(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。添付図面では、機能的に同じ要素は同じ番号で表示される場合もある。なお、添付図面は本発明の原理に則った具体的な実施の形態と実装例を示しているが、これらは本発明の理解のためのものであり、決して本発明を限定的に解釈するために用いられるものではない。
以下で説明する実施の形態では、当業者が本発明を実施するのに十分詳細にその説明がなされているが、他の実装・形態も可能で、本発明の技術的思想の範囲と精神を逸脱することなく構成・構造の変更や多様な要素の置き換えが可能であることを理解する必要がある。したがって、以降の記述をこれに限定して解釈してはならない。
【0010】
−−−第1の実施の形態−−−
図1は、本発明の第1の実施の形態による、電子制御装置の一例を模式的に示した斜視図である。
図2は、第1の実施の形態の電子制御装置1から、説明のために後述する樹脂製カバー3のみを取り除いた状態を示す斜視図である。
図3は、樹脂製カバー3の内側を示す斜視図である。説明の便宜上、本実施の形態では各図に記載したように上下方向を規定する。
【0011】
図1〜3に示されるように、第1の実施の形態の電子制御装置1は、金属製ベース2と、金属ベース2の上部に取り付けられる樹脂製カバー3と、コネクタピン4と、回路基板6とを備えている。電子制御装置1では、金属製ベース2と、樹脂製カバー3とによって、回路基板6を収納する箱状のケースが形成されている。金属製ベース2と樹脂製カバー3とは、四隅で不図示のねじによって固定されるとともに、金属製ベース2と樹脂製カバー3との接触部が不図示の防水接着剤で接着されている。
【0012】
図3に示すように、樹脂製カバー3は、略方形状の下部開口3dを有する蓋状の部材であり、たとえば熱可塑性樹脂で形成されていて、あらかじめ、コネクタの端子である、L字形状を呈する複数のコネクタピン4と一体的に成形されている。なお、
図2では、説明のために、電子制御装置1から樹脂製カバー3のみを取り除いているが、実際には、コネクタピン4は、樹脂製カバー3と一体成形されたうえ、回路基板4に実装される。
【0013】
樹脂製カバー3の天井部3aは、回路基板6の上面を覆う覆い部である。天井部3aには、上方に向かって凹んでいる凹部3cが設けられている。コネクタピン4は、凹部3cの側面3bから外部に突出している。天井部3aの周囲には、下方に延在された周側部3eが設けられている。周側部3eの内側における天井部3aの内面3a1には、軸状部材である基板固定部7が下方に向かって突出して形成されている。基板固定部7は、樹脂製カバー3に一体成形された回路基板6の保持部であり、天井部3aの4つの角部に設けられている。
【0014】
図4は基板固定部7の近傍の斜視図であり、
図5は
図3のV−V矢視断面図であり、
図6は基板固定部7の縦断面図である。基板固定部7は、第1軸状部71と、第2軸状部72と、径変化部73と、溝部74とを備えている。第1軸状部71は、基板固定部7の基端側、すなわち基板固定部7の上端側の部位であり、樹脂製カバー3の天井部3aの内面3a1に立設されていて、下端に径変化部73が設けられている。第2軸状部72は、基板固定部7の先端側、すなわち、基板固定部7の下端側の部位であり、第1軸状部71よりも径が小さく、後述するように、回路基板6の貫通孔6aに挿通される部位である。
【0015】
径変化部73は、第1軸状部71の下端に設けられた略球面状を呈する部位であり、下方に向かうにつれて径が小さくなるように形成されている。径変化部73の頂部73aには、第2軸状部72が立設されている。溝部74は、樹脂製カバー3の天井部3aに対して、第1軸状部71の基端の周囲に設けられた溝である。第1軸状部71の基端に溝部74を設けることで、第1軸状部71の基端を天井部3aの内面3a1よりも上方に設けることができ、溝部74を設けない場合に比し、第1軸状部71の長さを長くすることができる。つまり、溝部74を設けることで、径変化部73の頂部73aから天井部3aの内面3a1までの距離を変えなくても、第1軸状部71の長さを溝部74を設けない場合よりも長くすることができる。
