(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記遅延補正部は、前記ガードピリオド区間で前記上りリンク干渉信号が検出される場合に、前記上りリンク希望信号の検波から前記ガードピリオド区間の終点までの時間に相当する第2の遅延補正量を計算し、前記第1の遅延補正量と前記第2の遅延補正量の合計の遅延補正量を追加することを特徴とする請求項2に記載の分散アンテナ装置。
前記第1の遅延補正量は、前記上りリンク希望信号の受信タイミングから前記上りリンク干渉信号の受信タイミングまでの間に、少なくとも1スロット当たり1シンボルの復調用参照信号(DMRS)が受信される長さであることを特徴とする請求項2に記載の分散アンテナ装置。
前記遅延補正部は、前記分散アンテナシステムの基地局からの指示に基づき、前記遅延補正量が追加された先出し制御量を、前記移動局に指示することを特徴とする請求項3に記載の分散アンテナ装置。
【背景技術】
【0002】
屋内・屋外での高速パケット通信エリアを強化するために、分散アンテナシステム(Distributed Antenna System、以下、「DAS」と略称する)が検討されている。DASは基地局から空間的に離れたエリアに複数のアンテナ装置またはアンテナユニットを分散配置し、基地局にて送受信信号を一括処理する統合システムである。
【0003】
DASの屋内用基地局設備として、IMCS(In-building Mobile Communication System)がある。IMCSではRadio on Fiber(RoF)と呼ばれる光伝送装置が用いられる。RoFは、基地局のRF(無線周波)信号を光ファイバを介して中継する装置であり、ベースユニット(以下の説明では、「親機」と称する)と、アンテナユニット(以下の説明では、「子機」と称する)で構成される。1以上の子機が親機に接続されて、それぞれが無線通信エリアを形成する。
【0004】
RoFでは、子機は屋内施設の様々な位置に配置される。RoFは光伝送路の伝送時間の違いにより移動局が、どの子機の配下であるかを判別するために任意の遅延量を光伝送路区間に追加する遅延補正機能を有している。この遅延補正機能は、親子機間の最大遅延量に等しくなるように各子機の遅延量を設定(追加)する用途でも使用する事が可能である。(以下、この遅延補正を「遅延補正制御」と称し、その制御を行う機能を「遅延補正機能」と称する)。
【0005】
また、LTEシステムでは、基地局で受信される異なるUEの上りリンク信号をFFT(Fast Fourier Transformation)を施し一括に復調するが、UE毎の無線区間の伝搬距離が異なり上りリンク信号の受信タイミングがUE毎に大きく異なると、基地局は所望のタイミングでFFTを施す事ができなくなる。そこで、基地局は、受信タイミングの調整を行うために、実際の上り信号の受信タイミングと所望の上り信号受信タイミングとの差分を計測し、その差分をUEに指示し、送信タイミングを早める制御を行う(以下、「タイムアライメント制御」と称し、その制御を行う機能を「タイムアライメント機能」と称する)。また、タイムアライメント制御によるUEの上りリンク信号の先出し時間をタイミングアドバンス値と定義する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
IMCSでは、周辺マクロ基地局等の他システムからの上りリンク干渉による伝送品質の劣化が生じ得る。
【0008】
たとえば、
図1(A)に示すように、移動局またはユーザ端末(UE:User Equipment)20がDAS10の無線フロントエンドに配置される子機30に無線アクセスする場合、一つの子機30がカバーするDASエリア11の半径は小さく、UE20のパワー出力も低い。したがって、UE20が子機30に送信する上り信号は、DASエリア11に隣接する他システムの基地局(たとえばマクロ基地局)100に対して、上り干渉源となる可能性は低い。
【0009】
しかしながら、
