(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6435105
(24)【登録日】2018年11月16日
(45)【発行日】2018年12月5日
(54)【発明の名称】ハイブリッドサブストレートヒューズエレメント
(51)【国際特許分類】
H01H 85/055 20060101AFI20181126BHJP
H01H 85/046 20060101ALI20181126BHJP
H01H 85/10 20060101ALI20181126BHJP
H01H 85/11 20060101ALI20181126BHJP
【FI】
H01H85/055
H01H85/046
H01H85/10
H01H85/11
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-52661(P2014-52661)
(22)【出願日】2014年3月14日
(65)【公開番号】特開2015-176770(P2015-176770A)
(43)【公開日】2015年10月5日
【審査請求日】2017年3月14日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成25年度、経済産業省、「戦略的基盤技術高度化支援事業」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504190548
【氏名又は名称】国立大学法人埼玉大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000201777
【氏名又は名称】双信電機株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】503417501
【氏名又は名称】株式会社宇都宮電機製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100104204
【弁理士】
【氏名又は名称】峯岸 武司
(72)【発明者】
【氏名】山納 康
(72)【発明者】
【氏名】勝又 信顕
(72)【発明者】
【氏名】堀内 大輔
(72)【発明者】
【氏名】石川 雄三
(72)【発明者】
【氏名】安藤 朗
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 康行
【審査官】
澤崎 雅彦
(56)【参考文献】
【文献】
特許第5116119(JP,B2)
【文献】
実開昭62−149146(JP,U)
【文献】
実開昭53−155031(JP,U)
【文献】
特開2007−165087(JP,A)
【文献】
特開平08−051261(JP,A)
【文献】
特開平10−241546(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01H 37/76
H01H 69/02
H01H 85/00 − 87/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気的絶縁性を有する長方形状をしたセラミック基板と、
前記基板の表面に銅ペーストが印刷されて焼成されることで形成された導電性薄膜とから構成され、
前記導電性薄膜は、
前記基板の両端部にそれぞれ配置されて前記基板の幅より若干短い幅の長方形状を有して第1の厚さに形成された一対の通電部と、
前記導電性薄膜が矩形窓状に除去されることで断面積が狭小にされた複数の狭小部が前記基板の幅方向において電気的に並列に配置されて並列遮断部が前記第1の厚さよりも薄い第2の厚さを有して短冊状に形成され、さらにこの並列遮断部が、前記第1の厚さを有して短冊状に形成された放熱部を交互に介して電気的に直列に配置されて、並列遮断点数が32で直列遮断点数が10に設定されて構成される、前記通電部と略同じ幅の長方形状をして一方の前記通電部に一端部がつながる大電流遮断部と、
前記大電流通電部の他端部に一端部がつながって配置され、前記通電部と同じ幅の長方形状を有して前記第1の厚さに形成された中継通電部と、
幅方向の中心が前記基板の幅方向の中心に一致して一端部が前記中継通電部の他端部につながり他端部が他方の前記通電部につながって配置され、遮断時に発生するアークを引き延ばしてアーク電圧を高める延べ板状に形成され、直列遮断点数および並列遮断点数が共に1個に設定されて、前記大電流遮断部が遮断する事故電流よりも小さく定格電流よりも大きな過電流を前記大電流遮断部よりも先に遮断する、前記大電流遮断部に直列に接続された小電流遮断部と
から構成され、
