特許第6435277号(P6435277)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6435277
(24)【登録日】2018年11月16日
(45)【発行日】2018年12月5日
(54)【発明の名称】逆波長分散を有する広視野光学フィルム
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/30 20060101AFI20181126BHJP
   H05B 33/02 20060101ALI20181126BHJP
   H01L 51/50 20060101ALI20181126BHJP
   H01L 27/32 20060101ALI20181126BHJP
   G09F 9/30 20060101ALI20181126BHJP
   G02F 1/13363 20060101ALI20181126BHJP
   B32B 7/02 20060101ALI20181126BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20181126BHJP
【FI】
   G02B5/30
   H05B33/02
   H05B33/14 A
   H01L27/32
   G09F9/30 365
   G02F1/13363
   B32B7/02 103
   C08J5/18CEP
   C08J5/18CER
   C08J5/18CEZ
【請求項の数】17
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2015-555294(P2015-555294)
(86)(22)【出願日】2014年1月24日
(65)【公表番号】特表2016-511839(P2016-511839A)
(43)【公表日】2016年4月21日
(86)【国際出願番号】US2014012873
(87)【国際公開番号】WO2014116901
(87)【国際公開日】20140731
【審査請求日】2017年1月17日
(31)【優先権主張番号】13/748,895
(32)【優先日】2013年1月24日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】511256060
【氏名又は名称】アクロン ポリマー システムズ,インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【弁理士】
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】チャン,ドン
(72)【発明者】
【氏名】ハリス,フランク
(72)【発明者】
【氏名】ジン,ジャオカイ
(72)【発明者】
【氏名】シャオリアン,チェン
(72)【発明者】
【氏名】ワン,ビン
(72)【発明者】
【氏名】クオ,サウミング
(72)【発明者】
【氏名】ジャームロス,テッド
(72)【発明者】
【氏名】マクウィリアムズ,ダグ
【審査官】 横川 美穂
(56)【参考文献】
【文献】 特表2010−522901(JP,A)
【文献】 特開2000−227520(JP,A)
【文献】 特表2006−527394(JP,A)
【文献】 特開2008−191407(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/040366(WO,A2)
【文献】 特表2013−539076(JP,A)
【文献】 特開2007−328052(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/30
B32B 7/02
C08J 5/18
G02F 1/13363
G09F 9/30
H01L 27/32
H01L 51/50
H05B 33/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学補償フィルムであって、前記光学補償フィルムは、多層フィルムを形成する第1のポリマーフィルムおよび第2のポリマーフィルムを備え、ここで、
(a)前記第1のポリマーフィルムは、(n+n)/2≧nおよび|n−n|<0.005の式を満たす屈折率プロファイルを有し、前記第1のポリマーフィルムが、
1)n=n>nの屈折率プロファイルを有する負のCプレートであって、かつ波長(λ)550nmにおいて−100nm〜−400nmの面外位相差(Rth)および20〜100μmの厚さを有するセルロースエステルフィルムを備える、負のCプレートであるか、または
2)n=n=nの屈折率プロファイルを有する等方性フィルムであって、環状ポリオレフィン(COP)、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリスルホンおよびアクリルポリマーからなる群から選択される、等方性フィルムであり、
