(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
低融点成分繊維と高融点成分繊維を含む熱可塑性繊維を加熱し、低融点成分繊維を溶融することによって一体化して得た線状複合材を、経糸、緯糸及び傾斜糸から選ばれる2糸以上を用いて製織した後、熱融着してなる熱可塑性樹脂成形物用補強材であって、
該線状複合材の低融点成分繊維が熱可塑性樹脂成形物の樹脂成分と熱融着が可能であり、
かつ、高融点成分繊維が熱可塑性樹脂成形物の補強効果を発現するものであると共に、
該補強材は、該線状複合材を製織した後、2糸以上が相互に交差する織交点を融合一体化してなるシート状を呈しており、
該補強材内の2糸以上が相互に交差する織交点の角部近傍に生じる隙間、又は該線状複合材内に生じる隙間の最大孔径の平均が10〜500μmであり、
かつ、該補強材のJIS P8117に基づくガーレー試験機法による透気抵抗度が0.1〜50秒/100mlである、
ことを特徴とする熱可塑性樹脂成形物用補強材。
前記線状複合材の低融点成分繊維は、ポリオレフィン系樹脂からなり、前記高融点成分繊維は前記ポリオレフィン系樹脂よりも融点が20℃以上高い結晶性熱可塑性樹脂で形成されている請求項1に記載の熱可塑性樹脂成形物用補強材。
前記線状複合材は、前記熱可塑性繊維が単繊維中に低融点成分と高融点成分を含む複合繊維を2本以上集束して一体化して得た繊維である請求項1又は2に記載の熱可塑性樹脂成形物用補強材。
前記線状複合材は、示差走査熱量計を使用し、昇温速度を30℃/分として、融解熱量法により測定した高融点成分繊維の結晶化度が60%以上である請求項1〜3のいずれかに記載の熱可塑性樹脂成形物用補強材。
前記補強材は、前記線状複合材を平織、朱子織、綾織から選択されるいずれか、又はそれらを組み合わせてなる織組織により製織されて形成されてなるものである請求項1〜6のいずれかに記載の熱可塑性樹脂成形物用補強材。
請求項1〜7のいずれかに記載の熱可塑性樹脂成形物用補強材を少なくとも金型の一方の成形面に配して射出成形することにより、該補強材に溶融樹脂を浸透、または該補強材の隙間に溶融樹脂を貫通させて成形してなる、熱可塑性樹脂成形物。
【背景技術】
【0002】
プラスチック成形品を得る方法として、射出成形法が用いられている。これは、可塑化した溶融樹脂を閉ざされた金型内に射出し冷却固化させて成形品を得る方法として自動車、家電、雑貨など広く用いられている方法である。
射出成形法によれば、基本的に溶融可能な熱可塑性樹脂なら成形でき、また、金型内で反応硬化させる熱硬化性樹脂も成形可能である。
射出成形に用いられる樹脂には、様々な機能(強度、剛性、ガスバリアー性など)を付与することを目的に樹脂にフィラー等を含有させたコンパウンドが用いられる。熱可塑性樹脂を用いる場合には、溶融押出機等の可塑化装置で溶融させるため、フィラーは短繊維やフレーク、粒状物を用いることが一般的である。
強度を発現させるためガラス繊維など繊維状物を用いる場合があるが、短繊維に限定されるため金型内での繊維配向に留意しないと、成形品の性能に異方性が発現しやすいウエルドと呼ばれる金型内で溶融樹脂が合流する部分での物性低下の問題が生じる。
また、このような無機繊維を用いた成形品は、リサイクルがし難い等の点でも問題がある。
【0003】
一方、プレス成形法では、上記補強繊維に短繊維だけでなく長繊維を用いることができる。一例を示すと連続繊維(織物や一軸配向した繊維シートなど)を金型内に熱可塑性樹脂シートと重ねて配置し、次いで金型を加熱、加圧して熱可塑性樹脂を溶融させ繊維シートに溶融樹脂を含浸させる繊維強化熱可塑性樹脂成形品の成形方法や、熱硬化性樹脂組成物をモノマー状態で注入、含浸させ金型内の熱で反応硬化させて繊維強化樹脂成形品とする成形方法がある。
前述の熱可塑性樹脂を溶融、含浸する方法の場合、シート状物なら連続して成形することも可能であるが、三次元(3D)の形状なら一旦シート状の連続繊維強化熱可塑性樹脂シートを作成し、ついで3Dの金型で再度加熱冷却工程を経なければ3D成形品を得ることができない。
また、熱硬化性樹脂を用いる場合は、3Dの金型内に連続繊維を配置すれば一度に成形品を得ることができるが、モノマーを注入、含浸させ硬化させるための反応時間を要する為、成形サイクルがどうしても長くなる。
【0004】
一方、連続繊維で補強した熱可塑性樹脂の3D成形品を得る方法として、インサート成形を応用した事例がある。インサート成形は射出成型用金型内にあらかじめ何らかの機能を有するもの、例えば金属製の接合部品などを装着し次いで溶融樹脂を射出し冷却させることで部品等を一体化した成形品を得る方法である。
このインサート成形の応用として、例えば、ガラス長繊維等の連続繊維状物からなる織布等をあらかじめ金型内に挿入しておき、ついで溶融樹脂を射出して繊維強化熱可塑性樹脂成形体を得る方法が検討されている。
しかし、補強繊維としての連続繊維状物は、一般に数百本のフィラメントから構成されたロービング(繊維束)で構成されており、織布のロービング間に溶融樹脂が含浸しても、ロービング内のフィラメント間まで溶融樹脂を含浸させることは成形時の射出圧力、成形時間を考慮すると極めて困難である。
【0005】