前記小電流遮断部の抵抗値は、前記小電流遮断部が前記大電流遮断部よりも先に前記過電流を遮断するように、前記大電流遮断部の抵抗値よりも所定割合高く設定され、
前記狭小部の最小断面積部における電流密度は、前記大電流遮断部が前記事故電流の遮断を担うように、前記小電流遮断部の最小断面積部における電流密度よりも所定割合高く設定され、
前記小電流遮断部を構成する前記導電性薄膜にくびれた最小断面積部が形成される
ハイブリッドサブストレートヒューズエレメント。
【請求項2】
前記小電流遮断部を構成する前記導電性薄膜の一部の表面に低融点金属が形成されていることを特徴とする請求項1に記載のハイブリッドサブストレートヒューズエレメント。
【請求項3】
前記小電流遮断部を構成する前記導電性薄膜は、厚さが一定で前記基板の表面に薄く広く形成されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のハイブリッドサブストレートヒューズエレメント。
【請求項4】
前記小電流遮断部は、ヒューズ端子に近い前記基板の端部に形成されることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のハイブリッドサブストレートヒューズエレメント。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気的絶縁性を有する基板の表面に導電性薄膜が形成されて構成されるサブストレートヒューズエレメントに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のサブストレートヒューズエレメントとしては、例えば、特許文献1に開示された電力用ヒューズに用いられるものや、特許文献2に開示されたヒューズリンクに用いられるものがある。
【0003】
特許文献1に開示された電力用ヒューズに用いられるサブストレートヒューズエレメントは、セラミック基板上に導電膜が印刷法によって積層されて形成され、積層数の多い複数の放熱部と、積層数の少ない複数の遮断部とが一体的に連続形成されて構成されている。遮断部は、複数の狭小部が並列に並べられ、さらにこれが直列に配置されて構成されている。このような構成をした遮断部は、電流−溶断時間特性が異なるように形成されたものが、同一のセラミック基板上において連続的に接続されて構成されることがある。
【0004】
また、特許文献2に開示されたヒューズリンクに用いられるサブストレートヒューズエレメントは、絶縁性基板の表面に形成された導電性薄膜のパターンからなる。この導電性薄膜のパターンは、複数個の遮断部狭小帯を並列配置した遮断部を、さらに直列に連結帯を介して交互に周期的に配列して、直列接続したパターンをなしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012−227077号公報
【特許文献2】特許第5116119号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1および特許文献2に開示された上記従来の各サブストレートヒューズエレメントは、交流電流を遮断する交流遮断には良好な結果を示すが、直流電流を遮断する直流遮断については、満足な結果が得られていない。近年、世界的な環境問題への関心の高まりや資源制約により、電動機を動力源とする電気自動車の開発が進められている。電気自動車の電源には直流の系統が用いられており、そのため、充分な通電容量を有し、事故時の短絡電流を異常なく遮断できると共に、定格電流を超える過電流に対しても所定の溶断時間−電流特性を有し、直流系統を確実に保護できるヒューズが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明はこのような課題を解決するためになされたもので、
電気的絶縁性を有する長方形状をしたセラミック基板と、
基板の表面に銅ペーストが印刷されて焼成されることで形成された導電性薄膜とから構成され、
導電性薄膜が、
基板の両端部にそれぞれ配置されて基板の幅より若干短い幅の長方形状を有して第1の厚さに形成された一対の通電部と、
導電性薄膜が矩形窓状に除去されることで断面積が狭小にされた複数の狭小部が基板の幅方向において電気的に並列に配置されて並列遮断部が第1の厚さよりも薄い第2の厚さを有して短冊状に形成され、さらにこの並列遮断部が、第1の厚さを有して短冊状に形成された放熱部を交互に介して電気的に直列に配置されて、
並列遮断点数が32で直列遮断点数が10に設定されて構成される、通電部と略同じ幅の長方形状をして一方の通電部に一端部がつながる大電流遮断部と、
大電流通電部の他端部に一端部がつながって配置され、通電部と同じ幅の長方形状を有して第1の厚さに形成された中継通電部と、