なお、後述するように、回路基板6には、回路基板6の周縁部で各基板固定部7に対応する位置に、第2軸状部72を挿通する取付用の貫通孔6a(
図8参照)が設けられている。
【0016】
電子制御装置1と外部との間では、回路基板6に接続されたコネクタピン4を介して、電力や制御信号の送受信が行われる。回路基板6には、電子部品5が搭載されている。電子部品5が搭載された回路基板6は、基板固定部7で樹脂製カバー3に後述するように固定されている。
【0017】
このような電子制御装置1を組み立てる場合、まず、電子部品5をはんだ等の不図示の接続材により回路基板6に電気的、かつ熱的に接続する。ここで電気的に接続するとは、通電できる状態を示す。また熱的に接続するとは、伝熱できる状態を示す。
【0018】
図7〜11を参照して、樹脂製カバー3に回路基板6を固定する過程を説明する。
図7は、樹脂製カバー3の下部開口3d側から見た斜視図である。上述したように、樹脂製カバー3は、あらかじめ、コネクタの端子である、L字形状を呈する複数のコネクタピン4と一体的に成形されている。コネクタピン4の一端は、
図1に示すように樹脂製カバー3の側面3bから樹脂製カバー3の外側へ向かって突出し、他端は、
図7に示すように樹脂製カバー3の下部開口3dに向かって突出している。すなわち、樹脂製カバー3は、コネクタピン4のハウジング3mとしての役割を有している。換言すると、樹脂製カバー3はコネクタピン4のハウジング3mと一体的に形成されていて、コネクタピン4とハウジング3mとによってコネクタが形成されている。樹脂製カバー3の内側には、すなわち樹脂製カバー3の天井部3aの内面3a1には、上述した基板固定部7が設けられている。
【0019】
回路基板6を下部開口3dから樹脂製カバー3に装着して固定する。このとき、
図8に示すように、回路基板6の貫通孔6aに基板固定部7の第2軸状部72を挿入する。このとき、同時に、回路基板6のスルーホール6bにコネクタピン4の他端を挿入する。回路基板6の貫通孔6aの径は、第2軸状部72に径より僅かに大きく、第1軸状部71の径よりもかなり小さく形成されている。第2軸状部72に挿入した回路基板6は、径変化部73に当接し、挿入が規制される。この状態で、第2軸状部72は、先端側が回路基板6の下面(第2軸上部72の挿入側とは反対面)から突き出す長さとされている。
【0020】
そして、回路基板6の貫通孔6aから突出している基板固定部7の第2軸状部72に、たとえば加熱された冶具を押し当てる、いわゆる熱かしめにて、
図9〜11に示すように、回路基板6を樹脂製カバー3に固定する。これにより、第2軸状部72の先端は熱で変形し、回路基板6の下面で貫通孔6aの径よりも径が大きくなる。熱かしめによる変形後の第2軸状部72の先端を熱変形部72aと呼ぶ。
【0021】
図10は、
図9のX−X矢視断面図であり、
図11は、熱かしめ後の基板固定部7の縦断面図である。
図11に示すように、熱かしめにて回路基板6を樹脂製カバー3に固定した状態では、回路基板6の上面が、基板固定部7の径変化部73の頂部73aと当接し、回路基板6の下面が、基板固定部7の熱変形部72aと当接する。上述したように、径変化部73は球面形状とされている。このため、回路基板6の下面と、基板固定部7の径変化部73の頂部73aとの接触は、平面と球面との接触であり、面と面との接触ではない。このようにして、回路基板6が基板固定部7に固定される。
【0022】
熱かしめにて回路基板6を樹脂製カバー3に固定することで、回路基板固定用のボルトやバネ座金等が不要となる。なお、たとえば、第2軸状部72に雄ネジを形成し、ナットを螺合させることで回路基板6を樹脂製カバー3に固定してもよい。
【0023】