さらに、連続繊維補強体で3D成形品を検討する場合、剛性を補完する目的で使用するリブ(凸溝)構造や他の部材と接合させる場合のねじ穴として使用するボス構造を必要とする場合、その構造内に連続繊維を挿入させることはできないため、その部分は熱可塑性樹脂単体で構成させる。
この場合、あらかじめ熱可塑性樹脂が連続繊維シートに含浸した樹脂シートを金型内に配置して上記部材を形成する方法が用いられる。
しかし、連続繊維シートは目が詰まっているため、表皮側とリブ側に別々に樹脂を注入させる必要が生じ、2度成形操作を行うことを余儀なくされ、金型構造が複雑になるばかりでなく、連続繊維シートに用いた熱可塑性樹脂と射出成形時の熱可塑性樹脂の接着力にも配慮する必要があるなど、3D成形品の製品設計には多くの課題があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明は、連続補強繊維からなる補強材をインサート成形することによって、耐衝撃性等の補強効果が得られる熱可塑性樹脂成形物用補強材、および、成形型内に該補強材を配置して射出成形すれば、主体樹脂が補強材を貫通してリブ構造やボス孔が一度の成形工程で成形できる補強材を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、熱可塑性樹脂成形物用補強材について鋭意実験及び検討を行い、特定の構成の線状複合材から得られた織布の織交点を熱融着したシート状物であって、織布の隙間の孔径が所定の範囲であり、かつ、透気度が特定の範囲の補強材が上記の目的を達成できることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は以下に記載の(1)〜(8)を提供する。
(1)低融点成分繊維と高融点成分繊維を含む熱可塑性繊維を加熱し、低融点成分繊維を溶融することによって一体化して得た線状複合材を、経糸、緯糸、及び傾斜糸から選ばれる2糸以上を用いて製織した後、熱融着してなる熱可塑性樹脂成形物用補強材であって、該線状複合材の低融点成分繊維が熱可塑性樹脂成形物の樹脂成分と熱融着が可能であり、かつ、高融点成分繊維が熱可塑性樹脂成形物の補強効果を発現するものであると共に、該補強材は、該線状複合材を製織した後、2糸以上が相互に交差する織交点を融合一体化されてなるシート状を呈しており、該補強材内の2糸以上が相互に交差する織交点の角(カド)部近傍に生じる隙間、又は該線状複合材内に生じる隙間の最大孔径の平均が10〜500μmであり、かつ、該補強材のJIS P8117に基づくガーレー試験機法による透気抵抗度が0.1〜50秒/100mlである、ことを特徴とする熱可塑性樹脂成形物用補強材。
(2)前記線状複合材の低融点成分繊維は、ポリオレフィン系樹脂からなり、高融点成分繊維は前記ポリオレフィン系樹脂よりも融点が20℃以上高い結晶性熱可塑性樹脂で形成されている前記(1)に記載の熱可塑性樹脂成形物用補強材。
(3)前記線状複合材は、前記熱可塑性繊維が単繊維中に低融点成分と高融点成分を含む複合繊維を2本以上集束して一体化して得た繊維である前記(1)又は(2)に記載の熱可塑性樹脂成形物用補強材。
(4)前記線状複合材は、示差走査熱量計を使用し、昇温速度を30℃/分として、融解熱量法により測定した高融点成分繊維の結晶化度が60%以上である前記(1)〜(3)のいずれかに記載の熱可塑性樹脂成形物用補強材。
(5)前記線状複合材は、2種以上の高融点成分繊維を含む前記(1)〜(4)のいずれかに記載の熱可塑性樹脂成形物用補強材。
(6)前記線状複合材は、120℃における引張りヤング率が7cN/dtex 以上である前記(1)〜(5)のいずれかに記載の熱可塑性樹脂成形物用補強材。
(7)前記補強材は、前記線状複合材を平織、朱子織、綾織から選択されるいずれか、又はそれらを組み合わせてなる織組織により製織されて形成されてなるものである前記(1)〜(6)のいずれかに記載の熱可塑性樹脂成形物用補強材。
(8)前記(1)〜(7)のいずれかに記載の熱可塑性樹脂成形物用補強材を少なくとも金型の一方の面に配して射出成形することにより、該補強材に溶融樹脂を浸透、または該補強材の隙間に溶融樹脂を貫通させて成形してなる、熱可塑性樹脂成形物。
【発明の効果】
【0009】
本発明の熱可塑性樹脂成形物用補強材は、補強材が線状複合材を製織し、経糸、緯糸、又は傾斜糸が相互に交差する織交点を融合一体化したシート状とし、その交点において経糸、緯糸、又は傾斜糸(これらを、「糸」と称する。)が交差する織交点の角(カド)部近傍に生じる隙間、又は該線状複合材内に生じる隙間の最大孔径の平均が10〜500μmであり、かつ、該補強材のJIS P8117に基づくガーレー試験機法による透気抵抗度が0.1〜50秒/100mlとしているので、成形型の一方の成形面(通常は固定型)に該補強材を配して型締めし、他方の成形面側(通常は可動型)に設けられた樹脂供給通路から溶融した成形体用の熱可塑性樹脂(以下、「主体樹脂」という)を所定の圧力で供給しても、成形面側の補強材の表面に沁み出すことがない。よって、補強材の表面層を有する熱可塑性樹脂成形物が得られ、かつ、該補強材と成形体用の主体樹脂とは熱融着しているので、機械的物性が向上し、耐曲げ性、耐面衝撃性に優れる高靭性の熱可塑性樹脂成形物を提供することができる。
