【実施例】
【0050】
以下、本発明を実施例にて説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
《含フッ素リン酸エステルシアノアルキルアミドの合成》
〔実施例1〕
○リン酸ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)ジアセトニトリルアミドの合成
【0051】
【化7】
【0052】
攪拌機を取り付けた四つ口フラスコに、ジクロロメタン1933g、イミノジアセトニトリル137g、トリエチルアミン218.8gを入れ、室温で攪拌下、滴下漏斗からジクロロメタン1150g、ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)クロロホスファート(純度97%)500gを3時間で滴下した。滴下終了後、反応温度45℃〜50℃に制御しながら50時間加熱及び攪拌を継続した。反応終了後、5%炭酸水素ナトリウム水溶液2000gを加え攪拌したあと、有機層を分取した。有機層からジクロロメタンを留去後、蒸留精製により、沸点134℃/0.01kPaの留分を分取し、無色の液体362gを得た。
【0053】
NMR、GC−MSの分析から得られた液体が、リン酸ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)ジアセトニトリルアミドであることを確認した。
1H−NMR(CDCl
3、TMS)
δ 4.37〜4.46(m、4H)、4.14〜4.16(d、4H)
19F−NMR(CDCl
3、CFCl
3)
δ −75.60(t、J=9Hz)
GC−MS(EI)
312、293(−F)、245、225、163、94、83
〔実施例2〕
○リン酸ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)ジプロピオニトリルアミドの合成
【0054】
【化8】
【0055】
攪拌機を取り付けた四つ口フラスコに、クロロホルム2130g、イミノジプロピオニトリル266g、トリエチルアミン238gを入れ、室温で攪拌下、滴下漏斗からクロロホルム1278g、ビス(2,−2,−2,−トリフルオロエチル)クロロホスファート(純度97%)516gを3時間で滴下した。滴下終了後、20時間攪拌を継続した。反応終了後、5%炭酸水素ナトリウム水溶液3000gを加え攪拌したあと、有機層を分取した。有機層からクロロホルムを留去後、蒸留精製により、沸点160.8℃/0.01kPaの留分を分取し、無色の液体181gを得た。
【0056】
NMR、GC−MSの分析から得られた液体が、リン酸ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)ジプロピオニトリルアミドであることを確認した。
1H−NMR(CDCl
3、TMS)
δ 4.35〜4.48(m、4H) 、3.44〜3.51(m、4H)、2.64〜2.68(t、4H)
19F−NMR(CDCl
3、CFCl
3)
δ −75.67(t、J=9Hz)
GC−MS(EI)
367、348(−F)、327、274、246、163、83、69、54
【0057】
《含フッ素リン酸エステルシアノアルキルアミドの物性値》
〔実施例3〕
○リン酸ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)ジアセトニトリルアミドの物性値
実施例1で得られたリン酸ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)ジアセトニトリルアミドの引火点をセタ式引火点測定装置(吉田科学器械(株)製、RT−1型)により測定した。
また、コーンプレート式粘度計(BrookField製 DV−1PRIME型)を用いて20℃での粘度を測定した。
【0058】
またインピーダンスアナライザ(東陽テクニカ製VersaSTAT4、及び液体用電極セルSR−C1)を用いて、比誘電率を下記測定条件にて測定を行った。
【0059】
測定条件: 測定周波数 100kHz 、 温度 25℃±1℃
はじめに空セル(空気)容量(C−zero)の測定を行い、その後実施例1で得られた試料(リン酸ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)ジアセトニトリルアミド)を電極セルに充填し、比誘電率測定を行った。
【0060】
〔実施例4、比較例1〜2〕
実施例4及び比較例1〜2の含フッ素リン酸エステルアミド(表1に示す化合物)についても、実施例3と同様の方法にて引火点、粘度、比誘電率を測定した。
結果を表1に示す。
【0061】
【表1】
【0062】
表1から、本発明の含フッ素リン酸エステルシアノアルキルアミドは、いずれも引火点を有さず不燃性を有していることがわかる。
【0063】
また、本発明の含フッ素リン酸エステルシアノアルキルアミドは比較例1〜2の従来の含フッ素リン酸エステルアミドと比較して、高粘度、高比誘電率の特徴を有していることがわかる。
【0064】
《電解液の酸化分解電位測定》
〔実施例5〕
化合物の電気化学的安定性はリニアスィープボルタンメトリー(LSV)測定によって評価した。
【0065】
LSVの測定は、マルチチャンネルポテンショスタット/ガルバノスタット(Biologic社製、VMP−3)を用いて行った。アルゴン雰囲気下、リン酸ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)ジアセトニトリルアミド5mlに、エチレンカーボネート/エチルメチルカーボネート混合溶液(体積比:3/7)を5ml混合し、混合溶媒を調製した。この混合溶媒に六フッ化リン酸リチウム(LiPF