図1(B)に示すように、マクロ基地局100のサービスエリア101の半径は大きく、マクロ基地局100に在圏するUE200のパワー出力は高い。したがって、UE200が送信する上りリンク信号は、DAS10に対する上り干渉源となる。このとき、子機30で無線受信された信号は、親機40により有線で中継されDAS基地局装置50に伝送されるが、無線区間での上りリンク干渉により伝送品質の劣化を招くことになる。
【0010】
上りリンク干渉による伝送品質の劣化は周波数分割複信(FDD:Frequency Division Duplex)においても発生しうるが、特に全ての上りリンク信号が同一周波数を用いる時分割複信(TDD:Time Division Duplex)システムにおいては、更に顕著となる。
【0011】
タイムアライメント制御は、本来SC−FDMA(Single Carrier Frequency-Division Multiple Access)において基地局でサイクリックプレフィクス(Cyclic Prefix、以下「CP」と略称する)長を合わせこむ手法であり、干渉を軽減する手法ではない。したがってDASで上りリンク信号にタイムアライメント制御を施しても、干渉は問題になりうる。
【0012】
そこで、本発明は、DASにおける上りリンク干渉の影響の軽減を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、本発明では、遅延補正機能を利用して、子機−親機間に意図的に(仮想的に)伝送距離を増やし、これに対して、タイムアライメント制御により、上り希望信号の受信タイミングを干渉信号の受信タイミングよりも早め、上りリンク干渉の影響を軽減する。ここで、遅延補正機能では上り希望信号の受信タイミングが干渉信号の受信タイミングよりも早まるに足る量の遅延補正量を伝送路に追加する。
【0014】
具体的には、分散アンテナシステムで用いられる分散アンテナ装置は、
移動局からの上りリンク希望信号を受信する受信部と、
前記移動局からの上りリンク希望信号に対して、遅延量を追加して、タイムアライメント制御により前記上りリンク希望信号の受信タイミングを上りリンク干渉信号の受信タイミングよりも早くする遅延補正部
を有することを特徴とする。
【0015】
分散アンテナ装置は、子機のみで実現されてもよいし、子機と親機を合わせて分散アンテナ装置を構成してもよい。また、分散アンテナシステムにおける遅延補正部は子機、親機のいずれか、またはその両方に有する。
【発明の効果】
【0016】
分散アンテナシステム(DAS)に対する他システムからの上りリンク干渉の影響を回避することができる。その結果、チャネル推定精度、SINR等の受信品質、UE−基地局間の同期精度等を改善することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
DAS10では、集計局あるいは中継局としての親機40に多数の子機30が光ファイバ等で接続される。複数のUEからの上り信号の受信タイミングを合わせるために、UEとDAS基地局装置50の間の片道伝搬遅延(STD:Single Trip Delay)に基づいて、各UEの上りリンク送信タイミングが制御される。この制御は、受信タイミングの遅れを補償するために、UEの送信タイミングを早めてDAS基地局装置50での受信タイミングを合わせることから、タイムアライメント(TA:Time Alignment)制御と呼ばれている。
また、DAS10には光伝送路区間の伝送遅延時間を任意に調整する遅延補正機能が搭載される。従来の遅延補正制御は光伝送路毎のばらつきを補償するために行われる。これに対し、実施形態では遅延補正機能を利用して、光伝送路区間に意図的に(余分に)遅延量を追加する。これにより、タイムアライメント機能により、UEに上りリンク信号の送信タイミングを早めさせ、干渉信号よりも前に上りリンク希望信号をDAS基地局50で受信させる。このような本発明の干渉防止のための遅延補正機能とタイムアライメント機能を組み合わせた遅延補正を、便宜上「DAS遅延補正」と称する。
【0019】