(b)(n+n)/2<nおよび|n−n|<0.005の式を満たす屈折率プロファイルを有する第2のポリマーフィルムであって、前記第2のポリマーフィルムが、n=n<nの屈折率プロファイルを有する正のCプレートであり、かつ前記第2のポリマーフィルムが、
Δnth>0.01の式を満たす面外複屈折(Δnth)を有し、かつ
α,β,β−トリフルオロスチレン、α,β−ジフルオロスチレン、β,β−ジフルオロスチレン、α−フルオロスチレン、およびβ−フルオロスチレンからなる群から選択されるモノマーのホモポリマーまたはコポリマーである、第2のポリマーフィルムと、
を含み、
式中、nおよびnは前記フィルムの面内屈折率を表し、nは前記フィルムの厚み方向屈折率を表し、前記光学補償フィルムは、0.7<R450/R550<1および1<R650/R550<1.25の関係を満たす正の面内位相差及び逆の面内波長分散特性を有し、R450、R550、およびR650は、それぞれ450nm、550nm、および650nmの光の波長での面内位相差であって、前記光学補償フィルムが、前記多層フィルムの一軸または二軸延伸によって作製され、前記多層フィルムが、前記第1のポリマーフィルムおよび前記第2のポリマーフィルムの組合せから作製され、かつ前記光学補償フィルムは、400nm〜800nmの範囲の波長全体にわたって|Rth|≦100nmの式を満たす面外位相差(Rth)を有する、
光学補償フィルム。
【請求項2】
(b)の前記第2のポリマーフィルムが、Δnth>0.15またはΔnth>0.2の式を満たす面外複屈折(Δnth)を有する、請求項1に記載の光学補償フィルム。
【請求項3】
(b)の前記第2のポリマーフィルムが、ポリ(α,β,β−トリフルオロスチレン)である、請求項1に記載の光学補償フィルム。
【請求項4】
前記光学補償フィルムが、波長(λ)550nmで80〜300nmの面内位相差(R)を有する、請求項1に記載の光学補償フィルム。
【請求項5】
前記光学補償フィルムが、波長(λ)550nmで120〜160nmの面内位相差(R)を有する、請求項1に記載の光学補償フィルム。
【請求項6】
前記光学補償フィルムが、400nm〜800nmの範囲の各波長でλ/4に等しい面内位相差(R)を有する、請求項1に記載の光学補償フィルム。
【請求項7】
前記光学補償フィルムが、400nm〜800nmの範囲の波長全体にわたって、|Rth|<80nmの式を満たす面外位相差(Rth)を有する、請求項1に記載の光学補償フィルム。
【請求項8】
前記光学補償フィルムが、400nm〜800nmの範囲の波長全体にわたって、|Rth|<80nmの式を満たす面外位相差(Rth)を有する、請求項に記載の光学補償フィルム。
【請求項9】
前記光学補償フィルムが、0.76<R450/R550<0.96および1.03<R650/R550<1.22の関係を満たす正の面内位相差を有する、請求項1に記載の光学補償フィルム。
【請求項10】
(a)の前記第1のポリマーフィルムおよび(b)の前記第2のポリマーフィルムが積層される、請求項1に記載の光学補償フィルム。
【請求項11】
(b)の前記第2のポリマーフィルムが、(a)の前記第1のポリマーフィルム上にコーティングされる、請求項1に記載の光学補償フィルム。
【請求項12】
(b)の前記第2のポリマーフィルムが2〜20μmの厚さを有する、請求項1に記載の光学補償フィルム。
【請求項13】
(a)の前記第1のポリマーフィルムが、波長(λ)550nmにおいて−100nm〜−400nmの面外位相差(Rth)および20〜100μmの厚さを有するセルロースエステルフィルムであり、(b)の前記第2のポリマーフィルムが、2〜20μmの厚さを有するポリ(α,β,β−トリフルオロスチレン)である、請求項1に記載の光学補償フィルム。
【請求項14】
請求項1に記載の光学補償フィルムを含む円偏光板。
【請求項15】
請求項1に記載の光学補償フィルムを含む液晶ディスプレイ。
【請求項16】
請求項1に記載の光学補償フィルムを含むOLEDディスプレイ。
【請求項17】
0.7<R450/R550<1および1<R650/R550<1.25の関係を満たす正の面内位相差を有する広視野光学補償フィルムを製造するための方法であって、前記方法が:
I.1種以上の有機溶媒にポリマーを溶解させてポリマー溶液を形成する工程(I)であって、前記ポリマーが、α,β,β−トリフルオロスチレン、α,β−ジフルオロスチレン、β,β−ジフルオロスチレン、α−フルオロスチレン、およびβ−フルオロスチレンを含む群から選択されるモノマーのホモポリマーまたはコポリマーを含有する、
工程(I)と;
II.前記ポリマー溶液を第1のポリマーフィルムに溶液キャスティングして前記第1のポリマーフィルム上にコーティングを作製する工程(II)であって、前記第のポリマーフィルムが、
