(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6434911
(24)【登録日】2018年11月16日
(45)【発行日】2018年12月5日
(54)【発明の名称】強膜を治療するための装置
(51)【国際特許分類】
A61F 9/007 20060101AFI20181126BHJP
【FI】
A61F9/007 170
【請求項の数】37
【全頁数】27
(21)【出願番号】特願2015-535059(P2015-535059)
(86)(22)【出願日】2013年10月8日
(65)【公表番号】特表2015-530202(P2015-530202A)
(43)【公表日】2015年10月15日
(86)【国際出願番号】EP2013070918
(87)【国際公開番号】WO2014056895
(87)【国際公開日】20140417
【審査請求日】2016年10月3日
(31)【優先権主張番号】12187675.9
(32)【優先日】2012年10月8日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】514106373
【氏名又は名称】ウニヴェルジテート ライプチッヒ
(73)【特許権者】
【識別番号】515094877
【氏名又は名称】イゼリ,ハンス ピーター
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100187964
【弁理士】
【氏名又は名称】新井 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】イゼリ,ハンス ピーター
(72)【発明者】
【氏名】フランク,マイク
(72)【発明者】
【氏名】ウィーデマン,ピーター
【審査官】
宮崎 敏長
(56)【参考文献】
【文献】
特開2011−212115(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2010/0241100(US,A1)
【文献】
特表2002−522111(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 9/00 − A61F 9/007
A61N 5/06 − A61N 5/08
A61M 25/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
強膜の治療のための装置であって、湾曲ディスクを含み、
前記ディスクは、テノン嚢内に配置されるように構成され、
前記ディスクは、細長のボウルの形態を有し、前記細長のボウルは、10mm〜30mmの長さ、及び5mm〜25mmの幅を有し、
前記ディスクは、湾曲した前記ディスクの内側表面が、前記細長のボウルによって覆われた前記強膜の領域の表面に、表面的に接触可能なように形成されて、前記領域を表面的に覆い、
前記ディスクは、2つ、3つ、4つ又はそれ以上の独立したチャネルシステムを含み、
前記チャネルシステムの少なくとも一部は、作用物質チャネルシステムとして構成され、前記作用物質チャネルシステムの各々のチャネルがチューブであり、前記チューブは、作用物質を前記チューブの近位端から遠位開口部へ導くよう構成され、
前記チャネルシステムの少なくとも一部は、導光システムとして構成され、前記導光システムの各々は、第1のチャネルの近位端から前記導光システムの複数の遠位開口部へ電磁波を導くよう構成されている、装置。
【請求項2】
前記ディスクは、楕円状キャップ若しくは球状キャップの形態を有し、15mm〜25mmの長さ、又は20mmの長さを有し、さらに、8mm〜20mm、又は10〜15mmの幅を有し、前記ディスクの厚さは、5mm以下、又は3mm以下であり、かつ最小2mmを有する、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
1つ又は複数の凹みが前記ディスクの縁部に形成される、請求項1又は2に記載の装置。
【請求項4】
前記1つ又は複数の凹みは、前記ディスクが前記強膜の前記領域に配置されたときに前記凹みが眼筋、血管及び/又は神経のための自由空間を残すように配置され形成される、請求項3に記載の装置。
【請求項5】
(i)前記ディスクはベース層を含み、かつ/又は、(ii)前記ディスクの外側表面及び/又は前記ディスクの縁部は光不透過性である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の装置。
【請求項6】
前記ベース層は、滅菌可能なかつ/又は耐熱性の材料(例えば、医療用鋼)から製造される、請求項5に記載の装置。
【請求項7】
前記ディスクは、1つ又は複数の追加の層を含み、前記ベース層及び前記1つ又は複数の追加の層は、前記追加の層を支持するために前記ベース層を前記ディスクの外側にして積み重ねられる層として配置され、前記1つ又は複数の追加の層はそれぞれプラスチック又は金属材料から作成される、請求項5又は6に記載の装置。
【請求項8】
前記1つ又は複数の追加の層は、それぞれ光拡散性、遮光性かつ/又はスポンジ様材料から作成される、請求項7に記載の装置。
【請求項9】
前記チャネルシステムはそれぞれ、前記ディスクの縁部に近位端を有するか又は前記ディスクの前記縁部を超えて延びる第1のチャネルを含み、遠位端にて前記第1のチャネルは2つ以上の第2のチャネルに分かれるか又は遠位開口部を有し、遠位端にて前記第2のチャネルはそれぞれ、2つ以上の第3のチャネルにさらに分かれるか又は遠位開口部を有し、前記チャネルがそれぞれ、2つ以上のチャネルに分かれるか又は遠位開口部を有するように、前記チャネルの分岐をさらに繰り返すことが可能である、請求項1〜8のいずれか一項に記載の装置。
【請求項10】
層の表面上に配置される前記遠位開口部の少なくとも一部は細長開口部として形成される、請求項9に記載の装置。
【請求項11】
前記チャネルシステムの少なくとも一部の前記遠位開口部は、前記ディスクの平面に関して規則的に、不規則に又は異なるように分布し、前記ディスクの前記平面は実質的に、異なる分布の前記開口部を有する異なる領域に細分化可能である、請求項1〜10のいずれか一項に記載の装置。
【請求項12】
前記チャネルシステムの少なくとも一部の前記遠位開口部の密度は、前記ディスクの前記平面に関してばらついている、請求項11に記載の装置。
【請求項13】
前記ディスクは対称な形状を有する、請求項1〜12のいずれか一項に記載の装置。
【請求項14】
前記チャネルシステムの少なくとも一部の前記遠位開口部は前記ディスクの対称性に従って対称に配置される、請求項13に記載の装置。
【請求項15】
前記チャネルシステムは前記ディスクのベース層に埋め込まれ、チャネルの遠位端における前記開口部はそれぞれ前記ベース層の内側表面に配置される、又は
前記ディスクは、1つ又は複数の追加の層を含み、前記チャネルシステムは少なくとも部分的に前記ベース層に埋め込まれ、かつ/又は1つ若しくはそれ以上の前記追加の層に少なくとも部分的に埋め込まれ、チャネルの遠位端における前記開口部はそれぞれ、前記ベース層の前記内側表面か、又は前記追加の層のうちの1つの層の中か、又は前記追加の層のうちの1つの層の表面に配置される、請求項9〜14のいずれか一項に記載の装置。
【請求項16】
前記作用物質チャネルシステムの少なくとも一部の前記チャネルは、電磁放射線に対して少なくとも部分的に分離されるか、又は100nm〜2000nmの範囲の波長の電磁放射線から分離されるか、又は300nm〜800nmの範囲の波長の電磁放射線から分離される、請求項1〜15のいずれか一項に記載の装置。
【請求項17】
前記ディスクの前記内側表面は、作用物質が前記作用物質チャネルシステムを通って導かれるときに作用物質の改善された分配を可能とするように構成された構造を有し、この表面の構造は、面取り部、又は要素を含むことができ、前記要素は、バー、半球、角錐若しくは円錐である、請求項1〜16のいずれか一項に記載の装置。
【請求項18】
前記ディスクは、1つ又は複数の追加の層を含み、前記追加の層の少なくとも1つの層は、スポンジ若しくはスポンジ様材料又は多孔材料から製造可能であり、前記作用物質チャネルシステムの少なくとも一部の前記遠位開口部の少なくとも一部は、スポンジ若しくはスポンジ様材料又は多孔材料から製造された層の内部に又は層の外面に配置される、請求項1〜17のいずれか一項に記載の装置。
【請求項19】
前記スポンジ若しくは前記スポンジ様材料又は前記多孔材料は、滅菌可能かつ/又は耐熱性である、請求項18に記載の装置。
【請求項20】
前記導光システムのチャネルは、光学的コンダクタ(例えば光ファイバ)の、1つ又は複数の束を含み、チャネルの各分流にて、2つ以上の後続のチャネルがそれぞれ、複数のより小さな束の1つを構成するように、前記チャネルに含まれる束が前記より小さい束に扇形に広がり、前記より小さな束の数は前記2つ以上の後続のチャネルの数に対応する、請求項1〜19のいずれか一項に記載の装置。
【請求項21】
前記ディスクは、1つ又は複数の追加の層を含み、前記追加の層のうち少なくとも1つは電磁波を拡散させるのに適したディフューザーであり、前記導光システムの少なくとも一部の前記遠位開口部の少なくとも一部は、ディフューザーである前記追加の層の内部に又は前記追加の層の外面に配置される、請求項1〜20のいずれか一項に記載の装置。
【請求項22】
前記装置は、2つ、3つ、4つ又はそれ以上の独立した導光システムを含み、前記導光システムのそれぞれは、電磁放射線の特定の範囲を導くように構成される、請求項1〜21のいずれか一項に記載される装置。
【請求項23】