回路基板6を樹脂製カバー3に固定した後、コネクタピン4の他端と回路基板6とを、はんだ等の接続材等で電気的に接続する。はんだを用いる場合は、スポットフロー工法などではんだ付けするとよい。その後、金属製ベース2に、樹脂製カバー3を防水接着剤(図示せず)で接着し、金属製ベース2と樹脂製カバー3とを不図示のねじによって固定すると、電子制御装置1が完成する。
【0024】
コネクタピン4は、自動車のエンジンやステアリング等、被制御装置と接続するハーネスケーブルで接続される。
【0025】
電子制御装置1が高温環境や低温環境に繰り返し曝された際、電子制御装置1を構成する各部材の熱膨張係数が異なるため、各部材の接続部に熱膨張差によって歪み、熱変形を生じる。樹脂製カバー3が熱によって変形すると、回路基板6には、基板固定部7を介して回路基板6を変形させようとする力である変形力が加わる。回路基板6と樹脂製カバー3とが面同士で接触して固定されていると、上記変形力が回路基板6に伝わりやすくなる。樹脂製カバー3の熱変形に起因して回路基板6に作用する変形力が増大すると、回路基板6が不所望に変形してしまうため、回路基板6に搭載される電子部品5の接続材であるはんだに生じる応力が増大する。
【0026】
また、回路基板6自体も熱によって
図12に誇張して図示したように反ったり、ねじれたりするように変形しようとする。そのため、回路基板6と樹脂製カバー3とが面同士で接触して固定されていると、樹脂製カバー3が回路基板6の変形を抑制してしまう。回路基板6自体の熱変形が抑制されてしまうと、回路基板6に搭載される電子部品5の接続材であるはんだに生じる応力が増大する。
【0027】
そこで、本実施の形態では、樹脂製カバー3に生じる熱変形に起因して基板固定部7を介して回路基板6に作用する変形力を抑制するために、および、回路基板6に生じる熱変形を許容するために、樹脂製カバー3と回路基板6との姿勢の変化を許容するように基板固定部7を構成した。すなわち、本実施の形態では、回路基板6に搭載される電子部品5の接続材であるはんだに生じる応力を抑制するために、樹脂製カバー3と回路基板6との姿勢の変化を許容するように基板固定部7を構成した。
【0028】
具体的には、基板固定部7に径変化部73を設け、回路基板6が天井部3aの内面3a1から離間した状態で樹脂製カバー3に固定されるように構成した。これにより、回路基板6と天井部3の内面3a1とが面同士で接触しなくなるので、樹脂製カバー3と回路基板6との姿勢の変化が許容される。したがって、樹脂製カバー3の熱変形によって天井部3aがねじれたり反ったりしても、回路基板6に対して変形力が作用し難くなる。また、回路基板6に熱変形が生じても、その熱変形が樹脂製カバー3によって拘束され難くなる。
【0029】
また、径変化部73を球面状に形成した。これにより、回路基板6と頂部73aとの当接部分が線状となり、基板固定部7と回路基板6とのねじれが許容されるので、樹脂製カバー3の熱変形によって天井部3aがねじれたり反ったりして、基板固定部7が回路基板6に対してねじれても、回路基板6に対して変形力が作用し難くなる。また、回路基板6に熱変形が生じても、その熱変形が基板固定部7で拘束され難くなる。
【0030】
また、第1軸状部71を天井部3aから立設させて、第1軸状部71の先端側で回路基板6を保持するように構成した。これにより、第1軸状部71が撓むことで、樹脂製カバー3と回路基板6との姿勢の変化が許容される。したがって、樹脂製カバー3の熱変形によって天井部3aがねじれたり反ったりしても、回路基板6に対して変形力が作用し難くなる。また、回路基板6に熱変形が生じても、その熱変形が樹脂製カバー3によって拘束され難くなる。
【0031】
また、第1軸状部71の基端の周囲に溝部74を設けた。これにより、上述したように、第1軸状部71の基端を天井部3aの内面3a1よりも上方に設けることができ、溝部74を設けない場合に比し、第1軸状部71の長さを長くすることができる。つまり、電子制御装置1の大きさを大きくすることなく、第1軸状部71の長さを長くすることができる。第1軸状部71の長さを長くすることで、第1軸状部71が撓み易くなるので、樹脂製カバー3の熱変形によって天井部3aが反ったりねじれたりしても、回路基板6に対して変形力がより一層作用し難くなる。また、回路基板6に熱変形が生じても、その熱変形が樹脂製カバー3によってより一層拘束され難くなる。
