特許第6435515号(P6435515)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6435515-焼成装置 図000006
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6435515
(24)【登録日】2018年11月22日
(45)【発行日】2018年12月12日
(54)【発明の名称】焼成装置
(51)【国際特許分類】
   C01B 21/082 20060101AFI20181203BHJP
   C01F 17/00 20060101ALI20181203BHJP
   F27B 7/06 20060101ALI20181203BHJP
   F27B 5/10 20060101ALI20181203BHJP
   F27B 5/04 20060101ALI20181203BHJP
   C01C 1/02 20060101ALI20181203BHJP
【FI】
   C01B21/082 G
   C01F17/00 Z
   F27B7/06
   F27B5/10
   F27B5/04
   C01C1/02 D
【請求項の数】6
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2015-533949(P2015-533949)
(86)(22)【出願日】2014年7月9日
(86)【国際出願番号】JP2014003635
(87)【国際公開番号】WO2015029306
(87)【国際公開日】20150305
【審査請求日】2017年6月6日
(31)【優先権主張番号】特願2013-181077(P2013-181077)
(32)【優先日】2013年9月2日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106116
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100170494
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 浩夫
(72)【発明者】
【氏名】瀧澤 俊幸
【審査官】 小野 久子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−121887(JP,A)
【文献】 特開昭61−068311(JP,A)
【文献】 K.M.A. SARON et al.,Study of using aqueous NH3 to synthesize GaN nanowires on Si(1 1 1) by thermal chemical vapor deposi,Mater. Sci. Eng. B,2013年 3月20日,Vol.178, No.5,p.330-335
【文献】 G. BRAUER et al.,Synthese und Eigenschaften des roten Tantalnitrids Ta3N5,Angew. Chem.,ドイツ,1965年,Vol.77, No.5,p.218-219
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 21/082
C01C 1/02
C01F 7/00
C01F 17/00
C04B 35/58
F27B 5/04
F27B 5/10
F27B 7/06
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料を焼成して焼成物を形成する焼成装置であって、
炉と、前記炉を加熱するヒータと、前記炉の内部に水を含む窒化剤を導入する管と、前記炉の内部に配置された脱酸素部材とを有し、
前記脱酸素部材は、前記原料よりも酸化されやすい部材よりなり、
前記窒化剤は、尿素、カルバミド系化合物、ヒドラジン系化合物またはアジド系化合物であることを特徴とする記載の焼成装置。
【請求項2】
前記部材は炭素、アルミニウム、チタンの少なくとも1つで構成されていることを特徴とする、請求項1に記載の焼成装置。
【請求項3】
前記炉は円筒状で、回転可能であることを特徴とする、請求項1に記載の焼成装置。
【請求項4】
前記炉は、前記ヒータにて加熱されて前記焼成物が形成されているときに回転することを特徴とする、請求項に記載の焼成装置。
【請求項5】
