(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6435514
(24)【登録日】2018年11月22日
(45)【発行日】2018年12月12日
(54)【発明の名称】蛍光体
(51)【国際特許分類】
C09K 11/59 20060101AFI20181203BHJP
【FI】
C09K11/59
【請求項の数】7
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-533948(P2015-533948)
(86)(22)【出願日】2014年7月9日
(86)【国際出願番号】JP2014003634
(87)【国際公開番号】WO2015029305
(87)【国際公開日】20150305
【審査請求日】2017年6月6日
(31)【優先権主張番号】特願2013-181075(P2013-181075)
(32)【優先日】2013年9月2日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106116
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100170494
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 浩夫
(72)【発明者】
【氏名】瀧澤 俊幸
【審査官】
菅野 芳男
(56)【参考文献】
【文献】
特開2009−287027(JP,A)
【文献】
特開2006−070088(JP,A)
【文献】
特表2010−514889(JP,A)
【文献】
特開2012−255133(JP,A)
【文献】
特開2005−097011(JP,A)
【文献】
Journal of Materials Chemistry C,2013年 2月21日,Vol.1, No.7,p.1407〜1412
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 11/59
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Euを賦活剤とし、
Ca、Sr、Baのうち少なくとも1つを有するアルカリ土類元素と、シリコンと、窒素と、酸素とからなり、
発光ピーク波長が600nm以上かつ650nm以下であり、かつ組成比が前記アルカリ土類元素:Si=5:1、O:N=9:1であることを特徴とする、蛍光体。
【請求項2】
Euを賦活剤とし、
Ca、Sr、Baのうち少なくとも1つを有するアルカリ土類元素と、シリコンと、窒素と、窒素と、酸素とからなり、かつ発光ピーク波長が600nm以上かつ650nm以下である蛍光体であって、
前記蛍光体は粒状であり、その中心部には面状欠陥があり、なおかつ粒径は2μm以上であることを特徴とする、蛍光体。
【請求項3】
前記蛍光体において、酸素のモル量は窒素に比べて少ないことを特徴とする、請求項2に記載の蛍光体。
【請求項4】
前記蛍光体の発光半値幅は、100nm未満であることを特徴とする、請求項1または2に記載の蛍光体。
【請求項5】
前記蛍光体の組成比は、Sr:Si=2:1、O:N=1:3であることを特徴とする、請求項2に記載の蛍光体。
【請求項6】
前記蛍光体の窒素原料は尿素であることを特徴とする、請求項1または2に記載の蛍光体。
【請求項7】
前記アルカリ土類元素:Si=5:1は、Sr:Si=5:1であることを特徴とする、請求項1に記載の蛍光体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、室内照明や車のヘッドライトなどの照明装置の光源や、プロジェクタやスマートフォンなどのディスプレイの光源として用いられる発光装置と、その発光装置に用いることができる蛍光体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、光源の発光波長が380nm〜480nm(紫外〜青色)である半導体発光素子と、それらの放射光の一部を吸収して放射光よりも長波長の蛍光を放射する蛍光体とを組み合わせた発光装置が盛んに開発されている。たとえば、セリウムを賦活したイットリウム・アルミニウム・ガーネット(YAG:Ce)蛍光体は、波長450nmの青色光を吸収し、青色の補色である黄色にて発光する。この蛍光体は温度特性や変換効率も優れているため、これを搭載した白色発光ダイオードとして既に実用化されている。