【0032】
上述したように、本実施の形態では、樹脂製カバー3と回路基板6との姿勢の変化が許容されるように各部を構成したので、樹脂製カバー3の熱変形によって天井部3aがねじれたり反ったりしても、回路基板6に対して変形力が作用し難くなる。また、回路基板6に熱変形が生じても、その熱変形が樹脂製カバー3によって拘束され難くなる。これにより、回路基板6に電子部品5を接続するはんだ等の接続材のひずみの変動幅が抑制できるので、電子制御装置1の熱疲労寿命を向上でき、電子制御装置1の信頼性を向上できる。
【0033】
基板固定部7の構造が単純であるので、電子制御装置1のコスト増を抑制できるとともに、電子制御装置1の小型化、軽量化に貢献できる。
【0034】
すなわち、樹脂製カバー3に設けた基板固定部7の径変化部73で回路基板6の上面に当接して回路基板6を天井部3aの内面3a1から離間させ、熱かしめによる熱変形部72aで回路基板6の下面に当接することで回路基板6の下方への移動を規制するように構成したので、電子制御装置1のコスト増を抑制できるとともに、電子制御装置1の小型化、軽量化に貢献できる。
【0035】
<第1の実施の形態に基づく実施例>
(i)実施例1として、電子部品5にはリード形状端子を有するASICを用い、組成がSn(錫)−3.0Ag(銀)−0.5Cu(銅)(単位:wt%)である、はんだを用いてASICのリードを回路基板6に接続した。回路基板6として、200mm×200mm、厚さ1.6mmで、面内方向の等価熱伝導率が40W/mK、垂直方向の等価熱伝導率が0.4W/mKのFR4(プリント基板)を用いた。金属製ベース2として、組成がADC12の鍛造品を用いた。コネクタピン4として銅を用いた。実施例1の外観、および各部の構造は、上述した
図1〜10に示すとおりである。
【0036】
比較例1として、
図13に示すように、天井部3aの内面3a1から一段下方に下がった平面状の基板保持面3fに回路基板6の上面が面で当接して固定されるように構成した樹脂製カバー301を用いる。基板保持面3fには、基板固定部700が設けられている。基板固定部700は、基板保持面3fに立設された軸状部材であり、その直径は、上述した実施の形態の第2軸状部71と同じである。その他の樹脂製カバー301の構造は、上述した実施の形態と同じである。また、回路基板6は、実施例1と同じである。
【0037】
実施例1と比較例1とについて、雰囲気温度を一定周期で変化させる、いわゆる温度サイクル試験にて、はんだ接続部の熱疲労寿命を比較した。該温度サイクル試験では、下限保持温度を−40℃、上限保持温度を120℃として、上限温度と下限温度の保持時間をそれぞれ30分とした。
【0038】
図14に、実施例1と比較例1のそれぞれの筐体を採用した電子制御装置における、電子部品5のリードと回路基板6間のはんだ接続部の熱疲労寿命を示した。
図14に示すように、実施例1のはんだ接続部の熱疲労寿命は、比較例1のはんだ接続部の熱疲労寿命より16%程度長かった。
【0039】
実施例1の樹脂製カバー3を用いた電子制御装置1の回路基板6では、比較例1の樹脂製カバー301を用いた電子制御装置の回路基板6に比べて、高温、低温環境とも、基板固定部7近傍の回路基板6の曲率が小さかった。すなわち、実施例1の電子制御装置1では、樹脂製カバー3が回路基板6自体の熱変形を抑制せず、基板固定部7近傍の回路基板6の反りやねじれが比較例1よりも大きくなった。
【0040】
すなわち、樹脂製カバー3の主面である天井部3aの内面3a1が回路基板6と所定距離離れた状態で固定する実施例1では、比較例1に比べて、回路基板6の反りやねじれが生じやすく、すなわち、回路基板6の厚さ方向に変形し易く、回路基板6の曲率半径が小さかった。また周囲に凹部、すなわち溝部74を有する基板固定部7の第1軸状部71は、比較例1の基板固定部700に比べて変形し易かった。その結果、回路基板6に搭載される電子部品5の接続材であるはんだに生じるひずみの変動幅、すなわちひずみの振幅値が小さくなった。
