(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
放射線又は光を入射させ、かつ、その入射した放射線を光に変換し又はその入射した光を一方向に伝播させて、その変換した光又はその伝播させた光を出射端面から出射させる柱状体を複数、稠密に且つ隣接させて前記複数の出射端面により出射面を形成するように配置した柱状体アレイと、
前記柱状体アレイの前記出射面に面して形成され、当該複数の柱状体それぞれの出射端面から出射される前記光の拡散範囲を調整可能な光学的接続部と、
前記光学的接続部を介して前記出射面に対向して配置され、受光面を有するアバランシェフォトダイオード(APD)をN×N個(Nは2以上の正の整数)、2次元状に配置し、且つ、そのN×N個のAPDの出力信号をワイヤードオア回路で束ねたAPDクラスタを1画素分として、複数のAPDクラスタを2次元状に配置したAPDクラスタの群と、
前記複数のAPDクラスタそれぞれの前記ワイヤードオア回路で電気的に束ねられた出力信号を処理する処理回路、を備え、
前記光学的接続部は、前記各柱状体の前記出射端面から出射される光の拡散範囲が、前記各APDクラスタを成す前記N×N個のAPDの前記受光面を少なくともカバーするように調整可能であり、
前記処理回路は、
前記複数のAPDクラスタそれぞれから出力される出力信号に基づき、前記出射された光のエネルギを複数に分けた個々のエネルギ範囲毎に当該光の光子数として所定時間、計測可能な当該APDクラスタ毎に装備された、複数の計測回路と、
この複数の計測回路のうち、最初に所定数の前記光子数の計測を行った1つの計測回路に接続されている前記APDクラスタのうちの1つのAPDクラスタを発光中心APDクラスタと見做し、その発光中心APDクラスタとその周辺の所定数の前記APDクラスタに接続された、前記計測回路の内の複数の計測回路の計数値の合計は、ほぼ1つの放射線パルスに応じて発生したシンチレーション光の光量の合計を表していると見做して、前記合計を求めるために前記計数値を加算する加算回路と、
前記1つのAPDクラスタに接続された前記1つの計測回路が前記計測を行っている所定時間の間、前記複数のAPDクラスタの内の、その1つのAPDクラスタの周辺の所定数のAPDクラスタの入射した前記光子の計数禁止を指令する禁止指令手段と、
前記複数の計測回路それぞれに備えられ、前記禁止指令手段により前記計数禁止の命令が出されているときには当該計測回路の前記計測を禁止する禁止手段と、
前記発光中心APDクラスタに基づいて前記シンチレーション光の発生の位置情報を演算する位置情報演算手段と、
前記位置情報と、少なくとも前記エネルギ範囲毎の前記放射線の光子数の情報とを出力する出力回路と、を
備えたことを特徴とする光子計数型検出器。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、添付図面を参照して、本発明に係る光子計数型(フォトンカウンティング型)検出器の実施形態を説明する。
【0020】
[第1の実施形態]
まず、
図1〜
図11を参照して、かかる光子計数型放射線検出器の第1の実施形態を説明する。
【0021】
図1に、放射線源から放出される放射線を検出する光子計数型放射線検出器を搭載する検出システムの概略構成を示す。放射線源としては、医療用途のX線診断機器に搭載されるX線管や、核医学診断において被検体に投与された核種が挙げられる。X線診断機器の場合、X線管から照射されたX線(X線ビーム)が被検体を透過して到来する。核医学診断においては、被検体に投与された核種から体外に放出されるガンマ線が検出対象の媒体となる。なお、ここで言う「放射線」とは電離放射線を言い、この放射線は、励起光により発生した蛍光等の微弱な強度の光、所謂、微弱光をも含む、広くは「電磁波」と呼べる伝播媒体の一つである。
【0022】