前記炉の上に窒化剤を供給する機構を有し、かつ重力によって前記窒化剤が滴下することを特徴とする、請求項に記載の焼成装置。
【請求項6】
前記窒化剤は水を含む液体にて前記炉へ導入されることを特徴とする、請求項1に記載の焼成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、窒化物蛍光体粉末をはじめとする、窒化物材料を安価かつ安全に焼成することができる焼成装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
これまでに蛍光体は、さまざまなデバイスに用いられてきた。特に表示デバイスに関しては、陰極線管を用いたテレビに用いられたのが最初の応用と考えられる。陰極線管内では、静電界にて加速された電子線を蛍光体に照射し、その運動エネルギーを特定波長帯の光に変換させることで、映像を表示させている。また、プラズマディスプレイテレビでは、希ガスを主成分とする気体をプラズマ励起して得られる深紫外光を蛍光体によって特定波長帯の光に変換している。これらの波長変換では、励起および発光間のエネルギー差が非常に大きいのが特徴である。
【0003】
一方近年では、発光ダイオードを励起光源として用い、それらの出す光を蛍光体によってさらに波長変換する方法を用いた表示デバイスが実用化されている。たとえば、液晶テレビのバックライトに用いられる白色発光ダイオードでは、青色光を励起光として、黄色光を放射する。このような方式では、励起と蛍光間のエネルギー差が非常に小さいことが特徴である。
【0004】
励起と蛍光間のエネルギー差が小さい場合、使える蛍光体は種類が非常に限定されてしまう。これは、蛍光体の吸収スペクトルが励起光波長に合致するような位置に存在するか否かで決まる。たとえば、セリウム添加されたイットリウム・アルミニウム・ガーネット蛍光体(YAG蛍光体)は優れた黄色蛍光体として知られているが、青色450nm波長域に吸収帯を有するものの、青紫色405nm波長域には吸収帯がないため、利用は限定的となってしまう。
【0005】
幅広い吸収スペクトルを有しつつ、様々な色にて蛍光を呈する蛍光体として、2価のユウロピウムを発光中心としたものが多く実用化されている。ユウロピウムは14種類のランタノイド元素のうち、最も安定した2価を得られる元素である。ユウロピウムが2価を取ると、4f電子は局在化できず、5d電子と混成される。5d電子は4f電子に比べて空間的に拡がっており、周囲原子の軌道と混成しやすいことから、ホスト材料のバンド構造を反映したブロードな励起スペクトルを持つことができる。また、蛍光波長もホスト材料のバンド構造の影響を強く受ける。その結果、ホスト材料を適切に選ぶことによって、励起および蛍光スペクトルをデザインすることが可能となる。
【0006】
2価のユウロピウムを用いて緑色や赤色といった長波長の可視光域にて蛍光を得るには、一般にバンドギャップの狭いホスト材料を用いる必要がある。ホスト材料のバンドギャップを狭くするための有効な方法として、酸化物を酸窒化物あるいは窒化物にすることが挙げられる。窒素は酸素に比べて電気陰性度が小さいため、バンドギャップを効果的に狭くすることができる。また、ユウロピウムと化学結合している原子が酸素から窒素に置き換わることで、励起および蛍光スペクトルも変化する。一般的に、酸化物蛍光体に比べて(酸)窒化物蛍光体は励起および蛍光スペクトルは長波長化しやすい。
【0007】
2価のユウロピウムを用いた蛍光体では、青色蛍光体としてストロンチウム・マグネシウム・シリコン酸化物(SMS)やバリウム・アルミニウム・マグネシウム酸化物(BAM)が挙げられ、これらは窒素を含んでいないことが一つの共通点である。一方、緑色あるいは赤色蛍光体では、(酸)窒化物系の種類がかなり増える。たとえば、カルシウム・アルミニウム・シリコン窒化物系蛍光体(CASN)やシリコン・アルミニウム酸窒化物系蛍光体(サイアロン)であり、これらは赤色や緑色にて蛍光する。特許文献1で開示されている蛍光体は、ベータサイアロン系蛍光体の蛍光スペクトルであり、ピーク波長は530nmの緑色にて蛍光発光する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2012−62394号公報
【発明の概要】
【0009】
しかしながら上記に述べた(酸)窒化物蛍光体は、特許文献1にもあるように、焼成には窒素雰囲気下にて高温(〜1500℃)かつ高圧(1気圧以上)にする必要がある。そのため、焼成炉は耐圧性の確保などで、一般の電気炉よりも大掛かりとなってしまい、その結果、(酸)窒化物蛍光体は一般的な酸化物蛍光体よりも割高となってしまう。