【0003】
短波長の光源を励起光源とし、なおかつ蛍光体によって可視光変換するようなディスプレイ装置について考える。これを実現するには、励起光を吸収し、なおかつそれぞれ赤、緑、青の3原色に変換できる蛍光体材料が必要となる。プロジェクタとして鮮明な映像を表示するためには、各原色の蛍光体がそれぞれ適切な波長にて発光する必要がある。
【0004】
ここでは、赤色について考える。赤色は、人間の肌色の質感や、肉や花などの鮮やかさを再現するうえで、重要な色である。そのため、赤色の発光ピーク波長は約620nm近傍でなければならない。もしそれよりも短波長になると映像は黄色っぽくなる。一方、長波長になると視感度が低くなるため、暗く見えてしまう。また、発光スペクトルの半値幅も重要な要素であり、半値幅はなるべく狭い方がよい。半値幅が広いと、短波長側では黄色成分が混合してしまう。黄色は赤色よりも視感度が高いため、混合が少なくとも、映像としては黄色っぽくなってしまう。一方、スペクトルが赤外領域にのびていると、人間にはほとんど見えないため、赤色とは認識されず、非発光成分と同等になってしまう。そのため、赤色蛍光体に必要な要素は、適切な発光ピーク波長と狭い半値幅の2点である。
【0005】
近年では、いくつかの赤色蛍光体が開発され、実用化されている。たとえば、アルファサイアロン系蛍光体は、2価のユウロピウムによって賦活されたアルミニウムおよびシリコンの酸窒化物蛍光体で、結晶構造は窒化珪素のアルファ構造を取る。非特許文献1によると、アルファサイアロン系蛍光体は中心波長約600nmにて発光し、映像表示装置への使用が可能である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】フジクラ技報第108号(2005年4月)第1ページ〜第5ページ
【発明の概要】
【0007】
しかしながら上記に述べた発光装置において特に赤色の蛍光体に関しては次のような課題が挙げられる。まず、YAG:Ce系蛍光体は、上記に述べたように発光波長中心が黄色領域に位置するためディスプレイ用赤色蛍光体としては緑純度が不十分である。もし赤色蛍光体として用いる場合、黄色領域の光を全てフィルタカットしてしまう必要があり、効率としては大幅な損失となる。
【0008】
一方、アルファサイアロン系蛍光体は、非特許文献1にもあるように、焼成には窒素雰囲気下にて高温(1700℃)かつ加圧条件にて行なう必要がある。そのため、焼成炉は耐圧性の確保などで、一般の電気炉よりも大掛かりとなってしまい、その結果、蛍光体は一般的な酸化物蛍光体よりも割高となってしまう。また、ほとんどの赤色蛍光体は半値幅が100nm程度ある。半値幅が広いと、純赤色として有効に利用することができない。
【0009】
以上より、本発明は、高圧焼成が不要な尿素を窒化剤に用いた焼成方法によって、赤色の純度が高く、なおかつ半値幅が狭く、実効的な変換効率の高い蛍光体を提供することである。
【0010】
上記課題を解決するために本発明の蛍光体は、Euを賦活剤とし、Ca、Sr、Baのうち少なくとも1つを有するアルカリ土類元素と、シリコンと、窒素とを主成分とし、かつ発光ピーク波長が600nm以上かつ650nm以下であることを特徴とする。この構成により、演色性の高い蛍光体を実現することができる。
【0011】
本発明の蛍光体は、さらに酸素を含有し、そのモル量は窒素に比べて少ないことが好ましい。この好ましい構成によれば、電気陰性度の大きな酸素が含まれることで、酸素のない場合にくらべて蛍光体は短波長に蛍光ピークを持つことになる。そして、酸素含有量を、窒素含有量を越えない範囲で制御することにより、望みの演色性の高い赤色蛍光体を実現することができる。
【0012】