【0041】
この結果より、電子制御装置1の樹脂製カバー3に、本実施例1の構成における樹脂製カバー3を用いることで、該電子制御装置1に搭載される電子部品5のはんだ接続部の熱疲労寿命を向上でき、電子制御装置1の信頼性を向上できる。
【0042】
以上のごとく、電子制御装置1が高温環境と低温環境に繰り返し曝された際、回路基板6が樹脂製カバー3と線接触、又は点接触で固定される構造とすることで、回路基板6が樹脂製カバー3と面接触で固定される構造とする場合に比べて、回路基板6の厚さ方向の変形裕度が大きくでき、基板固定部7近傍の回路基板6に搭載された、電子部品5を回路基板6に搭載する接続部の信頼性を維持しつつ、電子制御装置1を小型化、軽量化できる効果を見出した。
【0043】
(ii)
図15に、実施例2で用いた電子制御装置1の樹脂製カバー3の基板固定部7近傍を拡大した斜視図を示した。実施例2で用いた電子制御装置1の樹脂製カバー3の基板固定部7は、溝部74を有していない構造とした。実施例2における電子制御装置1のその他の構成、および材質は、実施例1における電子制御装置1の構成、および材質と同じである。
【0044】
実施例2と比較例1とについて、前記温度サイクル試験にて、はんだ接続部の熱疲労寿命を比較した。該温度サイクル試験条件は、前記と同じとした。
【0045】
図16に、実施例2と比較例1のそれぞれの筐体を採用した電子制御装置における、電子部品5のリードと回路基板6間のはんだ接続部の熱疲労寿命を示した。
図16に示すように、実施例2のはんだ接続部の熱疲労寿命は、比較例1のはんだ接続部の熱疲労寿命より13%程度長かった。実施例2の樹脂製カバー3を用いた電子制御装置1の回路基板6では、比較例1の樹脂製カバー301を用いた電子制御装置の回路基板6に比べて、高温、低温環境とも、基板固定部7近傍の曲率が小さかった。
【0046】
すなわち、樹脂製カバー3の主面である天井部3aの内面3a1が回路基板6と所定距離離れた状態で固定する実施例2では、比較例1の基板固定部700に固定された回路基板に比べて、回路基板の厚さ方向に変形し易く、回路基板の曲率半径が小さかった。その結果、回路基板6に搭載される電子部品5の接続材であるはんだに生じるひずみの振幅値が小さくなった。
【0047】
この結果より、電子制御装置1の樹脂製カバー3に、本実施例2の構成における樹脂製カバー3を用いることで、該電子制御装置1に搭載される電子部品5のはんだ接続部の熱疲労寿命を向上でき、電子制御装置1の信頼性を向上できる。
【0048】
以上のごとく、電子制御装置1が高温環境と低温環境に繰り返し曝された際、回路基板6が樹脂製カバー3と線接触、又は点接触で固定される構造とすることで、回路基板6が樹脂製カバー3と面接触で固定される構造とする場合に比べて、回路基板6の厚さ方向の変形裕度が大きくでき、基板固定部7近傍の回路基板6に搭載された、電子部品5を回路基板6に搭載する接続部の信頼性を維持しつつ、電子制御装置1を小型化、軽量化できる効果を見出した。
【0049】
−−−第2の実施の形態−−−
以下、本発明による電子制御装置の第2の実施の形態を説明する。以下の説明では、第1の実施の形態と同じ構成要素には同じ符号を付して相違点を主に説明する。特に説明しない点については、第1の実施の形態と同じである。本実施の形態では、主に、基板固定部7が円柱形状の軸状部75を有し、天井部3aの内面3a1に回路基板6の支持用突起8が設けられている点で、第1の実施の形態と異なる。
【0050】
図17は第2の実施の形態における電子制御装置の基板固定部の一例を模式的に示した斜視図であり、
図18は基板固定部の近傍を下方から見た図である。