図1に示す検出システムにおいて、光子計数型放射線検出器はX線検出器として構成されている。この光子計数型X線検出器11(以下、単に検出器と呼ぶ)は、この検出器11に入射するX線を光子(フォトン)と見做し、その光子をエネルギ領域毎に計数して検出情報として検出するように構成されている。この検出器11は、その動作を制御する制御装置12の制御下に置かれて動作する。この制御装置12には、オペレータとの間でインターラクティブに又はノン・インターラクティブに操作情報や入出力情報をやり取りする入力器13及び表示器14が通信可能に接続されている。特に図示しないが、制御装置12には検出器11を駆動する駆動回路も含まれる。
【0023】
さらに、この検出器11の出力側には、例えば検出情報に基づいて画像を再構成する等、検出情報を処理する処理装置15が設けられている。
【0024】
検出器11は、
図1に示すように、大略、平たいボックス状に形成されたケース21に収められている。このケース21は、
図1に示す上面を除いて、X線非透過の部材で形成され、その内部に各種の検出に必要な部材を後述するように収納させている。ケース21の1つの面21WD(
図1参照)は、後述するシンチレータの潮解性(潮解性がある場合)と、遮光と、反射による効率的な光の受光面への誘導とを目的として、低X線吸収の部材(例えばカーボン樹脂で)で形成されており、この面21WDがX線入射窓を形成している。このため、検出器11はそのX線入射窓21WDをX線到来方向に向けて位置させることになる。例えば、この検出器11が歯科用パノラマX線撮影装置に搭載されている場合、そのX線入射窓21WDが常にX線管に対向し、当該X線管と対を成して被検体の顎部の周りを回転するように両者の回転位置が制御される。
【0025】
ボックス状の検出器11に関して、説明の便宜のために、
図1に示すように、X線入射窓21WDにX軸、Y軸を割り当てたX軸、Y軸、及びZ軸の3次元直交座標を設定する。この座標軸に従うと、検出器11の一方の横方向:X軸に沿った断面(
図1中のII-II線に沿った断面)を
図2に示すことができる。
【0026】
この断面形状によれば、X線入射窓21WDから縦方向:Z軸に沿って、柱状体アレイとして機能するシンチレータ層31、光学的接続部としての光学的接続層32、光電変換層33、及び処理回路としての処理回路層34がこの順に沿って配置されている。
【0027】
このため、検出器11のX線入射窓21WDにX線(パルス状のX線ビーム)が入射すると、その入射窓21WDを透過して、その下側に位置するシンチレータ層31の入射面(後述する)に入射する。シンチレータ層31では、その入射パルスX線を1本又は複数本の柱状体としてのシンチレータ(後述する)で受け、そのシンチレータが発光する。この発光は、当該シンチレータの出射面(後述する)から光学的接続層32にパルス状の拡散光(つまり、角度を以って2次元的に拡散する光)として出射される。以下で説明するように、本実施形態では、光学的接続層32はZ軸方向に所定厚さの樹脂材層として形成されている。このため、パルス状の拡散光は、後述するように、光電変換層33の複数の画素領域に入射するように光学的接続層32が形成されている。光電変換層33の該当する画素は、入射したパルス状の光を電気パルスに変換する。この電気パルスは処理回路層34で処理され、当該回路層34から入射X線に応じた電気信号が検出情報として出力される。
【0028】
このように、検出器11は入射X線をシンチレータ光を介して電気信号に変換する機能を有するが、上述した検出器11の構成には更に、本願独特の、検出対象に対する汎用性を担保するための構成を有している。以下、この構成をより具体的に説明する。以下、この各層31〜34を順に説明する。
【0029】
<シンチレータ層>
シンチレータ層31は、柱状体として機能する、微細な径で所定長さを有する円柱状のシンチレータ(Micro-columnar scintillator:微小な柱状蛍光体)31Aを、
