置は、正常時に比べて温度上昇が早い場合に、前記複数系統のモータ駆動回路から前記電動モータへ供給する各系統間の電流の分担比を変化させ、温度上昇率の差異に基づき故障を検出し、故障した系統のモータ駆動回路の電流を正常な系統のモータ駆動回路の電流より小さくなるように制御し、前記温度上昇率の差異に基づく故障の検出は、温度上昇率の実測値と推定値との差から故障したモータ駆動回路を特定するものであり、前記温度上昇率の実測値は検出温度と所定温度の上昇に要した実測時間とから求め、前記温度上昇率の推定値は推定温度と所定温度の上昇に要する推定時間とから求める、ことを特徴とする。
また、本発明のモータ制御装置は、それぞれが電源リレー回路を有し、電動モータを駆動する複数系統のモータ駆動回路と、前記電源リレー回路の発熱による温度上昇を検出するための温度センサと、前記複数系統のモータ駆動回路を制御する制御装置とを備え、前記制御装置は、前記温度センサから入力された温度検出信号に基づき、正常時に比べて温度上昇が早い場合に、前記複数系統のモータ駆動回路から前記電動モータへ供給する各系統間の電流の分担比を変化させ、温度上昇率の差異に基づき故障を検出し、故障した系統のモータ駆動回路の電流を正常な系統のモータ駆動回路の電流より小さくなるように制御する、ことを特徴とする。
【0007】
本発明の電動パワーステアリング装置は、電動モータによって操舵力をアシストする電動パワーステアリング装置であって、前記電動モータを駆動する複数系統のモータ駆動回路と、前記複数系統のモータ駆動回路を制御する制御装置とを備え、前記制御装置は、正常時に比べて温度上昇が早い場合に、前記複数系統のモータ駆動回路から前記電動モータへ供給する各系統間の電流の分担比を変化させ、温度上昇率の差異に基づき故障を検出し、故障した系統のモータ駆動回路を停止させ、残りのモータ駆動回路で前記電動モータを駆動してアシストを継続し、前記温度上昇率の差異に基づく故障の検出は、温度上昇率の実測値と推定値との差から故障したモータ駆動回路を特定するものであり、前記温度上昇率の実測値は検出温度と所定温度の上昇に要した実測時間とから求め、前記温度上昇率の推定値は推定温度と所定温度の上昇に要する推定時間とから求める、ことを特徴とする。
また、本発明の電動パワーステアリング装置は、電動モータによって操舵力をアシストする電動パワーステアリング装置であって、それぞれが電源リレー回路を有し、電動モータを駆動する複数系統のモータ駆動回路と、前記電源リレー回路の発熱による温度上昇を検出するための温度センサと、前記複数系統のモータ駆動回路を制御する制御装置とを備え、前記制御装置は、前記温度センサから入力された温度検出信号に基づき、正常時に比べて温度上昇が早い場合に、前記複数系統のモータ駆動回路から前記電動モータへ供給する各系統間の電流の分担比を変化させ、温度上昇率の差異に基づき故障を検出し、故障した系統のモータ駆動回路を停止させ、残りのモータ駆動回路で前記電動モータを駆動してアシストを継続する、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明では、周囲温度を監視し、正常時に比べて温度上昇が早い場合に、複数系統のモータ駆動回路から電動モータへ供給する各系統間の電流の分担比を変化させ、温度上昇率の差異に基づき故障を検出する。そして、故障した系統のモータ駆動回路を停止させることで発熱を抑制することで、過熱保護による電動モータの出力低下を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施形態に係る電動パワーステアリング装置の概略構成図である。
図2】本発明の実施形態に係るモータ制御装置の回路図である。
図3図2に示したモータ制御装置の故障検出動作を示すフローチャートである。
図4図2に示したモータ制御装置における初期状態(通常時)の通電電流値の時間変化を示す特性図である。
図5】電動モータを第1、第2系統のモータ駆動回路で駆動したときの、基板温度の変化の実測値と推定値の例を示す特性図である。
図6】第1系統のモータ駆動回路を停止させ、第2系統のモータ駆動回路を動作させたときの基板温度の変化の実測値と推定値の例を示す特性図である。
図7】第2系統のモータ駆動回路のみで動作を続行したときの基板温度の変化の実測値と推定値の例を示す特性図である。
図8】第1系統のモータ駆動回路を動作させ、第2系統のモータ駆動回路を停止させたときの基板温度の変化の実測値と推定値の例を示す特性図である。
図9】第1系統のモータ駆動回路のみで動作を続行したときの基板温度の変化の実測値と推定値の例を示す特性図である。