本実施形態では、DAS10におけるDAS遅延補正により、基地局における上りリンク希望信号の受信タイミングを上りリンク干渉信号の受信タイミングよりも早めて、無干渉の上り受信信号を得る。UE20からの上り信号が干渉信号よりも早く受信されるように遅延補正量を計算して、これを光伝送路区間に追加する事で、UE20の送信タイミングを早め、他システムからの上りリンク干渉を回避して上りリンクの伝送品質を向上させる。なお、この明細書及び図面で「無干渉」というときは、完全に雑音または干渉がゼロという意味ではなく、低干渉、または、希望信号にとってチャネル推定の妨げとなるレベルの干渉が無い、という意味で用いられている。
【0020】
図2及び
図3は、実施形態の遅延補正の基本概念を説明する図である。タイムアライメント機能、または伝送路長のばらつきの補償を目的とする従来の遅延補正機能の実施にも関わらず、DAS基地局50で受信する干渉信号自体の受信タイミングを制御することはできない。従って、上りリンク希望信号と上りリンク干渉信号の時間関係は、次の2パターンとなる。
(1) 干渉信号よりも希望信号の受信タイミングが早い場合または同時受信の場合、
(2) 干渉信号よりも希望信号の受信タイミングが遅い場合。
【0021】
図2は、上りリンク希望信号の受信タイミングが干渉信号の受信タイミングよりも早い場合(または同時受信の場合)の遅延補正を示す。
図2(A)で模式化されているように、子機30において、子機30に接続しているUE(図中、「子機接続端末」と表記)20からの希望信号が、他システム(たとえばマクロ基地局100)に接続しているUE200が送信する干渉信号よりも早いタイミング(または同時)で受信される。しかし、受信タイミングが早くても(または同時でも)、十分なSINRが得られない場合や、精度良くチャネル推定を実施できない場合もあり得る。そこで、上りリンクに実質的に無干渉の状態を得るために、干渉防止または軽減のための遅延補正量Aを計算して追加する。
【0022】
遅延補正量Aは、上りリンクの干渉を防止するために、DAS遅延補正によって意図的に(余分に)追加される補正量である。遅延補正量Aを追加することで、
図2(B)に示すように、子機30は無干渉の状態で上りリンクの希望信号を受信することができる。計算された遅延補正量Aは有線区間に追加されて、DAS基地局50からUE20に先出し送信のタイミングが通知される。UE20は干渉回避のための遅延補正量Aが加味されたタイミングで、上りリンク信号を先出し送信する。
【0023】
図3は、上りリンク希望信号の受信タイミングが干渉信号の受信タイミングよりも遅い場合を示す。
図3(A)で模式化されているように、子機30において、子機30に接続しているUE(図中、「子機接続端末」と表記)30からの希望信号が、他システム(たとえばマクロ基地局100)に接続しているUE200が送信する干渉信号よりも遅いタイミングで受信される。
【0024】
この場合、
図3(B)に示すように、まずUE30からの上りリンク希望信号が、上りリンク干渉信号と同じ受信タイミングになるように遅延補正量Bが追加される(遅延補正制御)。遅延補正量Bは、干渉信号と受信信号の受信タイミングの差分に相当する。
【0025】
次に、
図3(C)に示すように、無干渉信号を得るために遅延補正量Aが追加され、トータルの遅延補正量はA+Bとなる。遅延補正量A+Bは、有線区間に追加される。DAS基地局50は遅延補正量A+Bに基づき、UE20に先出し送信の指示を送る。UE20は、遅延補正量A+Bが加味された先出しのタイミングで上りリンク信号を送信する。
【0026】
図4は、
図2及び
図3の遅延補正をより具体的に示す図である。実施形態では、TDDシステムにおけるスペシャルサブフレームのガードピリオド(GP)を利用して、干渉防止のための遅延補正を行う。スペシャルサブフレーム(S)は、下りサブフレームの送信区間(D)から上りサブフレームの送信区間(U)へ切り替えるためのフレームであり、ダウンリンク・パイロット・タイムスロット(DwPTS)と、ガードピリオド(GP)と、アップリンク・パイロット・タイムスロット(UpPTS)を含む。DwPTSは下りデータの拡張領域、UpPTSは上りデータの拡張領域であり、GPは下り区間にも上り区間にも使用されない。子機30はUpPTSから上りリンク信号の受信が可能であるから、GP区間に上り干渉信号がない場合は、希望信号が干渉信号と同時またはそれよりも早く受信される状態である。この場合、