また、成形物にリブやボスを設ける必要がある場合であっても、成形面にリブ用の溝やボス用の孔を有する型を用い、把持装置によって補強材を把持しつつ、溶融した成形体用の熱可塑性樹脂(主体樹脂)を所定の圧力で供給すれば、補強材は、最大孔径の平均が10〜500μmであり、かつ、透気抵抗度が0.1〜50秒/100mlの数値で示される隙間(開口部)を有しているので、当該隙間から主体樹脂がリブ用の溝やボス用の孔側へ流通し、リブやボスを同時に成形することができる。
【0010】
また、当該隙間の存在により、主体樹脂の流入により移動するキャビティ内の空気も補強材の隙間から、成形面を伝って排出されるので、補強材と成形体樹脂表面との界面に空気溜りなどの弊害が発生することなく、当該界面の熱融着が均一であるため、機械物性が均一で信頼性の高い熱可塑性樹脂成形体を提供できる。
さらに、本発明の熱可塑性樹脂成形物用補強材は、熱可塑性樹脂成形物の表面に、或いはリブ部、ボス部においては内部に補強材として一体成形された後においても、当該補強材を介在させてさらにその表面に、織布、不織布、人工皮革、天然皮革等を表皮材として補強材の低融点繊維成分との熱融着を利用したり、或いは接着剤を介して積層して、意匠性を有する部材を提供することができる。
また、本発明の熱可塑性樹脂成形物用補強材を少なくとも一方の面に配して補強してなる熱可塑性樹脂成形物は、前述の如く、成形体にリブやボスを補強材の一体化と同時に形成できるので、他部材との接合が容易にできる成形体を低コストで供給できる。
さらに、前記成形型の、一方の成形面(特に固定型)の表面を凹凸状の形状にすることによって、熱可塑性樹脂成形物の内部に補強材を、ほぼ埋め込むこともでき、これによって、補強材を構成する繊維が連続繊維なので、耐衝撃性や、耐貫通性が向上した成形体を提供できる。
さらにまた、通常において補強材として用いられているガラス繊維等の無機繊維を用いていないので、マテリアルリサイクルが容易な成形体を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0013】
本発明の熱可塑性樹脂成形物用補強材は、低融点成分繊維と高融点成分繊維を含む熱可塑性繊維を加熱し、低融点成分繊維を溶融することによって一体化して得た線状複合材を経糸、緯糸、及び傾斜糸から選ばれる2糸以上として製織した後、熱融着してなる補強材である。前記熱可塑性繊維は、単繊維中に低融点成分と高融点成分を含む未延伸複合繊維、またはそれぞれ単独の未延伸低融点成分繊維及び未延伸高融点成分繊維を混合して引き揃えた状態で、低融点成分繊維の融点以上で、低融点成分繊維を溶融して一体化して、謂わばマトリックス状をなし、当該マトリックス中に高融点成分繊維が分散した形態の線状複合材を得る。次いで、該線状複合材を経糸、緯糸、及び傾斜糸から選ばれる2糸以上として織機等にて製織した後、これらの各糸相互の織交点を融合一体化してなるシート状(織物)を呈する補強材を得る。
該補強材は、該線状複合材の低融点成分繊維が熱可塑性樹脂成形物の主体樹脂成分と熱融着が可能であり、かつ、当該熱融着による接着一体化によって高融点成分繊維が熱可塑性樹脂成形物の表面、或いはリブ部やボス部では内部において、高度の補強効果を発現するものである。
また、本発明の補強材はシート状を呈する該補強材内の2糸以上が相互に交差する織交点の角(カド)部近傍に生じる隙間、又は該線状複合材内に生じる隙間の最大孔径の平均が10〜500μmであり、かつ、該補強材のJIS P8117に基づくガーレー試験機法による透気抵抗度が0.1〜50秒/100mlである。
【0014】
以下、本発明の熱可塑性樹脂成形物用補強材及びそれを用いた熱可塑性樹脂成形物について、さらに詳しく説明する。
本発明の補強材が適用できる熱可塑性樹脂成形物は、射出成形より成形物を得るに際して、予め金型内に補強材を配置して型締めし、溶融状樹脂を型内に供給するか、又はブロー成形により成形物を得るに際して、押出しヘッドより筒状又はシート状の予備成形体として押出し、予備成形体と補強材を金型で挟む態様にして型締めした後、予備成形体をブロー成形することで、本発明の補強材で補強された成形物を得ることができる。
【0015】
熱可塑性繊維
本発明に用いられる熱可塑性繊維は、低融点成分繊維と高融点成分繊維を含む。その態様としては、
図1(A)に示すように単繊維(1本の繊維)3中に低融点成分2と高融点成分1を含む少なくとも2本以上の未延伸複合繊維3、あるいは
図1(B)に示すようにそれぞれ単一系の未延伸低融点成分繊維5及び未延伸高融点成分繊維4を混合(混繊)して引き揃えた少なくとも2本以上の繊維束であってもよい。単一系繊維4、5の混繊は、それぞれの単一系繊維4、5を未延伸段階で混繊し、単一系の低融点成分繊維5の融点以上、高融点成分繊維4の融点以下の温度で熱延伸される。しかる後、
図2(A)に示すように、高融点成分繊維4が補強効果発現性の繊維として溶融した低融点成分からなるマトリックス6中に分散した状態で存在する線状複合材7として巻き取られ、織機等による製織工程に供される。なお、未延伸繊維段階での混繊糸を得るには、線状複合材7に要求される繊度に応じて、各単一系の低融点成分繊維および高融点成分繊維の必要本数をクリールに懸架し、これらを引き出しながら混繊ユニットに挿通する方法を挙げることができる。混繊ユニットを経た混繊糸は、連続して延伸装置に供給して延伸し、上述の線状複合材7の形態とされる。
