(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化問題から二酸化炭素排出量を削減するために、化石燃料から得られるエネルギーの割合を低減する技術への関心が益々増大しており、その1つとして未利用廃熱エネルギーを電気エネルギーに直接変換し得る熱電材料が挙げられる。
熱電材料とは、火力発電のように熱を一旦運動エネルギーに変換しそれから電気エネルギーに変換する2段階の工程を必要とせず、熱から直接に電気エネルギーに変換することを可能とする機能を有する材料である。また、このような熱電材料は、ある部位から熱を吸収して他の部位に熱を伝達する機能をも有し得る材料である。
【0003】
熱電材料が幅広く使用されるためには性能の向上および/又は生産性の高い製造方法が求められている。
一方、熱電材料の一例として、BiとTeとを含む合金熱電材料が知られている。
このため、BiとTeとを含む合金熱電材料の製造方法として、様々な検討がなされている。
例えば、特許文献1には、BiとSbとTeとを含む溶液を用いてメッキ法によりBiとSbとTeとの合金を析出させ、さらに合金を水素又は不活性ガス雰囲気中で熱処理するBi・Sb・Te化合物熱電半導体の製造方法が記載されている。
また、非特許文献1には、オートクレーブを用いて150℃、180℃あるいは210℃でBi源としてのBiCl
3とTeとNaOHおよび還元剤としてのNaBH
4を含む水溶液を混合してナノ構造のBi
2Te
3を得た例が、XRD、TEM等の測定結果とともに示されている。
【0004】
しかし、これら公知のBiとTeとを含む熱電材料の製造方法によっては、得られる熱電材料が膜状に限定されるあるいは100℃より高い高温・耐圧容器を用いた反応が必要であり生産性が低く、高い生産性でBiとTeとを含む合金粒子を製造することは困難であった。
【発明を実施するための形態】
【0011】
特に、本発明において、以下の実施態様を挙げることができる。
1) 前記アルカリ性に調整する工程が、前記反応水溶液に強塩基を添加してpH>7に調整してなされる前記の製造方法。
2) 前記温度が、70℃以上である前記の製造方法。
【0012】
本発明は、Bi源と該Bi源と錯体を形成する第1錯化剤とを含む第1水溶液を用意する工程、
Te源と該Te源と錯体を形成する第2錯化剤とを含む第2水溶液を用意する工程、
アスコルビン酸を含む第3水溶液を用意する工程、
前記第1水溶液と、前記第2水溶液と、前記第3水溶液とを混合した反応水溶液がアルカリ性になるように調整する工程、および
得られたアルカリ性反応水溶液を100℃以下の温度で加熱する工程、
を含むことによって、粒子中のBi原子とTe原子とが少なくとも部分的に合金化している結晶性のBiとTeとを含む合金粒子を得ることが可能である。
【0013】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を詳説する。
本発明の実施態様によれば、
図1に示すように、原料液を混合後、水溶媒中、一段反応にて100℃以下の低温・常圧により、粒子中のBi原子とTe原子とが少なくとも部分的に合金化している結晶性のBiとTeとを含む合金粒子を得ることが可能である。
本発明の実施態様による実施例で得られたBiとTeとを含む合金粒子は、後述の実施例の欄に詳述する各測定法により測定して、
図2に示すXRD測定結果から既知材料のBi
2Te
3との比較でピークの位置および強度が一致することからBi
2Te
3相の結晶構造が確認でき、且つXPS(X線光電子分光)測定結果から157.2eV、162.6eV、572.5eVおよび582.5eVにBi
2Te
3の結合エネルギーに基づくピークが確認され、
図3に示すTEM像および