前記導光システムのそれぞれの前記第1のチャネルの前記近位端は電磁放射線源に接続可能である、請求項22に記載される装置。
【請求項24】
前記導光システムのそれぞれが前記電磁放射線とは独立して供給され得る、請求項22又は23に記載の装置。
【請求項25】
前記チャネルシステムのうち少なくとも1つは、洗浄システムのチャネルが作用物質を導くように構成されたチューブであるように洗浄システムとして構成される、請求項1〜13のいずれか一項に記載の装置。
【請求項26】
前記洗浄システムのそれぞれの遠位開口部は前記ディスクの外側表面及び/又は前記ディスクの縁部に配置される、請求項25に記載の装置。
【請求項27】
前記洗浄システムのうち少なくとも1つは吸引システムとして構成され、前記吸引システムのそれぞれの前記第1のチャネルの前記近位端はポンプ手段に接続可能であるか、又は
少なくとも1つの洗浄システムが吸引システムとして構成され、少なくとも1つの別の洗浄システムがフラッシングシステムとして構成される、請求項25又は26に記載の装置。
【請求項28】
少なくとも1つの洗浄システムは1つ又は複数の作用物質を前記遠位開口部に送達するように構成されるフラッシングシステムとして構成され、前記吸引システム及び前記フラッシングシステムは、択一的に吸引及びフラッシングするように構成された同一の洗浄システムである、請求項27に記載の装置。
【請求項29】
前記装置において、ハンドルが前記ディスクの縁部に配置される、請求項1〜28のいずれか一項に記載の装置。
【請求項30】
前記ハンドルはチューブとして構成され、前記チャネルシステムのそれぞれの前記第1のチャネルは前記ハンドルを通って延びる、請求項29に記載の装置。
【請求項31】
前記装置において、ハンドルが前記ディスクの縁部に接続可能である、請求項1〜28のいずれか一項に記載の装置。
【請求項32】
前記ハンドルはチューブとして構成され、前記チャネルシステムのそれぞれの前記第1のチャネルは前記ハンドルを通して案内可能である、請求項31に記載の装置。
【請求項33】
前記装置は、温度センサ及び/又はカメラシステム及び/又はバイオメカニカルセンサを含む、1つ又は複数のセンサ又は測定システムをさらに含む、請求項1〜32のいずれか一項に記載の装置。
【請求項34】
前記バイオメカニカルセンサは、圧力センサ及び/又はpHメータである、請求項33に記載の装置。
【請求項35】
前記細長開口部は、前記細長開口部を有する前記チャネルの部分が、その丸い側が各層に埋め込まれ、各層から離れる方を指す方向に開口する半円筒として成形されるように形成できる、請求項10に記載の装置。
【請求項36】
被験者の強膜を治療するための、請求項1〜35のいずれか一項に記載の装置の作動方法であって、
前記装置が作用物質及び電磁放射線を前記ディスクから同時に又は交互に放出するステップを含む方法。
【請求項37】
眼の病理学的変化又は疾患を治療するための、請求項1〜35のいずれか一項に記載の装置の作動方法であって、
前記装置が作用物質及び電磁放射線を前記ディスクから同時に又は交互に放出するステップを含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は概して、眼の強膜組織を治療するための物質付与及び放射システム(SARS:Substance Application and Radiation System)(「物質付与及び照射システム(SAIS:Substance Application and Irradiation System)」とも呼ばれる)に関する。したがって、本発明は、患者への眼科外科手術中の物質付与(及び/又は放射)のための医療装置に関する。特に、本発明は、強膜を治療するための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
(リボフラビン付与及びUV−A光放射による)コラーゲン架橋が、角膜(眼の正面部分における外膜の透光性部分)の浸潤性(maceration)疾患を患う患者の治療に眼科学において過去数年間利用されてきた(Wollensakら、American Journal of Ophthalmology 2003, 135:620-627)。眼の正面部分は外科手術をせずとも直接到達可能なため物質及び光の付与は眼の正面部分ではかなり容易である。
【0003】
進行性近視の治療のための強膜のコラーゲン架橋(強膜架橋)は新規のものであり、これまで動物実験でのみ試験されている(Iseliら、Journal of Refractive Surgery 2008, 24:752-755;Wollensakら、Acta Ophthalmologica Scandinavica 2005,83:477-482)。
【0004】
現時点では、強膜の病理学的変形治療のための、眼の外側部(特に、強膜の後部及び赤道部位)を広範に治療するための物質付与又は放射用システムはない。一方で、進行性近視の治療(リボフラビン及び青色光療法による強膜架橋)のためのこの治療方法はまったく新しいものであるが、他方では、眼科学においては大規模な物質付与/放射システムを必要とするような他の疾患のための治療方法はない。
【0005】
本発明者の実験的研究では、感光性物質(リボフラビン)をテノン嚢へ滴下し、続いて、歯科での使用のため設計された光付与システム(Bluephase 16i、Ivoclar Vivadent GmbH、エルヴァンゲン−ヤークスト、ドイツ)による放射を行った。本技術分野にて使用するために、本発明者らはいくつか変更を行った(光エネルギー量を調整するための特定のアタッチメント等)。特に強膜後部への広範かつ均一な放射はこの補助的システムでは不可能である。物質は別個に付与されるか又は放射と交互に付与されなければならず、テノン嚢全体に不均一に広がる。このシステムは、とりわけ、解剖学的構造(ヒトの眼のサイズ及び形状、筋肉及び神経終末、血管の解剖学的構造等)を考慮できないため、ヒトの眼の手術に使用するには完全に不適である。
【0006】
物質付与用の公知の器具は強膜直上の線維性結合組織(上強膜、テノン嚢下)に局所的に付与するように設計される。公知の特許では、上強膜/テノン嚢下への物質付与(WO01/28473A1、米国特許出願公開第2010/0114039A号、WO03/009784A1)について記述しているか、又はこれらは結膜への局所的付与を意図している(WO2010/105130A2)。これらの付与は、小規模で、どちらかといえば網膜、すなわち、眼の最内部の強膜下組織(
図1も参照)の選択的治療を目的としている。したがって、物質は、目的箇所である網膜に到達するには、まず眼の強膜及び脈絡膜等の外側組織を透過しなければならない。公知のシステムは、網膜の表面上における眼内部に直接外科手術することを回避するために強膜への外からの付与のみを利用する。これらの方法はなおも手術後の眼の外膜の炎症及び傷害の危険性があり、さらに強膜組織の治療用には設計されていない。よって、これらの治療方法の治療目的はまったく異なるものである。本発明による物質付与及び放射システム(SARS)は、テノン嚢(眼と眼窩の間の空間)内の治療対象である強膜の部位に直接付与される(
図6参照)。ここで特許請求されるシステムはちょうど治療部位の場所、すなわち、外側強膜組織に配置される。本出願人らのアプローチでは、確立された手術方法に関連する手術中及び手術後の合併症のいかなる危険性の増加も伴わない。
【0007】
これまでに説明されたアプリケータは薬物のデポ剤を作る又は放出するために使用され(WO01/28473A1、米国特許出願公開第2010/0114039A号)、外科治療中に薬物/作用物質を放出してから手術後に外されるようには設計されていない。
【0008】
WO03/009784A1は、薬物のデポ剤をテノン嚢下に永久的に埋め込むことを提案しており、したがって手術の最後に除去されない。既に述べた通り、これらのアプリケータはすべて網膜を主な標的組織としている。本出願は強膜の治療に関する。該アプリケータはいずれも治療で十分に強膜を対象にはできない。既存のアプリケータはすべて、局所的小規模アプリケータとして理解されなければならず、完全に異なる標的組織に影響を及ぼし、異なる疾患のために異なる治療方法を有する。また、アプリケータはいずれも物質付与/送達の調整を実際にはできない。さらに、これらのアプリケータはどれも物質の望ましくない拡散及び隣接する組織が治療により影響を受けないことを保証できない。
【0009】
WO2012/058382A2は、標的組織の体液を含む部位に活性薬剤を送達するための装置について記載する。この装置は、活性薬剤を保持するための本体内に形成される、局所的な別々の窪んだ領域を有する第1のセクションを含む第1の外面を有する本体を含む。本体は、本体内に形成され、外面から窪んでいる管の形態の表面流れ特徴を含む。表面流れ特徴は第1のセクション及び局所的な窪んだ領域と連動し、体液と局所的な窪んだ領域との間に流体連通がもたらされるように、本体に対する体液の流れを誘導する又は変更するように構成される。局所的な窪んだ領域は管の少なくとも一部に対して窪んでいる。装置は、所定の時間をかけて活性薬剤を放出する浸食性部材を有する装置の形態であり得る。
【0010】
WO2006/058189A2は、温度測定用のサーミスタと、流体交換及び治療方法の適用のための洗浄/吸引ポートと、圧力測定用の圧力マノメータと、温度、圧力及び流量の制御用の外部装置とを有する医療装置を提供する。眼及び眼窩に適用されると、この装置は低体温症又は高体温症用途、眼圧(IOP:Interocular Pressure)の制御、及び治療方法の適用に用いることができる。網膜中心動脈閉塞症、前視神経疾患、黄斑を含む脈絡膜及び網膜の病理、硝子体及び前区を含む眼の炎症、緑内障、眼の前区及び/又は後区の炎症及び/又は感染症、眼の手術前/中/後治療を患う患者の治療の際、並びに半透過膜による治療方法の適用の際に装置を使用する方法が記載されている。