また、混繊ユニットを用いることなく、未延伸繊維の紡糸段階で、低融点成分系繊維5と高融点成分系繊維4が、同一紡糸ノズルにおいてそれぞれ別個に複数配列された紡糸ノズルユニットから吐出することによっても、低融点成分系繊維5と高融点成分系繊維4のそれぞれの単一成分系の熱可塑性繊維から、これらが一体化された線状複合材7を得ることができる。
【0016】
単繊維中に低融点成分と高融点成分を含む未延伸複合繊維から線状複合材を得るには、低融点成分および高融点成分を合流させて単一の孔から吐出できる紡糸孔(ノズル)を備えた複合繊維紡糸装置から紡出した未延伸複合繊維を得、これを所定の温度範囲で延伸することによって得ることができる。
【0017】
低融点成分繊維または低融点成分
熱可塑性繊維における低融点成分繊維または複合繊維の低融点成分は、比較的低温で熱可塑性樹脂成形体への熱融着(成形)ができ、熱効率において経済的な点から、示差走査熱量計を使用し昇温速度10℃/分として測定した融点が130℃以下のポリオレフィン系樹脂を用いることが好ましい。具体的には、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン及びエチレン酢酸ビニルなどのエチレン系樹脂、エチレン及びブテンなどのαオレフィンとプロピレンとの2元系又は3元系共重合体であるランダム又はブロック共重合ポリプロピレンなどを用いることができる。これらのポリオレフィン系樹脂の中でも、融点が明確で温度に対してシャープな溶融挙動を示す点から、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン及び高密度ポリエチレンが好適である。
【0018】
高融点成分繊維または高融点成分
一方、熱可塑性繊維における高融点成分繊維、或いは複合繊維の高融点成分は、熱可塑性樹脂成形物の補強効果を発現するものであるので線状複合材の製造時や補強材として熱可塑性樹脂成形物と積層一体化する場合おいても溶融しないことが必要である。本発明において、「熱可塑性樹脂成形物の補強効果を発現する」とは、当該熱可塑性樹脂成形物に対する曲げ、引張り、衝撃などの外力や熱などが作用した場合に、未補強の成形物の場合よりも応力を向上できることを意味するものとする。本発明を構成する、高融点成分繊維としては、融点が低融点成分繊維よりも20℃以上高い結晶性熱可塑性樹脂で形成されていることが好ましい。例えば、低融点成分繊維が前述した融点が130℃以下のポリオレフィン系樹脂で形成されている場合、高融点成分繊維に用いられる結晶性熱可塑性樹脂としては、アイソタクチックポリプロピレン(i−PP)などのポリプロピレン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)などのポリエステル系樹脂、及びナイロン6、ナイロン66などのポリアミド系樹脂が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0019】
線状複合材
本発明の補強材は、まず、前記の低融点成分繊維と高融点成分繊維を含む熱可塑性繊維を熱により低融点成分繊維を溶融することにより一体化して線状複合材とされ、該線状複合材を経糸、緯糸、及び傾斜糸から選ばれる2糸以上として製織される。
図2は、
図1(A)に示す熱可塑性繊維として複合繊維3を加熱延伸して得た線状複合材7の構造例を模式的に示す断面図である。2本以上の複合繊維3を加熱延伸熱すると、各複合繊維3の低融点成分である被覆層2が融合一体化して、長手方向における断面において、マトリックス樹脂6(被覆層2を構成する低融点成分の熱可塑性樹脂)中に補強効果を発現する高融点成分繊維(以下、「繊維状強化材」という場合がある。)1が存在する構造の線状複合材7が得られる。
【0020】
繊維状強化材1の存在状態は特に限定されるものではなく、
図2Aに示すように、長手方向における断面において、マトリックス樹脂6にランダムに分散していてもよく、
図2Bに示すように高融点成分繊維状強化材1の一部が接触して存在していてもよい。また、
図2Cに示すように、マトリックス樹脂6中に、材質や太さが異なる2種以上の繊維状強化材1a,1b又は4a,4bが存在していてもよい。
【0021】
さらに、繊維状強化材1の太さや形状も特に限定されるものではなく、
図2Cに示すような直径が太いものや、断面楕円状のものが、長手方向における断面において、規則的に又は不規則的に配置されていてもよい、形状が異なる2種類の繊維状強化材が互いに交差するように配置されていてもよい。なお、マトリックス樹脂6や繊維状強化材1(4)に空隙が存在していてもよい。
【0022】