本発明の蛍光体は、さらに発光半値幅が100nm未満であることが好ましい。この好ましい構成によれば、不要な波長成分のカット量を抑制することができるため、高効率な蛍光体を実現することができる。
【0013】
本発明の蛍光体は、さらに組成比がSr:Si=2:1、O:N=1:3であることが好ましい。この好ましい構成によれば、本赤色蛍光体は化学量論的に安定な組成となる。つまり、耐熱性が増し、光劣化も減少することから、信頼性のより高い蛍光体を実現することができる。
【0014】
本発明の蛍光体には、さらに組成比がSr:Si=5:1、O:N=9:1である混合物が存在することが好ましい。この好ましい構成によれば、窒素に比べて酸素含有量が多い場合、黄緑色近傍で発光させることができる。これを一部混入させることにより、赤色の演色性を微調整することができ、本蛍光体は、再現性よく発光ピーク波長を緑色領域に持たせることができる。
【0015】
本発明の蛍光体は、さらに粒状であり、その中心部には面状欠陥があり、なおかつ粒径は2μm以上あることが好ましい。この好ましい構成によれば、本蛍光体は中心部に面状欠陥を有しており、その周りを単結晶状の蛍光体結晶層が取り囲むような構造をしている。また、本蛍光体の外部量子効率は内部量子効率とほぼ同値であることから、蛍光体粒において十分に励起光吸収され、蛍光できることを意味する。とくに吸収の大きさから、蛍光体として機能する部分は蛍光体粒の外側がほとんどである。そのため、面状欠陥が表面から十分に離れている、すなわち、粒径が2μm以上あると、励起光は中心部にほとんど至ることがなく、面状欠陥によって失活することはなく、高効率な蛍光体を実現することができる。
【0016】
本発明の蛍光体は、さらに窒素原料は尿素であることが好ましい。この好ましい構成によれば、本蛍光体は、安価にて実現することができる。
【0017】
本発明によると、高効率な赤色蛍光体を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】蛍光体の蛍光ピーク波長と半値幅に対する実効的な変換効率を表したグラフである。
【
図2】(a)は本発明の蛍光体にかかる蛍光スペクトルを示す図であり、(b)は本発明の蛍光体にかかるCIE1931色座標での位置を表す図である。
【
図3】本発明の蛍光体にかかる励起・蛍光スペクトルを示す図である。
【
図4】本発明の蛍光体にかかる焼成条件を変えた際の蛍光体粉末の外観写真と焼成温度および時間との関係を示す図である。
【
図5】本発明の蛍光体の元素組成分析結果を示す図である。
【
図6】本発明の蛍光体にかかる様々な混合状態の蛍光スペクトルを示す図である。
【
図7】(a)は本発明の蛍光体の断面透過型電子顕微鏡像を示す全体図であり、(b)は同蛍光体の断面透過型電子顕微鏡像の部分拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の実施の形態について、以下に図面を用いて説明する。
【0020】
(1)蛍光体の発光スペクトルの半値幅と赤色光の変換効率との関係について
図1は、蛍光体の発光スペクトルをガウス型と仮定し、ピーク波長と半値幅を変えたとき、スペクトルのうち、赤色として認識可能な成分の割合をコンタープロットした図である。
図1において、SiAlON、SSN、SSE、CASNは蛍光体を表す。
図1における等高線は、全発光スペクトルのうち純赤色光が得られる割合すなわち純赤としての換算効率を表す。
図1において25%、40%の等高線は、それぞれ純赤としての換算効率が25%、40%であることを表す。また、
図1における矢印の向きは、純赤としての換算効率が増加する方向を表す。なお、赤色の領域を波長590nmから650nmの範囲として定義している。半値幅が非常に狭い場合、ピーク波長が赤色波長域にあれば、ほとんどの光が純赤色として有効利用できる。一方、半値幅が広くなるにつれて、有効利用できる割合は指数関数的に減少していく。半値幅が100nmの場合、全発光スペクトルのうちの約25%しか純赤色として利用できない。一方、半値幅が80nmである場合、約40%の成分が純赤色として利用することができる。つまり、半値幅を2割下げると、実効的な変換効率を5割程度向上させるのと同等の効果がある。