【0011】
WO2008/011125A2では、薬物を眼組織に送達するための装置、システム及び技術が記載されている。少なくともいくつかの実施形態においては、末端構成要素(例えば、ニードル又はカテーテルの開端)を、眼組織に移植し、1つ又は複数の薬物を送達するために使用する。送達される薬物は、同様に移植される供給源に由来してもよく、又は外部供給源から(例えば、ポートを介して)導入してもよい。固体及び液体薬物製剤の両方を使用することができる。あるいは、眼インプラントは、眼組織内へ薬物を放出する薄膜コーティングを含むことができる。
【0012】
米国特許第5725493A号は、装置を移植するための単独の初期手術のみによって、薬物又はその他の薬剤を含む多種多様な有益な医薬品を長時間かけて、インプラント装置を通して硝子体腔内に導入できるインプラント装置を含む、硝子体内医薬品送達装置及び方法を開示する。この装置及び方法により移植のために必要な外科的切開を最小限にし、将来的な又は繰り返される侵襲的手術又は処置を回避する。必要に応じて、さらなる量の初期医薬品が容易に導入できるか又は、投薬をさまざまに、若しくは変更することができる。さらに、装置及び方法により硝子体腔に供給される用量を制御でき、装置は、硝子体腔に送達される医薬品を濾過し、さらに移植中又は使用中の眼の他の部分への損傷又は他の部分との干渉を避けるように構成される。
【0013】
WO02/074196A1は、制御されかつ持続させながら治療薬を眼に送達するための眼インプラント装置について記載する。デュアルモード及び単一モードの薬物送達装置が示され、記載されている。結膜下配置に好適なインプラントが記載されている。硝子体内配置に好適なインプラントもまた記載される。本発明は、ここで提示される独自の眼インプラント装置に関連する製造及び実施技術をさらに含む。
【0014】
既存の先行技術では、コラーゲン架橋の方法には必須となり得る別々のシステムの同じ付与システムへの導入(例えば、作用物質/物質及び電磁波、又は異なる別々の作用物質の付与)について記載しているものはない。どの先行技術でも細かく調整され局所的な薬物放出又は放射線の同時投与の制御は行えない。余分の物質/作用物質の吸引システムもまたこれらのアプリケータには備えられていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
従来、本発明にかかる新規の治療方法による強膜での使用に好適な付与システムはなかった。既存の物質アプリケータは、治療の標的とされる組織は強膜ではなく下部組織(ほとんどの場合は眼の内部の網膜)である場合の物質の局所的付与のために設計されている。ここで特許請求されるアプリケータは、広範に、かつ制御された方法で強膜のあらゆる部分へ物質を付与することができるが、これは従来不可能であった。
【0016】
動物実験においてこれまで使用されてきたシステムにおける欠点は、制限された空間内での放射ユニットのサイズであり、これは眼の重篤又は危険な操作につながる。この補助的システムでは強膜後部にも広範かつ均一な放射が不可能である。また、放射システムは、特定の所定時間間隔でのみ放射する。放射線エネルギーレベルを自由に制御するのは不可能である。本出願人らが用いた放射器の光パワー設定は50%又は100%のみであったため、補助的なプラスチックアタッチメントが開発されなければならず、これにより段階的な光出力レベルの使用が可能になった。物質は物質を組織に滴下することによってしか付与できず、これは不均一な物質の分配をもたらす。したがって、物質は治療するはずではない組織領域にも到達する。さらに、物質アプリケータ及び並列システム(例えば、光)は同時に使用できない。特別に製造される吸引システムはない。従来、広範に眼/強膜の中間部及び後部を治療することもできなかった。
【0017】
本発明は動物実験の補助システム及び他のシステム並びに治療方法の不利点を解決する。かかる不利点というのは、以下である。
− 治療される眼の解剖学的構造の観点から強膜の広範/包括的な治療には解剖学的に不適当である
− 従来、小さな範囲のみの独立した連続した治療/物質付与が可能である(例えば、特別に製造されたニードルによる−WO01/28473)ため、大きな領域である強膜の治療は、行うことができないか、又は長時間の手術によってのみ行われる(WO01/28473、米国特許出願公開第2010/114039号)
− 異なる物質の局所的な又は時間的な並列付与が不可能である
− 時間的かつ局所的な物質付与と電磁放射(例えば、光)の組み合わせは不可能である。物質及び光の付与を交互にすることが必要になると、手術/治療の時間のかなりの増大につながる
− 物質及び光アプリケータは定期的に交互に取り付けたり取り外したりせねばならず、外科医が絶えずすべて準備し直さなければならないので治療は均質でなくなる。さらに、取り付け及び取り外しにより、周囲組織の損傷の危険性が高まる
− これまでに公知の照明素子は治療対象の組織を均一に照明しない
− 余分な物質のリターン/吸引システムがなく、治療対象でない組織が、常に影響を受ける/一緒に治療される
− 付与/治療部位に放射線が到達するまでの放射線感受性物質に対する放射線からの保護がない(物質供給部の遮蔽物が存在しない)
− 公知の付与システムは視覚制御(ビデオシステム)下で導入できない
【0018】
従来、強膜での使用又は本発明にかかる治療方法に好適な付与システムはなかった。進行性近視又は強膜浸潤による病理学的変化の治療のための治療方法はまったく新しいものである。したがって、この方法の治療又はこの外科手術の要件を満たす手術用器具はない。領域/組織への物質付与又は放射のための個々の技術的方法は、その特定の使用のために常に能率化され、本出願人らの治療方法の要件を満たさない。正確な眼の解剖学的構造を考慮し、治療又は外科手術の技術的要件をすべて満たす、均一な物質付与及び/又は放射のための広範なシステムが必要とされている。
【0019】
動物実験にて使用される物質付与及び放射ユニットの不利点及び欠点も、新規の付与システム(SARS)によってなくなるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0020】
したがって、本発明の一態様は強膜を治療するための装置に関し、本装置は、湾曲ディスクを含み、ディスクはテノン嚢内に配置されるように構成され、ディスクは、湾曲ディスクの内側表面が表面的に強膜の領域の表面に接触可能なように形成されて、表面的にこの領域を覆い、ディスクは、1つ、2つ、3つ、4つ又はそれ以上の独立したチャネルシステムを含む。
【0021】
ここで、また以下において、ディスクの内側表面はディスクの窪むように湾曲した表面として規定され、ディスクの外側表面はディスクの突出するように湾曲した表面として規定される。
【0022】
ディスクは細長のボウル、例えば、楕円状キャップ又は球状キャップの形態を有してもよく、好ましくは10mm〜30mmの長さ、より好ましくは15mm〜25mmの長さ、又はもっとも好ましくは20mmの長さを有し、好ましくは5mm〜25mm、より好ましくは8mm〜20mm、又はもっとも好ましくは10〜15mmの幅を有し、ディスクの厚さは、5mm以下、又は好ましくは3mm以下、好ましくは最小2mmを有する。
【0023】
ここで、長さは、最大距離を有する、ディスク縁部における2つの点を実質的につなぐ第1の直線部分の長さによって規定され得、幅は第2の線部分の長さによって規定され得る。第2の線部分は、第1の線部分に垂直かつディスク縁部における2つの点を実質的につなぐ最長の線部分である。
【0024】
本発明による装置の一実施形態では、1つ又は複数の凹みがディスク縁部に形成される。好ましくは、1つ又は複数の凹みは、ディスクが強膜の該領域に配置されたときに凹みが眼筋、血管及び/又は神経のための自由空間を残すように配置され形成される。
【0025】
本発明のさらなる実施形態では、ディスクは、好ましくは滅菌可能なかつ/又は耐熱性の材料、例えば医療用鋼から製造されるベース層を含む。
【0026】
さらに、ディスクは、1つ又は複数の追加の層を含むことができ、ベース層及び1つ又は複数の追加の層は、追加の層を支持するためにベース層をディスクの外側にして積み重ねられる層として配置される。1つ又は複数の追加の層はそれぞれプラスチック又は金属材料から作成することができる。1つ又は複数の追加の層はさらに、光拡散性、遮光性かつ/又はスポンジ様の材料からそれぞれ作成され得る。
【0027】
あるいは、ディスク又はディスクを形成する層のうち少なくとも1つは、ポリマー等の別の好適な材料から作成されてもよい。特に、ディスク又はディスクを形成する層のうち少なくとも1つは、可撓性材料で作成されてもよい。
【0028】
ディスク又はディスクを形成する層のうち1つは、3Dプリンタでの使用に好適な材料から作成されてもよい。そして、ディスクは一体的に一個のものとしてプリントすることにより製造されてもよい。あるいは、ディスクは、好適な方法でともにプランジ加工され(plunged)、貼り付けられかつ/又は、接着され得るいくつかのプリント層から形成されてもよい。ディスク又はディスクを形成する層のうち1つは蝋型法等により製造されてもよい。また、内側表面及び/又は外側表面は金属被覆されるか又はコーティングされてもよい。さらに、チャネルの(内側)表面は液体を使用してコーティングされてもよい。
【0029】