【0010】
一方で、アンモニアを窒化剤として用いる焼成方法も実用化されており、この場合はより低温あるいはより低圧にて焼成することで、(酸)窒化物蛍光体を得ることができる。本方法は、蛍光体のみならず、青色発光ダイオードなどの窒化物半導体や光触媒に用いられる窒化タンタルなどの結晶成長においても用いられる普遍的な方法である。しかしながら、危険な高圧ガスを用いるため、安全機構を有するガス供給設備が必要であり、付帯設備もコストアップの一因となってしまう。
【0011】
上記課題に対して、本発明の目的は、窒化剤として尿素を用いることで、蛍光体のみならず、様々な酸窒化物材料を焼成できる装置を提供することである。
【0012】
上記課題を解決するために本発明の一側面における焼成装置は、原料を焼成して焼成物を形成する焼成装置であって、炉と、炉を加熱するヒータと、炉の内部に水を含む窒化剤を導入する管と、炉の内部に配置された脱酸素部材とを有し、脱酸素部材は、原料よりも酸化されやすい部材よりなることを特徴とする。この構成により、水に含まれる酸素を酸化されやすい部材との反応によって効果的に除去することができる一方、水に含まれる水素は原料の還元に用いられる。さらに、強い還元性雰囲気の中、原料は脱酸素反応と共に窒化剤による窒化反応を起こすことによって、より低温かつ低圧に酸窒化物あるいは窒化物材料を焼成することができる。
【0013】
本発明の焼成装置は、さらに脱酸素部材は炭素、アルミニウム、チタンの少なくとも1つで構成されていることが好ましい。この好ましい構成によれば、より酸化されにくい原料は、効果的に酸素を奪われる。その結果、より効果的に酸窒化物あるいは窒化物材料を焼成することができる。
【0014】
本発明の焼成装置は、さらに窒化剤は、尿素、カルバミド系化合物、ヒドラジン系化合物、アジド系化合物であることが好ましい。この好ましい構成によれば、窒化剤は熱分解過程において、アンモニアあるいは反応性の高いアミノ基を遊離する。これら窒素を含む化合物が原料を効果的に窒化する。また、これらの原料はアンモニアよりもはるかに安価かつ安全な物質であるため、低コストかつ安全に窒化物材料を焼成することができる。
【0015】
本発明の焼成装置は、さらに炉は円筒状で、回転可能であることが好ましい。この好ましい構成によれば、原料は均等に窒化剤と混合されることから、均一な焼成物を得ることができる。
【0016】
本発明の焼成装置は、さらに炉は、ヒータにて加熱されて焼成物が形成されているときに回転することが好ましい。
【0017】
本発明の焼成装置は、さらに炉の上に窒化剤を供給する機構を有し、かつ重力によって焼成物が滴下することが好ましい。この好ましい構成によれば、焼成装置に対し押し出し機構が不要となる。そのため、焼成装置の構成が簡便となり、より低コストに窒化物材料を焼成することができる。
【0018】
本発明の焼成装置は、さらに窒化剤は水を含む液体にて炉へ導入されることが好ましい。この好ましい構成によれば、原料を安定な水和物として炉内へ供給することができる。炉内では水和物が熱分解して還元作用と窒化作用を行なう結果、効率的な窒化材料を焼成することができる。また、水と窒化剤との混合比率が安定しているため、均一な窒化物材料を焼成することができる。
【0019】
本発明の別の一側面における焼成装置は、原料を焼成して焼成物を形成する焼成装置であって、炉と、炉を加熱するヒータと、炉の内部に水を含む窒化剤を導入する管とを有し、炉は脱酸素部材よりなり、脱酸素部材は、原料よりも酸化されやすい部材よりなることを特徴とする。この構成により、水に含まれる酸素を酸化されやすい部材との反応によって効果的に除去することができる一方、水に含まれる水素は原料の還元に用いられる。さらに、強い還元性雰囲気の中、原料は脱酸素反応と共に窒化剤による窒化反応を起こすことによって、より低温かつ低圧に酸窒化物あるいは窒化物材料を焼成することができる。
【0020】
本発明によると、毒性の高いガス設備を持たずに、より低圧にて酸窒化物材料を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の実施の形態1における焼成装置の構成断面図である。
図2】本発明の実施の形態2における焼成装置の構成断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0023】