図2及び
図3に示す如く、複数の、2次元、即ちXY面に稠密に且つ隣接させて配置した柱状体アレイである。つまり、その柱状の長さ方向が縦軸:Z軸方向に揃うようにXY面に稠密配列している。各シンチレータ31Aのサイズは、一例として、その直径が20μmであり、長さが1.5mmである。このうち、直径は、一定範囲の寸法のバラツキを許容できるので、必ずしも正確に20μmである必要はなく、一定の許容幅を持った20μm前後であってよい。また、長さは用途に依って変わる。例えばガンマ線を検出する場合、1.5mmよりも大きくする、つまりシンチレータ層31を厚くしてよい。
【0030】
各シンチレータ31Aは、一例として、X線−光変換材料であるCe:LaCl3を材料として形成されている。Ce:LaCl3のX線に対する概略特性は以下のようである。発生光子数:60000/1MeV、比重:5.2g/cm
3、エネルギ分解能:3%(@662KeV)、遅延時間:18nsec、波長:380〜420nmである。この材料は、一般にガンマカメラで用いられるシンチレータの材料であるNaIよりもエネルギ分解能、検出感度、反応速度、残光特性等の特性が良いこと、潮解性がないこと、さらには共晶構造で柱状に成長可能であること等の種々の優位性があり、ガンマ線検出にも使い易い。
【0031】
このため、シンチレータ31Aそれぞれの一方の面31
in(入射端面:
図4(b)参照)にX線が仮に垂直に入射すると、そのシンチレータ31Aの長さ方向のある位置において、その入射に励起されて光(シンチレーション光)を発生する。このシンチレーション光はその柱状体の中に閉じ込められながら伝播し、その長さ方向の他方の面31
out(出射端面)から外部に拡散しながら放出される。この外部とは、本実施形態の場合、光学的接続層32である。
【0032】
X線は必ずしも各シンチレータ31Aの入射端面に31
inに垂直に入射する訳ではなく、
図4に示すように斜めに入射する。これは同図(a)に示すように、検出器11に対峙するX線管41のX線焦点Fから一定の広がり(ファン角)を以ってX線が出射されているからである。同図(a)に示すジオメトリの場合、検出器11のX軸方向とファン状のX線のエッジとの成す角度は約82°である。この場合、同図(b)に示すように、100keVで励起されたX線光子を持ち、エッジ部を成すX線Bがあるシンチレータ31A´に斜めに入射した場合、約500μmの斜めの飛跡を示し、その広がりは約69μmである。この斜めの入射であっても、確率事象として、その飛跡に関与する1つ又は複数のシンチレータ31Aでシンチレータ光が発生する。
【0033】
<光学的接続層>
次に、光学的接続層32を説明する。この光学的接続層32は、その前のシンチレータ31の出射端面(各シンチレータ31Aの他方の面31
outがなす面)と光電変換層33との間を繋ぐインターフェース領域として機能する。この光学的接続層32は、光学的に透明な樹脂材を板状に加工して形成され、その縦方向:Z軸方向の厚さLoptは本検出器11のアプリケーションに応じて適宜選択して形成される。この樹脂材としては、光学的に透明であり、拡散角を調整するための屈折率もある程度調整可能なシリコン系の樹脂が好適である。
【0034】
この光学的接続層32の周囲の縦方向の壁32Wは、シンチレータ光を全反射させる、例えば白色の反射面を有する部材で形成されている。この壁32Wに、そのような全反射をさせるための反射剤を塗布してもよい。
【0035】
この光学的接続層32の厚さLoptは極めて重要なファクタである。この厚さLoptは、例えば、求めたい解像度や計数特性など、様々なファクタ間のバランスを考慮して、例えば数十μm〜数百μmの範囲で決められる。
【0036】
なお、光学的接続層32の変形例としては、空気の層として形成してもよい。
【0037】
<光電変換層>