幅方向の中心が基板の幅方向の中心に一致して一端部が中継通電部の他端部につながり他端部が他方の通電部につながって配置され
、遮断時に発生するアークを引き延ばしてアーク電圧を高める延べ板状に形成され、直列遮断点数および並列遮断点数が共に1個に設定されて、大電流遮断部が遮断する事故電流よりも小さく定格電流よりも大きな過電流を大電流遮断部よりも先に遮断する、大電流遮断部に直列に接続された小電流遮断部と
から構成され、
小電流遮断部の抵抗値が、小電流遮断部が大電流遮断部よりも先に過電流を遮断するように、大電流遮断部の抵抗値よりも所定割合高く設定され、
狭小部の最小断面積部における電流密度が、大電流遮断部が事故電流の遮断を担うように、小電流遮断部の最小断面積部における電流密度よりも所定割合高く設定され、
小電流遮断部を構成する導電性薄膜
にくびれた最小断面積部が形成さ
れる
ハイブリッドサブストレートヒューズエレメントを構成した。
【0008】
本構成によれば、定格電流よりも大きな過電流は、大電流遮断部に直列に接続される小電流遮断部によって大電流遮断部に先んじて遮断され、過電流よりも大きな事故電流は、大電流遮断部により、または大電流遮断部と小電流遮断部との双方により、遮断される。このため、充分な通電容量を有し、事故時の短絡電流を異常なく遮断できると共に、定格電流を超える過電流に対しても遮断でき、直流系統を確実に保護できるヒューズが提供される。
【0010】
本構成によれば、小電流遮断部の抵抗値が大電流遮断部の抵抗値よりも所定割合高く設定されることで、過電流に対して所定の溶断時間−電流特性が得られると共に、小電流遮断部が大電流遮断部よりも確実に先に溶断して過電流を遮断する。また、狭小部の最小断面積部における電流密度が小電流遮断部の最小断面積部における電流密度よりも所定割合高く設定されることで、急激に電流値が上昇する事故電流の発生に応じて狭小部が率先して溶断して発弧し、大電流遮断部において電流遮断が速やかに行われて、事故電流は確実に限流されて遮断される。
【0012】
本構成によれば、小電流遮断部ではくびれた最小断面積部の発熱量が高く、過電流発生時における小電流遮断部の溶断時間は、延べ板状に形成される小電流遮断部におけるこの最小断面積部の形成位置により、制御することができる。すなわち、小電流遮断部における最小断面積部の形成位置がヒューズの中心に近寄ると、ヒューズ内の熱が逃げ難い熱分布が形成され、小電流遮断部の高温領域において速く発弧温度に達して、小電流遮断部の溶断時間は短くなる傾向になる。また、小電流遮断部における最小断面積部の形成位置がヒューズの中心から離れると、ヒューズ内の熱が放散し易い熱分布が形成されて、小電流遮断部の高温領域が発弧温度に達するのに時間がかかり、小電流遮断部の溶断時間は長くなる傾向になる。
【0013】
また、本発明は、小電流遮断部を構成する導電性薄膜の一部の表面に低融点金属が形成されていることを特徴とする。
【0014】
本構成によれば、低融点金属が形成された導電性薄膜の部分は、溶断時に低融点金属と合金化されて融点が低下するため、過電流発生時における小電流遮断部の溶断時間は、低融点金属の種類や、小電流遮断部におけるこの低融点金属の形成位置により、制御することができる。
【0015】
また、本発明は、小電流遮断部を構成する導電性薄膜が、厚さが一定で基板の表面に薄く広く形成されていることを特徴とする。
【0016】
本構成によれば、小電流遮断部を構成する導電性薄膜に発生する熱は、基板に速やかに伝わり、小電流遮断部の放熱性が向上する。このため、小電流遮断部の溶断時間は、小電流域における過電流に対しては長くなり、大電流域における事故電流に対しては、基板への熱の伝導が断熱状態で電流遮断が行われるために短くなり、ヒューズエレメントの溶断時間特性は速応型になる。
【0017】
また、本発明は、小電流遮断部が、ヒューズ端子に近い基板の端部に形成されることを特徴とする。
【0018】
本構成によれば、小電流遮断部を構成する導電性薄膜に発生する熱は、ヒューズ端子に速やかに伝わり、小電流遮断部の放熱性が向上する。このため、本構成によっても、小電流遮断部の溶断時間は、小電流域における過電流に対しては長くなり、ヒューズエレメントの溶断時間特性を速応型にする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、充分な通電容量を有し、事故時の短絡電流を異常なく遮断できると共に、定格電流を超える過電流に対しても遮断でき、直流系統を確実に保護できるヒューズが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】(a)は、本発明の一実施の形態によるハイブリッドサブストレートヒューズエレメントを示す平面図、(b)は一部拡大図である。