(実施の形態1)
本発明の実施の形態1にかかる焼成装置の構成断面図を図1に示す。図1において、焼成装置100はヒータ101aおよびヒータ101b、アルミナ製の耐熱容器102、脱酸素容器103を有する。耐熱容器102には不活性ガスを内部に導入するためのガス導入穴102aと、ガス導入穴102aとは反対側に排気をするための排気穴102bとが備えられている。脱酸素容器103は耐熱容器102の内部に設けられ、脱酸素容器103へは窒化剤導入管104が導入されている。また、脱酸素容器103には排気をするための排気穴103bが設けられている。本実施の形態においては、脱酸素容器103はグラファイトよりなる。ヒータ101aおよびヒータ101bは、耐熱容器102の周囲に配置され、耐熱容器102を加熱する。
【0024】
窒化剤導入管104は、外部から脱酸素容器103の内部へ窒化剤を供給するためのものである。また、脱酸素容器103の内側には、耐熱るつぼ105の上に試料106が置かれている。ここで試料106は、一例としてストロンチウムとシリコンの酸化物にユウロピウムが少量添加されたものとし、窒化剤としては、尿素を水に溶かした、いわゆる尿素水(濃度5M)としている。
【0025】
まず、本装置に尿素水を窒化剤として、窒化剤導入管104を介して供給する。尿素水の供給レートは1分当たり1ミリリットル(mL/min)である。また、窒素ガスを1分当たり1リットル(1L/min)のレートにて、ガス導入穴102aから供給しておく。これは、尿素水から発生したガスを、排気穴102bからすみやかに排出させるためである。次に、ヒータ101aおよびヒータ101bに通電し、耐熱容器102およびその内部を加熱する。耐熱容器102の内部の温度が1500℃に至るまで1時間当たり200℃(200℃/h)のレートにて昇温させる。耐熱容器102の内部の温度が1500℃に至った後は、尿素水を供給状態にしたまま、4時間その温度を保持する。反応後は、200℃/hのレートにて降温させ、常温にまで戻す。尿素水の供給は1000℃以下になった時点で停止する。常温に戻った後は、試料106を取り出す。試料は尿素水によってユウロピウムを賦活剤とした酸窒化ストロンチウムシリコン系蛍光体(SSON)となり、たとえば青色光を励起光として、赤色にて蛍光を呈する。
【0026】
ここで、尿素水の窒化反応機構について説明する。
【0027】
尿素に水を加え、温度を上げると、下記に示す加水分解を起こす。
【0028】
【数1】
【0029】
つまり、尿素1モルに対して、2モルのアンモニアと1モルの二酸化炭素が生成される。このアンモニアが試料106の窒化を起こす。また、原料は脱酸素容器103によって還元雰囲気下に置かれている結果、高温にて試料106に含まれる酸素は脱離しやすい状況となる。酸素が脱離したところにアンモニアが窒化する結果、試料は窒化物として焼成される。
【0030】
一方で、尿素水に含まれ、尿素の加水分解反応に用いられなかった水が余剰に存在する。水は一般的に、原料の酸化を促進し、雰囲気の還元性を弱める傾向がある。しかしながら、試料106に比べて脱酸素容器103の表面積が十分に大きい場合、水から発生する酸素は、脱酸素容器103の酸化に用いられるため、依然として高い還元性雰囲気を維持することができる。また、水から遊離した水素はさらに還元性を強める。さらに水素は、試料106の酸素と結合し、脱酸素を促進する効果があり、脱酸素容器103内では窒化をさらに促進する効果がある。
【0031】
一方、上記のことはヒドラジン水でも同様に起こる。ヒドラジン水では、下記のような分解反応が起こる。
【0032】
【数2】
【0033】
1モルのヒドラジンは、2モルのアンモニアを生成しつつ、余剰の酸素ガスを発生させる。酸素ガスは雰囲気の還元性を弱めたり、生成された窒化物を再び酸化物に戻してしまう働きがある。しかしながら、試料106に比べて脱酸素容器103の表面積が十分に大きい場合、酸素ガスは効果的に除去され、高い還元性雰囲気を維持することができる。
【0034】
さらに、上記のことはカルバミド系化合物でも同様に起こる。たとえば最も分子構造が単純なカルバミドの場合、下記のような分解反応が起こる。
【0035】
【数3】
【0036】
カルバミドを構成する原子組成は、尿素のそれと全く同一である。そのため、尿素と同様に、1モルのカルバミドは、2モルのアンモニアを生成しつつ、1モルの二酸化炭素を発生させる。そしてこれらの生成物は、尿素を用いた場合と全く同様の効果を生み出す。