ここで、それぞれが単一成分系の低融点成分繊維と高融点成分繊維を含む熱可塑性繊維(「単独成分系熱可塑性繊維」)、或いは両成分を同時に含む複合繊維3の延伸条件は、特に限定されるものではないが、繊維物性向上の観点から、延伸温度は145℃以上とすることが好ましい。一方、高融点成分繊維(繊維状強化材1)の結晶化度を高める観点から、延伸倍率は高い方が好ましい。しかしながら、延伸倍率が高すぎると、結晶配向が乱れて結晶化度が低下するため、単独2成分系熱可塑性繊維及び複合繊維3については、1段よりも多段で延伸することが望ましい。1段で延伸すると、一気に大きな延伸倍率がかかるため、加熱槽に被延伸物が侵入する前に延伸が開始され、特にネック(くびれ)延伸が極端に開始され、結果として配向結晶が生じにくくなるためである。
【0023】
本発明の熱可塑性樹脂成形物用補強材は、低融点成分繊維は、前述の如くポリオレフィン系樹脂からなり、前記高融点成分繊維は前記ポリオレフィン系樹脂よりも融点が20℃以上高い結晶性熱可塑性樹脂で形成することができる。
高融点成分繊維の融点が20℃以上高ければ、前記ポリオレフィン系樹脂を溶融状としつつ高融点成分繊維は溶融することなく熱延伸により強度が発現できる延伸温度に設定して延伸することができる。
さらにまた、前記熱可塑性繊維が単繊維中に低融点成分と高融点成分を含む複合繊維を2本以上含む熱可塑性繊維とすることが、得られる線状複合材における繊維強化材の均一分散性の観点から好ましい。すなわち、複合繊維によるときは、前述の混繊装置等を要せず、低コスト化を図ることができる。
例えば、2段延伸により線状複合材を形成する場合は、1段目を温水で行い、2段目を高飽和水蒸気中で行うことが好ましい。また、その場合、高融点成分繊維(繊維状強化材1)の結晶化度向上の観点から、2段目の延伸倍率を1.5〜2.5倍に設定することが好ましい。2段目の延伸倍率が1.5倍未満の場合、1段目に形成した配向結晶が乱れて、結晶化度が低下することがある。また、2段目の延伸倍率が2.5倍を超えると、糸切れが発生したり、配向結晶が壊れて、結晶化度が低下したりすることがある。
【0024】
なお、2段延伸により線状複合材を形成する場合における1段目の延伸倍率は、特に限定されるものではないが、例えば4.0〜10.0倍とすることができる。また、未延伸原糸3の延伸は2段に限定されるものではなく、3段以上で行ってもよい。
【0025】
そして、本発明の熱可塑性樹脂成形体用補強材に用いる線状複合材の繊維状強化材(延伸後の高融点成分繊維)1は、示差走査熱量計を使用し、昇温速度を30℃/分として、融解熱量法により測定した高融点成分繊維の結晶化度が60%以上であることが好ましい。繊維状強化材1の結晶化度が 60%未満の場合、成形時に歪みが発生して、成形体に反りが生じる。一方繊維状強化材1の結晶化度を60%以上にすることにより、成形時に発生する歪みを小さくし、熱収縮のない樹脂成形体を製造することができる。
【0026】
ここで規定する線状複合材内の高融点成分繊維の結晶化度は、示差走査熱量計(DSC)を用いて測定した高融点成分繊維の融解熱量から算出した値である。結晶化度の算出にあたっては、高融点成分繊維を構成する樹脂の完全結晶における融解熱量文献値を結晶化度100%とした。また、繊維状強化材1の測定量は約10mgとし、室温から高融点成分繊維の融点よりも30〜40℃高い温度まで、昇温速度30℃/分で、昇温走査した。
【0027】
DSCを用いて樹脂の融点を測定する場合は、一般に、昇温速度は10℃/分に設定されるが、延伸物のような配向結晶化が生じているものの融解熱量を測定し、繊維に内在している結晶化度の差異を求める場合、昇温速度が遅いと、昇温中に結晶化が進行し、測定前と異なる状態の融解熱量を測定することになる。そこで、本実施形態においては、繊維状強化材(延伸後の高融点成分繊維)1の結晶化度は、昇温速度を30℃/分として測定した値で規定した。
【0028】
さらに、本発明の熱可塑性樹脂成形物用補強材に用いる線状複合材7は、120℃における引張りヤング率が7cN/dtex以上であることが好ましい。
120℃における引張りヤング率が7cN/dtex以上であれば、熱可塑性樹脂成形物と一体化する成形時に発生する歪みを小さくすることができる。
【0029】
線状複合材の製織及びシート状化
本発明の熱可塑性樹脂成形物用補強材において、熱可塑性樹脂成形物を有効に補強する観点から、線状複合材を長繊維状に配して補強材とすることが、望ましく、その観点から織機等により製織された織構造を有していることが好ましい。
すなわち、補強材を形成するため、線状複合材7は、経糸及び緯糸、経糸又は緯糸と傾斜糸等として織機等により製織される。また、補強材の2糸以上、すなわち経糸、緯糸、及び傾斜糸のいずれかが相互に交差する織交点の角(カド)部近傍に生じる隙間、又は該線状複合材内に生じる隙間の最大孔径の平均が10〜500μmであり、かつ、該補強材のJIS P8117に基づくガーレー試験機法による透気抵抗度が0.1〜50秒/100mlであることが必須である。なお、このような孔径や透気抵抗度となるよう制御できる範囲において、線状複合材7を経糸、緯糸、及び傾斜糸から選択されるいずれかの構成糸の一部に使用し、高融点成分と同等以上の融点を有する繊維を経糸、緯糸、及び傾斜糸の何れかに使用してもよい。
補強繊維としての物性発現と補強材の加工の観点から、補強材を構成する糸は、全て線状複合材7であることが好ましい。
図3(A)は製織における一例である平織織布からなる補強材10を模式的に示す平面図である。補強材10の経糸11及び緯糸12による織組織は、特に限定されるものではなく、平織の他、綾織(斜文織)、朱子織、及びこれらを組み合わせた織組織など用途に応じて適宜選択することができる。