装置の好ましい実施形態では、チャネルシステムはそれぞれ、ディスク縁部に近位端を有するか又はディスク縁部を超えて延びる第1のチャネルを含み、遠位端にて第1のチャネルは2つ以上の第2のチャネルに分かれるか又は遠位開口部を有し、遠位端にて第2のチャネルもそれぞれ、2つ以上の第3のチャネルに分かれるか又は遠位開口部を有し、各チャネルが2つ以上のチャネルに分かれるか又は遠位開口部を有するように、チャネルの分岐をさらに繰り返すことが可能である。
【0030】
ここで、チャネルシステム内で続く分岐の数は1回、2回、3回、4回、5回又は6回に制限してもよい。
【0031】
上記のようなチャネルシステムは、樹木状に形成された送達システムであり、第1のチャネルは中心の「幹」と考えることができ、第2、第3又はさらに高次のチャネルは小枝又は枝と考えることができる。ここで、用語「遠位」は、チャネルシステム内の任意の点における、(作用物質、液体、電磁放射線等の)流れが小枝とは反対の幹側から小枝へと導かれるときの流れの方向に従う方向と定義するものとする。すると、「遠位端」とは、チャネルシステムの、流れがチャネルを離れる点を意味する。この「遠位」の定義は、実際の流れ方向が逆になるとき(例えば、下で開示されるような吸引システムについて、上流方向が遠位方向に相当する場合)にも当てはまるものとする。さらに、任意の点において、用語「近位」とは「遠位」方向とは反対の方向を意味するものとする。したがって、表現「近位端」とは小枝とは反対側の幹の端部を意味する。
【0032】
一実施形態において、層の表面上に配置される遠位開口部の少なくとも一部は細長開口部として形成され、例えば、細長開口部は、細長開口部を有するチャネルの部分が、その丸い側が各層に埋め込まれ、各層から離れる方を指す方向に開口する半円筒として成形されるように形成されてもよい。
【0033】
チャネルシステムの少なくとも一部の遠位開口部は、ディスク平面に関して規則的に分布し得る。ディスク平面は実質的に、異なる分布の開口部を有する異なる領域に細分化可能である。
【0034】
あるいは、チャネルシステムの少なくとも一部の遠位開口部は、ディスク平面に関して不規則的に又はでたらめに分布してよい。
【0035】
また、チャネルシステムの少なくとも一部の遠位開口部の密度は、ディスク平面に関してばらついていてもよい。
【0036】
装置の一実施形態では、ディスクは対称な形状を有する。チャネルシステムの少なくとも一部の遠位開口部は、ディスクの対称性に従って対称に配置されてもよい。
【0037】
本発明のさらなる実施形態では、チャネルシステムはベース層に埋め込まれる。チャネルの遠位端における開口部はそれぞれ、ベース層の内側表面に配置され得る。また、チャネルシステムは少なくとも部分的にベース層内に埋め込まれてもよい。さらに、チャネルシステムは1つ又は複数の追加の層に少なくとも部分的に埋め込まれてよく、チャネルの遠位端における各開口部は、ベース層の内側表面か、又は追加の層のうちの1つの層の中か、又は追加の層のうちの1つの層の表面に配置される。
【0038】
一実施形態では、チャネルシステムの少なくとも一部は、作用物質チャネルシステムの各チャネルが作用物質を導くように構成されるチューブであるように、作用物質チャネルシステムとして構成される。
【0039】
作用物質チャネルシステムの少なくとも一部のチャネルは、電磁放射線に対して少なくとも部分的に分離されてよい。例えば、チャネルは、100nm〜2000nmの範囲の波長の電磁放射線から分離され、もっとも好ましくは300nm〜800nmの範囲の波長の電磁放射線から分離されてよい。
【0040】
本発明の一実施形態では、ディスクの内側表面は、作用物質が作用物質チャネルシステムを通って導かれるときに作用物質の改善された分配を可能とするように構成された構造を有し、表面構造は好ましくは面取り部、又はバー、半球、角錐若しくは円錐等の要素を含む。
【0041】
一実施形態では、追加の層の少なくとも1つの層は、好ましくは滅菌可能かつ/又は耐熱性のスポンジ若しくはスポンジ様材料又は多孔材料から製造され、作用物質チャネルシステムの少なくとも一部の遠位開口部の少なくとも一部は、スポンジ若しくはスポンジ様材料又は多孔材料から製造された層の内部に又は層の外面に配置される。
【0042】
装置のさらなる実施形態では、作用物質チャネルシステムそれぞれの、第1のチャネルの近位端は別個の作用物質供給源に接続可能である。
【0043】
装置の好ましい実施形態では、チャネルシステムの少なくとも一部は導光システムとして構成され、各導光システムは第1のチャネルの近位端から導光システムの遠位開口部に電磁波を導くように構成される。
【0044】
一実施形態において、導光システムのチャネルは、光学的コンダクタ、例えば光ファイバの1つ又は複数の束を含み、チャネルの各分流にて、2つ以上の後続のチャネルがそれぞれ、より小さな束の1つを構成するように、チャネルに含まれる束が複数のより小さい束に扇形に広がり、より小さな束の数は2つ以上の後続のチャネルの数に対応する。
【0045】
一実施形態において、追加の層のうち少なくとも1つは電磁波を拡散させるのに適したディフューザーであり、導光システムの少なくとも一部の遠位開口部の少なくとも一部は、ディフューザーである追加の層の内部に又は追加の層の外面に配置される。
【0046】
ディフューザーは滅菌可能かつ/又は耐熱性かつ/又は生体適合性の材料から製造することができる。ディフューザーは例えば、好適なポリマー類又はプラスチックから製造できる。
【0047】
本発明の一実施形態では、装置は、2つ、3つ、4つ又はそれ以上の独立した導光システムを含む。2つ、3つ、4つ又はそれ以上の独立した導光システムは別々の領域を覆ってよい。好ましくは導光サブシステムのそれぞれは、電磁放射線の特定の範囲を導くように構成される。
【0048】
装置のさらなる実施形態では、導光システムのそれぞれの第1のチャネルの近位端は電磁放射線源に接続可能である。
【0049】
好ましい実施形態では、独立した導光システムのそれぞれは電磁放射線とは独立して供給され得る。
【0050】
装置の一実施形態では、チャネルシステムのうち少なくとも1つは、洗浄システムのチャネルが作用物質を導くように構成されたチューブであるように洗浄システムとして構成される。好ましくは、洗浄システムのそれぞれの遠位開口部はディスクの外側表面及び/又はディスクの縁部に配置される。
【0051】
本発明の好ましい実施形態では、洗浄システムのうち少なくとも1つは吸引システムとして構成され、吸引システムのそれぞれの第1のチャネルの近位端はポンプ手段に接続可能である。少なくとも1つの洗浄システムは1つ又は複数の作用物質を遠位開口部に送達するように構成されるフラッシングシステムとして構成されてよく、吸引システム及びフラッシングシステムは、択一的に吸引及びフラッシングするように構成された同一の洗浄システムであるか、又は少なくとも1つの洗浄システムは吸引システムとして構成され、かつ少なくとも1つのさらなる洗浄システムはフラッシングシステムとして構成される。
【0052】
吸引システムは、その遠位開口部が、組織が吸引システムに吸引されるのを防ぎ、かつ/又は吸引システムが詰まるのを防ぐのに好適なストレーナ、フィルタ、メッシュ又は多孔材料で被覆されるように構成されてよい。
【0053】
装置のさらなる実施形態では、ハンドルはディスクの縁部に配置される。ハンドルはチューブとして構成され得、チャネルシステムのそれぞれの第1のチャネルはハンドルを通って延びてよい。
【0054】
代替的実施形態では、ハンドルはディスクの縁部と接続可能である。ハンドルはチューブとして構成され得、チャネルシステムのそれぞれの第1のチャネルはハンドルを通して案内可能である。
【0055】
好ましくは、ディスクの外側表面及び/又はディスクの縁部は光不透過性である。チャネルシステムもまた光不透過性であってよい。
【0056】
一実施形態において、ディスクの外側表面及び/又はディスクの縁部は電磁放射線不透過性である。例えば、ディスクの外側表面及び/又はディスクの縁部は、100nm〜2000nmの範囲の波長の電磁放射線不透過性である。別の例として、ディスクの外側表面及び/又はディスクの縁部は、300nm〜800nmの範囲の波長の電磁放射線不透過性である。
【0057】
さらなる実施形態において、装置は、1つ若しくは複数のセンサ又は測定システムをさらに含む。1つ若しくは複数のセンサ又は測定システムは、温度センサ及び/又はカメラシステム及び/又はバイオメカニカルセンサ、好ましくは圧力センサ、及び/又はpHメータを含むことができる。さらに、装置はさらに冷却システムを含んでよい。
【0058】
本発明による装置では、
− 眼の解剖学的構造及びサイズに適合できる
− 強膜組織の広範な治療(さらに後部強膜も)を可能にする
− 異なるシステム(例えば、物質付与及び吸引、放射、視覚制御)の時間的かつ局所的に制御した使用を可能にする
− システムの内側及び外側の表面変形のため物質の均一で広範な分配が可能である(カニューレを使用する場合、不可能である)。
【0059】
物質付与及び放射システムにより、強膜のコラーゲン架橋のために外側強膜(眼の白色組織)の広範な治療を可能にする。特別な化学物質及び/又は異なる波長の光を強膜に付与することにより、コラーゲン分子を架橋させ、したがって組織の生体力学的特性を変えることが可能である。したがって、眼の特定の病理学的変化及び疾患(例えば、進行性近視、強膜炎、組織浸潤性炎症)を治療し得る。これらの病理学的変化により強膜の生体力学的安定性が最小化されてしまい、眼球の異常な膨張、ひいては重篤な視覚制限又は失明をもたらす。
【0060】