【
図2】(a)は、一実施の形態によるハイブリッドサブストレートヒューズエレメントを備えたヒューズリンクの一部破断平面図、(b)は一部破断側面図である。
【
図3】一実施の形態によるハイブリッドサブストレートヒューズエレメントを備えたヒューズリンクについて行った直流遮断試験の試験回路図である。
【
図4】上記の直流遮断試験の試験結果を示し、(a)は遮断電圧波形、(b)は遮断電流波形を示すグラフである。
【
図5】上記の直流遮断試験結果をまとめた図表である。
【
図6】一実施の形態によるハイブリッドヒューズエレメントを備えたヒューズリンクについて行った溶断時間試験結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
次に、本発明によるハイブリッドサブストレートヒューズエレメントを電気自動車における駆動回路の保護用ヒューズに適用した一実施の形態について説明する。
【0022】
図1(a)は、この一実施の形態による定格電圧450V、定格電流40Aのハイブリッドサブストレートヒューズエレメント1を示す平面図である。
【0023】
ハイブリッドサブストレートヒューズエレメント1は、電気的絶縁性を有するセラミック基板2上に形成された導電性薄膜3から構成される。本実施の形態では、セラミック基板2は、厚さ1mm、幅9mm、長さ40mmの外形寸法をしている。導電性薄膜3は、セラミック基板2の表面に銅ペーストが印刷されて焼成されることで図示するパターンに形成され、溶断特性および遮断特性が互いに異なる大電流遮断部(以下、P部と記す)4と小電流遮断部(以下、I部と記す)5とが通電部6を介して直列に接続されて、構成される。通電部6の厚さは100μmに設定されている。
【0024】
同図(b)はP部4の一部拡大図を示し、本実施の形態では、P部4には、断面積が狭小にされた狭小部4aが32個電気的に並列に配置されて、並列遮断部4bが形成されている。P部4は、この並列遮断部4bが放熱部4cを介してさらに10個電気的に直列に配置されて、構成される。したがって、P部4の直列遮断点数(S)は10S、並列遮断点数(P)は32Pになっている。並列遮断部4bの厚さは40μmに設定され、放熱部4cの100μmの厚さよりも薄く形成されている。
【0025】
I部5は、25μmの厚さで、通電方向の長さLの大きい延べ板状に形成され、P部4が遮断する事故電流よりも小さく定格電流よりも大きな過電流を、後述するようにP部4よりも先に遮断する。通電方向の長さLが大きいのは、遮断時に発生するアークを引き延ばし、アーク電圧を高める手法が、直流の遮断においても有効であると考えられるからである。I部5の直列遮断点数(S)は1S、並列遮断点数(P)は1Pである。このI部5は、平面視、単純な矩形型形状をしておらず、くびれた最小断面積部5aが形成されてバタフライ型形状をしている。また、I部5は、厚さが一定で、セラミック基板2の表面に薄く広く形成されている。くびれは、最小断面積部5aの幅w2が矩形型の幅w1より所定の割合で絞られて形成されており、このくびれによって減った断面積に相当する分、つまり抵抗値が増加した分、周辺部の幅w1が広く形成されている。本実施の形態では、幅w1が6mm、幅w2が5.4mmに設定されている。
【0026】
I部5の抵抗値は、I部5がP部4よりも先に過電流を遮断するように、P部4の抵抗値よりも所定割合高く設定される。本実施の形態では、P部4とI部5の抵抗値比は2:3に設定されている。また、狭小部4aの最小断面積部における電流密度は、P部4が事故電流の遮断を担うように、I部5の最小断面積部5aにおける電流密度よりも所定割合高く設定される。本実施の形態では、P部4とI部5のこの電流密度比は1.3:1に設定されている。
【0027】
上記のハイブリッドサブストレートヒューズエレメント1は、
図2に示すように、セラミック筒7の内部に収容されることで、ヒューズリンク8を構成する。同図(a)はヒューズリンク8の一部破断平面図、同図(b)は一部破断側面図である。セラミック筒7は直径25mmの中空円筒形状をしており、内部には消弧剤9が充填されて、両端部がキャップ10,10で塞がれている。ハイブリッドサブストレートヒューズエレメント1は、その両端部の通電部6,6に銅板からなるヒューズ端子11,11が半田付けされ、このヒューズ端子11,11がキャップ10,10の挿入口に圧入されて、セラミック筒7の内部に収容されている。従って、ハイブリッドサブストレートヒューズエレメント1におけるI部5は、一方のヒューズ端子11に近いセラミック基板2の端部に位置することとなる。