【0030】
さらに、製織した織物とは、前記
図3(A)の様な通常の経糸と緯糸とを規則的交互に或いはランダム交互に織り込んだシート状物であってもよく、また
図3(B)〜
図3(D)に示す様な、経糸又は緯糸と、これらと直角方向からではなく、これらと斜めの角度方向をもって配置される複数の傾斜糸13とを織り込んだシート状物(いわゆる三軸組布或いはそれを超える軸数を有する組布)であってもよく、更に通常の経糸と緯糸に加えて前記傾斜糸を複数軸に織り込んだシート状物(いわゆる四軸組布或いはそれを超える軸数を有する組織のシート状物)であってもよい。このように本発明において好適な織物とは線状複合材をはじめとする長繊維が直線的に多軸の方向に配置された組織であることが補強繊維としての物性発現の点で好ましい。
なお、線状複合材は、
図2に示すように扁平状であり、製織に際して経糸を整経する際や、緯糸の緯入れを行う際は、平面視において、
図3(A)〜
図3(D)のように、線状複合材の扁平な面(幅広面)が上を向くように配慮して製織される。また、製織に際して経糸を整経する際や、緯糸の緯入れを行う際や、傾斜糸の傾斜入れを行う際についても同様に線状複合材の扁平な面(幅広面)が上を向くように配慮して製織される。線状複合材によって製織された織布は、公知の熱処理により、例えば低融点成分繊維又は低融点成分の融点近傍(融点±15℃)の表面温度を有する熱ローラー間に挿通されて、該線状複合材の低融点成分同士により経糸と緯糸との織交点を融合一体化されてなるシート状の補強材とされる。低融点成分の融点+15℃より高い場合、長手方向における該線状複合材の厚み斑を制御するのが困難である。また、低融点成分の融点−15℃より低い場合、プレス条件とりわけ圧力条件を調整するのが難しく、幅方向における該線状複合材の厚み斑を制御するのが困難である。
【0031】
シート状の補強材は、熱可塑性樹脂成形物の補強に際して、リブやボスを有する構造においては、成形型に設けられた当該リブ用の溝やボス用の孔への成形物主体樹脂の流入を確保するため、
図4に模式的拡大斜視図として示すように、補強材10内の経糸11と緯糸12の織交点14には、織組織を形成することで、隙間15が生じ、当該隙間は前記の熱ローラー間に挿通する処理後においても残存するのが一般的である。本発明において、「補強材内の2糸以上が相互に交差する織交点の角(カド)部近傍に生じる隙間」とは、
図4に模式的に拡大して示す隙間15、又は該線状複合材内(扁平部)に生じる隙間(図示省略)を示すものとする。なお、隙間15は、織交点における2糸以上が相互に交差する織交点の角(カド)部は、隣接する織交点の全てに存在するので、織布の全面に分布している。
当該隙間15等は、最大孔径の平均が10〜500μmであることを要する。
最大孔径の平均が10μm未満であれば、成形型のリブ用の溝やボス用の孔への成形物主体樹脂の流入が困難であり、最大孔径の平均が500μmを超えると成形物主体樹脂の流入を調整できずに、無作為に補強材の外表面側への成形物主体樹脂の沁み出しが生じ、外観不良の問題が発生する。
【0032】
隙間の最大孔径の測定方法
なお、
図4に示す補強材10内の経糸11と緯糸12の織交点14は一点のみを示しているが、その周囲に隣り合う重なり部分は、全て織交点である。また経糸とは緯糸又は傾斜糸とが相互に交差する織交点の角(カド)部近傍に生じる隙間とは、既に述べたように
図4に模式拡大図として符号15で示すような隙間であり、線状複合材内(扁平部)に生じる隙間とは、経糸11や緯糸12、及び傾斜糸13自体の線状複合材を形成する際に発生した隙間(図示省略)である。
隙間の最大孔径は、以下の方法で測定した。得られた本発明の補強材(織物)を10cm角に切断し、市販のコピー機(富士ゼロックス株式会社製、機種名:DocuCentre-IV C5575)の原稿ガラスの上に、10cm角の補強材が複写されるようにセットした。補強材の浮きを抑制する為に透明なガラス板を補強材の複写する面と反対側に載せた後に、照度1800ルクス程度の光を前記透明なガラス板を通して補強材の複写する面と反対側に照射しながら複写印刷すると、写り印刷されたものにおいて経糸又は緯糸又は傾斜糸とが相互に交差する織交点の角(カド)部近傍に生じる隙間が断続的な模様として表示される。複写印刷物を5倍に拡大した後に、任意の前記模様の部分30点の最大孔径をノギスで測定し、その平均値を最大孔径の平均値とした。
【0033】
さらに、本発明の補強材は、JIS P8117に基づくガーレー試験機法による透気抵抗度が0.1〜50秒/100mlである。当該透気抵抗度は、前記の隙間の最大孔径の平均とも関連するものであり、透気抵抗度が0.1秒/100ml未満では、補強材を成形樹脂本体との成形時に補強材の外表面側への成形物主体樹脂の沁み出しが生じ、外観不良の問題が発生し、透気抵抗度が50秒/100mlを超えると、成形型のリブ用の溝やボス用の孔への成形物主体樹脂の流入が困難となり、リブやボス付きの成形物を成形できない。
なお、透気抵抗度は、以下の方法で測定される。
透気抵抗度測定方法
JIS P8117に規定されたガーレー法に基づき、0.879g/mm