図10】本発明の変形例3について説明するためのもので、第1系統の通電電流を増大させ、第2系統の通電電流を減少させた場合のシステムトータルの通電電流値の時間変化を示す特性図である。
図11】本発明の変形例4について説明するためのもので、最初に第1系統の通電電流のみで駆動し、続いて第2系統も用いて駆動する場合のシステムトータルの通電電流値と要求出力との関係を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
図1は、本発明の実施形態に係るEPS装置の概略構成を示しており、この装置はステアリングホイール10、操舵トルク検出センサ11、アシスト用の電動モータ12及びモータ制御装置13などを含んで構成されている。また、ステアリングシャフト14を内包するステアリングコラム15内には、操舵トルク検出センサ11及び減速機16が設けられている。
【0011】
そして、運転者がステアリング操作を行う際に、ステアリングシャフト14に発生する操舵トルクを操舵トルク検出センサ11によって検出し、操舵トルク信号S1と車速信号S2などに基づいて、モータ制御装置13で電動モータ12を駆動制御することにより、電動モータ12から車両の走行状態に応じたステアリングアシスト力を発生させる。これによって、ステアリングシャフト14の先端に設けられたピニオンギア17が回転すると、ラック軸18が進行方向左右に水平移動することで、運転者のステアリング操作が車輪(タイヤ)20に伝達されて車両の向きを変える。
【0012】
次に、図1に示したEPS装置に用いられる、本発明の実施形態に係るモータ制御装置について図2により詳しく説明する。電動モータ12は、3相モータであり第1系統のU相コイル、V相コイル及びW相コイルと、第2系統のU相コイル、V相コイル及びW相コイルとを備え、それぞれが第1系統のモータ駆動回路21aと第2系統のモータ駆動回路21bで個別に駆動可能に構成されている。モータ駆動回路21aは、インバータ22a、このインバータ22aのドライバ23a、コンデンサ24a、電源リレー回路25a及びこの電源リレー回路25aのドライバ26aなどを含んで構成される。また、モータ駆動回路21bも同様であり、インバータ22b、このインバータ22bのドライバ23b、コンデンサ24b、電源リレー回路25b及びこの電源リレー回路25bのドライバ26bなどを含んで構成される。両モータ駆動回路21a,21bは、制御装置として働くマイクロコンピュータ(CPU)27によって制御される。
【0013】
インバータ22aは、駆動ライン28U,28V,28Wを介して電動モータ12のU相,V相及びW相をそれぞれ相毎に駆動する3組のスイッチング素子を備えた3相ブリッジ回路構成である。本例では、各スイッチング素子がNチャネル型MOSFET31〜36で構成されている。
【0014】
MOSFET31,32は、電源ライン37aと電流検出抵抗38aの一端間にドレイン・ソース間が直列接続され、共通接続点に駆動ライン28Uの一端が接続される。MOSFET33,34は、電源ライン37aと電流検出抵抗38aの一端間にドレイン・ソース間が直列接続され、共通接続点に駆動ライン28Vの一端が接続される。また、MOSFET35,36は、電源ライン37aと電流検出抵抗38aの一端間にドレイン・ソース間が直列接続され、共通接続点に駆動ライン28Wの一端が接続されている。電流検出抵抗38aの他端は接地され、インバータ22aを流れる電流を検出してマイクロコンピュータ27に検出信号S3を供給する。
ここで、各MOSFET31〜36におけるソース・ドレイン間に順方向に接続されているダイオードD1〜D6は寄生ダイオードである。
【0015】
電源ライン37aは、電源リレー回路25aを介してバッテリBAに接続される。電源ライン37aと接地点間には、コンデンサ24aが接続されている。コンデンサ24aは、バッテリBAからインバータ22aへの電力供給を補助するとともに、サージ電流などのノイズ成分を除去する。電源リレー回路25aは、電源リレー及び逆接保護リレーとして働くNチャネル型MOSFET39,40のドレイン・ソース間が直列接続されて構成される。電源リレーに寄生ダイオードD13を有するMOSFET39を用いると、電源(バッテリBA)の極性を誤って接続した場合に回路が破壊される虞がある。そこで、回路を保護するために、寄生ダイオードD13,D14の向きが反対となるように逆接保護リレー(MOSFET40)を設けている。
【0016】