さらに、本発明による物質付与及び放射システム(SARS)により、進行性近視、強膜の病理学的変化又はさまざまな原因によって引き起こされ得る他の生体力学的浸潤症状(例えば、炎症、局所感染、強膜炎)を治療すべく強膜架橋するための外側強膜(眼の白色組織)の広範な治療を可能にする。これらの眼の特定の疾患の治療方法は新規のものであり、眼の複雑な解剖学的構造により、適合された形状及び特定の技術特徴を有する外科的応用システムを必要とする。
【0061】
本発明をここで、以下の図面に関連して詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【
図1】眼の解剖学的構造及びその付属器の詳細図である。
【
図2】SARSのおおよその寸法及び可能な面形状の略図である。
【
図3】SARSの導入チャネル及び導出チャネルの可能な配置の略図である。
【
図5】SARSのディフューザー内の光ファイバの可能な配置の略図である。
【
図6】眼の解剖学的構造(A)、眼窩のテノン嚢におけるSARSの位置決め(B)、及び治療/放射中のSARS(C)の略図である。
【
図7】さまざまな種の強膜パッチへのリボフラビンの全組織透過平均時間を示す図である。
【
図8a】さまざまな種の強膜組織の波長別光透過率特性を示す図である。
【
図8b】さまざまな種の強膜組織の波長別光透過率特性を示す図である。
【
図8c】さまざまな種の強膜組織の波長別光透過率特性を示す図である。
【
図8d】さまざまな種の強膜組織の波長別光透過率特性を示す図である。
【
図8e】さまざまな種の強膜組織の波長別光透過率特性を示す図である。
【
図8f】さまざまな種の強膜組織の波長別光透過率特性を示す図である。
【
図9】さまざまな種の、波長450nmでの分離したての強膜組織の光透過率特性を示す図である。
【
図10A-1】さまざまな種の強膜組織の寸法及び構造を比較するための組織学的半薄(semi-thin)切片(0.5μm厚、トルイジンブルー染色)の光学顕微鏡画像である。
【
図10A-2】さまざまな種の強膜組織の寸法及び構造を比較するための組織学的半薄(semi-thin)切片(0.5μm厚、トルイジンブルー染色)の光学顕微鏡画像である。
【
図10B】さまざまな種の強膜組織の寸法及び構造を比較するための組織学的半薄(semi-thin)切片(0.5μm厚、トルイジンブルー染色)の光学顕微鏡画像である。
【
図11】架橋治療をしている場合(C及びD)及び架橋治療をしていない場合(A及びB)の鋭的切開した(A)強膜組織及び冷凍された/解凍された(B〜D)強膜組織の形態的性質の比較を示す顕微鏡写真である。
【
図12】架橋治療をしている場合(C及びD)及び架橋治療をしていない場合(A及びB)の鋭的切開した(A)強膜組織及び冷凍された/解凍された(B〜D)強膜組織の電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0063】
タンパク質(例えば、コラーゲン)架橋はバイオテクノロジーにおいて確立された方法である。タンパク質架橋は化学的架橋剤/作用物質によって、又は感光性物質とそれに続く放射(例えば、リボフラビン付与及びUV−A光又は青色光放射)を通して行うことができる。
【0064】
したがって、コラーゲン架橋は、生体力学的特性を変える(剛化)分子の結合を生じさせると考えられる。リボフラビン付与及びUV−A光放射によるコラーゲン架橋が、角膜(眼の正面部分における外膜の透光性部分)の浸潤性疾患を患う患者の治療に眼科学において数年間利用されてきた(Wollensakら、American Journal of Ophthalmology 2003, 135:620-627)。眼の正面部分は手術をせずとも直接到達可能なため物質及び光の付与は眼のこの部分でははるかに容易である。しかし、不均一な放射及び物質分配の問題はここでも完全にはなくなっていない。
【0065】
進行性近視及び他の浸潤性疾患の治療のための強膜のコラーゲン架橋(強膜架橋)は新規のものであり、これまで動物実験でのみ試験されている(Iseliら、Journal of Refractive Surgery 2008, 24:752-755;Wollensakら、Acta Ophthalmologica Scandinavica 2005,83:477-482)。動物実験における技術的手段はいずれもさまざまな不都合があり、患者に使用するには適していない。
【0066】
また、タンパク質及びコラーゲンは後に放射せずとも化学的架橋物質のみを加えることにより架橋され得る(「Chemical crosslinking and the stabilization of proteins and enzymes」 Wong SS, Wong LJ著、Enzyme Microb Technol. 1992 Nov;14(11):866-74参照)。
【0067】
本発明による装置では、外部から作用物質を強膜の後部及び赤道部へと広範に供給することが初めて可能になる。同時にその他のシステムが使用可能である。余分な作用物質は取り除かれる。表面のさらなる変形によって、作用物質のより良好な分配及び治療しない部位における作用物質のより良好な除去が可能である。本発明による装置は、患者への新規の治療方法及び動物実験における時間節約(短い手術時間)用途には必要条件である。本発明による装置は人間の眼の解剖学的構造に人間工学的に適合される。その材料は滅菌可能かつ再利用可能である。
【0068】
本発明は、作用物質(例えば、物質、薬物)の局所的かつ時間的な制御放出及び逆流を可能にし、強膜の既定部位で他の物理的付与(電磁放射)と組み合わせることができる。加えて、本発明は局所的かつ時間的な制御放射及び既定の力レベルの電磁放射(すなわち、時間及び部位あたりのエネルギー量)の付与を可能にする。
【0069】
眼の外側の周囲のコラーゲン層は強膜(白い部分)及び角膜(透光性部分;
図1)である。いくつかの疾患では、眼のこの組織の部分が弱る。これは、生体力学的安定性、消化に対する酵素耐性又はその膨張挙動に関して当てはめられる。この眼(角膜及び強膜)の衰弱は架橋を通じてプラスの影響を受け得る。このため、化学的又は物理的反応を開始させるために、追加の添加剤、例えば、電磁放射線、第2の作用物質と共に又はそれなしで作用物質(流体)が眼の各組織層中に導入されなければならない。これらの反応により、生体力学的特性の変化及び上記の衰弱に関する眼の治療層の改善がもたらされる。この治療を「架橋」と呼ぶ。
【0070】
図1は眼の解剖学的構造及びその付属器の詳細図を示す。左の図は眼窩(骨2)における眼1とその筋連結3を示す。眼1は、角膜縁4と眼瞼(ここでは図示していない)との間の通常前側近傍にある、強膜周囲のリンパ腔であるテノン嚢内の眼窩にある。強膜5は外側の眼の白色の部分であり、角膜6は眼1の透光性部分である。両方の組織はコラーゲン組織から形成されている。右側の図は、眼1の内部組織の解剖学的層の詳細なラベリングを示す。右側の図では、強膜5/脈絡膜7/網膜8の組織構造が強調されている。
【0071】
強膜部分では、眼球は、強膜5に結合された非常に薄い粘膜下組織、上強膜(別個に図示していない)により取り囲まれている。
【0072】
本発明による装置により、強膜のコラーゲン架橋のための外側強膜の広範囲な治療が可能となる。一実施形態による装置(SARS)は好ましくは、強膜又はその一部に物質/作用物質を定量放出するために可変の面形状(
図2参照)を有する、平坦で大規模かつスプーン状に湾曲した眼科手術器具である。示される実施形態では、装置は、キャリアプレート(SARSの外側部)及び内側部、ディフューザーからなる。SARSの面形状、すなわち、正確な寸法及び大きさはさまざまであることができる。非常に単純な面形状(
図2A)のおよその寸法は幅が約10〜15mm、長さが約20mmである(SARSは眼の凹面に適合されるため、好ましくは30mmである)。SARS全体の厚さは好ましくは3mmを超えるべきではない。
【0073】
図2は、好ましい実施形態に従った本発明の装置のおよその寸法及び可能な面形状の略図を示す。
図2Aでは、左側の画像は装置100の内側の図及びおよその大きさを示す。右側の画像は、側方から見た大きさ並びにキャリアプレート102及びディフューザー103の配置を示す。
図2Bでは、左の2つの画像は、アプリケータがどちらかというと単純で改善されたバージョンを示す。右側の画像は、筋肉及び血管の解剖学的に異なる特徴を考慮した、(鼻へと向かう)鼻方向及び(側方へ向かう)側頭方向における眼及びヒトの眼の強膜の形状に適合した形状を示す。
【0074】
SARSの正確な面形状及び寸法は、眼の正確な解剖学的特徴、又はさらには個々の患者若しくは個々の患者の臨床的及び治療的ニーズに由来するものである。さらに、SARSの正確な面形状及び寸法は、成長阻害のために治療の必要がある測定された最小面積に由来する。したがって、SARSは、単純若しくは複雑な形態であるか又はニンジン様でありかつ眼の強膜部分全体を覆い得る、可変の形状、好ましくは面形状を有し得る(
図2)。
【0075】
図3から
図5は、分かりやすい表現をもたらし、各事実の説明を容易に理解するために、単純な面形状を単なる例示として示す。装置のさらなる変形はすべて、当然ながら他のすべての面形状にも同様に適用可能である。
【0076】
均一な物質分配は、キャリアプレート102の導入チャネル101の規定配置により行われ、アプリケータ100内部に規定された表面変形により補助される。導入チャネル101は、シャフト104を介して外部マルチポンプシステムに接続されているため、群で又は別々に制御できる。したがって、物質付与を時間的にかつ局所的に制御できる。領域毎のチャネルの数は可変であることができる。