2の圧力下で100mlの空気が補強材(織物シート)を通過する時間(秒)をストップウォッチによって測定した。具体的には、株式会社東洋製作所のB型ガーレデンソメーターを用いて測定した。
【0034】
また、本発明の熱可塑性樹脂成形物用補強材は、前記の単層の織物シートを熱プレスなどによりさらに複数枚積層一体化して、これを熱可塑性樹脂成形物の表面に積層すれば、機械的強度が一層向上した熱可塑性樹脂成形物を得ることができる。
複数枚積層一体化した補強材を用い、熱可塑性樹脂の3D成形物を補強する場合は、一体成形化の成形工程に先立ち、補強材を予備加熱、或いは予備成形しておくことが好ましい。
【0035】
また、本発明は、前記本発明の熱可塑性樹脂成形物用補強材を少なくとも金型の一方の成形面に配して射出成形することにより、該補強材に溶融樹脂を浸透、または該補強材の隙間に溶融樹脂を貫通させて成形してなる、熱可塑性樹脂成形物をも提供する。すなわち、本発明の熱可塑性樹脂成形物は、成形型を用いる射出成形時に供給される溶融樹脂が本発明による補強材に浸透して成形体の表面に溶融接着されるか、又は溶融樹脂が補強材を貫通してリブやボスを形成できる。したがって、リブ、ボス構造を有する熱可塑性樹脂成形体の成形においては、補強材による強化層の形成とリブ構造やボス構造の形成を一工程で成形してなる熱可塑性樹脂成形物を提供できる。その中でも、溶融樹脂成分が該補強材の高融点繊維成分と同一である場合、該補強材の高融点繊維成分と溶融樹脂とが熱融着して一体化することにより、低コストで機械的物性を向上し、耐曲げ性、耐面衝撃性に優れる高靱性の熱可塑性樹脂成形物を提供できる。
したがって、本発明の熱可塑性樹脂成形物は、例えばドアトリム、インストルメントパネル、グラブボックス等の自動車用内装材や、トランクケース、キャリアケースの構成材等として利用できる。
【実施例】
【0036】
以下、本発明の実施例及び比較例を挙げて、本発明の効果について具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。本実施例においては、以下に示す方法及び条件で作製した線状複合材により形成した平織織布を用いて補強材を製造し、その性能を評価した。
【0037】
線状複合材A
熱可塑性繊維の高融点成分繊維としての芯成分にアイソタクチックポリプロピレン(i−PP)[プライムポリマー社製、グレード名:S135、メルトフローレイト( MFR)=18/10分(230℃、21.18N)、融点=169℃]、低融点成分繊維として鞘成分に直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)[プライムポリマー社製、グレード名:1018G、メルトフローレイト(MFR)=8g/10分(190℃、21.18N)、融点= 113℃]を用いて鞘芯型複合繊維を作製した。具体的には、これらの材料を、ホール数が240ホールの細孔を有する鞘芯複合紡糸ノズルを用いて、紡糸温度270℃にて、紡糸ノズルヘッド部に備え付けの溶融樹脂ギヤポンプで所定量の吐出樹脂量に計量しつつ紡糸速度60m/分で紡糸し、鞘と芯の断面積比(鞘/芯比)が35/65で、繊度が 24,163dtexの未延伸複合繊維を得た。
【0038】
引き続き、得られた未延伸複合繊維(240本)をスピンドロー方式(紡糸延伸直結法)にて、第1延伸ローラー(Gl)=60m/分、第1延槽伸温度=95℃(温水)、第2延伸ローラー(G2)速度=405m/分、第2延伸槽温度=153℃(高圧飽和水蒸気)、第3延伸ローラー(G3)速度=805m/分で、第1延伸倍率(G2/G1速度比)=6.75倍、第2延伸倍率(G3/G2速度比)=1.99倍、全延伸倍率(G3/Gl速度比)=13.42倍の条件で2段延伸した。この延伸工程により、低融点成分繊維であるLLDPEが溶融してマトリックス状を呈し、繊維状強化材(i−PP)を包埋して一体化した線状複合材Aを得た。
【0039】
この延伸線状複合材Aの物性は、繊度=2000dtex、引張りヤング率=93cN/dtex(室温引張り試験)、13.2cN/dtex(120℃熱間引張り試験)であった。また、得られた線状複合材Aについて、示差走査熱量計(DSC)にて、昇温速度30℃/分の条件で、線状複合材の高融点成分繊維(i−PP)の融解熱量を測定し、i−PP樹脂の完全結晶体の融解熱量との対比から結晶化度を算出した。その結果、高融点成分繊維(i−PP)の結晶化度は72%であった。
【0040】
線状複合材B
線状複合材Aの低融点(繊維)成分をプロピレン−エチレンランダム共重合体(co−PP)[日本ポリプロ社製:ウィンテックWSX02、メタロセン系触媒、メルトフローレイト(MFR)=25g/10分(190℃、21.18N)、エチレン含有量3.5質量%、融点=125℃]に変更し、延伸後の複合線状材の繊度を1300dtexとした他は線状複合材Aの製造方法に準じて、線状複合材Bを得た。得られた線状複合材Bの物性を表1に示す。
【0041】
線状複合材C
線状複合材Bの高融点成分(繊維)をi−PPから、結晶性ポリエチレンテレフタレート樹脂[ユニチカ社製、商品名:SA1206、IV=1.07、融点256℃]に変更し、200℃で6倍に乾熱延伸し繊度を1405dtexとして、線状複合材Cを得た。得られた線状複合材Cの物性を表1に示す。