【0037】
また、上記のことはアジド系化合物でも同様に起こる。たとえば過去に自動車のエアバッグなどに多用されていたアジ化ナトリウム(化学式NaN)の場合、一般に下記のような分解反応が起こる。
【0038】
【数4】
【0039】
分解反応の結果、窒素ガスが生成されるが、これは中間過程でラジカルとなる。そのとき、反応させたい酸化物が近隣に存在する場合、窒素ガスとはならずに酸化物の酸素を脱離しつつ窒化反応が起こる。一方、ナトリウムが析出するが、ナトリウムの常圧沸点は880℃であるため、この温度よりも高温にて焼成する場合、ナトリウムは雰囲気ガス中へ拡散する結果、焼成物に含まれる心配はほとんどない。焼成物がナトリウムなどのアルカリ金属元素を構成元素として含む場合、アジ化アルカリ金属をより積極的に窒化剤として用いることも有効である。一方、アルカリ金属元素の混入を極力減らしたい場合、アルカリ金属元素を全く含まないアジ化水素(化学式NH)を用いることも有効である。この場合、水素が生成物となるが、その還元性によって、窒化反応はアジ化ナトリウムに比べてさらに加速する利点が挙げられる。
【0040】
以上、尿素水、ヒドラジン、カルバミド、アジドを用いた窒化の機構について述べた。本反応の本質は、より毒性の低い含窒素化合物を用い、その分解反応から生成するアンモニアによって原料を窒化することである。また、脱酸素容器によって、高い還元雰囲気を維持し、原料および窒化剤の脱酸素を促進することも重要である。これら2点の作用によって、窒化物の焼成をより低温かつ常圧にて効率的に行なうことができる。
【0041】
なお、本実施の形態では、脱酸素容器103を設けている。しかし、耐熱容器102がグラファイトなどの酸素と化学反応しやすい材料で構成されている場合、脱酸素容器103は必ずしも必要ではない。この場合、耐熱容器102が脱酸素容器103の役割を兼ねるためである。
【0042】
また、図1では脱酸素容器を入れ物として記しているが、必ずしも入れ物である必要はない。要点は還元雰囲気を維持することであり、雰囲気内の酸素を効果的に除去できるのであれば、板状や棒状などであっても、本発明の効果は発揮される。
【0043】
なお、本実施の形態では、脱酸素容器103をグラファイト製としたが、酸素と化学反応しやすい材料であれば、代用が可能である。たとえば、アルミニウムやチタン、シリコンが挙げられる。特にチタンは融点が高く、酸素と結合しやすいため、グラファイトの代用として有効である。これらの酸化物は二酸化炭素のように揮発せずに、固体として残留する。そのため、容器としてではなく、粉末として、試料106の近傍に設置する方が、より効果的に還元雰囲気を作り出すことができる。
【0044】
なお、本実施の形態では、耐熱るつぼ105を記しているが、高温にて酸素を放出しない材料でできていれば、なお望ましい。その場合、例えば、窒化ホウ素、炭化シリコンなどの材料が挙げられる。
【0045】
また、ガス導入穴102aは、反応後の生成ガスを排出するために設けられたものであり、本発明において必ずしも必要ではない。不活性ガスを導入することは、アンモニアの炉内の残留を防止し、試料取り出し時の安全性を高めるので好ましい。
【0046】
なお、尿素水の供給方法であるが、窒化剤導入管104の上流側に押し出しポンプを取り付け、尿素水を50℃程度に加熱しながら供給するのが望ましい。高温にすることで、尿素水の固化を防ぐことができ、窒化剤導入管104内にて詰まることを防ぐねらいがある。また、押し出しポンプの代わりに、尿素水を入れたバブラ(Bubbler)を用いる方法もよい。この場合、たとえば、窒素ガスをバブリングガス(Bubbling Gas)として用い、バブラ温度をなるべく上げて、水と尿素を同時に窒素ガスに取り込ませ、窒化剤導入管104を介して炉内に導入すればよい。この場合、押し出しポンプのような機構が不要となるため、焼成物のコスト削減が可能となる。さらに低コストである尿素水の供給方法としては、点滴用バッグのようなものに充填し、重力による滴下を利用して炉内へ導入する方法である。この場合、押し出しポンプもバブラ容器も不要となり、さらに供給系を簡略化することができる。そのため、さらなる焼成物の低コスト化が可能となる。なお、ここでは尿素水について述べたが、これはヒドラジン水であっても、同様の効果が得られる。
【0047】
(実施の形態2)
次に、尿素窒化技術を回転炉に導入した場合の実施の形態を、図2を用いて説明する。