【0077】
チャネル105の特別に配置されたシステムにより吸引もまた行われ、チャネル105は内部(眼へと向かう)及び外側に開口部107を有する。このシステムのチャネルはすべて、制御可能な負圧吸引システムにより調整され得る。この場合、単一のチャネルを個別に制御できる必要はなくなる。しかし、このような個別制御を実行することは技術的に可能であろう。
【0078】
物質/作用物質の供給及び除去のためのチャネル101、105のシステムはキャリアプレート102に組み込まれ、キャリアプレートは硬質材料(例えば、手術用鋼)から製造され、複数の形態の消毒に耐えられなければならない。
【0079】
図3は、SARSの導入チャネル101及び導出チャネル105の可能な配置の略図を示す。左側の画像は、装置内部(SARS内部を見る)でのチャネルの可能な配置を示す。チャネルの配置は対称であるか、ずらされているか、若しくは任意であるか、又は他のパターンを有することができる。真ん中の画像は、導入チャネル101及びその開口部106が内部を向いたキャリアプレート102内部を示す。灰色の異なる色は、2つの異なる物質の同時付与を表す。
図3の右側の画像は、横から見た装置のチャネルシステムを示す。明るい灰色と暗い灰色に色づけられた導入チャネルは、同時付与される2つの異なる物質を表す。チャネル101の導入システムは、眼に対向する側にある、装置の内部を通るチャネル開口部106、眼ディフューザー103を有する。吸引システム(黒と白の縞模様部分)は、SARSの内部及び外部にチャネル開口部107を有する。導入チャネル及び導出チャネルのシステムは主にキャリアプレート102に組み込まれるが、これらはまた、小さなチャネルによりディフューザー(装置の内側部)を貫通する。
【0080】
本発明による装置は、導出システムにおける作用物質付与中の均一な物質分配及び物質を妨げられずに除去することを確実にするために、内部及び/又は外部がさまざまな表面形状及び材料にて変形可能である(
図3)。したがって、異なる表面構造(例えば、半球、角錐、円錐、棒、溝等)が、内部(ディフューザー部分)及び/又は外部(キャリアプラットフォーム)に導入/適用できる。配置は可変であることができ、かつさまざまなパターン(例えば、対称に、又は任意に)にまとめることができる。特定の溝又はチャネルのパターンもまた、内部(ディフューザー部分)及び/又は外部(キャリアプラットフォーム)に導入/適用できる。分岐多孔性構造(例えば、スポンジ様)を有する異なる材料もまた内部に配置できる。
【0081】
図4はSARSの可能な表面変形の略図を示す。上の2つの画像(
図4A)は、装置外部(SARSのキャリアプラットフォーム外部を見る)の一体型チャネルの可能な配置及び可能な配向を示す。チャネルは、キャリアプラットフォーム裏側の、中心の導出チャネルにつながる。下の2つの画像(
図4B及び
図4C)は、(さまざまな配置において集合体として又は個別の、完全な内側表面として)多様な配向及び配置を有する可能な表面幾何形状(棒、チャネル、星形配置、半球、角錐、円錐)を示す。右下の画像(
図4C)は、SARS内部にスポンジ様表面材料(黒と白の縞模様部分)を有する眼に配置されたSARSを示す。
【0082】
物質付与に加えて、装置は強膜組織の広範な放射を可能にする放射システムと組み合わせることができる。放射は、選択された配置(
図5参照)によって、シャフトを通ってSARS内部に導入され得、かつその後、さまざまな方法でディフューザー103(装置の内側部)に分配され得る光ファイバ109により行うことができる。光ファイバ109は、ディフューザー及びキャリアプレートの両方へと、出口(光ファイバ109の端部の光放射)へ延びる。あるいは、光ファイバの末端はシャフトとアプリケータディスクとの間の移行ゾーンにあってよい。
【0083】
装置の内側部はディフューザー103により設計される。ディフューザー103は均一で広範な照明を提供するものであるため、多量の放射エネルギーを有する「ホットスポット」又は光エネルギーレベルが少なすぎる領域は生じない。これは、ディフューザーの材料特性により可能となる。ディフューザーは耐熱性で、一般に認められている方法にて消毒でき、かつ生体適合性である材料(例えば、さまざまな人工ポリマー類)から製造される。ディフューザー材料の光学特性は、光ファイバの端部からの放射の極端な拡散の一因となる。ここで、特定の回折及び拡散特性を有する異なるディフューザー材料を、特定波長の選択/制限を有する特別な装置の構造に使用することができる。ディフューザーのポリマーそれ自体は拡散特性を有しない場合、製造中にポリマーと光学的に拡散する要素(例えば、さまざまな形状及びサイズのポリマービーズ)とを組み合わせることができる。別の代替策は、所望の光学的拡散効果を達成するためにディフューザー材料の表面を変える(例えば、表面の粗化)ことである。
【0084】
光ファイバ(光導波路又はガラスファイバとも呼ばれる)はさまざまな実現にて選択でき、さまざまな波長の電磁放射線(紫外線から約300nm〜1100nmの赤外線)を伝導できなければならない。次いで、SARSのいくつかの構造的実現は電磁放射線の特定の波長及び特定の光エネルギーレベルのために最適化され得る。したがって、特定の光ファイバ材料(例えば、余分な紫外線伝導性)及び特定の光ファイバ直径(例えば、高エネルギーレベルのためのより大きなケーブルの直径)をSARSのために使用できる。装置の光ファイバは、装置の内側表面に0〜300mW/cm
2の放射線エネルギーレベルを投射できるべきである。SARS内の光ファイバのための光は、外部から制御可能かつ調整可能な放射線源(例えば、1つのLEDユニット内の異なるLED、異なるレーザ、異なるランプの種類)により提供される。外部放射線源は(i)放射波長、(ii)放射線エネルギーレベル及び(iii)付与時間(放射線インパルス(radiation impulse)の長さ及び順序)が制御可能である。したがって、装置の光量(時間単位当りの放射エネルギー)の制御は、光ファイバを制御する外部放射線源により保証される。加えて、この外部光源により、個別に特定の群の光ファイバを制御し、よって個別にSARS内側表面の特定の領域を照明できる。したがって、SARS内部の異なる領域に異なる波長及び異なる放射線エネルギーレベルを同時に提供できる(
図5F参照。異なる塗りつぶしパターンは異なる波長により照明される領域を表す)。
【0085】
光ファイバ及び/又はその端部は、SARS内部(ディフューザー内)に異なる方法で配置され得る(
図5G)。
【0086】
装置内では、物質及び放射線の供給は完全に別個であるため(チャネルには光学的に不伝導性の材料、場合により加えて、鏡面仕上げ光ファイバ又は全内面反射を有する通常の光ファイバ)、SARS内部では感光性材料が放射線により影響を受けず変化しない。物質供給及び放射ユニットはさらに、外部接続装置によって個別に時間的に制御可能である。
【0087】
図5はSARSのディフューザー内の光ファイバの可能な配置の略図を示す。
図5Aは、比較的高い放射線エネルギーレベルの転送のためのディフューザー内における、いくつかの比較的厚い光ファイバの可能な配置を示す(SARSの側面図、この場合ディフューザーは半透明で図示されている)。
図5Bは、Aの光ファイバと同じ配置を示すが、ディフューザーはここで光がより均一に分配されるように光を拡散している。
図5Cは、放射及び物質付与の組み合わせを示す。
図5Dは、ディフューザー内(SARS内部を見る。ディフューザーは半透明で図示される)で群で制御され得るいくつかの薄い光ファイバの可能な配置を示す。
図5Eは、Aの光ファイバと同じ配置を示すが、ディフューザーはここで光がより均一に分配されるように光を拡散している。
図5Fは、異なる波長(異なる2つの塗りつぶしパターンで表される)で2つの領域を同時に照明できる、群を成した光ファイバの外部光源による個別制御を示す。
図5Gは、ディフューザー内の光ファイバのさまざまな可能な配置及び分布を示す。光ファイバは、より大きな直径を有することができ、数が制限され得るか(左画像)、又は非常に薄く、ディフューザー内で比較的均一に分布され得る。光ファイバは群にして組み合わせることもでき、これにより別個に制御され得る(
図5G、右画像)。
【0088】
眼窩と眼球との間の組織結合を開いた後、本発明の装置をテノン嚢に導入する。本装置は筋肉を通過して、強膜の赤道部及び外側部に配置される。ここで、手術中に、治療部位から装置を取り外す必要なしに物質又は放射線を付与することが可能である(利点:(i)手術中の時間を節減する、(ii)物質付与及び放射の均一又は特別に選択された分配、(iii)繰り返される手術器具の挿入及び取り外しによる周囲組織の損傷リスクの低減)。
【0089】
図6は、眼の解剖学的構造(A)、眼窩のテノン嚢におけるSARSの位置決め(B)、及び治療/放射中のSARS(C)の略図を示す。
【0090】
本発明による装置はさらに、ディフューザー内(SARSの内側部)に温度プローブを装備できる。記録ユニットへの給電又は接続がディフューザー内への光ファイバの組込みと同様に確保される。
【0091】
SARSはビデオ監視システムと組み合わせることもでき、内視鏡可視化システムがSARSに取り付けられる/組み込まれる。
【0092】
本発明はさらに、以下のステップ、すなわち、
(i)湾曲ディスク/ベルトの内側表面が表面的に強膜領域の表面と接触するように、被検者の眼のテノン嚢へと本発明の装置のディスク/ベルトを配置するステップと、
(ii)作用物質及び/又は電磁放射線を被検者の強膜に付与するステップと、