ドライバ23aは、インバータ22aにおける上流側駆動素子(上アーム)であるMOSFET31,33,35にそれぞれ対応するH側ドライバ部と、下流側駆動素子(下アーム)であるMOSFET32,34,36にそれぞれ対応するL側ドライバ部を備えている。各H側ドライバ部の出力端にはそれぞれ、MOSFET31,33,35のゲートが接続され、マイクロコンピュータ27により選択的にオン/オフ制御され、各L側ドライバ部の出力端にはそれぞれ、MOSFET32,34,36のゲートが接続され、マイクロコンピュータ27により選択的にオン/オフ制御される。更に、ドライバ26aの出力端には、電源リレー回路25aにおけるMOSFET39,40のゲートが接続され、マイクロコンピュータ27により選択的にオン/オフ制御される。
【0017】
インバータ22bは、インバータ22aと同一回路構成であり、駆動ライン29U,29V,29Wを介して電動モータ12のU相,V相及びW相をそれぞれ相毎に駆動する3組のスイッチング素子を備えた3相ブリッジ回路構成である。本例では、各スイッチング素子がNチャネル型MOSFET41〜46で構成されている。
【0018】
MOSFET41,42は、電源ライン37bと電流検出抵抗38bの一端間にドレイン・ソース間が直列接続され、共通接続点に駆動ライン29Uの一端が接続される。MOSFET43,44は、電源ライン37bと電流検出抵抗38bの一端間にドレイン・ソース間が直列接続され、共通接続点に駆動ライン29Vの一端が接続される。また、MOSFET45,46は、電源ライン37bと電流検出抵抗38bの一端間にドレイン・ソース間が直列接続され、共通接続点に駆動ライン29Wの一端が接続されている。電流検出抵抗38bの他端は接地され、インバータ22bを流れる電流を検出してマイクロコンピュータ27に検出信号S4を供給する。
ここで、各MOSFET41〜46におけるソース・ドレイン間に順方向に接続されているダイオードD7〜D12は寄生ダイオードである。
【0019】
電源ライン37bは、電源リレー回路25bを介してバッテリBAに接続される。電源ライン37bと接地点間には、コンデンサ24bが接続されている。コンデンサ24bは、バッテリBAからインバータ22aへの電力供給を補助するとともに、サージ電流などのノイズ成分を除去する。電源リレー回路25bは、電源リレー及び逆接保護リレーとして働くNチャネル型MOSFET49,50のドレイン・ソース間が直列接続されて構成される。電源リレーに寄生ダイオードD15を有するMOSFET49を用いると、電源(バッテリBA)の極性を誤って接続した場合に回路が破壊される虞がある。そこで、回路を保護するために、寄生ダイオードD15,D16の向きが反対となるように逆接保護リレー(MOSFET50)を設けている。
【0020】
ドライバ23bは、インバータ22bにおける上流側駆動素子(上アーム)であるMOSFET41,43,45にそれぞれ対応するH側ドライバ部と、下流側駆動素子(下アーム)であるMOSFET42,44,46にそれぞれ対応するL側ドライバ部を備えている。各H側ドライバ部の出力端にはそれぞれ、MOSFET41,43,45のゲートが接続されてマイクロコンピュータ27により選択的にオン/オフ制御され、各L側ドライバ部の出力端にはそれぞれ、MOSFET42,44,46のゲートが接続されてマイクロコンピュータ27により選択的にオン/オフ制御される。更に、ドライバ26bの出力端には、電源リレー回路25bにおけるMOSFET49,50のゲートが接続され、マイクロコンピュータ27により選択的にオン/オフ制御される。
【0021】
マイクロコンピュータ27には、操舵トルク信号S1、車速信号S2、電流検出抵抗38a,38bの検出信号S3,S4及び温度センサ(サーミスタ)51による温度検出信号S5などが入力され、モータ駆動回路21a,21bを制御して電動モータ12を駆動することにより、電動モータ12から車両の走行状態に応じたステアリングアシスト力を発生させる。温度センサ51は、例えば電源リレー回路25a,25bにおけるMOSFET40,50が実装される基板と同一の基板上に設けられ、基板温度を検出するようになっている。
【0022】
次に、上記図2に示したモータ制御装置の故障検出動作を図3乃至図9により説明する。図3のフローチャートに示す故障検出動作は、所定の時間間隔(例えばmsec単位)で起動されて実行される。
初期状態(通常時)には、電動モータ12は複数系統のモータ駆動回路、本例では図4に示すように第1系統のモータ駆動回路21aと第2系統のモータ駆動回路21bから通電電流が供給され、これらの電流を加算したシステムトータルの通電電流値で駆動されている。
【0023】