1)n=n>nの屈折率プロファイルを有する負のCプレートであって、かつ波長(λ)550nmにおいて−100nm〜−400nmの面外位相差(Rth)および20〜100μmの厚さを有するセルロースエステルフィルムを備える、負のCプレート、または
2)n=n=nの屈折率プロファイルを有する等方性フィルムであって、環状ポリオレフィン(COP)、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリスルホンおよびアクリルポリマーからなる群から選択される、等方性フィルム
である、
工程(II)と、
III.工程(II)で作製したコーティングを乾燥させて第2のポリマーフィルムを生成する工程(III)であって、
前記第1のポリマーフィルムおよび前記第2のポリマーフィルムは、延伸に適した多層フィルムを生成し、
前記第2のポリマーフィルムは、(n+n)/2および|n−n|<0.005の式を満たす屈折率プロファイルを有し、かつ前記第2のポリマーフィルムが、正のCプレートであり、かつΔnth>0.01の式を満たす面外複屈折(Δnth)を有する、
工程(III)と、
IV.前記広視野光学補償フィルムの前記光学特性を提供することができる延伸比まで、適切な温度で前記多層フィルムを二軸または一軸延伸する工程(IV)であって、
式中、R450、R550、およびR650は、それぞれ450nm、550nm、および650nmの光の波長での面内位相差であり、nおよびnは面内屈折率を表し、nは、前記第1のポリマーフィルムおよび前記第2のポリマーフィルムの厚み方向の屈折率を表す、
工程(IV)、
を包含する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、面内位相差が逆波長分散特性を示す広視野光学フィルムに関する。より具体的には、本発明は、ポリマーフィルムおよび正の面外複屈折を有するリターダを含む多層フィルムを延伸することによって作製される広視野光学フィルムに関する。本発明の光学フィルムは、制御された光管理が所望される液晶ディスプレイ(LCD)、有機発光ダイオード(OLED)ディスプレイ、3Dディスプレイ、光スイッチ、または導波路などの光学装置に使用され得る。
【背景技術】
【0002】
光学補償の技術分野では、光の位相差は波長に応じて変化し、色ずれを引き起こすことが知られている。補償フィルムのこの波長依存性(または分散)特性は、色ずれが低減されるように光学素子を設計する際に考慮され得る。波長分散曲線は、正または負の位相差特性(または位相差)を有する補償フィルムに対して「正常(もしくは適切)」または「逆」として定義される。正の位相差特性(正のA−プレートまたはC−プレート)を有する補償フィルムは、位相差の値がより短い波長に向かって徐々に増加する正の値である正規曲線または位相差の値がより短い波長に向かって徐々に減っていく正の値である逆曲線を有していてもよい。負の位相差特性(負のA−プレートまたはC−プレート)を有する補償フィルムは、位相差の値がより短い波長に向かって徐々に増加する負の値である正規曲線または位相差の値がより短い波長に向かって徐々に減っていく負の値である逆曲線を有していてもよい。これらの曲線の典型的な形状は、図1に示されている。
【0003】
波長プレートは、それらの屈折率プロファイルに応じて、以下のように習慣的に命名される:
正のC−プレート:n=n<n;負のC−プレート:n=n>n
正のA−プレート:n>n=n;負のA−プレート;n<n=n
式中、nおよびnは面内屈折率を表し、nは厚さ屈折率を表す。上記の波長プレートは、一軸性複屈折板である。波長プレートは、n、n、およびnが全て同じではない二軸性複屈折でもあり得、習慣的に、二軸性フィルムとして命名される。
【0004】
波長の四分の一(λ/4)に等しい面内位相差(R)を有するA−プレートは、四分の一波長プレート(QWP)と呼ばれる。同様に、波長の半分(λ/2)に等しいRを有するA−プレートは、半波長プレート(HWP)と呼ばれる。理想的な無彩色QWPは、全ての波長で入射偏光をλ/4遅らせることができる。これを達成するために、QWPの波長分散は逆になり、以下の式を満たす必要がある。
【0005】
(数1)
(450)/R(550)=0.818およびR(650)/R(550)=1.182
式中、R(450)、R(550)、およびR(650)は、それぞれ450nm、550nm、650nmの光の波長での面内位相差である。最適な表示品質を得るために、各波長で同じように光を導くことができるので、無彩色(または広帯域)波長プレートが非常に望ましい。しかし、一般的な波長プレートは、広帯域波長プレート用途には適していない正常な分散曲線を示す。したがって、面内位相差に対する逆波長分散特性を有する波長プレートの必要性が存在する。
【0006】