【0021】
(2)製造方法
本実施形態にかかる本発明の蛍光体の製造方法について、以下に説明する。
【0022】
まず原料として、炭酸ストロンチウム(化学式SrCO
3)、シリカ粉末(化学式SiO
2)、酸化ユウロピウム(化学式Eu
2O
3)を準備する。それらは全て白色の粉末である。炭酸ストロンチウムとシリカは本蛍光体において母結晶の構成物となる。また酸化ユウロピウムは、母結晶内において蛍光賦活剤として取り込まれる。
【0023】
これらの原料を、たとえば、シリカ5gに対して、炭酸ストロンチウム36g、酸化ユウロピウム0.8gの割合にて混合する。混合後は十分に攪拌し、均等に混ざるようにする。
【0024】
次に混合物を電気炉にセットする。焼成条件は、1100℃、4時間としており、雰囲気は常圧大気中である。この結果、ユウロピウムを含むストロンチウムとシリコンの酸化物が得られる。このときのユウロピウムは酸化焼成によって3価を取っている。
【0025】
次に、上記酸化物に尿素を加える。上記酸化物1gに対し、尿素を8g程度添加し、均等攪拌のために純水を3cm
3程度加えて攪拌を行なう。この作業は、焼成酸化物の周囲に一旦水溶した尿素を均一に付着させ、反応性を向上するためである。
【0026】
得られた混合物を、電気炉にセットする。アニール条件は1500℃を2時間としており、炉内の雰囲気は窒素ガスで常圧としている。アニール前は白色粉末であったが、アニールを行なった後は、本条件では赤い蛍光体粉末として形成される。
【0027】
なお、本実施の形態では、Eu源を酸化ユウロピウムとしているが、硝酸ユウロピウム(化学式Eu(NO
2)
3)およびその水和物であってもよい。なお、本実施の形態では、窒化剤として尿素を用いているが、カルバミド系化合物(たとえば化学式C(NH
2)(NH)(OH))や、ヒドラジン系化合物の水和物(たとえば化学式N
2H
2・H
2O)、アジド系化合物(たとえば化学式NaN
3)を用いても、同様の効果が得られる。特に、カルバミド系化合物は尿素と分子構造が非常に近いので、尿素と同様に好ましい効果が得られる。また、本作製方法では、一度大気焼成を行なっているが、完全窒化された蛍光体を得る場合、その大気焼成工程を省いてもよい。この場合、ほとんど酸素を含まない赤色蛍光体ができる。一方、大気焼成の温度を1100℃よりもさらに上げたり、窒化焼成の時間短縮や低温度化を行なうと、窒素に比べてより酸素割合の高い蛍光体が形成される。
【0028】
(3)本発明の蛍光体の特性について
次に本発明にかかる蛍光体の光学特性を説明する。
【0029】
まず、
図2は本発明にかかる蛍光体の蛍光スペクトル(
図2(a))とそのCIE1931色座標(
図2(b))である。なお、
図2(a)においてはピーク波長でのピーク高さを1として規格化している。なお、
図2(a)においては、本発明にかかる蛍光体の写真を併せて添付している。
図2(a)に示す通り、本蛍光体は中心ピーク波長622nmにて赤色に発光している。また半値幅は約79nmと狭く、隣接する波長域(波長590nm未満および650nm以上)における蛍光成分が少ないことが特徴である。これは、尿素によって効果的に原料の窒化が行なわれているためである。フィルタなどで波長590nmから650nmまでの範囲のみを赤色として用いる場合を考えると、
図2に示した実際のスペクトル形状から、4割程度のカット(実効効率は約6割)で済むことがわかる。
【0030】
一方で得られたピーク波長と半値幅を元に
図1から実効効率を求めると、約4割程度となる。実際のスペクトルから算出した実効効率が高い理由は、スペクトル形状がガウス型ではなく、ピーク部分がブロードな台形に近いためである。すなわち、本蛍光体は赤色光源として、より適したスペクトル形状を有していることがわかる。その結果、純赤色に近い高演色かつ高効率な蛍光体として機能することができる。
【0031】
また