6)を0.2mol/Lになるように溶解し、電解液を得た。
【0066】
この電解液に、作用電極として白金、対極としてリチウム箔、参照極としてリチウム箔を挿入し、5mV/secの走査速度にて貴側に走査し、酸化分解電位の測定を行った。その結果、電流密度が0.1mA/cm
2を超える際の電位を、酸化分解電位とした。なお、LSVの測定は全てアルゴン雰囲気で充満したグローブボックス中で実施した。
〔実施例6、比較例3〜5〕
実施例6、比較例3〜5についても、実施例5と同様の操作にて電解液の調整及び酸化分解電位測定を実施した。
【0067】
表2に実施例5〜6、比較例3〜5で使用した含フッ素リン酸エステルアミド等の添加剤の種類、添加量、及び酸化分解電位を記す。
【0068】
【表2】
【0069】
比較例3から、EC/EMCは6.42Vの電位で酸化分解することが判る。また、比較例4及び比較例5に記載した、従来の含フッ素リン酸エステルアミドである、リン酸ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)ジメチルアミドの酸化分解電位が4.87V、リン酸ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)ジエチルアミドの酸化分解電位が4.81Vであるのに対して、本発明の含フッ素リン酸エステルシアノアルキルアミドである実施例5のリン酸ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)ジアセトニトリルアミドの酸化分解電位は5.98V、実施例6のリン酸ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)ジプロピオニトリルアミドの酸化分解電位は5.45Vである。本発明の含フッ素リン酸エステルシアノアルキルアミドは従来の含フッ素リン酸エステルアミドと比べて耐酸化性に優れる事がわかる。
【0070】
《LiPF
6高温安定性試験》
〔実施例7〕
アルゴン置換されたグローブボックス 中で、25mlメスフラスコにLiPF
63.8g(25mmol)、リン酸ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)ジアセトニトリルアミド1.55g(4.6mmol)を入れ、エチレンカーボネート(以下、ECと略す)とエチルメチルカーボネート(以下、EMCと略す)を体積比3/7の割合で混合した溶媒により溶解させながら25mlとし、1mol/LのLiPF
6溶液を調整した。得られた溶液は無色透明であった。
【0071】
この溶液を硝子製密閉容器に入れ、85℃で500時間加熱した。加熱後は、液は淡黄色となり、
19F−NMRにて測定したLiPF
6分解物のピークはLiPF
6と分解物の合計に対し積分比で0.36%であった。その結果を表3に示す。
〔実施例8〕
アルゴン置換されたグローブボックス 中で、25mlメスフラスコにLiPF
63.8g(25mmol)、リン酸ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)ジプロピオニトリルアミド1.68g(4.6mmol)を入れ、ECとEMCを体積比3/7の割合で混合した溶媒により溶解させながら25mlとし、1mol/LのLiPF
6溶液を調整した。得られた溶液は無色透明であった。
【0072】
この溶液を硝子製密閉容器に入れ、85℃で500時間加熱した。加熱後は、液は淡黄色となり、
19F−NMRにて測定したLiPF
6分解物のピークはLiPF
6と分解物の合計に対し積分比で0.37%であった。その結果を表3に示す。
【0073】
〔比較例6〕
リン酸ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)ジアセトニトリルアミドを用いなかったこと以外は実施例7と同様の操作により1mol/LのLiPF
6溶液を調整した。得られた溶液は無色透明であった。
【0074】
実施例7と同様にしてこの溶液を硝子製密閉容器に入れ、85℃で500時間加熱したところ、濃褐色の液体となった。19F−NMRにて測定したLiPF
6分解物のピークはLiPF6と分解物の合計に対し積分比で12.8%であった。その結果を表3に示す。
(実施例7〜8と比較例6)
実施例7〜8の本発明の含フッ素リン酸エステルシアノアルキルアミドを添加した溶液は、リン酸エステルシアノアルキルアミドを加えていない比較例6の溶液に比べて、いずれも加熱後のLiPF6の分解率が低いことがわかる。本発明の含フッ素リン酸エステルシアノアルキルアミドのLiPF6の高温安定化効果が高いことが示された。
【0075】
【表3】
【0076】
《電池充放電試験》
作成例1.コインセル型リチウム二次電池の作成
正極活物質としてコバルト酸リチウム(LiNi
1/3Mn
1/3Co
1/3O
2)を用い、これに導電助剤としてアセチレンブラック、バインダーとしてポリフッ化ビニリデン(PVDF)LiNi
1/3Mn
1/3Co
1/3O
2:アセチレンブラック:PVDF=86:7:7となるように配合し、1−メチル−2−ピロリドンを用いてスラリー化したものをアルミ製集電体上に一定の膜厚で塗布し、乾燥させて正極を得た。負極活物質としては天然球状グラファイトを用い、バインダーとしてPVDFをグラファイト:PVDF=9:1となるように配合し、1−メチル−2−ピロリドンを用いてスラリー化したものを銅製集電体上に一定の膜厚で塗布し、乾燥させて負極を得た。 セパレータは無機フィラー含有ポリオレフィン多孔質膜を用いた。以上の構成要素を用いて、