【0028】
このように構成されるヒューズリンク8について、直流遮断試験を行った。この直流遮断試験は
図3に示す試験回路で行い、合成容量が0.147Fの直列接続した3個のコンデンサC
0を充電し、スイッチSWを閉じることで、供試ヒューズ(Test Fuse)となるヒューズリンク8にコンデンサC
0の放電電流を供給した。供試ヒューズには、インダクタンス0.394mHのインダクタL
0と、直流抵抗値223mΩの抵抗R
0とが直列接続されており、遮断後の回復電圧が約500Vに設定されている。この試験回路により、ヒューズリンク8には、立ち上がり時間2.0±0.5msで、固有電流値約2200Aの直流減衰電流が供給される。このときの供試ヒューズに発生する電圧Vaを測定すると共に、供試ヒューズに流れる電流Iaをシャント抵抗R
shで測定した。
【0029】
図4はこの直流遮断試験結果を示し、同図(a)は遮断電圧波形、同図(b)は遮断電流波形を示すグラフである。これら各グラフの横軸は時間(Time)[ms]、縦軸は電圧(Voltage)[V]および電流(Current)[A]である。また、○印のプロットは試験回路のスイッチSWを投入した投入時間、△印のプロットはハイブリッドサブストレートヒューズエレメント1の溶断が開始した溶断時、◇印のプロットは遮断が完了した遮断時を示している。
【0030】
○印の投入時間から約1.808ms後の△印で示す溶断時に、P部4の狭小部4aが溶断することで、同図(a)の遮断電圧波形のグラフに示すように電圧が急峻に上昇している。そして、最大電圧値(動作過電圧)が1313V、最大電流値(限流値)が1456.8Aとなり、その後、同図(b)の遮断電流波形のグラフに示すように電流が急激に減少して、◇印の遮断時に電流遮断が完了していることが、各グラフから把握される。また、遮断後の回復電圧が約500Vになっていることも、遮断電圧波形のグラフから把握される。遮断後のヒューズリンク8の全ての絶縁体には外見上の変化、損傷がないことから、良好な遮断が行われたものと言える。また、遮断後のハイブリッドサブストレートヒューズエレメント1におけるP部4およびI部5には、消弧剤9が溶けて固まったフルグライトが付着していることにより、設計の狙い通り、P部4およびI部5の双方が事故電流の遮断に寄与していることが確認された。
【0031】
図5は、上記の遮断試験結果をまとめた図表である。この図表に示されるように、本試験に供された定格電流40Aの試作No.1のヒューズリンク8は、抵抗値が5.75mΩであった。また、上述のように動作過電圧が1313V、限流値が1456.8Aであった。また、遮断が完了するまでの電流エネルギーに相当する動作I
2t値は2179.8A
2sであり、その内訳は、溶断時までの電流エネルギーに相当する溶断I
2t値が1474.7A
2s、アークの発生時における電流エネルギーに相当するアークI
2t値が705.1A
2sであった。また、遮断が完了するまでの動作時間は3.824msであり、その内訳は、溶断時までの時間である溶断時間が1.808ms、アークの発生している時間であるアーク時間が2.016msであった。また、遮断後におけるヒューズ端子11,11間の絶縁抵抗は100MΩ以上であり、遮断の良否は良と判定された。
【0032】
また、本実施の形態のヒューズリンク8について、溶断時間試験も行った。この溶断時間試験は、日本自動車技術会規格(JASO規格)の電装規格No.D622−11「ねじ締め型高電圧ヒューズ」で指定されている電流を通電し、溶断までの時間を測定することで、行った。
【0033】
図6はこの溶断時間試験結果を示すグラフである。同グラフの横軸は通電電流(Current)[A]、縦軸は溶断時間(Pre-arching time)[s]である。また、◇印のプロットを結ぶ溶断時間特性線21は、定格電流40AのヒューズについてJASO規格で定められている規定最小時間、□印のプロットを結ぶ溶断時間特性線22は、定格電流40AのヒューズについてJASO規格で定められている規定最大時間、△印のプロットを結ぶ溶断時間特性線23は、本試験に供された定格電流40Aの試作No.2のヒューズリンク8の溶断時間を表している。
【0034】
同グラフから理解されるように、本実施の形態によるヒューズリンク8の溶断時間−電流特性は、JASO規格で要求される溶断時間特性の上限と下限の範囲内に収まっていることが、確認された。
【0035】