を含む、被検者の強膜を治療する方法に関する。
【0093】
さらに、本発明は、以下のステップ、すなわち、
(i)湾曲ディスク/ベルトの内側表面が表面的に強膜領域の表面と接触するように、被検者の眼のテノン嚢へと本発明の装置のディスク/ベルトを配置するステップと、
(ii)作用物質及び/又は電磁放射線を被検者の強膜に付与するステップと、
を含む、眼の病理学的変化又は疾患を治療する方法に関する。
【0094】
本文脈中、作用物質は好ましくは化学的架橋剤又は感光性物質である。感光性物質は例えばリボフラビンである。リボフラビンは例えば、光放射の付与の前に付与できる。
【0095】
本発明の装置及び方法との関係における光放射は、特にリボフラビンが感光性物質として使用される場合、好ましくはUV−A光放射(約315〜約380nm、例えば、約370nm)又は「青色光」放射(「青色光」とは、好ましくは約420〜約480nmの波長、好ましくは約425〜約475nm、より好ましくは約450〜約465nmの波長を有し、好ましい波長は約450nm及び約465nmである)である。光放射がUV−A光放射の場合、光強度は例えば、強膜表面にて1〜200mW/cm
2、好ましくは2〜4mW/cm
2の範囲である。光放射が「青色光」放射である場合、光強度はUV−A放射よりも概して高くてもよく、例えば、強膜表面にて1〜350mW/cm
2の範囲内であることができ、好ましくは10〜200mW/cm
2、より好ましくは20〜100mW/cm
2、さらにより好ましくは25〜100mW/cm
2である。一般に、パルス光が使用される場合、連続的放射の付与よりも高い光強度を使用してもよい。ある種の実施形態にて、帯域フィルタを使用して、例えば、320〜400nm又は420〜480nm又は425〜475nm又は450〜465nmの特定の光特性を生み出してもよい。
【0096】
眼の病理学的変化又は疾患は、例えば本発明の文脈においては、本明細書中で上述された疾患及び症状から選択されてもよく、特に、進行性近視、強膜炎、及び組織浸潤性炎症等の強膜の病理学的変化から選択される。
【0097】
本発明はさらに、眼の病理学的変化又は疾患の治療に使用するための本明細書中で上述した装置に関する。
【0098】
<SARS装置を使用した強膜架橋の例示的手順>
外科手術の目的は、患者の眼の強膜組織におけるコラーゲン分子を、光増感剤であるリボフラビンの付与及び青色光による放射の組み合わせにより架橋させることである。リボフラビン及び/又は光照射(好ましくは両方)が、SARS装置を使用して付与される。その他の光増感剤及び別の波長の電磁放射もさらに用いてよい。
【0099】
ヒトの眼の強膜架橋(SXL)の本手順では、0.01〜20%、好ましくは0.5%リボフラビンの等張性NaCl溶液を、照射開始前に5〜60分間、好ましくは30〜40分間、強膜全体の表面(又は治療すべき領域のみ)に付与する。リボフラビン溶液は付与前に、例えば装置内の熱せられたリザーバ又は加熱システムを使用して、予め温められてよい(例えば、約35℃まで)。リボフラビン溶液はさらに、デキストラン又は別の補助剤を添加することによって例えばその粘度又はその組織透過性挙動に関して変性されてもよい。リボフラビンの付与は、照射手順中に連続して/交互に繰り返されてもよく、又は最初にだけ付与されてもよい。
【0100】
青色光の照射出力は約1〜350mW/cm
2であってよく、ヒトの強膜組織に対して好ましくは、10〜200mW/cm
2、より好ましくは20〜100mW/cm
2、さらにより好ましくは25〜100mW/cm
2の青色光出力である。他の電磁波長、例えば、UV−A等のUV光又は、治療中交互若しくは同時の2つ以上の異なる波長を組み合わせて付与することも可能である。さらに、特定の帯域幅の電磁波長の光(例えば、420〜480nmの帯域幅の青色光。上記参照)を付与することが可能である。
【0101】
強膜組織は例えば、SXL手術中に、(上述のような)最適な青色光出力を約20分間照射され得る。照射間隔は、強膜組織へのいかなる熱ストレスをも避けるために例えば10秒間中断を含んで、例えば1〜30秒、好ましくは10〜30秒であってよく、又は連続していても任意の方法で変化させることが可能である。新鮮なリボフラビン溶液を、使用済みリボフラビンを新しくし、さらに照射された強膜組織を冷却するために、青色光照射中に例えば5分毎に交互に付与してもよい。リボフラビン溶液は連続的に付与されてもよい。他の照射間隔及び頻度並びに延長又は短縮照射手順が、光出力によって実行可能である。リボフラビン付与が同時に可能なため、照射手順中ずっとSARSの位置を変えるか又は戻す必要も、また再配置する必要もないということは、他の光源と比較してSARS装置の重大な利点である。SXL治療後、SARS装置の物質付与及び吸引チャネル部分を使用して、余分なリボフラビンを取り除き、眼窩を滅菌等張性NaCl溶液にて洗浄することができる。
【0102】
さらに、このSARS装置の物質付与及び吸引チャネル部分を使用して、種々の洗浄溶液でテノン嚢を洗浄することができる。これらの溶液は、薬理学的活性物質又は分子を含有し、SXL治療結果を支持又は安定させ得る。例えば、線維芽細胞は架橋治療に反応して活性化され得る。線維芽細胞は例えば、その形態、細胞内の超微細構造及び/又は代謝を変え得、また数が増え得る。コラーゲン線維束及び細線維構造の変化(小さなサイズのコラーゲン細線維の数の増加)が、コラーゲン線維束構造の再構成の兆候として観察され得る。これらの再構成プロセスは、増殖活性又は線維芽細胞の移動並びに、遺伝子及びタンパク質の発現特性の変化により支持され得る。したがって、マトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)がコラーゲン及び細胞外マトリックス成分の再構成プロセスのために産生される。TIMPはMMP活性の阻害のための調節タンパク質である。したがって、薬理学的活性物質がSXL治療後に付与されて、MMP及び/又はTIMPの活性を調節することが実現可能である。SARS装置により付与される薬理学的活性物質はさらに、コラーゲン産生遺伝子若しくは天然に生じるコラーゲン架橋酵素(例えば、リシルオキシダーゼ)の活性を調節することができるか、又はこれらの物質は線維芽細胞及び他の血液由来の細胞の増殖及び移動を調整できる。
【0103】
<ヒトの患者におけるSXLの例示的外科手術>
強膜架橋(SXL)手術を行うには、麻酔が必須である。麻酔は、麻酔剤の球後若しくは傍眼球注射による任意の種類の局所麻酔、又は全身麻酔であってよい。点眼薬の局所付与による局所麻酔又は麻酔剤の全省略は推奨されておらず、非常に好ましくない。好ましくは、全身麻酔は、筋弛緩薬の付与と組み合わせて行われる。球後ブロックを追加で注射し、かつ/又は眼に局所麻酔剤を滴下する必要があり得る。手術手順全体(麻酔、術前処置、術後処置及びSXL)は1〜3時間かかり得る。
【0104】
SXL治療は水平に安定させた患者に行われる。消毒は例えば、毛様体及び結膜への高度ケアをしつつポビドンヨード又は任意の他の消毒溶液を付与することにより行ってよい。一般的な手術用覆布を使用して患者を覆うが、眼は手術のためにアクセス可能なままにする。
【0105】
手術を行っている間は、間接検眼鏡検査法、黄色帯域フィルタ及び/又は手術用顕微鏡を使用することが可能である。
【0106】
消毒後、好ましくは開瞼器を眼瞼の下に挿入して、眼瞼を大きく開かせておく。開瞼器を使用しない手術は実現可能であるが好ましくない。以下のステップの間、人工涙液を眼の露出部分(角膜、強膜及び/又は結膜)に滴下する。検鏡により眼瞼を大きく開かせて維持した後、結膜をメス又は小型剪刀により切開し、結膜を角膜輪部から分離させる。小血管から出血した場合、出血を止め(例えば、熱治療−焼灼によって)、血液を取り除く。眼全体周りの結膜(眼瞼/眼の上部及び下部)の全切開及び角膜輪部からの結膜の完全分離が推奨される。切開寸法を小さくすることも可能であり、又は場合によって、結膜の一部(上部又は下部)のみを開放させることが必要な場合がある。これはSARS装置及び治療される強膜領域の形状及び構造に依存する。結膜の完全切開により、眼窩内のテノン嚢へのアクセスが可能になる。ここで、筋肉の後ろに糸を挿入することによって4つの眼直筋に輪を付け、これにより眼の操作及び配向を可能にする。場合によっては、眼筋又は眼全体を操作する必要がない場合もある。これは、挿入されるSARS装置の形状、構造及びサイズに依存する。SARSは、単純な形状の1つのみの比較的小さなスプーン状のアプリケータか、又は眼の解剖学的構造若しくは患者の要件及び/若しくは治療されなければならない病理に適合された、複雑な形状の2つ、3つ、若しくは4つのアプリケータ部分からなることができる。形状はさらに、治療される最小必要領域に適合されてもよい。アプリケータの種々の部分は、眼球周りのテノン嚢内に同時に導入され得、又は治療は続けて行われ得る。これは治療されなければならない強膜領域に依存する。SARSアプリケータのいくつかの部分の同時挿入により手術時間を減少させる。SARS装置の特定的に適合された形状により、望ましくない筋肉、大きな血管、周囲組織及び視神経の架橋を回避する。治療される患者それぞれに対してアプリケータの形状をカスタマイズできる。
【0107】
SARS装置の挿入及びその眼球への正確な配置後、物質付与を開始し、強膜は、例えば少なくとも20分間リボフラビンでインキュベートする(上述のように。種々のインキュベーション期間及びさまざまな濃度並びにリボフラビンと他の治療物質との混合物が可能である)。その他の治療物質を添加することによってインキュベーション時間を減少させることが可能である。