第1、第2のモータ駆動回路21a,21bを用いる通常アシスト状態では、マイクロコンピュータ27は、ドライバ23a,23bに、例えばパルス幅変調信号(PWM信号)を出力する。また、ドライバ26a,26bに、電源リレー回路25a,25bをオンさせる信号を出力する。ドライバ23a,23b中の各H側ドライバとL側ドライバはそれぞれ、PWM信号に基づいて、インバータ22a,22b中の各MOSFET31〜36,41〜46のゲートにそれぞれPWM信号に基づく駆動信号を供給して選択的にオン/オフ制御する。
【0024】
そして、電動モータ12を駆動ライン28U,28V,28Wを介してモータ駆動回路21aで3相駆動するとともに、駆動ライン29U,29V,29Wを介してモータ駆動回路21bで3相駆動する。この際、必要に応じてPWM信号のデューティを可変し、電動モータ12の出力トルクを制御することでアシスト力を変化させる。
【0025】
マイクロコンピュータ27は、基板温度(あるいは周囲温度)を監視しており、正常時に比べて温度上昇が早い場合に、第1、第2系統のモータ駆動回路21a,21bから電動モータ12へ供給する各系統間の電流の分担比を変化させ、温度上昇率の差異に基づき故障を検出する。この際、マイクロコンピュータ27は、温度上昇率の実測値と推定値との差から故障したモータ駆動回路21a,21bを特定する。温度上昇率の実測値は検出温度と所定温度の上昇に要した実測時間とから求め、温度上昇率の推定値は推定温度と所定温度の上昇に要する推定時間とから求めることができる。
【0026】
すなわち、マイクロコンピュータ27は、温度センサ51から入力された温度検出信号S5に基づき、基板温度の上昇率(実測値)ΔTが、推定値Δtよりも所定値(X%以上)高いか否かを判定する(ST1)。ここで、推定値Δtは、前回取得した過去の推定値Δt’に対して、例えば下式のように求める。
Δt=KI−J(Δt’−T)+Δt’
上式において、Kは発熱量係数、Iは通電電流、Jは放熱量係数、Tは基準温度(周囲温度)である。
【0027】
正常動作であれば、実測値ΔTと推定値Δtは、時間の経過とともにほぼ等しい上昇率で徐々に上昇する。しかし、故障により発熱していると、図5に示すように、破線で示す推定値Δtの温度変化に対し、実線で示す基板温度の上昇率(実測値)ΔTが大きくなる。上昇率が所定値X%以上高い場合、例えば推定値Δt+10%を超えている場合には、マイクロコンピュータ27の制御により第1系統のモータ駆動回路21aの動作を停止させる(ST2)。所定値X%以上高くなければ、発熱はしていないので故障はしていないと判定して検出動作を終了する。
【0028】
ここで、実測値ΔTと推定値Δtの温度上昇の基点は、下記(1)〜(3)のいずれかとする。
(1)検出温度の所定値の上昇(例えば基板温度が5℃上昇)
(2)所定時間の経過(例えば10sec経過)
(3)推定温度の所定値の上昇(例えば基板温度の推定値が2℃上昇)
そして、上記(1)〜(3)のいずれかが成立する毎に値をクリアし、その時点からの温度上昇率を実測値ΔTと推定値Δtで比較することとする。
【0029】
次のステップST3では、再び基板温度の上昇率が(実測値)ΔTが、推定値Δtよりも所定値(X%以上)高いか否かを判定する。図6に実線で示すように実測値ΔTが急上昇し、基板温度の上昇率がX%以上高くなった場合には、第2系統のモータ駆動回路21bの電源リレー回路25b、例えば逆接保護リレー50が故障して発熱している可能性がある。よって、第1系統のモータ駆動回路21aのみで電動モータ12を駆動し、第2系統のモータ駆動回路21bを停止させる(ST4)。
【0030】
一方、上昇率がX%以上高くない場合には、図7に示すように、実測値と推定値がほぼ等しい上昇率で徐々に上昇していく。この場合には、第1系統のモータ駆動回路21aの電源リレー回路25a、例えば逆接保護リレー40が故障して発熱していると判定して第2系統のモータ駆動回路21bのみで電動モータ12を駆動する動作を続行する(ST5)。これによって、発熱量が小さくなり、過熱保護は行われないので、モータ出力の低下を抑制できる。
【0031】
ステップST6では、基板温度の上昇率(実測値)ΔTが推定値Δtよりも所定値(X%)以上高いか否かを判定する。図8に示すように、基板温度の上昇率が、図6と同様に高くなった場合には、発熱の原因は電源リレー回路以外にあると推定されるので、第1系統のモータ駆動回路21aと第2系統のモータ駆動回路21bの両方で電動モータ12を駆動する(ST7)。そして、他の故障検出方法で発熱の原因を調べる。
【0032】