図2と同様に有線区間に遅延補正量Aを追加することで、低干渉の信号によるチャネル推定が可能になる。
【0027】
他方、
図4に示すように、GP区間に上り干渉信号がある場合、希望信号よりも干渉信号が先に受信されることになる。この場合、
図3と同様に、干渉信号の受信開始時点とGP区間の終了時点t2の差に相当する遅延補正量Bが追加され、無干渉状態を確保するための遅延補正量Aがさらに追加される。遅延補正量A+Bが加味されることにより、UE20からの上りリンク信号は、干渉信号の受信よりも早いt1のタイミングで受信され、無干渉区間を得ることができる。
【0028】
遅延補正量Bを計算するために、GPの開始時点で検波器を起動する。GP長はあらかじめわかっているので、検波時間、すなわち検波器の起動から上り干渉信号が検出されるまでの時間を測定することで、GP長と検波時間の差分を遅延補正量Bとして計算することができる。
【0029】
図5は、実施形態の分散アンテナ装置(子機30または親機40)における制御フローを示す。分散アンテナ装置は子機30で実現してもよい。あるいは、子機30と親機40で協同して分散アンテナ装置を構成してもよい。分散アンテナ装置は、GP区間の開始の都度に検波器を起動し、GP区間内に上り干渉信号が有るか否かを判断する(S101)。上り干渉信号は、たとえば、隣接するマクロ基地局100と接続中のUE200による上り送信信号である。GP区間内に上り干渉信号がある場合は、上り干渉信号の受信開始からGP区間の終了までの時間を遅延補正量Bとして計測し(S103)、遅延補正量Bを有線区間に追加する(S105)。さらに、所定の遅延補正量Aを有線区間に追加する(S107)。この結果、干渉回避のためにDAS遅延補正により追加されるトータルの遅延補正量はA+Bとなる。
【0030】
GP区間内の上り干渉信号がない場合は、ステップS107に飛んで、DAS遅延補正により、所定の遅延補正量Aを有線区間に追加する。この方法により、UE20は他システムからの干渉の影響を回避したタイミングで上りリンク信号を先出し送信することができる。
【0031】
図6は、
図5のステップS101でGP区間内で上り干渉信号が受信された場合の処理を説明する図である。DAS10で用いられる子機30は、無線フロントエンドのアンテナユニットとして、例えばビル等の施設の各階に設置され、光ケーブルを介して親機40と接続されている。親機40は、たとえばコアネットワーク(CN)ビル等に設置され、複数の子機30からの信号をDAS基地局装置50に中継する。親機40とDAS基地局装置50は、たとえばRF(高周波)ケーブルを介して接続されている。
【0032】
子機30がカバーするDASエリア11に隣接して、他システム(マクロ基地局100)のサービスエリア101が位置する。マクロ基地局100に在圏する他のUE200がマクロ基地局100のセル端で通信中の場合、UE200の送信信号はDAS10の上りリンクにとって干渉信号となり、子機30は、GP区間で上り干渉信号を検出する。
【0033】
図7は、
図5のステップS103を説明する図である。GP区間で上り干渉信号が検出されると、子機30または親機40は、検波器による計測時間から、遅延補正量Bを計算する。上述のように、遅延補正量Bは、干渉信号の受信開始からGP区間の終了までの時間に相当する。子機30または親機40は、既知のGP区間の長さから検波時間を引き算して遅延補正量Bを計算する。
【0034】
図8は、
図5のステップS105を説明する図である。分散アンテナ装置を構成する子機30または親機40は、遅延補正量BをDAS10の有線区間に追加する。遅延補正量Bを追加することで、UE20からの希望信号の受信タイミングを上り干渉信号の受信タイミングと同じ程度にまで早めることができるが、これだけでは干渉回避のために不十分である。
【0035】