図2(b)のCIE1931色座標を見ると、sRGBで示される三角形の外側に位置している。このことは、sRGBにて必要とされる赤色よりも、さらに高純度な赤色(色座標(x,y)=(0.620,0.378))を、本蛍光体によって実現できることを意味している。
【0032】
次に、得られた蛍光体の励起
・発光スペクトルを
図3に示す。
図3中、特に左縦軸のIQEおよびEQEはそれぞれ、内部および外部量子効率を意味している。
図3において右縦軸のEm.intensityとは
発光スペクトル強度を示す。なお右縦軸の単位は任意単位(arbitrary unit)である。
図3より、励起スペクトルは紫外領域から黄色(波長約550nm)域まで非常に広帯域で、なおかつフラットであることがわかる。このことは、紫外域から黄色域まで幅広い励起光源を用いることができることを意味しており、本発明にかかる蛍光体は赤色の発光物として非常に広範囲な応用が可能であることがわかる。また、外部量子効率と内部量子効率の差は1割程度しかないことも特徴である。
【0033】
さらに、焼成温度を変えて焼成物の変化を確認した。焼成条件は1300℃から1600℃までの100℃きざみ4条件(サンプルA〜D)で、焼成時間については非常に短い場合(6分、サンプルE)についても調べた。なお、その他の条件については上述の通りとしている。サンプルA〜Eの焼成条件について、表1にまとめる。
【0035】
サンプルA〜Eの違いについて、
図4に図示する。
図4より、低温条件では緑色の焼成物となり、特に1300℃では全て緑色焼成物となっている(サンプルA)。1500℃において、全て赤色蛍光体となっており(サンプルC)、さらに温度を上げるとほとんど何も残らない(サンプルD)結果となった。これは、焼成物が熱分解されて消失してしまうためと考えられる。以上の焼成温度実験の結果、本実施形態では1500℃が赤色蛍光体を得るための最適温度条件であることがわかった。また、焼成時間を極端に短くすると(サンプルE)、
図4に示すとおり緑色の焼成物を含む割合がかなり高くなった。このことは、酸化物を尿素によって十分に窒化し、所望の酸窒化物蛍光体を得るには、十分な焼成時間を必要とすることがわかった。
【0036】
次に、緑色(サンプルA)および赤色(サンプルC)の焼成物について、EDX(エネルギー分散型X線分光)分析を行なった。その元素組成分析の結果を表2に示す。調べた元素はストロンチウム、シリコン、酸素、窒素、ユウロピウムであり、電子ビームの加速電圧は5kVとしている。なお、表2における値は、焼成物の構成元素を100としたときの、それぞれの元素の原子数の割合すなわち原子数%である。
【0038】
表2より、緑色および赤色とも、調べた元素全てを含んでいるものの、各元素の構成比率は有意に異なることがわかった。まず緑色焼成物(サンプルA)では、シリコンに比べてストロンチウムの割合が非常に高く、また、窒素に比べて酸素の含有割合が非常に高かった。元素の構成比率(組成比)はSr:Si=5:1、O:N=9:1であり、ほぼ整数比となっていた。一方、赤色蛍光体(サンプルC)の元素組成では、窒素含有量が酸素に比べて圧倒的に高い。構成比率(組成比)は、Sr:Si=2:1、O:N=1:3であり、ほぼ整数比をなしていることが明らかとなった。両者ともほぼ整数比をなしていることから、固有の結晶相であることがわかる。なお、当該組成比は、製造上の誤差も含む意味である。
【0039】
図4において、焼成温度1400℃では緑色と赤色の混合焼成物(サンプルB、サンプルE)となっており、励起光を照射すると、緑色の焼成物は緑色、赤色の焼成物は赤色にそれぞれ蛍光する。また、緑色と赤色領域の中間では、見かけ上、黄色に蛍光している。これについて詳細に調べるため、
図5に示すようにサンプルBについて場所a〜eごとの蛍光スペクトルを測定した。なお、場所aは緑色領域、場所bは黄緑色領域、場所cは黄色領域、場所dは燈色領域、場所eは赤色領域を表す。その結果を
図6に示す。