A−プレートは、一般的に視野角を改善するために、補償フィルムとして液晶ディスプレイ(LCD)に使用されている。A−プレートはまた、OLED(有機発光ダイオード)ディスプレイ装置に用いることもできる。例えば、QWPは、表示品質の改善のためにOLEDによって反射された周囲光を低減するために、OLED装置内に円偏光板を提供することで直線偏光板と共に使用されている。これらの用途は、典型的には、面内の位相シフトを補償するためのA−プレートによって提供される面内位相差を利用する。例えば、Cプレートと組み合わせたAプレートは、斜め視野角において交差した偏光板の光の漏れを低減するのに特に有用である。しかし、A−プレートは、負の面外位相差Rthも示し、Rth=[n−(n+n)/2]×dとして定義され、|R/2|の値は、その向きから生じる。この特性は、光学デバイスにおいて負のRthが望ましい場合に有益であり得る。例えば、垂直配向(VA)モードLCDにおいて、液晶セル内の液晶分子はホメオトロピックに配向しており、正の位相差をもたらす。したがって、A−プレートは、VA−LCDの面内補償に加えて、面外補償を提供することができる。しかし、面内切り替え(IPS)モードのLCDおよびOLEDディスプレイなどの他の装置では、A−プレートで示されるRthは、軸外光に位相シフトを生じさせ、光漏れにつながり得るので望ましくない。したがって、当技術分野において、改善された視野角およびディスプレイのコントラスト比のために面外位相差が低下した正の面内リターダを提供することがさらに必要とされている。
【0007】
米国特許第7,480,021号は、正常分散を有する第1成分および逆分散を有する第2の成分を含む逆複屈折分散を有する光学フィルムについて開示しており、これらの2つの成分は、複屈折の同じ符号を有する。
【0008】
米国特許第7,948,591号は、118nm≦Rxy(550)≦160nm、−10nm≦Ryz(550)≦10nm、0.75≦Rxy(450)/Rxy(550)≦0.97、および1.03≦Rxy(650)/Rxy(550)≦1.25の式を満たす一軸性位相差フィルムについて開示している。米国特許第8,139,188号は、220nm≦Rxy(550)≦330nm、110nm≦Rxz(550)≦165nm、0.75≦Rxy(450)/Rxy(550)≦0.97、および1.03≦Rxy(650)/Rxy(550)≦1.25の式を満たす二軸性位相差フィルムについて開示している。両特許では、指定した式を満たすことができない材料については開示していない。
【0009】
米国特許出願第2008/0068545号は、フマル酸エステル系樹脂を含むフィルムであり、n<n≦nを満たすフィルム、およびn>n≧nまたはn>n≧nを満たすフィルムを含む位相差フィルムについて開示している。開示されたフィルムは、逆分散特性を有し得る。
【0010】
米国特許出願第2012/0003403号は、(a)0〜0.5のヒドロキシル基(DSOH)置換度を有するセルロースエステルを含む層(A)および(b)0.5〜1.3のDSOHを有するセルロースエステルを含む層(B)を含む多層フィルムであって、逆光分散を有するフィルムについて開示している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、以下を含む多層フィルムの一軸または二軸延伸によって作製される光学補償フィルムを提供する:
(a)(n+n)/2≧nおよび|n−n|<0.005の式を満たす屈折率プロファイルを有する第1のポリマーフィルムならびに
(b)(n+n)/2<nおよび|n−n|<0.005の式を満たす屈折率プロファイルを有する第2のポリマーフィルム;
式中、nおよびnはフィルムの面内屈折率を表し、nはフィルムの厚み方向屈折率を表し、前記光学補償フィルムは、0.7<R450/R550<1および1<R650/R550<1.25の関係を満たす正の面内位相差を有し、R450、R550、およびR650は、それぞれ450nm、550nm、および650nmの光の波長での面内位相差である。
【発明の効果】
【0013】
一態様では、本発明の光学補償フィルムは、波長(λ)550nmで約80〜300nmの面内位相差(R)を有する。
【0014】
別の態様では、本発明の光学補償フィルムは、400〜800nmの範囲の波長全体にわたって|Rth|<80nmの式を満たす面外位相差(Rth)を有する。
【0015】
本発明はさらに、本発明の光学補償フィルムを製造するための方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】(a)正の位相差のための逆曲線、(b)正の位相差のための正規曲線、(c)負の位相差の正規曲線および(d)負の位相差の逆曲線についての例示的な波長分散曲線の形状を示すグラフである。