図17,18に示すように、本実施の形態における電子制御装置1の基板固定部7は、軸状部75と、溝部74を有する。天井部3aの内面3a1には、支持用突起8が下方に向かって突設されている。軸状部75は、下端側が回路基板6の貫通孔6aに挿通されて、熱かしめによって下端が変形される。
【0051】
支持用突起8は、下端が半球状に形成されている突起であり、軸状部75の近傍に設けられている。回路基板6が樹脂製カバー3に固定されると、支持用突起8の下端は、回路基板6の上面に点で当接する。支持用突起8の下端が回路基板6の上面に当接することで、回路基板6は、天井部3aの内面3a1から離間した状態で樹脂製カバー3に保持される。本実施の形態では、支持用突起8は、基板固定部7の1箇所に付き2つ設けられている。
図18に示すように、2つの支持用突起8は、略方形形状を呈する樹脂製カバー3の下部開口部3dの辺に対して所定の角度θで交差する直線上に配設されている。
【0052】
略方形形状を呈する回路基板6自体が熱変形する場合、
図12に誇張して示したように、四隅が上方や下方に曲がり込むように変形する。そのため、2つの支持用突起8が回路基板6の上面に当接した状態で上述した回路基板6の熱変形を阻害しないようにするためには、回路基板6の熱変形の前後で天井部3aの内面3a1との距離が変わらない回路基板6における任意の2箇所と、2つの支持用突起8の配設位置とが平面視で一致することが望ましい。
【0053】
本実施の形態では、回路基板6は、上述したように、上面が支持用突起8と当接し、下面が軸状部75の熱かしめ部分と当接することで、樹脂製カバー3に保持される。これにより、たとえば比較例1のように樹脂製カバー3と回路基板6とが面接触する構造に比べて、回路基板6が、回路基板6の厚さ方向に変形し易い。
【0054】
なお、支持用突起8は、軸状部75の周囲に少なくとも1本設けられていればよい。また、支持用突起8の直径は、軸状部75の直径より小さいことが望ましく、先端で回路基板6の上面と当接する部分の面積が小さい方が望ましい。
【0055】
本実施の形態では、樹脂製カバー3と回路基板6との姿勢の変化が許容されるように各部を上述のように構成したので、樹脂製カバー3の熱変形によって天井部3aがねじれたり反ったりしても、回路基板6に対して変形力が作用し難くなる。また、回路基板6に熱変形が生じても、その熱変形が樹脂製カバー3によって拘束され難くなる。これにより、回路基板6に電子部品5を接続するはんだ等の接続材のひずみの変動幅が抑制できるので、電子制御装置1の熱疲労寿命を向上でき、電子制御装置1の信頼性を向上できる。
【0056】
<第2の実施の形態に基づく実施例>
(iii)実施例3の樹脂製カバー3の基板固定部7の構造および支持用突起8の構造は、上述した
図17,18に示すとおりである。実施例3の電子制御装置1は、樹脂製カバー3の基板固定部7の構造および支持用突起8以外、第1の実施の形態における電子制御装置1に用いた材料、構造と同じである。
【0057】
図19に、実施例3の樹脂製カバー3と、上述した比較例1のそれぞれの筐体を採用した電子制御装置において、周囲温度を最低温度―40℃から最高温度120℃で変化させた場合の、電子部品5のリードと回路基板6間のはんだ接続部の熱疲労寿命を示した。
図19に示すように、実施例3のはんだ接続部の熱疲労寿命は、比較例1のはんだ接続部の熱疲労寿命より9%程度長かった。実施例3の樹脂製カバーを用いた電子制御装置1の回路基板6は、比較例1の樹脂製カバー301を用いた電子制御装置の回路基板6に比べて、高温、低温環境とも、基板固定部7近傍の基板曲率が小さかった。
【0058】
すなわち、樹脂製カバー3の主面である天井部3aの内面3a1が回路基板6と所定距離離れた状態で固定する実施例3では、比較例1の基板固定部700に固定された回路基板に比べて、回路基板の厚さ方向に変形し易く、回路基板の曲率半径が小さかった。また周囲に凹部、すなわち溝部74を有する基板固定部7の軸状部75は、比較例1の基板固定部700に比べて変形し易かった。その結果、回路基板6に搭載される電子部品5の接続材であるはんだに生じるひずみの振幅値が小さくなった。