図4に示すHRTEM像からナノ粒子であることが確認される、結晶性のBi
2Te
3合金ナノ粒子である。
【0014】
本発明の実施態様により粒子中のBi原子とTe原子とが少なくとも部分的に合金化している結晶性のBiとTeとを含む合金粒子を得ることが可能である理論的な解明は十分にはなされていないが、次のように考えることができる。
すなわち、Bi源錯体を含む第1水溶液、Te源錯体を含む第2水溶液およびアスコルビン酸を含む第3水溶液を混合した反応水溶液がアルカリ性に調整されると、反応水溶液がアルカリ性、例えばpH10ではアスコルビン酸はSHE(標準電極電位)が−0.2V程度であって還元力が弱いため、両金属錯体の還元反応速度が低く且つ略等しく制御されることにより、酸化物の生成が防止乃至は抑制されて均質性の高い結晶性を有するBiとTeとを含む合金粒子が合成され得ることによると考えられる。
【0015】
これに対して、還元剤として一般的に用いられるNaBH
4を用いたのでは、混合水溶液がアルカリ性、例えばpH10ではNaBH
4はSHE(標準電極電位)が−1.0Vであって還元力が強いため、均質な合金形成を行うことが困難である。
一方、均質な合金形成を行うために、反応系全体の反応速度を著しく増加させて両金属前駆体の還元速度を等しくすると、生成した粒子はアモルファスなものとなる。
また、Bi源およびTe源として両金属の錯体を用いないと、100℃以下の温度に常圧で加熱するという温和な条件ではBiとTeとを含む合金粒子を得ることが困難である。
さらに、前記のBi源錯体を含む第1水溶液と、Te源錯体を含む第2水溶液と、アスコルビン酸を含む第3水溶液とを混合した反応水溶液を用いても、反応水溶液がアルカリ性に調整されていないと、加熱しても原料のBi源錯体を含む水溶液の均一な溶解が困難であり、前記の結晶性のBiとTeとを含む合金粒子を得ることができない。
【0016】
本発明の実施態様においては、Bi源と該Bi源と錯体を形成する第1錯化剤とを含む第1水溶液を用意する。
前記のBi源としては、Biの塩、例えばBiのハロゲン化物、例えば塩化物、フッ化物、臭素化物、好適にはBiCl
3や、硫酸塩、硝酸塩、好適にはBi(NO
3)
3・5H
2O(硝酸ビスマス(III)五水和物)が挙げられる。
前記のBi源と錯体を形成する第1錯化剤としては、EDTA・2Na、クエン酸ナトリウム、クエン酸カリウム、クエン酸ナトリウムカリウム、酒石酸ナトリウム、酒石酸ナトリウムカリウムなど、好適にはEDTA・2Na(エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム)が挙げられる。
前記第1水溶液におけるBi源と第1錯化剤との割合(モル比)は、Bi:錯化剤=1:1〜1:10、好適には1:1.5〜1:5、典型的には1:3であり得る。
また、前記Bi源の水溶液中の濃度(M:モル濃度)は、0.001〜0.1M、好適には0.002〜0.05M、典型的には0.01Mであり得る。
【0017】
本発明の実施態様においては、Te源と該Te源と錯体を形成する第2錯化剤とを含む第2水溶液を用意する。
前記のTe源としては、Teの塩、例えばTeのハロゲン化物、例えば塩化物、フッ化物、臭素化物や、硫酸塩、硝酸塩、亜テルル酸ナトリウム水和物、亜テルル酸カリウム水和物、好適にはNa
2T
2O
3・5H
2O(亜テルル酸ナトリウム五水和物)が挙げられる。
前記のTe源と錯体を形成する第2錯化剤としては、クエン酸ナトリウム、クエン酸カリウム、クエン酸ナトリウムカリウム、酒石酸ナトリウム、酒石酸ナトリウムカリウムなど、EDTA・2Na、好適にはクエン酸三ナトリウム二水和物が挙げられる。
前記第2水溶液におけるTe源と第1錯化剤との割合(モル比)は、Te:錯化剤=1:1〜1:10、好適には1:1.5〜1:5、典型的には1:3であり得る。