図2】コーティングがある場合およびコーティングがない場合の延伸セルロースエステルフィルム1の波長分散を示すグラフである。
図3】コーティングがある場合およびコーティングがない場合の延伸セルロースエステルフィルム2の波長分散を示すグラフである。
図4】コーティングがある場合およびコーティングがない場合の延伸セルロースエステルフィルム3の波長分散を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
一実施形態では、以下を含む多層フィルムの一軸または二軸延伸によって作製される光学補償フィルムを提供する:
(c)(n+n)/2≧nおよび|n−n|<0.005の式を満たす屈折率プロファイルを有する第1のポリマーフィルム、ならびに
(d)(n+n)/2<nおよび|n−n|<0.005の式を満たす屈折率プロファイルを有する第2のポリマーフィルム;
式中、nおよびnはフィルムの面内屈折率を表し、nはフィルムの厚み方向屈折率を表し、前記光学補償フィルムは、0.7<R450/R550<1および1<R650/R550<1.25の関係を満たす正の面内位相差を有し、R450、R550、およびR650は、それぞれ450nm、550nm、および650nmの光の波長での面内位相差である。
【0018】
本発明による光学補償フィルムは、位相差の値がより短い波長に向かって徐々に減っていく正の値である正の面内位相差(R)および逆の面内波長分散特性を有する。この分散特性は、R450/R550<1およびR650/R550>1の関係を満たす、450nm、550nm、および650nmの波長で測定されるように、位相差の比で表される。R450/R550の比は、0.71〜0.99、0.72〜0.98、0.74〜0.97、0.76〜0.96、0.78〜0.95、0.8〜0.9、または0.81〜0.85であり得る。R650/R550の比は、1.01〜1.24、1.02〜1.23、1.03〜1.22、1.04〜1.21、1.05〜1.2、または1.1〜1.19であり得る。
【0019】
波長プレートの位相差(R)は、R=Δn×dとして定義され、Δnは複屈折であり、dは波長プレートの厚さである。複屈折は、面内複屈折Δnin=n−nおよび面外複屈折Δnth=n−(n+n)/2に分類される。したがって、面内位相差はR=(n−n)×dおよび面外位相差はRth=[n−(n+n)/2]×dで表される。
【0020】
波長プレートの複屈折(Δn)は、異なる増分で約400nm〜約800nmの波長範囲にわたって波長プレートの複屈折を決定することによって測定することができる。あるいは、複屈折は、特定の光の波長で測定することができる。この説明全体を通して、複屈折または位相差関係が波長を指定せずに与えられる場合は、約400nm〜約800nmの波長範囲にわたって真であることを意味する。
【0021】
一実施形態では、本発明の光学補償フィルムの面内位相差(R)は、波長(λ)550nmにおいて約80〜300nmである。さらなる態様において、本発明による光学補償フィルムは、波長(λ)550nmにおいて約120〜160nmの面内位相差(R)を有し、逆面内分散特性を有する四分の一波長プレート(QWP)である。別の態様では、前記四分の一波長プレートは、400nm〜800nmの範囲の各波長で約λ/4に等しいRを有する広帯域QWPである。
【0022】
逆面内分散特性を有する他に、本発明の光学フィルムは、低い面外位相差(Rth)値を提供することができる。低Rthは、視野角を増加させ、画像のコントラスト比を向上させることができるので、特にディスプレイ用途に望ましい。したがって、本発明はさらに、約400nm〜約800nmの波長範囲にわたって|Rth|<100nm、または<80nm、または<50nm、または<30nm、または<10nm、または<5nmの式を満たす面外位相差(Rth)を有する広視野光学フィルムを提供する。
【0023】
この広視野機能は、本発明の逆分散特性と組み合わせた場合、LCDまたはOLEDのディスプレイ用途に広帯域・広視野波長プレートを提供する。広帯域・広視野QWPは、直線偏光板と組み合わせて使用される場合に、広帯域・広視野円偏光板を提供することができるので、特に望ましい。このような円偏光板は、周囲光を低減し、表示品質を向上させるためにOLEDディスプレイ装置に使用することができる。
【0024】
したがって、本発明はさらに、直線偏光板および本発明の広視野QWPを備えた円偏光板を提供する。別の実施形態では、本発明の円偏光板を備えるOLEDディスプレイを提供する。
【0025】
一実施形態では、(a)の第1のポリマーフィルムは、|R|<100nm、または<50nm、または<30nm、または<10nmを満たす面内位相差(R)を有する。
【0026】
一態様では、(a)のポリマーフィルムは、n=n>nの屈折率プロファイルを有する負のCプレートである。別の態様では、(a)のポリマーフィルムは、n=n=nを有する光学等方性フィルムである。