図9は、GP区間内で上り干渉信号が受信された場合のステップS107の処理を説明する図である。遅延補正量Bに加えて、子機30または親機40は無干渉区間を確保するため、遅延補正量Aも有線区間に追加する。DAS10のタイムアライメント機能により、UE20の上りリンク信号の送信タイミングは、遅延補正量A+Bに相当する時間、意図的に早められる。
【0036】
図10は、
図5のステップS101でガードピリオド区間内で上り干渉信号が受信されない場合を説明する図である。子機30は、UpPTSの開始区間からUE20からの上りリンク信号を受信することができるので、希望信号の受信のほうが干渉信号の受信よりも早い。この場合は、
図11に示すように、S107で有線区間に遅延補正量Aのみを追加する。
【0037】
図11で、有線区間に遅延補正量Aを追加することで、UE20の送信タイミングは、遅延補正量Aに相当する分だけさらに早くなる。これにより、十分な低干渉区間が確保され、上りリンクの伝送品質の劣化を防止することができる。
【0038】
図12A〜
図12Cは、分散アンテナ装置の概略構成図である。
図12Aでは子機30が分散アンテナ装置を構成し、
図12Bでは、子機30と親機40が協同して分散アンテナ装置60を構成する。
図12Aにおいて、子機30は、無線信号送受信部35と、タイマー群36と、光信号送受信部37と、遅延補正部31を有する。無線信号送受信部35は、子機30のUE20との間でTDD方式で無線通信を行う。光信号送受信部37は、光電気(O/E)変換部と電気光(E/O)変換部を有し、親機40との間で光通信を行う。タイマー群36は、検波器タイマー38を含む各種タイマーを有する。
【0039】
遅延補正部31は、上り干渉判定部32と、遅延補正量計算部33を有する。上り干渉判定部32は、GP区間の開始とともに検波器38を起動してGP区間内に他システムからの上り干渉信号が有るか否かを判断し、判定結果を遅延補正量計算部33に通知する。上り干渉判定部32は、GP区間内に上り干渉信号を検出した場合は検波器タイマー38を参照し、干渉信号検出時のタイマー値を遅延補正量計算部33に通知する。
【0040】
遅延補正量計算部33は、GP区間内に上り干渉信号がない場合は、所定の遅延補正量Aを有線区間に追加する。GP区間内に上り干渉信号がある場合は、検波器タイマー38のタイマー値とGP区間長の差分を遅延補正量Bとして計算し、遅延補正量A+Bを有線区間に追加する。DAS基地局装置50は、遅延補正量Aまたは遅延補正量A+Bを加味したタイミングアドバンス値をUE20に指示する。
【0041】
図12Bの分散アンテナ装置60では、干渉回避のためのDAS遅延補正機能は親機40に設けられる。親機40は、遅延補正部41と光信号送受信部47を有する。遅延補正部41は、上り干渉判定部42と、遅延補正量計算部43を有する。
【0042】
子機30は上りリンク信号を受信すると、光信号送受信部37により検波結果を親機40に通知する。親機40の遅延補正部41は、子機30から受信した情報または信号を元に、子機30が遅延補正部31を有する場合と同様の動作を行う。
【0043】
あるいは、
図12Cのように、子機30と親機40の双方に干渉回避のためのDAS遅延補正機能をもたせて、分散アンテナ装置70を構成してもよい。
【0044】
図12A〜
図12Cのいずれの構成においても、DAS10で隣接するマクロ基地局100等の他システムからの上り干渉信号がある場合に、UE20からの希望信号が干渉信号よりも早く受信されるように意図的に遅延補正量を追加してUE20に対する送信制御を行うことで、上りリンク干渉を回避することができる。
【0045】
図13〜15は、実施形態の遅延補正によるチャネル推定精度の向上効果を説明する図である。
図13(A)に示すように、子機30は上りリンク信号として、たとえばPUCCH(Physical Uplink Control Channel:物理上りリンク制御チャネル)で送信されるDMRS(Demodulation Reference Signal:復調用参照信号)を受信する。このDMRSを低干渉化することにより、チャネル推定精度が向上する。
【0046】