このような本実施の形態によるハイブリッドサブストレートヒューズエレメント1によれば、定格電流よりも大きな過電流は、P部4に直列に接続されるI部5によってP部4に先んじて遮断され、過電流よりも大きな事故電流は、P部4により、またはP部4とI部5との双方により、遮断される。このため、充分な通電容量を有し、事故時の短絡電流を異常なく遮断できると共に、定格電流を超える過電流に対しても遮断でき、直流系統を確実に保護できるヒューズリンク8が提供される。
【0036】
また、本実施の形態によるハイブリッドサブストレートヒューズエレメント1によれば、I部5の抵抗値がP部4の抵抗値よりも所定割合高く設定されることで、過電流に対して所定の溶断時間−電流特性が
図6のグラフに示すように得られると共に、I部5がP部4よりも確実に先に溶断して過電流を遮断する。また、狭小部4aの最小断面積部における電流密度が、I部5の最小断面積部5aにおける電流密度よりも所定割合高く設定されることで、急激に電流値が上昇する事故電流の発生に応じて狭小部4aが率先して溶断して発弧し、P部4において電流遮断が速やかに行われて、事故電流は確実に限流されて遮断される。
【0037】
また、I部5ではくびれた最小断面積部5aの発熱量が高く、過電流発生時におけるI部5の溶断時間は、延べ板状に形成されるI部5におけるこの最小断面積部5aの形成位置により、制御することができる。すなわち、I部5における最小断面積部5aの形成位置がヒューズリンク8の中心に近寄ると、ヒューズリンク8内の熱が逃げ難い熱分布が形成され、I部5の高温領域が速く発弧温度に達して、I部5の溶断時間は短くなる傾向になる。また、I部5における最小断面積部5aの形成位置がヒューズリンク8の中心から離れると、ヒューズリンク8内の熱が放散し易い熱分布が形成されて、I部5の高温領域が発弧温度に達するのに時間がかかり、I部5の溶断時間は長くなる傾向になる。
【0038】
また、I部5は、厚さが一定で、セラミック基板2の表面に薄く広く形成されているので、I部5を構成する導電性薄膜3に発生する熱は、セラミック基板2に速やかに伝わり、I部5の放熱性が向上する。このため、I部5の溶断時間は、小電流域における過電流に対しては長くなり、大電流域における事故電流に対しては、セラミック基板2への熱の伝導が断熱状態で電流遮断が行われるために短くなる。したがって、ハイブリッドヒューズエレメント1の溶断時間特性は、
図6のグラフに示すように、溶断時間特性線23が立ち上がった速応型になる。
【0039】
また、I部5は、ヒューズ端子11に近いセラミック基板2の端部に位置するので、I部5を構成する導電性薄膜3に発生する熱は、ヒューズ端子11に速やかに伝わり、I部5の放熱性が向上する。このため、本構成によっても、I部5の溶断時間は、小電流域における過電流に対しては長くなり、ハイブリッドヒューズエレメント1の溶断時間特性を速応型にする。
【0040】
なお、上記の実施の形態において、I部5を構成する導電性薄膜3の一部の表面に、錫等の低融点金属を形成するように、構成してもよい。例えば、I部5の適切な箇所の幅方向表面に、スリット状に錫メッキを施して構成する。本構成によれば、低融点金属が形成された導電性薄膜3の部分は、溶断時に低融点金属と合金化されて融点が低下するため、過電流発生時におけるI部5の溶断時間は、低融点金属の種類や、I部5におけるこの低融点金属の形成位置により、制御することができる。このため、このような制御によってI部5の溶断時間を短くし、ヒューズリンク8の筒7の温度上昇を抑制することで、筒7の材質をセラミックから安価なFRP等に変更することが可能になる。
【産業上の利用可能性】
【0041】
上記の実施の形態では、本実施の形態によるハイブリッドサブストレートヒューズエレメント1を電気自動車における駆動回路の保護ヒューズに用いた場合について説明した。しかし、本発明はこのような用途に限定されることはなく、例えば、車両用充電機器の保護用や、送発電用大容量システムの保護用、太陽電池等の分散型電源における直流給配電システムの保護用、半導体保護用などのヒューズにも、同様に適用することができる。さらに、電圧・電流の高い電車用ヒューズや、データセンターにおける直流用ヒューズなどにも、同様に適用することができる。また、本実施の形態によるハイブリッドサブストレートヒューズエレメント1は、直流遮断用ヒューズに適用した場合について説明したが、交流遮断用ヒューズにも同様に適用することができる。そして、このような各ヒューズに本発明を適用した場合においても、上記の実施形態と同様な作用効果が奏される。
【符号の説明】
【0042】
1…ハイブリッドサブストレートヒューズエレメント
2…セラミック基板
3…導電性薄膜
4…大電流遮断部(P部)
5…小電流遮断部(I部)
6…通電部
7…セラミック筒
8…ヒューズリンク
9…消弧剤
10…キャップ
11…ヒューズ端子