一方、ステップST6で、基板温度の上昇率(実測値)ΔTが推定値Δtよりも所定値(X%)以上高くない場合には、第1系統のモータ駆動回路21aのみで電動モータ12を駆動する動作を続行する(ST8)。この場合には、図9に示すように、実測値と推定値がほぼ同様な上昇率で徐々に上昇していく。第2系統のモータ駆動回路21bの電源リレー回路25b、例えば逆接保護リレー50が故障して発熱していると判定して、第1系統のモータ駆動回路21aのみで電動モータ12を駆動する動作を続行する(ST8)。これによって、発熱量が小さくなり、過熱保護は行われないので、モータ出力の低下を抑制できる。
【0033】
上記のような構成と動作によれば、2系統のモータ駆動回路を有するモータ駆動装置、及びこれを用いたEPS装置において、一方のモータ駆動回路中の電源リレー回路が故障した際に、異常を検知して故障部品による周囲温度の上昇を抑えることができる。これによって、過熱保護によるモータ出力の異常低下を抑制して安全性を向上できる。
【0034】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、要旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することが可能である。
[変形例1]
例えば、上述した実施形態では、2系統のモータ駆動回路で電動モータを駆動する場合について説明したが、同様にして3系統以上のモータ駆動回路で電動モータを駆動するモータ制御装置にも適用できるのはもちろんである。
【0035】
[変形例2]
モータ制御装置をEPS装置に適用する場合を例に取って説明したが、EPS装置に限らず、複数系統のモータ駆動回路で電動モータを駆動する他の様々な装置やシステムに用いることができる。
【0036】
[変形例3]
また、第1系統と第2系統のモータ駆動回路21a,21bを交互に停止させて温度上昇の変化を検出したが、第1系統と第2系統のモータ駆動回路21a,21bから電動モータ12へ供給する各系統間の電流の分担比を変化させるようにしても良い。例えば図10に示すように、第1系統のモータ駆動回路21aの通電電流値(消費電流)をa0からa1に増大させ、第2系統のモータ駆動回路21bの通電電流値をa0からa2に減少させ、システムトータルの通電電流値を図9に示した通常と同じに設定し、温度の上昇率の変化から故障しているモータ駆動回路を検出しても良い。
【0037】
[変形例4]
或いは、図11に示すように、操舵トルク信号S1に応じた要求出力が50%以下の場合は第1系統のモータ駆動回路21aのみで電動モータ12を駆動し、要求出力が50%を超え、第1系統のモータ駆動回路21aのみでは出力が不足する場合には、その分だけ第2系統のモータ駆動回路21bで電動モータ12を駆動し、温度の上昇率の変化から故障しているモータ駆動回路を検出しても良い。
【0038】
このように、必ずしも一方のモータ駆動回路を完全に停止させる必要はなく、アシストが必要なときには電流の分担比を変化させて第1系統と第2系統のモータ駆動回路21a,21bで電動モータ12を駆動する。そして、温度上昇率の差異に基づき故障を検出し、故障した系統のモータ駆動回路を停止させれば良い。
【0039】
[変形例5]
更に、温度センサ51を、MOSFET40,50が実装される基板と同一の基板上に設ける例を説明したが、これらのMOSFET40,50の発熱による温度上昇を検出できれば、他の位置に設けても良く、予め設けられている温度センサの検出信号を流用しても良い。MOSFET40,50の発熱は、温度の直接的または間接的な測定だけでなく、電源ライン37a,37bを流れる電流値から推定することもできる。
【0040】
[変形例6]
更にまた、電源リレー回路25a,25bが、寄生ダイオードを有するMOSFETで形成された電源リレー39,49と逆接保護リレー40,50で構成される例について説明したが、発熱する可能性があれば他の構成にも適用可能である。
【0041】
[変形例7]
また、各スイッチング素子が電界効果トランジスタを例に取ったが、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)などの他の半導体スイッチング素子でも同様に適用可能である。
【符号の説明】
【0042】
12…電動モータ、13…モータ制御装置、21a,21b…モータ駆動回路、22a,22b…インバータ、23a,23b…ドライバ、27…マイクロコンピュータ(制御装置)、25a,25b…電源リレー回路、31〜36,41〜46…MOSFET、39,49…電源リレー、40,50…逆接保護リレー、51…温度センサ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11