【0108】
このプレインキュベーション後、光照射を開始する(上記参照)。照射期間中、特定の治療法ではリボフラビン物質を交互に付与して使用済み/退色したリボフラビンを新しくする。使用済み又は余分なリボフラビンはSARS吸引チャネルにより吸引され得る。さらに、このSARS装置の物質付与及び吸引部分を使用して、種々の洗浄溶液でテノン嚢を洗浄することができる(上記参照)。SXL治療及び種々の物質による任意の洗浄期間の後、SARSアプリケータを眼窩から抜き出す。次いで、眼筋周りの糸も取り除かれるべきであり、結膜は縫合により外科的に閉鎖せねばならない。治療される患者の眼は局所的抗生物質、抗真菌剤及び/又はステロイド軟膏又は点眼薬を投薬してもよい。場合によって、この治療は必須ではない。眼にテープをして、眼帯、眼軟膏包帯及び/又はタンポナーデにより保護してもよい。手術後、患者は麻酔医の監督下におかれるべきであり、また眼科医に監視されるべきである。
【0109】
その他の態様、特徴及び利点は、図面及び請求の範囲を含む記述により明らかとなるであろう。
【0110】
本発明は図面及び前述の説明にて例示され、詳細に記述されているが、かかる例示及び記述は例示的又は代表的なものとみなされるべきであり、制限的なものではない。変化及び変更は、以下の請求の範囲の範囲内で当業者によってなされ得ることが理解されるであろう。特に、本発明は、上記及び以下に記述されるさまざまな実施形態の特徴を任意に組み合わせたさらなる実施形態を包含する。
【0111】
また、請求の範囲において、用語「含む」とは、他の要素又はステップを排除するものではなく、不定冠詞「1つの(a又はan)」は複数を排除するものではない。単一のユニットは請求の範囲に挙げられるいくつかの特徴の機能を実現することができる。属性又は値に関連する用語「本質的に」、「約」、「およそ」等も特に、まさにその属性又はまさにその値をそれぞれ定義するものである。請求の範囲中の任意の参照符号は、範囲を制限するものとしてみなすべできはない。
【実施例1】
【0112】
<ウサギ実験における外科手術>
リボフラビン/青色光コラーゲン架橋を行うために、動物を、塩酸ケタミン(50mg/kg体重、ケタミン5%、Ratiopharm、ウルム、ドイツ)及び塩酸キシラジン(10mg/kg体重、Rompun、Bayer Vital GmbH、レーヴァークーゼン、ドイツ)の筋肉注射により麻酔した。麻酔管理のために、塩酸ケタミン(25mg/kg体重)及び塩酸キシラジン(5mg/kg体重)を筋肉注射した。右眼のみ治療したが、反対の未治療の眼は個体の対照としての役割を果たす。手術中の角膜損傷を回避するために、左眼はFloxal(登録商標)眼軟膏(Dr.Gerhard Mann GmbH、ベルリン、ドイツ)で治療された。Conjuncainがさらに右眼の局所麻酔のために使用された。外眼角切開後、結膜を角膜輪部にて切開してテノン嚢を開放した。次いで、テノン嚢の上側頭側の4分の1を鈍的切開した。上直筋及び側直筋を広げ、5/0Prolene縫合糸(Ethicon、ノルシュテット、ドイツ)により固定することで、強膜治療中に、強膜をより良く露出させ、眼の位置をより容易に操作できる。その後、リボフラビン−5’−リン酸塩(0.5%ビタミンB2/PBS中(いかなるデキストラン混合物も含まない)、Streuli Pharma、ウツナッハ、スイス)を露出された強膜に5分毎に滴下し、確実にリボフラビンを強膜間質に完全に透過させた。20分間の浸漬後、側頭側の強膜に青色光(450±25nm)の異なる強度(10、25、50、100、200、400及び650mW/cm
2)のうち1つを、市販の歯科用光源(Bluephase 16i、Ivocar Vivadent GmbH、エルヴァンゲン−ヤークスト、ドイツ)を使用して20分照射し、リボフラビンの吸収極大(450nm)と合致させる。ここで、角膜及び網膜の照射は、角膜及び網膜組織に対する青色光の破壊特性のため避けなければならなかった。フルオロフォアの過剰な光退色を回避するために、リボフラビン滴を照射期間中ずっと5分毎に付与した。付与される光強度の調整(10mW/cm
2〜400mW/cm
2)は特注のポリプロピレンスペーシングチューブにより行われ、可視光センサ(LaserMate Q、Coherent Inc.、サンタクララ、カリフォルニア州、米国)と組み合わせて電力計で測定した。650mW/cm
2の光強度が、追加のスペーシングチューブなしで光源により実現された。照射後縫合糸が取り除かれ、結合組織を手術用吸収性縫合糸を使用して強膜に付着させた。最後に、手術用吸収性縫合糸で眼角切開を再適応させた。両眼を、結膜円蓋及び角膜に入れてFloxal(登録商標)眼軟膏(Dr.Gerhard Mann GmbH、ベルリン、ドイツ)で治療し、感染及び乾燥を防いだ。動物は目覚めるまで監視され、3週間ライプツィヒ大学のMedizinisch−Experimentelles Zentrumにて保管された。
【実施例2】
【0113】
<強膜組織におけるリボフラビン透過率の測定>
図7はさまざまな種の強膜パッチへのリボフラビンの全組織透過平均時間を示す。強膜組織パッチの片側へリボフラビンを付与し、蛍光顕微鏡によりモニタして反対側へすべて出てきたらこれを蛍光の極大として、透過時間を計算した。ウサギの強膜では10〜20分間だったのに対し、ヒトの強膜ではリボフラビンが透過するのにおよそ30〜40分かかる。冷凍された/解凍された強膜組織をこの実験に使用したが、結果は分離したばかりの(すなわち、冷凍していない)組織とほぼ同等であった。
【0114】
図8はさまざまな種の強膜組織の波長別光透過率特性を示す。光(最大500nm波長)のおよそ0.5〜1%のみが全種の強膜組織を透過する。リボフラビンの付与によって、最大530nmまでの波長ではリボフラビンの強い光吸収のためその波長での透過率をさらに低減させる。
【0115】
図9は、さまざまな種の、波長450nmでの分離したての強膜組織の光透過率特性を示す。光のおよそ0.5%のみが全種の強膜組織を透過する。リボフラビン(「Ribo」)の付与により、450nmではリボフラビンの強い光吸収のためその波長での伝達率をさらに低減させる。
【実施例3】
【0116】
<さまざまな種における強膜架橋の結果>
図10は、さまざまな種の強膜組織の寸法及び構造を比較するための組織学的半薄切片(0.5μm厚、トルイジンブルー染色)の光学顕微鏡画像を示す。A(マカク)の強膜のスケールバーは、Aにおけるすべての強膜切片に対して有効であり、強膜後部の厚さの差を示す。Bはさらに高い倍率での組織切片を示し、構造的な差を明らかにする。組織検査により、ウサギとヒトの強膜との大きな構造的類似点及び他の種と比較した際の差が明らかになった。B(マカク)の強膜のスケールバーはBにおけるすべての強膜切片に対して有効である。
【0117】
図11は、架橋治療をしている場合(C及びD)及び架橋治療をしていない場合(A及びB)の鋭的切開した(A)強膜組織及び冷凍された/解凍された(B〜D)強膜組織の形態的性質の比較を示す。顕微鏡写真は、光学顕微鏡(トルイジンブルー染色)により視覚化された強膜組織の組織学的半薄切片を示す。A:鋭的切開された未治療強膜組織は、非常に密集したコラーゲン線維束配置及びコラーゲン線維束間の線維芽細胞(矢印)の紡錘形楕円細胞体を特徴とする。B:解凍された(保管のため冷凍されていた)強膜組織は、鋭的切開された強膜組織に比べ緩い線維束構造及び回旋状線維束(アスタリスク)を示す。C:Bの未治療の解凍された組織と比べ、リボフラビン及び25mW/cm
2にて架橋治療した後、(解凍された)強膜組織の構造全体に劇的な変化は見られなかった。線維芽細胞の細胞体は腫脹して見え(矢印)、線維束構造は回旋している(アスタリスク)。D:リボフラビン及び200mW/cm
2の青色光で架橋治療した後、線維束構造がさらに緩み、コラーゲン線維束は強く回旋して見える。線維束間及び細線維間の空間が増大し(矢先)、多くのコラーゲン細線維が分離して見える。DのスケールバーはA〜Dに有効である。
【0118】
図12は、架橋治療をしている場合(C及びD)及び架橋治療をしていない場合(A及びB)の鋭的切開した(A)強膜組織及び冷凍された/解凍された(B〜D)強膜組織の電子顕微鏡写真を示す。A:鋭的切開された未治療強膜組織は、さまざまな配向の非常に密集したコラーゲン線維束配置(線維束の横断面が見える)を特徴とする。小さな細胞突起を有する線維芽細胞の紡錘形高電子密度細胞体(アスタリスク)はコラーゲン線維束間に位置し、細胞下構造は明瞭で無傷である。B:−20℃での保管及び解凍の結果、強膜組織の線維芽細胞(アスタリスク)は膨張し、破壊された細胞構造及び細胞膜を示す。コラーゲン細線維は無傷のようであるが、多くは線維束内で密集してまとまっている。C:リボフラビン及び25mW/cm
2にて架橋治療した後、Bの未治療の解凍された組織のように、強膜の線維芽細胞は同様に破壊された外観を示す。コラーゲン線維構造それ自体は無傷に見える。D:リボフラビン及び200mW/cm
2の青色光で架橋治療した後、コラーゲン線維束構造はやや緩んで見え、いくつかのコラーゲン細線維配置が破壊されて見える(矢先)。場合により、細線維間の空間は増大し(黒アスタリスク)、細胞構造(白アスタリスク)は破壊されて見える。DのスケールバーはA〜Dに有効である。
【符号の説明】
【0119】
1 眼
2 骨
3 筋連結
4 角膜縁
5 強膜
6 角膜
7 脈絡膜
8 網膜
100 装置
101 導入チャネル
102 キャリアプレート
103 ディフューザー
104 シャフト
105 導出チャネル
106 チャネル開口部
107 チャネル開口部
109 光ファイバ