光電変換層33は、各シンチレータ31Aから出射される光を受けて、その光に応答して電気パルス信号を発生する素子群から成る層状の部分である。
【0038】
詳しくは、
図5に示すように、この光電変換層33は、シンチレータ層31と同様に、XY面に沿って2次元的に稠密に隣接して配置された複数のアバランシェフォトダイオード(APD)51で形成される。このAPD51はそれぞれ、例えば縦横10μm×10μmの面を有する角柱状に形成され互いに電気的な絶縁層を介して互いに隣接且つ林立するように2次元配置されている。この角柱状のAPD51の光学的接続層32に露出する面にシンチレーション光の受光部51Aが形成される。
【0039】
これらの複数のAPD51の内、X軸方向及びY軸方向それぞれに所定数、例えば10個×10個=100個のAPD51が処理回路層34又はそれに接続される側の一端にてワイヤードオア回路OR(後述する
図8参照)により電気的に接続されている。つまり、これら矩形状の領域(例えば150μm×150μmの領域
)を成す所定数(例えば100個:APD間に隙間寸法を考慮)のAPD51Aは
1つのAPDクラスタ52を構成している。
【0040】
本実施形態に係る検出器11の場合、
図1及び
図5に示すように、上述したワイヤードオア回路接続によって等価的に、このAPDクラスタ52がX軸、Y軸方向に複数、互いに隣接して配置されることになる。各AP
Dクラスタ52が1画素を構成する。このように、2次元的に配置された複数のAP
Dクラスタ52から成るAPDクラスタ群により光電変換層33を構成している。
【0041】
このAPDクラスタ52の群52G、すなわち光電変換層33をシンチレータ層31とのサイズ及び形状の関係で概括すれば以下のようになる。APDクラスタ群52Gは、光学的接続層32を介して、各シンチレータ31Aの出射端面31
outに対向して配置される。各シンチレータ31Aの軸方向に直交する断面の径よりも小さい値を1辺の値とし、受光部51Aを有する角柱状のAPD51をN×N個(Nは2以上の正の整数)、2次元状に配置して形成される。そのN×N個のAPD51の出力信号をワイヤードオア回路で束ねてAPDクラスタ52が形成される。APDクラスタ52の占有するXY面上の領域が物理的な1画素分に相当する。ただし、本実施形態では、後述する比較演算によって、物理的な1画素を更に数分の1(本実施形態では1/4)のより高精細なサブ画素を作り出している。このため、X線入射位置を示す情報は、このサブ画素の単位で得ることができる。
【0042】
この結果、2次元的に配置された複数のAPDクラスタ52により、複数の物理的な画素をX線入射窓21WDに沿った面に2次元アレイ状に配置したものと同等の構造が提供されている。
【0043】
ここで、
図6に、シンチレータ層31のあるシンチレータ31Aの入射端面31
inにX線が入射した状態を模式的に示す。X線は柱状のシンチレータ31Aに入射すると、そのX線のエネルギを、シンチレータ31Aを成す蛍光体が吸収して、蛍光体内部の原子核において励起又は電離が起き、この吸収エネルギの一部によりパルス状の光が発生する。この光はシンチレーション光と呼ばれる。このシンチレーション光はそのシンチレータ31Aの内部を伝搬して、その出射端面31outから拡散を伴って、光学的接続層32に立体角を以って拡散して出射される。この拡散光の投影範囲は、本実施形態では、1つの画素、すなわち1つのAPDクラスタ52の面積よりも大きくなるように、光学的接続層32のZ軸方向の厚さLoptが最適値に設定されている。
【0044】
この発生したシンチレーション光の受信処理を説明する。
図7に、シンチレータ層31、光電変換層33、及び光電変換層33の重なりの関係を模式的に示す。これは、検出器1のX線入射窓21WDをX線入射方向、すなわちZ軸方向の前上から見たときの、複数のシンチレータ31Aの2次元配列、複数のAPD51の2次元配列、この複数のAPD51を所定数ずつブロック状に電気的に束ねて形成した、複数のAPDクラスタ52(即ち、画素)の2次元配列の透視模式図である。なお、光学的接続層32は本実施形態では樹脂材層である。