図14に示すように、DMRSは、PUCCHのフォーマットに応じてタイムスロットの所定の位置に配置されている。
図13(A)で、遅延補正量AまたはA+Bが追加された先出し制御により、DMRSは無干渉区間時間t
d内で、他システム(たとえばマクロ基地局100)からの上り干渉信号よりも早いタイミングで受信される。
【0047】
図13(B)は、スペシャルサブフレーム(以下、適宜「SS」と略称する)コンフィギュレーションごとに、理論上の最大無干渉区間時間t
d[μs]内で上りリンク干渉を受けないDMRSシンボル数(1スロット当たり)を示す。ここで、無干渉区間時間t
dはGP区間の1/2以下とする。SSコンフィギュレーションは、ノーマルのサイクリックプレフィクスを用いる場合、
図15に示すように9種類の構成が規定されている(拡張されたサイクリックプレフィクスを用いるときのSSコンフィギュレーションは省略する)。
【0048】
SSコンフィギュレーション番号0と5で、上り干渉信号が存在する場合でもDMRSを無干渉で受信することができ、PUCCHのチャネル推定に寄与することがわかる。
【0049】
図16は、実施形態の遅延補正によるSINR(Signal to Interference-plus-Noise Ratio:信号対干渉及び雑音電力比)の改善効果を示す。
図16(A)に示すように、GP区間内でマクロ基地局100からの上り干渉信号を受信しない場合、DAS遅延補正に遅延補正量Aを追加することにより、時間t
dの無干渉(低干渉)区間が形成される。干渉信号の平均電力をR[W]、上りリンク希望信号の平均電力をS[W]とすると、1サブフレーム(1[ms])でのSINRは式(1)で表される。
【0050】
【数1】
このSINR値は、無干渉区間がない場合のSINRと比較して、式(2)で表される分だけSINRが改善されている。
【0051】
【数2】
図16(B)は、SSコンフィギュレーションごとに、無干渉区間時間t
dの理論上の最大値とSINR改善値を示す。各SSコンフィギュレーションで最大の無干渉区間時間t
dを選定することで、SINRは0.16[dB]〜1.92[dB]改善される。
【0052】
図17は、実施形態の遅延補正によるUEと基地局間の同期性能の改善効果を示す。TDDのシステムでは、PRACH(Physical Random Access Channel:物理ランダムアクセスチャネル)はUpPTSの区間で送信される。
図17(A)に示すように、UpPTSの区間が無干渉または低干渉となれば、UT20とDAS基地局装置50の間の同期性能が改善される。
【0053】
図17(B)は、SSコンフィギュレーションごとに、UpPTS区間の無干渉化の可否を示す図である。表の最右欄の丸印はUpPTSの無干渉化が可能であることを示し、三角印はUpPTSの一部無干渉化が可能であることを示す。SSコンフィギュレーション番号0.1.2.3.5.9でUpPTSの無干渉化が可能である。その他のSSコンフィギュレーション番号でも、UpPTSの一部無干渉化により同期性能の改善が可能である。
【0054】
図18は、実施形態の遅延補正の効果を説明する図である。たとえば、
図14のPUCCHフォーマット1aと、
図15のSSコンフィギュレーション0を用い、遅延補正量Aを6600Ts[μs]とし、干渉信号よりも希望信号の受信タイミングが1000Ts遅いとすると、合計で7600Ts(遅延補正量A+B)の遅延補正が追加される。ここで、1サブフレーム(1ms)=30720Tsである。この場合、サブフレーム内に無干渉のPUCCHのDMRSを1シンボル含み、チャネル推定に寄与することができる。
【0055】
図18の例では、最大の無干渉区間時間t
dは6600Tsであり、1サブフレームごとにSINRは1.05dB改善される。また、UpPTSが無干渉となり、PRACHは干渉信号の影響を受けない。
【0056】
このように、DAS10のタイムアライメント制御機能を利用して、UEからの希望信号の受信タイミングを干渉信号の受信タイミングよりも早くすることで、上りリンク干渉の影響を防止することができる。