【0042】
線状複合材D
線状複合材Cの低融点成分繊維をco−PPから線状複合材Aの高融点成分繊維に用いたi−PPとした他は線状複合材Cの製造方法に準じて、繊度1405dtexの線状複合材Dを得た。得られた線状複合材Dの物性を表1に示す。
【0043】
線状複合材E
線状複合材Cの高融点成分繊維において、PET樹脂をナイロン6[宇部興産社製、商品名:宇部ナイロン1030B、融点225℃]に変更した他は、線状複合材Cの製造方法に準じて、繊度1350dtexの線状複合材Eを得た。
得られた線状複合材Eの物性を表1に示す。
【0044】
線状複合材F
線状複合材Eの低融点成分繊維において、低融点成分繊維のco−PPを線状複合材Aの高融点成分繊維と同じi−PPに変更した他は、線状複合材Eの製造方法に準じて、繊度1350dtexの線状複合材Fを得た。得られた線状複合材Fの物性を表1に示す。
【0045】
なお、線状複合材の120℃における引張りヤング率は、以下の方法で測定した。
120℃引張り試験
加熱炉を使用して120℃雰囲気下で1時間調整した後、試料をセットして、3分後(試料の温度が約2分後に120℃に達する)に、JIS L1013で規定された方法に準じて、試料長100mm、引張り速度100mm/分の条件で、株式会社島津製作所社製オートグラフAG−100kN ISを用いて、1試料当たり5回の測定を行った。そして、その平均値から、強度(cN/dtex)、伸度(%)、ヤング率(cN/dtex)を求めた。
【0046】
実施例1
線状複合材Aによる製織及び織交点の熱融着加工による補強材の作製
上記の線状複合材Aを経糸及び緯糸とし、経糸密度16.8本/インチ、緯糸密度16.8本/インチで平織の織組織にて製織した。得られた織布の目付は250g/m
2であった。
得られた平織布を表面温度が150℃に加熱された一対の熱ローラー間に挿通して、ローラープレス圧を0.35MPaとして、織交点における経緯糸のLLDPEからなるマトリックス状の部分同士を融合一体化し、シート状の平織布からなる厚みが0.3mmの補強材を得た。
得られた補強材について、経横25cmに切断し、対角線の一点を固定し、室温にて、その対向点に300gの荷重を加えた直後の対角線部の長さを測定し、次式より伸び率を算出した。
伸び率(%)=(荷重後の長さ−荷重前の長さ)×100/荷重前の長さ
本実施例1の補強材は、伸び率が2.0%であった。
さらに、得られた補強材について、前述の隙間の最大孔径の測定方法に基づき、補強材内の経糸と緯糸が交差する織交点の角(カド)部近傍に生じる隙間を測定した結果、最大孔径の平均値が298μmであった。
また、前述のJIS P8117に基づくガーレー試験機法による透気抵抗度が15.1秒/100mlであった。これらの結果をまとめて、表1に示す。
【0047】
次いで、
図5の(5)、(6)に示す表面及び裏面形状で、裏面(内側)に補強材を一体化した成形品を得るため、移動型22である雌金型には、縦170mm、横300mm、成形肉厚3mmで、内側に格子状に高さ10mm、厚み1mmのリブが設けられた射出成形金型を使用した。
この射出成形金型を用いて、
図5(1)に示すように固定型21に補強材10を図外の把持装置で固定した後、型締めし、線状複合材Aの高融点成分に用いたのと同じアイソタクチックポリプロピレン(i−PP)を280℃で射出して、
図5(2)〜(4)にキャビティ23及びリブ溝26への樹脂充填状況を示すような成形工程を経て、成形物の内側に補強材10を有し、当該補強材を貫通して成形された高さ10mm、幅1mmの縦横のリブを有する成形物を得た。
【0048】
耐面衝撃性の評価
得られた補強材付熱可塑性樹脂成形品について、補強材側からデュポン式落下衝撃試験機を用い、成形品の破壊の判定を行った。試験条件は以下の通りとした。
衝突子(重錘):先端R=6.35mm、重量1000g
試験環境:23℃、湿度(RH)60%
試験手順:1.落下試験機の衝突子を所定の高さにセットしてピンで固定し、その高さを記録する。2.試験片を落下試験機にセットする。3.固定ピン外し、落下試験を実施する。4.試験片を取り出す。5.試験片の外観を観察し、破壊の有無を記録する。
判定基準:「○」130cmからの落下で成形品の外観の変化なし。「×」130cmからの落下でクラック発生。
上記の試験による評価結果を表1に示す。
【0049】
実施例2〜8
表1の線状複合材の欄に示す線状複合材を用い、表1に示す製織、加工条件で実施例2〜8の補強材を得て、実施例1と同様に一体成形を行った。加工条件及び物性等の評価結果をまとめて、表1に示す。
【0050】
比較例1
実施例1において、製織後の織交点の融合一体化加工を行わなかった。得られた補強材は、隙間の孔径が1512μmと大きく、透気抵抗度は測定不可であった。得られた成形品は、耐面衝撃性は満足するものの、織物組織の目ずれがあって、外観が劣るものであった。
【0051】
比較例2
補強材を用いることなく、主体樹脂のみで成形した成形品の耐面衝撃性テストでは、多数のクラックが発生した。
【0052】
以上の結果を、下記表1にまとめて示す。
【0053】
【表1】