また、前記Te源の水溶液中の濃度(M:モル濃度)は、0.001〜0.1M、好適には0.002〜0.05M、典型的には0.015Mである。
本発明の実施態様において、前記の第2錯化剤は、前記第1錯化剤とは別のものであってもよくあるいは同一のものであってもよい。
【0018】
本発明の実施態様においては、アスコルビン酸を含む第3水溶液を用意する。
前記アスコルビン酸は、以下の化学構造を有する化合物である。
【0020】
本発明の実施態様においては、前記第1水溶液と、前記第2水溶液と、前記第3水溶液とを混合した反応水溶液がアルカリ性、例えばpH>7、好適にはpH≧8、典型的にはpH10になるように調整し、得られたアルカリ性反応水溶液を100℃以下の温度、好適には70℃以上の温度で、好適には1〜10時間程度、特に2〜3時間撹拌下に加熱して、還元反応させる。
【0021】
前記反応水溶液におけるBi源錯体とTe源錯体とは、BiとTeとの割合(モル比)が2:3とすることが好適であるが、この割合に限定されず、BiとTeとの割合(Bi:Te、モル比)が1:1〜2:3の範囲、例えば1:1であってもよい。
前記のBiとTeとの割合(モル比)が1:1であっても、粒子中のBi原子とTe原子とが少なくとも部分的に合金化している結晶性のBiとTeとを含む合金ナノ粒子を得ることができる。
【0022】
本発明の実施態様において、前記第1水溶液と、前記第2水溶液と、前記第3水溶液とを混合した反応水溶液がアルカリ性になるように調整するために、強塩基、例えばKOHあるいはNaOH、好適にはNaOHが用いられる。
前記前記第1水溶液と、前記第2水溶液と、前記第3水溶液とを混合した反応水溶液に、前記の強塩基の水溶液を滴下して、pH>7に調整することが好適である。
【0023】
本発明の実施態様において、前記のようにしてアルカリ性に調整したアルカリ性反応水溶液を100℃以下の温度で撹拌下に加熱して還元反応させた後、必要であればあれば反応水溶液を冷却し、固形物をそれ自体公知の方法によって分離、水洗し、乾燥させることによって、粒子中のBi原子とTe原子とが少なくとも部分的に合金化している結晶性のBiとTeとを含む合金ナノ粒子を得ることができる。
【実施例】
【0024】
以下、本発明の実施例を示す。
以下の各例において、測定試料についての各種の測定は粒子および水溶液に適用される常法により行い、測定装置は以下の装置により行った。なお、以下の装置は例示であって同等の装置を用いて同様に測定し得る。
【0025】
試料粉末のXRD(X線回折)による結晶構造の測定
装置:Rigaku(リガク)社、Ultima IV
試料粉末のXPS(X線光電子分光)による化学結合エネルギーの測定
装置:KRATOS ANALYTICAL社、ESCA3400
試料粉末のXRF(蛍光X線元素分析)による元素組成の測定
装置:Rigaku(リガク)社、ZSX PrimasII
試料粉末のTEM(透過型電子顕微鏡)による粒径・形態の測定
装置:Hitachi High−Technologies(日立ハイテクノロジーズ)社、H−7650
試料粉末のHRTEM(高分解能透過型電子顕微鏡)による粒径・形態の測定
装置:FEI Company,Titan
3(Titan Cubed)、G2 60−300 Double Cs−Correcto
水溶液のpH測定
装置:TOA DKK(東亜ディーケーケー)社、HM−25R
【0026】
実施例1
図1に示す手順で第1水溶液、第2水溶液、反応水溶液を調製した後、アルカリ性反応水溶液を調製した。
1.第1水溶液の調製
Bi(NO
3)
3・5H
2Oを希硝酸に溶かした水溶液と、pH8に調整して溶解させたEDTA・2Na(EDTAと略記する場合もある。)水溶液を混合し、これをBi源液(透明、pH7.0)とした。