【0048】
本発明の実施の形態2にかかる焼成装置の構成断面図を図2に示す。図2において、焼成装置200はヒータ201aおよびヒータ201b、回転炉202、脱酸素構造材203を有する。回転炉202は壁202aと中空部202bとを有し、中空部202bの中に脱酸素構造材203が配置されている。回転炉202は脱酸素構造材203を中心軸とする円筒形状を有し、壁202aの内側に生成物208a、生成物208b、生成物208cが置かれる。
【0049】
ヒータ201aおよびヒータ201bは回転炉202の周囲に設けられ、回転炉202を加熱する。
【0050】
回転炉202は微傾斜が付けられて設置されている。すなわち、壁202aは微傾斜を有している。中空部202bにおいて、窒化反応が行なわれる。また、中空部202bへは、窒化剤導入管204と不活性ガスの導入管205が接続されている。この中空部202bには、試料206が上方から投入され、炉内を生成物208a、生成物208b、生成物208cのように順次反応されていき、最終的な反応焼成物207は下方から出てくる構成となっている。
【0051】
まず、回転炉202を回転させることから始める。回転炉202の寸法は、たとえば、内径10cm、長さ2mとなっている。回転が始まったらヒータ201aおよびヒータ201bに通電し、回転炉202を加熱する。昇温レートは、たとえば1時間当たり150℃(150℃/h)である。加熱にともなって、不活性ガスを導入管205から流量1L/minにて導入する。これは、炉内の還元雰囲気を一定にするためと、尿素水の加水分解反応によって生ずるガスを、下流へ押し流すためである。炉内の温度が1400℃になったら、尿素水を窒化剤導入管204から10mL/minの流量にて導入する。流れが安定した後、試料206を上流側から導入する。ここでは試料206を、モル分率2%の酸化ユウロピウムを混合した酸化アルミニウム粉末としている。炉内への供給量は、たとえば、1分あたり1gである。試料206は、微傾斜された回転炉の内部をゆっくりと下降していく。試料206が回転炉202の内部を通過するのに、約2時間を要しており、この通過時間は回転速度と傾斜角によって調節される。下降していく間に、試料206は還元雰囲気によって酸素を奪われ、順次生成物208a、生成物208b、生成物208cとなっていく。これは、炉内に設置された脱酸素構造材203によって、非常に強い還元雰囲気となっているためである。そして、尿素水から発生したアンモニアと反応することにより、窒化されていく。順次窒化された結果、最終的には回転炉の下端(図2では右端)にまで到達すると、外部へ反応焼成物207として押し出される。ここでは、反応焼成物207として緑色の蛍光を呈するユウロピウムを賦活剤とする酸窒化アルミニウムができあがる。
【0052】
この炉の構造の場合、連続に焼成物を得られることが利点である。炉の構造も単純であることも長所である。
【0053】
なお、ここでは尿素水を例に挙げたが、ヒドラジン水であっても同様の効果が得られる。また、余剰酸素ガスによる酸化が懸念されるが、これは脱酸素構造材203によって効果的に除去されるために問題にはならない。また積極的に酸素除去を行なうには、原料にたとえばメタノールなど、少量の有機化合物を混合することも効果的である。この場合、メタノールの燃焼によって余分な酸素は除去される。メタノールの量をあまりにも増大させると、焼成物に炭素が混入してしまうので、原料に合わせてメタノールなどの混合量を調製する必要がある。
【0054】
なお、ここでは炉が回転するとしているが、原料が自発的に落ちていく場合は、回転させる必要はない。また、原料をゆっくりと攪拌しつつ下降させることが目的であるため、回転でなくとも、炉を振動させるだけでも効果が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明によれば、高温高圧を必要とせず、なおかつガス設備が不要な窒化物焼成炉を実現することができる。その結果、焼成物は安価にて供給することが可能となる。
【符号の説明】
【0056】
100,200 焼成装置
101a,101b,201a,201b ヒータ
102 耐熱容器
102a ガス導入穴
102b,103b 排気穴
103 脱酸素容器
104,204 窒化剤導入管
105 耐熱るつぼ
106,206 試料
202 回転炉
202a 壁
202b 中空部
203 脱酸素構造材
205 導入管
207 反応焼成物
図1
図2