【0059】
この結果より、電子制御装置1の樹脂製カバー3に、本実施例3の構成における樹脂製カバー3を用いることで、該電子制御装置1に搭載される電子部品5のはんだ接続部の熱疲労寿命を向上でき、電子制御装置1の信頼性を向上できる。
【0060】
−−−第3の実施の形態−−−
以下、本発明による電子制御装置の第3の実施の形態を説明する。以下の説明では、第1の実施の形態、及び第2の実施の形態と同じ構成要素には同じ符号を付して相違点を主に説明する。特に説明しない点については、第1の実施の形態、及び第2の実施の形態と同じである。本実施の形態では、主に、基板固定部7が上下方向に延在する分割面で分割された円柱状の軸状部76を有する点で、第1の実施の形態、第2の実施の形態と異なる。
【0061】
図20は、第3の実施の形態における電子制御装置の基板固定部の一例を模式的に示した斜視図であり、
図21は、基板固定部の近傍を下方から見た図である。
図20,21に示すように、本実施の形態における電子制御装置1の樹脂製カバー3の基板固定部7には、スリット76aを有する円柱状の軸状部76が設けられている。すなわち、軸状部76は、上下方向に延在する分割面で2つに分割されている。軸状部76には、径方向に突出する支持用突部76bが設けられている。
【0062】
本実施の形態では、
図21に示すように、コネクタピン4と回路基板6との接続部となる複数のスルーホール6b(
図2,8参照)が設けられた領域の中心から基板固定部7の中心に向かう線分l1に対して軸状部76の分割面が略垂直となるように、スリット76aが設けられている。コネクタピン4と回路基板6との接続部では、コネクタピン4の他端と回路基板6とがはんだ等で接続されているために回路基板6の熱変形が抑制され、この接続部を中心として回路基板6の四隅が反るように変形する。そのため、この変形を阻害しないようにするために、線分l1に対して軸状部76の分割面が略垂直となるように、スリット76aが設けられている。このようにスリット76aを設けることで、軸状部76の下端を線分l1の延在方向に向かって曲げる場合の軸状部76の曲げ剛性は、スリット76aを設けていない場合と比べて低下する。したがって、樹脂製カバー3の熱変形によって天井部3aがねじれたり反ったりしても、回路基板6に対して変形力が作用し難くなる。また、回路基板6に熱変形が生じても、その熱変形が樹脂製カバー3によって拘束され難くなる。
【0063】
なお、回路基板6に搭載される電子部品5の配置や、回路基板の内層/外層の配線パターン、スルーホール6bの位置、コネクタピン4の接続位置等により、回路基板6の変形が上記と異なる場合は、回路基板6の変形を阻害しないようにスリット76aを設ければよい。
【0064】
支持用突部76bは、軸状部76の径方向に突出した突部である。回路基板6が樹脂製カバー3に固定されると、支持用突部76bの下端は、回路基板6の上面と当接する。支持用突部76bの下端が回路基板6の上面に当接することで、回路基板6は、天井部3aの内面3a1から離間した状態で樹脂製カバー3に保持される。本実施の形態では、支持用突部76bは、軸状部76に2つ設けられている。
図21に示すように、2つの支持用突部76bは、線分l1と略直交する直線上に配設されている。
【0065】
本実施の形態では、樹脂製カバー3と回路基板6との姿勢の変化が許容されるように各部を上述のように構成したので、樹脂製カバー3の熱変形によって天井部3aがねじれたり反ったりしても、回路基板6に対して変形力が作用し難くなる。また、回路基板6に熱変形が生じても、その熱変形が樹脂製カバー3によって拘束され難くなる。これにより、回路基板6に電子部品5を接続するはんだ等の接続材のひずみの変動幅が抑制できるので、電子制御装置1の熱疲労寿命を向上でき、電子制御装置1の信頼性を向上できる。
【0066】
<第3の実施の形態に基づく実施例>