2.第2水溶液の調製
Na
2TeO
3・5H
2O水溶液と、クエン酸3ナトリウム2水和物(TCDと略記する場合もある。)水溶液を混合し、これをTe源液(透明、pH10.1)とした。
3.反応水溶液の調製
Bi源液とTe源との混合液(透明、pH8.2)に、アスコルビン酸(AAと略記する場合もある。)水溶液(黄色、pH1.5)を加え、反応水溶液(黄色、pH3.4)を得た。なお、反応水溶液は、全量50mLであって、各成分濃度(モル濃度:Mと略記する場合もある。)および濃度比は、[Bi]=0.01M、[Te]=0.015M、[AA]=0.8M、[Bi]:[Te]=2:3、[EDTA]:[Bi]=3:1、[TCD]:[Te]=4:1である。
【0027】
4.反応
反応水溶液中にNaOH水溶液を滴下していき、黒色に変化したとき(pH10.1)に還元反応開始とした。このアルカリ性反応水溶液を撹拌下に80℃で3時間撹拌を続けた。
5.分離
3時間の反応後、黒色沈殿を回収し、水で洗浄し、12時間乾燥して、黒色粉末を得た。
6.試料測定
得られた粉末について、XRD(結晶構造)、XPS(化学結合エネルギー)、XRF(元素組成)、TEM・HRTEM(粒径・形態)測定することにより、キャラクタリゼーションを行った。
得られた粉末についてのXRD測定結果と、既知材料であるBi
2Te
3、Te、Bi
2O
3およびTeO
2の各粒子についてのXRD測定結果と、他の実施例で得られた測定結果をまとめて
図2に示す。
また、得られた粉末についてのTEMおよびHRTEM測定結果を
図3および
図4に示す。
【0028】
得られた粉末については、
図2からBi
2Te
3相の結晶構造が確認された。また、得られた粉末にはBi
2O
3を含む酸化物の存在が確認されるものの、XPSによる化学結合エネルギー測定を行ってBiとTeとの結合状態を確認した結果、162.6eV、572.5eVおよび582.5eVにBi
2Te
3の結合エネルギーに基づくピークが確認された。そして、
図3および
図4から、ナノ粒子であることが確認されたことから、粒子中のBi原子とTe原子とが少なくとも部分的に合金化している結晶性のBi
2Te
3合金ナノ粒子が得られたことが確認された。
【0029】
実施例2
各成分濃度比および濃度を、[Bi]:[Te]=1:1、[EDTA:/[Bi]=3:1、[TCD]:[Te]=3:1、[AA]=0.8とした反応水溶液にNaOH水溶液を滴下して、PH10のアリカリ性反応水溶液を調製し、実施例1と同様に加熱して還元反応を行い、黒色粉末を得た。
得られた粒子についてのXRD測定結果を
図2に示す。
図2からBi
2Te
3相の結晶構造が確認され、実施例2で得られた粒子は粒子中のBi原子とTe原子とが少なくとも部分的に合金化している結晶性のBi
2Te
3合金ナノ粒子であることが確認された。
【0030】
比較例1
実施例1と同様の各成分濃度比および濃度の反応水溶液に少量のNaOH水溶液を滴下して、PH<7の酸性反応水溶液を調製し、実施例1と同様にして加熱して還元反応を行ったところ、Bi源の均一な溶解が困難(Bi源が白濁)で、Bi
2Te
3合金粒子の合成が不可能であった。
【0031】
参考例1
Biナノ粒子を調製し、そこにトリオクチルフォスフィン中にTeが溶解した溶液を加え、ビスマス−テルル合金ナノ粒子を形成する。得られたビスマス−テルル合金ナノ粒子をさらに110℃で18時間加熱して美しい粒子としてのBi
2Te
3合金ナノ粒子を得た。
得られたBi
2Te
3ナノ粒子のXRD測定結果を他の結果とまとめて
図2に示す。
【0032】
参考例2〜4
既知材料のTe、Bi
2O
3およびTeO
2についてのXRD測定結果を他の結果とまとめて
図2に示す。