図1に示した構造のコイン型セルを用いたリチウム二次電池を作成した。リチウム二次電池はセパレータ8を挟んで正極1、負極5を対向配置し、負極ステンレス製キャップ4にステンレス製板バネ7を設置し、負極5、セパレータ8および正極1からなる積層体をコイン型セル内に収納した。この積層体に非水電解液を注入した後、ガスケット9を配置後、正極ステンレス製キャップ3をかぶせ、コイン型セルケースを加締めることで作成した。
試験例1.コインセル型リチウム二次電池の充放電試験
リチウムニッケルマンガン複合酸化物(LiNi
1/3Mn
1/3Co
1/3O
2)正極と炭素負極によって作成したコインセル型リチウム二次電池を25℃の恒温条件下、0.1Cの充電電流で上限電圧を4.4Vとして充電し、続いて0.1Cの放電電流で3.0Vとなるまで放電した。この操作を3回行った後に60℃の恒温条件下、0.2Cの充電電流で4.4Vの定電流‐定電圧充電を行い、0.2Cの放電電流で終止電圧3.0Vまで定電流放電を行った。このときの放電容量を初期放電容量とし、この操作を20回繰り返した際の放電容量を測定し、20サイクル後の放電容量/初期放電容量比を容量維持率として比較を行った。
試験例2.コインセル型リチウム二次電池の充放電試験
リチウムニッケルマンガン複合酸化物(LiNi
1/3Mn
1/3Co
1/3O
2)正極と炭素負極によって作成したコインセル型リチウム二次電池を25℃の恒温条件下、0.1Cの充電電流で上限電圧を4.4Vとして充電し、続いて0.1Cの放電電流で3.0Vとなるまで放電した。この操作を3回行った後に25℃の恒温条件下、0.2Cの充電電流で4.4Vの定電流‐定電圧充電を行い、0.2Cの放電電流で終止電圧3.0Vまで定電流放電を行った。このときの放電容量を初期放電容量とし、この操作を20回繰り返した際の放電容量を測定し、20サイクル後の放電容量/初期放電容量比を容量維持率として比較を行った。
【0077】
〔実施例9〕
溶媒としてエチレンカーボネート(以下ECと略す)、リン酸トリス(2,2,2−トリフルオロエチル)(以下TFEPと略す)を重量比1:1の割合で混合し、この混合溶媒に対し、リン酸ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)ジアセトニトリルアミドを重量比で2%添加した。次いで、電解質塩として六フッ化リン酸リチウム(LiPF
6)を1.0mol/Lの濃度で溶解させ非水電解液を調製した。
【0078】
この非水電解液を用いて前記作成例1に従いコインセル型リチウム二次電池を作成し、前記試験例1に従って20サイクルの充放電試験を実施した。結果を表4に示す。
〔実施例10〕
実施例9と同様の操作で非水電解液を調整し、実施例9と同様の方法でコインセル型リチウム二次電池を作成し、前記試験例2に従って20サイクルの充放電試験を実施した。結果を表4に示す。
〔比較例7〕
含フッ素リン酸エステルアミド化合物として、リン酸ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)ジメチルアミドを添加したこと以外は実施例9と同様の操作で非水電解液を調製し、実施例9と同様の方法でコインセル型リチウム二次電池を作成し、充放電試験を実施した。結果を表4に示す。
〔比較例8〕
リン酸ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)ジアセトニトリルアミドを添加しなかったこと以外は実施例9と同様の操作で非水電解液を調製し、実施例9と同様の方法でコインセル型リチウム二次電池を作成し、充放電試験を実施した。結果を表4に示す。
〔比較例9〕
リン酸ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)ジアセトニトリルアミドを添加しなかったこと以外は実施例10と同様の操作で非水電解液を調製し、実施例10と同様の方法でコインセル型リチウム二次電池を作成し、充放電試験を実施した。結果を表4に示す。
【0079】
【表4】
【0080】
表4から、非水溶媒としてEC−TFEP混合溶媒を用い、試験温度60℃、4.4Vでの充放電条件での結果のうち、本発明の含フッ素リン酸エステルシアノアルキルアミドを含有する非水電解液を用いた実施例9は、含フッ素リン酸エステルシアノアルキルアミドの代わりに含フッ素リン酸エステルジメチルアミドを添加した比較例7及び含フッ素リン酸エステルシアノアルキルアミドを含まない比較例8に比べ高い容量維持率を示した。これは、本発明の含フッ素リン酸エステルシアノアルキルアミドがこの電圧で酸化分解することなく、LiPF
6の熱分解及びこれに伴う電解液溶媒の分解抑制に寄与したことが影響していると推定される。
【0081】
一方、実施例10と比較例9は常温での試験であるが、ここでも本発明の含フッ素リン酸エステルシアノアルキルアミドを含有する実施例10は含フッ素リン酸エステルシアノアルキルアミドを含まない比較例9に比べより高い容量維持率を示した。この要因は不詳であるが、含フッ素リン酸エステルシアノアルキルアミドの分子内のシアノ基が正極活物質に作用して、正極表面上に電解液の分解を防止する一種の皮膜を形成し、正極表面での電解液の分解が抑制されたことにより、サイクル特性が向上したものと推察される。