【0027】
負のCプレートの例としては、セルロースエステル、ポリイミド、アクリルポリマー、およびポリマー鎖中に液晶部分を有するか、またはポリマーマトリックス中に埋め込まれた液晶分子を有するポリマーフィルムが挙げられるが、これらに限定されない。一実施形態では、負のCプレートは、|Δnth|>0.002、または>0.005、または>0.01、または>0.015、または>0.02の式を満たす面外複屈折(Δnth)を有する。より高い|Δnth|を有する負のCプレートは、延伸時により高い正のR値を提供することが可能であるという点で有利である。
【0028】
等方性フィルムの例としては、環状ポリオレフィン(COP)、ポリカーボネート、ポリエステル、セルロースエステル、ポリスルホン、およびアクリルポリマーが挙げられる。前記等方性フィルムは、なおも、0.001以下などの小さい値によって(n+n)/2<nの関係をもたらし得るn、n、およびnの値に無視できる差異を示し得ることに留意されたい。説明を簡単にするために、これは、(n+n)/2=nと考えられ、本発明の範囲内である。
【0029】
(a)の第1のポリマーフィルムは、延伸時に正のRを生む。(a)の第1のポリマーフィルムは、延伸時にフラットまたは逆分散曲線を生成することができる。セルロースエステルに基づくフィルムは、特に好適であることが判明している。さらに、本発明者らは、より高い負のRthを有するポリマーフィルムの延伸が、より高いR値をもたらすことを発見した。したがって、本発明はさらに、波長(λ)550nmにおいて−100nm〜−400nmの面外位相差(Rth)および20〜100μmの厚さを有するセルロースエステルフィルムである(a)の第1のポリマーフィルムを提供する。
【0030】
一態様では、(b)の第2のポリマーフィルムは、n=n<nの屈折率プロファイルを有する正のCプレートである。正のCプレートの例としては、セルロースエステル、ポリエステル、ポリスチレン、ポリアクリレート、セルロースベンゾエート、セルロースアシレートベンゾエート、セルロースアリレート、セルロースアシレートアリレート、ポリマー鎖中に液晶部分を有するかまたはポリマーマトリックス中に埋め込まれた液晶分子を有するポリマーフィルム、米国特許出願第20080241565号および同第20080241428号に開示されているポリ(ビニル芳香族化合物)、米国特許出願第20080237552号に開示されているメソゲン被覆ポリマー、および米国特許出願第20110076487号に開示されているフルオロポリマーが挙げられるが、これらに限定されない。前記米国特許出願の内容は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0031】
一実施形態では、(b)の第2のポリマーフィルムは、Δnth>0.005、または>0.01、または>0.15、または>0.2の式を満たす面外複屈折(Δnth)を有する。より高い複屈折材料は、典型的には(a)の第1のポリマーフィルム中で示される負のRthを低減または排除するために、薄膜に十分な正の面外位相差(Rth)を提供できるという点で利点を有する。このようにして得られた多層延伸フィルムは、広視野特性を有する。この目的に特に適するのは、α,β,β−トリフルオロスチレン、α,β−ジフルオロスチレン、β,β−ジフルオロスチレン、α−フルオロスチレン、およびβ−フルオロスチレンを含む群から選択されるモノマーのホモポリマーまたはコポリマーである。ポリ(α,β,β−トリフルオロスチレン)が、一例では使用される。
【0032】
(b)のポリマーフィルムの延伸は、(a)のポリマーフィルムと組み合わせた場合に(例えば、共延伸)、本発明で望ましい光学特性である正のRおよび逆分散曲線を提供する負のR値および正常分散曲線をもたらす。
【0033】
一実施形態では、(b)の第2のポリマーフィルムは、基板上の溶液キャストによって調製される。基板上へのポリマー溶液のキャスティングは、例えば、スピンコーティング、スプレーコーティング、ロールコーティング、カーテンコーティング、またはディップコーティングなどの当技術分野で公知の方法により行われてもよい。基板は当技術分野で知られており、トリアセチルセルロース(TAC)、環状オレフィンポリマー(COP)、ポリエステル、ポリビニルアルコール、セルロースエステル、セルロースアセテートプロピオネート(CAP)、ポリカーボネート、ポリアクリレート、ポリオレフィン、ポリウレタン、ポリスチレン、ガラス、および一般にLCD装置に使用される他の材料を含む。
【0034】