【0045】
次に、処理回路層34にAPDクラスタ52毎、即ち物理的な画素毎に形成されている信号処理回路61の一例を、
図8を参照して説明する。この信号処理回路61は、処理回路層34にASICにより画素毎に作り込まれる。
図8に示す信号処理回路61は、1つのAPDクラスタ52、即ち、1つの物理画素に接続される回路構成を示す
【0046】
図8に示すように、各APDクラスタ52の全てのAPD51(ここでは、APD(1)〜APD(225)までの225(15×15)個のAPD)がワイヤードオア回路ORを介して、個別の信号回路部62に接続されている。
【0047】
この信号回路部62は、ワイワードオア回路ORに接続された比較器71を備え、その比較器71の出力側に備えたカウンタ72、前後判定回路73、及びタイマ74備える。更に、この信号回路部62は、X線入射窓21WDの中のX線入射画素とそのX線のエネルギをエネルギ領域別の光子数として計数するための回路群を備える。
【0048】
この回路群として、カウント&加算回路76、サブピクセル決定回路77、及び出力回路78を備える。カウント&加算回路76は、図示のように、ワイヤードオア回路ORに接続され且つ近傍の8個のAPDクラスタ52の出力端(即ち、図示しないワイヤードオア回路)に接続されている。サブピクセル決定回路77はカウンタと比較器を有し、近傍の8個のAPDクラスタ52の出力端に接続されている。
【0049】
この近傍の8個のAPDクラスタ52は、例えば
図7の例で言えば、APDクラスタ52(i,j)に注目すると、このAPDクラスタ52(i,j)を囲む矩形を形成する8個のAPDクラスタ52(i-1,j−1)、52(i,j-1)、52(i+1,j−1)、52(i−1,j)、52(i+1,j)、52(i−1,j+1)、52(i,j+1)、及び52(i+1,j+1)を指す。これら9個のAPDクラスタにより、ある時刻の、X線入射窓21WDにおけるある位置へのX線光子入射に伴う計測対象領域R
MEAが一時的に形成される。
【0050】
さらに、サブピクセル決定回路77により決定される仮想的なサブピクセルは、
図9に示すように、注目しているAPDクラスタ52(i,j)を仮想的に分割した4つの矩形状のサブピクセルAPD(i,j)-1、APD(i,j)-2、APD(i,j)-3、APD(i,j)-4を指す。
なお、このサブピクセルは、1つのクラスタを複数個に分割するサブクラスタに相当する。
【0051】
ここで、ワイワードオア回路ORに接続されている比較器71から詳細に説明する。この比較器71には、パルス信号の波高値(強度)の所定値が閾値として供給されている。この閾値はノイズ信号と計数信号とを弁別可能な値に設定されている。このため、比較器71は、ワイワードオア回路ORを介して入力する1つ又は複数のAPD51の電気パルスの単独又は合成されたパルス信号を所定の閾値(波高値)とその閾値とを比較し、その入力信号の波高値が閾値より大きい場合、二値化信号「1」を次段のカウンタ72に出力する。このカウンタ72にも、そのカウントの閾値が与えられている。この閾値は、X線入射位置として特定可能か否かを決めるための弁別値である。このため、カウンタ72のカウントが例えば一定値「5カウント」になった時に初めて、計測開始を指令する信号を次段の前後判定回路73に出力する。
【0052】
この前後判定回路73の「前後」とは時間的な前後を意味する。カウンタ72から計測開始信号を受けると、前後判定回路73は近傍の所定数、ここでは禁止領域R
INHIBITを成す25個のAPDクラスタ52の加算受付を禁止する禁止信号を各APDに接続された、図示しない信号回路部に出力する。この加算処理の禁止領域R