(iv)実施例4の樹脂製カバー3の基板固定部7の構造は、上述した
図20,21に示すとおりである。実施例4の電子制御装置1は、樹脂製カバー3の基板固定部7の構造以外、第1の実施の形態における電子制御装置1に用いた材料、構造と同じである。
【0067】
図22に、実施例4の樹脂製カバー3と、上述した比較例1のそれぞれの筐体を採用した電子制御装置において、周期的に周囲温度を最低温度―40℃から最高温度120℃で変化させた場合の、電子部品5のリードと回路基板6間のはんだ接続部の熱疲労寿命を示した。
図22に示すように、実施例4のはんだ接続部の熱疲労寿命は、比較例1のはんだ接続部の熱疲労寿命より7%程度長かった。実施例4の樹脂製カバー3を用いた電子制御装置1の回路基板6は、比較例1の樹脂製カバー301を用いた電子制御装置の回路基板6に比べて、高温、低温環境とも、基板固定部7近傍の基板曲率が小さかった。
【0068】
すなわち、樹脂製カバー3の主面である天井部3aの内面3a1が回路基板6と所定距離離れた状態で固定する実施例4では、比較例1の基板固定部700に固定された回路基板6に比べて、回路基板6の厚さ方向に変形し易く、回路基板の曲率半径が小さかった。またスリット76aを有する軸状部76は、比較例1の基板固定部700に比べて変形し易かった。その結果、回路基板6に搭載される電子部品5の接続材であるはんだに生じるひずみの振幅値が小さくなった。
【0069】
この結果より、電子制御装置1の樹脂製カバー3に、本実施例4の構成における樹脂製カバー3を用いることで、該電子制御装置1に搭載される電子部品5のはんだ接続部の熱疲労寿命を向上でき、電子制御装置1の信頼性を向上できる。
【0070】
−−−変形例−−−
(1) 上述した第1の実施の形態では、径変化部73は球面状に形成されているが、本発明はこれに限定されない。たとえば、
図23に示すように、径変化部73をテーパ状に形成してもよく、上述した作用効果と同様の作用効果を奏する。
【0071】
(2) 上述した第2の実施の形態では、天井部3aに設けた支持用突起8によって回路基板6が天井部3aの内面3a1から離間するように構成したが、本発明はこれに限定されない。たとえば、
図24に示すように、軸状部75の側面に、第3の実施の形態における突出する支持用突部76bと同様の支持用突部75aを設け、支持用突部75aの下端が回路基板6の上面に当接することで、回路基板6が天井部3aの内面3a1から離間するように構成してもよい。
【0072】
(3) 上述した第2の実施の形態では、天井部3aに設けた支持用突起8の下端が半球状に形成されているが、本発明はこれに限定されない。たとえば、
図25に示すように、支持用突起8の下端が平面でもよい。また、図示はしていないが、支持用突起8の下端が錐状に形成されていてもよい。
【0073】
(4) 上述した第3の実施の形態では、軸状部76がスリット76aで2分割されているが、本発明はこれに限定されない。たとえば、
図26に示すように、スリット76cをさらに設けることで、軸状部76を3つ以上に分割してもよい。
図26では、軸状部76は、スリット76aおよびスリット76によって4分割されている例を示している。要は、回路基板6の貫通孔6aに相互に分離された複数の軸状部76が挿通される構成であればよい。
図27は、
図26の軸状部76の下端を熱かしめによって変形させた熱変形部76dの形状を示している。なお、
図27では、回路基板6の記載を省略している。
(5) 上述した各実施の形態および変形例は、それぞれ組み合わせてもよい。
【0074】
なお、本発明は、上述した実施の形態のものに何ら限定されず、電子部品が実装され、上面と下面との間を貫通する取付用の貫通孔が周縁部に形成された回路基板と、回路基板を覆う覆い部および開口を有し、開口から挿入された回路基板を保持する保持部が一体成形されたカバー部材とを備え、保持部は、カバー部材および回路基板の熱変形によるカバー部材と回路基板との姿勢の変化を許容する構造を有する各種構造の電子制御装置を含むものである。