組成物に応じて、(b)の第2のポリマーフィルムは、例えば、トルエン、メチルイソブチルケトン、シクロペンタノン、塩化メチレン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン、メチルアミルケトン、メチルエチルケトン、メチルイソプロピルケトン、メチルイソアミルケトン、酢酸エチル、酢酸n−ブチル、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート、およびそれらの混合物に可溶性があってよい。
【0035】
溶液キャストポリマーフィルムは、自立膜を得るために乾燥する際に、基板から除去されてもよい。自立フィルムは、積層によって(a)のポリマーフィルムに付着させることができる。あるいは、基板上の第2のポリマーフィルムは、第1のポリマーフィルム上に積層され、その後、基板は除去される。
【0036】
本発明の多層フィルムは、第1および第2のポリマーフィルムの積層または共押出成形により取得されてもよく、または溶液キャスティングによって得ることができる。一実施形態では、(b)の第2のポリマー溶液は、多層膜を取得するために(a)の第1ポリマーフィルム上にキャスティングされる。積層フィルムとしての(a)または(b)中のポリマーフィルムの厚さは、約3〜約150μmまたは約20〜約100μmであり得るが、コーティングフィルムとしての厚さは、約2〜約20μmまたは約3〜約10μmであり得る。
【0037】
本発明のさらなる実施形態では、(a)の第1のポリマーフィルムは、波長(λ)550nmにおいて−100nm〜−400nmの面外位相差(Rth)および20〜100μmの厚さを有するセルロースエステルフィルムであり、(b)の第2のポリマーフィルムは、2〜20μmの厚さを有するポリ(α,β,β−トリフルオロスチレン)である。
【0038】
多層フィルムの延伸は、当技術分野で公知の任意の方法によって行うことができる。延伸に適する温度は、およそ(a)の第1のポリマーフィルムのTgであってよく、前記Tgより約5〜50℃高いか、または前記Tgより約5〜50℃低くてよい。
【0039】
あるいは、コーティングフィルムは延伸することができるが、まだある程度の溶剤が含まれており、完全に乾燥されていない(ウェット延伸)。この場合、より低い温度が延伸に用いられ得る。(例えば、スチールベルト上の)下のサポートと共にコーティングフィルムを延伸することも可能である。この場合、より高い温度、例えば、おおよそのポリマーのTgまたは約5〜30℃高い温度が延伸に使用されてよい。
【0040】
延伸後のフィルムの伸び率(伸び)は、約2〜200%であってよい(未延伸フィルムよりも長い長さのパーセンテージとして定義される)。一実施形態では、伸長率は、約2〜100%である。
【0041】
本発明はさらに、0.7<R450/R550<1および1<R650/R550<1.25の関係を満たす正の面内位相差を有する広視野光学補償フィルムを製造するための方法であって、以下のステップを含む方法を提供する:
I.溶液キャストフィルムが、(n+n)/2<nおよび|n−n|<0.005の式を満たす屈折率プロファイルを有するポリマーを1種類または複数種類の有機溶媒に溶解するステップ、
II.(n+n)/2≧nおよび|n−n|<0.005の式を満たす屈折率プロファイルを有するポリマーフィルム上に(i)のポリマー溶液を溶液キャスティングするステップ、
III.得られたコーティングを延伸に適するまで乾燥させるステップ、
IV.前記光学特性を提供することができる延伸比まで、適切な温度でコーティングポリマーフィルムを二軸または一軸延伸するステップ;
その際、R450、R550、およびR650は、それぞれ450nm、550nm、および650nmの光の波長での面内位相差であり、nおよびnは面内屈折率を表し、nは、フィルムの厚み方向の屈折率を表す。
【0042】
本発明の光学補償フィルムは、面内切り替え液晶ディスプレイ装置を含む液晶ディスプレイ装置、OLEDディスプレイ装置、3Dディスプレイ装置、円偏光板、または3Dメガネに使用されてもよい。前記ディスプレイ装置は、テレビ、コンピュータ、携帯電話、およびカメラなどに使用されてもよい。
【0043】
実施例
実施例1:セルロースエステルに基づく逆分散曲線を有する多層延伸フィルム1
ポリ(α,β,β−トリフルオロスチレン)(PTFS)の溶液は、溶媒のメチルイソプロピルケトン(60.93g)中でPTFS粉末(10g;固有粘度=1.0dL/g)および可塑剤(Eastman Chemical社から入手可能なAbitol E)(0.75g)を混合することによって調製した。別に、Rth(589)=−222nmおよびR(589)=3.1nmを有するセルロースエステルフィルム(厚さ80μm)の試料(4インチ×4インチ)(実質的に負のCプレート)を調製し、実験室コロナ処理機(モデルBD−20C;Electro−Technic Products社)を使用して約2分間コロナ放電処理した。ポリマー溶液を、ナイフアプリケータを用いてセルロースエステルフィルム(厚さ80μm)の半分の領域上にキャスティングし、残りの半分をコーティングしない状態で残した。キャスティング直後に、コーティングフィルムを10分間85℃で強制空気オーブンに入れ、乾燥コーティングした。Metricon社製プリズムカプラ(Prism Coupler)2010(Metricon社)を用いて、PTFSコーティングの厚さを13.75μmと決定した。