INHIBITは、
図7に例示するように、注目APDクラスタ52(i,j)を中心に置く例えば25個のAPDクラスタ52である。このため、この禁止信号を受けた、25個のAPDクラスタ52のそれぞれの信号回路部は、タイマ74で計測される一定時間の間、いま対象としているX線入射の後に生じたX線入射による電気パルス信号の加算処理を禁止できる。
【0053】
また、禁止信号はトリガ信号としてカウント&加算回路76に送られる。上述した禁止信号を受けてタイマ74が起動して一定時間をカウントする。この一定時間のカウントアップがなされると、タイマ74はリセット信号をカウント&加算回路76に送る。
【0054】
カウント&加算回路76は、トリガ信号を受けると、いまX線入射があった位置(例えば
図7に示す発光点P)を含む注目APDクラスタ52(i,j)(即ち、発光中心APDクラスタ)が自分の担当であることを認識する。このため、このカウント&加算回路76は注目APDクラスタ52(i,j)を中心とする計測対象領域R
MEA、すなわち、注目APDクラスタ52(i,j)を囲む8個のAPDクラスタ52(i-1,j−1)、52(i,j-1)、52(i+1,j−1)、52(i−1,j)、52(i+1,j)、52(i−1,j+1)、52(i,j+1)、及び52(i+1,j+1)それぞれからの電気パルス信号をエネルギ領域毎に計数し、かつ、エネルギ領域毎に相互に加算する。このエネルギ領域毎のカウントは、従来知られている光子計数と同様の回路で実行される。この電気パルス信号は、X線の光子がシンチレータ31Aへ入射した事象に呼応して発生している。このため、上述の電気パルス信号を個別に計測し、計測対象領域R
MEA、即ち、上述した9つのAPDクラスタ52の計測値を合算しても、まさに、計測対象領域R
MEA全体で光子計数を行っていることになる。
【0055】
エネルギ領域としては、
図10(B)に模式的にように、横軸に採ったX線光子のエネルギ[keV]に設定した例えば3つのエネルギ領域BIN1,BIN2,BIN3が設定されている。勿論、このエネルギ領域の数は2つであっても、また1つであってもよい。
【0056】
このカウント&加算回路76は、
図11に示すように、トリガとしての禁止信号の入力からリセット信号が入力するまでの一定周期T(FPS)の間、微小な予め設定した繰返し時間Δt毎に、上記計数及び加算を行い、その加算値をエネルギ領域BIN1,BIN2,BIN3それぞれの別に出力回路78に送る。
【0057】
一方、サブピクセル決定回路77は4個のカウンタと2個の比較器を備え、その比較器による比較演算結果から、いまX線入射があった位置(例えば
図7に示す発光点P)をより高精細に特定する回路である。具体的には、X線入射があった位置PのAPDクラスタ52(i,j)、即ち、1つの物理画素が比較演算によって仮想的に1/4のサブピクセルに分割される。X線入射の位置がその4つのサブピクセルのうちの何れに属するかが判定される。
【0058】
例えば
図9の例で言えば、APDクラスタ52として、APDクラスタ52(i,j)が形成する物理的な画素にX線入射位置Pが在るとする。この場合、サブピクセル決定回路77では、その4つのカウンタ(図示せず)によって、その前後左右の4つのAPD(i−1,j)、APD(i+1,j)、APD(i,j−1)、APD(i,j+1)から出力される電気パルス信号が一定時間t
k(
図11参照)の間、計数される。それらのカウントをそれぞれK1,K2,K3,K4とすると、2つの比較器により、
K1<K2か否か
K3<K4か否か
等が判定される。この結果、
判定結果1:K1≧K2且つK3≧K4、
判定結果2:K1<K2且つK3≧K4
判定結果3:K1≧K2且つK3<K4、
判定結果4:K1<K2且つK3<K4、