図6より、緑色領域(場所a)そのものは、ピーク波長540nmを有していることがわかった。なお、赤色領域(場所e)については前述の通りである。また、混合領域(場所b、場所c、場所d)のスペクトルは黄色領域(波長560nm近傍)にはピークを持っておらず、前述の緑色蛍光体と赤色蛍光体から別々に放射される蛍光の混合であることがわかる。このように、焼成条件をうまく制御することにより、本蛍光体の蛍光色を緑色から赤色まで自由に変えることができる。
【0040】
焼成温度1500℃にて得られた赤色蛍光体の断面透過型電子顕微鏡像を観察した。
図7はその観察結果で、向かって左側の写真(
図7(a))が蛍光粒子の全体像、右側の写真(
図7(b))がその一部拡大像となっている。拡大領域は、左側写真(
図7(a))内に白枠にて明示してある。
図7より、本蛍光体は結晶構造を有しており、特に周縁部では、欠陥が非常に少なくなっていることがわかる。一方、中心部では多くの面状欠陥が見受けられる。中心部に欠陥が多い理由は、本蛍光体の形成機構に由来している。つまり、炉内においてユウロピウム添加されたストロンチウムシリコン酸化物を窒化焼成する際、高い還元性のため、酸化物からは酸素が脱離していく。残ったストロンチウムやシリコンは、焼成温度1500℃では固体を保っておらず、特にストロンチウムは沸点1382℃であるため、気体となっている。ユウロピウムおよびシリコンは、液体と化している。ここに尿素の分解反応によって生成されたアンモニアが供給されると、各元素は窒化されて結晶成長が起こる。既に種結晶が存在する場合、その表面上にエピタキシャルに結晶成長が起こる。一方、種結晶のない焼成初期の場合では、偶発的に種結晶が形成されることになる。このとき、初期は結晶面方位が定まらないため、欠陥を多く含むことになる。一度種結晶が形成されると、あとはエピタキシャルに欠陥の少ない良質な結晶が得られる。このことは、本蛍光体は中心に成長起点となる欠陥領域を持つことが特徴であると言える。
【0041】
図3の励起
・発光スペクトルにて示したとおり、本蛍光体は吸収が強いことが特徴である。ユウロピウム2価の蛍光体では、ユウロピウム2価の軌道と母結晶が持つバンド構造と結合しているため、幅広い励起波長域を有し、その結果、高い吸収を持つ。本蛍光体を用いて高効率に蛍光変換する場合、結晶の粒径はなるべく大きくし、結晶性の高い周縁部を欠陥の多い中心部からなるべく遠ざけるようにすべきである。特に、粒径は2μm以上あることが望ましい。このような赤色蛍光体を得るには、焼成時間をなるべく長くすることが良い。焼成温度を上げることは、結晶性の向上には有効である。しかし、アンモニアと反応できずに昇華してしまう原料が増えるため、成長速度が低下してしまい、その結果、結晶性の高い周縁部があまり厚くならない。たとえ周縁部の結晶性が向上しても、その層厚が薄い場合、周縁部において十分に吸収・変換されず、中心部の高欠陥領域において励起光が多く吸収されてしまうために、蛍光体全体の変換効率は低下してしまうことになる。
【0042】
以上まとめると、尿素を用いて焼成することで組成式AE(l)Si(m)O(p)N(q):Zである酸窒化物蛍光体を得ることができた。ここでAEはカルシウム、ストロンチウム、バリウムのうち少なくとも1つであるアルカリ土類元素、Siはシリコン、Oは酸素、Nは窒素で、Zは希土類元素を示す。また、l、m、p、qは元素量を示す。本蛍光体は300〜550nmの波長域に励起スペクトルを有する。また、本蛍光体の蛍光スペクトルは中心波長約620nmで、半値幅は約80nmと狭い。すなわち、尿素を用いて焼成することで純赤色として利用できる蛍光体を得ることができるのである。
【0043】
また、緑色から赤色までの蛍光体を得るにあたり、尿素を原料として用いて焼成することは、蛍光体の蛍光スペクトルの半値幅を狭くでき、それにより蛍光体から生じる蛍光の利用効率を上げることができるのである。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明によれば、半値幅が狭く、非視感度領域での発光の少ない高効率蛍光体によって、高効率かつ演色性の優れた光源を実現することができる。また、尿素窒化による焼成方法により、安価な蛍光体を提供することができる。