【0044】
非拘束一軸延伸法をフィルム延伸のために使用した。コーティング/非コーティング境界線が延伸方向に沿って整列される方法で、上記の調製したハーフコーティングフィルムを、加熱室を備えた延伸機(ブルックナー社から入手可能なKara IV実験用フィルムストレッチャー)に装着した。延伸温度173℃に達するまでこのフィルムを25秒間予備加熱し、その後、1.45の延伸比まで7.0mm/秒の速度で機械方向(MD)に延伸した。横方向(TD)は拘束しないで放置した。
【0045】
延伸後、セルロースエステルフィルム(CE−1)のコーティングおよび非コーティング部分の位相差(RthおよびR)を、M−2000Vエリプソメータ(J.A.Woollam社)により測定した。波長589nmでの代表的な位相差、R(589)およびRth(589)、ならびにR(450)/R(550)およびR(650)/R(550)の値を示す表1に結果をまとめる。フィルムの非コーティング部分と比較した場合、コーティングフィルムは、より低い面内位相差(R)、低下した面外位相差の絶対値、図1に示すようなはるかに急峻な逆波長分散を有する点で特徴付けられる。このようにして得られたフィルムは、四分の一波長プレートの範囲である130nmのR値を有する。
【0046】
【表1】
【0047】
実施例2:セルロースエステルに基づく逆分散曲線を有する多層延伸フィルム2
実施例1に記載したように、第2のセルロースフィルムを調製し、PTFS溶液でコーティングした(乾燥コーティングの厚さ:11.91μm)。実施例1に従って、得られたフィルム(CE−2)を173℃で1.40の延伸比まで延伸した。結果を表2にまとめ、図2にプロットした。フィルムの非コーティング部分と比較した場合、コーティングフィルムは、図2に示すようなより低い面内位相差(R)、低下した面外位相差の絶対値、およびはるかに急峻な逆波長分散を有する点で特徴付けられる。
【0048】
【表2】
【0049】
実施例3.セルロースエステルに基づく逆分散曲線を有する多層延伸フィルム3
実施例1に記載したように、第3のセルロースフィルムを調製し、PTFS溶液でコーティングした(乾燥コーティングの厚さ:17.79μm)。実施例1に従って、得られたフィルム(CE−3)を173℃で1.45の延伸比まで延伸した。結果を表3にまとめ、図3にプロットした。フィルムの非コーティング部分と比較した場合、コーティングフィルムは、図3に示すようなより低い面内位相差(R)、低下した面外位相差の絶対値、およびはるかに急峻な逆波長分散を有する点で特徴付けられる。
【0050】
【表3】
【0051】
実施例4:COPに基づく逆分散曲線を有する多層延伸フィルム
環状オレフィンポリマー(COP)フィルムを、この研究のためのベースフィルムとして使用した。このフィルムは、98μmの厚さ、ならびにR(589)=3.41nmおよびRth(589)=−10.65nmの位相差を有し、本質的に光学等方性フィルムを示す。実施例1に記載したように、4種類のCOPフィルムを調製し(4インチ×4インチ)、PTFS溶液でコーティングした。実施例1に従って、得られたフィルム(COP−1〜COP−4)を、150℃で1.40〜1.5の範囲の延伸比まで延伸した。結果を表4にまとめる。このように得られたコーティングフィルムの分散曲線全ては、R(450)/R(550)およびR(650)/R(550)の値によって示されるように、逆波長分散特性を有するが、セルロースエステル系フィルムのものと比較して非常に平坦である。
【0052】
【表4】
【0053】
上記で実施形態を説明してきた。上記の方法および装置は、本発明の一般的な範囲から逸脱することなく変更および修正を組み込むことができることは当業者には明らかであろう。これは、添付の特許請求の範囲またはその等価物の範囲内にある限りにおいて、全てのそのような変更および修正を含むことを意図している。上記の説明は多くの特異性を含むが、これは本発明の範囲を限定するものとして解釈されるべきではなく、単に本発明の実施形態のいくつかの例示を提供するものとして解釈されるべきである。種々の他の実施形態および派生効果は、本発明の範囲内であり得る。
【0054】
さらに、本発明の広い範囲で示される数値範囲およびパラメータは近似値であるにもかかわらず、特定の実施例に示される数値は、できるだけ正確に報告される。しかし、任意の数値は、それぞれの試験測定に見られる標準偏差から必然的に生じる特定の誤差を本質的に含む。
図1
図2
図3
図4