の4通りのうちの何れであるかが判明する。つまり、X線入射位置Pは、判定結果1が出た場合には、APDクラスタ52(i,j)の中の左上の1/4のサイズのサブピクセルAPD(i,j)-1であり、判定結果2が出た場合には、右上の1/4のサイズのサブピクセルAPD(i,j)-2であり、判定結果3が出た場合には、左下の1/4のサイズのサブピクセルAPD(i,j)-3であり、判定結果4が出た場合には、右下の1/4のサイズのサブピクセルAPD(i,j)-4である(
図9の状態参照)。
【0059】
サブピクセル決定回路77は、その判定結果を2値化してサブピクセルの位置情報として出力回路78に送る。
【0060】
出力回路78は、図示のように、エネルギ領域BIN1,BIN2,BIN3の毎の光子数をカウントするカウンタ78A〜78Cと、位置情報生成器78Dとを備える。カウンタ78A〜78Cはそれぞれ、自分が担当するエネルギ領域BIN1(〜BIN3)について、カウント&加算回路76からサンプリング時間Δt毎に送られて来る計測対象領域R
MEA全体のX線光子数のカウント(加算値)を入力し、カウントアップする。また
、位置情報生成器78Dは、サブピクセル決定回路77から送られてくるサブピクセルの位置を示す位置情報を受ける。このため、この決定回路77は、サブピクセルの位置情報とデフォルトとして有しているAPDクラスタ52の自己位置情報とに基づいて、X線入射窓21WDの全体におけるX線入射位置Pをサブピクセルサイズの分解能で生成する。
【0061】
出力回路78は、カウンタ78A〜78Cによりカウントアップされたエネルギ領域BIN1(〜BIN3)毎のカウント及び位置情報生成器78Dにより生成されたX線入射位置Pの位置情報を一定レートT(FPS)でシリアルに外部に出力する。
【0062】
以上のように、検出動作をまとめると、以下のようになる。
【0063】
図7において、符号52(i,j)は、2次元状に配列された複数のAPDクラスタ52(即ち、2次元配列の複数の画素)のうち、上述したようにX線入射に呼応して発光したシンチレータ31Aを領域的に包含する1つのAPDクラスタ52を示す。なお、i及びjは、X線入射窓21WDを成すXY面における画素単位のX軸方向及びY軸方向の位置を示す。
【0064】
図7は、X線が位置Pに入射した場合である。この場合、このX線入射に応じて発光したシンチレータ31Aを含むAPDクラスタ52は、
図7に示すX線入射窓21WDのうちのX軸方向、左から3番目、且つY軸方向、上から3番目のAPDクラスタである。このAPDクラスタ52(i,j)を囲むように、8個のAPDクラスタ52(i-1,j−1)、52(i,j-1)、52(i+1,j−1)、52(i−1,j)、52(i+1,j)、52(i−1,j+1)、52(i,j+1)、及び52(i+1,j+1)の領域、即ち、計測対象領域R
MEAが指定される。つまり、真ん中の注目APDクラスタ52(i,j)を含めて合計9個のAPDクラスタ52の組が、前述のように信号加算を含む信号処理に付される。このとき、この信号加算に寄与させない禁止領域R
INHIBITが設定される。
【0065】
この状況の元に、
図8に示す信号回路部62が動作する。この結果、
図10(A)に示すように、物理的な画素よりも精細なX線入射位置Pがサブピクセルとして特定される。同時に、同図(B)に概念的に示すように、そのサブピクセル、例えばP(i,j)-4におけるエネルギ領域BIN1(〜BIN3)毎のX線光子の総計数値が得られる。このように、エネルギ領域別に、光子計数型のX線の強度検出が行われる。
【0066】
このように、各APDクラスタ52で周期T毎に上述したX線検出動作が実行される。このとき、同一の禁止領域R
INHIBITに属するAPDクラスタ52に相当する位置にX線入射があっても、その周期Tの一定時間、検出動作は禁止される。
【0067】
しかし、この禁止領域R
INHIBITの外側のAPDクラスタ52に相当する位置にX線が入射した場合であって、計測対象領域R
MEAが重ならない場合には同一の周期Tであっても検出動作は実行される。
【0068】
なお、
図7には、X線入射位置Pとは別の位置P1,P2を示す。これらのX線入射位置P1,P2の場合、周期T毎に順次、前述した動作がそれらの位置に相当するAPDクラスタ52に注目して実行される。
【0069】
このように本実施形態に係る検出器11は、シンチレータ層31、光学的接続層32、APDクラスタ52を有する光電変換層33、及び処理回路層34を
図2に示す如く積層構造として有する。この同一の積層構造を有しながらも、光学的接続層32の厚さLoptを調整することで、X線管から照射されたX線、患者の体内に投与された核種からのガンマ線、さらには励起光によって励起された微弱な蛍光まで、その光子数の多少に関係なく、それらの放射線を検出することができる。使用目的によって、所望する解像度と光子数の正確な計数という2つのパラメータのバランスで画素サイズ及び光学的接続層32の厚さLoptを決めればよい。つまり、この厚さLoptは、立体角を以って光学的接続層32に拡散するパルス状の光を、その発光点を中心に何個のAPDクラスタ52で分担して取りこぼし無く検出すればよいかという視点で決めればよい。
【0070】
従って、本実施形態の積層構造を採用すれば、医療用の診断機器を初めとして様々な放射線機器において、ガンマ線のみならず、X線や微弱な励起光までをも検出できるような、所謂、汎用型の検出器を容易に提供することができる。
【0071】
なお、上述した実施形態において、サブピクセル決定回路77を省略し、物理的な画素のままでエネルギ領域毎の光子数を計数するようにしてもよい。
【0072】
[変形例]
上述した実施形態に係る検出器11は、シンチレータ層31を採用していたが、このセンサ部分は必ずしもこの構造に限定されるものではない。例えば、蛍光体に励起光として紫外線、可視光、又はX線を照射し、その励起により蛍光体から発せられる微弱な光(蛍光、燐光など)を検出する検出器に適用してもよい。
【0073】
図12に示す微弱光検出器81は、前述したシンチレータ層の代わりに、一定長さの光ファイバ82Aを複数、稠密に且つ隣接させた光ファイバープレート(FOP)82を搭載したものである。その他の構成は、前述した
図2のものと同一又は同等の構成を有する。
【0074】
この微弱光検出器81の場合、光の指向性を持った高感度な光2次元センサとして機能する。このため、光ファイバープレート82の前面(入射窓21WD)であって、その指向性の範囲内において、励起された微弱な光を入射させる。この微弱光は光ファイバ82Aを伝搬し、前述した光学的接続層32に拡散光として出射される。この拡散光は、前述と同様に、1つ以上のAPDクラスタ52により検出される。
【0075】
この場合、入射させる微弱光の強度の範囲に応じて、前述した光学的接続層32の厚さLopt、計測対象領域R
MEAの広さ、及び禁止領域R
INHIBITの広さを、前述したと同様に、所望する解像度及び光子数の計測精度の観点から最適化させることができる。さらに、この微弱光検出に特化する場合、位置と強度を知ればよいので、信号回路部62の構成をより簡単にしてもよい。例えば、比較器71、カウンタ72、前後判定回路73を省略したり、サブピクセル決定回路77を省略したりしてもよい。単純に、最初に入射した光位置とその強度を一定のフレームレートで画素毎に繰り返し出力するようにしてもよい。
【0076】
これにより、微弱光の検出を前提(CCDセンサ、CMOSセンサが使えないまたはダイナミックレンジを大きくとりたい場合)とする撮影、対象物に近づけて行う近接撮影、直線的に入ってくる光を選別したい場合、特に解像度を上げたい場合や、励起された光の励起位置と励起された光の量を推定計測できる検出器を実提供できる。また、このような特性から微弱光検出器は暗視カメラや光断層撮影にも応用できる。